○佐藤尚武君 いや、
外務大臣は長年の財界での経験をお持ちになっておるのでありますからして、財界にどういう人物がおるかおらないかというようなことは、もちろん私よりずっとよく御存じのはずでありますが、なるほど人物を選定されるということは困難なことには相違ないと思いまするけれ
ども、しかし、ぜひそういう人物がほしい、そういう人物を出したいという気持がおありでありましたならば、必ずしも人物が皆無とは私は申せないのではなかろうかと思うのであります。こういうことを申し上げた
ところで、私は何も
一つのきまった
考え方を持っておって、そして申し上げるというのではなくて、全くあの
委員会を見まして、そして国連の空気を見たものといたしまして、その必要を痛感いたしますがゆえに、あえて申し上げるのでありまして、
先ほども申しました
通り、その財界の代表者があちらへ行って、いろいろな人と接触をする、そしてその話を
日本へ持って帰ってきて、
日本の財界に裨益をもたらすというようなこと、これは私は非常に必要なことだと思うのでありまして、なるほど三ヵ月
日本から離れるということは、財界人にとっては困難なことかもしれませんけれ
ども、しかし、それに値するだけの国家的なおみやげがあるに相違ないと思うのでありますからして、この点はぜひ
外務大臣におかれましても、
一つ人選をされますときに、よくいま一応お
考えをお願いすることにいたしたいと思います。
それから時間はもうすでに過ぎましたけれ
ども、中共問題について私も一言申し添えておきたいと思いますが、中共との
関係の根本の
日本の態度としては何かというようなことになりますならば、それはもうはっきりと私は
日本としてきまっておる問題だと思っておるのであって、何と申しましても、
日本は
国民政府とは南京もしくは北京
政府として存在しておった時代から国交を保っておった
関係でありますし、それが台湾に目下偏在しておるのでありますけれ
ども、その国交は戦後回復されて、そうして依然
友好関係が持続しておる。これがわれわれの中国
政府として認めておる唯一の
政府である、これは押しも押されもせぬ事実であります。でありますから、地理的には中共は大きな領域を占め、大きな勢力を持っておるということはもちろん明らかな事実でありますけれ
ども、その中共との
関係ということになりますならば、たとえば貿易の問題にしろ先般来非常にやかましい問題になりましたけれ
ども、この貿易の問題というものはすべて
国民政府の十分な了解を得た上で、その
範囲内での中共貿易でなくてはならないということを私はこの前の
委員会におきましても申し上げたわけでありまして、その
考えは現在においても一向変っておらないのであります。その根本の問題は何かといいますならば、これは
国民政府に対する
日本の信義の問題だということを強くその際申し上げたのでありまして、終戦当時のあの蒋介石総統のとった態度、そのおかげでもって
日本人は何百万という人が
日本に無事に帰ってこられたということ、ないしは、そのときに私申し落したのでありますけれ
ども、蒋介石総統が
日本に対して賠償権を完全に放棄したということであります。これも
日本にとってえらいことであった。これはその当時の
日本人はみな蒋介石総統の態度に対して深い感謝を持ったわけでありまして、その感謝は十年たったから消えてしまったというわけのものであってはならないのであります。どこまでもそれに対しては
日本は恩義を
感じなければならない。その恩義を忘れてしまって、目下は台湾に偏在しておるがゆえにその
国民政府との
関係をないがしろにするというようなことであっては、
日本は信義の国としては一文の値打もなくなってしまうということで、これは国際的に申しましても
日本の大きな恥でなければならぬと思うのであります。そういうことから出発しますならば、現在の中共との貿易問題、また、経済問題に限らなければならぬ問題だと思いますが、その貿易問題に対しまする
日本の態度というものははっきりしておかなければならぬ
ところであります。また、中共との貿易について巷間非常に重きを置く向きが多々あるようでありまするが、私は、もちろんそういう点においては専門家ではありませんので、非常な権威を持って申し上げるというわけには参りませんけれ
ども、果して
日本は、大きな貿易を期待することができるかという問題になりましたならば、私は非常に疑いを持つものであります。なるほど中共側には
日本の製品に対して大きな需要はありましょう。確かにそれは需要はあるに相違ない。何となれば、
日本から持ってこなければ、多くの場合ソビエトの製品を買わなければならぬということになるのでありまして、その製品たるや、ソビエトの言い値で買わなければならぬということになっておるでありましょうし、これに対する支払いというものはどうかといいまするならば、たとえば原料でもって支払うにしましても、満州大豆のごとき、大部分はソビエト側にとられているようであります。この大豆の価格というようなものも、ソビエトの一方的にきめた価格でもって中共が売らざるを得ないような
立場にあるに相違ないと思うのであります。でありまするからして、貿易の問題といたしましても、中共の買う製品に対しては向うの値段で買わなければならず、これに対して払う原料というものは、やっぱり向うが勝手にきめた値段で払わなければならぬというような、そういう非常な不利な
立場にある中共といたしましては、
日本の製品に対してあこがれを持つということ、よだれを流すということは当然でありまして、
日本におきましては自由貿易をやるような
関係からして、
日本で買いたたいて、そうして安く製品を持っていく、向うからの原料に対しても、
日本は一方的に値段をきめるという
立場にないということ、これほど中共にとって有利な貿易はないはずでありますからして、向うからの注文がたくさんやってくるということは、これは想像にかたくない
ところであります。しかし、それならば、売った商品に対して何を代償としてとるか。満州大豆、大豆といいましても、
日本の製油業者の中には、満州大豆は品質が非常に悪くて使うことはまっぴらごめんだという業者があることも私は承知しております。そのほか鉄鉱石にしろ何にしろ、原料という原料は、向うで第一に必要な原料ばかりで、
日本の要求するのは向うの必要とする原料ばかりで、多くを期待することはできません。してみるというと、
日本から売った品物に対しての代金の支払いは、だんだんだんだん重なってきて、ついには焦げついてしまうということになる。これは明らかだと思う。そういうことを
考えないで、ただ中共貿易、中共貿易といってあたかも金がごろごろ
日本に入ってくると
考えるのは、私は間違いだと思うのであります。そういうことは、
大臣はとくと御承知だと思うのでありまして、私の申しましたことは蛇足でありまするけれ
ども、そうしてまた、こういう問題については、私はこの
委員会で
大臣がどうお
考えになるか、
政治問題で中共との
関係をどういうふうにお
考えになるかということを、
大臣の口からお聞きするということは、これは私としては避けたいと思うのであります。そういう重要な問題に対して、軽々しく
大臣も言われるはずはないと思うのでありまするから、私の申し上げたことは、
国民政府との
関係、ないし中共との
関係につきましては、
大臣においてよく聞き取っておいていただけば、それでけっこうであります。