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1958-10-24 第30回国会 衆議院 社会労働委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年十月二十四日(金曜日)     午前十時五十四分開議  出席委員    委員長 園田  直君    理事 大石 武一君 理事 大坪 保雄君    理事 田中 正巳君 理事 八田 貞義君    理事 藤本 捨助君 理事 小林  進君    理事 五島 虎雄君 理事 滝井 義高君       小川 半次君    加藤鐐五郎君       川崎 秀二君    藏内 修治君       河野 孝子君    齋藤 邦吉君       志賀健次郎君    谷川 和穗君       寺島隆太郎君    中村三之丞君       中山 マサ君    二階堂 進君       古川 丈吉君    柳谷清三郎君       亘  四郎君    伊藤よし子君       大原  亨君    河野  正君       多賀谷真稔君    堤 ツルヨ君       中村 英男君    八木 一男君  出席国務大臣         労 働 大 臣 倉石 忠雄君         国 務 大 臣 三木 武夫君  出席政府委員         総理府事務官         (経済企画庁調         整局長)    大堀  弘君         労働政務次官  生田 宏一君         労働基準監督官         (労働基準局         長)      堀  秀夫君  委員外出席者         労働事務官         (大臣官房労働         統計調査部長) 大島  靖君         専  門  員 川井 章知君     ————————————— 十月二十四日  委員藏内修治君、齋藤邦吉君、寺島隆太郎君及  び二階堂進辞任につき、その補欠として加藤  常太郎君、大森玉木君、赤澤正道君及び椎名悦  三郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員赤澤正道君、大森玉木君、加藤常太郎君及  び椎名悦三郎辞任につき、その補欠として寺  島隆太郎君、齋藤邦吉君、藏内修治君及び二階  堂進君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求取止めの件  最低賃金法案内閣提出第一九号)  最低賃金法案勝間田清一君外十六名提出、衆  法第一号)  家内労働法案勝間田清一君外十六名提出、衆  法第二号)      ————◇—————
  2. 園田直

    園田委員長 これより会議を開きます。  この際お諮りいたします。去る二十二日の本委員会において、内閣提出国民健康法案及び国民健康保険法施行法案並びに滝井義高君外十三名提出国民健康保険法の一部を改正する法律案について、参考人より意見を聴取することに決定いたしましたが、理事各位と協議の結果、参考人よりの意見聴取は取りやめることといたしたいと存じます。これに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 園田直

    園田委員長 御異議なしと認め、そのように決します。     —————————————
  4. 園田直

    園田委員長 次に内閣提出最低賃金法案並びに勝間田清一君外十六名提出最低賃金法案及び家内労働法案の三案を一括議題として審査を進めます。  この際、労働省より昨日提出された賃金関係資料について説明を聴取することといたします。大島労働統計調査部長
  5. 大島靖

    大島説明員 お配りいたしました「賃金関係資料」につきまして簡単に御説明申し上げます。  第一表、第二表、第三表は、わが国就業構造を示します資料として三つあげたわけであります。  第一表は、就業者従業上の地位によって分けてあります。すなわち自営業主家族従業者雇用者、この三つに分けてみますと、その比率自営業主が二五%、家族従業者が三〇%、雇用者が四四%、これはたとえばアメリカの場合ですと、雇用者割合が八割を越えるわけであります。  第二表は、就業者全体が産業別にどういうふうに分れておるかという表であります。第一次産業が三八・二%、第二次産業が二五%、第三次産業が三六・七%であります。これも同じくアメリカ就業者構造は第一次が一二%、第二次が三四%、第三次が四八%、こういうふうな数字になっております。わが国の第一次産業就業者比率が非常に高い。  第三表は、規模別事業所がどう分布して起るか、従業者がどう分布しておるかという表であります。まず事業所の方は、総数が三百二十八万事業所でありますが、これを一〇〇とおきますと、一人から四人までの事業所が八〇・二%、以下一七・八%、一・七%となりまして、九十九人以下すなわち百人以下の事業所の数は、この三つ合せますと九九・七%になります。ほとんど大部分であります。右の方の従業者比率は、総数が一千七百万人でありますが、これを一〇〇としますと、一人から四人までが二八・六%、以下三つ合せまして、すなわち百人以下を合せますと、七六%になります。すなわち従業者の数では百人以下のところに七六%集中しておるわけであります。これを各国の様子と比べてみますと、日本は今申しますように、百人以下に七六%集中しておる。アメリカが二五%、イギリスが二六%、ドイツが二四%であります。すなわち米英独におきましては百人以下のところにわずかに四分の一でありますが、日本の場合は百人以下に四分の三が集まっておる。大体以上のような就業構造になっております。  第四表以下は、先日来御質疑のありました賃金各種格差についての資料であります。第四表から六表までは地域別賃金格差を示しております。第四表をごらんいただきますと、これは賃金の総平均で見ました場合、全産業及び各産業別、各府県別にどういうふうな賃金格差があるかという表であります。この一番左の全産業をごらんいただきますと、最高が上から三つ日の欄の下の方にあります神奈川県一一七、最低がその次の欄の福井県で六七、最低最高の幅が二倍弱になっています。その次の欄の製造業でごらんいただきますと最高が下から二番目の欄の福岡県で一三七、最低が先ほどの福井の下の山梨で五四、これは製造業の場合だと最高最低の開きが二倍強になっています。それから五つ自の欄の卸売、小売業、これをごらんいただきますと、最高が下から四つ自の欄の大阪府で一三四、最低が上から二番目の一番上にあります山形の五三、これも二倍強になっています。これは今申しましたように、全産業別に全労働者平均賃金地域格差であります。  その次の第五表をごらんいただきますと、これは一応製造業だけについて労職別労務者職員別に分け、さらに男女別に分けて、地域格差がどういうふうになっているかということを示しております。一番左の生産労働者、これは最高福岡県で一四九、最低山梨県で五三、これは最低最高の幅が二・八倍くらいになっております。その次の管理事務及び技術労働者、これはいわゆる職員であります。これの最高は上から二番目の青森県の一五三、最低山梨県の六三、この幅は二・四倍になります。その次の男はどうかと見ますと、最高福岡県で最低山梨県で、これは大体二倍になります。女の場合は最高東京の一二一、最低がやはり山梨の六五で一・八倍、これは労職別男女別に見た地域格差であります。  その次の第六表をごらんいただきますと、今度は企業規模を固定いたしまして、それから特殊の職種について調べてみた場合どうなるか、企業規模が十人から三十人までのところ、小規模の方を押えてみますと、事務職員の男で、新制高校卒業紡織産業について見ますと、山形が五三で、大阪一一五、二倍強になっております。その次の旋盤工の男、機械工業において見ますと、山形が五二で、京都が一〇四、ちょうど二倍であります。旋盤工熟練を要します労働者といたしまして代表的に選んだものであります。その次の営業用貨物自動車運転手、これは特殊の技能を要するということで、一定の免許とか、資格を要する労働者、こういう形で選んでみました。これは静岡が四五で大阪が一〇九、二倍以上になっております。今度は企業規模を千人以上にとってみますと、事務職員山形大阪で二倍強、旋盤工が今度は群馬が低くて兵庫が高い、これは二倍弱であります。貨物自動車運転手になりますと、岡山が六七で大阪が一一四、これも二倍弱であります。こういうふうに、平均の姿とそれから職種とか規模、あるいは男女別、こういうふうに分けてみますと、いろいろ変った数字が出るわけであります。  そこで産業構成、各県の産業構成、それから労働者構成労職別あるいは男女別、こういうものを全国平均同じ価値に直して計算いたしてみますと、最高がやはり東京になります。東京を一大と置きますと、大阪が九五、神奈川が九五、大体その辺が上になりまして、最低の方は鳥取か五九、徳島が六一、長野が六四、こういうふうな数字になります。すなわち、ここでの幅は二倍弱になるわけであります。  以上のように、実際に格差は物価とか生計費あるいは各県における生活構造の差、あるいは労務の需給、労働者移動が必ずしも全国的に円滑でない、あるいは各県の産業構造の差、すなわち各企業産業における付加価値率の相違とか、あるいは農業が多い、非農業が多い、こういうふうな結果からくる総体的な事情の違いとか、いろいろな点が作用しているものと思われます。  その次に、第七表からは産業別賃金格差をあげてあります。どの産業賃金が高いかということを比べてみますと、一番左が昭和二十七年で、右の端が三十二年になります。たとえば二十七年で申しますと、一番高い数字は一番下のその他の公益事業で、運輸通信のほかにその他の公益事業、これは電気ガス水道、これが一番高い。それから高いものとしては、下から四、五番目の金融保険が一三四、それからちょうどまん中あたりの紙及び類似品製造業、これが一三二、この辺が高い。それから低い方は上から四、五番目にある衣服及び身の回り品製造業、これが四八・四で最低。その上が紡織業六雄、その下が木材及び木製品製造業で、五八・三、この辺が低い。三十二年をごらんいただきますと、やはり一番高いのが一番下のその他の公益事業ガス電気水道、それから金融保険まん中あたりにあります石油石炭製品製造業、この辺が高い。それから低いのはやはり紡織衣服及び身の回り品製造業、この辺が低いのであります。これは全体の平均であります。  そこで今度は第八表へ参りまして、これを規模別に見たらどうなるか。左の欄は昭和三十年、右の欄が昭和三十二年になります。規模五百人以上のところをごらんいただきますと、最高がちょうどまん中あたりになります石油及び石炭製品製造業一四二というのが最高になります。それから最低が上から五つくらいの紡織業五三・九、これが最低。それから規模百人、五百人のところ、これがやはり最高石油石炭製品で一四五、最低衣服身の回り品で四三、それから規模三十人から九十九人のところでごらんいただきますと、最高が下の方にある金融業及び保険業の一五五、それから最低衣服及び身の回り品製造業。この産業別格差は、本来各産業別資本構成高度化程度あるいは生産技術の発達の段階に従って、企業あるいは産業付加価値率の差あるいは労務比率の差、こういうふうなものに支配されますし、さらにその産業あるいは企業の必要といたします労働力資質、こういうものに作用されるわけでありますが、一般的にただいま申し上げましたような表から言えますことは、高水準賃金産業としましては、さらにその産業分類をこまかくいたしますと、航空運輸飛行機会社、この辺が非常に高い。銀行、信託が高い。第一次金属、鉄鋼業、それから輸送用機械製造業、この辺が高い水準にあります。大体こういうふうな産業は、本来大企業性産業であります。それから第三次産業が比較的高い。それから労働力資質としてはやはり複雑、熟練技能を要する労働力を持っておる産業、こういうものが高いということになります。低い方を見ますと木材関係の仕事、衣服身の回り品、家具、装備品食料品、こういうふうな消費財生産部門が比較的低い。それから本来小規模生産的なものあるいは全国的な規模でなしに地方性産業、こういうふうなものが大体において低い水準賃金を持っておるわけであります。ただこれは今申しましたように全般平均であります。  そこでたとえば労務者職員構成あるいは男女構成、こういうものを固定して調べてみますと、たとえば男子職員の各産業別最高最低を見ますと、一〇八と八五、それから男子労務者では一八七と八二、こういうふうに産業別格差は、男女別構成とかあるいは労識別構成を固定いたしますと、格差はだいぶん縮まってくるということであります。以上が第八表までの産業別格差の問題であります。  第九表と第十表は規模別賃金格差でございます。第九表は、規模別格差が最近各年次的に見ましてどうなっているかという趨勢を示しております。昭和二十六年で五百人以上のところを一〇〇と置きますと、百人——五百人のところで七九・五に落ちております。それから、二十人——九十九人、百人以下のところになりますと六一まで落ちております。それが一番下の欄の三十二年で見ますと、五百人以上を一〇〇と置いて、百人——四百九十九人のところが七〇・八、三十人——九十九人が五六・〇、こういうふうに規模別賃金格差は遺憾ながら年々開いて参るという状況を示しております。  それからその次の第十表、産業別規模別賃金格差を見たらどうなるか、六大産業を合計いたしますと、五百人以上を一〇〇と置きますと、百人—四百九十九人のところで八二%、三十人—九十九人のところで七一%、五人—二十九人のところで五四%、四人以下になりますと三五%に落ちております。ただこの点は先般も申し上げました通り、通勤、住み込みの労働者、小規模に非常に多いのですが、これが一緒になっております。さらに、従って現物給与というものがかなりその方面においては多いのでありますが、これはその中に入っておりません。キャッシュだけの労賃であります。ただ一番下の欄にありますように、運輸通信その他の公益事業、これになりますと、この産業では四人以下になりましても六割程度にとどまっておるというふうに産業別の違いはございます。これも全労働者平均の数学でありまして、職種別にもあるいは男女別にも年令別にも見てみなくてはいかぬわけでありますが、たとえば職種を固定いたしますと、事務職員の場合は千人以上一〇〇と置きますと、三十人以下のところは六割程度でございます。従って五百人以上を表のように一〇〇とおきますと、大体七割程度になるのではないか。鋳物工旋盤工職種を固定いたしますと、やはり七割程度、こういうふうに規模別格差全般としては四割、三割と、下へいきますと非常に小さくなる。そういうふうに職種を固定いたしますと、小規模といえども、六割ないし七割程度にしか下らないわけです。さらにこれを年令を固定し、男女を固定すると、たとえば男の十八才から三十才程度を固定して、年令男女別を固定してみますと、大体七割から八割程度にしか落ちない。それから職種年令をかみ合せて固定いたしますと、たとえば鋳物工の二十才から二十五才の程度、この辺だと大体九割程度にしか落ちない。従って全般平均といたしましてはこういうふうな数字を示しておるのでありますが、職種とか男女別年令というものを固定して考えてみますと、必ずしも規模別格差はこのように落ちないということであります。(多賀谷委員「五百人に対して九割ですか。」と呼ぶ)あとで申し上げました数字は、千人以上を一〇〇と置いた計算になっております。ただ五百人と千人以上の場合大体一割程度の割引をして考えれば、五百人になると思います。  次の第十一表は職種別賃金格差であります。大体今まで申し上げたのがいわゆる社外賃金格差これからが社内賃金格差になるわけであります。職種別は非常にたくさんございまして、二百種、三百種とあるわけなのでございますが、そのうちで共通職種、大体各企業において共通にあると思われる職種を選んで調べたのが第十一表であります。これで見ますと事務管理職員、いわゆる管理者、これを一〇〇と置きますと、三つ目事務職員の男が五一・三、五つ目事務職員が二六・〇、自家用貨物自動車運転手三七、守衛の男が五四、こういう職種格差を示しておるわけです。そこで事務職員の男を基準にして考えますと、事務管理職員の男は二倍弱になります。それから事務職員の女は約半分。自家用貨物自動車運転手は約七割、守衛の男は事務職員の男よりも若干高い、こういう数字になります。ただ、たとえば平均年令をとってみますと、事務職員の男の平均年令が三十二才、事務管理職員は四十四才、勤続年数をとってみますと、事務職員が七年に対して事務管理職員が十四年、こういうふうに平均年令ないし勤続年数はかなり違うわけです。たとえば守衛の場合は平均年令が四十三才、勤続年数が七年、労働時間も長い、こういうふうな作用もあって、事務職員よりも若干高いという数字が出ております。  第十二表は男女別賃金格差であります。これは調査産業総数で、女子の賃金男子賃金で割りますと四一%、三つ日製造業では三七%、大体こういうふうな数字を示しております。ただこれは総平均数字でありまして、たとえば産業別男女賃金を調べてみますと、たばこ製造業では一〇八と、逆に女の方か高い、紡織産業でみますと、九一、ほとんど違わない。さらにたばこ製造業の十八才から二十才、この辺の高校卒をとってみますと、経験年数六カ月未満の新しいところでは一〇二、六カ月から一年の勤続では一二五、逆に女の方が高い。デパートの店員の経験年数三年から五年というところは九八、ほとんど男と変らない、こういうふうな数字が出て参ります。これが男女別賃金格差であります。  その次の第十三表、年令別賃金格差、これは事務職員の男と事務職員の女について示してありますが、十八才未満から六十才以上までの各年令グループに分けております。事務職員の男で申しますと、十八才未満が四六、二十才から二十五才までを一〇〇としております。そうしますと四十才から五十才が最高になり二三七、そこからずっと年をとるに従って下って参ります。女についても十八才未満が五六、四十才から五十才までが一六九で最高であります。それから以下下って参ります。この最低最高の幅の大きいものといたしましては、事務的な職員、技術的な職員、こういうふうな事務技術職員、それから熟練を要します職種、たとえば旋盤工、そういったものは最高最低の幅が非常に大きいわけでございます。それから今度は単純労務とか能率給出来高払い労働者、たとえば採炭夫、こういうふうな労働者につきましては、最高最低年令別の幅は非常に小さいわけでございます。以上年令別賃金格差であります。  第十四表は勤続年数別賃金格差であります。これも年令別賃金格差と若干重複するわけでありますが、年令の場合は今申しましたように、大体四十五才から五十才のところを最高として、あと逓減いたして参りますが、同一年令勤続年数を分けてみますと、勤続年数に比例して最後まで逓増するわけであります。以上大体各種賃金格差を示します表であります。  第十五表は所得階級別雇用者累積度数割合であります。分布累積分布累積分布となっておりますが、左から二番目のところと一番右の端の欄をごらんいただきますと、上から二つ目数字、四千円から六千円、これの累積のところで三百三十五万四千人という数字、すなわち月収六千円未満雇用労働者は三百三十五万、全体の労働者の一九・六%、その次の月収八千円未満労働者が五百六十五万人、三三・%、すなわち月収六千円未満労働者は約二割、八千円未満は約三分の一ということであります。  その次の第十六表以下第二十二表までは規模別賃金格差が生じます理由について一応の統計をあげたわけであります。第十六表をごらんいただきますと、結局賃金格差の生じますのは生産性格差によるものであるという点を示す表であります。それを日本の場合と米英独の三国との対比において示しております。そうしますと、日本の場合一人当り賃金は、先ほど申しましたように逐次四割程度に落ちてくるわけです。生産性規模別にどういうふうに低くなって参るかと申しますと、一人当り付加価値というのがあります。これが生産性を示すわけであります。これが千人以上を一〇〇と置きまして、四人から九人のところで二七・六まで落ちてくる。ところが米国の場合は一人当り付加価値生産性は、一人から九人のところであっても七割程度にしか落ちないわけであります。従って一人当り賃金も六三%にとどまる。イギリスの場合は十人から四十九人のところで生産性は九一%、ほとんど違わない。一人当り賃金は八二%までしか落ちない。ドイツの場合もまたしかりで、生産性が七六・四で賃金が八一・七、こういうことであります。結局は賃金格差の問題は規模別生産性の問題に帰するのではないかと思われます。  第十七表以下は、規模別に見まして労働者構成がどういうふうに違っておるか、労働力構成がどういうふうになっておるかという点を示す各種統計であります。第十七表は、新しく入職して参ります者の前歴がどう違うか、それを未就業者既就業者に分けて、全然新しく入ってきます者と、転々として変って参って入ってきます者、これに分ける。そうしますと、未就業者の小計では五百人以上は四七%、五人から九人の一番下では三九・六、すなわち大企業の方が未就業者割合が多い。ことにその次の新規学卒者、フレッシュ・マンの割合は大企業は三三・八%、小企業は二一%、既就業者は大規模が五二%、小規模は六三%、これが経験があるならいいわけですが、むしろ転々として移動のはげしいという状況を示しておるものと思われます。  その次の第十八表は、どういうふうな経歴を経て職場に入ってくるか、安定所経由学校紹介縁故に分けて参りますと、大企業安定所経由が四三・六、小規模の場合はわずかに九・八%、学校紹介は大企業が一〇・五%小企業が四・五%。逆に縁故は大企業三三・五%に対して、小企業の方は五二・八%、半分以上は縁故であります。  第十九表は労働異動率、新しく入ったり離職したりする者の率はどうか、またそれらを合せた異動率はどうかであります。全常用労働者について見ますと、大規模のところで異動率は二二・四%、小規模で八八%、約四倍の激しい異動率を示す。異動率は入職率離職率を足したものであります。ことに常用労働者の場合は、大企業は一二・六%でありますが、小企業は七七%も異動し、非常に大きな異動率を示します。  第二十表は特定職種勤続年数経験年数はどうなっておるか。鋳物工旋盤工を例にとってみますと、鋳物工の場合は、勤続年数は千人以上が十年、十人—二十九人の場合は二五年、経験年数はほぼ同じ。旋盤工の場合は、勤続年数は九・九年、小規模で四・二年、経験年数は同じであります。すなわち一つの企業に落ちついておるという点では約倍の違いがある、こういうことであります。  それから次のページの二十一表、年令別労働者構成、これを規模別に見ればどうか。左の端の千人以上のところをごらんいただきますと、二十才未満が一六%、それからその次の三つ、二十才から四十才までのところを合せますと六四%になります。それから五十才以上が四・五%。それから今度は右の端の欄をごらんいただきますと、中ほどの二十才から四十才までの三つ数字を合せますと五四%、五十才以上が一〇%、すなわち二十才から四十才までの中堅労働者、これは大企業においては六四%、小企業においては五四%、一割の違い。五十才以上の老令労働者は小規模に非常に多いということを示しております。  第二十二表は学歴別構成であります。これでごらんになりましても、小学、新中卒は小規模に多く、逆に旧大、新大卒は大企業に多いということが示されております。こういうふうに規模別賃金格差は、一つは生産性の問題によりますし、また一つは労働力構成それ自体から賃金の差を生じておることがわかるわけであります。  第二十三表は業者間協定の締結状況を示しております。最初は協定の締結状況及び実態調査をやっております状況であります。締結件数は総計四十八件、協定参加事業所数は四千七百十三、それから適用を受けます労働者は三万六千六百四十七、実態調査実施中の件数は六十八。これは三十二年の四月に業者間協定に関する事務次官通牒というものが出ましてから、ことしの八月までの数字であります。  その次のページからは具体的に、各県において締結されました業者間協定の参加事業所数、適用対象の労働者数、あるいは協定賃金以下の労働者賃金増加率、実施時期、こういうものを四十八件について示しておるわけであります。  以上で御説明を終ります。
  6. 園田直

