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公述人(
清水馨八郎君) 私は、
都市の地域の法則性を研究しております一地理学徒であります。その観点と、
都市市民の市民生活の公共性の尊重という
立場から、次のごとき十カ条の理由をあげて、本
法律案に
賛成の
意見を
公述したいと思います。なお、時間の関係で、やや抽象的になりがちでありますが、それは、さきにお送りしました六つの参考資料を参照していただければ幸いだと思います。
第一の理由は、従来なされた多くの大
都市研究から明らかなごとく、
都市機能の分散こそ、近代
都市の最も自然な生態であると
考えるからであります。何となれば、電話、
交通機関の発達進歩により、
都市空間のあり方というものが変って参りました。世界的に、近代
都市というものは、集中から分散の生態的な過程をたどりつつあります。この自然法則を利用して、かつ、これを助長する本
法律案のごとき政策をとって、
計画的に構成的に分散を図ることこそ、現在
都市計画の理想であると
考えるからであります。
第二に、本
法律案は
首都過大化の結果対策ではなく、原因対策だと
考えるからであります。何となれば、従来の
首都整備の諸
計画が望ましい成果を上げなかったのは、仏を作って魂を入れなかったからであります。すなわち、従来の
衛星都市、グリーン・ベルト
計画、交通
計画、住宅
計画等々、いずれも過大化の結果の処理をどうするかを
考えても、なぜ過大化するの根本原因からの対策をすることをしなかったのであります。本
法律案のごとき、原因療法から先に手を打たねば、現在行なっております
衛星都市計画も、交通
計画も、いずれも一時の弥縫策に終ることは明らかであります。
首都圏整備法に真に魂を入れる最も緊急な
法律案と
考えるものであります。
第三点は、本
法律案は、従来の夜間人口対策から昼間人口対策になるから、特に必要だと
考えるものであります。何となれば、
都市人口には、明瞭に昼夜の二面が存在することを忘れてはなりません。従来、人口対策というと、夜間におけるところの夜間人口、つまり、居住地における寝床の人口のみが対象となっておりました。そのあり方をいかに処理しても、問題の本質には迫れないし、また、過大化を防げなかったのであります。これに対して、
都市では、昼間、人々が機能化しているときの状態、たとえば、交通人口とか活動人口とも言えるでしょう、この昼間人口のあり方いかんが過大化の根本原因となっております。つまり、昼間人口が原因となって、夜間人口は、その結果的な現象であります。したがって、昼間人口吸引機能であるところの学校とか、
工場とか、事務所、商店、娯楽
施設、これらのうち、郊外化したほうが合理的なもののあり方を、分散によって、その方向を秩序づける本
法律案に
賛成であります。ただし本
法律案が、ややあいまいなきらいがあるので、次の諸点の御配慮を願いたいと思います。
既成市街地では、人口がふえるから過大化するのだというふうに従来
考えられておりました。実は、これは逆なのでありますが、私は人口が減るからこそ、過大化するのだという
考えを持つものであります。何となれば、
産業が過度に集中すればするほど、逆に夜間人口は減少してしまう、つまり丸ノ内
一つ考えてみても、
産業が集中すればするほど、人口は逆に減っているのであります。たとえば
既成市街地全部が
工業化したり、学校になったら、人口はふえるかというと実は減るのであります。そこで夜間人口ではなくして、昼間人口の集中を
制限しなければならないことは明らかであります。従って昼間人口増加率というものは、夜間人口増加率とは、逆比例しているという、この点を特に注意しなければならないと
考えるのであります。
第四点は、通勤ラッシュ交通の混乱の救済になるから大切だと思うのであります。何となれば、
首都の交通の混乱は、交通量が増加したばかりでなくして、地域的に交通量が片寄っていることから、問題が発生しているのであります。従って従来のごとく運ぶ
