○坂本昭君 ただいま議題となりました、
昭和三十三年度
一般会計予算、
特別会計予算、
政府関係機関予算、以上三案に対し、私は、日本社会党を代表して、これに反対の討論を行わんとするものであります。
まず第一に、批判しなければならない点は、
予算編成方針の基本となった政府の内外経済情勢の分析が誤まっていることであり、従って、来たるべき不況に対する処置を通して、
予算編成に根本的な誤まりがあるということであります。すなわち、政府は、昨年五月以来の外貨危機に対する引き締め政策で、国内需要が漸次鎮静し、経済調整が次第に進んで、国際収支が改善されたが、世界景気の支柱であるアメリカ経済は、昨秋以来景気停滞の傾向で、本年も楽観を許さず、わが国の輸出環境は一段ときびしくなるから、政府も国民も一体となって、あらゆる努力を集中して輸出の伸張、すなわち目標三十一億五千万ドルの達成を期すべきであり、そのためには、投資及び消費を通じて厳に内需を抑制すべきであるというのが政府の主張であります。この点は、最近の不況分析が明確にされるとともに、本
委員会において大蔵
大臣は、国内需要を抑制して輸出第一主義だというのでは必ずしもないと、基本方針をみずから訂正し始めており、月ならずして昨年の例のごとくに、政府の情勢分析の誤まりを露呈して再び国民の信頼を失うことを予言しておくものであります。
岸内閣は、昨年一千億減税、一千億施策の積極経済政策を掲げて発足しましたが、すでに進行中であった国際収支の悪化のために、早くも三月には、日銀公定歩合の引き上げに着手し、五月からは、本格的金融引き締め、財政投融資の繰り延べなど、正反対の政策に転換し、ようやくにして昨年十月以来国際収支は黒字に好転したとはいうものの、今や国内経済は、深刻な不況に陥り、過剰生産恐慌の状態にあるのであります。昨
昭和三十二年において工業生産は、七月が最高で十一月には最低、卸売物価は、三月最高で十二月最低、常用雇用は七月最高で十二月最低、失業保険離職票受付件数は、六月五万二千件が十二月には十一万一千件、本年一月には十四万五千件に増加、昨年七月に二十七万であった失業保険受給者は、本年一月現在で四十四万一千名に達し、特に繊維関係では、初回受給者は、八月七千二百名、十月六千八百名、十二月五千四百名が、本年一月には一万三千名と激増し、繊維全体で、三万四千ないし五千名の離職者が予想されておる。かくのごとく、生産、物価、雇用を通じて、約半
年間に急速に経済が縮小し、かつ、それは依然として進行中であります。
三十一年以来の無計画的な設備投資競争は、三十一年は前年に比し七六%増加、三十二年は四一%増加しましたが、昨年の設備投資繰り延べのため、まず鉄鋼、機械類などの資本財から需要が減小して生産過剰になり、次第に過剰生産の産業範囲は消費財産業に拡大し、その結果、思惑で大量輸入した原材料の在庫品は、製品在庫の形に変りつつあるとはいいながら、原材料と製品の在庫は滞貨となり、出荷は減小し、卸売物価は下降する一方である。生産面では、大企業の操業短縮はますます強化されざるを得なくなり、すでに一昨年来過剰生産であった繊維関係を先頭に、製糸、パルプ、鉄鋼、ニッケル、電気銅、金属チダン、過燐酸石灰、塩化ビニール、ソーダ等、二割ないし五割の操短に入るに至ったのであり、自動車、家庭電気機械等の耐久消費財関係も、需要の伸びはにぶくなる中で、設備増加と販売競争の負担が重くなり、今や全産業におおいかぶさっている過剰生産と供給過剰に対して、金融引き締めによる国内需要減、世界不況による輸出拡大の困難が横たわり、大企業の犠牲のしわ寄せば、早くも労働者、農民と中小企業に及んでいるのであります。