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1958-04-02 第28回国会 衆議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年四月二日(水曜日)     午前十時三十五分開議  出席委員    委員長 町村 金五君    理事 高橋 禎一君 理事 林   博君    理事 福井 盛太君 理事 三田村武夫君    理事 横井 太郎君 理事 青野 武一君       犬養  健君    小島 徹三君       小林かなえ君    世耕 弘一君       徳安 實藏君    中村 梅吉君       横川 重次君    神近 市子君       田中幾三郎君    武藤運十郎君       吉田 賢一君    志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 唐澤 俊樹君  出席政府委員         警察庁長官   石井 榮三君         警  視  監         (警察庁刑事局         長)      中川 董治君         警  視  監         (警察庁警備局         長)      山口 喜雄君         総理府事務官         (行政管理庁行         政監察局長)  高柳  保君         総理府事務官         (自治庁選挙局         長)      兼子 秀夫君         法務政務次官  横川 信夫君         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君  委員外出席者         検     事         (刑事局参事         官)      神谷 尚男君         会計検査院事務         総局次長    小峰 保栄君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 四月二日  委員木原津與志君及び片山哲君辞任につき、そ  の補欠として山崎始男君及び武藤運十郎君が議  長の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  証人等被害についての給付に関する法律案  (内閣提出第六一号)  刑法の一部を改正する法律案内閣提出第一三  一号)  刑事訴訟法の一部を改正する法律案内閣提出  第一三二号)      ――――◇―――――
  2. 町村金五

    町村委員長 これより会議を開きます。  刑法の一部を改正する法律案刑事訴訟法の一部を改正する法律案、及び証人等被害についての給付に関する法律案一括議題といたし、審査を進めます。  質疑の通告がありますから、順次これを許します。徳安實藏君。
  3. 徳安實藏

    徳安委員 私は、あっせん収賄罪につきまして、法務大臣並びに政府委員の方に二、三御質問いたしたいと思います。私は法律は全くのしろうとでございまして、法律に目を通したことのない人間でございますが、しかし、われわれとしてもこの法律には深い関心を持っておりますし、また法律専門家でない議員もおられるのでありますから、しろうとにわかるように一つ説明をいただきたいと思うのです。  大臣の御説明を聞いておりますと、乱用のおそれを戒め、特に誤まった嫌疑によって取り返しのつかない損害を生ずることのないように特別の配慮をしたというお話でございます。これはまことにごもっともなことでございまして、大臣の御配慮にもかかわらず、もし本法の施行に当りまして乱用の危険が多分にありましたり取り返しのつかぬ損害をこうむるようなものが相当出るようなことになりますと、大臣初め政府気持にも沿わないところでありますから、こうした問題につきまして、ぼやさずに、ほんとうに、こういうことは罪になるのだ、こういうことは罪にならないのだということを、だれにもわかるように一つ明瞭にしていただきたいというのが私の気持なのであります。と申しますことは、これまで国会議員の中でずいぶん汚職事件等で起訴された方もありますが、そういう方の調書などをちょいちょい調べましたり、お話を聞きますと、特別な場合は別といたしまして、大体本人が、これは悪いことである、汚職だと思って収受したものはほとんどないようであります。つまり、金の収受があったにいたしましても、罪にならぬと思ってやった。十万や二十万の金で国会議員政治生命を失うということは、これはよほどの気違いじみた人でない限りあり得ないと私は思うのです。そういうことにひっかかるということは、結局、法律知識がなかったか、しからざれば、こんなことは間違いないのだ、法律違反にならぬ、犯罪にならぬのだ、こういう考え金銭をもらわれたのが、たまたまひっかかったということになるようであります。ものによりましては多額の金銭の伴ったものもあるようでありますけれども、しかし、これにいたしましても、著名な政治家であるとか、一国を背負って立つような方、天下、国家を論ずる有力な政治家が、国家を憂える同憂の士から浄財として受けることはあり得るとしても、みずから罪になるということを承知の上で金を収受されるということは、これはよほど非常識の方でない限りは政治家としてはできないことだろう。そういうことがありますということは、結局、それをもらっても罪にはならぬのだ、政治的良心に恥じないのだという気持から収受されたものだ、これがたまたまひっかかってしまったということでありますが、今度のあっせん収賄罪にいたしましても、誤まった嫌疑を受けるようなことによって非常な損害をこうむることのないように特別の配慮をするというような大臣のお気持に対しましても、私はほんとうにそうでなければならぬと思いますが、しかし、法律にあまり知識のない者がこういう法律考えますときには、速記録を拝見いたしましても、私ども法律専門でない者から考えますと、何だか罪になるようなならぬような、一体どこまでが罪になってどこまでが罪にならぬのか、想像し得ないような点がたくさんあるのであります。それで、もしこういうあいまいもこのうちにこの法案が通ってしまいますと、あるいはちょっとでも根性曲りのような検事にぶつかってしまったら、それこそどんな羽目になるかもわからない。これは、私は決して大臣刑事局長の御説明を聞いてあっせん収賄罪を免れるトラの巻をこしらえるというようなずるい考えはないのであります。ないのでありますが、お互いが議員でありますから、神様や仏様のようなことを言っておりますけれども、しかし、日常陳情を受けることはたくさんございますし、また当局やその他に対して強く要請しなくちゃならぬようなものもずいぶん持ち込まれるのでございます。そういう場合において不測災いを免かれるためにも、またそうしたいまわしい問題を芟除するためにも、この法律がこういうことをしたらひっかかるのだ、これ以上のことはしてはいけないんだという限界一つはっきり示していただくことが、大臣不測災い乱用を戒める親心が徹底するゆえんではなかろうかと、私はかように考えますので、しろうとくさい質問でありまして、専門家から見られますと、何だそんなわかり切ったことを質問してどうするんだというお話があるかもしれませんけれども、私のようなわからない人間がたくさんおるわけですから、一つめんどうくさがらずに、あんまり法律の用語や専門語をお使いにならずに、率直に御答弁がいただければまことに仕合せだと思います。  まず第一に、この請託ということでありますが、この請託という問題に対して刑事局から配付されました逐条説明書の二項に、「なお、請託明示ものと黙示のものとがあるのはいうまでもない」、こういうことが書いてございます。明示のものは、これはもうだれだってわかるわけでございますが、黙示という場合は一体どういうことも指すのであるか。こっくりさんのように、一方の言ったことを、うんとは言わなかったけれども、うなずいたから了承したのだろうというようなことが黙示になるのか、あるいは、請託に関する判例中の中にあるように、「賄賂を供与すること自体により黙示的にその依頼趣旨を表示するのも請託にほかならない」、つまりわいろを持っていったら、わいろを取ったから、それで承知したんだというふうなことを意味するものなのか、そういう点を少ししろうとにわかるようにぜひ刑事局長から御説明をいただきたいと思います。
  4. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいま御質問黙示請託という場合はどういうことかということでございますが、請託と申しますのは、ある事項につきまして依頼をすることであります。そして、請託を受けると申しますのは、その依頼承諾をすることでございます。そこで、その依頼というある特定の事項について頼みがあったかどうかということが、口に出してはっきりとこういうことをお願いしますというふうに頼んだ場合は、明示請託を受けたことになるわけであります。黙示の場合には、税のことを頼むとか何とか、そういうふうに具体的には一言も言わないのでありますが、話の前後、話をした模様が、結局税のことを言っておるのである、そしてそれが人のことを言っているのではなくて自分の税のことであり、しかもそれを話しに来ている趣旨は、何とかまけてもらいたいという趣旨をいろいろな角度から話しておって、そこにい合わした者が判断して、これはきわめて通常人の常識で判断いたしまして、税をまけてもらいたい、そのことを公務員たる先生にお願いをしておるのだということが、まわりの話の全体の趣旨からしてそれとうかがえるようなことでありますならば、これは黙示請託があったと見て差しつかえないのでございます。それに対して、その趣旨を了承して、よし引き受けた、こういうふうに承諾をした場合は、請託を受けた、こういうことになると私ども解釈いたします。
  5. 徳安實藏

    徳安委員 これは、話しに参りまして、選挙の場合もそういうことはちょいちょいございますが、話した本人はそういうことを話した覚えはないと言っても、速記をとっておるわけじゃありませんし、保証人をおいて話をしたわけでもありませんから、検事さんからこういうことだったじゃないかと言われて、さあそういうようなことがありましたかなと言うと、結局取り返しのつかない供述になってしまって、罪になる場合があるわけですが、これは検挙されますときには、非常に重要なものになろうかと思いますので、私、今どうとも申しませんが、もう少し明瞭になるような御解釈を一ぺん適当なときにいただきたいと思うのです。これは確かに、事件が起きましたら、暗黙のうちの要するに請託だというような工合ですが、私は、そうでないそうだということは、確かに問題になりそうな個所だと思います。こういうことに大きな不測災いが出てくるのですから、一つ下の方の検事さんにも警察にも、そうした問題があまり乱用されないようにお示しをいただきたいと思うのです。  次に、職務上不正の行為をさせまたは相当行為をさせないことを内容とするものである、これが要件だというようなことが書いてありますが、職務上の不正行為ということについて具体的に私はお示しをいただきたいと思うのです。法務省から示された資料の中に、「「不正の行為を為し又は相当行為を為さざる」の意義に関する学説」というのがありますが、その資料を見ますと、職務上不正の行為をさせまたは相当行為をさせないとは、職務に違背する一切の行為をすることだと書いてございます。その例としましては、県会議員わいろを取って議場に出席しなかった場合に警察官が被疑者の要望によってわいろを収受して証拠品の押収をとりやめた場合、あるいは入札担当公務員わいろを収受して入札最低価額を内示した場合、こういうような場合が例として示されておるのであります。そこで、私のお聞きいたしたいことは、もしこれを議員にとってたとえてみますと、ある国会議員がある業者から、あの法律通過されては非常に不利益であるからどうか通過しないように努力してもらいたい、こういうようなことを業者から頼まれた議員が、同僚の議員諸君にもお話しして、投票をしないように、あるいはどうしても賛成の投票をしなければならぬのならば欠席をして賛成投票しないようにと頼んだ、こういうような場合におきまして、もし甲という国会議員がそのためにお礼をもらったというような場合には、これは当然罪になるように思いますが、いかがでしょう。
  6. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまの点は、ある法案通過させないように配慮してほしいという請託に基きまして内部でどのような政治的な行動をとったかということでございますが、それが、法案通過委員会におきまして、もしその議員出席をしなければ流れてしまうといったような客観的な状況があります場合において、あなたさえ欠席してもらえばこの法案は流れてしまうのだ、だから一つあしたの委員会には欠席してほしい、そのかわりお礼を差し上げます、こういうような事例でございますと、これは明治四十四年の六月二十日の大審院判決がありまして、そのような場合には、不正の行為をさせの後段になっております相当行為をなさざるものに該当すという判決がございます。この場合に欠席をするということがいかなる点においてその公務員職務上の義務に違背するかということになりますと、当時の判決県会議員についてでございますが、この県会議員の場合におきましても、当時は府県制でございますが、そういう根拠法に基きまして、議員出席して審議する義務があるという、その義務に違背するということになりまして、法律義務づけられておるその職務に違背することになるという解釈になっておるのでございます。でございますから、ある自由裁量行為につきまして、こうしてほしい、ああしてほしいという希望を述べ、それに対するあっせんをいたしましても、本法案では処罰の対象にならないのでございますが、相手方公務員に対しまして法律上――その法律国会を通った形式上の法律だけでなく、その法律を背景としてまた新たなる職務上の義務が命ぜられておる訓令、通牒のようなものも含むのでありますが、いずれにいたしましても、その根源をさかのぼっていきますと、法律である種の義務を課せられる、そういう義務に基いて発生する職務上の義務、具体的に申しますと、その人に与えられておる義務、そういうものに違反するという結果を生ぜしめるような頼み方をする、こういう場合に初めて不正の行為をしまたは相当行為をしなかったということになるのでございまして、理屈を言いますとそういうことになりますが、一言で申しますならば、これはだれが考えてもすべからざる行為である、あるまじき行為である、そういうような行為をしてほしいというあっせんをすることだけが罰せられるのでございまして、そのあるまじき行為、すまじき行為というようなものは、法律的に言えば社会通念によってきまることでございますが、何人も良心に省みて考えればすぐわかるあるまじき行為ということでこれは解決するというふうに私は考えておりまして、その点は、法律的にむずかしいために分別がつかないという筋合いのものではない、もうだれが見てもいけないという行為あっせんすることが不正の行為相当行為をなさざることに当るというふうに理解して差しつかえないと思います。
  7. 徳安實藏

    徳安委員 だれが見ても悪いということはもちろんですが、かりに売春防止法につきましても、今日でもああいう法律を通すべきでなかったということを公然と社会に出て叫んでおる議員さんもあるわけです。これは自己の信念であります。こういう人は、防止法を通さないことがいいんだという信念をお持ちになっているわけでありますから、そういうような場合に、業者から頼まれておった、また自分もそう思うというような場合には、これはほんとう本人信念でありますから、この信念が間違っておったからといって法律にひっかかるというようなことにも考えられないと思いますが、それはどういう御見解でございましょう。
  8. 竹内壽平

    竹内政府委員 売春防止法について一事例として仰せになりましたが、そういう自分の政治的な信念というようなものと、ここにいうだれが見てもというのとは違うのでありまして、この場合は、公務員というものは一体どうあるべきかということにつきましては、これは個人の信念ではなくて、公務員のあるべき姿というものは何人の頭にも客観的にほぼ共通して理解される考え方だと思うのでございます。公務員に働きかける、何かしてもらいたいということを申します場合に、公務員としてはできないようなこと、そういうことを公務員にもしさせるとすれば、だれが見てもいかぬことではないかというようなことを頼む、あっせんすることなんでございまして、これは信念というような考え方とは少し意味合いが違うというふうに私どもは理解しております。
  9. 徳安實藏

    徳安委員 それでは、今度それと反対に、法案通過を阻止したとは反対に、この法案が通れば業者のために非常に利益になるのだからぜひ一つ賛成してもらいたいということが、業者各種団体、同業者等からちょいちょい陳情がありますが、そういうような場合に、もちろん利益ということは考えずに、議員の職責から、これは当りまえに、当然そうしてあげるんだ、法案が出ておるわけでありますから、それに賛成し協力してやったというような場合に、その頼まれた議員にもし通過の後にお礼だといって金一封を持ってきたごとき場合を考えてみますと、そういうときにはいかがでしょう。あっせん収賄罪にひっかかりますか。
  10. 竹内壽平

