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国務大臣(
三木武夫君) 今日世界においては新らしい
産業革命が進行しつつあります。まことに、ここ数年来の世界の科学技術の進歩には驚くべきものがあり、世界の
産業構造、社会構造に大きな変革をもたらしつつあります。このような時代にあって、天賦の資源に恵まれない
わが国が、欧米諸国に伍しつつ、なお一そうの発展を期するためには、
長期経済計画に示される
通り、国内資源の有効利用と
輸出の飛躍的伸張とにより、
産業活動を活発化し、国民所得と雇用の増大をはからなければならないことは言うまでもありません。このため
政府においては、今後とも
産業基盤の確立、
産業合理化の推進、国際
経済協力の強化等、各般の
施策を実施する
方針でありますが、なかんずくこれら諸
施策の推進力ともなるべき科学技術振興のための
施策には、特に重点を置いて推進して参りたい所存であります。すなわちこの科学技術革新の時代においては、
輸出の飛躍的な伸張も、国内資源の効率的な活用も、優れた国産技術の背景なしには、その実効をあげ得ないからであります。
この観点に立って
わが国の科学技術の現状を見まするに、原子力平和利用、電子技術の応用等の高度の科学技術に関してはおくればせながら研究開発の努力が払われつつありますが、科学技術全般にわたり
均衡のとれた発展を示しているとは言いがたく、科学技術水準は、遺憾ながら先進諸国のそれにいまだ及ばないと言わざるを得ないのであります。このため、前内閣においても、科学技術振興はその重要
施策の
一つに掲げられたが、今後においてもこの
方針には何ら変りはありません。
今般
科学技術庁長官を拝命いたしました私としては、
わが国国民生活と文化の向上に重大なる役割を演ずる科学技術の重要性を深く認識をいたし、そのすみやかなる振興のためにあとう限りの努力を傾注する所存であり、具体的には、次のごとき
施策の推進を考慮しているのであります。
まず第一に、科学技術振興を最も効率的に実現するためには、科学技術全般にわたる確固たる基本的な政策の樹立をはかるとともに、
長期経済計画との関連においてその実現のために解決を必要とされる各分野における研究項目を摘出
検討し、
長期的かつ総
目的な研究目標を設定し、この研究目標達成に最も適した研究体制の確立をはかる所存であります。このような基本的重要事項は、単に
政府部内のみにおいて審議することは適当でないと
考えられますので、科学技術に関する優れた有識者とともに慎重審議いたしたく、前国会に提出され、審議未了となった科学技術会議設置法案の成立を
期待しているのであります。本法案は、
日本学術会議等各界の意向を十分参酌して、原案に若干の修正を加え、再度国会に提出して御審議をお願いする所存であります。
なお科学技術振興に関する
長期的基本
施策を樹立するに当っては、国内資源を海外資源との関連において最も有効に利用する方策を考慮すべきであり、このため資源の総合的
調査を強力に進めて参りたいと思っております。
第二に、科学技術振興に直接つながる基礎及び応用研究並びにその研究成果の実用化の強力なる推進をはかりたい。このため、各研究機関の自主性を尊重しつつ、最大の研究成果を
上げるべく、国立試験研究機関、新設される理化学研究所等については、研究施設の
近代化、研究環境の整備、研究費の充実、研究者の待遇改善等に努力し、また、民間
企業に対しては、
資金措置、税制措置、委託研究費の交付等を通じて、その研究の促進に努力したいと思っております。
また、
わが国における科学技術は、学問的には世界の水準に比肩し得るものも相当あるが、その成果が実用化されがたいために、外国技術への依存度が高く、これが
わが国技術界の大きな欠陥とされております。このことを十分に反省してこの欠陥を克服するために、国家的援助により新技術の開発を大いに促進し、優れた国産技術の育成確立に努力をいたしたいと思っております。
第三に、最近における科学技術の高度化とこれに伴う専門化により、優れた研究者を多数確保することが要請されております。また、科学技術水準向上のためには、国民全般の科学技術に対する関心を高め、科学技術水準の向上に適した社会的環境を醸成することが必要である。このため、科学技術に重点を置く教育制度の確立と、科学技術に関する情報広報活動の活発化に努力いたしたいのであります。教育制度に関しては、別途主管官庁においてその
施策を推進中であり、その
施策の一そうの促進に
協力いたしたいと思っております。情報広報活動の活発化のためには、
日本科学技術情報センターの強化をはかるほか、ラジオ、テレビ、映画等を通じて、広く国民全般に科学技術知識を浸透せしめ、その科学技術思想を酒養いたしたいのであります。また、科学技術功労者を国家的に顕賞する制度を確立することは、国民全般に科学技術の重要性を再認識せしめるばかりでなく、科学技術者の研究意欲向上にも一役をになうものと
考えられますので、その具体的方策について、
関係者とともに
検討を進めて実現を期したいと思っております。
第四に、原子力平和利用に関しては、今日ようやくその創世期を脱し、研究体制を一応整備し得たかの感があります。今後においては、なお一そうの基礎研究の深化をはかるとともに、従来つちかった
基盤をもとに、研究成果の応用化、実用化に努め、
産業、文化の各分野において原子力の平和利用を強力に展開したいのでございます。
原子力平和利用の展開に当っては、緊密なる国際的
協力が必要でありますが、米英両国との原子力一般協定は過般調印をみたところであり、これらの双務協定によって各国との協調を深めるとともに、さらに昨年設立をみた国際原子力機関の活動に対しても積極的に参加し、その発展に力をいたしたいと
考えております。
一方国内においては、
日本原子力研究所に動力試験炉を導入することとし、将来のエネルギー源として大いに
期待されている濃縮ウラン型発電炉の導入及びその国産化並びに原子力船の研究開発の促進に大いに貢献せしめたいと
考えております。なお実用
規模発電炉の導入については、その安全性及び
経済性について目下慎重なる
検討を加えており、その結果を待ってすみやかなる実現をはかりたいと
考えております。このような原子力平和利用の展開に伴い、核燃料の確保をはかるため、核原料物質の探鉱を促進するとともに、原子燃料公社の充実をはかり、精錬施設の整備強化に努め、核燃料国産化の緒を開く一方、放射線による障害の防止についても万全を期する必要があるので、昨年度発足した放射線医学総合研究所の充実をはかり、その研究を促進するとともに、原子炉の設置あるいはアイソトープ等
使用の許可に当っては、特に慎重に安全性の審査を行い、原子力平和利用の展開に遺漏なきを期したいと
考えております。
最後に、科学技術全般の国際的
協力関係について言及いたしますると、先進諸国及び国際機関との科学技術の交流を促進し、すぐれた科学技術の導入消化に努める一方、東南アジア、中近東、中南米等いわゆる低開発地域に対しては、彼我双方の資源賦存状況、
産業構造、技術水準等を
調査勘案の上、国産技術の進出をはかり、これら地域の開発と
産業振興に
協力するとともに、これら諸国との
経済協力体制を確立し、もって将来の
わが国経済の発展に寄与せしめることといたしたいのであります。
以上
わが国の
経済、文化の発展を期するために、目下考慮している科学技術振興
施策の大綱を述べたのでございますが、もとより国民全般の
協力なくしては、これらの
施策の十分の効果を
上げることは困難であります。
政府においても以上の諸
施策を
基盤に、さらに世界の大勢と
わが国の実情に即応した
施策を進め、もって、科学技術振興に万全を期する所存でありますので、議員各位をはじめ
関係各位の、切なる御
協力をお願いいたしたい次第でございます。
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