○門司亮君 私は、ただいま
議題となつております
警察官職務執行法の一部を
改正する
法律案の
内容につきまして、
社会党を代表して質問をいたそうとするものでございます。(
拍手)
この世紀の悪
法案ともいうべき
警察官職務執行法の
改正に当りまして、まず、私は、
法案全体からくる感じといたしましては、
法案の
説明の中にもございましたように、現在の世情にかんがみ、
現行法を強化する必要があると認めてお出しになつたと思うのでございます。そういたしまするならば、現在の世情はきわめて悪化をしつつあるということを
政府当局が認めて、かような
法案を出されたと考える。私は、かような
意味において、
岸総理大臣に
提案の
責任者としてお伺いするのでございますが、今日の世相の悪化と考えられておりまする幾つかの要素は、
国民自体がこれの
責任を負うべきものか、政治の
責任者である、
政府当局の
責任者であります
総理大臣みずからがこの
責任を負うべきであるかということを、まずお聞きしておきたいと思うのでございます。(
拍手)
今日の世相は、
政府の経済施策の誤まりが数百万に及ぶ失業者を出しておることは御存じの
通りであります。働こうとしてその職場を得ることができない、働いて賃金を得ることによつてのみ生活の道を持つておりまする数百万の労働者に職を与えない、
政府の当路者のこれに対する処置が、どうされておるかということを考えなければなりません。(
拍手)同時に、辛うじて職についておる者と申し上げましても、経済の不況は賃金の上昇の頭打ちになる、低賃金によつてその生活を保障するかてを得られないといたしまするならば、これまた、
国民生活はきわめて不安にならざるを得ないといわなければなりません。
卑近な例を申し上げましても、御承知のように、来年の春大学並びに高等学校を出て参りまする、百三十万といわれておりまする、新しく職を求めて学窓を巣立ちまする、これらの将来に対する希望と理想を持つた青少年は、その何パーセントが今日就職の保証がされ得るでございましようか。(
拍手)
岸総理は、
施政演説の中に、青年に希望を持たせることがわが国の将来のためにきわめて重要なことであり、そういう施策を講ずると言つておきながら、この来年の春学窓を出る
諸君に対する就職の不十分なる保証しかし得ないときに、どうして青年、少年が将来への希望と理想を持つことができるでございましようか。(
拍手)この百数十万の学窓を出て参りまする青少年は、前途に暗い影を投じられておるということはいなめない事実である。これは
諸君も御承知の
通りであります。(
拍手)
さらに、今日、経済施策のあやまちからくるこの不況の中において、中小の商工業者の今日の不況の現状は、
一体何を物語り、何を
政府に
要求しておるでございましよう。彼らの生きる道は、今日のこの不況に対する当面の施策としても、補正予算を組んでいただいて、彼らの生活を維持することのために十分の手当をしてもらいたいというのが、これらの
諸君の切実なる生活を守るための
要求である、しかるに、
政府は、そのための補正予算を組まないということを断言しておるではありませんか。
さらに、
政府の行なつて参ります数々の反動政策、これらの幾多の
政府の施策に基く政策の誤まりと反動政策の強行が今日の社会の情勢のいろいろな問題をかもし出しているものであるということは、よもや内閣
総理大臣も否定はされますまい。(
拍手)しかりとするならば、
警察官の
職務執行法を強化することによつて、今日の世相をあげて
国民の
責任に転嫁しようとする、みずからの政治
責任を感じない処置に対して、
総理大臣はいかようにお考えになりますか、まず質問をしておきたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、私は、この
法律のすべてを貫きまする
精神は、あげて今日の民主
憲法に非常に大きな背反をするもののあるということを指摘しなければなりません。
憲法二十一条には、御承知のように、「
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由はこれを保障する。」と書いてあります。これらの
集会に対して、もし
公安の
秩序を乱すようなものがあると
警察官が
認定するならば、その場に入つて行つてこれを勧告し、
制止することができる。いわゆる言論の場でありまする
集会に対して、これの中止、解散を命ずることができるということは、明らかに二十一条違反と申さなければなりません。(
拍手)
さらに、二十八条には、勤労者の団結と団体の行動をこれまた
憲法が保障いたしておるのでございます。しかるに、
政府の
提案の
理由を見てみまするならば、先ほど申しましたように、労働者がやむにやまれない実情のもとに団体の行動を行いますのに対して、一
警察官の、単なる
公共の安全と
秩序を維持することがどうかという判断に基いてこれを抑制し、これを
制止することができるということは、明らかに労働者に与えられた団体の行動の保障に対する違反事項といわなければなりません。(
拍手)
さらに、
憲法二十九条には、御承知のように、「財産権は、これを侵してはならない。」ということが明確に書いてあるのでございます。しかし、この
法律の
内容を見てみまするならば、たといそれが虞犯少年の所持するものにいたしましても、これを取り上げることができる。しかも、これを一時保管して、返す場合においても、他人にこれを返すことができるというように、財産権の侵害は明らかになつておるでございましよう。(
拍手)
さらに、問題になつておりますものは、先ほど中井
委員も指摘をいたしましたが、
憲法三十三条の、何人といえども
現行犯以外は司法官憲の
令状がなければ逮捕されないというこの条項を、
現行法におきましてはこれを少し広げて、この
令状がなくても三年以上の重い刑に対する犯罪を犯した者については逮捕ができるかと存じますが、こういう厳然たる
憲法の
規定があるにもかかわらず、保護という名に隠れて、虞犯少年その他に対して、あるいは
精神病者であり、年少者であるということによつて、これを戒告し、逮捕し、監禁することができるというこの条項は、まつこうから
