○田中幾三郎君 私は
日本社会党を代表して、ただいま
趣旨説明のございました
刑法の一部
改正法律案、そのうちで、特にあっせん収賄に関する
規定、集合に関する
規定について、若干の質問をいたさんとするものであります。
本法案は、ついに、ようやく、今日ここに提案されたのであります。汚職追放は岸
内閣の三大スローガンの一つであって、あっせん収賄罪を
刑法中に加えるということはその
措置として必要であり、岸
内閣も、総理も、つとにこれを言明いたしておったにかかわらず、今
国会もはや三カ月を
経過いたしました今日、ようやくこの
法案が提出されましたことは、私は岸総理が果して汚職追放を真に心からやるつもりであるかどうかということについて疑わざるを得ないのであります。(
拍手)
昨日、法務大臣は、参議院におきまして、法制
審議会の
審議に手間がかかったということを申しましたが、ただいま法務大臣も申された通り、この
法案はすでに大正五年に立案された古い
法案であるのでありまして、今さらこれの
審議に時日を要するということは、私ども理解し得ざるところであります。聞くところによりますと、党内にはこの
法案に対する非常に大きな反発があって、党内と
政府との間に調整を要するがために時日を要したということを聞いておるのであります。(
拍手)なるほど、この
法案は、まことに国
会議員を含む公務員にやいばを向ける
法案であります。事によってはみずから作った
法律によってみずから逮捕せられなければならぬかもしれない
法案でありまするので、この
法案の
審議について
関係ある公務員諸君が非常に関心を持たれるのはもっともであります。けれども、ただいま法務大臣の申された通り、各般の行為を網羅すべきであったけれども、さしあたってこの
法案を提出したと申されました。これは、この
法案に対しまして、世間は、ざる
法案である、骨抜き
法案であるというこの批評の通り、語るに落ちたものではないかと私は思う。(
拍手)各般の行為を網羅せずして何を追放するのでありますか。
私は以下、この
法案はざる
法案である、骨抜き
法案であるという点について、二、三質問をいたさんとするものであります。(
拍手)
そもそも、公務員は国家全体の奉仕者であって、その与えられた権限と地位は公的なものである、一身に属する私的な権利ではないのでありますから、その職務に関する限り、公けの
給与以外には何人からも不当な金銭その他の
利益の提供を受けてはならないのであります。(
拍手)この公けの地位、権限を私有化して
利益と結びつくところから公務員の倫理が乱れるのであります。規律がゆるむのであります。腐敗が生ずるのであります。公務員が、自己の職務の権限外の行為であっても、その地位を利用して他の公務員の職務行為をあっせんするのであるならば、いわば間接的に他の職務に関与することとなるのであって、これに
関係して金銭その他の
利益を得るということは何らの合法性もない。公務員の公けの職務権限を汚すことは直接公務に関して
利益を得ることと何らの違いがないと信ずるのであります。(
拍手)
あっせん収賄を刑罰の対象とする法的理念は、現行
刑法が自己の職務に関してわいろを収受することを公務員の公正と純潔を犯すものと解釈するのと同様に、公務員が自分の地位を利用してほかの公務員の職務をあっせんすること自体もまたその公務員の純潔と公正を害するものと理解するからであります。このことは、先ほども申しました通り、すでに
昭和十五年の
刑法改正仮案においても認められておるのでありまするし、
昭和十六年には貴族院は通過いたしましたけれども、衆議院において否決の運命を持ったのであります。公務員がその地位を利用してほかの公務員の職務に属する事項についてあっせんをすること、またなしたことについて、わいろを収受することを、あっせん収賄罪として認めようとしたのが、この
法案であります。
わが
社会党は、
昭和二十九年の第十九
国会において、これとほとんど同
趣旨の
法案を提出いたしましたが、
審議未了に終りまして、さらに
昭和三十二年第二十六
国会におきまして提案をいたしまして、目下継続
審議中であることは、御
承知の通りであります。ただいま法務大臣が
説明されました通り、
本案はわが
社会党の提出しておりまするところの
法案と著しくその
内容を異にいたしております。ただ、あっせんして、それに対するわいろを取っただけでは、処罰しないのであります。すなわち、
本法案によりますと、あっせんされる行為が不正なることを要する。そのあっせんをするという行為に不正であるという制限をつけておるのであります。たとえば、大臣や国
会議員や官庁の役人が、他人から頼まれて、他の役人に認可や許可や物件の払い下げや低利
資金の借り入れをあっせんして謝礼をもらっても、不正の行為さえあっせんしなければ何ら罪とならぬのでありまして、そういうことになりますと、大臣や議員や役人や、その地位や肩書きを利用する周旋屋が、政界、官界を横行いたしまして、大手を振って公然とこれを行うこととなりまして、官界、政界の粛正どころか、むしろ綱紀はゆるみ、純潔は汚れ、ボスとブローカー横行の腐敗社会を出現するであろうと思うのであります。(
