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1958-02-21 第28回国会 参議院 本会議 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年二月二十一日(金曜日)    午前十時十八分開議     ━━━━━━━━━━━━━  議事日程 第九号   昭和三十三年二月二十一日    午前十時開議  第一 最低賃金法案閣法第五七   号)(趣旨説明)  第二 遺失物法等の一部を改正す   る法律案内閣提出)            (委員長報  告)     ━━━━━━━━━━━━━
  2. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。      —————・—————
  3. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) これより本日の会議を開きます。  日程第一、最低賃金法案閣法第五七号)(趣旨説明)  本案について、国会法第五十六条の二の規定により、提出者からその趣旨説明を求めます。石田労働大臣。   〔国務大臣石田博英登壇拍手
  4. 石田博英

    国務大臣石田博英君) 最低賃金法案について、その趣旨を御説明いたします。  終戦以来、わが国における労働法制は、労働組合法労働関係調製法労働基準法など、急速に整備されたのでありますが、これらの法制により、近代的労使関係が確立され、また産業合理化を促進し、わが国経済復興に寄与するところ少くなかったことは、否定し得ない事実であります。  労働基準法臓労働条件最低基準について詳細な規定を設けているのでありますが、同法に定める最低賃金に関する規定は、今日まで具体的に発動されなかったのであります。これが理由について考えてみますと、ます、終戦後の経済混乱最低賃金制実施基盤をつちかえなかったことが指摘されるのであります。さらに基本的には、中小企業零細企業の多数存在するわが国経済の複雑な構成のもとにあっては、労働基準法規定する最低賃金制のみによっては、その円滑な実施を期し得ないものが存したからにほかならないのであります。  昭和二十五年、労働基準法に基いて設置された中央賃金審議会は、絹人絹織物製造業等業種に対する最低賃金実施について、昭和二十九年に政府答申を行なったのでありますが、これが実現を見るに至らなかったゆえんも、当時の経済情勢とともに、わが国経済における中小企業特異性に存したといえるのであります、しかしながら、賃金労働条件のうち最も基本的なものであり、特に、賃金の低廉な労働者について、今日最低賃金制実施することは、きわめて有意義であると考えるのであります。  最低賃金制の確立は、たたに、低賃金労働者労働条件を改善し、大企業中小企業との賃金格差の拡大を防止することに役立つのみでなく、さらに労働力質的向上をはかり、中小企業公正競争を確保し、輸出産業国際信用を維持向上させて、国民経済の健全な発展のため寄与するところが大きいのであります。  翻って、世界各国に目を転じますと、十九世紀末以来今日まで、四十数カ国が最低賃金制実施し、また、国際労働機関においても、すでに三十年前に最低賃金に関する条約が採択され、これが批准国も三十五カ国に達していることは御承知の通りであります。経済復興労働法制整備に伴い、わが国国際的地位は次第に高まり、昭和二十六年には国際労働機関へ復帰し、さらに、昭和三十一年には、念願の国際連合べの加盟も実現されたのでありますが、また、それゆえに、世界各国は、わが国経済、特に労働事情関心を有するに至っているのであります。なかんずく、諸外国において特に大きな関心を持って注目しているのは、わが国賃金事情であります。過去においてわが国輸出産業ソーシャル・ダンピングの非難をこうむったのは、わが国労働者賃金が低位にあると喧伝されたからであります。かかる国際的条件を考えましても、この際最低賃金制実施することね、きわめて意味があると考えるのであります。  しかしながら、諸外国における最低賃金制実施状況を見ても知り得るごとく、その方式、態様は決して一様のもので如く、それぞれの国の実情に即した方式が採用されているのであります。従いまして、わが国最低賃金制もあくまでわが国実情に即し、産業企業特殊性を十分考慮したものでなければならないことは言うまでもないところであります。  政府といたしましては、最低賃金制の大きな意義にかんがみ、最低賃金制あり方について、かねてから検討して参ったのでありますが、昨年七月、中央賃金審議会に、わが国最低賃金制はいかにあるべきかについて諮問したのであります。同審議会は、その後、真剣な審議を重ねられ、十二月に至り答申提出されたのでありますが、その内容については、一部の労働者側委員が賛成できない旨の意見を述べたほかは、他の労・使・公益委員が賛成されたのでありまして、さらに、答申提出については、全員が一致されたのであります。同答申は、その基本的考え方として、「産業別規模別等経済力賃金に著しい格差があるわが国経済実情に即しては、業種職種地域別にそれぞれの実態に応じて最低賃金制実施しもこれを漸次拡大していくことが適当な方策である」と述べているのであります。今日においても、最低賃金制実施は、中小企業実情にかんがみ、時期尚早であるとの論も一部にはあるのであります声、現実に即した方法によってこれを実施するならば、中小企業摩擦混乱を生ずるようなことはなく、その実効を期し得られるのであります。むしろ中小企業経営近代化合理化等わが国経済の健全な発展に寄与するものと考えるのであります。  本法案は、以上の見地から中央賃金審議会答申を全面的に尊重して作成いたしたものでありますが、次にその主要点について御説明いたします。  その第一は、最低賃金決定は、業種職種または地域別にその実態に即して行うということであります。最低賃金制の基本的なあり方について、全産業一律方式をとるべきであるとの意見があります。しかしながら、わが国においては、産業別規模別等によって経済力が相当異なり、また賃金にも著しい格差が存在しているのでありまして、かかる現状において全産業全国一律の最低賃金制実施することは、ある産業、ある規模にとっては高きに失し、他の産業、他の規模にとりては低きに失し、これがため一般経済混乱摩擦を生じ、本制度実効を期し得ないおそれがあると考えるのであります。ここに、対象となる中小企業実態を最も適切に考慮して最低賃金決定し得るごとく、業種職種地域別最低賃金決定し、漸次これを拡大していくこととした理由が存するのであります。  第二は、最低賃金決定について、当事者の意思をでき得る限り尊重し、もって本制度の円滑なる実施をはかるため、次の四つ最低賃金決定方式を採用していることであります。すなわち、その第一は、業者間協定に基き、当事者の申請により最低賃金決定する方式であり、第二は、業者間協定による最低賃金を、一定地域における同種労使全部に適用される最低賃金として決定する方式であり、第三は、最低賃金に関する労働協約がある場合に、その最低賃金一定地域における同種労使全部に適用されるものとして決定する方式であります。これら三つの方式のいずれの場合も、政府は、中央、地方に設けられる労使公益各同数の最低賃金審議会意見を聞いて最低賃金決定することといたしております。第四は、以上一ないし三の方式によることが困難または不適当である場合に、行政官庁最低賃金審議会調査審議を求めて、その意見を尊重して最低賃金決定する方式であります。  以上のごとく、四つ決定方式を採用し、それぞれの業種職種地域実情に即して最低賃金制実施することとし、もって本制度の円滑にして有効なる実施を期した次第であります。  第三は、決定された最低賃金の有効なる実施を確保するため必要な限度において、関連家内労働について最低工賃を定めることができるごととしたことであります。わが国中小企業零細規模のものが多く、その経営は下請的、家内労働的な性格を有するものが多いのであります。しかも、わが国においては、これら中小企業と併存する関連家内労働者が多数存在し、これら家内労働者労働条件には劣悪なものが少くないのであります。しこうして、一般雇用労働者最低賃金適用され、これと関連する家内労働を行う家内労働者工賃が何ら規制されない場合には、家内労働との関係において最低賃金の有効なる実施を確保し得ない事態を生ずるおそれがあるのであります。もとより、家内労働については改善すべき幾多の問題がありますので、政府家内労働に関する総合的立法のため調査準備を行うとともに、さしあたり、本法案中に必要な限度において最低工賃に関する規定を設け、最低賃金制の有効な実施を確保すると同時に、家内労働者経済的地位の安定に資することとした次第であります。  