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1958-07-01 第29回国会 衆議院 社会労働委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年七月一日(火曜日)     午前十時四十九分開議  出席委員    委員長 園田  直君    理事 大坪 保雄君 理事 田中 正巳君    理事 野澤 清人君 理事 八田 貞義君    理事 小林  進君 理事 五島 虎雄君    理事 滝井 義高君       大橋 武夫君    河野 孝子君       齋藤 邦吉君    田邉 國男君       谷川 和穗君    中村三之丞君       中山 マサ君    藤本 捨助君       亘  四郎君    伊藤よし子君       大原  亨君    岡本 隆一君       多賀谷真稔君    吉川 兼光君  出席国務大臣         労 働 大 臣 倉石 忠雄君  出席政府委員         労働事務官         (大臣官房長) 澁谷 直藏君         労働事務官         (労政局長)  亀井  光君  委員外出席者         労働基準監督官         (労働基準局         長)      堀  秀夫君         労働事務官         (職業安定局         長)      百田 正弘君         専  門  員 川井 章知君     ――――――――――――― 六月三十日  最低賃金法案勝間田清一君外十六名提出、衆  法第九号)  家内労働法案勝間田清一君外十六名提出、衆  法第一〇号)  公共企業体等労働関係法の一部を改正する法律  案(勝間田清一君外十四名提出衆法第一一  号)  地方公営企業労働関係法の一部を改正する法律  案(勝間田清一君外十四名提出衆法第一二  号) 同月二十八日  高血圧調査研究所設置に関する請願飯塚定輔  君紹介)(第一一二号)  国民健康保険法改正に関する請願飯塚定輔君  紹介)(第一一三号)  簡易水道布設費国庫補助増額に関する請願(飯  塚定輔紹介)(第一一四号)  保育所措置費国庫負担増額に関する請願(飯  塚定輔紹介)(第一一五号)  国民年金制度創設促進に関する請願飯塚定輔  君紹介)(第一一六号)  国民健康保険法改正に基く助産給付に関する  請願松本七郎紹介)(第一一七号)  東北地方国立精神薄弱児施設設置に関する請  願(飯塚定輔紹介)(第一四九号)  国民障害年金法制定に関する請願山手滿男君  紹介)(第一七〇号)  水俣奇病対策に関する請願坂本泰良紹介)  (第一九五号) 同月三十日  原子爆弾被爆者援護に関する請願池田勇人君  外七名紹介)(第二二一号)  同(重政誠之君外五名紹介)(第二二二号)  同(倉成正君外八名紹介)(第二四五号)  し尿終末処理施設費国庫補助率引上げ等に関す  る請願伊藤よし子紹介)(第二四一号)  国民年金制度創設促進に関する請願伊藤よし  子君紹介)(第二四二号)  部落問題解決のための生活保護等に関する請願  (田中織之進君紹介)(第二四三号)  未解放部落民労働対策に関する請願田中織  之進君紹介)(第二四四号)  原子爆弾被爆者医療等に関する法律の一部改  正に関する請願外二件(石橋政嗣君紹介)(第  二七七号)  同外七件(今村等紹介)(第二七八号)  同外二件(木原津與志君紹介)(第二七九号)  水俣奇病対策に関する請願川村継義紹介)  (第二八〇号)  同(坂田道太紹介)(第二八一号)  未帰還者留守家族等援護法による療養給付期間  延長に関する請願中曽根康弘紹介)(第二  八二号)  戦傷病療養者の保障に関する請願中曽根康弘  君紹介)(第二八三号) の審査を本委員会に付託された。 六月三十日  未帰還者調査等に関する陳情書  (第一号)  引揚者給付金等支給法の一部改正等に関する陳  情書(第二  号)  同和対策に関する陳情書  (第四号)  売春防止法実施による業者の転業資金融資に関  する陳情書(  第八号)  労働行政の一元化に関する陳情書  (第一七号)  母子年金制度創設等に関する陳情書  (第一九号)  保育事業援護に関する陳情書  (第二〇号)  同外三件  (第八五号)  自然公園保護強化に関する陳情書  (第二一号)  国民年金制度及び重度障害者に対する年金制度  創設に関する陳情書  (第二二号)  国民健康保険に対する国庫補助増額に関する陳  情書外一件  (第二三号)  国民年金制度創設に関する陳情書  (第二四号)  児童文化施設特別助成法制定に関する陳情書  (第六八号)  地区衛生組織の育成に関する法律制定陳情書  (第六九号)  国民健康保険法の一部改正に関する陳情書  (第七〇号)  保育所措置費国庫負担金交付基準に関する陳情  書(第七一号) を本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  労働行政に関する件      ――――◇―――――
  2. 田中正巳

    田中(正)委員長代理 これより会議を開きます。  前会に引き続き労働行政に関する大臣説明に対する質疑を行います。滝井義高君。
  3. 滝井義高

    滝井委員 先般来倉石労働大臣が就任の後における一般労働行政について、いろいろ同僚の議員から御質問がございまして、大体の方向はわかって参りました。しかし倉石労政をわれわれが考える場合には、今まで労働行政を担当しておった石田労働行政というものとやはり一応比較をしていろいろ考えてみるというのは当然だろうと思うのです。石田さんが労働大臣になりましてから私たちに石田労政の目じるしとして示したものは、三つの柱を示してくれました。一つはよき労働慣行を作るのだ、これが石田労政の第一の柱です。第二の柱は賃金格差を縮めていく、こういうことでございます。第三番目は雇用増強をする政策をとっていく、こういうことを明言をしたのです。そしてよい労働慣行を作っていくためには政府法律を守るから組合諸君法律を守ってくれ、こういうやさしい言葉で勤労大衆に呼びかけた。そして具体的にはそれが法律となって現われたものが、やはり労使双方の教育をやらなければならぬというので、労働協会法として具体的に現われてきた。それから賃金格差を縮める、大企業中小企業との著しい格差を縮めていくためにはどうしても最低賃金制度が必要だという、こういう具体的な政策を打ち出してきた。それから雇用増強政策については、政府経済五カ年計画の中に今では物と金というものがどっかりまん中にすわっておって、雇用というものはいつもアウトサイダーの形になっておった。これではいかぬので雇用というものを経済計画中心にもってこなければいかぬのだ、こういうことをおっしゃいましたが、雇用増強に対する具体的な経済五カ年計画への追い込みというものは、ついに石田労働大臣の力をもってしてもできなかった。雇用増強政策として具体的に現われた法案は、職業訓練法として現われて参りました。こういうように石田労政は割にしろうとわかりと言っては語弊があるが、われわれ労働問題のしろうとでもわかるような労働行政の一応の柱を出してきたのです。いろいろ赤松さんなり五島さんなりその他大原さんなりの御質問の過程で、おぼろげながら倉石労政というものは浮き彫りされたような形になりましたが、何か石田さんと同じような柱があなたにあれば、一つわかりやすく御説明を願いたいと思うのです。
  4. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 ただいまお話にありましたような前労働大臣考え方というものは私どもと同じ考えでありまして、私ども党におきまして作りました労働政策、そういうものに立脚をして政府がそこに肉づけをして参った、こういうことでありますから、前任者の申し上げておることは大体私どもがこれを踏襲していくものである、こういうふうに御了解を願ってけっこうだと思います。
  5. 滝井義高

