○
最高裁判所長官代理者(
菰淵鋭夫君)
家庭裁判所は、
国民の方々にもう少し理解されていますと大へんけっこうなんでございますが、こういう
機会に申し述べます。ただいまのところは、二十才未満の
少年が
家庭裁判所に警察あるいは
検察庁から送られて参りますと、身柄つきと申しまして、身柄が拘束のまま送られて参りますときに、
家庭裁判所におきましては、その
少年を拘束しておいた方がいいか、あるいは家庭に帰した方がいいかということを判断いたしまして、それは記録等で、またあるいは観護
措置、ただいま申し上げました観護
措置で
少年に会いまして、
少年の人柄、保護者の
関係というようなところを見きわめまして、これは
相当よく深く調べなくちゃいかぬというようなことになりますと、観護
措置ということをいたします。これは原則として二週間でございますが、さらに二週間延長できまして、四週間はこえることができません。で、
少年鑑別所に入れますと、これは
法務省の御管轄でございますけれ
ども、原則といたしまして、三日あるいは四日ぐらい一人でいる部屋に入れておきまして、
少年の心身の動揺を落ちつかせまして、そうした後において
少年の心身、資質の鑑別をいたすのでございます。鑑別所には、医学の方あるいは心理学の技官がおられまして、それぞれ
少年が何か精神的あるいは肉体的の
欠陥を持っているんじゃないかというようなことを鑑別いたします。と同時に、裁判官は、この
事件を受け取りますと、
少年を拘束するかしないかとは
関係なく、
家庭裁判所調査官に対しまして、この種
事件の審理に必要なことの
調査を命じます。この
調査は、御
承知の
通りに、
少年法に規定がございまして、
少年並びに
少年の家族、ことに保護者あるいは兄弟、非常に
影響を及ぼすべき人とずっと
生活し、あるいは心身の
状況、遺伝というような、あらゆることを調べさせます。その間に
少年鑑別所の方で、
少年に対するいろいろの鑑別の結果が
家庭裁判所の方に送られて参りますので、
少年調査官は、それも参考といたしまして、この
少年はどういう処分をしたらいいかということを裁判官に報告いたします。そして、われわれの
考え方は、
少年をいたずらに罰するのではなくて、どういうことからしてこういうことになったか、
少年個人が悪いのか、あるいはその家庭が悪いのか、あるいはその
環境が悪いのか、あるいはその家庭を包む
社会のあれが悪いのか、そういうようなところを判断いたしまして、この
少年が非行——つまり
犯罪をいたしました
原因を突きとめて、そしてどうしたら
少年を将来そういう
犯罪、非行から防御して、
社会に完全なる人間として復帰させる、そしてわれわれの次の時代をになうべきりっぱな人間に更生させるというところに
少年法のねらいがございます。ただいまの
事件でございますと、これは
刑法上尊族
殺人でございますので、しかも既遂でございますから、死刑または無期懲役でございます。
刑法の裁判によりますと、詳細のことはわかりませんけれ
ども、自首ということにいたしまして、なお情状が気の毒であるというので、酌量減軽いたしましても、懲役はかりに無期懲役を選択されるといたしましても、最低三年六カ月以上の懲役に付せられなければならないことになっております。しかし、
少年法がある
関係上、こういう十六才に三カ月くらいの
少年がこういう罪を犯したということに対しまして
刑法の制裁を加えるというのはあまりに酷である。あるいは、これは周囲の人の罪ではないかというようなところに
少年法のねらいが、ございまして、裁判官は、審判官はそういうところをよく
調査官の報告あるいは
少年鑑別所の報告をしんしゃくいたしまして、処分を決定するのでございます。それで、裁判官の心がまえといたしましては、
少年に刑罰を課するのでなくて、
少年がこういう非行をいたしました
原因は何にあるか、そしてある
原因があって、その
原因が除去できれば、再び
少年はこういうような非行をするのでないのだ、これは、こういう
環境を調整してやれば、これで大丈夫だというようなことがわかりますれば、その
方針に従って処分をするはずでございます。で、かりに刑事手続に付することが
相当といたしまして、
少年法の手続によりましてまた
検察庁に送ります。
検察庁は、原則として
少年を起訴しなければなりませんが、起訴した結果、普通の刑事手続によりまして公判の裁判にかかりましても、また公判の裁判官が、
少年法に定める保護処分、すなわち
少年院送致あるいは保護観察、あるいは、場合によりましてほ、不処分というようなことが適当と思われますならば、また
家庭裁判所に戻すことができるのでございます。で、このような類似な
事件はあまりございませんけれ
ども、多くの場合に、
父親あるいは母親を殺したというような場合は、たとえば各所でございますけれ