    竹内政府委員 今お示しのような場合には、これはひっかからないというふうに考えるのでございます。
  11. 徳安實藏

    徳安委員 国会議員は、議案に対して審議をして、そうして委員会でも本会議でも賛否を決する義務もありまするし責任もあるわけでありますから、そこで、かりに頼まれたということがありましても、頼まれたからよろしいといってかりに返事をした場合があっても、先ほどちょっとお話し申したように、その要請が正しいんだということの信念国会議員が他の国会議員諸君にも話をして協力を得たというような場合には、いきさつのいかんによりましてはやはりあっせん収賄罪にひっかかるわけでありますが、しかし、国会議員として自分信念によってこれが正しい投票の仕方だと思って投票したような者に対しましては、前に業者が頼もうと頼むまいと、そんなこととは問題なしに、これはこの不正の行為または相当行為をなさなかった件には該当しないと思うのでございますけれども、これはいかがでございましょう。
  12. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただ今の点はすべて該当いたさないということでございます。
  13. 徳安實藏

    徳安委員 次に、作為または不作為が果して職務違反行為であるかいなかの標準によりまして、つまり、法令、訓令指令などによって知られる職務行為違反していることが不正行為である、こういうふうに御説明なさっているのですが、その不正行為というものをもう少ししろうとにもわかるように解説していただけないかと思うのでございます。そこで、私が今刑事局長にちょっとお尋ねしたいことは、役人法律政会に違背いたしましてわいろをもらった――わいろをもらったときにはもう全部罰せられますが、わいろをもらっていないときでも、役人法律政会違反した場合には全部罰せられるのか、また訓令指令などに違背した場合にも全部罰せられるのか。頼んだ役人が何か悪いことをしてくれた、それが罰せられたから、頼んだ人間も悪いのだ、これならはっきりわかるのですが、頼んだ役人、やってくれた役人が――どういう指令訓令がたくさん出ているかわかりませんが、私ども議員やそのほかの諸君は、法律や政令はわかりますけれども訓令指令とかいうものは一々ひもといて見ているわけではありませんので、どの程度が一体放任されるのかされないのかということは、研究する余地がないと思います。でありますから、役人服務関係において悪いことをしたということで、この程度は罰せられるのだ、その罰せられる程度のことを頼んだら、これは議員あっせん収賄罪でやられるのだ、こういうはっきりしためどを見せていただけば、そんなことを頼むことが間違っているじゃないか、頼んで菓子を一つもらっても悪いじゃないかという議論にはなるかもしれませんけれども、私どもは仏様や神様ではなく生き物でありますから、これは頼まれれば頼みに行くこともありましょう。しかし、そのことが法を曲げてまでも、あるいはまたあっせん収賄罪なんというようなことを考え頼みに行く、あるいは相手方役人に不正でもいいからやってくれ、これは罪をこうむってもいいのだという気持役人頼みに行くというような議員はおそらくないかと思うのですけれども、たまたまひっかかっているのを考えてみますと、これは確かに、どこが限界か、限界がわからなくてやっているのが多いのではないかと思うのであります。そこでどの程度までは大体これまでの慣例で役人が罪になっているのか、役人が悪いことをしたということでただしかりおく、将来は注意しろというようなことであるとか、少しの減俸を食らうくらいのことで役人の方は免れる、これを頼んだ国会議員の方は、あるいは地方議会の方の議員政治主命を失うというようなことでは、これはどうもふに落ちないと思うのです。その限界をもう少し刑事局長から明瞭にお示しをいただければけっこうだと思います。
  14. 竹内壽平

    竹内政府委員 非常に大事な点に触れた御質問でございまして、実はお答えするのも非常にむずかしいのでございますが、役人行為が、公務員行為義務違反をしたこと、その義務違反刑法本条に触れる、横領とか背任とがいろいろ場合がありますが、そういう刑法の各本条に触れます場合には、これは当然刑罰をもって処断されるのでございますが、さらにまた、刑法には触れませんけれども行政法規違反をいたしましたために、そのやった行為行政訴訟によって取り消される、あるいは訴訟対象になるような不法行為に出たという場合も義務違反一つの例であります。そのほか、行政訴訟においては、違法の問題はないのでありますけれども、明らかに公務員公務員法上定められた全体奉仕の精神からはずれた行動であるということによって懲戒対象になります行為があるわけで、懲戒処分を受ける場合もございます。このように、義務違反をいたしました行為であるからといって、すべてが刑罰に触れるのではなくて、刑罰に触れる場合もあり、その行為が取り消されるというような場合もあり、さらに懲戒対象となるという場合もあると思います。また、その懲戒も、しかりおく程度にとどまるような場合もあるかと思いますが、今度は刑法観念で、あっせん収賄の方の観念から申しますると、そのような行為刑法に触れる行為から懲戒でしかりおかれる程度までも入ると思いますが、そういう義務違反のようなことをしてもらうように働きかけまして、その結果、働きかけて、公務員がその報酬として金をもらう、そういう、公務員がしてはならぬようなことをさせるように働きかけ、そうして金をもらうというところが、あっせん収賄罪の処罰されるゆえんでございます。そこで、相手が処罰される場合にはこっちも処罰されるのは明白でございますが、相手はしかりおかれる程度のようなことを、こちらの方は処罰されるというのは、非常にアンバランスではあるまいかという御疑念もさることでございますが、こちら側のあっせん収賄の方が処罰されます理由は、相手が違法なことをやったとかというだけではなくて、やるおそれのある行為であって、しかも自分がそういうことの報酬をもらうというところがいけないわけなのでございます。そこで、今の区別の基準でございますが、先ほど申しますように、相手方がどういう点が義務違反になるかというこことは、ことに内部訓令のような場合にはこちらは知らないわけであります。そういうものを知っていればはっきりするわけですが、知らない場合には危ないのじゃないかという御疑念があると思います。それは刑法一般の違法の議論がすべてその問題にかぶってくるのでございますが、私どもとしては、わかりやすく申し上げますならば、その悪いかどうかということは、社会通念で判断をするほかはない、常識ある一般通常人の常識をもって判断した場合に、それがいいこことか悪いことか、こういうことで判断をしていただく以外に方法はないのでございます。そこで、もう一回申し上げますならば、社会通念から見て、公務員としてあるまじき行為をしてもらうように働きかける、こういうことをした場合には、相手方がそのために刑罰に処せられるか、違法の行為として行政訴訟で取り消されるか、あるいは懲戒処分を受けるか、その辺のことはどうあろうとも、こちら側から見て、社会通念から見て、公務員としてあるまじき行為をしてもらうようにあっせんをする、そうしてそのことの報酬として金をもらう、これがいけないのだというふうに、私どもあっせん収賄罪の犯罪を考えるわけでございます。
  15. 徳安實藏

    徳安委員 そこで、今度はこういうことをお聞きしたいと思います。かりに業者を連れて行って、一ぺん引き合せをして頼んでやって、それっきりで議員は一応手を引いている。業者役人との間に話し合いが盛んに進んで、取引が済んだ。議員はただ紹介して頼んでやっただけでありますから、まさかそこに不正があるようなことは考えていないでしょう。ところが、後刻何らかの機会に事件が起きまして、そうしてその間に不正があったというような場合において、かりにその議員お礼をもらったといたしましても、それは、頼みに行ったときに、そうした問題に対して深く掘り下げて、不正までもしてもらうことを頼んだわけではないので、一応できることならしてやってくれくらいなことで頼んだ、その後は折衝をじかにやった、それが何かのうちに事件になったというような場合におきましては、これはそのときにそういう意思が議員に何もなかったとしても、やはり議員も巻き添えを食うことになりますか。
  16. 竹内壽平

    竹内政府委員 それははっきりと巻き添えを食わないのでございます。これは不正な行為の事実がないわけでございます。
  17. 徳安實藏

    徳安委員 もう少し具体的に二つ三つお聞きしたいと思うのですが、かりに一例を申しますと、これはそういうことがあるとは申さない。例ですが、バス事当来の免許計のごとき、これはなかなか一年や二年じゃないのです。四年も五年も運動してやるのです。そういうような場合に、あっせんをして、これは業者から頼まれることもありましょう。また地方の住民から非常に力強い要請を受ける場合がある。それで、自分も一生懸命やりますと言う。そのことは、あの運輸審議会が大臣から諮問を受けて答申するわけですけれども、そういう場合に、当該地元民の強い要請を世論として運輸審議会に取り次いで、ぜひこれをしてやってもらいたいというような場合に、運輸審議会の諸君がよく検討されて、これはなるほど陳情趣旨にかなってやるべきだということで、許可してやれというような答申をしたというような場合には、かりに四年、五年がかりで一生懸命運動したのですから、そのした人にかりに少しくらいお礼が参っておっても、それは不正の行為相手方にさしたという意味にはとれぬように思うのですが、そういうものはいかがでしょうか。
  18. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまのお話の点は、やはり該当しないのであります。
  19. 徳安實藏

    徳安委員 さらに今度は、道路改良とか、橋をかけますとか、農地の改良とか、いろいろな補助金問題等がございます。こういう問題につきましても、他の県の割当まで何か横から不正手段をしてほかの県に回したなどということがあれば別でございますけれども、そうでない限り、やはりその県の橋、道路あるいは川等について、かようなことをなすべきだということを大臣政府当局に強く要請いたしまして、それが実現したというような場合においても、おそらくそれは相手方役人不正行為であったとは考えられませんが、こういう点はいかがでしょうか。
  20. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいま御指摘の点も該当いたさないのでございます。おおむね、先生から御心配になっておる点は、行政の自由裁量行為に関する部分について強くあっせんをした、こういう場合にどうかという御疑念でございますが、自由裁量行為についてのあっせん行為は、すべて不正な行為ではないと考えられる場合が多いのでございます。今のような場合はすべて該当いたさないのであります。
  21. 徳安實藏

    徳安委員 かつて防衛庁等の問題が起きたことがありますが、最近でも防衛庁の土地の買い上げ等につきまして地方的ないろいろな問題があります。高いとか安いとかいうようなことで……。これもやはり、法外に安いことを言ってくれば地元が承知しませんから、議員としては、地元の強い要請 をいれて妥当な線を出してくれ、これでは安過ぎるじゃないかというようなことであっせんする場合もあると思うのです。そういうような場合におきましても、かりに坪五千円だったものが六千円なり七千円で買い上げられましても、役所としては妥当なものとして決定したわけでありますから、別に不正をさしたということにはならぬように思いますが、こういう点が一つ。  それから、かつてくつの問題が起きたことがありますが、くつの納入なんということも、これはいいものなら買ってやってくれという話をしただけで、あるいは名刺一枚持たしてやっただけで、あとになってその後の取引に不正があったとかいうことで世間に大へん悪い印象を与え、取り上げられて騒がれたことがあります。紹介する事項が、悪いもので買ってやれ、ボロぐつでも買ってやれということを言ったのなら別ですけれども、こういう問題について、正しいルールによって買い上げてやってくれというようなことをかりにあっせんいたしましても、役所がこれを正しいルールで正しい価格で買い上げるなら、別に議員として行動がえらく軌道をはずれたものでもないように思いますし、相手方が不正をしたようなこともないと思うのです。ただ、悪いものを、国会議員のいろいろな方から話があったから、悪いものとは知りながら買ったということになれば、これはもちろん、だめですが、そうでないもは一切罪にならぬと思うのですが、いかがでしょう。
  22. 竹内壽平

    竹内政府委員 官庁に対する物品納入にからんで紹介する、これは、その紹介が単なる紹介でありますならば、すでにあっせん行為がないという意味においてはずれるのでありますが、かりにあっせん行為があったといたしましても、ただいまの御設例のような場合には、いずれも本条には該当しないと思うのでございます。ただ、その物品購入に関連して申し上げますと、御承知のように、官庁が物品を購入いたします場合には、通常一定の法律上の要件がありまして、競争入札あるいは指名競争入札によって買うのが原則で、随意契約によって買うのは例外な場合でございます。その例外も法律でこういう場合というふうに規定してあるのでございますが、本来競争入札で購入すべきものを随意契約で特定の業者から買ってくれというようなあっせんの仕方をした場合には、その随意契約の法律上許されたものに該当しないのを無理に該当したことに取り扱って、そういうふうなことをしてもらいたいということになりますと、相手方の物品を購入する役職を持っております公務員に対する不正なあっせんというふうになる場合があり得ると思います。それからまた、予定価格というものを物品購入の場合には必ず法律によって作るわけであります。その予定価格を初めにちょっと見せてもらいたい、――ある特定の業者の物品を納入しますために、頼まれて、相手方公務員に対して、お前の方で作っておる予定価格をちょっとおれに見せてもらえぬか、実はこういうところから納入したいのだけれども、こういう趣旨で、予定価格をあらかじめ見せてもらうというような趣旨あっせんをいたしました場合には、相手方公務員の、つまり物品の購入を担当しております公務員職務上の義務に違背させるような行為なのであります。そういう場合には、そのようなあっせん不正行為あっせんであるというふうに解釈されるわけであります。
  23. 徳安實藏

    徳安委員 そこで、最後にもう一つ、後援会の問題が先般来出ております。後援会に寄付する行為がトンネルである場合はどうであるかという議論が出ておったようでありますけれども、私も、お世話したり話をしたりした人の後援会というのがあります。それが法の命ずるところによって規制を受けるわけでありますから、その後援会が金をもらって、すぐ右から左ヘトンネルであっせんした人のところに行くというのは別でございますけれども、その後援会が金を受け取って、そうして後援会の目的のために使い、収支をはっきりと明らかにして、これを届出するというような合法的な処置をとっておりましたならば、これはあまりあれこれ言うべき問題ではなかろう、そこまで深く切り下げていくべき問題ではなかろうと思うのであります。こういう問題は非常にデリケートな問題であろうと思います。免れて恥なき行動はもちろん慎しまなければなりません。といって、あまり法の適用が行き過ぎましてもいけないと思うのです。そういうことについては少し勇敢であってもいいと思いますが、この点に対して一つ刑事局長の御説明をいただきたいと思います。
  24. 竹内壽平

