○相馬助治君 私は
日本社会党を代表しまして、ただいま議題となりました議案に関して、岸首相以下関係閣僚に若干の
質問をいたします。
御
承知のように、
独占禁止法は、
昭和二十二年に、
企業の公正かつ自由な
競争を促進することによって
国民経済の健全な
発達をはかることを
目的として作られました。そうしてそのあと、
わが国経済秩序の
基本法、あるいは
経済憲法として、大
企業の
資本の集中や、あるいは市場の独占を防ぎまして、よく
中小企業者の
事業活動と
消費者利益を守って、その主要な役割を果して今日に至ったのであります。
しかるところ、その後、
本法は再三
改正をされまして、今般は全く骨抜きとも称すべきところの
改正が、今ここに行われようといたしております。私は、同僚議員にまず最初に注意を喚起したいと思いますことは、
独禁法が、
競争制限を禁ずることによって、独占
資本の横暴な収奪から
消費者の
利益を守る上に、今日まで大きな役割を果してきたという事実を、残念ながら国民大衆は実感として知っていないという事実であります。しかも、
一般消費者の絶対多数の者に、そうしてまた活動的な人々にすらも、
独禁法の持つ重要な
意味が理解されませんから、今般の
独禁法緩和の動きなどということは、あまり、しさいにその
内容を知らず、
公正取引委員会というものは
一体何じゃろうというような疑問すら持っているのでございまして、私たち国民を代表する立法府に議席を有する光栄を持つ者といたしましては、
本法案のような
審議に関しましては、特に慎重の上にも慎重を期さなければならぬと私は確信いたすものであります。
従来、与党の
質問というものは八百長が多くて、法案を提出した
政府の援護射撃に終って、くだらないものが多かったのでありまするが、きょうの
小幡君の
質問は、まことにりっぱである。そして核心を突いている。これは
小幡君の賢明にもその功績はあるが、より本質的なことは、今度の法
改正というものは、どだい無理なものである、無謀なものである。そうして、本質的に、何人も研究さえすれば、大きな問題が存在することを発見するほどのこれは大問題なのだということを、明らかに物語るものであると私は思うのでございます。現在においてすら、
中小企業者は大
企業にいじめ抜かれているではありませんか。そうして今般この
改正が行われまするならば、
中小企業の苦しみというものは、言語に絶するものがあると思うのであります。加うるに、この法
改正によりまして、町工場のあすの倒産を
意味し、あるいは黙々と台所をあずかるところのおかみさんたちの財布にまで、直ちに直接間接に大きな影響をこの
法律改正が与えるということを知るならば、私どもは、問題はきわめて重大であると
考えなければなりません。岸首相が先ほど説いたように、
日本の
産業界に
過当競争が存在していることを私は否定いたしません。そうしてその
弊害も十分に知るものであります。しかし、それは
業者の反省すべき問題ではなくて、しかもまた、
独禁法があるから
過当競争が起きるのだというような一部の御用学者の議論というものは、全く事実を知らない盲論で、問題になりません。要するに、これは
小幡君
指摘の
通りに、過少
資本、乏しい資材、
資源、あり余る
労働力、こういうふうな多くの矛盾をかかえたところの
日本経済の
構造自体の問題であるのでございまして、まずこの問題を解決せんとするならば、首相においては、
中小企業政策を積極的に打ち出すとともに、農民、
労働者の
利益擁護の立法措置を行い、社会保障
制度の確立という総合的な
一環としてこの問題を把握しなければ、断じて解決しないと私は確信するのでありまするが、首相はどのようにお
考えでございますか。しかも、
三木経済企画庁長官は、かなり問題の所在をとらえたのでありますが、そういう問題の所在を明確にとらえるならば、
独禁法改正などという芽は出てこないはずなのであります。しかるにもかかわらず、この
法律案がここに提案されるからには、岸首相においては、当然ある種の
日本産業の理想像というものをその胸に描いておられると思います。先ほどの答弁によれば、
資本主義だとか、
社会主義だとか、そういう公式議論でなくて、合理
主義でなくちゃならぬというようなお話に聞きましたが、これは床屋や銭湯場のお茶飲み話ならそれでもよろしい。しかし問題は、
