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黒田委員 ただいまの
総理大臣の御答弁で、将来に関する心がまえという点については、私も了承いたします。しかしながら、やはり過去の
できごとにつきましては、率直に自分の方のやり方に問題があったという点を御
反省あってしかるべきだと思います。この点は私は非常に残念に思います。過去にかんがみて、将来再びこういうことがないように希望します。
総理大臣が先ほど仰せられましたような御答弁を固執されますならば、私はもう少し別な事実をあげて、
日本側の
態度について遺憾の点があったことを申し上げてみたいと思います。
それは国旗
事件に対する
政府の
態度についてでございますが、私はこれにははなはだ欠けるところがあったと思います。
政府は
中国国旗侮辱事件を単なる刑法適用の問題としてしかお取扱いになっていない、
中国もそういうようにとっておるのであります。
政府は犯人である
日本人を法律的にどう処分するかということだけを問題とされまして、その国旗が外国たる
中国の国旗であるということ、それを尊重しなければならぬという考慮が、私
どもの目から見ますと、残念ながら、全然現われていなかったと見受けられるのであります。これは
中国人がどう見るかを別としても、私
ども自身がそう見るのであります。これは決して色目で見るのではない。冷静な
日本人としてそう見ざるを得ないのであります。またこれを
中国の国旗として取り扱う場合も、単に法律的な取扱いをしただけで、不承認国の国旗は、刑法第九十二条の国旗に該当しないから、単に器物損壊罪を適用するのだというような、きわめて官僚的な取扱いに終始されたことは非常に残念であります。そこには国旗に対する尊重という観念は全然現われておりません。単なる布きれを取り扱うような
態度であります。これは
中国人ならずとも
日本人でも承服することはできません。問題は一片の布きれではなくして国旗であります。これは
日本の国旗であろうと
中国の国旗であろうと、台湾の国旗の場合であったとしても私は同様だと思います。どこの国の場合だってこういう取扱いをなすべきものではありません。私は
長崎における
中国国旗事件を法律的にどう取り扱うかとか、どういう刑法上の条文を適用するかという問題につきましてはきょうはここでは触れないことにいたします。これはまた法務
委員会などで他の
委員が論じられるでしょうから、そういう法律問題としてここで論ずることは省略したいと思います。私がここで問題としたいと思いますことはむしろ国旗問題を法律問題としてのみ取り扱おうとしたその
態度と、外国国旗に対する尊重という観念が全然欠除しておったということ、このことについてであります。
国旗引きおろし犯人が
中国国旗を侮辱した以上に、この
事件に対する
政府の行政的
措置は、
岸内閣が
中国及び
中国人民を侮辱したというように
中国側からは解せられておるのであります。この事実を私は絶対無視してはならないと思う。私はこの点については
政府に徹底的な
反省を求めたいと思うのであります。この
反省なしには
中国関係の打開は不可能であると私は思います。この問題について私は重要だと
考えられます二つの問題を提起してみたいと思います。
第一は、国旗問題を法律問題としてのみ取り扱った
態度を徹底的に自己批判しなければならぬということでありまして、
政府にそれができるかどうかを私はただしたいと思うのであります。まず、私は、私としては、こう
考えるべきだということを申し上げてみたいと思います。これは非常に重要な問題であると思いますから、よくお
考え願いたいと思うのでありますが、
政府は
中国と
日本との
関係を、国旗問題の際に現われましたように、法律
関係という面に重点を置いて律していこうとせられているように思われるのであります。私の
考え方を申しますと、私は
中国と
日本との
関係は、国際法的
関係の面に重点を置くよりも、むしろ、道義的精神の面に重点を置いて規整されるべきものだと
考えるのであります。現在は
両国の
関係が
国交未回復の
状態に置かれておるのでありますから、なおさら道義的精神によって