すなわち、製造工業労働者の現金給与に例をとれば、昨年六月二万二千百十八円が十一月には一万六千五百九十二円と、五千五百二十六円も減小しているのであり、企業整理は、中小企業を中心に急激に増加し、昨年六月まで月平均二百件であったのが、八月五百件、十二月六百八十四件、本年一月八百十件とふえ、その結果、企業整理による整理人員は、九月二万二千名、十月三万三千名、十一月二万名、十二月三万三千名、本年一月四万一千名とふえ、労働省さえ、三十三年度の失業者増加は三十万人と見込んでいるのでありまして、失業者数は、戦後最高とならざるを得ない状態に立ち至っているのであります。農民に対する不況の直接影響は、青果物の価格の暴落となって現われ、昨年六貫目二百五十円の愛知白菜が百円に下り、六貫目のキャベツ三百円が百円に下るというふうに、半値から三分の一に下っている。中には、運賃以下になって、野菜農家がキャベツを牛に食わせたり、関東では、水戸の農家が一わ一円なりのホウレンソウを牛にやるのはもったいないと、夫婦二人で、一日百円の商売を泣きながら続けている状態であります。このようなおそるべき不況の認識とその原因の正確な把握の上に立つことなく、
岸内閣が明年度に掲げている経済政策の特徴は、依然として対米従属、再軍備
予算であり、独占大企業に対しては積極
予算、圧力団体には放漫
予算、勤労国民には緊縮
予算であり、不況の深刻化に対しては、勤労国民勢力の分裂と労働組合の弾圧をもって臨んでいるのであります。今や、全産業一律の最低賃金制と完全雇用を実施し、労働時間の短縮とベース・アップを行い、低額所得者には減税をなし、生活保護基準を引き上げ、さらに、国民皆保険と皆年金制による生活と所得の保証を
全国民に与えることによって、国内有効需要の育成をはかるべきであるのに、かえって政府は、輸出第一主義と称して、内需を抑制し、しかも輸出面では、日中貿易の拡大を阻害し、輸出代金のこげつきを国の損失負担にするなど、輸出振興とかけ離れた政策を行い、また、他方輸入面では、思惑輸入の減少によって輸入見込みは減少するにもかかわらず、政府は、依然目標として過大な輸入見込額三十二億四千万ドルを掲げているのであって、このことは、国内有効需要をふやせば、さらに輸入がふえて国際収支が悪くなると、国民をおどかすためのにせ看板であり、
目的は、大企業のために、現在以上の思惑輸入の余裕を残している、まことにずるいやり方と言わざるを得ない。しかも政府は、現在は不況ではない、経済膨張の行き過ぎ調整であり、第一四半期末までに生産調整を終え、アメリカ経済と相待って、七月以降に上昇していくと称しておりますが、最近閣内でも、日銀との間でも、景気見通しの不統一あるいは混乱を見ている。解散をひかえ、人気取りに金融緩和を暗示するなど、政策の不統一がはなはだしいのであります。アメリカ依存の貿易構造を根本的に変えない限り、あるいはアメリカの日本商品に対する関税引き上げに抗議したり、またあるいは日中貿易協定を結んだとしても、これらは単なる一時的不況対策にすぎなく、今日の不況は、資本主義時代の根本に横たわる全産業の恐慌状態であり、生産と消費、供給と需要との極度の矛盾状態であって、不況対策として
岸内閣の可能な政策は、国家財政の総力をあげて独占資本と大企業を擁護し、恐慌の爆発を一時的に糊塗するにすぎず、かくては、自覚した直接国民大衆の激しい抵抗と怒りを買うに至るものと、固く私は信ずるものであります。
かくのごとき経済情勢の分析と見通しの誤まりの上に立った
昭和三十三年度
予算には、重大なる難点がある。たとえば、三十二年度
予算に比較して二千億以上の歳入増加を見込みながらわずかに二百六十億、しかもその
内容たるや、大法人と高額所得者本位の減税しか行なっておらず、勤労大衆にはほとんど縁がないのであります。またたな上げ資金四百三十六億は、所得税、物品税等、低額所得者の減り税に回し、社会保障費を思い切って増額すべきであり、これこそ真に過剰生産恐慌対策に役立つものであります。政府は、生活水準を引き上げると、再び国際収支の危機をもたらす危険があると、反対をしております。しかし、国際収支はすでに黒字になっておるのであり、それであるのに、内需をあまりに押えるからこそ、過剰生産の不況が訪れるに至っているのであります。
