○
早川参考人 私、
早川でございます。
使用者の
立場から私の
意見を申し上げたいと存じます。その私の申し上げまする
意見は、
従前使用者がこの問題についてどんなふうに
考えておったかという、
従前の
考えを一応申し上げます。それから現在持っております基本的な
態度及びそれに関連する、その
内容をなすところの
意見を申し上げます。
従前の
使出者の
態度といたしましては、実はこの問題は、一口に申し上げますれば、てんで話にならないという
考えでございます。その
理由は、御案内のように問題になっておりまする
国内法、すなわち
公労法では別段現在のところ、そう
結社の自由ということと
矛盾しないのじゃないかと思っておりました。そのわけは、実は御
承知のように一般の産業につきましては、
結社の自由というものは何ら問題がないわけでございまするが、この
公労法において問題になるところ、すなわち
公労協関係の
労働組合、たとえば
国鉄労組だとか
全逓労組などの
規約を見ますると、その第一条にちゃんと、この
組合は
国鉄従業員をもって
組織する、あるいはこの
組合は
全逓従業員をもって
組織するというふうになっておりまして、ほかの人間は、すなわち
国鉄組合については
国鉄以外の人が入るというふうになっていない、
全逓従業員の
組合についても
全逓以外の人が入るようになっていないというわけでございます。そこで
公労法の
四条三項といいますのは、このようにそのことをきめておるのであります。すなわち
職員でなければその
組合に入れない、あるいは
役員になれないということになっておりまするので、その間
矛盾はないと思っておりました。
ところが、五、六年前でございましょうか、
公労協の
組合の中で
争議行為がありまして、そのために
責任者が
解雇処分を受けまして、
解雇になりました者の地位が問題になったのであります。この
解雇になりました者は
職員でなくなるわけでありますから、従って
役員でも、また
組合員でもなくなるという
使用者側の
考え方に対しまして、
反対があったわけでございます。そして
組合側におきましては、
規約を変更するのではなく、
規約はやはりそのままにして、
取扱いのための
確認事項として、そういう不当な
処分を受けた
役員の
身分は、決着を見るまでは
組合の籍を続けるということにきめたわけです。そこに問題が起りました。そのために
四条三項というものがじゃまになってくる。それを廃止せねばならぬということが起ったのだと思います。従って問題は、
議争行為を
公労協の
組合が行い、そのために
解雇された
役員の
身分をめぐって、いわばこれの復職を問題としたために起つた争いでございまして、
結社の自由、
団結権の擁護という
立場から、ずっと平らに問題が起ってきたのでないというふうに思っておりましたので、従って今度の
条約の問題からは起っていないのだというふうに
考えておりましたもので、実は話にはならぬと思っておったわけであります。
ところが一年半ばかり前に、この問題が
労働問題懇談会に正式に諮問がありました。この
懇談会によってたびたび研究をいたしました結果、
条約の効力や
国内法との
関係やその他諸般の実際問題が整理検討されました。その結果、
使用者としては次に申し上げるような
基本態度をきめました。その
基本態度は、第一は、この
ILO条約は原則として
批准が望ましいということをきめたのであります。ただ現実の問題として
考えてみますと、やはり残念なことには、
公労協関係では
法律で禁じられておるにもかかわらず、
争議行為が行われる傾向にありましたり、また現に行われたりしておるわけでありますが、そういうものがある。そういたしますとここに問題となるのは、この八十七
号条約自体においてこういう
規定がございます。この
条約に定める
権利を行使するに当っては、その国の
法律を順守しなければならないということを、八条一項にきめておるわけであります。この
条約の
内容として、そういうふうにその国の
法律を順守すべきものということをきめておりますのに、その国の
法律が守られていない
状態では、私どもはこの
批准という問題については、そのまま
無条件に是認するわけにはいかない。この
条約を
批准するということを、特に
労働側が主張されるわけでありますが、その
労働側が、
批准さるべき
対象になるもの、
条約の中にあります
条項、すなわちその国の
法律を順守するということに抵触しているわけでありますから、そこに
自己矛盾があるのじゃないかと思うのであります。従って
使用者といたしましては、直ちに
無条件でこれを
批准することは是認できない、こういう
立場をとっておるわけであります。
そこで、それではどういう
内容になるかということでありますが、それは
実情の問題と
法制の問題とに分れると思います。
実情の問題としては、今申し上げましたように、どうしてもやはり平らにこの
条約を
批准して、
世界水準で、
結社の自由ということも何らどこにもわだかまりのないようにしていくためには、少くとも違法な
状態が起らないように、現在違法な
状態があるようでございますが、それをないようにして、また将来においても、そういう違法な
状態がない見通しが立つようにしていく必要があり、それが前提であろうと
考えます。
それから
法制的な問題でありますが、この
考え方は、実はこの
四条三項というのは、御存じでございましょうが
公労協の
労使関係については現在別の
意味を持ってきておるわけであります。その別の
意味と申しますのは、その
職員でなければ
組合員になれない、
組合の
