○岡本隆一君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
国民健康保険法について、
岸総理、一萬田
大蔵大臣並びに堀木厚生大臣に若干の質問を行わんとするものであります。(
拍手)
岸総理は、昨年の春首相就任とともに、貧乏の追放を
国民への公約とされました。まことに大胆にして率直なその所信の披瀝には、私どもは心より尊敬の念を抱きました。そして、貧しさにあえぐ
国民のために、その成果の結実の一日も早からんことを祈りました。しかしながら、その後の
岸内閣の諸
施策を見て参りますと、だんだん私たちのその希望は薄らいでいくのみか、
岸総理が初めてその
責任において
編成されました本年度
予算を見るに及びまして、私たちは大いなる失望を感ぜざるを得なくなりました。(
拍手)
貧乏の追放には、何をおいても、貧窮の一番大きな原因となるところの疾病の対策といたしまして、
医療保障こそ第一義的なものと考えなくてはなりません。
国民皆
保険の声に、
国民の目に大きな輝きが出て参りましたのも、けだし当然といわなくてはなりません。しかるに、大いなる期待の的となっておりました
国民健康保険法改正案も、その
財政的な面における進歩といたしましては、わずかに本
法案においては五分の調整交付金の
制度が設けられたほか、
現行制度に比しまして、さしたる進歩の跡を見ることができません。
国民皆
保険推進のための基礎的諸条件のうちで最も重要な問題は、
国民健康保険の
地方財政に及ぼすところの
財政的圧迫の排除であります。昨年十月末の自治庁の発表を見ましても、
昭和三十一年度の
国民健康保険事業の決算
状況は、全国約二千六百
市町村のうち二千二百までが赤字を出し、
国民健康保険組合の八割強が、
市町村の
一般会計よりの繰入金によって、ようやくその命脈を保っているというのが、その実相であります。(
拍手)
国民健康保険の被
保険者の八五%が月収二万円以下の低額所得層であり、
保険料の
負担能力に乏しい人たちであることは、御
承知でありましょう。
国民健康保険財政が、
医療給付費の二割国庫
負担をもってしてはその運営の不可能であることは、すでに
社会保障制度審議会を初めとして、いやしくも
社会保障に関心を持つ者の間に定説となり、与党内部においてすら、その声がようやく高まりつつあるときに、今回の
改正案においては、これを従前
通りの二割にとどめ、わずかに五%の調整交付金でお茶を濁しておられるのは、全く
岸総理の
医療保障への無理解を暴露したものと断ぜざるを得ません。(
拍手)
社会保障制度審議会は、総理によって委嘱された
社会保障制度に関する最も権威ある機関というべきであります。
日本社会党は、すでに早くより
医療費の三割国庫
負担の必要を強く主張し、
社会保障制度審議会もまたこれを勧告しているのでありますが、岸首相は何ゆえにこれらの正しい声に耳を傾けようとされないのであるか。冷たき心もてわが道を行くと言われるのであれば、
地方公共団体の経済的事情は、いかに法をもって強制しようとも、皆
保険を推進せしめ、
昭和三十五年度をもってそれを完了せしめることは不可能であると思うのでありますが、
岸総理並びに
大蔵大臣の
財政的な観点からの御所見を伺いたいと思うのであります。(
拍手)
次に、吉田元総理は結核撲滅五カ年
計画を立て、
昭和二十八年、結核予防法が施行されました。自来五年、結核の死亡数は半減いたしましたが、結核患者は依然として減少せず、その数三百万と称せられております。そして、その猛威は相変らず多数の
国民を窮乏の道へ追い立てているのであります。岸首相は、本年度
予算の
編成に当って、それを忘れたかのごとき態度をとっておられるのは、まことにわれわれの遺憾とするところであります。
社会病としての結核の治療を個人の
責任に帰することなく、国の
責任において治癒せしめんとして乗り出した結核予防法は、まさに画期的な政策であり、吉田反動