以上が本法案主要点でありますが、本法適用範囲は、原則として労働基準法及び船員法適用あるもの全部とし、これが施行に関する主務大臣は、労働基準法適用関係については労働大臣とし、船員法適用関係については運輸大臣としております。その他最低賃金審議会設置運営に関する事項、業春闘協定締結等に対する援助、勧告、及び違反防止等に関する所要の規定を設けるほか、関係法令に関する整備を行い、もって、最低賃金制の円滑なる実施を期しているのであります。  政府といたしましては、最低貸金制法制化することは、わが国労働法制上、まさに画期的なことであり、かつ、その意義もきわめて大きいと信ずるのであります。しかしながら、何分にも最低賃金制は、わが国において初めての制度であります。いかにわが国実情に即した最低賃金制でありましても、これを円滑、有効に実施するためには、中小企業経営基盤の育成をはかることが必要であることは、申すまでもないところであります。政府は、最低賃金制度実施状況等を勘案しつつ、中小企業対策等について、今後とも十分配慮を行なって参りたい所存であります。また、いかに大きな意義を有する最低賃金制実施されたとしましても、法制定趣旨が十分認識されず、本制度が誤まって運用される場合には、労使関係の安定が阻害されるのみならず、社会経済混乱を招くことにもなるのであります。政府といたしましては、本制度に対する労使の深い理解と、絶大なる協力を期待するとともに、広く国民一般の支援を求め、これが円滑なる運営をはかりたいと存じている次第であります。(指手
  5. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) ただいまの趣旨説明に対し、質疑の通告がございます。順次、発言を許します。伊能芳雄君。   〔伊能芳雄登壇拍手
  6. 伊能芳雄

    伊能芳雄君 私は、ただいま上程されております最低賃金法案に関し、自由民主党を代表して岸総理並びに関係大臣に対し、若干の質問をいたしたいと存じます。  低賃金労働者労働条件を改善し、労働能率を高め、中小企業者間に頻発する過当競争を防止して公正競争を確保し、労働力質的改善をはかって生産性を向上し、輸出産業がしばしばこうむったソーシャル・ダンピングの汚名を返上して国際信用を高めるため、最低賃金制の持つ意義必要性については、何人も異論のないところでありますが、わが国労働史上画期的な、そうして進歩的な本法案提出に踏み切られた岸総理の勇断に対し、敬意を表するものでありますが、同時に、本法案提出は、進歩的保守政党として、福祉国家実現を念願し、国民政党として、広く労働者といわず、農民といわず、中小企業者といわず、あらゆる階層、あらゆる職域を網羅しての、全国民の安寧と幸福とを祈念するわが自由民主党が、この進歩的な政策の重要なる一環を果さんとするものとして、まことに意義の深いことを感ずるものでございます。(拍手)  私は、まず岸総理にお伺いいたします。最低賃金制そのものについては異論はないのであるが、昨春以来の金融引き締め、事業繰り延べ等、一連のいわゆる総合施策影響中小企業者にしわ寄せされ、そのために中小企業者は苦境にあえいでいる現在の状況下において、摩擦混乱を招く以外にはなく、効果は期待できない、時期尚早であるとの意見をなすものがあるのであります。総理はこの際、かかる意見は、全く一片の杞憂にすぎない、本法案実施についてはかくかくの用意があると、堂々と自信のほどを披瀝すべきであると思うのでありますが、いかがでありましょうか。  次に、労働大臣に対し、数項にわたりお尋ねいたします。  まず、第一に、社会党は、去る第二十六国会最低賃金法案提出しておりますが、これは、いわゆる全産業全国一律方式であります。わが国経済現状から、賃金事業所規模別格差昭和三十二年七月の調査によって見ますのに、五百人以上の事業所を一〇〇といたしまして、百人以上四百九十九人までのものは八二・二、三十人以上九十九人までのものは七一・七、五人以上二十九人までのものにおいては五四・二、一人以上四人までのものは三五となっておりまして、その格差のはなはだしいことは、まことに驚くべきことでありまして、この賃金格差は、すなわち経済力格差であり、同時に支払い能力格差であると考えなければならないところでありますから、こういう事情のもとにある現段階では、社会党案の全産業一律方式ということは、全く机上の空論にすぎないものと断ぜざるを得ないのでありますが、いかが労働大臣はお考えでありますか。  第二に、労働は、いうまでもなく生産の重要な要件であり、賃金価格形成の重要な要素であります。低物価、少くとも物価の横ばいを予定しておる今日の段階において、物価騰貴の素因を作ることは厳に戒めなければならないところでありますが、ことに、現下の至上命令である輸出の振興、国民生活の安定に悪影響を及ぼすことがあっては重大なことと言わなければなりませんが、そのおそれはないかどうか、もし、ありとするならば、その対策は十分であるかを伺いたいのであります。  なお、わが国農業人口はきわめて多く、このことが国民経済上に占める比重も、またきわめて重いと思われるのでありますが、最近の農林白書によりますれば、兼業農家零細農家の増加は、漸次著しくなっているとき、本制度実施は、周辺の農家を一そう兼業化零細化に拍車をかけるものではないでありましょうか。また、農業労働者の賃上げを誘発して、農産物価の高騰、特に、主食である米麦価格影響をもたらすことはないでありましょうか。  第三に、昭和二十九年五月、中央賃金審議会は、政府に対し、絹人絹織物製造業等業種について、一定条件のもとに最低賃金制実施すべきことを答申しておるのであります。これは最低賃金制あり方について一つの指針を示したものとして、注目すべきものがあるのでございますが、政府は、これをいかに措置し、いかに取り扱おうとされるおつもりでありますか、お伺いいたします。  第四に、現行労働基準法中に最低賃金に関する規定がございますが、今回提案のものは、内容全体として相当改められ、ことに、罰則のうち、体刑を削除しておるのでありますが、その理由についての御説明、並びに罰則が、他の各種違反均衡を保たなければならないと思うのでありますが、この点についての御説明を願いたいのであります。  また、賃金は時間とともに、労働条件の大きな柱であり、労働基準の重要な要素であります。従って、現行法のように労働基準法の中に、時間、その他の要件均衡を保ちながら規定すべきではないかと思いますが、なぜ、今回はこれを抽出して、単行法案とされたのでありますか、あわせて伺います。  第五に、わが国は、さきに国連に加盟し、さらに常任理事国として、国際場裏にはなばなしく活躍しておるときに、いつまでもILO最低賃金制に関する条約批准もできずにおりますことは、まことに近代国家としての体面にも関することで、残念に思うところでありますか、本法案の立案に当っては、当然、国際的配慮をも加え、国際的視野に立って考えられたことと思うのでありますが、本法案内容は、ILO条約批准支障はないでありましょうか。もし支障がないとするならば、本法案成立の暁は、すみやかにILO条約批准して、労働関係でも、りっぱに近代国家群の仲間入りをすべきであると思いますが、この点あわせて労働大臣の御見解を伺いたいと存じます。  第六に、最低賃金制もさることながら、これと並行して、いわゆる家内労働者についても、総合的にその保護をはかるために、家内労働法制定の必要があると存ずるのでございます。本法案においては、関連家内労働工賃については規定を設けておりますが、この総合的家内労働法については、これを将来に譲っておるようであります。これは、いつごろ調査準備に着手し、いつごろ法案提出の運びになるのか、見通しを伺いたいのであります。  第七に、最低賃金制は、国の経済に及ぼす影響も大きく、かつ、国民生活影響するどころきわめて重大でありますが、本法案によれば、すべて決定行政官庁であり、最低賃金審議会はもっぱら諮問に応ずることとなっており、きわめて受動的立場に置かれておるように思うのでございます。この点から、官僚統制的な弊に陥り、中小企業者や、そこに働く労働者に不測の損害を及ぼすおそれはないか。また、賃金制の処理は、政府部内の各機関有機的関連性を持っておると思われるのでありますが、関係行政機関との連絡について遺憾はないか、それぞれ明快な御説明を願いたいのであります。  第八に、生産性及び賃金格差が、事業所規模別によってきわめて大きいことは、わが国産業特徴でありますが、労働問題に対する認識においても、概して事業所規模別によって著しい格差があることが、これまたわが国産業における特徴とも言うべきものでありまして、本法案のような先駆的役割を果すべき制度を推し進めて行く上において、これが対象となりながら、しかも労働問題に対する認識の薄い中小企業者に対する啓蒙は絶対に必要であると存ずるのでございますが、これが準備について遺憾はないか。以上、労働大臣にお伺いいたしたい次第であります。  最後に、通商産業大臣にお尋ねいたしたいのであります。本制度対象は、主として中小企業者であります。政府は、中小企業体質改善について鋭意努力しているにもかかわらず、現状では依然として基盤が脆弱であって、経済力、言いかえれば、賃金支払い能力が弱いことは、いなまれない事実でございます。この中小企業は、本制度実施によって混乱に陥るようなことはないでありましょうか。また、本制度を逐次推し進めて拡大して行く上において、中小企業者は、この受け入れに十分であるという御自信がおありであるかどうか、以上、通産大臣の御答弁をお願いいたします。  これをもちまして、私の質問を終ります。(拍手)   〔国務大臣岸信介登壇拍手