憲法三十三条の違反といわなければならぬと考えておりますが、この点についての御
説明を願いたい。(
拍手)
さらに、
憲法三十
五条には、御承知のように、「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な
理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する
令状がなければ、侵されない。」ということがはつきり書いてある。しかるに、あの立ち入りという文字を使うことによつて、
現行法の幅を広げて立ち入りを自由にさせるということが、もし単なる出先の
警察官の
認定によつて行われるといたしますならば、明らかに三十
五条にこれまたまつこうから違反すると同時に、従来おそれられておつた臨検が明らかに行われる
可能性を持つということを考えるのであります。
これら幾つかの
憲法条章に違反する
内容を持つておりますこの
法律案に対し、岸首相はいかなるお考えをお持ちになつておるか、まず私は、そのことをお伺いしたいと思うのでございます。(
拍手)
さらに、その次にお伺いをいたしたいと思いますことは、この
法案の中にあります
公共の安全と
秩序ということを一
警察官が
認定することができて、そうして、この条項に基いて、先ほど申しましたような、
大衆を抑圧したり、あるいは財産権を侵害したり、あるいは団体行動に対して制約を加えるというような、いろいろな幾つかの
憲法違反を容易に行うことができると思いますが、この
警察官の職務というものを
一体どういうふうにお考えになつておりますか。今日の
警察官は、
法律に定められた範囲における捜査、いわゆる
警察法にはつきり書いてありますように、捜査あるいは犯人の逮捕、あるいは犯罪の予防を
警察官の任務といたしております。その出先の
警察官が、
警察法に定められたこの
警察官の任務以外に、単に自己の
認定によつて、
公共の安全と
秩序を乱すおそれがあるということを
警察官自身が
認定するということは、
警察官の職務の執行の範囲を越えたものといわなければならないと考えるのでございます。(
拍手)この
公共の安全と
秩序ということは、非常にむずかしい解釈を幾つか持つておると私は考える。これに対しましては、裁判官といえども容易に判定を下し得ないものであるということは、私は
政府当局が御存じだと考える。従つて、今日の
現行警察法におきましても、
公安委員会その他の議を経て、いろいろな手続によつてこれらの問題に対処することができるということは、明らかに
警察法に書いてあることも、御存じだと私は思うのでございます。これに対しまして、これを一
警察官にその
認定をまかせるということになつて参りまするならば、これの乱用こそは、きわめて
国民の権利と自由を侵害する大きな問題にならなければなりません。
これに対して、私が思い起しますることは
昭和二十三年、この
現行法のできまするときに、ちようどこれと同じような文字が第二条に挿入されておつたのでございます。当時、われわれは、GHQとの間に十分なる交渉をいたして参りました。この条項は、乱用される場合にはきわめて大きな危険を持つからということを
理由にして、全会一致をもつて削除した記憶を持つておるのでございます。(
拍手)われわれは、
現行法の基本をこしらえまするときに、与野党一致して、この意見のもとに削除いたして参りましたその案文が、再びこの
法律の中には二カ所も三カ所も出てくるということは、奇怪しごくであり、かつ危険千万でなければなりません。(
拍手)私は、このことがもし乱用されて参りまするならば、先ほど
猪俣君からも心配をいたしましたように、過去の治安維持法や、あるいは
行政執行法、
治安警察法等が、当然また姿を変えて善良なる
国民の前におおいかぶさるであろうということをきわめて憂えるものでございますが、その憂いはないかどうかということについても、一つ御
説明が願いたい。(
拍手)
さらに、
総理大臣は、かつての演説の中に、
民主主義を尊重すると、
民主主義の尊厳を認められております。もし、
総理大臣が
ほんとうに
民主主義を尊重して、基本的の
人権と、人としての自由を認められるというお考えがございまするならば、私は、こういう
法律案は出せないと考える。なぜかというならば、正しい社会の
秩序というものは、
国民一人々が、いかなる人といえども
基本的人権が尊重されて、人としての自由が確保されて、その上に保つ社会の
秩序というものが
民主主義国家におけるあり方でなければなりません。(
拍手)しかるに、先ほどから申し上げておりまするように、幾つかの、
憲法を侵害し、人としての
基本的人権を侵し、自由を束縛する
内容を持つ
法律案を
提案して、権力によつて社会の
秩序を保持しようとすることは、明らかに、フアッショ国家というか、あるいはこれを
警察国家というか、独一裁国家というかにほかならないと私は思うのでございます。(
拍手)この点に対しましても、明確なる
総理大臣の御
答弁を私は
要求するものでございます。
さらに、最後に私が十分
総理大臣の所信を伺わなければならないと思いますることは、先ほど中井君その他からも申し上げられたことでございますが、今日、この
法案が突如として
国会に
提案されまして、まだ幾日もたちません。幾日もたつておりません今日、
世論は、
新聞を初め、学者にいたしましても、日ごろ
法律、政治に比較的無関心でありまする文化人にいたしましても、さらに婦人団体にいたしましても、あるいは労働組合等、幾多の民主的団体を通じて、ほとんど
国民全部の階層から、今猛烈な
反対があるということは、御承知の
通りであります。総理は、
民主主義を尊重するというならば、当然この
世論に対して十分なるお考えがなければならないと私は考える。この世紀の悪法ともいうべき
警察官の
職務執行法の
世論の
反対に対して、
総理大臣はいかようにお考えになり、また、いかように処置されるかということを最後に質問を申し上げまして、私の質問を終りたいと思います。(
拍手)
〔国務大臣岸信介君
登壇〕