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政府委員(谷垣專一君)
酪農振興基金法案につきましては、さきに政務次官が提案理由の
説明をいたしたのでございますが、若干の補足
説明をさせていただきたいと思います。
御
承知のように、昨年は
昭和二十五年に比べまして、乳牛の頭数で約三倍、生乳の生産量で約四倍
程度の上向線を描いておる
状況でございまして、このように非常に酪農か伸展してきつつあるわけでありますが、今後さらにこれを健全に発展させて参りますためには、生乳の生産基盤を強化しますと同時に、また他方、生乳取引の特殊性から来まするところの欠陥を克服いたしまして、安定した酪農経営を維持させることがぜひ必要であるかと存じます。で、生産基盤と流通
関係とあるいは消費の拡大というふうに、各方面の施策が必要でございまするが、その垂要な
一つといたしまして、このような最近の非常に目ざましい酪農の発展のその陰に、需給の
状況が一時的にしましても不均衡が生じて参る、こういう問題がひそんでおるわけでございます。御存じのように、生乳に関しましては、まず季節的な変動がございまして、夏は生産が減少しますのに比べまして消費が増大する、冬は消費が減っておるのにかかわらず生産かふえる、こういう一時的な滞貨がふえる、という現象がございます。さらに、これを数年間にわたってながめてみますと、大局的には、生産と消費が均衡しつつ伸びて参っておる現状でございますけれ
ども、たとえば
昭和二十九年あるいは昨年の秋からの
状況でございまするように、数年に一度というような
状況で、かなりの需給の不均衡が生じて参る懸念があるのであります。御存じのように生乳は、需給に合せまして貯蔵しておくことができません。生産されますとすぐに処分しなければならないものでありまして、従いまして、需給の不均衡がある
程度以上になりますると、乳価の過度の低落といったような、あるいは乳牛飼養の放棄といったような、酪農経常を危うくする
事態が引き起されるおそれがあるわけでございます。たまたま昨年の下半期におきまして、牛乳、乳製品の需給の不均衡がある
程度見通されるちょうどその折に、
昭和三十年の砂糖消費税法の
改正に伴いまして、大カン練乳等の砂糖消費税の免税
措置が、六月いっぱいをもちまして、なくなるという
状況がございました。それを政令の
改正をいたしまして、九月末までそのまま撤廃の延長を見たのでありますが、そのときちょうど、九月末のときと下半期におきまする需給の不均衡の問題とが見通されたような
状況でございまして、こういう
状況が今後の乳業に与えます影響を考慮いたしまして、
政府といたしましても、牛乳、乳製品全体に対しまする需給調整
対策につきまして、案を立てる必要が生じて参ったわけでございます。そこで、酪振法に基きまするところの酪農審議会に、この件を諮問いたしまして、酪農審議会におきましてはいろいろと御審議をいただいたわけでありますが、その結果として答申をいただいて、で、その答申の中で重要なものといたしまして、乳業者または生乳の
生産者団体の必要といたしまする、
資金の借り入れにつきましての債務保証をさせるために、酪農振興基金を設置する必要がある、こういう要請かあったわけでございます。
政府の方といたしましても、その必要を認めまして、この答申を参考といたしまして、牛乳、乳製品の需給の不均衡から生じまする悪影響を緩和しながら、安定した酪農経営の維持をはかりますために、一方におきましては牛乳、乳製品の学校給食を実施いたしまして、滞貨の悪影響を緩和し、かつは学童の体位の向上と、さらには牛乳、乳製品の国民食といたしましての発展すべき礎石を置くような
措置を講じたのであります。さらに当時主といたしまして乳製品、大力ン練乳の棚上げをいたさせまして、これに対しまして必要な保管管理費、その他の補給をいたしたわけであります。他方この酪農振興基金を設立いたしまして、乳業者に対しましては生乳取引に要しまする
資金、あるいは大カン練乳の免税
措置の撤廃に伴いますところの、設備
資金の
融資保証を行いまして、これらの
資金の融通を円滑にいたしたい。生乳
生産者に対しましては、生乳の生産に必要な
資金の融通を円滑にいたしますることによって、乳価の暴落なり、あるいはまた乳牛飼養の放棄なりの
事態を回避いたしまして、生乳取引
関係が安定いたしまして、その基盤の上に維持されるように企図いたしたのであります。このような趣旨あるいは経緯から立案されましたこの法案は、大よそ次のような構成及び内容を持っておるわけであります。
で、基金の第一に性格でございますが、これは第六条から第十三条までに
規定されておりまするように、