    滝井委員 前の大臣のものを踏襲されていく、こういうことでございますが、今度大臣の一番先にわれわれにお示しいただいた所信を見てみますと、所信の中にどうも大きなこれが柱ではないかと思われるものが三つあるのです。それは一つ最低賃金制実施、こういうことが書いてあります。これはやはり石田労政賃金格差を縮めるということに合致しております。二番目の中小企業労働者福祉増進、三番目の雇用失業対策の推進をはかるという、こういう三つが冒頭にあげられておるのですが、石田労政一つの柱として立てなかった中小企業労働者福祉増進ということが特に倉石労政では強調されておるようです。この点についてはあとでお伺いするのですが、もしこれが柱だとすれば、そういう点が少し違っておるのじゃないか。中小企業労働者福祉増進ということを強く柱として石田労政は打ち出すことはなかったのですが、倉石さんはその点を打ち出しておるようである。同じ中にも、私の見るところではそういう点は幾分文章の上での違いがあるようですが、中小企業の問題はあとにしまして、特に私が今までの日本の保守党の労働行政の中で感ずる点は、この点について大臣見解を伺ってみたいのですが、日本労働行政労政というものが非常に立ちおくれておる感じがするのです。それは労使関係担当部門の幅が非常に狭められておるという感じがするのです。労働者の生活安定を目的とする部門というものは非常に幅が広い。たとえば労働基準行政社会保険行政職安行政、そういうようなものが非常に幅が広くて、労政担当部門は非常に幅が狭い。こういう関係というものが、近代的な労使関係を確立する上に一体日本の現状から考えてそういう姿でいいのかどうかという、こういう問題が一つ。それからいま一つは、労働行政というものが労働行政そのものとして強く独立した形で行われずに、何か産業政策の一面だけで労働行政をになっておるという形、これは昔工場法日本に初めてできた当時に、産業政策一環として商工省でになわれておった。そういうなごりがどうもまだ依然として、現在労使の近代的な慣行を打ち立てたいというこういう二十世紀の後半の労働行政が行われていなければならない日本においても、どうもそういう傾向がある。そうしていわば明治時代工場法を作るときに行われたような議論が依然としてやはり行われなければならないという、こういう労政の立ちおくれと申しますか、そういうことが非常に強いのです。従ってそれをもっと具体的な面でみてみますと、労働基準行政というものを論議する場合に、労働基準法実施した場合には中小企業事業主が非常に困難で、倒れるのではないかということが非常に強く論議されるのですけれども、その基準法のもとで働いておる労働者の問題というものは絶えず二次的、三次的の問題として考えられておるということです。その中小企業に働く労働者労働条件を一体どうするのかということが、事業主の問題を論議する比重に比べて非常に低いという面、こういう点は明らかに労政の立ちおくれを示しておると思うのです。それで石田労政と同じようなものであるとおっしゃいましたが、特にあなたがおあげになっております中小企業労働者福祉増進、こういう面はやはり日本労政というものが産業政策一環としてではなくして、ある程度労政自分の足で立った労政をやるという面、もちろん一国の行政というものは国民生活実態考え、同時にこの行政を取り巻いておる国民経済全体の構造関連しながら進められていかなければならないけれども、しかしそれが産業政策のただ一面を担うだけではいかぬと思うのです。こういう点において、やはり今後の日本労政というものが一体今までのような姿でいいのか悪いのか、どういう方向にこれを展開すべきかという点について、少し理屈っぽくありますけれども倉石労働大臣見解を聞いておきたいと思います。
  6. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 私ども政策を進めて参ります基礎において、人間というものは食うために生きておるのか、生きるために食っておるのか、こういうことだと思います。われわれは生きるために食っておるのだ。そこで最後の一人の生存権というものは何事にも優先的にこれが守らるべきものである。人間が主でありますから、同じく産業政策経済政策と申しましても、政府の策定いたしております新長期経済計画をごらん下さいましてもわかりますように、その重点はやはり雇用を拡大していくために、日本産業政策はどうあるべきかということを言っております。また私どもは、今のいわゆる労働問題というものはすべての政策の中で一番大きなウエートを占めているものだと思っておるわけであります。従って、そういう面から経済政策というものは立案さるべきものだ、こういうふうに考えておるわけであります。従って同じく産業に従事いたしておる多くのグループのうちでも、比較的恵まれない、取り残された立場にある者には、今のような段階においては、よけいに労政の力をその面に注いでいくべきだ、こういうような考え方が、私が所信の表明で申し上げましたような中小企業労働者に対する福祉施設というふうなものに特に力を入れていきたいと考えました理由であります。
  7. 滝井義高

    滝井委員 われわれは生きるために食うことにはなるのですが、もちろん生きるためには生活安定のための諸政策というものが遂行されなければなりません。しかし明治時代工場法ができるときには、その工場法というものは産業政策一環としてやはり論議をせられた。現実の労働問題を論議するときには、少くともわれわれは産業政策の一面としてだけの労働行政というものを論議したんでは、これは時代おくれだと思うのです。     〔田中(正)委員長代理退席委員長着席〕 やはりもっと、労政には労政としての一つ方向というものを、産業政策が間違っておるならば、その方向から是正していかなければならない。しかしもちろんさいぜん私が申しましたように、一国の行政というものは国民生活実態考えるし、同時に国民経済全体の構造との関連考えるので、その面においては、産業政策というものは無視できないと思う。しかし産業政策に依存をし、その中の下請みたいなものでは困ると思う。そういう面で、われわれ人間が物と精神とを二つとも重要なものとして見ていくと同じような形がやはり行われておらなければならぬと思うのですが、どうも労働行政の面においても、生活安定ということが非常に強く出られるけれども、むしろ精神的な部面と申しますか、労政部面が非常に狭められておる。こういう形はやはり今後の日本労政の上においては考えられなければならない問題点ではないかと、こう思うのです。  そこで具体的な問題でお尋ねをするのですが、新聞その他を見ると、石田労政というものは非常に強い半面があったけれども、一面進歩的な面を持っておったんだ、こういうことを総合雑誌新聞論調は書いております。ところが倉石さんはそれなら反動的かというと、決して私はそうは思いません。これは石田さんと同じだろうと言うからそうだと思いますが、最近の新聞雑誌論調を見ると、倉石労政石田労政と幾分違うんじゃないかというニュアンスが出ておることは、これは正直にここで倉石さんも感じておるだろうし、われわれもそういう感じがするんです。そこで倉石労政というものは、一体経営者に対していかなる態度をもって臨むかということなんです。これを一つ明白にしてもらいたい。
  8. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 私は経営者に対してどういうというよりも、経営というものはどういう気持でやるべきかということについて、こう考えております。ひとり事業経営ばかりでございませんで、われわれ個人がここに存在いたしておるということは、やはり自分単独の力でここに存在しているのではないので、いろいろな力の支持を受けてここに存在しておる。従って経営の面もやはりそういうことを忘れてはいけない。経営者としては、やはり経営というものがそこに存在しておるには、目に見えない、あるいは目に見える多くのものの支持によって成り立っているのでありますから、そこでまず第一に、経営者というものはやはり自分の仕事の社会性公共性というふうなものを自覚をしてもらいたい、そういう立場経営に従事していく。そういう考え方中心になっておれば、先ほど工場法お話がございましたけれども、一部に非難されるような、いわゆる古代の資本主義が発達した当時の伝えられておるような資本経営というものはなくなるのではないか、またそういうことが近代的には徐々に各国において考えられ、また実行に移されてきておる。いわゆる進歩的考え方経営者というものは日本にも非常に多く、ことに大産業方面においてはだんだんそういう方面に力を注がれるようになってきたことは御承知の通りであります。  そこで今の、いわゆる経営というものに対してどう見ておるかということは、今私が申し上げましたような考え方中心にして経営を営んでいただく、またその経営がそういう考え方で成立していくことが日本発展のために望ましいことでありますから、そういう方向でいってもらうように、同時にまたその経営が十分に成り立っていくように政府としてはめんどうを見てあげる必要がある、こういうふうに考えております。
  9. 滝井義高

