○齋藤(正)
政府委員 最近の
経済情勢を見ますと、
経済の
調整過程は意外に長引き、現在のところ
景気は停滞ぎみに推移しております。
輸出は世界
景気の停滞を反映して伸び悩み状態にあり、最近低調に推移いたしておりますが反面輸入が
生産の停滞によってきわめて低い水準にあるため、国際収支は黒字基調を維持しており、年度間では当初の予想を大幅に上回る黒字を計上するに至るものと考えられます。
設備投資は、基幹
産業の継続工事を中心としてかなり高水準を維持しておりますものの最近の
機械受注
状況より判断いたしますと、今後はやや低下傾向をたどるものと思われます。消費のみは比較的好調を続けておりますが、
産業の
生産品に対する需要は依然として停滞
状況にあり、各
産業は引き続いて
生産調整を実施いたしているにもかかわらず、在庫
調整の終了は意外に長引き、その終了には少くとも年内一ぱいを要する見通しであります。このため物価は一時わずかの反騰を見たもののその後は引き続き低迷を続けております。
このような
経済の
実情に対処し今後すみやかに
経済の正常化をはかりますため、当面各
産業の実施している
生産調整の円滑な
遂行を期しますとともに、特に経営難の著しい繊維
産業や石炭鉱業等については
過剰設備の買い上げ、輸入エネルギーの削減等業種の特性に応じた対策を講じ、また
中小企業に対しては金融の
円滑化に努力いたしておる次第であります。
本年度の下期におきましては
輸出、消費、財政支出等の需要面に若干の季節的な伸びが見込まれ、また公共
事業費の繰り上げ支出や財政の散超による金融緩和の事情もありますので、これらの要因を手がかりとして今後における
経済成長の契機をつかみたいと念じている次第であります。
以上の当面の施策とあわせて
わが国経済が長期にわたって安定した
発展を遂げますためには
わが国経済の特質に基く問題点とその解決の方向を把握して
所要の施策を着実に実施していくことが何よりも肝要であり、従いまして今後の
通商産業政策は、これらの問題点を具体的に解明しつつ、安定した
経済成長を
確保することをその基本とし、第一に、国際収支の恒常的
拡大均衡確保のため、
輸出の
振興を期しますとともに第二に、貿易の長期安定的市場を培養するため、
経済協力の推進をはかるものとし、第三に、
経済の長期的
発展を
確保するため、
産業基盤の
強化と
産業体制の
確立をはかり、第四に、
国民経済に占める
中小企業の重要性にかんがみ、
中小企業の育成
強化をはかり、第五に、世界的
技術革新の
趨勢に即応し、鉱工業
技術の
振興をはかりますることに、その重点を置かなければならないと存じます。
以下各項目ごとにその具体的施策の
概要について簡単に申し述べたいと存じます。
第一は、
輸出の
振興であります。今後における世界的な
輸出競争の激化に対応し、
わが国輸出の恒常的伸長と国際収支の長期的
均衡をはかりますため、特に次の施策を重点的に推進する方針であります。すなわち貿易
振興の施策としては、従来から実施してきた海外市場の調査、
輸出商品の普及宣伝、貿易あっせん、国際見本市等の諸
事業につきましては、本年七月発足した特殊法人日本貿易
振興会を中心としてその飛躍的
強化拡充をはかりますとともに、今後におけるプラント
輸出の促進を期するため、
技術相談業務の画期的
強化をはかるものとし、これが実施に当る中核団体の育成
強化に努めたい所存であります。
また
わが国貿易における業種別、地域別の特質と
実情に即応して、
過当競争の
防止と
輸出の
振興をはかりますために、
輸出業者または製造業者の登録、
輸出振興のための
カルテルの認容、一手
買取機関の設立の促進等を主たる
内容とする
輸出入取引法の
改正法案及び軽
機械輸出振興法案を今回の臨時国会に提出いたした次第であります。
さらに
輸出品の品質意匠の向上及び盗用
防止、検査
設備の整備等につきましても今後一段と努めていく所存でございますが、特に雑貨
産業につきましては、これが実施に当る機構の
整備強化をはかっていきたいと考えております。
第二は、
経済協力の推進であります。現今、世界貿易における地域化傾向が高まり、かつ、後進国における外貨不足が依然深刻な段階にありますので、これらの国の
経済開発に協力いたしますことは、今後における
わが国貿易の長期安定的市場の培養、海外原料の安定した
供給の
確保、
中小企業の海外進出等をはかる意味におきましてもきわめて重要であり、この意味において貿易
振興対策と
経済協力対策とは車の両輪のごときものといっても過言ではないと存じます。従いまして今後とも東南アジアを中心とする
経済協力対策をむしろ貿易
振興対策の
一環として積極的に展開する方針であります。
すなわち円クレジットの供与、延べ払い方式の採用等による資本協力につきましては、さきにインド及びアラブ連合に対して決定を見たのでありますが、今後さらにその他の諸国についても検討中であり、その際対象品目の
拡大等につきましてもあわせて考えたいと存じます。
また
技術者の受け入れ及び派遣、並びに
わが国中小企業の海外進出のための体制を一そう
強化整備するほか、アジア
産業経済の調査及び海外
投資のための基礎調査を徹底的に行うため、近く発足するアジア