努力をするよりも、運ばぬ
努力こそ、基本的な
考え方だと
考えるのであります。それには本
法律案のごとく、反対ラッシュ方向に昼間人口吸引機能を育成することであります。このようにすれば、ラッシュにおける上下線に交通量を平均に載せるこの
努力をすれば、
東京の交通は、今の輸送力だけで十分全都民が坐って通勤、通学できる計算になります。で、一日当りの国鉄、私鉄の交通量の需給関係は、決してアンバランスになっていないという事実を知らなければなりません。従って、ラッシュアワーが最も
交通機関がすいているのであります。従って、今の二倍交通量が
都市に集中してきても、反対ラッシュ方向に、それが流れるものならば、一向に困らないという計算になります。
第五点は、住宅地域と職場地域、あるいは学校地域といいますか、こういうものが一致することによって、通勤、通学交通が否認され、かつ住宅問題が緩和されるという
考えからであります。何となれば、夜間人口が都心から郊外に追いやられたのですから、昼間人口機能である学校、
工場、商業、こういうものも、これを追って、追いつつ郊外の住宅に近づかざるを得なくなるのは、きわめて自然の生態であります。で、住職地域が一致することこそ、その間の交通は否定され、むだな時間的、経済的、生理的な交通消費がなくなり、
衛星都市は、真にヘルシーの
意味の衛星的な
都市になり得るのであります。かつ
都市の住宅問題も住職の分離、長距離化に重大な原因があると
考えられますから、本
法律案の施行は、住宅緩和にも役立つものと
考えるのであります。
第六の点は、
工場が合理化、近代化するためには、その立地上、
都市から分散した方が有利であるからであります。何となれば
土地利用上、近代
工場というものが、
中心街にあること
自体が不合理なのであります。それは騒音とか、煤煙とかの社会に与える影響ばかりでなく、
工場自体としても、
地価の上昇に
抵抗しなければならないし、地代、水、輸送、通勤などの点で
生産能率が年々低下して参ります。従いまして近代
工業というものは、今や大
都市の市街地にある必要はなく、地方に分散の方向をとり始めているのは事実であります。この
傾向性を法によって助長することは、
工場と
都市自体の近代化を早めることになると
考えるからであります。
第七に、学園環境の田園化こそ、学校の近代化であり、教育の本旨であるからであります。何となれば、学校が商業主義を
目的とするなら、雑踏の市街、旧市域にある方が有利でありますが、学校は、学徒の教育、訓育を本旨とするもので、これを商業主義の犠牲にしてはならないと
考えます。ゆえに学園の田園化、郊外化こそ、望ましい学校のあり方であり、現に私の勤めている千葉大学を初め多くの大学が、都心から遠心的に郊外へ移動して、望ましい教育環境を作り、何ら問題を起しておりません。かつまた多くの既存の官私の大学も、この方向へ再配置の気運を作るためにも、本
法律案に
賛成であります。
なお本
法律案は、既存の学校、
工場を強制的に分散する規定ではありません。しかし本
法律案施行後、
工場とか、学校の分散による効果が現われて参りますれば、心理的にも既存の学校や
工場の分散を誘発する可能性があると
考えますから、これが本
法律案の大切なねらいであると思うのであります。
第八の点は、本法は、市内の市街
地価の異常なる高騰の抑制策になり、それが
都市地域の健全な発展に寄与すると
考えるからであります。何となれば、
産業や人口の過度集中が
中心街の
地価上昇の原因となっております。かくて都心の
地価が上昇すれば、それは直ちに周辺郊外の
地価へ影響いたします。現在
都市問題の根底には、無秩序、野放しの
地価の上昇現象があって、
都市地域構成の歪曲の原因になっております。先ほどの
公述人が申した市内に空閑地がなぜ発生するのか、現在六十万坪もある、そういうものは、みな
地価上昇のあおりであります。従って本
法律案のごとく、旧市域の
土地利用にある種の
制限を加えることは、都心の
地価上昇を押え、近郊全体にわたる
地価形成の適正化となり、
