運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1958-10-17 第30回国会 衆議院 外務委員会 第5号 公式Web版

share
  1. 会議録情報

    昭和三十三年十月十七日(金曜日)     午前十時二十五分開議  出席委員    委員長 櫻内 義雄君    理事 岩本 信行君 理事 宇都宮徳馬君    理事 佐々木盛雄君 理事 床次 徳二君    理事 戸叶 里子君 理事 松本 七郎君       菊池 義郎君    北澤 直吉君       小林 絹治君    千葉 三郎君       中曽根康弘君    福田 篤泰君       松田竹千代君    大西 正道君       高田 富之君    田中 稔男君       帆足  計君    森島 守人君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君  出席政府委員         内閣法制局長官 林  修三君         外務政務次官  竹内 俊吉君         外務事務官         (アジア局長) 板垣  修君         外務事務官         (条約局長)  高橋 通敏君  委員外出席者         外務省参事官  高橋  明君         大蔵事務官         (為替局管理課         長)      長橋  尚君         文部事務官         (社会教育局著         作権課長)   大田 周夫君         通商産業事務官         (通商局次長) 中野 正一君         通商産業事務官         (軽工業局長) 森  誓夫君         専  門  員 佐藤 敏人君     ――――――――――――― 十月十七日  委員實川清之君辞任につき、その補欠として高  田富之君が議長の指名で委員に選任された。 同日  宇都宮徳馬君が理事補欠当選した。     ――――――――――――― 十月十五日  日本国ラオスとの間の経済及び技術協力協定  の締結について承認を求めるの件(条約第六  号) 同月十六日  原水爆実験及び核武装禁止に関する請願中村  英男君紹介)(第五三〇号)  同(中村時雄紹介)(第五八三号)  原水爆実験禁止に関する請願鈴木善幸君紹  介)(第五八二号) の審査を本委員会に付託された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  理事の互選  日本国ポーランド人民共和国との  間の通商に関する条約締結について承認を求  めるの件(条約第一号)  通商に関する日本国ニュー・ジーランドとの  間の協定締結について承認を求めるの件(条  約第二号)  日本国ラオスとの間の経済及び技術協力協定  の締結について承認を求めるの件(条約第六  号)  国際情勢等に関する件      ――――◇―――――
  2. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 これより会議を開きます。  理事補欠選任についてお諮りいたします。理事宇都宮徳馬君が去るニ日委員を辞任せられました結果、理事が一名欠員となっております。この際、理事補欠選任を行いたいと存じますつが、慣例によりまして、委員長より指名するに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 御異議なければ、理事宇都宮徳馬君を指名いたします。     ―――――――――――――
  4. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 次に、日本国ポーランド人民共和国との間の通商に関する条約締結について承認を求めるの件、及び通商に関する日本国ニュー・ジーランドとの間の協定締結について承認を求めるの件、右両件を一括して議題といたします。質疑を続けます。帆足計君。
  5. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 ではビームのことからお尋ねしますが、前会の十月六日の速記録を読んでいただいたことと思いますが、それは音楽著作権の問題です。私が申し上げました趣旨は、先般で尽きておりまして、日本のようにアジアに位する民族が早くも西欧に窓を開いて、西ヨーロッパの一流の音楽を理解するということは、私はすばらしいことであると思うのです。しかし経済的に貧しく、そして西ヨーロッパから遠く離れておりますから、需要者も比較的少い古典音楽について、多額の印税を払うということはできないと思います。少くともアメリカより以上の印税を払うということが不合理であることも、言うを待たざるところだと思うのです。従いまして文部省外務省または大蔵省が相談してこの税率を二%程度にきめたということは、私はそれでも多きに失するけれども、まあ文化国家としての誇りや体面を保つ上から見て、まずわれわれも容認し得るところであると思います。従いましてこの法律ができましたのは、ずいぶん前のことでありますが、昨年の暮れまでは四%支払っているということですけれども事情を存じませんから伺いますが、昨年の暮れまで払っていましたのは、何かそういうことに期限がきめられていたのでしょうか、その辺のところをちょっと御説明願いたいと思います。
  6. 大田説明員(大田周夫)

    大田説明員 著作権使用料につきましては、仲介業務に関する法律がございまして、その法律規定に、仲介業者文部大臣から認可されました使用料規程によって支払うことになっております。ところがレコード使用料につきまして、昭和二十七年当時の使用料規程に、「その印税率著作権者日本音楽著作権協会に対して指定した率による。」という規定があったのでございます。そういう規定がありましたために、従来は、今帆足委員の御指摘になりましたように、四%の使用料を払っておったものだと私は考えます。その後昭和二十九年の七月に使用料規程改正になりまして、「レコード著作物一曲の使用料レコード片面につき当該著作物が使用されているレコード小売価格物品税を除く)の百分の二又はレコード片面一枚につき法定換算率による米価ニセント相当邦価額のうち、いずれか高い額以内とする。」こういうように規定が変ったのでございます。ところが私ども今から考えますと、こういう規定が変ったにもかかわらず、仲介業務をやっておりましたフォルスターという米国人でございますが、これがこういう使用料規程が変ったことを十分知らなかった、それからレコード会社がこの使用料規程が変ったことをその仲介業務をやっておりましたフォルスターに通知していなかった、そういうような行き違いがありましたために、ずっと四%の使用料を払っておったものだと思います。ところが三十一年の暮れになりまして、ビームレコード会社との契約期限が切れました際に、レコード協会の方でこの使用料規程改正になったということに気づきまして、二%以上は支払いができない、こういう主張をいたしましたために、今帆足委員の御指摘になりましたようなビームとの間に問題が起って参りました。そこで私どもといたしましては、仲介業法という法律にそういう規定がございますので、二%以上は払ってはいけない、こういう考えのもとにレコード協会ビームとの間にそういう交渉をさしておるわけであります。  私も、先般八月にジュネーヴで開かれました第三回著作権政府間委員会出席しました際に、ビーム会長ドマンジュさんにお会いいたしましたので、その席でドマンジュさんに日本法律規定に従って早くこの問題を解決していただくようにということをお話して、従来のいきさつと私どもの見解を書きましたものをお渡しして参りました。その際ドマンジュさんは、この会合に来て唯一の収穫、私からこういう資料をもらったことだ、パリに帰ったらさっそくフランス語に翻訳して回答をよこすという、こういうお話でございましたが、まだ回答はございません。
  7. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 私、国会議員といたしまして、一面公正な立場から行政を監督し、他面は文化交流に対して外務委員は心を配らねばならぬと思っておりますが、昭和二十九年の七月以降は税率二%ということにきめながら、昨年の暮れまで払ったとしますと、約三カ年間私は国費をむだ払いをしておったように思います。ただいま協会における知識の欠除であるとか行政七の行き違いということも伺いましたけれども、それは公平に考えますと私は驚くべきことのように考えますが、一年間の支払い総額はどのくらいの金額になるのですか。
  8. 大田説明員(大田周夫)

    大田説明員 私どもが聞いておりますところでは、四%にいたしますと約六千万円であったと思います。二%にすれば三千万円よけいに払っておったということになります。
  9. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 三千万円ずつ三カ年よけいに払えば、一億円の金と外貨をむだにしたように思いますが、先ほど行政上の行き違いとかまたはレコード協会で気がつかなかったという意味、どういう意味でしょうか、もう少しわかりやすく……。
  10. 大田説明員(大田周夫)

    大田説明員 実はこの問題をもう少し掘り下げて申し上げますと、占領中は仲介業法規定というものは活動できませんで、司令部仲介業者を指定して外国人業務をやらしておったのでございます。その外国人アメリカ人フォルスターフランス人のブルー、イタリア人のストラミジョリー、それからイギリス人のブッシュ、この四人に司令部仲介業務をやらしておったのであります。講和条約締結後、こういう占領仲介業務をやっておりました者をやめさせれば問題はなかったわけでございますが、その当時は日本仲介業務認可を受けております日本音楽著作権協会は、外国仲介業者との連絡が十分にできておりません。そこですぐ切りかえると、仲介業務連絡が円滑に運営できませんので、占領司令部許可によって業務をやっておりました者に当分の間業務をすることを黙認する、こういう行政的な措置をとったのであります。そのためにこういう黙認された外国人業者たちが、日本業者契約しました契約事項文部省報告してきていなかった、そういうような点が、ただいま帆足委員指摘されましたように、私どもの方で四%の契約をしているということの報告を受けておりませんので、気づかなかったわけでございます。そういうように、仲介業法では認可を受けた仲介業者は、業務報告文部大臣にするようになっておりますが、黙認されておりますので、法律規定通りに私ども要求しますと、あたかも法律によって認可された仲介業者であるかのような誤解を起してはいけませんので、積極的にそういう報告を求めなかった、こういう点に今御指摘になったような問題が起った原因があったように思います。
  11. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 国内のこととなりますと、なかなかお役所は厳重なのでありますが、一般占領政府以後の弊風として、外国人には甘過ぎると思います。聞くところによると、フォルスターなんというのは人物としてもあまり上等な方でないということを聞いておりますが、そういう行き違いがあったとしましても、国の大事な外貨を年に三千万円も余分に払うということは、大蔵省許可しなければいいんじゃないか。すなわち民間で私的、商業的に契約したものであっても、国の法律ですでに当時禁止されておる、制限があるというのに、それが実行されたというのは私は不可解である。  それから第二に、そういう規定ができたときには、日本レコードに対する著作権印税は、対外支払額はどのくらいあるかということは、もうおわかりになっているんだから、直ちにその現状がどうなっておるかということをお調べになって、適切な措置をなさるのが私は当然だと思いますが、どうも不可解だと思います。これは他の同僚委員がお聞きになってもおかしいとお考えになっておるのですが、私どもあまり人の欠点をほじくり回すという趣味は持っておりませんから、善意に解釈して、何かそこにやむなき事情があったろうと思いますけれども国会議員としてただいまの御報告を伺うと、どうも理解しがたいわけであります。その一点だけをもう少しわかりやすく御釈明願いたい。
  12. 大田説明員(大田周夫)

    大田説明員 ただいま申し上げましたのは、私が著作権課長になる前のことでありまして、私が著作権課長になりましてからは、この問題を解釈するように努力いたしておるのでございます。
  13. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 まことに不可解なことであって、それは現在はもちろん、本年の一月からは解決しようと思ってお骨折りになっておることは存じておりますけれども、過去三カ年間もこれを黙認したというのは、そういう権能は一体だれに与えられて黙認されておったのか。
  14. 大田説明員(大田周夫)

    大田説明員 三十一年の暮れからは二%にするようにビームと交渉することに私どもはあらゆる法律的なこの問題の解釈というもうについては、レコード協会にいろんな援助を与えておるわけでございます。それで三十一年の暮れからは二%にするようにレコード協会でもビームといろいろ交渉しております。その後フォルスター文部省に四%の使用料認可の変っ更申請等をして参っておりますが、そういうものにつきましても、私どもはそれぞれ適切な措置をしているわけでございます。
  15. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 私が申し上げたいのは、今後のことはてきばきなさることは当然のことですが、過去三カ年間に、民間私的契約に対して国の法律支払いが禁止されているものを運用上支払っていたというのは不可解であるということを申し上げておるのでありますが、この問題は私もよく考えて、またもう一ぺんお尋ねしますから、これ以上追及しません。また再質問さしていただくことにいたします。  しからば今後の措置ですが、今年の一月一日からは、国の法律できまっておるから二%以上は払えない。そしてビームとの契約には、これは民間商業契約であるから国の法律でもって制約があるときは、その制約のワク内に従うということが付帯条項へ入っているように私は記憶しておるのですが、しからば常識考え文部省並び大蔵省認可によってそれ以上の支払いはできないということになっておるのですから、これはフランス公使館も了解されるのが私は当然のことであろうと思います。伺うところによりますと、まだその返答書が公式に出ていないということですが、それには法制局とも相談して、外国に出します文書でありますから、法的欠陥のないように整えまして、十分慎重に準備した口上書フランスビーム本部に送ろうというお考えであると私は思っておりますが、現在進行状況はどうなっておりますか。あまり延びますと、もうことしも秋に入っておりますから、長過ぎると思うのです。もうこの辺のところで最終処理をしていただくことが妥当でないかと思いますので、最近の結論を伺いたいと思います。
  16. 大田説明員(大田周夫)

    大田説明員 法制局には、外務省と打ち合せましてすぐ参りまして資料を提供し、説明をいたしております。大体私どもと同じ考えでございますが、法制局としては大事をとりまして、十分検討した上で結論を出したいからというので、その後も資料要求され、それぞれ資料は提供して、ときどき督促はいたしておりますが、まだ回答はございません。間もなく回答は来るものと思っております。
  17. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 それでは、もうそこまで来ておりますから、法制局をもっと督促をいたしまして、時間がかかるといいましても、人生は短かいのですから、もう少し仕事をてきぱきやってもらいたいと私は思います。これは文部省外務省法制局と相談して、迅速な事務処理をなさり、促進されるおつもりがあるかどうか、それをもう一度確かめておきたい。
  18. 大田説明員(大田周夫)

    大田説明員 その点につきましては帆足委員と私同感でございまして、一日も早くこの問題を解決、処理したい、こういうように考えております。     [委員長退席佐々木(盛)委員長   代理着席
  19. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 しからば、現在の段階では音楽文化交流につきまして、それ以外に雑音があって何かお困りになっているということでなくて、純粋に書類を法律的に整えるということだけで時間をとっておる、こう考えてよろしいですか。
  20. 大田説明員(大田周夫)

    大田説明員 帆足委員のお考その通りでございます。
  21. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 私は、過去三カ年間における、法律上の制約があったにかかわらず、いろいろな手違いのために、年間三千万円も余分に外国に払っておる。これは業界としても非常な打撃でしょう、払わないでいいものを払わされて。それから国としても、その乏しい外貨を一億円近くも払ったということについては、どうも釈然といたしませんけれども、この問題につきましてはまたお尋ねすることにいたします。  第二には、外務省情報局関係ですか、お尋ねいたしますが、御承知のように、今日占領下におけるアメリカ映画の実績が非常に大きなものに量的に肥大しておりますために、一般の国々の映画の輸入する本数文化映画劇映画とも非常に少いのです。そのために、各国の国情を知らすという意味において、各国文化映画劇映画等大使館あるいは友好協会を通じ、あるいは懇談会等の席でこれを公開して、インドの風景を見せるとか、ナイル河の流れを見せるとかいうようなことが行われております。ソ連映画は最近年に二、三本辛うじて入るようになりましたけれども、なおかつ私どもソ連の最近の五カ年計画の進み方、たとえばヴォルガ、ドンの新しい運河の開通の状況とか、ウクライナの農業の状況などというものは、天然色映画で見ますと非常によくおかるわけでございます。ところが、そういう映画大使館友好協会等に提供して、そして有識者に見てもらうということにつきまして外務省が了解せず、そういうことは儀典部に手続してくれとか、あるいはソ連側もまた相互主義で、ソ連における日本大使館も同じこつとができるようにしてもらいたいという注文があったそうでありますが、友好協会の方からそれをソ連大使館の方に申しますると、それはけっこうです。モスクワ大使館における日本映画もその愛好者の間に、たとえばモスクワでは、今ソ日親善協会というのができて、向うの商工会議所会頭のネステロフ君がそれの会長になりまして、近く親善使節日本に参りますが、日本の特色ある風俗、文化等を向うでもそういうクラブなどで映写しようとしていることも承知しておるのでございます。しかるになおかつ御許可にならないで、今度はお互いに相互主義だから回数を同じにしようとかなんとかいうことで延びておるということを聞きましたが、私の承知しております限りにおいては、エジプト大使館からも映画を見せてもらっておりますし、インド大使館映画などには私は始終参っております。ユーゴスラビア映画も私どもはいろいろ見る機会ができておりますが、ソ連映画に限って映画をなるべく見せまいとするというような小じゅう根性は一体どういう親のしつけでそういうことをお考えになるように教育されたのか、私はまことに不可解なことだと思うのです。日本は今世界を理解し、世界から理解されなければ生きていけない国でありますから、こういうことに小じゅう根性を働かして、いろいろ事をむずかしくするというようなことは慎んでいただきたい。従いましてもう解決されたことと思いますけれども、現在その問題のいぎさつがどうなっておりますか、責任者から御回答いただきたいと思います。
  22. 高橋説明員(高橋通敏)

    高橋説明員 この問題直接扱っておりませんのではっきりしたお答えはできないのでありますが、私情報文化局におりましてこの問題を聞いておる限りでは、現在日本に入ります外国映画、これは劇映画記録映画その他の映画でございますが、これがやはり外貨割当関係がございまして、また輸入税というような問題がございまして、大使館外交用に輸入されますものは、大使館の中で上映する分にはかまわないのですが、それを外で上映します場合につきましては、いろいろのそういう関係の面が出て参りますので、これについてはそれを相互にどうするかという点で検討をしておるわけでございます。まだ結論は出ていないように承知いたしております。
  23. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 私はこのために新関参事官に出てもらいたいといって、昨日出席要求しておるわけです。一体事務局の方はどうなさったのですか。国会は国政の最高の権威であって、外務委員として私どもが発言し、同僚委員諸君がそれを常識考えて、それはまず妥当であろうというならば、諸兄はその方針に従うべきである。私は先日もインド大使館の主催でインド映画映画を幾つか見ました。非常に刺激されました。われわれもインドすみからすみまで旅行するわけに参りませんから……。今日映画で非常に悪い映画というものはないのです。映画というものはやはりその国の民衆にも見せるものですから、非常に悪い映画というものはほとんどありません。ただ商業主義的にギャングの映画とかなんとかというもので行き過ぎのものがありますから、その本数制約してくれということは、まことに遺憾なことですけれどもアメリカの名誉のために――アメリカ映画の中には遺憾ながら悪いのがある。そのかわり、アメリカ映画にはまた世界で最もすぐれた映画もあることも、諸兄の御存じの通りです。ソビエトは特殊の国ですから、ソビエト映画で風紀上見せて悪いという映画はありませんし、スターリン批判以後というものは、あの「ベルリン陥落」という映画、ああいうばかばかしい、悪い意味英雄崇拝映画などは宣伝のかすにもならぬとフルシチョフはこっぴどく批判して、それ以後というものは、ソビエト映画も、他国にひどく共産主義を売りつけるような、そういうさもしい映画は今見当らぬこと、皆さん御承知通りだと思う。フランス映画、西ドイツの映画ソ連映画、これはほとんど今同じような芸術映画になっておる。文化映画に至っては、教育上至大の価値のあるものばかりです。それを極力見せまいとする。もちろん映画一般営業政策と、一般商業的目的を持って輸入された常業的映画と競合するようなことのないように排除することは、それは必要です。しかしあなた方が今じゃまをされるのは、まだ二十年前のソ連というもの、いわゆる暴力革命時代恐怖感ソ連映画を見ておるのではなかろうかと思われる節もある。というのは、ユーゴスラビア映画にしろ、アメリカ映画にしろ、またインドエジプト映画にしろ、私どもはそういう制約をされたということを一向聞きません。しかるにソ連映画に対してのみはそういうことをなさっておる。まことに不可解千万なことであって、なぜきょうは新関参事官見えて即答なされないのか。こういう問題のためにニカ月も三カ月もかかっている。しかも友好協会の者には、相互主義だから、その確約の文書ソビエト大使館の方からくれればいい、こういうことであるから、協会の方からはそのことは話してわざわざ回答までもらっている。回答をもらったら、今度はまた別の条件を出している。ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。私ほそういう態度はとるべきことじゃないと思うのです。今日日本保守政党は、それは保守政党としての立場に立っておりますけれども、なおかつ平和の政策を追及しておることにおいて、おそらくわれわれ野党、与党を問わず、気持は同じだと思うのです。世界のどこの国の文化だけは見ていかぬなどという戦争前のような文化政策外交政策というものは今日とらるべきではないと思う。どうしてそういうことにこだわってじゃまをされるのか。新関参事官はなぜお見えにならぬのですか。
  24. 佐々木(盛)委員長代理(佐々木盛雄)

