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井堀繁雄君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま議題になりました
公職選挙法の一部を
改正する
法律案に関連いたしまして、
岸総理並びに大蔵、法務、
自治庁の各
国務大臣に対して質問をいたしたいと存じます。
まず第一に、
政府が
選挙法の
改正をなさんとしたその
意図について、ぜひただしておきたいと思うのであります。
公職選挙法の
改正は、申すまでもなく、
主権在民の憲法のもとにありまする日本にありましては、
国家、
国民にとってきわめて重大なる問題と申さなければならないのであります。
選挙法を、
軽々に、一
党一派や、あるいは
主権者である
国民の審判を受ける側にある者が、これをいたずらに
改正すべきものでないことは、今さら申すまでもありません。しかも、本
国会は、会期も余すところわずかとなっておるのであります。かく押し詰まって参りました今日、かかる
重要法案を唐突として提案されました
政府の
意図が那辺にあるかを、私どもは
国民とともに強い疑いを持っておるのであります。一体、
政府は、この
国会の短かい会期中に、かかる
重要法案を十分に審議せしめる時間的操作をどのようにお考えになっておるか、また、この
法案の性質から申し上げますならば当然
公聴会を開くべき事柄でありまして、その
措置をとる時間的余裕が果してあるか、また、これに対する
政府の
措置はいかなるものであるかを明確にしていただきたいと思うのであります。申すまでもなく、
議員及び
政党にとりましてはきわめて
利害関係の強い
法案でありまして、従って、それ自体を、
議員やあるいは
政党が、
国民の
意思を問うことなく、かかる
法案を唐突として提案することは、その
手続自体に非常な不
合理があるということを指摘し、
政府はこれに対するいかなる
見解をお持ちになっておりますかを明らかにしていただきたいと思うのであります。
元来、
公職選挙法は、
選挙に関する
基本法でありますのみならず、
民主政治のもとにおきましては、
主権者たる
国民の公器である。それを、従来、
選挙の
たびごとに、また
選挙の
種類ごとに、とかく
軽々に
選挙法を
改正しようとするきらいが多かったのであります。私は、かかる
行為は、
公職選挙の
基本法でありまする本法の
法律の権威を傷つけるのみでなく、その
内容などにつきましても、よほど慎重でなければならぬと思うのであります。これは
民主政治に深い理解を持つ人々の大きな憂いとなっておるところでありまして、われわれ
民主政治の
理想を追求せんといたします者にとりましては、厳にその
態度を戒めなければならぬと思うのであります。ことに、今回提案されました、
法律案の
内容を拝見いたしますと、いかにも、その
内容が、現
議員の
立場を有利に導き、反対に、多くの自由にしてかつ積極的に
民主議会に出ようとする多くの新人のために非常な圧力となるべき
内容のものが盛られておる点については、われわれはまことに遺憾とするものでありますが、この点に対しまして、
総理大臣の
見解を
お尋ねいたしておきたいと思います。
きっと、
総理は、しからずと御答弁なさるかもしれませんが、といたしまするならば、次のことを私は明らかにする
義務が必然的に生ずると思うのであります。それは、この
衆議院議員の任期は、
法律に基きまするならば、まだ多くの時日を残しておるのでありますけれども、要するに、世論に伝えられておりまする
選挙の時期は
解散とともに考えなければならぬのでありますから、その
解散権を握っておりまする
総理大臣といたしましては、かかる
法案を提案する限りにおいては、その
解散の時期、必然、
選挙の期日というものをある程度明確にして本案を
提出し、あるいは提案の
理由に明らかにすべきものであると思うのであります。巷間伝えるところによりますと、五月十八日の日曜を
投票の目途に
解散を断行するものではないかと聞き及ぶのでありますが、かかる世論が台頭してきておるということは、申すまでもなく、一国の
総理でありまする
岸総理大臣のその
責任を非難する声と私は見るべきであると思いますが、この非難にこたえて、明確な
態度をこの
機会に打ち出すべきものではないかと思うのであります。この点に対する
総理の率直なる御
見解を承わっておきたいと思います。次に、第二の問題は
改正案の
内容であります。詳細はいずれ