    園田委員長 質疑を行います。大原亨君。
  7. 大原亨

    ○大原委員 ただいま前回の委員会で問題となりました点について非常に明快なる資料をいただきました。ちょうど企画庁長官がお見えになりましたので御質問いたします。ただいまのお話によりましてもはっきりいたすのですが、詳細に格差の問題を分析いたしましたら、これは日本の国民経済の構造を分析する上におきまして、非常に大切な問題がたくさんございます。ただいまもお話がありましたように、最近のこういうような数字が示しておることは、好況不況を通じまして、特に一つ例をとりますと、規模別賃金格差が増大をしておることであります。私が経済企画庁長官にお尋ねいたしたい点は、前回の委員会でも審議いたしてきたのですが、最賃法案を政府が提案される際に、賃金格差の拡大を阻止していきまして、賃金格差を縮小していく、労働大臣の話によりましてもこれははっきりいたしておるのですが、企画庁長官もおそらく、進歩的な保守政党と言われるのですから、そういう理解は非常にあると思うのでありますが、上を下げるのではなしに下を上げていく、上の大部分の労働者が高いからこれを下げるというのではなしに、下を上げていく、そうして下を上げることによって国民生活の水準が上ってくるのだ、こういう考え方がここにあると思うのです。しかし私は前会にも質疑応答でいろいろと究明いたしましたが、遺憾ながら、特に中小企業を対象といたしておるわけではありませんが、最低賃金制は経営上その他あらゆる面で中小企業にとって非常に大きな問題だと思います。そこでほんとうに有効な最低賃金制を実施するためには、労使の関係を正しい形に安定させなければならぬ。あるいは労使の間にあるところの問題を正しく解決しなければならぬ。その基本は国民生活の水準を引き上げる、底を上げていくんだ、こういう考えであります。従って労使の関係の問題から賃金格差の問題について、あらゆる角度からこれを究明いたしまして、そうしてほんとうにこの最低賃金制の法案が国際的に見ましても、歴史的に見ましても、あるいは日本の現状を見ましても、そういう要請にこたえるかどうか、こういうことを私どもは真剣に考えてみました場合に、格差についていろいろな原因があるのであります。その格差の原因をできるだけ正しく究明いたしまして、その中において賃金格差の拡大を阻止するという最低賃金制がどういう役割を持っておるか、こういう点について究明いたしていきたいわけです。  最初に企画庁長官にお尋ねいたしたい点は、質問の通告をいたしておきましたが、最近の産業別の、あるいは分配国民所得といいますか、そういう観点からいたしますところの国民所得の動向といいますか、特に昭和三十二年度の上期以降より最近に至る問題で、数字が出ておる場合もあると思うんですが、予測できる場合もあると思うんですが、そういう点に対する一つの傾向をどういうふうに把握しておられるか、こういう点につきまして最初に御質問をいたしたいと存じます。
  8. 三木武夫

    ○三木国務大臣 賃金格差並びに所得格差の問題があると思います。賃金格差の問題については、政府委員からいろいろお話があったようでありますが、結局は中小企業と大企業との賃金格差、その根本は、やはり生産性の問題、中小企業が低い生産性、俗に産業の二重構造といわれている、こういう点から中小企業の年産性が低い、賃金も従って低い、こういう問題と、もう一つは、高額所得者と低額所得者、この国民所得の格差、こういう二つの問題があろうと思う。その傾向をどういうふうに見ておるかということであります。賃金格差については、先ほど政府委員から御説明があったようであります。おそらくこれは労働省の統計を使っておることと思います。やはり大企業五百名以上の統計ですが、それに比して、百名以下あるいは五百名以下というものの賃金と大企業賃金格差は、非常に大きいものではありません。その拡大が非常に顕著だとはいえませんけれども、しかしその賃金格差は拡大していく傾向を持っている。たとえば昭和二十六年の平均をとってみれば、百人以上四百九十九人、これは五百人以上の大企業に比して賃金は七九・五であります。それが、今大原さんも御指摘の三十二年には七〇・八に、それから三十人から九十九人まで、これは昭和三十六年が六一・七、それが三十二年には五六、こういうふうに非常に大きい数年ではないけれども、格差は広がっていくという数字統計は示しておるのであります。  それから所得であります。勤労世帯の実収入というものを四千二百世帯はかりにわたって調査した統計がここにあるのであります。それで、これをその調査した五分の一から、次の五分の一、五分の一というふうに五階層に分けて、低額所得者といわれる調査の中の一番低い階層の五分の一、これを昭和二十九年を一〇〇としてみると、昭和三十二年は対前年比一〇六・一、これが一番低額所得者。ところが一番高額所得者の方は一〇八・一ということで、その間にも所得の格差——これも大きな数字だといえませんが、格差は拡大しておる傾向がある。こういうふうに賃金格差、国民の所得格差というものが拡大するという傾向は、統計を通じて認めざるを得ないという現状であります。
  9. 大原亨

    ○大原委員 そういうふうに長官の方では客観的に分析していただいたわけですが、しかし企画庁は、もちろん通産省等が直接そういう対策の第一線の実施機関でございますけれども、やはり各省ばらばらのそういう政策というものを科学的に分析しまして、大きな方向を与えるのが私は仕事だと思うのです。一時は有名無実になっておりましたが、だんだん態勢が強化されてきている。それはだれも認めるところなんですが、そういう格差が増大をする、特に経営千面も含んでなんですが、その原因についてどういう、ふうに大臣は大体お考えになっておりますか。
  10. 三木武夫

    ○三木国務大臣 日本の場合における賃金格差、それは所得格差にもつながるのですけれども、やはり問題は、中小企業の後進件——これはやはり生産性あるいは技術水準あるいは労働組合の組織等も問題になって参りましょう。こういう点で、中小企業が本質的に、大企業に比べて、設備の面においても、あるいは技術水準においても立ちおくれておる。やはり近代的な大企業に比べて非常に前近代的な中小企業というものが併存して、産業が二重構造になっておる。大企業は、企業の技術革新などによって非常な速度で進歩するし、設備も更新していく。これが、中小企業はいろいろな面でその速度が立ちおくれている。こういうことで、これは結局生産性ということに集約されるわけですが、生産性が大企業に比べて低い。賃金格差というものがついていく原因はこういうところにある、こう考えております。
  11. 大原亨

    ○大原委員 ただいま御指摘になりました原因につきましても、大体において私了承できるのですが、中小企業生産性が非常に低い。御承知のように、神武景気ころまでは、大企業を中心といたしまして、機械化、技術革新ということが怒濤のように進んで参りまして、それが行き過ぎました。それは言われておる通りです。しかしそれと一緒に、やはり分配所得、国民所得もその方へ集中いたしまして、中小企業が非常に困難になったところで金融引き締めがございました。そこでそれをしおにいたしまして、共同化あるいは経営の近代化等にようやく中小企業が努力しようと思ったときに——これは食堂の前に行きまして、入ろうとしたところが、鉄のとびらがぱっとおりたようなものでありまして、あらゆる施策にいたしましても、中小企業は冷飯を食いまして、ますますその生産性、近代化、労働者一人当りの物的あるいは技術的な条件というものが、大企業との間に開きを生じて参りまして、中小企業はますます経営が困難になりました。中小企業が団結をいたしまして、自分たちの主張を貫徹しなければならぬという気持も一部起きましたが、これはなかなかできない理由が、分析すればたくさんございます。その一つの理由の中で、私どもが指摘いたしましたのは、やはり今も大臣が言われましたように、労働組合の組織の問題も含んで、企業の中における後進性、封建性の問題であります。経営が全然科学的に分析されない。大福帳式でやっておる。そうして大企業に比較いたしまして高い資材を買い入れる。電気にいたしましても非常に高いのです。大企業は量的にもいろいろな条件で恵まれておりますが、中小へ企業の方は非常に高い動力源を使っておる。物を売る場合におきましても、PRその他で立ちおくれをとりまして、中間搾取を受けたり、非常にみじめです。そのしわが一切労働者へ寄りますから、労働者は組織力も非常に低いし、労働省のそういう面に対する指導も行き届いておりませんので、いろいろな違った角度で抵抗いたしてきます。そして仕事の能率は上らない、仕事が抜ける、そういうことで、これは例をあげれば私幾らでもあげられるのでありますけれども、時間かせぎに質問いたしておるのではありませんから、そういう点は私は御理解いただけると思うのでお話しするのでありますけれども、労働組合も認めない。従って正しい要求が反映しないし、経営全体が科学的に分析されない。金が別宅へ出ているじゃないか、あるいはこういう点は、どうなんだとか、こういう点をやはり労働者が経営という立場に立ちながら指摘して、どんどん相協力していくような、そういう態勢ではないわけです。そういうことがこんがらがって、中小企業は非常に経営全体が悪化いたしまして、そのしわ寄せがすべて労働者へ来ていると思うのです。大体私はイデオロギーとかそういうことでなしに、近代化以前、合理化以前の、そういう近代性以前の問題について原因を指摘いたしたのでありますけれども、やはりそういう面からも国民経済の構造、政策を考えていただかなければならぬ大臣といたしまして、どういう御見解をこれに対してお持ちになるか、お伺いいたしたいのでございます。
  12. 三木武夫