    滝井委員 経営者社会性公共性を持ってもらう、それから日本産業発展する方向経営をしてもらう、きわめて抽象的なんですが、労働行政経営者に望む態度というものは、これははやはり労使に対して労働行政中立でなくてはならぬと思うのです。私がどうしてそういうことをお尋ねするかと申しますと、たとえば神風タクシーというものが現われてきた。一体こういう神風タクシーというものがなぜ生まれなければならぬか、結局これは固定給が少い、それから累進歩合給である、ノルマ制である、こういう賃金体系にあるわけです。そういうものが是正をされなければ労使のバランスというものはとれない。ところが、神風タクシーがあんなに問題にされても、やはり依然としてそういう形がある。こういうことは経営者社会性公共性をもって臨むんだということだけではいかぬと思う。基準行政の中からきっちり実施を求めていかなければならぬと思うのです。こういう面がさいぜん申しました前時代的な、明治時代工場法におけるように、事業主の生きることについては非常に慎重であるけれども労働者が自己の生存権を主張する場合についてはきわめてルーズである。そういうことではいかぬと思うのです。私はそういう意味から、倉石労政が今後労使中立性に徹してもらいたいということを望むのです。たとえば社会党と対決をする、総評と対決をすると言うが、労働行政は力の争いではないと私は思うのです。経営者に対する態度をお聞きしたのはそういう意味からです。抽象的に社会性公共性を持つ、日本産業発展のために経営者は尽してもらわなければならぬ、当然のことですが、しからば社会性公共性を持つためにはいかなることを経営者はやるか、いかなることを経営者にこの際労働行政というものは要請しなければならぬかということが問題だと思うのです。その要請をするためには、労政自身中立立場に徹するということが私は非常に大事じゃないかと思うのですが、そういう点はどうでしょう。
  10. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 労政当局労使の間に立って中立性を守っていかなければならぬ、このことについては全く同感であります。政府もそういう考えに立っているわけであります。
  11. 滝井義高

    滝井委員 政府中立立場でいくということでございますが、それに関連をして一つ問題を聞きたいのです。たとえばここに一人の労働者がおりまして、そして労災保険にかかっておる。その場合に経営者がたまたま不振で、労災保険未払いをやっております。そうして労働者労災のために死亡したり不具廃疾になるような重傷を受けますと、結果はどういうことになるかと申しますと、その事業主保険料未払いのために、労働者制限給付を受けることになる。たまたまその事業主がたとえば炭鉱屋さんであるとすれば、石炭鉱業合理化法にかかってその山を買い上げられてしまいます。そうするとたくさんの借金のある山でございますから、労災保険保険料さえ未払いですから、従ってそこには当然労災制限給付というものが行われてきておるわけです。大臣も御存じのように、労災保険保険料事業主が全額持つのですから、払っていないとすると重傷を受け、あるいは死亡した労働者というものは制限給付を受けておるわけです。はなはだしいのは五割五分くらいの制限給付を受ける。四割五分だけは保険金から、労災保険から支払われるが、五割五分はその事業主持ちになるわけです。そうすると石炭鉱業合理化法にその炭鉱なら炭鉱がかかってしまいますと、借金の多い炭鉱でございますから払えないわけです。そうするとこういう中小企業労働者というものは保険という制度があり、命を失いあるいは不具廃疾になったにもかかわらず、事業主は山を買上げられてしまって、労働者労災保険金さえもがもらえない。その労働者実態考えると、これは何も労働者は罪がない。保険料を支払う義務というものは事業主にある。ところが一国の政策として労災保険というものがあるにもかかわらず、その労働者は五割五分の金というものはもらわずに泣き寝入りをしなければならぬ、こういう実態があるわけです。そうすると基準行政というものは、事業主についてはそれは支払いなさいと、こう言うだけであって、無辜の労働者に対して、現在の法律のものにおいてはこれを救う方法が何もない。そういう実態がたくさん起ってき始まった。最近九州における中小炭山石炭合理化における買い上げのためにたくさん起ってきました。しからば石炭鉱業合理化法で買い上げた金額の中から、労災保険未払いのものを代位弁済で優先的に取れるかというと取れない。賃金はある程度代位弁済で優先的に取れますが、労災制限給付分というものは取れないことになる。従ってその労働者というものは何らの救済の方法がありません。労災保険というものは事業主が全部自分にかけてくれるはずなのに、たまたまかけてない。こういうようないわゆる、何と申しますか大きな盲点というものが現在の労働行政の中にはあるわけなんです。それがそのままに放置されてきておる。しからば労働者がこれを取るためには一体どうすればいいのだということになりますと、その事業主破産に追い込む以外にはない。破産に追い込めば全額労災保険の会計の中から保険金は支払ってくれるのです。ところが破産に追い込むということになればどういうことになるかというと、その仕事場が動いておる限りにおいては、現実に働いておる労働者を路頭に迷わせなければならぬという矛盾が出てくるわけです。従ってこういうような中小企業福祉考え労政のもとにおいて、労働基準行政というものは事業主についてはきわめて寛大なんです。しかるに労働者はその寛大なるがゆえに救われない、こういう実態が出てきておる。こういう面をさいぜん私が言ったように、ほんとうに労政中立であるならば、びしびしとそういうことをやらなければ労働者泣き寝入りなんですよ。だから中小企業労働者福祉考えるというならば、労政はまずそういう経済的な面についても労政本来のものについても、やはり中立性というものは貫いていく姿ができてこなければならぬ。ところがすでにこういう問題はずいぶん前にも指摘をいたしましたけれども、やはり依然としてそのまま放置されてやってきておるということなんです。最近九州地方における、ことに筑豊炭田における中小炭山合理化の進行というものが、こういう悲劇をうんと生んできておる。これは基準行政一つ盲点だと思うのです。こういう点、私はきわめて具体的な問題で労政中立性というものを経済的な面においても労政本来の面においても、やっぱり貫かなかなければならぬという一つの例として今あげておるのですが、こういう問題を一体今後労働省はどう処置していくつもりであるか。
  12. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 将来のことについてはなお検討したいと思いますが、現在までのことについては、ただいま基準局長を呼びましてよくお答えをいたさせます。将来のことについてはただいまのお話を基礎にして十分検討いたしたいと思います。
  13. 滝井義高

