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政府委員(
賀屋正雄君) 御
質問を受けます前に、私
どもの方から補足的に、本日資料を提出いたしましたので、これにつきまして御
説明を申し上げたいと思います。
従来、と申しましても、
先国会でも特にそうであったのでございますが、この
法案に対する
一つの
批判といたしまして、元来、この
貴金属を
連合国占領軍によって
接収されたのは、
戦時中に
政府が金、銀、
白金等を
供出していただいたのでございますが、これに応ぜず、
供出を怠った者がそのまま戦後引き続き持っておったところを
接収されたのではないか。従って、このような当時の国策に協力しなかった者に対して、今となっては
返還する必要ないではないか、こういう御
意見が強かったように承わっておるのでございます。しかしながら、私
どもは純
法律的な立場から、
接収は没収ではないので、
もとの
所有権はそのまま、
接収されたとしましても、
もとの
所有者に残っておるのである、こういう
考え方の
もとにこの
法律を出しておるのでございますが、今申しましたような御
批判がありますので、その点、しからばどのような実情にあったかという点につきまして、
一つの判断の
材料というような意味で、この表をお出しいたしたのでございます。
この表は備考のところに書いてございますように、
接収貴金属等の
数量等の
報告に関する
法律という
法律を出しまして、
報告を取ったものを、
事務当局におきまして試算いたしたものでございます。今後この
法案が成立いたしました場合には、厳重にこの
接収貴金属等処理審議会というもので御
審議をいただきまして、
返還措置をとりますつもりにいたしておるのでございますので、今後
計数には多少の異同を生ずることが予想されますが、一応
業種別に分類いたしまして、この
計数を
金額と
業種別に分類してみたものでございます。
一番左側の
業種別のところに書いてございますように、
法人につきましてごらんいただきますと、たとえば
貴金属の
売買加工業でありますとか、ダイヤモンドの
売買加工業、あるいは
鉱山業、
金属加工業といったように、本来、金でありますとか銀というような、今回
接収されております
金属そのものを取り扱う
事業を経営しておりました
法人が
接収されておるということでありまして、これらは
戦時中の
供出とは何も
関係のない事柄でございまして、以下に書いてあります
電気機械工業その他の
工業におきましても、多かれ少なかれ、本来の
事業に必要な
範囲内において
貴金属を持っておって取られたものが大多数であるというふうに
考えられるのでありまして、
個人につきましては、やはり
貴金属の
売買加工業に従事いたしておりました
個人が、やはり本来の業務の
一つの
材料という意味合いにおきまして持っておりました
貴金属が
接収されたという、これが圧倒的に多い
計数となっておるのであります。その他のいろいろな
業種につきましても、多かれ少なかれ、そういうことが言えるのでありますが、まあこの中には、
戦時中何らかの理由で
供出をしなかったもので
接収されたものは絶対になかった、絶無であったということも、自信をもって私は言えないとは思いますが、おおむね、この表によってごらんいただきますればおわかりのように、それはあったといたしましても、その二億円の
個人の持っておりましたうちのごく小部分にすぎないと。この
一つの想像される一事をとらえまして、今回の六百何十億に上る
貴金属を
処理する
法案に対する
批判といたしまして、そのような
国民感情上この
法律案は提出すべきではないという
意見は、私
どもはちょっと賛成いたしかねるというふうに
考える次第でございます。その点を、まず申し上げたいと思うのでございます。
それから、従来こういうこともよく言われたことでございまして、
個人についてでございますが、
昭和二十一年に
財産税等を徴収いたしたのでありますが、
接収された
貴金属を持っておって今度返された人は、
財産税を免れておるのではないか。しかるに、今度非常に値上りしたところでもって、この
接収貴金属が返ってくる。それに対してわずか一割の
納付金を取っただけで返すということは、やはりこれも
国民感情上許せないのではないかということが、よく言われておるのであります。そこで、
財産税との
関係につきまして若干私
どもの
考えを申し上げておきたいと存ずるのであります。
財産税法の
規定によりますと、
接収貴金属に対する
財産税の
課税方法は二つに分れておるのでございまして、これも前にいつか
——前々
国会におきまして御
説明いたしたところでございますが、
一つは、
昭和二十一年に
勅令で
臨時貴金属数量等報告令というのを出しまして、当時
貴金属を持っておられる
方々にその
数量を
報告をしていただいたのでございますが、その
報告を出した
個人で
接収された
方々は、
貴金属が
現実に
手元に
返還されるまでは
課税を延期するという
措置が法令上とられておるのであります。そうでなくて、第二に、
報告を出さなかった
個人で
接収された人につきましては、
課税の延期が認められず、当時
財産税の
納税義務があったわけでございます。しからば、果して
個人で納税したかどうかという点でございますが、これを全体の
人たちについて調べますには、なかなか
全国に散在いたしておりますし、何分古いことでもございますので、私
どももいたしかねたのでございますが、
東京都内におきましては調べたのでございまして、
東京都内の
課税状況を
調査いたしましたところが、これは五人についてでございますが、そのうち三人は
財産税が
課税されておりました。
あとの二人は
課税されておりません。この
課税されておらないということは、必ずしも
脱税ということにはならないと思うのでございます。御
承知のように、
財産税というものは
貴金属だけではございませんで、当時その
個人が持っておりました
財産の全部を総合いたしまして、そのうちから債務を差し引きまして、さらにこの
基礎控除額といたしまして十万円という
金額がきめられておりました。それをこえたものだけが
