○淺沼稻次郎君 私は、日本
社会党を代表いたしまして、
岸総理大臣の
施政方針の
演説に関連し、
外交、内政の重要なる問題について質問を行わんとするものであります。(
拍手)
本
国会は、わが日本
社会党が、憲法の規定に基いて衆参両院ともに定員の四分の一以上の賛成を求め、各院の
議長を通じて、去る八月一日、
外交政策、
経済不況
対策、労働
対策等々と
案件を付し、九月上旬と日限を限って要求したものであります。
政府は、今度の
国会に関しまして、これを受けたがごとく、伺っておるのでありますが、来たるべき
通常国会は、先ほども総理大臣から話がありま一した通りに、
参議院議員の半数改選並びに地方自治体の選挙が行われる前に開かれる
国会であるをもって予算以外の諸法案の
審議は必然的にたな上げにされる心配があるのであります。そこで、予算
関係以外の重要法案は、その
審議を本
国会で終えておきたいというこの便宜の上に、
社会党の要求に便乗をいたしまして、便宜主義のもとに開かれたのが今回の
国会であるといっても過言ではないと私は思うのであります。(
拍手)先ほど総理大臣の
演説を伺いましても、あまりにも抽象的であります。ただ具体的であったのは、勤評に反対をしておる
教職員に対して、いかに弾圧を加えるかということが大いにはっきりしておりますが、それ以外は、あまりにも抽象的であり、また、
藤山外務大臣の
演説は、われわれは
外交方針の
演説をなされると思っており、あるいは
外交の経過
報告でもあろうと思っておったところが、案外、旅行の
報告のごときものでありまして、はなはだ遺憾しごくといわなければなりません。(
拍手)今、
外交の
関係を考えてみましても、戦争か平和かという重大な危機を含みつつある激動する
世界の
情勢のさなかにあって、わが日本はいかように対処するかということを伺いたかったのでありますが、この具体的問題に触れなかったことは、はなはだ遺憾しごくといわなければなりません。(
拍手)加えて、
経済界の不況はいよいよ深刻の度を加え、
中小企業者は転落の道をたどり、失業者は増大しつつあります。この不況をいかにして打開するか、日本
国民が
政府の
施策を聞かんとしておるのが、今
国会の重大なる意義であろうと私は思うのであります。(
拍手)ところが、これに対しまして、大蔵大臣並びに
経済企画庁長官の財政
経済の見通し及びこれが
対策に関する
方針演説のなかったことは、はなはだ遺憾しごくであり、加えて、伺いまするところによりますと、その責任者たる大蔵大臣が本
国会中に外国へ行かれるというのでありますから、はなはだ無責任きわまるといわなければならぬと私は思うのであります。(
拍手)また、このことは、
国民も非常に失望しておることと思います。
以下、順を追うて質問を行いたいと思います。
第一は、
外交問題に関することであります。今や、
国際情勢は重大なる局面にぶつかっております。
中近東問題、
台湾海峡の問題は、
世界人類に重大なる課題を投げております。かかる重大な
国際情勢の中に、
わが国外交は常に
情勢の観察を誤まり、動揺、不安定の中に進められておるのであります。はなはだ遺憾といわなければなりません。(
拍手)
たとえば、外務省においては、去る七月十三日、アメリカ、ソビエト、西ドイツ、タイ、アラブ連合国駐在の五大使を集めまして、いわゆる五大使の連合
会議を開き、
中近東情勢を検討の結果、この
地域にはクーデターなしと確認し、アラブ民族主義に
理解ある
立場をとるべき
方針を決定したのであります。ところが、十四日にはイラクにクーデターが起り、カセム将軍が新
政府首相に就任をいたしました。十五日には、外務省は、イテクの政変を内政問題と断定して、この線に沿うて、第三国
武力干渉は望ましくないと、松平
国連大使に訓令をしておるのであります。このことは正しいと思うのでありますが、この日にアメリカ海兵隊がレバノンに上陸をしておるのであります。十六日には、松平
国連大使は、安保理事会で、派兵を前提とするアメリカ決議案に賛成をしております。さらに十八日には、外務省は、松平大使に、レバノン
国連監視団の増強を骨子とする決議案の提出を訓令しております。一度、イラクの政変は国内問題として断定して、第三国の
武力干渉は望ましくない、こう決定をしながら、ひとたびアメリカからレバノン派兵の決定が通知されるや、条件付アメリカ決議案に賛成という、朝令暮改というか、あるいは朝令昼改といった方が私は妥当ではなかろうかと思うのであります。(
