○千葉信君 私は、昨日行われました首相並びに外相の
施政方針演説に対しまして、ここに
日本社会党を代表して、若干の質問を試みるものであります。
まず私は、
日米安保条約の問題について、政府の御所見をただしたいと思います。
藤山外相は、九月十一日、
ダレス長官との間に
日米安保条約の
改訂問題等について会談し、その
共同発表で、「
藤山外相は、安保取りきめを新時代に完全に適合するよう調整する目的で再検討することが得策であることを指摘した。
両国政府は、この問題について、
藤山外相の
東京帰任後、
外交経路を通じてさらに協議することに意見一致した」旨、報ぜられているのであります。私どもは、この
日米安保条約の改訂という、わが国の運命に決定的な影響を及ぼす問題については、重大な関心を払わざるを得ないのであります。新聞の報道によりますと、
藤山外相が
安保条約改訂の具体的なねらいとして第一に、
現行規定では、米軍は駐留の権利だけを持ち、従って、
日本防衛の義務がないこと、第二に、
在日米軍が他地域に移動する場合、日本に相談する必要がないこと、第三に、兵力の配備についても、米国は、日本の同意を要しないので、条約の上からいえば核兵器の
持ち込みができることになっている等の点を指摘してこれらの片務的な点を、わが国の
自主独立の立場から、
日米対等の形に改訂しようとする旨が伝えられております。
アメリカ側が
安保条約を新時代に適合する、ように改訂しようと積極的な態度を示しているのは、水爆、
戦術核兵器、
各種ミサイルの発達による
アメリカの新しい
戦略態勢に適合するように条約の内容を改めようというのであります。すなわち
アメリカの意図するところは、戦争の際に、それが宣戦布告された戦争であろうとなかろうと、日本の自衛隊が
アメリカ軍と
共同行動をとること、日本に
アメリカの
ミサイル基地を設けること、日本の自衛隊を核武装せしめることを可能なものにしようという点にあることは、推定にかたくありません。
安保条約改訂の真の問題は実にこの点にあるのであります。社会党は、
在日米軍の撤退、
米軍基地の廃止、そして
安保条約の解消を主張し、さらに自衛隊の
海外出動、その
核武装化、
アメリカ軍の
核兵器持ち込み、
ミサイル基地の設置に反対してきたのでありますが、もし
日米両国政府によって今回企てられている
安保条約の改訂が、たとえ形式は平等であり、双務的でありましても、これは今日以上に日本の
軍事的義務と負担を重からしめ、今日以上に日本を戦争の危険に巻き込むおそれがあるといわなければなりません。(拍手)ことに
アメリカ軍の
核兵器持ち込みの問題については、再三にわたる首相の
決意表明があったにもかかわらず、まだ国民が釈然とせず、不安におののいていることは、首相もすでに御承知の通りであります。このことは、首相がいかに固い御決意をお持ちであろうとも、
米軍兵力配備の中に
包括的権利として認められているところに問題があるのであります。従来このことについては、しばしば国会でも論議され、核兵器の
持ち込み、
ミサイル基地の設置が真に拒否される保証は、協定を明確に取りきめるか、さもなくば条約の改正以外にないと主張されたのに対し、そのつど首相は、首相の単なる決意でそれを保証するといって対抗されて参りました。首相のこの公約にしてもし真実ならば、首相は、今回の改正もしくは新条約の交渉に当っては、まず第一番に、この点をどうするか、首相の所信を承わりたいと思うのであります。(拍手)
次は、自衛隊の
海外出動についてであります。
安全保障条約第一条の米軍の
使用目的を規定した条項と、
行政協定第二十四条による非常時の
共同措置及び協議の条項によれば、条約上、自衛隊は
海外派兵を拒否し得ないのであります。ただこの場合、日本の憲法及び
自衛隊法によって自衛隊の行動の目的が規正されているため、日本はその
海外派兵を拒否できると考えられがちでありますが、しかし、国際法の通念及びヘーグの国際司法裁判所の判例によれば、いかなる国といえども、自国の憲法または国内法の条章を理由として、条約上取りきめられた義務の履行を怠ることは許されないと規正されているのであります。
条約優先の立場からは、少くとも非常時に際しては、
海外出動を拒否し得ない立場になるのであります。従って、従来政府のとり来たった、憲法に基いて自衛隊は
海外派兵せずとする公約がもし履行されるとすれば、これまた、今回の折衝に当ってこの点をどうするのか、首相の御答弁を承わりたいのであります。日本の独立を傷つけ、日本を両陣営間の戦争に巻き込む危険性のある、
安保条約を解消する方向に交渉するのであれば歓迎できますが、自主的、双務的の名のもとに、