  7. 岸信介

    国務大臣岸信介君) お答えをいたします。  日本中小企業実態が、きわめて弱い状況であるこの際に、本法を制定施行することは、尚早ではないかということに対して、政府はどう考えているかというお問いであります。日本中小企業は、なるほどその実態が弱いのでありまして、従って、この最低賃金の問題につきましても、全国産業一律的な最低賃金法を設けるとか、あるいは、この実情を無視したような最低賃金法を作るということは、これは日本産業実態から申して不適当であると思いますが、本法は、地域別に、あるいは産業別に、職種別実態に即して、この最低賃金法を作り、これを施行しようというのであります。中小企業そのもの経営の弱体というものに対して、もちろん各般の施策をしなければならぬことは言うを待ちません。あるいは組織の面において、あるいは税制の面から、あるいは金融の面から、あるいはまた、企業設備等近代化す面から、いろいろと、これは総合的な施策をやらなければならぬことは言うを待ちません。昨年のいわゆる金融引き締め臨時緊急対策等から、この中小企業に及ぼしている影響につきましても、政府はそれぞれ施策をして参っておるのでありますが、根本的に今申したように、中小企業に対する客種の政策を総合的に行なって行かなければならぬことは言うを待ちません。しこうして、この最低賃金法が、先ほど申したように、わが国実態に即した最低賃金制度でありますがゆえに、これが円満に施行されるならば、むしろ中小企業に内在しておる従来の弱点である過当競争であるとか、あるいは労働者の資質の非常に悪くなっている、勤務状況が悪いとかいうようなことが改善されまして、むしろ中小企業実態がよくなって行く、各種政策とともに、われわれは中小企業対策は十分考慮して行きたい、こう考えますというと、決して尚早ではないと私どもは信じております。(拍手)   〔国務大臣石田博英登壇拍手
  8. 石田博英

    国務大臣石田博英君) 初めの社会党案に対する所見でございますが、これは、わが国経済実情云々を申し上げまするよりは、今、世界中で全産業全国一律の最低賃金制実施しておる国は、アメリカフィリピンであります。そのアメリカにおきましても、厳格な意味におきましては、全産業全国一律とは申せないのでありまして、州際産業と申しますか、州と州とにまたがっておるような大きな産業につきましては、連邦法をもって最低賃金制実施し、一時間一ドルということになっておりますけれども、各州におきましては、それぞれ別の最低賃金制をその州内の産業についてはとっておりまして、それは、低いものは一時間五十セント、高いものでも七十あるいは八十セントでございます。すなわちここに、アメリカのように中小企業基盤が強固であり、産業構造わが国より非常にすぐれておる国においてさえも、厳格な意味の全産業全国一律という最低賃金制は実行していないのであり、また、これにならってフィリピン実施いたしましたが、フィリピンにおきましては、中小企業は除外をしております。さらに、現在このフィリピン実施せられておりまする最低賃金制が非常な摩擦を生じておりまするので、大統領は再検討を命じておるような状態でございます。この事実をもっていたしまして、社会党案というものに私どもが賛成できないことは、おわかりいただけると存じます。(拍手)  それから、物価及び輸出産業、それから農業その他関連産業についての影響について御質問でございましたが、それは、ただいま総理お答えでもございましたように、私どもは、この最低賃金制実施に伴いまして、よき労働力労働能率とを確保し、さらに、中小企業近代化を促進いたすことが期待せられるのでありまして、これによって輸出産業に大きな悪い影響が与えられるとは考えません。むしろ国際信用を確保することによって、よい影響が及ぶものと考えておる次第であります。農業及び農産物については、農業労働者に、適用労働者が少い実情にもございまするし、実情に即して決定せられて参りまするから、御心配のようなことはないと存じます。  それから二十九年五月に行われました中央賃金審議会答申の取扱いでございますが、これはその当時、現在の労働基準法規定だけでは困難であるということと、それから当時の経済情勢、さらに特殊な四業種だけに限って実施することの困難性等がございまして、これについては検討を加えておった途中でございましたが、このたび中央賃金審議会答申に基いて提出いたしておりまするこの法律案の中に、この答申が吸収されておるわけでございます。  それから本法案労働基準法との関係、なぜ単独法として出したかというお話でございますが、私どもはこの最低賃金制だけでなく、これに関連する最低工賃等規定をも含めまして、単独法として、最低賃金だけについて効果ある立法をする方が正しいと考えたわけでございます。  それからILO条約との関係でありますが、本法案ILO条約の精神、趣旨に沿っておるものと確信をいたしております。従って本法案成立の暁には、すみやかに条約批准を行うつもりであります。  それから家内労働法につきましては、三十三年度からその実情調査に着手をいたしまして、できるだけすみやかに法制定を行いたいと存じておる次第であります。  それから本法案の中の行政官庁の権限が強過ぎるではないかという御質問でございますが、労・使・公益三者で構成される審議会は建議権を持っておるのでありまして、また、この審議会答申を十分尊重する趣旨でございます。同時に各省との連絡は、中央賃金審議会におきまして、最低賃金制答申を行う過程におきましても、十分各省との連絡をとって参りましたが、今後ともこの有効な法の活用をはかりますために、各省との連絡は密にして参りたいと存じております。  それから中小企業に対する啓蒙の問題でありますが、現在なお中小企業経営者、あるいはその団体の中に、本法案に対して疑義をはさみ、あるいは積極的に反対の意思を表示せられる方々もございます。しかし、これは主として本法案の持つ精神、内容等についての知識が、まだ十分でない結果であると存じておりまするので、政府といたしましては、十分、法の趣旨を普及徹底することによって、この法律によって、よき労働力を確保し、労働能率を上げることこそ、中小企業近代化経営の確保になるゆえんであるということを、明らかにして参りたいと考えておる次第であります。(拍手)   〔国務大臣前尾繁三郎君登壇、拍   手〕
  9. 前尾繁三郎

    国務大臣(前尾繁三郎君) 先ほど総理も御答弁のありましたように、今度の最低賃金法につきましては、事業別、職業別、地域別の業界の実情に即した最低賃金制でありまして、しかも最低賃金につきましては、中小の企業支払い能力も考慮に入れる、こういう建前になっておりますので、中小企業に大きな打撃を与えましたり、混乱するというようなことはないと思っております。現に、もうすでに輸出産業につきましては最低賃金制をやっておるところもありますので、その結果を見ましても、かえって賃金にしわ寄せがされるということ歩ありませんので、価格が安定いたしまして、好結果を来たしておるというような状況であります。  しかし、中小企業全般にわたりまして、あくまでこれは振興対策を考えて行かなければなりません。それにつきましては、すでに私からも説明いたしておりますように、三つの事柄に重点を置いて考えておるのでありますが、第一点は組織化の問題であります。先般の臨時国会で御承認を受けました団体法を円滑に施行して行く、この団体法が先行しておるということは、すでに一応の受け入れ態勢ができておると思うのでありまして、この国体を中心としまして、今後の最低賃金制が運用される、かように考えておるのであります。  第二点といたしましては、金融なり税制の面であります。金融につきましては、御承知のように、従来、政府関係金融機関に対しまして、政府資金を直接流して金を貸すという行き方もいたしておりましたが、何としましても根本的には中小企業者の信用力を増すということでなければなりません。今回御承知のように、健来の信用保険を拡充いたしまして、百七億の守小企業信用保険公庫というものを創設いたしました。これによって、本年度おそらく三百五十億くらいの保証限度が拡充されると思いますが、これが零細企業者なり、あるいは中小企業者に最も根本的な金融の問題を解決する糸口になる、かように確信をいたしておるのであります。また、税制につきましては、御承知のように法人税の税率を引き下げております。また、逓減税率の適用範囲を百万円かち二百万円に上げるというような措置もいたしております。事業税につきましては、遺憾ながら見送りましたが、荷車税あるいは自転車税の廃止ということによりまして、零細なる企業者には最も実質的に軽減しておる、こういうような関係になっております。  第三点は、体質の改善というような事柄でありますが、先ほど来お話のありましたように、設備の近代化、それから技術の向上ということでありますが、それにつきましては、今度の予算におきましては、設備の近代化補助金を六億円投入いたしますと、自己資金あるいは府県分を入れまして本年度におきまして四十五億円以上の設備の近代化がやれるわけでありましてまた、技術の向上につきましては、府県の技術の研究所の施設の補助金も本年初めて取りまして、そうして中小企業者の技術の指導に当る、こういうことにいたしておりますので、今後ますます体質の改善というところに重点を置いて、中小企業者最低賃金制に対する受け入れ態勢を作って行きたい、かように考えておるわけであります。(拍手)     —————————————
