○
平林剛君 討論に入る前に
一言遺憾の意を表します。
特別国会における重要法案の
審議は、
質疑打ち切り
動議をもって多数をもって慎重
審議の建前をくずしたことにつきまして、私は討論に入るに先立ち遺憾の意を表してお雪ます。
政府与党は常に国会においては少数
意見を尊重することが民主
主義の大事な原則であるということを認めながら、行動におきましては絶えずこれを無視し、この結果、
国民経済に重要な
法律である本法案の取扱いにつきましても、まだ
栗山委員の
外務大臣に対する
質疑が残っているのに打ち切られてしまう。こういう結果、もし
国民経済に重大な
損害を与える結果になるといたしましたならば、
動議の
提出者もその
責任の一部を負わなければならない。私はこのことを
一言警告いたしておきます。
日本社会党を代表して、
経済基盤強化のための
資金及び
特別の
法人の
基金に関する
法律案に対し反対の意思を表明するとともに、その理由を明らかにいたしておきたいと思うのであります。
反対理由の第一は、
政府構想による
経済基盤強化資金としてのたな上げ
措置は、財政の原則から見て不健全であり、財政法から見ても適当な
措置でないということであります。健全財政の第一条件は収支権衡の財政であることが要請されるものでありまして、財政法第十二条は、「各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。」と規定をいたしておるのであります。従って、国の需要を満たすための支払いの財源となるべき収入は、各会計年度に必要とする経費の
範囲内にとどめるべきでありまして、各年度に必要とする経費以上に過大の税金をとり、その年の財源に充てることは、財政法第十二条の会計年度独立の原則に対する逸脱行為であり、重大な疑問があるとの見解に立つものであります。
政府には、今回の
経済基盤強化資金は、財政法第四十四条の規定に基く
資金で、
資金とはもともと一年度の間に消費し尽さない予定をもって保有され、年度にわたって費消または運用される性格のものであるから、この
制度は財政法上認められたもので問題はないと解釈しておりますが、
資金という以上、回転して運用しながら、そこに経済的財政的効果を上げるものと解すべきで、景気を刺激するから使わない。使えないからたな上げをする。この
経済基盤強化資金なるものは、財政法第四十四条からも疑問があると思うのであります。
いずれにいたしましても、このような
措置は、
政府が昨年国際経済の見通しと、
日本経済の
実情に対する判断を誤まり、経済拡大をあおり立てて、過剰投資と、
輸入増による国際収支の悪化を来たした結果、財政法第六条の解釈によると、余裕財源は当然その一部を国債の償還に充て、残ったものは予算に組み入れるべきものを、
佐藤大蔵大臣の言葉を借りると、いろいろ工夫した結果の苦肉の策であると私は思うのでありまます。しかし、こういう前例を一たび開きますと、五百億円でも、一千億でも、今後、同様な
措置をとることができるという理屈になりまして、その結果、徴税の権限を持つ
政府が、いろいろと名目をつけて、
国民の納税
負担、担税力の限界をこえる歳入をはかり、権衡予算の原則と、経済全般の混乱を生ぜしむるおそれを感ずるのであります。
反対理由の第二は、この
法律の性格がきわめてあいまいでありまして、
政府の説明は私
ども納得することができないからであります。
政府の提案理由と、
法律案第一条の目的によりますと「わが国の経済の基盤の強化と健全な発展に資する」と掲げられておりますが、この言葉はまことにあいまいもことしております。
昭和三十一年度の一般会計における決算上の剰余金から、国債償還等の法定財源を充当する額を控除した四百三十六億三千万円を、世評はいわゆる余裕財源のたな上げとして論評を加え、また、一部では景気調節
資金と呼んで、定説がないのであります。この
法律による
資金及び
基金の総額四百三十六億は、言うまでもなく
国民の税金でありまして、いかに世界に類例のない異常性に基く剰余金といたしましても、その
処理に当っては、
国民全般にもっと理解のできる明確さが必要であったと思うのであります。岸総理の、ホトトギスの鳴き声は聞く人の
立場によって異なるという名文句と同じように、
経済基盤強化資金の性格の分析は、昨年の国際収支悪化に際して、あわてて経済緊急対策なるものをとりまとめ、景気を刺激するような
措置を極力避けるために、剰余金のたな上げ
措置を、一たびは
構想し、実施に移そうとながら、過半の総選挙を控えて、自由民主党の基盤を確保するための五つの
特別法人の
基金二百十五億円を、新たに分割
構想したところから始っておると思うのであります。
経済基盤強化資金というものが、財政政策における、いわゆる景気調整
資金または財政調整
資金とは、一体、性格を異にするものであるかどうか疑問であります。強化
資金の使い方は、道路整備、港湾整備、科学技術
振興、異常災害復旧、産業投資
特別会計への繰り入れに充当することとなってはおりますが、これらの経費は、一般会計または