両国関係を規整すべきであって、単なる法律
関係の面にのみ重点を置いて問題を規律しようとしたところに非常に大きな、そして、いわば官僚的な誤まりがあったと思います。時間がありませんから私は自分の
考えることを引き続き述べて参ります。国際法も法律でありますから、その根底に道義的精神が存在していなければならぬことは申すまでもありません。国際法は道義的精神と緊密な
関係を持つものでありまして、国際法の発達は、国際的な道義精神の向上に伴うておるということを、私
ども、国際法
発展の歴史を見て、知り得るのであります。従って、もし何らかの事情のために、たとえば、現在の
中国と
日本との
関係のように、
国交未回復という
状態にあるために、実際上は国と国との交際をしなければならず、またしておりますのに、正式に国際法を適用することができないような場合には、その国際法の根底に横たわっておる道義的精神によって
両国の
関係を規整すべきものである、私はそう思う。これが正しい
考え方、やり方であると思います。しかるに
政府はこれを誤まって、国際法適用の正式の
関係にない
両国の間を道義的精神をもって規整することを忘れて、あるいはこのことを無視して、法律的取扱いに終始されたのである。国際法適用の
関係にないという法律的
見解に立ち、そういう
見解に基いて、対
中国関係においてもまた国内の
事件処理の
方法においても事を処理せられました。ここに私は、非常に大きな誤まりがあったと思う。
いま
一つ、私は、重要と思われる
見解を申し述べます。
政府は、
わが国は
中国を承認していない、
国交未回復だから法律的に一人前の国として取り扱うことができない、こういうことを言われておるのでありまして、これが
政府の三
団体に対する
回答、
愛知前
官房長官の
談話及び国旗
侮辱事件に現われた
政府の
態度であります。しかし
日本側が、もしこのように国際法的
立場を固執しようとするならば、私はこれは非常に重大だと思いますが、これは
愛知前
官房長官、現法務大臣もよく聞いていただきたいと思います。これは岸
総理に対しても同様ですが
日本側がこのような法的
立場を固執いたしますならば、しからば
中国側で、自分の方でも国際法でいこう、そう出られたらどうなるのでしょうか。
日本と
中国とは、戦争はまだ終結していない
関係にあるのではありませんか。しかも
日本は戦敗国ではないかと
いわれても返す
言葉がない
立場に置かれておるのではありませんか。私はまじめに
日本の
立場を
考えていただきたいと思う。
政府は思い上りをしているのである。徹底的に
自己反省をしてもらいたいと思う。幸いにして
中国は、今までそういうことを言わないで、この戦敗国である
日本に対して、まだ国際法上
国交を回復していない、戦争を終結していない
関係にあるにかかわらず、対等平等な
関係でつき合っていこうという
態度をとってきてくれたのであります。それがこの
全面的交流断絶直前までの
中国の
態度であったのであります。こういう
態度に向うが出てくれたからこそ、
貿易、漁業を含めて数十の友好的
協定の締結を可能にいたしましたし、多数の人々の
人事交流をも可能といたしまして、このことは
わが国に明らかに利益を与えておるのであります。しかも利益を与えてくれておるだけでなくて、それは
アジアの平和にも大きく役立ってきたのであります。
わが国は戦争中に莫大な人的、物的被害を
中国人に与えておる。筆舌に絶した戦犯的行為を行なったのではないか。しかも
わが国は敗戦国に成り下ってしまっておるのであります。このことについて、はなはだ大きな
責任を感じなければならぬ人が、
岸内閣の中にもあるのではないか。終戦後から今日まで十余年を経過しました。それは決して短かい月日ではありませんが、しかし戦争中に
中国に対して犯した罪を忘れてしまうほどの長い月日ではないと私は思う。しかもあの戦争における重大な
責任はまだ解除せられてはいないときに、
わが国の政治家が、
中国は承認していない、あるいは承認しない、などと口幅ったいことを、いたけだかになって、言える
立場にあるかどうか。よく
考えてみて下さい。法律的にだけ