  10. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 藤田藤太郎君。   〔藤田藤太郎君登壇拍手
  11. 藤田藤太郎

    ○藤田藤太郎君 ただいま議題となりました最低賃金法案に対して日本社会党を代表して質疑を行いたいと思います。  最低賃金法とは、そもそも今日の世界において耳新しいものではないのでありまして、今日の立法はおそきに失すると言っても過言ではないのであります。労働者に対して最低生活を確保するに足る賃金を保障すべきであるという原則は、だれも否定し得ない真理であります。近代社会においては、労働者がその国の生産経済国民生活に重要な役割を持っておることは言を待たないでしょう。そのために、各国が労働者保護政策をとり、また国際的には労働者保護の機関としてILOは大きな意義と功績を立ててきました。四十回の総会を重ねたILOは、人類生活、労働保護の限りない発展をもたらしております。わが日本もその一貫として、戦後再び加入が認められてより、常任理事国としてILOの中心的役割を果す立場に置かれてお冷ます。しかし、いかにILOの活動の中心的役割を果しているとしても、ILOの精神である、いずれかの所における貧困は、世界のあらゆる所における繁栄のじゃまになる、要するに、人類生活の中における貧困苦をなくして行こうとする具体的施策が行われなければ恥かしいことだと思います。百七に及ぶ条約が採択されておりますが、わが国においてはいまだに二十四条約しか批准していないという現状であります。まことに遺憾なことでございます。最低賃金に関するILO条約、勧告は、一九二八年に最低賃金決定制度の創設に関する条約または勧告がきめられ、一九五一年には農業における最低賃金決定制度に関する条約と勧告がきめられ、なお一九五三年には、私もその当時、労働者代表として出席いたしましたが、ILOアジア地域会議が東京において持たれ、その会議においては賃金に関する決議がなされております。いずれも労働者に対し、最低賃金制度を作って、その生活保護を行うべく努力されてきたことを銘記すべきであると思います。一九二八年の最低賃金決定制度に関する条約は、今日三十五カ国がこれを批准いたしております。また、最低賃金制実施いたしております国は、今日四十九九国を数えることかできます。特に注意すべきことは、欧米の先進工業国は申すに及ばずでありますが、アジアにおける戦後独立したインド、ビルマ、セイロンまたはフィリピン、中国というような、経済力が低いと言われておる国ですらも、最低賃金制度実施しているということであります。わが社会党が長い間、最低賃金制度を主張し、これなくしては労働者の生活が守れないと国民に訴えてきたことは申すまでもありません。わが社会党が第二十六国会に出しました最低賃金法案は、全労働者対象として、低賃金所得者全体に一律方式による満十八才八千円、猶予期間として、二年間は満十八才六千円を最低賃金と確定し、最低生活を保障する建前といたしたのであります。これなくしては低賃金所得者全体の生活が守られないからであります。ところが今回提出された政府最低賃金法案は、最低賃金決定四つ方式によるとしております。一つは業者協定によるもの、一つは業者協定による地域的拘束によるもの、三として、労働協定の地域的拡大、四番目に行政官庁決定による最低賃金、こう四つ方式になっておりますが、何といっても、この中心をなすものは、業者間協定に基いて最低賃金を作って行こうという考え方と言わざるを得ないのでございます。  そこで私は、政府に対して、これから数点について質問を行いたいと思います。  質問の第一は、政府社会保障制度に対する考えの中に、慈善や恩恵として国民生活に対処する考え方、要するに、近代社会における生活貧困者に対して恵みを与えて行くという考え方が基礎になっておるのじゃないかという点であります。今日失業や貧困は個人の責任であると言えるでしょうか。生産近代化は、機械化、オートメーション化は、資本家の利益追求を中心にして行われております。首切りが各所に出ています。生産が過ぎるといって操業が短縮され、首切りが重ねられております。国民購買力を高める施策がなく、中小企業零細企業を守る適切な施策がなく、しいたげられた勤労国民が、生存への権利を国家に要求して、生活にあえいでおります。岸総理は、政権担当に当って、貧乏追放を国民に公約されてより今日に至るまで、見るべき具体的政策なく、今次の予算に当っても、国民生活を守る社会保障費は、昨年より比率において後退しているという現実であります。政府機関である厚生省が発表しております厚生白書に結論つけられた一千百十三万人の貧乏ライン層の貧困国民の解消対策をどうするか、増加しつつある失業対策をどう立てて行くか、根本的な対策を承わりたいと思います。  質問の第二点は、思うに、今日最低賛金制の必要、是非を論ずる時代は過ぎて、いかなる方式によって最低賃金決定するかの時代になっていると思います。われわれは国際的視野に立って、これを検討し、よりよい最低賃金法を作らねばならないと思います。しかるに私としては、本日ここで、最低賃金制適用範囲、その額の問題、さらに罰則等に関する論議をする前に、政府案の最低賃金決定方式の誤まゆについて、政府に対し反省を求めなければならないことを深く悲しむものでございます。各国の最低賃金法制を一べつしてみますと、その最低賃金決定方式については、大体四つ方式がとられているのでございます。  第一としては、法定最低賃金方式、一律方式であります。これは法律の条文の中に直接最低賃金率をきめる方式で、アメリカフィリピン、アルゼンチン等が採用いたしております。わが柱会党もこの方式を採用いたしているのでございます。第二の方法としては、賃金委員方式であります。これは普通、同数の労使委員と若干の中立委員とで構成され、職業または産業別賃金委員会できめるものと、その委員会の勧告に基いて政府がきめるものとになってお呼ます。これはイギリス、カナダ、ビルマ、西ドイツ等がこの方式を採用いたしているのでございます。第三番目の方式といたしまして、団体協約の拡張適用方式、この方式については、わが国労働組合法にも類する規定がありまするが、団体協約できめられている最低賃金率を、政府が、協約の当事者以外の同種の産業労使に対しても適用する方式でありまして、フランスとか、スイスとか、ヨーローパで多く用いられております。最後の四番目は、仲裁裁判所方式であります。これは、仲裁裁判所または仲裁委員会などの機関の裁定または決定によって、全国的にまたは職業別に最低賃金をまとめ、これに法的拘束力を持たせて行く方式でございます。オーストラリア、ニュージーランド等でこの方式を採用いたしております。  以上の四つ方式が、現在の世界で支配的な方式でありまして、どこにも業者間協定をもって最低賃金決定方式としているという国があるとは思えないのであります。政府は、業者間協定に基いて、その協定に参加した業者全部の同意申請したものを、形の上では、審議会に諮って最低賃金をきめることにしておりまするが、賃金をきめる出発点において、労働者意見も聞かず賃金をきめる、そうした方法で公正な最低賃金が確保できるとお考えでありましょうか。世界各国のどこでもよい、現在最低賃金実施してやる四十九市国の中で、使用者の自主的にきめた賃金を法的最低賃金としている国が果してあるでしょうか。この点、政府に伺いたいのでございます。(拍手)  質問の第三点は、業者間協定賃金の問題についてであります。業者間協定は、本来賃金に関する不正競争の防止を目的としたものでありまして、これ自体、労働者の生活を保障し、または救済しようとするものではないからであります。