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栗山良夫君 私は、ただいま
議題となりました
経済基盤強化のための
資金及び
特別の
法人の
基金に関する
法律案に対し、
日本社会党を代表いたしまして、強く
反対をいたすものであります。
以下、その
理由をあげて、
問題点を明確にいたしたいと思います。
まず第一に、この
法案は、すでにその
必要性を喪失いたしておるということであります。この
法案に対する構想が、
岸内閣の手によって決定せられましたのは、昨年秋のことであります。
政府の
財政経済政策の
見通しの誤まりから、
神武景気に酔いしれておりまする間に、急転して、
国際収支の
バランスが崩壊いたしましたその直後に、いわゆる
経済引き締め政策の一環として取り上げられたことは、
諸君の御承知の
通りであります。当時から今春の
通常国会を経て今日に至るまで、極端な
引き締め政策の
犠牲に供せられた
国民は、
国際収支の
バランスの
回復のために、歯を食いしばりながらも
協力を要請されたのであります。しかるに、幸いにして今日、
不況にあえぐ
悪条件下にありながらも、
国際収支は完全に
バランスを
回復いたしました。
国際収支は、一億五千万ドルの
黒字予想が、二億五千万ドルと言い、あるいは三億ドルという伸びを
見通し得るに至ったのであります。ですから、かねての
約束の
通りに、
不況の
原因である供給過剰を調整するために、適切な
有効需要を喚起すべき時期にきておるのであります。
政府も、
不況が底をついたことにつきましては、本
特別国会において、
衆参両院を通じてしばしば明らかにせられたのであります。それのみではございません。公定歩合の引き下げはすでに断行せられ、また、明三十四年度には七百億円の減税を公約いたしまして、
有効需要の喚起に踏み切られたのであります。まさに
経済情勢の好転についての自信がなければ、かくのごときことを行い、また、公約することは困難であったでありましょう。
通常国会以来
主張し続けましたところの
日本社会党の
主張の正しさは、まさに現実がこれを証明しようとしておるのであります。
自民党は、さらに一段と野党の
主張に耳をかすの襟度を示すべきではなかろうかと思うのであります。
岸首相は、来たるべき
臨時国会には、
通常国会との一体的な関係において、万般の
施策を整えてこれに臨まんとされておるようでありますが、
政府は、この際冷静に、率直に、また面子にこだわることなく、この事態を正視すべきであります。各方面の
良識は、
景気回復の
措置は順を追うて行うべきものと指摘をいたしておるのでありまするから、来たる
臨時国会においては、まず、本
法案に予定せられておりまする
資金及び
基金の取りくずしを行い、一方においては、
中小企業、
農漁村、
勤労者の
対策について、それぞれ
一般予算をもって補正すべきことを
主張するものであります。
第二に、この
法案は
看板に偽
わりがあるということを申し述べなければなりません。すでに述べました
通り、この
法案をかりに必要とした時期が過去にあったといたしましても、今日においては、
日本経済の
強化のためには、全く
有害無用のものであります。ただ、今の一番重要なる問題の一つは、
不況を克服いたしまして、
国民生活の
動揺混乱を阻止するために、民生安定の
施策を急ぐことであります。そのためには、
中小企業の不景気を克服しなければなりません。
失業の責苦のため
一家心中にまで追い詰められております多くの
勤労者を救い、
完全雇用べの道を開くことでなければなりません。また、
生産費やその所得に対して、何らの保障を与えられていない前時代的な
農山漁村の
経済的苦悩を取り除かなければならぬのであります。このためこそ
経済基盤の
強化を必要とし、適切なる
施策を要求しておるのであります。
しかるに、去る六月二十七日の
衆議院本
会議において、
内田常雄君は、
自民党を代表して
賛成討論に立ち、次のごとく
主張されたのであります。すなわち、この
法案を否定することは、
予算の
出資を受けて新たな活動を開始せんとする
農林漁業金融公庫や
中小企業信用保険公庫を通じて、その
恩恵を受けることの一日もすみやかならんことを待望しておるところの、
全国の
零細農家や
中小企業の希望をじゅうりんすることになると述べ、
自民党席からは、これに
拍手をもってこたえたのであります。しかしわれわれは、このような
自民党の
ごまかし政策には、断じて迷わされるものではありません。
なぜならば、本
法案の半ばを占めるところの
農林漁業金融公庫を初め、五つの
特別法人に予定されております
基金、すなわち
一般会計より繰り入れされるところの
基金は、二百十五億円でありまするので、この二百十五億円が、そのまま
農漁村や
中小企業の血となり肉となるがごとく宣伝に努めているのでありますが、実は、この二百十五億円は、
資金運用部に
預託をせられまして、その
利息年十億円
程度を
支出するにすぎないのであります。いわば、
一般会計でも容易に
支出のできる十億円
程度の金、零細な
補助金的性格の
支出をもって
国民の目をおおい、
恩恵の
