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1958-10-03 第30回国会 衆議院 予算委員会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年十月三日(金曜日)     午前十一時七分開議  出席委員    委員長 楢橋  渡君    理事 植木庚子郎君 理事 小川 半次君    理事 重政 誠之君 理事 野田 卯一君    理事 井手 以誠君 理事 小平  忠君       井出一太郎君    小澤佐重喜君       大平 正芳君    岡本  茂君       川崎 秀二君    上林榮吉君       北澤 直吉君    小坂善太郎君       周東 英雄君    田村  元君       綱島 正興君    中曽根康弘君       吉井 喜實君    保利  茂君       南  好雄君    八木 一郎君       山崎  巖君  早稲田柳右工門君       阿部 五郎君    石村 英雄君       今澄  勇君    加藤 勘十君       北山 愛郎君    黒田 寿男君       小林  進君    小松  幹君       佐々木良作君    島上善五郎君       楯 兼次郎君    館  俊三君       成田 知巳君    西村 榮一君       森 三樹二君    柳田 秀一君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         法 務 大 臣 愛知 揆一君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君         文 部 大 臣 灘尾 弘吉君         厚 生 大 臣 橋本 龍伍君         農 林 大 臣 三浦 一雄君         通商産業大臣  高碕達之助君         労 働 大 臣 倉石 忠雄君         建 設 大 臣 遠藤 三郎君         国 務 大 臣 青木  正君         国 務 大 臣 左藤 義詮君         国 務 大 臣 三木 武夫君  出席政府委員         内閣官房長官  赤城 宗徳君         内閣官房長官 松本 俊一君         法制局長官   林  修三君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 八月十二日  委員竹内俊吉辞任につき、その補欠として松  野頼三君が議長指名委員に選任された。 同日  委員松野頼三君辞任につき、その補欠として竹  内俊吉君が議長指名委員に選任された。 同月二十六日  委員篠田弘作君及び濱野清吾辞任につき、そ  の補欠として赤澤正道君及び五十嵐吉藏君が議  長の指名委員に選任された。 同月二十七日  委員赤澤正道君、五十嵐吉藏君、淡谷悠藏君及  び小松幹辞任につき、その補欠として篠田弘  作君、濱野清吾君、實川清之君及び栗林三郎君  が議長指名委員に選任された。 同月二十八日  委員篠田弘作君、田村元君、竹内俊吉君、濱野  清吾君、松本俊一君及び實川清之辞任につき、  その補欠として赤澤正道君、永山忠則君、福井  順一君、福田赳夫君、松永東君及び島口重次郎  君が議長指名委員に選任された。 同日  委員永山忠則君、福井順一君、福田赳夫君及び  松永東辞任につき、その補欠として田村元君、  竹内俊吉君、濱野清吾君及び松本俊一君が議長  の指名委員に選任された。 同月二十九日  委員赤澤正道君、小澤佐重喜君、松本俊一君、  栗林三郎君及び島口重次郎辞任につき、その  補欠として篠田弘作君、松岡嘉兵衛君、秋山利  恭君、小松幹君及び淡谷悠藏君が議長指名で  委員に選任された。 同日  委員秋山利恭君及び松岡嘉兵衛辞任につき、  その補欠として松本俊一君及び小澤佐重喜君が  議長指名委員に選任された。 九月一日  委員島上善五郎辞任につき、その補欠として  塚本三郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員塚本三郎辞任につき、その補欠として島  上善五郎君が議長指名委員に選任された。 同月二日  委員山口六郎次辞任につき、その補欠として  廣瀬正雄君が議長指名委員に選任された。 同日  委員廣瀬正雄辞任につき、その補欠として山  口六郎次君が議長指名委員に選任された。 同月五日  委員楯次郎辞任につき、その補欠として矢  尾喜三郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員矢尾喜三郎辞任につき、その補欠として  楯兼次郎君が議長指名委員に選任された。 同月九日  委員楯次郎辞任につき、その補欠として矢  尾喜三郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員矢尾喜三郎辞任につき、その補欠として  楯兼次郎君が議長指名委員に選任された。 同月十日  委員石村英雄辞任につき、その補欠として山  花秀雄君が議長指名委員に選任された。 同月十一日  委員山花秀雄辞任につき、その補欠として石  村英雄君が議長指名委員に選任された。 同月二十九日  委員竹内俊吉君、濱野清吾君及び松本俊一君辞  任につき、その補欠として上林榮吉君、中曽  根康弘君及び南好雄君が議長指名委員に選  任された。 同月三十日  委員篠田弘作辞任につき、その補欠として加  藤常太郎君が議長指名委員に選任された。 十月一日  委員加藤常太郎辞任につき、その補欠として  篠田弘作君が議長指名委員に選任された。 同月三日  委員淡谷悠藏君、岡良一君及び田中織之進君辞  任につき、その補欠として小林進君、館俊三君  及び柳田秀一君が議長指名委員に選任され  た。 同日  委員小林進君、館俊三君及び柳田秀一辞任に  つき、その補欠として淡谷悠藏君、岡良一君及  び田中織之進君が議長指名委員に選任され  た。     ————————————— 本日の会議に付した案件  国政調査承認要求に関する件  予算実施状況に関する件      ————◇—————
  2. 楢橋渡

    楢橋委員長 これより会議を開きます。  この際お諮りをいたします。予算実施状況につきまして、議長に対し国政調査承認要求を行うこととし、その手続については委員長に御一任を願いたいと存じますが御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 楢橋渡

    楢橋委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。直ちに委員長において、所要の手続をとることにいたします。  この際、暫時休憩いたします。     午前十一時八分休憩      ————◇—————     午前十一時九分開議
  4. 楢橋渡

    楢橋委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  予算実施状況につきまして、調査を進めます。質疑の通告があります。順次これを許します。加藤勘十君。
  5. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 私は日本社会党を代表して、当面する重要なる内外諸般情勢に対して政府所信をお伺いしようとするものであります。しかし経済、財政、文教、労働等については、他の同僚によって質疑が行われることになっておりまするから、私はもっぱら外交防衛の問題を中心として政府所信をお尋ねするのであります。お尋ねに入る前に政府言葉巧みにその場を言いつくろうというような態度でなく、あくまでも誠意をもって事態の真相を国会論議を通じて国民に知らしめるという誠意と気魄をもって答弁に当ってもらいたいということをあらかじめ要求しておきます。  さて私の第一にお尋ねしたいという点は、安保条約の問題についてでありますが、先ごろの本会議においてわが党の代表質問浅沼議員質問に対して、総理大臣安保条約は解消しない、改訂である、こういうことを答弁されたのであります。そこでもしこの問題を単なる改訂であるとするならば、現在の安保条約前文につけられておるこの条約日本が希望するというような対等立場を失った、日本の恥辱となる屈辱的な表現をなされておる、そのものをそのまま是認されるのであるかどうか。御承知のように、安保条約サンフランシスコ条約締結の直後に、法律的に見れば、まだ日本外国条約締結する資格を持っていない、そのときに、われわれから見るならば、アメリカ連合軍占領軍としての自己の軍隊を日本に駐屯せしめる必要から、あたかも赤ん坊の手をねじり上げるがごとく、日本から頼むというような形式をとらして、無理押しつけに押しつけたものと見るのであります。そういう際に、前文につけられたような、今言う屈辱的な表現がそのまま残ることになるが、それらの点について一体政府はどのように考えておられるのか、総理からその点についての所信を承わりたい。
  6. 岸信介

    岸国務大臣 安保条約を再検討して改訂するという考えは、しばしば私は国会を通じてその所信を明らかにいたしたのであります。と申しますのは、今加藤委員の御指摘のありましたように、これを結びました当時の日本状態と、今日の日本状態とは非常に違っている。言うまでもなく、国際社会一員として、すでに国連に加入し、安保理事会一員にもなっておるというふうな国際的の地位から見ましても、また当時の社会経済全般情勢と、今日の日本社会経済情勢とは非常に違って、安定した基礎のもとに日本のあらゆるものが進んで来ておるし、また他から不当に侵略されることに対する防衛のことも、まだ不十分ではありますけれども、当時何らの力も持たなかったことと、その後国力と国情に応じてわれわれが自衛力を強化して参っておる今日の状況とは、これまた非常に違っておる。こういうことを頭に置いて考えますと、ただ単に今おあげになりました前文のみならず、この条約の全体を通じて日米のこの姿というものは、対等であるとか、あるいは日本自主性というものが、ほとんどこの条約の上においては表現されておらない。それは今言ったようなこの当時の事情から言うと、やむを得なかったことがあると思いますが、今申しましたような変化をした今日において、国民が自主的な立場から、また私が昨年アイゼンハワー大統領と話し合って日米の関係を真に対等基礎において、お互いに信頼と理解の上に協力しようという、この基礎の上に立って考えますと、私は安保条約全体についてこれを検討し、改訂することが必要であり、それはあくまでも、日米対等の形において、日本自主性を明らかにするような条約にすることが必要である、かように思っております。ただ、社会党の御意見では、こういう安保条約というものは要らないんだ、これを解消しろということでございますが、このことは、日本安全保障という立場から見まして、私は決して適当な方法じゃない。さらに、今社会党が提案されておるような、これをやめて、日米中ソの四カ国の安全保障体制条約を作ることがいいというふうなことに対しましても、私はこれに反対する意見を述べておるのでありまして、われわれは日本の安全の保障を一日も欠くことはできない。それには日米協力して日本の安全を保障する方がいい。しかし条約については、先ほど言ったような意味において、これを再検討して改訂することが適当である、かように考えておるわけであります。
  7. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 総理考え基本は大体わかりました。われわれは現在の安保条約が、今総理が言われる通り日本自主性独立性が少しも表現されていないものである以上は、当然今日の日本としては、全く何ものにも制約を受けない、独自の立場に立って、独自の判断に基いて、どういう条約を結ぶか結ばないかということを決定すべきであって、あたかも現在の安保条約というものの存在を是認して、その上に立っての改訂ということになるならば、安保条約締結当時のゆがめられた姿、すなわち日本自立性がない姿がそのまま継承されることになってしまうおそれがある。従ってわれわれは、まず第一に、そういう非常に間違った、不平等な考えのもとに立って締結された安保条約というものを一応解消して、しかる後に、あらためて現在の、現実の日本の姿においてどういう条約外国と結ぶべきであるかということが検討されてこそ、初めて日本独立性自主性がはっきり浮き彫りされると私は思う。その点についての総理考え方とわれわれの考え方の食い違っていることは、はなはだ遺憾ですが、ただここで一つ藤山外務大臣にお尋ねしたいことは、藤山外相が先般アメリカを訪問されて、ダレス国務長官と会談をされた際に、この安保条約の問題に触れて、そのときにあなたは、現在の安保条約がもう時勢に合わなくなっておる、締結されてから七年たって、当然情勢変化安保条約を今のままで置くことができないという立場から、この改訂という問題について三つの案を示されたように報道されております。すなわち、一つは新条約締結一つ現行条約の部分的な修正、いま一つは現条約を補足的に何らかの取りきめをやる、こういうような三つの案を出されたということが報道されておりますが、これに対してダレス長官がどういう意向を持っておられたかは別問題として、あなたが新条約締結ということを言われたのでは、今の岸総理考え方と違っておるのではないか。あなたは、現在の安保条約基本的精神となった日本の卑屈な隷属性を脱却したいという考えをもって、新条約と言われたのではないか。現在の安保条約改訂するということは、安保条約にまつわる日本の卑屈な従属性がそのまま継承せられる危険を感じられたから、新条約締結ということを言われたのではないかどうか、この点についてどういう考えでこの案をお出しになったか。
  8. 岸信介

    岸国務大臣 ちょっと誤解があるようですから……。私が安保条約を再検討して改訂するということを申し上げましたのは、現行安保条約をそのままにして、これの改正という形をとるということを申し上げたわけではないのです。私の申し上げたのは、これを全面的に検討して、そうして今ある害保条約内容を変えていくということでございまして日米の間の安全保障基礎は、われわれはその方法をとらなければならない。その改訂形式として、現行法の一部改正という形をとるということを前提として申し上げているわけじゃございません。今お話のように、これの改訂方法としては三つ方法があるが、どれをとるかということの問題につきましては、私どもまた別に考えを持っておるわけでありますから、その意味において御了承願いたい。
  9. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私と総理考え方において少しも食い違っておらぬのでありまして、ただいま総理の述べられました方針に従って、これらの問題を取り扱って参りますと、それがかりに交換公文その他で現行のものを補正していくか、あるいは現行条約そのものに手を入れていくか、あるいは手を入れるところが非常に多ければ、新しく書き直しをするかという点が、技術的にあるわけであります。私の申し上げたのはその点でございます。
  10. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると、総理外務大臣も、ともに現行安保条約にまつわるところの卑屈な従属性を払拭する。こういう精神に立ってあらためて再検討しよう。こういうわけですね。それならば当然現行安保条約から生まれた行政協定、その行政協定から生まれた刑事特別法、さらに日米防衛援助協定、それから生まれた秘密保護法、これら一連法律もしくは協定は、当然安保条約と同様に根本から再検討をされなければならないことになるのであります。これらの点についてはどうお考えですか。
  11. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん私はこの安保条約の、今申しましたような全面的の再検討によって、その立っておる基礎である従属性というように考えられることを根本的に改めて、自主性を明確にするという立場考えるわけでございます。従って、これに関連する一連協定やあるいは法律等におきましても、その結果として変更を要するものがあるかないか、また変更することが適当なものにつきましては、もちろん検討して考えるべきである。かように思っております。
  12. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 変更するものがあるやなしやということを検討すると言われるけれども、これらの今あげたような幾つかの法律並びに協定というものは、明らかに安保条約精神から生まれたものである。従ってその母法である——母法が悪ければ、母体ともいうべき安保条約そのものが、その全精神否定されて新しい精神に立って、新たに条約を作るという考え方においての再検討であるとするならば、当然これらの法律は、安保条約と同様に、もし安保条約というものがなければ、これらの法律なり協定なりというものは生まれてこなかったのですから、従ってその母体である安保条約が、その精神が根本的に否定されるとするならば、それから生まれたこれらの法律も、当然否定されなければならないと思うのですが、その点はどうですか。
  13. 岸信介

    岸国務大臣 今申しましたように、私は新たに作られる日米の間の条約によりまして、その条約に適当するようなあらゆる法制協定考えられるべきであると思います。今の行政協定は、御承知通り米軍の駐留を前提として、それから生ずる各種の問題を行政協定で定めておるわけです。この安保条約改訂されるということが、当然に行政協定そのものをなくするという前提には私ならぬと思います。しかし、いずれにしても全部を検討することは当然である。こう思っております。
  14. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 どういう協定をされるつもりか、それはまだおそらくわれわれに明らかにされないだろうと思います。まだ交渉も始まっておらぬし、交渉が始まっても、いわゆる外交交渉の過程において内容を明らかにするということは、政府としても困難でしょう。それはわかりますけれども、先月十八日のUP電報が伝えるところによると、相当内容が具体的に報道されております。これは、おそらく日本側考え方というよりも、アメリカ側考え方である。果せるかな、この安保条約改訂については、日本側よりも、むしろアメリカ側がその当時の情勢と今日の情勢との変化に応じて積極的に要望をしておるということが他の  一方においては伝えられておるのであります。そのUP電報の伝えるところによりますと、ほとんど現存の安保条約と何ら変りがない。中には、もっとはっきりと、安保条約以上に日本の屈辱的な表現がなされておるということについて、外務大臣一体、そういうものに触れるような話がダレス長官なりあるいは国防当局から話があったかないか、その点はどうですか。
  15. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私とダレス長官との話は、要約して申し上げますと、七年前に安保条約ができた当時と日本状態は違っておる。すべての点において違っておる。その点を申し述べると同時に、国会論議等を通じて日本国民願望であるような点について、私は申し述べたのでありまして、私は、それらの点についてダレス長官と直接折衝をし、あるいは交渉をしたわけではないのであります。これは今後の外交交渉に譲るわけでありますから、そういうことにおいて外交交渉をやろうという話し合いだけがきまったわけであります。
  16. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると、このUP電報なるものは、かなり具体的に報道されているですね。これについてどの程度まで触れられたかわからぬが、もしこういうものが来たるべき交渉基本的な立場になるとしますると、われわれは安保条約以上に排撃しなければならないと思うのであります。  具体的に一、二の点を取り上げてみまするならば、UP電報の報ずる内容の個条書きになっておる第四条を見ますると、どういう理屈がつけられようとも、軍事力による日本の内政に干渉することが明白に規定されておる。干渉とか容喙とか、そういう言葉こそ使われておりませんけれども、明らかに干渉意味する言葉が述べられておる。これは、現在の安保条約の第一条の規定より以上にはっきりしたものなのです。こういうものを一体交渉基礎にするお考えがあるのかないのか。さらに第五条を見ますると、これも条約の実体をなすところのものはすべて両国政府間の取りきめによる、すなわち、現在の安保条約にまつわる行政協定と同じものである。行政協定がすでにあの当時においても国会批准権の冒涜であるというて国会において論議を呼び起したことは、御承知通りであります。さらにそれと同じものが再び新しい条約において盛り込まれようとしておる。そういうことは一体日本国民として許されることであるかどうか。一体こういうことについて政府はそれは向う新聞報道であって、関知するところでないと言われるかもしれませんけれども、少くとも外務大臣が直接行って、具体的に一々こんな交渉内容にまで触れておられぬにしても、大まかなところは触れられておると思うのです。そうとするならば、そういうような意思表明、それと似通った意思表明向う当局者においてなされたかどうか。なされていなければなぜこのような具体的なものが報道されるであろうかということについて、外務大臣はどうお考えになりますか。話があったかないか。
  17. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私はグレス長官日本願望としてこの安全保障条約改正したいという気持を率直に申し述べたわけでありまして、ダレス長官もそれを了承されたわけであります。従って私は具体的な交渉は何もいたしておりませんし、ダレス長官内容等について一々の意見を言われておりません。これは今後行わるべき外交交渉において行われることになろうと思います。UP電報が報じてきておりますところは、私はアメリカ政府意向そのままだとは思いません。そういう電報がありましたので、ワシントン大使館を通じてアメリカ政府意向を確かめたのでありますが、アメリカ政府としてはまだ何らの意思表示もしていないし、何らの案も持っていないということを言っておりますので、その点を御了承願います。
  18. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 藤山外務大臣立場はよくわかります。わかりますが、しかし少くともこういうことが公けに世界に報道せられる以上は、どこかにその火元がなければならない。こういうような問題の火元はどうしたって民間から出るはずがない。従ってアメリカ当局から出たものとわれわれは想像せざるを得ないのであります。もしそうとするならば今後の交渉においてかりにこのような案が示されたとしたならば、そのとき日本政府はどういう態度をおとりになるのか。その点を今からはっきりしておいてもらいたいと思う。
  19. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私の交渉方針として、ただいま総理も言われましたように、日米安全保障条約を自主的な立場において、相互に話し合いをしていくという方針を堅持しながら参るわけでありまして、具体的な内容については一々申し上げかねるのであります。
  20. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 今から具体的な交渉のあらかじめの腹がまえをここで話してくれという無理を言うつもりはありません。けれどもすでに向う側のおそらくは意思であろうとして報道されておるものが公けになっておるとするならば、この公けになったものに対して日本政府態度を明らかにするということは、少しも外交交渉上の非礼となるわけではないと思うのです。当然なことだ。それならば向うの全面的な否定があったかというと否定もない。とすれば当然日本政府としてもそういうものに対してはどうするこうするということが表明されて、ちっとも外交上の礼を失うことにならぬと思う。それはどうですか。
  21. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 UP電報を批評いたしますことも私はこの際むしろ差し控えるのが適当だと思うのであります。ただ交渉方針として先ほど申し上げましたように、日本自主的立場を堅持しながら進んで参るのでありまして、同時に国民的な要望等も体していくということによって、精神を御了解願いたいと思います。
  22. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 私はこういうことは言いたくないのですけれども、先般来の新聞報道によると、自民党の内部においてはこの点について意見の統一がなされていない。むしろ反対の意見が相角逐しておるように報道されております。従って外務大臣としては非常に言いにくいであろうと、よくその気持はわかるのです。わかりますが、この現在の安保条約前文の中にもこういう言葉がありますね。「平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負う」言葉は実に巧みに書かれておりますが、これが今日の日本の軍備というものを非常に膨大にせしめてきた言葉だと思うのです。こういう言葉が今日あの七万五千の警察予備隊から膨大なものにしてしまっておる。この報道するところによれば、今後は一そうその点が明確に集団能力を維持し、かつ発展させる軍事力の増強を意味しておることが明確なんです。そういった事態はどこまでいったならばアメリカは満足するのか。現在でもわれわれは、現在の自衛隊というものはむしろ国の安全のために非常な脅威を与えておる、あなた方とは全く別な見方をしておるのです。これは見方の違いだから仕方がないが、そういう場合にさらにこれ以上その軍事力を増強するということがうたわれておる。そんなものを一体日本国民がおめおめと見て過ごすことができるかどうか、そういうことを全然予想しないで交渉に臨むことが一体あり得ることかどうか、この点についてどう思われますか。
  23. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 日本が侵略された場合に日本自身が守るということは当然であります。従って日本としては守るだけの力を備えなければならぬということもまた当然のことだと思います。それらの範囲、規模等につきましては、いずれ国防会議等が決定する問題だと思っております。
  24. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 防衛の問題についてはあとから総理所信をただすつもりでおりますから、ここでは触れませんけれども、今私が外務大臣に尋ねておるのはそんなことではない。安保条約の新しい精神に基く新しい形は、なるほど改訂という形がとられるかもしらぬけれども、実際は精神は全然別個なものなんです。別個な精神に基く両国間の条約を結ぼうという場合に、向う側がたとい新聞報道にしろあまりにも具体的に報道されておる。その中の特にいよいよ軍事力を増強しようということが明白に示されていることに対して、今後交渉に臨む態度としてどうするか、これなんです。
  25. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 日本の国防に関する問題は、日本自身がきめるという見解のもとに交渉するのであります。
  26. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それならばそういう工合にあなたがここではっきり言明された通り、今後の条約交渉にも臨まれるのですね。お臨みになるのですね。もしその結果が現われてきたのが違ったものだったらどうします。そのときはどういう責任を負われますか。それをはっきりしておきましょう。
  27. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私はあらゆる問題に対して外務大臣として責任をとりながら外交交渉をやっております。
  28. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 私どもは今のこの点に関する総理考え方外務大臣考え方については、これでは国民は満足しないと思います。依然としてあいまいもこ、今後の交渉に対して向う側がこれほど明確な表明をしておるのに対して——それは向う側といっても当事者ではないにしても、表明しておるのに対して、われわれの方は、今後政府はどういう考えを持っていくか、ただ単に自分の国を守るのには自分の力でやる、その一言と今まで新聞報道されておる自民党内部における意見とは非常に食い違っておるのですよ。(「食い違ってないよ」と呼ぶ者あり)非常に食い違っている。二、三日の新聞をごらんなさい。そのときに外務大臣がここで今言明された、自分の国の防衛は自分の国の力でやるということ、これははっきりあなたに責任を負うように私は言うておきますけれども、明確なる責任をおとりにならなければならぬと思う。条約はわれわれが希望するしないにかかわらずやがて生まれてくるでしょう。そのときに、その現われたものとあなたの今言われたことと違ったときの責任を、明確に記憶しておいてもらいたい。
  29. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 誤解があるといけませんから補足いたしておきますけれども、日本自身の防衛力については日本が自主的に決定するということを申し上げたいのでありまして、日本防衛そのものについては、現在の世界の情勢から見ましても一国だけでもってなかなかとれぬ。従ってこの種の集団安全保障条約が必要であるということは変らないわけであります。
  30. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 さらに進んで私は対中国関係について総理所信をお伺いしたいのであります。まず総理はいわゆる平和五原則というものに対してどういうお考えをお持ちになりますか。
  31. 岸信介