    佐々木(盛)委員長代理 帆足委員に申し上げますが、御要求によりまして新関参事官は間もなくお見えになるそうでありますが、高橋参事官は現在この問題の担当者でありますから責任者であるわけです。しかしあなたの御要求によりまして、新関参事官も間もなくお見えになると思います。現在の責任者高橋さんでありますから、どうぞそのつもりでお聞き下さい。
  25. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 委員長の適切なお取り計らいによって新関参事官がお見えになることを歓迎するものですが、今高橋君のお話では、私はあまり直接関係がないというお話があって、今の委員長お話と矛盾しておるじゃありませんか。これはどういう理由ですか。委員長の言われたことと高橋君の言うことと矛盾している。高橋君は、私はあまりこの問題についてタッチしておりませんからとこう言う。タッチしていない人の話など聞いて時間を費すには、人生は短か過ぎると思う。
  26. 竹内(俊)政府委員(竹内俊吉)

    竹内(俊)政府委員 私がお答えいたします。ソ連大使館が持っております壁画の館外上映のことだと思いますが、このことは先般来お話があることは承知いたしております。それは二国間の文化交流の一面でありますから、一国間でいろいろな文化交流の個個の問題について交渉をして、そうして相互主義によってやることが、外交上の慣例になっております。それでソ連で、日本大使館の持っております映画館外上映をどの程度認められるかということを打ち合せて、しかる後にきめるということが大体外交上の常識でありますから、それに従って今やっておりますので、まだ少し時間がかかると思います。     〔佐々木(盛)委員長代理退席、委   員長着席]そういう状態でありますから、あとで係官が来ますればその間の経緯を詳しく申し上げたいと思います。
  27. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 ただいまの政務次官の申されたこと、外交上の常識ではなくて、私は外交上の非常識だと思う。それではインド大使館に対して――私はこういうきびしい取締りを、ソ連にそうだからインドにもそうさせようと思って申すわけじゃありませんけれどもインド大使館に同じことをされておりますか。してはいないでしょう。それから日本ソ連とは事情が違うから、日本で十回公開したがソ連では二回しか公開できないから、日本もまた二回にしろというやぼなことってないと思うのです。まあ政務次官はこういうこまかなことにタッチされていないのですから、やっぱりそれは帆足委員の言うことはもっともであるから何とか善処しよう、こう言われた方が私はいいんじゃないかと思います。まことに不明朗だと思う。ただこれを大規模に公開して商業映画と競合するという点については、私は若干の問題があろうと思います。それならばわかりますけれどもソ連に限っておちょっかいするというのは、二十年前の日本ならば妥当であったであろうけれども、今日ロシヤの映画を見たからといって、ヴォルガ川の風景を見たからといって、心が動揺して火炎びん戦術に出るというような、そういう段階じゃないと思うのです。これは新関参事官がお出になったら責任ある御答弁を伺うことといたします。  その次、第三として、先日お伺いしたレコードとテープの問題ですが、今日小さな国々の発言がだんだん大きくなりまして、少さな国の文化というもの、その手工業品というものをお互いに交流するということは、民族の魂をつちかい、民族の手工業や民族の芸術に非常によい影響を与えると思います。昔は芸術というものは大国でなくてはならぬと言われておりましたけれども、近ごろは小国の着実な発言や少さな国で養われた珠玉のような芸術や手工業が尊重される時代になってきたと思います。従いまして私はこれらのものにつきまして、経済交流文化交流につきましても若干の門戸を開いておく必要があることを前回強調いたしました。小国の音楽につきましても、国の音楽交流政策が、一つは向うの芸術家を呼び、こちらの芸術家をやるということのほかに、レコード、テープ等を通じて行われておりますけれども外貨を節約する必要上、テープを輸入しまして、適切な日本文の解説をつけて国内で販売するという通産省当局の基本方針は、私は妥当なものであると思います。しかし物事には若干の例外があるべきでありまして、たとえばエジプトとかまたはブルガリア、ルーマニア、チェコスロバキア、ポーランド、またオーストリア、スエーデン、これらの国々の音楽の中で若干のものは、たとえばレコードにして月に五万円か十万円程度のものならば、これは愛好者のために商業的に輸入することも、若干のものなら認めてよいのではないか。もちろんテープを輸入することを基本とすべきでありますけれども、若干の例外はあってもよくはないか。第二に、これら小さな国々のテープを輸入します場合の印税は年間十万円ないし三十万円程度の支払いのものだと思う。これらの国々の音楽を入れたところで、それが無制限に、百万円をこすというようなことは絶対にあり得ません。従いまして小さな国々の若干のレコードまたはテープの十万円ないし三十万円程度のものは、輸入の道を運用上開くことが私は必要なことではあるまいかと思います。  また手工業品にいたしましても、先日申し上げましたようにチェコのガラスの展覧会があって、日本のガラス工業に非常な反省と勉強べの刺激を与えました。ルーマニアの手工業品の展覧会もいたしました。これらの手工業品を入れまして、多少は即売いたしますと同時に、今度は日本の手工業品の展示会、即売会が交換にそれらの国においても開催されるよすがにもなりまして、大局から見ますと外貨の面からもそれほどの浪費にはならないのでございます。  レコードの場合におきましても、先方のテープを入れておりまして、親善が進みますと、今度は日本の若干の古典音楽のテープをもらいたいというようなことも起って参ります。これらは一般の商業映画の問題と違って文化交流のこととも連関いたしておるのでございますから、必ずしも実績主義だけでなくて、小さな国々の映画音楽、手工業品との交流に対してもう少し門戸をあけるように、外務省当局も通産省当局も大蔵省当局もこれに対して理解を持っていただきたい。今日具体的にどの国に幾ら、どこどこに対してこうするということを伺おうというのではなくて、そういう心組みで行政をしていただきたいということを申し上げるのです。金額からして幾らのものでもありません。このことにつきましてその趣旨を御理解願えるかどうか。通産省の軽工業局並びに大蔵省の為替局の方々に私の申し上げることを理解していただけるかどうか、一つ御意見を伺いたいと思います。
  28. 森説明員(森誓夫)

    ○森説明員 ただいま帆足先生からお話のありましたすぐれた工芸品あるいは音楽等を日本文化あるいは産業の水準を向上させる意味で輸入するということにつきましては、われわれも趣旨としてはまことに賛成でございます。そういう御趣旨を体しまして今後検討して参りたいと考えます。
  29. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 軽工業局長が私の申し上げることを御理解下さったことに対して満足でありますが、映画の問題にいたしましても音楽の問題にいたしましても、実際上は大蔵省の為替局がなかなか強く統制しておりまして、銀行屋さんというものは金を握ったらもう離さないというのが本領でありますために、私どもは、たとえば映画の輸入に対しては非常な不満を持っておるのでございます。従って伺いますが、今レコードやテープ等のことは年間わずか三、四十万にもならないことでありまして、安サラリーマン一人の給料があれば一国の古典音楽が輸入できる。しかもそれを日本で再生して、たとえばチェコスロバキアではスメタナの有名な「売られた花嫁」というすぐれた歌劇がありますし、またドヴォルザークの「新世界」などというようなオーケストラ、こういうものはわずか年間三、四十万円の印税を払うことによって日本国民に広く普及することができるわけです。現在は実績主義ということでそういうものすら機械的に一律に押えられてしまう。もちろん私は、過去の実績を中心として、文化交流の費用といえど一ドルの外貨でも節約しなければならぬ情勢であることは知っておりますけれども、たった一人の安サラリーマンの給料ほどの金額の印税を払えばそういう古典音楽日本愛好者にくまなく配ることができるというようなことですから、そういうわずかな金額のものだけはどこの国も――エジプトやバグダッドの音楽にしても、またインドのヘビ使いの音楽の中にはすぐれたムード・ミュージックがあるわけですから、そういうものには多少の門戸を開く。そうして、その他のものはやはり商業政策ですから過去の実績をおもにしておやりになる、すべて中庸は徳の至れるものなりで、物事には若干の例外があることを一つお考え下さって、そういう点について通産省当局と歩調をあわせて御検討なさるようなやさしい心を大蔵省当局は持っておられるかどうか、これを大蔵省当局にもう一ぺん確かめておきたいと思います。
  30. 長橋説明員(長橋尚)

    ○長橋説明員 ただいまお話のございました小国のレコードの製品を入れるという問題でございます。これは製品の輸入といたしまして通産省の問題でございますが、レコード用原盤テープの輸入の問題につきましては、これを製品化いたします、つまりレコード産業を所管いたしております通産省の方とも従来とも緊密な連携を保ってやって参っておりまして、この件につきましても通産省の方と十分によくお打ち合せをして、先ほど通産省側で御答弁のありましたような気持でやって参りたいと思います。  それから映画の輸入でございます。興行用映画の輸入につきまして、外貨管理をやっております現在では、基本的には実績主義で割当をするというふうな原則を今直ちにくずすわけに参らないわけでございます。しかしながら、一面におきましては実績主義の弊害もございますし、こういった点を是正いたします意味であるいは長編映画につきましては輸出ボーナス割当というような制度を従来からやっておりまして、今年度におきましても昨年度の年間十五本という規模を二十本にふやしております。しかもこの輸出ボーナス割当の運用に当りましては、主たる映画の対日輸出国になっておりますアメリカとかイギリスとかドイツとかフランスというふうな地域以外の映画の輸入を優先的に取り上げるように運用いたしております。  それからさらに、今度は従来の業者別の実績割当というふうな点を是正いたします意味で、本年度におきましては配給業者に対する特別割当というふうなことで、過半十月初めに四社に対してそれぞれ二本ずつの非ドル映画を割当てております。従来の業者別実績割当というふうなものを基本にいたしました場合、従来からの取引関係というふうなものも大きく働くかと存じますが、今度の新規にクォータを与えられました業者は、また新しい角度で、新しい国民の嗜好にこたえた映画を輸入することが期待されるわけでございます。それから短編映画につきましては、従来から教育文化映画の輸入というふうなことをやっておりまして、大体年間六十本程度をめどにいたしております。文部省の方の審査で非常に国民教育文化の向上に資するというふうな判定のありました映画外貨を割り当てております。こういったものによりまして、国民の需要にこたえるようないい映画は、どこの国からというふうな制限なしに入ってくるということを期待いたしておるわけでございます。
  31. 帆足委員(帆足計)

    帆足委員 他の議員に御迷惑をかけても何ですから、新関参事官がお見えになりましたら、先ほどの問題の結末をつけさしていただきます。御督促を願います。  それから今の映画とテープについての大蔵省当局の考え方については、私はまず最初に事務的なことより、あとで局長さんその他に言うておいてもらいたいのですが、これを理解する教養とやさしい心を持っておるかどうかということを私はお尋ねしたい。鬼の心を持って文化政策をやろうなんということは、無理なんです。また大蔵省は質屋だとは言いませんけれども、質屋の番頭のような気持で文化政策をやるのだったらわれわれはお断わりしたいと思います。文化政策外務省の方におまかせしたい、こう言いたくなるわけです。それをまず伺っておる。従いまして、社会党はこういうふうにやさしい心持を持っております。そこでレコードのことは、さっき申し上げましたように、やはりテープを入れるという通産省の政策は私は公平に見て正しいと思う。従ってレコードを入れるということは例外中の例外であって、ただ日本で再生するには枚数が少い。たとえばチェコスロバキアのプラハのオペラ劇場の「売られた花嫁」というのはすぐれたもので、四枚続きのものです。それを日本でテープにするのにはまだちょっと時期尚早である。しかし五十枚か百枚くらいは、日本の熱心な愛好者がおる場合にはドルで輸入させる。これは無制限に営業会社が競争して入れるものではありません。そういう心配は絶対にないわけです。従いまして、そういうものはたとい商業用であっても若干は入れ得るようにしたらどうか。一人の安サラリーマンの月給ほどのものでしかない。それからもう一つは、今のテープの問題なんです。テープが基本になることはいいけれども、それも小さい国に対しては年間十万円から二十万円の印税を払えばやっていけるのじゃないか。従ってそういうことをもっと理解していただきたい。  それから映画のことにつきましてはきょうは深く論じませんが、この次に資料で出していただきたいのは、私のうちの近所にもアメリカ映画のセコンド・ランの劇場がありますから、子供を連れて始終行きますけれどもアメリカ映画の中で非常に優秀なものがあることは御承知通りであります。しかし同時にギャング映画、それから人殺しのスリラーの映画がどのくらいの割合になっておるか、この割合をお知らせ願いたいと思います。日本で入れている外国映画の総本数の国別と、その内容、西ヨーロッパではほとんどギャング映画というのはないように思います。ギャング映画の本場はアメリカですから、そのアメリカ映画のギャング映画とスリラー映画とその他芸術映画との割合、西ヨーロッパ映画の中で、やはりそういう人殺し、ギャング映画があったならば、どのくらいの割合になっておるか。私のこれに対する対策としては小さな国々の文化映画劇映画、たとえばインド映画の中にも非常に優秀なものがあります。先日申し上げましたようにブルガリアの文化映画は、小さな国で、朝鮮ほどの国ですけれども、非常にすぐれたものです。エジプト映画の中にも最近おもしろいものがあります。そしてこういうものには従来の松竹さんとか東宝さんとか、そういうところはあまり着目しないのです。それはむしろもっと金もうけ本位にお考えになっておりますから、そこまで心が届かないわけです。  従って、そういう小さな国々の文化映画をせめて年に四本くらい、劇映画をせめてニ本か三本くらいは無条件にだれが入れてもいい。そういうものを入れたあとの残りは商売の対象になるものであるから、過去の実績本位にするというようなことを考えになるなら当然ですけれども、ある特定の国の映画を国民が見る権利がないということはおかしいと思うのです。それでは今ボーナス制度があるから、ボーナスで君入れたらよかろうといいますけれどもエジプト映画を大事なボーナスつから入れる人はないと思うのです。それは西ヨーロッパの大きな国の、もっともうかる映画を入れると思います。従いまして、小さな国々の劇映画を二、三本と、文化映画を四、五本はだれが入れてもいいのです。もちろん入れる人はそうもうけようと思って入れやしない。どうにか償えばいいと思って入れるのです。しかしそれは非常によいことだと思う。日本は貿易の国海の国で、世界を理解せねばならぬ国である。エジプトで事が起った、バグダッドで事が起ったと  いっても、バグダッドの風俗も人情も何も知らないじゃありませんか。それを知らないでよい貿易圏になり貿易商人になるということは私は不可能だと思いますし、世界アメリカだけでないのですから、世界の国々の風俗人情等を日本国民が知る機会を与えるべきだと思います。従いまして、そういうものの申し出があった場合には、このくらいの本数までは無条件でよろしい。それだけの本数までは映画全体のワクから別に一応準備しておく。いつまでに希望者がないときは、それを過去の実績の中に繰り入れるとかいうことであってもよいでしょうけれども、物を知る権利は憲法において保障された権利だと思うのです。同時に、アメリカ映画につきまして先日私が申し述べましたように、非常に優秀なものがありますけれども、非常に悪いのがある。特に道徳的に青年に悪い影響を及ぼす映画が非常に多い。これは勤評や道徳教育をするよりも、映画政策にも少し文化性を持たした方がよい。もちろんこれは役人がこの映画がいいとかあの映画は悪いとかいうことを指示することでなくして、国民の感覚及び興行者、文化人などの自発的な良識がおのずから行政に反映するような対策をとることが必要だと思いますけれども、今日日本の青少年の犯罪は世界一だといわれます。青年の自殺は、今や結核にかわって最高の死亡率をあげておる。それと映画がどうして関係がないといえるでしょう。従いまして、アメリカ映画の内容を検討していただきたい。同時にその分類を私にいただくだけでなくて、本来ならば文部省あたりで南博君あたりに頼んで、アメリカ映画が青年に与えた影響等について一ぺん分析させてみたらいいだろう。エリック・ジョンストン君は、アメリカ映画協会会長として優秀な人です。これは先日私が申し述べましたように、ニューディーラーで、アメリカ教育を全部映画にかえよう、地理や歴史などを暗記ものとして教育するのはばかげたことだ、子供の世界一周という映画を作って、十六ミリで教育をしようといったほどの進歩的な人ですけれども、商売人として一たび日本に参りますると、われわれに圧力を加える。こういう状況であって、アメリカ映画の圧力とその蓄積円の圧力は、大きな政治力になって日本文化政策を阻害していると思うのです。戦争前には日本はどちらかといえばアメリカ派ではなかった。日本はヨーロッパ派であった。音楽でもそうです。日本はヨーロッパのゆかしい文化を吸収し得る国であった。しかるに今日日本アメリカ一色に塗りつぶされようとしておる。犯罪の手口までがアメリカのスリル式映画の手口になってしまった。これは私は堅実な保守党の諸君も民族的感情においてわれわれと同じ気持であろうと思うのです。日本のように伝統のゆかしい国がもっとフランスから学び、英国からも学び、それから西ヨーロッパのゆかしい小国からも学び、またアジアの国々には伝統豊かな国が多いのですけれども、その民族芸術は隠れてしまった、その隠れたアジアの民族芸術を発掘することも必要です。そういうことのためにも映画の輸入政策文化の輸入政策に対して力をかすことが私は外務省なり文部省の仕事の一つだと思う、占領政策の余弊でありますけれどもアメリカから学ばねばならぬことは非常に多いにもかかわらず、アメリカ映画が量的にびまんして日本映画館を全部その商業政策で圧倒しておるということは、私は伝統の深い日本民族にふさわしくないことだと思います。従いまして私は絶対にアメリカ映画の優秀性を排撃するものではありませんけれども、量的に悪い映画がたくさんき過ぎておる。これはダレス君の名誉のためにも自粛してもらわねばならぬ。一体アメリカはズロースを脱いで恥部を世界にさらけ出しているようなものじゃありませんか。私はアメリカの国務省としては海外に出す映画に対しては、これも統制するという意味ではなくて、よく考えて、この映画はあまりひどいから日本に出すのが恥かしいとアメリカ自身が引っ込めるべきだと思うのです。こういう映画外国に出されたときにその国の青少年にどういう影響を与えるであろうか、子供を不良にするような映画アメリカがただ商業政策のために輸出を放任しておるということは、アメリカの名誉のために慎しんでもらいたい。こういうことがありますから、単に割当をどうするとかなんとかいう小さな見地からでなくして、日本外務省としても文部省としても、貿易の国、日本の生きる道を探し求めるために、また子供たちに海の国、貿易の民族としての教養を与えるために、どうか健全な映画政策文化政策を一つ再検討していただきたい。その見地のもとに若干の実績主義もあとで考慮する、こういうことにやっていただきたい。  これからは安保条約の審議という民族の生死にかかわる問題とわれわれ外務委員会は取り組まなければなりませんから、こういうこまかな問題に触れる機会は少いと思います。ちょうど昼近くになりますと総理が参るということでありまして、時間がありましたから委員長のお許しを得まして、こういうさまつなことにわたりまして同僚委員に御迷惑をおかけいたしましたが、ただいま要求いたしましたことについての再検討と、同時に必要な統計資料をお寄せ下さいますことをお願いいたします。また私が今申し上げたソ連映画のこともまたはインド映画のことも、これはできるだけそういうことには便宜をはかるということが当然のことであることは、委員長も御了承下さると思いますから、一つ委員長からも言っていただいて、御善処のほどをお願いします。  これで終ります。
  32. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 了承いたしました。  両件について他に質疑はありませんか。――質疑がなければ、これにて両件についての質疑は終了いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし上と呼ぶ者あり〕
  33. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 御異議なければ、これにて両件に対する質疑は終了いたしました。両件については別に討論の申し出もございませんので、直ちに採決いたします。  日本国ポーランド人民共和国との間の通商に関する条約締結について承認を求めるの件、及び通商に関する日本国ニュー・ジーランドとの間の協定締結について承認を求めるの件の両件を承認すべきものと議決するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  34. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 御異議なしと認めます。よって両件は承認することに決しました。  なお、本件に関する委員会報告書の作成につきまして、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  35. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 御異議なければ、さよう取り計らいます。     ―――――――――――――
  36. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 日本国ラオスとの間の経済及び技術協力協定締結について承認を求めるの件を議題といたします。政府より提案理由の説明を求めます。竹内政務次官。     ―――――――――――――
  37. 竹内(俊)政府委員(竹内俊吉)