    竹内政府委員 先般の委員会でも後援会の供賄の問題が御議論になりまして、政府側で統一した解釈を立てるようにという御要望がございましたので、ちょうど御質問の機会でございますから、私ども考え方をここではっきりと申し上げておきたいと思います。  政府案によるあっせん収賄罪は、第三者供賄を処罰するということにいたしておりません。従いまして、あっせんする公務員みずからが収賄をしないで、第三者に供賄させる場合は、たといその第三者があっせん公務員の後援会その他これと密接な関係があるものでありましても、それだけでは犯罪にならないのでございます。これらの場合にはあっせんする公務員が実質的な利益を受けることが多いと思うのでありますけれども、それはそのような特殊関係にある第三者が利益を受けることの反射的な効果にすぎないのでありまして、これを公務員みずからの収賄と同様に見ることはできなしと思うのでございます。しかし、わいろの収受ということは、供与されるわいろに対して事実上の支配力を取得することでありまして、たとい外形上は公務員以外の第三者が利益を受け取ったと認められるような場合でありましても、公務員がそのわいろを処分することができるような状態に置かれたのでありますれば、みずから収賄したのと同視することができるのでございます。その第三者があっせん公務員の後援会である場合にも理論は同じであります。抽象的に申しますならば、あっせん公務員自身の収賄になるか、第三者供賄になるかは、外形上これらの後援会に渡された利益あっせん公務員の事実上の支配下に置かれたかどうかによって判断するほかはないと思うのでございます。従って、もしその後援会が、事務運営、特に会計についてあっせん公務員から直接の指図を受けず、その利益のためにみずからの判断で独自に活動しているような場合には、純然たる第三者と見るほかはないのでございます。これに反しまして、その後援会がトンネル機関になっているにすぎないものであって、直ちにそのわいろ公務員自身に渡されるような場合はもとよりのこと、その後援会が、名前だけは後援会と言っておりながら、実際には公務員自身の指図のままに動いているような従属的性質のものであります場合には、後援会がわいろを受け取る行為を直ちに公務員自身の収賄行為と見ることができると考えます。これを要しまするのに、後援会が第三者と認められるかどうかは事実問題でございまして、後援会の実体いかんにかかるものである、かように解釈をいたしておるのでございます。
  25. 徳安實藏

    徳安委員 その点、一体今後事件が起きた場合にいろいろと議論の焦点となる点だと思うのでございますが、それはその程度にいたしておきまして、次に実費の関係でございますが、報酬とは、一定の行為をなしまたはなしたことの対価であり、その行為に必要な費用を除いたものである、こう御説明になったわけでございます。もしその区分けのつかぬときには、一切がっさいがわいろになってしまう、こういうような御説明のようでありますが、私ども選挙関係においてこの問題についてずいぶん悩まされたことがございます。お礼をかりに要求して、五十万、百万もという場合は、これは別でございましょうけれども、一万や二万のお礼を持ってくる場合があったと仮定いたしましたときに、ちょっと待ってくれ、中を調べてみて、このうちどれくらいは車馬賃にしておいてくれ、もし事件が起きたら悪いから――向うだって、そういうものを一切含めて、ずいぶん長い間お世話になりましたからといって、一万か二万の金を持ってきた場合、まさかそういう内訳までして持ってくるはずもありませんし、受け取る方だって、そういう非礼なことはない。あるいは、一万、二万なら罪にならぬと思って受け取って、あけてみたら二万円あったというようなことがあり得るわけですから、そういう場合にもしひっかかったとすれば、これは不測災いである。もしかりにひっかかった場合があるなら、これはよくその内容を聞いていただいて、そして車馬賃のごときは十分引いてやるという概念にならなければいけないと思うのですが、これまで私どもひっかかった事件によりますと、選挙違反でありますが、幾ら説明しても、これはこの会場費を払ったのであると言っても、いや、これは混淆したものであるから、これはみんな選挙違反だ、その対象だ、罰金は幾らだ、追徴金は幾らだ、こう言うのです。だから、こういうことはあまり残酷じゃないかと思う。もちろん車馬賃あるいはその他が入っているに違いないのですから、初めから、ひっかかるつもりでいるなら、これはちゃんと分けへだてをしておくのですが、そういうことで確認しないで受け取っているのですから、そういう場合にそれがことごとく罪になるということでないような措置をしていただきたいということを特にお願いしたいと思うのですが、いかがでございましょう。
  26. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいま仰せの通り、報酬は一定の行為に対する対価でありますから、その行為に必要な費用を除いた、つまり実費は除いたことになるのでございます。このことは、あくまで実費は除くということを貫いておるのでございますが、先般の私の説明の中に、謝礼と実費とが区別できないときは、その全体がわいろとなるという御説明をしたのでございまして、選挙法の判例からそういう解釈があり得ると考えましたのでそういうふうに申し上げたのでございますが、ただいまも御指摘のように、選挙法におきましては、選挙運動者に対する金銭の供与というのは報酬の意味でする供与であるということに判例はなっております。従って、車馬賃や飲食、宿泊料のような、運動に従事するに必要な実費の供与を含まないというのが判例の態度でございます。そこで、運動に伴う車馬賃、飲食、宿泊料のような必要な実費、こういうものは区別するのが本則でありまして、幾ら区別を申し立てても捜査官がそれをいれなかったというようなお話でございますが、実際の運用におきましてはそのような指導はいたしておらないのでございまして、区別のできるものはできるだけ区別するのが法律の建前でございます。従って、今回のあっせん収賄の場合におきましても、実費を除去して純然たる報酬の部分だけがつまり没収の対象になる金額になるわけでございます。しかし、選挙法の判例におきましても、収受された金銭が運動の報酬であるか実費であるかは区別がつかない場合があるのでございます。供与する方の側におきましても、まあ実費も含めてこれを一指して報酬としてやる、こういうことになりますと、含めてというのだから、どの部分が実費であるか、供与した人がはっきりしないというような場合があって、その場合の救済的な判例といたしまして、そういうものを混淆しておってわからないものについては、全体が供与の報酬の金額になるのだという判例もございます。従って、本件の場合においても、報酬というふうにはっきりはいたしましたが、その区別がつかない場合に判例はどういう態度をとるであろうかということを考えました結果、謝礼と実費との区別ができないような場合には、全体が報酬ということになって、わいろに認定されることになるのではなかろうかというふうな解釈をとったのでございますが、私ども考え方といたしましては、これは区別する趣旨で「報酬トシテ賄路ヲ収受シ」という文字を書いていたのでございまして、今後取り扱います場合におきましては、この点は選挙法の場合も同様でございますが、できる限り運用におきまして報酬と実費の区別を明らかにしたい、こういうふうに考えております。
  27. 徳安實藏

    徳安委員 次に、刑事事件のことについて一つ当局に御質問したいと思いますが、警察や検事事件ができて捜査する場合に、捜査から起訴に至るまでの内部的な手続、これは法律に出ているとわかりますが、内部的な手続を簡単に御説明いただければ仕合せだと思います。かりに捜査する場合に、検事一体の原則といったものがあるそうですが、そういった場合に、地方議会議員もあれば、あるいはときによると政府大官のときもありましょうし、国会議員もありましょう。そのような場合の捜査、逮捕、起訴、こういうようなときに、一体内部的にはどういう手続をおとりになっているのであるか。ただ検事がこれをしようと思ったらどんどんできるのか。こういうものはこういう手続で慎重を期しているとか、そういう手続があろうと思いますが、そういう点についてお知らせを願いたいと思います。
  28. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまのお尋ねに十分お答えができるかどうかわかりませんが、検察官と申しますのは、これは法制上の性格から申しますと、一人一人が独立の官庁という考え方なんでございます。そこで、検事一体の原則と申しますのは、行政官でございますと、一体の原則などと特にうたわなくても、ピラミッド式に下まで指揮命令によって一体的になっているのでございますが、検察官について特に検察一体の原則と申しますのは、その根本の性格が、検察官が一人々々検察官という独立の官庁でございます。従って、法律上はその検察官の良識と法律的な判断とによって事件を処理するという建前になっておりますが、それでは必ずしも検察の適正な軍用を期しがたいので、特に検察一体の原則ということで、検察庁法に、検事総長をトップといたしまして部下の職員を指揮監督することができる建前になっているわけでございます。そこで、具体的な事件が検察官の手元に届きますまでには、警察の方で取り調べて事件を送致する場合と、検事みずからが認知をして事件を受理する場合と、あるいは告訴、告発によって事件を受理する場合、その他他の官府から移送を受ける場合等いろいろございますが、いずれにいたしましても、検事がある事件を受理して、自分の責任において処理するということの段階になりました場合には、刑事訴訟の手続の命ずるところによって取調べを進め、起訴、不起訴の判断をするに熟するところまで取調べをいたした上で処分をきめるわけでございますが、その間において、事件の種類によりましては、上司と随時相談し、上司はさらにまた上級官庁に相談をし、あるいは最終的には最高検察庁の判断も仰いで、最後に起訴、不起訴をきめる場合があるのでございます。  それでは、どういう種類のものを上の方まで持ってきて、どういう種類のものは各検察官みずからの判断で処理できるかという区別でございますが、これは、戦後身分によって差異をつけないという憲法の考え方からしまして、いわゆる稟請事件と申しますか、上の方に請訓をしてその指示を待って処分をきめるという事件を身分によって区別をつけないという大方針をとったのでございますけれども、やはり社会的な耳目を聳動する事件とか、その他別の法律によって身分の保障されております国会議員とか、そういう方々の事件につきましては、社会に及ぼす影響その他を慎重に考慮しなければなりませんので、そういう事案につきましては、事前に段階的に、ある場合には高等検察庁まで、ある場合には最高検察庁まで事前の禀請をいたしまして、その指示に基いて起訴、不起訴をきめる、こういう処置をいたしております。
  29. 徳安實藏

    徳安委員 かつての国会議員その他に対する刑事事件をよく調べておりますと、私は非常に疑いができるわけであります。と申しますことは、罪があるとして起訴された、その罪の量刑に対しましては、これは情状酌量もございましょうから、あるいは考え方が違うと思いますけれども、罪になるかならぬかということぐらいは――これはしろうと考えですが、国民一般もそう思うのですが、罪になるかならぬかということは、そんなに人によって違うはずはない。そこで、一国の総理大臣になるようなりっぱな方が起訴された、ところがそれは無罪になってしまった、こういう問題に対しては、国民多数の人は、これは判決の上にも政治力が及んでいるのではないかというような疑念を持つ者があるのです。しかし、おそらく大部分の国民は判決疑う者はおそらく今はないと思いますし、判決まで疑うようになってはおしまいだと思うのです。そこで、私どもは、判決は最後に正しいものだ、こう考えますときに、あの大きな事件相当無罪がたくさん出ております。そういうときに、その起訴された検事の責任というものは、これはそうだと思ってされたのでしょうから、別に深く追及はできぬかもしれませんけれども、少くも検事一体の原則で、上は法務大臣から下は一検事に至るまで、大きな事件については共同責任があるのだということであるならば、こうした大きな事件が全くの白紙になったというような問題に対しては、少くも法務大臣検事総長も、政治的な意味においても良心的にも、どうも少し行き過ぎをしたとか、あるいは行き過ぎとまででなくても、せめて申しわけなかったというくらいの謙虚な気持があってもいいのではないか、こう思うのですが、一体、過去においてもそうした事件が起きましたときに、新聞等を見ておりますと、主任検事というものがあるようでありますが、そういう主任検事が多少でもそういう責任を考えるのか。いやこれは一切がっさい最高にまかしておるので、無罪になろうとなるまいと向うの勝手だ、私は私だけの考えでやっているのだということで、どんどん大きな事件が白紙になった、一方は政治的生命を奪われている、国家社会に大きな迷惑をかけるというような場合に、検事さんの方はそれを黙って見ておる、それからどんどん栄進していく、一方は社会から葬られていくというようなことは、どうも法律をよく知らない国民の多数は納得がいかないように思うのです。こういう点につきまして一つ法務大臣の所見を伺いたいと思います。
  30. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 いかにもごもっともな御質疑と存じます。御設例のような場合がございますので、私どもも非常にその点は苦心をいたしておるわけでございますが、裁判の判決に対して国民が信を置かなくなるようでは、国の秩序というものは保たれなくなるだろうと思います。ただいま御設例になったような場合におきまして、国民は、おそらく、この判決に政治的の圧力が加わって、そうして判決までが政治力によって歪曲されて、そうしてああいう判決になった、さようには考えておるまいと思うのでございます。そういうことになりますと、そういう事件を引き起した検察当局の責任ということになるのでございまして、これは仰せの通りでございます。ただ、検察当局が起訴の手続をとりました当時、果してその手続をとったことが適正であったかどうかということは、結果から見ましてそれが無罪になったかどうかというこことだけでは判別はつかないのではないか。つまり、当時の情勢といたしましてば容疑は相当濃厚である、だから、検察官としては、それを見のがすということはかえって職務違反になりはしないか、容疑がこの程度まであるならば、やはりこれを法律の手続に乗せて、そうして訴追しなければならない、こういう場合もあるわけでございまして、ここが検察官としての判断の非常に苦しいところでございまして、ことに、ただいまお話に上りましたような事件につきましては、当時検察当局といたしましては非常にその判断に慎重を期して、そうして訴追手続をとるように決定いたしました状況であるようでございます。でありますから、その後のいろいろの事件が分明になって参りまして、また法律解釈等も明らかになって参りまして、そうしてこの事件で二審において裁判所は罪なしと判決はいたしたのでございますが、裁判官の方でも果してこれが罪があるかどうかということについても非常に慎重に審議をしたようでございまして、ことに、第一審の判決書を読んでみますと、第一審でも無罪ではございますけれども、無罪と判決しながら、しかし、当時の状況として、これだけの事実があれば、その事実に基いて違法の容疑ありとして訴追をした、起訴をいたした検察官としては、これは当りまえであるというようなことまで第一審の判決書には書いてあるのでございます。つまり、検察官といたしましては、人を訴追することでございますから、どこまでも慎重を期して、そうして罪ない者をあやまって訴追するようなことがあってはならないという務めがあると同時に、やはり、国家の要請として、罪ありという疑いが相当にあればこれを法律の手続に上せて訴追しなければならぬという職務を持っておるものでございまして、私情から言えば、何でも許していきさえすれば職務は円満にいくし、問題を起さないのでございますけれども、それでは、たとえばわいろ罪について言えば、公務の公正性ということや公務員の廉潔性が保持されない。こういう点において、国家の要請として公務はどこまでも公正に保持されていくように法律を軍用していくことが、やはり検察官の一つの務めでございますから、この二つの要請の間に立ってその判断をしていくわけでございまして、今度のお話の出た事件につきましても、当時の状況といたしましては非常にむずかしいことだったろうと思うのでございますが、一審の判決でそういうような言葉までしか、そうして無罪である、こういうような判決が出ているわけで、検察官としては、事件の重大性にかんがみて、どこまでもこれは慎重にやらなければいけない、こういうふうには考えておりますけれども、ただ結果において無罪になったから、起訴当時の処置が誤まっておった、こういうふうには一律一体にはいかぬのではないか。だれがその検察の立場にあっても、これだけの証拠が並べば、まず一応訴追をしなければならぬというのが検察官として国家から要請されておる職務の務めではないか。ただし、その後のいろいろの事実とかあるいは法律解釈とか、いろいろの結果、検察官の考えたような結果にならなくても、当時としてはやはり訴追の手続をとったことが正しかった、こういうような判定も下し得る場合があるのでございます。しかし、ただいま仰せのあったようなことでございますから、今後の戒めともいたしまして、やはり検察事務をとっておる者は十分戒心しなければならぬ、かように考えておる次第であります。
  31. 町村金五