    岸国務大臣 私は平和五原則に盛られておるその考え方自身には別に反対はいたしておりません。
  32. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると平和五原則に盛られておる精神はそのままお認めになるわけですね。これをもしお認めになるとするならば、これは中華人民共和国の総理大臣周恩来がネール・インド首相との会談において公式に声明した中国の基本態度です。この基本態度を是認されるというならば、当然この精神の上に立っておる中華人民共和国を是認してよいではないか、なぜこれが認められないのですか。
  33. 岸信介

    岸国務大臣 中華人民共和国を認めるか忍めないかという問題は、御承知通りこれは日本の置かれておる国際的の関係、また中華人民共和国に対する国際的の諸種の関係というものの客観的の事情が調整せられない限り、これを直ちに認めるということはできないのが、私どもの従来一貫してとってきた方針でございまして、このいわゆる平和五原則に盛られておる精神に反対するとか賛成するとかいう問題と、具体的に中華人民共和国を承認するかどうかという問題の間には、今言っておる国際的の諸種の関係を頭に置かないとこれを決定するわけにいかぬ、こう考えております。
  34. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 岸総理が中華人民共和国、いわゆる中共に対して持っておられる考え方はもうしばしば聞いております。われわれも岸さんの考え方は知っております。しかし、国際情勢云々と言われるけれども、私は日本が中国との間に人種的な、文化的な、地理的な、経済的な非常に深い関係があるにもかかわらずこれを認めることができないという理由は、一つは台湾との関係だと思います。一つアメリカに対する関係だと思います。この点はどうですか。
  35. 岸信介

    岸国務大臣 第一の台湾との関係は、確かに日本は中華民国との間に日華条約を結んでおります。この関係というものをやはり国際信義としてわれわれとしては守っていき、これを貫いていくということは、現在の日本としてはどうしてもやらなければならぬことであると思います。第二のアメリカとの関係ということをお話しになりましたが、私はアメリカとの関係ではなくして国際連合を中心としての国際情勢と、かように考えております。
  36. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 中華民国との関係、条約を結んでおるから、信義の上からいってこれをどうすることもできない、こういうお話ですが、日本条約を結んだその当時の中華民国と現在の中華民国の置かれた地位とは非常に大きな相違があるのです。これは国際情勢変化というか、中国内部の変化であります。従って台湾と中国本土との地理的関係、歴史的、政治的な関係から見れば、これは明らかに中国国土の一部である。従ってただ国内における勢力が移動をしておる、純粋に国内関係であります。もし中華民国の現在の台湾政府が中国全体を支配しておるならば、あなたの今おっしゃったことは道理にかなうわけです。非常に勢力の消長があって、他の一方の勢力がほとんど中国の全土を支配するようになっておる、こういうときに、当然この勢力消長によって変ってきた主権というか、主導というか、支配力というか、それはどうでも言われましょうけれども、とにかく中国に対する支配力はもう完全に移動しておるわけなんです。この移動しておる現実を無視して、依然として、現在の情勢でなかった当時の中華民国の統治権、統治者というものを、そのまま是認されるということは、時の移りというものに対する考え方が全然無視されておると思うのですが、この点はどうお考えですか。
  37. 岸信介

    岸国務大臣 国際の情勢はいろいろな点において変化しておるのでありますから、ある一つ状態をつかまえて永久にそれを墨守するということは、これは適当でないことは言うを待たないのであります。現在の状況において、国民政府が中国全土に対して統治力を持っているということを言うことができないことは、これはもう現実がはっきり示しております。と同時に、中華人民共和国も、また現実に台湾を統治しておる、支配しておると見ることもこれはまた適当でないと思います。この関係はあるいは一面において中国の国内問題であると見る見方も私は成り立つと思います。と同時に、今日の国際情勢を見ると、とにかく中華民国というものが、国連におきましても代表権を持ってこれに参加しておりますし、また同時にこれが安保理事会の常任理事国の一つでもあるという、この国際的の関係を考えますと、中華民国政府立場は、ただ単に中国本土と台湾との関係として国内問題だ、こう割り切っただけでは済まない国際的の関係がございます。またこれを取り巻くところの各国のそれぞれの関係がございますから、こういうものがやはり調整されずして、直ちに国内問題だとして割り切って、中華人民共和国を承認しろということは、私は現実からまだ離れておる、こう言わざるを得ないというのが私の考えでございます。
  38. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると岸総理は、中国自体から見れば、確かに台湾の問題は一国内の内政上の問題である、ただ台湾政府が中国時代から引き続いて国連に加盟し、国際的な立場を持っておるから、その点から見ると、国際情勢に支配されざるを得ない。台湾というものを、現実の姿としては、一つは国内問題でなり、一つは国際問題であるという、二つの台湾というものを是認されることになるのですね。
  39. 岸信介

    岸国務大臣 私が今申しましたのは、現在置かれておる台湾と中国大陸との関係、また国際的の関係の現実を分析して私の考えを申し上げたわけであります。
  40. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 われわれは台湾というものについては、今申しますような関係から、もし外部の勢力が介入することがなければ、当然一国内の問題にすぎない、こう断定しても差しつかえないと思う。たとえばこの間のイランの革命において、革命前の政府と革命後の政府と、容易に政権の移動が行われておる。もし外部の勢力が介入することなければ、台湾の問題でも容易に一国内の問題として解決でき得るはずです。しかしそれは今ここで岸総理を責めても仕方がありませんけれども、要するにアメリカが——国際情勢というけれども、主たるものはアメリカだと思います。国際連合の関係からいってもアメリカだと思いますが、そのアメリカは、中華人民共和国すなわち中共を侵略国として規定しておるわけですね。どういう事実をあげてそう言うのか知りませんけれども、ともかくアメリカはそう見ておる。もしこのアメリカ態度を是認されるとするならば、アメリカの中共に対する見方をも是認されるのかどうか、その点を承わりたいと思います。
  41. 岸信介

    岸国務大臣 加藤委員も御承知通り、この中共を侵略国という規定をいたしましたのは、国連において朝鮮問題を起したときに決定をされておるのであります。それ以来その決議はなお今日も国連の決議として存続されておるというのが現状でございます。当時は日本はまだ国連に加盟はしておらなかった時代でありますが、そういう状態であり、それは一面において、国連においてそういうことが決定をされるということは、世界のこれに加盟しておる多数の国がそれをそういうふうに認めておるという現状が、まだ調整されておらないというのが現在の国際情勢であります。
  42. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 アメリカは中華人民共和国を侵略国として国連において実際はアメリカの力でそういう規定をさせた、そういう歴史的な事実はわれわれもよく知っております。しかし具体的には中華人民共和国は、国として朝鮮に侵入したのではない、いわゆる義勇軍の形で北の朝鮮を援助する目的で入っておる。そのことはかってのスペインの場合にも言えるのです。スペインのフランコ将軍が政権をとったときにも、世界各国からことごとく義勇軍を両方へ送っておる。けれども、だれもそれを侵略とは規定しなかった。同じ形ではないか。なぜ中華人民共和国の場合だけが、侵略国として規定されなければならぬのか。それは明らかに今日の国際情勢下におけるアメリカ立場を有利にするために、アメリカの力で規制されたものにすぎないとしか考えられない。現にアメリカは、このフランコ政権に対して、長いことこれを認めなかった。けれどもやがて必要が——国際情勢変化なり、あるいは自分の国の情勢変化なりによって認めざるを得ないことになった。また御承知のようにソビエトに対してアメリカは一九一七年の革命が起って以来、一九三五年まで十八年間これを認めなかった。認めないばかりか、逆にあらゆる手を通じて革命政府を撹乱し、あるいはあわよくば倒壊せしめようという積極的な努力さえしておる。しかしそれも結局は時間の経過によってソビエトを承認せざるを得なくなって、ソビエトを承認しておる。中共に対してもやがておそらくは、私は必ずもう時間の問題であると思うが、国際情勢変化によって、アメリカがこれを認めざるを得ないことになった場合、日本はそのときは国際情勢変化と称して、アメリカ態度に追随するのか。アメリカ態度を変更しない限りは、日本はやはりアメリカに追随して、依然として今のような態度をとっておいでになるかどうか。
  43. 岸信介

    岸国務大臣 この中国大陸と日本との関係は、古い歴史的の関係もあり、あるいは文化の面から、経済の面から、また地理的の関係から、幾多の面において深い関係のあること、従って今日のような状態であることは望ましくないことは日本国民がひとしく考えておると思います。それを解決していく上におきましてはどういう方法が適当であるかという問題を、われわれは現実の問題として考えなければならぬ。今日の状況においてわれわれは政治的な承認をすることは適当でない、しかし他の面においていろいろと両方の間で友好関係を進めていく、あるいは貿易の面、あるいは文化の面、その他の点におきましても積み重ねていくべきものである、そういう方針で貫いてきているのがわれわれの根本の考え方であります。永久に今の状態であることが決して望ましい形ではないという考えの上に立ってすべてのことが考えられているのであります。しかし承認をするとか、政治関係を作る上においては、先ほど来いろいろと論議がかわされているような国際情勢の調整ということが必要でありまして、その国際情勢の調整にはあらゆる面において国際情勢の動きを見ながら努力していくというのが私どもの考え方であります。  私はただ単にアメリカに追随して中華人民共和国を認めないとか、あるいは認めるとかいうことをきめるわけではなくして、あくまでも日本自主的立場からものを考えていかなければならぬ、しかし自主的に考えるということは、決して国際情勢の現実を無視して、ただ理想論やあるいは現実を離れたところの結論をするということではないと思います。
  44. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 中華人民共和国に対しては、アメリカと、最も親しいと思われておるイギリスは、これを政治的に承認しておるのです。そうすると、イギリスはどういう関係で承認したか、それはもちろん心持はわかりませんが、少くとも現われた形においては、近くに香港の関係がある、さらに経済上の関係がある。そういう政治的な香港との関係、経済的な貿易関係等、自国の自主性において中国を承認しておる。承認しておることが直ちにイギリスの利益になっているかなっていないか、われわれは知りませんよ。知らないけれども、ともかく自国の利益のために承認している。今あなたのおっしゃるように、日本と中共との関係と、アメリカと中共との関係とははるかに違った利害関係の深いものを持っておる。従って当然、国際情勢がまだあなたの考えではそこまで機が熟さぬと言われているのであるが、しかしながらそういう機運をみずから醸成するために、一体それならばあなたはどういう努力を現実にしておられるのか。ただ成り行きを静かに見守っているだけでは、私は積極的努力にはならないと思うのです。どのようなことをやっていらっしゃるのか。
  45. 岸信介

    岸国務大臣 従来、今私が申し上げげましたように、われわれはこの隣邦に対して政治的な形態、考え方は違えておっても、両方の友好親善関係を進める意味において、各方面の努力を積み重ねてきて参っておるのであります。その努力を続けるつもりであったさなかに、現在のこの異常な悪い状態が起ってきているのでありまして、これが打開について、私どもは今日の状態においては静観が最も適当である。しかしそれは、今言っておるほんとうにこの両国の間の親善関係を作り上げることのために、その方法が一番適当であるという意味において、静観ということを申しておるわけであります。一面においては何といっても中国大陸と日本との関係をそういうふうに改善していくと同時に、今申しますように国際的の情勢とにらみ合せて、国際連合その他における日本の活動を通じて国際情勢の調整をしていく、これが根本的な方針であります。
  46. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 遺憾ながら岸総理の御返事は自己矛盾をしておると思うのです。さきには積極的な努力をして認整をする、こうおっしゃった。今は静観することがその調整の一つ方法であると言われる。静観は文字通りじっとしておることですね。黙って見ておること、努力は行動ですね。行動と手をこまねいて沈黙しておることと、これは一体どういう関係になりますか。(笑声)
  47. 岸信介

    岸国務大臣 東洋の思想には静中動ありという言葉がございます。(笑声)私はこれが今日において最も適当な態度であると思います。(拍手)
  48. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 岸総理は静中動ありということを言われた、これは具体的なものですか、抽象的なものですか。言うまでもなくこれは抽象的なんですね。あなたは常に現実があるということをずっと終始一貫して述べておられる、その逃げ口上として静中動ありというような抽象論で逃げようとされておる。それではごまかしということになってしまう。そうではなく、私の尋ねたのは、具体的に国家間の調整あるいは国際間の調整をするためにどういう努力をやっておられるか。たとえばこの間の国連の総会において中共問題が論議されたときに、日本の代表は残念なことにはアメリカと行をともにして否認の立場に立っておられる。これはむしろ積極的な調整への努力ではなくして、破壊への努力である。これはどうなんですか。そういう具体的な行動についてのあなたの所信なり、実際にやっておることを聞かしてもらわなければ、抽象論で逃げられることはいかぬと思います。
  49. 岸信介

    岸国務大臣 私はこの中共との間の問題の打開につきまして、具体的に何をするとか、どういう方法考えてこれをやるのだというふうなことを申すことすら、決して私は日中の間の問題を打開するのには適当でないと思う。私はあくまでも政府としては静観という態度をとって、あらゆる面におきまして——何もこれは無為ではございません。決して抽象的にだけ静中動ということを言っておるわけではございません。しかしそれを具体的にこういう席でもって政府はこういうことをやっているのだ、こういうことをやるのだということを言うことが、今の日中の関係の現実をよくごらんになりますと、それが両国のために有利に打開するような方法には私はいかないと思います。  今日中共側から提示されたという佐多君の報告を見ましても、もしもそういう考え方を中国が堅持しておるというならば、これはおそらく国として今何かするということは適当でないということを、あの報告におきましてもわれわれは、感じざるを得ないのであります。従いましてそういう意味において私は静観ということを申しておるわけでありまして、これは全然無為ということではございません、ということを申し上げておきます。
  50. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それでは問題を具体的にしましょう。第四次貿易協定が結ばれて、これには言うまでもなく自民党の池田正之輔君が団長で調印してきておる。この問題が行き詰まった。この行き詰まりを打開するのは、ひとり政党としての代表を団長として送っておる自民党の責任であるというよりも、私は自民党の耀礎の上に立っておる岸内閣の当然の責任でなければならぬと思う。これをただじっとして見ておることは、やがて形勢がよくなっていくであろうというような考え方では、具体的に一つも努力したことにならない。また私がここであなたに質問するのに、向う側の態度がどうある、こうあるということを尋ねておるのではないのです。佐多報告はごらんの通り中共側は現在こういう考えを持っておるということを明らかにされたにすぎないのである。この中共の考え方が知れたということは、しからばどういう努力をすればどの項はどういうように氷解していくかということがなされるわけなんだ。ただじっと見ておる、向うがそういう態度であるから見ておる以外に道がないということでは、ちっともこの問題を氷解していくことにならないと思う。困難だ、壁にぶつかる、そのぶつかる壁を突き破っていくような積極的な努力がなされなければならぬはずである。そういうことを一つもやらないで、じっと静観しておるというだけでは、問題はちっとも解決せぬと思いますが、それはどうですか。
  51. 岸信介

    岸国務大臣 今日中共側がいろいろな行動を通じて、岸内閣が敵意を持っておるとか、あるいは国際的に二つの中国の片方の陰謀に加担しているとかいうふうな、きわめて事実に反しておることを強くあげてわれわれを非難しております。こういう状況は何らかの誤解がある、あるいは特別の意図が蔵せられておるということを考えざるを得ないと思うのであります。そういう態度をわれわれはとっておらぬのであります。従ってそういう問題を解く、またこれに対してお互いが反省して、そういうことを一掃して、両国の将来の長い友好親善が信頼と理解の上に築かれていかなければならぬ、こういうことをお互いが十分に考えることがある時期においては必要であります。こういう考えに私は根本的には立っておるのであります。これは両国をして真に長い意味において、この両国民の特別の関係を考えてみますると、こういう状態にあるということは実に遺憾であります。将来はそういう友好親善というような関係を築かなければならぬ。しかるに今言ったような形において非難——私はもしも将来お互いが友好親善をしなければならないという二つの国の間の政府としてあるいは実力者として立っておる人が、相手側に対してこういう激しい言葉で非難するということは、ほんとうに友好親善をしていこうという上から申しますと、私は望ましい姿ではないと思う。これを十分に一つ冷静に考えてもらいたいというのが私の今日の考えであります。またわれわれとして反省をし、改めなければならぬものがあるならば、これも反省をし、改めていくということにして、そうして両国と両国民のために友好親善の関係を作り上げていこうという誠意と両方の理解、信頼を作り上げ、それを基礎に初めて問題が解決される、こういうふうに思っております。
  52. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 岸さんは中共のあの態度はあられもない誤解である、こういう御意見でありましたが、われわれも願わくばそれは誤解であってほしい。しかしそういう誤解がなぜどこから生まれたかということを突き詰めなければならぬと思います。国際間の親善は言葉ではなくしてやはり具体的な事実によって立証されなければならない。私をして言わしむるならば、中共側があなたに対してあのような誤解——もし誤解とすれば、なぜ誤解を抱いたかというならば、われわれが毎日の新聞を見ておってもよくわかることであります。それは民間の有志と称する者が、あしたにあなたの門をたたき、タベに台湾をたずね、そしてまた再びあなたをたずねておるということも、決してそういう使命を持った者じゃないとは思われるけれども、そういう使命を持った者であるかのごごとき印象を世界に与えておる。こういうことが中共をして誤解なら誤解を生ましめることになっておるのであるから、そういう点は排除して、そういう誤解の原因を取り除くということが、私は静観でなくして両国間における積極的な努力であると思う。そういうことが知らぬこととして見過ごされてしまって、ただ誤解であるからその誤解の上に立つようなことは親善を増すゆえんではないということを言われたところで、それは誤解を生むような理由があるから誤解を生むのであって、その誤解を生む原因をなくするということが私は必要だと思うのですが、そういう点について総理はお気づきになっておるのかおらぬのか、その点をお聞きしたい。
  53. 岸信介