拍手)今日までこういう考えのもとにしばしば逮捕された事件がありましたけれども、現行
刑法の讀職罪のもとにおいては、この抜け穴を通って、いずれも無罪になっておるのであります。お気の毒でありますけれども、昭電事件の判決に見ますると、外務大臣であり特別
調達庁の長官である者が、進駐軍の資材の
政府支払いに関することを閣議に持ち込んで、その外務大臣たる地位を利用して閣議の決定を業者に有利に取り計らっても、外務大臣は閣議の決定権がないから、それは職務権限外のことである、職務に関したことではない、こういうふうに認定されております。また、外務大臣が業者を特定金融機関に紹介して、復興金融公庫から
融資をするについて有利に取り計らって謝礼を受けても、特定金融機関を直接指揮監督するのは大蔵大臣であるから、外務大臣が口をきいても職務に関したものではないのであって、紹介行為と見るべきであるから、収賄とは認められないというのが、この判決の
趣旨であります。
公務員の地位、肩書きというものは一つの威力であります。非常な影響力を持っております。その地位に伴う力を利用して他の公務員に働きかけて、その利用価値に対してわいろを受けるということは、それ自体不純であり、不潔であり、不公正であり、綱紀を紊乱すると思うのでありまして、われわれの倫理観、正義観から見まするならば、この地位を利用する者こそ責任を追及さるべきであると信ずるのであります。(
拍手)この欠陥を補うために世間はあっせん収賄罪を要求いたしておるのであります。しかるに、
本法案は、この欠陥を少しも救済しないで、むしろ構成要件をきつくしぼって、犯罪の成立を困難にいたしておるのであります。すなわち、こういうことが許されるならば汚職あっせんを公認することになるのでありまして、(
拍手)われわれは断じてこの
程度のあっせん収賄罪では汚職追放はできないと信ずるのであります。
法務大臣にお伺いをいたしますが、この
法案の抜け穴は幾つもあります。すなわち、一つは請託の有無を要求しておりますから、請託を受けたのかどうかということによって言いわけができるのであります。たとえば、みずから進んであっせんに乗り出したり、また、人のやっておることに割り込んであっせんに乗り出したりするような一人は、請託を受けたのではないからといって、免れて恥なきやからとなるのであります。(
拍手)その立証をいかにいたしますか。
第二に、不正の行為をなさしめること、また相当の行為をしないことをあっせんした場合に限っておりますが、認可や、許可や、払い下げや、そのような行政行為あるいは金融を頼む等の業務行為をあっせんして
利益をとっても、これを見のがすということはあなたの正義観はこれを許すでありましょうか。ここにも逃げ道があると信ずるのであります。しかも、いま一つの抜け穴は、現行
刑法におきましては、職務に関してわいろを取った、与えたという単純なわいろの事実行為を罰しておりますが、
本法案によりますと、報酬としてわいろを受け取らなければ犯罪にならないというのであります。報酬として受け取らなければ、他日選挙の
費用をもらうようなときとか、あるいはそのほかに名をかりて、報酬ではないといってのがれていくおそれがあるのでありまして、われわれのみならず、世間はこれをざる
法案、骨抜き
法案というのはこういうところが抜けておるから言うのでありますが、法務大臣はいかにお考えでありますか。(
拍手)
さらに、先ほどもちょっと触れましたけれども、本犯罪の本質についてであります。すなわち、何をやったことが悪いのであるか、犯罪の対象についてであります。
本法案によりますと、不正行為をなし、または相当の行為をなさないというあっせんをされた者の行為を対象とするのであります。あっせんされた者が不正行為をする、相当の行為をしないというその公務員の行為を対象として罰するのでありますか、さもなくて、肩書きや地位や顔を利用してあっせんするという公務員のこの行為を罰しておるのでありますか、いすれを対象といたしておるのでありますか。先ほどは公務員の公正と廉潔ということを申されましたが、その公務員の公正と廉潔は何人によって犯されておるかということであります。この点を御答弁願いたいと存ずるのであります。
さらに、私は、総理大臣に対しまして、今の点に触れて、あなたは汚職追放を念願としておるのでございますし、公務員の公正と廉潔を主張なさっておるのでありますが、ただいまの点に触れまして、かようなあっせんを、公務員がその地位や肩書きや顔を利用してあっせんするというその公務員は果して廉潔であるか、公正を保っておるのであるか、あなたのこの点に対する正義観、倫理観というものを私はお伺いいたしたいのであります。(
拍手)
さらに、この
法律一つをもっていたしましては、綱紀の粛正、政官界の浄化のできないことはもちろんであります。先ほども第三者供賄罪の話が出ましたけれども、この点は、なるほど、
昭和十六年から第三者供賄の犯罪は四人しかなかったということであります。この点は、私は、いかに第三者に供賄をして抜け道があったかということをむしろ証明することであると思う。でありますから、これを罰するがために、やはり政治