内閣のただ一つの好ましき落し子であったともいうべきでありましょう。しかるに、その後、この
法律はきわめて冷たく育てられ、五カ年を経た今日、なお、おびただしい結核患者を温存し、
国民は常に結核感染の危険にさらされて、結核
医療費が今日の社会
保険財政を著しく虫ばんでいることは、
岸総理もすでによく御存じのはずであります。結核
医療費の解決なくして
保険経済の健全化なきは、今日だれ一人疑う者はありません。ことに、
財政的基盤のきわめて弱い
国民健康保険制度を
財政的に強化する道は、結核
医療費の重圧排除以外に道はありません。しかるに、
岸総理はその声に耳をおおい、しかも、本年度は、厚生省よりしたところの結核
医療費の公費
負担増額要求をにべもなく断わられたのは、いかなる理由に基くものでありますか。(
拍手)国策としての結核撲滅を放棄されたのか。また、これには一萬田
大蔵大臣が最も強い抵抗を示されたように聞いておるのでありますが、
大蔵大臣の御所見を承わりたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、また、結核
医療費の社会
保険財政に占める位置をどのように理解しておられるのか。今後も、相変らず、結核
医療を
保険財政におんぶの形でやっていこうとされるのか。重要な国策としての結核の
医療は、自今、
政府の
責任において、別個の独立した
財源を充て、国が
責任をとってやっていこうとされるのか。結核
医療についての基本的な考え方を、総理並びに
大蔵大臣からお伺いいたしたいと存じます。
先ごろ、厚生省は、
国民健康保険に関する実態調査を行いました。
昭和三十年に行いました調査の結果を見まするに、年収十五万円、月収一万二千円未満の低額所得者が被
保険者の六三%を占めており、所得階層別にその利用
状況を見ますとき、その受診率及び一件当りの給付点数は所得の低い者ほど低いことが示されておりまして、貧しい人たちは、せっかく
保険料を払いながら、
医療費の半額の一部
負担の支払いの困難のゆえをもって
医療を受けることをちゅうちょしているという事実をうかがい知ることができるのであります。毎月苦しい世帯の中から
保険料を支払っておる主婦が、愛児の病気を前にして、乏しい財布の中を思い浮べ、お医者にかけようかどうかと思い迷っている姿を想像するとき、何人といえども、胸の痛みを覚えざるを得ないでありましょう。貧しさのゆえに、わずかな
医療費の出費をためらったがために、愛児を手おくれとして失い、悲しみに打ちひしがれている母親を想像するとき、週末には箱根にゴルフを楽しんでおられる御身分の
岸総理といえども、その母親の悲痛な心境は察していただけると思うのであります。(
拍手)
医療制度は、そのように冷たいものであってはなりません。何人といえども、何の不安も、ためらいもなく、今日の進歩した
医療の恩恵を受けられるものでなくてはなりません。
国民皆
保険へと新たに船出せんとする
国民健康保険法が、従前の
通り、
医療費の五割を被
保険者の
負担とし、そのような矛盾と悲しみに満ちたものであることは、まことに残念でございます。さればこそ、
社会保障制度審議会も、去る三月三日、本
改正案の諮問に答えて、給付率はすみやかにこれを七割とすべしと答えました。
岸総理は何ゆえこの答申を尊重されないのか。
国民皆
保険への道は、日本の
医療制度が、
医療保険より
医療保障への発展の段階というべきでありましょう。せっかくの法
改正にこのような冷たい風を吹き込ませる一部
負担の
制度をいま一歩踏み切って七割九分に引き上げ、その矛盾の解決をはかるべきであると存ずるのでありますが、
岸総理及び堀木厚生大臣の御所見を承わりたいと存じます。
さらに、従来の個別契約
方式でありますと、多くの場合、一部
負担金の支払いの最終的義務は
保険者にあったのでありますが、今般の法
改正により、貧乏にあえぐ被
保険者にそれが転嫁され、その一切のしわ寄せが