    岸国務大臣 中華民国との関係は、先ほども申しましたように、日本と中華民国との間には正式な条約が結ばれており、友好親善の関係が樹立されております。私は、これはあの不幸なる日支事変以来のことをわれわれがずっと歴史的に見まして、これに対してとにかくこれを忠実に履行するということは、日本の国際的信義の上からいって当然やらなければならないことだと思います。この意味における日本立場というものは、私は中共側におきましても一つ十分理解してもらわなければならぬと思います。これは東洋の道徳からいっても、そういう信義を国際的に守るということは当然であると私は思っております。そのことを、一々われわれが陰謀を持っておるのだというように言われるのは、これはちょっと私は当を得ないと思います。
  54. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そういう点については、結局一つ立場の相違、ものの見方の相違ということで、いつまでたってもなかなか両者の意見は一致することがないと思いますが、ただこういうことなんです。なるほど、日本政府としては中華民国との間に条約が結ばれておるから、東京にもその代表としての大使が駐在しておる。そういう公けの機関を通しての話ならば、それは中華人民共和国の方もこの事実を認めるだろうと思うのです、公けの交渉であるならば。しかしそうでなく、いわゆる有志と称する者があしたにあなたの門をたたき、タベに台湾を訪れる、そしてそれがまたあなたの方に報告されるということから、何かしら岸総理という者は陰謀をたくらんでおるのではないか。こういうような、少くとも岸自身が陰謀をしていないのであっても、何かたくらもうという者が岸を利用しておるのではないか、岸は利用されておるのではないか、こういうように見られるおそれがないとは言われないと思うのであります。この点を岸さん自身も十分に、そういう自己の周辺についても誤解を一掃するような反省をしてもらわなければいかぬと思います。
  55. 岸信介

    岸国務大臣 どういう事実で今の加藤委員のお話でありますか知りませんが、日本と中華民国との間の親善関係が、先ほど申しますように、国と国との間、政府政府との間に結ばれておりまして、それに基いて、民間の諸団体の間におきましても、両方の間の親善友好を進めていこうといういろいろな委員会なりあるいは会合なり、あるいは使節が行き来するということは、御承知通り非常にたくさんあるのであります。その人々の中に私の知り合いもたくさんありますし、また私はそれらの人々から台湾をたずねた場合にいろいろな報告も聞いていることは実際ございます。しかしそれは、今申しますように、日本政府が中華民国政府との間に公式の関係があり、民間においてもそういう親善なりあるいは貿易その他の関係におけるいろいろな交流が行われておるということの前提を認めるならば、その人々が時の総理大臣との間にいろいろな話をするということは、これまた当然のことである。これがしいて不信であり、これが私が何かの陰謀に参画しているのだ、こういうふうに論断することは、私は冷静な判断に立っておるものとは言いがたいじゃないか、このように思っております。もちろん私は今加藤委員の御指摘になっているように、特に中薙民国との関係に関して、人民共和国の方に誤解を生ぜしむるような行動については慎重に考えるべきことは当然であります。しかし今までの関係を、何をおあげになっているか知りませんけれども、今までの関係というものは、そういう状態にある、それは当然のことである、こういうふうに考えております。
  56. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 これも幾ら議論しても、意見を戦わしても結局同じようなことが繰り返されると思いますが、そうすると、結論的に言えば、いわゆる中共に対しては、現在のところは現在以上に何ら積極的に行動を起して打開の方法を講ずるという意思はお持ちになっていない、こう見ていいのですか、この点だけはっきりしておいてもらいたい。
  57. 岸信介

    岸国務大臣 積極的とお話しになります言葉の問題でございますが、私は全然何もしないという意味において静観をしているということではないということを先ほどから申し上げておりますので御了承いただきたいと思います。
  58. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 一向わからない同じことが繰り返されてきておるだけですが、ただわれわれはさっき岸総理も言われたように、日本と中国との関係を見る場合に、現状のような状態にあるということは非常に遺憾なことである。一日も早くこの状態は打開されなければならない、こういう打開をするためには、政府機関が公然と動く場合もあろうし、また民間の有志によって動かされる場合もあるであろうが、ともかくも何らかの方法が講じられて、この行き詰まった状態が打開される一つの道が講じられなければならぬと思うが、それについては今お話のようなことではわれわれは満足はできないのですけれども、もうこれ以上問うても仕方がないから、そこで、一つ藤山外相にお尋ねをするのですが、藤山さんは、アメリカで英国のロイド外務大臣とお話しになったときに、当時——今でもですが問題になっておる金門、馬祖の両島の問題について重要な発言をなされておるように新聞報道しておるわけであります。これは一体どういう話し合いであるか、ここの新聞報道されておるような事実があったかなかったか、この点を明らかにしていただきたい。
  59. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 台湾海峡の問題は、日本外交につきましても非常に重要な問題でありますことはもちろんであります。従いまして私といたしましては、関係国はむろんのこと、各国のそれらについての意見を聞きますことも、これまた外交担当者として必要だと思います。従いまして国連総会に出席しておりましたときに、当時四十数ヵ国の外務大臣がニューヨークに集まっておりましたので、各国の代表とそれぞれ話をいたしたわけであります。また意見も聞いたわけであります。それにロイド外務大臣と会いましたことは、イギリスが過去において東洋に持っておりますいろいろな関係から申しましても有力な国だと思いまして、その意見を聞いたのであります。これは全く私的な会談でありまして、私どもの参考にするいろいろな角度から話し合いをいたしたのでありまして、それは何も結論をつけるとかあるいは私とロイドとが同意見であるとかないとかいうような問題として、話したわけではないのであります。従いまして、その私的の会談の内容については、私は申し上げかねると思います。
  60. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それでは、あなたは後に新聞記者にお話しになったときに、金門、馬祖の両島は中国側に帰属するのが妥当だろう、こういうようなことを言われたのですが、それは言わなかったのですか。
  61. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私はそういうことを申しません。
  62. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると、この新聞はあなたの気持をそんたくして書いたということになると思うのですが、現在はこれが一番中心なんです。岸さんが今言われた中共との関係の積極的な打開のために静観しておる。その静観は無為ではない。無為でなくして有為とすれば、この金門、馬祖の問題のごときは誤解を表明し、あるいは困難を打開する好個な一つの道だと思うのです。あなたのほんとうの気持を明らかにされて、あるいは自民党の中できらわれるかもしれないけれども、とにかくあなた個人の意見というものがはっきり打ち出されるならば、私は相当困難を打開することになると思うのですが、あなた、そういう気持があるでしょう。あるからそういう片りんが新聞記者にそんたくされるわけなんです。全然反対のものならば、そういう気持がそんたくされて記事となって表われるわけはないと思うのですが、一体現在どう思っておられますか。
  63. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私は現在新聞紙等で報道されておるような考え方を持っておりません。
  64. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それならばどういう考え方を持っておられるか、その点をはっきりしてもらいたい。
  65. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 この問題につきましては、外務大臣の現職にあります以上、私は何ら現在申しあげることができないのであります。
  66. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 外務大臣は個人藤山愛一郎としての外務大臣じゃないはずです。なるほど形式的には、岸総理が任命した一外務大臣にすぎぬけれども、しかし国務大臣という立場国民を代表しておる。従って国民国会において具体的なきまってきた問題、動きつつある問題に対して外務大臣がどういう考え方を持っておるということは、ぜひとも国民は知らなければならぬのです。ただそういう考えを持っていないとか、言えないとかいうことでは私は済まされぬと思いますが、この点どうかはっきりしていただきたい。
  67. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私は先ほど申し上げましたように、現在金門、馬祖の問題について新聞紙上で伝わっておりますような考え方を持っておりません。
  68. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それは何べん言っても同じことが繰り返されるかと思いますけれども、その点は他国の領土であろうと、今言うておる国際問題としてあなた方言うておられるならば、国際問題としての観点からこれらの問題について——しかも非常に利害関係が深いわけだし、この動きによっては日本の国も当然影響を受けるところ少くないのです。そういうような重大な利害関係が間接にある国際問題に対して発言することは何が間違っておるか。もしこれを純粋に中国内部の問題であるとするならば、われわれはそれは時によれば批判を慎しまなければならぬ場合もある。だけれども、岸内閣としてはこれを二つの面から見ておられる。そういう点からいって……(「表明すべきじゃない」と呼ぶ者あり)私は表明すべき段階であるとかないとかいう問題でなくして、いかにあなたがそれらの点について見ておられるか、ものの見方をはっきりさせなければ、私は国民に対して相済まぬと思う。
  69. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ただいま加藤委員の御指摘のありましたように、非常に重要な問題でありますだけに、私は発言を差し控えます。
  70. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 これも仕方がないからこれ以上聞きますまい。藤山外相を苦しめるだけで、あまり個人的に苦しめても悪いと思うし、いつか明らかにされるときがあるだろうと思うから、それはこの程度で控えておきます。  次に対ソ平和条約締結への問題ですが、これは一昨年の三月に中断され、その後両者の話し合いによって再開をするということがきめられたままで今日に至っておるわけですが、その途中において漁業交渉等で河野一郎君や赤城君が向うに行って、当面の問題は処理されたけれども、平和条約への問題は行き詰まったままでうっちゃられておるわけです。これに対して今後、向う立場向う考え方はわかった、一番困難な点は領土の点と海峡航行の問題にある、とすれば、この困難な問題が起ったからもうこれはやってもだめだから投げて、時の成り行きを待てという態度であるのか、それとも何らか積極的に進んでこの困難を打開するという努力をして、一日も早く平和条約締結する方向へ持っていこうというお考えであるかどうか、その点総理からはっきり聞きたいのです。
  71. 岸信介

    岸国務大臣 ソ連との関係において平和条約締結するということは、国交が正常化され、あの共同宣言が発せられましてから引き続いてわれわれの常に念願しておるところであります。その困難な点は、言うまでもなく領土問題の点にあると思います。そうしてこの点に関するソ連の考え日本考えとが全然一致しないということであります。私は、この問題に関しては日本国民のほとんど全部がやはり国後、択捉は日本の領土であるという国民的信念にゆるぎないと思っております。また私自身もその考えのもとにソ連をしてそれを認めしなければ、この問題は解決しないというのが現状でございます。しこうしてこれをやるのには、私はソ連が十分に——これは単に保守党一部の考えであるとかあるいは岸内閣だけの考えではなくして、日本国民の強い考えであるということを十分に理解し、日本とほんとうに親善友好の関係を結ぶには、この国民願望をいれるということ以外には道がないということをソ連をして理解せしめなければいかぬ。共同宣言によって国交は回復されたけれども、まだそこについての十分な理解と信頼ができておらない。それにはあるいは貿易を通じ、文化交流を盛んにし、その他のあらゆるものを積み重ねていって、漁業問題その他において友好的な雰囲気を作り、またソ連側においてこの日本国民的の強い要望に対して十分の理解を持ち、これに沿うようにソ連側の態度を改めてもらう、こういうことが必要であると思います。そういう意味において、共同宣言を出しまして以来私どもはあらゆる面において積み電ねてきておりますし、またあらゆる場合におきましてソ連側の意向、また日本国民の強い願望というものを向う側にも通じてきておりますが、まだ今日のところにおきましては、ソ連側においてのこの領土問題に対する考えは、あのロンドン会議あるいはモスクワ会談のときと動きがないという状況が現在の状況でございまして、こういう状況のもとにおいてはまだ平和条約交渉してもできない、こういうふうに思っております。
  72. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 われわれも困難な点が領土の問題と海峡航行の問題にあることは今申しました通りですが、問題は領土の帰属の法律的な解釈というような考え方でなく、政治的に現在日ソ間の平和条約締結の道がふさがれておるということは、あなたの好んで用いられる国際情勢というものが多分に影響しておるということをお考えになりませんかどうか。
  73. 岸信介

    岸国務大臣 この問題は、領土問題についての考えは、私は国後、択捉という両島については、開闢以来、日本の領土として、かつて他国の領土になったこともございませんし、千島と樺太との交換条約のときにおきましても、すでにソ連側が、国後、択捉が日本領であるということは、明らかに認めておることなのでありまして、こういう問題は、できるだけ日ソの間において話をつけるべき問題であると私は思います。平和条約において放棄したところの地域の帰属の問題とかいうようなものについては、これは平和条約との関係において、国際的な関係が非常にあると思います。しかし日本としては、この国後、択捉の問題については、私は今申しましたような立場でもって、ソ連をして、日本国民の強い願望を理解せしめるということが必要であり、またそれが道である。ただ一般的に、こういう問題が、いわゆる国際情勢、すなわち米ソを中心としての対立、世界の東西両陣営の対立、この緊張のことに関連を持つことは、私はこれは当然あると思います。しかし今申しましたような意味において、私はこの二島については、日ソの間において、歴史的な、また実際的な、また日本国民考えておる、またソ連がほんとうに日本との友好関係を進めていくという立場に立てば、ソ連の立場から、日本願望しておることが当然だということを、ソ連の方に理解してもらうということを、日本政府としては努めておる。また日本としては努めていくのが、一番この際の適当な道である、かように思っております。
  74. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 あなたの考え方気持はよくわかります。けれども、現実の問題は、サンフランシスコ条約で放棄したとかしないとかいう、そういう法律的な解釈論は別にしまして、今日の国際情勢が多分に障害しておるということは、今あなたもお認めになった通りなんです。この国際情勢の打開の道も、日ソ間の平和条約締結する一つの道だと思う。これがたとえば、対中共の問題にしても、対アメリカの問題にしても、その他国際連合における日本の動きについて、そういうことと私は非常な関連を持っておると思うのです。そういう点を全然——あなたも影響があると見ながら、それらの点を差しおいて、ただ日ソ間の、日本立場をソビエトにおいて了解して、承諾してもらいたいというだけでは、私は話は進まないと思う。決してもう日本の今日の立場が、また日本要望が、ソビエトの方にわかっていないはずはない。わかっておると思うのです。わかっておるにもかかわらず、それが話が進まないということは、国際間の情勢に影響されておると思うのです。従って、そういう国際間の情勢一つ一つ解きほぐしていくということが、日ソ間の文化の交流であるとか、あるいは経済交流という努力と同様に必要である。その方が全然なされていないということでは、私はなかなか話は進まぬと思うが、そういう点についての、国際情勢の影響しておる点の打開について、どういうような積極的な行動をとられようとするのか。その点をはっきりしておいてもらいたい。
  75. 岸信介

    岸国務大臣 私は国際間の関係としては、今申すように、東西両陣営のこの対立しておる緊張を緩和するということが一番大きな問題だろうと思う。私どもが核実験の禁止や、あるいは軍縮の問題、その他この両陣営対立の緊張を緩和する努力を国連を通じていろいろとやっておることは御承知通りであります。根本的に考えて、この対立が緩和されない限りにおいては、今大きな意味における国際情勢というものは展開しないわけであります。これは今言ったような国連を通じて努力していきたい、かように思っております。
  76. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 きょうの新聞を見ますと、フェドレンコ駐日ソ連大使は、平和条約締結への積極的な熱意を持って行動をされるように、日本政府にも会談を申し込まれるということが報道されておりましたが、もしフェドレンコ大使からそういう会談の申し出があったときには、受けてお立ちになる考えですか。
  77. 岸信介

    岸国務大臣 もちろん、私はさっき申しましたように、平和条約が結ばれる、それは領土問題が解決するということであります。これに対してソ連が誠意を持って提案をすれば、もちろん、われわれも誠意を持ってこれに応ずる考えであります。
  78. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると、岸総理は、ソビエト側が領土、その他困難な問題に対して、日本立場を理解して会談の申し込みをしなければ受けないというのですか。それは非常に私は、それこそ外交非礼だと思うのですが、どうです。
  79. 岸信介

    岸国務大臣 私は今申すように、この問題はロンドン会談、あるいはモスクワ会談で非常にわれわれが努力をし、また、日ソの間の意見がどうしても一致しなかった問題でございます。従って、この問題が解決されない限り、平和条約というものは締結されないのである。私どもはこの領土問題に関しては従来の日本の主張を緩和するといいますか、後退せしめるといいますか、そういう意思を持っておらないのであります。またそれは決して日本国民が後退するような考えを持たないと思います。これに対して何らかの、ソ連側において日本考えをいれる態度を示さなければ、ただ平和条約交渉してみても、今までもすでに数回われわれはこの問題をやっておるわけでありますから、意味をなさない結果に終ることがきわめて明瞭でありまして、むしろそういうことでさらに意見が非常にかけ隔たりがあるということを明らかにして、むしろ両国の国民の感情を刺激するよりは、あらゆる面において友好親善を深めるような措置を積み重ねていく方が問題解決の道である。従いまして何らかこの点において従来の主張の相違を打開するような道が開けるという曙光が認められれば、これはもちろん交渉に入っていくことが適当だと思いますが、それでない限りにおいてはむしろせっかく友好関係を進めてきた何であるにかかわらず、またその問題について両国の間に非常に国民的感情を悪くすることは、せっかく築き上げつつある日ソの友好関係のためには望ましい結果にならない、かように思っておるわけでありますから、今領土問題について日本側の主張に対して理解ある一つ態度を示されるならば、これに応じていくといったのでありまして、決して非礼という意味ではございません。
  80. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 先にも申しましたように会談が中断して二年半たっておる。二年半の間に国際情勢も非常に大きな変化をしておる、正式な会談はなるほど打ち切られるまでの間に二十数回催されておるということもわれわれは知っております。困難な問題でぶつかってしまったということもよく知っております。それにもかかわらず何とかして正規の平和条約締結しなければならぬということも、また国民の一致した要望であると思う。従って、中断されて二年有半の国際間の情勢変化等をも勘案して、そして果してどういう考え方を持っておるか、考えが違えば、やはりまた話が打ち切られてもやむを得ぬと思うのですけれども、とにかく、もし向うから平和条約締結について会談をしたいという申し出があったときに、これを受けて立たぬということは、礼を失するのではないか、こう思うのです。初めからもう内容を、これだけの点はおれの方で譲り、この点は向うの方で譲れということだったら、会談の必要がなくなってしまう。そういうことを話し合うことがすなわち会談ではないか、どうでしょう。
  81. 岸信介