ただ、結果的にそうした効果が副次的に出てきているにすぎないのであります。従って、これは最低生活そのものを保障し、確保することを目的とした最低賃金とは、その性質を異にするものと思います。すなわち、業者間協定賃金は、現在行われている製品価格についてのカルテル行為と全く同種のもので、そのカルテルの対象賃金であることにほかならないのであります。従って、こうしたものを最低賃金法の中に取り入れようとすること自体に無理があり、矛盾があると私は思います。それは、中小企業の不当競争防止法等に挿入さるべき性質のものであると思います。このような概念を最低賃金をきめる重要な柱に入れたことは、私として理解に苦しむのであります。さらに、現実の問題として、私が調査したところによりますと、業者間協定締結の動機は、賃金のせり上げを阻止するために、業者間でお互いに競争しては不和だという立場で行われている。このようにして、業者間協定は、低賃金据え置きのためのカルテル行為となっておる。だから、業者間協定打破のために、労働組合が各所で反対しているのが現状であります。この低賃金固定化の方向に行く業者間協定が、果して労働者の生活保護になるかどうか、業者間協定の理念について承わりたいのでございます。  質問の第四点は、ILOとの関係であります。一九二八年最低賃金条約二項二号に、「関係ある使用者及び労働者は、当該国の法令又は規制に依り決められるべき方法及び範囲に於て、尚如何なる場合に於ても同一の員数に依り、且つ同等の条件に於て諸制度の運用にを参加せしむべし」とあります。また、同年きめられました勧告において、「決定せらるべき賃金率の権威を一層大ならしむる為には、関係ある使用者及び労働者が員数又は投票力を等しくする代表者を通じ、共同して賃金決定機関審議及び決定に直接参加する事を一般方策とすべし、如何なる場合に於ても、一方の側が代表を許されるときは他の側は同一の立場に於て代表せられるべし」ときめられております。ILO条約、勧告に対して、業者協定方式違反すると考えないかどうか、お伺いしたい。同時に、最もILOにおける重要な役割を持っておる常任理事国としての日本が、二十六号条約批准するに当って、条約精神から見れば、政府の出している最賛法は、これにそぐわないものと私は考えるが、政府の考えはどうですか。  質問の第五点は、貿易との関連であります。最賃法を持っていない日本に対しては、ソーシャル・ダンピンダの国際的非難が起り、そのチープ・レーバーに対する世界の労働者の抗議がなされております。国際的には、一ドル・ブラウス問題に典型的に示されておる日本の低賃金に対する批判が、現実にはガットに加入しても、ガット条項を援用されて、最恵国待遇を留保する国が十数カ国もいるということは、政府がよく知っているところであります、しかるに、政府がかくのごとき法案を出すということは、政府がいかに最低賃金法ができたと説明しても、実質的内容は、使用者の一方的決定による賃金であり、低賃金が存続しているのだと諸外国認識されるとすれば、ますます不信の念を高め、日本輸出貿易に重大なる影響が生ずると思うが、この点はどうでございますか。  第六問であります。最低賃金決定における手続の問題についてであります。第九条による業者間協定に基く最低賃金の申請の場合においては、使用者全部の合意によることを必要とし、第十一条の労働協約に基く地域最低賃金の申請についても、使用者全部の合意によることを必要としているのであります。さらに、異議の申し立てにおいては、使用者のみに限っているのであります。これらの規定は、労働者の意思を無視し、使用者のみによって最低賃金法の達磨を行わんとする証左であり、現行の労組法の規定より著しく後退し、労働法の精神を没却したものであると言わざるを得ません。もし一人でも合意しない使用者があった場合には、最低賃金の申請は行われず、法律は死文化するではありませんか。なぜ、大部分の合意とせずして、全部の合意と規定したのか、これに対する明確な答弁を伺いたいのであります。  第七間であります。本法案は、第十六条において、労働大臣または労働基準局長は、賃金の低廉な労働者労働条件の改善をはかるため必要ありと認めた場合において、業者間協定に基く最低賃金業者間協定及び労働協約に基く地域最低賃金により、最低賃金決定することが困難または不適当と認めるときは、最低賃金審議会調査審議を求め、その意見を尊重して、最低賃金決定をすることができると規定しております。しかるに、問題は、「必要があると認める場合」という条文であって、これは、労働基準法第二十八条から第三十一条において、すでに十一年前から、低賃金業種、職業について、賃金審議会最低賃金決定することを規定しながら、「行政官庁が必要ありと認めたとき」というごまかし文句のため、労働者の要求が、悲しいかな、合法的にその適用を無視し続けられてきたのであります。この苦い経験よりして、労働者は、最賃法はできても、政府はこの条文の適用はしないし、未組織の低賃金労働者最低賃金は当分できないし、依然として劣悪な労働条件に呻吟せざるを得ないと感ずるでありましょう。この労働者の不信を政府はどう考えるか。  質問第八点であります。最低賃金審議会中央、地方に持たれております。この審議会は、労働大臣または都道府県基準局長の諮問に応じて調査審議し、答申建議することになっておりますが、この建議のみに終って、権限の僅少な審議会であります。これでは、三者構成の意義ある調査審議も、審議会自身の責任と社会的義務を実行することはできません。この点、いかに考えているか。  質問の第九点、次に、賃金格差の問題であります。わが国賃金格差がひどいのは、日本の資本主義の構造的特質に基因し、特に日本の独占資本擁護の政策の結果として生まれてきたものであります。たとえば、下請制一つを取り上げても、中小企業の低賃金を生む要素を持っています。産業構造を変革し、企業近代化をはかり、質的向上をなし、真に賃金格差をなくすためには、全産業にわたる画一的な法定最低賃金が必要であります。労働大臣は、この法案によって賃金格差をなくすると説明しておりまするが、政府の意図とは違ってむしろこの法案が成立することによって賃金格差が拡大すると思うが、政府の考え方はいかがですか。  質問の第十でございます。次に、家内労働者の問題についてであります。わが国の基準法は、雇用関係にある労働者対象とするものでありまして、商社、工場または問屋等の業者から委託を受け、その物の製造等を自宅で行う家内労働者は、労働保護法はもちろん、社会保険立法の恩恵の外にあって、非常に劣悪なる賃金と、衛生上きわめて不良なる作業環境で働いているのであります。社会の最下層に働いている労働者をこのまま放置することは、全く社会的問題であります。これが解決は緊急なりと考える次第でございます。政府は、この法案では最低賃金適用業種に関連するわずかの家内労働者のみを考えていることになります。その他の家内労働者には、生活を守るという規定がない。本来、最低賃金法家内労働法とは並行して立法化し、全労働者、全家内労働者を救済することでなければ、労働者は救われないのであります。諸外国では、この問題は非常に重要な問題として取り上げ、最低賃金と同等に、もしくは場所代等で高目な工賃できめられておると思います。家内労働者の生活保障の問題は、政府はどう考えておりますか。  最後に、この法律案は全産業一律方式の否定であります。さきに出された中央賃金審議会答申においても、「最低賃金制は全産業一律方式が好ましいが」と認めながら、なぜ結果的にそれを放棄したか、疑問でならないのであります。日本のごとく、あらゆる産業内部において、必ずごく低い賃金労働者が含まれている現実では、ぜひとも全産業的一律方式最低賃金が必要になるのであります。本法案のごとき最低賃金法を設けるならば、全労働者の生活を保障しようとする法の本来の目的を達することができず、この労働者の貧困の状態は、いつの日に解放することができるでありましょうか。  以上の諸点に対する明確なる答弁を要求し、私の質問を終ります。(拍手)   〔国務大臣岸信介登壇拍手