    町村委員長 これにて暫時休憩いたします。午後一時より第二委員室において再開することといたします。     午前十一時四十二分休憩      ――――◇―――――     午後一時二十四分開議
  32. 町村金五

    町村委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  刑法の一部を改正する法律案刑事訴訟法の一部を改正する法律案、及び証人等被害についての給付に関する法律案の三案を一括して審議を続行いたします。  発言の通告がありますから、順次これを許します。徳安實藏君。
  33. 徳安實藏

    徳安委員 先ほど時間の制約があったものでありますからかけ足で参りまして少し落した点がありますので、もう二つ三つ刑事局長にお聞きしたいと思います。  逐条説明のプリントに出ておるのでありますが、その中に、「なお、本条によって斡施収賄が処罰されるのは、不正行為の斡施が行われた場合だけでなく、将来このような斡施が行われる場合をも含み、」と書いてございますが、これはどういう意味でございましょうか、御説明いただきたいと思います。
  34. 竹内壽平

    竹内政府委員 この百九十七条の四には、「斡旋ヲ為スコト又ハ為シタルコトノ報酬トシテ」とございまして、あっせんをなすことと申しますのは、あっせん行為はまだ行われないが、そういう趣旨で先に報酬としてわいろをもらいました場合には、そのわいろをもらいましたことによって犯罪が既遂になりますので、そういうふうに御説明申し上げたのでございます。
  35. 徳安實藏

    徳安委員 その次に、「過去にこのような斡旋をしたことについて贈収賄が行われた場合には、斡旋の結果現実に不正行為が行われたかどうかにかかわらず、本罪が成立する。」、こういうことが書いてございますが、これも一つ説明願いたい。
  36. 竹内壽平

    竹内政府委員 これはその次の「又ハ」以下の条文でございますが、あっせんをなしたることの報酬としてでございます。このなしたるというのは、あっせんをしたことでございまして、そのあっせんの結果相手公務員が不正の行為をしたか、相当行為をしなかったかということには関係なく犯罪が成立するという趣旨で御説明申し上げたわけでございます。
  37. 徳安實藏

    徳安委員 先ほど大臣の御答弁をいただきましたが、まことに至れり尽せりの御答弁でございますけれども、私どもがちょいちょい事件に関係された方のお話や担当された弁護士諸君の話を聞きますと、事件直後からすでにその担当する弁護士諸君は、これはもう無罪だというようなことを力強く世間に放送されていることがあるのです。非常に社会情勢が変化したとか、新しい法律ができまして、それによって解釈が違ってくるし、客観情勢も違ってきたから、その当時はそうでないと思っておったが、変化の結果がこういうことになったということも一応うなずける問題ではありますけれども、その当初から、もちろんこれは弁護士は御商売ですから、引き受けるに当っては、お前罪になるぞ、重いぞというようなことを言って受ける人はないと思うのです。けれども、そういう相当権威のある諸君が、これはもう無罪だ、間違いないというようなことをはっきり世間に放送され、しかもその結果が無罪になっているというようなものにつきましては、ただ先ほどの大臣お話だけでは、私どもはどうも納得のいかないような点もあるのであります。私は検事がみな悪いと考えておるのじゃない。みないいと思うのです。しかし、やっぱり政界にも不心得の者が一人か二人あるために、まるで政界はみな悪いことをしておるように思われるように、検察当局においても、少し根性曲りがあったり、わがままをしたり、そして検事ファッショの傾向がありますと、検事みなが悪いように世間が誤解するのでありまして、これはまことに残念なことでありますから、これは相戒めて、私ども政界におる者も、またその取締りの任に当られる検察当局も、十二分にこうした点については世間の非難のないような御処置をいただきたいと思いますが、法務大臣は、こういう点につきましては、大臣という責任の立場から、先ほどの御説明は無理のない説明だと思いますけれども、今後の問題につきましては、もう少しお考えをいただけないだろうかと思うんです。大臣の政党の出身でもございますので、歴代の法務大臣に私どもは親しみを感じておりまして、御無理をなさろうとは考えておりません。また、私が法務委員になりましたのは昨年の十一月からでございまして、刑事局長というような人は、ほんとうに鬼検事みたいなものを指図するのですから、どんな顔つきをしている人か、笑い顔一つしない人だと思っておったが、その方の説明を聞いてみますと、私はほかの方で委員長もしましたし委員にもなりましたが、ほかの役所の局長より以上に親切丁寧にして下さる。こういう刑事局長がおる間は、検事ファッショなんということはあり得るはずがない。それで実は安心したと思うんです。思うんですけれども、どうも、つかまったが最後、もう何と言いわけしても聞いてくれない検事さんも世の中にある。これは、つかまえられた人間はうそを言うという先入主からそうなさるのかもしれませんけれども。でありますから、私どもは、大臣やただいままでの説明を聞きました刑事局長等の御答弁につきましては、非常に満足します。またこういう方の指揮、監督なさっておる部下が検事ファッショなんということに陥るとは考えられません。しかし、これが永久におって下さればいいけれども、いつまたかわられるかわからない。政治家については非常に最近世間が神経過敏になりまして、何か事件があれば手をたたいて事を大きくするという形がございます。取調べに当って、ことに、社会党でもわれわれ自由党でも、党の幹部の名前でも出れば、もうそれで天下を取ったような大きなことを新聞に書く。あるいはまた、名刺一枚があったということで、これが問題になる。実に想像以上の宣伝効果といいますか、国民の気持を刺激するのに大へん大きな影響があるのであります。しかし、私どものこれまでの考えで申しますと、むしろ今日では政党人よりか官僚の力の方が強くて、官僚独善に陥る弊害がたくさんあると思うのです。でありますから、名刺一枚持っていったくらいのことで役人が不正をしいられるなんということはあり得るはずがありません。今日の局長や次官も、大臣大臣でおられる間は言うことを聞きましょうけれども、総辞職だとか、内閣が更迭だとか、あるいはまた改造があるということになりますと、なかなか局長、次官は、言ったってすなおに聞かないのが現状なんです。いわんや、私ども陣がさが行ったって、政党に少しくらい竹のある諸君が行ったって、鼻の先であしらっておるくらいで、正面ではぺこぺこしましても、腹の中ではかえって舌を出すというような官僚も多いのですから、そんなに政党人は今日力が強くないのです。今の世間の風向きがそうとっておるものですから、何でもかんでも政治家が少しちょっかいを出せば悪いことだというような工合に考えられておりますので、非常にこの点についてはわれわれ自身も自粛しなければならぬと思いますが、しかし、こういう風潮に乗じて検察当局等が不用意な言語を発せられましたり、またその態度等にそういう点が現われますと、新聞は、あることないこと、ないことを書くわけはございませんが、針小棒大に大きく取り上げるということで、政治家が非常に迷惑するのであります。ちょうど、政治家が新聞等に書かれますことは、たといそれが罪がなかったにいたしましても、これは、弁護士の諸君が弁護士の免状を取り上げられたり、お医者さんがお医者の免状を取り上げられたと同じことでありまして、もう一生の生活を棒に振らなければならぬのでありますから、こういう点につきましては十二分に一つ御注意が願いたいと思います。  そこで、これは先ほど目についたことでありますから、思いつきの質問でございますけれども、この刑法の中に、百九十四条でございますか、「特別公務員職権濫用」という条文があります。「裁判、検察、警察ノ職務ヲ行ヒ又ハ之ヲ補助スル者其職権ヲ濫用シ人ヲ逮捕又ハ監禁シタルトキハ六月以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮二処ス」、こういうことがございます。これは一つ刑事局長さんに伺いますが、こういうことはどういうことを指さしておるのでございましょうか。読んで字のごとくとおっしゃられれば別でございますが、これまで例がございますれば、そういう例もつけ加えて一つお話しいただきたいと思います。
  38. 竹内壽平

    竹内政府委員 百九十四条は、特に権力機関としての裁判所、検察庁、あるいは警察の職務を扱っております者につきまして、あるいは逮捕をいたします場合の逮捕が法令に載っていない、法令によらない逮捕になったり、あるいは勾留が不当勾留になったり、そういうような場合に、職権乱用罪として特にこのような特別規定を設けまして、公正なる職権の行使をしてほしいという趣旨がこの規定の上に盛られておるものと了解いたしております。
  39. 徳安實藏

    徳安委員 そうしますと、この条文は、正しい取扱いでやったけれどもそれは行き過ぎであったというようなことは全然含まれないので、違法の取扱いをした場合のみ、これが乱用という言葉になるわけでありますか。
  40. 竹内壽平

    竹内政府委員 さようでございます。この場合には、「職権ヲ濫用シ」とございまして、乱用をしておるということの事実を認容して、そうして結果を発生した場合でございますので、適正に行なった結果が、結果論としてみて判決において無罪という判決が出たという場合には、直ちにこの百九十四条の適用を見ることはない、というふうに考えております。
  41. 徳安實藏

    徳安委員 もろん、無罪になったからといって、これが適用されては大へんですから、そういうことはないと思いますけれども、しかし、中には、こんなことを言っては失礼ですけれども検事さんにも気違いじみた検事さんもときどきありまして、何でもかんでもとっちめて喜ぶような性癖をお持ちになっておる方も、たくさんの中にはないとは限らない。私どもはそういうことを過去において見せつけられておる例もある。でありますから、たとい手続は合法的でありましょうとも、そういう方はあるいは不適格者として適当な処置をされることも必要かもしれませんが、しかし、必要以上に職権乱用をされるということは、たとい合法であってもあり得る場合があるのじゃないか、こういうことも考えられるのですけれども、そういうことは全然この条文には当てはまらないことなんでありましょうか。
  42. 竹内壽平

    竹内政府委員 御指摘のような検事が、大ぜいの中にはないとも言えないわけでございまして、この採用その他教養におきまして、その点は十分、注意をいたしておりますけれども、そういうような検事の処置がありました場合に、直ちに百九十四条の適用を見る場合が絶無とは申しませんがなかなか適用を見る場合は少かろうと思います。しかしながら、そういう者が放任されておるのではございませんので、徳安委員も御承知と思いますが、内閣に検察官適格審査会というのがございます。これは検察官の適格を判断する機関でございますが、この適格の根拠となりますのは、病弱その他職務をとるにたえないものと認められる者は、この審査会の決議によりまして罷免することができることになっております。それに関連いたしまして、そういう病的状況、心身の状況だけを審査するのではございませんで、執務のやり方、ただいま先生の御指摘になったような、検察官としてあるまじい取り扱いをしたというようなことも、この適格性に関連する問題でございますので、その審査会で十分審議をされまして、これは罷免ということに至らなくても、勧告というような形で法務大臣に示されまして、その御意見等は常に私ども謙虚な気持で聞きまして、実際の指揮監督の上に反映させまして、検察権の行使に遺憾なきを期しておる状況でございます。なおまた、別途、この百九十四条に該当しない場合でございましても、むしろ問題は、起訴をしたということよりも、不起訴にしたというところに検察官の問題が伏在するというふうに従来理解されております。御承知のように、外国におきましては、起訴法定主義と申しまして、いやしくも嫌疑があります場合には、すべてこれを裁判にかけて、裁判所で判断をしてもらう、そうすることによって検事の公正な態度を明らかにしようというような法制をとっておる国も少くないのでございますが、日本におきましては、これは前の裁判所構成法以来、あるいはまた旧刑事訴訟法以来、検事処分の便宜主義と申しまして、起訴、不起訴を検察官の判断にかからしめておるのでございますが、この判断において、公正でない取扱いをするというふうな、そういう意味の検事の取扱いに対する批判もあるのでございます。そういうものに対しましては、検察事務の検察審査会というのが裁判所の機構の中にございまして、これは民間の方も入りまして不起訴事件について審査をするのでございますが、そういうものに対して、もし検事の不起訴が適切でないということになりますると、これは起訴すべき案件であるという判断をして検事に勧告するというような制度も今日ではとっておりまして、起訴の場合、不起訴の場合、そのいずれに対しましても、あくまで公正な態度をとるように、検事みずから努めておることは申すまでもございませんが、なお外部のそういった抑制機関によって公正な運用をはかるというふうに制度的にもなっておる次第でございます。
  43. 徳安實藏