資金規正法を
改正いたしまして、自分ではあっせん収賄することなく、あっせん収賄行為に対して政党あるいは政党の幹部その他の公共団体に金を取らしめるというところに抜け道があるのでありまするから、政治
資金規正法を
改正して、これとこの
法律と相待って実行するにあらざれば、綱紀の粛正も政官界の浄化も不可能であると信ずるのであります。(
拍手)
私はさらに、この問題に
関係いたしまして、あっせん収賄罪は公務員の職務行為に
関係のある犯罪でありますから、ほとんどが政治的背景を舞台に行われる必然性を持っておるのであります。従いまして、その運用におきましても政治的に左右されるのではないかと思うのであります。この犯罪を徹底的に糾明するためには、これに関連して検察権の確立を必要とすると存ずるのであります。かつての造船疑獄のように、指揮権の発動一つによって事件がうやむやのうちに葬り去られるようなことがありますならば、百のあっせん収賄罪を作っても、何らこれを糾明することはできないのであります。(
拍手)たとい大臣の運命を左右し、時の
政府を倒すようなことがあっても、きぜんたる態度によって検察権を行使しなければ、綱紀の粛正、汚職追放の目的は達せられません。
かつて、大正二年のシーメンス事件におきましても、
昭和三年の田中
内閣の私鉄事件におきましても、
昭和八年の帝人事件におきましても、閣僚から被告を出して
内閣が崩壊することを司法権の前にささえることができなかったのであります。有名なる大隈
内閣の大浦事件におきましては大隈首相、大浦内相の威力をもってしても、平沼検事総長を弾圧指揮することができなかった。汚職の追放は厳正にして公平なる検察権の存することによって初めて可能であります。
内閣と政党の幹部を救済するための指揮権の発動のごときは全く司法権をじゅうりんするものであるといわなければなりません。(
拍手)よって、私は、総理大臣に対しまして、検察庁法第十四条によるところの、司法権の、検察権の発動、すなわち指揮権の行使について何らかの法的
措置を講ずるお考えがありまするかどうか、しからずんば、法務大臣は政党に党籍のない公平無私なる人をもってこれに任ずるの意思があるかどうか、この点についての総理大臣の御意見をお伺いいたしたいと思うのであります。
私は、さらに、
暴力集合罪について、一点、石田労相にお伺いいたしたいと存ずるのであります。
本法案における二百八条は御
承知の通り、二人以上の者が他人の生命、身体または財産に対し共同して害を加うる目的をもって集合したる場合において、凶器を準備しまたはその準備あることを知って集合したる者を処罰する
規定であります。犯罪の形から見まするならば、これは、静止状態、静かなる姿におけるところの犯罪であります。
刑法の百六条によりまする多衆聚合して暴行、脅迫を加えるといういわゆる騒擾罪、これを動的の犯罪といたしまするならば、たとい凶器を持参いたしておりましても、集合しておるという事実を犯罪の対象にいたしまするならば、これは静止状態におけるところの犯罪であります。しかし、この犯罪を取り締るためには百七条の多衆聚合罪があるのでありまして、この点につきましては、この
法律と百七条の犯罪とは全く同じような姿の犯罪であると思うのであります。しかし、集合しておれば形は犯罪でありますけれども、よく調べてみなければ、その目的なり、所持しておるところの凶器がわからないのでありまして、誤まってこれを見まするならば、集合それ自体を犯罪とされるおそれがあるのであります。私がなぜこのことを申しまするかというと、労働省から
昭和三十二年一月十四日に事務次官通牒として出されました「団結権、団体交渉その他の団体行動権に関する労働
教育行政の指針について」という通達がございます。これによりますると、ストライキは正当な行為であるけれども、集団示威を行なったり、張り紙をしたり、歌を歌ったり、ピケラインを張ったりするようなものは、それ自体は、ストライキではなくして、これに随伴する行為であると解釈されておるようであります。従いまして、これらの行為は、禁止も是認もされていないのであるから、正当な行為ということはできない。いわば正でも不正でもない中性的な行為のように解釈いたしておるようであります。しかも、この当然性を主張し得るものではないから、ほかの法益を侵害するときには違法の責めを免れない。静止の状態においてはこれを罰することが——犯罪ではないと一応解釈されておるのでありまするが、この
法律ができましたならば、集合の姿をもって犯罪であるといって、一応検挙、逮捕するおそれがあるのではないかと信ずるのであります。私は、この意味におきまして、労働省のこのようなストライキに対する法的解釈からいたしまして、
本法案による聚合罪を処罰するということは労働運動弾圧への一歩の前進ではないかということをおそれるのであります。この点につきまして労働大臣はいかにお考えになりますか、御答弁をお願いいたす次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