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戸叶武君 私は
日本社会党を代表し、
政府提出の
昭和三十二
年度一般会計予算補正(第2号)並びに
昭和三十二
年度特別会計予算補正(特第4号)に対して反対の意向を明らかにし、
政府に対し本案を撤回せられて、再編成の上再
提出されることを要請するものであります。
今回の
補正予算案の内容は、
一般会計予算において歳入、歳出の規模は三百九十四億二千六百万円であります。歳入の財源は三十二
年度の租税収入の増徴を見込んで法人税三百億円、相続税十四億二千六百万円、関税八十億円の自然増収をその財源に見込んでおります。歳出の面においては
駐留軍労務者の離職特別給与金に八千八百九十六万円を見込んでおります。それにイルカ漁業に従事しながらオットセイの捕獲を行なっている漁業者に対する転換助成費五億円等が計上されております。また、特別会計
補正については、
交付税及び譲与税配付金が特別会計に
一般会計から七十八億円の繰り入れとなっております。
歳出の
駐留軍労務者に対する
特別給付金では、わずかに八千八百九十六万円で、
政府は三十二
年度の整理二万七千人、三十三
年度がその半分くらい、合計四万数千人と推定しておりますが、その恩恵に浴する者は二万七千人中一万六千人にすぎず、しかもその
給付金は一万円、六千円、三千円の三
段階に分けられ、一万円を受け取ることができる十年以上の勤続者は千八百七人にすぎません。同じ
駐留軍労務者でありながら、一万人以上の人がこの恩恵にあずからないのであります。また、
駐留軍の直接
雇用者である家政婦あるいは連合軍に
雇用された
労務者にも、何らの措置が講ぜられておらないのであります。この
駐留軍労務者の離職たるや、全く
日米行政協定の運用上の犠牲として生じた失業であります。これは
日米両国の首席代表たる岸・アイク会談において、
アメリカ合衆国との間に安全保障条約の第三条に基くところの
行政協定及び交換文書により両国の首脳者が取りきめた問題に基因する失業なのであります。この特殊な失業問題に対し、
政府が涙金だけで片づけようとする冷淡な態度を、私たちは断じて黙視することができません。
政府は長い間にわたって忍びがたきを耐えてきたこの
労務者を、手厚くねぎらってしかるべきであり、わが党は一人当り五万円の醵出をすべきであるとの主張を持っております。
次に、食管特別会計の問題でありますが、これは今回の
補正予算の歳出規模三百九十四億二千六百万円のうち、最大部分を占めております。食管特別会計への繰り入れ三百十億三千七百四万円のうち百五十億円は三十二
年度の食管会計の赤字補てんに充てる目的で、決算までの間に経理運営のため運転資金の役割を果させる調整資金だと
説明しております。昨年三十二
年度予算案を審議した際に、当時の池田
大蔵大臣は、食管会計の赤字処理は決算確定の後に勧めて行うべきであると強硬に主張いたしました、そして三十
年度分の赤字三十四億円を三十一
年度一般会計予算の第二次
補正で埋めたが、三十一
年度分と三十二
年度分の赤字見込み額は処理しなかったのであります。第一次岸
内閣と第二次岸
内閣とは、その政治性格が異なっておらないのにもかかわらず、このようにわずか一年の間に、前とうしろと全く反対な方法で
財政処理の提案が行われておりますが、この事実に対し
政府は
財政処理、
予算編成の基本的問題の変更に対して、何らの矛盾を感じないとは、まことに不思議な論理の展開であります。一萬田
大蔵大臣は、これは
財政法第二十九条第一項に基く追加
予算であると述べながらも、今回の措置は建前としては決算で補てんし整理すべきであるが、そうすると、その間に運転資金が非常に枯渇するので、そこで、それを円滑にさせるため
一般会計から資金を繰り入れたのだと
説明しております。そして
財政法上の
根拠については、何ら明確なる論拠を示していないのであります。まさしく今回の
政府提出の
予算案は、歳入において決算以前の未確定財源を先食いしているのでありまして、このような財源の先食いは、少くとも
政府の経済
見通しが正確なりとの認定が与えられた場合にのみ、特別の措置として許容さるべき性質のものであります。
しかるに、三十三
年度の
予算編成に対する岸
内閣の態度たるや、このような指置をとる資格を欠いておるのであります。
政府は昨年九月十日に三十三
年度予等編成の基本方針を定め、これに基いて昨年十二月二十日に
予算編成方針を決定いたしました。それによると、三十三
年度予算編成は投資及び消費を通じてきびしく内需を抑制し、輸出の伸長を期することを主眼とし、国の
財政が景気に対する刺激の要因となることを極力回避する方針を定めたはずであります。しかるに、本年一月八日の閣議においては、
予算編成の最高の責任者たる岸首相みずからが、この基本方針を踏みにじって
予算ぶんどりの渦中に巻き込まれたのであります。この結果として
政府の
予算編成上の不手ぎわから、
予算案の国会
提出が一月末にまでおくれ、国会の
予算審議の
期間を侵害するに至ったのであります。そうして
政府が国会に
提出した
予算案の実体は、
政府の当初公約した基本方針とは全く異なったものとして現われたのであります。この
予算案の内容は、大企業並びに圧力団体に対しては膨脹、勤労国民に対しては緊縮の全く矛盾した二面的性格を持ち、岸
内閣の政治性格をそのまま反映した無性格な両岸
予算案であります。
予算編成の基調ともなるべき
政府の経済的
見通しは、
予算案を編成した後にこれに合致するような
数字を組み合せた統計技術上のマジックであり、今では何人も信用しておらないのであります。河野
経済企画庁長官が施政方針演説の回避を企てたのは、みずからがその無
意味さを知っていたからでありまして、御承知のようにあの演説は何ら生彩がなかったのであります。
このような不安定な
見通しの上に立てられた
予算案であるだけに、食管会計に関する
補正のごときは、やがて米価、麦価の決定に重大な悪影響を及ぼさないとも限らないのであります。特に私たちが警戒しなければならないのは、歳入の面で
政府は三百九十四億二千六百万円の三十二
年度租税収入の自然増加を見込んで先食いしようとしている点であります。これによって三十四
年度に繰り越される剰余金の受入額は、それだけ減額されることになるので、国民は前途に不安を抱かされております。また、
政府の経済成長率の誤算は、三十四
年度の租税の自然増収を当てにした財源について必ずしも楽観を許しません。
本案は
財政上幾多の疑義を含み、不合理と矛盾に満ちております。私たちは本案は
予算編成の上から将来に悪例を残す
補正案として反対し、
政府に本案を撤回して、再編成して
提出されんことを要望いたします。
以上をもって社会党の立場を明らかにし、私の反対討論を終る次第であります。(拍手)