    滝井委員 将来の問題は十分検討していただかなければならぬが、特に現実にもうそういう問題がたくさん起ってきております。たとえば、おそらくきょうかあす多賀谷君が質問するでしょうが、小さい山で、古洞に突き当ててそうして水没をする。そうすると、幸い今度の本添田炭鉱は二十五人水没して二十二人は生き帰りましたけれども、二十五人が一挙になくなられましたならば、そういう山は大がい労災保険料が未納になっておる。そうすると、必ず制限給付というものが労働者にかかってくる、こういう実態があるわけなんです。一つ将来検討するということでございますが、これは法律にはないのです。行政措置でやられておるのです。これは建前としては、全部労働者に払うことになっております。ところがたまたま事業主保険料を支払ってないということですね。労働省の行政措置で、多分政令だと思いますが、政令か通達かどっちかでやられておるということです。これは保険でございますから、保険料をかけてないものは保険金を支払うことができないという保険の原則を貫く限り、私はその主張は正いと思う。しかし少くともこれを社会保障に考えるならば、そういう制度というものがこの二十世紀後半の労使関係においては許されぬし、またそういう基準行政であってはならぬと私は思うのです。そういう点において、いずれこういう具体的答弁は基準局長がおいでのときにいただくとして、大臣の将来検討するということは、是正して下さるということだと思いますので、ぜひ一つ検討していただきたいと思います。  次に大臣にお尋ねしたいのは、現在の失業対策でございますが、現在非常に失業情勢というものが、ことしの予算を編成した当時とは違って参りました。わが党は補正予算を出して、この客観的な情勢の変化に対応すべきだという主張をいたしましたが、政府の方はその必要なし、現在の日本経済はもうなべ底の底に入っておるのだ、これから秋にかけて、九月から十月にかけてずっと上向きだという見解ですが、最近の新聞論調等を見ると必ずしもそうではない。閣内においても池田さんと三木、佐藤氏等とは意見の対立があるというようなこともいわれておりますが、一体労働大臣は失業対策費三百九十五億九千二百万円で、今年度のこの客観的な経済情勢の変化を乗り切っていけるという御確信があるのか、それとも情勢を見た上で秋の臨時国会には失業対策のための予算というものを追加補正をするつもりだ、こういうお考えがあるのか、ここらあたりを一つ大臣のお考えをお聞きしたい。
  14. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 滝井さん御存じのように、昭和三十三年度予算の編成の当時から見ますと、だいぶ経済情勢も変って参りました。そこで国際収支の悪化を是正するためにとられました経済調整の手段が、結局なるほど国際収支の方には好影響がございましたけれども、そのしわ寄せはやはり雇用、失業の方に参っております。政府もまたそういうことを想定して、昨年に比べて約十万人ほどの失業者増を見込んでおったわけであります。そのために一日二万五千人失対の就労も増加し、予算も増額をいたしたことは御承知の通りでありますが、政府がただいま見ておりますのは、今御指摘のように、大体経済状態も横ばいの状態になってきておる。同時にまた失業者の出方も横ばいの状態であります。そこで御承知のように、日銀の公定歩合を引き下げたというようなことも、やはりこれ以上引き締めて調整政策を続けていくほどのことではない、こういうふうに見て参ったわけであります。従って企業も徐々に活発な方向に向けていくことができる、こういう見通しをつけておりますので、現在は雇用、失業の面から見まして、なるほど失業保険の受給率は先々々月若干増加の傾向を見ておりますけれども日本経済状況というものは、政府は今申し上げましたような見方をいたしておりますので、一応現在は小康を得ておる、こういうふうに見ておるわけであります。従ってただいま特にそのために特別な手段を講じなければならないというふうにも考えておりませんが、しかし私どもはなおかつ雇用、失業の問題については楽観をいたしておりませんので、来年度予算等においてはさらにこの面に財政的な拡充した措置をできるだけとっていきたい、こういうふうに考えております。
  15. 滝井義高

    滝井委員 来年の予算は財政的に拡充措置をとるが、今年は今のままでよろしいということだろうと思うのですが、そこらあたり三十三年の経済計画は全面的に改正を要するのだという論がだんだん強くなってきておる。それはたとえば輸入を見ても三十二億四千万ドル、輸出三十一億五千万ドルというのはむずかしいということは、大体閣内においてもそういうことが言われ初めてきておるし、それから実質的な経済の成長率が三%、平年度六・五%ですか見ておったが、今年度は三%の経済成長もほとんど不可能だということは、大体経済評論家にしても学者にしても、一致してきておる。それから鉱工業生産の増加四・五%も、大体これはそうはいかぬ。そうすると現実経済の動きは、三十三年度当初予算を組むときの計画から著しくかけ離れておるということは、大体衆目の見るところ一致をいたしておる。これは少くとも政府がこの深刻な見通しの上に立ってものを考えるとするならば、率直にやはり国民に、局面がこういう工合に悪いのだということを率直に言って、そして国民の協力を得ることが一番必要ではないかと思うのです。特にわれわれが労働問題で心配をするのは、雇用、失業の問題というものは経済の不況が深化してくると、その深化に並行してすぐには起ってこないということです。少くともその影響が雇用、失業に現われてくるのは半年ないし一年おくれたところで現われてくる。こういう状態から考えると、現在経済企画庁が発表した経済報告の指標を見ても、これは全部当初の見通しとは実際に違ってきておる。たとえば雇用指数を見ても非常に緩慢ながらずっと低下しております。それから完全失業者も三月は八十五万です。これは学校卒業者の関係があるのだから八十五万ですが、その後はずっと減っておるわけですが、しかしとにかく完全失業者というものが三月八十五万ということは、戦後第二のピークを築いておるという点においてやはり特徴があると思います。それから企業整備の状態を見ても、事業所や整理人員の数は今年に入ってから、昨年に比べて約三倍ないし五倍に増加しておる。それから失業保険の受給数が三月は五十万台だし、それから雇用の減少の状態がきわめて典型的な不況型と申しますか、そういう形を呈してきております。第一次産業という原始的な農業や林業というものについてむしろ増加をしてきておるけれども、第二次産業においてはこれは減少しております。特に製鉄や何かについても——製鉄というより製造業ですが、製造業なんかや工業についても減少してきておる。そうしてしかも第三次産業というものは増加してきておるという、雇用構造からいえばきわめて脆弱な形をとってきておる。こういう形から見ると、今の大臣の御答弁のように、来年のことは考えるけれども、今年はそのままでよろしいということにはなりかねる感じがどうもしてしようがないのです。だとするならば、私はやはり卒直にこの深刻な現在の情勢を国民に語り、国民の協力を求めていくということの方がどうも本筋ではないかという感じがするのです。一体労働省は年間平均どのくらいの失業者があると見られておりますか。十万くらいは年度末には増加するだろうということですが、一体どのくらい年間平均あると見られておりますか。
  16. 百田正弘

    ○百田説明員 三十三年度計画におきまして当初計画が樹立せられましたときに、三十二年度大体完全失業者の数が五十五万ということで、そういう実績見通しのもとに、三十三年度におきましては大体六十五万程度になるであろうという見通しでございます。本年度に入りましてから現在までわかっておる労働力調査の数字は、四月の五十五万だけでございます。五十五万という数字は昨度年三十二年度の四月と比べますと、大体同じような程度、九月が五十八万であります。ただしかしながら、先ほどお話のございましたように、雇用、失業の現われ、失業情勢に現われてくるのはふえるだろうというような見通しのもとに、三十三年度におきましては平均六十五万というようなことで見てあるわけでございます。本年度の今後の見通しにつきましては、よほど困難な点もございましょうけれども、現在までのところ大体大きな狂いはないじゃないかというふうに考えております。
  17. 滝井義高

    滝井委員 そうしますと、三十三年の毎月の平均を一応六十五万と、こう見ておるわけですか、三十三年末を六十五万と見るのですか。
  18. 百田正弘

    ○百田説明員 三十三年度計画において想定されましたのは、三十三年度の年度平均でございます。
  19. 滝井義高

    滝井委員 そうすると六十五万と見ておる。ここで一つ具体的な問題に入ってみたいと思うのですが、総理府の統計を見ると、三十三年三月に八十五万の完全失業者が出てきた。これは今まで、前の石田さん当時、われわれは選挙の前にいろいろ論議したときには、八十五万という数字は、まあ秋になったら八十五万くらいにはなるだろうという説明をしておったのですが、春に八十五万出るとは政府は一言も言わなかった。そうしてわれわれが選挙で逐鹿戦をやっているときに、総理府からすぱっと八十五万と出したのです。まあわれわれは演説のいい材料になったのでありますが、その当時、とにかく二月に比べると二十七万の増加です。そうすると、二十七万人の増加の中のその内訳なんですが、二十七万のうち二十万は女子である、こういう特徴が出てきておるわけですが、これは一体どういうことなんですか。八十五万という三月の数字は二月に比べて二十七万の増加である。そうすると、その二十七万の中の二十万というものは女子である、こういう結果が出ておりますが、これは一体どういうことからこういうことになったのですか。
  20. 百田正弘