さて、国内有効需要を高めるためには、民生の安定が先決でありますが、
岸内閣三悪追放のうち、純政治的に
予算措置を要する唯一の悪、貧乏に対して、社会保障費として、いかなるバランスのもとに
予算化され、
岸内閣の看板に果して偽わりなしといい得るか、検討してみた。まず驚くべきことは新長期経済計画の中におきまして衣食住の数量的計画が示されてあります。たとえば、衣については五〇%増、食についてはカロリー二・七%、蛋白四・八%増、住については、ほぼ安定というふうに示されてあるにかかわらず、国民皆保険と国民金
制度については、その財政もプログラムも示されていないことで、
岸内閣の貧乏追放は、科学的根拠のないから念仏のスローガンだということであります。当
委員会の
審議において、皆保険完成の三十五年度末において、日傭者保険四千三百万、国民健康保険四千九百万という
答弁をいただきましたが、総経費と国の負担額については、明瞭なる数字を得ることができなかったのであります。ただ、この計画で明らかなことは、日傭者保険中最も零細な事業所の適用者は、政府管掌保険として、今後三カ
年間に数百万新規加入せしめなければならない経済的困難な実情のもとにあって、三十三年度
予算中に、政府管掌健康保険に対する従来の正当適切なる国庫補助額が、にわかに三分の一に圧縮されたという事実は、政府の皆保険政策が全然理想もなければ計画もないばかりでなく、道義的責任を欠くものではないかと判断されたことでございます。さらに、近代国家においては、国民所得に対し、国民総医療費は三ないし四%、社会保険総経費は一〇%以上、西ドイツの場合には一二%でありますが、三十三年度の見込みでは、総医療費は三・五%、社会保障総経費は七%
程度であって、社会保障総経費は、近代国家の域には達しておらないのであり、特に総経費中の国の負担の割合は、近代国家では少くとも三〇%以上、普通は五〇%をこえているのでありますが、わが国の場合、二〇%に至らないのでありまして、かかる実情では、国が責任をもって行う社会保障などと申すことは、まことに口はばったいことであると言わざるを得ません。しかも、一方九百万人をこえる労働者から徴収する厚生年金保険の積立金は、現在すでに二千三百億円をこえ二十年後には、驚くなかれ一兆二千億円に達するといわれ、現在においても、財政投融資の重大なる原資をなすものでありますが、この金額を醵出した労働者の年金額は、わずかに月平均五千五百三十九円にすぎず、また、積立金が労働者に還元、融資されるところは、まことに微々たるものでありましてかつ、その
内容には疑問もありまして、労働者の生活の所得も保障されるところがいかに薄く、それに反して、いかに政府が社会保障のスローガンのみを掲げても、実際には冷淡、無関心どころか、労働者の積立金をむしろ盗み用いている事実を率直に批判せざるを得ないのであります。今や、厚生年金保険の運用と年金額の決定は、皆年金制の基本を構成するものであるのみならず、老令所得保障の金額は、日本国民の生活基準を定め、生活保護の基準を
改訂し、動物的生存ではなく、人間的、文化的生活の水準と最低賃金の額を決定し、貧乏追放の科学的基準を制定するものでありまして、政府の緊急決定すべきところでございます。特に過剰生産恐慌の現在、決定を安定して、有効需要を刺激せんとするならば、すみやかに国民所得を再分配し、最低生活基準が国民消費水準のわずがに二ないし三割にしか達しないこの日本の野蛮な生活基準を、アメリカ並みに、国民消費水準の六割まで引き上げる必要があります。さらに、社会保障実施について、政府が当然批判されねばならぬことは、政府が政治的責任を追及されるときには、
学者の隠れみのを着たがることである。国民年金
制度について、総理が社会
保障制度審議会の