特別会計にも計上されており崩して、見方を変えれば、この
資金は、道路整備等の予備費的性格を持つものとの解釈もできます。また強化
資金の取りくずしは、経済情勢がどのように変化した場合に一体使うものであるか、
岸内閣の閣僚にはわかっておりましても、
国民の代表たる私
ども議員、これは野党に限らず、与党の議員、
国民の代表としての与党の議員も、いつ取りくずすのかわからない。
国民の代表がわからない。こういう性格を持つものであります。また、いわゆる余裕財源のたな上げ、これは景気に刺激を与えないため実施をする、こういう提案説明がありましたが、この
資金は、
資金運用部に預託をされて運用されるものでありますから、結局、財政投融資を通じて景気に刺激を与えることができますし、財源をたな上げしておくことにより、財政の膨脹を防ぎ、
民間投資や
民間消費を押えることをねらっておったにもかかわらず、逆に
民間の思惑の対象となっていたことにも
矛盾があったのであります。これらきわめて不可解な
法律といわなければなりません。これが私
どもの反対理由の第二であります。
反対の第三は、これは、最も重大な反対の理由でありまして、
経済基盤強化のための
資金及び
特別の
法人の
基金に関する
法律案が、初め
構想され、提案をされた当時の経済情勢と、今日とでは、その情勢が重大な変化を来たしておるにもかかわらず、これをそのまま提案をし、新情勢に対処する有効適切な提案でないということであります。なるほど、たとえ苦肉の策でありましても、昨年九月の経済情勢のもとにおきましては、
政府が、将来の経済情勢とにらみ合せて苦心をされたことは情状を酌量いたすにいたしましても、当面の経済情勢と、昨年、そうして本年度の予算編成をした当時の経済見通しと変化していない、こういう見解をとり、そのまま提案をする無神経と無策とは、私
ども断じて認めることはできないのであります。卒直にいいまして、この
法律の基調となったのは、昨年九月における国際収支の悪化に対処してのたな上げ
構想でありまして、私
どもは、余裕財源は、減税や社会保障費に使うと、消費インフレを起し、
輸入をふやし、国際収支改善の妨げになるという
政府の論拠が当らないことを
指摘して参りましたが、今やその国際収支の改善も、一応大蔵省の見解でも年間三億ドルの黒字はだいじょうぶと言われるに至り、
法律案を提案をした根拠は、すでに解消しておると思うのであります。そうして、当面する
日本経済の
実情は、今日まで論争を通じて明らかにして参りました
通り、とうに景気もおさまり、かえって、設備過剰と有効需要の低下によりまして、過剰生産的な不況の時代に
入りつつあります。しかも今後の経済の基調をはかるために樹立した
政府の経済目標、
輸出三十一億五千万ドルを達成する見通しは、国際経済の停滞ないしは不況、あるいは
政府みずからが中国
貿易を杜絶したことによりまして、このままでは縮小均衡あるいは不況の長期深刻化の様相を呈し始めておるのでありますから、この際、
政府の引き締め政策の犠牲となって、倒産と生活苦、失業に悩む
国民層に対して、新たな経済政策の転換により国内需要の増加をはかることが急務となっているのではないか。
政府の言うがごとく、もう少し経済の推移をながめ、八方ふさがりの国際
貿易の伸展をはかる——楽観といっては当らないかもしれませんが、放任静観政策では、本格的不況の進行の前にかえって
国民経済は混乱をし、疲弊をしてしまうのではないか、この際、この
経済基盤強化資金なるものを取りくずし、他の公共投資、一般財政支出、
国民消費の適度の増加のための経済政策を実行に移すべきである。私
どもこの
日本経済の
実情を無視して超然たる
法律案を再び提案をしていることに対して賛成し得ない理由がここにあるのであります。
私
どものこの反対の理由は、今日、
政府の頑迷な
態度と痛烈な
国民の声を代弁する野党の立論に対して、
立場上、与党の議員も賛成し得ない、多数で
法律案を通過させようといたしましても、いずれ近い将来、すなわちこの
特別国会を終るとともに、たちまち豹変して、来たるべき臨時国会には、今日私
どもが主張するような経済情勢の分析と認識に立って、
経済基盤強化資金を取りくずし、暑気
振興、不況対策のための財政
措置をとらざるを得ないということは、おそらく腹の中では認めておられると思うのであります。
政府みずからも、婉曲ではありますが、
日本経済は底入れの情勢であるから、国際収支の
ワク内で経済政策を進めたいと言い、いかなる
事態になっても景気刺激策をとらないわけではないと言いわけをし、情勢の推移に応じて適切な手を打つことをちゅうちょするものではないと答えたりいたしまして、すでに補正予算の必要性は暗々に漏らしているのであります。従ってこの際
政府の誤まれる
方針を正す
意味で私
どもの主張に賛成をし、本案を否決するか、継続審査に移し、
国民に対する責務と要望にこたえられるように私は
希望いたすものであります。
これをもちまして私の反対討論を終ります。(拍手)