    ○百田説明員 三月に八十五万になったということは、先ほども御指摘になりましたように、季節的な要因でございまして、学校卒業者の卒業期に当り、しかもこの学校卒業者が就職の希望を持ち、しかしながらまだ就職しておらないという状況でございます。四月になりますと、これらの者があるいは進学しあるいは職につきあるいは家内労働力として家族にとどまるというようなことになるわけでございます。従来までの状況を申し上げますと、昭和三十年におきましては三月は八十四万でありまして、二月に比べて約十七万ふえております。三十一年におきましては三月は百六万、二月に比べまして三十一万ふえている。三十二年におきましては三月は八十二万、二月に比べまして二十一万ふえている。大体同じような状況をたどっております。
  21. 滝井義高

    滝井委員 私は今二十万の女子というものについて、これはどういうわけかと尋ねたのですが、どうもはっきりしない。実は先般新聞にも報道されておったのですが、学校卒業者の問題あるいは季節労務者の関係、こういう関係が、三月には一つの完全失業者のピークを作るのに大きな役割りを演じておることは、これは今百田さんの言われた通りだろうと思うのです。ところが私は今年の状態を見て、来年は幾分情勢が違うのじゃないかという感じがするのです。というのは、来年の高等学校なり中学を卒業する新しい勤労者の諸君に対して、もうそろそろ試験が始まるし、あるいはそれぞれの縁故その他を求めて、履歴書を工場、事業場に出す形勢があるわけなんです。ところが御存じの通り、先般新聞にも出ておりましたが、新潟県の積雪地帯における紡績工場に採用された女工さんたちが、採用を取り消される傾向が出てき始めておる。しかもそれが大紡績工場を中心にして、まず仮採用をしておる。しかしながら操短のために九月まで本採用を延ばすのだ、その間は、これはおれの方の手をかけておる女工さんの候補者なんだから、他の会社はとっちゃいかぬ、こういう傾向が出てきておる。これは職安局長あたりのところに報告が来ておると思うのですが、そういう形になると、か弱い女工さん方はこれは大へんなことになる。何でも聞くところによると、紡績とか化繊工場では三分の一くらいの取り消し、ないし四月に就職するのが六月になり、六月が九月になるという、こういう延期が行われるということなんです。そうすると、これはすでに来年新しく学校を卒業して、紡績工場なり化学繊維工場などに入る諸君との競合の問題が起ってくる。こういう点は一体どういう処置をやられていくつもりなのか、こういう事態が起るとするならば、ここに私は労政の面において、時間短縮の問題、交代制の問題というものが強く打ち出されてこなければ、とても勤労者は不安定でどうにもならぬ。といって仮採用を取り消してよそに行くということになっても、これは、さあ今ごろになってよそに行くといったって、なかなかいい職場はない。こういう形で二重、三重の桎梏を受けるわけです。従ってこういう事態に対して、一つ損害賠償をしてくれ、賃金保障をしてくれというような要求が起ってきておる。これは仮採用であるから、本採用でないから、とても賃金保障なんかの問題は起り得ないと思いますが、大企業というものは質のいい者をどんどん採っていく、そして中小企業が質の悪いあとの残りを採る、こういう傾向が日本企業にあるわけなんです。そうしますと、そういう大企業、大紡績工場に雇用された諸君でさえもが、そういう状態を受けるということになると、これはやはり労使関係の近代化も、経済基盤の強化ということもなかなかむずかしくなってくる。一体こういう問題はどういう工合に今後処理していくか、これはおそらくことしもあるので、来年にもそういう傾向が出るでしょうが、現在の日本の繊維工場なりの操短というものは、もはや日本工業の中核的なにない手である機械工業にまで及ぼうとしておるということを考えると、やはり新しい雇用労働者に対して何らかの配意が必要になってきておると思うが、こういう点を大臣はどういう工合にお考えになっておるか。
  22. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 政府が今頭を悩ましておりますのは、そういう点であります。そこで先ほどもちょっとお触れになりましたけれども、もう少し消費を刺激する方向に行って、そして景気を回復させるべきではないか、そのためには勤労者の賃金をふやす方がいいではないかといったような御意見も、しばしば本国会でも拝聴いたしておるのでありますが、政府はやはり長期経済計画を立てました考え方に立脚をいたしまして、輸出の増進ということに重点を置いていきたい。そういうことのために、今鋭意そういう方向で努力いたしておるわけであります。時短の問題は、これは個々の産業の問題でありますから、個々の産業の内部においてそれぞれ時短の問題に触れることは、政府はもちろん異存を言うこともありませんし、けっこうなことでございますが、政府の方でそういう特別な措置を講ずる、そういうことではないと思います。
  23. 滝井義高

    滝井委員 私はやはりそこらあたりが問題だと思うのです。やはりこういう事態になれば、資本主義における企業というものは、利潤を追求して盲目になっておる。公共性とか社会性とか口では言いますけれども、実質的に言うと、たとえば自分の工場にいい女工さんがたくさん入ってきて、そうして生産性をうんと上げてくれることをみんな望むわけです。日本産業別の組合がうんとできることはいいと思うが、やはり企業一家という考えがあって、企業内部の組合がどうもはびこりがちなんです。それと同じで、どうも経営者の方も一家根性というものが——何もあれは国鉄だけじゃない。事業一家の根性というものが、島国根性があるように、どうも日本には抜け切れないものがあるように思うのです。そこで時間短縮という一つの大きな進歩的な政策を自民党が打ち出すということが、私はこの際必要ではないかと思う。たとえば最近大臣が言われたように、週給制を一つやったらどうだ。労働省は問屋商店の実施状況を先日発表しておりましたが、週給制はまだ不十分だとおっしゃった。これなんかも私は時間短縮と密接不可分の問題だと思う。週に一回中小企業者にも休ませてあげよう、しかしウィーク・デーには元気で働いて下さい、しかもそれは長らく休んだり、居残りをやってはいかぬ、やはり八時間制で能率を上げて下さい、こういうことだろうと思う。週給制を言うからには、時間を短縮してできるだけ能率を上げようじゃないか、そうしてうんと人を雇いなさい、こういうことが言えるのじゃないか。週給制を言っておられて、時間短縮というものは事業主が勝手にやったらいいということは、どうもおかしいと思うのですが、その点はどうですか。
  24. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 私は、たとえば今お話のありました週給制などの問題につきましても、やはりやっておる実情の報告を承わりますと、たとえば問屋で週給をいたしましても、この間大阪の話でありますが、店の売上げには影響がないということを言っておりました。私は非常にけっこうなことだと思うのです。そういう意味で、今時間短縮のお話にお触れになったわけでありますが、私はいつも申しておりますように、企業というものは、やはり地球の上のどこか一角でオートメーション・システムというものが始まった、そういう場合に、ある一カ国だけが経済的鎖国をして、そんなものは相手にせぬと言っておったのでは、それは不可能なことはわかり切ったことであります。従ってオートメーションもやはり取り入れるべきであるし、それからまた同時に、生産性の向上運動というものが今や世界各国の運動になっておるのでありますから、この生産性向上というものが行われて、それによる利益に均霑するものは、第一に先ほど私が申しました企業公共性というふうな考え方から、企業家はやはり一般大衆をその恩典に浴せしむるように努力すべきである。物価の引き下げなどもその一つでありましょう。同時にまたその次に分配を受けるのは企業と従業員、こういうふうにすべきだと思います。従ってアメリカなどの傾向を見ましても、やはり生産性向上に伴って、それぞれの企業内部において時間の短縮をしておる例がたくさんあります。そういうことは非常にけっこうなことである、こう申しておるのでありまして、政府がしからば時間短縮を行政措置としてすべきであるというふうなことについては、今にわかにそういうことについて同調することはできないことであって、企業内部において労使双方がうんと生産性を向上してもらって、その企業内部において時間の短縮その他労働条件の向上をはかっていただくことはけっこうなことである、こういうふうに申しておるわけであります。
  25. 滝井義高

