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波多参考人 私は、この
最低賃金に関する
政府案を大体において支持いたしたいと存じます。全般的に申しますと、この法律案が前国会で見送られて、かなり時間もたっておりますし、今回またできないとなると、かなり延びるのじゃないかということを心配いたしておるのであります。この法律案に関しまして、おそらく低
賃金労働者には、かなり期待している人たちが非常に多いのではないか。これは時間をおくらせますと、
賃金格差の拡大というようなことはさらに進行いたしますし、なお、今
業者間協定が進行しておりますが、その
実情は必ずしも十分でない。こういう野放しの
業者間協定が進行いたしますと、またこれを是正することがかなりむずかしくなるのではないか。そういう実績の上において問題がやはり今後にこじれてくるという面があると思いますので、実は私は非常に不満足な——この
政府案にいたしましても、
論点が多いと思いますけれども、なるべく早くこれを出発させていただきたいという
考え方を持っております。
今日までこの案ができます過程におきまして、労働問題懇談会や
中央賃金審議会におきまして相当に議論を重ねられた経過をたどってみましても、その間においていろいろと
労働者、
使用者、
当事者の
意見がございましたが、終局まで、完全な
意見の一致を見ないままでここに問題になっておるのでありますが、ともかくも私の感じておるところでは、この
法案は現状よりか少くともよろしい。そして、今後どうするかという点にかなり
意見の相違があるという点で、今度の
社会党案における六千円、そして二年後に八千円という一律案が出ております。そういう点は、新しい立法に待つとかあるいはこれを一応実施して、そしてその
考え方に沿うように、もう一歩進んだ
改正の機をつかむかということで考えますと、私は、まずこれを実施しておいて、そうして新しい
考え方によってもう一歩前進する
改正の機をつかむという方向へ持っていっていただきたい、こういうふうに考えております。
今度の
政府案が、ほんとうの
意味から申しまして
最低賃金ではないということ——それは
最低賃金というものをどう考えるかということでありましょうが、これが
労働者の生計を維持する、適当な
生活水準を維持するという
意味における
最低賃金であるか、あるいは
ILO条約の規定にありますように、
労使の
意見が完全に反映するというふうなものであるかというふうな
一般論、概念から見ますと、これは完全な
意味における
最低賃金ではない。しかしながら全国一律一本だけが
最低賃金であるというふうには私は考えません。そういう例は世界にも割合少いようでありますから、業種別あるいは職種別あるいは
地域別というふうに多少分れておっても、これはその国その国の事情によりまして差しつかえないものであろうと思います。問題はやはりこの
政府案は
業者間協定が中心になっておるという点に一番問題があろうと思います。
業者間協定の本来の建前は、やはり
労働者の保護という建前でなくって、むしろ
業者の自衛策という
考え方が中心になっておるという点に非常に問題があると思います。それは最近の
労働者の募集難だとか、なかなか落ちつかない、定着しない、あるいはダンピングに対してアメリカあたりから文句が出るということから、自然そういうふうに
業者自身も考えざるを得なくなってきたということが主たる推進力であったでありましょうが、しかし昨年から
業者間協定を進められた経過を見ますと、結論としてはやはり
労働者の保護にもなっておる面がある。実績として相当
賃金が上っておる、労務管理の血にも
関心を払わざるを得なくをなっておる、経営の
合理化にも
関心を払わざるを得なくなっておるという面がありますので、その動機いかんにかかわらず、
業者間協定も相当な
労働者の保護の実を上げつつある。ただスタートがそういうスタートでありますから、かなりそれには欠陥があります。
〔
八田委員長代理退席、大坪
委員長代理着席〕
その欠陥をどうして是正していくかという点がこの
法案の中心になっておるというふうに私は考えます。それには
行政官庁の指導ということが正面に出ておりますが、やはり
最低賃金審議会の役割というものに相当重心を置いてこれを扱わなくちゃならない、またそういうふうに運用のポイントもあるいは規定の置き方も考えていくべき点が多いだろうというふうに考えます。つまり今までの
