○大原亨君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
政府提案にかかる
最低賃金法案に対し、われわれが何ゆえに反対をするかという見解を明らかにせんとするものであります。(
拍手)
政府提案に反対をする第一の
理由はこの
法律案が業者、つまり、
使用者の一方的なる賃金
協定を骨子とするいわゆる業者間の
協定であって、似て非なる
最低賃金法案であるという点であります。すなわち、
政府案によるならば、最低賃金の制度として四つをあげ、その第一は、業者間の初任給の
協定によるもの、第二は、業者間
協定の
地域的効力の拡大、第三は、
地域的労使
協定による最低賃金の効力拡張の方式で、
中小企業未組織の現状では不可能であり、以上三つの方式で決定することが困難または不適当と認めたとき、つまり、万策尽きた場合は、行政官庁の職権、つまり、
審議会に諮問して最低賃金を決定することができるのであります。全文を通じて、この
審議会は業者の取りきめを是正する余地は全くない。事実上、消極的に、この
審議会は、ノーかイエスかをきめるだけの機会を与えられるものにすぎないことも明らかであります。(
拍手)
この
法律体系を貫くものは、まぎれもなく、第一方式を基礎とする業者間
協定であります。しかも、この第一方式による業者間
協定は、
関係使用者の全部の合意による申請がなければできず、第二方式による、その
地域的効力拡大の場合においては、適用を受ける
使用者の大部分の合意によって申請されることを
条件としており、この結果、業者の最低の意思によってその賃金額がきまる。しかも、この場合、御念の入ったことには、第十二条で、業者の
異議の申し立てと適用除外をきめておるのであります。その結果、この最低賃金は、労働者の賃金の最低を保障するものでなく、逆に、複雑きわまる手続によって労働者の賃金を最低に押えてこれを釘づけにする、ひどい仕組みの法案であると断定することができるのであります。(
拍手)
しかも、驚くべきことには、
政府案の第三条によりますると、「最低賃金は、労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力を」考えてきめるとあって、第一に労働者の
生活を保護するというように表現しながら、法案の中には、どこにもこの裏づけをしていない。この最低
生活費の算出について一片の保障もない。このことは、逆に言えば、労働者に対して保障された
憲法の基本権と、労働法、労働基準法にうたわれた労使対等の原則、
労働条件のかなめともいうべきこの賃金決定の原則をじゅうりする、既得権剥奪の
改悪法案と断じてはばからないところであります。(
拍手)
諸外国の立法の例を見ましても、イギリスのような最低賃金に関する
産業別の統一労働協約を基本とするもの、フランスのように、
全国一律の最低賃金制の上に労働協約の効力拡張を行うもの、もう一つは、労働の再生産費を基礎として行政
委員会が合理的に決定するという、三つの類型があるのであります。
日本の場合のように、業者の一方的取りきめに法的効果を付与するという
法律は、国際社会に顔出しのできない珍無類のものといわねばなりません。(
拍手)しかも、今日世界の四十数カ国が批准をいたしておるILO
条約の中の「労働者の意見に対し
使用者に対すると同様に均等なる考慮」を払わねばならないという条文に明らかに抵解し、また、最低賃金
審議会の機能も、ILO
条約の三者構成の
機関を通じて取りきめるべきであるという決定に違反する弱体の諮問
機関であり、国際舞台で認知され得ないところの私生児といわなければならぬのであります。
さらに、業者間
協定の正体とともに、この際われわれが明らかにしなければならない点は、
政府が、実態に即するとか、あるいは混乱を避けるとかいう詭弁のもとに、最低賃金を業種別あるいは
地域別にきめるというやり方についてであります。
政府は、十年余にわたってたなざらしにしてきましたところの、労働基準法の中軸ともいうべき第二十八条より第三十一条の最低賃金に関する
規定の存在を無視いたしまして、
昭和三十二年四月、労働次官通牒によって、御自慢の業者間
協定による最低賃金を実施してきました。法秩序と
法律万能の権力亡者と化している
岸内閣の手前勝手の
法律論も許しがたいところでございますけれども、この次官通牒によって、この業者間
協定は、労働省の
関係機能をあげて今日まで実施いたしてきました輸出
産業関係など、まとまりのある、取りつきやすいところから手がけており、その中で、本年八月末までに四十八件、適用対象労働者は三万六千名、当局側の
答弁によっても、最低賃金の対象となるボーダー・ライン層の
日本の労働者数は増大の傾向にあるが、今千三百万人で、本法の実施で手続は煩瑣になり、かりに、すべり出しのスピードで行く計算をいたしましても、実に五百八十一年七ヵ月と六日間もかかるのであります。百年河清を待つという言葉がありますが、五百年を過ぎても河は濁っておる。
しかも、今の実績によりますと、新中卒が四千円台で、三千円のものもあり、労働者が未組織である結果、実施と差しかえに寮の食費が上ったり、
労働条件がきびしくなったり、年寄りが首になったりするという