  12. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は、御質問中総括的な点につきましてお答えを申し上げまして、具体的の問題につきましては、労働大臣よりお答え変ることにいたしたいと思います。  本法のいわゆる最低賃金制度と、他の一般社会政策との関連に関しての御質問でありましたが、言うまでもなく、この最低賃金制の主たる目的は、その労働条件を改善、向上して、そうしてその所得を高め、労働者の生活を安定せしむるというところにある。それが労働政策的であり、あるいはまた社会政策的であるということもできるかとも思いますが、一面、同時に、これが日本の、先ほどもお答え申し上げましたように、弱体の状況にある中小企業というものを、むしろその基礎を安定し、その内容を改善して行く上において役立つという意味から申せば、経済政策的とも申し上げることができると思います。言うまでもなく、われわれは福祉国家を目ざして、国民全体が健全で、かつ文化的な生活のできるように、いわゆる広い意味における社会保障制度と申しますか、社会政策と申しますか、そういうことを行なって行かなきゃならぬことは言うを待ちません。しかし、結局国民がそういうふうに福祉的な生活が送れるということのためには、一面において経済そのものの基盤を強化し、拡大し、その繁栄を期して、就職の機会を多くし、失業者をなくして行くという政策をとって行かなければならぬことは言うを待ちませんが、同時に、あるいは国民の健康を保障する意味において、社会保険の健康保険を国民全体に普及する、また、国民年金の制度を樹立するということを、社会保障制度におきまして最も重要に考えて行かなければならぬと思います。また、われわれが失業者をなくすると言いますけれども、失業者があるのに対しては、失業対策を行なって行かなければならぬことは言うを待ちません。同時に、就職しておる労働者労働条件を改善、向上して行くということは、これは福祉国家を目的とするわれわれとしては当然考えなければならぬことでありまして、その一環としてこの最低賃金法が考えられた、かように御了解願いたいと思います。(拍手)   〔国務大臣石田博英登壇拍手
  13. 石田博英

    国務大臣石田博英君) 現在、世界に行われている最低賃金決定方式の中に、業者間協定を基礎としたものは例を見ないじゃないかという御議論でございますが、ILOの決議でも、最低賃金決定方式は、各国の自主性にまかせられているところでございまするし、それから一九三三年にアメリカ産業復興法が制定されましたときに、業者の団体が最低賃金を含む決議をして、それを政府提出し、大統領の認証を得た場合は、法的拘束力を持つことになっております。これも業者間協定の例と言えるだろうと思うのであります。  それから業者間協定は、本来、最低賃金法と相いれないものだ、むしろ不当競争防止法に入れるべきものじゃないかというようなことに関連をいたしました一連のことにお答えをいたします。今の御質問は、本法は、業者間協定だけを中心にしているかのごときお話でございましたが、しかし、そのほかに、ただいま藤田さん御指摘の賃金委員会の方式、あるいは団体協約の拡張適用方式、あるいは行政機関決定する法的な法定方式、権限によって決定する方式、そういうようなものはみんな含んでいるのでありまして、このいろいろの方法が相補って、この効果を上げて行こうとしているのであります。  それから、これは結局、最低賃金がチープ・レーバーをむしろ約束する結果にならないか、こういう御意見でありますが、政府は昨年以来、各県に対しまして、各地方で業者間協定を促進して参りました。その実績を申し上げますると、今まででき上ったものが二十件ばかりございます。それからなお進行中のものが四十件ほどありますが、そのでき上りました二十件は、すべて平均いたしまして一割から二割、賃金の上昇を現実に来たしているわけであります。  それから、三者構成の原則を掲げているILO条約の精神に違反しないかということでございますが、すべて最低賃金決定方式が、労・使・公益三者によって構成される最低賃金審議会答申を得て、これを尊重して行うことになっておりまするから、条約の精神に違反をしないばかりでなく、私はこの法律が御審議、成立をみましたら、さっそくILO条約批准を行うべきものだと考えておる次第であります。  それから、最低賃金法の、今申しました四つ決定方式に関連をして、最低賃金実施について、どういう考えを持っておるかという御意見でございます。これは、この四つ方式を相互に相補わしめて実施させることによって、最低賃金制度を漸次拡大し、あるいはそれらの適用を受ける労働者諸君の生活の向上をはかって参る所存であります。  次に、貿易との関連でございます。この程度の最低賃金制を作ったのでは、ソーシャル・ダンピングという非難を免れないのじゃないか、こういう御意見でございますが、私はそうは思いません。  それから労働協約地域的拘束の問題について、労組法十八条との関連の御質問でございました。これは労組法の十八条は、賃金だけじゃなく、労働協約一般をも含んでおるものでございます。従って、最低賃金の問題につきましては、審議会意見を聞くことにいたした次第であります。  それから、労働者の要求は、賃金格差の合理的是正であり、これは逆に格差を拡大するものではないかという御意見でございますが、私はこの最低賃金格差を、できるだけ縮小して行く方向に持って行くための下からのささえの役割を十分果して行けるものであり、また、そうしなければならないものと考えておる次第であります。  それから次に、異議申し立てが労働者側からできないのは、どういうわけかという御意見であります。この異議申し立てが、どういう場合になされるかと申しますると、業者間協定、あるいは労使協定の拡張適用が行われまする場合におきまして、いわゆるアウトサイダー的存在の人々に、これが適用されて行くという場合に起る問題でございます。このアウトサイダーの立場におる人は、協定や、あるいは協約を結んでおる業者よりも、はるかに低い経営規模の人と考えなければならないのでありまして、しかも、これが罰則その他が適用されて行くことでございますから、そういう人たちに異議申し立ての機会を与えたのであります。この適用を受けまする場合の労働者諸君は、今までより高い待遇を与えられるわけでありますから、そこで恩恵と申しますと語弊がありますが、つまり、利益を得られる立場にあるわけでありますから、この拡張適用で、当該労働者から異議の申し立てがあるわけがない、こういうわけでございます。  それから、最低賃金審議会についての問題点を、いろいろおっしゃいましたが、これは決して、いわゆる諮問機関にほおっておくわけではないのでありまして、建議権を与えております。その答申を尊重する建前をとっておりまするから、十分その成果をおさめ得るものと考えておる次第であります。  家内労働者の問題につきましては、先ほどお答えを申し上げました通りでございます。  それから、全産業一律が労働者諸君の希望であり、また、中央賃金審議会におきましても、それを理想とする旨の論旨があったにかかわらず、本法案にそれが盛られていないのはどういうわけか。私ども全国産業一律の最低賃金制というものが実施可能なような経済条件を作り、その経済条件のもとで、それが行われることが理想であるという点においでは、異議を差しはさみません。しかし、ILOの決議、あるいは勧告に盛られておりまするように、最低賃金決定は、まず労働者諸君の生計費、次には、同一地域における同種産業労働者諸君の賃金というようなことが、最低賃金決定の基礎となっております。わが国におきましては、地域によって生計費が異っておることは、皆様御承知の通りでありまするし、全国一律の最低賃金制を主張している総評傘下の官公吏の諸君におきましても、地域給を現在受けておられることは、これは明確に、各地域における生計費の差があるということをお認めになっていることだろうと私は思うのであります。  それから、同種の産業賃金というものを参考にしなければならないというILOの勧告は、やはり産業別経済力の差ということを認めていることだと思うのでありまして、私ども日本経済だけで話すのではなく、世界的、国際的水準から申しましても、現在のような地域的、あるいは産業別職種別に現実的な施策実施することが、理想に一歩近づいて行くゆえんだと思っております。しばしば繰り返しておりますように、結局は、急がば回れでありまして、一挙に目的を達成しようとすることは、かえって理想べの道をはばむものであると私は確信をいたしている次第であります。(拍手)   〔国務大臣前尾繁三郎君登壇拍手
  14. 前尾繁三郎

    国務大臣(前尾繁三郎君) 私に対する質問は、この法案は貿易上ソーシャル・ダンピングの非難を解消し得るかどうかという御質問だと思います。この法案は、日本特殊性を加味いたしておりまして、国際水準に遜色のない最低賃金制だと思います。この運用を円滑にやって行きまして、ソーシャル・ダンピングの非難を解消したい、かように考えている次第であります。(拍手)     —————————————
  15. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 豊田雅孝君。   〔豊田雅孝君登壇拍手
  16. 豊田雅孝