    ○三木国務大臣 大原さんの御意見は、労働組合運動に重点を置いてお話しになったけれども、私はそうは考えない。やはり中小企業労働組合組織をさるべきだと私は思う。しかしそれが中小企業賃金格差を大きくしておるのだとは思わない。やはり問題は中小企業の持っておる生産性の低さということにある。この低い状態をそのままに放置しておいて労働組合を作り、強力な組織力によって中小企業賃金水準を上げていくということが問題の解決ではない。やはり中小企業の、今言った後進性、これはむろん労働組合組織がないということもその中に入れられましょうけれども、それが根本の問題です。いかにして中小企業の立ちおくれておる設備を近代化していくか、あるいは技術水準の低い状態をどうして高めていくか、あるいはまた中小企業の持つ過当競争に対して、もう少し中小企業が一つの組織か企業自体を通じて、全体として中小企業の問題を解決していかなければ、労働組合を結成されるということたけで中小企業の問題が解決できると私は考えていない。
  13. 大原亨

    ○大原委員 非常に政治的な御答弁をなさいましたが、私はこういうことを申し上げたのです。近代化という中には、生産性の問題も労働者の問題もある。労働者の問題というのは、これは人道的な、人間としての問題であります。それで一つ大臣にお伺いしたいのだが、あなたは企画庁の長官といたしまして、最低賃金制ということについてどういうお考えを持っておられるか。根本問題ですから一つお聞きいたしたい。それが御理解ないと、総合的な施策を立てる際に、人間を尊重する雇用の問題、失業の問題その他、これは口では国民水準を上げる、不況対策をやると言いましても、内的にそういう原因があるのです。それを科学的に究明しないと政策は立たない。だから最低賃金制の問題に対する御見解をお伺いいたしたい。
  14. 三木武夫

    ○三木国務大臣 やはりそう急激な、一律な最低賃金制というようなものが実情に沿わないことは大原さんも御承知の通りでありますが……。(承知じゃない」と呼びその他発言する者多し)いや、それは現実ですよ。日本の中小企業の問題というものが、いわゆる労働面だけで解決できるものでない。労働面だけでもいろいろ問題があることは御指摘の通りでありますか、ほかにもいろいろ本質的な問題があるのでありますから、これを一律に最低賃金制などという、中小企業の全体が崩壊するようなものが現実の政治だとは思わないのでありますが、しかし徐々に最低賃金制をしいていく、これくらいの給料を支払えない企業というものは、企業としてやはり成一前しない、こういう状態に持っていくことは傾向として私は必要だと思う。そのためにこの言最低賃金制があるいは不徹底なものだと言われるかもしれませんが、一歩前進である。これを保守党が提案して、最低賃金を用いて、ここから将来は最低賃金制というものを一律にすべきものでしょう。そういう方向に向って踏み出していったというところに大きな意義もあるし、これは必要である、こういうふうに考えます。
  15. 大原亨

    ○大原委員 今の御答弁ですが、初めはよくてだんだん悪くなった。あなたは非常に口の言い回しが上手な人なんで、倉石労働大臣と双壁です。あなたは非常に進歩的な方なんだというので私は初めは意見が一致しておったのですが、だんだん分れつつある。じゃ、端的にお尋ねするのですけれども、あなたは最低賃金制とは中小企業労働者や一般勤労者の賃金最低に押えられるのが最低賃金制だというのですか。それとも生きていける、人間としてのそういう条件を整えていく、これを中心として考えていくのが最低賃金制だ、国民経済の中で再生産できるような労働力をつちかっていく、どっちが最低賃金制だとお考えですか。
  16. 三木武夫

    ○三木国務大臣 それは大原さんのおっしゃる通り、物理的にいって人間らしいという理由だけでなしに、文化的生活のできる条件を充たす賃金であること。ところが現在そういう意味からいったならば、中小企業の持っておる後進性がそれだけの貸金を与え得ないところに、やはり日本産業構造の大きな問題があるのでありますから、考え方としてはあなたと私は違いはない。しかしそれを現実にはできないのじゃないか。それがやはり日本産業の一つの姿である。それを徐々にそういうところに持っていくところに問題の点があるのだと考えます。
  17. 大原亨

    ○大原委員 だいぶ問題が前進しましたが、私が次にお尋ねしたいのはこういうことなんです。最低賃金制の観念については、三木長官の感覚では理解できると思うのです。ただ、さっき労働省がずっと指摘されましたし、あなたも言われましたが、賃金格差はだんだんと増大しておるのです。その原因については生産性の問題を言われたのですね。生産性の問題といいましたら、一人当りの労働者の、簡単に言えば、その生産の効率の問題だと思うのです。その前提となっているものは中小企業者の経営全体を含んで、政府が今日まで、どういう施策をとってきたか、ここに根源があるのです。格差が増大しているというのは、口では中小企業対策を言われながら、実際には中小企業対策は前進していない証拠じゃないのですか。そこに問題があるのじゃないのですか。この問題を的確に国民経済の中で解決しないと、最低貸金制はいつまでたってもあなたが言われるように前進しませんよ。だから近代化とか生産性を高めていく、こういう問題について、それを妨げている原因は、特に金融引き締め以来、神武景気以来、たとえばけさの新聞を見ましても、本年度の下半期の財政投融資の予測について企画庁では出しておられたけれども、そういう問題については、むしろそういう点においてその原因をどういうふうに把握しておられるかという点が最低賃金制と関連して大切な問題であって、これが非常に具体的な問題だと私は思うのです。一つお考えを承わりたい。
  18. 三木武夫

    ○三木国務大臣 これは通産省などで来年度の予算とも関連して考えるべきことでありまして、国務大臣としての私の責任もあるわけであります。やはり一つには中小企業の設備近代化のために相当な努力をいたしたいと私は考えております。来年度の予算においても、機械工業振興法などによっていろいろな便宜がありますが、それでは足りないと私は思っております。もう少し予算の面においても中小企業が設備をとりかえられる、そういう条件を満たすために努力をしたい。今年度でもそういう予算があることは大原さん御承知の通り。こういうことによって中小企業の設備を近代化していく、また中小企業労務者に対して、技術的な再教育といいますか、こういう施設もあるのでありますけれども、十分であるとは思いません。こういう点にも、やはり中小企業労働者というものが、労働の質の上において低いことは明らかでありますので、それを何とかして技術水準というものを高めるように政府の施策も拡充していく、国務大臣として予算の獲得には努力したいと思っておる。設備近代化、技術、それから一方において中小企業が、個々には零細な企業がたくさんに分れておるのでありますから、どうしてもやはりこれは協同組合とか団体法によるいろいろな組織化をはかって、またみずからもいろいろ中小企業の経営の近代化のために、組合単位でいろいろ努力していくという面も要るわけです。そういう助長もしなければならない。また一方において、御指摘のような財政投融資などにつきましても、これは重要産業における財政投融資は年々ずっと減って、むしろ中小企業の面に——金額としてはやはり大原さんも大企業に比べて低いと言われるだろうと思いますが、しかし大企業といってもそれは電力とか鉄鋼とかそういうふうな、それ自身は大企業といっても中小企業に関連性を持っておる、こういう基礎的な産業というものが相当発展をしてこないと、中小企業というものとも関連を持っておりますから、ただ資本金の大小ということばかりで財政投融資というものは考えられない。その質という問題も考えなければならぬわけでありますが、しかし今後財政投融資がそういう傾向にはあるけれども、これはやはり中小企業にもっと重点を置いていくべきである。こういう点については、今のが満足だとは思っておりません。もう少しやはり中小企業というものに重点を置くことが経済政策としては非常に大事である、こう考えております。
  19. 小林進

    ○小林(進)委員 関連で企画庁長官にお伺いいたしたいのですが、ただいまの御答弁の中に私は非常に重大な——というのは悪い意味ではないのですよ、傾聴に値する貴重な御意見があったと思うのであります。それは一定の賃金を支払えぬような企業企業として成り立たないのである、こういうお言葉がございました。これは私どもが常日ごろ考えていることでございまして、私は実に長官の名御答弁であると思うのでございまするが、その賃金というのは何かとおっしゃれば、それは動物的、物理的賃金ではないのだ、やはり人間として文化的あるいは一定の教養、娯楽をかまえた生活を営み得る賃金をいうのである、そういう大臣のお言葉をそしゃくしてみまするならば、今の地域別、業種別、職業別の賃金とあるものをそのままに認めていこうという賃金が、果して大臣のおっしゃるような文化的な人間としての生活を営み得るような賃金がそこにでき上るかどうか。今政府の考えていられるような最賃法でいくならば、そういう大臣のおっしゃるような一定の賃金が一体でき上るかどうか、われわれはでき上らないと思う。そういうでき上らない賃金を固定化することが果して一体中小企業者や日本産業やらを助成するものになるかどうか。私はやはり文化的に人間らしい生活を営む賃金というものには、だれが考えても一つの常識的な限界がある、一定の率があると思う。それが六千円であるか八千円であるかわかりませんけれども、具体的に数字の上に現われるものが八千円と仮定いたしましても、その八千円を支払えないような企業は、さっきの大臣のお言葉をそのまま活用させていただきますれば、その企業として成り立たないのだ。そういう成り立たないような企業に、四千円とか三千円とか二千円とかという動物的な賃金を固定化して立法化し、あるいは合法化するような最賃法の今の行き方は非常に間違っているのではないか、私はかように考えます。この点、一つ大臣のお考えをもう一回お伺いいたします。
  20. 三木武夫

    ○三木国務大臣 小林さんの御意見と私は大きな違いがあるとは思わない。ただしかし違うことは、そうあるべき理想の姿を描いて、今それをやれということは中小企業として成り立たぬのだ、今はやれぬ、将来はやはりそうなくてはいかぬ、それはあなたの言われる通りだと思う。ただそれを、現実にはそれができないじゃないか。それをやれば企業の大半というものは成り立たぬわけですから、雇用の機会を失うわけです。そういう意味において最低賃金制というものが、業者協定という不徹底なものであっても、一ぺん日本企業の中にこうした制度を設けたところに大きな意義があるのではないか。これをやがてはあなたの言われるような最低賃金制に持っていくところに、私は政治の前進性があると思う。これが実行できないから、今にわかにあなたの言われるような最低賃金制とかいっても、そんなものは企業の大半がつぶれれば、賃金どころか雇用の機会を失うのでありますから、そういう意味において、不徹底でも一歩前進じゃないか。そういう意味で、最低賃金制が実施されるということは意義がある。将来のあるべき姿としてはあなたと同感です。現実にそれをすぐにやれぬというところが意見が違う。
  21. 小林進

    ○小林(進)委員 大臣のおっしゃる気持はよくわかりましたが、それでは動物的でなく、人間らしい賃金を払えないような企業企業として認めるわけにいかぬ、成り立たない、しかしそれは理想だ、現実においてはやはり人間らしい賃金を払えないような零細企業が充満しているのであるから、それはそのまま認めて、残念ながら今のところは動物的な賃金——人間らしい賃金ではないが、動物らしい賃金を払っていくというこの最賃法も、悲しむべき日本の現状から見ては一歩前進ということで認めなければならぬではないか、こういう御説明であると理解してよろしゅうございますかどうか、承わっておきたい。
  22. 三木武夫

    ○三木国務大臣 いろいろ形容詞はあれですけれども、あなたがお使いになった動物的とか人間的とか、そういうことはいろいろ誤解を生じます。いろいろ見解が違うわけです。動物的というようなこととは考えられません。低い水準ではあっても、動物的、それほどの低い水準だとは私は思わない。そういうあなたの形容詞を全都除けば、賛成であります。
  23. 小林進

    ○小林(進)委員 関連ですから、自分の時間ではありませんので、これは了解をし得ないままに一応私はほこをおさめます。あらためて労働大臣に御質問を申し上げて、その機会にゆっくりやらしていただくことにいたしまして、私の関連質問を終ることにいたします。
  24. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 先ほどからの御答弁を伺っておりまして、三木企画庁長官にちょっと関連してお聞きしたい点があります。賃金格差から、中小企業の問題の核心に触れられたと思いますが、私は大臣の御答弁を非常に了承いたします。中小企業の零細な中で、労働組合の強化だとか、働く者の権利というものだけを主張してみても生産性の向上にならない、中小企業自体の自主性といいますか、生産性向上のためのほんとうにやらなければならぬことは、違う面にあると思う、これは私同感でございます。非常にいい御答弁だと思いますけれども、大臣は大原さんに、それに対するところの具体的な、予算的な裏づけをもって、中小企業自体の中から救っていくのだという気概をお見せになりましたけれども、しかしここで大臣が答弁なさっても、実際には窓口へ行きますと、大臣はああいうことを答えておるけれども、スズメの涙、二階から目薬のたぐいしか予算がとれておらないのだという結果に終っておる前例が、ここ十数年続いておると思う。ですから、大原さんにお答えになった漫然とした抽象的な、中小企業の設備近代化のために予算獲得に私は努力するとか、中小企業に働く労務者の再教育のために予算をとるのだ、こういうことをおっしゃいましても、実際はおぼつかないのではないか。大蔵省との相撲をおとりになって、実力者でいらっしゃるから、相当金をおとりになると思いますけれども、実際はおとりになれないのではないかという危惧を持つわけで、まことに疑うようで恐縮でございますけれども、実際はどれくらいを要求していらっしゃって、ほんとうにどれくらいとるのだということをはっきり言っていただきたい。そうでないと、大きなことをお吹きになっても、実際の政治の中には生きてこない、こういう結果になっておる。  それからもう一つお尋ねいたしたいのは、今の小林さんの質問でございますけれども、政府は最低賃金法を今度お出しになって、私たちは私たち独自の賃金法を出して、今国会で審議の途上にあるわけですけれども、一番案じますことは、業者間協定を中心としたような行き方でいって、今行われておる最低賃金は人たるに値する、労働者に当然報われなければならない賃金という意味でなしに、今非常に低く払われておる、世間一般にある零細企業間における賃金、この賃金最低賃金と認めて、むしろこれに法的根拠を与えるような結果に政府が終らしめるのではないか。そうすると、一般中小零細企業の経営者の立場からいえば、自分たちの薄弱な立場の上に立って、むしろ労働者に与えない賃金の言いわけを政府がしてくれたんだ、私はこういう法律に終るのではないかと思って、非常に案ずるのですが、企画庁長官はどうですか。今度お出しになった政府の最低賃金法をお通しになれば、安易なそうした法的根拠をお与えになって、むしろ労働者が今後たとい五百円ずつでも前進して、三年の後には最低六千円、七千円、五年の後には九千円になるのだという希望を与えしめる最低賃金法にならないと思うのです。そういうことに対して、労働大臣からもお答えをいただいておかなければならないと思いますが、企画庁長官としては中小企業に非常に親心を持っていらっしゃるのですし、これは労使双方にお考えになる必要があるのですから、企業として成り立っておるといえるだけの賃金が払える中小企業を育てていくというところの予算面からの企画庁長官のあたたかい手と、同時に働く労働者の立場も五分々々に考えてもらわなければなりませんから、変な最賃法を今度通していただきますと、法的根拠を与えて、零細な労働賃金に甘んじるところの労働者を泣かせたまま、弱い企業しか持たない人たちだということに便来しがちな経営者を守る最賃法に終る、こういう考えを持つのですが、そこを一つはっきりしておいていただきたいと思います。
  25. 三木武夫

