○八木(一男)
委員 厚生大臣に申し上げたいのですが、そういうことを言われるから困るのです。結局そう言ってのがれようということで、厚生省はさんざん打ち合せをして、赤字だけではないのだ、運用上必要なんだから一部
負担も必要なんだ、ということを統一されて答弁をする。最初出てきたときは、
健康保険が赤字である、収支バランスが合わない、困ったということで――川崎秀二君の時代です。七人
委員会というインチキな
委員会を勝手にこしらえて、学識経験者というが、厚生省の息のかかっている人を七人集めて、その人の名前と権威を拝借して、その
人たちが一生懸命にやったからこれでいいのだということで、川崎さんがやらしたわけです。実際けしからぬ。
審議会の冒涜です。こんな官選の
委員会は作るべきではない。
年金の五人
委員会の答申なんというものは、あきれ返った答申である。
厚生大臣も御存じだと思うのです。そんなけちな、厚生省の息のかかった
委員会なんかこれからお作りにならない方がいいと思う。そういうことで、そのときも赤字対策として
委員会で作られた。ところが、その有名なる学者
たちは、赤字対策で作ったのだけれ
ども、それを作ったのに参面したから、それをけなしたら
自分の面子にかかわる。だから学者としても純真むくじゃない。ほんとのところあの学者
たちよりは
坂田さんの方がずっと僕ら純真だと思います。そういう
人たちがまたほかの
審議会に重ねて出ているわけです。そういう
人たちが初めは赤字を埋めるためにどうするかということでやられていた。それで一番大きな
社会保障制度審議会にいったときに、太宰さんは事務局長だったからちゃんと知っておるわけだが、全体の空気は赤字対策がおもだから、僕ら絶対にいかぬといって
反対したけれ
ども、非常に親心が強過ぎて、今の
政府じゃそれ以上できまい、大蔵省がいうことを聞くまいということで、赤字だからそのくらいつじつまを合せるのはしようがないということで、猛烈な
反対があったけれ
どもそういうことで通した。それでごくわずかな一部
負担ならやむを得ないということになった。やむを得ないというのは
日本語でいいことじゃないのですよ。仕方がないから、ごくわずかな一部
負担ならやむを得ないということで――その答申には僕らは猛烈に
反対なんですよ。これは各省の次官も全部入り、自民党の議員さんも入り、そういう純真な学識経験者も、少し息のかかった学識経験者も両方とも入り、それから各階層の資本家代表もみんな入って、そこでできた答申が、ごくわずかな一部
負担ならやむを得ないということで、やむを得ないということは赤字だからやむを得ないということなんだ。それ以外に
理由はないのです。それが今赤字が黒字になったのだから、もとに戻すのは当りまえですよ。応問がないから残念だけれ
ども、伏線を張っていけば
厚生大臣はお困りになるだろうけれ
ども、困らせるのが
目的でない、
制度をよくしていただくことが
目的だから、率直に言いますけれ
ども、厚生省のほかに
努力は認めますが、これが一番悪いくせだ、とにかく
国民をどろぼうと見ようということだ。被
保険者なり医療担当者はどろぼうである、だから一部
負担や何かで締めつけなければいかぬという
考え方がある。そういうことじゃいけないのです。それは一千万人に一人や二人どろぼう根性を持っている
日本人はあるかもしれない。現に強盗が入るのだからこれはしようがない。しようがないけれ
ども、大多数の
国民は善人である。そういう建前で行政をしなきゃ
日本の政治というものはできないですよ。
日本人がどろぼうと思ったら、そんな者はみんな監禁しなきゃならぬ、みんな容疑者にしなきゃならぬ、そうでしょう。ところがそういう建前で厚生行政が行われている。それは初めからそうじゃなかった。赤字があって困ったから何とか解決しなきゃならぬというところから始まった。それでいろいろな
反対があるので、その
反対を押えつける
理由として、過剰診療が行われるとか被
保険者と医者が結託して行われるというようないろいろなことをデッチ上げて、そうして一部
負担というもので締めつけようと
考えている。厚生省の
人たちが熱心なのはわかつておりますけれ
ども、頭のいいことはわかっているけれ
ども、そのときは赤字で、九割九分までそっちに頭が一ぱいであって、
医療保障制度がどんなものであるべきかということを一時忘れられた。借金のことを
考えていると勉強のことを忘れるが、勉強のことを忘れて借金のことばかり
考えていたわけです。こういうことは人間ですから僕らでも忘れることがありますが、もう二年間忘れた、あやまちで過ごしたけれ
ども、そのあやまちを改めてくれればいいのです。別に内閣の責任を追及しようとはいわない。あやまちを改めてくれたらいい。それを間違ったことをいまだに強弁して、それでいいんだなんて言われたら、これは
開き直らざるを得ないということになる。ですから一部
負担をやめるということが今
社会保険で一番大事なことです。それで
厚生大臣に申し上げたいことは、結局一部
負担ということですが、これは入院の一部