業者間協定を見ますと、たとえば食費だとか現物給与というものの算定が実にいろいろと幅がございまして、
金額としては月額六千円とか七千円とかいうところまで出ておりますけれども、その食費を二千五百円と見たり、はなはだしきは四千五百円と見たりというふうで、その間大きな幅がある。そういうことでは困るのでありまして、この点は
賃金審議会というものが、まず
労働者の保護の役割と申しますか、そういう代弁機関としての役割を果さなくちゃならないのではないかと思うのです。
それならばこの一律一本との比較において、つまり
社会党案と
政府案との比較においてどう考えるかという点でありますが、まず
中小企業を対象として考えますると、
労使の完全なる自由なる
意見の一致ないしは
交渉という形において現在の組合組織その他の
関係を見ますと、これはなかなかむずかしい。そうしますと自然上から法的な力によってこれを規制していくという以外に
現実に進める方法はなかろうと思われます。しかしながらあまり全国一律一本にやって参りますと、これが非常に無理になるということで、今までのいろいろな
意見で強く主張されております点は私も同意するのであります。これを無理にいたしますと、単に
中小企業が非常な打撃を受け、破壊するというほかに、やはり問題は実施できないとなると非常に脱法行為が出てくる。一方には潜在失
業者も多いことですし、
中小企業主というものは労働三法さえ理解し得ない人たちが多いのでありますから、自然やみのなれ合いが出てくる。あるいは同居の親族という名目のもとにいろいろもぐる点が出てくる。ちょうど今の食管
制度が、やみ米を農林省でも公けに認めるというふうな
実情を呈しておりますと同じようなことが、もしこの
最低賃金法におきまして無理したために出てくるということであれば、またこれを立て直すために非常に困るだけでなくて、順法精神ということが労働問題においても非常に言われますが、そういう第二のケースをまたここに作るということであってはいけないので、やはり守れるような
最低賃金というものを前提にしてスタートしなくちゃならないと思います。それにはやはり
業者間協定を中心にして今スタートしようとしておる
政府案というものは、本来の
意味では
最低賃金ではありませんけれども、一応これを大きな目で見て、
一つの
最低賃金制への準備段階というふうに解釈すべきではないか。またそれが実態であるというふうに私は考えております。わが国の
中小企業が二重
構造の底の方をなしまして、本来の
意味での
最低賃金というものを
労使間で作ることもできなかった。だから上から押していくんだという建前で参りましても、これを欧米
各国がこのようにやっておるから
日本もできぬことはないということは、私は簡単には言えないんではないか、と思うのは、今の
実情の相違であります。ことに
日本の
中小企業は失
業者のプールという面も多分に持っておりまして、革に従業員だけでなく、
業者自身が大
企業の
労働者なんかよりむしろみじめな、経済的な、精神的な不安定の中で悩んでおる。ほかに方法がないからやっておる。生きるために無理しておるというふうな人たちが非常に多いのでありますから、そういうものが
中小企業のいろいろな諸対策と相並行いたしまして、たとえば私の描いておる理想図は、
中小企業は一方には
一つの系列
企業として成り立たなくてはならない。また他方には
中小企業独得の本来の分野がある。そういうふうなものに安定した分野に、これが整然と落ちつくまでは、なかなか安定しないのである。しかしそういうことはなかなか長い時間がかがる。それまで待っておるというわけには参らないということで、
最低賃金法がここでスタートしようというわけでありますから、これを
業者の自主的な自覚に待つということではもちろんありません。大局においてはそうでない。そうしますとこれをしいるのはやはり実際の力です。実際の力というのはそういう
賃金で押していく、
賃金を引き上げていくという、この
現実の力が非常にものをいう。その
程度がどこかということを判定するのには、この
審議会の構成というものは非常に重大であろうと思います。これは一方には
中小企業者を啓発していかなければならないという面があるのと一緒に、また
中小企業自身は一般的に申しますと長いものには巻かれろというふうな、非常に何と申しますか、視野の狭い、権力には弱い、そういう意識を持っておる。それを引き上げつつ、他方従業員としての
労働者の
生活も見ていかなければならないという、広い視野を必要とするということでありますから、この点で