    滝井委員 そこらあたりが少し議論のあるところなのです。技術革新をやり、生産性の向上をして、そこの中で労働時間を短縮してくれ。この問題は一応平面的に聞けば、これはそうだと思うのです。ところが現在の日本の不況の根本的な原因を考えてみると、われわれは三つあると思う。一つはやはり過剰投資による過剰設備です。二番目は国民需要を喚起できないような低米価、低賃金政策です。三番目はいわゆる国民経済における有効需要に見合わない技術革新が無計画に行われたということ、そしてここに生産過剰が起ってきておるのです。いわばオートメーションなり企業の近代化というものがむちゃくちゃに行われてきた。そして過剰生産が行われてきておる。その過剰生産に対して有効需要が伴わない。国民的な規模における、いわゆる国民がこれを買うだけの購買力がこれに伴わなかったところに、現在の日本経済の根本的な行き詰まりというものが私は来ておると思う。従って大臣の今お話しのように、それは技術革新をやって生産を上げたらよろしいと言うけれども現実日本の紡績なんというのは、滞貨ができてどうにもならぬ。商品は銀座の店のショーウインドーにきら星のように並んでおるけれども、これを買う大衆の購買力がないところに原因がある。だから、技術革新をどんどんやる、しかしそれに見合う購買力というものは、内外のどこにあるのだ。外にも内にもないというのが現状なのだ。従って技術革新をやって生産性を向上すれば時間短縮ができるというような、なまやさしい日本経済構造じゃないというこの現実が一番問題になってくる。従って今のように、私も大臣と同じように、技術革新をやって時間短縮をやることは賛成だが、現実日本のこの過剰生産恐慌というものは、これは実に技術革新の結果によってきておるという一つの大きな原因があるわけです。その証拠には、経済同有会を中心とする進歩的な経営者の諸君は、もはやこの技術革新の時代においては、日本経営のあり方、日本の労務管理のあり方、その他についても再検討を加えなければならぬ時期がきておるということを言い始めておるのです。だからそういう点は、基本的には大臣の言うように、平面的にはいいと思う。しかし技術革新というものを現実日本経済と結びつけて議論をするときには、すでにある程度技術革新というものが日本企業にはできておる。できておって、そのために日本経済が隘路に直面しておるという、この矛盾をどうして解決するかということが、私は当面の大きな問題だと思うのです。そのためには一体有効需要をどうやってふやしていくかということになる。そうするとそこに問題になってくるものは、やはり中小企業労働者福祉を上げなければならぬということになる。中小企業労働者福祉を上げて、ここに購買力をつけていく。大企業より中小企業の方が多いのです。たとえば総評、全労に加入しておる勤労者は六百万です。あとの一千万というものは、少くとも零細企業の勤労者です。ところがこれらの勤労者には、社会保険もなければ失業保険もない。まあこの前、ようやく任怠法規はできましたけれども、失業保険もない、健康保険もないという実態なのです。これは食うのがやっとであって、そして恒久、耐久資財と申しますか、たとえばテレビを買うとか電気洗濯機を買うなんということは、もうそれは、はるかかなたの夢なのです。こういう実態だとするならば、当然そこには最低賃金制度がしかれ、社会党の言うような家内労働法というものが、全産業一律の方式でしかれなければどうにもならぬ。理論的にはそうなってこなければならないと私は思う。大臣は、技術革新をやって、そこで生産性を上げて時間短縮をやると言うけれども現実に上っておるのですよ。上っておってできないから、女工さんも国へ半分帰されておるのです。この実態というものはやはり総合的、立体的に、私は日本経済の二重構造といわんよりか、三重構造の中における日本経済と結びつけて考えなければならぬと思うのです。その点、私はどうも大臣とは見解が違うと思うのですが……。
  26. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 滝井さんのお話、まことに傾聴に値する御高説だと思いますが、今あなたのおっしゃる通り、いわゆる時間短縮という問題、これは先ほど私が申し上げましたような方向で、企業内部においてそういうふうに仕向けていっていただくということについては、私ども政府当局として、もちろんけっこうなことだと思います。ただ政府がこれについてどうこうするということは、今にわかに賛意を表しがたい、こういうことを申し上げておるのであります。  それからもう一つ、今の日本産業構造についてのお話、これもまことに傾聴に値するお話でございますが、私どもはこういうふうに考えております。日本産業というものは、今のお話の有効需要を刺激していくこと、これは私どもかねがねから申しておりますように、国民の非常に大きな部分を占めておる勤労者のふところに購買力を持たせるということ自体は、これは有効需要を刺激することであるから非常にけっこうなことだ。しかしただ、それが一般国民経済にどういうふうな影響を持ってくるかということについて、やはり財界の人も経営者も、またわれわれも考えていかなければなりません。もう一つは、日本は鎖国経済ではもちろんないのでありますから、国際競争のもとに日本のコストというものをきめていかなくちゃならない。そういう段階において日本企業の生産コスト、日本企業賃金というものは、自然にきまってくると思うのです。もちろん貨幣価値をそのまま比較いたしましたならば、たとえばアメリカの勤労者の賃金平均と日本のそれは非常に差がありましょう。しかし国民全体の生活水準がすでにそれだけに差があるのでありますから、ただパンーポンド買うためにどのくらい要するかといったような、食糧賃金というようなものから考えてみましたならば、日本は諸外国に比してそう低いところでもありませんし、むしろヨーロッパの諸国に比べては、あるいは高いところもある。従って大体そういう平均のとれた賃金のもとにおいて作られた生産品が、今の日本の置かれた国際貿易の立場に立って、さらに輸出をどうして増進していくことができるか、こういうことであると思います。政府はどうして輸出をさらに振興していくか。もちろん私はいわゆるコスト・インフレにならない程度に有効需要を換起するということについて異議を唱えるものではありません。けれどもただそのことが、いわゆるコスト・インフレを招来したり、または国際競争のもとに立っておる日本の競争力を弱めるようなことになったのでは何にもならない、こういうところに非常な悩みがあると思っておるのであります。そこで政府といたしましては、ただいまいかにしてこの状態のもとにおいて輸出を増進することができるかということについて、鋭意努力して検討しておる、こういう段階でございます。
  27. 滝井義高