    ○三木国務大臣 予算のお話がありましたけれども、これはまだ予算の編成期にもなっていないのであります。しかし私はやはり中小企業の問題に対して非常に関心を持っておる一人です。そういう意味において、これは今言ったように所管ではございませんけれども、国務大臣として設備の近代化あるいは技術水準の向上という点については、まことに微力ではありますけれども、予算をもう少しふやすべきであるという論者であります。これをふやすような努力をしたい。幾ら幾らということはまだ申し上げる段階ではないが、私はできるだけ尽したいのだ。そうでなければ日本のいろいろな問題、産業の二重構造からいろいろな経済問題ばかりでなく、あるいは社会問題、政治の安定にも結びついておる問題でありますから、非常な関心を持って、できるだけの努力を今言ったようなことに対してしたいのです。  それから最低賃金制というものが低い水準で押えるようなことにならないかということでありますが、そうはならないと思います。やはり最低賃金制というものは、できる限り将来は今皆さんの考えられておるような方向にいくべきでしょう。しかしそれは今は現実にはできないのでありますから、徐々にそういうふうに持っていくよりほかにない。むろん安い水準できめるということになれば、そういうところには労働者も集まりはしないし、そういうことはできるわけはないのであります。そういう弊害はない。これは一方労働者の生活の向上のための一歩前進であることは間違いはない。これがかえってうしろ向きになってきて、労働者労働条件を引き上げるような効果というものは絶対にないと思います。これは速度はおそくとも一歩前進である、こう信じております。
  26. 堤ツルヨ

    ○堤(ツ)委員 私の質問の時間でありませんから、もとの軌道に、大原さんに返しますけれども、しかし一本くぎをさしておきます。三木大臣は、今非常に政治的な答弁で私をごまかそうとなさいましたけれども、しかし各省の中に私たちが足を踏み入れるときに、局長以下部課長、係官に至るまで全部会議で、もう二カ月くらい面会ができない。それはなぜかといえば、大蔵省に対する予算要求というものは各省ウの目タカの目なのです。そして数字をみんな具体的に出していらっしゃる。今三木先生は私の前をごまかされましたけれども、しかし真に中小企業の設備近代化のために、労務者の技術再教育のために、財政投融資のためにあなたがやろうという三十四年度のプランがあるならば、数字はすでに出たはずです。三木さんの机の上にあるはずです。それは幾らおとりになられるか知らないけれども、もしここで誠意ある答弁ができるとするならば、とれぬかもしれないけれども私はこれだけの要求をしておるのだ、あなた方に言わせれば五億は少いかもしれないから、これに十億要求しておるのだ、こういうような数字のある答弁ができるはずなのです。ところがなさらないということは、ここでらっぱをお吹きになっただけで、実際は手に持っていらっしゃらないのじゃないかという危惧を持ちますので、ここで三十四年度予算が出ましたときのために、念のために三木国務大臣に一木くぎをさしておきます。  それから最賃法につきましては、今の人たるに値しないところの零細な労働者賃金を法的に根拠づけるものではない、前進を目ざしたものであるということをおっしゃっておりますが、これはほんとうにそういう自信があるのか、計画があるのか、これは私はまた時間を別にして、労働大臣や皆さんにお聞きしたいと思います。どうぞ一つ私たちに希望を持たしていただくよう計画性を持っていただきます。
  27. 大原亨

    ○大原委員 私は業者間協定とか、あるいは今お話にあった最低賃金制にすら値いするかどうかという問題は、これはまた一つゆっくりと各方面から労働大臣にお尋ねするといたしまして、きょうは長官に私の質問を進めていきたいと思うのですが、やはり何といいましても賃金を払う母体、基礎が経営であるということについては、中小企業の場合でも、私は直接的にこれはよくわかっておる。だれも知っておる。だから経営の問題について、最低賃金制を前進するような格好で、国民経済全体を進めていただかなければならぬ。そういう意味において、総合経済企画の元締めであるあなたのところに、私どもも審議権の焦点を向けて話をいたしておるのであります。そのつもりであとしばらくの問題につきまして、あまり政治的な答弁をされぬように、率直にお答えいただきたいと思うのです。  岸内閣の金融引き締め政策の緩和、これは一つの例ですが、そういうことが、最近不景気じゃない、不況じゃないという前提で、経済調整の一つの施策になっています。先ほど申し上げたように、本年度の下半期の財政投融資にもはっきりわかっている。今までもそうですが、大きな企業は系列銀行を持っており、財閥銀行があるわけです。その上に総合的に国家の投融資を含んで、そういうように緩和される。その恩恵を受けるのは一体だれか、最近そういうふうに手直しをされつつあるときに恩恵を受けているのはだれかといえば、これは中小企業じゃないと思うのです。一つには、そこにやはり大きな賃金格差が拡大しており、後ほど申し上げるけれども、所得がそういう不公平になっている一つの大きな根源がある。もう一つは税金のとり方、とる率が悪くて、とり方が過酷である、こういうことも私は資料をあげればありますけれども、これは申し上げておくにとどめます。それから買う場合における共同化の問題とも関連いたしますが、原料や資材を買う場合の価格が高い。売る際に、先ほど申し上げたように、非常に安くたたかれる。苦しいものだから、労働者の方にしわ寄せしてきておいて、正しい方向で問題を解決するのでなしに、労働者へしわ寄せしてやるから、経営が悪循環になって、ここに労働問題が起る。これは一体なものです。そういう点について、基本的に機械その他について、融資をどうした、こうしたというても、これは全体から見ればスズメの涙です。そういう基本的な観点について、一つ雇用とか人間の尊厳とかいうことを中心にして問題を解決していく、そうでなければ決して労使の関係は安定しない、正しく解決できない。そういう基本的な最低賃金の問題について、あるいは労働組合の問題について、非常に政治的な答弁をされたが、私はそういう根本の二つ三つの点について、あとで第二の質問に入ります前に、はっきりお聞きしておきたい。
  28. 三木武夫

    ○三木国務大臣 今のお話、いろいろ最低賃金制に限らず、政治の出発点が人間の尊厳を中心にやられることは異存はございません。その通りだと思います。
  29. 大原亨

    ○大原委員 次に第二は、独禁法の改正が経営の格差にどういう影響を及ぼすか、あるいはそれがひいては賃金格差を増大させて、賃金を低いところにくぎづけするのじゃないか、そういう疑惑があるわけですけれども、これについて、大臣お急ぎのようですが、相当質問が残っておるのですけれども、できるだけ端折って質問したいと思うのです。あまり観念的なことを言いましてもいけませんので、第一の質問に関連いたしまして、私いろいろ調べた資料によりますと、昭和三十二年下半期ごろを一つの契機といたしまして、ずっと最近の数字統計というものは、産業別国民所得や、分配国民所得に対して、数々の特徴的な傾向が現われておって、それが非常に深刻になりつつある、こういう見方をしておる。その点で、この産業別国民所得の特徴点は何かと申し上げますと、第二次産業、鉱工業、建設業、この所得の増加率がにぶったという点です、非常に停滞しているという点です。それから第一次産業は農産物その他でありますから、豊作その他がありまして、これはややいいというわけです。それから第三次産業、卸、小売とかサービス業はわずかに上昇しておるのですが、ここへ流れ込んでいる人口が非常に多いので、過当競争やいろんな問題があって、雇用問題、失業問題がここにあるわけです。つまり政府の失業対策はきいてないという一つの証拠なんです。実効が上ってない。そういう特徴を示しておる。それから分配国民所得につきましては、こういう三十二年度下半期以降からの傾向を持っておると思うのです。勤労所得は四兆五千億円なんですが、これは前年比一二・九%増で、増加率はやや同じです。これは内容を分析いたしましたら、労働省の最初御説所になりましなようないろいろな問題がありますけれども、これはやめます。それから法人所得は九千八百億円なんですが、これは二七%の前年比増加でありまして、非常に根強い上昇率を示しておる。それから個人業所得は二兆八千四百億円でありまして、前年比六%の上昇なのですが、このうち農林水産業の、いわゆる業種所得が豊作その他で若干ふえておりますから、これ以外の業種の個人業の所得は減退しておるのです。そこで法人所得が非常に根強い上昇率を示しておる中において、これは数字をずっと説明いたしましたら少し長くかかりますけれども、一つ概括的にお話しいたしますと、中小企業は、今言われたように、経営の上においても賃金の上においても、格差が拡大いたしまして困難になっておる。大法人の方へそういう法人所得がふえておる。これは三十三年度の上半期も同じです。それは繊維とか紡績その他いろいろな産業がございまして、産業の種類によって違いますけれども、全体といたしましては、大きな法人の所得が根強く上昇して、法人全体としては上昇しておる中において、中小企業の方は下っておる。だから私は、最低賃金制を確実に前進させていく、そしてほんとうに生きるに値するだけの生活を保持して、底をぐっと上げることによって国民生活水準を上げて、失業対策の一つとして社会保障、減税等を含んで、やはり国民の正当な購買力をつけていくということが、不況対策としても基本的な問題だと思う。そのためには、当然中小企業やそういう面について補正予算を組みなさいと言っているのが社会党の主張です。この点について、そのことは論議いたしませんけれども、そういう傾向です。そこで今回独禁法を改正されるわけですが、これが正しく改正されればいいのですが、カルテルとかシンジケートというふうな形のものがほとんど手放しのような形になりまして、そういう資本の集中、富の集中、生産の集中、そういう中でますます格差を増大していく。そういうことをずっとあげましたら、これは演説になりますからやめますが、そういう傾向に拍車をかけるのじゃないか。民主主義の原則から、人間を尊重するという建前に立って、最低賃金制を国際的な批判の中でやろうとしている。しかしながらそれが——法律的ないろいろな問題については、後に担当大臣や労働省と十分各方面から徹底的に審議したいと思う。しかし独占禁止法の今回の改正は、そういう格差をますます増大させまして、中小企業をたたきつけるのじゃないか。こういう判断を私はいたすのでございますけれども、そういう点について、経済企画庁長官の主管大臣としての御見解をお伺いしたいのであります。
  30. 三木武夫

    ○三木国務大臣 独禁法は私の主管ではございませんけれども、経済の全般とも関連をいたしますので、お答えをいたします。独禁法の今回の改正の精神を貫いておるものは、カルテルを認めることによって、それが中小企業、消費者、農民に不利益をこうむらしてはならないのだということが、やはり貫いておる精神でございます。従って、もしそういうものがあるならば、カルテルはみな認可制になっておるわけでありまして、公正取引委員会も、ただ企業の合理化というだけでなくして、独禁法の中には経済司法的な機能もあるので、公正取引委員会の機能は強化すべきだと私は思う。そういうことで、もしそのカルテルというものが価格をつり上げたり、不必要に消費者の利益を阻害したり、あるいはまた大企業が中小企業を圧迫するような場合があるならば、カルテルを許さない。ただ独禁法のねらいは、過当競争の弊害から日本経済を守りたいということが精神であります。過当競争によって、大企業も非常な損をするけれども、中小企業だって、過当競争の弊害というものは受けておるのでありますから、そういう意味において、これは大企業を擁護するというものでなくして、日本の経済をノーマルな状態におきたい、このような過当競争のために、どれだけ国民経済全体が損失を招いておるかということについて、この法律の改正をやろうということであります。中小企業とか農民、消費者が非常な圧迫を受けるような独禁法の改正には、私自身も反対であります。
  31. 大原亨

    ○大原委員 最後に言われた言葉をとらえるわけではないのですが、そういうふうに大資本の利益を擁護する独禁法改悪には、私どもは反対なんで、この改悪がなされれば、中小企業やあるいは農業協同組合、一般消費者も、今言いましたごとく資材費が上っていく。そして、いわゆる大きな資本はPRが増加しまして、中小企業の品物はてんで話にならなくなる。こういうことでまたダンピングが始まる。そういうことを助長するのだ。国民の法人所得も今日の傾向を助長するのだ。たとえば雪印やクローバーのような、市場の六割を占めているような乳製品の合同を認めましたり、そういうことが示しているように、そういうことだったら完全に値段をつり上げるに違いない。政党政治の中においては、そういういろいろな弊害が出てくると思いますけれども、しかし大臣が今お話しになった点につきましては、これは全然了解できません。私は事実の数字をあげて最近の傾向を示した。イデオロギーでなしに、事実を示して御質問いたしたのでありますが、答弁についてはきわめて遺憾であります。  もう一つ、やはり何といいましても、最低賃金制を実施する際に、低賃金が国際貿易、国際市場に進出していく際に、大きな武器になるという考えが一つある。そういう点から考えてみまして、国際的な批判は逆でありますが、賃金やあるいは国民生活の水準が低いことが、日本の貿易を進めていく一つの大きな武器だということが、根強く考えられている。それは大企業賃金を含めて考えられておりますけれども、この賃金水準を上げていくという問題から考えて、貿易と最低賃金制との関連をどういうふうに把握されておるか。これはILOへ持っていけぬとか何とかいうことじゃない。そういうことは労働大臣の方の話です。そういう話はまた別にしますが、そういう経済的な、あるいは貿易上国際市場に進出するという——これは雇用量を増大して、そして国民経済を拡大していくという上からは、だいぶと言われておりますが、最低賃金制との関連において、あなたはどういうふうにお取りになっているか、こういう点のお考えを聞かせていただきたい。
  32. 三木武夫

