○藤田藤太郎君 ただいま議題となりました
最低賃金法案に対して
日本社会党を代表して質疑を行いたいと思います。
最低賃金法とは、そもそも今日の世界において耳新しいものではないのでありまして、今日の
立法はおそきに失すると言っても過言ではないのであります。
労働者に対して最低生活を確保するに足る
賃金を保障すべきであるという原則は、だれも否定し得ない真理であります。近代社会においては、
労働者がその国の
生産、
経済、
国民生活に重要な役割を持っておることは言を待たないでしょう。そのために、各国が
労働者保護
政策をとり、また国際的には
労働者保護の
機関として
ILOは大きな
意義と功績を立ててきました。四十回の総会を重ねた
ILOは、人類生活、
労働保護の限りない
発展をもたらしております。わが
日本もその一貫として、戦後再び加入が認められてより、
常任理事国として
ILOの中心的役割を果す立場に置かれてお冷ます。しかし、いかに
ILOの活動の中心的役割を果しているとしても、
ILOの精神である、いずれかの所における貧困は、世界のあらゆる所における繁栄のじゃまになる、要するに、人類生活の中における貧困苦をなくして行こうとする具体的
施策が行われなければ恥かしいことだと思います。百七に及ぶ
条約が採択されておりますが、
わが国においてはいまだに二十四
条約しか
批准していないという
現状であります。まことに遺憾なことでございます。
最低賃金に関する
ILOの
条約、勧告は、一九二八年に
最低賃金決定制度の創設に関する
条約または勧告がきめられ、一九五一年には
農業における
最低賃金決定制度に関する
条約と勧告がきめられ、なお一九五三年には、私もその当時、
労働者代表として出席いたしましたが、
ILOアジア
地域会議が東京において持たれ、その会議においては
賃金に関する決議がなされております。いずれも
労働者に対し、
最低賃金制度を作って、その生活保護を行うべく努力されてきたことを銘記すべきであると思います。一九二八年の
最低賃金決定制度に関する
条約は、今日三十五カ国がこれを
批准いたしております。また、
最低賃金制を
実施いたしております国は、今日四十九九国を数えることかできます。特に注意すべきことは、欧米の先進工業国は申すに及ばずでありますが、アジアにおける戦後独立したインド、ビルマ、セイロンまたは
フィリピン、中国というような、
経済力が低いと言われておる国ですらも、
最低賃金制度を
実施しているということであります。わが
社会党が長い間、
最低賃金制度を主張し、これなくしては
労働者の生活が守れないと
国民に訴えてきたことは申すまでもありません。わが
社会党が第二十六
国会に出しました
最低賃金法案は、全
労働者を
対象として、低
賃金所得者全体に一律
方式による満十八才八千円、猶予期間として、二年間は満十八才六千円を
最低賃金と確定し、最低生活を保障する建前といたしたのであります。これなくしては低
賃金所得者全体の生活が守られないからであります。ところが今回
提出された
政府の
最低賃金法案は、
最低賃金決定を
四つの
方式によるとしております。一つは業者協定によるもの、一つは業者協定による
地域的拘束によるもの、三として、
労働協定の
地域的拡大、四番目に
行政官庁の
決定による
最低賃金、こう
四つの
方式になっておりますが、何といっても、この中心をなすものは、
業者間協定に基いて
最低賃金を作って行こうという考え方と言わざるを得ないのでございます。
そこで私は、
政府に対して、これから数点について
質問を行いたいと思います。
質問の第一は、
政府社会保障
制度に対する考えの中に、慈善や恩恵として
国民生活に対処する考え方、要するに、近代社会における生活貧困者に対して恵みを与えて行くという考え方が基礎になっておるのじゃないかという点であります。今日失業や貧困は個人の責任であると言えるでしょうか。
生産の
近代化は、機械化、オートメーション化は、資本家の利益追求を中心にして行われております。首切りが各所に出ています。
生産が過ぎるといって操業が短縮され、首切りが重ねられております。
