○横山
委員 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程されました
経済基盤強化のための
資金及び特別の
法人の
基金に関する
法律案について絶対反対いたすものであります。
しろうと大臣をもって自任し自負される
佐藤大蔵大臣に期待するゆえんのものは、変転はなはだしかった今日までの
経済の施策の行きがかりにこだわらず、移り変る
経済情勢を客観的にすなおにながめ、適切な処置に英断をふるうことにあろうと存ずるのであります。しかりといたしますならば、この
経済基盤強化のための法案、俗にいうたな上げ法案は、前
国会で文字
通りたな上げされて
審議未了となり、処置のついた法案でありますから、清新はつらつと登場したはずの
大蔵大臣が、死んだはずのお富さんを後生大事に墓場から取り出してくるということは、就任早々とりあえずといたしましても、まずもって世間の期待を裏切るものといわなければなりません。
そもそも、この法案の基礎をなす余裕財源のたな上げ構想は、昨年春、
政府の景気
見通しの誤まりによって、神武以来の景気が突如として神武以来の不景気に転落したことから生まれ出た構想でありました。すなわち、
経済の激変にろうばいした第一次岸内閣は、去年春以来金融引き締めの手を強力に打ち続ける一方、九月十日の三十三
年度基本構想において、
昭和三十三
年度におけるわが国
経済運営の第一義目標は、国際収支を大幅に改善することにあり、そのため、さしあたり
昭和三十三
年度においては
経済の発展を控えぎみとして、将来における安定した
経済発展の条件を整備しなければならない。三十一
年度の
剰余金はもとより、財源の余裕は将来の景気調節の財源とするという徹底した前提に立ちました。しかし、十二月二十日の閣議では、
昭和三十一
年度剰余金のうち、法定の財源に充当される分を除く四百三十六億円は、全額これを特定の
資金として保留し、将来において
経済基盤の育成強化のため必要となる経費の財源として活用するということになり、その後さらに
国会へ上程されたときは、
経済基盤強化資金二百二十一億と、五特別
法人の
基金出資二百十五億とに分割されることと相なったのであります。何がゆえにこのように当初の
計画を変化せざるを得なかったか。言うならば、それは、あつものにこりてなますを吹くたとえの
通り、
経済政策の失敗にこりて冷たいなますをふうふうと吹いてさますようなやり方が内外の批判を浴びて、ついには自民党内における反対論にも屈したからであります。
問題とすべきことは、この法案の基礎理念が閣議で決定されたときの
経済情勢と今日の
経済情勢とが全く異なっていることであります。鉱工業生産指数は、昨年平均二五七・二が本年四月には二三三・四に落ちました。原材料在庫は、昨年平均一六三・一から本年四月一六四・七にふえました。機械受注高は、昨年月平均六百十一億から本年四月何と二百六十九億に激減しました。
失業保険金の受給件数は、昨年平均の三十万九千人から本年三月には五十万四千人に激増しました。中小企業向け金融は、三十一年と三十二年に比較して五四%という驚くべき引き締めとなり、皮肉にも大企業向けには一八%の貸し出し増となっているのであります。しかも、引き締めの根本原因となった外国為替収支は、四月には名目じりで三千二百万ドル、実質では四千百万ドルの黒字となっており、この分では来
年度の収支は
年間三億ドルの黒字は必至であると
大蔵省内部ですらいわれているのであります。明らかに、日本
経済は、国際収支は黒字基調であり、国内
経済は生産過剰、設備過剰の
段階にあって、この法案が作られた当時の国際収支の危機という
経済情勢とは全く異なるのみならず、働く各層の国民は、不況による
失業と倒産と生活苦など、今日の引き締め政策の犠牲に耐え得ない実情であり、まさに法案を提案すべき理由はなくなっていると断言してはばからないのであります。
今考うべきことは、この新しい
経済情勢に対処する
方途でなくてはなりません。今日の