    滝井委員 時間短縮の問題は、やはりある程度企業の自主性にまかせることも必要かもしれませんが、この際積極的に政府が時間短縮の問題を打ち出していく以外にはないじゃないかと思います。と申しますのは、さいぜん技術革新の問題が出ましたが、日本の生産力をぐんぐん高めていくためには、当然技術革新をやらなければならぬ。しかしいま一方考えてみると、日本の人口構成というものは、生産年令入口というものがここしばらくは非常に膨大になっていく、こういう形があるわけです。従って日本の生産力と人口の競合という問題をどうしても破ろうとするならば、時間短縮というこの単純な真理で割り切っていく以外には、日本雇用増強というものはあり得ないと思うのです。日本雇用が非常にたくさんあるということは——本質的に雇用の状態を見るとたくさんはないのですけれども日本雇用のとり方というものが、一時間働いておっても雇用になっておるのです。結局その雇用実態というものを見ると、賃金が安い、労働時間が長い、雇用契約も明白でない、退職金の条件もない、こういう形で、いわば不安定雇用の形です。しかしその不安定雇用でも、日本では雇用にありついておれば、どうにかみんなが満足しておる。大臣の言われるように、アメリカのように高い生活ではないのですから、どうにかそれで不承不承ながらがまんをしていく。こういうのを何と言いますか、非自発的な就業だと学者は言っておるのですが、そういう形だと思う。自発的に就業しておるのではない。非自発的就業だ。アメリカその他ではみな自発的就業だ。自分のしている職業が悪かったら、やめてほかにかわればいい。ところがわれわれの方は非自発的就業だ。中小企業の方はそういう状態で、さらに農業に至っては、その雇用量というものは非常に大きいのですが、その労働条件の劣悪性というものは実にはなはだしい。しかしはなはだしくても、これが雇用一つの単位になっていることは確実なんです。完全失業者の中には入っていないという、こういう日本の農業なり中小企業雇用の特殊性を、一応われわれは知っての上の話なんです。だとするならば、これはまあまあ貧しいながらも、すべての人に職を与えようとするならば、第一段階として日本としては、労働時間を短縮して、食うだけのものを保障する姿を第一歩としてとならければならない。それがとれたならば、次の段階において雇用の質の改善をやらなければならぬ。契約も結んでもらおうし、失業保険もやってもらおう、こういう形に持っていく以外にないのではないか。日本雇用の形態というものは、きわめて非近代的な日本的な特殊性を持っておるが、しばらくはやむを得ない。しかし、だんだんそれを近代的なものに変えていく努力というものは、労働運動を通じ、あるいは政府の施策を通じて、これを戦い取らなければならぬと思うのです。そういう意味で、この段階で、日本経済がこういう行き詰まりを来たしておるときは、何といっても雇用増強政策の中における中心は、私は時間短縮以外にないと思う。それが週給制が先に言われて、時間短縮が労働行政の中でとれない、どうもそれが積極的に推進できないというのでは、私は納得がいかないのです。これは労働大臣と水かけ論になりますが、労働大臣も週給制を言われた程度に、時間短縮を一つやろうじゃないかというぐらいの呼びかけはやってもらいたいと思うのですが、これは大臣も、先ほどからなかなか御答弁ができないようでありますから、これ以上は追及はいたしません。  そこでもう一つ大臣にお伺いしたいのは、公共企業体の問題です。これはILOの批准とも関連をしてくる問題ですが、公企体の審議会から、公社制度の改革に関する答申が出ておるわけです。大臣はこの公社制度の改革と公労法の改正、これは四条三項が一つの大きな問題になるところでしょうし、それから予算上、資金上の措置の問題も問題となると思いますが、同時にILOの批准とも関連する問題です。一体これらの三つ関係をどうお考えになっているのか。公社制度の改革の答申の問題、公社制度が改革できない間は、公労法は、しばらくそのまま見合った形でいくのか、また当然公労法の関係が出てくる、ILOの八十七号かの批准の問題も出てくる。この三つ関係大臣はどうお考えになっておるか。それを一つお教え願いたいと思います。
  28. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 公企体については、前の内閣で審議会を設けて、その答申を得ておるようであります。従って政府は何らかの措置をとるべきであると思いますが、また選挙直後の、すぐの国会ででございますので、そういう問題について政府部内で決定的な意見も出ておらないようであります。しかしせっかく答申があったのでありますから、これは答申をいかに取り扱うかということについて、政府態度をきめるべきであると思いますが、もしそういうことになりますと、従ってわりに答申通りに改組することになれば、公共企業体等労働関係法も当然修正が行われると思います。そういう場合には、そもそもいわゆる公労法というものについては、いろいろな御意見も各方面から出ておることでありますから、政府としては慎重にこれも検討して処置をしていかなければならないと思っております。そこでILOの条約のことでありますが、ILO条約八十七号というものが今しきりに問題になっておりますが、これについては前内閣の時代に、労働問題懇談会という専門家の方々の労働省の会議がございますが、それに委嘱をして御検討を願っておる最中であります。その何らかのお答えも出るでありましょうから、そういうものと今の公共企業体をどうするかというふうなこととにらみ合わせて、われわれは善処していかなければならないのではないか、こういうふうに考えております。
  29. 滝井義高

    滝井委員 そうしますと、労働問題の懇談会がILOの批准に関する結論を出しても、公社制度の改革に関する政府態度がきまらぬ間は、批准はしばらく——答申に基く公社制度方向がきまるまでは、しばらく足並みをそろえていく、こういう意味ですか。
  30. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 そういうふうに直接的関連性を持っておるわけではありませんが、あなたから先ほど、答申をどうするかというお話がありましたから、答申について、比較的早い時期にそれを取り上げるということになれば、法律は朝令暮改ではいけませんから、そういう機会に根本的に考え直すべきではないか、こう思っております。その答申がどういう取扱いになるかということによっては、あるいは八十七号条約だけについて考え直さなければならないかと思いますが、私が続けて申しておりますことは、政府が批准するといっても、御承知のように日本の憲法によれば、国会の御承認を得るのでありますが、国会の大多数というは自由民主党であります。自由民主党の方々のこの問題に対する御意見というものは、大体私も承知しておりますから、そういう人たちの御意向を無視して、政府が勝手にこれをどうするとかいうようなことを言うのは越権であって、皆さんの民主的な御意向を尊重してやらなければいかぬ、こういうことを言っているのが世の中に誤解を生じたようでありますが、私の趣旨は国会を尊重するという建前をとっておるだけであります。
  31. 滝井義高

    滝井委員 その論議はもう大臣から再々聞かされておりますが政治にはやはり主体性が必要です。内閣には内閣の方針がなくちゃいかぬ。与党には与党の方針がある。内閣の方針と与党の方針が違えば、そこに与党と政府首脳部の首脳会談というものが行われる。従って私は、今与党なり——国会の方針は、これはわれわれの方で定められる。政府の方針をお聞きしておるわけです。公社制度の改革ということは非常に重大なことです。従ってこの問題が、やはり公労法の改正とILOの批准の問題に結びつくことは、常識論なんです。私はこれをもって、大臣の言質だなんと言うような考えはありません。物事はやはり筋を通してすなおに考えていく方がいいだろう。今の大臣のように、顧みて他を言うのではなくして、政府の方針としては、どうも公社制度の改革というものが行われるとすれば、公労法とILOとは、結局それと並行した形で論議をせられ、解決をせられるんじゃないかという感じがするわけです。だからそこらあたりは同時解決というようなことになるんじゃないかという感じがするのですが、大臣、どうでしょうかと、こういうわけですから、大臣、すなおにお答え願いたい。それ以上質問しませんから。
  32. 倉石忠雄

    倉石国務大臣 そういうふうになればいいと思っておりますが、私も、とにかくせっかく出た答申については、何らかの措置を講ずべきだ、こういうふうに思っております。
  33. 滝井義高

    滝井委員 参議院でお呼びだそうでございますから、あとはまたいずれ機会を改めてお伺いすることにいたします。どうもありがとうございました。  次に基準局長にお伺いいたします。さいぜん基準行政についてちょっとお尋ねしたのですが、最近山口行政管理庁長官が労働災害補償保険事業について監察を行なったその結果を新聞に発表しておったのですが、これは労災保険で初めての勧告だろうと思うのです。それを読んでみますと、零細企業はどうも労災保険実施状況がきわめて不完全である、不十分だという勧告になっておるようでございます。行政管理庁の方の勧告を見てみると、なるほどそうだと思われる点もありますが、この中に出ていないことが一つあるわけです。それは何かと申しますと、この勧告にも出ておるように、零細企業における保険料の納入状況というものが必ずしもうまくいっていないのですね。納入がうまくいっていないということは、結局は徴収がらまくいっていないということなんです。徴収がうまくいかないと、どういう結果が出てくるかと申しますと、制限給付が出てくるわけです。この制限給付法律にはないのですね。これは一体何によって行われておるのですか。
  34. 堀秀夫

    ○堀説明員 ただいまのお話につきましては、労災保険法の十八条、十九条に、たとえば保険料の滞納その他重大な過失あるいは故意というようなものがあります場合には給付を制限するという根拠規定があるわけでありまして、私の方といたしましては、この運用につきましては労、使、中立、三者構成の労災保険審議会にその運用基準をお諮りしました上で、その基準によって運用をしておるわけでございます。
  35. 滝井義高