押し売りをやろうということにすぎないのであります。実に手の込んだ大げさな
行政措置でありまして、牛刀をもって鶏を裂くとは、まさにこのことであります。(
拍手)
財政法第四十四条について、その
違法性が追及されておるのも、このためであります。しかもです、四百三十六億円の
資金及び
基金は、あげて
資金運用部に
預託をせられ、その
運用は、
政府の
自由裁量にゆだねられておるのでありまするから、結局、
鳴りもの入りで
中小企業や
農山漁村に
恩恵の
押し売りをいたしながら、間接的に大
企業中心の
財政融資の
財源に回ることは、火を見るよりも明らかであります。全
金融機関の
昭和三十二年度における
中小企業向け貸し出しの増減を、
昭和三十一年度に比較いたしますると、四六%の大幅な減少であります。にもかかわらず、
中小企業以外の貸と出しは、逆に一八%の増加となっておるのでありまして、いかにうたい文句を巧みにいたしましょうとも、もはや生きるか死ぬかの苦闘を続けておる
農漁村や
中小企業者、
失業に悩む
勤労者の目をおおうことは不可能でありましょう。真に
中小企業者や
農漁村の
経済的苦悩を理解し、また、
勤労者の
生活の不安を解消させるための熱意と
良識とがありまするならば、本
法案そのものをたな上げをいたしまして、来たるべき
臨時国会において、
不況克服を
中心とした
経済の
振興政策を誠実に実行することでなければならぬと思うのであります。(
拍手)まさに本
法案は、
看板に偽
わりがあるのであります。
うどん紛をもって胃腸の特効薬と断ずるがごとき本
法案は、
国民大衆からすれば、まさに
経済基盤弱化法案とも言うべきものであります。
第四には、
政府の
輸出振興政策に多くを期待し得ないということであります。
政府は、
不況を克服し、
日本経済の
安定成長を期するための唯一の
政策として、
輸出の
振興策をあげておるのであります。これが今
国会においても、
政府が一貫してとられた態度であります。ところが、現状におきましては、
輸出の
振興などとは、全くおこがましい次第でありまして、本
年度輸出三十一億五千万ドル、
輸入三十二億四千万ドル、
貿易外収支の
黒字一億五千万ドルの見積りに対して、ただいまでは、
輸出は二十八億五千万ドル
程度、
輸入は二十八億
程度がやっと見積り得る
最大限度だと言われているのであります。当初の
予想に反し、
貿易の規模は一〇%
程度の縮小となるのであります。こういう工合でありまするから、
政府が文字
通り輸出の
振興をはかろうとするならば、命がけの決意と、そうして
努力の
約束、実行がなければ、
国民の理解と納得を得ることは困難でありましょう。
しかるに、
輸出の
振興を口にしながら、その行わんとするところは、
貿易金融の
緩和対策、
輸出商品の
国際的水準べの
質的向上、
過当競争の排除、
海外市場調査とか、十年一日のごとく、悪く言うならば、ばかの一つ覚えのごとくに、主として
貿易に関する
手続問題の範囲を出ないのであります。今日の
輸出不振は、もちろん世界的な
不況の
原因が、その一因ではありまするが、しかし、その
相手国の政治、
経済の動きの本筋に触れることを見のがし、その
打開についての真剣さを怠っているところに
最大の
原因があるのであります。(
拍手)
たとえば、対
米貿易の前途は全く悲観的であります。昨年度の
通関実績では、
輸出五億九千六百五十万ドル、
輸入十六億一千七百九十万ドルとなり、
輸出額の三倍に及ぶ
輸入超過であります。また、
為替収支の面では七億九千万ドルの入超でありまして、
日本の
国際収支の全体より上回っているのでありまして、片
貿易も、実に度を越したはなはだしさであります。
政府は、この対
米片貿易の是正については、引き続いて
努力を
約束して参りましたが、数年来、いささかも効果を示さないばかりでなく、年々悪化をいたしておるのであります。すなわち、本年四月までは、米国は
関税委員会を通じて
特定商品の
関税の引き上げを行うことによって、
日本商品の
輸入の
制限を策して参りました。ところが、最近では
法的規制を加えまして、
日本商品の大幅
輸入制限を行わんといたしておるのであります。互恵通商協定法の延長
法案の採否の決定は、七月末に迫っておるのであります。域外買い付け量を五〇%に
制限しようとするところのいわゆるペイン修正案は、すでに六月三十日に大統領の署名を終り、正式に決定をいたしたのであります。このペイン修正案による
最大の被害国は
日本でありまして、その被害額は実に一億六千万ドルに及ぶであろうと言われておるのであります。キング案では、冷凍マグロにつき今まで無税でありましたものを、一挙に六セントの引き上げ、カン詰マグロにつきましては、従来一二・五%の
関税率を、一挙に三五%に引き上げんとしているのであります。また、ベニヤ板につきましては、マック案をもちまして、昨年の実績が米国全消費量の六〇%に達しましたものを、一挙に一五%に押えんとしておるのであります。
日本と米国との関係は、終戦以来、
特別な関係にあり、米国から種々の便益を与えられましたことは、われわれも忘れておるわけではございません。しかしながら、われわれが、しばしば
国会を通じて