相互援助条約の内容を持ち、日本の
軍事的義務と負担を増加し、
軍事同盟的性格を強めるものであるならば、このことが日本と隣り合っているソ連、中国側を刺激し、ためにソ連との関係を一そう冷やかなものとし、かつまた、中国との関係を一そう悪化させ、国交の正常化、貿易の回復を困難ならしめるおそれなしとせざるを得ないのであります。このことは、日本の
国際的地位をかえって不安定ならしめ、また、アジアにおける平和の確立をいよいよ困難ならしめるものと言わなければならないのであります。総理並びに外相は、改訂に当ってこの点に思いをいたされておるかどうか、そして
安保条約解消の方向に交渉を進めるつもりがないかどうかを承わりたいのであります。(拍手)
さらに指摘しておかなければならないことは、新条約とそれに基く
行政協定との関係であります。新しい条約の条項において、抽象的、包括的取りきめが行われ、その具体的なことが国会の承認を必要としない
両国政府間の
行政協定にゆだねられるならば、それこそ危険きわまりないと言わなければなりません。現在の
安保条約と
行政協定の関係においても、
行政協定第二十四条には、極東において
敵対行為または
敵対行為の急迫した脅威が生じた場合には、
両国政府は、
日本区域の防衛のため必要な
共同措置、すなわち共同の
軍事行動をとるため直ちに協議しなければならないという、きわめて重大な問題について規定されているのであります。これを考えますとき、新たなる
安保条約に基く
行政協定が日本に重い
軍事的義務を規定する危険を指摘せざるを得ないのであります。首相並びに外相はこの点をどう考えられるか、承わりたいのであります。
次に、首相は九月二十九日の
記者会見において
防諜法制定の必要を力説しておられるのでありますが、これは現在の
台湾海峡をめぐる米中間の緊張の状態、並びに
安保条約の改訂の問題と考え合せてみますると、事はきわめて重大と言わなければならないのであります。すなわち、
在日米軍が
台湾海峡における事態と関連のある
作戦行動を行いつつある現在、
アメリカ側としては、
日本政府に対し、その行動、武器、基地等の機密を保持するため、強く防諜法の制定を要求しているものと推測されるのであります。また
安保条約が改訂されて、
相互援助条約的なものになりました場合、日本の自衛隊の行動、
アメリカ軍との共同の行動、
アメリカから供与される武器に関する機密を保持するために、今、首相は、
安保条約改訂の問題と関連して、特に防諜法の制定を強調されているものと考えられるのであります。われわれは、
憲法違反の疑いのある、かつ日本の
民主主義を根底からくつがえすおそれのある防諜法の制定について反対するものでありますが、現在、首相がこの法律の制定を急ぐのは、
在日米軍の活動に関して、特に必要であると考えられたのであるかどうか。また将来、
安保条約の改訂の行われた場合に必要であるという見地から強調されるのであるかどうか。その点を明らかにしていただきたいのであります。
次に私は、金門、馬祖島をめぐる緊迫した情勢に対し、政府はいかなる態度をもって対処せられるかをお伺いしたいのであります。現在、
米中会談が行われており、
世界各国はこれに一縷の望みを嘱しているのでありますが、
台湾海峡の緊張が容易に解けるとは考えられないのであります。すでにこの局地戦の開始以来、
在日米軍が日本にある
海空軍基地より行動を起していることからして、今後この戦争が拡大するにつれて日本は急速に、国民のだれもが欲せざるにかかわらず、実際上戦争に巻き込まれていく危険に直面せざるを得ないのであります。(拍手)金門、馬祖島は、
中国大陸に近接する沿岸の島であり、台湾、澎湖島とは
地理的条件を異にしているのであります。この島を失うならば、
蒋介石政府がその政権を維持できなくなるというおそれと面子のために固執していると推測されるのでありますが、そのために、世界が戦争の危険にさらされ、特に日本は戦争に巻き込まれる不安におののかざるを得ないのであります。わが党は、
台湾海峡における
緊張緩和のために、国府軍が金門、馬祖島より撤退すること、
アメリカ軍が介入をやめること、中国側も台湾の
武力解放を中止すること、台湾問題については、
米中等関係諸国において話し合いで解決することの態度を明らかにしました。世界の世論もまた、このびょうたる島のために
世界戦争の起ることを欲せず、金門、馬祖島を放棄し、
緊張緩和をはかるべきことを要求しております。
藤山外相がさきに
ロイド・イギリス外相と会見した際、
イギリス外相は、金門、馬祖島より国府軍が撤退すべきであるという見解を表明し、
藤山外相もこれに賛意を表したと伝えられたのであります。この報道は各方面にかなりの大きな反響を呼んだのでありますが、(「どっちが