実情も少くないのであります。第一線の基準監督官は現在でも手一ぱいで、基準法が守られていない。つい先日も、寮におけるむざんな焼死事件がございました。監督が行き届いていない証拠であります。本法実施に当っての予算的裏づけはほとんどない。これでは全然本気でやる意思がないといっても過言でないのであります。(
拍手)ある基準監督行政のエキスパートが、こう言いました。「今の基準監督官に対しても、違反の目こぼしをしてもらいたいために誘惑が多いのに、今度これができたら大へんだ。業者の全部の合意とか、大部分の合意が必要であるし、一円でも低くきめたい。そのために、監督官に対して、昼飯のときには昼酒、夜は夜酒、一晩泊ってまた朝酒。この法案は業者との酒飲み法案である。」といっておるのであります。
かくのごとき欠陥を持つところの法案であっても、どうしてもやりたければ、従来通り次官通牒でやったらどうか。あるいは、
最低賃金法案という、まぎらわしい名称をやめたらどうだろうか。なぜならば、業者の賃金カルテルに
法律上の効力を与えることは、世界に対して無知を暴露し、
日本の
国会の権威にかかわるとさえ考えるからであります。(
拍手)この法案は業者の賃金カルテルであるから、むしろ、労働基準法の体系からはずして、労働大臣の所管から通産大臣の価格
政策の所管に移すことが至当であると考えるのであります。(
拍手)しかも、
政府案によれば、わが党案のごとき、家内労働についての具体的取りきめはなく、これは苦汗労働を出発とする最低賃金制の歴史的経験と、
日本の実態を無視する底抜け法案といわなければなりません。
次に、
政府提案にかかる本案の趣旨
説明に繰り返し述べられている、賃金格差を是正するという立法の本旨と、その正体についてであります。さすがに、倉石労働大臣も、
日本の賃金格差は大
企業の労働者の賃金が高過ぎるからだというふうな、
諸君の選挙演説のようなことは言わない。全労の滝田会長が、去る参議院の商工
委員会の公聴会で、「国鉄労働者の三五%は、せびろ一着しか持っていない。紡績工の八%はオーバーを持っていない。つまり
国内の需要をさらに引き上げることで
不況打開の余地がある。」と述べております。岸兄弟
内閣には頭の痛いドイツ保守党のエアハルト
経済相も、
日本の低賃金が
日本経済発展のガンであると指摘いたしておるのであります。(
拍手)
日本の今の
経済の課題は、うちにおいていかに
国民の
生活水準を引き上げるか、ここに政治の重点を指向すべきであると考えるのであります。最低賃金制は、
国民生活水準
向上への踏み切り板であります。完全雇用と相待って社会保障制度をささえる二つの支柱であると、
社会党は主張いたしておるのであります。
日本における賃金格差の中で、業種別、
地域別、男女別の格差よりも、最も注目を要するものは、
規模の大小による賃金格差の大きい点であります。製造業は、五百人以上を一〇〇とすれば、五人以下は実に三六・六であり、これらは、社会保険も不完全、世界でもたぐいまれなる格差といわなければなりません。この
企業別格差の原因は何か。有効なる最低賃金制の実施せられていないこととともに、
日本経済の二重構造といわれるものであり、
中小企業の破局的経営難にあるのであります。
では、一体、
中小企業をだれがこんなに苦しめているのか。税制においても、大資本には特別の減税
措置がある。取り方にも手心が加えられ、
金融も、大資本は国の投
融資や財閥系列下の銀行をもって何の不自由もない。
金融引き締めも、そのしわ寄せを受けているのは
中小企業であり、購入資材、原料、電気料金も割高であり、製品は中間搾取で買いたたかれる。
岸内閣の独占資本擁護の
政策のひどいしわ寄せを受けて、格差はますます増大しつつあることが、
審議を通じて明らかになった事実なのであります。
それに加えて、また何たる暴挙か。今回、
国会におきまして、
岸内閣は、
中小企業の経営者並びに労働者など、一般消費大衆の総反対を押し切って、大
企業の合併、独占価格の
協定による、ぬれ手にアワのつかみ取り、カルテル、シンジケート、自由自在の独占
企業禁止法の大
改悪を強行せんとしていることは、弱小
企業経営者とその労働者とを虐待する、非人道的なる暴挙といわなければならぬと思うのであります。(
拍手)このことは、世界の大勢である独禁法強化、あるいは
基幹産業社会化の流れに逆行するものであり、この増大する格差の上に有名無実の底抜け最低賃金法を実施して、
中小企業労働者の低賃金をくぎづけ、大
企業利潤の拡大に奉仕する反動
政策として非難されなければならぬと思うのであります。特に、現
政府には、最低賃金制と真剣に取り組む、これの裏づけとなるところの
中小企業に対する総合的
施策が全く取り上げられていないということを、ここに私は
報告しなければなりません。
岸内閣の
政策が一貫して持つ特色は、金のかからぬ反動利権
政策、警察と教育の中央集権化しかり、勤評しかり、農民には安上り農政、独禁法
改悪、あるいはグラマン汚職しかり、この最低賃金制もその一つであり、警官職務執行法に至っては、天人ともに許すととのできない暴政であります。社会問題を真剣に解決することなく、口先で
国民を歎き、
国民大衆を
法律と権力で取り締るおかっぴき政治、このような反動政治に対し、私は
社会党を代表して断固反対を表明するとともに、そうして、合法の仮面をかむり、数の力で道理を押し切らんとする
岸内閣の命運は必ずや近く歴史的な審判を受けるであろうことをここに警告いたしまして、私の反対
討論を終る次第であります。(
拍手)