○平岡忠次郎君 ただいま
議題となりました
外国為替資金特別会計法の一部を改正する
法律案に対しまして、私は、
日本社会党を代表し、ここに
反対の意思を表明せんとするものであります。(
拍手)
この
法律案の内容は、オープン勘定の貸し越し残高としてインドネシア共和国に対して
日本の有する請求権約一億七千七百万米ドル、邦貨に換算いたしまして約六百三十六億円を放棄することに合意せる両国間の議定書第二条の
規定に基き、会計法もの処理手続として外国為替
資金特別会計の借方にあるいわゆる焦げつき債権約六百三十六億円を棒引き削減するとともに、これに見合うところの同会計の貸方の
資金をそれだけ減額して整理しようとするものであります。一見何のへんてつもない会計上の処理手続のための
法律案のごとくでありますが、一段掘り下げて見るならば、
政府与党の非政を集約的に表現している怪奇異様のけしからぬ
法律案でありまして、私どもは、とうてい、
国民とともに、これを了承しかねるのでございます。
この一億七千七百万ドルの棒引きはインドネシア賠償四億ドルの一部であってしかるべきであるのに、
政府は、言をかまえて、あくまでも債権の棒引きであると強弁、固執しているが、外相初め
関係閣僚の答弁が、インドネシア修交のためにということを繰り返すだけで、この巨額の棒引きを正当づける何らの根拠をも示しておらざるところに、深い疑問が存するのであります。
思うに、
政府は、この棒引き処理をもって、その効果を次の二点に期待しているのではないかと思われるのであります。その
一つは、
一般予算額に関しまして
国民を欺瞞せんとする内政上の政治的配慮ではないかと思われるのであります。すなわち、三十三年度
予算編成の過程におきまして与党の党略
予算要求に屈し、これに迎合せざるを得なかった
政府が、当初の予定の拡大規模一千億円のワク内におさまり切れざるインフレ
予算を計数上隠蔽するために、予定のワクにおさまったかのごとく見せかけるため、本来なら賠償額六百三十余億円として、
一般予算の歳出に加算計上すべきであるのに、このオーソドックスの処理を回避して、外為会計の減資という異例の
措置をあえてとったのではないかと思われるのであります。かかる観測に立つならば、
政府のヌエ的な方式、すなわち、外為会計減資処理方式は、明々白々な賠償金六百三十余億円の巨額を、
予算上の処理としてどこにも現わさずに、陰にこもってIMF等に対する恒常的利子支出という隠れた姿で
国民負担を増高せしめることとなりまして、これは決して正しいやり方ではないのであります。
政府のとり得べき最もすなおにして正しい
措置としては、
一般会計歳出に、賠償費として公然、なお六百三十余億円を加え、インドネシア賠償に充てると同時に、対インドネシア債権は、この際これを返済してもらうという意味で、六百三十余億円、すなわち約一億七千七百万ドルは送金せず、外為特別会計の借方の従来の焦げつき分に振りかえて、外為会計の実質を名目
通り回復する、従ってもはや
資金の減資も取り行わないという処理こそ、
政府のとり得べき処置でなければならないのであります。
一月三十日、前大蔵大臣一
萬田尚登君は、
事務的ミスと称してこの特別会計の予定貸借対照表の正誤表を
提出し、この壇上から陳謝の意を表せられたが、
政府が正誤すべきは、外為特別会計貸方の
資金の減額処理ではなく、三十三年度
一般会計の歳出の増額
措置でなければならないはずであります。結論的には、一兆三千百二十一億円の
一般会計
予算を、この際修正して、あらためて六百三十余億円を加え、一兆三千七百五十余億円としてこの大膨張
予算案の賛否を議会に問い、
国民に問うべきであります。
これが、この
法律案の提案そのものを否としてこれに
反対する
理由でございます。次に、このヌエ的処理にか号た
政府の期待は対外的な思惑ではないかと、私どもは疑念を抱くものであります。すなわち、
政府の答弁では、インドネシアに支払う四億ドルのうち二億二千三百余万ドルが賠償金であって自余の一億七千七百万ドルはインドネシア修交のための債権の放棄であるとするのでありまするが、かかるややこしい二本建処置は、対内的な
予算規模隠蔽
措置とは別に、ビルマから賠償額の再検討条項を持ち出されないようにとの苦肉の策と思われるふしがないでもありません。もし、二億ドルの対ビルマ賠償額とほぼひとしい二億二千三百万ドルのみが対インドネシアの賠償額だとの欺瞞的意図を包蔵する伏線的