    徳安委員 大体御説明でわかりましたが、私は最後に大臣一つお願いをして御所信を伺いたいと思うのです。それは、この法案は今の社会の要望でもありまするし、不十分でありましょうとも、政界浄化のためにも一歩前進した法案であろうと思いますから、私ももう双手をあげて賛成しておるのでありますが、しかし、この運営に当りましては、冒頭に大臣が御説明になりましたように、乱用のおそれもあるし、特に誤まった嫌疑によって相当な地位の諸君取り返しのつかない損害を及ぼすようなことがあっては相ならぬということについて数回繰り返してお話しになっております。私も全く同感であります。そこで、本案が通りましたら、これまでの質疑の過程から考えましても、相当に検察当局と、また一般の社会常識なり、法律を知らざる一般の国民との間の考え方等についても、摩擦があったり考え違いがありはせぬかと思う。一方は罪にならぬと思うし、一方は罪になると思うし、そういった点についても相当疑念のある問題が残されております。こういった点につきましては、早わかり表というようなものを作れとは申しませんけれども、少くとも、だれが見ても、もっともだ、よくわかったと言われるような親切なものをお見せいただいて、そうして全部納得するようにしていただきたい。そうして、私ども政界の者も、できるだけ――いや、できるだけじゃありません、万全を期して、この法の精神に沿うように努力もしましょうし、また、検察当局も、あやまって行き過ぎのないようにしていただくということに対して、法務大臣の特別の御配慮一ついただきたいと思うのであります。そうしませんと、こうしたもつれをもう一つ投げかけたようなことになりまして、そうでなくてすらも今日までいろいろ問題がありますのに、今後におきましても、たくさんつかまったけれども、結局は無罪になった、一体どっちがほんとうだというような、実に国民をして迷うような事態がしばしば起るようなことがありましたらいけませんので、一たん起訴したら、まあこれは重き罪に処せよとは言いませんけれども、そのときには必ず罪になるようなはっきりした証拠と、だれが考えても当りまえだと言われるようなものだけを起訴をする、そうでなければ、むやみやたらに人を傷つけるようなことはしないように、十二分に御配慮をいただきたい。そういう点につきましては、検察当局等に対して法務大臣から、一つ適切な指示でもしていただくとか、あるいは所信を表明していただくとか、何かの方法をとっていただきたいように思うのでありますが、ここの点につきまして法務大臣の御所信を伺いたいと思います。
  44. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 一々ごもっともの御意見と存じます。このあっせん収賄罪に関する法案は、一部には、内容があまりに狭過ぎるという御批判があるようでございますけれども、私といたしましては、たびたび御説明申し上げました通り、あっせん収賄行為のうち特に悪性と思われるようなものだけを規定したわけでございますが、しかし、この法律案が一たび法律となりましたら、私は相当の威力を持つ法律になると思うのであります。その意味におきまして、この法律の目ざしておりまするところの公務の公正性とか公務員の廉潔性というものを保持する上に相当の効果をあげる、ひいては、大きい言葉で言えば、政界浄化のいい温床になると確信いたしておるのでございますが、しかし、それだけに、この法律の軍用を一歩誤まりますと、非常な迷惑を社会に及ぼす。この法律との関係におきましては、公務員と一様に書いてありまするけれどもあっせんという関係がありまするから、選挙等によって出て参る公務員との関係がどうしても一番多く問題になろうかと思うのでございますが、選挙区を持っておる公務員といたしましては、どうしても選挙区のことでいろいろのことを頼まれるということは、これは今日の実情でございます。その際に、この法律が非常にじゃまになりまして、そして正当な公務員としての活動すら制約されてしまうということになりますると、民主主義の政治下において、これはまた遺憾なことでございます。ことに、一たびこの法律の適用を誤まりまして、そうして法律の手続をとるようになりまして、それが最後には無罪というようなことになりますると、その人に及ぼす迷惑は、もうはかり知れないものがあると思うのでございます。私は、この法律を立案するに当りましても、なるべく解釈に義疑のないような、そうして、処罰される場合としからざる場合とができ得る限り法律技術的に明瞭に区分されて、そうして不測災いを多くの人に及ぼさないような書き方にしなければならぬということに特に注意をして参ったわけでございますが、ただいま御意見のありました通り、これが法律となって実施されるようになりましたら、まず第一に、私どもといたしまして、立案者としてこういうふうに考えているという解釈上の考え方などを十分に研究しまして、そうして将来の検察事務の参考に資するのみならず、一般のこの法律に関係のある人々の判断の資料にしたい、かように考えておりますし、また、検察部内をよく戒めまして、法律の軍用を誤まらないように十分研究をして、そうして、この法律を適用するに当っては慎重にも慎重を重ねて、そうして仕事をいたすように訓戒をいたしたいと考えておるような次第でございます。
  45. 徳安實藏

    徳安委員 私はそれでけっこうでございますが、もう一つ、これは本案に関係ございませけれども、気づいたことで、一つ大臣の御所信を伺いたいと思うのですが、逮捕という言葉ですね。これは法律家や専門家が見ると、大したことはない、ちょうどお医者さんが人を殺しても何とも思わないように、何とも思わないでしょうけれども、逮捕という言葉が新聞に出ますと、強盗殺人でもしてつかまったようにしか世間は考えません。逮捕という字が法律にございますから、逮捕ということはやむを得ぬでしょうけれども、もう少しやわらかい言葉を使うようなお考えはないでしょうか。これはほんとうに、そういう方面に関係のない一般国民から見ますと、逮捕状が出たということを新聞で大きく書きますと、ネズミの子一匹盗んでも逮捕状が出るわけで、そうすると、まるで強盗殺人がつかまったように世間は思うのです。あの文字はまことに民主主義に反する不適当の言葉のように思いますが、ああいう言葉はもう少し――これは、非常に重犯罪で、人を殺せば、兇器を持っておれば逮捕という言葉はけっこうだと思うのでありますが、そうでない、まだ罪になるかならぬかわからないような人をあの大きな活字で逮捕というのは、どう考えても法律家でない私どもにはあまりに大きく世間を騒がせるような言葉にしかとれないのであります。大臣はその点について何かお考えはございませんか。
  46. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 きわめて率直なお話でございまして、私も今法務の担当をいたしておりますけれども、そういう立場から離れまして、ほんとうに一人の社会人として全く同感なのであります。私も法務の方は詳しくございませんが、承わるところによりますと、諸外国におきましては、日本におけるいわゆる逮捕というような法律上の手続が開始したというても、それほどに考えずに、いずれ裁判で黒白が決するというようなことで、日本人考えるほど逮捕ということにショックを受けない、こういうようなこともあるとやら承わっておりますが、これは社会通念で今の日本にはなかなかそれほどまでにはいかないかと思いますが、先ほどもお話のありました通り、検察当局といたしまして、訴訟手続をとるかとらぬかという紙一重で非常に迷う場合がある、そうして検察当局が右するか左するかによってその相手方には非常に運命の差異が出てくるということでございまして、これで訴訟手続をとりましてもそれほど社会的な影響がなければ、今のような点は非常に軽くなるのでございます。これは逮捕という字をただ改めただけで御希望のような状態が出るかどうかはわかりませんけれども、また、逮捕という字の持つニュアンスからもいろいろと影響があるかと思うのでございます。私は法律の方はしろうとでございますけれども、その御意見は私も共鳴できるような気がいたしますから、今刑法全般にわたりましてもだんだんと調査を進めて参りますから、今のようなお考えの点はやはり学者、専門家の間にも十分考えてもらった方がよかろう、かように考えておるわけでございます。
  47. 町村金五

    町村委員長 吉田賢一君。
  48. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 いわゆるあっせん収賄罪関係につきまして若干の質疑をいたしたいと思います。  第一に伺いたいのですが、この法律の目的をどこに置いておられるか。これはだんだん御説明がありましたので、それらを集約して私ども大体わかるのでありますけれども、なおいろいろな角度から考えますと、その点一そう明確にしておいていただきたいと思いますので、端的に、この立法の目的が何にあるかということを明白にしておいていただきたい。
  49. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 このあっせん収賄罪のねらいどころ、この条文が保護しようとしておる法益は何であるかというお尋ねでございまして、これは前にもお答え申し上げましたところでございますが、要するに、公務の公正を保持するということと、また一つには公務員の廉潔性を担保する、こういう二つの目的をもって立案いたしておるわけでございまして、さらに詳細の点は刑事局長より御説明申し上げます。
  50. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいま大臣からお答え申しましたように、あっせん収賄罪の保護すべき法益は、公務の公正を担保するということと、公務員の廉潔を保持する、この二点にあると思うのでございますが、この両者がそれぞれどちらか一方に偏して立法されておる実例は諸外国にもないようでございますし、また、日本の刑法の規定しております涜職罪も、いずれもその両方の意味を含んだ立法例になっておると理解しておるのでございます。しかしながら、提案理由の中で申しましたように、官紀の粛正と申しますか、綱紀の粛正と申しますか、そういうようなところをねらっての立案でございますので、特に公務員の廉潔性ということがこの法案の重点になっておることは、いなみがたいところであろう、かように考えております。
  51. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 公務の公正を担保し、公務員の廉潔性を保持することがこの法案の目的であるとするならば、それは一切の公務員がみずからこれを保持することによって私は目的を達し得るのだと思います。さようにするならば、この場合請託を受ける者が公務員でなくともよくはないか、要するに、公務員の廉潔を保持し、あるいは公正を維持するということにあらゆる努力を傾倒していくならば、請託を受ける側の者、働きかける方は公務員に限定する必要はないじゃないか、こう思うのですが、その点はいかがですか。
  52. 竹内壽平

    竹内政府委員 公務の公正という点を主として考えます場合には、ただいま御指摘のように、公務の公正を疑わしめるような、そういう危険な状態に置くような行為は、ひとり公務員だけから行われるのではなくして、一般の公務員でない、公務員の身分を有しない者においても行い得るのでございますが、特に働きかけをします主体を公務員に限定をいたしましたのは、主として公務の廉潔性ということの保持に重きを置いたところから、そのような規定をした次第でございます。
  53. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 この法律は、重きを置くとか重きを置かないというのじゃなくして、日本の一切の行政機構、行政の運用の上で公務員の廉潔を保持し、公務の公正を維持しようというのであるならば、今おっしゃったように廉潔性の保持に重点を置いたら、この働きかける側の請託を受けた者を公務員に限定するということは、どうも趣旨は徹底しないと思います。かえって、公務員に限定することによって、その結果は公務員の廉潔性保持に特別なプラスになることはないのではないか、こう思うのであります。これを非公務員一切に及ぶという場合におきまして、むしろこの場合廉潔性保持の全うできる道があるのじゃないか。何となれば、公務員でない者は犯罪の主体にならない。言いかえますれば、非公務員、旧官吏、顔ききのボス、政界の暗躍者、第三者は罪にならぬ。公務員ならぬ者の世界は無限に放任されている。そうして、これを受ける側、相手方になる、受け身になっておる者は、公務員の廉潔性保持というようなことで非常に制約を受けて、働きかける者は、一部の者を抑えて、大部分は押えないということになるのでありますから、あなたのおっしゃる廉潔性保持とか公正保持とかいうものは、かえって目的を逃しないという結果になると私は思うのです。要約すれば、公務の公正を維持するとか廉潔性を保持するということは、働きかける者を公務員と限定したゆえに、非常な制約を受けることになるわけであります。その点の矛盾は矛盾としてはっきりしておいてもらわなければいかぬ。法律案そのものがそこまで広げ得なかった理由もはっきりさせなければならぬと思うのであります。おっしゃる趣旨におきましては、その目的を達することはむしろできないということを御説明になっておるのと同じじゃないか。
  54. 竹内壽平