考えれば、そう言えないこともないでしょう。
中国の国旗に対し法律的
見方にのみこだわって、一片の布きれ同様に取り扱うような不始末なことをして、少くとも今日までまだ何ら
反省の色を示していないと私は思う。岸
総理大臣に申し上げたい。
国交未回復の現在において、
わが国と
中国との
関係を規律するものは道義的精神であります。国際法などであってはならぬ、私は、こう思う。これが正しい
見方ではないのでありましょうか。聡明なあなたには、このことが
理解できないはずはないと私は思う。
理解できるならば、今からでも決しておそくはありません。少くとも国旗処理の問題について、今までとってきた
態度を大胆率直に自己批判をされてしかるべきだと思います。国旗
事件を引き起しましたのは、なるほど思慮の足りない一市民であったでありましょう。しかしながらその処理においては、
政府は一定の意思表示をし、かつ一定の行為に出ておるのであります。それが国際的に深刻な問題になっております現在におきまして、われ関せずえんでは私は済まないと思う。
総理大臣が
日本の行政機関の最高の
責任者として、国旗
侮辱事件に対して行政的
措置において、欠けたるところがあったことについて、少くとも私は遺憾の意思を表明さるべきであると思います。私はそのことが日中の
関係の打開にどんなに役立つかもわからないと思います。
総理大臣はどうお
考えになりますか承わりたいと思います。時間があまりありませんので、御答弁を承わります前に、ついでに、私は、
総理大臣初め内閣諸公に対しまして、
中国は
日本の国旗をどんなに尊重してくれておるかとうことを、参考のために申し上げておきましょう。これは
愛知前
官房長官や、
総理大臣は特別に聞いてお「ていただきたい。
私が以下紹介いたしますのは、先般開かれまた武漢、広州
日本商品展覧会においての例でありまして、この展覧会の役員でありました人の正式の報告から引用するものでありますから、これは事実であります。それは次のように言っております。「
中国において、展覧会で、
日本国旗を掲げたが、いかに
日本の国旗が尊重されたかということを私は報告する義務があると
考える。広州におきましても、武漢におきましても、向うの軍隊がそばに立って
日本の国旗を護衛してくれておって、また毎日国旗をおろすたびごとに修繕してくれた。それでも長い期間によこれてきたのに対しては、新しいのと取りかえてはどうかと言われたけれ
ども、こっちはいろいろの
関係でそのままにしておいたところ、いつの間にか
中国側の手で古いものを大切にしまい込んで渡してくれて、そうして新しいものに取りかえておってくれた。このように日章旗を尊重したのは、
中国民衆に
日本の国旗に対する愛着があったためであろうか。
中国民衆の間には、今なお戦争の記憶が払拭されていないものもたくさんあり、日章旗を見ると、今もって胸がうずく、あれを見ただけで立ちくらみをする人もたくさんおるという。しかし
中国民衆は、
中国の五星紅旗に愛着を持っておるからこそ、
日本の日章旗をも尊重するのである。
長崎における国旗引きおろし
事件に対する
政府の
態度は、日章旗に対する誇りと愛着を失なっておる証拠である。」こう報告しておるのであります。
中国の
日本の国旗に対する
態度と、
長崎の国旗
事件において現われた
日本政府の
態度と、どんなに違うかということを、私は、内閣諸公に、よく比較研究して、認識を新たにしていただきたいと思います。私は、
首相は、
首相が
日本の国旗を尊重する意思があることを外国に示すためにも、外国国旗を尊重する
態度を示すべきだと思います。私は、国旗
事件について、少くとも遺憾の意を表わすくらいのことはなさるべきではないか、こう思いますが、いかがでありましょうか。少し
質問が長くなりましたが、これをお尋ねいたします。御答弁は、単に国旗の問題だけではなしに、
中国との
関係を律する基本的な原則についても、先ほど申しましたように、それが法律的であるべきか、道義的であるべきか、そういう問題について、それは
根本的に重大問題でありますから、所信をお聞かせ願いたい。法律重点的にか、道義中心的にか、どうか、ということについても御
見解を承わりたいと思う。