都市の健全化に寄与するものと
考えます。もし今のままに
地価の上昇が続けられるならば、市域からは、住宅はどんどん追いやられて、住宅化に阻止されて参ります。それに反して
工場なり、学校なり、あるいは商業
施設なり、利潤を追求するものばかりに旧市域は占拠されてしまいます。従って本
法律案のごとく、都心
地価の冷却作用をするということがまず第一であります。そうすることによって住宅人口を呼び寄せることができる。第三点にあげたような人口をふやすことができるのでありまして、これが過大化を妨げる原因となるのであります。
第九の点は、本
法律案施行に対して時期なお早しの論や、周辺地域の受け入れ態勢ができてからなどの反対
意見もありますが、上述のごとく本
法律案は、
首都圏整備の根本的原因対策の
一つでありますから、おそきに失することはあっても決して早過ぎることはないと
考えるものであります。その効果は、直接的ではありませんが、このような
制限法があることは、心理的にも効果がきわめて大きいものと
考えて、今こそ実施しなければ、あすではおそ過ぎることを知るべきであると
考えるものであります。
第十の点は、本
法律案は、ざる法に近いきわめて甘い規定になっております。この
法律の第一条の施行の
目的にかなうように、さらに強化すべきであると
考えるものであります。
その理由の第一は、本
法律案を一読して感じられることは、名目は
制限するための規定のようですが、あまりにも
制限していないのに驚きます。何となれば、各条項とも例外を必ずつけ、政令で定めるものを除くといったような規定があり、そのほか知事許可の特例があり、幾つかの経過措置があげてあって、既存の権益を必要以上に保護しております。
制限法案でありながら、非常に甘く遠慮に遠慮を重ねた法案になっておりますので、本
法律案の
目的趣旨にかなう、生かすためにも、さらに強化すべきであると
考えるものであります。
第二の点は、一体この
法律の規定に触れる学校や
工場が、どれだけあるかと聞きたいくらいであります。資料によって明らかなごとく、五百坪以上の大
工場など、ここ二、三年数えるほどしか
建設されていないのであります。六百坪以上の学校な
ども、ここ二、三年、一、二にとどまっておる現状であります。ほとんどこの網にかからない状態になっておる。従って、
制限規定というものは、五百坪から三百坪ないしは二百坪に下げるべきであると
考えるものであります。
第三の理由は、この法案は既存の検益を
制限するのではなく、将来の期待可能性を
制限するにとどまり、各
企業にとって将来の仮想利潤についての
制限であって、
区画整理による立ちのきなどと性質が違うものである。ですから、さらに強い
制限規定にして、一向さしつかえないと
考えるものであります。
第四の理由は、
制限を大幅に緩和してしまうことは、大
都市の健全化を阻害し、公共の市民の幸福をそこなうことでありますので、この点に立てば、ヒューマニズムを犠牲にしてまで、各
企業の将来にわたる利潤まで補償する必要がどこにあるかと言いたいのであります。
終りに、山本
公述人も言われましたように、国土
計画と地方
計画とが相待って進まなければ何にもならないのであります。で、
首都圏整備の
計画というのは、実は地方
計画の一部だと
考えます。従って、この地方
計画だけを進まして、
首都圏をより
整備すれば、
東京へばかり集まってしまう。やはりこれは国土
計画——北海道
計画だの九州
計画、全体の中の
首都圏計画という
考え方を持たなければならないことは当然であります。しかしながら、われわれは、集まってきても、決して混乱しない態勢というものは必ずとれるのであります。それこそ
首都圏整備の今言ったような法案を次々出すことによって、集まってきても混乱しない態勢は、メカニズムを変えれば当然できるわけであります。それが
都市計画的なものの
考え方であります。
以上、十ヵ条の
賛成理由をあげましたので、十分審議を下さって、本
法律案のすみやかなる成立を期待するものであります。以上。