    竹内政府委員 吉田委員にお言葉を返すようでございますが、この法案におきましては、公務員職務権限を有する他の公務員に働きかけをいたしまして、その働きかけをしたことの報酬としてわいろをもらう、その行為を処罰しようとするものでございまして、その働きかけをします公務員公務員としての廉潔性を保持しようと申しますのは、先般も申し上げたかと思いますが、公務員は金によって買収することのできないものであるということを前提とする考え方でございまして、その働きかけをいたします公務員は、いかなる理由があるにせよ、何がしかの動き方をして、それによって報酬をもらう、そういうことは公務員の廉潔を害するのであるという考え方に立っておるのでございます。その中で、そのような行為公務員の廉潔をそこなう行為でございますが、特に処罰をしようとしまするのは、一定の限定を加えまして、不正な行為をするようにあっせんをした場合にだけに限定しようとしておりますことは、この法文の示す通りでございます。考え方としては、その働きかけをする公務員がそのようなあっせん行為をして報酬として金をもらうということが公務員の廉潔をそこなうを行為であるという趣旨でございます。
  55. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 その御説明、わかるのです。けれども、公務の公正をほんとうに維持し、ないしは公務員の廉潔性をほんとうに確保しようとするならば、これに向って働きかける側を相当広範囲にして、これを制限するといいまするか、これを押えるのでなかったら、できないのじゃないか。これは例は適切でありませんけれども、たとえば、かごの中におる鶏なら鶏、これは外から働きを受ける公務員とします。そこで、その外にはイタチがおり、へビがおり、あるいは犬がおる、こういうふうになっている。この法案の場合は、犬だけを、もしくは同種類の外におる鶏だけをしばろうとしておる。ところが、現実は、しばしば引用されておるごとくに、あるいはヘビに値するところの町の顔役もおる、あるいは今日は公務員でない前の官吏のブローカーがおる、あるいはまたその他第三者に加担しましていろいろ圧力をかける一般人がおる。こういうふうに、外におるそういう幾多の者が放置されて、ただ類似の同じ公務員刑法七条で限定しておる公務員というその身分を持った者だけを押えるというのであれば、あなたのおっしゃるそのかごの中におる清潔なるべき鶏あるいは公正なるべき職務行為、それは十分に保護し、それを確保しようとすることはできないじゃないか、こういうのです。ほんとうに確保しようとするならば、犬もしばるが、何時にヘビもしばる、あるいはイタチもしばる、要するに公務の廉潔を破壊しようとする一切の外の害悪を押えなければ目的を達しないというのです。論理はそういうことなのです。その点におきまして十分に目的を達し得ないということだけはお認めにならなければいかぬ。大体この点はやっぱり大臣も聞いておかなければいかぬのです。私どもも基本的にはこの法律には賛成するのですけれども法律案の弱点は弱点として明白にしておいてもらわなければならない。完全無欠なような、そんな答弁をなさったら、それは首尾一貫しません。それは幾多の矛盾、破綻を生ずるのであります。でありまするので、公務員でない一般人をしばることをどうしてしなかったかということは、これはやはり明白にこの法律一つの弱点として明らかにしておいてもらわねばならぬと思う。
  56. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 この点はだんだん刑事局長からお答え申し上げた通りでございまして、この法律のねらっておるところの一つは、公務の公正を確保しよう、こういうことでございます。そこで、この公務の公正を害するような働きかけというものは、公務員の資格のある者からそういう働きかけをいたしましょうとも、あるいは公務員の資格を持たない者からそういう働きかけをいたしましょうとも、いやしくもそのために公務の公正を害するような結果を生むようでございますれば、それら一切がっさいを犯罪として、公務の公正を害するような働きかけを阻止したらどうかという御意見かと思うのでございますが、これは考え方によりまして一応ごもっともの考えと思うのでございます。ただ、あっせん収賄罪と通常いわれております場合におきましては、一応この働きかけは公務員がする場合ということが想像されるのでございまして、公務員は非公務員に比べて法律制度の上において特殊の権力を持ち、力を保障されておる身分でございますから、まずそういう身分の者からの働きかけを制限するという考え方から出発するわけでございます。それでは、いわゆる官庁ブローカーとかいうようなもので、実力の点においては公務員たる資格はなくとも、公務員たる資格を持っている人と匹敵するほどの者がある、これが公務員に働きかければ、やはり公務の公正を害するという点においては影響は同じではないか、あるいはそれ以上ではないかというような御議論があるのでございまして、なるほど、官庁ブローカー等によるいろいろの働きかけによる弊害というものも、これはなきにしもあらずと思うのでございます。しかしながら、それは事実上の力でございまして、法律制度の上においてその人が力を持っているわけではない。その上、かりに事実上の力であっても、公務の公正を害するという観点から、そういう人の働きかけはやはり法律で取り締ったらいいではないか、こういう考えも立つのでございますけれども、しからばそれをどういうふうに選別していくかというようなことで、立法技術上も非常にむずかしいのでございます。ことに、公務員でない人は一応その働きは自由でございまして、公務員であるがために、公務員としての心がけ、他の一般の公務員でない者よりは国家公共に対してやはり自分公務員であるという自覚に立って廉潔を保たなければいけないという意味におきましては、一般の人よりも公務員はよけいに慎しまなければならぬ、こういうような差別はやはり認めなければならぬと思うのでございます。でありますから、これを立案するについての根本の考え方でございますが、公務の公正を保持するためにはあらゆる働きかけを全部犯罪の対象としてこれを規定して処罰する、こういうふうな考えから出発するか、あるいは、たびたび御説明申し上げました通り、日本においてはこれは初めての立法でございますから、この公務員の働きかけもある限定を加えて、それから、働きかける人にもやはり身分上の限定を加える。つまりいわゆるあっせん収賄行為の中で最も社会的に見て悪性であるというものだけをとりあえずこれを規定いたしまして、そうして、この法律を実施した暁におきまして、その実施の結果から見て、さらにこれを修正するなり、あるいは拡大するなりということを考えていくのが最も穏健である、かような考え方から出発いたしておるのでございまして、これは公務員に限らず一般の人からも公務員に対して働きかけて不正なことをやらした場合は全部処罰したらよろしいじゃないかという、これは一つ考えでございますけれども、しかし、それではあまりにひど過ぎるという考えがあるのでございまして、これを吉田委員のお尋ねに対して私がお答えする際に引例してははなはだ失礼になるかもしれませんが、従来からのあっせん収賄罪についてのいろいろ提示された案を見ましても、昭和十五年の改正刑法仮案にいたしましても、それから、一緒に政府案として当時の国会に提案された案を見ましても、また、吉田委員の方の社会党の案におきましても、やはり全部これを身分犯といたしまして、そして公務員がこれこれのことをした場合に処罰するというふうになっております。私は、まず公務の公正を保持するとともに公務員の廉潔性を保持するという意味から、公務員がこういう行為をやった場合だけを処罰する、こういうような考え方からこの三案ともできておると考えておるのでございまして、私ども、立案をいたすに当りましても、これらすでに提示されております三案を有力なる案といたしまして、参考にして作った次第でございます。
  57. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 非公務員を処罰することは選別が技術的に困難であって、従って立法技術の困難を伴うという御意見でありまするが、公務員以外の者を処罰しないことによって、公務の廉潔性の保持が困難になるという面は当然出てくると思いますので、その両者は、どういうふうはお考えになります。第一に、選別が困難とおっしゃいますけれども、どの点の何の選別か、これは御説明を聞かなければわかりませんが、非公務員を処罰するのと、身分のある公務員を処罰するのと、人間を処罰する関係は、選別することは簡単にできる。果してそれが犯罪に該当する行為であるかということの事実の判断が困難だというのかも知りませすけれども、しかし、この点は、あるいは立法技術の上でというよりも運営の上で困難だというお説になるのかもしれませんけれども、やはりこれは、根本の考え方と、もう一つは、むしろそれよりも、今のこの法律の目的とするところに対する考え方の違いから出てくるのではないだろうか。言いかえますと、もっと端的に申しますと、この法律の目的とするころは、今おっしゃるがごとく、公務の公正、公務員の廉潔性は、今日の日本の社会におきまして極度にゆがめられ、もしくは腐敗せしめられ、もしくは侵害せられておるというこの事実に対するお考え方程度が浅いのじゃないだろうかというふうにも考えられまするので、立法技術の末の問題というよりも、この事態に対処することの軽重、大小の考え方の違いから出発するのではないか、こう私は思うのであります。これをなお繰り返して再言しますると、今日の社会は、財政的に、政治的に、経済的に、極度に腐敗したものと思いますので、こういう腐敗に対処する一つの立法措置といたしましてのその考え方が少し甘いのじゃないか、こういうふうにさえ私は考えまするので、これらの点についてお伺いした次第であります。
  58. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 今日の社会情勢を見て、公務の公正が破れておる、綱紀を粛正する必要今日ほどはなはだしきはない、こういうような認識につきましては、全く吉田委員と私は同感でございまして、あっせん収賄罪を立案いたしましたこの必要性につきましては、いろいろの案を従来から提示しておられる方々に劣らず、この立法の必要を痛感しておるものでございます。ただ、私は、一方公務の公正、公務員の廉潔ということを保持しなければならない、こういう必要は認めますけれども、そのためにまっしぐらに邁進して、そうしてこの法律ができ上った際における反面の弊害をも忘れてはならぬ、こういうことにも立案者といたしましては慎重なる注意をいたしておるつもりでございます。この法律の立案、制定の必要は痛感いたしておりまするけれども、だんだん先ほど来申し上げました通り、この規定は、ある意味においては非常におそろしい規定でございまして、一歩その軍用を誤まりますると、非常な弊害を生ずる。民主政治下における公務員の善意適正な活動すら非常な制約な受けるという危険性を持っておりまするから、その点につきましても立案者としては十分なる注意をいたさなければならぬ、かように考えておるわけでございます。  先ほど選別の点について御疑義があったようでございますが、私が申し上げまするのは、例として、たとえば官庁ブローカ―なんかよるあっせんで弊害があるじゃないかというを話がすぐ出るのでございますが、そういうような人々も、やはりあっせん収賄をしたらば犯罪になると書くか、あるいは、そういうような人々を書かずに、一般にだれでも公務員に対してあっせん収賄したら罪となると書くか。その二つを立法上書き分けるのが非常にむずかしいというので、従って、何人を問わず公務員に対して不正の作為・不作為あっせんして、そうしてわいろをとったりするときには処罪すると書きますると、この処罰の対象社会全般の人に及ぶわけで、そういうような大ぶろしきを広げるということは非常に危険ではないか、かように考えまするのみならず、そういうような注意から、先ほど申し上げましたように、従来提示されておりまするこのあっせん収賄に関する三案とも、やはり公務員という身分に限っておるわけでございます。  結論的に申し上げますれば、このあっせん収賄罪を制定する必要性ということにつきましては、私も吉田委員同様痛切にこれを感じております。痛感いたしておりまするけれども、しかし、立案者の責任といたしまして、ただその目的を追うために、その反面にある弊害を忘れることはできない。でありますから、この弊害が起らないようにということを心配いたしまして、そして今日のようなこの案を作った次第でございます。
  59. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 公務員の廉潔を保持し、公務の公正を維持するということは、この法律案によりますると、主客両方がそうであるということになっております。ところで、一方主体になる、働きかける側の公務員におきましては、いろいろな制約といいますか、犯罪の要件がこれに規定されてあるようであります。そういたしますると、今法務大臣は、すべての非公務員も含んでしばるということはあまり大ぶろしきで危険だというお考え方をお述べになったのでありまするが、しかし、また一方から考えますると、これを公務員に限定することによって、あらゆる非公務員が除外されてしまう。いずれが大きいかということは、現実にまだ統計等はありませんけれども、しかしながら、現実的なこういう被害の想定は、かなり広範囲に非公務員が入るということは考えられる。もう一つ公務員にしてなお請託その他職務上の不正行為あるいは相当の有為をさせたりさせなかったりという条件を付してありますので、一そう限定をされていくわけであります。こんなに限定いたしまして、働きかける側の公務員の廉潔の保持ということを、今日のどろ沼のような腐敗社会の日本におきまして目的を達する、一体ほんとうにそんなお考えがあるのかどうか。そうではなくして、これも何かしら一つの大きなアドバル―ンを上げたことになって、このような法律によって大きな警戒心を越す、それが目的であるというのかどうか。今おっしゃる公務の公正、公務員の廉潔を保持したい、それが法益であって、これ守りたいというこことを、ほんとうに将来はお考えになっているか知りませんけれども、きょうはそこまでいくのではなくして、一つの大きな警戒心を起すこことがねらいであるということがほんとうではないだろうか。これは、今申しましたように、働きかける側においても幾多の条件を付してこれを制約してしまっておりますので、私はその点を痛感せざるを得ないのであります。これがほんとうのところじゃないかと思うのですが、そのほんとうのところをやっぱり大臣はずばっとお述べになっていただきたい、こう思うのです。
  60. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 今日まで、この法案につきまして、あるいは狭過ぎはしないかといういろいろの御批判がございました。その一つは、第三者供賄の規定がないではないかという御批判が世上にあるのでございます。また、今吉田委員から御指摘のありましたように、公務員だけの身分犯としたのは狭過ぎはしないか、公務員以外の者のあっせん収賄罪も処罰の対象にしたらばよくないかという、これも本案から見たら非常に範囲の広いものになるのでございます。しかし、これは、もし私の言葉が過ぎればお許しを願いたいと思いまするけれども社会党から御提案になっておりまするあっせん収賄罪に関する法律案のうちにも、第三者供賄の規定もなく、また身分犯として公務員だけを処罰するようになっております。この二つの点は、私は社会党の考え方と全く同調をいたしておるつもりでおるのでございます。その点実は社会党からのお尋ねがあろうとは期待しなかったのでございますが、今お話のありましたそれとは別に、この案はいろいろの条件でしぼっておるではないかという御非難は当然あることと覚悟をいたしておったのでございます。その点がこの法案に対するわれわれの考え方の重点でございます。それで、この条文のうちにいろいろ制約があると仰せられまするが、私どもは、公務員に働きかけて不正な作為・不作為をさせた場合だけが犯罪が成立する、この点が一つのしぼりだと考えております。そのほかの請託とかあるいは報酬とかいう点は、私ども実際の学者、専門家、実務家等に意見を聞いてみまして、さほど御心配になるほどの制約にはなっていないように思いまするが、これはあるいは意見の相違かもしれませんが、ともかく、一番大きなしぼりとなっておるのは、この不正の作為・不作為をさせた場合という点でございます。これにつきましてはあるいは根本的の考え方の相違から出発するのかもしれませんが、これも先ほどくどく申し上げました通り、わが国におきましては古い昔から学者、専門家の間にこのあっせん収賄罪を立案する必要が唱えられまして、種々論議を戦わして参ったのでございまするけれども、なかなか学者間の意見も一致を見ずに、今日まで法律とならずに参ったわけでございます。その間におきまして、学者、専門家が心血をそそいで研究して、昭和十五年に発表になっておりまする御承知の改正刑法仮案の中にも、あっせん収賄罪に関する一条文があります。この一条文を作った当時の速記録等を調べてみましても、やはり、その当時の学者、専門家の意見といたしまして、あっせん収賄行為を処罰する法律は必要であるけれども、この規定はややもすれば乱用のおそれのある危ない規定であるから、一応の制限を付さなければならぬということで、あっせん収賄行為のうち、本人が要求してわいろを取った場合だけを処罰の対象にするのだ、こういうふうに条文ができております。これもやはり、やたらに広く規定して、およそあっせん収賄行為であれば一網打尽、ことごとく網するというような考え方は危ない、だからして、ともかく要求してわいろをと取った、これはもう自分が要求したのだから、覚悟の上だから、これを処罰するのだ、こういうような考え方でできておったようでございます。しかし、今日の学者は、だんだん研究して、要求したことと要求しないことによって悪性を区別することは理屈にならぬということで、私どももさように考えましたものですから、このしぼりは採用しなかったのでございます。こういうような考え方と申しますのも、この規定はどこまでも必要であるけれども、その反面においてこれはまた運用のいかんによっては非常に危ない規定である、こういうような考え方の間に立ちまして、そうして不正の行為をさせた場合だけをまず処罰をするというふうに間をとって規定したのでありまして、その内容におきましては最も適正妥当であると確信いたしておる次第でございます。
  61. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 そもそもこの法律を作る前提となるべき日本の現状につきまして、あなたも、この法律を作る必要性を切実に感じたと、その点私としごく同感らしいのであります。それなら伺いますが、一体今日のようにあまりにもひどい政界の腐敗――政界、財界、経済界を通じまして、予算の執行面においても、綱紀の紊乱面においても、あるいはまたその他、表に刑事事件になるのは九牛の一毛であります。こういうようなひどい状態というもの、つまり、このような法律によって綱紀の粛正も達したいというその汚職とか腐敗とか綱紀紊乱というものはそもそも一体どこから来たという御認識に立っておられるのですか。最も大きな原因はどこから来ておるというふうにお考えになっておられるのですか。
  62. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 これは私がお答えするにはあまりに大きな問題と考えるのでございますが、これは私以上もうすでに吉田委員において御承知のことと思うのでございまするが、いつも言いならわされておりますことは、やはり戦争を契機といたしまして国民の道義が廃頽したというようなことも一つの大きな原因でございましょう。それからまた経済環境ということもございましょう。その他各般の原因が結果を生み、結果がまた原因となりまして、そうして今日のような、状況に相なっておる、かように考えておるわけでございます。
  63. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 一言で尽せないこれらの重大な社会腐敗の原因は、今日国民の世論でもあるし、何人も社会常識として今日知っておるところであります。さすれば、一体この法律によってそのようなこと抜本的に粛正されるというようなことでもお考えになるのかどうか、あるいは、そういうことに至る過程として、この際は、いろいろと非難はあろうけれども、不十分なものだが出したというのであるか、それすらも達しないけれども警告をするというのであるか。私は、そこで、法律の術語として、公務の公正を維持するとか、公務員の廉潔を保持するとか、その概念的な熟語の説明よりも、具体的な今日のこの腐れ切った泥沼のような社会に対しまして一体何を果そうとするのだろうかということを知りたいのであります。さっきも申し上げるがごとくに、一般を警戒するためにこのような不完全なものがあるけれども出したのだというのであるならば、それもまたわかります。また、漸次拡大し充実していくのであるというなら、それもまたわかります。それもわかりますが、一体ほんとうはどこがねらいであるかということについて、もしくは確信があるところはどうなのかということについて、これはもうしっかりとした考え方を持ってもらいませんと、今後におきまして展開する幾多の問題の取扱いについても、いろいろと問題が問題を生んでくるんじゃないかと私は考えるのであります。その点について重ねてあなたの御所信をやはり聞いておかなければならぬ。
  64. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 これにつきましては、私の根本的の考え一言申し上げて御了解を得たいと思うのでございますけれども、政界の腐敗とか、あるいはさらに広く一般犯罪の防止というようなことは、一片の法律の立案ではとうていこれを実現することはできない、かように考えておるのでございます。一般犯罪の防止、あるいは政界、公務員社会の道義の高揚というようなことは、根本的には、それ自身が自粛自戒して、そうしておのずから法に触れないようになってこなければ本物でないと考えるのでございまして、ただ、そういうふうに自粛自戒に待って放任しておくわけに参りませんから、第二の手段として法律をもってこれに臨むということになると考えております。その第二段の手段として法律をもって臨む場合におきましても、一々法律をもって威嚇して、そうして目的を達するということはいかがなものかという考えを私は持っておりまして、法律の力には限度ありと私は考えておるものでございます。その意味におきまして、今日の政界の粛正と申しますか、いわゆる官界の綱紀粛正と申しますか、こういうことは、法律以外の各般の施策によって初めて期待し得ることと思うのでございます。ただ、この条文もその意味においては相当有力な一助となる、かように考えておるわけでございます。それで、この法律は必ず相当の実効をあげ得ると確信をいたしておりますが、運用いたしましたその結果によって、あるいは狭きに失するならばこれを拡張してもよかろう、あるいはあまりに力が強過ぎるならばさらに一つの制約を考えなければならぬ。いずれは運用の結果によってきまるべきことで、現段階におきましてはこの程度の内容が最も適正妥当というように考えておるわけでございます。
  65. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 公務の公正を保持するためにはあらゆる手段が必要であるということ、これもわかります。同時にまた、法は万能でないということ、これも当然であります。この点はむしろ私は別の論点といたしまして政府の所信も実は聞きたかったのでございますが、これはあとに譲るといたします。  そこで、それならば、この法律は、最も端的に言って、どの公務といいますか、すべての公務の粛正あるいは清潔の保持ということがこの法律ではできないということをすでにお認めになっておる。あらゆる手を尽さなければできないということはお認めになっておる。それならば、せめてこの法律によって何を期待するか。公務の公正を保持することも十分に期待できない、公務員の廉潔を十分に保持することもできない、何とならば法は万能でないから、――今の御説明の通りであろう。それならば、一体何を主にしてねらっておられるか。公務員といえども千種万態、ずいぶんたくさんにありまするが、一体最も主たる眼目はどの方面に置かれるのか。まず働きかける方はどこに置かれておるのか。これらについてもやはり相当な重点がなければならぬ。公務員の廉潔性の保持が重点だとおっしゃるごとくに、あるいはそうでない面が相当なければならぬが、それは、公務の廉潔が失われて起る現状にかんがみ、どこを押え、どこをつき、何を目標にすることが最も適切かということは、立法作業の中途においても十分御検討あってしかるべき問題でありますが、何を主としてねらわれたのでありますか。この点を一つ明確にしておいてもらいたい。
  66. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 法律の建前といたしましては、ひとしく公務員と書いておりますから、公務員と書きながらどの種類の公務員をねらっておるかというお尋ねに対しましては、別に法律はどういう種類の公務員をねらっておるということはございません。およそ公務員でございますれば、この法に触れますればやはりそれぞれの処罰を受けることになるのでございます。ただ、実際問題といたしまして、あっせん収賄でございますから、自然に、人から請託を受けるような種類の公務員、これがこのあっせん収賄の規定に縁ができてくる、かようなことは想像できまますけれども、そういうような意味合いだけはございますけれども、どういう種類の公務員をねらってそして立案しておるというようなことはございません。     〔高橋(禎)委員長代理退席、委員長着席〕
  67. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 しかしながら、法律を作ることが社会の要求にこたえんとするためであることは、御説明によってすでに明らかであります。それならば、どの方面にどういう種類の公務員によって日本の公務の廉潔が失われてきたか、あるいは侵害されてきたかということは、統計その他の御研究によって明らかにならなければ、資料なしにばく然と、魚がおるかわからぬけれども網を打ったということになれば、これは全く不用意の立法と言わなければなりません。そういう意味におきまして、何もことさらに特殊の部類に属する者が対象でなければならぬという意味ではないのですけれども、現実の大きな被害があってこそこの法律ができたことは御説明によって明らかなんであります。それならば、一体どういう方面において主として日本の廉潔なるべき公務が侵害されておるのか、それは相当明らかでなければならぬと思う。地域的に職域的に、中央か地方か、あるいは公選によって出た者か、そうでない者か、何かそこでもっと具体的な資料なしにこの法律を作ったということは、それはかえっておかしい。材料なしに、根拠なしに作ったというそしりを免れないと思います。その点はいかがでありますか。
  68. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 これはお説の通りでございます。しかしながら、統計数字で証明をするほどの資料はございません。と申しますのは、今日あっせん収賄罪を新たに規定しようというのでございますから、すでに規定がございますれば、それに基いてそれぞれの法律上の手続をとりますから、りっぱな資料ができるのでございますけれども、その法律がないためについにその手続を中途半端でやめてしまいますから――お手元へ差し上げた資料もございます。これらからの判定もできますけれども、これが完全無欠な資料というわけには、数の点から申しても言えないのでございます。しかし、大観をいたしまして、今日綱紀はどこまでも粛正をしていきたい、公務の公正、公務員の廉潔はどこまでも保持していきたいという考え方からこの立案の必要を痛感したわけでございます。
  69. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 すでに犯罪統計というのは刑事事件になった、もしくはならんとしたものに限られておるのでありますから、この法律の根拠になる前提資料とは若干縁が遠いわけであります。でありますので、かえって、そうでない各般の材料がまとめられなくして重大なこういう立法をするということは私はどうかと思う。やはり、経済の計画にしても財政の計画にしても、日本の国のあらゆる重要な社会事象個個の統計等々が根拠になってできることは申し上げるまでもないことであります。でありますから、これは相当な根拠がなければならぬと思うのだが、法務省にそういうふうな各般の種類の統計調査等を準備する機関がないとするならば、これはやはり一考してもらわなければならぬと思います。  そこで、もしかりにここに、世上伝えられるがごとく――日本の憲法の建前からいたしましても、やはり公選された国会、この国会議員の立場というものが政治的には最も優越した立場にあることは憲法の明示するところであります。あるいはまた現実には行政府の方が優位であるというような御意見も事実上あるかもしれませんけれども、建前としては国会であろうと思う。しからば、もっと集約するならば、国会議員である、あるいは地方においては地方議会議員である、こういうふうにも一応考えられる。これが最も大きな他の職務に対する影響力を持っておる。つまり影響力を持ち得る地位であり、公務員というふうに考えられるのであります。それなりとかりにいたしましたならば、公選して出てきた者に対しましては、あるいはその違法のあっせん収賄的な行為につきましては、これはほんとうを言えば、刑法的な罪として縛るというよりも、やはりこれは世論がこれを厳重に批判をし、あるいはまた生命である選挙によってこれを明らかにする。そうして、支持しないということであれば落選することは当然である。ところが、そういうことにつきましては根っから十分な考えがめぐらされておらず、そうして一方この法律によってあっせん収賄として処罪せんとするのでありますから、この点も、およそ目的のためにはあまりにも手段が小さ過ぎて、目的を達することができないうらみがあると私は思うのであります。でありますから、公選された議員につきましては、新聞の批判なり、世論なり、ないしは選挙によってその政治的生命を奪うということが当然でありますので、むしろ政府といたしましてはそういうことに重点を置くということが、私は最も大事なことであろうと思うのであります。ところが、そうではなくしてこういうことに臨んでいくというのでありますから、その点につきましても、ものの考え方の軽重、緩急につきましてお考え方がどうかと思うので、これも御所見をはっきりしておいてもらいたい。
  70. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 このあっせん収賄罪を規定する必要性ということにつきましては、先ほど申し上げた通りでございまして、これはわが国の刑法学界におきましても、また世界の刑法学界におきましても、この規定の制定の必要があるという議論が昔から唱えられておるのでございます。刑法体系といたしましても、やはりこの一条文がなくてはならないという意見があるのでございます。そういうことで、わが国におきましても数十年来研究して参っております。くどく申し上げるようでございますが、昭和十五年には改正刑法仮案が発表されて、そのうちにもございます。それから、越えて十六年には、当時の政府から国会に提案されて、当時の貴族院で議了いたしましたが、衆議院の議決を得ずにつぶれてしまった歴史もございます。それから、公務員といいましても、官公署の公務員だけを限って、そうしてこのあっせん収賄に関する戦時の立法もすでに成文法としてかつては実施を見たようなわけでございます。それから、吉田さんの所属しておられます社会党からも、もうたびたび御提案があって継続審議中であることは御承知の通りでございます。また、在野の法曹、弁護士連合会等におきましても、この法律の制定の必要の意見を具申して参ってきております。また、検察当局その他の実務家の側でも、やはりこの種の規定が要るという意見に一致しております。こういうような識者の意見を多数総合いたしまして、そうして今日あっせん収賄罪一つの規定を作ることが、やはり刑法法典整備の上に必要である、時宜に適しているという結論を持つことには、少しも不自然は私はないと確信いたしております。この点は、吉田さんには、よくこの法案を出されたということでおほめをいただけるものと実は思っておったのでございますが、この法案を提出する必要性につきましては、これはもう私は痛感いたしておる次第でございます。ただ、御参考に提示してあります過去における事例は、何分にも数が少うございます。これだけをもって判断いたしますと、ただいまお話のありました、選挙によって出てきた公務員による働きかけもございますし、そうでない選挙によらざるいわゆる官吏というようなものによるあっせん収賄行為もあるようでございまして、種々雑多でございますが、とにかく、いずれにいたしましても、これはあっせん収賄行為でございますから、あっせん依頼されるような種類の公務員がやはりこの法律に一番縁が近い、こういうふうに考えられるのでございます。
  71. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 私が公選議員を特に取り上げましたゆえんのものは、やはり、前段述べたごとく、この法律が完全に公務の公正の保持と廉潔の確保に役立つ法律ではない、幾多の抜け穴のために十分ではないがゆえに、しからば、そのような場合に、公選議員が最も有力なあっせんを受ける主体になるような地位であることを考えますならば、法律の効果、影響力の限界と、そしてこの立法する目的の広範であることと、他にこれを補充しもしくはこれを補足していくべき幾多の方法も同時に考えておかなければいくまいという角度からお伺いした次第であります。ことに、たとえば国会議員がこの犯罪の主体になるというような、働きかける側の主体になるというような場合には、その被害が最も重大であると私は思うのであります。こういうような観点から見ましても、これは幾多解決しておかねばならぬほかの手段を私は用意していくべきだろうと思います。  そこで、幸い自治庁から衆子選挙局長が見えているので伺ってみたいのでありますが、この国会議員選挙――知事の選挙もありますが、主として国会議員選挙に例をとってみますと、公職選挙法の改正調査をめぐりまして幾多の論議が国会あるいは調査会等でせられております。こういうようなものを通覧し、あるいはまた公職選挙法の買収事犯の判決事例等によって見たり、ないしは雑誌の記事等によって見ましても、この選挙の実費、実際の経費の使用高というものが、およそ法定費用を何倍超過しているということは異口同音に発言をしている状態であります。こういうことは、これは犯罪として刑事事件として取り上げられたかいなやは別といたしまして、こういう事態に対しましては、兼子選挙局長はそういう事実ありというような考え方に立っておられるのだろうか、ないという考え方に立っておられるのだろうか。五当何とか落とか、いろいろな標語さえできている折柄ですが、実額は法定費用をはるかに超過するというのが常識とさえ言われるのでありますが、これに対するあなたの具体的な事務から来る考え方一つはっきりしておいてもらいたい。
  72. 兼子秀夫