    岸国務大臣 今加藤委員のお話のような意味の会談は、私はちっとも差しつかえないことであって、各国の大公使の代表が外務省をたずねられ、そういう話をされるということは、ちっとも差しつかえないことでありまして、意見の交換は適当であります。しかし今私の申し上げておるのは、正式の平和条約会談として両国の間の交渉をかりに始めるということであるならば、正式の交渉については成功の一つの見通しを持たなければ、かえってせっかく積み上げてきているところの友好関係には、むしろ逆の効果になるからであります。しかし今お話のような意味の会談ということは、これはもちろん来られれば、十分受けて話をするということは当然のことであります。
  82. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 話は話をしてみなければわからないので、当然それは申し出があった場合ならば、受けて立って話に応ずる、その上でもし話がどうしても困難ならば、その困難は理由を明らかにして、また両方で考え直すということもあり得ると思う。同時にそれは決して両国間の対立を深めるゆえんでも何でもないと思うから、今岸さんもそう言われたように、そういう場合には快く応じて受けて立って、そして話を進めていくという態度をとられんことを望んでおきます。  次には経済外交という点について一、二、これは大蔵大臣もしくは外務大臣にお尋ねしたいのですが、日本経済外交基本がどこに置かれておるか。経済外交とはいうものの、もちろん貿易の伸展もあるのであろうし、政治的な意味を含んだ皆款等もあるのであろうし、いろいろあると思いますが、あまりに対米依存度が強いということは知れ渡ったことであるから、私はこれは省きます。省きますが、問題は中近東並びに東南アジアに対する日本態度、今晩立って佐藤さんはIMF、いわゆる国際通貨基金の会議にお出になるわけでありますが、そこでどういう話になるか、それは知りませんけれども、こういう問題に対して日本政府は今日までどれぐらいの具体的に、いわゆる未開発地の開発のために資金を投じておられるのか。それから聞くところによれば、今度藤山さんが行って、アメリカから基金を出して、その基金を日本をトンネルとして東南アジアの開発に投じられるという話が進んだ。ところが、これは、アメリカ側からの報道によれば、断わられておる。こういうことが報道されておりますが、現在の状態はどういう状態になっておりますか、その点まず明らかにしてもらいたい。
  83. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 先般アメリカにおきまして、東南アジアの開発に対する問題について話しました概要は、東南アジアが現在財政的にも非常に貧困になりつつありまして、政治的独立の裏づけとして、どうしても経済建設が必要だ、それには資金面あるいは技術面等でもっと活発に、先進国と申しますか、力のある国がこれらを援助しなければならない。その立場に立ちまして二国間の援助ということもむろん考えられますが、しかし、同時に岸構想に現われましたような、地域的な集団に対する援助というものも考えられなければならぬのではないか。しかも、アメリカの今日までの考え方というものは、どちらかといいますと、そういうバイラテラルの問題に対しては熱意を持っておりますけれども、マルティラテラルの多角的な問題については熱意を持っておらないようであります。最近ラテン・アメリカに対して、あるいは中近東に対しまして、先般の緊急総会におけるようなアイゼンハワー大統領の声明等もありまして、そういう地域的な集団的な機構に対する援助というように方針も若干変っておるように見受けられますので、それらの点についてアメリカ側意向を十分に確かめたわけでありますが、お話のように、中近東方面の関係国のイニシアチブによるそれらの問題については援助をする、従いまして同時に東南アジア方面においても、そういうような考え方でそれぞれの国が集まるならば、必ずしもバイラテラルの援助だけに執着はしない。方針としてはそういうふうに変りつつあるということの意見を聞いて参りました。
  84. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 時間があまりたくさんなくなってしまったから、簡単に端折りますが、日本の東南アジアに対する態度は、そういうことはあってはならぬと思いまするし、またないであろうと思うが、かつての大東亜共栄圏思想のような、日本の優秀性を押しつけるような形になる、そういうことがあっては絶対にならぬと私は思いますが、アメリカの基金を日本というトンネルを通して投資あるいは融資する場合に、ややもすれば、日本アメリカの手先になって、経済的な侵略を企図するのではないか、こういうような考え方をもし現地において持たれるとするならば、これは日本にとっても非常な不幸なことなんですから、そういうことはないとは思うが、一体、全然そういう考え方が現地にないかどうか。私どもの聞いておるところによれば、部分的ではあるかしらぬが、そういうような日本に対する一個の猜疑心というものがまだ抜け切っていないということが伝えられておるわけですけれども、現実にはどうなんですか。
  85. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 東南アジアに対する経済協力が、かつての大東亜共栄圏のような考え方で、日本が何か非常な優秀な、あるいは力の立場でもってこれに協力するという関係があってはならぬことは、お説の通りでありまして、私どもも東南アジアの経済あるいは中近東の経済に協力して参ります立場において、そういう御指摘のような精神でなしに、ほんとうに友好的な、兄弟としての、あるいは友人としての立場でもって話し合いをしていくような気持でやって参りたいと、こう存じております。これらの国とアメリカとの関係についても、日本が何かその手先になるというような観念が一部に絶無だとは私は申し上げかねると思いますが、しかしながら、戦後今日までの経過を見まして、逐次日本の今日の平和的な意図というものがはっきりしてきておるのでありまして、最近では東南アジアの方面でそういう考え方が次第に薄れ、また日本もそういう考え方でない態度でおりますから、自然に了解しつつあるのではないかと思います。具体的な問題等に対しまして、商業的な問題については、資本出資国のいろいろなこまかい計算等もあるわけでありますから、それらの問題につきましても、そういう場合に何らか圧力的にいくような印象を与えないように努めていかなければならぬことは、これまた当然なことでありまして、日本がもしそういうような立場アメリカと東南アジアとの間をあっせんするといたしますれば、そこらも十分気をつけて参らなければならぬと思います。そういたしますれば東南アジア方面の気持もはっきり日本立場を理解してもらえる、こう信じております。
  86. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 それではその点はそのくらいにしておきまして、外務大臣お急ぎのようですから、ただ一つこの点だけはっきり聞いておきたいのですが、あなたはこの間の国連の総会で演説をなすったときに、朝鮮、ヴェトナム、ドイツ等ができるだけ早く統一することを望む、それが望ましいと、こういう演説をなすったように報道されておるが、それは事実でしょうか。
  87. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 事実でございます。
  88. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうしますと、南ヴェトナムに対する賠償問題が当然問題になってくると思うのです。大体賠償の話が進んで、支払い方式、具体的なダムの建設であるとか、工場の建設であるとか、いろいろ定まってきて、それに対する金額もほぼ定まって、借款なりあるいは贈与なりということが、それぞれにカンボジアであるとか、ラオスであるとかいうところにとられるようになっておるらしいが、問題は南ヴェトナムの問題だと思うのです。現在は言うまでもなく二つに分れておって、日本が賠償の相手方としておるのは南の方です。そうしますと、藤山外務大臣が国連という公けの席上で、統一の早からんことを望むという演説をされておるそのことと、ヴェトナムは言うまでもなく南北なんですから、南北が統一されたときに南の方だけに支払われた賠償というものは、一体統一後の政府とどういう関係に立つか、この点を一つ外務大臣でも大蔵大臣でもいいから、はっきりしておいてもらいたいと思います。
  89. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 分裂国家が平和裏に早く統一されることは望ましいことであります。南ヴェトナムに対する賠償につきましても、統一後の全ヴェトナムの利益を害するものではないと思っておりますので、統一後にも品吉本の賠償によって全ヴェトナム人民に幸福を与えることでありますから、私どもとしては分裂国家の統一後の利益を害するものではないと考えております。
  90. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 問題はそういうところでなくて、現在の賠償は南ヴェトナムを対象にしておるわけなんです。今度統一されますと当然北の方も一つのものになるのです。北の方に対しては全然今賠償の対象になっていない。今度あらためてまた北の方が統一されて、その統一政府から賠償を要求されることがないとはいわれないと思います。そういうときにはどうされますか。
  91. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 今日、私どもは南ヴェトナムの政府を承認いたしておりますけれども、統一されれば、当然全ヴェトナムの政府ができるわけであります。それに日本の賠償というものは引き継がれることは当然だと思うのでありまして、全ヴェトナムを対象としたものであること、間違いありません。
  92. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 もし、不幸にして、当分統一の実現が時間的にむずかしいということになって、北の側から賠償を求められたらどうされますか。
  93. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私どもは、ただいま申し上げましたように、南ヴェトナム政府を正統政府として認めておるのでありますから、それとの交渉をやりますので、北からの要求は、今審議するわけには参らぬと思っております。
  94. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 正式に政府と認めていないから、国交が回復していないから賠償に応じられない、もしくは賠償の話に応じられぬと言われますけれども、現にインドネシアの場合は、あれはもう今の政府を承認する以前から賠償交渉はどんどん進められておったわけです。この点はどうですか。
  95. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ただいま申し上げましたように、南ヴェトナム政府を正統政府として認めておるのでありまして、従って、それに対して賠償を締結することは、全ヴェトナムの統一後にも影響を与えるのでありまして、ただいま申し上げました通り、私どもは、全ヴェトナムに対する賠償として交渉をいたしておりますので、北からの要求は必要ないと思っております。
  96. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 必要があるとかないとかいうことは、こっち側の勝手な解釈であって、向うが、もしどうも統一しようと思ったけれども、統一が困難で、相当長引きそうだということになるならば、北は北ヴェトナムとして、日本に荒されたものに対して、しかも現実には、北の方がよけい荒されておる。であるからして、北から賠償を要求されないとは保証できないわけです。そういうときに、一体南の方だけと話し合っておって、北の方とは全然話し合わない。正統政府と認めていないから話し合わないというのでは、筋道が立たないと思うのです。その点をもう一ぺんはっきりしていただきたい。
  97. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 分裂国家の問題は、南ヴェトナム政府をわれわれは全ヴェトナムの正統政府として認めておるわけであります。従いまして、支配権は及んでおりませんけれども、その点についてわれわれとしては、右の立場に立ってやっておるわけでありますから、そういう見地から、北からの要求には応ずる必要はないと思っております。
  98. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 その点は、こちらだけで勝手に統一政府と認めておるだけで、向うは厳然として、北に北ヴェトナムの政府を持っておるわけであります。だから南ヴェトナムの政府であって、全ヴェトナムの政府でないことはこれはもう明瞭なんです。従って明らかに南ヴェトナムの政府としては認めておっても、全ヴェトナムの政府でないことは明らかなんです。そうすれば当然北は北としての独自の立場から要求されることがあり得るということは、考えなければならぬことだと思う。どうも外務大臣のそういう点についての考え方があまりに自分勝手な考え方だと思うのです。それはどうですか。
  99. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 北ヴェトナムからの要求がありましても、私どもはそれに現在応ずるつもりはないのでありまして、むろん統一前におきましても、南ヴェトナム政府そのもの日本と国交を回復しております。従ってそれを正統政府として認めておるのでありまして、その範囲等につきましては、それは今後の統一の問題のときに両政府の間で話し合いをすることであろうと思います。
  100. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 あまり時間がなくなるから私はやめますが、ただこの点だけはっきりしておきたいのです。正統政府として認めておるからそれの要求には応ずるが、北の方は認めていないから要求があっても応じない、こういうことはさっき言いましたように、インドネシアの場合は、日本はまだ認めていなかった、その認められていない政府を相手にしてけっこう賠償交渉をやってきておるのです。今の南ヴェトナム政府が南ヴェトナム地域における——南ヴェトナム、北ヴェトナムは地域的にもはっきりしているのですから、その南ヴェトナムの政府を統一政府と認めるということは、北を含めたものでないということを当然意識しておかなければ、それは私は国際的にも問題になると思う。そういう点について外務大臣はよほど考え直してもらいたいということを言いまして外務大臣に対する私の質問はこれにて終ります。どうぞ御自由に行って下さい。  引き続いて、私は自衛ということ、防衛ということについて、総理大臣、さらに防衛分担金等について大蔵大臣にお伺いをしたいと思います。  まず第一に岸さんにお伺いしたいことは、自衛ということ、自衛権というものは、日本憲法の上においても、明文はないけれども、消極的に認められておる。われわれもそれは認めます。また国際連合の憲章においても、国々の自衛権を認めておる。この国際連合に加盟しておるわれわれは、当然国際連合の自衛権を認めておることを承認します。が問題は、固有の自衛権そのものでなくして、自衛権を行使することです。問題はいつでも自衛権の行使の点にあると思います。行使をするについては、自衛権の行使の限界というものがなければならぬと思いますが、一体その限界をどこに置かれる考え方であるか。
  101. 岸信介

    岸国務大臣 自衛というものの本質から見まして、外部から国が武力攻撃をされた場合に、その侵害を力でもって排除するということは、当然自衛権の範囲であると思います。われわれがそれを越えて敵を攻撃するというようなことは、自衛権の範囲を出ずるものであろうと思います。あくまでも、われわれが他から侵略されたものに対してこれを排除するというのが、その限界だろうと思います。
  102. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 よくわかりました。それならば、日本はかつての太平洋戦争のときに、宣戦の詔書が発布されております。その詔書の末尾に、今や帝国は自存自衛のために一切の障害を破砕する、こういうことがうたわれて、それに当時の商工大臣として岸さんも副署しておられる。その当時の自存自衛ということは——あのときは言うまでもなくこちらから積極的に武力攻撃をやったわけなのですが、それも自存自衛である。今おっしゃる、攻撃を受けて身を守るいわゆるほんとうの狭義の正当防衛という場合のことが自衛権の行使の限界であるということとは非常に違っておるのですが、この点に対して岸さんは、あの当時詔書に副署されたときの考え方はもう今日改まっておりますかどうか。
  103. 岸信介

    岸国務大臣 これは当時の日本の置かれておった情勢、またその当時一般に国際的に考えられておった感じから、あそこで自存自衛という言葉が用いられている。今の憲法における、われわれの憲法解釈上の自衛権または自衛の限界というものは、当時の考えよりも非常に限局されておるものである、かように思うのであります。
  104. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうしますると、昭和十六年十二月八日に発せられたあの詔書にうたわれておる自存自衛という、当時の副署された考え方と、今日の日本憲法の解釈論としての自衛権行使の限界とははっきり違っておる、こういうことにしていいわけですね。それならば私はお伺いしたいのですが、現在自衛の名のもとに、先ほどもちょっと申しましたけれども、警察予備隊七万五千の員数から、今日の自衛隊は軍人関係を中心として全員で二十四万人という膨大な数に達しておるわけなのです。二十四万といえば、昔の一個師団一万とすれば二十四個師団に当る。実に膨大な国費であると言わなければならぬと思うのです。日本の国が二十個師団持っておった当時は、今のような小さな領土ではなかった。それにもかかわらず、軍隊は二十個師団をやっと維持しておった。もちろん若干の特科部隊もあったけれども。そうすると膨大な軍備であると言わなければならぬわけです。その膨大な軍備を自衛の名でやられる。どこから攻めてくるかもわからない、あるいは外国の力に扇動されて国内において内乱的な反逆が起るかもわからない、そういうものを防衛するのだ、国の安全をはかるのだということであるならば、これほど多数の武力を必要とするかどうか。もしそうでなく、外から武力で侵略してくるものがあるかもしれぬ。侵略と言わぬまでも攻めてくるものがあるかもしらぬというならば、当然、どこからどういうようにしてどういう機会に攻めてくるであろうという、昔でいう意味のいわゆる仮想敵国の想定がなければ、私はこのような膨大な軍備を持つ必要はないと思う。一体政府防衛のためあるいは自衛のためと称して軍備を次から次にと拡大されつつあるが、仮想敵国というものを想定されておるのかどうかということをまずはっきりさしていただきたい。
  105. 岸信介

    岸国務大臣 今われわれは日本の直接、間接の侵略を防衛して、そして安全をはかるという立場から防衛力の漸増をやっておりますが、数の点につきましては、従来の戦前の制度と今とは非常に違っておりまして、戦前のようないわゆる予備とか後備とかいうような関係においては非常に狭いなにになっております。従ってその数字だけで以前のなにと直ちに比べることは適当でないと思います。いずれにいたしましても、われわれはあらゆる場面を、いろいろな意味から国際情勢検討して日本安全保障防衛をするということを考え防衛計画を立てております。しかし戦前において考えられておったような、ある仮想敵国というものを設けて、それに対抗する意味におけるなにを作るというような考えは、現在においては持っておりません。
  106. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると、仮想敵国の想定は持っておいでにならぬ。しかし日本は今日の国際間の関係においていわゆる自由主義陣営に属しておる。従って自由主義陣営から直接なり間接なりの侵略を受けるとは考えておられぬと思う。自由主義陣営以外の国々が直接なり間接なりの侵略を企図しておるであろうと考えられるか。仮想敵国と言わないまでも、そういう対立勢力がやってくるかもしれぬという危険を感じておるかどうか。
  107. 岸信介

    岸国務大臣 先ほども申しあげましたように、われわれは防衛計画を立てる場合におきまして、日本の外部から、あるいは内部から起ってくべきいろいろな形における侵略というものもいろいろと検討いたしまして防衛計画を立てておるわけでありますが、あらゆる侵略に対して日本の自力だけで防衛し尽すということはとうてい不可能でありまして、そこに日米安全保障の体制というものができておることも御承知通りであります。今日具体的にどこからどういう侵略が来るというところの一つの危険を感じておるかというお話でありますが、そういう具体的な危険というような意味においては私は感じておりませんけれども、しかし日本を取り巻いておるところのいろいろな武力的な配置その他のものにつきましては、やはりこれは日本の安全を保障する意味からいって研究をしておることは事実であります。
  108. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 日本を取り巻く国際情勢の点で、もし日本アメリカの軍事基地がなかったとして、その場合の日本を取り巻く国際情勢と、現実にアメリカの軍事基地を持ったところの日本を取り巻く国際情勢との間に差があると思われるか、ないと思われるか。
  109. 岸信介

    岸国務大臣 それは差がある場合もありましょうし、差のない場合もありましょう。いろいろな大きな国際情勢を見なければ、私は直ちに必ずこういう差異があるということを論断することは適当ではないと思います。
  110. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 実に岸さんは驚くべき、何といいますか、そつのないというか、うまくごまかそうとされますが、しかしアメリカの軍事基地があるということは、アメリカの太平洋戦略の一環として日本が巻き込まれておる。そういう二つの陣営の対立しておる、自由主義陣営の中核をもって任するアメリカの戦略体制の一環として日本が巻き込まれておる段階における日本を取り巻く国際情勢と、全然日本は独自の立場におって、何ものにもとらわれない、何ものにも加担しないという立場に立っての日本を取り巻く国際情勢との問に、差があるかもしれぬし、差がないかもわからぬというような、そんな不徹底な、あいまいな言葉では、この問題は逃げ切れないと思います。これはもう明確に差があるにきまっている。これをもし差がないと言うなら、ものを判断する能力がないと言っても差しつかえない。しかしそれでは岸さんに対して失礼だし、岸さんは利口な方だから、腹の中では知り抜いているけれども、いろいろな関係を考慮して、その言葉だけで切り抜けようとされるけれども、それでは国民は納得しない。軍備のためには膨大な予算が使われておるわけなんです。この膨大な予算を使っておる軍備をやろうとする場合に、日本を取り巻く国際情勢の問題を、あれも一つ、これも一つというように同じように見てやることは間違っておると思うのです。その点ははっきりしておいてやってもらわなければ困る。
  111. 岸信介

    岸国務大臣 今の加藤委員のお話に、アメリカの太平洋戦略云々という言葉がありましたが、今の世界の大勢、極東の大勢を見ますると、今度は同時にソ連を中心としての太平洋——太平洋というのかどうか知りませんけれども、極東の戦略体制というものがあります。この両方が対立しているのが現状であると思います。これは相互関連を持っておるのであって、一方が引いたら必ず他の方が引くというふうな簡単な国際の関係ではないと私は思います。ある場合においては、引いたことによって弱くなったことにおいて、力の均衡が破れたことにおいて戦争が起っておるという実情が、まだあるのでありまして従って簡単に、一方が引けば必ず組手は引くのだというように論断して片づけ得ないと私は思います。ただ問題はむしろ、根本であるところの東西両陣営の対立が緩和され、そうして、あるいは軍備縮小の問題に関して国際的な話し合いが成立するということになって、初めてできるものなのです。たとえば核武装の問題であっても、一方がやめれば当然一方がやめるかといっても、私は決してそういうなまやさしい国際情勢ではない、こういうことを申したわけでありまして、アメリカの太平洋戦略というのが一方的にあるのかというと、ちょうどそれに対立するところの両方の均衡したところの勢力が対立しているというこの現状を見ますと、今お話のようなことに対して、必ずそれが何らかの変化を起すというようにすぐに論断することはできないというのが、私の考え方であります。
  112. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 アメリカの太平洋戦略とソビエトの極東戦略との谷間に置かれた日本としては、日本の一番ほんとうの平和と安全を保つ道からいけば、いずれにも加担しないで、そしてそれに肩すかしを食わせるということが、私は一番日本の安全な道であると思うのです。それを一方に加担すれば、勢い一方を敵にせざるを得ない。これは小学校の子供でもわかることなんです。そういう危険をなぜ冒さなければならぬか、この点なんです。ただこれは終戦以来の、アメリカ軍が日本に進駐してきたそのときからの因縁ずくでそういう利害関係が深くまつわっておるから、今さらアメリカの陣営から抜けることができない、だから惰性的にこういう態度をとっておるのだというならば、私はすみやかにその惰性は打開しなければいかぬ、新しい日本の独自の立場をとるようにしなければならないと思う。そうすることによって、むしろ日本は世界の平和に貢献をする。今おっしゃるように軍備の縮小にしても、ここで激突する場面がなくなれば、どこの国でも大きな費用を必要とするのですから、そういう大きな死に金を使うことはない。将来のことはだれにもわかりませんけれども、ものの道理として、一方に対立する勢力があるから一方が対立するのであって、両方がなくなれば、そのなくなる谷間に幸い日本という国があるのだから、日本がいずれにも加担しないで、独自の立場をとっておれば、私は当然両方のそういう軍備的な戦略体制というものは、徐々に欠けていくと思います。しかしこれは外国のことですからかれこれ言われませんといえばそれまでだと思うけれども、少くとも日本としてはその谷間にあることだけは事実です。それが太平洋のまん中で核兵器の実験をされると、その飛ばっちりを受ける。シベリアの原野で核兵器の実験をされると、その飛ばっちりを受ける。日本の国としてはたまったものじゃないです。そういうことの危険を避けるという点からいっても、日本はいずれの陣営にも加担することなく、ほんとうに国際連合を中心とし、国際連合の精神で、不幸にして今対立しておる米ソ両国の間にむしろ日本から積極的に動きかけて、そうして国際連合というものにほんとうに平和機関としての機能を十分に果さしめるように努めることが、世界平和に貢献する道であると思います。今のように、極東戦略が片方からのしかかってきておるから、それに対する太平洋戦略に加担するというのでは、私は世界平和に貢献する道ではないし、むしろ世界平和を危険ならしめる一つの役割を果すものであるといわれても仕方がないと思うのですが、その点に対して岸さんどうお考えでしょうか。
  113. 岸信介