    ○豊田雅孝君 私は緑風会を代表いたしまして先ほど提案されました最低労働賃金法案に対し、岸総理を初め関係大臣質問いたします。  わが国商工業の経営単位は、約三百万でありまするが、そのうち九九%以上が中心企業でありまして、しかも、その大部分が従業員数四人以下の零細企業であります。しかも、その中小企業、特に零細企業はあまりにも資本力が弱いために、絶えず金融難と高い金利に悩まされ、さらに、税の過重負担にあえぎ、常に深刻な経営難に直面しているのであります。これがために、いや応なく大企業との間に大きな賃金格差を生じ、ここにわが国産業が二重構造だと言われるゆえんがあるのであります。しかしながら、これはわが国のやむにやまれぬ特殊事情であり、宿命でありまして、欧米諸国とは全然本質を異にするところの重大な産業問題であり、また、社会問題であります。  かような状態でありまするから、最低賃金制も、大企業にはすでに実施基盤が十分にできておりまするが、従来行われておりました業者間協定による最低賃金でも、必ず一割五分ないし二割の賃金引き上げを見ておる事実にかんがみまして、中小企業、特に零細企業には吸収力が弱く、最低賃金制をこのままでどんどん実施いたしまするならば、中小企業、特に零細企業には競争力がなくなってしまうというのが真相であります。従って最低賃金制実施には、徹底した中小企業対策零細企業対策を先行させるということが絶対に必要だということは、ひとり中小企業界のみならず、今日一般の世論であります。  しかるに、これらの小企業零細企業に、これから具体的に申し述べまするような、何ら特別の準備もなくて、しかも、デフレ政策の強行下において、最低賃金制を独走させますることは、きわめて危険なことでありまして、これらの事業の中には、支払い能力の不足等のために、閉鎖の運命に立ち至るものが出てくるでありましょう。その結果は、一種の企業整備を招来いたしまして労働者にも使用者にもマイナスになるというおそれが多分にあると思われるのでありまするか、これに対しまして、総理のまず御所見を伺いたいと考えるのであります。  かような懸念がありまするからこそ、中央賃金審議会答申にさえも、金融、税制等、各般の中小企業対策を強力に推進することが必要であると強調しておるのであります。しかるに、三十三年度の予算案その他を、つぶさに検討してみまするのに、何らの画期的対策が講ぜられておりません。これを具体的に立証いたしますれば、中小企業者の過重負担となっております事業税にいたしましても、また、物品税にいたしましても、撤廃どころか、軽減さえも見送られておるのであります。また、金融面におきましては、中小企業金融公庫、国民金融公庫、商工中金、いずれも政府資金の導入は、増額どころか、三十二年度の実績よりもはるかに減額されておるのであります。あるいは答弁としては、中小企業信用保険公庫の新設などを言われるかもしれませんが、出資金の大部分はたな上げ資金になっておるのでありまして、直接活用ができない仕組みになっており、実質的には旧態依然たるものであります。さらに、大企業の過当進出を調整するための中小企業振興助成法案さえも提出せられておりません。これでは、中小企業対策は、一時に比べてかえって後退しておると断ぜざるを得ないのであります。しかもこの際、最低賃金制実施せんとしているのでありますが、一体これでよいのがどうか、これらの点については、通産、大蔵両大臣に具体的に見解を伺いたいと思います。  また、労働大臣は、先ほど中央賃金審議会答申を全面的に尊重したと言っておられましたが、それは法案内容については答申を尊重しているかもしれませんが、最低賃金制実施の前提となる基本的要件であるところの中小企業対策の強力な推進については、何ら尊重しておらないと思われるのでありますが、中小企業対策としては、一体どの点をもって審議会答申を尊重していると言われるのでありますか。あるいは将来考慮すると答弁せられるかもしれませんが、それではあとの祭になるおそれがあるのであります。この点について、労働大臣はいかに考えておられるか、その所見を伺いたいのであります。  次には、法案自体の問題につきまして、労働大臣質問いたします。第一点、行政官庁は、第十六条によりまして業者間協定労働協約を基調といたしまして「最低賃金決定することが困難又は不適当と認め」たときは、最低賃金審議会調査審議を求めて、最低賃金決定できることになっておりますが、いかなる事態をもって最低賃金決定することが困難と見るかが問題でありますが、ことに、最低賃金決定することが不適当という観念は、きわめてあいまいでありまして行政官庁が行き過ぎになるおそれが多分にあります。不適当とはいかなる場合を言うのか、また、第十六条の規定は当分発動しないとも言われているようでありますが、果してそうなのか、これらについての運用の基本方針を明らかにせられたいと考えるのであります。また、同様な意味におきまして、第二十条には、行政官庁が必要があると認めさえすれば、審議会を開いて、家内労働最低工賃決定し得るようになっておりますが、これもまた行政官庁中心主義になり、行き過ぎになるおそれが多分にあると思われまするので、これに対する運用方針を明らかにせられたいと考えるのであります。  第二点、第十条の業者間協定による地域最低賃金決定する場合と、第十一条の労働協約による地域最低賃金決定する場合には、新たに適用を受ける使用者に異議申し出の道を認めておりますが、第十六条によりまして、行政官庁最低賃金決定するいわゆる職権決定の場合には、異議申し出の道を認めておらないのであります。これでは、いかなる特殊の事情がある場合におきましても、最低賃金実施について猶予期間も設けられないし、また、別段の定めもできないようになっているのであります。これは、業者周協定や労働協約によって地域最低賃金決定する場合に比べまして、はなはだ不均衡であり、不当だと考えるのであります。あるいは、最低賃金審議会調査審議に基いて決定するのだからという御答弁があるかもしれないのでありますが、業者間協定労働協約を基本にして決定する場合でも、最低賃金審議会に諮って決定するようになっておるのであります。それでもなお異議の申し出は認めておるのであります。それにもかかわらず、最も問題になります行政官庁最低賃金決定する職権決定の場合には、異議申し出の道を認めておらないのは、不均衡であり、不当であり、はなはだ民主的でないと考えるのであります。ことに第二十条によりまして、家内労働者について行政官庁最低工賃決定する場合にも、異議の申し出ができないことになっておりますが、家内工業には最も特殊事情が多いのであります。また、実態把握のできないのが家内工業の特徴とさえ言われるのでありますから、かような家内工業にこそ、異議申し出の道を聞いておくのが、当然かつ必要だと考えるのでありますが、これらの点につきまして、労働大臣の所見を伺いたいと考えるのであります。  以上で私の質問を終ります。(拍手)    〔国務大臣岸信介登壇
  17. 岸信介

    国務大臣岸信介君) お答えいたします。  最低賃金制を施行するためには、各種中小企業対策が強力に先行しなければいかぬじゃないかという御意見であり、御心配でございます。先ほどもお答えを申し上げましたように、日本中小企業実態から見まするというと、基礎的に弱い点がたくさんあり、また、今御指摘になりましたように、非常に零細企業がたくさんありますので、これに対する中小企業対策としては、やはり基礎は、これを組織化して行くということがまず考えられなければならない。いろいろ金融の問題、あるいは設備改善の問題、経営の改善というような問題につきましても、どうしても零細企業が非常にたくさんあるのに対しては、やはり組合、その他の組織の力によって、また、共同の力によってやって行くことが必要なことは、豊田議員もよく御承知の通りであります。まだ、団体法が施行されましても、十分の効果を上げているわけではございませんけれども、従来ありますところの協同組合、その他によって、組織化というものは相当進んでおる。また、税制の面から考えなければならぬ点が多々あると思います。事業税の点につきましても御意見がありましたが、今回の法人税の軽減につきましても、中小企業の小さい方に対しては特に意を用いておりますし、あるいは自転車税や荷車税等の問題につきましても、特別に中小企業零細企業に最もその利益が及ぶことも御承知の通りであります。さらに金融の面におきましても、十分ではございませんけれども各種制度、新しい制度を作りましてこれらを十分推進するつもりでおりますし、また、いろいろな技術の点、設備の点の改善も行なって行きたいと思います。  ただ、これが先行して、そうしてやったらいいじゃないかという問題につきましては、私は、現在の状況から見まするというと、むしろ、いろいろな各種の点からいって、並行して行って差しつかえない。特にこの制度が施行せられて、その運営に誤まりがなかったならば、中小企業の、零細企業の間における劣悪な労働条件や、あるいはその労働者の質というものも漸次改善をされ、能率も上り、事業も安定し、過当の競争もなくなるということが、むしろ中小企業対策としても効果のあることでありまして、私は、これを現在制定し、施行することは決して尚早でもないし、それによって非常な混乱を生ずるようなことはないと、こう考えております。(拍手)   〔国務大臣石田博英登壇拍手