ども、十のうち、三つぐらいは起訴にならずにして、
少年院というふうな所に送られている例もございます。これは、それぞれ
事件の特有な事情がございますので、裁判官はその特有な事情をしんしゃくして、それをお
考えになっておやりになったと思います。
少年法は、御
承知の
通り、個別化ということを非常に重んじておりまして、決して前の
事件の
考え方がこの
事件の
考え方に当てはまるものでない、それぞれ
事件は特有な性格を持って、特有な
環境のもとに生まれたものであるというような
考えが根本の
考え方でございますので、あまり前例はしんしゃくすべきものじゃないと
考えますけれ
ども、こういう
事件におきましても、
家庭裁判所で取り
扱いました中で、刑事裁判手続に行かずして、
少年法所定の保護処分になった例がございます。この
事件がいかなる結果になりますかは、裁判官がおきめになると思いますが、そのためには、この
少年の兄弟、親あるいはこのもう
一つ前のいろいろの祖父とか祖母とか、そういう人たちの
環境あるいは遺伝的
環境あるいは精神的の遺伝があるかどうか、あるいはこの経済的の窮迫の
原因がどこにあるか、またこういうような家庭が、形の上では両親がそろっておりまして、欠損している家庭ではないのでございますけれ
ども、実質は非常なはなはだしい欠損家庭だと思います。その欠損家庭がなぜ発見されなかったか。かりに発見されたとして、なぜそれを援助する
措置がとられなかったかというようなことも
考えられますし、また、この
少年の
個人のことについて
考えても、赤ん坊で生まれたときからずっと今までの、十六才何カ月になるまでのこの
少年の
生活史を詳細に
調査官が調べます。その間に
相当な時間がかかりますので、これは、二十六日に観護
措置にしたのでございますので、原則の二週間から申しますと、十日で観護
措置が切れるのでありますが、すでに裁判官が十六日というところに審判期日を指定しているところを見ますと、十日に観護
措置が切れますときに当って、もう一ぺん二週間の観護
措置の更新をはかって、あくまでもこの
少年の持つ特有な
環境、性格を再び
調査して、それから裁判をしたいという決心だと思われます。
ただいまの
説明でおわかりになったと思いますが、
少年事件につきましては、私の方では、罰するのじゃなくして、
少年の健全な育成ということを終局の目的としてやっております。また、この
事件につきまして、私が
考えますのは、
家庭裁判所ば、ただいま御指摘ございましたように、
少年事件と家事
事件と、両方やっております。家事
事件と申しますと、戦後やや表立って参りました離婚
事件につきまして
世間の注目を浴びているようでありますが、本来の目的は、離婚
事件とか家庭の紛争を明らかにすることによりまして、この家庭の両親の懸隔あるいは経済の窮迫、そういうことから
少年が非行に陥る、それを事前に防止したいというところに
ほんとうの目的があるのでありますが、そうでなくて、
家庭裁判所に家事部と
少年部の両方を持つということは
考えられなかったのでありますが、ただ、いろいろな
関係上、最初のりっぱな理想を
現実化することができなかったが、
少年につきましては、御
承知の
通り、通告という手続がございまして、だれでも、
少年について非行のあるところを知った方が
家庭裁判所に通知して下されば、
少年の愛護の手続をとるのであります。こういう
事件につきまして、いろいろ
原因はありましょうけれ
ども、こういうような窮迫な状態にあったものとしては、せめて夫婦間の愛情を取り戻しておったならば、
少年もこういう
措置に出なかったのじゃないか、そういうことによりまして、近所の人も忙がしかったというのでござまいすので、
家庭裁判所に今当事者、あるいは
関係者から——と申しますと、
子供さんのようなものでありますが、そういう人から申し立てがなければ、そこに手を染めることができないのであります。この
事件につきまして私が痛感いたしましたのは、いろいろ経済的な
措置は
厚生省その他でお
考えになると思いますが、それだけでは解決できないいろいろ精神的な葛藤や何かでございますので、そういう場合によくお
考え下さいまして、立法府の方で、
家庭裁判所の家事
事件につきましても、第三者が憂えるべき紛争状態にあるならば、
家庭裁判所に通知していただきまして、
家庭裁判所が
調査いたしまして、これは何か調整すべき手を打った方がいいということがわかりましたならば、何か能動的な手を打つことのできる
措置が願わしいと思います。
家庭裁判所は元来そういうためにございますのですが、一応平面的に家事部、
少年部に分れておりまして、何らの連絡もないように見えますけれ
ども、今度の
事件を
契機として、本来の理想の姿に立ち返るべきだと
考えております。