役員にもなれないというそれだけの
組織上の
規定が、いわば不当な
争議行為を抑えるための
唯一の
対抗手段になっておるわけであります。と申しますのは、不当な
争議行為のために
役員が
解雇され、
四条三項があるから
解雇された
役員が入っておる
相手とは
団交がやれないというようなわけで、
使用者としては押されていながら、この
条項によって
団交を拒否することによって、やっと
違法争議をそこで食いとめようとするかんぬきになっておるというのが
実情であろうと存じます。従ってこの
実情におきまして、この
状態を
唯一の
担保としておりますところの
規定、
四条三項をもしはずすといたしますならば、それにかわるべき
担保規定が要る、こういう
立場をとるわけであります。その
担保されております
状態といいますのは、現在でよいというわけには参りませんけれども、まずまず現在のところこれで
労使関係が曲りなりにも一応の
均衡がとれておるかと存じますが、その
均衡がとれておりますことをくずさないという
立場で、かわるべき
担保が要るというふうに思うわけであります。この場合、特にきついことをきめようという
考えもございませんし、また特に後退するという
考えでもございません。この
条約を
批准するということはそのことでございますから、現在あるがままの
状態の中で
批准を成立させるという
立場をとるわけであります。従ってその具体的な
内容は、
事務的にいろいろ処置する点もございますけれども、たとえば
公労法十七条の後段の
規定によりまして、
争議行為の共謀、教唆、扇動などは禁止されておるわけでありますが、今度は
四条三項をはずせば、よその者が入ってくる関連において、その
対象となるものの
範囲をその
部分だけ広げないと穴があくというふうに
考えますので、
組合の
組合員及び
役員というふうに
範囲を書き直す必要があろうかと思います。
それからもう
一つ、
均衡を保つということを申し上げましたが、今申しましたように、実はこの
四条三項が
唯一の
担保規定になっております。その
担保規定は、
争議行為が行われた場合には、十八条の
規定によって、個々の
行為者は
解雇をされることとなるわけでございますが、
団体としては別段の制限を受けないわけでございますので、そこに
四条三項をはずすかわりに、そういう
組合側において違法な
争議行為があったという場合には、そういうものを
相手には
団体交渉はできぬという手も不当なことにならぬという、
法制上の保証がほしいというわけでございます。個人々々が
争議行為をやってはいかぬということについては十七条、十八条にございますけれども、
団体としてはそれを制約する
規定がございませんので、現在
四条三項で事実上その
効果を果しておる。その
効果のある
四条三項がはずれますので、かわるべきものとしてそういう
規定がほしいというわけであります。そしてそれはさきにも申し上げましたが、
条約八十七号の八条一項にございますように、この
権利の行使に当ってはその国の
法律を順守しなければならないとなっておるのでございます。でありますのに、その国の
法律を順守せず、
争議行為を行なったのでありますから、そういうことをやりました
組合は、この
条約による
権利の保護を受けないわけでございますので、そういう
役員を持つ、あるいはそういうものの入ってくる
組合は、
団体交渉が、よし話がありましても、場合によれば
使用者がこれを拒否することにしても、これは正当な事由であるということにしたいわけでございます。
なお、この
条約が
批准せられ、
四条三項が廃止せられるといたしますと、
組合の
規約は場合によっては変り得るわけであります。従いまして先ほど来申し上げました
公労協関係の
組合に全然
関係のない者も入り得るわけであります。でございますから、
従前この仕事として
関係のない者が入ってきた場合に、これに対する処置につきましては、現在の
公労法では何らないわけでございます。すなわち
事業に使用されておりません
関係上、
解雇をもって云々するわけにもいきません。懲戒にも当りません。従ってこういったことは各
事業法においてきちんとするというようなことが出て参ると思います。その
事業法におきましても、いろいろな、
国鉄の
事業法、鉄道営業法とか、郵便、逓信とかの各
事業法との間にアンバランスがありましたり、特に
国鉄の営業法のごときは五十何年も前の
法律でございますので、こういう
機会にきちんとしていただくことが必要であろう、こういうことを
考えて、自分たちの
意見としておるわけでございます。
なお、先般
労働問題懇談会の総会におきまして
意見として答申をされましたその最後の項に、こういうものが取り扱われた
機会に、
労使団体の自主運営なり、相互不介入の原則の
趣旨を徹底させるように、現在あります
労使関係法につきましても検討を加えていることについては賛成でございます。そういう
立場を現在の
使用者としては持っておるわけでございます。
なお、
一つつけ加えまするが、これらの
意見は先般の
労働問題懇談会の総会の席上でも述べられたわけであります。そして
懇談会総会としては、かなり包括的にかつ抽象的にこれらの
意見の個々については判断を下すことをせずに、しかし包括的に適当な
法制上の処置がとられることになるであろうという見解をおとになりまして、そういうふうに答申をなされておりますので、私どもの
意見は
意見として、そういう
意見を持っているということを申し添えておきます。
使用者側の
意見として一括して申し上げます点は、以上の通りでございます。