    滝井委員 労災法の十八条、十九条は、制限することがあるということでしょう。どれにもこれにも適用するということじゃないのです。制限することがあるということなんです。ところが今給付制限は全面的にやられておるはずなんですよ。そこに私は立法の精神現実行政の面が違ってきておるんじゃないかと思うのです。そこらあたりの問題ですがね。この間も個人的にちょっとあなたに御意見を伺ったのですが、これははっきりしておかなければならぬ。当面するいろいろな問題が出てきたので、はっきりしていただきたいのです。今大臣から、その問題は十分検討をして善処するという意味の御答弁があったのですが、現実に担当している堀基準局長さんにぜひ伺っておきたいのです。  ここにAという炭鉱がございます。未払い賃金もあるし、労災保険料の未納もございます。国税の未納もある。ところがこの炭鉱石炭鉱業合理化法にかかって買い上げの対象になった。ところが公租公課その他の借金が多いために、あるいは鉱害が多いために、まず第一の最優先には安定鉱害が先に、たとえば一千万円なら一千万円で買い上げられると、安定鉱害分がその中からとられる。その次は不安定鉱害分がとられる。それから未払い賃金代位弁済がとられる。そうすると、率直に言ってわれわれの国会審議にも少し抜けておったところがあると思うのですが、労災保険制限給付を受けた分については救済の方法がないのですね。山は買い上げの対象で取りつぶされちゃったそうすると、未払い賃金はもらったが、脊髄骨折なり労災で死亡をした者の遺族に対する労災の補償金というものは、これは結局もらえないのです。優先順位の中に入らない。そうすると、労災のその被保険者たちは一体どうすればよいかという、その事業主を、まだ事業が買いつぶしにあわない前に破産の宣告をして追い込む以外にない。そうすると、まだ事業が動いているうちに破産に追い込めばどういう結果になるかというとそこに働いておる労働者を結局路頭に迷わせることになってしまう。こういう矛盾が出てきたわけです。一体こういう問題をどう解決していくかということなんですね。なるほど保険だから、保険料を納めていない者には保険金を払うわけにはいかぬことは当然です。しかし労災保険というものは普通の保険と違って、加入をしておる本人が払うものじゃないのです。全然加入をしていない使用者がこれを払うものだというところに問題がある。そこで使用者の怠慢がそのしわ寄せとして一切労働者にこなければならぬという、こういう問題というものは、現在の近代的な労使関係としては私は是正されなければならぬと思うのです。それならば、そういう状態に追い込むならば、事業が動いておるのですから、やっぱり何らかの形で事業を差し押えなければならぬ。ところが差し押えをすると事業が破産をするという事態が起ってくる。こういう矛盾があるわけです。労災保険自体に根本的な矛盾があるということなんです。労災がもし社会保障であるならば、社会保障としての歩みをするならば、これはここで改正しなければならぬのじゃないかと思うのですがね。あるいは今私が冒頭に指摘したように、給付制限をすることができるという程度のやわらかい規定ならば、まんべんなくそれを適用することなくして、特に悪質な事業主について適用するというような工合に、何か取扱いを緩和しなければ、これは大へんだ。それで事業が歩いておる、動いておる間はいいのですが、そうでなくて、石炭鉱業合理化法にかけられて買い上げられるという、こういう新しい立法が出て、そこに新しい労使関係というものが生まれた場合には、労災法についても再検討しなければならぬのじゃないかと思うのですがね。この点今後どういう工合にあなたは解決されていくつもりですか。
  36. 堀秀夫

    ○堀説明員 ただいま御指摘の点、ごもっともな点が多々あるわけでございます。労災保険法による給付制限をいたしました場合に、一方におきまして労働基準法に基く使用者の災害補償の責任があるわけでございますから、その線に沿って、労働者の災害補償の給付を行わせる、これが法律のねらいであるわけでございまするが、その場合におきまして、ただいま御指摘のような特別な場合におきまして、使用者側にも事実上能力が絶対ないというような場合につきましては、労災保険法の十八条、十九条の運営につきましては、私は労働者の生活状態、それから事業主の支払い能力、これを勘案した上で善処したい考えでおります。
  37. 滝井義高

    滝井委員 まあ実際にそういうことであるならば、ぜひそうしてもらいたいと思うのです。現実の第一線の行政機関は、今局長さんがこういう答弁をされるような工合にはいっていません。しゃくし定木にいっている。たとえば労災保険料が支払われていない。その支払いの対象としてトラックならトラックを現実に差し押えしておるわけです。ところが坑内の出水によって五人が生き埋めになってしまった。その五人の分の労災金というものは、制限給付額がたとえば二百万円あった。そうすると、すでにトラックを押えているのですから、これはかわりの物資を押えているのだから、当然制限給付分政府が払ってもいい。労災保険が払ってもいい。ところが押えてはいるけれども、まだこれは競売にしておらぬからだめだ、こういう見解をとってきている。そうすると事業主に言わせるとどういうことになるか。私は基準監督署が私のトラックなりその他の物資を押えたので、私が払わなくても政府の方で払ってくれるものだと思っておりました、ところが最後に追い詰めてみると、競売に付されていなければ、現金化されていなければだめだ、こういう見解で、死んだ人は依然として制限給付になっておるのです。私の方の中小の山にはこういう事例が多いのです。従って今の局長さんのような御答弁ならば、われわれ現地に帰って払わせるようにしたいと思う。われわれのところでは、ある事業主のごときは、労災保険保険料の未納が二千万円です。しかも労災関係制限給付の額だけが約四百万円ある。夫払い賃金も二千万円をこえるという、公租公課だったら五、六千万円になるという、こういう実態のものがあるわけです。こういう点、今の御答弁ありがたく拝聴いたしましたので、どうか一つ労働者実態事業主実態というものを見てやっていただきたいと思うのです。  それから臨時石炭鉱害復旧法の中には著しく支払い能力がないというか、著しく支払い困難なものという条文があったと思います。著しく支払い困難とは一体どういうことなのか、私は破産の一歩手前だと思っておった。ところが大蔵省あたりの見解を見ると、著しく支払い困難だということは、破産だという見解をとっておる。そうすると、今あなたが事業主実態を見て考えるということになりますと、破産ということにならなければだめだということになると、これは困るのです。それは破産でなくて、文字通り著しく支払い困難、いわゆる事業主未払い賃金その他が多くて、公租公課も未納があって、一切の財産が差し押えをされておってまあ実際に制限給付の分の支払いができないという客観的な情勢が明白になれば保険から支払う、こういうふうに解して差しつかえありませんか。
  38. 堀秀夫

    ○堀説明員 この問題は労働者保護の見地から労災保険による給付を行うか、あるいは給付が行えない場合は、これは建前としいたましては、あくまでも使用者の責任でございまするから、使用者の責任を追及する、この方向でいくわけでございまするが、それが事実上客観的に見まして支払い不可能だという場合には、その間の事情をよく具体的に判断いたしまして、労働者の保護に遺憾のないように措置して参りたいと考えます。
  39. 滝井義高

    滝井委員 そこをもう少し詰めておきたいのは、遺憾のないように措置をするということは、事業主の支払わなければならない労働基準法における事業主分というものを労災保険の方から肩がわりをしていく、こういうことに解していいですか。
  40. 堀秀夫

    ○堀説明員 その場合におきましては、十八条、十九条の制限の運用につきまして弾力的な措置を講じて参る、このように考えております。
  41. 園田直

    ○園田委員長 この際午後二時半まで休憩いたします。     午後零時十三分休憩      ————◇—————     〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