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政府委員(須賀賢二君) 横浜の生糸取引所の先物相場は、昨日以来大幅に下落しております。この件につきまして、今後の対策等につきましてかいつまんで申し上げたいと思います。
昨日はちょうど八月限の新甫が立ちまする日でございます。八月渡しの相場は昨日から——一日から出たわけであります。一日に八月限は十八万五千円という相場が出たのでございますが、さらに昨日その安値を更新をいたしまして、八月限は十七万五千円という相場になったのでございます。これは六月限以降は、それぞれ現在の最低
価格を大幅に割っておる。当月限及び四月限、五月限につきましてはそれほどのことはないのでありますが、六月限以降が大幅に糸価安定の最低
価格の線を割っておるという状態になっておるわけであります。昨日の横浜の引値は、六月限が千七百七十四円、これは一斤でございますので、俵に換算いたしますと十七万七千四百円、七月限十七万七千五百円、八月限が十七万五千円、こういう相場に相なったのでございます。このように先物に限りまして大幅に下げて参りましたのは、最近、
政府に対しまして生糸の最低
価格による売り込みが非常に増加をして参ったのであります。生糸の値段は、昨年の八月ころまでは大体二十万円に近い線を維持しておったのでございまするが、十月ころからだんだん軟調になって参って十二月の初めから、最低
価格十九万円の線に膠着をいたしておるわけでございます。従いまして、去年の十二月、ことしの一月、二月と最低
価格による売り込みが続いたわけでございます。それで、二月末現在におきまして
政府が最低
価格で買い入れましたものは、約二万俵になったのでございます。そのような生糸自体の不況、それに加えまして、一般繊維が、御承知のように、今非常に不況の状態にあるわけでございますが、それらの要素がいろいろ積み重なりまして、生糸につきましても非常に暗い場面が続いておるわけでございます。二月末二万俵の
政府買い入れ手持でございますが、これを業界の方、いわゆる業者なりの感覚で見まするというと、かりに、三月以降におきましても月五千俵ぐらいの割合をもちまして
政府に最低
価格による売り渡しが続くと仮定をいたしますと、三、四、五、六の大体四カ月間ぐらいで今
政府が持っておりまする糸価安定の
資金は底をつくであろうというような見方が業界に出て参ったのであります。その結果、六月限あたりから先が大幅に下落をいたして参ったわけでございます。言葉をかえて申し上げますと、今回この国会で御
審議をいただいておりまする糸価安定特別会計法の
改正によりまして二十億円の
資金追加をいたしましても、今のような情勢が続く限り、六、七月のころには糸価安定が底をついてくるのではないかというような観測が生まれて参った。それが、市場におきまして先物の現物の値段に非常に大きく響いて参ったわけでございます。
状況は、以上申し上げました
通りでございますが、そのような情勢にございまするので、われわれといたしましては、以下申し上げまするような対策を講ずることによりましてできる限り早期に糸価が回復して参るように努力をいたしたいと考えるわけでございまするが、特に生糸につきまして、昨年暮以来糸値が十九万円にこげついておりまするのは 一般繊維の不況に加えまして、特に生糸につきましては、昨年産の繭が非常に豊作であったわけでございます。去年は、農林統計の面では三千百八十万貫の
生産統計になっておるのでございまするが、その前年は、凍霜害もありましたような
関係もありまして、統計面では二千八百八十万貫になっておる。ただ実際は、一昨年におきましても約三千万貫に近い繭は、製糸工場に入った面から調べてみますと、とれておるようでございまするが、いずれにいたしましても、昨年の繭産額は戦後最高でありまするし、前年を二百万貫以上上回っておることは事実でございます。それで昨年の暮にわれわれの方で器械製糸工場につきまして繭の手持がどのぐらいあるかを調べてみたのでございますが、それによりますと、ちょうど一昨年の同期に比較いたしまして、製糸工場の繭手持は、二割程度多いようでございます。一方、糸価に対する先行きの見通しが非常に暗いというような情勢が作用いたしまして、製糸家は去年の暮から今年の正月、二月とかけまして非常に糸をひき上げるテンポを速めて参った。今年の一月の糸の