    竹内(俊)政府委員 ただいま議題となりました日本国ラオスとの間の経済及び技術協力協定締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。  ラオス政府、昨年三月在京大使を通じ、わが国に対する賠償請求権を放棄する旨を通告するとともに、あわせて同国の経済開発のため、わが国の援助を得たい旨を申し越して参りました。  政府といたしましては、ラオス政府の好意ある措置に謝意を表するとともに、援助に関する要請を検討する旨を約した次第でありまして、自来現地において同国政府と交渉を行なって参りましたが、このたび交渉が妥結し、十月十五日東京において藤山外務大臣と在京チアオ・カマオ大使との間で協定に署名を行なった次第でございます。  この協定に基いて、わが国は、ラオスに対し、総額十億円の無償の援助を、原則として二年にわたり、生産物及び役務の供与の形で与えることとなります。  なお、協定の実施細目については現在ラオス政府と折衝を続けており、近く合意に達する見込みでございますが、生産物及び役務の供与の方式は現行の賠償の実施方式に類したものとなるはずであります。  また、この援助の対象となる事業につきましては、両政府の合意により決定されることとなっておりますつが、ラオス政府はこの点につきまして、かねてからラオスの首都ヴィエンチアンの上水道建設に援助を受けたいとの希望を表明してきているのでございまして、政府といたしましても、昨年十二月から本年一月にかけて現地に上水道関係の専門家を中心とする調査団を派遣し調査を実施した結果、その可能性につき大よその見通しを得ておりますが、協定発効の上は、さらに検討を行い本件援助の対象として、この上水道建設計画を取り上げることといたしたい意向であります。  ここにこの協定締結について御承認を求める次第であります。何とぞ慎重御審議の上、本件につきすみやかに御承認あらんことを希望いたします。
  38. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 これにて提案理由の説明は終りました。これより質疑に入ります。質疑の通告がありますので、順次これを許します。大西正道君。
  39. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 大した問題ではないのですから、気軽に御答弁願います。  ラオスの政情ですが、これは私の知る範囲ではパテト・ラオというのがありまして、今の政権に対しましては、あるときは協力をいたし、あるときはこれに対して非協力の態度をとる。この動向が、将来のラオスの政権の安定に、非常に大きな要因となっていると私は見ておるのでありますが、最近のこのパテト・ラオ、すなわち共産主義的な考え方を持つ人々の動向はどうか。それに対して現政府の安定性はどうか。こういうことは、やはりこういう経済援助をする上にも十分考えておかなければならぬ問題だと思いますが、ラオスの政情について御説明願いたい。
  40. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 ラオス政府がかなり安定的だ――むろん、ただいま御指摘のような点もあります。その詳しい点はアジア局長からお答えいたしますが、現在はまず安定的な政権と見て差しつかえないじゃないか。相当柔軟性を持っているようであります。
  41. 板垣政府委員(板垣修)

    ○板垣政府委員 ラオスの政情につきまして、最近特に変った情報もございませんが、御承知のように、昨年、パテト・ラオと現政府の間で、話し合いによります統合が行われました。もちろんごく内部的には、パテト・ラオは共産主義の政党でありますから、多少の問題はあろうと思いますが、御承知のように、両方の首脳が兄弟同士でもありますし、そういう関係もありまして、その後の情勢を見てみますと、特に目立ったほどの動揺なり不安があるような情報は得ておりません。大体において現在の政権が、安定政権として続くものと私ども考えております。
  42. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 それから援助額でありますが、十億円というふうにきめられたそのいきさつであります。初めから向うの要求は十億円であったのか。また期間は二年ということがほぼめどになっているようでありますが、向うの要求がそうであったのか。この額と期間の問題につきまして、決定に至るまでのいきさつを、差しつかえない範囲で聞かせていただきたい。
  43. 板垣政府委員(板垣修)

    ○板垣政府委員 十億円と決定したことにつきましては、特に一定の基準があったわけではございませんが、それより前に、カンボジアも御承知のように日本に対して賠償請求権を放棄いたしました。そのかわりというわけではございませんが、別個の見地から、これに対して経済援助を与えるという方針が政府できめられました。その額は大体十五億円見当ということになっております。その後御承知のように、ラオスも賠償請求権を放棄いたしました。これもまた別個の立場から、日本経済開発のための援助を要請して参りました。政府といたしましては、一体何を対象として経済援助をするのかということにつきましては、ラオス側の希望も参酌すべきであるということで、ラオス側の希望を聞いたのでありますが、ラオス側が当初河川用舟艇その他、金額はわかりませんが、七項目の要求をして参りました。その後ラオス側から首都でありますヴィエンチアン市の水道工事を、ぜひ日本の手でやってほしいという要請があったのであります。それに応じまして、日本はさっそく昨年の暮れ技術調査団を派遣いたして調査いたしましたところが、大体十億円でできるという調査ができ上りました。それで日本側といたしましては、この水道建設、それは金額にすれば大体十億円見当で、その援助をしたいということを申し出ましたところ、ラオスは欣然これに応じたのであります。  それから二カ年につきましては、大体水道工事が一年では無理でありまして、大体二年かかるという意味で二年にしたのであります。従って、三年でもいいのでありますが、大体二年ででき上る見当でございます。
  44. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 私は、ラオスがカンボジアと同じように、わが国に対する賠償権の放棄をやってくれたということに対して、これは心より感謝をするものであります。しかし、カンボジアに対して十五億円――このいきさつも聞かなければなりませんが、これとラオスとの間に五億円の差つがついておる。こういうところに何か理由があるのかどうか。こういうことも一応考えてみたのです。  御承知のようにヴィエンチアンというところは水道もなし電気もなし、いわゆる自家発電くらいはやっているが、国の中には鉄道は一メートルもなし、こういうふうなわれわれの想像を絶するところでありまして、こういうところで水道の布設を経済援助としてやってあげるということはまことに時宜を得た処置であろうと思うけれども、十億円の水道工事では、私の知っっている範囲ではあのヴィエンチアンのわずか三分の一くらいの需要しかまかない得ないように私は思う。そういうふうになってくると、むしろ私は十億円と限定せず隣のカンボジアとの関係におきましてももう少し弾力性のある決定がなされたのではないかとも思うのでありますが、この点につきましてはそれ以上額の問題云々については触れません。  ここで経済援助と賠償との関係についてお伺いしたいのですが、同じような太平洋戦争によって被害を受けた国が、一方では賠償を放棄し、一方では賠償を請求して、たとえば南ヴェトナムのようなものはもはや調印の寸前になっておるというふうに言われておる。こういうふうな、一方では賠償を支払い、一方では賠償を放棄してくれたについて経済援助でもって報ゆる、こういうところに私どもは、出てきたところによって何とかそこで勝負しようという考えでなしに、一体こういうふうな戦争によって被害を与えた国に対してどういうふうな基本的な態度でやって、いくべきか、こういうことは一応筋を通して考えておく必要があるのではないかと思うのであります。私ども考えから言えば、賠償を要求する国に対してはむしろ十億円の十数倍に当る額が今調印されようとしておる。気持の上から言いますとむしろあべこべというような感じを私どもは持つのであります。こういう問題に対して今申しました賠償を請求する国と、あるいは賠償を放棄してくれてそれに対して好意的な経済援助をやろうという国と、この関係をどのように考えるか、この基本的な考え方を一つ聞いておきたい。
  45. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 われわれ平和条約に調印して受諾している国といたしまして、賠償の請求がありますればそれぞれの事情の調査をいたしまして、それによって賠償をするということは当然やらなければならぬことだと思います。同時に、好意をもって賠償を放棄してくれた国に対しては、やはりわれわれとして非常な大きな立場から、そうした問題を当該国がそういうふうに扱ってくれておることに対して非常に感謝をしなければならぬと思います。従っておそらくこれは国民的な感謝が出てくることであろうと思うわけであります。  さて、しからばそれらに対してどうするかということでありますが、われわれはむろんそれらに対して感謝の意思をできるだけ表示して参らなければならぬ。感謝の意思を表しますためにはむろん精神的な感謝もありますけれども、何らか将来にわたってできるだけ好意をもって経済的な建設計画その他についてわれわれが協力して参りますことは、その感謝の具体的な現われになってくるのではないかと思うのであります。今回の場合に、このヴィエンチアンの水道の問題が向うの衛生の上から言いましても、あるいは国家建設の前提条件としても非常に重要だということは、ただいま大西委員の言われました通りでありまして、その希望がありましたので欣然としてそれに着手することにいたしたい、こう思っておるわけであります。しかしながらわれわれとしては今後ともこうした形式でやりますかどうか知りませんけれども、その感謝の気持を持ち続けていろいろな意味において協力をしていくということは、非常に必要なことだと思うのでございまして、そうしたことによってできるだけ賠償を放棄してくれた国の好意に報いて参りたい、こう考えております。
  46. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 私の聞きたいことについて、賠償を請求した国との関係のことについての説明はなかったのですけれども、これは南ヴェトナム賠償のときに少し話していただきたいと思います。  そうしますと今後なお向うの要求があれば、われわれとしては経済援助その他の何らかの援助をやるというような心がまえは今の政府としてはある、こういうふうに聞いてよろしいですか。
  47. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 ただいま申し上げましたように、本日提案しておるような形でもってするかしないかは別といたしまして、われわれ日本国民全部ができるだけ援助して経済建設ができるようにということはおそらく考えるだろうと思いますし、また考えておると思います。従ってそういうことによりまして、方法論はいろいろあると思いますが、できるだけの協力をしていくということが必要であろう、こう考えております。
  48. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 これはあとで一つお調べを願いたいのですが、ラオス、カンボジア、それからヴェトナム南北、これに対するあの戦争によって向うに与えた被害というようなものをどの程度に見ておられるか、これはなかなか把握の仕方がむずかしかろうし、またそれを言っていいかどうかも問題であろうと思いますが、しかしやはりこういうふうなことを決する根底には、一応そういう客観的な把握がなければならぬと思うのですが、この点についてこれは後刻でよろしいから、一つ差しつかえない程度でこちらにお知らせを願いたいと思います。これは委員長にお願いしておきます。  それからラオスという国は賠償を放棄したような国でありますから、カンボジアと同じく非常に親日的であります。親日的というのは、自分らは日本のおかげで独立したのだ、こういうふうな感じを持っておるのであります。少しうがった考え方をしますと、日本の昔の武力というものに対する一つの尊敬と申しますか、今の私どもの国民感情から申しますと、やや迷惑といってもいいような、そういうものに対する一つの感じを持っておるのは事実であります。それがいいとか悪いとか申しておるのではありません。そういう感じを持っておることを私は直接現地人から聞いております。いずれにしましても日本人に対する非常な親愛感を持っておる。それで向うの若い青年が日本へ来たいというのです。ところが御承知のように今外務省で扱っておる東南アジア日本に対する留学生というのは、割当からいいますとおそらくラオスなんていうのは年に一人か二人、もう微々たるものであります。これに対しまして現地の大使館に対しても個人的にいろいろな形でもって何とか日本に行って勉強したい、こういう気持の青年が陸続として押しかけてくる。その熱情に動かされる。こういうことを言っておりましたが、今の藤山外務大臣の、もし今後ともなおあらゆる面において協力をしたいというようなお考えであるならば、私はあえてラオスだけとは言いません。このことは東南アジアの親日的な国々に対しておしなべての課題でありますが、この際一つこれらの国々のいわゆる前途有為な青年をもう少し多量に日本に留学せしめるような具体的な措置を講ずる、こういうことは日本ラオス親善の関係からいって水道工事をやることに劣らぬ大きな貢献をするであろうと思う。この点につきまして基本的には賛成であるというような御説明ではなしに、予算の編成のときでもあるし、前々からインドネシアのときにもこういう問題を取り上げてあなたの御意見を聞いておるから、この際一つまとまった具体的な返答をしていただきたい。それが来年からもう少し多量の人が日本に留学できる、こういうようなことになりますればさらに幸いだと思いますが、いかがでありますか。
  49. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 ただいま御質問の点は全く私も同感でありまして、ラオスはもちろんのこと、東南アジア日本に友好親善関係を持っている国の方々を日本教育――学校の課程を終えていただくというようなことはぜひやらなければならぬことで、これらについてはいろいろの障害があることはあるのでありまして、たとえば来たときの日本語の教習期間あるいは日本の大学もしくは高等学校等の入学資格の問題等、いろいろの問題がございます。これらの問題について、できるだけ文部当局、文部大臣等ともお話をして、そしてこれらの面から改善をしていただくといったような国内的ないろいろの問題があると思います。外務省としまして、私どもとしては、今言いましたことが基本的に非常に重要な東南アジアに対する国際関係の親善関係を確立する上において、また将来のそれぞれの国の経済建設なり、あるいは社会、文化の建設の上に貢献すると思いますので、できるだけそうした面につきまして、予算要求等もいたしてやって参りたいと思っております。現在内閣にあります東南アジアに対する経済技術の懇談会というようなものの意見も聞きました上で、それらの問題についても極力努力をして参りたい、こう考えております。
  50. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 極力努力を実るように何とかやっていただきたいと思うのです。これはラオスだけじゃありません。ぜひ一つやっていただきたい。  それから、これもカンボジアと同じ問題でありますが、移民の問題です。移民を歓迎しております。それから土地を提供する、こういうことの申し出もカンボジアと同じようにあったはずであります。その後何かさたやみになっているようであります。当時の事情については若干聞いておりますけれども、私どもの見るところでは、それはもってこいといったような条件ではない。ジャングルの中に、電気もない乗りものもない不衛生なところで、非常に熱帯なところに移民をするということは、かなり金のかかることではあるけれども、ただこの移民を他の土地に移民をやるように、それが直ちに日本の人口問題の解決だとかそういうことに役立つというような観点以外に、日本ラオスとの親善関係を深めるというような、そういう観点から多少は困難ではあってもなお一そうの努力を私はやるべきではないかと思うのでありますが、この点についての、特にラオスの土地提供、移民の申し入れに対しての外務省考え、これを一つ聞きたい。
  51. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 こまかい点についてはアジア局長から御説明いたさせますが、基本的に言いまして、移民を東南アジアの各方面に出しますことは非常に必要だと思います。ただ従来のごとく、農業国でありますから、農業移民を出すというようなことだけではあるいは現地の生活状態と日本人の農業者の生活状態と若干違う点もありますし、困難もあろうかと思います。しかしながら、技術的な面でそれぞれの国の農業者を指導していくというような立場で新しい技術を植え込むというような意味立場において、移民と申しますか、人を移していくというようなことは、農業上においても私は可能であろうかと考えておりますし、またあるいは移民そのものが必ずしも農業者に限らず、中小企業の技術を持ちました移住家族というものも考えられないことはないと思うのであります。そういう点につきましてはやはりわれわれとしても、ただ困難があるからというのでなしに、絶えず努力もし、また相手国側の希望も聞きながらいろいろ考えて  いく必要があると思うのであります。そういう意味においてこの問題は、他の国、たとえば南米あたりと若干移民の性質が違いましょうと私は思いますが、それらのものを考えながら、ただいまお話のように、技術指導的な移民をいたしますと相当の費用もかかるということになると思いますが、そういう点について十分考えていかなければならぬことだ、こう思っております。
  52. 板垣政府委員(板垣修)