経済研究所の組織機能の拡充
強化をはかる方針であります。なお、本年度新たに
設置を見たインド西ベンガルの海外
技術センターの円滑な運営を期するとともに今後さらにその他の地域にもその新設をはかっていきたいと存じております。
第三は、
産業基盤の
強化と
産業体制の
確立であります。
わが国産業の対外
競争力は、欧米諸国に比し、いまだかなり遜色があると考えられるのでありまして、この点、基礎
産業、
輸出産業、新規
産業等の
合理化、近代化をさらに徹底的に進めていきたいと存ずる次第でありますが、さらに今後の
産業発展の
趨勢に即応し、エネルギーを初めとする主要基礎
原材料の
供給の
確保とその
価格の安定をはかることが肝要と存ずる次第であります。このため、今後におきましては、財政投融資の誘導的、補完的機能をより一そう活用するものとし、
国民経済的に最も緊要度の高い
産業部門へのその重点的投入が必要と存じます。
また
産業立地条件の整備につきましては、今後の
経済の
拡大と近代化に果す役割の重要性にかんがみまして、これを強力かつ
計画的に推進する
必要性を痛感いたしておる次第でありまして、これがため、豊富かつ低廉な工業用水の
確保をはかるための助成を
強化いたしますとともに、道路、港湾、輸送
施設等
産業関連
施設の飛躍的増強を期する方針であります。特に港湾につきましては、原油、鉄鋼原料の輸入港、石炭の積み出し及び陸揚港の整備に重点をおくものとし、また工業用地の積極的な造成と工場の適正配置施策の推進についても考究する所存であります。
なお、工場排水に関する被害、紛争が、最近とみに問題化しており、早急に法的措置を講ずる必要があると考えられますので、今国会に工場排水
法案を提案いたしたいと存じておりますが、これに伴い、汚水
処理施設の
設置及び汚水
処理技術の研究について助成措置を講じていきたいと存じます。
また、
経済の安定的成長と
国際競争力の
強化に資するためには、
わが国経済の
実情に照らし、
産業界の自主的協調体制のより一そうの整備
確立をはかることが必要であると考える次第でありまして、このために
不況カルテルの
認可要件の緩和、
合理化カルテルの認容
範囲の
拡大などを主たる
内容とする
独占禁止法改正法案を今国会に提案いたしております。
最後に最近続出する中小炭鉱における災害を
防止するため、緊急
事態における侵掘停止命令、盗掘
防止のための罰則の
強化等を
内容とする鉱業法
改正法案及び鉱山保安法
改正法案を今国会に提案いたしております。
第四は、
中小企業の
振興であります。御存じの
通り、
中小企業は
わが国経済上きわめて重要な地位を占めている反面、その規模が零細であり、かつその数がおびただしいため絶えず経営の不安定に悩んでおり、またその
設備技術等においても立ちおくれておりますので、今後とも
中小企業の特質に応じました
振興策を適時適切に講じていく所存であります。
このためにはまず
中小企業の組織化によるその経営の安定をはかるため、
中小企業団体法の円滑な
運用をはかることが肝要と存じますが、一方
中小企業の
生産性の向上と経営の
合理化のためには、
設備近代化助成
制度の飛躍的拡充、公設試験研究機関の
設備の大幅増強をはかりますとともに、府県の指導員の増強による
中小企業に対する指導を一そう積極的に展開したいと考えております。
なお、当面
経済活動が安定的上昇線に乗るまでの過程において過渡的に
中小企業面に生ずる影響につきましては、すでに織機
処理に対する予備費支出を行いましたごとく金融面その他において適時適切にその対策を講ずる方針であります。つ
また小売商業の
振興をはかりますため、消費生活協同組合、購買会及び小売市場の
事業活動の
規制を
内容とする小売商業特別措置
法案を今国会に提案いたしたいと思っておる次第であります。
第五に、鉱工業
技術の
振興であります。以上の諸施策を推進いたしますための基礎条件として、鉱工業
技術の画期的な
振興が特に必要であることを痛感するのであります。御存じの
通り欧米諸国の
技術進歩はまことに目ざましいものがあり、
わが国はこれに著しく立ちおくれていると存ずる次第でありまして、この際官民力を合せてその推進をはからねばならぬと存ずるのであります。
これがためまず国立試験研究機関の
設備の更新近代化等によりその機能の
強化拡充をはかり、
産業界からの各種の要請に応じ得る体制を整備いたしますとともに、今後最も緊急を要する電子
技術、オートメーション
技術、分析
技術及び
生産加工
技術等の基本的かつ新規の
技術の研究のほか、新たにエネルギー
技術、汚水
処理技術等の研究につきましては、各試験所の能力の総合的発揮に努め、迅速な成果を得て各界の要望に応じ得るようにいたしたいと存じます。
また、民間研究活動の
強化のため、重要研究の実施についての助成を一そう
強化し、あわせて研究成果の普及徹底及び
企業化の促進に関し、各般の施策を総合的に行い得るよう措置するものとし、特に中型輸送機の研究試作については、その急速な促進をはかる所存であります。
以上により、今後における
通商産業政策に関する基本的考え方と
施設の
概要を申し述べた次第であります。