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岡良一君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、今全
国民が多大の
関心を寄せておりまする米英両国に対する動力
協定につきまして
政府の所信をただし、あわせて、その責任を明らかにいたしたいと存ずるのであります。(
拍手)
まず第一に、岸総理、藤山外相並びに正力国務大臣にお尋ねをいたします。昨年の半ばから、
政府の一部においては動力
協定を急ぐべきであるという態度が露骨と相なりまして、これに対し、最近の新聞は、御存じのごとく、ほとんどあげて、その論説を通じて、
政府に自重を警告いたしておるのであります。しかるに、この世論を無視いたしまして、ワシントンにおいては対米動力
協定がもはや調印の寸前に差し迫っておるのである。対米
協定においては、対英
協定において問題になった免責条項や保障条項はそのままそっくり含まれておるのであります。かつて、藤山外務大臣は、対英
協定の免責条項については、これを拒否しつつ交渉をすると、本院において言明をしておられる。ところが、今回、突如として、全く同様の免責条項を含むアメリカとの動力
協定を無条件でのむことになったのである。これは明らかに藤山外務大臣の重大な食言であり、二枚舌外交と申さねばなりません。(
拍手)ここに外務大臣の責任ある
答弁を要求するものであります。
また、原子力
委員会は、動力
協定を結ばねば、重水やプルトニウム、濃縮ウランの入手に一々国会の
承認を得る必要があると言うておるが、国会の
承認を得るのがわずらわしいという公言をすることは国会侮辱もはなはだしいと申さねばなりません。(
拍手)正力国務大臣の真意を伺いたいのである。
また、イギリスの場合、燃料は原子力発電会社が使用するが、事故が生じた場合の損害が大きく、
日本政府の負担となることを認めておる。これでは、事故が起った場合、資本金三百億の原子力発電会社ではとても賠償の負担にたえられないという事実を、
政府みずからが是認をすることに相なっておる。こうなれば、むしろ、
政府としては、英米に対する動力
協定はこれを一時見合わして、十分検討を加え、
国民の不安を取り除くことが最も妥当な
方法ではありませんか。(
拍手)英国はもとより、対米
協定においても、七トンという大量な濃縮ウランは、当然実用動力炉の燃料に違いないのである。いずれにしても、いわゆる無担保条項を
承認し、免責条項をのみ、保障条項を受け入れる総理大臣は、このような結果
わが国における原子力の開発が
一体どのような
状態に追い込まれると思っておられるでありましょうか。研究
協定の免責条項とは全く本質的に違っておるのである。事態は全く違っておるのである。
日本が何百億という巨額の資本を投じ、
外国から燃料や原子炉を買い込む。これを運転すれば、その経過は逐一相手国に
報告をしなくてはならぬ。その上、相手国は立ち入り検査にやって来る。ここまで相手に譲歩をしながら、燃料や原子炉に間違いがあって事故が起ったときは、その損害の賠償は
日本政府が全部かぶらねばならぬというのである。その上、使用済みの燃料からはプルトニウムを取り出すことができる。このプルトニウムの取扱いも、
日本の所有権よりもアメリカの買取権が優先するということに相なっておる。従って、プルトニウムを原爆材料に使わないとは口約束だけで、たとい相手国が原水爆弾頭にこのプルトニウムをどんどん使われても、
日本から渡したものが使われたかどうかということは
日本として知るすべもないという
状態に置かれるのである。総理は、動力
協定の結果起るこの事実を
一体何と思われるのであるか。これでは平和利用を大前提とする原子力基本法にうたわれた自主、民主、公開の三原則はみじんに打ち砕かれてしまっておる。まさしく、米英に対する動力
協定は、原子力の分野におけるMSA
協定である。自衛を名として
憲法を改正せんとするごとく、平和利用を名として
日本の原子力開発を大国に従属せしめるばかりではない、かえって大国の核武装に協力せんとするおそれさえある米英動力
協定に対しては、総理は
国民の世論にかんがみ、最も慎重に臨んでもらわねばならぬ。当然米英動力
協定の調印はこれを保留すべしと存ずるのであるが、この際総理の率直なる所信を伺いたい。
次に、私は、動力炉の安全性に関し、原子炉設置の許可権を持っておられる総理大臣、並びに、設置の可否について総理に意見を具申すべき正力原子力
委員長にお尋ねをいたしたい。
日本の現状において、導入する動力炉の安全性は将来における
わが国原子力発達の運命を左右する最も重大な大前提である。しかも、原子炉は、やりそこなったからやり直すということは絶対に許されないしろものである。しかも、アメリカの原子力
委員会の公式基準によれば、万一発電用の原子炉が大事故を起した場合、半径百六十キロ以内の住民は緊急避難をしなければならないとさえもいわれておる。従って、東海村に第一号炉が置かれ、事故が発生すれば、
東京都民は死の灰の危害を避けるためには疎開をしなければならないのである。ところが、正力
委員長は原子力発電会社のイギリスにおける調査の結果を検討して、安全とあれば、免責条項をのんで対英
協定を調印すると、最近放言をしておられる。まことに本末転倒の放言と申さねばならぬ。(
拍手)元来、イギリスにしろ、アメリカにしろ、この免責条項を持ち出したゆえんのものは、彼らの提供する原子燃料についてまだ自信が持てない。従って、
日本がこれを受け取って万一事故が起っても、これは
日本政府の方で責任を持ってくれという趣旨のものである。彼ら自身は、原子炉の事故は避けられないというその危険性を、はっきり言明をいたしておるのである。これを、わずか二カ月足らずの、しかも一度も本格的な実験をしない青写真と数字的な検討で安全性を吹聴するなどは、まことに軽率千万と申さなければなりません。(