    ○板垣政府委員 お話のように、カンボジア、ラオスにつきましては日本移民の希望は相当強くあったのでありますが、その後カンボジアは相当向う側の事情も変ったようであります。日本側といたしましても、御承知のように、一昨年でしたか、調査団を派遣して、カンボジアの移住適地を調査したのであります。ラオスにつきましても政府といたしましては非常な熱意を持っておりますが、ただただいま大臣が申されたような困難の点もございますので、ただいまボロバン高原その他につきまして移住適地につきまして調査団を派遣いたしまして、そういうような事情を技術的に検討を開始いたしております。
  53. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 もう一つ、この移民をやるにしても、日本に対する理解を深めるにしても、言葉の問題がだいぶ重要であります。ところがあすこには今度大使館が設置されることになりましたが、この前はバンコックの渋沢大使が兼任しておられた。あすこに常駐しておられるのは事務官一人おるだけであります。向うでは日本へ行きたいということと同時に、日本語を学びたいという非常な機運があるようであります。これらに対しても何か有効な手が打てないかというのが現地の――多少日本人がおりますが、その希望であります。これは今御返答をどうこうということはありませんけれども、こういうことも一つ考えておいていただきたい問題だと思います。  それからこの機会に同じ東南アジアの問題で一つだけお聞きしますが、タイに山田長政の遺跡がございます。あれは戦争前にはだいぶ手を入れてやっておったらしいんですが、最近は荒れ果ててしまって、われわれは自分らの祖先があすこで雄飛したその夢の跡かと思うと、あまりにもつわものどもの夢の跡の感じを深くするのです。今タイの国は国粋的な国でありますから、山田長政のああいう大きな活動については評価しながら、これが日本人であるということに対してはあまり広く教えていないというような現状で、どうもあすこをあのままほっておくということは……と、あすこに行った人はいずれもみなそういう感に打たれると思うのであります。これは昔のような意味とは別に、やはりわれわれの先祖があすこで非常な活動をしたという意味で、もう少しあの遺跡を修理し、保存に万全を期すべきではないかと思うのであります。これはときどき何かに触れて外務委員会でも問題になっておるようであるけれども、大した金も要らぬことであるし、ピブン総理の在職時代は何か土地も提供しょうというような話があったようでありますが、その後ああいうふうに失脚されますと、その話がどうなったかわかりませんが、一つタイの大使館を通じてもう少し事情を調査され、何とか財政的な措置をして、あの遺跡を顕彰すべきではないかと思いますが、それを一つお聞きしておきます。
  54. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 ただいま非常にいい御注意を二つ承わりました。日本語の普及と申しますか、習いたいという希望者があるということは各地でずいぶんあるようであります。ラオスあたりももちろん大使館でも、できますならば、何か大使館側でもお世話をして、学校とまではいきませんが、日本語講習所というようなもののお世話をし、あるいは大使館の人でも余暇に日本語を教えるというような道もあり得ないと思いませんので、今御指摘の点ばかりでなく考えていけると思いますが、そういう点の御注意を承わりました上で、いろいろ考えてみたいと思います。  山田長政の遺跡の状態につきまして、私実はよく存じなかったので、今御指摘をいただきましてよくわかったのですが、実はできるだけ注意して、今後その保存等につきまして外務省で留意して参りたいと思います。現地の大使館等の意向も聞いて参りたいと思います。
  55. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 午後二時まで休憩いたします。     午後零時一分休憩      ――――◇―――――     午後二時十二分開議
  56. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  国際情勢等に関し調査を進めます。質疑の通告がありますので順次これを許します。大西正道君。
  57. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 NBCの記者の問題につきましては、岸総理は大へんな発言をされたと私どもは驚いておるわけです。きのうの本会議、それからきょうの参議院の本会議では、あれは自分の真意を誤まり伝えている、こういうふうに言っておられるようでありますけれども、NBCという放送局はこれは米国では最も有力な放送局であり、かつブラウンという記者がかなり責任のある地位にある人であるという事実から見て、あなたの言われるような、その内容と発表されたものとの間にあまりにも相違のあることを私は実は驚くのであります。こういう観点からいたしまして、岸総理が何と言われましても、あなたの発言の中にはあの発表された内容にほぼ近い意見が吐かれたものだ、このように私は考える。しかしこの問題については言わぬ、いや言ったという水かけ論になりますから、あなたのこれまでのお話では、フル・テキストができたらそれを検討して態度をきめるということを言っておられるようでありますから、私もその結果を待ってさらに問題を提起していきたい、こういうように考えます。  ただしかし一言申し上げたいことは、あなたが釈明をなされた中にも自分は憲法改正論者だ、長くかかるであろうけれども、憲法改正はやがては実現するであろうというような意味のことを言っておられる。要するに自分は改憲論者であるということをはっきり言っておられるのであります。このことは今日まで国内でいろいろと論議されたことであって、私どもはあなたのそういう言説に耳にタコができてしまって別に不思議とは思わなかった。しかし考えてみれば、国の根本法規である憲法を守る最も重大な責任のある総理大臣が、自分は改憲論者だと言うことはまことにもって不可解千万なことであります。憲法軽視、憲法無視をしておるということを言われても、何ら個人の見解であるというような言い抜けば私はできないと思うのであります。たまたまこういう問題が発生いたしまして、自分は改憲論者だということが外国常識ある人々に聞かれて全く奇異に感じられる。だから憲法を改正する意思をあなたが明示されたというふうに見ても、私は何らあやしむに足りないと思うのであります。早い話がアイクがあるいはフルシチョフが自分は米国の憲法やソ連の憲法を変えたいと思っている、こういうことを言ったといたしますれば、私はアイクやフルシチョフの頭がどうかなったんじゃないかと思う。あなたは今日まで平気で国内で自分は改憲論者であるということを言っておられる。私は従来そういうことをぬけぬけと言っておられた態度に対して反省を促したい。あなたの言われておるその言葉の中には、個人の意見として許すわけにいかぬ重大な問題があると思うのであります。こういうふうな今日までとられた態度、今後こういうことについて考え直されるかどうかということを初めに私は聞いておきます。
  58. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私は現行憲法を守る、憲法の条章を順守してやるということにつきましては、もちろんこれを守らないとかあるいはこれを無視する、軽視するという考えは毛頭持っておりません。しかし民主政治のあり方として、われわれがどういう意見を持ち、その意見、考えがどういう手続なりあるいは民主主義的ないろいろなルールによってその考えが実現されるかしないかということは、おのずからこれは別の問題であって、個人がどういう意見を持ち、またどういう意見を述べても、これは民主主義の何として許される。しかしながらそれが直ちに憲法を無視するとか、軽視するということとは全然意味が違うのでありまして、そういう意味において憲法の条章について私は従来もずいぶん研究もして意見を発表したこともございますし、すでにそのことは周知されておることでございますから、それは私の良心に誓ってそうであると私の考え通りを私自身が正しいと思って主張しておることでございまして、その事柄についてはすでに世間も周知しておりますし、それは個人の意見であって云々というふうなことで逃げるつもりはございません。私はそういう考えを持っておる。しかしながらこの憲法を順守しなければならない、これを軽視してはならない、これは当然のことでございます。またそれを改正するという改正論者でありましても、それぞれ手続の要ることは当然のことでございまして、このことにつきまして少しも私は私自身の考えが間違っておるとは思いません。
  59. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 個人の思想の自由、言論の自由はもちろん保障されております。しかしこの時期に外国の記者に対してあなたが個人の見解だと言いながらこういうことを発表されるということ、非常に誤解を招くことであるというそういう政治的な判断をいたしますると、あなたの考え方またあの場における発言というものは、軽挙のそしりを免れなかったのではないか、こういうふうに思っておるのであります。  この問題についてあまり話を進めておりますと時間がありませんから、この機会に私は今一番外交の重大な問題になっております安保条約改正の問題について伺いたいのであります。総理大臣は重大な外交に際しましては自分はこういうふうな心組みで今から対外折衝を始めるのだということを国民の前に明らかにし、国民の批判によって、そうして国民の支持の上に立って外交を進めるという考え方――これはわかり切ったことでありますが、これをこの際あらためて確認を求めたいのであります。すでに安保条約の交渉は始まっておるのであります。しかるに今日まで私どもあなた方にお伺いをいたしますと、いや自主性を堅持してだとか、あるいは双務的なものにしたいとか、安保条約を結んだときと今とは情勢が変っておるから検討を加えたいのだとかいって、それ以上のことにつきましてはほとんど言明がないのであります。それでは交渉がどんどん進んでいって話がまとまったときには、もう国民の批判というものは受け入れられないのであります。国会で多数のあなた方がこれを承認してしまえば、批准をしてしまえば、これは通ってしまうのであります。こういうことでは民主主義の政治でも、民主主義の外交でもないと思います。安保条約の改定ということ、民族の将来に関する重大問題でありまするから、再三私どもはこの委員会におきましてもあなた方に現在の安保条約の不備の点についていろいろと質問申し上げ、あなたが渡米されるときにも藤山外務大臣が渡米されるときにも、強く国民の意思をあなた方に伝えたのです。従ってもう交渉が始められたこの段階におきましては、すべからく重要な基本方針だけについては一つ明らかにしていただきたい。このことを私は初めにお願いをいたしておきます。  そこでこの間UPIの一つの案が提示されました。この案に基いていろいろ質問をいたしましても、一向御返答がないのでありまするが、私は日本の安全保障、侵略の脅威から日本が守られるというこの問題の解決のためには、何よりもまず日本が侵略される――それはすなわち極東におけるところの米ソの対立による緊張であります。従って日本を安全な地位に置くためには、まずこの極東における緊張を緩和するということが第一のねらいでなけれ岬ならぬ。私はそう思う。不幸にしてその緊張が緩和されない場合にでもなおかつ日本はその中で戦争に巻き込まれないように努力する、これが第二段であります。  大筋といたしましては、日本の安全保障の問題を論ずるためには、まず極東における緊張の緩和というこの一点に立って物事を考えなければならぬと考えます。そういたしますれば、今日この安全保障条約を改定する場合に、私どもはすべからくこの緊張緩和の方向に向って改正の歩を進めなければならぬと思うのです。私ども社会党の考え方といたしますると、米ソの鋭い対立の中にあって、日本が米国との関係をさらに緊密化する、もっと端的にいえば、従属的な関係を深めていくということは、極東の緊張を緩和するどころじゃなしに、これを促進することである、緊張を増進することである。そのことは、日本が戦争の中に巻き込まれることであるから、われわれは日本の安全を守るためにはアメリカとの関係をなるべく薄くしていく、われわれの最終的な構想は安保条約の解消であります。このことを私どもはもう再三申し入れているからおわかりであろうと思うのであります。これなくしてあなたが言われるように、日米間の連帯をさらに強化して運命共同体というような形に持っていくということは、私はむしろこれは安保条約改正にあらずして、改悪なりと考えるのでありますが、その基本的な考えについて総理の所信を承わります。簡単にお願いします。
  60. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 日本の安全を保障するために、東西両陣営の緊張を緩和する必要があるということは、私は大西君と同様な意見を持っておるのであります。しかしそれは外交なりあらゆる面においてわれわれがその努力をしなければならぬ。そうして今極東における緊張ということをお話しになりましたが、要は世界における東西両陣営の対立というこの根本問題が解決しない限り、私は世界の各地における緊張というものがみんな相関連しておる問題であると思います。こういう状態でございますから、私ども考えと、あるいは社会党の考えとの非常に大きな違いのところは、われわれみずからが安全保障体制というものを強化する行動をとることが緊張を進めるゆえんであって、緊張を緩和するためにはそういう防衛体制をやめた方がよろしいという考えは、私ども現在の国際情勢を分析し判断する上において、そういうことはとらないのであります。やはりみずからの防衛体制というものを強めていかなければならない。それによって安全は保障される、こういう考えに立っております。しこうして自分自身の力だけで自分の防衛というものをなしとげ得るかというと、それはできないのが現状の国際情勢であります。その場合において、われわれが最も信頼しておる立場に立っておる国との間に力を合して防衛を強化していく、そうしてわれわれの安全を保障するということはこれは私は適当な方策である。その意味において現在あるところの日米の安全保障体制というものをほんとうに両国の真の理解と信頼の上に立った協力関係に持っていくことが望ましい、こう思っております。
  61. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 何ら勉強の跡が私には見えない。もう十年一日の御答弁であります。そういうことがほんとうに日本の安全と平和を守るゆえんであるかどうかということは、時が証明すると私は思うのです。私は今申しましたような意味で、どうしても日本の自主性を回復するというあなたの言葉をほんとうに実現するなれば、ここに一つの試案をあなたに申し上げる。これに対しての見解を聞きたいのであります。  すなわち、今度の安保条約の改定に際して、今日まではアメリカの軍隊が常時駐留しております。これを、真に日本の自主性というものを確立するというあなたの御主張の実現ができるとすれば、私は事あるときに米軍が日本に進駐をする、平時はこの国土に進駐をしない、こういうことも一つの案であるというのが権威ある国際法学者の中からも出ておるのであります。私どもはこういうことをもとよりとりません。しかし保守党でもやれる一つの案として、新しい安保条約改定の際には、常時駐留の制度を改めて、有事進駐の体制に切りかえてはどうか、こういうふうな世論がかなりあります。この点についての見解はいかがでありますか。
  62. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 日米の間に安全保障をする体制としてどういう体制を具体的にするかという一つの考え方として、大西君が今お話の常時駐留ということをやめて、非常時において必要ある場合において進駐してくる、そうして防衛をするということにしたらどうか、こういう御質問でありますが、この点に関しては従来われわれとしてはなるべく外国軍隊の常時駐留ということは望ましくないという考えのもとに、われわれの自衛力を漸増することに伴ってアメリカの従来常駐しておる軍隊をだんだん減らしていく、なくしていくというこの方針のもとに従来きております。それが一部実現を見ておるというのが今日の状態であります。しこうして将来そういう方向に進んでいくべきことは私は望ましい形であると思います。しかし現在直ちにそういうことにすることが適当であるかどうかということは、なお検討を要する問題である。私はかように思っております。
  63. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 常時駐留によって日本の主権がいろいろな面で制限されておる、いろいろな不祥事態が起きております。もう御承知であろうと思いますが、刑事事件は昭和二十八年から三万三千四百六十四件という多数に達しております。この一つの例を見ましても、いかにこの常時駐留ということが、国の主権を侵害する自主性の大きな制限であるかということはわかると思う。私は当然こういうことを今直ちに考えなければならぬ時期であると考えるのですが、総理の見解には私は失望する次第であります。  それからもう一つ大きな問題は、これは総理によく考えていただかなければならぬ問題ですが、従来安保条約の中には、日本に対しての武力攻撃のあった場合に、米軍がこれに対して行動をとり得るということになっておりますが、そのほかに極東の安全と平和のために米軍を使用することができると書いてある。この極東の安全と平和の維持というこの目的は、これはちょっと類例のないものだと私は考えております。米比、米韓、米台条約を見ましても、一定の区域がちゃんと規定されております。ところが日米安保条約においては、極東というまことにばく然たる規定であります。この極東につきまして私がいつかあなたにお伺いしましたら、南北朝鮮、台湾、それからヴェトナムからフィリピンまで入るか入らぬかわからぬということであります。こういうことでは日米ニ国間の安保条約というものの本旨から逸脱しておると私は思うのでありますが、今回の改定に際しましては、こういう極東の安全と平和というような、日本の防衛と直接関係のないこういう条項はすべからく削除するのが、保守党としてもやり得る私は一つの手段ではないかと思うのであります。この点についてはいかがですか。
  64. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 御指摘のように、現行安全保障条約のうちには、今お話のような言葉がございます。これは現行法が制定された当時、アメリカの一方的な見解のもとにすべてやられるという立場からああいう条文が入っておると思いますが、今後われわれが平等の立場、対等の立場で、これをできるだけ憲法の範囲内において双務的な形に直したいという私ども考えは、そういう不明確な言葉につきましては、十分検討するつもりでおります。
  65. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 不明確な言葉を検討するということは――もう少し具体的に一つお話を願いたいと思います。
  66. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 そういうふうな言葉を使わないようにするべく研究をしております。
  67. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 言葉の問題ではなしに、日本以外の神域に対して、事が起きた場合に、もし駐留米軍を許すとすれば、それの出動を認めるというようなことを、依然としてやろうとするのかどうかという問題であります。言葉の表現じゃなしに、事実の問題はどうだ、考え方はどうだということであります。
  68. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 この地域の問題に関しましては、これはなお研究を要する点があると私は思います。たとえば沖縄や小笠原等の問題もあわせて研究をしなければならない。今度の改定の場合におきまして、最も重要な点として、私は現在研究をいたしておるわけであります。
  69. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 こういう重大な問題について明確な一つの考え方を聞かしていただきたいということを私は初め申し上げた。こういうことについて検討を加えたいというようなことで、もう会談が始まったこの段階におきまして、これから検討を加えたいというような御答弁では、私は満足できないのであります。御承知のように、極東の安全と平和といったって、米比あり米韓、米台、それぞれみんな米国と個別的な条約が結ばれておるのではないか。それを何がゆえに日米安保条約だけ、さらに極東全域にわたって米軍が出動するところの権利を与えるような構想を保持する。依然として継続するという根拠が私はわからない。だから、この問題につきまして、こういう構想を発展せしめれば、たとえば台湾で問題が起きた場合、米国がこれに介入した場合には、直ちに日本もこれに介入するということになる。すなわちあなたがいつも否定はされておるけれども、NEATOの構想を、表現ではなくして、事実上もう一歩進めておる、こういうことになると私は思うのであります。こういう懸念が十分あると思う。あなたはNEATOの構想については否定をしておられるけれども、これは事実上のNEATOではないかということを申し上げたい。非常に危険であります。もう一回この問題についての所信を明確に一つ聞きたい。
  70. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私はNEATOのような考え方は持たないということは、従来も明確にいたしております。またそういう考えでもって今度の安保条約の改定をする意思は持っておらない。これは初めから明確に申し上げております。
  71. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 私の考えでは、日本の安全を保障すること、即極東の安全の保障になる、こういう考え方でなければならぬと思う。保守党の考え方に立ってもですよ。日本の安全と極東の安全と平和の維持というものを日本だけに考えるというところに危険性があるということを私は指摘しておる。十分お考えを願いたいと思います。  それから日本の防衛を義務づけるということについては、これはそれらしき返答がたびたびあったのであります。しかし日本の防衛を義務づけるという建前から、日本も何らか米国に対して双務的に義務を負わなければならないじゃないか。ですから日本も何か海外派兵をしなければならぬじゃないかというような論がいろいろと出てくるのであります。これは保守党の議員諸君の議論を見ても、そういうことをにおわしておるのであります。私はこういうふうに考えるべきではないかと思う。日本アメリカとの間には国力の差もあります。軍備の差もあります。従って米国が日本への攻撃に対してこれを守るという義務づけをやっても、日本としては基地を提供しておる、あるいは駐兵と認めておる。この事実をもって事足れりとしてよろしいのではないか。このことは国連憲章四十三条にも明らかに出ております。何も国力の弱い国が、大国と同じように兵力を持って、軍備を持ってこれにこたえなければならぬとは書いてないのであります。私はそういう考えも成り立つと思うのでありまするが、総理の考えはいかがです。
  72. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 初めから、われわれの今度の安保条約の改定に当りまして、憲法の規定のワク内だということを、明確にアメリカ側とも話をしております。それは、われわれは憲法上外国には派兵できないのだ、また派兵する義務を負うようなことはできないということを前提として両方をできるだけ双務的な対等的な何に考えよう、今大西君のお話のように従って義務の内容が全然同じような義務を負う必要はないと思います。お話のように米軍が日本を防衛する義務を負うたとしましても、われわれが同様に軍隊を持ってアメリカの何かに対して義務を負うという必要はないのでありまして、ただあるいは基地の供与の問題を、おあげになりましたような点等を考えていけばいいのだろう、かように思っております。
  73. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 沖縄の問題のお話がありましたが、沖縄を防衛区域に含めるという構想は、政府は今はっきりと持っておるのでありますか。いかがですか。この問題は、今後重要な問題だから考えるということじゃなしに、これは明確にしていただきたいと思います。
  74. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 先ほどお答え申し上げました通り、重大な問題として検討いたしております。
  75. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 私はそれが不満です。今日の段階で重要な問題だから検討するということでは、こういうふうな重大な問題はいつ国民に公表されますか。いつ国民の批判を受ける機会を持たれますか。どんどんと話は進んでしまう。調印は終った。それでは国民の意思を聞く機会がないじゃないですか。私はそういう意味で、この機会に政府が沖縄を防衛区域に含めるということが妥当であると考えるとすれば、その妥当であるという根拠を堂々と述べて、そうして国民の批判を受くべきだ、それをやらないで突如として調印が終ったということで、これは警職法の改正のようなものだ、やぶから棒に出してくる、民主主義政治の破壊ですよ、これは。政府は防衛区域に含めるという意思を持っておるというふうに聞いております。今度検討されてもよいが、私は沖縄を防衛区域に含めるということになるならば、その前にまずなすべきことがあると考える、それは沖縄の施政権の返還です。沖縄の施政権の返還なくして日本が沖縄を防衛区域に含めるということが、これは世界各国にもこういう例は私はないと思うのだ。私はまず沖縄の施政権の返還、この問題をまず解決して、しかる後に沖縄を防衛区域に含めるかどうかということを検討すべきである、ところがアイクとの共同声明の中には、この問題について努力されたようなことが書かれております。しかしその後藤山さんが向うへ行かれて、ダレスとの共同声明を見ますと、この問題について一向触れてない、一歩後退である。そうしてここにさらに防衛区域に含めるという、一体施政権のないところに防衛の義務を負うということは、これは一体どうしたことなんです。私はやはり順序として施政権の返還を求めるべきだ、しかる後に日本はこれを守るという義務、沖縄の住民の期待にこたえなければならぬと考えます。このことをとくと銘記されたいと思うのであります。一体潜在主権というようなことは、従来国際間にも例の少いことです。それに似通った形で租借地の場合を例に考えてもほぼ該当しておると思うが、日本が租借したところに、たとえば関東州のような場合、あそこに中国の防衛に対する責任を負わせたというようなことはないと思うし、そういうことは実際おかしいのであります。順序として、あくまで沖縄の返還ということをまず強く打ち出すべきだということを私は申し上げたい、それから日本が自主性を回復する。そして日本アメリカの軍隊を駐留せしめるということは、これは今の安保条約では、日本がお願いして向うから来ていただく、こういう建前になっております。ところが今度の構想はそうではないということになっておりますから、そういたしますと、防衛分担金というようなものは私はこの際は払うべきではないと考える。サウジアラビアに米軍の基地がありますが、これなんかは基地を借りる費用を年間八千万ドルですか、これだけアメリカが支払っておるのであります。そういう事実から考えまして、日本が防衛分担金を払うということは、今の安保条約のそういう建前ならいざ知らず、あなたの言われるところの双務的な、しかも自主的な態度を堅持するという新しい日米関係においては、防衛分担金などは毛頭払うべきものではないと考えるがいかがですか。
  76. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 これは安保条約――われわれが今改正を両方で交渉いたしまして、まだ交渉の過程にあるわけでありまして、先ほど来いろいろなお話がありましたが、もちろん外交の根本は国民外交の基本線に沿うてやらなければならぬことは言うを待たないのでありますけれども、しかしながらそれは同時に交渉の過程において一々この主張を明らかにしていくということは、交渉を成り立たす上からいって適当でないことは、大西君も御了解の通りであります。従っていろいろな問題点はございますが、それを一々私は今日まだ明瞭にお答えする交渉の段階ではないと考えております。もちろん防衛分担金の問題にも触れて考えなければならぬ問題であるとは思いますけれども、今私はまだそういうことについて具体的な意見を申し上げる段階ではない、かように考えております。
  77. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 大西君、時間が参っておりますからおまとめ願います。
  78. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 もう一つこの廃棄条項でありますけれども、米比、米韓、米加の各条約を見ましても、今のように日米安保条約改正する場合は両方が合意の上でなければならぬというようなことはありません。従いまして、これっは最低、米韓、米比条約並みに、一方的に日本が廃棄の通告をすれば、半年なり一年のうちにはこの条約は効力が失われるのだと考えてよろしい、そういうふうに改められるのが当然だと思いますが、いかがですか。
  79. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 現在の安保条約の廃棄条項は私適当でないと思います。今度の新しいなににおきましては、これを適当に、いろいろ他の例もございますし、国際慣例その他の例も考え、その立場も十分考慮して、適当な条項にこれを改めたいと思います。
  80. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 一つ忘れましたが、沖縄の防衛義務と施政権の返還の問題でありますけれども、あなたの答弁がすこぶる不明確でありますから……。さきに防衛庁長官に対して与党の佐々木委員が質問をされました、この答弁をあなたに確認を求めます。この答弁として防衛庁長官はどういうことを申しておるかと申しますと、沖縄の施政権が返還されれば当然防衛の義務が生ずるものと考える、こう言っておるのであります。このことは裏返せば施政権の返還されない現在は防衛の義務はないということを言っておると私は考える。これは正しいと思います。このことをあなたの確認を求めます。否定されないだろうと思う。否定されるならば閣内の見解不統一であります。
  81. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 はなはだ理屈にわたって恐縮でありますが、左藤防衛庁長官がお答えをしておることは、私正しいと思います。しかしそれを裏返してのなににつきましては、左藤長官も答えておらないのでありまして、私は現在全然ないということを否定しておるというふうには解釈いたしておりません。
  82. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 日韓問題を一つだけお伺いいたします。大村収容所に収容しております朝鮮人を一部では本国である北鮮に帰せ、こういうふうに主張しております。政府はこれは人道上の問題であるから、これについては善処するとしております。すでに何名かの者を釈放いたしました。ところが御承知のように李承晩政府からけしからぬという横やりが入りますと、この問題について、釈放はしたけれども、北鮮に対する帰還はこの際しばらく様子を見るということにしてしまった。私はこれは非常な退歩だと思うのです。人道問題というなれば、あくまで人道的な立場を貫かなければならぬのに、李承晩からの申し入れによって、この人道問題を従来の主張を変えたということは大へんな問題だと思う。ところがその後また問題が起きまして、今度はしばらく国内に置いておくということが――私は板垣アジア局長にしばらくというのはどのくらいを考えるのだといったら、二、三カ月でしょう、こういう話である。ところが今度この問題は日韓会談の中の朝鮮人の法的地位に関する問題で処理するのだ、いわゆる日韓の連絡委員会では問題にしないということにしてしまった。驚くべきことであります。今日、岸総理はどういうように考えておられるか知らぬけれども、私は日韓会談がスムーズに円満な妥結に達するとは思いません。そういたしますと、日韓間の問題が円満に解決するまで、人道的立場であるといって北鮮系の人を永久にこれは帰さないということになります。私はこれは日本政府の食言だと攻撃されても何ら弁解の余地はないと思うのでありますが、私は今からでもこれは考え直してもらいたいと思う。もし人道的な立場を緊持されるなれば、すべからく日韓会談の問題としてたな上げしたこの問題を取りはずして、連絡委員会において別個に解決して人道的立場を貫いていただきたいと思うのですが、いかがですか。
  83. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 この問題につきましては、御承知のように大村収容所において収容しておる一部の人々がハンガー・ストライキをやりまして、これに対してわれわれは人道的立場からこれを釈放するという話をいたし、またその結論に到達しまして、これが釈放をいたしておるわけであります。ただ北鮮に帰るという問題につきましては、その他の関係も、今度釈放した人だけでなしに、従来日本にいる朝鮮人の中からもそういう希望も出ておりますが、これらを含めて、やはり外国人の出入管理の規則によってこれを処理しなければならぬというのが実情であると思います。私は釈放された人々を永久にその意思に反して日本にとめておくというような考えは持っておりませんし、またそういう話し合いにはなっておらない。とにかく一方日韓会談が進められており、できるだけこれが円満に解決されることは、私は日本にとっても望ましいことであると努力をいたしております。前途が簡単にいくような問題でないことは言うを待ちませんけれども、今から大西君の言われるように、これはとうていできないことだという見切りを政府はつけてはおらないわけであります。あくまでもそれは円満に解決することに全力を上げて努力をいたしております。それとこの問題とを時期的に不可分の関係にするというような意図を私どもは持っておりません。当分の間はとにかくわれわれとしては日本において適当にやっていくということでありまして、その結論は今言うように、結局外国人の出入管理に関する規定によって処理する、かように思っております。
  84. 大西委員(大西正道)