課税されるのでありまして、従いまして、
課税されなかったものはこの
基礎控除の
範囲内であったというものもあるわけでございますので、必ずしも全部が
脱税というふうには言い得ないと思うのであります。
ところで、しからば、かりに、この
財産税を納めなかったことが不都合であるという前提をとりまして、それなら数字がどの
程度になるかということでございますが、ここに今の表に立ち返ってごらんをいただきますと、民間に返します
貴金属は、全体のうちで
法人が三十九億、
個人が約二億というふうになっておるのでございます。それに第三の、
日本銀行が売り戻しの
条件付で買いましたものが約三億ということであります。ところで、
財産税は、
法人は当時
課税の
対象といたしておらなかったのでありまして、
個人だけを
対象といたしたのであります。それから、
日本銀行売り戻し付の
金製品、これは
個人でありますが、これは
所有権が
財産税課税当時
日本銀行にあったのでありますから、これも
課税の
対象となっておらないのでありまして、わずか二億のものについて
財産税が問題になるわけでございます。しかも、この二億円につきましても、
基礎控除という点を考慮に入れますと、十万円。当時の
基礎控除の十万円は、現在の
貨幣価値に直して
考えますと、まあ三百万円くらいには相当すると思うのでございまして、この表でごらんいただきますように、
金額的に五百万円をこえるものがわずかに六件という
程度でございますので、この
個人に
財産税を課すると、今になって
あとから
課税すると
——納めた者もあるわけでございますが、それでもなお
課税するとかりにいたしましても、ごくわずかな人についてそういうことが起るにすぎないのでありまして、まあそれが第一点と、
それから、しからば、先ほど申し上げましたように、
報告を出しております
方々は
課税が延期されておる。
返還になったときに
課税するということを申し上げましたが、それれ
ら財産税の
課税を、
財産税当時の低い
評価額ではなくして、返ってきたときの時価でもって
財産税を
課税したらどうかという議論が
一つ出てくるわけでございます。
財産税は、御
承知のように、
一つのポイント、時期をとらえまして、そのとき現在において
個人が持っておりましたあらゆる
財産を総合いたしまして
課税したわけでございまして、具体的には、
昭和二十一年の三月三日現在の
財産を
課税の
対象といたしたのでございます。従いまして、
財産税というものはそういう
課税をする
もともとの
法律でございますので、
接収貴金属等で
課税を延期されておるものだけを
調査時期を異にして
課税するということはできないのでありまして、やはり同じようなケースで、たとえば
在外財産でありますとか、
賠償指定施設が
あとから返ってきたというようなもの等、約十四ばかりあるのでございますが、これらはいずれも
自分の
手元に返ってきたときに
課税するという
建前をとっておりますが、これもすべて
調査時期、すなわち二十一年三月三日現在における時期をとらえまして
課税しておるのであります。
まあ、今申しましたように、
財産税というものが、そういうふうに一定の時期をとらえまして、そのときの
財産を総合して
課税するのでありますから、そのうちの一部分だけを
評価の時期を変えるというのは不合理であるのでありますが、のみならず、
財産税で、先ほど申し上げましたような十万円という
基礎控除、あるいは
財産税の
税率そのものは
幾つかの
——私もはっきり記憶をいたしておりませんが、
幾つかの、最低は二〇%から最高の
税率は九〇%というふうに段階を刻んで
規定されておったのでありますが、そういった
基礎控除でありますとか、
税率の刻み方等も当時の
貨幣価値を
もとにして刻まれておったのでございまして、その
基礎控除なり
税率の
規定を適用いたしますのに、今の
評価額を持ってきてはおかしな結果を生ずるということも言えると思うのであります。
それから第三に、しからば、
接収貴金属の
返還を受ける者に対しては、当時の
財産税法による
財産税はまあかりにかけないとしても、それにかわる何らかの税をかけたらどうか、こういう御
意見も出てくるかと思います。まあ今申し上げましたように、ごくわずかの
個人についてでありますから、そういったことは公平の観念にも失すると思うのでありますが、たといその点を目をつぶりましても、私
どもの
考えは、
租税を、こういった
返還貴金属を
返還されたものだけに対して特別の税を設けるということ自体が、理論的におかしいのではないか。実際上のみならず、理論的にも筋が通らないのではないか、こういうふうに
考えるのであります。と申しますのは、もちろん
租税というものは
担税力に応じて
課税すべきものでありまして、
接収貴金属は
自分の持っております
貴金属が
自分の
手元に返るにすぎないというのでありまして、それが返ってきたからといって、その
個人の
担税力がそれだけふえた、こういうふうにはとれない、こういうふうに思うのであります。
もう
一つ実際的な点を申し上げますと、この
連合国占領軍によって
貴金属の
接収を受けました者は、その当時
個人で
貴金属を持っておりました者のうち、ごく一部の者にすぎなかったのでございます。それは先ほ
ども申し上げました
勅令でありますところの
臨時貴金属数量等報告令というので
報告を徴取いたしました。ところが、
全国で
報告を出した人が約一万人あったわけであります。ところが、この
報告を出した人の中で、具体的に
現実に
接収されました
個人はわずかに七人にすぎなかったのであります。こういうことになっておりまして、原因のいかんは問わず、
現実はそういうふうになっておりますので、この少数の者だけについて特に
財産税を
課税するというのは、税というものは本来普遍的に、かつ公平に
課税すべきものであるという
建前からいたしまして、こういった税を設けるのはいかがなものであろうかというふうに
考えるのであります。
大体、以上申し上げまして、これらは当然御
質問によってお答えすべき点であろうかとも思うのでありますが、この表をお配りいたしましたことに関連いたしまして、一応御
説明申し上げた次第であります。