○赤松勇君 私は、日本
社会党を代表いたしまして、ただいま上程されました
政府の
最低賃金法案に対し、二、三お伺いしたいと思います。
顧みれば、
わが国において、
最低賃金制度の
確立が、
労働者、識者、そして
一般世論の間に叫ばれまして以来、実に長い年月が過ぎ去
つたのであります。この間、多くの、あらゆる階層の人々によ
つて、いろいろな角度からこの問題が論議され、その中から、今日幾つかの結論を得るに至りました。その一つが、ただいま上程されておりまする
政府の
最低賃金法案であります。しかし、私たちがその
内容を詳細に検討した結果、まず第一に感じさせられるのは、そうした長年月にわたる
幾多の議論の集約としては、あまりにもお粗末であり、かつ、国際的ヴィザを持たない私生子的
法案であると認めざるを得ないのであります。(
拍手)
言うまでもなく、今回の
政府案は、
最低賃金の
決定について、第一に
業者間協定、第二に
業者間協定の
地域的拡張、第三に
労使協定の
地域的拡張、さらに第四には
行政官庁の
決定という、
四つの方法によ
つて最低賃金を
決定することを
内容としております。しかも、その中心は
業者間協定であ
つて、それを
最低賃金決定の第一義的な
方式として採用しておるのであります。
そこで、私は、まずこの問題を中心として、幾つかの角度から
政府の見解をただしたいと思います。
第一は、
最低賃金法制定の目的と、
業者間協定に基く
最低賃金との
関係についての問題であります。最賃法の目的については、ここに多言を要せずして、すでに国際的理念として、
労働者の最低
生活を
確保することにあることは、広く
一般の認めるところであります。平たくいえば、
労働者に食
つていける
賃金を保障することが
最低賃金法本来の目的でなければなりません。もちろん、
最低生活費といい、食えるだけの
金額とい
つても、それをどのように計算し、何を尺度として測定するかという問題は、おのずと議論が分れるところであり、また当然なことであります。それを
実態生計費によるか、理論生計費によるか、ないしはマーケット・バスケット
方式によるか、こういう問題は確かに残ると思うのであります。しかし、いずれにしても、
労働者がそれで生きていけるだけのものであることが、それを法的秩序として保障することが
最低賃金制のねらいでなければならぬと思うのであります。(
拍手)ところで、
業者間協定は、本来、
賃金に関する
業者間の
不当競争防止を目的としたものであ
つて、それ自体、
労働者の
生活を保障し、ないしは救済しようとするものでは断じてないと、われわれは考えるのであります。(
拍手)すなわち、それは、現在巨大
企業等で行な
つている
製品価格についてのカルテル協定と全く同種のもので、ただ、そのカルテルの対象が
賃金であることにほかならないのであります。(
拍手)すなわち、目的の全く異な
つている
業者間協定を無理やりに最賃法の中に押し込めんとしたところに、
政府案の第一の
決定的な矛盾があると思うのであります。(
拍手)ここで、私は
最低賃金法の初歩から、まず
政府の見解をお尋ねせざるを得ません。
政府は、
最低賃金法制定の第一義的目的が
労働者の最低
生活を保障するためのものであるという、そういう深い認識の上に立
つてこの案を立案されたのかどうか、まず、そのことをお尋ねしたい。もし、そうであるとするならば、何ゆえに目的の全く異
なつた
業者間協定最低賃金決定の最も大きな柱としたのか、それを主柱としたのであるか、この点について、
政府の一致した見解を、総理みずから明確に御答弁願いたいと思うのであります。
以上の最賃法の目的と関連して、私は、また別の角度から質問をしてみたいと思います。
最低賃金法の目的が
労働者の最低
生活を保障するものであることは、ただいま指摘した
通りでありますが、そのことは、具体的には、広範に存在する低
賃金を最賃法の
制定によ
つて解消し、特に日本における
賃金構造の特質である
賃金格差を是正することが直接の目的となるわけであります。従
つて、最賃法が考えられる場合に、まず第一に考慮されなければならぬことは、低
賃金階層がどのような形で
構成され、さらに、
