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井上参考人 私、
日本赤十字の
外事部長の
井上益太郎でございます。
ただいま、私に、
北鮮赤十字から送ってきた金の
分配をどういうふうにやったか、それから
北鮮へ
帰国を
希望する人について
日本赤十字はどういう
考えを持っておるか、この二点について、御
質問をいただきました。
まず第一の点からお答えいたします。
北鮮赤十字は、
米貨にいたしまして約二千五百ドルという金を
日本赤十字に送って参りまして、それを
大村に収容されている人に平等に、つまり男女、
政治的意見、それから老幼を問わず、平等に分けてくれ、こういう
依頼の
電報がありました。これは初めてのことではないので、この前も、ちょうど一年ばかり前にそういう
依頼があったのであります。そのときは、
日本赤十字に送らないで、
ジュネーブの
赤十字国際委員会に金を送って、そうして
日本におります
代表がこれを
分配いたしたのであります。そこで
政府の方でも、そういう先例もあるし、その方がうまくいくだろうからそうしたらどうかという
お話がありました。私もその方がいいと思った。というのは、そうすれば
国際委員会の人も
大村を
視察ができる。ですから、それでどうかということを
北鮮赤十字に
電報いたしまして、そして
北鮮赤十字はそれでよろしいということで、
ジュネーブの
国際委員会の方に
電報を打ちました。その結果、二十七日に、私は
国際委員会の駐
日代表アングスト氏と一緒に
大村に参り、二十八日にその
分配を終えて、二十九日に帰ってきたわけであります。でありますから、この
分配の
仕事は、
日本赤十字の
仕事ではなくて、
赤十字国際委員会の
仕事であります。でありますから、これはあまり詳しく申し上げる必要もないと思います。
予定通り、
ジュネーブの訓令に基きまして、これは
赤十字の金であるから、百パーセント人道的な金であり、何ら
政治的ひもつきのない金である。受け取る人もその
赤十字の
精神によって受け取ってくれ、こういうふうに言われまして、わざわざ両方の
人たちを集めてそういうことを言われた。皆さんもそれを承諾して受け取られました。この前は、そのあとで何かけんかが起ったそうで、今度はそういうことがあっては大
へんだ、
収容所の人は非常に心配しておられたわけであります。しかし今度は全部これを受け取りまして、何らの騒動もなかったわけであります。
次は、現在
大村に
ハンガー・
ストライキをやっている
北鮮帰国希望者について、
日赤はどういう
考えを持っておるか、どうしたらいいと
考えておるか、こういう御
質問だったと思います。私が
向うに参りましたのは、全くそういうことを予期しておらなかった。着いてみて
ハンガー・
ストライキがあったということが初めてわかったのであります。それでわれわれが来るのを知ってやったのかということを直接に尋ねましたら、それはあり得ないことだ。なぜかというと、私
どもがちょうど到着する前日に初めてわれわれが来るということが報道された。ところが
ハンガー・
ストライキはもうそれよりもっと前に、長いのは十日も前から始まっているわけでありますから、私
どもが来ることを予想してなされたものではないことは明らかであります。これは、その数はその後ふえております。私が行ったときは、七十何人の人が入っておりましたが、今は百人くらいになっているそうですが、これはどういうことかと申しますると、結局
北の方に帰ることができない。また南の方の人は
仮釈放されるが、
北の方の人に対しては
仮釈放ということがない、下手すれば、南に送り返されそうだということで、
リミットがきた、こういうふうに申せると思います。この
人たちは
密入国者であります。でありまするから、人を殺したとか強盗をやったとか、そういうような
人たちではないのであります。会って話しましても、私
どもと変らないので、非常にノルマルであります。それなのに、長い人になりますると五年くらいであります。
北鮮系と
南鮮系と比べてみますと、
北鮮系は
平均三年以上になります。
南鮮系の人は
平均六カ月以下であります。そして
釜山の人は帰っておるのであります。
南鮮に帰りたいという人は帰っておるのであります。
自分たちだけが取り残されてしまった。下手すれば
南鮮にやられてしまうんじゃないか、そこでつまり
リミットがきたのでありますね。非常に
強迫感とか何とかで、牢獄できたえられたんじゃありません。それから女
子供がおります。
子供の数は、これは南北合せてでありますが、二百人くらいいるわけであります。
そこで
日赤はこの問題についてどう
考えるか、私が率直な
意見を一つ申させていただきますと、
北鮮に帰るということは今持ち出すと
日韓会談に支障を来たす、そのために帰したいんだけれ
ども、今そういうことを持ち出されては困るというふうに一般に印象を受けるのであります。なるほど
日韓会談は、
日本にとっては非常に重要な
外交交渉でありましょう。しかし人道問題はそれよりはるかに重要な問題であるということを私は申したいのであります。
日本が
外国人に対して
人道的取扱いをしないでおいて、どうして
外国人に対し
人道的取扱いを要求できるでありましょうか。