拍手)まさに百八十度の転換であります。某国は奇妙なる転換というておりますが、私をして言わしめるならば、奇妙きてれつなる転換といわなければならぬと思うのであります。(
拍手)
さらに、最近、藤山外相は、アメリカにおけるダレス氏との
会談において、中国問題については、しばらく静観という態度を表明した、さらにイギリスのロイド外相との会見においては、金門、馬租島は中国の領土であるといって
意見の
一致を見たと、外電並びに日本の新聞はこれを報道しておるのであります。これは正しい
意見であろうと思います。しかるに、帰って参りますと、これを否定しておるのであります。かくのごとく動揺する姿の現われは、岸
外交の基本的
方針の誤まり、矛盾からくる結果であると思うのであります。
岸内閣は、その
外交の
基本方針を、第一には
国連中心主義、第二には自由国家群と
協力する、第三には、
アジアの一員としてその
立場を堅持すると規定して動いておるのであります。しかし、これは、ただ三つの原則を並べただけでありまして、多くの矛盾を含んでおります。この矛盾が今回日本
外交路線の醜態となって現われてきておるのではなかろうかと私は思うのであります。(
拍手)
世界は自由主義国家群と共産主義国家群のみではありません。
アジア・アフリカの
地域には、西欧植民地主義からみずからの民族を解放して、新しき民族主義のもとに、いずれの陣営にも属さない自主独立の国家を形成しつつある国々があるのであります。日本は、
アジアの一員として、これら民族国家との提携を強化して、いずれの陣営にも属せず、自主独立の
外交を展開することでなければならぬと思うのであります。また、
国連の中における日本の活動もこの
方針に基いてやることは、私は当然ではなかろうかと存ずるのであります。(
拍手)
日本は戦争に敗れた結果、
国民の反対にもかかわらず、現在日本は
日米安全保障条約、行政
協定に基いてアメリカの軍事支配下にあるのであります。これから脱却しなければ、日本の完全独立と平和を期するわけには参りません。今回、
藤山外務大臣は、
日米安全保障条約の改正を約束し、これより改正の
交渉に入るということであります。しかるに、このような重大問題が、あの旅行
報告には一言も触れておらぬところに、大きな誤まりを犯しておるのではなかろうかと私は思うのであります。(
拍手)だから、あなたのは
外交方針にあらずして旅行
報告であるということは、こういうところから出てくるのであるということを御了承願わなければならぬと思うのであります。安保条約は、改正を求めるにあらずして、解消を求むべきものであると私は思うのであります。(
拍手)われわれが
国際的に改正を求めるのは不平等なる対日平和条約であるといわなければならぬと私は思うのであります。
対日平和条約の論議は将来に譲ることといたしまして、安保条約について申し上げますが、
政府は、安保条約を双務条約ならしめんとしておるようであります。その結果、
自衛隊はアメリカの基地防衛隊になり、さらに、アメリカは憲法違反たる海外派兵を要求し、
沖縄の共同防衛の義務を持ち出し、日本より全面戦争参加の証文を取らんとするのがこの改正案だといっても断じて過言ではないと思うのであります。(
拍手)安保条約は日本から改正を求めたというのでありまするが、案外これはアメリカに乗せられた結果ではなかろうかと思うのであります。しかも、条文を簡単にして、すべてを行政
協定にゆだねようとして、そうして
国会の論議からのがれ去ろうというところに大問題を含んでおるといわなければなりません。(
拍手)まさに重大なる課題を日本にかけておるといわなければならぬと思うのであります。日本の安全を保障することは、アメリカとの軍事
関係を強化することではなく、解消することであり、しかも、われわれは、中ソ友好同盟条約の中における軍事
関係はこれが解消を求め、日本とアメリカとソビエトと中国、これが
中心になって新しい安全保障体制を作ることが日本
外交の一基準であるといわなければならぬと私は思うのであります。(
拍手)この点について総理大臣はどう考えるか、お伺いいたしたい。
さらに一言申し上げたいことは、日本
外交の失敗は、常に遠きと結び、近くを攻め、近くを敵視するところにあったと思います。さきには日英同盟を結んで、イギリスの
アジアにおける番兵のごとき
役割を果し、第二次