最低賃金審議会というもののあり方に一応の懸念を持っておる次第であります。そしてこの問題を
審議する過程におきまして、
最低賃金審議会が優先するか、あるいは
業者間協定が優先するかということに、いろいろ議論があるようでありますが、今日までの労働問題懇談会や
中央賃金審議会において論じられてきた経過から見ますと、結局
労使の
意見、ことにその極端と言ってよいかどうか知りませんが、総評の一部の人たちと、それから日経連を
代表する一部の人たち、あるいは商工
会議所の
代表というような人との間には、
最後まで
意見が一致していないというようなことで、ここまで来ておる。それがこの
審議会の構成にどういうふうに反映していくか。もう
一つの点から懸念いたしますのは、最近のいわゆる労働
委員会というものが、
労使代表はそれぞれの
立場を固執しておって、結局公益
委員によって決定するほかはない。議決権は公益
委員に集結すべきではないかという
意見が台頭しておる、こういうふうな流れの中で、この
賃金審議会が発足いたします場合にどういうことに相なるであろうか。これは人選のやり方にも非常に問題があろうと思います。ことに公益
委員、中立
委員の選び万に問題があろうと思います。それともう
一つは
中小企業の実態についての今までの調査資料というりものが、お互いに断片的なというのは極言かもしれませんが、整備せざる資料の上で、抽象論を感覚的に戦わせておるという感じが非常に強い。この
法案が出発して、その資料を整備していくということがやはり前提としては必要である。その
意味におきましてもこの法律を早くスタートして、準備を整えるべきであるというふうに考えますか、同時にこの
審議会の構成、運営というものは、よほど慎重に考えていかなければならぬ点が多いというふうに思います。なおこの
審議会が
諮問機関であるか、あるいは決定機関ないしは決議機関にまでこれを進められるかという点にも多少問題はあると思います。しかし私は、
審議会の
意見は事実上これは決定権を持つものであるということを信頼したいと思います。またこれに反するような決定を行政機関がすることは、おそらく事実上できないのではないか。ですから今直ちにこれを決定機関とするというところまで進めなくても、準備段階としてはこれでよろしいのではなかろうかというとふうに思います。
それから
賃金決定の方法といたしまして、
業者間協定それ自身、あるいはその拡張適用、それから労働協約というふうに並んでおりますけれども、労働協約というものは、組合の組織状況から見て非常に件数が少いであろう。そうしますと中心は
業者間協定になるわけでありまするが、もしさっき申しましたように、資料、調査の整備あるいは
審議会の運営というものに漸次習熟しまして、これが円滑に運ぶようでありますれば、運営の中心は職権決定、つまり十六条の方にウエートをかけるようにこれを進めていくべきではないかというふうに思います。そういうところまでいきますと、この準備段階というものがある成果を得たということになると思うのです。
それから二十七条に
審議会の役割として建議ということがあります。建議はこれは勧告ということと同じように解釈したいと思うのでありますが、これも運用次第で、なるべくこの
審議会の強力な活動を積み重ねていって、この建議というものが勧告以上の力を持つという方向へ運ばしていかなくてはならぬのではないか。
それからもう
一つの問題は、中央、地方
審議会のフアンクションの
関係がこの
法案ではあまり明らかになっておりませんが、これはやはり中央
審議会が優位性を持つということにしていただきたいと思います。そしてこれを将来全国一本で歩みを進めるための
一つの有力な手がかりと申しますか、運用上の方向というものに活用すべきではないかと私は考えます。
結論的に申しますと、今度の
政府案は、そういう
意味における理想と申しますか、目標の
最低賃金の方へ行く
一つの準備であり、極論的に申しますと、その間はこれを時限立法にしてもいいくらいな
考え方で取り扱っていいのではないか。三年あるいは五年といろんな説が出ておりますが、その期間はこの実績次第で考えてよろしい。ですから、将来一般の理想的な形を作るまでは法律をスタートしないという
考え方でなくて、これをそういう
意味において解釈しまして、そしてその時期が来たならばなるべく早く次の一歩進んだ形における
改正に持っていくというふうに
政府案を取り扱っていただきたい。
これをもって終ります。