国民購買力を高める
施策がなく、
中小企業、
零細企業を守る適切な
施策がなく、しいたげられた勤労
国民が、生存への権利を国家に要求して、生活にあえいでおります。
岸総理は、政権担当に当って、貧乏追放を
国民に公約されてより今日に至るまで、見るべき具体的
政策なく、今次の予算に当っても、
国民生活を守る社会保障費は、昨年より比率において後退しているという現実であります。
政府の
機関である厚生省が発表しております厚生白書に結論つけられた一千百十三万人の貧乏ライン層の貧困
国民の解消
対策をどうするか、増加しつつある失業
対策をどう立てて行くか、根本的な
対策を承わりたいと思います。
質問の第二点は、思うに、今日最低賛金制の必要、是非を論ずる時代は過ぎて、いかなる
方式によって
最低賃金を
決定するかの時代になっていると思います。われわれは
国際的視野に立って、これを
検討し、よりよい
最低賃金法を作らねばならないと思います。しかるに私としては、本日ここで、
最低賃金制の
適用範囲、その額の問題、さらに
罰則等に関する論議をする前に、
政府案の
最低賃金の
決定方式の誤まゆについて、
政府に対し反省を求めなければならないことを深く悲しむものでございます。各国の
最低賃金法制を一べつしてみますと、その
最低賃金の
決定方式については、大体
四つの
方式がとられているのでございます。
第一としては、法定
最低賃金方式、一律
方式であります。これは法律の条文の中に直接
最低賃金率をきめる
方式で、
アメリカ、
フィリピン、アルゼンチン等が採用いたしております。わが柱会党もこの
方式を採用いたしているのでございます。第二の方法としては、
賃金委員会
方式であります。これは普通、同数の
労使委員と若干の中立
委員とで構成され、職業または
産業別の
賃金委員会できめるものと、その
委員会の勧告に基いて
政府がきめるものとになってお呼ます。これはイギリス、カナダ、ビルマ、西ドイツ等がこの
方式を採用いたしているのでございます。第三番目の
方式といたしまして、団体協約の拡張
適用方式、この
方式については、
わが国の
労働組合法にも類する
規定がありまするが、団体協約できめられている
最低賃金率を、
政府が、協約の
当事者以外の同種の
産業の
労使に対しても
適用する
方式でありまして、フランスとか、スイスとか、ヨーローパで多く用いられております。最後の四番目は、仲裁裁判所
方式であります。これは、仲裁裁判所または仲裁
委員会などの
機関の裁定または
決定によって、
全国的にまたは職業別に
最低賃金をまとめ、これに法的拘束力を持たせて行く
方式でございます。オーストラリア、ニュージーランド等でこの
方式を採用いたしております。
以上の
四つの
方式が、現在の世界で支配的な
方式でありまして、どこにも
業者間協定をもって
最低賃金の
決定方式としているという国があるとは思えないのであります。
政府は、
業者間協定に基いて、その協定に参加した業者全部の同意申請したものを、形の上では、
審議会に諮って
最低賃金をきめることにしておりまするが、
賃金をきめる出発点において、
労働者の
意見も聞かず
賃金をきめる、そうした方法で公正な
最低賃金が確保できるとお考えでありましょうか。
世界各国のどこでもよい、現在
最低賃金を
実施してやる四十九市国の中で、使用者の自主的にきめた
賃金を法的
最低賃金としている国が果してあるでしょうか。この点、
政府に伺いたいのでございます。(
拍手)
質問の第三点は、
業者間協定賃金の問題についてであります。
業者間協定は、本来
賃金に関する不正競争の防止を目的としたものでありまして、これ自体、
労働者の生活を保障し、または救済しようとするものではないからであります。ただ、結果的にそうした効果が副次的に出てきているにすぎないのであります。従って、これは最低生活そのものを保障し、確保することを目的とした
最低賃金とは、その性質を異にするものと思います。すなわち、
業者間協定賃金は、現在行われている製品
価格についてのカルテル行為と全く同種のもので、そのカルテルの