世界戦争の際には、ドイツ、イタリアと軍事同盟を結び、中国並びに
東南アジア諸国に帝国主義的な
発展を試みんとしたところに、日本の大失敗があったといわなければならぬと思うのであります。今また、
岸内閣は、中国を敵視し、アメリカと結び、アメリカのドルを日本の技術でオブラートいたしまして、アメリカの帝国主義的
発展を
東南アジアにせんとするその媒介体の
役割を持っておりますものが、いわゆる
岸内閣の
東南アジア開発金庫ではなかろうかと私は思うのであります。(
拍手)従いまして、
東南アジア諸国は、この
岸内閣の
東南アジア開発金庫に対して重大なる警戒を持っておることは、忘れてはならぬ点であろうと思うのであります。ここで、私は、
岸内閣に対し、アメリカ追従の
外交を改めて、自主独立、善隣友好、平和
外交の展開を求むべきであろうと思うのでありますが、総理大臣のお考えを承わっておきたいと思うのであります。
第二には、日中国交回復問題であります。戦後十余年にわたる中華人民共和国と
わが国民間同士の
努力によりまして築き上げられた
貿易、漁業、
文化交流、
人事往来、こういうような
日中関係は、
岸内閣の第四次
貿易協定の事実上の拒否と、長崎における国旗事件を契機として、最悪の状態に立ち至っております。これを打開しなければ、日中両
国民の友好と
アジアの平和に重大なる危機をもたらすと思うのであります。わが
国民生活にとっても重大なる影響を与えることと思います。これを
解決することこそ、日本
外交の最大なる課題であると思うのであります。(
拍手)日本と中国の
関係がいかように重大であるかということは、単に地理的、歴史的のみでなく、現在すでに中華人民共和国が確固不動の地位を確立し、現実に中国を代表する政権となっておるのであります。今日これに対して目をつぶって、そうして、アメリカの財力と
武力に
援助されながら、台湾及び澎湖島を統治しておるにすぎない台湾政権と日華条約を結んでおることは、断じて私は真に中国との国交を意味するものではないと思うのであります。(
拍手)
日中国交とは、日本と中華人民共和国との間に結ばれた国交のことでなければなりません。しかるに、現在の実情は、中国と日本との間は、満州事変始まって以来一番迷惑を受けた中国本土との間においては戦争状態が残っておるのであります。一九五二年、吉田内閣の手によりまして、いな、吉田内閣がアメリカの威圧の中に、台湾政権との間に日台平和条約を結んでおります。これによって中国六億の人民に対する戦争責任が完了したかのごとく装ってきたところに大きな誤まりがあったといわなければならぬと私は思うのであります。(
拍手)中国は
一つ、台湾は中国の一部であります。台湾問題は中国の内政問題として
解決するのが当然と私は思うのであります。新中国の承認、日台条約の再検討の時が来ておると私は思うのでありますが、総理の所見を承わっておきたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、中華人民共和国は、
アジアのみならず、
世界において実力を持っておる国家となっております。その隣国に位する日本が、正常なる
外交関係を持たず、今日のごとき最悪の状態にあることは、日本の
アジアにおける
国際的地位を不安定ならしむるばかりでなく、
アジアの平和に、いな、
世界の平和に重大な影響を有するのじゃなかろうかと考えるのであります。この点より、日中国交回復の一日も早からんことを望んでやみません。さらに、
社会体制の異なった
アジア・アフリカの諸国と同様に、いずれの陣営にも属せざる日本と中国との間において、平和共存、互恵平等の
立場に基いて
経済的、
文化的交流を推し進めることが
両国にとって
相互の利益であり、
わが国の
発展と
繁栄を
実現するものであると思うのであります。
かかる見地に立って、日本
社会党は、保守党内閣の消極的な態度にかかわらず、
国民とともに
貿易、
文化、
人事の交流と国交回復のために
努力して参りました。しかるに、
岸内閣は、アメリカの戦略体制との結びつきを一段と固めて、日台
関係を強化することによって日中間の親善友好の
関係をはばんで、さらに
日中関係の
正常化を妨げているといっても過言ではないと思うのであります。(
拍手)しかし、最近になりましても、
岸内閣は中国に対する誤まった認識を改めません、今なお静観の態度をとっておるのであります。非常に遺憾であるといわなければなりません。
そこで、私は、