委員会において論議を尽したいと思うのでありまするが、重要と思われる点を一、二にしぼりまして
お尋ねをいたしてみたいと思います。それは、この
法案の一番大きな
影響力を持つと思いまするのは、
選挙運動期間を
衆議院の場合に限って二十五日から二十日間に短縮いたしておる点であります。
政府の述べるところによりますると、
交通機関や
宣伝機関など、すなわち
選挙運動に対する
合理的な
事情の発生したことをあげておりますが、私も、これに対しましては同意をするにやぶさかではありません。しかし、その
理由をあげるにおきましては、次のことを明確にしなければならぬと思います。
選挙法の
精神は、ここで説くまでもございません。
選挙法の
目的は、
選挙を受ける、すなわち被
選挙者の
立場ではなくて、
有権者である
主権者の
立場から自由にして公正なる
意思の表明が行われ、言いかえれば、
候補者の人物や政見あるいは
政党の
政策などに対して、あまねく
批判と検討の上で、自由とその
立場が保障されなければならぬことになりまするから、もし二十日間にして、
衆議院議員の
選挙に
当りまして、
有権者のその
目的が達せられまするような
措置が同時に講じられて、また、それが
国民にうなずかれる
内容を備えてこそ、この短縮に対する
主張が
合理化されてくると私は思うのでありまするが、残念ながら、ただいまの
提案理由や、あるいは
政府の提案されておりまするいろいろな
参考資料の上からは、そのみじんも感じ取ることができないのみならず、反対にそのことは
選挙人の自由を奪うのみではなくて、それはきわめて短期のうちに公正なる
選挙を行うというのではなく、
公明選挙の実を上げるというものとはおよそ縁の遠い、身勝手な
議員の
主張が盛り込まれておるやに一般の疑いを受けているのでありまして、このことは、
民主議会の名誉の上からも、私は明確にする必要があると思うのであります。もしこの点についてしからずという
主張がありまするならば、この
機会に具体的にいたしていただきたいと思います。
その次は、
選挙法の第一条の
精神についてこの際、
総理大臣並びに
自治庁長官に明確な御
見解を述べていただこうと思うのであります。
説明いたしまするまでもなく、第一条に明らかにしております
精神は、
有権者の自由なる
意思が表明いたされるためのあらゆる便宜なる
措置をこの
法律は命じており、また、第百五十三条の四項には、これを具体的に言い表わしております。すなわち、
立会演説会の開催は
事情の許す限り回数を多くするように努めなければならぬということを命じておるのであります。ところが、二十日間に——二十五日を五日間圧縮いたしますことによって、私は、このことを遂行することに非常な障害となり、すなわち、反動的な傾向を持つ
改正であるといわれましても、返す言葉がないと思うのであります。この
選挙法の
精神にこの
改正は相反するのではないかと思うのでありまするが、しからずとするならば、そうでない具体的な事実を、
自治庁長官において、この際明らかにさるべき
義務があると思うのであります。
次に、この
改正の中で
選挙の
管理あるいはその執行を
合理化せんとする
意図がありまする点については、われわれも賛意を表するところであります。しかし、残念ながら、その中身は全く空虚なものでありまして、わずかに法文や
規定を整備し、取り立てて申し上げまするならば、選管が証人を喚問する
制度を設けたのと、
町村の
選挙管理委員の三名の定員を四名に改めたという程度にしかすぎぬのであります。真に
選挙管理を
合理化するといたしますならば、私は、
選挙法の
改正というよりは、
現行選挙法を、厳正に、かつ、その運営の面におきまして、あるいは行政的な面におきまして
政府が真摯な
態度をもってこれを実行に移そうとすれば、十分
公明選挙の実を上げる余地が残されておると思うのでありまするが、この点に対する
総理並びに
自治庁長官の
見解を
お尋ねいたしておきたいと思います。
この点については、
自治庁長官には、やや具体的な事実を列挙いたしまして、この
機会に御答弁を願っておきたいと思います。
それは、
現行公職選挙法によりますると、
公職の
選挙というものは、
選挙管理委員会をあらゆる
権力から
独立せしめ、あらゆる
権力から干渉を受けない自由なる
立場における
選挙管理委員会が
選挙を執行し、
管理をするというところに、
選挙法の
面目躍如たるものがあるわけであります。ところが、現実の面におきましては、その組織や機能というものを拘束するのみならず、圧力をすら加えて、その自由を奪っておるのではないかと、それぞれの
