○田畑金光君 私は、日本社会党を代表し、ただいま議題となっております
恩給法等の一部を
改正する
法律案に対し、反対の意思を明らかにせんとするものであります。
恩給
制度の歴史的な変遷を見てみますと、明治以降、わが国の官吏
制度と表裏
一体をなして発送してきたものでありますが、いわゆる天皇の官吏、大元帥の股肱の臣としての文武官、に付与された特権的恩恵であったことは否定し得ない事実でありまして、恩給
制度が幾たびかの戦争を通じまして果して参りました役割りというものは、戦争遂行の面において、はたまた戦後処理の面において、大きな支柱となってきたわけであります。しかしながら、戦後、連合国最高司令官の覚書に基き、昭和三十一年勅令六十八号により、軍人恩給は傷病者に対する少額の恩給を除いて、廃止されたのでありますが、昭和二十七年、平和条約発効と相前後して、日本をめぐる内外の軍事的要請は、ことに自衛隊の急速な増強と、古き愛国心の鼓吹に迫られて参りまして、政府は昭和二十八年
法律百五十五号により、旧軍人恩給復活をはかったのであります。しかして、復活された現行軍人恩給は既得権であるのか、あるいは新しい権利の発生であるかということは、議論の分れるところでありますが、
法律学者の多くは、既得権にあらず、新しい権利の創設と見ておるのでありまして、旧軍人恩給がポツダム勅令によって廃止された歴史的経過を見ますと、この見解が妥当であると
考えるわけであります。
今次の戦争が、古今未曽有の大規模で行われ、しかも、前戦銃後の区別のない総力戦であったこと、戦争の残したる禍害は各面にわたっておるということ、従って、旧軍人恩給についても、このような客観的な情勢によって相当に制約が加えられてきたということは当然でありまして、かくて、現行軍人恩給が遺族傷病者の処遇に重点を置くような、社会保障的
性格を濃厚にしてきたということは、当然のことだと
考えるわけであります。政府も今回の提案に当りまして、遺族、重傷病者、高齢者に重点を置いたこと、上に薄く下に厚くするという精神に立脚し、重点をどこまでも下扱者に置いたと言っておるのでありますが、しかし、事実は看板に偽わりがあると
指摘しなければならぬわけであります。なるほど今回の
改正に当り、旧軍人の将官については据え置き、佐官、尉官についてもそれぞれの制限をしたことは事実でありますが、にもかかわらず、仮短俸給年額を例にとりますと、大将が七十二万六千円、兵隊がわずか九万円、上級者は大なり小なり戦争の責任者であったわけです。また、経済取得能力も、過去の蓄積能力も、赤紙応召のもとにおける下級兵士との比較ではないはずであります。恩給受給権は財産権であり既得権であって、侵害を許されないという形式的な憲法理論で律するには、あまりにも
国民心情と反するものがあるわけであります。遺族扶助料を例にとりますと、準士官以下には倍率
改正を行い、また仮定俸給についても一万五千円ベースに完全実施したと、こう言っておりますが、兵の扶助料が五万三千二百円、大将のそれは十三年という基準で二十万五千七百円であるわけですが、一家の柱、大黒柱を失って家族が路頭に迷い、貧窮に陥る事例は上級者の遺族ではなく、これら下級兵士の遺族であることを知るとき、こうい、う不均衡をこのまま放置していいのかどうか、疑問を持たざるを得ないわけであります。
世上一部の論者は、いわゆる職業軍人は九万名であり、金額にして二十二億五千万にすぎないのであるから、旧軍人恩給としてかれこれ
批判することは当らないと、こう申しておりますが、問題はまさにそこにあるわけであります。百五十余万の遺族の方々や、約十三万名に上る傷痍軍人の方々は、戦争に際し、公務により、または国の命令による行動等によって身を犠牲にし、また傷ついた方々でありまするから、国がその使用主の精神に立脚して、あるいはこれに準ずる
立場において、しかるべき処遇を講ずることは当然であると
考えるわけであります。しかるに、これらの人々についても、軍人恩給という名において