自由陣営の人はナジ元首相が殺されたということで非常に
共産圏のことを悪く言いますけれ
ども、少くも
日本赤十字はこれまで
北鮮、ソ連、中共から何万という
日本人を引き揚げさせております。つまりこれらの国は
日本と
外交関係があるわけではありません。
日本の
政治的信条と違う
信条を持っておる国でございます。これが大陸的な面積を持っておる国で、人を集めるのにも大
へんであります。それにもかかわらず戦犯をも含めて帰してきておるのであります。この
政治的信条、
国交、そういうことを超越して帰してきておる。
日本はこの
人道的取扱いに対しては報いておりません。というのは、
北鮮に帰りたいという人はまだ一人も帰していないのであります。そればかりではありません。今収容されておる人は、
戦争犯罪者ではないのであります。それにもかかわらずこれを抑留しております。しかも
期限はないのであります。私は一体そういうことがどうしてできるかということの
法律的根拠を知りたいと思うのであります。いやしくも
日本の憲法のもとでは人を四年も五年も抑留するには、
成規の裁判による判決、そしてそれが
法律に基くものでなければならないはずだと思います。でありますから、これはおそらく
法律に基いているのだろうと思います。しかしそうであるならば立法府にお願いしたいことは、そのような
法律は改めてほしいと思います。なぜかというと、私は寡聞にして、世界のどこにおいても密入国したから無
期限に人を拘置してよろしい、そういう
法律はないと思うのであります。あったら知りたいと思います。もしそれが
法律によらないで、
行政処分でできるというのであるならば、そのような
行政処分が合法的である、つまり
法律にかなっておるかどうかということを検討していただきたい。
日本赤十字は、御
承知の
通り日本の
赤十字であります。
日韓会談がいかに重要であっても、
国際赤十字の見地から見ればこれは何の
関係もない問題であります。ただ
日本赤十字といたしましてはそうはいかない。でありますから、なるべくそういう問題に災いの起らないように、しかも
帰国を実現しようと苦心しているのであります。そして
日本政府に援助を与えているのであります。そうでありまするならば、
日本政府も最善を尽して
日本赤十字に協力していただくことが必要であります。
日本赤十字は
日本赤十字社法によって動くのであります。これは
法律であります。
日本赤十字社法第一条には、
日本赤十字社は、
赤十字国際会議の
決議を守って、その
精神によって
人道的仕事をやらなければならないと書いてあります。それでは
赤十字国際会議はどういうことを決定しておるかというと、
戦争、内乱、
国際紛争その他の事故によって、今世界中で
自分の故国から離れて、あるいは家族から別れて、帰ることができない人がいる。こういう人はその
人個人の
意思に従って再会できるようにしてやらなければならない。
赤十字社は、この場合
政府の間の最も自然な
媒介者である。
各国政府はこの点について全力を尽さなければならない、こう規定してあるのであります。これは昨年ニューデリで開かれました第十九回
赤十字国際会議決議第二十であります。この
決議は満場一致で一つの
反対もなく通っております。もちろん
韓国政府、
韓国赤十字代表も賛成しております。そこでわれわれのやろうということは、この
決議を実行することなのであります。
日本赤十字といたしましては、これがなくてもやらなければならないのであります。なぜかと申しますると、今から数年前に、
北鮮にいる
日本人を引き揚げるために
電報を打ったことがあります。これは
日本政府の御
承知の上で打った
電報であり、
日本政府からむしろすすめられて打った
電報であります。それには、もし
北鮮にいる
日本人の
帰国を
北鮮の
赤十字が援助してくれるならば、それを迎えに行く船に、ここにいる
朝鮮の人で
北鮮に帰りたい人を乗せて帰すということを言っていたのであります。これは
日本赤十字の
公約であります。これは
日韓会談なんかが起るずっと前の話であります。それでありまするから、
日本赤十字は、その
公約から申しましても、また
国際決議から申しましても、これはやらなければならぬ。そしてこれは私の方では政治問題ではないというふうに思っております。政治問題でないということは
日本政府の
主張であり、
韓国政府の
主張でもあります。
釜山の
抑留者を帰すときに、
日本人はそれを政治問題と切り離して人道的に
考えてくれということを言っております。実際、
国交がないときに、あるいは
敵対関係にあるときに、これは人道問題でなければ解決できない。忘れてならないのは、まだわれわれは、大陸から
日本に
帰国してもらわなければならない人がいるのであります。たとえば
北ヴェトナムなんかにおります。それから
中国からでもまだ帰ってこなければならない人がおります。
漁船がつかまればやはりそれは帰してもらわなければなりません。これは全部
国交がないのであります。そういう場合に人を帰すということは当りまえのことなんです。ですからそれができないということは、私は非常に不思議でならないと思うのであります。大体私の申しましたことは
日本赤十字社の
見解とおとり下さい。