対象が
賃金であることにほかならないのであります。従って、こうしたものを
最低賃金法の中に取り入れようとすること自体に無理があり、矛盾があると私は思います。それは、
中小企業の不当競争防止法等に挿入さるべき性質のものであると思います。このような概念を
最低賃金をきめる重要な柱に入れたことは、私として理解に苦しむのであります。さらに、現実の問題として、私が
調査したところによりますと、
業者間協定締結の動機は、
賃金のせり上げを阻止するために、業者間でお互いに競争しては不和だという立場で行われている。このようにして、
業者間協定は、低
賃金据え置きのためのカルテル行為となっておる。だから、
業者間協定打破のために、
労働組合が各所で反対しているのが
現状であります。この低
賃金固定化の方向に行く
業者間協定が、果して
労働者の生活保護になるかどうか、
業者間協定の理念について承わりたいのでございます。
質問の第四点は、
ILOとの
関係であります。一九二八年
最低賃金条約二項二号に、「
関係ある使用者及び
労働者は、当該国の法令又は規制に依り決められるべき方法及び範囲に於て、尚如何なる場合に於ても同一の員数に依り、且つ同等の
条件に於て諸
制度の運用にを参加せしむべし」とあります。また、同年きめられました勧告において、「
決定せらるべき
賃金率の権威を一層大ならしむる為には、
関係ある使用者及び
労働者が員数又は投票力を等しくする代表者を通じ、共同して
賃金決定機関の
審議及び
決定に直接参加する事を
一般方策とすべし、如何なる場合に於ても、一方の側が代表を許されるときは他の側は同一の立場に於て代表せられるべし」ときめられております。
ILO条約、勧告に対して、業者協定
方式は
違反すると考えないかどうか、お伺いしたい。同時に、最も
ILOにおける重要な役割を持っておる
常任理事国としての
日本が、二十六号
条約を
批准するに当って、
条約精神から見れば、
政府の出している最賛法は、これにそぐわないものと私は考えるが、
政府の考えはどうですか。
質問の第五点は、貿易との関連であります。最賃法を持っていない
日本に対しては、ソーシャル・ダンピンダの国際的非難が起り、そのチープ・レーバーに対する世界の
労働者の抗議がなされております。国際的には、一ドル・ブラウス問題に典型的に示されておる
日本の低
賃金に対する批判が、現実にはガットに加入しても、ガット条項を援用されて、最恵国待遇を留保する国が十数カ国もいるということは、
政府がよく知っているところであります、しかるに、
政府がかくのごとき
法案を出すということは、
政府がいかに
最低賃金法ができたと
説明しても、実質的
内容は、使用者の一方的
決定による
賃金であり、低
賃金が存続しているのだと諸
外国に
認識されるとすれば、ますます不信の念を高め、
日本の
輸出貿易に重大なる
影響が生ずると思うが、この点はどうでございますか。
第六問であります。
最低賃金の
決定における手続の問題についてであります。第九条による
業者間協定に基く
最低賃金の申請の場合においては、使用者全部の合意によることを必要とし、第十一条の
労働協約に基く
地域的
最低賃金の申請についても、使用者全部の合意によることを必要としているのであります。さらに、異議の申し立てにおいては、使用者のみに限っているのであります。これらの
規定は、
労働者の意思を無視し、使用者のみによって
最低賃金法の達磨を行わんとする証左であり、現行の労組法の
規定より著しく後退し、
労働法の精神を没却したものであると言わざるを得ません。もし一人でも合意しない使用者があった場合には、
最低賃金の申請は行われず、法律は死文化するではありませんか。なぜ、大部分の合意とせずして、全部の合意と
規定したのか、これに対する明確な答弁を伺いたいのであります。
第七間であります。本
法案は、第十六条において、
労働大臣または
労働基準局長は、
賃金の低廉な
労働者の
労働条件の改善をはかるため必要ありと認めた場合において、
業者間協定に基く
最低賃金、
業者間協定及び
労働協約に基く
地域的