措置であるとしたならば、
日本国民の名誉にかけて、
政府の欺瞞外交
政策を糾弾いたさなければなりません。こうした
政府の思惑があるかどうかは知りませんが、現実の問題として私が、本年四月、たまたまラングーンに出向いて、ウ・バ・スエ、ウ・チョ・ニエン両副総理から確かめたところでは、ビルマ
政府は、インドネシアに対する
日本の賠償額は四億ドルなりとの建前をとって、当然の権利として、再検討条項に照らして、賠償の増額請求をしてくるとのことでございますから、
政府の期待は的はずれと申すべくもし、外交折衝の折、詭弁を強行するならば、いたずらにビルマから不信を買うだけのことで、何らの利益にもならないのでありますから、せめて
日本外交史上に汚点を残さないように、この際、
政府の自戒を求めておきます。
それどころか、今回の
政府の処理の影響として見のがし得ないことは、この棒引き処理が悪例となって、対韓国のオープン勘定じり四千六百余億円が日韓会談で棒引きされることになりはしないかと、私どもは
国民とともに憂慮いたしておるのであります。
以上が、
政府の思惑とは逆に、対外的逆効果を憂慮して、この
法律案に
反対する第二の
理由であります。
最後に、この
法律案に
反対する最も重要な
理由を申し述べたいと存じます。すなわち、この
法律の焦点である六百三十六億円の焦げつき債権のよってもって発生したいきさつこそ、
国民とともに断固私どもの究明いたさなければならない事柄でございます。御存じの
通り、わが国貿易の決済方式は、ル、ポンド建現金決済と、相互貸し売りあと決済ともいうべきオープン・アカウント決済に大別されます。ドル・ポンドの現金決済には問題はありません。問題は、オープン・アカウント方式であります。お互いの貸し売りあと決済ともいうべき、いわゆるオープン・アカウント方式が非難せられて久しいにもかかわらず、
政府は、積極的にこれを改める手を打っていないのであります。いな、むしろ、異常な弊害を生みながら、これが改変に逡巡しているのが
政府でございます。無能にあらずんば、財閥とのくされ縁があると思量せられても、これはやむを得ないでございましょう。(
拍手)私どもは、輸出
振興の美名のもとに私利私欲を追求してやまざる業界と、これと結託する
政府の迎合主義を剔快しないわけにはいかないのであります。(
拍手)
御
承知のように、わが国は、貿易制度において為替集中
政策をとっておりますので、特定メーカーあるいは荷主によるところの外貨建輸出は、その等価たる円をもって、船積みと同時に、銀行を通じて
政府からの支払いを受け、いささかもリスクを負いません。かわって外貨債権は
政府に帰属しますが、その不渡りの偉険も同時に
政府に移る仕組みになっているのであります。この支払い円貨の調達は、
国民の税金の集積であるところの
一般会計からの
資金をもってまかなわれているのでありますから、一たび焦げつきができれば、これは輸出者にまで遡及求償せられるものではなく、しょせん、
国民がそのしりぬぐいをさせられるのであります。制度上は、外国為替
資金特別会計というクッションを介在させておりますが、
一般会計の金でのしりぬぐいには違いないのでございます。また、
政府は、その保有するところの外貨の瑕理なきことを前提としてその一部を日銀に売りまして、日銀から円札を発行させることもできます。このような発券の仕組みと、外為特別会計における円
資金の調達の仕組みにおいて、
政府保有の外貨債権の非常に多くの部分が焦げつきであって、無価値にひとしいものとするならば、被害者は
一般国民となることは、自明の理でございます。(
拍手)すなわち、
国民は、仮空外貨の基礎の上に、過当に散布された円札のもたらす貨幣価値の下落、すなわち、インフレの禍害を受けるか、外国為替特別会計
資金の取りくずしにあい、血税をもって跡始末をさせられるかの、いずれかでございます。これは、想像上の危惧ではなく、現に、インドネシア賠償を契機として、本日ただいま、この
法律案の通過と同時に、
国民にとって六百三十六億円、
国民一人七百円あての醵出をしいられる現実の被害となってくるのであります。(
拍手)これこそ、
日本社会党が断固としてこの
法律案の非違を糾弾し、
反対をいたす最大の
理由であります。
以上申し述べまして、私の
反対討論を終ります。(
拍手)