    岸国務大臣 私はわが外交基本方針一つとして、強く国連中心主義の外交を展開すると言っております。これは口先だけでなしに、現に核実験の停止の問題につきましても、また軍縮の問題につきましても、われわれはこの国連を通じて強く主張し、これが実現を促進するように努力してきておることも、御承知通りであります。私はあくまでそれをやります。しかし今の国際対立の情勢は、一面において、いろいろとこの話合いが一方において進められ、緩和の傾向が、いわゆる雪解けの傾向が見られると同時に、一方においてはまた、具体的ないろいろな地方に起っておる事件のために、また激化されておるというような傾向すら見える状況であって、根本的に東西両勢力の緊張が緩和されるというような状況まできておらないことは、非常に遺憾としております。しかし私はあくまでそういう努力をしたい。ただ問題として、今お話がありましたが、日本がいわゆる中立の立場をとれば、日本立場が安全になるというふうな考えは、私は今の国際情勢を判断する上において非常に間違っておる。というのは、この東西両陣営の対立が現状のような状況であるならば、もしこの日本アメリカの太平洋戦略とそれからソ連の、中共を含めての極東戦略というものの対立のいわゆる谷間にあって、われわれは中立だからといって、もしもこの両陣営が衝突するようなことに、万が一にもなった場合においては、日本は決して安全ではないのでありまして、私どもは問題は、根本である東西両陣営の対立ということをなくする、これを緩和するという努力を、それは国連を通じてわれわれは真剣に現在やっておるし、今後もやらなければなりません。これによって初めて解決される問題でありまして、今日の状況において、ただ日本が中立政策をとればできるというような簡単な国際情勢ではないと、こう私は思っております。
  114. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 私の言うのは、日本が孤立的に、日本だけが中立を保てばいい、そんな狭い考え方ではないのでありまして、国際連合においてほんとうに今岸さんが言われたような努力をされようとするならば、国際連合の舞台において一方に加担すべきでなく、幸いに日本はアジアの一国であってアジアの多くの国々は中立の立場をとっておる。またアフリカ諸国もそうであるし、ラテン・アメリカの諸国も大体においてそうだ。従って国連において直接米ソの勢力につながっていない国々は、大体中立的傾向をとっておると見て差しつかえないと思うのです。それならば日本はいわゆる自由主義陣営に属さなくとも、アジア・アフリカ、ラテン・アメリカ、東南アジア等に多くの友を持っている。これらの友とともに手を携えて世界平和へ呼びかける、軍縮の問題もそうあって初めてなされるのであって、一方の陣営におって幾ら声を大にしても、相手の一方がそれを受け入れなければ何にもならない。そうでなくて、私はそういう意味における中立というものが当然保持されなければならないと思うのです。軍事的な中立というよりも、むしろ政治的な中立態度をとるということこそ、日本の国際平和に貢献する道だと思うのです。だから岸さんの考え方は自由主義陣営におって、その中で国際連合を舞台として努力したいとおっしゃるけれども、われわれはむしろ自由主義陣営というとらわれた立場でなくて、とられない多くの国々とともに手を携えてやっていく、こういうことが望ましいということを意味しておるわけです。  しかしこれも議論になってしまうからもうこれ以上は言いませんけれども、それなら今度は防衛計画の具体的な問題についてちょっとお伺いしておきますが、新聞には来年度は相当膨大な内容充実の計画が発表されております。この新聞発表はほんとうに跡衛庁として計画されておるものかどうか。これを一つ防衛長官からお伺いしたい。
  115. 左藤義詮

    左藤国務大臣 新聞に伝えられまするような業務計画あるいは明年度の予算要求をただいまいたしておることはその通りでございます。
  116. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうしますると、この中に軍備の充実というか、膨大なものになるわけです。従って予算もそれにつれて相当大きなものになっておりますが、こういう内容を見ますと、これがさっき岸さんが言われたようにどこかの国から攻められてきたときにこれを守るという、いわゆる自衛の限界というものをはるかに越えたものになると思います。その点についてはどういうようにお考えになっていますか。
  117. 左藤義詮

    左藤国務大臣 先ほど総理大臣からお答えをいたしましたように、私どもはある特定の仮想敵国を予想しておるわけじゃございませんが、いかなる場合に急迫、不正の直接、間接の侵略がございましても、私ども国を守る責任者といたしまして、最善を尽し得るような努力をいたしたいと思って計画をいたしたのであります。
  118. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 もう時間がありませんから先を急ぎます。もう一、二だけでやめますが、サイドワィンダーを受け入れる態勢ができておるとしるされておりますが、これも事実でしょうか。
  119. 左藤義詮

    左藤国務大臣 さようでございます。
  120. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 さきにエリコンは試験用として受け入れられたわけですが、今度のサイドワインダーは実戦用ですね。それで現実にこれは今度の台湾と中国本土との場合に、中国大陸の上空にサイドワインダーが実戦に参加しておる。これも太平洋戦争勃発当時の岸さんの考えならばいわゆる自存自衛に属したかもしれないが、今おっしゃるような日本立場からいけば、自衛の範囲を逸脱しておると見なければならぬのですが、こういうことまでもサイドワインダーを受け入れたときにやはり主張されるかどうか。
  121. 左藤義詮

    左藤国務大臣 サイドワインダーにつきましては実験研究用として受け入れまして、少数の航空機に整備いたしまして、実験を試みることによりまして、将来装備の質的改善に資することが目的でございます。これは私どもは先ほどお話のような自衛の範囲を逸脱するつもりは毛頭ございません。
  122. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 ここにも明確にしるされておるように、一つは戦闘用訓練ということになっておる。そうすると、これは明らかに実戦に用いるということを前提として実戦用の訓練がなされる。ただ学術研究であるとか、あるいは学生の訓練というものとは違って、一歩前進しておるのです。これは一体、もし日本が緊急不正の侵略を受けたときに、日本の上空でこれを使うのか、あるいはそのもとを断てというので、もとまで攻めていくということになってしまうのではないか。これはその限界が現実の場合になると、非常にむずかしいと思う。このサイドワインダーは核兵器を装備しようとすれば、いつでも核装備ができる武器ですね。そういうものを受け入れては、一方においては核兵器の実験禁止あるいは製造禁止をやろうということを主張しておる日本としては、はなはだしく矛盾しておるわけですが、どうですか。
  123. 左藤義詮

    左藤国務大臣 サイドワインダーは核装備をいたさないものでございます。またいたし得ないものでございます。  なお、私どもがこれを戦闘用に将来開発をいたしたいということは、これもわが国の領空を侵犯いたします襲撃に対して用いることでございまして、爆撃機ももちろん持っておりません日本といたしまして、これが自衛の範囲を逸脱して使用されるようなことは不可能であり、またいたすつもりはございません。
  124. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 サイドワインダーは、兵器として核兵器を装備しない、完全にしないような兵器ですか。
  125. 左藤義詮

    左藤国務大臣 仰せの通りでございます。
  126. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 とにかく、こういうミサイル兵器が自由に防衛用に使用されるということになると、われわれは非常な危険を感ずるのです。そういうことについて、そういう問題が起り得るかもわからない、起らないかもわからないというようなさっきの岸さんの御意見でありましたけれども、大体それは国際情勢の認識の上に立って、そういう事態があるかないかという見通しを持つということは、何も一年や二年の問題じゃない、五年、十年先まで見通さなければ、ほんとうの軍備についての考え方は起ってこないと思う。ただ当面いろいろあなた方の方で理由もあり、説明をされるけれども、帰するところは安保条約に定められた、そうしてまたそれから生まれたMSA援助協定の趣旨に基いて、いわゆる防衛分担金を将来なくしよう、それのためには一方において自衛力を増さなければならぬというアメリカ側の要請に基くものではないかとわれわれは思うが、そうではないのですか。
  127. 左藤義詮

    左藤国務大臣 私どもは自衛力漸増につきましては、あくまで自主的な立場から計画をいたしておりまして、サイドワインダーにつきましてもアメリカの要請によって私どもがこれを研究いたすようなことは全然ございません。
  128. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 今アメリカの要請に基くものでないと言われたが、なるほどアメリカはこの武器をこれだけ、この兵隊をこれだけというような具体的な指示はもちろんやるべきものでないし、そんなことは受け入れるものでもない。世界が許さない。けれども実際にそういう条約の上において、はっきりと自衛力を増すことが望ましいということをアメリカ側で声明しておるのですね。安保条約前文には、明らかにそのことが示されておる。またその条約の条文の中にも、日本がいわゆる自衛力を増強することが望ましい。警察予備隊が今日になるまでの間、ことごとに、一方においては防衛分担金をこれだけ減らしてやるというかわりに、こちらにおいては、これだけ軍備を増せ、こういうことが交渉されてきたことは隠れのない事実なんですね。そういう隠れのない事実に基いて今日の軍備というものが持たれるようになった。従って今後といえども、防衛分担金がいつ打ち切られるか知りませんが、あとでちょっとこれは大蔵大臣にお尋ねするのですが、その防衛分担金をひもつきとされて、いつでもそれをえさにしては、軍備の方の増強に働きかけておる。こういうことを国民としてはどうしても疑わないわけにはいかないのです。ただいかに政府が弁明されても、その点は、われわれは、非常に遺憾だけれども、疑わざるを得ない。その点をはっきりしておいてもらいたい。
  129. 左藤義詮

    左藤国務大臣 ただいまのお話逆でございまして、私どもは防衛分担金を少くしてもらうために増強をいたしておるわけじゃないのでありまして、一日も早く米軍に撤退してもらって、私どもが自主的に日本防衛の責任を全うし得るように、あくまで日本の自主的な立場から努力をいたしておる次第でございます。
  130. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 これは結局コンニャク問答みたいになってしまうから、幾ら話したって話がくっつくわけがないと思いますのでやめておきます。ただ防衛長官にお尋ねしているのは、行政機構の改革に伴って、防衛庁を国防省に昇格せしめようという意見があると報道されておりますが、この点はどうですか。
  131. 左藤義詮

    左藤国務大臣 まだ具体的なところまでは進んでおりませんが、だんだんと人員、機構も大きくなって参りまして、しかもこれが総理府の一庁でありまするよりも、国防省としての機構を整えることは望ましいと考えております。
  132. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 われわれは、これは見解の相違かもしらぬが、現在の防衛そのものも必要がないという考え士を持っておる立場からしますれば、現在の防衛庁を国防省にする——防衛という言葉ですらも、今言うような自衛という言葉についても幾多の疑義がおるときに、さらにこれを進んで国防省にするということになれば、当然この国防省という言葉からくる考え方でも、防衛庁のときよりも軍備というものに対して非常に積極性を感じせしめる。日本がほんとうに世界平和に貢献し、やがて軍備の縮小を主張しておる立場からいって、自衛力の名において軍備を増強せしめ、そしてその統括機関を国防省にするということになれば、軍備縮小を唱えておる日本立場とはまさに逆行するものであると言わなければならぬ。これは非常に大きな食い違いになるのですが、この点については一つ岸さんからお伺いしたいのです。
  133. 岸信介

    岸国務大臣 実は行政機構の問題につきましては、今国防省の話が出ておりますが、これは防衛庁もしくは防衛庁関係者の間において今言ったような意見があるのでありましょうが、私は、行政機構全体の問題に関しまして、できるだけ行政の能率を上げ簡素な形に持っていくことが必要であるという見地から、行政機構の改革について党及び政府の関係方面に命じて、今根本的に検討さしております。従って今防衛長官の申しましたことは、防衛庁の人々の気持を率直に表わしたものだと思います。私は政府としては、今言ったように、全体の問題を簡素な形において能率をしげるという趣旨で検討をいたしております。しこうして国防省というようなものをこの際作った方がいいかどうかということは、私としては、今申しましたように、全面的の行政機構の改革と待って結論を出したい、かように考えております。
  134. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 そうすると、総理はまだ国防省については考えておられない、簡単に言えばそうですね。防衛庁の方はもういろいろ人員が増加したし、機構が大きくなったし、総理府の外局としてはおかしいし、独立の省にしたい、こういう考えで、これが防衛庁の意見として新聞に発表されてしまった。そうするとこういう重大な、国際的にも影響のあるような問題は、単なる一片の行政機構の改革ということだけでは片づかない問題だと私は思うのです。これは対世界的には非常に大きな影響をもたらす。日本が国防省を創設したということと、日本が軍備縮小をやっておるということと、一体世界はどんなふうに受け取ったらいいか、その間に非常に矛盾を感ずると私は思うのです。事実はどうあろうとも、文字から現われる気持の上において、非常に矛盾を感ずると思うのです。そういう点で私は、岸さんは今まで考えておられなかったと言われたが、できれば国防省というような構想はほんとうに全然なくしてしまってもらいたいということを希望しております。まあこれもあまり時間が長くなりますから……。
  135. 楢橋渡

    楢橋委員長 約束の時間を三十分過ぎておりますから……。
  136. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 わかりました。諸君に対しては相済まぬと思っておるけれども、もう一つどうしても聞いておかなければならぬ。防衛分担金の問題です。防衛分担金はことしは百八十六億ですね。来年度はどういうことになりますか。
  137. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 ただいま予算の全貌というものがまだ構想も固まっておりません。従いまして、この点については申し上げる状況にはございません。
  138. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 この防衛分担金はいわゆる日本防衛計画と切っても切れない関係にあるし、それからまた安保条約のいわゆる政府側で言う改訂の問題とも切っても切れない関係があるわけですね。それがまだ構想さえ定まっておらぬ、外郭さえ定まっておらぬということでは、歩調がそろわないじゃないですか。
  139. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 防衛分担金は御承知のように安保条約に基いて締結されております行政協定二十五条によって、これでちゃんと計算方式ができておるのでございます。従いまして、ただいまの安全保障条約についての扱い方は、先ほど来総理外務大臣からお話しいたされた通りでございます。そういう際に行政協定のあり方そのものについてもいろいろ研究されるだろう、またすべきだろう、かように考えますので、ただいまのような御返事をいたした次第でございます。
  140. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 二十九年に締結されたMSA援助協定によれば、防衛分担金というものはやがてなくする、こういうことが建前ですね。二十九年から今年まで、もうすでに三年も四年もたっております。これがいつまでも防衛分担金という名で、日本予算編成がアメリカ干渉——干渉という言葉はあなた方はきらわれるかもしれないが、事実は干渉なんです。もし干渉という言葉がきらいならば、容喙されるわけです。彼らがくちばしをいれて、彼らがこの防衛分担金をどうするか。今防衛長官は、決してそういうひもつきではない、防衛分担金でつられるようなことはないと言われたけれども、事実まだ軍事顧問がこちらにおる。その軍事顧問の費用をこちらで防衛分担金で負担するということになれば、どうしたって彼らのひもつきを詐さないわけにはいかないことになってしまう。その点からいって、われわれはこういう防衛分担金なんという形が残っておる限り、どうしたってアメリカにくちばしをいれられて従属関係にあるという言葉をいやでも使わなければならぬ。われわれもこんな言葉を本来ならば使いたくない。けれども使わなければならぬのですね。こういう事実をなくする点からいっても、もう軍事顧問なんか要らないじゃないですか。これだけ日本にすぐれた昔の軍人が幅をきかして、防衛庁なんかほとんど軍人が占領しちゃっている。そういうときになぜ形式上の顧問なんか置かなければならぬか、アメリカ式訓練をなぜいつまでも受けなければならぬか。そういう点で私は来年度は思い切って防衛分担金をなくするような方向へ進んでもらいたいと思っている。どうです。
  141. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 先ほどから申しますように、防衛分担金は行政協定第二十五条に基いて計算されている金額でございます。従いまして行政協定二十五条というものがある限り、一方的にこれをやめるというわけにはいきません。しかし当方の予算が増額されればそれに比例して防衛分担金が減額される、これはもう御承知通りでございます。
  142. 加藤勘十

    加藤(勘)委員 なおいろいろ尋ねたいところがあったし、途中を少し抜かした点があったが、非常に時間を超過してしまいまして、同僚諸君にははなはだ相済まなかったと思いますけれども、これをもって一応私の質問を終ります。
  143. 楢橋渡

    楢橋委員長 午後は本会議散会後直ちに再開することといたしまして、この際暫時休憩をいたします。     午後一時四十一分休憩      ————◇—————     午後四時五十四分開議
  144. 楢橋渡

    楢橋委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  予算実施状況につきして調査を続行することにいたします。北山愛郎君。
  145. 北山愛郎

    ○北山委員 社会党は、今この国会で、岸内閣の政策の転換を要求いたしております。誤まった外交政策、経済政策、反動的な文教、労働政策、この根本的な転換を要求しておるのでありますが、私は主として経済の問題を中心として、総理並びに閣僚にお伺いをしたいと思います。  まず最初に日中の国交の問題でありますが、これは午前、加藤委員からいろいろな角度から質問があったのであります。今日の国民気持は、第四次貿易協定が停止をされまして、貿易の途絶、文化交流もとまっておるというような結果がだんだん浸透して、これではだめだ、岸内閣のような静観的な態度ではだめだ、経済的な影響も非常に大きい、数千の日中貿易に従っておった貿易商社やメーカー、これはもうもとよりでありますが、日本経済の将来の発展、こういうような点からいたしましても、どうしても日中の国交回復を一日も早く行うべきである、こういう国民の声が漸次高まってきておるわけであります。従って、われわれ社会党がこのことを要求するのみならず、全国民要望である、こう申しても私は過言ではないと思うのであります。この点について岸総理はいろいろなことを申されまして、現在の客観的ないろいろな条件、そういう条件の困難ということを申されましたが、問題は、一体岸内閣というものが、この日中国交回復の問題を解決するという熱意があるかどうかということ、そういう気持があるか、そういう方向に進めるという目標を持って進むかどうか、そしてその気持に立って、その目標に立って、いろいろな客観的な困難、支障というものを克服していく、こういう気持があるか、それをまず私は総理からお伺いしたい。
  146. 岸信介

    岸国務大臣 日中関係の今日の状況が望ましくないことは、先ほど加藤委員と私の質疑応答で明瞭になったことと思います。これを打開するのにどうするかというふうに今日いろいろ言われておるけれども、結局お互いに、双方が双方の立場を十分に尊重しながら打開をする道を見出していくということでなければ、いたずらにお互いがいわれなき不信や誤解に基いた言動をしておることは、これは望ましいことではないということを申し上げたわけであります。しかして、この私の考えは、過般の総選挙を通じて国民の前に相当明瞭に訴えたのであります。その結果、私は決して今お話しのように、国民の大多数なり、国民があげて日中の国交回復を望んでおるということは、事実はそうではないと思います。
  147. 北山愛郎