一体、
日本の
経済の復興において、
資本家の優先を認め、独占
資本家を尊重するというならば、——私は反対だが、それも
一つの
方法であろう。また、国民大衆の
利益をあくまでも守って、
経済の
民主化を断行することが先決
要件であるとするならば、それも
一つの道であろう。また、国際共産
主義というような問題に対しては、どのように理解するか。このもろもろの問題を正確に把握することなくしては、あなた自身の世界観も生まれてこないし、しかもまた、
経済を指導していくところの首相の腹もできていないと思うのでありまするが、どうかこの際、端的に、本国会を通じて、
日本の
経済構造の理想像と、
日本の
産業界が将来いかなる目標に向って進むべきか、その道を明示されたいと存ずるのであります。
私はこの際、
わが国の
独禁法緩和の歴史と全く対照的であります西ドイツのそれを簡単に申し上げて、特に首相の注意を促したい。すなわち、近く来朝を伝えられておりまする西ドイツ保守党の
経済相エアハルトは、一九四七年以来、
競争制限禁止法を制定されるに至りました昨年まで、この十カ年間、常に、保守党の
経済相ではありまするが、
消費者の
利益擁護のために
独禁法を作ろうとして、財界の反対と戦って、ついに勝利を占め、今日の西ドイツ
産業発展の基礎を築いたのであります。これに対して
日本ではどうでありましょうか。今般、法
改正に至る経過を見るというと、昨年九月六日、経団連がどうしても
独禁法を
改正しろということを主張した。それに呼応して
政府は
独禁法改正の
審議会を作って、そうして財界の代表者を主力にして、「
カルテル友の会」などと、あだ名をつけてひやかされるような御用
審議会を作り上げた。そうして時間を切って
答申を求めた。
答申が出るというと、この御用
審議会の
答申すら勝手に理解して、都合のよいところは大幅にこれを上回ってこれを取り上げて、都合の悪いところは全く顧みないというところの悪質な法
改正を行うに至ったのでありまして、事はきわめて問題でなければならない。今月四日午後二時半、経団連副会長植村氏は経団連を代表して、あなたに面会をして、
改正案はほぼ満足すべき筋にでき上っているようである、一日も早く臨時国会において
本法の成立を要望する、と激励したと、新聞が報じております。この経過は何を物語るか。財界の
利益のために、
消費者、
中小企業者を敵として戦っていることを、これは端的に示すものでありまして、民主政治家をもって任ずる岸首相のために、私は惜しむところであります。
一体、
わが国の
独禁法緩和の歴史は、
消費者に対する戦いの歴史である。そうして、一部大
企業家とその手先たる
経済官僚の勝利の歴史であるということを、残念ながら
指摘しなければならない。そうして、
自由民主党の「自由」あるいは「民主」という、このありがたい、りっぱな名前が泣くというものだと、私は
指摘しなければならない。
要するに、今日私どもが問題とするところは、この問題に関しまして、岸首相は、謙虚に世論に聞き、撤回するならば、それでよろしいが、かりに撤回し得ないとするならば、本
改正によって直接影響を受けるところの
中小企業者のために、どんな積極的
政策を、あなたは、なそうとするのであるか。また、直接影響を受ける農民あるいは
消費者、こういう者たちのために、何を
一体積極的にお
考えになろうとするのであるか。本日ちょうど今ごろ、全国の
業者が日比谷公会堂に集まって、全国大会を開いて、小売商振興法を通せという要求をやっている。これを指導しているのは自民党の代議士さんです。ところが、新聞の報ずるところによると、その
法律の提案を見合わせたというのだが、
一体これはどういうことなのですか。
一つこの際、
中小企業者に対する積極的
政策ありやいなや、岸首相の見解を承わりたいと思います。
次に、
独占禁止の
政策というものは、国際的に現在
強化の方向をたどっております。ところが、今回の
日本における法
改正は、これに逆行しております。
一体これは、岸首相は、どのような情勢の分析に基くのであるか。あなたは飾り物の首相ではない。
経済閣僚としてたびたび台閣に列し、しかも、明敏をもって世界に鳴る岸さんなのでありますから、世界の情勢に暗いはずはない。