    ○三木国務大臣 賃金水準というものが、賃金の絶対額からいえば、非常に低いことは御承知の通りであります。今昭和三十一年の統計で見ますと、日本を一としてアメリカは七・九倍、イギリスは一・八倍、イタリアが一・五倍で、そういう絶対量からいったら低いのであります。しかし賃金水準というものは、やはり国民総生産、この水準からも見なければならぬので、全体としての水準日本は低いわけであります。そういう点から考えてみますと、やはり総生産の上においてそれだけの開きがある。だから賃金水準というものが、アメリカが幾らだから低いと、こう一がいにいえないものがあります。それはその国の国民総生産を基礎にして考えなければならぬ。従って、お尋ねの日本賃金が絶対額において低いということは、貿易の上において武器になっていることは、私は否定できないと思います。しかし世界は、今日では日本労働賃金をソーシャル・ダンピングだとはいわない。全体としてそういうことをいうならば、それはイギリスだって、ドイツだって、イタリアだって、アメリカなどの賃金に比較すれば、みなソーシャル・ダンピングであります。そういうのでなくして、今日世界が問題にしているのは、一つの企業、紡績なら紡績という企業について、ほかの賃金と比較して低いとか高いとかいうことで問題にしているのだと思うのです。そういう全体としての賃金水準で問題が起っているとは、私は承知していません。しかし賃金は、今言われたように、これはなるべく高能率、高賃金ということが人類の向うべき方向でありましょうけれども、しかし、そういって世界とすぐ比較しても、いろいろ条件も違うので、世界と絶対量を比較して、それで賃金を世界水準まで上げなければならぬという理屈も、少し論理の飛躍だと思います。しかし、今はそれが武器にはなっておりますけれども、賃金はできるだけ高くなっていっても、国際競争力を持つように、それ以外の技術やいろいろな面でやることが理想であることは、これはやはりその通りだと思います。しかし現在は、日本の貿易の中で、賃金水準が低いことも有利な武器になっていることは否定しません。しかし、それだからといってすぐにその賃金を世界水準にということは、これは条件が許されないと思います。
  33. 大原亨

    ○大原委員 言われることは、大体筋としてはわかるのですが、これは程度の問題を言っているのです。私はあまりひど過ぎるということを言っているのです、日本の実情を全然無視して言っているのではなして。鉱工業の生産は昭和九—十一年を基礎にいたしましたら、二五七になっておる。しかし国民の消費水準は一三七なんです。だから大衆購買力が少い。それで富や生産が集中しているのに、大衆購買力が少い。失業者がたくさんあって雇用問題が非常に大きい。こういうことが日本賃金を低めていると同時に、日本の経済全体を不健全にしている。賃金が高いことが日本産業をおくらしておるのではなくて、賃金の低いことが日本産業の技術的な努力をおくらさしておるのですよ、そういう近代化という問題を賃金の面から考えたら。たとえば賃金の高いアメリカの自動車だって、日本にどんどん入ってきているでしょう。だから、私の郷里なんですけれども、東洋趣味というものがアメリカや豪州やイギリスに普及しておる。これは駐留軍に占領された一つの成果であります。そこで広島から品物が出ていくのですよ。たとえば五尺の紙のコイのぼりなんかが出ていく。これはあとでまた最低賃金を論議するときに具体的に申し上げますが、五尺のコイのぼりがアメリカへいきます際に、これは家内工業なんですけれども、原価で三円九十銭。それをアメリカで幾らで売っているかと市場調査をしてみると、九十円で売っている。この家内工業の手間賃を十倍にしても、これは東洋趣味で貿易できるのです。そういうものは九十円でも安いのです。それがハイヤーやその他ずっとあって、中間搾取がひどいのです。そういう問題について政府が共同化やあるいは合理化を進めて計画的にやっていけば、これはまだまだできるのです。貿易は幾らでも振興できる。こんな例を日本の貿易であげていたらきりがない。だから家内労働賃金——最低賃金の歴史はここから始まっている。苦汗労働、そういう問題を中心として世界の歴史はできている。ですからそういう具体的の例を一つ申し上げただけでも、これは家内労働賃金が安いとか、あるいは中小企業賃金が安いとかいうことが貿易上の大きな武器ではないのです。これは大きな障害なのです。これは国民所得の中において悪循環しておるのです。だから私は最低賃金制の問題は国民経済の中で、あるいは貿易の問題の中で、もう少し計画的に具体的に立てなければいかぬと思う。おざなりにこれをジュネーヴのパス・ポートでもってやるのではいけない。これは基本的には国民経済の構造を変えていくというようなことを考えていかなければならない。私はその点、一つ一つについて御意見を聞ければいいのだが、時間もだいぶ迫ってきました、何かぶうぶう言っておられる人もあるし、あと一つ御質問いたします。  最低賃金制のようなこういう大きな仕事を進めていく上においては、総合的な政府の経済施策の中において協力が必要なのです。こういう点についてはどうお考えなのですか。たとえば最低賃金制を実施するためには、金繰りやその他当面の問題は相当ありますよ。これは一年二年を経過いたしましたらだんだんとある程度——経営者としていやしくも労働者を雇う以上は、その社会的な責任として食える賃金——だれが考えても、今のエンゲル係数五八%というのは動物的ですよ。それが失対なんかの賃金水準にずっときている。だからそういう問題を解決するためには、当面においては財政の投融資とか融資の面なんか要るのです。だから最低賃金制を実施する際に、たとえばそれを一つの対象として、それをてこにして近代化していこうという、そういう中小企業に対しまして融資をするような、これは外国でもちょいちょいございますけれども、そういう最低賃金のための金融機関というふうに抽象的に申し上げておきますが、そういうことをやりましても——当面の問題を解決いたしまして、そういうものをだんだん食える賃金まで引き上げていったものに対しては、当面の問題を処理しながら、国民経済全体の中でそのあり方を今みたいに野放しでなしに規定していく。おそらく自由競争でいったら力を持っておるものか勝つ、金を持っておるものが勝つのです。それについて中小企業を救うためには計画性が要る。計画をどうとっていくかということが問題ですが、そういう中において、そういう金融措置とその他を含んで、ほんとうに最低賃金制をやるバックを作っていくためのそういう施策を、たとえば最低賃金制のための金融機関、そういうふうなものについても総合施策の中で考えていく、こういう観点について企画庁長官は、どういうお考えを持っておられるか。特に真剣に取っ組むか取っ組まぬかの問題でありますから、そういう点についてお考えを伺いたいと思います。
  34. 三木武夫

    ○三木国務大臣 中小企業の場合はやはり最低賃金制も問題でありますけれども、経営者だって中小企業がつぶれたり興ったり、実に不安定な基礎にあるのでありますから、全体としての労働者最低賃金制を高めるような条件を作るために、中小企業の安定がないと、労働者だけが安定して経営者が不安定という状態はあり得ないわけであります。そういう意味で、全体として今後の日本財政投融資の面における中小企業への比重、あるいはいろいろ政府の産業政策を通じて中小企業の近代化のための施策に力を入れていく。これは最低賃金制いかんにかかわらず、今後の政府の経済政策の大きな方向だと思うので、そういう点には力を入れて参りたいと考えております。
  35. 大原亨

    ○大原委員 もう一つだけ残っております。現在の国民の生活水準を規定するのに、非常に大きな問題になっておる勤労者の賃金水準は、日本の実情を考えてみましたらこういうふうになっておると思うのです。というのは生活保護費の基準が具体的な問題ですよ。そういう問題が非常に大きな影響があると思うのです。それから不況対策その他で問題となって、あとで関連をして承わりたいですが、失対労働者賃金水準が中小企業その他の労働者賃金水準をきめる大きな問題になっておる。それを基礎にいたしまして、臨時工とか社外工とか大きな企業における賃金水準の問題、今も問題になりましたが、格差の原因になっておる。そういう賃金水準の問題があると思うのですが、完全失業者とかそれらの部類の中に入っておるボーダー・ラインの半失業者、潜在失業者一千万以上、そういうものが一つの条件になって日本賃金水準がきまっておると思うのです。これが国民の生活水準をきめておることにもなるし、米価の一つの基準にもなっておると思う。そういう観点からしますと、社会保障制度とか最低賃金とか完全雇用とかいう問題は、どれを一つとりましても分離していない問題だと思うのです。だから人間を尊重する、あるいは雇用問題を重視する、不況対策の中においても本質的な問題だ、そういう観点から問題を進めていく中で最低賃金制の問題がある。最低賃金の問題が具体的に解決される。私が申し上げましたそういう見解に対しまして、一つ長官のお得意の所信を伺いたいと思います。
  36. 三木武夫

    ○三木国務大臣 得意でもありませんけれども、言われる通りだと思います。やはり長期経済計画というものをわれわれが立てますのも、完全雇用を目標にして、そして国民の生活水準を高めていきたいということが長期経済計画の目標でありますから、大原さんの言われるようなそういう最低賃金、あるいはそれを大きく言えば国民の生活水準、あるいは雇用の計画的増大、こういうものを総合的に考えていくことが必要である、それが今日の政治であるということは全く同感であります
  37. 大原亨

    ○大原委員 もう簡単に終りますが、やは完全雇用もだんだんと不完全雇用となっておりますし、それから社会保障制度も、何やら最近は年金の方もだんだんと雲行きが悪くなって参りましたし、医療保障、生活保護、たくさんあるわけです。それが雇用状況が悪くなっている、賃金格差も増大している、こういう現実がある。政治は現実の上に立つのですから、皆さんがおっしゃる通りに現実を無視した政治はないのですから、具体的に話を進めてきたわけです。今お話になりました三木企画庁長官の政治理想は非常に貴重なものでありますけれども、意見が一致するのですが、現実の政治の中から生まれている現実というものはますます深刻になって、不景気になってきている。不況になってきている。この不況はあらゆる角度から分析しなければならぬが、しかしそれは低賃金労働者に対しては非常に困難な条件になっている。その中で、最低賃金をやりながら国民経済全体の構造を健全にしていって、そうして九千万の国民か生きていけるような政治をしていくのが私は政治の理想だと思います。こういう点を逐次今まで指摘してきたつもりです。そういう点を指摘いたしておきまして、それについて大臣か政治理想を言われたんだが、しかし実際には現実の政策で答えてもらいたい。この点について一々論争いたしておりますと、また時間がかかりますので、長官に対する質問は一応以上を持って打ち切りまして、次の質問に入っていきたいと思います。
  38. 園田直

    園田委員長 午前中はこの程度にとどめ、午後二時まで休憩をいたします。     午後零時五十二分休憩      ————◇—————     午後二時四十一分開議
  39. 園田直

    園田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  内閣提出最低賃金法案外二法案について質疑を継続いたします。大原亨君。
  40. 大原亨

    ○大原委員 今度は政府案の最低賃金制の中で問題となりますおもな点につきまして、お尋ねいたしたいと思います。その前に、政府が今日までおやりになりました次官通達による業者間協定ですが、これの状況につきましては、きょうの表にやや詳細に出ておりますけれども、次官通達による業者間協定によります最低賃金の法的な根拠につきまして明らかにしていただきまして、そこから一つ質問していきたいと思います。
  41. 堀秀夫

    ○堀政府委員 業者間協定に対する援助につきましては、労働省に設置されております労働問題懇談会におきまして、一昨年以来現在の最低賃金を各企業の間に導入するにはどのような方法が適切であるかということについて審議されておったのでありますが、昨年の二月に労働問題懇談会の中山会長から労使、中立委員の全員一致の形で意見書が提出されたわけであります。その意見書によりますると、政府は中央賃金審議会をすみやかに再開するということと、業者間協定の普及につきまして適切な援助を行うようにすることが適当である、このような意見提出されたわけであります。そこで労働省といたしましては、この意見書を尊重いたしまして、昨年の四月に事務次官通達を地方の基準局長あてに出しました。それによって現在まで事実上援助を行なってきたわけであります。その根拠といたしましては、ただいまの労働問題懇談会の全員の意見一致によりまするところの意見書を尊重するということと、法的には基準法の百五条の二によりまして、労働大臣は労使双方に対して労働者の福祉向上のため必要のあるときは勧告援助を行わなければならない、こうあります。この規定等に基きまして、現在まで援助を行なっておるわけでございます。
  42. 大原亨

    ○大原委員 百五条によって、労働者の福祉の問題として、諮問委員会を設けておやりになっておる、こういう御答弁でありますが、この二十八条から三十九、三十、三十一と最低賃金制に対する規定がございますけれども、それとの関係はどういうことなんでしょう。
  43. 堀秀夫

    ○堀政府委員 基準法には御承知のように二十八条以下に最低賃金に関する条章がございます。そこでこの最低賃金に関する条章が設けられておりましても、いろいろな事情のために、現在までこれが実施されておらないわけでございまして、その問題も含めまして労働問題懇談会に御討議をお願いしたわけであります。労働問題懇談会におきましては、このような情勢を見まして、とにかくこの法律によるところの最低賃金を実施するためには、現在の基準法の規定だけではこれは適当でない点が多いのではないか、そこで中央賃金審議会をすみやかに再開して、わが国の実情に即した最低賃金制を実施するための準備をすみやかに行うように、こういう意見書を出されたわけです。それと並行して、そのとき業者間協定を政府が援助する、これが現段階においては適切である、このような意見書でございました。従いまして、二十八条以下の条章が実施されないという点を勘案されながら労働問題懇談会でこの意見書を出されたわけであります。政府といたしましてはそういう見地から、一方において中央賃金審議会を昨年の七月以来再開いたしまして、その答申が昨年の末に提出されましたので、それに基づきましてこの法案を提出することにいたした次第でございます。
  44. 大原亨

    ○大原委員 どこで何したのですか。中央賃金審議会の答申ですか。
  45. 堀秀夫

    ○堀政府委員 最初に労働問題懇談会から意見害が提出されました。それが第一でございます。それから第二には、中央賃金審議会から昨年の末に出されました答申、この二つをもとにしておるわけでございます。中央賃金審議会の答申には、御承知のように今度考えられる最低賃金法案の中には業者間協定に基く方式を法制の中に入れることが適切である、このような答申をされておるわけでございます。
  46. 大原亨

    ○大原委員 それでは百五条ではなくて二十八条以下でおやりになった、こういうふうに考えてよろしゅうございますか。
  47. 堀秀夫

    ○堀政府委員 二十八条以下の条章に基いて最低賃金制を実施することは現段階では問題がある、そこで最低賃金を法制によって実施するならば最低賃金法案を新たに策定して、それに基いて実施することが適当であろう、こういう中央賃金審議会の答申でございます。そこでただいま実施しております業者間協定の援助事務は、二十八条に基くものではなくて、百五条の二に基いて事実上の援助を行う、こういう形で援助をいたしておるわけでございます。
  48. 大原亨

    ○大原委員 労働大臣にお尋ねいたしたいのですが、政府は労働法を非常によくお守りになって、労働問題のけじめをつけるとよく言われるのですが、現実に二十八条以下では最低賃金制に関するいろいろな規定があるのであります。労働問題懇談会というのは、どういう法的な根拠でできておるかわかりませんけれども、それをたなに上げておいて、二十八条以下を空文にしてもよろしいのですか。
  49. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 この前の委員会にも同様のお話がございましたときに申し上げましたように、今日の段階で、正確な、われわれが期待いたしておるような方式で最低賃金制を設けるには、やはりあれだけでは足りないということで、新立法をする方がいい、こういう見地に立って新しいものを立案したわけでございます。
  50. 大原亨

    ○大原委員 ちょっと繰り返してお尋ねするのですが、まだ政府の提案の最低賃金法案は日の目を見ていないのであります。現実にないのであります。しかし労働基準法には、労働条件の重大な一つといたしまして、二十八条以下に法律があるので、もちろんこれは労働者の福祉の全般的な問題ですけれども、法律といたしましては、特にそれは規定いたしておるのですから、そういう二十八条、二十九条、三十条、三十一条を離れてやるということについては、ただいまの御答弁では納得できないのですが、重ねて一つ御答弁いただきます。
  51. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 今申し上げましたように、現実の事態に即して、今われわれが一番いい方法であると考えられる法制を実施することが一番妥当である、こういうふうに考えましたから新立法をいたしたい、こういうことを申し上げておるわけであります。
  52. 大原亨