岸内閣に対し、次の諸点を要求するものであります。
政府の真意を伺いたい。
二つの中国の存在を認めるがごとき一切の行動をやめ、中華人民共和国との国交回復を
実現すること。台湾問題は中国の内政問題であり、これをめぐる
国際緊張は
関係諸国で平和的に
解決すること。日本は、中国を対象とするNEATO、北東太平洋平和機構——日本、朝鮮、台湾、この軍事同盟には加入せざること。また、日本に核兵器は絶対に持ち込まないこと。
国連その他の機関を通じて中華人民共和国の
国連代表権を支持すること。長崎における国旗事件には陳謝の意を表し、今後中華人民共和国の国旗の尊厳を保証する万全の
措置を講ずべきだと思うのであります。(
拍手)さらに、友好と平和を基礎とする
文化的、技術的、
経済的交流を
拡大し、国交
正常化を妨害することなく、これに積極的な支持と
協力を与うべきだと思うのであります。特に、第四次
貿易協定の即時
実現をはかるべきと思うのであります。これらに対する総理大臣の隔意なき
意見を承わっておきたいと思います。(
拍手)
次に、総理大臣は、
施政方針の
演説の中で
台湾海峡問題に言及をいたしまして、
平和的解決を望んでおります。まことに私はけっこうだと思うのであります。しかし、
台湾海峡をめぐる問題はどこに重点があるかといえば、アメリカの台湾政権に対する軍事支援であり、台湾にアメリカ軍隊が駐屯しておることが
アジアの緊張を強化しておるといっても過言ではないと思うのであります。(
拍手)岸総理が
平和的解決を望むならば、岸総理は、昨年
東南アジア諸国を
訪問して、帰りに台湾に立ち寄られ、蒋介石に対して本土反攻を激励した言葉を贈っておるのである。まず、平和
解決を望むならば、これを取り消していくのが岸総理のとるべき態度であるといわなければなりません。(
拍手)さきには本土反攻を説き、今また平和
解決を説く。まさに口は重宝なものだと思いますが、問題は信頼と誠意にあると思うのであります。
さらに、さきに開かれた
国連総会に、インドからの「中国の
国連代表権決議案」が出た際に、日本代表は、これに反対の意を表しておるのであります。これでは日本の誠意は疑われるのみであると私は思うのであります。(
拍手)
また、さきに述べたように、藤山・ロイド
会談で金門、馬租島は中国本土の領土であると
意見の
一致を見たと、こういうことの報道をしておるのでありまするから、その通り
藤山外務大臣が行動をしておりまするならば、平和
解決の一布石となったと私は思うのであります。かかる
政府の態度は、日本の
アジア諸国からの信頼を落すのみであります。
台湾問題は、米中
会談が開かれておりまするが、難航を続けております。一方、アメリカのダレス氏は金門、馬租は手放せない、こう言っております。また、伝えられるところによりまするならば、アメリカ第七艦隊は核武装をしておるといわれておるのであります。ソ連のフルシチョフ氏は、核兵器には核兵器をもって報復するという書簡を出しておるのであります。従って、一歩誤まれば、日本と
沖縄を含めて原子戦争に巻き込まれる憂いなしとしないと私は思うのであります。(
拍手)ほんとうに重大な問題になっておるのであります。しかし、アメリカにおいても、ダレス
外交に対しては痛烈なる批判が起っておるようであります。
そこで、私は、平和
解決をせんとするならば、第一には、中国は
一つ、台湾は中国の一部であり、その内政問題として
解決するということに重点を置いて、アメリカの軍事介入には反対、アメリカが台湾問題のために日本の基地を使用することに反対の態度をとって
政府は行動すべきであると思うのであります。この点について
政府の
所信を承わっておきたいと思います。(
拍手)
第三点は、不況
対策であります。
経済白書では、
経済不況は在庫品整理の第一幕から過剰設備による不況の第二幕が始まるといっております。そして、操業短縮は六月に終る、九月に終るといって、さらに来年二月になっても見通しがつかないといっております。自民党の水田
報告書によりましても、この不況に対して若干の
対策を講じなければならぬということを言っております。ところが、岸総理以下、
関係閣僚は、不況ではない、不況
対策の必要性はないと言っております。
経済成長率についても、ことごとに見通しが狂い、毎年改められ、五カ年計画はあってもなきがごとき乱脈の状態であります。一国の
経済を預かる
政府として無責任きわまるといわなければなりません。(