一体どのような情勢分析に基いて、世界の情勢に反逆して、
日本だけこういう
独占禁止法緩和という方向をとったのか。ぜひこの際、承わっておかなければならない。特に、
カルテル行為を否定しておりまするところの日米通商航海条約第十八条の
規定と、今回の
カルテル助長法とは、これは相反すると思うのでありまするが、この
規定違反のおそれがありやなしや、この際
一つお示しを願いたいと思うのであります。
次に、首相に承わりたいことは、今度の法
改正で重大な問題は、
カルテルの
認可申請の窓口を
主務大臣に移したということです。これは手続だけが変ったのではありません。
主務大臣というものは、本来、
産業政策というものを助長する立場にあります。この人たちが
カルテルを指導し、助長し、そうして
業界を統制していくということになれば、
中小企業者や、あるいはまた
消費者に対する顧慮が払われなくなる。これは
主務大臣の立場から当然起きてくる悲劇です。松野長官の説明によれば、全部それらは大丈夫のように
法律はできていると言っておる。
文句はなるほど書いてある。しかし、こういう
経済立法で、あんな倫理
規定を、うしろにただ付けたところで、これは隠れみのになるだけであって、何ら法
効果を出していないことは、これは過去の事実が雄弁に物語っている。特に首相に承わりたいのは、こういうふうにして、今まで微力ながら、
消費者や
中小企業者や農民の
利益を守ってきた
公取委を無用化するところの、こういう法
改正というものは、結局するところ、ある識者が
指摘しているように、今般の法
改正というものは、通産官僚のこれは失地回復なんだ、こういうことを言っている。もしそれが事実であるとするならば、次に予定されることは、独占
資本を中核として、あなたのお手のものの
経済統制に移行するであろうということを、私はおそれるのでありまするが、首相はこの点をいかようにお
考えになりますか。明確なる答弁を承わりたい。
なお、
小幡君も触れたのでありまするが、事重大でありまするので、重ねて聞きたいが、
一体あなたは、
カルテルを悪と見る
原則、すなわち
独禁法の立法
精神あるいは今般の
答申案の
基本原理、こういう
原則をどのように
考えているか。そうして将来、一部の
資本家階級にとっては目の上のこぶであるところの
独禁法、また貧しき人々にとっては、ありがたいお札として日夜拝まなければならないこの
独禁法、この
独禁法を、
一体あなたはどっちの方の
利益のために、どういう方向でこれは維持するつもりなのか。折あらば、これを切って捨てて葬むるつもりなのか。あるいはまた、
独禁法は捨てるけれども、
経済基本法とも言うべき立法措置を行なって、
経済界の再編成
民主化でも行うというような、もっと膨大な
基本的構想でもあるとするのか。あるとするならば、これは一応うれしい話でございまして、ぜひともこの際、あなたの本音を聞かしていただきたいと思うのでございます。
次に、先般、
独禁法第四十四条一項の
規定に基きまして、三十二年度の
年次報告が国会に提出されましたが、あの
年次報告を、しさいに読んでみると、現在でも、
カルテル、
トラストができていて、こういうことを今後やってみたところが、
不況をより長期化し、悪性化するだけで、解決されないということを
指摘しておる。
一体、岸首相は、これらの問題に対してどのように理解されるか。また、
公取委員長は、先般の
報告に責任を持つとするならば、なぜ、こういう正論を持っておりながら、この
本法改正にあなたは同調したのか。その辺を
一つ承わりたいと思うのであります。
残念ながら時間がないので、棒読みで
一つお尋ねしておきまするが、
独禁法審議会の
答申におきましては、
独禁法の緩和とともに、
公正取引委員会の機構の拡充及び人員の増加というものを
指摘しておるのでありまするが、本
改正は何もそれに触れておりません。
一体これはどういうのか。ぜひ、この際お尋ねをしておきたいと思います。
また、新聞の伝えるところによりますると、
公取委を
経済企画庁に移管すると、うわさされておりまするが、事実かどうか。そうして本
改正に伴いまして、結局、
消費者、農民、
中小企業者、こういう
経済的弱者に不
利益を
しわ寄せするものであると思いまするが、貧乏を追放すると呼号する岸首相としては、