賃金格差がどの点において最も深刻化しているが、日本における
賃金格差の特徴は何であるかということが非常に重大な問題にな
つてくると思います。ところで、
政府案は、
最低賃金の
決定を事業、
職種、
地域別に定めることが適当であるとし、それに即応する
方式を
業者間協定に求めているのであります。この
方式は、日本の
賃金格差の特徴を
業種別、
地域別格差としてとらえた結果にほかなりません。ここに、最賃法立案の前提である現状認識の把握において根本的な誤まりが存在していると思うのであります。(
拍手)
私は、何ものにもとらわれない客観的な立場に立
つて、日本における
賃金格差の特徴について
政府の注意を喚起したいと思うのであります。なるほど、
政府が指摘するように、
業種別、
地域別、そういう
格差が存在することは確かであります。その他いろいろな種類、分類によ
つて賃金格差をとりえることができます。しかし、いわゆる日本的な特徴として
賃金格差をとらえた場合、その最も大きな特徴は、
規模別格差であることが現在の統計で明らかにな
つているのであります。(
拍手)これは、また、
政府みずから
作つた労働白書自体が、そのことを明確に指摘しております。
個人別
賃金調査、
社会保険の基礎
調査に基いて数字を当
つてみますと、その
規模別賃金格差は、千人を一〇〇とした場合、五百人から九百九十九人までが八五%、百人から四百九十九人までが七四%、三十人から九十九人までが六四%、十人から二十九人までが五五%、一人から四人までが四五%ということにな
つております。さらに、
産業別、事業所
規模別賃金格差から見ましても、ほぼ同様な比率で各
産業ごとに
規模別賃金格差が存在することが明瞭にな
つているのであります。すなわち、日本の場合は、全
産業を通じて、その底には極端な低
賃金が存在し、
規模の縮小に伴
つて賃金格差の比率がだんだんひどくな
つているというのが、その本質的な特徴であると思うのであります。従
つて、日本で
最低賃金制が考えられる場合、そうした全
産業に散らば
つている低
賃金労働者の
賃金を全体的に引き上げる
方式でなければなりません。従
つて、法の
あり方としては、そうした目的と機能を持つたものでなければ
現実の事態を救い得ないというのが、われわれの確信するところなのでありますが、
政府案は、まさにその逆をい
つておるのであります。全
産業的
最低賃金制がいまだ
確立されていない中で、
政府案のごとき
業種別、
地域別最低賃金を、しかも、
業者間協定という
方式によ
つて推し進めようとすることは、むしろ、現在の極端な
賃金の
格差をさらに助長する危険を多分に含んでおるということを、この際指摘しなければなりません。
この際、
労働大臣にお伺いしたいことは、あなたがお作りに
なつた最賃法と
現実の
賃金構造とは全く違つた映像を描いているとは思わないか。言いかえれば、あなた方の最賃法は、
現実の
状態に即応しない、名ばかりの
最低賃金法と考えないか。さらに、私が今まで指摘して参りました日本における
規模別賃金格差の特徴と最賃法の目的とを何ゆえ
業者間協定のきずなによ
つて結びつけたのであるか。その論理的、実際的経過を、この際明確に御
説明願いたいと思うのであります。同時に、あなた方自体としても、
業者間協定という
方式の
最低賃金制が本来望ましい形での
最低賃金制でないということは
提案理由の中でも指摘しておられます。しからば、あなた方は、
業者間協定最低賃金の弊害、欠点、矛盾等について、どのような見解を持
つておられるのか、この際、率直なお考えを承わりたいと思うのであります。
次に、私は、再び
業者間協定の本質の問題に触れて質問をしてみたいと思います。
私たちの考えでは、
業者間協定というものは、
賃金決定の手段としてはきわめて不公正なものであり、あるいは
業者の一方的な
決定を
労働者に押しつけるだけのものであるという判断に立
つているのであります。こうした判断に対する
労働大臣の見解をお伺いしたい。その
理由は、
賃金決定に当
つての国際的
原則、すなわち、
賃金の
決定は
労使双方の合意に基くものでなければならないという
ILO条約の
精神、並びに、同様のことを要求している