  18. 石田博英

    国務大臣石田博英君) 中央賃金審議会答申の中に、中小企業経営基盤強化の措置を講ずることが必要であるということがあったのに、それを一体どう措置したかという御質問でございますが、政府は、三十三年度の予算案を編成するに当りましても、先ほど総理の御答弁にありましたような種々の措置を、でき得る限り講じておるつもりでございます。ただ、私は特にこの際申し上げておきたいと思いますことは、私どもの立場から申しますと、およそ人を使って事業を営む者は、その使っておる人に対して、生活し得る条件を与える当然の義務があるという前提に立って、私どもはこの法律を作っておるということでございます。  それから法十六条、職権決定の条項の実施をどうするつもりかということでありますが、この実施の時期につきましては、中央賃金審議会答申にもあります通りに、さらにこの中央賃金審議会において御検討を願うこととなっておるわけであります。この十六条の場合において、異議申し立てを認めていないのはどういうわけか、また、その中に不適当な場合という文句の「不適当」ということは、どういうことであるかという御質問でありますが、「困難又は不適当」ということは、労使の協定の拡張適用、あるいは業者間協定の拡張適用というようなこと、あるいは業者間協定それ自身が困難であり、一方においてその地域、その産業労働条件が、はなはだしく劣悪であるという場合をさしておるわけでございます。従って、そういう場合に行われる職権決定でありますから、この場合に異議の申し立てを認めまするというと、いつまでたっても、ものがきまらないということになります。きまらないから職権決定を行うことにするのに、その職権決定にまた異議の申し立てを認めまするというと、いよいよきまらないことになるわけでございます。しかし、その場合におきましては、三者構成による最低賃金審議会意見を十分尊重するばかりでなく、その中に専門部会を設けまして、そうして当該の中小企業経営者、あるいはその労働者諸君を、この専門部会に御参加を願って、そうして慎重に審議をいたして参るつもりでございます。  それから、法十六条及び二十条の運営について、あらためて御質問がございましたが、これは先ほど申しましたように、十六条は中央賃金審議会において、その実施時期等について、さらに御検討を願うわけでございます。  これらの法案を通じまして、現実に、そして漸進的に最低賃金制の拡充に努め、もって非常に困難な低い労働条件にある労働者諸君の生活の向上をはかりたいと考えておるわけでございます。(拍手)   〔国務大臣前尾繁三郎君登壇、拍   手〕
  19. 前尾繁三郎

    国務大臣(前尾繁三郎君) 中小企業対策につきましては、先ほど来説明いたしておりまするように、税におきましては、事業税は、遺憾ながら、これは地方団体の関係におきまして見送ったのでありまするが、法人税、それから自転車税、荷車税の廃止というようなことをいたしておりますことは、もう御説明した通りであります。  また、金融につきましても、これは回収の面をお考え願わなければならないのでありまして、来年度の運用額は本年度の運用額よりも、中小企業金融公庫につきましては二十二億でありますから、国民金融公庫につきましては七十五億、また、商工中金につきましては三百三十億ふえる、こういうことになっておりますほか、御承知のように、弾力条項を設けまして、出資額の五割までは大蔵大臣の認めるところによりましてふやし得る、こういうようなことで、従来よりは、また本年度よりは十分多くの貸付ができる、こういう態勢になっておるわけであります。また、信用保険公庫につきましては六十五億、まあ、たな上げということになっておりますが、御承知のように、地方に貸し出す分が二十億あります。これは保証限度の拡張に役立つのでありまするし、また、六十五億のたな上げではないのでありまして、これは全く利息が運用されて、そして保険料を引き下げる、ただいま従来の保険につきまして、いろいろ非難のあります点は、保険料が高い、保証料が高いというところにありますので、それを引き下げるという二つの役目を果しておるわけであります。また、将来につきましては確固たる基盤ができると、かように確信をいたしておるのであります。  また、中小企業者に対しまして、体質の改善につきまして画期的なやり方をやっておりますことは、先ほど御説明申し上げました通りでありまして、中小企業対策は私は飛躍的に進んだ、かように考えておるのでありまして、決して後退したというようなものでは絶対ないと、かように考えております。(拍手)   〔国務大臣一萬田尚登君登壇拍手
  20. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 最低賃金制実施の暁におきまして、中小企業者が経費その他いろいろと負担が増加するであろう、こういうことも十分想定されるのであります。従いまして、通産大臣労働大臣等とも十分御相談を申し上げまして、財政金融について遺憾なき措置をとっておるつもりでおります。それらの詳細につきましては、今、通産大臣から詳しく御説明申し上げましたので、私、これを省略いたしますが、今後一そう遺憾なきことを期するつもりでおります。(拍手
  21. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) これにて質疑の通告者の発言は、全部終了いたしました。質疑は、終了したものと認めます。      —————・—————
  22. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 日程第二、遺失物法等の一部を改正する法律案内閣提出)を議題といたします。  まず、委員長の報告を求めます。地方行政委員長小林武治君。   〔小林武治君登壇拍手
  23. 小林武治

    ○小林武治君 ただいま議題となりました遺失物法等の一部を改正する法律案について、委員会における審査の経過並びに結果を御報告いたします。  本法案は、遺失物の処理の実情にかんがみ、この際、実情に即するように、遺失物法、その他関係法律の一部を改正せんとするものであります。  改正内容のおもな点を申しますと、遺失主の判明すべきものの大部分は、公告後三カ月内に判明している実情にかんがみ、拾得者が遺失物の所有権を取得できるのは、現行規定上、公告後一年内に所有者がわからない場合となっているのを、六カ月内に短縮したこと。  管守者のある船車建築物等において他人の物件を拾得した者は、現行法上、拾得者としての権利が認められず、その船車建築物等の占有者が拾得者としての権利を取得する建前になっておるが、これは社会常識にも合致しないので、かかる場合は、現実の拾得者に拾得者としての権利を付与し、占有者が拾得物に関する権利を取得するのは、現実の拾得者がその権利を放棄した場合等に限ること。  船車建築物等の占有者で、拾得物の保管能力があると認められる特定の法人は、当該船車建築物等において物件を拾得した者から物件の交付を受けた場合には、警察署長に届け出た後、当該物件をみずから保管すべきこととしたこと。  その他法令の規定により、私に所有、所持することを禁じた物件の帰属関係規定、保管物件の廃棄に関する規定等を整備すること等であります。  地方行政委員会におきましては、正力国務大臣より提案理由説明を聞いた後、政府委員との間に質疑応答を重ね、特に、二月十三日には法務委員会と連合審査会を開く等、慎重審査を行いましたが、その詳細については会議録によってごらんを願いたいと存じます。  二月二十日、質疑を終了し、討論に入りましたが、別段の発言もなく、採決の結果、本法案は、全会一致をもって原案通り可決すべきものと決定した次第であります。  以上、御報告申し上げます。
  24. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 別に御発言もなければ、これより本案の採決をいたします。  本案全部を問題に供します。本案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  25. 松野鶴平

    議長松野鶴平君) 総員起立と認めます。よって本案は、全会一致をもって可決せられました。  本日の議事日程は、これにて終了いたしました。次会の議事日程は、決定次第、公報をもって御通知いたします。  本日は、これにて散会いたします。    午後零時四分散会      —————・————— ○本日の会議に付した案件  一、日程第一 最低賃金法案(趣   旨説明)  一、日程第二遺失物法等の一部   を改正する法律案      —————・—————