ほんとうだ」と呼ぶ者あり)自民党内の
アメリカ一辺倒派、
蒋介石支持派は、これを台湾及び
アメリカに打撃を与えるものとしてにわかに騒ぎ出したのであります。そのためか、外相は報道の内容を否定し、また昨日の国会の演説においても、
ロイド外相との会談の点については一言も触れなかったのであります。そうして政府もまたワルシャワの
米中会談に期待をかけているといっているだけでありますが、もし
アメリカ一辺倒派、
蒋政権支持派の牽制によって態度の表明ができなかったとすれば、まことに奇怪至極といわねばなりません。(拍手)
台湾海峡における緊張と重大な関係を持つ位置に置かれた日本が、なぜ戦争の発火点となる金門、馬祖島よりの国府軍の撤退の態度を表明してはならないのでありましょうか。
アメリカに対してであれ、台湾に対してであれ、
緊張緩和のため、平和の確立のために、堂々と日本の主張を表明すべきであります。(拍手)国民もまたそれを期待しているのであります。私は、
藤山外相が、
ロイド外相との間にかわした会談の内容について報告することを求め、また日本が
台湾海峡をめぐる
緊張緩和のために、いかなる態度と方針をもって臨むかを、それがいかなる国よりももっと直接に具体的な影響下にある日本として、明らかにすべきだと信ずるものであります。
次に私は、
日中関係の打開についてお伺いいたします。多年にわたるわが党を初めとする民間人多数の努力によって経済、文化の交流等を通じ、いわゆる
積み重ね方式によって、
日中両国民間の
友好親善関係が増進されてきたのであります。これは、将来、
日中両国間の国交の正常化を促進する上に、大いに貢献するところがあったのであります。しかるに政府は、第四次
民間貿易協定の
取り扱い方について
台湾政府よりの横やりにたじろぎ、事実上この協定を不成立に導き、また長崎の
国旗事件の処理については、軽率な言辞と処置によって、遂に
日中関係を逆転させ、今日のごとき
日中関係の悪化を招来したことは、まことに遺憾であります。(拍手)この点について岸内閣の責任はきわめて重大でありましてすべてを中国側の誤解であるとし、中国が岸内閣に攻撃を加える限り、
静観的態度を続けるといって責任を回避していることは、ひとりわが党のみならず、多くの国民のはなはだ不満とするところであります。わが党が今日、悪化せる
日中関係の打開を強く主張し、政府に向って、静観を捨てて、対
中国政策の転換を要求するのは、単に途絶した貿易の再開をはかるという、
経済的見地からだけではないのであります。もちろん
日中貿易を再開し、これを盛んにすることは、国民の熱望するところであり、これが緊急を要することは言うまでもないのでありますが、われわれは日中問題についてもっと深く掘り下げて考え、対
中国政策を打ち立てなければならないのであります。今日、
中華人民共和国政府は、六億の国民とあの広大な領土を統治して強大な国家となり、また第二次五カ年計画を推し進めて、中国の経済もまたきわめて顕著なる発展をとげているのであります。何人といえども、この現実に目をおおっていることはできないのであります。今や中国は、好むと好まざるとにかかわらず、アジアにおける最大の実力を有する国、いな世界においてさえ最強国の一つになっているのであります。この国を無視したり除外しては、アジアにおける、また世界における
国際関係の安定と平和の確立は実現し得ないのであります。日本はこの中国と隣り合せる位置にありまして昔から諸般の面において深い関係を持ってきたのであります。この中国と日本とが今日のような悪化せる関係にあることは、日本のアジアにおける
国際的地位をきわめて不安定ならしめるものであり、日本を平和のうちに置くことに対しては致命的な障害となるものであります。わが党は、かかる観点からして、すみやかに
北京政府との間に交渉を行い、
日中国交の回復とその正常化を実現すべきであると確信しておりますが、首相並びに外相は、日本と中国との関係を根本的にどのように見ているのか、まずそれを伺いたいのであります。
次は台湾に対する問題についてであります。日本は
ダレス国務長官の勧告によって
台湾政府との間に
平和条約を結び、
外交関係を持っているのでありますが、政府はこれによって日本と中国との
国交回復は成ったものとしております、しかし台湾の
蒋政権統治の及ぶ範囲は、台湾、澎湖島及び金門、馬祖島等でありまして、決して中国全体を統治しているものではなく、また将来再び
中国大陸の統治を回復する見通しはないのであります。日本が
アメリカの
外交政策に追随して
台湾政府を中国の
正統政府なりと見ていることは、現実に即せず、きわめて不自然なことであり、日本の対