拍手)大
企業は、神武以来の景気のもうけで、操短をやっても何とかやりくりをつけておるようでありまするが、
中小企業者は受注がなくなり、さらに高金利、金詰まりに悩み、下請業者の多い地区においては、失業者は続出しておるような状態であります。不況の犠牲が勤労大衆にしわ寄せされておるのであります。岸総理は、現在の
経済界の実情を不況にあらずと考え、独占
禁止法の改正を行わんとするがごときは、
岸内閣が大資本の
立場に立っておることを雄弁に物語るものであるといわなければなりません。(
拍手)
政府は、二百二十一億のたな上げ資金を抱えながら、何ら不況
対策を立てておりません。
政府は、この不況を克服し、不況から犠牲者を救うためには、
中小企業者
救済、失業者
救済、酪農
対策、養蚕
対策、最近に頻発をした
災害対策を講ずるために、補正予算を組むことが当然であると思うのでありまするが、
政府の、この不況
対策と、補正予算に対する考え方を明確に伺いたいと存ずる次第であります。(
拍手)
第四点は、自由民主党は、総選挙の際に
公約をいたしましたものがございます。それは、
岸内閣によって、いかに行われんとしておるのでありまするか、この点についてお伺いをしたいと思うのであります。
さきの特別
国会において、選挙
公約問題についてわれわれが言及した際、岸総理は、特別
国会は内閣を組織するのに重点が置かれておって、
公約問題については
臨時国会でと申されたのであります。しかし、今度の
国会において、
施政方針の
演説の中に、
公約の具体的なものが現われておらないことは、はなはだ遺憾しごくといわなければなりません。(
拍手)
政治家にとって、さらに政党にとって大切なものは何であるかといえば、その
発言と
公約であるといわなければならぬと私は思うのであります。総選挙の際、
社会保障制度の確立、所得税については、その免税点を月収二万五千円まで引き上げる、事業税については、免税点を年所得二十万円とする、また、固定資産税、物品税等を合せて七百億円の減税を行うことを
公約したのであります。ところが、来年度の税の自然増は七百億といわれております。前年度の剰余金は二百億減となって、財源としては一千億円くらいしか出て参りません。これに対して、防衛費、旧軍人恩給費、義務
教育費等、当然の支出増が行われるのでありますが、これが七百億あります。残り三百億で減税と
社会保障制度の
公約を実行するというのでありまするから、よほど器用な人でなければできないと思うのでありまして、これをいかように
実現するか、伺っておきたいと思うのであります。(
拍手)現に、地方税の減税についても、
政府と与党と野党との間に相当鋭い対立があることを私は見なければならぬと思うのであります。さらに、老齢、母子、身体障害年金を明年度より、病気に対する
国民皆
保険は三十五年度よりと
公約したのでございますが、母子と身体障害年金は、これをたな上げし、老齢年金だけ
実施せんとしておるのでありますが、これも、
実施期をずらして、財源を少くしょうとしておるのであります。従いまして、いかように
公約を実行せんとするのか、総理から承わっておきたいと思うのであります。(
拍手)
第五点は、教員の
勤務評定を強行
実施せんとする
政府の態度について私はお伺いをしたいと思います。
教員の
勤務評定をめぐる
紛争は、
わが国教育史上に重大なる混乱を起しております。これは、
政府はさきに
教育委員会の公選制を廃止して任命制とし、
教育長の選任は文部大臣の承認を必要とするという
制度の改変によって
教育の中央集権化が行われ、
政府が一方的に
勤務評定を強行して、国家権力を背景にして押しつけんとするところに、大きな問題があるといわなければならぬと思うのであります。(
拍手)
政府の国家権力乱用、労働運動弾圧は、単に日教組ばかりでなく、国鉄労組、全逓労組、民間王子製紙の争議等に露骨に現われていることを指摘しなければなりません。
戦後、日本の
教育は、平和憲法のもと、
教育基本法に基き、
教育の中立制を保持し、教員の創造性と熱意のもとに行われて参ったのであり、従って、その
教育が
日本国憲法のもとに行われるのでありまするから、
日本国憲法擁護の
立場に立つことは当然であるといわなければならぬと思うのであります。(
拍手)憲法改正の
立場に立つ保守党が、
教育委員会法の改正、教科書法の改正を行なって、
教育を自己権力の維持、さらには憲法改正の道を開くために