    ○大西委員 何を言っておるのかわかりはしない。あなたもわかっていないでしょう。北鮮へ帰る者は釈放して帰すという約束だったのです。人道問題だとしてそういうことを明らかにしたのです。ところが李承晩の方から申し入れがあったからこの問題を引っ込めて、しばらく国内にとどめておくと言い、さらに抗議があったから、今度は日韓会談の朝鮮人の法的地位に関する委員会にこれを持ち込んでしまったのです。そのことについて私は申し上げている。そんな出入国管理令がどうだこうだということではないのです。事実上これは帰さないということです。こういう問題についての政府の責任を問うておるのであります。これを明らかにしていただきたい。  それから、ついでに申し上げておきますけれども、あなたは日韓会談はせっかく努力中だと言っておられます。しかし、たびたび申し上げますけれども、会談が始まってから何年になりますか。六年になる。序の口から一歩も進まないじゃありませんか。しかもこの間漁業委員会が開かれたと思ったら、柳委員は声明を発して、もはやこの問題については、日本政府に誠意がないから、もう決裂のほかはない、こういうことを言っているじゃありませんか、出す方も出す方だけれども、これに対して政府は何らの反駁も声明も出していない。国民も、政府が何を考えているか、やはりこれは李承晩の言っていることの方が正しいのじゃないかという錯覚を起してしまう。堂々と政府の主張も述べて、李承晩の言うことが間違いならば、それを天下に明らかにすべきであります。それをやらないで、いつまでもずるずるべったりにやっておる。そして、柳声明はこういうことをいっております。今後李承晩ラインにおいて再び拿捕が始まるであろう。この漁期を控えて、漁業者がいろいろな訴えをしておりますが、この問題に対してどう対処されようとするのか。私ども衆議院の外務委員、与党の岩本議員――前の衆議院の副議長を含めて現地を視察いたしました。そして悲痛な実情を私どもは聞いたのであります。日本の海上保安庁の巡視船は、この前も申し上げたように、あそこだけは大砲をはずして、目の前で拿捕されているのを指をくわえて見ておるのであります。それはなぜかと申しますと、閣議決定によって大砲をはずせ、何もするなということになっておるのだそうであります。私は大砲を積めとは言わぬけれども、このように現実に日本人の生命、財産が脅かされているこの事実に対して、相も変らず、会談は進んでおるのだから何とかなるだろう、こういう態度であなたは進まれるかどうかということなんです。あなたの選挙の地盤から大きな声が上ってくれば、何とか手先だけでいろいろ小細工をされるかもしれぬが、事は重大な問題だと思います。日韓会談に対する将来の見通し、これに対する政府のきぜんたる態度を、私はあなたの口から聞きたいと思います。
  85. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 日韓会談は、御指摘のように非常に長くかかっておる問題であり、今回も、始まりましてすでに半年になるのでありまして、非常に問題があり、進行上いろいろな支障があることは御承知通りであります。ただ、今回従来よりも一段進んでおるのは、漁業問題に関しまして、向うも漁業代表を出してきて、今会談を進めております。柳公使の声明は、私どももこういう途中において、ああいう声明をすることは非常に遺憾であると思います。従って、それに対しましては両国の代表の間でさらに話し合いをいたしまして、この実質的な問題に関する両国の主張をとにかく出して、そうして解決の方途を見出そうと今努力いたしておるところであります。前途は必ずしも楽観を許しませんけれども、私どもは全力をあげて努力したい、かように思っております。
  86. 櫻内委員長(櫻内義雄)

  87. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 例のブラウン記者の誤報問題によりまして、国民の間に非常に誤解もあるようでありますから、岸総理が、総理大臣として日本の外交を指導しておられる。その基本的な考えについて二、三伺いたい、かように存ずるのであります。  その前に一言伺いたいのは、誤解の基礎になったブラウン記者の録音、これが着いたという話がありますが、もう着きましたか。
  88. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 録音そのものは着いたわけではございませんが、録音に盛られたブラウン記者の話の内容というもの、フル・テキストはこちらへ送って参りました。
  89. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 すでにごらんになりましたね。
  90. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 そうです。
  91. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 それで私は、国民の誤解を解くためにも、岸総理大臣の腹の底からの声を実は聞きたいわけです。一国の外交方針というものは、必ずしも世論受けのよくないこともあります。また大向うをうならせる方針が、必ずしも国民のためになるとも限らぬ。それは、日本は大東亜戦争で大失敗をしたわけですけれども、大東亜戦争の外交をああいうふうに持っていったというのも、一つは国内の軍国主義的な世論に政治家が引っぱられて――もちろん軍の圧迫もありますけれども、引っぱられて、そして現在われわれが跡始末をしなければならないような事態が起っているわけでございますから、必ずしも世論、大向うをうならせる必要はないわけでございます。あるいはある国に一辺倒であると言われても、これが国のためならばしょうがない。また八方美人である、こう言われても、それが国のためならばしょうがない。また両岸だなんて言われても、これが国のためならばしょうがないわけであります。しかしながら、その外交方針というものはやはりしっかりしたものがなければいかぬと私は思います。これはその国の正しい利害を擁護し、その国の独立を守り、確立し、あるいは世界の平和に寄与する、こういう方針に貫かれていなければならぬ。一本そういう強いものがなければいかぬと私は思うのであります。そういう意味から、岸総理大臣がどういう方針を持って――非常に漠然とした大きな質問でございますが――日本の外交をリードしておられるか、これを一つ与党議員として、国民の誤解を解くために聞いておきたい、かように存じます。
  92. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 御質問は非常に抽象的であります。従って私の答弁も抽象的にならざるを得ないのでございますが、すでに私は内閣を組織して、外交方針の根本については、しばしば国会で言明いたしておるように、私は三つの根本原則を持っております。第一は自由主義国の立場を堅持していく、自由主義国との間の協調を考えて、強化していく、いわゆる共産主義立場や容共的な態度はとらないということを明瞭にしております。そして外交を進めていく上においては、国連中心主義で、国連憲章の精神によって世界の平和に寄与していくという立場であります。また日本アジアの一国であり、アジア立場というものを考えて、アジア外交というものを強化していく。この三つを私は基本方針として進んでいきたい、かように考えております。
  93. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 いわゆる外交の三原則について述べられたわけでありますけれども、この外交の三原則というものは、現在においてはお互いに矛盾してきている。この三原則をそのまま三つとも貫いていくわけにはいかない、こういう考え方も出てきております。たとえば今度のイラク事件なんかの際に、アラブの方を支持しようと思うと自由主義国家の中心とも言えるアメリカの方針と違ってくるというようなこともある。また国連中心と申しましても、日本のごとく近いところにある大国の中共との国交を回復していこうと思っても、この国が現在国連に入れないような状態にある。そういういろいろなところからこの三原則は同時に一つの外交方針の中に盛り込めないというような国民の批判がございまするが、それについてどういうふうにお考えでございますか。
  94. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 お話通り具体的の個々の問題につきまして、この三原則が初めから常に一致した立場には立て得ないような事態がいろいろな場合において起っております。これを日本の何としてはやはりこの三原則に基いて調和せしめるというような努力をすることが必要である。たとえばイラクの問題にいたしましても、われわれが国連を中心に、安保理事会の理事国としてアラブ諸国の主張と自由主義国の主張が、最初におきましては非常に相反しておるように矛盾し抵触しておるものを、両方の歩み寄りによってこれを調和していくという努力によって、われわれが一つの結論に達し、これを平和的に解決し、処理したというふうな立場において日本の使命があり、外交の進み方がある、私はかように思っております。
  95. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 日本の外交は、鳩山内閣ができたときに日本保守政党の外交は一つの転機に来たと思います。その際に総理大臣は幹事長をしておられまして、日ソ国交の回復には党内において非常に努力された、こういう鳩山内閣の方針は今の外交三原則にあるように、自由主義国家群との親善を基調にしながら、同時に共産国家であるソ連とかその他の諸国とも親善関係を増していこう、特に近隣の中共、ソ連に対してもできる限り親善関係を増していこう、こういう方針でやってきたと思うのであります。鳩山内閣のそういう方針は、岸内閣においてもその通り踏襲せられておりますか。
  96. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 今おあげになりましたように、鳩山内閣時代は私幹事長で党務に当っておりましたが、言うまでもなく政党内閣でありますから、党と内閣とは一体になって外交、内治の諸政策を進めたわけであります。今日といえどもやはり同じように自由民主党の内閣でありまして、根本は、自由民主党の政策の根本が変らない限り岸内閣において変えるということは考えておりません。
  97. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 それでは自由主義国家群との親善を基調にはするけれども、共産圏の諸国家とも今後できる限り国交を回復し、親善関係を強めていきたい、こういうふうに考えておられるわけでありますか。
  98. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 その通り考えております。
  99. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 それから日本の、ごく近所に李承晩の韓国、蒋介石の台湾政権がありますが、これらは日本とは国交を回復しておる。韓国との関係はなかなかうまく参りませんけれども、われわれはこれらの国と親善関係を持っているわけであります。日本国民はその国が存在する以上は、これは非常に近接した国家なのであるからこれらの国と親善関係を続けていくということは、やはり大多数の日本人はそういう気持を持っておると思います。しかしながらこれらの国は共通した特徴を持っておる。それは片方は中国の一方の政府であり、片方は朝鮮の一方の政府である。そうしてお互いにこれはにらみ合っておるわけであります。でありますから非常にこれはむずかしいことであります。特に台湾にいたしましても韓国にいたしましても、アメリカの非常な強い軍事的経済的な援助によってこの国は存立している、こういってもいいと思います。そうして日本はこれらの国と親善関係を結ぼうということは当然でありますけれども、これらの国と日本との外交方針はおのずから違うものであろうと思います。台湾が中共に対して非常な憎悪を持つということは当然だと思います。また韓国が北鮮に対して非常な警戒を常に抱いておるということも当然なことと思いますが、日本は別に大陸反攻が起ったところで中国本土を回復するわけでもないし、また北鮮を回復できるわけでもない。そういう点も、日本立場と韓国、台湾との立場はよほど違うと思います。でありまするから、これらの国と軍事的な関係に入るというようなことは、われわれは考え得られないわけでありますが、どういうようにお考えでありますか。
  100. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 お話通り台湾やあるいは韓国の事情、また外交方針やあるいは国における防衛の方法手段等と、日本とはおのずから異なっておることは当然であります。しこうして私は常に申しておるのでありますが、あるいは台湾、韓国、日本というような三国を含めた軍事同盟のようなものを作る意図があるのではないかということをいわれておりますが、そういう質問に対して明確に申し上げておりますが、そういう意図はない。またそういう意味においてこれらの国々と軍事的な関係を持つという考えは毛頭持っておりません。
  101. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 その点は非常に明確で、私も全く賛成でございます。  それでは問題が少し別になりますが、先ほど外務委員といたしまして、私は北海道の北の方に参りました。歯舞の周辺まで行ってきたわけでありますが、御承知通り日ソ平和条約ができない、歯舞も依然としてソビエトの施政権下に相なっておる、こういう状態でありまするが、そのために、あの近所の漁民はコブ、カニ、そういうものの採取にあの付近に出かけまして、非常に狭い海峡のことでもございますから、ソビエトの監視船につかまるという者が非常に多くて、拿捕される船舶総数のうちの六五%くらいが歯舞の周辺でつかまっておる、こういうような状態であります。  その漁民の要望といたしましては何とか一つ日ソ平和条約を早く結んでもらいたい、そうしてもちろん国後島は指呼の間に見えるわけであります。国後島は比較的気候も悪くないところでありますから、それに対する関心は非常に強いのでありますけれども、しかしながら条約関係その他でどうにもならないので、何とかして早く平和条約を結んでもらうようにという意向を私は聞いてきたわけでありますが、日ソ平和条約に対する政府の御方針を一つお聞かせ願いたいと思います。
  102. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 日ソ平和条約締結されない理由は、言うまでもなく御承知通り領土問題に関する彼我両国の主張が全然一致を見ないがゆえであります。鳩山内閣のときのいわゆる日ソ共同宣言におきましても、あの宣言を出すに至りますまでの交渉過程におきましてこれが一致を見なくて、平和条約にならずして共同宣言になったわけであります。そうして私どもは今お話のような漁民の安全操業について、ソ連側に交渉をいたしておることも御承知通り、それが停頓しておることも御承知通りであります。従って一日も早く平和条約締結されることを望むことにおきましては、われわれもそう思っておりますが、ただいかんせん依然として領土に関する主張が違っております。私どもは国後、択捉も含めた南千島の地域は、歴史が始まってから外国の領土となったことのない本来の日本固有の領土であるからして、従って平和条約において領土の境界を定める場合においても、この両島は日本領土であるということを明確にしなければいかぬ。これは私一個が考えておるのでなしくて、また自由民主党が考えておるだけでなくして、国民の大多数の人がそう思っておる、そう信じておる。その主張をソ連側が多少でも認めるような方向に動いているかというと、実は今日までのところまだ動いておらないのであります。われわれは、日本の国民的願望であり、われわれとしてはこれが領土に関する正しい主張であると思っているが、これをソ連が認めることがほんとうに日ソの間の友好関係、両邦の間のほんとうの親善関係を作る基礎であるということをあらゆる機会にソ連側説明もし、努力をしてきておるのでありますけれども、それがまだ達せられない。結局私はこの問題はいろんな、あるいは漁業条約の問題なりあるいは貿易協定の問題なり、文化交流の問題なり等を重ねていって、両国民がさらに理解し、ソ連側において日本のこの国民的願望に対しての理解を得て、この問題を解決するように努力していく以外に道がないと思っております。
  103. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 われわれももちろん国後、択捉のみならず、考え方によっては南樺太も日本の領土であると考えます。南樺太と南千島、あるいは南千島プラス北千島が千島・樺太交換条約のいきさつからいっても固有の領土であるということを主張できると思います。ただサンフランシスコ条約においてクーリル・アイランズは放棄してしまったわけであります。このサンフランシスコ条約におけるクーリル・アイランズの中に国後、択捉、南千島が入っていないということになりますれば、これは当然日本の潜在主権がそこにあると思う。不法に占有されてはいるけれども日本の領土であり、日本の潜在主権がそこにある、こういうことになるだろうと思う。そこで、その日米安全保障条約の改定が話題に上っておるわけでありますけれども、その際にそういう潜在主権というものはいかに取り扱われるものでありますか。
  104. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 国後、択捉に対する考え方は、実は日本ソ連とが全然異にしておるのであります。われわれからいえば、潜在主権じゃない、われわれのものであるから、これを占有しておるのは不法だから返してもらいたいということを主張しておるわけであります。これに対してソ連の方は、その主張においてこれはすでにわれわれの完全な領土であるといっておるわけであります。従いまして、今お話の潜在主権という問題でありますが、われわれが沖縄に対しての潜在主権を持っておるということは、日本のみならずアメリカの方においても承認しておる問題でありまして、それと国後、択捉の法律立場というものはちょっと違うだろうと思うのです。今度の安保条約の改安におきましても国後、択捉を潜在主権のある他の地域同様に扱っていくことは適当でなかろうと思っております。
  105. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 現実問題として、安保条約において他の潜在主権のあるところと同一に扱えないことはわかりますけれどもアメリカがもしも日本の主張を支持し、サンフランシスコ条約におけるクーリル・アイランズから国後、択捉を除外して考えておるならば、当然安保条約改定の際にこの問題について考えてくれなければ、日本の北方国境というものは非常に私は不安定だろうと思うわけです。国境がない、しかも両方の領土権の主張が食い違う。日本は潜在主権がある、アメリカもサンフランシスコ条約において放棄した千島でないという解釈に立つならば、当然安保条約改定の際アメリカがこの問題に対して深刻に考える必要があると思うのであります。  この問題はこれ以上質問いたしませんけれども、最後に、賠償の問題について簡単に質問申し上げたい。日本はフィリピン、ビルマ、インドネシア等に相当大きな賠償を支払うことになっておるわけであります。これは日本が大東亜戦争においていろいろな迷惑をかけた賠償であり、賠償によって両国の親善関係を深めるということが日本としての大きなねらいであろうと存じておるわけであります。この賠償によってフィリピンとかあるいはビルマとかインドネシアとかいうところの対日感情は、非常に好転しておることは間違いない事実であろうと思います。私もフィリピンに行ってきて対日感情が非常に好転してきたのを見て参りました。しかしながら、賠償問題に一つ暗い影がある。それはフィリピンに行った際私は新聞記者と会いまして、一体賠償をどう思うかと聞かれたから、賠償は日本人の苦しい財布の中から出しているのだ、だからフィリピンの発展とフィリピンの国民大衆のためになるように使ってもらいたい、こういう返答をしましたら、その新聞記者たちがそれでは大統領のヨットはどうなんだというようなことを冗談まじりに言っておりました。私は、マグサイサイ氏が飛行機で死んだから、フィリピンの大事な人だから船を上げるのもいいじゃないかというようなことを言ったんですけれども、そういう問題を別としましても、賠償をめぐりまして、やはり両国のごく少数の国民が利権の資にしておるというような悪い印象を受けているところもあります。インドネシアや何かでもそういうことが新聞記事等に出ておりますけれども、これは日本国民が貧乏な財布の中から税金を払って、そして相当巨額な賠償というものを払い、しかもそれが向うの汚職になるというようなことでは非常に心外千万なことであると思います。この点は日本の政府が十分注意して、賠償が正しく実施せられるように、そして賠償を受け取る国の日本に対する感情がいよいよよくなるようなやり方で支払っていかなければならない、こう存じますけれども、これに対して一つお答えを願います。
  106. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 御指摘のように、賠償は、戦争中において、これらの国々に与えたいろいろな損害や、その他迷惑なことに対する賠償であると同時に、今後長きにわたってこれらの国々との間に真の友好関係を増進し、これによってできるだけお互いに栄えていけるような方向にこの賠償の実施をしていかなければならぬと思います。私は今日までの賠償の実績を見ましても、今宇都宮委員の御指摘になったことが皆無であるとは申し上げかねるような事態を私も知っております。従いまして、これが具体的の案件を決定する場合におきましては、特に慎重を期して、できれば賠償のプロジェクトがその国の多数の国民の利益になり、国民経済の基礎がこれにおいて固まるというようなこと、さらに進んでは、日本がそういう賠償をしたということが、その国の国民の頭に比較的長く残って、両方の国交に資するというふうな事態をこの賠償によってもたらすことが望ましいと思っております。いずれにいたしましても、今御指摘になったような一部の人の利権や、あるいはかえってそういうことのために、国民多数の人々の反感を招くような事態を引き起さないように、いやが上にも注意をしなければならぬと思います。そういう点においては一つ十分留意して賠償の実効をあげたい、かように思っております。
  107. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 総理大臣に対する質問はこれをもって終了いたしました。  外務大臣に一言聞きたいのですが、外交で一番大事なものはやはり近所だと思うのです。隣近所が一番大事だ。ヨーロッパとか遠い離れた国も、もちろん市場としてとか、いろいろな意味で大事ですけれども、隣近所が一番大事だと思う。もと、これは戦争前ですけれども外務省にシナ派というのがあって、つまりシナとかそういうどさ回り、いなか回りをしている外交官ですが、この人たちは外務省の主流である欧米派とかいうものに対して非常な不満を持っていたわけであります。それが日本の外交の、事務的な方針といった方がいいでしょうが、そういう方針にいろいろな対立を与えたり何かしていたわけですが、私は現在の外務省の人事を見ますときに、ほんとうに日本の外交が一番働かなければならぬところが、その配置の面で比較的軽視されておるような印象を受けるわけであります。それは大体働かなければならぬ近所の国というのはいなかみたいなところで、暑かったり、条件も非常によくないのですから行きたがらないのも無理はない。行きたがらないから、どこにも使い道がないと言っては悪いけれども、とにかくいわゆる優秀でない者が集まるというような傾向に私はなりやすいと思うのです。これは日本国民としてははなはだ残念なことである。外交官の優秀な者がそういう近隣の気候の悪い、しかし外交的には非常に重要な仕事の多いところに行きやすいように、また行かせるような方策をとる必要があると思いますが、外務大臣の御意見はどうですか。
  108. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 ただいまの御意見、全く御同感なのでありまして、われわれとしても最も重要な国、それは必ずしも遠近にかかわらず、あるいは大小にかかわらず重要と思いますが、これに対しては有能な方に行ってもらわなければならぬのであります。ことに日本といたしましてアジアあるいは東南アジア、中近東という方面には相当密接な関係もあり、非常に重要だと思うわけであります。そういう点についてはできるだけ在外公館を充実していきたい。それは量的にも質的にも充実するということが必要だと思います。ただそれを完全に遂行いたして参りますために、外務省の中の心持もそういうふうにかえて参らなければならぬと思います。それについては、現在それに反した気持を持っておるものはないと思いますけれども、なお一そうさらにそういう気風を醸成していきますことが、私の一つの任務だと思っております。同時に、やはりこれらの地方がともすれば不健康地であるという場合が多いわけであります。そして、在外使臣というものは相当長期にわたって一カ所に滞在するということが、外交を進めて参る上に必要だと思うのであります。そういう意味においては設備なりあるいは待遇なりの問題について、一そう改善をして参らなければならぬと思っておる次第であります。そういう点は財政当局その他にも十分理解を得てもらって、両々相待って今の御希望を達成するように努力して参りたいと思っております。
  109. 宇都宮委員(宇都宮徳馬)