    ○北山委員 しかし、これは単なる経済、貿易の問題のみならず、その後の外交情勢を見ますと、日本が東南アジアやアジア・アフリカの国々と友好関係を増進しよう、そちらの方面に発展しよう、こういう場合に、やはり中共との問題を解決しなければできない。なぜならば、アジア・アフリカの国々は、その大部分が中共を承認し、それと一緒になって進んでいこうとするような機運になっておるからです。従って、もしも日本が中国と今のような関係においてあるならば、アジア・アフリカ方面との外交問題、経済問題についても十分な発展ができないじゃないか、こういう日本の大きな外交路線、日本の進むべき進路、こういうことについての認識というものが、国民の中に漸次高まってきておる。これは単なる貿易の問題だけではないのであります。そういうふうな日本の大きな外交路線というものを考えた場合に、この問題は全国民の悲願であると同時に、またいろいろな困難を言われますけれども、すでにアメリカ自身は、ワルシャワにおいて中共との外交交渉をやっておるじゃありませんか。アメリカさん、岸内閣の親分ともいうべきものが中共との外交をやっておるのですから、日本政府が直接中国政府との間に外交交渉を持ちたいというような努力は、不可能ではないと私は思う。そこでいろいろ午前中の委員会での御答弁なんかを聞いておりまして感ずるのでありますが、その中で、今の中共は、この前の朝鮮動乱のときに、国連において非難決議をされた、侵略国という銘を打たれたのであるから、そういう国との国交については支障があるのだというような趣旨のお話をされました。私がこの話を聞いて思い起すのは、昭和二十六年十二月、年の暮れに行われた吉田・ダレス交換公文のことであります。あの交換公文には、結局日本は、台湾国民政府外交関係を持つのだ、中共とは条約を結ばないのだという中に、やはり先ほどお話のようなことが書いてあり、かつその中に、中共との外交関係を持たないという理由として、共産政権、中共政権は、日本共産党を支援しておると認められる十分な理由がある、その日本共産党は、日本の憲法制度と政府を転覆するような意図を持っておる、この日本共産党の活動を支援したと思われる十分な理由があるから、中共政権とは外交関係を持たないのだ、こういうことを交換公文の中で吉田さんの方から言っておるわけです。この交換公文を認めて、その上に立って、先ほどお話があったような中共に対する態度というものを岸内閣がとっておるのかどうか、これをはっきりしていただきたい。もしそうであるとするならば、今申し上げたような文句がその中にあるのでありますから、やはり岸内閣もまた中共というものを一応敵視しておる、こういうふうに見ざるを得ないのであります。敵視しないということを再三言われましたけれども、こういう交換公文精神に従って、その路線で日本外交を進めていく限りにおいては、やはり中共を事実上は敵視しておるのではないか、こういうふうな疑問がありますので、私はこの際岸総理に、あの吉田・ダレス交換公文というものを認めるかどうか、これをお伺いしたいのであります。
  148. 岸信介

    岸国務大臣 私は、政府が歴代におきまして他の国々との間に結んだ条約であるとか、あるいは交換公文等、責任を持つべきものについては、責任を持つということは、当然のことであると思います。しかし、私が今申し上げておることは、また午前中に質疑応答をいたしましたことは、私自身の考えとしては、そのダレス・吉田交換公文前提としてお話したわけではないのであります。日本の国際的立場、及び中共に対して、われわれが一員でありまた安保理事会のメンバーであるところの国連がどういうふうに考えておるか、これはやはり世界の多数の国がそう考えておるという一つの国際的認識の国連の姿、運営その他がそういうふうになっておることも御承知通りでありますから、世界の大多数の国がやはりその決議を今日もなお支持しておるという状況である限りにおいて、そういうものが調整されずに日本だけが離れてどうするということは、日本立場として適当でない、こういうことを申し上げておるわけであります。
  149. 北山愛郎

    ○北山委員 それならば私はよくわかりました。ただ、あのときの、朝鮮動乱のときの中共非難決議に日本は参加しなかったのでありますが、その決議があるゆえに中共とはどうも国交回復がむずかしい、こういうのであるとするならば、世界中のほかの国で、朝鮮動乱のときに国連の決議に従って、しかも国連に協力援助をした国で、たとえばスエーデンとか、ノルウエーとか、あるいはデンマークとか、そういう中共を承認して外交関係に入っている国があるのですよ。だから決して日本は、そういう国連の決議があるからといって、それをたてにとって独自の行動ができないという理由はどこにもないと私は思う。その世界中のほかの国が、あの国連の決議に参加した国々が、中共に一体同じような態度をとっておりますか。これは外交自主性があると私は思うのです。今の岸さんの言葉は私はへ理屈だと思うが、どうなんですか。
  150. 岸信介

    岸国務大臣 さっき申し上げましたように、私はそれの理由一つで中共を承認していかぬと申しておるのでないことは、さっきの私の回答ではっきりしておると思います。国際情勢のこういう情勢であるのも整理せずして、いきなりするということは、日本立場として適当でない、日本は承認をできない。さらにもう一つの大きな理由は、言うまでもなく国府との関係における日華友好条約というものが存し、われわれは台湾政府との間に友好関係を結び、親善関係を結んでいる。こういう状況を整理せずして、そういう国際的の客観的事情を整理せず、調整せずして、いきなり認めようということは適当でないということを、日本の置かれている立場から私は申しているわけであります。その国際的情勢の分析の一つとして、国連における決議を支持している状況であるということを申し上げているのであります。
  151. 北山愛郎

    ○北山委員 話を自分で変えて言っているのですが、総理自身が、侵略国と国連で決議をされたから工合が悪いのだということを答弁として先ほど来話があったから、そういうことは根拠がないじゃないか、こういうことを私は申し上げているのであります。少くともその点については、総理考えは聞違っている。侵略国と国連の決議があっても、そのことはあえて支障にならないのだということをはっきり答弁できると思うのですが、どうですか。
  152. 岸信介

    岸国務大臣 そうじゃありません。私の考えとは根本において違うのであります。私は、やはり国連にそういう決議が残っておるということ自体は、日本が承認することの支障をなすものである、かように申し上げている。その理由一つで私が認めないというのじゃなしに、国府との関係も考えなければならぬのであります。そういう各種の国際情勢というものを十分調整せずしてやるということはできない、こう申し上げておるわけであります。
  153. 北山愛郎

    ○北山委員 それならば、どういう時期に、どういう段階になったら、どういう条件が満たされれば承認するのですか。すでにせんだっての総会においても、二十八の国が賛成している。反対する国がだんだん減っているのです。日本は一番最後に承応するのですか。アメリカが承認と決定をしなければ、承認をしないのですか。
  154. 岸信介

    岸国務大臣 私は決して日本が最後にするとか、あるいはアメリカに追随してするというのではなく、日本の自主的な立場から、国際情勢を判断して認めることがいい。また、それによって国際情勢が調整されるという判断を下すときにおいては、私は日本自主的立場で決定すべきものだと思います。
  155. 北山愛郎

    ○北山委員 ともかく岸内閣は、中国をいつまでも敵視をするとか、国交回復をしないというのではなくて、承認の方向へ持っていこうという気持があることだけは私は認めます。最近におけるいろいろの政府の努力というものも、ないことはないと私は思うのです。特に九月十七日に赤城官房長官は、わが党の勝間田政審会長と中崎日中国交特別委員長の二人が行って、社会党要望を申し上げたときの談話などで、いろいろいいことを言っておられる。あの談話の中には、特に国旗については、今後は、平和条約日本と結んでおらない国についても、その国旗を尊重して、これを保護して、これを侮辱する者があれば厳罰をしたい、こういうふうに言っておる。この点について、総理は賛成ですか。
  156. 岸信介

    岸国務大臣 私は、われわれが自分の国旗に対してこれを尊重し、これが他によって何か侮辱されるということに対して国民的義憤を感ずる、この気持というもの、日本国民日本の国旗に対して持っているこの感じは、やはりそれぞれの国にしても持っているわけでありますから、その国民の感情というものを尊重して、従って、他国の国旗というものもこれを尊重すべきものであるということは、これは私は異論のないところであります。この前のときに、問題が起りましたときは、いろいろこまかい法律論等が出て、何か尊重しないという議論に発展したように誤まり伝えられたのでありますが、考え方は、これを尊重すべきことは、よその国との間に平和条約ができておろうができておるまいが、われわれとしてはあらゆる方面と友好親善を深めていって、そうして平和を作り上げようというのですから、その国民感情は十分に尊重すべきものであると思います。
  157. 北山愛郎

    ○北山委員 この国旗問題は、単なる考え方というようなことじゃなくて、やはりこれは実行の問題なんですね。具体的な問題として出てきておる。従って、ただ考え方を述べただけでは進行にならないわけですね。これは常識論としてはいいかもしれぬけれども、現実の政治を解決する具体的な措置にはならない。そこで、ここで赤城官房長官の談話で侮辱を加える者には厳罰をしたいという以上は、これは政府は勝手に処罰をするわけにいきませんから、やはり国内法の規定によらなければならぬ。これは要するに刑法第九十二条が適用さるべきものであるという解釈と考えていいですか。
  158. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 ただいまの国旗の問題でございますが、ただいま総理大臣から申し上げた通りでございまして、私どもといたしましても、他国の国旗というものはできる限り保護すべきものである、こういうふうに考えるわけでありますが、純粋に法律論だけから申しますと、刑法の第九十二条の今日までの解釈あるいは通説といたしましては、承認された国の国旗の侮辱された場合の規定でございます。しかしながら、刑法には他の規定もございますので、他の規定を援用いたしまして保護するということが可能であると私は考えております。第九十一条を直接に適用するということは、困難であるかと考えております。
  159. 北山愛郎

    ○北山委員 それでは新旧官房長官の談話が違うのですよ。赤城官房長官が、侮辱を加える者には厳罰を加える、こう言う以上は、単なる物として、物権としての保護ではなくて、やはり国旗として尊重してやるということになれば、法律を新しく作らない限りは、現行法においては刑法第九十二条でしょう。今の愛知法務大臣の解釈は、必ずしも通説でない。そうでない解釈もあるのです。なぜならば、第八十一条ですか、例の外患罪の中にも、外国という言葉がある。第九十二条の外国と、そうすると適用範囲が違うということになる。刑法というような厳密な法律の中で、ある場所に書いてある外国という言葉と、他の個条と中身が違うということでは、これはいけないのじゃないか。注釈のついていない限りは、外国という以上は、やはり同じように解釈をしなければならぬじゃないか。そういう趣旨からいっても、また刑法学者の中の有力な、たとえば小野清一郎博士のごとき、やはりそういう解釈が成り立ち得るのじゃないか、こういう見解を漏らしておる。要するに、承認しておろうがおるまいが、統治権を持って、一定の領土、人民を支配しておるという社会的な実在としての国家があれば、それを国家としてその国旗に対しては第九十二条を適用するということは、解釈上そういう余地があるはずなんです。愛知法務大臣の考えは何も通説じゃないですよ。そういうところを受け取って、赤城官房長官が申されたことの方が私は正しいと思う。政府部内で、而の官房長官と新しい官房長官と解釈が違うのです。それで一体いいのですか。岸総理のお考えを聞きたい。
  160. 岸信介

    岸国務大臣 法律解釈としては、やはり政府部内におきましては、こういう刑法の解釈等につきましては、従来とも法務大臣がそれぞれ法務省の解釈をもって統一するように心がけておるわけです。赤城君の発言も、そういう法律の何条を適用してどうするということを申しておるわけではありません。趣旨はできるだけ尊重するということは法務大臣も考えておりますが、法の適用の問題になれば、やはり法そのものの解釈ということは、結局は裁判所が決定するわけでありますが、従来の解釈は、今法務大臣の申した通りであります。
  161. 北山愛郎

    ○北山委員 しかし、官房長官というのは政府の代表で、われわれが申し入れや陳情に行くときにも、やはり総理の代理者としていろいろ話し合いに行くわけです。従って、外部に発表された談話が、そういう平和条約を結んでいない国に対しても、その国旗は保護し尊重して、侮辱を加える者には厳罰を加えるという以上は、これは刑罰法規の根拠がなくては、どんな政府でも厳罰にするわけにいかぬでしょう。だから、準拠法規はどこにあるかといえば、第九十二条にあるのだ。これは常識上の結論ですよ。ですから、私は愛知法務大臣と赤城官房長官の解釈というか、この問題についての考え方が違うのだ、政府部内で違うのだ。もしもまた話を変えまして、中国の国旗を尊重すべきである、日本の国旗、日の丸が中国において尊重されるように尊重すべきであるとするならば、なぜ一体第四次貿易協定についての愛知官房長官の談話の中で、国旗を掲揚する権利を認めないというようなことを入れらのですか。今お話になっておるような趣旨で言うならば、保護するというなら、国旗を掲揚して保護すべきじゃないか。なぜあのときに愛知官房長官の談話の中に国旗掲揚の権利を認めないというようなことを入れたのですか。矛盾しておるじゃないですか。
  162. 愛知揆一

    ○愛知国務大臣 国旗問題につきましては、先ほど申しました通り、また総理からただいまお答えもあった通りなんでありまして、お互いに外国の国旗を尊重したいという気持には全然変りはないわけであります。  それから、具体的な問題としてどの条文によって保護するかということについては、これは先ほど申しましたように、刑法の第九十二条は、御承知のように、親告罪的な規定になっておりますから、外国政府からの要求があった場合というようなただし書きがついておるというようなことからも勘考いたしまして、正式の国交のありまする場合にこの条文を適用するというのが通説になっておるわけでございます。ただ、念のため申し上げますが、刑法にも、先ほど申しましたように、他の条文もあるわけでございまして、たとえばこれは一例でございますが、器物損壊罪というような規定もあるわけであります。その罰条は、実は第九十二条に規定されておる罰条よりも罰が重い、こういうこともあるわけでございます。さような点を勘考いたしまして、できるだけの保護というか、尊重ということを考えていきたい、こういうふうに私は考えておるわけでございます。なおまた、いわゆる三団体に対する回答の際に私が当時申しましたことは、その第九十二条的な考え方からいって、権利として云々ということを申し上げたわけでございまして、考え方は、現官房長官と何もその点において変りはございません。
  163. 北山愛郎

    ○北山委員 あの愛知官房長官の談話の国旗掲揚の権利を認めないというのは、第九十二条は適用しないという意味において認めないなんという、そんなことは通りませんよ。どこの刑法の何条だとか、そんなことであの政府談話の中にそういう趣旨を入れたのだということじゃ通りません。ほんとうにこれこそへ理屈だと思うのです。先ほど来岸総理が、日本の国旗が中国においても尊重され、保護されるように、中国の国旗も日本で保護しなければならぬということをはっきりと申されたのだから、それならば、せっかく代表部というものを作ることを認めたのだから、そこまではいったんだから、なぜ国旗を掲揚する権利を認められないのですか。
  164. 岸信介

    岸国務大臣 第四次民間協定の趣旨は、あくまで両国の貿易を盛んにしよう——これは従来からもそうでありますが、私ども社会党とは考えを違えておったことは、要するに先ほど来申すように、政治的に承認とか正式の外交関係を開くということは、まだその前にわれわれがやらなければならない客観的事情の調整が必要である。しかしながら、貿易の関係は、お互いがお互いのそういう政治的な関係はおのおの違っており、情勢は違っておるけれども、そのことから離れて、両国の友好親善をし、両国の繁栄を増進していく上からいって、貿易の関係はこれを増進したい、これは従来一貫してとってきておった方針でありまして、その前提のもとにあの話がされたことは、北山さんも御承知通りであります。そして問題は、通商代表部というものの設置が、何らかこれによって従来の政治的な関係よりも進むのじゃないかという話なり、あるいは疑問を持つ人もありましたけれども、いやしくも貿易を増進しようとするならば、それに関連しての仕事をする人が来て、そして通商の問題を取り扱っていく、それを通商代表部として認めるということは、これは貿易を増進するという見地から見ると必要なことであり、またそれだけのことはわれわれはしよう、そして、来ている人に対してできるだけの保護を加えて、その生命、財産を守ることもしようということの何ができておることは、御承知通りであります。  問題は、国旗の問題であります。国旗はどの国民もこれを非常に尊重し、またこれが損壊されるとかあるいはこれに対して恥辱が加えられるというような場合において、特別な国民感情もあるわけでありますから、その扱いということについては、これは非常に丁重に扱っていかなければならないことは言うを待たないのであります。しこうして、法律の解釈としましては、いわゆる国旗を権利として掲揚するという場合においては、あの刑法第九十二条の国旗損壊に関する規定を適用してやるということが、私は国際の慣例だと思います。ところが今中共との関係は、そういう政治的の関係を承認するとか、あるいはこれとの間に正式の国交を開くとかという意図をわれわれは持っておらないのでありますから、そういう意味において他のそういう正常なる国交が回復され、承認し合っている国の国旗と刑法の法規上同じに扱うということは、これはむずかしい。そういう誤解を除くために申したことでありまして、決して中共の国旗をわれわれは尊敬しないとか、尊重しないというような意味で言ったわけではないのであります。この辺に何らかの誤解が生じている原因もあろうかと思いますが、これは国際の慣例からいっても、またわれわれの承知している限りにおいては、ドイツにおいて中共の通商代表部も設置されておりますが、国旗を権利として掲揚するというような条項は入っておらず、そして貿易が増進されている。こういう点から考えましても、もう少しお互いがお互いの立場を理解し、冷静に理解し合って、そして貿易を増進することが両国の国民の繁栄のために必要であり、また友好親善を重ねていく上に必要であり、また将来この正常なる国交の回復というような方向に向って、これが有意義なことであるという見地に立ってお互いが協力するということが、私は日中の関係打開の上に必要である、こう思っているわけでございます。
  165. 北山愛郎

    ○北山委員 私は国旗の問題というものを厳密に具体的な問題として初めから処理するというような考えがなかったから、非常に漫然と考えておったからこういう事態が出たのじゃないか、かように思うわけです。従ってこれはただ考え方を述べるということだけでは結局は足りないのじゃないか、具体的な措置をしなければならないのじゃないか、こういうふうに思うわけでありますが、別の機会に問題を譲りまして、岸さんは中共を敵視しない、こう言うのですが、今度の安保条約改訂するという問題は、私は日中関係というものに対していい影響はないのじゃないか、むしろ悪影響があるのじゃないかというふうにその点を心配するわけです。なぜならば中国の方から見た場合に、現在米軍日本に駐屯しておるということを日本政府も必ずしも喜んではいないのだ、仕方がないから日本領土を貸しているのだ、こういうふうに見られるのですが、もしもこれを改訂して自主的に相互防衛同盟条約を結んで、そして自主的に日本の土地をアメリカに提供し、共同で防衛する、こういう態勢に日本が自発的にするということになれば、日本自身がアメリカと一緒になって共産圏に対抗する軍事同盟に入ったのだという形になってくる。今まではただ場所を貸したのだ、日本国の政府並びに人民のやむを得ない事情があるのだというふうに考えられるかもしれませんが、もしもこれを改訂して自主性のあるものにすれば、そういうふうにならざるを得ないのじゃないか、こういう点が対中共関係において私は非常に心配になるわけであります。特にまた、なぜ一体こういう時期に安保条約改訂するのか、私はそのわけがわからない。安保条約改訂して何の利益があるのです。伝えられるような自主性のあるものにしたいというのですが、一体どんな利益があるのか。国民感情だ、こういうことを言われますけれども、今日日本国民の希望しておるところは、日本が原子戦争の渦中に巻き込まれたくない、日本に軍事基地を置かないようにしてもらいたい、第一にはこういう気持だと思う。それから軍備がどんどんふえて、そして自分たちの税金からジェット戦闘機や何かにどんどん金が使われていく、これは困るのだ、そういう金を使わないで、それをやめて、これを災害の復旧なりあるいは社会保障に使ってもらいたい、これが国民感情ではないかと思う。ところが安全保障条約改訂して自主性のあるものにすれば、今までのように何でもかんでもアメリカから兵器をもらっておるわけにはいかない、日本が自前で戦車も戦闘機も買わなければならぬということになるでしょう。こういうことになれば当然防衛費はふえてくる、防衛関係の国民負担がふえてくる、こうならざるを得ないでしょう。そういうことを一体国民は願っているでしょうか。また米軍が駐留してもらいたくないという気持もある。そういうふうな国民感情が私は大多数の感情だと思うのでありまして、むしろ今度の安保条約改訂なるものは、自主性のあるものにするという名のもとにおいて、国民の望まない方向に日米関係を持っていこうとする、こういう危険性があると思うのですが、その点についての総理のお考えを聞きたい。
  166. 岸信介