    ○兼子政府委員 選挙の運動経費の実態についてお尋ねでございましたが、選挙運動に関します経費につきましては、御承知のごとく、公職選挙法第百九十四条の規定によりまして、その支出金額の制限があるのでございます。すなわち、選挙区内の議員の定数をもって有権者数を割って得た商に一人当り七円の金額を乗じた額が制限額に、衆議院議員についてはなっておるのでございます。その他の選挙につきましてはそれぞれ金額は違っておりますが、そういう制限額のもとに選挙運動が展開されるわけでございます。選挙運動の経費につきましては、また百八十九条の規定によりまして、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に提出する、こういう規定になっておりますので衆議院議員選挙につきましては都道府県の選挙管理委員会、全国選出の参議院議員についてのみ中央選挙管理会に届出がなされておるのでございます。そのような届出の記載から見ますと、支出はその法定費用の範囲内においてまかなっておるのでございます。ただ、実態がそれでは合ってないのじゃないか、このような御趣旨のお尋ねでございますが、新聞雑誌等では、たびたびそのような記事が出ているのでございますが、私どもごく親しい人に個人的に聞いてみますと、いや法定費用の中でやっていると言う方もございますし、そのような実態につきましては、私どもといたしましては非常に把捉がむずかしいのでございます。
  73. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 あなたは事務当局だから、法務大臣警察庁長官刑事局長を前に置いて、当然公職選挙法に違反するような事実がむしろ常態であるというような御説明はしにくい立場にある、これはわかります。けれども、きょうは私は何もそれを主にして議論をするのじゃないのであります。そのような金のよって来たるところが問題なのであります。もし選挙費用が法定費用の範囲内で行われて、そしてそれがほんとうに確保されておるというのであるならば、政界の腐敗問題はこんなにやかましく議論しなくてもいいのです。ほんとうはそうなのです。あなたも国会における選挙法改正に関する調査特別委員会の公聴会における何人かの参考人の意見なんかも十分にお聞きになり、あるいはお読みになったと思うのであります。これらの人が単に道聴塗説を流布したとは私は思えぬのであります。一々これは読み上げることはいたしませんけれども、あるいは千万といわれ、二千万といわれ、幾多のこういう例示もあげられまして、多くの有力な人が重要な参考意見を開陳しておられるのであります。まさかこれはたわごとであって架空の事実を言っておるとも私は思えぬのであります。そういうところにやはり問題があるのじゃないかと思うのです。また、選挙費用を少くするということは、小選挙区案の一つの理由にも言われたことは私も聞いております。安くするということは、単に法定費用云々というだけでないと思います。実際の経費という意味だと思うのであります。そういう点から見ましても、やはりこれは常識論をやってもらいたい。常識論でも参考になります。これは選挙違反として捕捉はしておらぬ、それはそれでいいでしょう。けれども、常識論としてでも、あなたの常識論というものはやはり相当参考に値すると思うのであります。それすらあなたはなお、法定費用内で、届出がそうであるからその通りだと思うということなら、せっかくの時間を空費しますので、実はもう私はお出ましを願ったことは意味がないことになったのです。だから、あなたの常識なり、社会のこういう常識なり、あるいは公聴会の参考人の意見なり、知名の士のそういう意見というものをどうお考えになっておるのかということも含みまして、この点に対する選挙費用の実態、生態を、もっと常識論でよろしいから、何とか資料としてはっきりしてもらえませんか。それでも依然として、届出が少いのだから、その通りと思いますということになるのでしょうか。それはいかがですか。
  74. 兼子秀夫