生産高を見ますと、去年の同月に比較いたしまして二割八分程度よけいひいておる。これは、休みも返上してやる、時間延長をやる、というような形においてどんどんひき急ぎをして参った。二月の実績はまだ出ませんが、おそらく二月は、去年の二月に比較いたしまして三割以上よけい糸をひいておるのじゃないかと私どもは推測をしておるわけであります。従いまして、それをどんどんひきまして、しかも、市場の方は、輸出の面におきましても先安の気分が出ておりますために、なかなか輸出の方もはかばかしくない。一方、国内で使われます分の方も、こういう景気の情勢でございまするから、各繊維を通じまして機屋は手控えておるというようなことになりまして、作られましたものの相当量が
政府へ持ち込まれるということになって参ったわけであります。それで先月は二月二十八日までで六千俵以上の
政府売り込みがあったわけでございます。まあそういうような状態が続いておるわけであります。それで、先物の相場が下落をいたしましたことと照応いたしまして、今私どもが製糸業者に要請をいたしておりまするのは、いずれにいたしましても、こういうようなテンポで糸のひき急ぎを非常にやりましていちずに
政府へ持ち込むというような態勢を続けて参りまする限りは糸価安定制度につきまして
資金面で補強をいたしましても、とうてい将来を考えますと維持をしていくことは困難であるという考え方に立ちまして、製糸に対して操業短縮を要請をいたしておるのでございます。私、ただいまお呼び出しを受けます際にも、業者の方とこちらの話をいろいろ詰めておったのでございまするがいずれにいたしましても、どんどん繭をひき急ぎまして製品を横浜へどんどん出していくという状態では、とうていこの状態を改善することは困難だ。従いまして、製糸も操短をやってもらうべく今話し合いを進めておるわけであります。現在全部の繊維につきまして、これは私の方で調べましたものがございまするので、あとから差し上げたいと思いまするが、全部の繊維を通じて相当高率の操短をやっておるわけであります。さらに情勢によっては操短率等も引き上げなければならぬというような情勢になってきておるわけであります。今から一カ月ばかり前に経済企画庁長官が主要繊維の業者を集めまして繊維対策につきましていろいろ協議をされたのでございまするが、私どももそこへ出ましていろいろ話を聞いた
状況によりますと、今から一カ月くらい前には綿、スフ等につきまして四月好転という考え方をかなりの人が持っておった。四月好転説、四月になったら
状況が少しはよくなるんではないだろうかという期待を持っていたのでありますが、最近の情勢によりますと、特に繊維の不況がある程度時間が長引くということも考えて参らなければならないような情勢になっておりますので、生糸につきましても操短を具体的に協議いたしておるわけでございます。
それから、糸価安定
資金は最近の
政府売り込みが急激にふえましたことによりまして、二月末現在におきまして約四十億円を支出しております。四十億円相当分が糸にかわって、これが
政府手持となっておる。従いまして、現在の糸価安定会計の
内容といたしまして、なお二十億円の買入
資金の残を持っておる、約一万俵に相当する数量の買入
資金を持っておるわけであります。さらに現在御
審議をいただいております特別会計
予算及び
関係法律が成立をいたしますれば、二十億円の
資金が追加されるわけであります。そういたしますと、二月の初めから考えまして、なお四十億、二万俵に相当する
資金が現在あるわけであります。従いまして、糸価安定の規模といたしましては、約半分の金が糸にかわった段階でありますけれども、全体の不安人気というものが非常に強くなってきているというふうな
事態によりまして、今先ごろの相場がそういうふうになって参ってきておるわけであります。今後の糸価安定会計の問題といたしましては、先ほど申し上げました、製糸業者自体として、糸価回復にどのような具体的努力をして参るかというような
状況等も十分見ました上で、今後の問題として必要な
措置を講ずることにいたしたい、さように考えておるわけであります。一般繊維に比較いたしまして、この生糸につきましては、糸価安定制度がありましたために、今日まで業者の倒産も出ておりませんし、一応やって参ったわけでございます。この制度を安易に使いますと、将来の問題といたしまして非常に大きな問題が出て参る、さように考えまして、業界の方にも積極的に協力を要請をいたしておるわけでございます。