答申を待つこと、全くラブ・レターを待つごときものがあります。しかるに、この
審議会がかって医療保障、結核対策、国民健康保険などについて
答申しました勧告に対しては、政治的にあえて顧みることをしないというのが政府の現状であります。社会保障は、一政党の独占物ではなく、国民のためのものである。われわれは、資本主義体制では十分なものはできないと確信しているものでありますが、イギリスの例に見るごとく、政治家グリーンウッド氏がよく
学者ビーバーリッチ教授を起用して、ゆりかごから端場まで、複雑な社会保障の学問的な体系を完成せしめ、これを政治的に活用したという事実をお互いに銘記すべきであります。
さて、来たるべき過剰生産恐慌の中で、明年度は、完全失業者六十五万人となり、本年に比し、失業者は統計上十三万人増加する。実際には約三十万人ふえるということが予想されておりますが、これに対し政府は、わずかに失業保険七万人増、失業対策関係吸収人員二万五千人増で、もっぱら失業保険におんぶするという、まことに無責任な
予算であり、特に本年六月末までに約七万人の首切りが予想される駐留軍労務者の離職対策としては、わずかに三千百万円の対策本部設置と
職業訓練の補助金が計上されているにすぎないこと、まことに驚くべきことであります。また、総選挙対策もありまして、大幅に復活を認められ、一千億円をこえたと宣伝された農林関係
予算につきましては、経済基盤強化資金のうちから、六十五億が農林漁業金融公庫、小団地等土地改良基金として振りあてられましたが、使用
方法は、六十五億を小団地等土地改良に使うのではなく、六十五億を資金運用部に預託し、その金利六分、約三億九千万円をもって、公庫の小団地土地改良融資の利子引き下げに充てるのでありまして、事業の実態はわずがに三億九千万円で、差額約六十一億円は、金融資本家のオーバー・ローン解消に融資せられ、農林関係
予算の規模は、実は一千億をこえず、九百四十七億にしかすぎず、総
予算の七・二%であって、二十八年度一六・五%に比較し、戦後最悪の農政後退
予算であることを農民諸君は冷静に認識すべきであります。
また、
岸内閣の三大目標の一つである中小企業振興のためには、第一に共同化促進が必要でありますが、共同
施設補助については、本年同様一億円であって、必要経費のわすかに六分の一にしかすぎません。
また、第二の問題、中小企業近代化のための補助は、六億円となりましたが、老朽陳腐化する設備に対する
現行補助では、近代化どころか、老朽
施設が累積するばかりであります。
特に、第三の問題である市場拡大のための輸出振興としましては、輸出振興費は中小企業家に対してはわずかに四千二百万円で、貿易振興費全体として三億五千万円増加しましたが、大企業のための貿易振興会、ジェトロに大部分注入されるのが実情で、まことに不合理であります。
さらに、中小企業の税問題についても、事業税は全く考慮が払われず、かえって法人税一律二%引き下げは、租税特別措置法の一部撤廃によって受けた大企業家の損失二百数十億を埋め合わせるためのものであって、まことに政府の中小企業振興は、から宣伝だけで、何らの
予算の裏づけがないのであります。
文教政策については、国家
予算全体との比率で一一・六%と、本年度よりさらに一二%減少し、教材費への負担金は二億円増の十五億円にとどまり、父兄が公費を肩がわりする教材費負担の額は
年間約百六十億円であり
文教政策が財政的にまことに貧困顕著なものがあるにかかわらず、日教組対策となると政策豊富となり、勤務評定、
道徳教育を強行せんがためには、小
中学校長に七%という根拠不明の管理職手当の
予算四億数千万円が計上され、視学官、視学
委員の増員が認められるに至ったのでありますが、緊急必要とするすし詰め教室は解消されず、貧困な準要保護児童
生徒給食費補助は半数しか実施されず、定時制及び通信