負担もある。そんなものわずかな金じゃないかと思われる方があるかもしれない。厚生省の部長さんや局長さんや課長さんや、また
坂田厚生大臣などはそう思われるかもしれない。私も昔貧乏でしたけれ
ども、今は歳費をいただいて人並みの
生活をしているというようなことであると、ぴんとこないような金なんです。ところが大衆にとっては非常にぴんとくる金なんです。
零細企業の労働者の
傷病手当金はちょっとしかつかない。そこで入院の一部
負担を取られたならば、結局家族が暮していくことを心配して内職して――奥さんが非常にけなげな人だったら、あんた病院でちゃんと直して下さいというけれ
ども、奥さんがだんだんやせてきた、あるいはそういう環境ですから結核や何かうつって奥さんがだめになると思えば、だんなさんとして奥さんがかわいければ、途中でも退院して一部
負担をやめるということになる。また奥さんが非常に気が強くて、あなたの入院料を払うのはかないませんよといえば、気の弱いだんなさんだったらはい、そうですかといって、すぐ退院しなきゃならぬことになる。どっちの場合もあるでしょうけれ
ども、そういうことになる。それから今度は見る方からいえば、たった百円の金と言われるけれ
ども、僕らも七、八年前に百円の金がなくて困った経験がたくさんある。僕は一番貧乏な階層ではなかった、それでも
ほんとうに困ったことがある。とにかく五十円の金がなくて大事な会合を汽車に乗れないであきらめたことが数回ある。そういうときになると、結局子供が学校で金が要る、先生が持ってこいと言われると、隣に借金をして過ごす、ところがまたほかの子が言ってくる、また隣に行くということになれば、百円の金で二、三日どうにも動きがつかぬことがある。そういうときに
病気になったときには、百円の一部
負担金があるからといって診察をあきらめてしまうわけです。特に女の人がそうだと思う。御亭主が薄給であって、子供が金がかかる、子供は純真だからほかの子供が持っていればあれを買ってくれとか、あるいは学校の先生が持ってこいと言われたからお金を出してくれとかすぐ言う、そういうことに金が全部いったら、百円の金さえないことになる。見てくれれば、早く診断してもらって早くなおせるのに、その機会を逸するのでますます
病気が重くなってしまう。極端な場合にはそれで死ぬことがある。そうでなくとも
病気が重くなって、その人が長いこと苦しむということになる。今度は早期診断、早期治療ということが医療上述べられておりますが、それができなくなる。
保険経済、
保険財政を大きな目で見てもらいたいというのもそこなんです。早期に診断すれば早く
病気がなおる、
病気が重くならないうちに診断できれは
保険財政はよくなる、そういう長い目で見た
保険財政計画を厚生省では一時忘れられたと見える。頭のいい方
たちがそれを知らないはずはない。一時忘れられた。片方で借金をして夢中になってしまったので、勉強の方を忘れられた。大蔵省に持っていくともっと厚生行政は薄くなるから、よけい大蔵省の方ではそう思う。
ほんとうは長い目の
財政計画は大蔵省がしなければならぬのです。さっきの結核の問題でもそうです。そういう
意味で、
財政的に見ようか何的に見ようが、そういうものはやめるべきだ。それを意地を張って、はっきり言えば、ほかの点では厚生省の御
努力は認めますが、この一部
負担の点では厚生省の局長さん、次長さん、部長さん、課長さんには猛烈な意地がある。そのとき猛烈にわれわれはたたいた。それを一生懸命こらえて、三年越しにやっと通した。当時高田さんにわれわれ罵詈ざんぼうを言って失礼だと思っておりますが、そういう点がある。だから、この点意地があるわけです。これは僕らが罵詈ざんぼうしたのが悪ければ、頭を下げて手をついてあやまってもいいのです。しかしそれと政治とは違う。厚生省の首脳幹部の方の意地のために
社会保障制度が前進しなかったり、気の毒な人が助からなかったら、これは困る。そういうことを変えてもらうためには、これは
大臣にやってもらう以外にない。赤字の背景で黒字になったといかに厚生省が言われても、
審議会ではその赤字の対策が
目的でやむを得ないという答申を出した、ごくわずかなものであればやむを得ない。ところが百円というものは貧乏人にはごくわずかではないのです。それからこのやむを得ないというのは、その状態が直ったらもとに戻せということである、それがやむを得ないという
日本語の正常な解釈です。それで赤字が黒字になった、だから一部
負担はやめてもらわなければならぬ。本来からいえば一部
負担は全廃すべきだ。ゼロにすべきだ。あのとき四十五円のものを百円にしたのですが、これは全廃すべきたと思う。そういう点で、だいぶ厚生省の方の悪口を言いましたが、ほかの点の御
努力は買っておりますので、
一つ借金の整理のために一生懸命になったときにはそういうお気持であられても、それが静かに返られたら、一部
負担というものは
社会保険上一番悪いものだということは、聰明な方ですから私はわかるはずだと思う。で、すぐ御協議になって、
大臣としては、そういうものをどうしてもやめる
方向に持っていこうというふうに
考えていただきたいのです。その御決意をお聞かせ下さい。