○中川(董)
政府委員 御指摘のごとく、
現行法におきましては、
現行法第三条一号と二号と問題が異なっておるのでございますが、一号につきましては、本人の意に反してもこれを保護することができる、こう解釈しておるのでございます。二号につきましては、カッコして明示してありますごとく、本人が拒んだ場合はこれを保護することができない、こう解釈しておるのでございます。この規定によって運用して参ったのでありますが、この一号、二号によって、
警察官が全国でいろいろ職務執行を行いましたけれども、その保護という内容でございますが、保護をするためにはある一時的には本人の
意思に反するということがかえって本人の保護になる、こういう場合が少くないのであります。それで、そういったことについてほんとうに本人の保護に値するというものをずっと列記いたしまして、限定列記的に
改正法では第三条に一号から四号までを掲げたのでありますが、この一号から四号までを掲げることの内容につきましては、
現行法でもできる面をさらに同じことを書いている点もございますし、それから
現行法ではできない面をつけ加えている点もございますので、その内容ごとに実例に基いて申し上げたいと思います。
まず第一号でございますが、精神錯乱または泥酔のため、自己もしくは他人の生命、身体もしくは財産に危害を受けもしくは加えるおそれのある者につきましては、
現行法におきましても可能であったのでありますが、そのほかに、生命、身体に対して危害を加えるおそればいまだないのでありますけれども、公開の施設または場所において公衆に著しく迷をかけるおそれがある者につきまして、今日の
情勢にかんがみまするに、泥酔のため他人にまだけがを加えるような行為に至ってはいないが、ところが、道ばたで大へん泥酔していらっしゃって、婦人その他に迷惑をかけているという
方々に対しましては、本人の保護のためにも、また奥さんの
立場からいえば、早く家に帰って家族に安心を与えていただきたい、(笑声)こういうような
立場もございましょうし、それから一般の
国民におかれましても迷惑をこうむる、こういう
事例が少くないのであります。こういう
事例等はいろいろだくさんあるのでありますが、一、二申し上げてみたいと思います。
昭和三十三年九月の出来事でございますが、公園内で、付近に住む三十七の方が泥酔して通行人に因縁をつけて著しく迷惑をかけているので、保護しようとしたが、警官に保護してもらわなくともよいと拒否され、保護することができなかった。その直後、その泥酔者はころんで全治一週間の負傷を負った、これは東京の例を申し上げたのでありますが、こういうことは全国各地に少くないのでございまして、報道機関等におきましても、泥酔者によるところの問題というものは、各
新聞等に幾多報道されておることはごらんの
通りであります。(「外国の例を言え」と呼ぶ者あり)外国におきましては、こういう泥酔者につきましては、イギリスのごときは相当厳重な処分を
警察官ができるように相なっております。
それから第二号でございますが、第三号につきましては、
現行法では、自殺をするおそれのある者につきましては規定がきわめて不明確であり、どうしても
現行法ではやりにくい、こういうふうに考えられますので、自殺をするおそれがある者につきましては、本人は自殺を志しておりますので、意に反してでなければ自殺はとめられませんので、自殺をするおそれある者につきましては、一時本人の自殺をするという
意思に反して保護する。その結果、奥さん等保護者に届けますことによって
考え方の平静を期しまして、本人の保護ができるという場合が少くございませんので、ここに掲げた次第でございます。
例を申し上げます。これは滋賀県にありました例でございますが、挙動不審の一組の男女がいるのを警ら中の
警察官が発見し、その住所等を聞いたところ、福岡県より家出してきたものであることが判明した。家出の原因は生活苦であり、また女が未成年でもある事情から、そのまま放置する場合は自殺のおそれも認められたので、派出所に保護を求め、照会連絡等の処置をとろうとしたが、本人らに拒まれたため何らの処置ができなかった。その後十二月四日になって県下栗東町において同人らは溢死体となって発見された。こういう結果になって、同人らの拒否のために遂に一命を失うに至ったという