    ○大原委員 それから労働法、労働基準法の中に賃金決定に関する原則があると思うのですが、業者間間協定一本で、しかも次官通達でこれをやっていく。諮問機関その他におきまして、いろいろお諮りになったということはわかるのですが、しかし、これは諮問機関であり、任意のそういう意見聴取の機関でございますが、そういう業者間協定一本で、しかも次官通達でこの問題を扱われるということは、私は労働法、労働基準法の精神からいって、その精神を、政府がいつも言われるように、法律の精神からいえば無視されているのじゃないか、そういう点、私はまた後ほどでも条文を指摘いたしますが、しかも二十八条、二十九条、三十条、三十一条と、特別の法文があるのに、それを離れてそういう措置をとられるということについては、私納得できませんけれども、どういうお考えですか。
  53. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 今お話のように、まだ本法は成立しておりません。そこで本法が成立した場合には、業者間協定というもの、そのほかに御承知のように三つほど方式はありますが、業者間協定というものは、これで標準賃金をきめるということではないのでありまして、業者間の協定が行われて、それが出て参りましたならば、それを賃金審議会にかけて、そしてこれが法文化するということでありますから、業者間協定というものはそれができて、そしてそれをもう一度審議会という濾過装置にかけて、それが法律になるわけでありますから、業者間協定そのものがすぐに法的効果を持つということではないことは法文の示しておる通りであります。それからまたその他の方式もありますので、従って業者間協定が即最低賃金基準をきめるということにはならないというふうに御了解を願いたいと思います。
  54. 大原亨

    ○大原委員 それでは次官通達による、業者間協定による最低賃金取りきめ、これは全然法的な根拠はない、こういうふうに考えてよろしいですか。
  55. 堀秀夫

    ○堀政府委員 先ほど申し上げましたように、労働問題懇談会の意見書に基くと同時に、基準法の百五条の二に基いて援助を実施しておるわけでございます。
  56. 大原亨

    ○大原委員 そういたしますと、その決定いたしましたものについては、これは法律上の規制があるのですか、ないのですか。
  57. 堀秀夫

    ○堀政府委員 ただいま実施しておりまする業者間協定は、これは事実上の協定でございますので、法律上の効果はございません。最低賃金法案が成立いたしまして、これが実施されることになりますれば、先ほど大臣から御答弁がありましたように、労使、中立三者構成賃金審議会の議を経て、労働大臣が最低賃金として決定する。これによって法的効果が生ずるわけでございます。
  58. 大原亨

    ○大原委員 法律的な根拠はない、法律的な拘束力も今の協定はない、こういう御答弁だと思いまするが、これで間違いないですか。よろしいですね。——この業者間協定、いわゆる次官通達によります業者間協定ですが、これは今お話しいたしましたように、大体御推察になっていると思われるように、賃金決定の原則に反しており、あるいは労働法の精神に反しておるし、労働条件の中での最も大切な、一番中心的な賃金の問題に対する行政官庁の、業者を集めてだけの、そういう取扱い、決定、こういうものは、いやしくも労働基準局が取り扱うべきものじゃない。労働問題懇談会といっておられますけれども、その中に労働代表が入っておろうが、総評が入っておろうが、全労が入っておろうが、全然法律的には関係ない。そういう点については、これは労働基準局がおやりになる仕事といたしましては、百五条に基いてやっておるのだ、そういう行政指導だ、こういうことだと思うのですが、法律的な拘束力その他はない、こういうことなんですが、将来は賃金審議会へかけて、そして最低賃金制としていく、こういうお考えのようですが、間違いないですか。
  59. 堀秀夫

    ○堀政府委員 その通りでございます。
  60. 大原亨

    ○大原委員 業者間協定によりまして、どういうふうに賃金が変ってきたか、なかなか宣伝されておるようですけれども、その内容を一つ承わりたいと思います。
  61. 堀秀夫

    ○堀政府委員 ただいままで実施されました業者間協定は四十八件ございます。四十八件の実施によって、どのような賃金の変化を生じたかというお尋ねでございますが、これにつきましては、三〇%以上従来の賃金が増加した件数が二件でございます。二〇%から三〇%賃金が上昇しましたものが六件でございます。一〇%から二〇%賃金が上昇したものが二十九件でございます。五%から一〇%まで賃金が増加したものが九件でございます。五%以下は二件ということになっておりまして、合せて四十八件になるわけでございますが、われわれといたしましては、業者間協定が実施された結果、従来の労働者賃金が大体このように一割から二割——それより高いものもありますし、低いものも二件ばかりございますが、大体といたしまして一割から二割程度上昇しておるということを報告を受けております。
  62. 大原亨

    ○大原委員 ちょっと大切な問題があると思うのですが、二〇%とかあるいは二五%賃金が業者間協定で上った、こういう御答弁でありますが、それは全体の賃金なんですか、それとも初任給なんですか。
  63. 堀秀夫

    ○堀政府委員 協定賃金以下の労働者賃金が、ただいま申し上げた率だけ増加したということでございます。
  64. 大原亨

    ○大原委員 これは価格協定といわば同じような性質であって、法律的にも全然拘束力がないというものであると思いますが、今お話のように二〇%、三〇%賃金が上った、こう言われるのは、ずっと全体の賃金の総額がふえたのかといいますと、今聞けばそうではなくして、たとえば新中卒のところが、その賃金が二〇%か三〇%上っただけである。私はいろいろ実態を調査しておりますが、あなたの方で的確な資料が出るかどうかと思うのですけれども、上ったわけです。しかしこれは実際によく検討してみますと、たとえば中小企業は、けさほどからも言われたように、非常に過当競争であって、きびしい競争をしております。たとえば協同組合なんかで売る値段については、こういうふうにしようといって申し合せいたしまして、それを調整法などにかけて拘束しようと思いましても、針でもゴムでも、いろいろな業者がありますが、今度はきめたあくる日に行きまして、うちの協同組合はこういうふうに協定しておるのだが、わしのところはそれ以下で売るからうちのやつを買ってくれ、こういう調子なんです。そういう価格の協定というものは、私はこれは実情をお話しするのですが、実際には労働組合があって、そしてこれを正しく守らなかったならばいけないというふうな自覚がそれぞれの業者にないと、たとえば価格協定が乱れてきまして過当競争になりましたら、それで市場で太刀打ちができるのにダンピングをやるようになりまして、それのしわ寄せは中小企業に来る。だからますます賃金が低くなってくるのです。条件が悪くなってくる。賃金労働条件は同じなんです。中小企業の経営者のちょっと専門家であればすぐわかる。裏づけがないわけです。今日までこの業者間協定を次官通達でやられましたけれども、私は寡聞にして、組織的ないわゆる労政がこういうことと並行して私はやられていないのじゃないかと思うのです。基準局長の方は非常に組織問題を回避しまして、組織をそっちのけにしておいて、業者だけとお話し合いになって今日まで進んでこられた。私はこれが大きな将来の基礎になると思って問題にしているのですが、そうじゃないのですか。
  65. 堀秀夫

    ○堀政府委員 ただいま援助しております業務は、今まで申し上げましたように、あくまでも事実上の行政措置でございます。そこでその援助に当りましては、業者間協定の締結に際して、なるべく従業員側の意見も反映するように考慮してもらいたいということを次官通達の中にもうたっておるわけでございます。しかしこれだけではやはり法律に基く措置ではございませんので、徹底を欠きます今回の最低賃企法案が実施されますならば、業者間協定の申請がありますれば、それが労働者側を含む賃金審議会によって審議、検討を願う、その上でその意見を尊重して労働大臣が適当なものは最低賃金として決定する、こういう手続になりますので、この過程を通じて労働者側の意見は十分反映されるものではないか、このように考えておるわけでございます。
  66. 大原亨

    ○大原委員 二〇%上ったとか、あるいは三〇%上ったとか言われても、これは次官通達であって、法律的な根拠はないわけですが、業者間協定で上った、こういうふうに盛んに言われるのです。しかしただいま申し上げたように、その実情を調査してみますと、具体的に出せといえば出しますが、こういうことなんです。つまり新中卒賃金相場がもう大体きまっている。ずっと全国的に一つの大きな流れだと思うのですが……。この新中卒を基礎にいたしました賃金でありますけれども、その賃金をきめているときに、そこだけ動いて二〇%、三〇%上った、百十円が百三十円になった、百四十円になった——これは非常に低い賃金であって、希望をもって働いたりするような賃金じゃないのですけれども、まあそういうことになっているのです。しかし実際によく従業員に聞いてみますと、労働時間を延長いたしましたり、工場へ入ってくる時間を早くしましたり、あるいは労働のいろいろな規制、あるいは超過勤務を削る、そういうようにして業者間協定というのはずっと中へ食い込んでいまして、表面はそういう協定をしたがごとく見えて、実際にはそれほど上っていないのです。良心的なところはこれに従って上げています。しかしながら全般的な問題は解決していないのです。だから二〇%か三〇%上ったといって基準局長や労働省の方が御宣伝になるのは間違いだと思いますが、これはいかがですか。
  67. 堀秀夫

    ○堀政府委員 先ほど申し上げましたように、四十八件の従来まで報告された内容を分析してみますと、協定賃金以下の労働者賃金は、多い者で三〇%、低い者で五%でございますが、大体一〇%から二〇%程度上っている、このようなことになっております。そこでその協定対象以外の労働者賃金がどうなっておるか、こうお尋ねになるわけでございます。この点は結局最低賃金の間接的な影響がどのようになるかということになるわけであります。わが国におきましては、御承知のごとく賃金形態は一般的に年令別勤続別を積み上げまして賃金体系が積み上げられる、このような慣行になっております。従いましてこれは間接的な影響でございますから、われわれとしても今後もう少したって時日をかけて、それが協定賃金労働者以外の労働者にどのような影響を与えたかということを調査をいたしたいと思っておりますが、二、三の例を聞いてみますと、やはり協定賃金以外の労働者も、この影響を受けてその賃金が上ったという事例が報告されております。これは年令別勤続別に賃金体系が構成されておるというわが国賃金構成に基くものであろう。従いまして間接的な影響は、これは直ちに出ませんけれども、少し今後時間をかけて調査いたしますならば、やはりこれによって相当の賃金上昇を来たすのではないか、このように思っているわけであります。  なお、時間外労働等を実施することによって、実際に最低賃金幾らということを規定したのを脱法するようなことに影響がある、このお尋ねでございますが、現在実施しております最低賃金の業者間協定は、事実上の協定でございますから、そういうようなことがありましても、これを防ぐのはなかなかむずかしいわけでございますが、今度の最低賃金法案が成立、実施されまするならば、最低賃金法案の中には、御承知のように、時間外あるいは通常の労働時間以外の賃金最低賃金の中に算入しないという規定もはっきりと設けてございますので、そのような弊害は防げるのではないか、このように考えておるわけでございます。
  68. 大原亨

    ○大原委員 私は本最低賃金制の政府提案の法案に入る前の問題として、次官通達による業者間協定というものが端的に政府のお考えを表わしていると思う。こういうことで二〇%上った、三〇%上ったという宣伝は、最低賃金制の趣旨からいうと違うのです。そういうことはあり得ないのです。だからそういう全体の中小企業労働者賃金が上ったというようなことは、労働条件との相互的な勘案で初めて判定できることであって、このことは私は主張の根拠かあるから、言えといえば指摘いたしますが、これは広島県やその近くのことですが、これはそうじゃないのです。だからそのことをもって皆さんの方で御宣伝になるということは間違いである、そういう数字は不確実な数字である、こういう点について私は指摘をしておきたいと思う。これは法的にも百五条をもってやるとか、あるいは二十八条から三十一条までも、実質上これは法の適用をしていないか、あるいは拘束力かない。労働問題懇談会と言われたが、これはもう法律的な規制はないのです。そういう法律的にも規制のないことで業者だけ賃金の協定をされるということは実質を伴わない問題だ、こういうふうに私どもは判断をいたしておるわけであります。そこで、業者間協定につきまして将来どういうふうな見通しを持っておられるのですか。現在適用中なのが三万六千六百四十七人、それで懸案になっているのが六十八件とございますね。これはどういう見通しをもっておやりになっておりますか、一つお聞かせいただきたい。
  69. 堀秀夫

    ○堀政府委員 現在まで成立いたしました協定が四十八件で、その協定の対象労働者が三万七千人ですか、ということになっております。なお現在業者間協定を締結しておりませんが、ぜひ業者間協定を締結したい、それについて賃金、経営の実態、その他の実情を調査把握いたしたいからということで基準局に援助を求めてきております件数が、そこにございますように六十八件さらにあるわけでございます。われわれといたしましても六十八件が全都成立するかどうか、今後を見なければわかりませんが、この相当部分はやはり業者間協定として近い将来に締結、成立するのではないか、このように期待しておるわけでございます。
  70. 大原亨

    ○大原委員 最低賃金制の対象になっておる労働者の数は大体どのくらいあるとお思いになりますか。
  71. 堀秀夫

    ○堀政府委員 この最低賃金法案の対象は、労働基準法の適用を受ける労働者に原則として適用になります。それと船員法の適用を受ける船員に原則として適用になるわけでありまして、合せまして約千二、三百万ではないか、このように思っております。
  72. 大原亨

    ○大原委員 対象になるべき労働者が千二、三百万ある中で三万六千名ほどできたというのですから、これは緒についたばかりだと思うのです。その問題に入る前にお尋ねするのですが、こんなものを無数に作っていかれる、そしてそれを実際上おやりになるのは基準局なんですね。これは賃金の決定も、それからこれを監督指導するのも、取締りをするのもみなやられるのです。そこで基準局長にお尋ねしたいのだが、今の基準法でも、故意かあるいは事実上そうなったのかも知らないけれども、守られていないところがたくさんあるのです。それでこういう業者間協定によって現実にやってこられたものが、対象人員千二、三百万の中で次官通達以来三万六千六百四十七名、これは中央、地方において目ぼしいのは大体あると思うのですけれども、そういうことをやれる人的あるいは物的な条件が政府にあるのですか。その点一つ政府にお尋ねしたい。
  73. 堀秀夫

    ○堀政府委員 最低賃金法案の実施は、現在ございます各地の労働基準局労働基準監督署並びに労働基準監督官がこの業務を行うわけでございますが、業者間協定の締結にいたしましても、その申請がありました上で労使、中立三者構成賃金審議会の御審議をお願いいたしまして、それは適当であるということになりますれば決定告示するという、こうような段階になるわけでございまして、この最低賃金法案が実施されまして漸進的に各業種、職種別に全部普及していくためには、現在の地方の監督署の陣容をもってして、もちろん十分であるとは申せませんが、まず大体円滑に実施できるのではないか、このように考えているわけであります。
  74. 大原亨