わが国労働法に完全に
違反するからであります。
周知のごとく、
業者間協定は、文字
通り業者間の勝手な
賃金協定であ
つて、
労働者の参加はもちろんのこと、その
意見あるいは要求をその中に盛り込むことは、協定の性格上全く不可能なことであります。従
つて、同協定によ
つてきまつた
賃金が、
業者間においては
一定の拘束力を持つとしても、
労働者がそれに縛られる
理由は、ごうもないのであります。いわんや、それが
最低賃金として
法律上の拘束力を持つなどという飛躍した議論は、まさにナンセンスもはなはだしいものといわなければなりません。ところが、
政府案は、そうした飛躍した議論をその基礎としているところに大きな問題が存在しておるのであります。そこで、私は、
労働大臣に対し、
業者間協定賃金と
最低賃金との本質的な差異をどのように把握しておられるかを御伺いしたい。それと同時に、
賃金決定の
原則から全くはずれた
業者間協定を
最低賃金決定の基礎とした
理由はいかなるものであるか。風が吹けばおけ屋がもうかるといつた政治的
説明ではなく、国内はもちろんのこと、国際的にも通用する論理的な
説明を、この際要求するものであります。(
拍手)
私は、以上の質問を通じて、
業者間協定を中心として考えられた
政府の
最低賃金法案が、いかに日本の
実情を無視した、かつ本質的に
最低賃金法と相いれない要素を持つたものであるかを指摘して参りました。そこで、私は、最後は、そうした本質的な差異はともかくとして、あなた方がかねや太鼓で盛んに宣伝しておられる
業者間協定の実際的効果についてお尋ねしてみたいと思うのであります。
労働省の発表によれば、
業者間協定はすでに四十八にわた
つて協定されておるといわれております。その協定の
内容を検討してみますと、その大部分が四千円台の
賃金であり、しかも、三千円台のものも存在しているといつた
状態であります。特に問題なのは、それら協定によ
つてきめられた
賃金は、
最低賃金としてではなく、最高
賃金、すなわち、頭打ち
賃金としての役割を果しておるという事実を、この際指摘せざるを得ません。だが、このことは、むしろ当然の成り行きでありまして、さきに指摘したように、
業者間協定は、それが最低
生活を保障することを目的としたものでないという本来の性格からい
つて、
企業利潤を度外視して考えられるものではないからであります。
使用者は、できるだけ少い資本と経費をも
つて最大限の利潤を
確保することに専念し、
労働者に支払うべき
賃金も、何らかの拘束がない限り、最小限にとどめようと努力いたします。すなわち、そうした共通利害の上に立つ
経営者が集ま
つて業者間協定を締結しても、そこに公正な
最低賃金が生まれるわけは初めから考えられないことであります。そこから出てくるものは、自分たちの支払いたい
賃金であり、これ以上は出さないぞという
賃金にほかなりません。このことは、
現実の
業者間協定がきわめて低い線で固定し、かつ、最高
賃金に変貌している事実が、明らかにこれを立証しておると思うのであります。(
拍手)
そこで、
労働大臣にお尋ねいたしたい。あなたは、本気で
業者間協定によ
つて公正な
最低賃金が
確保できると思
つておられるのかどうか、また、この
業者間協定の
最低賃金と、国際
労働憲章、
ILO条約及び国内
労働法が追求する
最低賃金制とは同一のものだと考えておられるのかどうか、これを明確にお答え願いたいと思うのであります。
以上、私は、
業者間協定を中心として、
政府案に対し質問を展開して参りましたが、時間の
関係で他の重要な点に触れることができないことをきわめて遺憾に思います。
私は、以上のごとき
労働者の立場を全く無視した
政府の
最低賃金法案は、明らかに国際的交通
違反に問われるものであり、かつ、ジュネーヴヘのヴィザを持たないものであるという認識の上に立つがゆえに、これがすみやかなる撤回を求めるとともに、ほんとうに
全国労働者を低
賃金の鎖から解放し、明るい
生活を保障する
最低賃金法、すなわち、われわれ日本
社会党が主張している全
産業一律
最低賃金制のすみやかなる
実施を要求し、私の質問を終りたいと思います。(
拍手)
[
国務大臣岸信介君
登壇]