    ○宇都宮委員 これで終ります。
  110. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 田中稔男君。
  111. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 まず総理にお尋ねいたしたいと思います。ブラウン記者とのインタビューの内容は、総理が全面的にこれを否定されたのであります。まあどっちが正しか、はっきりさせる証拠がないようでありますから、結局これは水かけ論に終るのでありますが、しかし一般の国民の印象では、岸総理がやはり不用意に、あるいはむしろ故意にやったのではないか、非常に危険な放言をされた、こういうふうに受け取っておるのであります。ジャーナリズムの一応良識を代表する朝日新聞も本日の社説において、「岸首相に直言する」という、こういう社説を書いております。さらにまた「天声人語」に至ってはずいぶんひどいことを書いて、一番最後に、「とてもこの国をこの人に任せられないと思う。」と烙印を押された格好であります。しかし総理が否定されますので、私はもうインタビューの一々の言葉にかかずらっておってもむだだと思いますが、それと関連いたしまして総理のお考えを若干お尋ねしたいのであります。しかし本論に入る前に一つお尋ねしたいのは、あらかじめブラウン記者の方から質問要項の提出も求めないで、そうしてああいうインタビューをやった。しかもそれを向うで筆記しておったと思うのでありますが、そのテキストに目を通して、そうしてオーケーを与えるというだけの措置もしないで、そうしてああいうふうに発表された。この間の経緯においては一国の総理として私はこれは非常に不用意であり、かねての総理に似合わぬソツがあったと思います。このことは私は日本にとって大きなマイナスだと思う。だからそのことについて一体総理はほんとうにまずかったとお考えになっておるかどうか。きのうあたりの本会議における御答弁の態度はまったく顧みて他を言う、白を黒と言いくるめる、そういう横着な態度であった。この委員会において一つそのことについて総理は一体どうお考えになっておるか御心境を伺いたい。
  112. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 きのうの本会議において私が申し述べました通り、私は従来から外人の記者やその他の人々にもたびたび会っております。その従来の先例の通りのやり方で、クエスチョニアをあらかじめ出させておいて質問の要項をとってそれに文書で答える、あるいは答えを用意してするとかいうふうなこともいたさなかったのであります。従来そういうやり方で別段手違いも生じておらなかったのでございます。通訳も私がそういう場合にしばしば使った通訳でありまして、今日まで誤まりを犯したこともなかったのでございます。ただこの問題に関していろいろ誤解を生ずるような結果になったということにつきましては、私遺憾なことだと思います。従って、将来の外人との記者会見等におきましてさらに一段と周到なる用意をもって臨まなけりればならぬというようなことは考えておりますけれども、特にこの場合において不用意なことをしたというわけでも実はなかったわけでありまして、ただ問題がこういうふうになってみますると、さらに注意をすべきものである、かように考えております。
  113. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 これはどちらがお答えいただいてもけっこうでありますが、現在進行している安保条約改定の交渉、これは一体大体いつごろまでに妥結に至るお見込みであるか。外務大臣なんかのお話によりますと、非常にスピーディにおやりになるようなお話もあったのであります。それが少し速度が落ちたように考えられる。私どもといたしましては、十一月にはアメリカの議会の中間選挙をやる、予想される結果は現在以上に野党である民主党が進出すると思うのであります。ダレス外交というものは世界中で不評判でありまして、あの力の政策、戦争せとぎわ政策というものは世界の平和にとって非常に危険なものである。従ってアメリカの国内にも良識がやはりだんだん勢力を得つつある。政界においてこれを代表するのが民主党であります。民主党が現在よりもっと大きな政治的な比重をアメリカの政界において占めるというようなことが、十一月の中間選挙の結果予想されます場合においては、そうしてまた来年一月からアメリカで新議会が始まる、このアメリカのそういう政界のいろいろな動き等も考えて、あまり交渉を急がない方がいい。どうせこの交渉というものは、今までよりもっと強く日本アメリカとの軍事同盟に結びつけるというような結果になることは、これは大体衆目の見るところであります。私どもそう思うのでありますが、政府は一体この交渉の速度なんかについてどういうふうなことをお考えになっておるのか、ちょっとお尋ねをいたします。
  114. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 今回の安保条約改定に当りまして当然議会の御審議を両国とも願わなければならぬと思います。議会の御審議を願うとすれば日本においては通常国会アメリカにおいては、来年一月以降の国会にかけられるのが一応の目標だと思います。従いましてわれわれとしてはこういう重要な交渉でありますから、必ずしも時を急ぎ、何か事をあせってやるという気持はございませんけれども、一応の目標としては、その程度に議会にお諮りできるようなことで進めて参りたい、こう思っております。交渉でありますから、今はっきり申し上げるわけには参りません。
  115. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 昨年の岸・アイゼンハワー共同声明の中にも「国際共産主義は依然として大きな脅威であることについて意見の一致を見た。」とあります。また先ごろの藤山・ダレス共同声明の中にも「国際共産主義が依然として世界平和に対するおもな脅威となっていることに意見一致した。」こうあります。盛んに国際共産主義の脅威ということが言われておるのでありますが、ブラウン記者が紹介した最近の首相のインタビューの中にもこういうことを言っております。まあこの内容は、あるいは総理は否定されるかもわかりませんが、こういうのであります。「ロシヤ人はわれわれの北、樺太島にいる。共産主義者は北朝鮮を握っている。だから朝鮮と台湾が共産主義者の手に落ちないことが、日本の安全にとって絶対に必要となるのである。」また別の個所に、「日本は台湾と韓国が共産主義者に征服されるのを防ぐためできる限りの、あらゆることをする用意をしなければならない。」こういうふうな言葉があるのでありますが、私は率直に言って、これは他国に対する内政干渉の危険をはらんでいるものではないかと思うのであります。戦前は日満支防共協定というのがあった。この防共協定日本が「満州」だとか中国に対する侵略政策を遂行するための一つの煙幕になったわけです。今度も盛んに共産主義の脅威を説くことによって国民を中国を目標とする日米軍事同盟の強化にだんだんと導いていく、こういう一つの効果がここにあるのじゃないかと思う。岸総理が熱烈な反共主義者であるということは、かねて私も承知しております。これは岸総理の御自由だと思う。しかしながら岸総理が内閣総理大臣をしておられるこの日本でなく、国を異にした朝鮮であるとか、あるいは中国であるとか、そういうところに共産主義が浸透すること、支配することを日本の安全のために絶対に拒否しなければならぬ、そのために努力をするというようなことを言っておられますが、こういうことをほんとうに真剣に考えて参りますならば、これはどうして毛他国への内政干渉になる。総理は一体その点はどうお考えか、そういう危険をお考えにならないかどうか。
  116. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私は私の思想的の立場、またわが自由民主党の政策立場から申しますと、はっきりと反共産主義立場をとっております。しこうしてこれが日本に浸透することは、私どもはあらゆる点においてこれを防いでいくという政策を一貫して持っております。そうしてこの立場から申しますと、日本の周囲において共産主義の国々の力が加わって強化されてくることは望ましくない、そういう立場をとれば、望ましくないことは言うを待たぬと思います。ただ今おあげになりましたように、私は決してこれらの国々、韓国や台湾等が共産主義化されないということを強く望んでいることはこれは事実であります。しかしそれに対して、何か私がこれらのところへ内政干渉をするというような意思はもちろん持っておりませんし、そういう意図で私は発言をしたのではございません。
  117. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 朝鮮を見ましても、北の方は建設が行われておるのに南はむしろ停滞がある、腐敗がある。それから国民の生活だって、北の方が明らかに向上しております。南の方は非常に貧困である、失業がある。中国に至っては、中国本土において今偉大なる建設が進行しておることは総理といえどもよく御承知であろう。総理が昔、戦前見られた中国とは全く一変しておる。総理は利口な人ですから、みずから中国に旅行なさらなくても大体中国がどういうふうに変っているかはおわかりだろうと思う。あのなくなられた村田省藏さんというような方でも、自分が四十年昔に見ておった中国と今の中国とは全く変って、人口六億を有する全然新しい国がぽっかりと日本の隣りにできたとでも理解しなければ、今日の中国の状態を理解できないとまで極言されておった。ところが台湾はどうか、そこにおるものは圧制と貧困である。そして結局は社会主義あるいは共産主義と自由主義との対決が行われておる。だから朝鮮人、中国人が一体現在の社会主義体制、共産主義体制をきらっておるとでもお考えになると、これはもうとんでもないことだと思います。それはその体制から締め出されている人、あるいはその体制に弓を引くような人は面白くないでしょうが、国民の九九%までは喜んであるのですよ。さらにまた、ソ連のごときは世界の二大横綱の一人でおって、十年もたったらあらゆる生産の部面においてアメリカを追い越そうとしておる。だから何か自由主義が善であり社会主義が悪である、資本主義が善であり共産主義が悪であると、そういうふうにきめつけてしまってはならない。しかもそれは他国のことですよ。他国の国民がどの体制を選ぼうと自由ですよ。そのことに関して、日本の安全と関連して重大な関心を示しそれを阻止しなければならぬ、日本共産主義がくるのを阻止するというならわかりますけれども、韓国や台湾に共産主義が入るのを阻止しなければならぬ、こういう考えは私は非常に危険だと思う。そこでこの際お伺いするのですが、現在は何といったってアメリカを先頭とする資本主義陣営と、ソ連を先頭とする社会主義の陣営と二つの陳営があるのです。二つの世界があるようなものです。今日一方の世界が他の世界を武力によって圧倒するというようなことができるかというとできやしません。軍事技術的にいってできやしません。だとすれば、好むと好まざるとにかかわらず、地球上に国を建てている国は、その体制の相違にもかかわらずやはりともに生きていかなければならぬ、平和共存をしなければならぬ、これは思想を越え、政党を越えて今日の世界の現実がわれわれに示している道だと思うのです、平和共存の道というものは。総理は一体この体制を異にする国家群が平和的に共存すべきだとお考えになるのか、一方の陣営が他の陣営を圧倒して、具体的にアメリカソ連を倒してしまって、世界を自由主義、資本主義体制で一色に塗りつぶした方がいいとお考えになるのか、これは非常に高度の話になりましたが、今日の世界のあらゆる問題を考える場合においては基本的な認識の問題だと思いますので、お尋ねいたします。
  118. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 世界の民族がどういう政治形態をとるか、あるいはどういう社会体制をとるかということは、その民族の自由であって、民族が考えていることにふさわしいものをとればいいのである、そしてお互いにそういうふうな政治体制や社会体制の組織が違っておっても、これはお互いが尊重し合って、この間に平和を作り上げていくということが望ましい、こらなければならぬ、しかし現実のわれわれが考えている国際共産党のやり方は、そういうことでないと私は認識しておるのであります。これは世界の平和に対して国際共産主義が一つの脅威を与えているということの認識でありまして、その考えを捨ててお互いがお互いの立場というもの、お互いの政治体制というものを尊重してそれには干渉しない、そしておのおのその民族の自由意思によって決定されていくということで世界が平和になることが私は望ましい、かように思っております。
  119. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 もら一ぺん確かめますが朝鮮が南北全部朝鮮人の選択において共産主義国家になり、社会主義国家になる、それからいつか台湾を含めて全中国が北京の支配のもとに共産主義体制になるといっても、それを日本として拒む理由はない、こら考えてよろしゅうございますか。
  120. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 問題は拒むとか拒まないと申しましても、日本がそれを拒んでみたところが、意味をなさないことでありまして、それはその国がやることであります。ただ私は今の国際共産主義のやり方から見て、そういう状態になることは日本立場として望ましくない状態である、こう思います。
  121. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 ブラウンに話された中に、朝鮮と台湾が共産主義者の手に落ちないことが日本の安全にとって絶対必要である、そしてまたそういうことを阻止するためにあらゆる用意をしなければならない、こう言っておられるでしょう。このブラウンに語った言葉は全然間違いと見ていいのですか。
  122. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 その通りの言葉を私は申しておりません。私の申しましたのは、今言っているように、日本の安全からいって、われわれがわれわれの安全保障の立場からいって、日本の周囲がことごとく共産化されるということは望ましくないことであるということは申しておりますが、今そのために何か用意するということは、もし万一そういうことになった場合においても、日本が国際共産主義の間接の侵略を受けないように、われわれは国内の態勢を固めていかなければならぬ、かように思っております。
  123. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 日本に対する間接侵略を阻止するということは、それはまああなたのお考えで自由だと思うが、中国や朝鮮が全部共産主義体制になった場合、それを阻止するために何か武力とか何とかを積極的に使うというお考えはないわけですね。
  124. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 そういう考えは持っておりません。
  125. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 侵略といいますと、いわゆる共産主義陣営の侵略というようなことは、少くとも最近の事実には見当らない。スエズを侵略したものは自由主義陣営に属するイギリスやフランスあるいはイスラエル、侵略とまでは言えないにしても、レバノンやヨルダンに大軍を派兵して、そうして中東の危機をかもし出したのは、これはやはりアメリカとイギリスの自由主義陣営の諸国です。台湾海峡の問題も、藤山さんはダレスとの共同声明で、あれは中共の武力行使が極東に重大な緊張を作り出したのである、こういうふうなことで意見の一致を見られたというのでありますけれども、私どもが得ておる情報によりますと、あれは中東において危機が生じた、これと呼応して、台湾の蒋介石の軍隊がアメリカの援助をたのんで、むしろ中国に対して挑戦的な行動をとった、だから問題は、八月二十三日の中国側の金門島砲撃以前にもうすでに問題が起っておる、こういうふうに私どもは聞いておる。これは私は事実だと思う。こう考えますと、今日侵略者は一体だれであるか、自由主義陣営に属する世界の大国なんです。ところが岸総理がブラウンに話された中に、台湾海峡の情勢は内戦ではない、それは共産主義の侵略に対する国際的な戦いである、こういうことを言っている。あくまで国際共産主義というものの何か脅威を大きく描いて、国民をおどかすという、こういう態度なんです。  そこで台湾の問題でありますが、アメリカ第七艦隊さえなければ、もうとうに台湾は解放されて中国本土と一体になっているわけです。これは中国の内戦なんです。内戦の自然的な進行をはばんでおるのはアメリカの第七艦隊でしょう。だからアメリカの艦隊が台湾や台湾海峡から撤退するならば、台湾問題は平和的に解決して、一切が解決するのです。ただそういうふうにアメリカが内政問題の自然的な解決を押えておる。だからアメリカと中国との間に国際問題はもちろんある。台湾問題の国際的な側面もあります。国際的な側面というものは、問題はアメリカだけなんです。私どもはこういうふうに理解するのでありますが、またこう理解することが私は一番正しいと思う。総理はそうお考えになりますか、お聞きしたいと思います。
  126. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私は世界の国際情勢の分析の上から見まして、田中委員とはいささか考えが違うかとも思いますが、今田中委員世界における侵略は自由主義の大国がこれを行なっているのだということでございますが、私は国際情勢はそう簡単には判断をいたしておりません。ハンガリーの事件やあるいは東独の問題等を検討するときに、そういう結論には私はならぬと思います。しかしいずれにしても東西両陣営が対立して、現在その緊張が続いておる限り、一つの不安があり、これを緩和することがわれわれに課せられている大きな世界平和の上の任務であります。それをあらゆる機会において推進していくというのが、先ほど申し上げました私どもの外交の根本でございます。そういう見地に立ってわれわれは台湾海峡の問題等、台湾をめぐるところの問題を、そういう視野に立って考える必要があると思います。  金門、馬祖がどこに属するか、あるいは台湾の帰属がどうなるかというような問題が、関係当事国の間において話し合いをされ、当事者の間において平和的に処理されるということにつきましては、これはそういう方法りで解決されることが望ましいのである。これが武力によって解決しようというような形に出てくるところに非常な不安が起り、またそれが一つの平和の脅威になっているというのが現実の姿であると思います。そういう意味において、関係当事国においてこれが話し合いによってきまらなければならないと私は考えているのであります。
  127. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 アメリカと違ってイギリスは、この台湾問題について比較的冷静であり正鵠を得た判断をしているようであります。だからこそ藤山外相はロイド英外相とこの問題について懇談されたと思います。その内容は藤山さんが否定されておりますけれども、私はおそらくロイド外相の良識として、少くとも金門、馬祖は中国に与えなければならぬというよりも、中国の領土の一部であるということを確認しなければならぬ、こういう考えであると思う。この際藤山さんにその点についてお尋ねしたいと思います。従来そういうことについて少しもお話がないのでありますが、できるだけこの問題にはっきりした御答弁をいただきたいと思います。
  128. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 私とロイド外務大臣との話し合いの内容そのもりについては申し上げかねると思います。ただ私は、各国のそれぞれのこの問題に対する歴史的な考え方、立場あるいは現状に対する認識等につき漢していろいろ聞いておきますことが、日本の今後の外交を推進して参ります上において非常に有益だと思いまし七、いろいろな角度からダレス長官とも話をし、またロイド外相とも話をいたしたわけであります。でありますからその意味においてロイド外相がいろいろ言われました点については非常に参考になると思っております。従って今後の外交を運営する上にも非常に有益な意見を聞いたということを申し上げておきます。
  129. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 はなはだ不満足ですが仕方ありません。  政府は中国に対して静観的な態度をとるということをたびたび今まで言われている。ところがブラウン記者に対するインタビューの中で総理が述べられたことは静観以上だ。静観的な態度をはるかに越えていると思う。中国貿易の代償として中国側は承認要求しておる、こういう言葉があります。そういうことに関連して、私は中国を非難する、コンデムという言葉を使っている。それは中国が朝鮮においてあるいはベトナムにおいて、さらにまた今は台湾海峡において侵略をやっている、こういうことですね。これも否定されているようでありますけれども、私はこれに似たようなことを言われたのではないか、これより少し軽い表現であっても、今までの中国に対してじっと見ているという態度に比べて非常に積極的であります。悪い意味の積極的であります。このことについて、一つ総理の御所信を承わりたい。
  130. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 日中貿易問題の質問に対しまして答えました私の答弁の内容は本会議において御説明申し上げた通りであります。これに対してブラウン記者から、日中貿易は国民が非常に要望しておるということであるが、これを進めるにはどうしなければならないかというような点に関する質問がありましたので、私どもは従来こういう方針できているのだという方針を明らかにしたのであります。そして中共に対してわれわれが政治的の立場を今現在のところにおいて承認ということができない理由は、台湾との日本が持っておる関係、並びに国際連合の一員としって、国際連合の決議の存する限りにおいて、そういうものが調整されすしてこれを一躍承認するというようなことは、私どもはまだ考えられない、こういう、従来私がしばしばこの問題に対して御質問があった場合に答えておると同様のことを答えたわけでございます。
  131. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 田中君、すでに時間が参りましたから、おまとめ願います。
  132. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 それは取り違えておられる。というのは、いわゆる佐多報告に基いて打ち出した社会党の中国に対する方針、中国側は非常にこれを高く評価しておるのでありますが、中国側の人民日報だと思いますが、あの中に、岸内閣においてもなお政策の転換さえすれば、中国側と再び友好関係を開き、貿易の伸展を実現することは不可能でないということを、相当多くの言葉を費して述べておる。だから、岸内閣に対して中国承認要求してはいないのです。そういうことじゃない。要するに二つの中国を作る陰謀、いろいろ今までやっておる岸内閣の中国敵視政策、そういうことが悪いというのでありまして、直ちに今中国を承認せよ、それでなければ貿易はやらぬ、こう言っておるのではないのであります。これは一つよく認識していただきたい。あなたがこういうふうに一種のデマに類することをおっしゃって、逆に中国を非難する、私はこれは総理としては非常に軽率だと思うのでありますが、もう一度これについての御所信を伺いたい。
  133. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私は通訳を使いましたけれども、英語の意味も一応は私も理解できるのでありますが、その会話におきまして、私自身も使っておりませんし、通訳においてもコンデムというような字は実際は使っておりません。これははっきり申し上げておきます。ただ、中共との関係につきまして今お話がありましたが、私どもは従来からもできるだけこの貿易の関係を進め、両方の友好関係を積み重ねていくという方針のもとに進めてきており、またその考えは今一貫しておるのでありますけれども、国旗問題に関連して、いわゆる国を承認する、これとの間に正式の国交を回復するというような考え方は、従来も持っておりませんし、今日のところもそれは持っていないという、一貫したわれわれの考えを述べたのであります。岸内閣の政策の転換ということを、いろいろ社会党の方からも要請があります。しかし、今二つの中国を作り上げる陰謀に加担しているというようなことは、私どもちっともそういう加担しておる事実もないのでありますし、あるいは軍事同盟云々の問題であるとか、あるいは核兵器の問題等のことにつきましては、従来私どもが明確に申しておることでありまして、これは日本の純粋の国内問題として私ども言っておるわけであります。これらの問題を通じて政治的の関係を開くにあらざれば、結局日中の貿易を円満に伸張することはできない、従来の社会党の考えを基礎にしなければ打開できないというようなことが、私は中国側の意向でもある、こういうふうに理解しておるのでありまして、そこに私自身の誤解があるなどとは実は考えておりません。
  134. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 現在の憲法のもとにおいては海外派兵はできない、こういうことを総理は言明しておられます。一方また総理は盛んに自衛の必要を説いておられる。アメリカとの集団的な自衛のために安保条約をさらに強化しようという、こういうお考えであるようであります。そうすると日本の自衛のために海外に派兵をするという場合はないか、たとえば今よく言われる共産主義の侵略とかいうもの、そうするとその基地である朝鮮あるいは中国、それをたたく、それが日本の自衛のために必要であるというようなことまで、岸総理の考えから論理的に私は導き出されるのではないかと思うのですが、そういうふうに日本の自衛のために海外派兵をするというようなことは起らないか、一つお尋ねいたしたいと思います。
  135. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 自衛のためにわれわれが持っておる防衛の力というものはあくまでも祖国の防衛のため、自衛のための力でありまして、これを海外に派兵というような形において用いるということは絶対に許されないことであると思います。集団自衛の問題は、御承知通り国連憲章等においても明らかになっておるように、やはり独立国である以上、個別的自衛、集団的自衛の権利が私はあるものだと思います。しかしながらそれがあったからというて直ちに外国派兵が可能になり、それが憲法に違反しないというような結論にはならないのでありまして、あくまでも自衛のためのわれわれの力は、海外に派兵するというようなことは憲法上許されておらないと考えております。
  136. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 時間が参っておりますから……。
  137. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 そうすると憲法を改正すれば、つまりかりに第九条を廃棄するならば海外派兵もできるのですね。そして総理は憲法の改正をしたい、積極的な改憲論者であると言われておる。改憲の動機はいろいろあると思いますけれども、一番大きいのは日本の自衛をもっと強めるためだ。そしてその自衛が、必要がある場合には海外派兵になる危険も私は十分にあり得ると思います。それじゃ海外派兵というようなことはやらないとお考えですか、それとも憲法がこれを制約しておるからやれないだけのことであって、憲法でも改正して、自衛のため必要だということなら海外派兵もやろうというお考えか、その点一つ絶対やらないのかどうか承わりたい。
  138. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私は憲法改正論者であります。憲法の改正をすることは、もちろんこれに対する意見はおのおの個人的に持っておることでありますけれども、しかしその憲法の改正の必要がありゃいなや、あるいは改正するとして、どういうふうに改正するかというようなことは非常に重大な問題でありますので、私は憲法調査会というものにおいて、十分一つそういうことを検討してもらうつもりで、審議を有識者に願っておるわけであります。その結論を得て、さらに法律の手続に従って、それぞれの考慮を進めていかなければならないということは言うを待ちません。現在の憲法のもとにおいてこれができないのみならず、憲法九条の改正におきましても、海外派兵というような意味における改正は、私一個の考えではそういう改正論は持っておりません。
  139. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 ブラウン記者との話の中で、国民感情が核兵器に反対しているんだ、そして日本国民は、共産主義よりも核兵器の方をおそれているんだ、こういうふうにおっしゃっている。そうすると、これは、国民感情を変えたら核兵器を持ち込んでもよろしい、また、持ち込みたいというふうにも、私は逆に考えられると思います。一方において、総理は、今までたびたび、核兵器は絶対に持ち込まぬ、また、核装備はしないとおっしゃっている。それではそのことについて、アメリカと単独の協定でも結んだらどうかとたびたび社会党が質問しましても、それについては、やろうとはおっしゃらないし、また、今度の安保条約改定においても、核兵器の持ち込みを禁止するという明文の規定を設けようというお考えもないように伺っている。そうすると、総理の核兵器持ち込みはやらぬという言明は、ほんとうに国民が信頼をもって聞くわけにはいかぬと思うのです。国民感情は核兵器に反対しておる。だからその国民感情をだんだん緩和していくというような方法を講じながら核兵器を持ち込むというようなことをお考えになっておるのではないか。また、共産主義よりも核兵器をおそれているといわれたことは、共産主義の脅威を大きく説くことによって核兵器の危惧をだんだん国民の間に弱めていく、こういうふうなお考えも私はあるのじゃないかと思うのですが、こういう問題についてのはっきりした御答弁を願います。
  140. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私は、核兵器の問題につきましては、しばしば国会において言明しております通り日本の自衛隊を核兵器でもっては武装しないし、また、アメリカ軍の核兵器の持ち込みに対しても、これを拒否する方針であるということを明確に申してきております。またそれは、現在においても、少しもその考え方に、変っておりません。私がそういう表現をいたしたことは、私一個の考えではなくして、今日本の国民は、思想を超越し、政治的立場のいかんを問わず、こういう核兵器に対しては強い考えを持っておる。これはほかの民族においては想像のつかないものであろうと思うけれども日本国民は、あげて国民感情としてこれに対する非常に強い反対を持っておるのだということを私は述べたのであります。そうして、日本国民の大多数はやはり共産主義というものをきらっておるけれども、それよりも、なおこのなにについては強い反対の考えすら持っているということを私は申したわけであります。その言葉通りのことであって、それ以上の意味ではございません。
  141. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 与党である自由民主党の中に、むしろ積極的に核兵器でも何でもどんどん持ち込ましたらいいという議論があるのです。その代表的な論者として吉田元首相がある。これはUPI記者とのインタビューで、共産主義の危険と戦うためには原水爆で装備すべきである、日本に核兵器を入れないとかなんとかいうことは愚かしい限りである、こういうことを言われておる。そうすると、自民党の中における岸総理の大先輩である元首相の吉田氏、こういう談話は総理としては絶対に間違いである、こういうふうに否定されると承わってよろしゅうございますか。
  142. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 その談話そのものがなされたかなされないか、あるいはその内容が違っておるかどうかということは、私全然関知しておりませんし、あるいはわが党の中に、そういうものを持ち込めというような議論があるか、私はまだ聞いておりませんけれども、あるかもしれませんけれども、私の方針はさっきはっきり申し上げた通りであります。しこうして、それは自由民主党も、私の声明をそのまま是認しております。
  143. 田中(稔)委員(田中稔男)