    ○大原委員 千二、三百万ほど対象があるのに三万六千くらいでありますと、千百九十六万何ぼ今残っておるわけでありますが、こういうのをおやりになろうとする際に、人的なあるいは予算上の措置というものは、今日までの経験にかんがみてどういうふうにお考えになるか、そういうことをお尋ねしておるのです。今でも基準局は穴だらけなんです。たくさんあるのです。一時は、中小企業基準法は理想案だと言っておったが——この間も諮問委員会がありまして、こういうものは経営者の社会的な責任、国の責任で守ることが、日本の経済を健全化して労働者の福祉を守るのだという見地から諮問になっておる。これは無理ないと言っていたけれども、実際にそこまでの基準をやるべきだ。政府与党を含んでこういうように変ってきておると思う。私はそういうことは最低賃金制でも同じように考えられるのですが、やはり進んでどんどん条件を整えてやっていけば、政府が前から御説明になっておるように無理ではないと思う。人的にも今でも足りないのに、あるいは予算上の措置がなしにこういうことをやるということは、百年河清を待つというか、千年たってもできないのではないですか。どうですか。
  75. 堀秀夫

    ○堀政府委員 現在基準法の実施に当っております各地の基準局、監督署の職員の陣容は必ずしも十分であるとは申せませんが、しかしそれにつきましては最近基準法に基くところの、たとえば書面的な手続事務の簡素化を極力はかっております。それと同時に各基準局、監督署の機動力を増加するための諸種の予算的な手配もしておるわけであります。これとあわせまして今回の最低賃金法案の策定に当りましては、本年度の予算におきましても、一つはこの賃金審議会その他広報関係の事務のために約一千百万程度の予算を計上すると同時に、中小企業の調査のための予算はそのほかに約三千万程度増額しておるわけであります。これらのことを勘案いたしまして、それと同時に現在ある基準局の職員を能率的に動かしていくことによりまして、この最低賃金法の実施に遺憾なからしむるを期したい、このように考えておる次第であります。
  76. 大原亨

    ○大原委員 ただいままで質問しましたことで、これは法律的には根拠のないことだったのだ。基準法で規定してあるのだから、おやりになったことは根拠のないことだと思う。実際上何%上ったと言うけれども、これについては新中卒の百十円とか、百十五円とか、きわめて低い一部の人のみであって、全体の賃金水準が上ったのではないのだ。この千二百万、あるいは三百万と言われておる対象となる低賃金労働者を、最低賃金制によってそういうふうに逐次上げていこうというのに、現在までに三万六千ということであります。そういたしますと、人員についてもあるいは予算上の措置にいたしましても、きわめて微々たるものであります。印刷費程度であります。そういうことになりますと、政府が最低賃金法案について本気で取っ組んでおられるのかどうかということにつきまして、非常に疑問に思うわけであります。これは労働大臣にお尋ねするのですが、これは前からずっと討論して積み上げてきましたけれども、予算上の準備もないという現状において、どういうお考えで、ほんとうに本気でおやりになるつもりか、そういう点について労働大臣の御答弁をお願いいたします。
  77. 倉石忠雄

    ○倉石国務大臣 先ほど来、それから前委員会においても政府の立場を申し上げておりますように、ぜひこれはやっていきたいという考えはもちろんのことであります。まだ法案が通過しておりませんけれども、この法案を練ります前にも、先般も申し上げたかもしれませんが、全国にあります商工会議所の連合会、なかんずくそういうところの零細企業の方々は、非常にこの問題を重視いたしまして、熱心に研究討論いたしましたし、また今ごろこういうことをやられては困るというふうな熱心な反対論者もありましたし、今もまだ継続しております。政府が法律案を国会に提出してこれが法文化したということになれば、いろいろな面でそれを実施しなければならないという気持を従来も、経営者もあらゆる人たちはお持ちになるのでありますから、この法律案が通過さえいたしましたならば、私は急速度に業者間協定というものは各地に実施されて参ると思いますし、また現にたとえば清水あたりで、輸出カン詰ではある程度の業者間協定がある。そうしますと、その付近にあります同じような花がつおの業者はそれより低かった。ところが低い協定などを結んでおったのでは同じ地域のそういう業種に人が集まらないというふうなことになってくるのでありまして、従ってこういう法案が通過いたしますと、非常な勢いでこれが出てきますし、労働基準局ばかりではございませんで、通商産業省の出先も協力一致して、早くこういう協定がどんどん結ばれて、実質的に最低賃金制が実施されるように政府は努力をいたすのでありますから、私どもはそういう面から考えまして、もちろん非常な熱意を込めておるのでありますし、これは着々と成功いたして参る、こういう自信を、持ってやっておるわけであります。
  78. 大原亨

    ○大原委員 大臣のお話によりましても、この業者間協定というものが最低賃金制の法案の一つの大きな柱になっておるし、今日までもそういうつもりでやってこられたと思うのですが、今までの経験によりますと、こういう場合に成功している。今言われる通り、求人が困難な場合、あまり安くて、百十円で働いて百円は全部食費にとられてあと十円くらいしかないんで、またあちらこちらとがたがたする、これじゃいかぬというので、これが出てきやすい。あるいは輸出関係の業者で、ダンピングの批判をされる、そういう場合。それからこの二つがありましても、業者の団体の中に統制力のあるものがいないとこれはできないのです。先ほども言ったように組合が共同化されて、労働組合の組織が連合体があって、その中で話し合ってできたことだったら、労働者の立場に立てば協定を実施しないということは、共通の利害がありますからそのささえになるのですが、労働省としてはその二つの指導をずっとしていってこれをやるんだったら、それはある程度予算がなくてもできる。団体協約の締結方式あるいは審議会方式、一律方式、三つの方式があります。これは国際的にはそうなんですが、業者間協定を第一に置いておいて、業者がねじれたらいつまでたってもまとまらぬ、こういうふうな最低賃金はどこにもない。予算がなくても、そういう労政局の指導と基準局の指導が両々相待ってずっといって、経営の組織化、労働者の組織化と一緒にこれが進んでいったのでしたら、時代の変化に即応し、協定が守られ、予算はたくさん要らぬかもしれぬ。しかし業者間協定というのは、将来は非常に予算を食うんですよ。しかも有力者がおらなければ、今までの経験ではできぬのです。こういう三つの条件のところができているのです。私どもの近くの経験によりましてもそうなんですけれども、今申し上げた三つの条件についてそういうところができているんだ。そういう点について、実際やってこられた局長はどういうふうに判断になっておりますか。
  79. 堀秀夫

    ○堀政府委員 ただいままでの状況を見てみますと、お話のように、一つは求人がこれによって容易になるという実益がある場合にやりやすいということは事実であります。また輸出産業等におきまして国際的な信用を回復したい、こういう見地から締結されたものもございます。それからそのほかにも業者間で過当競争が存在いたしまして、お互いに非常に苦しい競争を行なって、それに伴って賃金を切り下げて、しかもお互いに苦しい、こういうような共同の不利益がある場合に業者間協定は成立の機会がきわめて多いということになっておるわけでございます。そこで従来までの状況は、ただいまお話にもなりましたが、有力な統制力がない場合にはなかなかできないだろう、アウトサイダーが存在する場合には業者間協定が、それがしこりになりまして円滑に実施されない、このようなことがあるわけであります。そこで今回の法案には、アウトサイダーがある場合には第十条の地域的最低賃金の拡張適用方式をつけ加えまして、今のような障害は排除するというようなことも考えておるわけでございます。また同時に、業者間協定と同じように労働協約によるところの最低賃金につきましても、アウトサイダーがあるためにこれが円滑に実施されないというような場合に、同じく十一条によってこれを地域的に拡張適用して最低賃金を決定する、このような方式も組み合せておるわけであります。なおこの最低賃金法の実施につきましては、労働基準局が一応法律的には形式的に、実施主体になっておるわけでありますが、この実施に当りましては県の労政関係の人たち、そのほか経済関係の各出先機関と緊密な連絡をとりまして、この最低賃金法の円滑な実施をはかって参るようにいたしたい、このように考えておるわけであります。
  80. 大原亨

    ○大原委員 たまたま将来の条文のことに触れられましたが、その九条の業者間協定に基く最低賃金の中で、その当事者の全部の合意による申請があったとき、アウトサイダーの話があったけれども、全部の合意による申請があったとき、こういうのは、全部の合意によらなければ、業者だけの協定合意が成立しなかったらできない、そういうものができますか。
  81. 堀秀夫

    ○堀政府委員 第九条にありますように、業者間協定の申請は、その業者間協定に基いて最低賃金をきめてもらいたいということについて、その当事者全部の合意が必要である、このようになるわけでありますが、その理由は、申請によりまして、賃金審議会の議を経まして最低賃金を決定するわけでございますが、それか決定されました以後は、かりに自分はもういやだから脱退したいというような業者がありましても、これは脱退してもやはり最低賃金の効力は及ぶ、要するに脱退しても最低賃金の効力は及ぶ、こういうことを第九条の二項で規定いたしまして最低賃金が正確に守られるように、こういう保障をしておるわけであります。そこでそういうような二項がある以上は、やはり第九条第一項に基く最低賃金決定のための申請は、一応それを全員が合意して申請してくるものでなければならない、こういうものになっておるわけでございます。なおアウトサイダーの問題は、ただいまのようにして最低賃金がまず九条によって決定されました場合に、自分はいやだというものがありましても、それは今まで最低賃金協定を結びまして、それに基いて最低賃金の適用を受けておりますので、第十条を適用いたすことによってアウトサイダーは第二段的に包含される、このような仕組みになっておるわけであります。
  82. 大原亨

    ○大原委員 第九条、これはまたあとで質問しようと思ったんですが、足がかりができましたので、この話を少し進めますが、第九条は全部の合意ということを第一項にきめておいて、そこでその申請があった場合、申請者は当事者、当事者というのは業者である、従って業者全部の合意というのは実際上あり得ない。しかも最低賃金の決定をすることができるというのが第一項の締めくくりなんですよ。これは一つも拘束力というのはないんです。そういうものを前提としておいて、いろいろと次から次へと論理を展開していかれる。そういうようなことはちょっとおかしいじゃないですか。ついでに、第十条の「大部分」というのはどういうことなんです。
  83. 堀秀夫

    ○堀政府委員 第九条に「できる。」と書いてありますのは、業者間協定によって、あまり低い、要するに最低賃金として適当でないと思われるような低い賃金をきめてきて、それが申請がありました場合に、賃金審議会にかけまして御審議を願うわけでございますが、できるじゃなくて、かりに、なければならないとありますれば、業者間協定の申請があれば、それをそのまま最低賃金にいかなる場合にもしなければならない、こういうことになるのでありまして、よく労働者から心配されておりますように、業者間協定がそのまま最低賃金になるのである、だからこれは労働者の方にかえって非常に不利益な形をもたらすのだ、こういう批判にこたえまして、賃金審議会がこれを審議して、これは最低賃金としてはあまり低過ぎて適当でないということになりますれば、九条の最低賃金として決定しない。要するに適当なものは最低賃金として決定する。こういう意味で「できる。」と書いてあるわけでございます。  それから第十条は「大部分」と書いてあります。これはその場合々々に応じて、社会通念として、過半数よりは多い観念でございますが、要するに使用者の大部分がその一定地域において同種の使用者であり、それから労働者が同種の労働者であります場合には、少数のアウトサイダーの存在によりまして、せっかくきめた最低賃金が有効に実施されない。こういうことになる弊害を伴いますので、その場合には大部分の申請によりまして、そうして第十条に基づく地域的最低賃金をきめて、アウトサイダーもその規制を受けるようにしていこう、これが第十条の趣旨でございます。  なお第九条の「全都の合意」というものは、事実上なかなかできないのじゃないかというお話がございましたが、全都の合意というのは、必ずしも全部が判を押して署名して申請するということは必要ではありませんので、たとえば団体等ができておりまする場合に、その団体の定款その他によって、適法に決議その他によって全員が合意したというようなことが証されれば、その代表者の申請をもって足りる、このように解釈されるわけでございます。
  84. 大原亨

    ○大原委員 その合意というのは、賃金の内容は入っておりますか。
  85. 堀秀夫

    ○堀政府委員 ここにある合意と申しまするのは、要するに第九条に基く最低賃金として決定をしてもらいたいという申請をするについての合意の意味でございます。もちろんその前提といたしまして、最低賃金の線を引きまして、たとえば五千五百円なら五千五百円以下で使わないということについての合意は、もちろんその前提として必要でございますが、この第九条の合意というのは、その申請をすることについて全部が合意したということでございます。
  86. 大原亨

    ○大原委員 五千五百円以下では使わないという意味の合意ということがありましたが、概括的な合意だと思うのですが、そういう基準はどこでだれがきめるのですか。
  87. 堀秀夫

    ○堀政府委員 この申請の前提としての合意、当事者間の協定の場合には、それは当事者の使用者がその最低賃金五千五百円なら五千五百円以下では使わないようにしようという協定をするということが必要になるわけでございます。  なお、九条の最低賃金を最後的にきめまする場合には、その申請を労働者代表を含む賃金審議会で作るようにしていただきまして、その意見を尊重して、適当なものであれば労働大臣もしくは基準局長が最低賃金として決定をする、こういうことになるわけであります。
  88. 大原亨

    ○大原委員 賃金審議会の性格やそういう運営の仕方あるいは権限等につきましては、これはまた一つ後に申し上げたいと思います。これはここまで入るつもりじゃなかったのでありますが、十二条の異議の申し出をする。「使用者で申請に係る最低賃金又は労働協約の適用を受けていないものは、前項の規定による公示があった日から三十日以内に、労働大臣又は都道府県労働基準局長に、異議を申し出ることができる。」「労働大臣又は都道府県労働基準局長は、前項の規定による申出があったときは、その申出について、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会に意見を求めなければならない。」こういうことなんですが、異議の申し出というのは、これは前の全部とか大部分というような、全部の合意、こういうものとはどういう関係なんですか。
  89. 堀秀夫

    ○堀政府委員 異議の申し出が認められまするのは、第十条もしくは第十一条によって業者間協定に基く最低賃金あるいは労働協約に基く最低賃金が、その地域内のアウトサイダーにも拡張適用して決定されるという場合の問題でありまして、アウトサイダーは、要するに自分の意思に基かずして、強制的に最低賃金の拘束を受けるということにこの場合なるわけでございます。そしてこの最低賃金法に基くところの法律的な拘束力を受け、また罰則も受ける、このようなことになるわけでございまするので、その場合に適当な理由がありますにもかかわらず、強制的にアウトサイダーが最低賃金の拡張の決定を受けるということになりますると、救済の道をつける必要がそこに生じてくるわけでございます。従いましてアウトサイダーは適当な理由がある場合には、理由を付して異議の申し出をすることができる。異議の申し出がありました場合には、これは最低賃金審議会にかけまして、その申し出が果して理由ありやいなやということを審議いたしまして、それに基いて労働大臣が適当な措置をとるということが四項、五項に規定してあるわけであります。
  90. 大原亨

    ○大原委員 第十条の「労働大臣又は都道府県労働基準局長は、一定の地域内の事業場で使用される同種の労働者及びこれを使用する使用者の大部分が前条第一項の規定による一の最低賃金の適用を受ける場合又は同項の規定による二以上の最低賃金最低賃金額について、実質的に内容を同じくするもののいずれかの適用を受ける場合において、これらの最低賃金の適用を受ける使用者の大部分の者の合意による申請があったときは、」ということでありますが、異議の申し立ての場合に、第九条は関係はありませんね。
  91. 堀秀夫