専門家の間において
批判が行われております。この非難を排除する意味からも、
政府より、この際、次の事柄について明確な御答弁をいただいておきたいと思います。すなわち、今日の
選挙管理委員会というものは、一応形の上では
民主的手続をして選び、その
人選についても
法律はそれぞれ厳正公平で、いずれの
立場にも偏せない公正な人を選ぶことを
規定しておるのでありますが、人間の社会でありまするから、必ずしも
理想通りいかぬといたしましても、この点にも多くの改善と
政府の
責任を私は問うものがたくさんあると思いますが、この点に対して
政府は反省する余地はないか。
次に、
選挙管理委員会の
独立を形式的に
法律が許しましても、その実質は、わずかに
選挙管理委員が
名誉職的態度においてこれを遂行しようとする
現状は、これは空虚な姿となっておるのでありまして、これに地位を与えるには
——実質を与えるには、私は、まず第一に、
選挙管理委員会に専属する
事務局を
設置しなければならぬと思うのでありますが、その
設置を今日まで
政府は怠っておるのみならず、たびたび
選挙管理委員会などの要請があるにもかかわらず、この
設置を、故意にか、拒否しておりまするのは、いかなる
理由でございましょうか。これを
設置する
意思が
総理にあるかどうか。
第二の問題は、これと並んで書記の
専任制が実施されてこなければならぬのであります。一人の書記も持たない
選挙管理委員会が、こんな重要な事務を、また重要な
事項を
管理するということは、不可能に近いことであります。この点を、私は、ぜひ充実しなければ、
選挙の
公明化をはかるといいましても、しょせんは木によって魚を求める結果になると思うのであります。
第三の問題は、やや具体的に不
合理が指摘されておりまする問題であります。それは、
地方の
選挙管理委員会の
委員の
人選並びにその実態であります。御存じのように、公選の
知事、あるいは
市町村の首長、これらの
選挙は、
地方の
選挙管理委員会によって
管理されておりますことは申すまでもありません。その
選挙管理委員の
人選を見ますると、
知事のもとに任免されておりますところの副
知事でありますとか、あるいは部長がその任にあり、あるいは首長のもとに
指揮命令に従うべき助役や
収入役が
選挙管理委員になっておる。いわば、身分の上からいえば自分の上司であり、自分の地位をいつでも剥奪することのできる
指揮権を持っている
人たちのために、一体、公正な
選挙管理が行われるはずがないのであります。こういう実態をそのままにして私は公正な
選挙を行うというところに矛盾があると思うのでありますが、これをすみやかに改める御
意思はありませんか。
次に、いずれも、こういう
委員会がありましても、
予算を与えていないのであります。その
予算権は、その
選挙の
管理を受ける側の
知事や
市町村長が、その
自治予算の中からわずかに割愛するというやり方でありますから、お恵みによって
選挙管理委員会の費用がまかなわれているというようなところに、どうして
独立した公正厳正なる
選挙管理が行われるでありましょうか。かような矛盾を放任すべきものではないと思うのでありますが、これに
予算を与える御
意思はないか。
また、
選挙管理委員会の
独立は、今日、
自治法によって、ある程度そこなわれております。これは、歴史的な
事情があって、やむを得ないことかもしれませんけれども、たとえば、
自治法第百八十条の
規定のごときは、
選挙管理委員会の
独立をそこなうものというか、その
弱体化をするがごとき
内容のもので、あります。こういうものを改めて、
選挙管理に関する
事項というももは
自治法から
公職選挙法に移さるべきものであると思いまするが、そういうことについてお考えがございましたならば、この際明らかにしていただきたいと思うのであります。
以上、七点をあげておきましたが、こういう点は、何も
法律改正を行わなくても、行政的な
措置もしくは
政府の運営を
合理化するという
責任の範囲内においてなし得ることであります。こういうなし得ることを行わないで、先ほど申し上げました、基本的な
公職選挙のよりどころでありまするかかる方案を、
選挙の
たびごとに、あるいは
選挙の
種類ごとに、たびたび変更いたすということは、しかも
選挙のまぎわにきてこれをやるということは、
選挙管理を行うものといたしましては、また