勤務評定を強行しているといっても、私は断じて過言ではないと思うのであります。
政府が強行を続けるならば、さらに深刻化すると思います。そこで、私は、
政府に対し、
勤務評定の強行はこれを即時中止すべきと思うのであり、さらに加えて学識経験者を
中心とした
審議会を作って抜本的
解決をはかるべきだと思うのでありますが、これに対する
政府の考え方を承わっておきたいと思うのであります。(
拍手)
ここで一言申し上げておきたいのは、この
勤務評定問題には、学長グループがあっせんに乗り出して
努力されました。しかるに、文部大臣は、何の資格があって会いに来たかわからないと言っている。また、
岸総理大臣も、昨日の新聞記者会見において、学長という良識ある人々が、どうしてあっせんとか
審議会と言うのか、意図がわからないと言っておりますが、まことに独善的な態度といわなければなりません。(
拍手)
政府は常にあらゆる民間人の
意見を聞くことが当然であり、しかも、大学の最高学府にあって
教育に当っている人が、
教育の問題に対してこういう
意見を持っているというときには、
政府は、これを参考にして考えるのが
政府のとるべき態度でなければならぬと私は思うのであります。(
拍手)
政府は法律にあるから
実施するのだと言っておりますが、法律の規定は
昭和二十五年にできております。そうして、昨年まで
実施しなかったのであります。そこに問題があると思います。これを、急激に、相手の
立場を考えずに強行しようとするところに問題があるといわなければなりません。ところが、きのうの新聞記者会見では、岸総理は、この強行していることを、当りまえだ、その当りまえは、雨の降るときは天気が悪いのだ、こういうことで表現をしたというのでありますが、私は、この表現は、官僚としての表現ならわかるけれども、
政治家としての表現ではなく、これは、
政府が、きまったことは何でもやればよい、はたからよけいなおせっかいをする必要はないという、官僚
政治家としての露骨なる現われであるといっても過言ではないと思うのであります。この総理大臣のもとに官僚的文部大臣があって
勤務評定を実行せんとするのでありまするから、紛糾はまだ続くであろうということを私は申し上げないわけには参りません。
政治家は、天気が悪くなったとき、それをどうするかを考えるのが
政治家の任務であるということを
一つお考え願いたい。
最後に質問せんとする点は、
政府の
災害対策についてであります。戦後
一つの特徴は、
災害が多いということであります。特に風水害の多いということであります。この風水害の多いのはなぜかといえば、戦争中、時の
政府が戦争のためにすべてを集中して、山林は切りっぱなしにし、河川改修費は逐次これを減少する等、自然との争いを中止して戦争に終始したところにこの
災害が大きく現われておる
一つの原因があるといっても過言ではないと思うのであります。(
拍手)
災害とは、いわば自然のいたずらであるといっても過言ではございません。従いまして、私どもとしては、
災害が起きた場合においては、超党派的にやってしかるべき問題であると私は思うのであります。
災害の問題を私がしゃべっておるときにやじる方の人たちの中には、案外、
災害はどうなってもいいというお考えがあるのではなかろうかと考えるのであります。いわば、
災害は人間と自然との争いであります。この人間と自然の争いには、すべてのものを超越して、これを回復することに
努力して参らなければならぬと私は思うのであります。
ところが、昨年は九州に大きな
災害がありました。本年は関東並びに東北にあったのでありまするが、それに対して自由民主党が何ら
対策を立てないということは、明らかに、国土保全の
立場に立っておる
岸内閣が、自然のいたずらに敗北しておる姿であるといっても断じて過言ではないと私は思うのであります。(
拍手)そういう意味合いにおいて、この
災害対策については、いかなる
対策を持っておるか、特に、先ほど建設大臣から
報告を受げてあったのでありますが、
報告だけで
対策はない。
対策のない
報告なんというものは
政府側にはないはずだと私は思うのであります。従いまして、
対策と補正予算をいつ出すのか、はっきりしてもらいたいということを申し上げまして、私の
演説を終ります。しかし、答弁のいかんによってはもう一ぺん壇上に立つことを留保しておきます。(
拍手)
[
国務大臣岸信介君
登壇]