教育職員費国庫補助は一顧だも与えられなかったのであって、政府は日教組との対決にはきわめて熱心でありますが、次代の子供の
教育に対してはまことに不熱心と言わざるを得ません。
また、輸出増進は、政府の最高努力目標であると政府は常に主張しており、かつ、そのためには、海外市場の開拓が先決でありますが、六億の人口を有する中国に対して、政府はいまだ輸出制限を行い、商品展覧会開催についても非協力的であり、三十二年度六千万円出した補助金は、三十三年度は削除されたのであります。これに反し、東南アジア開発基金として五十億円が設定されましたが、これも単なる構想倒れで、五十億円は輸出入銀行内に入れてあるが、使途については何らの具体的計画さえ立てられていない実情であります。驚くべき政府の不見識、無計画と言わざるを得ません。たとえ使う場合があるとしても、少くとも中小企業家の貿易上の基金として役に立つことはなく、大企業と大資本の貿易家のための基金となるものであることは間違いがありません。私は、あえてこれを外務省に献じ、東西両巨頭会談成立を初め、平和外交に思う存分使わせたいと
考えるのであります。
財政投融資については、当初政府は三千九百九十五億円をきめていましたが、本年一月二十一日、三十二年度計画のうち、繰り延べ約二百六十億円復活、さらに、開発銀行は三十二年度内に五十億円追加融資が承認され、ともに四月以降へずれ込むため、実際の計画規模は四千三百億円に達し、政府は財政投融資計画に関する限りは、金融引締め方針を撤回したと言わざるを得ません。しかも、投融資の重点は、第一に電力、第二に海運、第三に石炭に向けられており、これらの基礎産業はますます有利となって、重要産業対一般産業、大企業対中小企業及び農業の不均衡な発展は、さらに拡大されるのであります。しかも、この投融資の財源は、郵便貯金、簡易保険積立金、厚生年金など、勤労国民の零細な積立金をもって七割を占めているのであります。なるほど、投融資によって中小企業関係金融も百五億円が融資という形で、増額はありましたが、まだ金額は不十分である。しかも、利子のつかない出資が全然ないことは、いかに大企業本位の財政投融資であるかがまことに明瞭であります。さて、第二次大戦終了後、米ソ両陣営の対立は、朝鮮、ディエンビエンフー、スエズ、ハンガリー等、幾たびかの危機を経て今日に至っておりますが、両者ひざをまじえての話し合いの機会は、
昭和三十年七月のジュネーヴ会談のみであります。しかるに、昨年核兵器の長足の進歩を伴う大陸間弾道弾の完成、人工衛星打ち上げ成功を見て以来、世界の世論は、にわかに東西巨頭会談の実現を要請するに至ったのであります。平和か、はたまた戦争かの分岐点に差しかかっている昨今の国際情勢の中で、最初にして最大の原爆並びに水爆被災国民たるわれわれの果すべき使命は、まことに大であります。今や、東西会談を促進するのには、三年前のジュネーヴ会談のときより、はるかによい条件が幾つかそろっております。
第一は、アメリカにおいては、スタッセン氏などのように、従来の力の政策に反省を加え、政策転換を行おうとする動きが、ダレス外交に対する世論の批判とともに強まりつつあり、ポーリング博士などを初め、化
学者と宗教家の核実験反対の平和勢力は、日増しに世論を強く指導し始めていることであります。
第二には、第二次大戦後の植民地の崩壊はさらに進展して、今日では大きな情勢変化を起してるいことであります。
第三に、イギリスは首脳部会談のソ連呼びかけに際し、最初から外相
会議抜きでもいいとしており、マクミラン首相は不可侵条約の提唱さえされて、積極的であります。
第四に、昨年末の北大西洋条約機構の
会議に際し、力の外交に対するヨーロッパの不満と反抗の空気がかなり現われ、
昭和三十年のジュネーヴ会談の時代よりも世論もはるかに進んでおり、大陸間弾道弾と人工衛星の出現は、世界の人に新しい決意を促がしていることであります。