    ○堀政府委員 第十条は第九条の最低債金の決定がありました場合、さらにそのほかにアウトサイダーが存在するという場合に、必要があればそれを地域的に拡張して最低賃金を決定するための規定でございます。
  92. 大原亨

    ○大原委員 それで第九条の「全部の合意」ということが問題になるわけです。全部の合意ということが、全部の合意か、大部分の合意かということは、実際上法律を運営していく場合に困るのです。これは余談になりますが、私の知っている基準局のエキスパートは、私がこれは実際上できるかと申しましたら、基準局の第一線職員は忙しくなってしょうがない。どうしてかというと、たくさんある各業者を回ってそれを指導しなければならぬ。そして納得させなければならぬし、納得しなかったら、すぐその価格協定も変りますし、これは何日間も酒を飲んで話をしても片がつかぬ。そう言って私に話をしましたけれども、これは労働基準法を適用する際に業者のいろいろな問題がありますけれども、業者との関係が問題になっているのです。基準法はできるだけ寛大にしてもらえばもうかりますからね。だから百万円ももうかるという場合に、一万円、二万円出しても採算が合うという考えも実質的にあるのです。これはお認めになるでしょう。私も知っています。そうすると、こういうものを納得させて適用していこうという場合には、たくさん人が要りますし、これは忙しくてしょうがないじゃないですか。実際上全部とか一部とかいっても、作業所、事業所はものすごい数ですが、そういうことが事実上できるのですか。全部の合意、大部分の合意とか、しかも客観的に規定していないことが実際上できますか。
  93. 堀秀夫

    ○堀政府委員 先ほど御答弁申し上げましたように、全部の合意というのは、別に全員が署名捺印して申請することが必要ではないので、団体がありますような場合に、その団体の定款その他によって適法な手続を経て決議等が行われる。それに基いて代表者が申請を行う。これをもって足りるわけでございます。従いまして、もちろん最賃低金法ができますれば、地方の基準局、監督署の業務は増加いたします。忙しくなることはわれわれも覚悟しております。しかし先ほどお話がございましたが、その内容については、ただいま申し上げたような手続が行われるわけでございまして、現在各地の基準局、監督署の職員一同は、やはり労働者保護のためにこのような最低賃金法案を一日も早く成立さしてもらいたいということを全員——若干の例外はあるかと思いますが、大部分の基準局の職員は、一日も早く本法案が成立実施されることを、労働者保護の見地からも熱望しておるわけでございます。
  94. 大原亨

    ○大原委員 それは行政に当っておる人とすれば仕事がふえて——一時は基準局は閑古鳥が鳴いていて、だんだん影が細っていたのです。そうしたら最近この問題が出てきた。私どもはこれは絶対やらなければならぬし、基準法がやはり底が抜けているので、このことをやらなければ労働者労働条件は守られない。こういうことを実際に考えておるのです。実際そうなんです。そういうときに、この問題について期待をされるのは当然なんです。仕事もふえるし、社会的にもやりがいがある。私が今例を引いたのは、やめた職員のことを言うたのですが、みんなが飲むとは言いませんけれども、そういう人も実はおったわけです。実際問題はあるのです。これは業者に聞いてごらんなさいよ。ちゃんとそういうことを言うのだから。そこで私どもが言うのは、そういう業者間協定でそうやって、全部の合意といって機関の決定で、有力者がおって、ぴしゃっと押えればいいのですが、押えなかったら、研究しようではないか、というて幾らでも延ばすのです。やらぬじゃないかといったら、いや研究しよりますといって逃げちゃうのです。その人が反対と言い出したらみんな反対です。最初私は、次官通達による業者間協定によって出た場合の条件のことを言いましたが、相当有力者がおって、説得力のある、統制力のある人がおって、たとえば銀行その他にいって、その人の顔で金融もできる、あの人に頼めばいろいろな経営の援助ができるから、少々無理でも聞こうかい、こういう気持になっておる人がほとんどだった。そういう場合には、この問題について、これは時勢の流れだから当然やって、そしてお互いに従業員の考え方も統一し、経営者も経営上の責任を明らかにして、そして大きな資本が横暴すれば、それに対して税金でも、金融でも、資材の購入でも、共同化してやろうじゃないか、こういうちゃんとした近代化の基礎を作る。そういうときに、そういう説得力のあるのがおるかというと、実際はなかなかいないのですよ。いなかったら横にねじれて、これは法律がこうなっておるからずるりずるりと時間を延ばして、やりよります、やりよりすと言うておけば、一生涯言うてもよかろうということに実際はなるのです。これは一生延ばそうじゃないかというわけで、法律ができればすぐ裏をかくのです。ところが今ここで御説明される場合に、行政官庁として一つの考え方でやられましても、法律はひとりでに動くのですよ。それを武器にいたしまして、経営者の考えでできるだけ賃金を上げないようにがんばるのです。そうして基準監督署やほかの方で忙しくなるという話も出るわけです。そういたしますと、これは作るのは作るけれども、実際上、今の基準監督行政の実情は、人員からいいましても、予算面からいいましても、これはなかなかできぬのです。全部合意というのは、そういう自分の経営について二十円上げる、三十円上げる、五十円上げる、今の百二十円くらいのものを二百円くらい上げることになれば、相当の決意を持って、大福帳を科学的に経営分析をいたしまして、いろいろな点において共同化を促進していかなければならぬのですよ。大体そういう決意なしに逃げていく。それで隣よりちょっと安くしてたくさん売る、そればかり考えておる。そうやって過当競争しておるのが中小企業の実情です。それがみじめになればなるほど競争がきびしくなる。だからこれは全部の合意ということは機関の決定だ、機関が決定する、だから一人々々の金額まで裏づけは必要ないんだとあなたが御説明になりましても、法律の今までのいろいろな経過からいいまして、建前からいいまして、全部の合意ということは実際にできないですよ。そうしてこれはずっと延ばせたら延ばすのが得策ですよ。五十年も百年もこの法律が出たら延ばしていく。これは実際私は無理言っているんじゃない、事実を言っておるのです。だから、この法律で業者間協定をやれやれといいましても、輸出とか求人の困難とか、そういうところで価格協定と同じくらいなつもりでやるという結果になれば、これが最低になるのです。これ以上やったら、有力者がお前おかしいじゃないかといって指摘するようになる。いわゆる最低に押しつける賃金になっちゃう、くぎづけになっちゃうと思う。私が申し上げますのは、二点において申し上げたのですが、全部の合意はそう簡単じゃないように思うけれども、これはもう一度基準局長の責任ある答弁をお伺いしたいと思う。
  95. 堀秀夫

    ○堀政府委員 業者間協定はなかなか締結しないんじゃないか、こういうお話でございますが、実はこの前の労働問題懇談会の意見書に基きまして、法律的な根拠は、基準法百五条は無理でございますが、それ以外には何も具体的な規定はありません。それに基きまして事実上援助を行うというような形で始めました仕事でございます。そこで最初は、これは初めてのことでもありまするし、なかなかこの締結される数は少いんじゃないか、このようにわれわれは思っておりましたが、その予期に反しまして、現在までこの一年しばらくの間に四十八件がすでに締結され、さらに引き続いて六十八件が締結のための準備作業を行なっているという事情でございまして、われわれとしては、当初の予期以上に事実上の指導に基く業者間協定が多数成立した、かように思っておるわけでございます。これが今度の法律に基きまして実施されるということになりますれば、ただいまお話がございましたが、従来以上にこの業者間協定が締結されて申請があることは大体間違いなく期待できるのではないかと考えております。またこの法律の十四条にも、業者間協定締結の必要があると認めるときは、労働大臣、基準局長は、使用者またはその団体に対して勧告権も認められておるところでございまして、これらのものを併用して実施していく。それから全部の合意による申請と先ほどもお話しいたしましたように、適法なその団体の定款等に基く手続があれば、それをもって認める、このように運用していくわけでございます。それでもなお締結しない、必要であるにもかかわらず五十年も百年も引き延ばされるおそれがないかということでございますが、それを予期いたしまして、第十六条には、協定その他によって最低賃金を決定することが困難、不適当な場合には、職権で最低賃金審議会の調査審議を求めて最低賃金を決定できるという定めも置いているわけでございます。これらを併用して参りますれば、最低賃金法による最低賃金は漸次円滑に各業種に普及していくのではないか、このように期待いたしておるわけでございます。
  96. 大原亨

    ○大原委員 第四の方式、これは職権の方式というのですか、審議会といいましても諮問委員会でありますが、この問題は別の問題ですが、その基礎になっておるからお話しするのです。その条項も、必要と認めたり、あるいは困難なときという判断が要る。これは第一が前提であることに間違いないし、第一の趣旨に反対する人は実際上ないのです。一年間でこういうふうな成果があった、三万六千、これはわずかなものですけれども、この上ったときの条件は、先ほど指摘したように、求人困難な場合、あるいは輸出関係で業者がそのことのために不利になることがはっきりしている場合、国際的な批判を受けたり、実際上不利になる場合、業者の統制力、指導者の統制力、こういうことの条件の中で社会党も最低賃金法案を出したし、労働者も言うし、とにかくこれは何とか早くきめた方がいい、こういう空気の中で、行政指導、基準法の一般の監督権の問題とも関連しまして、これはちょっと上げておいて低目にきめておいた方がいいだろう、こういう気分の中でわあっときめられたのです。現在の最低賃金法案に対する認識というものは、これはやはり早くやらぬといかんだろう、こういう空気の中で実際はきまったのです。しかしいざ法律ができてきますとそうはいかないのです。先ほど申し上げたような条件のところがきわめて少いのです。そして業種がばらばらになっていて、輸出という問題にしても、一致したりしなかったり、全国的に他の地域に散乱しておったりします。そうしましたら事実上全部の合意なんかということは、たとえば広島県なら広島県だけで地域的に業者間協定を結びましても、同業者が他の県や全国的に散らばっていますので、重点はここだ、こういうようにしましても他の府県の方は、労働大臣が何といいましても、それは決定しない方がいい、正直に言ったら決定した方が損をする、というのはコストが高くなる、それでうちの方はまた協定しておりませんから安く売りますと宣伝をする。だからあなたは全部の合意ということについて、機関が非常に権威のあるように、法的拘束力があるように言われる、そうして今までやってきたことが非常に進んだ、こういうふうに言われるけれども、私は最初にこれは論駁しておいた。それを考えてみましても、これはなかなかそんなものじゃないですよ。  そこでもう一つお聞きしますけれども、一たんきめますね、全国に無数にずっときまるといたしますと、それで賃金はくぎづけになるのです。それを情勢の推移や生活費の上昇や、国民生活水準の向上や、そういうこれに準じて変っていく条件というものは、またもう一回繰り返さなければいかぬ。これは情勢の推移に応じてという文章がありますけれども、実際に最低賃金の決定について拘束力を持たそうといたしましたら、またこういうことをやる。これはあなたが考えておられるように事務はそんなに簡単で、今の基準局の態勢で進むものじゃない。全部の合意ということは、そういう点で法律ができるんですから、全国的に競争者がおるのですから、一地域の輸出業者ということではない、一千二百万も三百万もおるのですから、そういう部分的なあるいは地域的な業者間の協定を、業者だけの合意においてやろうといたしましても、私は事実上できないのではないか。全部の合意という点についてもう一回——これは審議は記録へ載っているのですから、将来これがどういう経過をたどるかということは、当然目に見えてくることなんです。そういう点では今までの経験や実情等から考えて、口では実態に即すると言われるけれども、これはそうその場のがれの答弁をしてもらっては困る。全部の合意というものはそんなに簡単なものじゃないですよ。その点一つ。
  97. 堀秀夫

    ○堀政府委員 全国的に同じような業種が散らばっておる場合に、先に決定すれば損だからなかなかやらぬだろう、こういうお話でございますが、これは今までの業者間協定を見てもわかりますように、たとえばカン詰作業については、清水だけでなしに、他の地域にもあるのでありますが、清水地区で率先してやっております。内容は必ずしも適当とは思いませんけれども、とにかく最低賃金協定を結んでいるわけであります。またそのほかに、たとえば合板関係の作業につきましても、秋田なら秋田というところで先に結んでいる。また繊維関係の作業においても桐生なら桐生というところで先に結んでいる。要するに業者間最低賃金をきめるということは、労働者の保護のためというだけでなしに、企業間の過当競争を防止して、それによって労働力の質を向上していく、それによって企業経営の基盤を近代化し、合理化していくことができる、こういう近代的な認識に立ってきたゆえんであると私は思っておるのであります。このような考え方を今後も極力PRして参りたいと思っております。従いまして、法律に基かないですでに相当実績が上っておりますものは、法律ができますならばさらに促進されるのではないか、このように思っております。またできた場合に賃金が固定化されるのではないか、物価や生計費等が、インフレその他になって、事情が著しく変化した場合、その場合に前のやつにくぎづけされるのは不合理ではないかというお話でありますが、これは三十六条その他において、事情が著しく変更して不適当になったと思われます場合には、労働大臣は改正、廃止の決定を命令することができるというようなことも規定してあるわけであります。以上のようなことを勘案いたしまして、お話の全部の合意というようなことも、先ほど申し上げましたように、総会の決議というようなことで全員の合意とみなすというような運用をいたしますことによって、この法文で、この法案の内容を円滑に生かしていくことができるのではないか、このように期待しているわけでございます。
  98. 大原亨

    ○大原委員 十条の「使用者の大部分」これが非常に問題なんです。総会云々と今言われましたけれども、全国的あるいはブロックぐらいにしても、大へんな人がいるのです。大部分というのはどういう基準なんです。
  99. 堀秀夫

    ○堀政府委員 大部分というのは過半数よりは広い概念だと思っております。要するに大多数という意味でございまして、たとえば労働組合法第十八条等に大部分というような言葉が使ってございますが、要するに過半数よりは広い。その何分の何というふうに規定しますよりは、その地域その産業、その職業等におきまして、具体的に社会通念として見て大多数の者が適用を受けるに至っているというふうに判断される場合にこの適用があるわけでありまして、その具体的な判断の基準賃金審議会が具体的場合に応じまして御検討願って決定していく、このように考えているわけであります。
  100. 大原亨

    ○大原委員 この条文全体が、すっとしてどこへいっているのかわからぬような法律の構想なんです。ちょっと筋が通っているかと思うと、あちらこちらへすっと抜けていって正体がつかめない法律なんです。それで実際上考えてみると、何といっても基準局長の職権、労働大臣の職権で審議会に諮問する、そういう手を尽してあとの結果なんですよ、これは。業者がちょっと知恵を働かせたら、協力しているがごとくせざるがごとく、この法律を読んでみると、これはずっと持っていったらつかみようがないのです。しかも使用者の大部分という——法律の知識はあまりないけれども、大部分というのは初めて聞くのですが、大部分というような法律がありますか。
  101. 堀秀夫

    ○堀政府委員 ただいま申し上げましたように、労働組合法第十八条等には、拡張適用の場合に大部分と書いてあります。
  102. 大原亨

    ○大原委員 この問題についてはまだ質問を保留しておきます。
  103. 園田直

    園田委員 長本日はこの程度にとどめ、次会は来る二十八日午前十時より開会することとし、これにて散会します。     午後四時一分散会