独禁法改正案をなぜ出さなければならなかったのか。日ごろおっしゃっていることと相反するように思うのでありますが、この際、明確なる答弁を私は要求するものでございます。
松野長官に承わっておきたいと思いまするのは、そもそも、この
法律案を出す理由は、輸出入問題において
過当競争防止のために
独禁法を
改正するという世論の動きがありました。ところが、その問題は輸出入取引法の
改正に譲られたようでありまして、
本法改正の
根本理由がなくなった、大義名分がなくなった、かように思いまするが、なぜ
一体お出しになるのか。そうして
本法改正によりまして、大体今まで適用除外法令というものが幾つかあったが、その改廃の必要があると思うけれども、これに対してはどのようにお考であるか。しかもまた、従来、
独禁法があったために、
日本の
企業体において、
産業界において、どのような支障があったとするのか。
年次報告は、支障があまりないと言っておるが、あなたはどのようにこれを理解するのか。科学的な数字をもって、その
理論的根拠をお示し願いたいと思うのであります。
次に、
公取委員長にお尋ねしたい。
公取委員長は、第一代の委員長から数えて三代目であります。「売り家と唐様で書く三代目」という川柳がございますが、あなたのことを、
公取委員長じゃなくて、
公取委員会葬儀委員長だと皮肉る者があります。私はそれを信じたくない。しかし問題は、
一体あなたは、
公取委員長といたしまして、今般の
独禁法改正案のこの方向をどのように理解するか。これをぜひ承わっておきたい。と同時に、今後
独禁法の法体系の整備の必要があると思うが、法体系整備のために何か
基本的な構想があるかどうか。これを聞きたい。
また、具体的な問題といたしまして、最近、雪印とクロバーの両乳業会社の
合併をあなたは
認可した。これは、
昭和三十年五月三十日の参議院商工委員会の議事録の速記によりまするというと、前委員長の横田氏は、明瞭に、名前をあげて、雪印とクロバーの合同は届出が出ているが、許可できない、十五条一項の違反であると言い切っている。それを、あなたは、今般認めたということは、
一体、今度の
改正を見越して
政策的にこれを認めたのか、あるいはまた何者かの圧迫によったのであるか。率直大胆なる御見解を承わっておきたいと思います。
通産大臣には若干
質問があったのでございますが、かなりこの問題については
小幡君が具体的に触れております。しかも、その答弁は必ずしも当を得たものではございませんけれども、まあ一応これは委員会に譲るといたしまして、私はこの際、二点だけお聞きしたいと思うことは、この輸出入取引法において輸出振興
カルテルの
改正を行うという、その
一体、政治的、
理論的理由は何なのであるか、これを尋ねたい。
第二には、
中小企業団体法の存在の意義を
本法改正は失わしめるものであると思うけれども、これに関連して、
団体法をあなたはどのように
改正するのか、特に第九条
改正を行う意図があるのかどうか。これは中政連を初めとして、
中小企業団体員の多くの者が注目しているところでございますので、明快なる御答弁を承わりたい。
あと一点だけ承わりたいので、若干時間の延長をお許し願いたい。本
改正のため、
カルテル緩和のため、農民に甚大な影響ありといたしまして、農民及び農民団体は、今日これに反対をいたしております。事実、今般の
改正の
不況カルテル、
合理化カルテルにおきましては、
カルテル行為の
範囲が広げられまして、販売
方法の
制限、原材料の購入、買取機関の設置が加わるために、原材料
生産者たるところの農林畜産関係においては、必ず買いたたきが行われるでありましょう。かつ、肥料関係におきましては、輸出関係ともからみまして、
価格騰貴が予定されるのでありまして、弱い農民が苦しむことは必定であります。三浦農相は衆議院におきまして、
主務大臣として、協議を受ける事前に、農山漁村の人々の
利益を擁護すると言っておりますが、
運用の面で解決するとあなたは
考えているのかどうか。私はそんな
考えはあまいと思うのでありますが、ぜひこの際、農相は、本会議を通じまして、明快なる答弁をもって、多くの関心を持つ農民に対して安堵を与えていただきたいと存ずるのであります。
以上、簡単でありますが
質問をいたします。誠意あるところの答弁を期待いたします。