中国政策の誤まりと困難は実にここから生じているのであります。すでにいわゆる
自由主義国家群のうちにおいてすらも、現実の事態を認識して、
北京政府を中国の
正統政府なりと認め、これと
外交関係を結ぶものが現われてきているのであります。首相並びに外相は、いつまでも
アメリカに追随して現実を無視する政策を続けるつもりであるのか、あるいは近き将来において、中国との真の
国交回復のために、
中華人民共和国政府との間に交渉を開始させるつもりがあるかどうかをお伺いしたいのであります。
第三は、国連における中国の代表権の問題についてであります。
台湾政府の代表が国連の
安保理事会に
中国代表としての地位を占めているということは、中国の現実の事態から見て全く不自然であり、中共が国連から除外されていることが、アジアにおける
国際的紛争の原因の一つともなり、またその紛争の解決を妨げる要因ともなっているのであります。今回の
国連総会では、
中国代表権の問題は
アメリカの主張で取り上げられず、日本もまたこの
アメリカの態度に同調したのでありますが、まことに遺憾と言わなければなりません。(拍手)今回の総会の議決においても、いわゆる中国の
国連参加を支持する国は、
自由国家群のうちにあってさえ増加しつつあることは、
藤山外相が親しく見聞されたはずであります。われわれは、国連の権威のためにも、またアジアにおける
国際紛争を国連を通じて解決し、平和を確立するためにも、国連における
中国代表を変更することを主張すべきでありますが、
藤山外相は、本問題をどう考え、またいかなる態度をとられるか、それを承わりたいのであります。
第四は、途絶せる
日中貿易をいかに打開するかという点に関してであります。政府は第四次
協定廃棄後何らなすところなく、じんぜん今日に至り、今や国内においてもようやくその影響が深刻化しつつあることは、私のあえて指摘するまでもないところであります。本年初頭、
日中貿易の趨勢は、
世界貿易の
縮小傾向に反して
飛躍的増大の勢いを示し、貿易が断絶しなければ、昨年に比べ六六%増の一億ドルの突破は確実視されていたのであります。さらに鉄鋼五カ年協定が実施されれば、鋼材の
恒常的輸出が可能となり、八月のココムの
大幅緩和によって機械類の輸出も活況を呈したであろうことは、想像にかたくないのであります。しかも問題はこれのみにとどまらないのであります。それは言うまでもなく中共の
東南アジアに対する
経済進出であります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)最近同地域からの帰国者は口をそろえて
中共商品の脅威を強調しております。中共が
国内建設の余力をかってこれと並行しつつ、本格的に
東南アジアに販路を延ばし、
日貨ボイコット運動とともに
市場確保をする場合の日本に対する影響は、無視できないものがあるのであります。
東南アジアの華僑は総数一千三百万人、この人数は必ずしも多いとはいえませんけれども、しかし
日本商社の
取引相手の七、八割はこの華僑であることを見ても、その華僑の対
日動向そのものが直接日本の対
東南アジア貿易を左右する、といっても過言ではないのであります。(拍手)しかも、
中共政府は、去る六月、北京で
アジア諸国駐在の
公館長会議を開き、そのころから
中共商品の輸入が一そう積極化してきたといわれ、特に
東南アジア地域にある中国銀行の八つの支店を通じて、
中共商品の輸入には二ないし二・五%程度の
低利融資をやり、着荷分については
全額貸付、さらに
輸入商品が売れない場合には、その商品の引き取りまで行うということであります。華僑の全部がかりに中共を支持するものでないとしても、実利第一主義の彼らがいかなる動向を示すかは、想像にあまりがあると言わなければなりません。今、対米貿易の前途は全く悲観的であり、輸出五億九千、輸入十六億一千という、三倍に及ぶ
輸入超過であります。中共とは
貿易協定廃棄、
東南アジアヘの
経済進出が
至上命題となっている今日の日本にとってこれは一日も看過し得ない事態と言わなければなりません。この
東南アジアの事態に対する対策を政府はどうするつもりか、ここにもまた中国との
関係打開を不可避とする冷厳なる事実の存在と判断するか否か。もとより断絶した中国との貿易を回復するについては、今日の両国間の状態から見れば非常に困難な問題が横たわっており、かつ、なみなみならぬ決意と努力を必要とするのであります。単に静観して相手方の変るのを待つということでは打開できるものではありません。この際、政府は中国の問題について根本的に再検討し、従来の対
中国政策について、
アメリカに追随し、