批判が加えられておりますことはまことに遺憾でありまして、わが党はこういう人々については別個の
法律によって処遇し、もって恩給亡国等といわれる非難から救済すべきであると
考えております。同時に、職業軍人等については、さらに大きな所得制限等を加え、もって
国民感情等との調和をはかるべきであると
考えるわけです。
わが党は、収入の低い下級者の公務扶助料については、一律五万四千円まで引き上げ、将来
国民年金制度との調整をはかりながら処理することとし、また、これら下級者については、四年間据え置くというようなことでなく、直ちに実施に移すべきこととし、他面、職業軍人等については新たな角度から検討を加え、平均余命率等を根拠にして、公債による打ち切り補償
制度を
考えておるのも、要は、これなくしては下級者を優遇することも、
国民世論や
国民年金制度との和解調整をはかることは困難であると信じておるからであります。
ことに、今回の
改正案で不当に抑圧されたものは傷病恩給でありまして、このことはまことに遺憾といわなければなりません。臨時恩給等
調査会におきましても、傷病恩給の年額は、普通恩給扶助料と、仮定俸給等々を基礎として計算される恩給が仮定俸給の
改正により増額されたにもかかわらず、これと歩調を合わせて増額されることなく、今日まで据え置かれておるので、その後の
給与水準の上昇に見合うよう増額すべきであり、間差においても再検討を加うべきこと、ことに傷病恩給は外形の症状に重点を置かれ、内部疾患については軽視の傾きがあることを
指摘されておりますが、今回の
措置はこれを尊重しているとは言えません。階級差が撤廃され、不具廃疾または傷病の程度の同一者には同一の傷病恩給額を支給するに至ったことは、わが党の主張に譲歩した結果であることは、あるいは一歩前進ということでありますが、しかし、両手両足のない、いわゆる第一項症を十七万一千円に引き上げることによって、万事均衡を得たと
考えておりまするが、完全な廃疾者十七万一千円、元大将の扶助料二十万五千七百円とでは、
国民感情からいいましても、経済取得能力の減損の度合から見ましても、妥当ではありません。今回のこの政府の
措置は、要するに下に厚く上に薄いという精神は完全に踏みにじられており、遺族と傷病に重点を置いたといっていましても、階級差は依然として残っておるわけであり、職業軍人と赤紙応召者との不均衡はなおはるかに遠く、しかも、最も弱い傷病者等について多くのしわが寄せられておるということを
考えましたとき、また臨時恩給等
調査会の答申にも反しているということを
考えましたときに、今回の
措置はわれわれとしては認めるわけには参らぬわけであります。
これが反対の第一の理由であります。
第二の私の反対する理由は、今申し上げましたように、今回の
措置は臨時恩給等
調査会の
指摘した問題点等について的確な解決の努力を示していないということであるわけであります。衆議院においては、その審議の最終段階に当りまして、付帯決議というような方法によらず、内閣
委員長の質問の形で、これに対し総務
長官が政府を代表されまして、十分検討の上善処するという答弁で逃げておりますが、問題点としてあげられた点は、遺家族公務扶助料の倍率及び支給条件等の是正、傷病恩給の間差、等差及び他の恩給との不均衡是正、仮定俸給抑制
措置の是正、文官恩給に内在する不均衡是正、旧軍人等恩給失権者に対する加算
制度の実施、旧海軍特務士官の仮定俸給基準の是正、元満州国等外
国政府職員の通算実施、旧日本医療団職員の通算実施、金鵄勲章
年金受給旧軍人に対する処遇改善等、相当な点にのぼっておるわけであります。
これは要するに、たとえばこの中で問題となっておりまする旧軍人等恩給失権者に対する加算
制度の問題を見ましても、いわゆる軍人恩給廃止前に普通恩給を受ける権利の裁定を受けた者は実役三年で恩給受給権が認められているにかかわらず、ひとしく戦地に勤務した旧軍人でありながら、昭和二十一年二月一日以前に裁定されなかったという理由だけで、実役十一年十一カ月をこえても十二カ年に満たざる限り恩給受給権がないというところに、非するといたしますと、約七十五万余が浮かび上がってきまして、一万五千円ベースといたしますと、勢いピーク時では百三十七億の新規財源が必要となってきまして、国家財政、