医療担当者に来るものと考えられるのでありますが、これは著しい法の改悪であり、逆コース的
措置であると考えるのでありますが、堀木厚生大臣から、あわせてその御見解を承わりたいと存じます。(
拍手)
岸総理の、汚職の追放、政治の清潔化なる合言葉には、すでに、今日、
国民の間では、なまぐさ坊主のお説教との批評が出ております。貧乏の追放という、ありがたがるべきスローガンも、このような、あなたの冷たい
施策の前には、鬼の念仏と酷評されても、また弁解の余地はありますまい。(
拍手)七割給付が本年度より出発不可能とするなれば、いつごろまでにこれを実現したいと考えておられますのか、御所信のほどを承わりたいと思います。
先般、私は、大ぜいの日本赤十字病院の院長の大挙しての陳情を受けました。現在の
診療報酬をもってしてはどうしても病院の経営が成り立たないとのことでありました。昨年、私は、社会労働
委員会より派遣されて、各地の国立病院、その他の公的
医療機関を視察して参りましたが、その場合にも、各病院長は、異口同音に、早急なる
診療報酬の引き上げを要望しておりました。免税
措置を受け、赤い羽根募金の配分を初め、幾多の国家的、社会的援助を受けている日赤病院ですら、その運営が困難をきわめ、従業員は国家公務員よりもはるかに低い給与をもって生活の困難にあえいでいるのが実相であります。中には、生活の苦しさのあまり他の内職に従事せざるを得ない羽目に陥っている者も多数にあるありさまであります。
医療担当者がみずからの職務に全身を打ち込むことができないようなことで、どうしてりっぱな
医療が行われるでありましょう。
公的
医療機関にしてかくの
通り、全面的な
保険診療の中にあって、村落の民間
医療機関は、まさに荒廃の一途をたどりつつあります。さればこそ、
診療報酬の引き上げが昨年来の社会
保険制度の中の重要な課題となっているのでありますが、これが今日なお解決を見ず、その
実施がおくれているのはまことに遺憾というほかありません。
医療費問題の一日も早き解決なくして、
国民皆
保険の車は軌道に乗りません。総理は、この
医療費問題の紛糾を早期に解決し、適正なる
診療報酬をもって円滑なる
医療保険の運営をはかるため、いかなるお考えを持っておられるのか。
今日、
医療費問題の紛糾するゆえんのものは、これを解決するための
制度的の欠陥にあるといわなくてはなりません。
国民皆
保険のもと、今日のごとき
診療報酬をもってしては、
医療担当者は重労働と低賃金に苦しめられる準公務員といった立場に立たされざるを得ません。そして、その給与の一切が
健康保険の
診療報酬に依存せざるを得ないとき、その報酬の決定をめぐり、
保険者と
療養担当者との間に、労使の関係もしくは
政府と公務員との関係に似通った形で大きな紛争の起ってくることも、またやむを得ずといわなくてはなりません。
従来、
政府は、この問題の処理に当り、常に、
保険者として、また監督者として、二重の人格を持って臨み、それが一そう問題の解決を困難にする原因となりました。また、数年の歳月をもってしてもその懸案を解決し得なかった中央社会
保険医療協議会、臨時
医療保険審議会にも大きな
制度的欠陥のあることは、長期にわたって小田原評定を続けて参りましたその実績に徴しても明らかであります。
政府は、この際、これに対する抜本的な対策を立て、
保険者と被
保険者、さらに
医療担当者の立場を乗り越えて、厳正なる中立の立場に立つ学界、学識経験者を
中心とした権威ある
診療報酬の裁定機関を設け、今後の
医療保障制度の円滑なる運営を期せられることが喫緊の重要事であると思うのでありますが、総理のこれに対する御見解のほどを承わりたいと思うのであります。(
拍手)
最後にお伺いいたしたいのは、五人未満の零細
事業場に働く人たちの取扱いについてであります。この零細
事業場の中に働き、不安定な経営のもと、低賃金にあえぎつつある大群の勤労者を、
社会保障制度の中でどう取り扱うかについて、