経済対策については各方面でいろいろ議論されているのでありますが、私は、先日も申しましたが、特に池田勇人氏の所説に傾聴すべき点のあることを考えます。お断わりをいたしますが、私は与党内部の問題に介入する意思は毛頭ありません。より正しい政策追求の一点にあるのでありますが、池田さんの所説は、簡単にいえば、国際収支が黒字基調で、国内需給バランスが供給過剰の場合には、有効需要の上昇を指向すべきであることは自明の理である。このわかり切った根本理念について明快な理解がないために、世上往々にして混迷した議論が行われているのは、はなはだ遺憾であると言っているのであります。三木
経済企画庁長官は底入れの
状態だから、国際収支の均衡という
ワク内で
経済政策を進めたいと言い、
佐藤大蔵大臣は、これに反して、今日特別な人為的措置をとる必要はないと答弁されました。それでいて、公定歩合の引き下げは引き締めのおもしを
一つとったのだ、今後
一つ一つとっていくと付言をされたのでありますが、それが何の
意味やらちっともわからなかったのであります。今日までたび重なる
見通しの誤まりに加えて、閣内にあって
経済閣僚の一人々々が意見が異なるようでは、遺憾千万といわなければなりますまい。
この法案の根底が国際収支の改善にあるとするならば、国際収支の展望についても、また
政府は誤まりを繰り返しているのであります。世界的な不況は、一萬田前蔵相の期待にかかわらず、またアイクの言明にかかわらず、改善の
見通しは何らありません。
政府は輸出の増強に施策の最重点を置いているのでありますが、一方ではアメリカとの片貿易をそのままに放置し、他方では日中貿易を頓挫させるようなことで、三十一億五千万ドルの輸出目標は達成されるはずがないのであります。高碕通産大臣、先般本
会議で不可能ではないと答弁されましたが、足元の通産省の役人が二十七億ドル台といっているのでありまして、今や何人もその実現を信ずるものはありません。
政府は、東南アジア貿易が中国などとの熾烈な競争になっているのを考えて、支払いの延べ払い方式の推進をしております。これは、去年以来の借款は控え目に、海外投資や延べ払い輸出も代金回収を確保するよう慎重にという一萬田政策から見れば、明らかに大転換であるのみならず、国際収支の改善に矛盾する措置といわなければなりません。これを強行するためには、ついには外貨を別な形で獲得しなければなりますまい。
政府は、明
年度予算に備えて、今から米国との新たな外貨借款を秘密裏に折衝し、これをてこにして東南アジア
対策を考えているとのことでありますが、これらがもし事実であるといたしますならば、日本
経済はますます米国に従属し、中国との関係は決定的な危機を招来すると思われるのであります。
政府は、また、不況は底をついた、なべ底だと強弁しています。しかし、先日の国際連合の発表は、世界の不況がなお継続することを発表していますし、形の上で底をついたかに見える日本の不況というものは、広範な
生産制限と、秋までには終るであろう継続工事と、
一般的な滞貨金融によって、わずかにささえられているのにすぎません。
政府の
希望的観測にかかわらず、本年秋から来年春にかけて、これらのささえは次第に失われるか、あるいはささえの意義を失って、世界的不況の深刻とともに、本格的不況に突入する危機はきわめて強いのであります。
今日なすべきことは、この四百三十六億を中心として、公共投資、
一般財政支出、国民消費支出の適度の増加によって国内有効需要を刺激するとともに、将来生産力の拡充発展を可能にするための外部的、環境的条件を生み出すことであります。同時に、相互の信頼に立って、閉ざされた日中貿易を打開することであります。これなくして東南アジア貿易を円満に推し進めることはできません。なぜならば、
政府の選んでいる道は、日本
経済に外貨危機と米国従属という犠牲を加えるばかりで、日中関係の打開をさらに向うへ押しやるからであります。
かく考えて参りますと、この法案は、ますますその緊急性、必要性はごうもないばかりか、むしろ
失業者と倒産と重税の今日、日本の
経済をさらに不況べ導くのであって、有害と断じてはばからないのであります。