    岸国務大臣 私は中共の方で今度のわれわれの日米安保条約改訂についてどう思うかという最初の御意見でありますが、現在ならば云々ということでありますけれども、日本状況に対しての中共側の意見は決して現在も甘いものではないことは御承知通りであります。中ソの条約等をごらん下さいますならばわかるように、きわめて明白な軍事的目的を持った条項も入っておるような状況でありますから、そういう甘い見方をしてはならない。また今のところこの世界の国際情勢全体を考えてみまして、われわれは恒久の平和を念願しておるけれども、まだまだそれに非常に遠い状況にあり、従っておのおのが祖国の防衛について他から侵略されないように安全の惑を持てるような形にすることは、これは私は何よりも国の政治をとっておる者から申しまして、多数の国民の安全感というものを確保していくということは、大きな政治の眼目でなければならぬ。もちろん国民の生活のいろいろ苦しいことや、あるいはその他のことに対しましても、それはそれぞれの方法によって措置をしなければならぬことは言うを待たないのであります。従ってわれわれがこの防衛の問題について、国情と国力に応じて漸増するということでございまして、今お話のように、独立国として外国の軍隊が駐屯しておるということに対する国民感情もあります。また今お話の点のように、またそこには矛盾した考えもあって 一面にそういう感情があると同時に、なるべく防衛なんかは費用を使わずにやりたいという感情もありましょう。そういうようななるべく何にも持たないということであるならば、外国軍隊の駐在というものはますます長くなり多くなるということにならざるを得ない国際情勢に置かれておる。こういう現実から見ますると、やはり国力と国情に応じて防衛力を増強し、そして日本立場からいえば、私が昨年アメリカとの話の基礎もそうなんでありますが、われわれはやはり国民がほんとうに念願しておるのは自主独立の立場を堅持し、アメリカに従属しておるというふうないろいろな非難や批評を受けないように、日本はあくまでも自主独立国として、国際場裏においてどの国とも対等の形において話をし、また日本の国運を伸ばしていくということを念願しておる立場から申しまして、今の安保条約があまりにも一方的であり、見ようによっては、アメリカの従属国ような感じを持つような条文すら少くないというようなことをいつまでも置いておくということは、これは決して日本国民がそんなことに満足はしてない。今日の日本の自主独立の困難、また若い世代の人々がやはり強くそれを考え、そして日本日本の自主的な立場からやっていく、しかもやはり日本が他から侵略をされない、またわれわれ民族は安全であるというのにはどうしたらいいかということをやはり考えておる。これらに応ずる意味から申しますと、やはり安保条約を実質的な立場から、これを自主性を持った内容に改めるということは必要であり、またそれが日本の発展の上からいっても望ましいことであると、かように私は考えておるわけであります。
  167. 北山愛郎

    ○北山委員 今度の安保条約の問題は、おそらくこの国会においても最大の問題であろうと思うのです。従ってあらゆる角度から十分論議をされると思うのですが、私は少くとも現在の国民生活の窮迫のもとにおいては、あのジェット戦闘機グラマン、ああいうものが一台が三億から四億もする。米にすれば三万石ないし四万石でしょう。一千町歩から出る一年の収穫ですよ。それを三百台も買う、一千億もそういうものに使って、一台の飛行機が落ちれば一挙にして千町歩の一年の収穫が皆無に帰するというような、そんなぜいたくなものをやる余裕はないというのが国民感情のほんとうのところだと思うのです。従って岸さんの言われるようなところに国民感情はないと思うのです。ことに最近における経済の不況、その不況下においての中小企業なり農漁民、労働者の生活はいよいよ苦しくなってきておる。今日日本の国は一年に三万人以上の自殺者が出ております。世界一の自殺の国です。その中で親子心中が二百八十件も出ておる。こういう国は世界じゅうどこを探してもないと思うのです。自分の子供を殺すことを喜んでやるような親はどこにもないと思う。石川五右衛門ですらもかまの中で煮られるときには、自分の子供を上に上げてこれを守った。それくらいです。そういう子供を殺さなければならぬということは、自分が死ねば子供を社会に預けることはできないのだ、信用ができないのだ、政府社会も信用ができない。自分だけ死んではあとに残された子供の方がかえって不幸だと思うから、子供を道連れにするのですよ。そういうことがどんどん起るような国は世界じゅうどこを探してもないのです。私は数年前に親子心中のことを調べようと思って外国の統計を探したのですが、外国ではあまりないらしい。そういうようなことがざらに新聞に載っておる。日常茶飯事のように載っておる日本社会ですよ。きのうの夕刊を見ると、埼玉県の行田市のあるたび屋さんが一家五人、家業の不振から家出をしておる。おそらく現在でもどこかさまよっておるでしょう。これは今度の不景気の犠牲者なんです。この不景気政策というものは保守党内閣の責任ですよ。あの昭和三十年以来の無計画な設備投資をどんどんやって、そしてそれに拍車をかけて積極財政をやるというようなことにして、国際収支の壁にぶつかって、昨年の五月から急にかじを取り直した。その犠牲が中小企業や農漁民や労働者に及んでおるのです。その経済政策の誤まった責任が政府と日銀にあるというのは、町の評論家の一致した意見なんです。この問題をこの前私は春の国会で河野企画庁長官に聞いたところが、その通りです、責任は政府と日銀にあると言っておるのです。ところがその経済の不況に対して中小企業や農漁民や労働者には何らの対策が立っておらない。だから今申し上げたような不幸の人が出るのです。そういうような中で一台が三億も四億もするような戦闘機を三百台も買えますか。国民感情は私はここにあると思う。この経済の不況の対策について補正予算を出さない、失業対策についてもこの春の当初予算で間に合うのだ、一体こういうことで済むのですか。失業対策事業費というのは、昭和三十一年度は二十五万人もあった。これを三十二年度で二十二万五千に減らしてまた三十一年の線に戻っただけなんですよ。毎月企業整備でもってつぶれていく事業所、商店というものは、月平均ことしになって六百七十七件です、昨年の三倍も出ておる。毎月平均二万八千人仕事を離れておる。昨年の三倍であります。昨年は七千七百人、どんどんそういうふうに失業者はふえておるじゃありませんか。取近では大きな事業所についても、大企業等について、鐘紡であるとか日本水素であるとか、各種の会社がどんどん人員整理をやっておる。あの追浜と赤羽から一万人の失業者が街頭にほうり出されようとしておる。一体この対策を政府はどうするのです。総理と労働大臣から聞きたい。
  168. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 お説のように、政府経済調整の手段をとり始めましたその影響が半年ないし八ヵ月ぐらいずれて雇用、失業の面に、これはまことに正直に現われてきていまして、それで私どもの方といたしましてはそういうことを予想いたしまして、昭和三十三年度予算には今もお話のように、失業者増を計算に入れまして二万五千人の失対のワクもふやしておるような次第でありますが、ただいまお話のように、日飛の問題であるとか、ああいうところの失業者多発地帯に対しましては、これは御承知のような理由でございますけれども、なるべく一ぺんに出してもらわないように、それぞれの交渉をいたしておりますけれども、現にもう非常に前途不安になりまして、あるところでは十二月に一斉に解雇すると言っておったにもかかわらず、もう六割くらいしか、不安で出勤しないというふうになってきている。そんなようなことから、早く整理が行われるというふうなことになって、困惑いたしておりますが、私どもの方としては、事業組合を設立させるとか、あるいは特別な職業訓練を特にそこの面だけやりまして、あるいはまた配置転換等をいたすことによって、同時にまたそういうふうな特別な作業に配置転換のできないものにつきましては、御承知のように公共事業の繰り上げというふうなことによってできるだけ吸収のできるように全力をあげてやっておる次第であります。
  169. 岸信介

    岸国務大臣 経済の問題に関しまして、いわゆる緊急総合対策の結果、いろいろな方向に、あるいは事業の経営の面において、あるいは失業の面において、あるいは物価の面において、滞貨の面において、いろいろな点に好ましくない影響が出ております。特に私としてはこの失業、雇用の面に現われておることについては留意をいたしておるわけであります。今労働大臣が御説明申し上げましたようないろいろな手段を講じておりますけれども、今後といえども、これは十分一つ頭に置いて処置をしなければならない。ただそれなら何かこれに対する特別な、内需を刺激するような補正予算でも出したらどうだというふうな意見もあるようでありますけれども、私どもはやはり長い目で経済の問題は考えなければならない。ただ一時的に起ってきているものについては、一時的な緊急措置をとるべきことはもちろんでありますけれども、今のこの日本経済を見ると、この際せっかくそういう調整をし、基礎を安定せしめて、基盤を強化して、そして将来の安定した基礎の上の経済の拡大ということを考える上から申しますと、なまじっかな補正予算等を出すべき時期ではないというのが私の考えであります。
  170. 北山愛郎

    ○北山委員 そうすると経済の安定のためには、今申し上げたような失業者は犠牲になれと、こういうのですか。中小企業者はどんどんつぶれていく。それも犠牲になれというのですか。それでなければ日本経済は安定しないというのですか。
  171. 岸信介

    岸国務大臣 今申すように、雇用の面においての関係については労働大臣が申したような処置を講じておりますし、中小企業の問題については、金融面からわれわれがいろいろな措置を講じておることも御承知通りであります。またその他の特別の不況産業について、不況対策というものもそれぞれ処置を講じておることも、これも御承知通りであります。私はただこれについて補正予算を出して、そうして何かしろということに対しての根本的の考えを申し上げたわけで、決してすべてのものが、その間においては犠牲を忍べなんということを申しておるわけではありませんで、それぞれの緊急対策はそれぞれにとっておるということを申し上げておるわけであります。
  172. 北山愛郎

    ○北山委員 緊急対策はどんな対策をとっておるのですか。公定歩合の引き下げでしょう。こいつは日本銀行から五千億借りておる大企業の金利負担を軽くするというのですよ。中小企業にはほとんど関係がないですよ。この前の二厘引き下げで、四十億違ったといっておる。富士製鉄だけでも四億円、金利の負担が軽くなったといっておる。そうして今度は独禁法の緩和でもって、これも大企業の救済対策みたいなものです。こういう対策だけはどんどんやっておる。それから在庫融資にも金を貸しておる。しかし中小企業なんかにはどうなんです。どんな対策をとっておるか。
  173. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 経済に対する対策は、ただいま基本的な考え方総理大臣から御説明申し上げた通りでございます。今日経済に対しての見方はいろいろあると思います。確かに不振の状況にあることは、これはもう私どもも承知いたしております。一言にして現段階の経済をどう見るか、こういうことにはいろいろの表現があるだろうと思いますが、私どもは調整の時期にある、かように考えております。前年来の経済活動が大きかっただけに、調整の時期のズレが相当長くなっておる。在庫調整、そういう面におきましてこの調整の期間中においていろいろの問題が生じておる、先ほど来御指摘になりましたような事態はそれぞれの問題だと思います。そこでただいま失業の問題である、あるいは特に中小企業の問題、こういうことで指摘なされたのでございますが、失業の問題については労働大臣からただいま詳しくお話をいたしました。中小企業の面について特に中小企業で今日まで特別な措置をとりましたのは織機関係、繊維関係の中小企業者については特別な考慮をいたして参っておることは御承知通りでございます。金融の面におきましては、総体でいわゆる政府の商工中金であるとか、あるいは中小企業金融公庫であるとか、あるいは国民金融公庫であるとか、こういうような中小企業をも含めての金融機関に対しましては、前年よりも約一六%金額としては増加をいたしておるのでございます。こういう点は三十三年度予算を編成いたします際に、起るであろう経済情勢に対しまして予算自身も組みましたが、やはり財政投融資の面からも、こういうことを一応の想定を立てていたしたのでございます。しかしながら、予想した通りにしからば何もかもいっておるか。もちろんその通りにいかない面もあります。特に繊維関係等において、またその繊維関係においての織物を担当しておる部門、これはほとんどその大部分が中小企業と申していい状態でございます。これらに対してもあるいは金融措置である、あるいは滞貨がはける、あるいは輸出振興の方向に向けるとか、今日まであらゆる努力を続けて参っておるこの実情は、すでに皆様御承知のことだと存じます。
  174. 北山愛郎

    ○北山委員 中小企業の金融の話がありましたから、私調べてみたのですが、三十三年度で財政資金でもってやったのが、政府資金を投入したのは国民金融公庫と中小企業金融公庫とで百十億ですよ。自己資金も入れて去年よりふえたのは三百十五億なんです。ところが全国銀行のいろいろな資料を見ると、全国銀行の貸し出し増、三十一年の上期、大企業に対しては二千五百五十億、ところがそれが三十二年の上期には四千四十三億に五九%ふえておる。ところが中小企業に対しては、三十一年上期には千九百八億あったものが、わずかに一割の百九十六億に減っておるのですよ。そういうふうな中小企業の分が大企業の方に回っておるのです。とても百億や二百億の政府の手当では何ともならない。こういうような中で中小企業は苦しんでおるのです。今申しあげた数字は、政府経済白書にはっきり載っておるのです。しかも都市銀行については、三十一年の上期、中小企業に対して千四十五億の貸し出し増であったものが、三十二年の上期には、むしろ貸し出し増ではなくて、貸し出しが百四十四億減らされておる。千億以上の金が都市銀行において中小企業から減っておるのです。そういうふうないろいろな計数を見ても、どこを探してみても、一体中小企業に対する有効な措置がとられたという証拠がないのですよ。しかも失業についても、倉石労働大臣はいいかげんな答弁をされましたけれども、この前の本会議においても、公共職業安定所の窓口の状況を見てもよくなっているなどというようなことを言いました。ところがこの政府の出しておる統計によると、本年の六月において有効求職と求人を比べてみると、仕事を求める方が百三十八万件、人を求める方が四十五万件、ですから求職の方が三倍です。一年前は二倍ちょっとなんです。だんだん悪くなってきておる。職安の窓口も悪くなってきておる。はっきり出ておるのです。そういうふうにあらゆる指標によっても、不況とそのしわ寄せが、中小企業や労働者、失業者のふえておるというところに行っていることが、あらゆる政府の不完全な統計を見てもはっきりわかる。ところがこれらに対しては何らの対策も立てておらない。ここに問題があるのです。私は、景気の調整だとか、そういうことは政府がお考えになってよろしい。しかしわれわれからするなら、経済政策の犠牲になっておって、何らの救いの手を伸べられておらないところの弱者の立場に立って訴えなければならぬ。政策の転換を要求しなければならぬのです。岸総理は政策の転換をやる気持がありますか。
  175. 岸信介

    岸国務大臣 今お話のような趣旨において政策の転換をする意思は持っておりません。
  176. 北山愛郎

    ○北山委員 一体経済の調整々々というけれども、在庫調整、これは何のことですか。製品在庫の調整が一年たってもできないじゃないですか。在庫指数を見ると、昨年の七月たしか一三三・三だった。ところがことしの七月は一五一で、在庫がふえておるのですよ。一年間たって一体何をしておったのですか。一方では、日本銀行を通じて滞貨融資をして、調整をしないようにブレーキをかけておる。調整になりませんよ。だから滞貨はどんどんふえるばかりです。過剰生産で、一方で消費者のふところには金がないから、物は買えない。そういうふうな悪循環をやって、一体どこに経済の調整があるのです。どこにほんとうの正しい経済政策があるのです。大蔵大臣どうですか。
  177. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 在庫の問題ですが、生産在庫、ただいま御指摘のような面もあるだろうと思います。同時にまた経済そのものといたしまして、原材料そのものの在庫やあるいは設備投資、こういうようなものもあわせて全部を考えて参る。それで過去におきまして、貿易の正常化をはかったり、あるいは設備投資を特に抑制といいますか、自粛願う、こういうような方向で経済の指導をし、一面生産を需給の調整をはかるような方法で指導して参ったのであります。すでに、いわゆる新産業という面において非常な滞貨が生じ、その滞貨に対しては滞貨金融が行われる。これは御指摘の通りであります。同時にまた一面、業者自身の操短によりまして生産を抑制しておる面のあることも御承知通りであります。製品に対する融資というものが、大企業だけがこれで助かっているのだ、こういう見方は経済の実態に必ずしも合うものではない。やはり生産滞貨に対する金融、これによりまして経済全体が助かっておることはいなめない。一つの例をとって申せば、繊維関係が非常にはっきりしておる。先ほど指摘いたしましたように繊維関係では、織物の織る方を担当しておるのは、全部が中小企業者と申していいと思います。たとえば絹、人絹ならば、おそらく織機の台数などは一業者平均が十一、二台、こういうところでございますから、これから見れば、全部が中小企業者と申していいと思います。この繊維関係の絹、人絹の中小企業の諸君がせっかく生産いたしましても、それが売れない。そういう場合に、その生産滞貨に対しての金融が行われる。これは業界全体、中小企業並びにその系列の業界がこれに救いの手を出した。こういうことで、いわゆる滞貨金融というものはその面ではひとり大企業だけだ、こういうものでは絶対ない。企業全体が救われておるということが言えると思います。ただ問題は、かような操短なりをすることは、本来の経済の活動から申しますれば好ましくない、これは申すまでもないのでございます。そういう意味におきまして、私どもはできるだけ輸出を振興していくということをいたすのでございますが、需給調整の過程における自由な業者の操短という場合に、なかなか十分の効果を上げ得ない。ただいま御指摘になりましたように、少しでも生産在庫が減少していくといたしますならば、生産業者としてはそれの水準まで作るような気持になる。今日貿易が非常に不振だといわれる。不振だといわれますが、金額的にはなるほど不足はいたしておりますが、数量的には前年よりもふえておる。あるいはまた国内消費の面においても、繊維関係の国内需要が非常に衰えておるとはどうしても考えられない。しかもなおただいま申すような在庫調整ができない。製品の調整ができない。需給の調整ができない。こういうものはただいま申し上げるように、その数量が減れば、生産の施設がやはり動いて——操短という形のもとで自粛はしておるが、やはり本来の意欲から申しまして、それを生産で補っていく。こういうことで、数量はある一定の数量にとどまっておるということでございます。今日までの景気論争で、在庫の数量についての議論が非常に多い。これは今日までのオーソドックスの議論から申して、りっぱに成り立つことだと思いますが、私どもの見るところでは、過去一年間いろいろ在庫調整について努力が払われた。その間にも日本の国内経済自身はやはり成長しておる。国民の需要自身も太っておる。こういうことを考えて参りますならば、この在庫数量が一体幾らが経済の適正在庫なのか。こういうことをきめてかかることができれば、非常に説明が楽だと思いますが、それのきまらない現状から申しますならば、やはり経済自体が成長しておる。こういう見方をいたしますと、景気そのものに対して在庫の数量が今日非常な重圧を加えておると、一がいにそういう結論にはならないのじゃないか、こういうことも痛感しておるのでございます。在庫についてのいろいろなお話もございましたが、私はただいま申し上げるような見方をいたしております。また金融につきましても、中小企業に直接貸し出すことだけが中小企業金融が円滑になる道だ、こういう見方は、経済の実態から申しますと必ずしも当らないのじゃないか。各産業部門における金融の措置なり、またそれに関連する業界がいかに潤うておるか。これはやはり全体として見るべきじゃないか、こういうふうに私は考えております。
  178. 北山愛郎