政府と民間とが共同出資いたしまして設立する特殊法人でございます。で
政府は設立当初五億円を出資いたしまして、民間の出資額との合計額をもって資本金にいたしまして、されが基金の業務を運営いたしますところの財産的基礎になるわけでございます。で、その額は設立当初は
最低六億円、これをその後民間におきまする資本の充実、あるいは生産の伸長に伴いまする
資金需要の増加と見合せまして、民間出資を漸次増加して参り、三十八年の三月末までには合計十億といたしたい。民間出資五億、
政府出資五億、合せて十億といたしたい。またそうするように基金
自体も責任を持ちまして努力するし、
監督に当っておりまする
政府もそういう
指導監督をする責任を持つと、こういう趣旨が付則第七条並びに第八条に書いてあるわけでございます。
第二に
政府以外の出資者の問題でございまするが、これは第八条に列挙されておりまするように、大別いたしまして乳業者と出産者とに分れると存じます。乳業者につきましては、第一はみずから乳業を行なっておりまする法人もしくは個人、でこれは乳業を行なっておりまする
農業協同組合、あるいはまた連合会も含まれております。あるいは規模の大小を問わずあらゆる乳業者、乳業メーカーと称せられておる者が、この中に包摂されておるわけでございます。第二は乳業者の組織いたしまする中小企業等
協同組合でございまして、これは現在乳業
関係のこういう組合はただ
一つしかございませんが、この組合でも組合員の製品を共販しようとする具体的な動きもございますし、また組合名をもちまして出資するという態勢をとっておりまする
関係から、
団体加入を認めたわけでございます。第三の乳業着たる
農業協同組合または連合会が、直接または間接の構成員となっておる農協の連合会も、これも同様の趣旨で加入を認めたのであります。他方
生産者につきましては、この基金の目的が生乳取引の改善を目途といたしておりまする以上、それを確保する
措置が必要になるわけでございます。従いまして単に乳業者のみに債務保証を行うにとどまらず、それが確実に
生産者に支払われる必要がございます。従いましてたとえば乳業者の中の未出資の者とか、あるいは出資額不足の者とか、その乳業者に対しまして必要額の債務保証が行われない場合におきまして、それと取引をいたしておりまする
生産者は困ることに相なりまするので、あるいはまた必要がありますれば、
生産者みずからが信用力を持ちまして、相手方に対し取引上優位に立つ、ということも考えられるのでありまして、従いまして
生産者も基金に出資して、債務保証を受けることとしておく必要が生じるわけでございます。
第三に基金の業務でございます。これは第二十九条各号に掲げてございますが、第二十九条各号に掲げておりますところの、
資金の借り入れ等による債務保証を行うわけでございますが、この
資金は乳業者につきましては、乳代支払いの
資金等の経営
資金が大部分でございまするが、これとともに経営を合理化いたしますところの設備
資金、たとえば現在のところ考えておりますのは、大カン練乳等加糖乳製品の製造業者が、砂糖消費税の免税撤廃に伴いまして、その設備を市乳あるいは粉乳等の製造設備に転換する必要が生じておりますが、そのような
資金、あるいはまたこれらの製造設備を新設いたしまするところの
資金、これが対象になるわけでございます。
団体加入の場合には、これらの
資金をその組合員あるいは構成員に対しまして転貸するための
資金ということになるわけでございます。一方
生産者につきましては、生乳の共販などを行なっておりまする農協あるいは連合会の乳代の、立てかえ払いの
資金が対象になるわけでございます。これは上述いたしましたように、基金の性格あるいは目的が、乳業者の経営の維持あるいは安定のための
資金ばかりでなく、
生産者の経営
資金も見て、その経営の向上をはかる必要がある、そういうことを眼目としておりまする
関係から出て参ったわけでありまして、生乳の販売代金を乳業者から受け取るまでの間におきまするその代金を限度といたしまして、
生産者の必要な生産
資金を確保させる、こういうことになるわけでございます。
第四に、基金の機関につきまして申し上げますると、執行機関として
理事長及び
理事、監査機関として監事、諮問機関として評議員会があるわけでございます。
理事長及び
理事二名は常勤になるわけでございますが、これは実際に基金の業務を担当する幹部になるわけでございまして、第二十三条におきまして、営利事業に従事することを
禁止する旨の
規定を設けてございます。こういうふうにいたしまして、公正な第三者的な立場にある者が選任されることを期待いたしております。このほかに非常勤の