最大の重要政治問題として取り上げてきました
通りに、ずいぶんきびしい政治的な要求をアメリカからわれわれはのまされてきたのであります。また、ただいま申し上げました対
米片貿易の実態を考えますれば、
日本もまた米国に対して具体的に相当な貸し越しを持っておるのであります。
政府はこの点をよく認識し、首相の言われるごとく、対等の立場で強力なる
主張を展開し、互恵平等の鉄則のもとにこれを
打開する覚悟と行動がなければなりません。
また、一方、中共
貿易が途絶の状態にありまするが、このことはまことに遺憾なことであります。
政府は、中共側に誤解があるというので、しばらく誤解が解けるまで静観をいたしたいとのことであります。御承知の
通り、第四次
貿易協定が締結されましたことや、鉄鋼協定が成立の寸前まで進みましたこと、すなわち、
日中貿易が順調な足取りで発展をいたして参っておりましたことは、長年にわたる民間
経済団体や
日中貿易促進議員連盟の
努力の成果でありまして、この
努力に水をかけ、これを水泡に帰せしめたのは現
政府であり、
岸首相その人であります。中共の
主張によれば、
日本国民を非難しておるのではありません。中共を敵視する
岸内閣の言動に対して批判を加えておるのであります。しかも、この動きは、東南アジアの各国に不動の
経済力を持つ華僑にまで及び、東南アジアの各地域に対し、全面的に
日本商品のボイコット運動を発展せしめようといたしているのでありまして、まさにゆゆしき一大事であります。
岸首相は、中共の言うがごとくに、決して中共を敵視しているのではない、従って静観によって誤解は解き得るという説を変えようとせられませんが、これでは問題は前進しないのであります。今こそ首相みずから立って、積極的に中共
政府と話し合い、誤解を解くことに
努力することが
日中貿易再開の唯一のかぎであります。(
拍手)
フランスのドゴール首相は、イギリスに次ぎ、中共
政府承認の動きを始めたと伝えられております。イギリスはココムの
制限撤廃にきわめて熱心であります。アメリカにおいてすら、
政府部内に中共
政策緩和の動きが出ておるとわれわれは聞いておるのであります。このような世界的な動きの中で、唯我独尊、超然としておりましては、
日本は世界
経済から取り残される危険をひしひしと感ずるのであります。(
拍手)
輸出の
振興のみが真に
日本の
不況を
打開する道でありといたしまするならば、従来の
主張にこだわるべきではありません。あらゆる角度から検討を加え、
輸出の障害となっておる根源を切除することに全力をあげるべきであると思うのであります。
第五には、
現下の
不況は、
国民生活に耐え得られないおもしとなっておるからであります。昨年の過剰
投資の設備はようやく稼働を始めましたが、せっかく設備の近代化をなし遂げた多くのプラントが、生産
制限のやむなきに立ち
至り、総合的な生産性は必然的に低下を免れない窮境にあります。にもかかわらず、過剰生産の悩みは解消しそうにもないのであります。先日のラジオの現地録音ニュースで、東北の一寒村の少女の悲しみを伝えておりました。今春、中学を卒業して、やっと某紡績工場に就職が決定した喜びもつかの間、秋まで採用延期の通知を受けて、失望した。家計の苦しさを救うため、遊んでおられないので、一時、いなか町の旅館に住み込み、二千七百円の給料にありついている、その中から二千円の仕送りを実家へ続けながら、秋の就職が再び延期されませんようにと、涙を流して訴えておりました。この声は
全国的な統計となってわれわれにその実情を教えているのであります。たとえば、
経済企画庁の発表する
日本経済指標五月号によりますれば、昨年五月、四十六万人の完全
失業者が、本年四月には五十五万と、二〇%も増加いたしております。さらに潜在
失業者を加えますれば、おそらく数百万の人々が、希望なき
生活を送っておりますることは、疑う余地がありません。この
国民生活の苦しみは、さらに多くの統計がその実情を示しておるのであります。たとえば、企業
整備は昨年の三ないし四倍でありまして、本年四月は五百八十余の
事業所、二万六千余人の人員整理が行われております。また、昨年一カ年の平均値に対しまして、本年四月の実績では、鉱工業指数が九%減、機械受注残高は実に六〇%減、発生電力は一三%減、
失業保険の受給件数は三九%増、
中小企業金融は四六%減となっております。いずれの角度より見ましても、実に深灘なる
不況であります。この際は、
国際収支の
バランスを最低限度に保ちつつ、
輸出振興の
看板にさらに一枚、
有効需要の喚起
政策を加えて、景気の
振興をはかるべき緊急の事態でありましょう。このことは、与党内部にもその声があり、
政府の部内においても、池田国務大臣を
中心にその動きありと聞いておるのであります。
経済基盤の
強化とは、
国民大衆の
生活を
犠牲として大産業を守ることでは断じてありません。より重要なことは、
国民大衆の
生活を守ることでなければならぬのであります。面子にこだわるときではありません。
自民党及び
政府の率直な反省を求めまして、私の
反対討論とする次第であります。(
拍手)
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