    ○北山委員 まあ予算委員会でありますけれども、私はそういう上品な景気論争はしたいとは思わない。というのは何しろ今の不景気とか、そういう関係で困って食えなくなっている人が非常に多くなってきておる。生活が苦しい。その苦しい人たちを守って、生活を安定さしてあげるということでなければ政治家の任務は果せない。政府があってもなくてもいいということになるわけなんです。民主政治とはいえない。ですから、現に困っておる人を助けることを考えるべきだ。そうでなければどんな上品なむずかしい学問的な景気論争をやったってだめですよ。どんどん失業者がふえ、商店や事業所が閉鎖されておる。しかも今のこの苛烈な社会のまっただ中に、来年の春には百三十万の大学や、高等学校、諸学校の卒業生が殺到してくるんですよ。それに対して何らの対策も持ってないじゃないですか。少くともドイツにおいては解雇制限法という法律もあるのです。雇用問題は非常にむずかしいことは私もわかる。わかるけれども、これはあらゆる政党及び政府というものが全力をあげて雇用の問題を考えてやる。経済を運営するのに、その中心に雇用の問題を柱にしていくということでなければ、この日本の雇用問題は解決がつかない、そのくらいの熱意を持たない者は今の政治を担当する資格がない、はっきりそう言いたいのです。だから、私は単に社会党立場でものを言ているんじゃなくて、国民のそういう苦しんでいる人の気持をここで代弁しなければならぬから言っておるのです。  そこで、いろいろ申し上げましたが、時間が足りないので、しかも大蔵大臣は何か所用がおありなようでありますから、先を急いで補正予算の問題をお伺いいたします。  これには本年度の予備費の状態が知りたいわけであります。本会議において、わが党の質問に対して、この点のお答えがなかった。八十億の予備費は今どのように使われて、どういう現状であるか、その現在手元にあるものでも、支出予定のものがあるはずだ。そういうものを差し引けばどのぐらい残るか。新聞によると、五億円くらいしかないんじゃないか、こう言われておる。そういう実態を知りたい。  それから同時に、不況対策は別としても、災害の対策については、必要ならば、補正予算を組むと、こう言われました。このことは、すでに新聞で発表された、あるいは建設大臣が説明をした損害の高から見ても、ことしの予備費の残額では間に合わない。これはもう明らかなんです。従って、補正予算を組むということを早く決定してもらう、この臨時国会に出してもらう、こういうことは、おそらくこの被災地の罹災者の気持だと思うんです。この臨時国会に、早急の調査によって災害の補正予算を組むか、組まないか、私は組んでもらいたいと思う。そのことをはっきりとお答えを願いたい。
  179. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 三十三年度の一般会計の予備金、予算額は八十億計上いたしたのでございますが、九月三十日現在までで使いました使用済みの額は三十八億九千万円、この三十八億九千万円のうち、災害関係が十四億六千九百万円すでに使ったものでございます。かように考えますと、差引残額四十一億九百万円という数字になるのでございますが、今後の使用見込みといたしまして、乳価対策に三億七千万円、災害等に三十七億四千万円、こういうようなものがただいまのところ考えられるのでございます。  そこでただいま御指摘になりましたように、政治のあり方といたしまして国民一人も落後せず、そうして生活自身が向上していく、そういうところに特に意を用いなければならないことは申すまでもないのでございます。こういう意味において、先ほど来失業の問題であるとか、あるいは中小企業の倒産等についてのお話が展開されたと思います。この見方につきまして、また考え方につきまして、私どもも全然同感であります。そこで今日当面いたしております問題、いわゆる経済不況に対して何らかの処置をとって、補正予算を出して、そうして政策変更をすべきではないかという社会党の御議論もたびたび伺うのでございますが、この一般経済に対する対策といたしましては、これまでたびたび申し上げましたように、いわゆる不況対策としての特別な補正予算をただいまのところ組むという結論にまだなっておりません。今日まで三十三年度予算を完全に実施することがまず第一に目的である、かように考えまして、繰り上げ使用その他で指導して参っておるのでございます。先ほど来の労働関係のものにいたしましても、ことしは完全失業六十万ベースで大体予算を組んで参りまして、その数から見ればややその下になっておる。五十七万程度でございまして、数字はやや下でございますが、いずれにいたしましても、六十五万ベースで組んだこの予算、それに近い失業者が出ておるということは私どもまことに残念に思っておる次第でございます。しかし、同時にこの予算の施行の面から見れば、このまま一時——この基本的な考え方から、今日特に失業対策について特別な予算を組まなければならない、そういう必要がある、こういうことは実は考えておらないのでございます。そこで問題は、ただいま御説明申し上げましたように、予備費の残額がきわめて少額になっておる。そこへ持ってきて二十一、二十二という引き続いての台風でございます。特に二十二号台風は多数の人命を失ったばかりでなく、その被害の状況は大へん惨状を呈しておるのでございます。これに対する対策をできるだけ急ぐ、こういう意味で、政府自身すでに現地に対策本部を設けておる。この対策本部を設けておりますのは、緊急、応急の措置をとることももちろんその対策本部の仕事でございまして、今日その日の食糧なりあるいは飲料水なりあるいは薬品なり、各面にわたっての緊急の措置をとることもその目的でございますが、同時に一日も早く調査を終了いたしまして、本格的なこれが対策を立てることに、その対策本部としても取り組んでおるのでございます。在来の災害後の調査なりあるいはその災害調査に基いての予算要求等の査定等、相当の日子を過去においては要しておるように考えますが、私どもは今回のこの災害に対しましては、特にこの調査を急いで、そうしてできるだけ早く査定を終って所要の措置を講じたいと考えておるのでございます。すでに政府自身、総理その他からもお話を申し上げましたように、その結果によりまして、補正予算を必要とするならば、私ども補正予算を組むことについて、決してこれを拒むものではない、この点を御披露いたし、問題はできるだけ早く実情を把握して、これに対する対策、基本的な構想をまとめ上げる、かように考えておりますので、関係事務当局をただいま督励しておる次第でございます。
  180. 北山愛郎

    ○北山委員 災害の問題はあらためて言うまでもないことでありますし、総理が近く現地においでになるという話でもありますから、この臨時国会で早急にやっていただくということを要望しておきます。  先を急いで、減税の公約の問題でありますが、これは公約でありますから、言うまでもない、当然やるということだろうと私は思う。しかもこの前の総選挙における公約というものは相当具体的でありまして、事業税にしても、固定資産税にしても、税率まであげて具体的な公約をなさっておられる。従ってあとは実行の段取りだと思うのです。ところが今与党、政府状況を見ると、いろいろな委員会を作って、税制の懇談会であるとか、何とか小委員会であるとか、いろいろ雑多な委員会でこれを検討し、また地方制度調査会なんかにも諮問をしたりしておるわけなんです。ですから、そんな調査会、委員会等で検討するよりも、あの程度の具体的な公約であるならば、あとは腹をきめて、やるとかやらないとかきめる段階でないかと思う。どうして一体ああいう委員会なんかで手間をとっておるのか、私どもにはわからないのです。やはり総選挙の公約というものは神聖なものだと私は思うのです。経済界の状況であるとか、地方財政の問題であるとかいろいろあるでありましょう。しかしそういうことを当然見込んでやらなかったら、これは政治じゃないのですよ。もうことしの春の選挙のころには大体予測がついたのだから、それを見込んだ上で、しかも低額所得層であるとか、中小企業の減税をしよう、こういう政策を具体的に発表されたのだから、あとは一つ実行してもらう。あまり論議をしないであの公約の通り実行してもらいたいと思うが、この点は総理からお伺いします。
  181. 岸信介

    岸国務大臣 減税の点は、公約の線に沿うて必ず実行するつもりであります。ただ御承知通り、税の問題につきましてはいろいろな関係法令等もございますので、それらのことを手落ちなく十分に研究をし尽すことは当然でありますが、必ずやります。
  182. 北山愛郎

    ○北山委員 それじゃ大蔵大臣に対する質問をもう少し急ぐわけですが、問題はたくさんあるのですが、ことしのこの税の徴収の状況は、きょうの大蔵委員会においてもいろいろお話があったようであります。私どもの聞いているところでは、八月までの国税の徴収状況は、昨年よりも絶対額においても、比率においても落ちておる。また地方税の第一・四半期の道府県税の徴収状況について見ましても、昨年よりも若干後退している。こういうように景気動向というものが徴税の上に反映してきておるわけなんです。しかもこの九月期の主要な法人の決算の見込み等を見ても、やはり利益が若干落ちるということになって、ますます先細りである。こういうことになれば、一体ことしの予算に計上した税が取れるのか取れないのか。私の聞いているところでは、大体予算額くらいは取れるだろうということなので、ことしは自然増収のない年になるわけです。それから地方税においても地方財政計画とほとんどかつかつで、下手をすると地方財政計画よりも下回るのじゃないかというような状況にあるわけなんです。そこで問題は、特に地方財政において減税を実行するということでありますから、きょうあたりの新聞では、大へん昨年度の地方財政は税収も伸びてよかったというのですが、本年の今までの税収状況なんかを見ると、ことしは地方財政もまた赤字に転向するのじゃないか、こういう心配もありますので、その辺のところを自治庁長官からお伺いをしたい。まあ減税は公約でありますから、これは責任を持って実行されるでありましょう。しかしそれを地方財政の現状において、そのワクの中で消化をしろと言われても、これは地方団体は困ると私は思うのです。自治庁長官のその辺の率直なお考えをお聞きしたいし、これに対する大蔵大臣のお考えも聞きたいと思うのです。
  183. 青木正

    ○青木国務大臣 地方財政の今年度の見通し並びに明年の減税との関連でありますが、お話のように、地方財政の見通しにつきましては、まだ年度半ぱでありますので、正確なことはもちろん申し上げかねるわけであります。しかし三十二年度のような成績でないことは私どもも承知いたしております。まあ九月末の決算状況を見なければなりませんが、たとえば法人事業税等におきまして若干減ってくるのではないか。しかしながら全体としては当初の財政計画を確保することはできるのじゃないか、かように考えておるわけであります。しかし明年度の問題になりますと、明年度の税収の見通しも必ずしも楽観を許しませんし、一方また当然増加すべき財政需要、たとえば給与費の問題であるとか、恩給費の問題であるとか、さらに行政水準の維持の問題、こういうものを考えますと、明年度相当の財政需要が増大するのではないか、こういうことも予定されるのであります。従いまして公約の減税は、もちろん党の公約という面からいたしまして、また住民負担の面からいたしましても、これは万難を排して実行しなければなりませんが、さればといってその減税すべき額を全部持ち出して地方財政をまかない得るか、こういうことになりますと、私は非常に困難ではないかと思うのであります。もちろん減税の内容またその方法、それを具体化して参りませんと、これに対して地方財政をどう処理するか、具体的のことを申し上げる段階になっておりませんが、いずれにいたしましても、私ども地方財政の健全化を維持していくためには、減税を一方において実行し、一方において地方財政を守っていく、この二つの問題をどう調整するか、非常に困難な問題と思うのであります。しかし私どもは、一方において公約を実行しつつ、一方におきましては、何とかして地方財政を守るために、地方自体もできるだけの努力をしていただかなければなりません。同時にまた一方におきまして、国家財政におきましてもできるだけのことを地方財政のために力を尽すように、国、地方全体を通じて公約の実行とともに地方財政を守っていく、かような方向に全力を尽して参りたい、かように存じております。
  184. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 税収の八月までの実績でございますが、大体私どもの調べでは、予算額に対して三九・九%の達成、これが八月末です。予算総額は一兆二百五十九億、これは前年の決算額に比べてみまして、約二百四十億ばかり予算額は決算額より少いのであります。この観点から見ますと、昨年の同月のところで比べてみますと、金額的には減少しておりますが、まず総体としては大よそこの目標を達成することができるのではないか、こういう実は見方をいたしております。この八月末のところで前年と比べまして二百八十三億少いのですが、今申すように、総体が減っておることと、同時に八月の終りの日がたまたま日曜日でありましたので、納税が九月の方に繰り延べをされた。それが大体二百億見当だろう、こういう見方をしておりますので、予算額は達成するだろうと思います。しかし今後の状況等をよく見なければなりませんし、九月の状況も見なければなりませんし、一兆円を越す膨大な予算でございますから、この中に一、二分の上下、そういうようなこともあろうかと思います。もちろん楽観は許せるわけではございません。そこで減税の問題でございますが、この収入そのものについては、おそらく地方の方も同じことがほぼ言えるのではないかと思います。そこで今回の公約減税は、中央、地方を通じての問題でございます。中央で減税をいたしました場合に、地方の減税分を全部補てんしろ、こういう強い要望のあることも伺っておりますが、もともとこの減税をいたします場合には、財政の堅実性ということを十分考えていかなければならないのであります。国におきましては国の財政、地方財政においては地方の財政、こういうことをただ税だけの問題でなしに、全般として十分考慮をしまして、そしてその健全性を確保して参りたいと実は考えております。ただいまのところ、減税案の具体的な金額等もまだ出ておりませんし、また来年度の予算の規模等も明確でございませんから、ただ基本的な考え方でけを御披露いたす次第であります。
  185. 北山愛郎

    ○北山委員 いろいろ問題点で聞きたいことがありますが、財政関係で最後にちょっと——明年度の予算編成のことなんです。これについてはすでに先月、自民党の方から予算編成の基本方針が出ておるわけです。政府、与党の懇談会で了承されたといわれておるのですが、それにくっついておるいろいろな来年度の歳入あるいは歳出の見通し、これについて私は若干疑問を持っておるので、大蔵大臣からお伺いしたいのですが、かりに来年度四、五%の経済成長があったとして、八百億なら八百億の税の伸びがあったとしても、おそらく来年度も今年に比べて、若干余裕になる財源は、いわゆる当然増といいますか、当然起ってくる財政需要の面に使われてしまって、健全財政を守る限り、新しい施策の経費財源はどこにもないのじゃないか、こういうことになるのです。ちょっと参考までに私申し上げます。八百億の税の増収があるとします。五百億減税をする。そうすると、その面では三百億ふえるわけなのですが、ところが繰り越し剰余金、これが今年に比べて約二百億減るのじゃないか、それから雑収入が百億くらい減るのじゃないかということになりますと、自然増八百億にしても、五百億の減税をすれば、ことしとほとんど財政規模は変らないということになってしまう。新しく使えるのは、例の二百二十一億のたな上げ資金の取りくずしと、それから今年四百三十六億たな上げしたこの分が来年度は不要になりますから、それをほかの方に使える。ですから、約六百五十億くらい使えますか。ところが給与費その他において当然起ってくる財政而要の増額というのは、約七百億くらいと言われております。そうすれば、六百五十億というのはそっちの方に吹っ飛んでしまって、国民年金であるとか、すし詰め教室の解消であるとか、そういうふうな施策の財源はどこにもないのじゃないか。私の言うことは間違っておるかどうか、大蔵大臣から聞きたいのです。
  186. 佐藤榮作

    ○佐藤国務大臣 ただいまの段階では、歳入予算といいますか、歳入の状況についての正確な数字がまだつかめない、その意味で非常に問題があるわけでございますが、ただいま北山さんの言われましたように、来年度予算編成が楽じゃないこと、これはもう御指摘の通りでございます。これは各方面におきまして一般会計は相当苦しい思いをする。これは自然増収や繰越金やあるいはたな上げ資金、あるいは既定経費等の節減等をいたしましても、なかなか予算編成では苦労の多いことは、実はただいま憂慮しておるような実情でございます。しかしながら、私どもはあらゆる工夫をいたしまして、公約実行について、特に減税あるいは社会保障制度、そのうちでも年金制度の創設等については特に公約を忠実に実施する、こういう意味でいろいろ苦心しておる状況でございます。
  187. 北山愛郎

    ○北山委員 この点はもっと詳しくお伺いしたがったのですが、時間もないようですから後日に譲ることにいたしますが、とにかく国民年金にしても、来年から再来年というように非常にふえてくる。厚生省の第一次試案によっても、再来年は五、六百億になるでしょう。それから軍人恩給もふえてくる。しかもことしの国税の自然増がほとんどないとするならば、再来年の繰り越し剰余金というものは、ほとんどないということになるわけなんです。従って三十四年から三十五年、非常にこれは財政的に苦しい状態になるのじゃないか。国民年金をやり、しかも軍人恩給も支給し、さらに今度は安保条約改訂して自主防衛をやろうとしている、戦闘機をどんどん高いものを買い込もうとする、こういうことで一体経済計画は立っていくんですか。一体企画庁長官、そういうことを考えていろいろな施策が行われているのですか。
  188. 三木武夫

    ○三木国務大臣 長期計画で日本経済の、昭和三十七年度を目標としておる経済の成長率は、そういうあり得べきいろいろな問題をその中に勘案して長期計画は作られておるものであります。
  189. 北山愛郎

    ○北山委員 その経済計画というものが、日本の計画はほんとうの計画じゃなくて、選挙のときには役に立つかもしれません、五ヵ年計画によってやれば五百万人の雇用を与えることができるというような、宣伝には都合がいいかもしれませんが、その計画の通り実行されたためしがない。今まで戦後十一回経済計画があった。五ヵ年計画が十一回くらい。毎年平均一回ずつ五ヵ年計画を作るというような状態です。そんなような経済計画では、今の問題は解決はつかぬのですよ。やはり現実は今大蔵大臣が言ったように、三十四年度は苦しいんです。ものすごく苦しいんですよ。これは自民党の政調会長が言うような、千五百億も財源があるのだというような状態では私はないと思う。三十五年度になれば、なおさら苦しい。こういう際にしっかりとした計画のもとでなければ、安保条約改訂なんかはやれないはずなんです。思いつきで、自主性を与えるなんということでアメリカとつき合っておったらひどい目にあうのですよ。こういう点はしっかりと考えて、そうして軍人恩給をきめるにしても、あるいは国民年金をきめるにしても、こういうような、将来において大きな財政需要を要するようなものは、経済的な計画の中で十分検討してやってもらわなければならぬと思う。現実につまずいておる。  まだいろいろ申し上げたいことがありますが、財政経済の問題はその程度にいたしまして、最後に私は総理に聞きたいのですが、労働者に対する考え方です。私どもは社会党の政策だとか、政党の基盤だとかいうのじゃなくて、一体労働者を政府や保守党の人はどう考えておるか。この世の中で何が一体大事か。労働者が一番大事なんです。われわれが現在着ているものだって、ここにある物みなだれが作ったかといえば、労働者が作ったのです。われわれが毎日食っているのは、農民が作り、漁民がとっているんです。そういう人たちの働きがなければ、一日として社会は立っていかないのです。農林大臣はいなくてもいいが、農民がいなければ米はできないのですよ。(「中学の社会科のようなことを言うな」と呼ぶ者あり)その社会科をのみ込んでおらないから申し上げる。忘れておる。一番大事な労働者というものがこの社会をささえ、人類の歴史をささえてきているのです。従ってその労働者に対しては、尊敬を払わなければならぬ。労働は神聖なりというけれども、これはうたい文句でなく、現実にありがたいのです。ところが今の社会では、労働者というものは手間でもやってかせがせる道具のごとく考えている。それで一体いいんですか。昔はそれでよかったかもしれないが、だんだん諸外国も進んできて、労働者の社会的な地位が向上し、権利が与えられてきておる。ILOにしても、そういう線で日本よりも、労働者に対する権利あるいは労働者に対する考え方、こういうものが進んできているのですよ。ところが、日本では、労働者が少し団体行動でもすると、不逞のやからは小菅へでも追っ払えと言うような労働大臣がいる。そんなことでいいのですか。もう少し労働者というものの社会的な地位、その働きというものを認めた上で労働政策を考えてもらいたい。資本家はなくてもやっていける国があるのですよ。しかし、労働者のいない国はないのです。そういう私の言うことが正しいかどうか。そういうところに立って政治をやることが民主主義であって、ただ法律にきまっているから法秩序を守るんだ、違法は取締るんだというようなことでは、これは民主主義じゃないのです。法律の秩序を守るということは独裁国でもできる。むしろ独裁国の方がやる。民主主義のほんとうの真髄は、その法秩序というものが民衆の気持を時々刻々に反映して、悪いものはどんどん直していけるという態勢こそが民主主義なんです。法律があるから何でもかんでも押しつけるんだというのは、これは独裁国じゃないですか。だから私は、本会議岸総理が、法秩序を守ることが民主主義の支柱であると言ったことは誤まっていると考える。むしろ、法秩序というものが、この社会の実態と民衆の意思に従って、固定しないで流動してだんだん変っていく、ここにほんとうの民主主義があるのです。ただ法律の秩序を守るだけなら、ヒトラーの国でも守るのですよ。これは民主主義じゃないのですよ。これは答弁は要らないけれども、その点をよくお考え願いたい。そして労働者に対する考え方、この点については、一つお答えを願いたいのですが、特にこういうような経済不況の際においては——普通の場合には、資本家と経営者、それから労働者が一緒になって物を作っていく。ところが、不況になれば労働者はお払いですよ。お払いになれば生活の問題です。経営者や資本家は、損をして金をもうけそこなったという程度で済むかもしれないが、労働者は協力して、先ほど申し上げたような重要な社会の働きをしておりながら、首になれば食えなくなる。こういう状態でいいかどうか。もう少し労働者なり、あるいは労働そのものについて正しい感覚を持っていかなければ、ほんとうの民主政治はできない。これは保守党においても同じことだと考える。従って、今の何が何でも法律に合わないやつは、警察権でもって取り締るというような労働政策は、私は誤まりだと思うから申し上げるのであって、その点についての一つ岸総理のお考えを聞きたい。
  190. 岸信介

    岸国務大臣 労働というもの、また労働者を尊重すべきことについての北山君の御意見については、私も全然同感でありまして、これはその通り考えております。しかし、私どもが法秩序云々ということを言ったことに対してお話がありましたが、私は、法秩序ということは、民主的にでき上った法秩序を守るのか、あるいは独裁者がきめた独裁的な法秩序を守るかというところに、民主主義と独裁との非常に違いがあると思います。われわれは、もちろん一たび設けられたところのものが永久に不変だとは考えておりません。すべて法秩序は民主的に作りしげられ、また民主的にこれが改変せられていくということが民主主義での根底あって、それを各人が思い思いに、自分の気に入らぬものはこれは不当であり不法であるとして、これがちゃんと民主的な方法によって改変されずして、これを乱すということは、私は、民主政治において許せないものである。こういう考えでございまして、労働及び労働者に対する考えにつきましては、北山君のお考えに対して、敬意を表して同感であることを申し上げます。
  191. 楢橋渡

    楢橋委員長 この際お諮りをいたします。先般本委員会におきまして、国政調査のため各地に委員を派遣し、その実情について調査をいたして参りましたが、その報告書が委員長の手元に提出されております。これを会議録の末尾に参照として掲載いたしておきたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  192. 楢橋渡

    楢橋委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう取り計らいます。  本日は、これにて散会いたします。     午後六時三十五分散会