理事七名以内を予定いたしております。これは出資者でありますとか、その他学識経験のある方々から専任いたしまして、その実際上の経験、知識あるいは出資者としての立場というものを、業務の運営の上に生かしていきたいと考えておるわけでございます。また諮問機関として設置されまするところの評議員会は、出資者である乳業者あるいは出産者のほかに、広く牛乳あるいは乳製品の消費流通に関しまする学識経験者をもちまして構成いたしまして、その意見を基金の業務運営に適正に反映させる、こういうふうになっておるわけでございます。従いましてこれらの重要事項につきましては、
理事長の諮問に応じて審議するというわけでございます。
第五に基金に対しまする
監督と
罰則の点でございますが、一定のこういう政策目的の実現のために、
政府が出資しております
団体でありまして、会員とかあるいはその総会というような議決機関はございません。従いまして所管行政庁はこの基金の運営を責任をもって
監督する必要があるわけでございますが、本基金は他の
政府出資
団体におけると同じように予算、決算及び事業計画、
資金計閥につきまして
農林大臣の認可あるいは承認を受けさせることといたしております。またこれらの財政的な問題につきましては、その所管大臣である大蔵大臣に協議をしていたしていきたい、かような
規定を設けてございます。
罰則も同様に運営の厳正を期しておるということでございますが、そのほか財務及び会計につきましては、第五章におきまして運用の基本準則を定め、付則におきまして、法人税その他国税あるいは地方税の免税
措置を講じてある、こういうような次第になっております。
以上が
政府が提案しました原案の内容でございまするが、この法案につきましては、
衆議院の方におきまして、次の三点について修正がなされ、そのほか六項目に関しまして付帯決議が付せられております。
修正点の第一は、基金はその運用に当り価格の安定及び需給の調整を目途とする、そういう趣旨を明確にいたしまするために、第一条の「目的」にその文句をうたうべきであるということから、原案の生乳取引の改善としましたものにつけ加えまして、「生乳及び乳製品等の価格の安定並びに乳製品等の需給の調整」という
文字が挿入されたことでございます。
第二は、「目的」をこのように修正いたしたのに伴いまして、第二十九条の「業務」につきましても、乳製品のたな上げ保管など需給調整上の
効果を持ち得るような
資金について、保証が行われる趣旨を明確にするという必要から、このイに掲げてある運転
資金を二種に分けまして、ロとして、その趣旨を積極的に
規定した点でございます。基金が債務保証業務を行うにつきましては、その成立の経緯からいたしましても、需給調整的な
機能を果すべきことは当然でございまするし、その意味で、基金の活動は帯貨の異常時に最も盛んになりまして、またその際こそ基金の
機能を十分に発揮することが期待されておるのでございます。法案作成に当りましては、この点につきまして十分留意いたし、第一条の「目的」にありまする「乳業者及び生乳の
生産者の経営の維持及び安定に要する
資金」あるいは第二十九条第一号、イの「乳業の経営に必要な
資金」と申しておりまするものの中には、乳製品のたな上げに要する
資金はもちろん含まれていると申しますよりも、むしろそのような需給調整
資金の保証が主として行われる、というように考えていたわけでございますので、提案者たる
政府といたしましても、そのような趣旨をはっきり
法律の文書に織り込むことにつきましては、別段の
異議はございません。
修正点の第三は、基金の業務として、債務保証の業務の遂行に支障のない範囲内で牛乳、乳製品の需要の増進に閲する業務を行うことができる旨の
規定を、第二十九条に一項加えたことでございます。
衆議院の審議の過程におきましては、この法案に
関係のございます乳業者や
生産者や金融
関係者が
参考人として呼ばれまして、この法案についての意見の開陳を行なったのでございまするが、その際多数の意見は、基金がその運用益を消費の拡大、普及等需要増進に使用できるよう、法案を修正されたいということがございましたので、これが
農林水産委員会の、
衆議院におきます、採用するところとなりまして、前述のような修正が行われたわけでございます。
政府といたしましても、債務保証という、その本来の主たる業務の円滑な遂行が妨げられず、また、基金が需要増進業務を行うことにより、基金に対する民間出資が促進されることになりまするならば、
法律の目的もよりよく達成されることになると考えまして、修正に賛同いたすものでございます。
以上、本法案の趣旨並びに経緯並びに
衆議院におきまする修正の諸点、あるいはこれに対しまする
政府の所見を申し上げました次第でございます。