○足鹿覺君 私は、ただいま上程されました
繭糸価格の安定に関する
臨時措置法案に対し、
日本社会党を代表して、若干の
質疑を試みんとするものであります。(
拍手)
去る第二十八
国会におきまして、第一次
岸内閣は、糸価安定特別会計法を
改正する
法律案を提出し、異例の本
会議訂正等をも行いまして、同特別会計の借入金の限度を拡張して、これを七十億円となし、特別会計の保有する従来の資金と合せて百五億円の資金をもって生糸及び繭を最低価格で買い入れ、もって蚕糸業の安定をはかることとしたほか、
繭糸価格安定法の一部をも
改正いたしまして、
日本輸出生糸保管株式会社を半官半民の国策会社に切りかえ、
政府出資を行うと同時に、同会社の生糸特別買い入れ制度の拡充を行い、また、乾繭の買い入れ制度の道をも開くことといたしたのであります。
当時、すなわち本年三月、わが党は、右二
法案を審議するに当り、蚕糸業をめぐる内外の情勢が容易ならざる
事態であることを憂慮いたし、この程度の蚕糸対策をもってこの難関を乗り切ることが果して可能であるかどうか、この際抜本的なる対策の樹立を必要としはしないかという点を熱心に問いただしたのでありますが、時の赤城農林大臣以下、蚕糸当局は、最低繭糸価の維持については確信があるかの口吻をもって
答弁に当られたことは、御記憶に存するところと思います。
しかるところ、対米生糸輸出の不振と、昨年の蚕繭の増産による蚕糸の需給事情は、日ごとに悪化を加え、
政府に持ち込まれる生糸は急激に増大し、五月末における期末在庫は実に四万七千俵に達し、保有資金は完全に枯渇して、直接買い入れば不可能に陥り、これがために、糸価は、一俵十六万円という、過去八年間その例を見なかった最低価格に落ち込んだのであります。
政府の無定見、観察の甘さは、この悲況をもたらした最大の原因であると申さなければなりません。(
拍手)
そこで、
政府は、どろなわ式に、あわてふためきまして、応急対策を決定し、
日本輸出生糸保管会社をして本生糸年度内に生糸五万俵の買い入れをさせて、たな上げ
措置をとる、全養連等をして二百八十万貫の乾繭共同保管を行わしめる、本年度産の生糸の生産を昨年実績の九割程度に押える、本年度夏秋蚕について昨年度より二割の生産制限を行うとともに、今後桑園の整理転換をはかって減産
政策をとるということを骨子とした閣議了解を行い、これに要する資金を農林中金から融資せしめることとし、その額を百五十億円といたしたことは、御存じの通りであります。
ただいま
提案せられた
法律案は、この応急対策により、
日本輸出生糸保管会社が本年六月から明年五月までの間において買い入れた生糸を糸価安定特別会計で肩がわりをし、また、全養連等が保管する乾繭を肩がわりするための、いわばしりぬぐい
法案であり、一カ年を限度とする限時法にすぎず、こうやくばり、その易しのぎの臨時
措置を
規定したにすぎないものであります。
そこで、本案に関連して、当面並びに恒久的な蚕糸対策について、まず大蔵大臣及び農林大臣にお伺い申し上げたいのであります。
本
法律案と、現行の
繭糸価格安定法並びに糸価安定特別会計法とは、いかなる
関係に立つものでありますか、まず、これを伺いたい。
繭糸価格安定法と糸価安定特別会計法は、生糸及び繭の十九万円、千四百円という最低価格を保障するために厳存するものであります。従って、わが党が主張するごとく、この
特別国会において三十三年度
予算を補正し、特別会計の買い入れ資金を
充実するならば、本案のような便宜的手段を講ずる必要は、こうもないのであります。(
拍手)三十三年度
予算編成及び
国会審議の当時において
岸内閣が発表した経済、貿易に関する諸計画は、ことごとく見当はずれ、的はずれであったことは、今日の情勢が明白にこれを証明しておるのであります。(
拍手)