国民感情、
国民年金制度等との
関係を考慮いたしますと、
一体これをどうするのか、いずれの道を選ぶかということは、すみやかに決定すべき問題でありまして、ときに
国民世論をおそれて問題の焦点をぼかしたり、ときには票数ほしさに
国民世論のかげに隠れて弥縫策に走るというようなことは、岸内閣の
性格をよく示しておりまして、わが党はこういう責任回避の態度を許すことはできない。こう
指摘せざるを得ないのであります。
また、問題点として、取り上げられているその他の点についても、たとえば旧日本医療団職員の通算実施等は、人員にいたしましても、金額にいたしましても、少額であるにかかわらず、今日までこれが放任されてきている態度等は、まことに遺憾と申さなければならぬわけでありまして、こういうところに、結局、今回のこの一連の恩給
制度の復活あるいは
改正というものが、再軍備政策の一環をなしておると世上
批判されるゆえんでありまして、われわれといたしまして、この政府の責件回避の態度に対しまして強く糾弾するとともに、こういうようなあり方に対してわれわれが反対するゆえんがあるわけであります。
第三の反対の理由は、恩給と
国民年金制度との
関係におきまして、政府の明確な方針理念が明らかにされない。結局、恩給
制度の前に
国民年金制度が犠牲にされる、そういう危険が見受けられるわけであります。三十三年度予算は、恩給
関係費は一千一百六億に上っておりまするが、三十六年度には一千三百億をこえる、こう言われております。さらに、先ほど
指摘いたしましたような加算
制度の是正、不均衡是正等を考ますと、一千五百億をこえる額に上りはしないか、かように判断するわけであります。社会保障
制度審議会は近く答申を出すでしょう。ことに同審議会は、昨年十二月、大内会長の名で政府に対し、恩給増額のため社会保障を犠牲にせぬことを強く申し入れている事実を想起すべきだと思います。昨年十月、厚生
大臣の諮問
機関である五名の
国民年金委員会は中間的な審議の経過を発表いたしておりますが、現存の六十五才以上の老齢者を対象として月額三千円からの
年金制度を実施するといたしますと、年額千六百億、これに加えて、重度の身体障害者に月額三千円を支給いたしますと、年額百四十億、母子世帯に月額四千円程度を支給いたしますと、年額二百億、合計千九百四十億の膨大な経費を必要とし、老齢人口増大化の傾向はますますこの金額を大きくすることを
指摘いたしております。
今回の政府
提出法案には、将来の
国民年金確立に関し、何らの展望も、具体的な施策も、
方向も明らかにされていない。恩給は雇用
関係に基く被用者の権利であり、社会保障は貧困の救済であるという観念は、近代国家の理念としてはもはや通用しないと
考えます。福祉国家を目ざす先進諸国の社会保障
制度の
内容と、社会保障についての新たな理念をよく見なければならぬと思います。社会保障即救貧であるという
考え方は、かえって旧軍人遺族の方々と
国民との
関係を分裂させるもので、お気の毒な遺族や傷病者の
立場をかえって不幸にするものと、われわれは
考えるわけでありまして、まして、今次大戦の犠牲となった一般戦争犠牲者は、今のような政府の
やり方でいきますと、いつの日に国家の施策によって処理されるかわからない
状況にあるわけであります。
こういうことを
考えましたとき、われわれは今回のこの政府の出しておりまする
法律案の中に、将来の
国民年金制度の構想が取り入れられていないという点に、強く反対するわけでありまして、結局、私はわが社会党の主張しておりまする恩給法
改正の構想というこの
考え方に立たなければ、遺族の方も、傷病者の方も、老齢者の方も、また
一般国民も救われない、このことを強く訴えて、私の反対討論にかえたいと思うわけであります。