事例でございますが、他にも
事例は少くございませんが、一例を申し上げました。
その次に第三号の「適当な保護者を伴わない病人若しくは負傷者又はこれらに準ずる者」、これも
現行法の三号でおおむね読み切れようと思うのでございますが、適当な保護者を伴わない病人または負傷者は、おおむね本人は保護に同意なさる場合が多いのですけれども、当節たまにいやだとおっしゃる場合がありますので、例をあげてみましょう。
これも三十二年十二月十五日夜のことでございますが、芝の喫茶店の便所内で、高校生風の男が苦しみながら倒れているのを発見し、急報によって
警察官がおもむき、消防署の救急員と協力して、救急車で病院に運搬しようとしたが、同人に頑強に拒否されたので、遂に病院に収容できなかった。幸い同人は生命はとりとめたが、その危険があって非常に困った、こういう
事例でございます。
そのほかにもございます。これも東京の
事例でございますが、深川の豊洲町の道路上に血まみれの男が倒れているとの訴えを受けたもよりの派出所の巡査が、現場に急行したところ、相当の傷を受けた男を発見したので、近くの病院に収容しようとしたが、
自分が勝手にけんかをして受けた傷だからといって頑強に救護を拒んだのであります。救護を拒みましたので何ら手当をすることができなかった。こういう実情等もございますので、こういった点において本人が頑強に拒否しましても、少くとも応急の救護だけはするのが公共の福祉に合致するのではないか、こう考えた次第でございます。
それからその次に四号の「迷い子、家出をした少年その他の少年で、生命、身体又は財産に危害を受ける虞のあるもの」、この迷い子、家出した少年等につきましては、現在相当家出少年等の保護を
警察官が行なっておるのでありますが、この家出少年の中には、
警察官が旨をさとして申しますと、思いとどまって家庭に帰られる方もあるのでありますけれども、当節の家出少年のうちには、もう絶対家へは帰らない、
警察官の保護を受けないといって頑強に拒んで、結局家庭へ帰る機会を失う場合が少くございませんので、これこそ保護に該当する適例と考えまして規定いたした次第でございます。
ちょっと例を申し上げます。東京の例を申し上げますと、
昭和三十二年四月十七日午前十時に、都内の某公園のベンチに、一見して家出をしてきたと思われる少年が腰をおろしていたのを
警察官が発見し、家出人手配と照らし合せたところ、かねて秋田県警から照会のあった家出少年であることが判明した。このままにしておくと不良などにやられると思われたので、
注意したが、何も悪いことをしていないといって立ち去ってしまった。その少年は、翌日映画館の便所の中で自殺をしていたのであります。
次も東京の例でございますが、
昭和三十三年五月二十九日の午後四時、ころ、
警視庁南千住
警察署の巡査部長が、簡易旅館から、家出娘のような少女がいるとの電話連絡により、同旅館におもむき、当少女、当十七年でございますが、事情を聴取したところ、職を求めて五反田駅前を歩いていると、見知らぬ男からドライブに誘われ、前記旅館に連れ込まれ、職を探しているのであれば
自分の知人のところに世話してやるといって、連絡のために男が出かけていることが判明した。しかし、同旅館付近はいわゆる青線地域で、売春婦として売り飛ばされるおそれがあると判断されたが、何も悪いことをしていないと拒否されたために、保護できなかったのであります。その後、そのお嬢さんは売春行為を強要され、売春婦に転落されたという事実があるのであります。
こういう事情等がございますので、保護に該当する者を的確に制限列挙いたしまして、一号から四号まで掲げまして、この
方々に対しましては、保護を加えることが本人の幸福でもあり、また社会の幸福でもあると考え、その保護をいたしました後は、同条第四項に掲げてあります
通り、できるだけすこみやかに家族、知人その他の
関係者に通知をし、その者の引き取り方について必要な手配をいたしまして、そういう保護に値する
方々は、できるだけすみやかにあたたかい家族の方に帰っていただく、こういう
趣旨で規定いたした次第でございます。