アメリカは、今日、経済恐慌の様相を呈しておる。わが国の貿易規模は二十八億円台を割る形勢にあるのであります。国内においては、繊維産業を初めとし、操短に次ぐ操短を行い、中小企業は塗炭の苦しみを味わっておる。また、農業部門においても、蚕糸業にとどまらず、酪農生産において、各種農産物において、生産者価格は軒並みに低落を続けております。農家所得は減少し、また災害は続発し、まさに農業恐慌前夜ともいうべき深刻な様相を呈しておるのであります。(
拍手)
政府は、このような情勢に対応して、補正
予算を組み、
国民生活の救済安定、産業の立ち直りのために全力を傾注すべきであることは、あまりにも当然と申さなければなりません。しかるにもかかわらず、わが党の主張に従わず、
国民の期待に反して当面の糊塗策にきゅうきゅうだる態度は、まさに
国民の名において断固糾弾に値するものであると存ずるのであります。(
拍手)現に、蚕糸業の安定のためには堂々たる恒久立法が厳存しておるにもかかわりませず、
政府は、これらの
法律の執行を停止して臨時立法を行わんとする
理由を、この際明らかにせられたいのであります。
第二に、蚕糸業安定対策の
内容について伺います。
今回、
政府は、生糸のために百億円、繭のために五十億円の資金を用意せられるわけでありますが、これによって、生糸五万俵のたな上げ、乾繭二百八十万貫の共同保管が行われる予定というのであります。しかしながら、今日までの情勢によれ、毎月五千俵ないし一万俵程度の速度で
政府持ち込みが行われておるのでありまして、この趨勢は当分続くと
考えなければなりません。もし、しかりといたしますならば、生糸買い入れ資金百億円は年内に枯渇することは明らかといわなければなりません。保管会社が無制限買い入れを続行する限り、十九万円の糸価を維持することはできるでありましょうが、資金が底をつき始めると、再び最低糸価を割るという
事態を再現することになりましょう。
政府は、最低糸価、最低繭価を維持するために、必要に応じて資金
手当を増額すると言明されるかどうか、大蔵大臣並びに農林大臣の御
所見を承わりたいのであります。
次に、最低十九万円、最高二十三万円という安定帯価格そのものに対する
政府の
所見を伺いたい。アメリカにおける
日本の生糸の需要は、多少の価格の高低にかかわらず、わが方において十九万円の価格を堅持することによって増進するというのが、今日までの
政府の
考え方であったことは、御
承知の通りであります。しかし、ヨーロッパ市場における中共生糸の実勢価格はすでに十七万円程度といわれ、アメリカにおいても、他の競争繊維とのつり合い上からいっても、十九万円の糸価はすでに高きに過ぎるという
意見が、業界の一部から盛んに放送せられております。二十一中A格十九万円が維持せられることにより、繭価一貫千四百円が維持せられることは、御
承知の通りであります。従って、十九万円を割ることがあるといたしますならば、繭一千四百円の最低価格を支持することが不可能と相なるのであります。
伝えられるところによりますれば、大蔵省方面におきましては、今回の百五十億円は斜陽産業たる蚕糸業に対する手切れ金であるという不謹慎な言辞をなす者があるといわれております。今後、業界が自主的な販売
努力により需給の
均衡をとることを怠るならば、買い入れ資金の追加を行わないのみでなく、安定帯価格そのものをも引き下げるものであるという風評もあります。製糸業界最高の
立場にある某製糸社長のごときは、最低糸価の熱心なる
切り下げ論者であるといわれ、価格支持制度を廃止して、資本主義本来の姿に立ち返って優勝劣敗の自由原則を説き回っております。かくて、窮極の犠牲は、中小製糸と、その
労働者並びに養蚕農家にしわ寄せされることは明らかであります。そこで、私は、農林大臣及び大蔵大臣より、現行最低糸価並びに繭価の支持を確約せられ、それに必要な
財政措置を講ずるかいなかについて、明確なる態度の表明を求めんとするものであります。(
拍手)
次に、繭価協定と乾繭保管についてお尋ねをいたしたい。本年の春繭の取引は、おおむね内渡し金貫当り千円前後が、さしあたって支払われております。後日の精算については糸の実勢価格に見合って支払うことになっておりますために、掛目協定は戦後最大の難航が予想されるのであります。