拍手)もし、
日本側において、それほど安全性について自信が持てるなら、堂々、英国にその事実を示して、今問題となっているような一方的な免責条項の撤廃を要求することが、外交の常識ではありませんか。
一体、正力国務大臣はいかに考えておられるのであるか、この機会に責任ある所見を伺いたい。
さらに、私は、一個の試案を示して、総理並びに正力
委員長の善処を求めたいのである。正力
委員長は、原子力
委員会の下部に安全性に関する小
委員会を設けて検討したいと申しておるようであるが、
大学の小さな研究炉でさえ、高槻の場合にしても、宇治の場合にしても、設置したい側の人が運動しても、現実にはなかなか話がまとまっておらない。そこで、この際、原子炉の安全性に関して、公正にして権威ある諮問機関を設置することである。この第三者的組織が十分に安全性を検討し、その結論に基いて総理は設置の許可をすることである。アメリカでは、原子炉設置の一件書類は、原子力
委員会から直ちに安全諮問
委員会に回され、諮問
委員会は、その安全性を検討して、さらにその経過のすべてを公開し、第三者の聴聞会を開き、その意見を待って、その上でなお仮免許を与えるという手続をとっておる。先進国でさえ、このように慎重をきわめておるのに、
わが国においては、ただ安全だ、安全だと、科学的な検討や実験を加えることなく、しかも、わざわざ英国まで出かけていって、その調査団が、いかにして安全であるかという事実の公表さえもしておらない始末である。
政府は、この際、よろしく独自な立場において安全性を検討するための権威ある第三者的機関を設置し、いかなる原子炉も住民や学界の納得と協力を求めて初めて設置をするという方針を確定すべきである。ここに総理大臣の責任ある御所信を伺いたい。
次に、私は大蔵大臣にお尋ねをいたしたい。さきにも申し述べたるごとく、原子炉、なかんずく発電用原子炉の災害はきわめて大規模であり、その損害も当然莫大である。そのため、イギリスは民間保険で五百万ポンド、その上は
政府が無制限に補償をしようといたしておる。アメリカでは、昨年の十一月の議会において、民間保険の限度を六千万ドル、その上は最高一件当り五億ドルという莫大な額を
政府の補償として支出することを立法化いたしてしまっておる。
わが国の総
予算の二〇%に近いものが一個の動力炉の災害補償に投ぜられようとしておるのが現実である。大蔵大臣は、先般の閣議了解において、動力
協定の調印の促進について賛意を表しておられるが、果して責任ある国家補償についていかなる具体的な決意を持っておられるのであるか。もしあったとせられるならば、その点を明確にお示し願いたいのである。(
拍手)
最後に、私は総理大臣並びに外務大臣にお尋ねをいたしたい。率直に申し上げて、私は、現在の
政府の国際原子土機関に対する態度はまことに冷淡であると申し上げたい。昨年十月、八十教カ国の
加盟国を集めて国際原子力機関が発足をいたしました。その憲章には、原子力の平和利用を推進をして世界の平和と人類の繁栄に貢献しようと、堂々と宣言をいたしておる。しかも、この機関は、原子力のおくれた国国に対しては必要なる情報や資材や施設などの提供から、必要とあらば資金のあっせんまでもやろうといたしておるのである。しかも、
わが国は、第一回の総会においては、アジアの諸国を代表して、この機関の理事国に選ばれておる。従って、
わが国は、当然この機関の運営に関しては重大な直接の責任を分つ立場に立っておるのである。しかるに、この重大な国際的な責任を忘れて安易な道を選び、大国との動力
協定に急がんとする、私はこのような態度を冷淡と申し上げる。早く
協定を結ばねば、この秋の第二号炉の原料や燃料の間に合わないと申すが、しかしながら、機関にはすでに五千七十キロの濃縮ウランがある。五百五十トンのイエロー・ケーキが提供されておる。トリウムもある。重水やプルトニウムや高濃縮ウランもすでにほとんど研究
協定のワク内で買うことができるのである。こうなってみれば、決して今日
日本においては動力
協定を急ぐ必要はごうもないのである。しかも、この九月には
国連が主催する原子力平和利用の国際
会議がある。この
会議では、原子力発電の安全性や
経済性が世界の専門的な権威によって討議されることとなっておる。このジュネーブ
会議と、引き続き開催される国際原子力機関の第二回総会によって、世界の原子力開発における共同の態勢というものは大きく前進しようとしておるのである。このような重要な歴史的時期を迎えながら、
政府は
一体何を求めて大国との間にひもつき動力
協定を急がんとするのであるか、われわれはその真意を解するに苦しむものである。このようなやり方こそ、
日本の原子力開発を大国に従属せしめるばかりでなく、東西両陣営の対立を原子力の分野に拡大して、国際緊張をむしろかき立てるものであって、平和を旗じるしとする
わが国原子力外交の行く道では断じてないはずである。よろしく、動力
協定はジュネーブにおける原子力平和利用の国際
会議、国際原子力機関の第二回総会までこれを保留して、
会議の成果を見届けた上で原子力発電を含む
日本の原子力開発
計画を練り直し、国際原子力機関の理事国として内部から推進しながら、しかも援助の機能を強化する。これが理事国たる
日本に与えられた重大な当然の任務である。(
拍手)原水爆を禁止し、原子力をして世界の平和と人類の福祉に貢献せしめんとする全
国民の悲願に忠実なるゆえんでなければならない。
国連中心を呼号する
政府は、当然、国際原子力機関中心に
日本の原子力外交を進むべきであって、この際、大国依存は断固として退けるべきではなかろうか。ここに岸総理並びに藤山外務大臣の所信を伺って私の質問を終ります。(
拍手)
〔国務大臣岸信介君
登壇〕