    ○田中(稔)委員 最後に一つ。最近横浜と新橋で中華人民共和国の国旗侮辱事件が二度にわたって起っております。長崎の国旗事件の跡始末もまだついておりません。引き継いで起ったこの二回の国旗侮辱事件について、政府に責任がないとは言えないと思う。これに対する政府の態度といいますか、あるいはその対策を一つできるだけ詳細に御説明願って私の質問を終りたいと思います。
  144. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私は、これらの事件はきわめて遺憾なことであって、これが実情を十分に検察当局で調べさせまして、これに対しては法規をもって厳に処断するつもりでおります。
  145. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 松本君に申し上げますが、途中であるいは時間があれするかもしれません。松本七郎君。
  146. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 この前の本会議でわが党の淺沼書記長が、安保条約改定問題について、社会党の基本方針である解消について質問したときに、総理は、この社会党の方針は非現実的である、こういう答弁をされた。答弁の中でそういうふうに言われておる。これは、私どもに言わせれば誹謗であると思う。私どもは、安保条約ができた当時の、敗戦と、それからその後の占領状態、当時の国際情勢その他から考えて、また、今日のアメリカの極東政策、対日政策、安保条約に対する態度、こういうものを詳細に検討した結果、現在アメリカがこの安保条約改定問題にどういう態度で臨んでおるか、そういうところから、今政府がやろうとしておる改定はなかなか改善にはならない、そういう困難な条件のもとにある、必ずこれは改悪に陥るおそれがあるという結論に基いて、しかるがゆえに、解消を目標にしたものでなければだめだという結論に到達しているわけであります。ですから、これを総理が一言のもとに非現実的だ、こう誹謗される態度は、私どもは正しい民主的な討論、議論を通じて事の真相を国民の前に明らかにしようというルールに反すると思う。ですから、今政府のやろうとしておる安保条約改定問題については、それは外交交渉ですから、中には言えないこともあるかもしれない。しかし、やはり政府の考えなり基本方針を最大限明らかにしてもらって、それに対して社会党は、この改定問題がどうして危険をはらんでおるかということを一々ここで具体的に討論しながらこの真相を国民の前に明らかにしたい、こういうふうな考えなんです。これは相当時間もかかりますから、本日は十分な時間もないのですから、詳細な質疑応答はとうていできないと思いますので、簡単にいたします。いずれゆっくりこういう問題について、詳細にここで議論をかわしたいと思いますから、総理もお忙しいでしょうが、十分時間をさいて、外務委員会ではこの問題で積極的に出席していただくように冒頭にお願いしておきたいと思います。  ます第一にお伺いいたしたいのは藤山外相がこの間ダレスに会われて、この改定問題でいろいろ話し合いをされたわけですが、果して具体的にいろいろな問題点についてある程度ダレスと話されたのですか、あるいは改定についての話し合いを今後開始するということについての了解だけをとられて、具体的な問題は一切マッカーサー大使との折衝で始まる、こういうことなのか、あるいは幾らかでも具体的な問題点についての話し合いはダレスとの間でされたのかどうか、この点をまず初めに伺っておきます。
  147. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 先般のダレス国務長官と私の会談は、安保条約改正ということが日本の国民の多くの希望であり、また日米間の紐帯を現行安保条約のいろいろな不備のために阻害することはいけない、従って改正をしたいんだということを申し、同時に議会の論議を通じてわれわれが知っております範囲内の程度のことは、改定を必要とするわれわれの考え方を申したわけでありますけれども、ダレス長官とその席で討論をしあるいは一定のあれをしたわけではないのでありまして、細部にわたりましては今後の交渉によってそれらの問題を討議していくということでございます。
  148. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 その会談後帰国されてからの御報告の中に、アメリカは非常に岸首相個人に対して信頼感を強めておる、こういう報告があったように聞いておるのでありますが、この点は事実かどうか。それから岸さんのどういうところにアメリカは最も信頼を寄せた原因があるか、外相はどう判断されるか。
  149. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 率直に申しまして岸総理に対する相当の信頼感はあると私は存じております。それはおそらく自由民主党の選挙を通じての結果と、また昨年アイゼンハワー大統領と総理が会談されました当時の総理の態度なり、そうした問題から総理に対する信頼感を深めておるのではないか、こう思っております。
  150. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 これはブラウンが報告に書いておりますが、日本国民の反対論を無視した非常に大胆な態度、私はあれは非常によく物語っておるんではないかと思う。今の日米の関係をそういう態度で接せられるから、アメリカが大いに岸さんに信頼感を寄せたんだろうと思うのです。このブラウンの問題についてはけさも岡田宗司国際局長から質問をされたわけですが、その中でテキストはもうすでに見られたということですが、きのうの本会議での御説明にもあったように、首相の真意と相当違ったブラウンの報告であるということは依然間違いないでしょうか。
  151. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 ブラウン君の吹き込んだテープのいわゆるフル・テキストを私は今朝来よく検討いたしました。さらにニューヨークにおいてオッキーフと対談したテキストもこちらになにしまして、これも検討いたしました。サンフランシスコでブラウン君が吹き込んだテキストの用語と、それからオッキーフ記者との対談において使っておる言葉との間には少し違うところもあるようでありまして、ニュアンスは多少ニューヨークの方がやわらかなようなニュアンスが出ておるようであります。いずれにいたしましても私がブラウン君との会談において――会談内容としては昨日来の本会議あるいは先刻来ここでお答えを申し上げておる通りでございまして、それとこのブラウン氏の吹き込みとしてこちらに報告されており、またそのフル・テキストを見ましても、ニュアンスの違っておるところは多々あります。私は全部をことごとく否定しておるのではございませんで、その重要なる点数個所につきましては、私が本会議で御説明申し上げたような内容でございますから、その点においては先ほど来言われておるように、食い違いがあることは事実でございます。
  152. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 けさの参議院での答弁でも憲法第九条の廃棄という言葉は絶対に使っていないという答弁をされております。それから先ほども再度出てきたのですが、中共は金門、馬祖を侵略している、アイ・コンデム・レッド・千ヤイナということも使ってない、こういうことを言われるのですね、そうするといやしくもそれは外人記者との会談の仕方、そういうことについては手落ちもあったことを認めておられますから、その点はここではもう繰り返しませんけれども、こういう重要な内容について岸総理の真意と全く違ったような報道をNBCがやったということは、これは一岸さん、あなたの信用の問題じゃないと思う。やはりこれは国際的に非常に大きな影響があるのです。これによって現実に日本国民が不利益を招く結果もあり得るわけです。現にこれから私は特に中国の日本に対する態度、岸内閣に対する態度にも響いてくると思うのでございますが、そういう現実の重大な不利益を招くような、このようないわば歪曲か誤解か、誤解だとすればこのような重大な誤解を招くような説明の仕方をされた岸さんの責任になるのです。まずその点を伺っておきたいのは、フル・テキストをあなたは検討されて、あのときにこういう表現を使ったのは悪かった、こういう言い回しをした方がよかったというような点が重要な点でございますでしょうか。
  153. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私はしばしば繰り返して申し上げておる通り、私が国会の本会議説明したような考えのもとに、またああいう内容でもって話をしたのでありまして、それがどうして廃棄という言葉になったか、私は改正論者であるということは明確に申し上げたことはございます。そうしてその改正の中には憲法九条も含めてこれを再検討して考えていきたいということも、言ったことは確かであります。しかしこの規定を廃棄するとは私は申しておりません。それから中共に対しての考え方は先ほど来申し上げた通りでありますが、これはやはりコンデムというような言葉は使っていない。これは翻訳もそういう翻訳をいたしておりませんし、私も使ってはおりません。ただ全体をごらんになりますとあるいは私が中共を非難した、こういうふうな印象を持ったのかもしれません。私は内容としては先ほど本会議説明した通りのことを説明しているわけでありますが、そこにフル・テキストに用いておる言葉との間に違いがございます。これが誤解に基くものかあるいは翻訳その他のなにが悪かったものであるか、あるいはブラウン記者の印象としてそういう印象を得たのであるか、その辺のことはいずれかまだわかりませんけれども、しかしフル・テキストと私の話したこととの間には相当な違いがあるということは事実でございます。
  154. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 これはいずれにしても通訳の間違いだとかあるいは相手がそういう印象を受けたというようなことでは、これは首相みずからの重大な責任になってしまう。とにかく結果は非常に大きな国際的な反響を呼び、日本に対しても現実に不利益を招いてくるのですから、もし事実と違った、岸さんの真意をあるいま故意に曲げたか、あるいは誤解に基くか、その原因は別として、結果において全然真意と違った。さっき言われているように金門、馬祖に対する侵略をやっておるとは言わない、こう断定されるのですが、ところがこの問題は、アメリカ側は中国は金門、馬祖を侵略している、侵略者と断定している。中国は内政問題だとして、今意見が対立しているのです。そういう重大なときに、あなたが侵略者とは言わないと、あとで弁解しなければならないような表現を使われ、あるいは相手が歪曲したにしても、これを侵略者だと岸さんが断定したという報道をすでにやったということは、今後日本国民は大きな被害をこの問題でこうむることになるのです。ですから私は日本国民の名において、岸首相は当然NBCに対して、このブラウンの報告の取り消しか、あるいは訂正要求をすべきである。あるいはそれでは足らぬかもしれぬ。やはり重大な損害をこうむるのです。これは現実に物心両面の損害をおそらくこうむると思います。そういう強い態度で、ブラウンも近くまた日本に来るそうですが、対決をされて、そして事態をはっきりされるように、国民の名において要求するものでございますが、いかがでございましょうか。
  155. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 今御指摘になりましたように、事がこういうふうになってきますと、きわめて重大であることは私もよく承知いたしております。そこで、私は責任を持って私の会見内容を明瞭に本会議を通じて国民の前に明らかにしたわけでございまして、これは内外に明らかにしておるところであります。さらに取り消しとか、あるいは訂正とかいうような問題に関しましては、なお検討した上において善処したいと思います。
  156. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 そういう点を強い態度で明らかにしてもらいたいことを要望すると同時に、本会議で弁明されるとか、そういうことだけでなしに、今後は、このブラウンの報告で曲げて報道されておることについては、そういう誤解を国際的に招かないように、行動をもってもう少しはっきりしていただく必要のある個所があるのです。たとえば、以前から問題になっておる核兵器の持ち込みの反対にしましても、やはりそれだけの強い態度があるならば、米国と日本が特別の協定を結んで、持ち込まないということをはっきりそこに約束させる、少くともそういう要求を出すだけでも――アメリカは受諾しないかもしれません。しかし、こういう協定で約束すべきであるという要求を岸内閣でなさったならば、これはやはり岸さん自身の真意を明らかにする、非常に有効な手段になると思うのです。そういう行動をこれから積極的にとっていただかなければ、私はなかなかブラウンのこの報告の及ぼす被害というものを、防止することはできないと思う。それから、日本の自衛隊も核武装しないということ、しばしば言っておられます。それならば核非武装と、持ち込み反対の決議案を国会で全会一致でやる。そしてこれに対して岸内閣として、全面的にこれを実施するという宣言を内外に向ってやってごらんなさい。これは大きな影響があるし、この間違って報道されておるところの事態を、明らかにするのに役に立つと思うのです。これに対する考え方を伺っておきたい。
  157. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 核兵器の問題についてのブラウン君との会見内容は、大体において私の申したことと違っておらないのであります。今のお話のように、いろいろな問題についてブラウン君が報道していることと、私の国会を通じて明瞭にしたこととの間の違いについて、これを国民に納得せしめるためには、できるだけ行動をもって示せというお話につきましては、私もできるだけそういうふうに努力したいと思いますが、核兵器の問題については、先ほど申し上げたように、私の言ったこととブラウン君のなにとは違っておりません。従って、今お話のようなことをするかしないかということは、これとは関係なしに、別に考えるべき問題である、かように思っております。
  158. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 それから安保条約改定の内容に入るわけですが、内容については、具体的な点は相当方々から質問されて、しかもそれに対する基本的な考え方すら明らかにされておりませんから、あまり繰り返したくないので、別な角度から少し伺ってみたいと思います。  第一は、現在の安保条約の一番の核心は、日本の要請によってアメリカ日本の防衛に当り、従って日本に基地を設け、アメリカの軍隊がここに駐兵するということが、一つの特色になっているわけです。日本の要請によってなされているということが特色です。そこで、日本の要請によってなす場合と、それから普通相互防衛条約になされているように、両方が独自な立場から、合意によってやる場合とでは、同じ基地を設けるにしても、あるいは駐兵するにしても、それが被駐兵国の義務負担という点からいえば、私は違いがあると思うのです。日本側が要請して、どうぞ来て下さいと言って駐兵をした場合には、これは、おれの方はこれだけの義務を負っているから、お前ももう少し義務を負えという要求はなかなかしにくいわけです、こちらが招いているのですから……。ところが、対等な立場でお互いの防衛の義務を負うといって、合意のもとになされる場合ならば、これは駐兵即被駐兵国の義務負担ということであって、これに対応する義務を相手方に要求するさとができることになってくるわけであります。その違いをいかに今度の改正の中に生かされるおつもりであるか、原則論でございますが、伺っておきたい。
  159. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 われわれはできるだけ対等の立場で、対等の権利義務を持つように考えていきたいというのが、基本の考えであります。しかしながら御承知のように、われわれはいかなる場合においても、外国に派兵してこの義務を果すということはできないのであります。ここに、いろいろ今まで行われている相互的な防衛条約等と、日本の場合においては違った事情があると思います。これらのことを考えて、私どもは今後できるだけそういう制約のもとにおける、両者の権利なり義務なりというものを、平等な立場に持っていこうというのが根本の考え方でございます。そして、言うまでもなく、基地を与えるとか駐留を認めるとかいうことは、両国の完全なる合意のもとにできなければならぬことでありまして、今要請したから直ちに一切の義務はこっちで負担するが、そうでない場合において、一切それに伴うところの義務は負わないというふうに、割り切って考えることは、私はむずかしいことだと思います。
  160. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 一切じゃないですよ。要請して外国の軍隊が来た場合と、そうでない場合とでは、日本の義務負担の程度に違いがある。従って、今度条約を改定しよう、あるいは新条約締結されようとしている岸内閣としては、この安保条約の一大特色である、日本の要請によって防備をお願いしているという、この基本的な立場を変更される意思があるかないかということです。
  161. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 私どもは、この安保条約の改定は、できるだけ対等の形において、日本の自主性を明らかにするということを一つの根本原則にしております。従いまして、従来の安保条約のごとく、全然日本が防衛力を持たない、従って、われわれの方からすべて要請してなにする、こういうような条約の建前はとらないつもりであります。
  162. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 そこで、いわゆる日本の軍事力が問題になるのでございますが、藤山外務大臣は、向うに行かれた場合に、ダレスといろいろ懇談された中に、日本の現在の軍事力に対して、アメリカは果して満足しておったでしょうかどうでしょうか、この点いかがですか。
  163. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 その問題については、私はグレスと特に協議をいたしません。
  164. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 そうすると、岸内閣としては、この自衛力なり日本の力を漸次増強していくという方針である、そうしてそういう新時代に即応して安保条約を改定するというわけであるにかかわらず、肝心の点においてアメリカとは、日本の自衛隊の力あるいは装備その他については、何らの話し合いがいまだなされておらない、こう了解していいのですか。
  165. 藤山国務大臣(藤山愛一郎)