政府は、生産農家から最低繭価以上の価格によって繭を買い入れたことが確認できる製糸家からのみ生糸の買い入れを行うべきものであると思われますが、いかなる
具体策を持っておられるか、農林大臣より御
説明を願いたい。
また、農業協同組合は、二百八十万貫の乾繭の共同保管に当って、それに要する倉庫、乾繭機、技術者に不足しておることは、
政府は十分御存じだと思います。これらの
施設は、今日、製糸側に完備しております。しかるに、製糸側は、これらの
施設の提供を拒否することによって自己の
立場を有利ならしめようという動きが顕著であります。
政府は、この際、これらを強制収用いたしまして、乾繭保管の用途に充てるつもりはないのでありますか、この点を伺っておきたいのであります。
また、
政府は夏秋蚕繭二割制限案を打ち出されておりますが、ほんとうに成算あってのことでございましょうか、明確に御
答弁を願いたい。御
承知の通り、桑園は、三年目以後になって初めて生産が開始されるのであります。また、養蚕地帯は、他に適当な農作物がないために桑が植えられておるのであります。
政府は、今日まで一貫して、桑の増産を指導して参っておるのであります。ついこの間の選挙前まで、声を大にして、増産々々のかけ声をかけてきたことは、天下周知であります。しかるに、ただいまは、一転して生産制限を
強行せられようとしておる。まことに朝令暮改とはこのことでありましょう。農民は、またしてもだまされたという思いであります。政治に対する不信の念を植えつけることは遺憾のきわみであり、その責任はあげて
政府にあると断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)農民が
政府の一夜にして変るような
政策転換に盲従すると、農林大臣は本気に
考えておいでになりますか、
所信のほどを伺いたい。
アメリカのソイル・バンク方式による農産物の生産制限が大失敗であることは、御
承知戸ございましょう。また、ほかに適当な作付転換を行う作物が果してあると思われるでありましょうか。適地適件の声を大にして、野菜を作れば大暴落であります。酪農もまた危機に臨んでおります。果樹は、一朝一夕に生産を上げることはできません。
政府は、強制的に有効な生産制限を
実施せられるといたしますならば、養蚕農民、蚕種業者、桑苗生産者に対する補償
措置をも当然講ずべきでありますが、いかなる用意を持たれておりますか、この際、大蔵、農林両大臣より明らかにせられたいのであります。
以上、私は、本案に関して、いろいろお尋ねをいたしましたが、
最後に、蚕糸業に対する恒久対策等について、
政府の確信ある方策をお伺いいたしたいのであります。
正直に申して、今日の蚕糸対策は、五里霧中というか、よろめいておるというか、全く自信を喪失した姿を露呈いたしておるのであります。わずか二、三ヵ月の間に、その
政策が二転または三転しておるのであります。蚕糸業は、おおむね六百億円の生産を上げ、百数十億円の外貨をかせいでおり、依然わが国の重要産業たることを失わないのであります。しかるに、今日においては、繭の取引は
混乱をきわめ、また、昨年成立した生糸製造設備処理法を契機として繭の買手市場が実現し、養蚕農民は決定的に不利な
立場に追い込まれ、また、繭の検定をめぐり、検定所の中には、製糸側の走狗となって、糸量、糸格について故意に不利なデータを提供し、各地で問題を惹起しておるのであります。
総理大臣、通産大臣に伺いますが、
政府は、この際、現行の価格中心の
繭糸価格安定制度を抜本的に改訂し、農民と製糸間の契約に対する
管理制度を確立し、また、繭価格と生糸価格の間の
財政負担による二重価格制度を実現すると同時に、海外需要喚起のために技術
改善、宣伝等の根本対策を確立し、画期的な
予算増額を行う
意思はないかどうか。これを
総理並びに通産大臣にお伺いをいたしまして、私の
質疑を終ることといたします。(
拍手)
[
国務大臣岸信介君
登壇]