本来、この四百二十六億の財源は、収入目標を超過した取り過ぎの税金であります。一萬田前
大蔵大臣は、昨年来、
国会において、これは臨時的財源であるから、減税や施策には回せないと述べてきたのでありますが、解散になるや、
政府与党は、明
年度も一千億の自然増収がある、これをもって七百億の減税をすると呼号し始めたのでありまして、国民を偽わること、これよりはなはだしいものはないのであります。もしその減税を行う誠意があるならば、その財源の一部は減税にこそ回さるべきでありましょう。
二百二十一億の
経済基盤強化資金は、将来の道路整備、港湾整備、科学技術の振興、異常災害の復旧または産投への繰り入れに
予定されているのでありますが、前
国会以来、世論はほうはいとしてこれがすみやかな実行を望んでいるのであります。何がゆえに今これができないのか。あくまでこれをたな上げして、それでいて次期
国会でこれを取りくずし、補正
予算を組むことになると思うのでありますが、このような愚を冒そうとする理由は何であるか。一にかかってこれは
政府の
見通しと
対策の誤まりであると思うのであります。
二百十五億の
基金についても同様であります。
農林漁業金融公庫に六十五億、中小企業信用保険公庫に六十五億、日本輸出入銀行に五十億、日本貿易振興会へ二十億、日本
労働協会に十五億をそれぞれ出資するのでありますが、信用保険公庫の一部例外を別として、
基金を使わせるのが
目的ではなく、この金を
資金運用部に預けて、その利息で
事業運営や
利子の値下げをするのが
目的でありまして、まことに人を食ったやり方です。明らかにこれは
補助金である。
補助金ならば
補助金らしく堂々と毎年計上すればよい。そして二百十五億は堂々と
運用することが政治を明朗にする道であると信ずるのであります。
政府は、これらの
基金を
資金運用部へ回させて、
政府短期証券の買い入れに充当する
予定といわれていますが、時期条件次第では
財政投融資計画に繰り込むつもりではないか、明確になっておりません。ここにも国民を偽わるやり方が隠されていると思うのであります。
本法案に含まれる日本
労働協会について一言申し上げたいのでありますが、労使の自主的な交渉と妥結こそ、労使問題の基本的な原理であります。これに向って、当事者はもとより、関係者もあらゆる施策も
努力もさるべきであります。協会の
目的とする啓蒙宣伝についても、昔と違って、労使がそれぞれ憲法によって自主的な組織を持ち、十年にわたる実績を持っているのでありますから、ほかからとやかく言う必要はない。それとも、協会という隠れみのを使って、
政府資本家の
労働政策の御用機関たらしめようとするのでありましょうか。きわめてその意図は明瞭であります。かくのごときは、国民の税金を二重三重に無為に使用する結果となるのであります。
考えまするに、この法案は、新内閣がいまだ
経済の
見通しも、また
対策についても、内部に意見の不統一があり、
大蔵大臣も
経済の認識不十分であるから、一応前の程度で提出しておこうというその場限りの感が前提となっておるように思われます。しかも、そのやり方は、今日不況に呻吟ずる
農民、中小企業者、
労働者を放置し、いな、ますますその犠牲によって、大企業中心の
経済政策を進める橋頭堡となるものであります。
総選挙に際し、与党の総裁として岸総理は適当な景気
調整策を行うと天下に公約しました。
佐藤蔵相の言うごとく、特別な人為的措置を必要としないなどということは、民主政治を口にするならば断じて言えるはずではありません。新内閣はこの公約について今何を実行するのか、具体的に国民の前に明らかにする義務と責任があり、この法案は全くその公約に逆行するものであります。
重ねて申しますが、法案が考えられたときの基礎条件は変り、働く各層の国民は苦しみにあえいでいる今日であります。行きがかりを捨てて、再検討する新内閣の絶好の機会と思うのであります。いわんや、本
委員会で明らかにされたように、与党の心ある人は、われわれの主張に
同意されておるのでありますから、この際与党の諸君の真摯なる考慮を求めつつ、私は本法案の反対討論を終るものであります。(拍手)