最低賃金により、
最低賃金を
決定することが困難または不適当と認めるときは、
最低賃金審議会の
調査審議を求め、その
意見を尊重して、
最低賃金の
決定をすることができると
規定しております。しかるに、問題は、「必要があると認める場合」という条文であって、これは、
労働基準法第二十八条から第三十一条において、すでに十一年前から、低
賃金業種、職業について、
賃金審議会で
最低賃金を
決定することを
規定しながら、「
行政官庁が必要ありと認めたとき」というごまかし文句のため、
労働者の要求が、悲しいかな、合法的にその
適用を無視し続けられてきたのであります。この苦い経験よりして、
労働者は、最賃法はできても、
政府はこの条文の
適用はしないし、未組織の低
賃金労働者の
最低賃金は当分できないし、依然として劣悪な
労働条件に呻吟せざるを得ないと感ずるでありましょう。この
労働者の不信を
政府はどう考えるか。
質問第八点であります。
最低賃金審議会が
中央、地方に持たれております。この
審議会は、
労働大臣または都道府県基準局長の諮問に応じて
調査審議し、
答申建議することになっておりますが、この建議のみに終って、権限の僅少な
審議会であります。これでは、三者構成の
意義ある
調査審議も、
審議会自身の責任と社会的義務を実行することはできません。この点、いかに考えているか。
質問の第九点、次に、
賃金格差の問題であります。
わが国の
賃金格差がひどいのは、
日本の資本主義の構造的特質に基因し、特に
日本の独占資本擁護の
政策の結果として生まれてきたものであります。たとえば、下請制一つを取り上げても、
中小企業の低
賃金を生む
要素を持っています。
産業構造を変革し、
企業の
近代化をはかり、
質的向上をなし、真に
賃金格差をなくすためには、全
産業にわたる画一的な法定
最低賃金が必要であります。
労働大臣は、この
法案によって
賃金格差をなくすると
説明しておりまするが、
政府の意図とは違ってむしろこの
法案が成立することによって
賃金格差が拡大すると思うが、
政府の考え方はいかがですか。
質問の第十でございます。次に、
家内労働者の問題についてであります。
わが国の基準法は、雇用
関係にある
労働者を
対象とするものでありまして、商社、工場または問屋等の業者から委託を受け、その物の製造等を自宅で行う
家内労働者は、
労働保護法はもちろん、社会保険
立法の恩恵の外にあって、非常に劣悪なる
賃金と、衛生上きわめて不良なる作業環境で働いているのであります。社会の最下層に働いている
労働者をこのまま放置することは、全く社会的問題であります。これが解決は緊急なりと考える次第でございます。
政府は、この
法案では
最低賃金適用業種に関連するわずかの
家内労働者のみを考えていることになります。その他の
家内労働者には、生活を守るという
規定がない。本来、
最低賃金法と
家内労働法とは並行して
立法化し、全
労働者、全
家内労働者を救済することでなければ、
労働者は救われないのであります。諸
外国では、この問題は非常に重要な問題として取り上げ、
最低賃金と同等に、もしくは場所代等で高目な
工賃できめられておると思います。
家内労働者の生活保障の問題は、
政府はどう考えておりますか。
最後に、この
法律案は全
産業一律
方式の否定であります。さきに出された
中央賃金審議会の
答申においても、「
最低賃金制は全
産業一律
方式が好ましいが」と認めながら、なぜ結果的にそれを放棄したか、疑問でならないのであります。
日本のごとく、あらゆる
産業内部において、必ずごく低い
賃金労働者が含まれている現実では、ぜひとも全
産業的一律
方式最低賃金が必要になるのであります。本
法案のごとき
最低賃金法を設けるならば、全
労働者の生活を保障しようとする法の本来の目的を達することができず、この
労働者の貧困の状態は、いつの日に解放することができるでありましょうか。
以上の諸点に対する明確なる答弁を要求し、私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇、
拍手〕