    ○藤山国務大臣 私は安保条約改正の理由を申し述べますときに、当時安保条約ができたときに日本には自衛隊がなかった、その後自衛隊ができてきて、そして満足ではないかもしれないけれども、とにかくある程度の数と、ある程度の質のものができつつある、それは今日と七年前と事情が違っているのだということは説明をいたしました。しかし向うが、何か軍事的に日本の自衛隊の価値その他について論評したことはございません。
  166. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 それからもう一つ大事な点は、いわゆる配備についての事前協議ということが問題になっているわけです。これはアメリカの方でも、今まで私どもの得たところでは、軍の配備についての事前協議ということは、近代戦の特色からしてもむずかしいのではないかということを言われておるのですが、われわれが重要な問題として考えておりますのは、軍の配備等についての協議よりも、今の安保条約で言えば、さっき大西さんも指摘しておったように、第一条で、極東における国際の平和と安全のために今米軍が出動できるようになっておるわけです。ですからそういう平和を脅かしておる、現に平和が脅かされておるかどうかという情勢判断、言ってみれば、統帥事項について両者の協議がなされなければ、私は現に配備をどうするかということで協議をするのでは、すでににおそいと思うのです。特に今日の近代戦の時代には、おそらく宣戦布告というような余裕はないでしょう。作戦計画が即宣戦布告というようなことになってくるだろうと思う。そうすると昔で言う統帥事項というものについて、やはり事前協議し、あるいは協議では足りないかもしれない、拒否権を持つというような原則をここに確立するのでなければ、いかに表面は事前協議というようなことがうたわれても、肝心な点でずるずると引っぱられざるを得ない状態になるのではないか、この点について、非常に根本的に大事な点ですから、総理から態度を明らかにしていただきたい。
  167. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 現行の安保条約では御承知通り配備や使用等につきましても、一方的にできるような規定になっております。昨年私が参りましたときに、この安保条約から生起する各種の問題を、両国の利益と国民感情に合致せしめるように運営していくために、安保委員会というものを作ろうということで、安保委員会ができまして、いろいろな配備、使用の問題についても緊急やむを得ざる場合を除いてはこれを協議しようということになって今日まできております。従来配備という中に装備が入るか入らないかということも、ずいぶん国会で論議されたことであります。われわれとして非常に関心が深いのは、われわれが知らないうちに日本が戦争のうちに引き込まれるような危険が、現行の安保条約においてはありはしないかという一つの疑問でございます。これらの点についての国民的な気持や、ほんとうの日米の間の協力というものを密接に運営していくという意味で、今の安保委員会ができておるのでありますが、将来の、われわれが作ろうというこの条約におきましては、少くともこの安保委員会の設置された理由や、設置後における運営の実績等にもかんがみまして、私はできるだけ事前協議ということをすることが必要である、かように思っております。もちろん今のお話のように、これは安全保障の問題だけじゃなしに、そういうふうな条約ができますと――できないときでもそうでありますが、できればなおさら両国の首脳部の間には十分各般の情勢の判断なり、情勢の推移ということについて打ち合せが行われなければならぬことは言うを待ちません。今度の改正の原則の一つとして申しております信頼と理解の上に立つところの両国の協力ということが、非常に強く言われておるのでありますが、そういう意味から申しましても、そういう点は今度の条約においては十分考えていかなければならぬ、こう思っております。
  168. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 それは今お話のように、両国の首脳の間では統帥事項についてもいろいろな協議が当然あると思います。けれどもそれは、首脳の間でなされるのは秘密のうちになされる場合が大部分で、これを公けにされることはない。ですからやはりそれはアメリカと台湾とか、アメリカと韓国というふうに、ほとんど利害関係の一致しておる場合にはそういうことをわざわざ規定しなくとも、統帥事項に対する協議あるいはそれに対する拒否権というようなことを規定しなくても問題は起らないかもしれないが、今日の日本の国際場裏における微妙な立場、複雑な利害関係から言えば、私はそう簡単にアメリカと何もかも一致するというわけにはこれからいかなくなると思います。そういう情勢を予測するならば、やはり大事な統帥の事項については事前に協議して、そうしてそれに対して日本は拒否権を持つというような規定を、はっきり新しく改定される安保条約には挿入すべきであると思うのでありますが、この点はもう少し明確に御説明願いたいと思います。
  169. 岸国務大臣(岸信介)

    ○岸国務大臣 今お答えを申し上げましたように、そういうことが十分に円滑にいかなければならないということは、私も同感でありますが、そういう今おあげになりましたようなことを具体的に条約に書くか書かないかというような問題については、十分に検討してみなければ、私がここでそれに対する回答を申し上げることは適当でないと思います。
  170. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 松本君、大体時間が参りましたからおまとめ願います。
  171. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 それではまたいずれ別の機会にゆっくりしたいと思いますが、ちょっと最後に、米韓相互防衛条約においては、防衛の範囲の中に沖縄、小笠原は入っておるという解釈を日本政府はとっておるでしょうか、この点を伺っておきます。
  172. 高橋(通)政府委員(高橋通敏)

    高橋(通)政府委員 この点につきましては、アメリカと韓国でありますが、その条約にはその条文上明らかに小笠原、沖縄は入るような文言でございます。御承知だと思いますが、台湾になりますと、多少その点が疑いが持たれるような書き方でありますが、われわれといたしましては入るものであろうと考えております。
  173. 松本(七)委員(松本七郎)

    ○松本(七)委員 そうすると、はっきり米韓の場合には防衛の対象になる。今度は米日の間でこれを取り扱う場合に、万一沖縄、小笠原を対象にした場合に、両方の意見が食い違う場合がある。米韓の決定と、それから米日できめようとしておることに対して、アメリカは同じく共通しておるのだから意見は米韓同じかもしれないが、危険の切迫その他について日本だけが意見を異にする場合があるわけです。ですからそうなると、日本の意思に反して米韓の条約が発動される。そうして沖縄の防衛ということが始まる。そうすると、アメリカは韓国との間で防衛に乗り出すという決定をして行動をとるのですから、アメリカは問題ないとしても、日本が、まだその必要はない、そういう緊迫した事態ではないという判断を持った場合には、日本の意思に反してアメリカがどんどん行動を起すということになるわけです。そうすると、当然日本に置かれておる基地その他にいろいろ複雑な問題が出てくるのですから、今沖縄、小笠原を含むか含まないかという答弁をすぐ求めるのではございませんけれども、これはよほどそういう点を慎重に考慮しておいていただかないと、草案だけできた、調印ができた、これでいいと思っておったのがとんでもないことになる問題をたくさん含んでおるということを、私は特にここで強調しておきたいと思う。今後こういう問題をいろいろこの委員会へ出しまして、そして岸さんの意見もやはり事前に少し御披瀝願っておきたい。そうすれば、私どもも、再度、果してわれわれの考え方が正しいのか、あるいは思い過ごしか、そういう点についても、十分反省もし、検討もして、そうしてほんとうに日本のためになるような方向に持っていくために協力したいと思う。今のところ私ども改正と口では言うけれども、また国民一般には改定々々というから、何か改定さえすれば今までよりもよくなるのだという断定が、だんだん空気として出てきつつあるわけです。これはやはり私は危険だと思う。岸さん自身もこの改定なら今よりもいい、マッチ・べターだと考えられるかもしれない。それはいろいろの角度から見た場合は誤まっておる点があろうと思う。ですから、今までのような態度でなしに、もっとざっくばらんに、基本的な問題はどんどん出されて、そうしてあなた方の考え方を積極的に国民に納得させるという態度に一つ出て、今後の審議に応じていただきたいということを強く要望いたしまして、質問を終ります。
  174. 櫻内委員長(櫻内義雄)

    櫻内委員長 本日は、これにて散会いたします。     午後四時五十二分散会