なお、今年の春繭は、相当増産されるのではないかという見通し、予測が出ております。これは気象条件、あるいは去年の夏秋蚕が非常に豊作でありました
関係で、桑の成育条件が非常にいいそうでございますが、そのようないろいろな条件によりまして、今年の春繭は気象状態が普通に推移いたしますと相当量増産される可能性があるわけでございますが、これは今日のような情勢になりましたので、全養連当局におきましても、いろいろこれに対する対策を考えておるわけでございます。ただ私どもといたしましては、万が一今年の春繭につきまして、最低繭価の維持が困難であるというような
事態が起きました場合は、繭糸
価格安定法の中に定められております乾繭
共同保管制度を動かして参らなければならないのじゃなかろうか。
昭和三十年に繭糸
価格安定法が
改正されまして、そのとき乾繭
共同保管制度を加えたのでございますが、今日までは幸いにいたしまして現実に発動するような
事態はなかった、今年あたり場合によりましてはこちらの側からも乾繭
共同保管につきまして必要な
措置は講じなければならぬ、今から事前の準備といたしまして全養連当局にもいろいろ、
共同保管が現実に行われます
事態に備えまして、いろいろその準備を要請いたしているようなわけであります。
なお、つけ加えて申し上げておきたいと考えますることは、新聞記事等によりますと、三月一日から
政府買入生糸の制限を行なったことが、今回の暴落の契機ではないかということが報道されているのでございますが、この点につきまして、これを御
説明申し上げたいと考えますことは、三月一日から
政府買入生糸につきまして品質の制限をいたしたことは事実でございます。これは数量の制限ではございません。品質の制限をいたしたわけであります。さような
措置をとりましたのは最近
政府に入って参りまする糸の
内容をこまかく調べてみますると、どうも
政府売り込みだけを目当てにしてひいた形跡が見られるわけであります。今
政府で買っておりますのは、二十一中A格、それから3A格、それからB格、C格という、そういう糸を買っているわけでございますが、この二十一中A格という糸の格づけも実際には非常に幅が広いわけであります。二十一中A格と格づけされましたものの中にも、
内容的には非常にいいものと悪いものがあるわけであります。ここ数年来の糸の実需の傾向を見ますると、だんだんできるだけ細目のものが好まれる傾向になってきている。それで、現実に市場で取引をされておりまするのは、二十一中A格という非常に幅の広いものの中でも、現実には細目の方にしぼられたものが取引をされている。去年の八月に横浜の生糸取引所におきまして、同月限の値段が十九万円を割りそうな
事態が一、二回ありましたために、取引所の受け渡しの供用品の規格をしぼったわけであります。これは細目の糸の方が受け渡しの供用になるという形にしぼった。ところが、去年の十二月以降
政府へ行ってきておりますものをこまかく調べてみますると、太目の糸のものがまじっている。これはどういうわけでそういうことになるかと申しますと、製糸家は能率を上げることばかりにまあ狂奔をいたしまして、そういう糸をひきますと非常に能率が上る。従って
政府売り込みの規格のすれすれのところまで場合によったら下げていくというような気配も見えたものでございますから、三月一日からこの品質をしぼりまして、横浜生糸取引所の受け渡し供用品になり得るもののところまでしぼった。従いまして、言い方を変えますと、今までの
政府の買い入れがやや甘かったのでありますが、これを三月一日から一般市場に規格品として流通をいたしておりまする限度にまでしぼったのでございます。たまたま六、七月限の大幅の値下げが三月一日にあったものでございまするから、この
政府の買入品の品質をしぼったこととこれが一緒になりまして、そのために下ったようなふうに報道されているのでありますが、その間の事情はただいま申し上げた
通りで、これはしぼるにつきましては業界ともよく話しをいたしまして、製糸家としてそういう行き方は改めてもらわなければならない、十分協議の上でやったわけでございます。
以上で御
説明にかえさしていただきます。