第五に、第一書記のままでフルシチョフが首相の選任を見たことは、その重大な理由の一つとして、従来のブルガーニン書簡外交の行き詰まりを打開して、直接首脳会談に備えたものとも判断されるのであります。今や、東西両陣営の対立の中で占める軍事的武力的対立は、次第に方向を転じて、経済競争、平和競争の面が強化せられんとしつつあり、このことは、新しい不況、新しい恐慌に対処せんとするアメリカ国内国外政策の中にも、新しい芽として認められているところであります。すなわち、国務省みずから本年一月三日には低開発諸国に対する中共、ソ連ブロックの経済攻勢という報告の中にもそれを指摘し、また、アドライ・スチーブンソン氏は、昨年末大幅な後進国援助の必要を、すなわち新しいニュー・ディールを提唱している事実によっても察知されるのでありますが、過ぐる一九三〇年の大不況に当り、労働組合の権利と賃金を引き上げ、ソシアル・セキュアリティ——社会保障というこの言葉を初めて創造したルーズヴェルト大統領のニュー・ディールの体験は、決してむだに忘れられてはいないと
考えます。昨年後半から始まったアメリカの景気後退によって、本年二月、失業者は五百二十万、三月には五百四十万と言われ、七月以来工業生産は下降しておりまして、今や失業問題は、人工衛星、平和問題以上のアメリカ国内問題となっておりますが、景気対策の最初の立法として、去る三月十九日のアメリカ議会では、
予算約二十億ドルをもって住宅建設促進法を成立させたのであります。私は現段階において、アイゼンハウアー大統領の新しいニュー・ディールが、アメリカ自身及びさらに世界の不況をいかに根本的に救済し得るか、はなはだ多くの疑問を持つものでありますが、当面する日本の不況に際し、労働組合が戦っている春闘に、政府があえてこれに挑戦して、警察官と威嚇をもって臨むという、その正当なる権利と賃上げを弾圧することは、
予算総ワクの中において、不況年度に対する社会保障経費を削減した政府の事実とともに、一九三〇年のルーズヴェルト氏にもはるかに劣る時代錯誤日本政府と断ぜざるを得ないのであります。今や連続する核爆発実験、四六時中行わるる水爆機による地球のパトロール、今もしこの興奮と緊張の中で、基地ならずとも、誤まって核兵器が、はからざるところにおいて暴発することの危険なしと言えるでありましょうか。アメリカ空軍の核兵器事故はすでに六回あり、日本国民は、核兵器の最もおそるべく悲しむべきことを最も知悉しているからこそ、
岸総理を先頭に立てて、核実験無条件即時禁止、国内への核兵器持ち込み禁止、ミサイル基地設立禁止を内外に叫んで参ったのでありますが、今やわれわれは、アメリカとの間に核兵器持ち込み禁止、ミサイル基地設定禁止の明確な協定を結ぶことにより、東西両巨頭会談の橋渡しをする端緒を作り、それによってさらに、原水爆実験禁止、北太平洋非核武装地帯設定の協定成立を可能ならしめると信じます。政治行動の真の目標は、要するに、人間の心の底に宿る確信を動かすことであります。原子爆弾といえ
どもそれはできないが、人間の精神はそれができるのであります。今や内外ともに新転機に当り、われわれは今まさに新しい年度を迎えんとしております。院内には重要法案山積し、日ソ、日韓、日中の外交問題まだ解決を見ず、
岸内閣はまさに内憂外患こもごも至るという状況にあります。けれ
ども、信を国民にまさに問うべきときに問わなかった人の焦燥と苦悩は当然みずから負うべきでありますが、政治的窮地において憲法第七条を乱用することは、憲法の個人的、党利党略的悪用であって、国民の断じて許さざるところであり、近代的、民主的政党政治家としての資格を喪失するものであります。人類平和と世界経済にとっての最大の危機を迎えんとする
昭和三十三年度の
予算審議に当って、政府の信念なき平和外交をつき、誤まれる経済見通しを批判するとともに、対米従属、大資本、大企業擁護の政府
予算案に断固反対し、私の討論を終るものであります。(拍手)