政府はきわめてあいまいな態度をとっておるのであります。これらの人たちは、任意包括の形式で、
現行健康保険制度の中にその半数を吸収するのだと申しておられますが、私はここに見のがすべからざる
政府の非情を指摘しなければなりません。この零細
企業の従業員諸君は最も激しい生活困難の波に洗われている人たちであり、これらの人々こそ
社会保障の最も強靱な網をもって救われなければならない人たちであります。五割の給付率を七割といたしましても、なおかつその一部
負担に苦しむボーダー・ライン層の低額所得者群であると見なければなりません。それが、脆弱なる零細
企業に働くのゆえをもって、さらに不安定な生活に脅かされつつ働かざるを得ないというゆえをもって、さらに
健康保険の網の目からもはずされ、傷病手当金によるところの療養期間中の生活の保障もなく、さらに一部
負担にもたえなければならないような処遇を受けなければならないとするならば、これらの人たちは
政府のあまりにも冷たい
措置に悲憤の涙を催すでありましょう。徴税の場合には、あらゆる困難を排して、すべての零細
企業者から仮借するところなく税をとり立てておられる
政府ではありませんか。
社会保障の恩恵もまた、徴税に劣らざる努力をもって、あまねく
国民に均霑すべきであると思うのでありますが、
岸総理の御所見のほどを承わりたいと思うのであります。(
拍手)
さらに、また、
現行健康保険の中にありまして、五人以上の健保適用
事業場の従業員が、
健康保険の
制度の網の目から漏れて、当然
健康保険で療養できる身を、その恩恵を受けることができす、不当なる病苦に悩んでいる者がきわめて多いという事実を、私たちは見のがすことはできません。先日も自治庁の事務官の発表された文書の中に、五名以上十名未満の健保適用
事業場の六〇%が
健康保険に加入していないという事実があるのを見て、私は一驚を喫しざるを得ませんでした。
政府は、五人未満の
事業場に働く人々に手をつける前に当然
健康保険が適用されておらなければならないこれらの大群の人たちを今日まで放置してきた、その怠慢の
責任を、一体、だれが、どのようにしてとるのか。(
拍手)従来は、これらの勤労者は、標準報酬が低く、かつ
保険料徴収に手数がかかるのをきらって、
政府みずからが、
健康保険の赤字対策の
一環として、これらの人たちの不幸をわざと見のがしてきたのではありませんか。今これら五人以上の
事業場の未加入者を健保に速急に加入せしめるだけでも大
事業であり、また、現在の社会
保険出張所の陣容では、とうていその事務処理は不可能といわなければなりません。しかも、さらにより一そうの膨大な、しかも困難な五人未満の
事業場の従業員の健保への吸収などとは、現在の末端の役所の機構では、夢の夢とより考えることはできないのでありますが、厚生大臣には、果してこれが達成の自信がおありになりますか。また、いかなる形のてこ入れをその末端機構に行なって、これが完遂を期せられようとするのか。そらぞらしい、はったり的な
答弁でなく、具体的に、納得のいくように御
説明願いたいと存ずるのであります。
岸総理は、昨年、長期政権担当の決意を表明されました。しかるに、
国民の
岸総理に対する信頼の度は次第に薄らぎつつある模様であります。総理が、現在のごとく、確たる信念なく、ただ
国民に笑顔を送ることのみに終始しているだけでは、両岸、無岸の声はますますかまびすしくなっていくでありましょう。
国民の支持を長期に得る道は、鼓腹撃壌の日本を作ることであります。完全な
社会保障のある日本を作ることであり、一切の政策に
社会保障を優先せしめることであります。総理は、今こそ、虚心担懐、わが
日本社会党及び
社会保障制度審議会の主張に耳を傾け、
国民健康保険を真の
社会保障の
一環として恥かしからざるものに仕上げるため、大幅なる
修正に応ぜられることを切望いたしまして、私の質問を終る次第であります。(
拍手)
〔
国務大臣岸信介君
登壇〕