選挙を取り締るものといたしましては、迷惑千万、というよりは、公正なる法の運用というものはできるものではありません。昔のように、封建的に、その
権力のもとによらしめるというのでありますならば、しばらく別でありますが、少くとも
民主政治を指向する今日においては、
有権者、
選挙民の理解と納得の上にこれがなされなければならぬと思うのであります。
次に、時間がありませんから簡単に
お尋ねをいたしておきたいと思いますのは、
選挙の
取締りについてであります。もちろん、
公明選挙の
理想からいたしますならば、官憲の
取締りによって
選挙を
公明化するということの好ましくないことは申すまでもありません。また、これを強行すると
選挙は暗くなるのでありまして、まことに矛盾するものでございますけれども、
現状におきましては、どうしても
選挙法に
規定されておりまする
違法行為だけは厳正公平に取り締らなければならぬと思うのであります。ところが、最近、
解散を見越してか、猛烈な
事前運動に類する
行為が露骨に現われてきておるのでありますが、一向に検察、
警察当局はこれに対して目をおおうかのごとき
現状で、これが一般から非難されつつあるのであります。一つには、これは、
鳩山内閣のときに、
選挙違反事項に関しまして大赦の恩恵を与えましてその結果、全く
検察当局及び
警察当局の努力というものが水泡に帰せしめられた。このことは、私は当事者にとっては当然そういう気持になると思うのでありまして、かかる事態を私どもは猛烈に反省する必要があると思う。特に
政府の
立場にあるものといたしましては、近くまた恩赦のごさたもあるやに聞くのでありますが、私は、
選挙違反のようなものは、
民主政治の
理想を追求する
立場からいたしますならば
破廉恥罪だと思う。その
破廉恥罪が依然として今日許されるということは、
国民の側にも反省を求める声を聞くのであります。
私は、この点に関連いたしまして次に
お尋ねをいたす所存でありますが、ここで
法務大臣に明らかにしていただきたいと思いまするのは、かかる恩赦などによって一ぺん失敗をいたしましたことを再び繰り返さないこと。さらに、それを取り返すために、今
事前運動に類するような露骨な
行為に対しまして、
政府はいかなる
措置をとろうとするか。あるいは、今後行われんとする
衆議院の総
選挙を通じて、
公職選挙に対する
取締りの方針というものが、この
内閣にはあるはずだと思いまするが、この
機会に明示される必要があると思いますので、このことを
法務大臣から御答弁いただきたいと思うのであります。
最後に、ぜひ明確にいたしておきたいと思いますることは、特に
岸総理におきましては、
汚職の追放に熱心な御
主張をなさっておいでになるのでありますが、
汚職を温存するそのもとは何かといえば、言うまでもなく、私は
選挙の公正が期せられないところにあると言って言い過ぎではないと思うのであります。そのもとをきわめることは
公明選挙を実施せしめるにあることは、多くの
先進国の例を見ても明らかでありまして、このことを実現いたしまするためには、現行の
選挙法第六条、第二百六十一条の
規定に対して、
政府が忠実にその
目的遂行のために努力されることによって多くの効果を期待できると私は思う。また、ヨーロッパの
民主主義に成功いたしておる国々におきましては、その顕著なるものがあるのでありまして、
国会はこの点について何回か決議をし、
政府にその決意を迫ったのでありますが、昨年、ようやく、第六条の
精神によりまして、すなわち、
選挙民の
政治常識の向上のため、常時啓発、周知のための
予算を、わずか一億円でありまするけれども、
委託費として組まれたことは、私は大いに敬意を表するに値すると思うのでありますが、残念なことには、その金額はあまりにも少額でありまして
有権者の割合にいたしますと、一億といいますならば、一人
当り二円にも満たないものであります。そんな少額なもので、かかる大きな
民主主義政治確立の基礎、また
汚職の根源を断とうとする大仕事をなさせようとすることは、いかにも申訳にすぎない、ほんの
国会に義理立てしたというにすぎない金額でありまして、この
機会に、思い切って、かかるものに
予算を割愛されることによって
公明選挙の実をあげることが可能だと思いますが、この点に対する
総理並びに大蔵大臣の
見解をただしておきたいと思います。
以上、はなはだ簡単でございましたけれども、
お尋ねをいたして、私の質問を終りたいと思います。(拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