台湾政府を主とする政策を捨てて中国との国交を正常化する方向に転換する意図はないかどうか。もし、かように日本の対
中国政策がいわゆる前向きの姿勢になるならば、現
在日中間に横たわるもろもろの難問題を解決する道は、おのずから開けてくるものと思われるのであります。そうして貿易の再開と拡大の具体的なステップを踏み出すことができるのであります。首相、外相、
通産大臣は、その点についてどうお考えなのか、承わりたいのであります。(拍手)
最後に、私は自衛隊の
次期主力戦闘機選定に関する問題について伺います。その第一点は、政府が現在、
衆議院決算委員会等において追及されている
主力戦闘機の選定は、去る四月
国防会議において内定され、その内定に至る経過について、
アメリカのロッキード、
グラマン等の
航空機会社並びに新三菱重工、伊藤忠商事、
川崎重工等の
国内商社、
メーカーが介在し、猛烈なる
売り込みのための運動があったこと、これを背景としたか否かは別として、それぞれその
売り込みや策動に乗ぜられた形跡ありとして
国際的汚職の事実ありやと風評が流れているのであります。私のこのことについて最も遺憾とするところは、内定後において
与党内部から、この機種に対する反対ののろしが上って、血で血を洗う混乱を生じていること、特に、直接行政に関与すべきではない自民党の
総務会長河野氏が、たびたび防衛庁に電話をかけて、その機種の決定について異議を申し立てている事実、(拍手)これがもし
ほんとうであるとしますならば、それが、
国家国民のための
防衛自体についての意見の扞格からというよりも、相抗争する
商社メーカーの立場がそのまま
与党内部の抗争となっていることであります。私は、汚職だとか、あるいは金が流れたかどうかをここで明らかにするつもりはありません。しかし、この背景に何が伏在するかについて国民が鋭敏な嗅覚を持っていることを忘れてはならないと思う。(拍手)これがうやむやに葬むられたり、
葬むろうとする気配や態度がもしとられた場合の国民の政治に対する不信は、いわゆる
主力戦闘機決定の適不適どころではない災いと思うが、首相はどう思うか。徹底的にその真相を究明する用意ありやいなや、伺いたいのであります。
さらにまた、私は、かかる疑惑を生じた責任は、その内定に至る経過と、
内定そのものにあることを指摘しなければなりません。少くともこの種の選定に当っての態度として
グラマン機がその選定の対象として登場してから、わずか半年とたたないうちに、倉皇として軍配があげられたこと、それが常識としては軽率のそしりを免かれないと思うのであります。さらに、現実に内定された
機種そのものが二機試作されて、当時
実験飛行で大破もしくは中破して修理中のものであること、また防衛庁が現に購入せんとしている機種は、本年四月二十四日
参議院内閣委員会で、わが
党岡田議員の質問に対し、
津島防衛庁長官が明らかに答弁したF11F—1Fではなくてエンジンも機体の大きさ
そのものも違う、G98J—11と称する改良型であり、しかもこの機種は、まだ単に図面の上で設計されているにすぎず、試作実験されたこともないものであること、一千億に近い、しかもその
乗員養成の費用を含めば、千五百億になんなんとする血税を使う重要な問題の扱い方としては、いささか国民を愚弄したやり方だと思うが、どうか。(拍手)
その第二点は、その主力機の
製作完了は五年後と見込まれ、ジェット・パイロットの養成にこれまた三年はかかるといわれる。従って、それが
主力第一線機として動くころに起ると思われる事態について
軍事評論家は、今日の
ミサイル兵器発達の度合いから見て、三年後、五年後、国防上それの果す役割については重大な疑義があると、はっきり表明していることは、考慮の中に置かなくてもいいであろうか。現有のジェット機すら、昨年五月二十四日、北海道千歳に移駐するために、
航空自衛隊浜松第二航空団からF86
ジェット戦闘機十機、練習機二機、計十二機が
浜松基地を千歳に向って出発して、二機は新潟に不時着、他の二機は浜松に引き返し、さらに二機は墜落、結局、無事千歳飛行場に着いたものは全体の半分の六機でありました。天候の急変、
酸素マスクの不備とはいえ、これは自衛隊の現状を雄弁に物語っていると言わなければなりません。かかる現状において
アメリカ軍さえまだ手をつかねているといわれる最高度の優秀機を、一機三億六千の四億のと大金を出して、それが果して自衛隊のおもちゃにならないということを保証できるでありましょうか。一体国力に応じた防御力の増強という政府の範疇で、これがどうとられるものかこうか、首相並びに防衛庁長官の御答弁が承わりたいのであります。(拍手)
〔
国務大臣岸信介君登壇、拍手〕