    ○兼子政府委員 選挙運動の経費の実態的な面についてお尋ねでございましたが、告示に入りましてからの経費は、これはもし届出に違っておりますればすぐにその面から違反ということになって参るのでございます。でございますから、これは私は実態に合っておるのではないかと思うのであります。ただ、選挙運動の前に、おつき合いと申しますか、そういう面でいろいろ経費がかさむ人があるように聞いております。すべての人が必ずしもそうではないと思うのでありますが、そういう顕著な例がジャーナリズム等では問題にされるのではないかというふうに考えるのでございます。いろいろと新聞等でそういう数字について論議がありますが、私どもの見るところでは新聞の数字というものは相当大き過ぎるのではないか、このように考えております。
  75. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 その告示以前のおつき合いというのは、およそ実際の選挙運動に入ってから使うものとの割合から見れば、数倍、数十倍、こういうふうに普通言われるのですが、その点はどうでしょうか。
  76. 兼子秀夫

    ○兼子政府委員 そういう点については、私ども全くしろうとでわからないのであります。話を聞きましても、そういうことについて十分的確な知識を得ておらないのであります。
  77. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 あなたは、選挙費用、選挙事務等について、しろうとというよりも、日本でただ一人の重要な立場にあることは、たれもみな認めておるのです。あなたが知らなかったら、日本人全部めくらであります。これじゃやはり公正な選挙はできないんじゃないかと思います。しかし、これ以上言ってもしようがない。  そこで、大臣に伺うのでありますが、この点は刑事局長でもよろしゅうございます。このような選挙費用という問題が、やはり政界、つまり選挙をなす人、公選によって出てくる議員の一番大きな悩みだろうと私は思うのです。たとえば、一人が百万円使うと、他の人もやはりそれに近い数字が事実上要るということになってくるんじゃないだろうか。何人かが五百万円使う、そうすると、それは告示後であろうと以前であろうとにかかわらず、ともかく要る。そうなれば、今日の国会議員にたとえれば、国会議員の給与、手当等をもってこれを支弁することは事実上不可能であります。この点ははっきりと申し上げたいと思う。ことに大臣選挙の御経験があり、みずから国会議員であられるのでありまするから、その数字はたれよりも御承知だろうと思います。この給与をもってして一体どうして選挙費用をまかなうことができましょうか。もし法定費用の数倍、数十倍要るということであるならば、その金は一体どこから出てくるのですか。これはやはり、何らかの利益を得るか、もしくは特殊な後援者があるか、後援団体があるか、特殊な会社その他の経済団体があって支援してくれるか、取ってくるか、もらってくる、そういうふうにせなければこの選挙費用の生みどころはないと思う。現に今日国会は解散空気が濃厚になっておる際でありますので、議員はおそらくたくさん登院はしているのだろうけれども、事実上選挙資金の金策に走られておる人が多いだろうというようなことが廊下の立ち話で聞えるのであります。こういうことを考えてみましたときに、一体その金はどこから出てくるだろうか。その金はやはりある意味におきまして国家の財政資金、予算を食うというような機会が生じてくると私は思います。そこにあっせん収賄の機会が待ちかまえている。だから、選挙の粛正ということ、あるいはまたあっせん収賄罪をなくするということ、特に選挙によって出てくる議員の身辺を粛正して、その方面の公務の公正と廉潔性を保持しようとするならば、やはり選挙費用を少くするということ以外には道がないであろうということも考えられまするが、現状においてはそれは容易ならぬことである。その金は、明治、大正の時代には、みずから山を売り田を売って、井戸へいになったというようなことがあったけれども、今日はそうではない。今日は議員生活をすると豪勢な邸宅をかまえるという人も中にはあるわけであります。こういうわけでありまするので、この点は、まことに不可解というよりも、国民はもう歯ぎしりして遺憾に思っているのです。そこで、あなたに伺うのでありまするが、そういうような選挙費用というものが常識的に考えてずいぶん多額に使われているが、それがこの法案によっては縛られないけれども一つあっせん収賄という形で収受されるものが相当あるということも想定されるのではないか、こういうふうに思うのでありますが、その点の御所見はいかがでありますか。
  78. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 選挙で出て参りまする公務員が、時に現行法の収賄罪に触れる疑いを持たれたり、また今度のあっせん収賄罪でもあるいはこの規定の適用を受けるような場合が起るといたしまして、その原因は選挙費用が非常にかさむからだ、それが一つの原因であるということは御意見の通りと思うのでございます。これは、選挙区一般の有権者が目ざめてくれまして、そうして自分たちの代表者だという観念から、議員生活をしておる者が歳費だけで正当なる生活もでき、そうしてまた国会と有権者との間の政治的の連絡もでき、一たび解散になりましても選挙のために大して費用を使わない、こういうようなことになりますれば、自然やはりわいろ関係の犯罪が減少するということになろうかと思うのでありまして、やはり、選挙によけい金が要る、議員生活は非常に金がかかる、こういうことから、ときにあやまって法規に触れるようなことがあると考えておりますから、根本は、議員生活、選挙、こういうようなものに金がかからないような政界を作らなければならない、かように考えております。
  79. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 不正行為相当行為について少し伺ってみたいのでありますが、毎年お出しになる決算検査報告書によりますと、連年予算執行上不当事項がずいぶんたくさんあがっておりますことは、これはもう顕著な事実であります。たとえば昭三十年度の検査報告書によりましても二千百八十五件に上っております。三十一年度について見ましても、減ってはおりまするけれども千百二十八件に上っております。そしてこれは不当行為ないしは不正行為というように類別されておりまして、租税の面において、予算の経理の問題、工事、物件、役務、補助金というふうに類別ができると思うのでありますが、これは政府並びに政府関係機関等にわたっておる次第でありますが、ここにいう予算の執行上の不当事項というものは一体相当行為ないしは不正行為とどういう関係になるのか、これは一つ刑事局長に聞いてみましょう。
  80. 竹内壽平

    竹内政府委員 会計検査報告に載せられます不当事項、不正事項という概念は、ただいま御審議をいただいておりますあっせん収賄罪における不正行為あるいは相当行為でない行為、そういうものと必ずしも概念的に一致しないと理解しております。会計検査院が不正行為として掲げておりますものは犯罪として取り上げられるものを多く掲げておるようであります。不当事項として掲げておりますのは、行政法の概念における違法にあらざる行為、適法行為と違法との間の、適法とも言えないがさればといって法律にいわゆる違法ではないといった不当行為をいうのであるか、その辺の範囲は、概念的には私どもの理解するところでは必ずしも明確でないように思いますが、これは、会計検査院としての取扱いその他によって、会計検査院としては一定の考え方をお持ちになって掲げておるものと思います。
  81. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 それなら伺いますが、この法律不正行為というのはどういう趣旨でありますか。これは資料の一にも二にも判例が二、三出ておりますが、不正行為とは要するにどういう趣旨でありますか。
  82. 竹内壽平

    竹内政府委員 本法案における不正行為は、刑法百九十七条の三のいわゆる枉法収賄の規定に掲げてあります不正行為または相当行為をさせないというあの概念と同じ概念と私どもは理解しておるのでありまして、この枉法収賄に関する判例の解釈も、さきに御説明申し上げました通り、ここに不正行為あるいは相当行為でないというここの関係は、公務員としての職務上の義務にそむいた作意、不作意、積極行為、消極行為、それを広くさすもの、かように解釈しておるのでございます。
  83. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 職務上の義務に違背をしないということは、その方面から言ったらどういうことになりますか。たとえば、国の予算を執行する場合に、ある目的、ある趣旨、ある時期、ある方法に限定せられてこれを執行する、これが職務上の趣旨に従う行政行為であろうと思います。そうでないものは職務上の義務に従っておらないのだから違背するのであるかどうか。
  84. 竹内壽平

    竹内政府委員 職務上の義務に違背する場合の根拠となる点でございますが、これは各公務員職務に関するそれぞれの法令を検討して決定するほかないと思うのでございますが、直接法令に根拠がなくとも、その法令を根拠として規定されております、あるいは職務上の訓令、内規、そういうものをもここに法令の根拠として考えて差しつかえないと思うのでございます。そういうものに違背することによって、公務員の与えられた職務権限、職責に違反する場合がここにいわゆる不正行為に当るのでございます。
  85. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 それじゃ、相当行為との区別を一つはっきりしてもらいたい。相当行為とは何ですか。
  86. 竹内壽平

    竹内政府委員 不正区行為をなしまたは相当行為をなさない、この不正行為と、「又ハ」以下の相当でない行為の二つは、積極、消極のを行為作為、不作為の場合をさすのでございまして、判例の解釈によりますると、両者の間に実質的な差はないのでございます。申さば、不一正行為の裏が相当でない行為、そういうふうにこの解釈としましてはなるのでございます。
  87. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 およそ、官庁事務、つまり公務員職務の執行は、法律に基くか、あるいは政令その他の命令に基くか、さもなければ慣例に基くか、こういうこと以外には私はないと思っております。それならば、職務上行うべき基準はあるのではないか。それなら、同時にまた、もっと集約して、どうすることが義務であるか、どうしないことが義務であるか、どうすることが職務行為であり、どうすることが職務行為の逸脱であるかということは、これは明白になっておらねばなるまいと思います。さすれば、一般会計にしても、一兆数千億円の国家の予算の執行に当りましては、これは財政法以下あらゆる法律命令等があるわけでありまするから、そこで、違法でもない適法でもないまん中のものがある、一体そういうようなことで一兆何千億円の予算執行をしていいだろうか。そういうことでは、不正行為が何か、相当行為が何かということの基準も明らかにならぬではないだろうか、こういうふうに思われます。でありますから、これはやはり、予算執行の面におきましては、一体不正行為とは何か、相当行為とは何かということを、この法律実施に当りましては当然明確にしてもわなくちゃならぬ。しからば、三十年の二千数百件、三十一年の千数百件についてもわれわれは考えなくちゃならぬと思うのです。特に、その予算執行につきまして、違法でもない適法でもないあいまいなものもあり得るというようなことでは、どうにもなるまいと私は思うのでありまするが、その点につきまして、不正行為相当行為との関係はどういうようになりますか。
  88. 竹内壽平

    竹内政府委員 公務員職務執行します場合に、法律ないし命令の根拠なくしては行わないというのが原則でございます。しかし、その法令に従いましても、なおその公務員に自由裁量を認めておる。それは自由裁量をすることが法令によって自由裁量になるのでございまして、そのような自由裁量行為をなします場合に、第三者が見てそれは穏当でないとかあるいは適当でないとかいうような批判は十分できるのでございますが、あっせん収賄罪における不正行為というのは、そのような主観的な批判のようなものではなくして、客観的にきめられなければならぬことは、ただいま吉田委員の仰せられる通りでございます。従いまして、私どもは、この解釈につきましては、過去の幾多の判例が示しておりますこの解釈にのっとって運用をいたすつもりでございます。なお会計検査院の不正行為、不当行為、不正事項、不当事項、こう申しておりまするのは、必ずしもあっせん収賄罪における不正というのとは一致してないということを申し上げただけでございまして、不正行為につきましては大体犯罪だけを取り上げておられるようでありまして、これはこのあっせん収賄罪における不正行為よりも範囲が狭過ぎるのでございます。あっせん収賄罪における不正行為はもっと広いものを含んでおるのでございますが、それでは、不当行為不正行為に入るか、会計検査院の不当事項あっせん収賄罪における不当事項、不正事項に入ると申しますと、その中のあるものは入る場合があるかもしれませんが、これは具体的に検討して見ませんとわからないのでございます。あっせん収賄罪に関する法律用語としての概念は、これは判例によってすでに明確になっておるのでございまして、その点はいささかも疑義は存しないと考えておるのでございます。
  89. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 判例の例示するところはまことにわずかでございまして、ここにお出しになっておるものも多くの例ではございません。従って、われわれが広範な目的に対処してこの立法をせられた政府の意図をいろいろそんたくしますときには、やはり国家の行政の粛正に向っても相当な決意を持っておられるので、予算の執行面のことを今伺わんとした次第なのでございます。  そんなら、もっと具体的の例をもって言いますと、それは三十年のできごとですが、法務省におきまして、三十年八月に、随意契約によって三菱商事株式会社からふとん綿五万二千貫を価額三千八百七十四万円で購入しておる。ところが、これは規格に合わぬものであって、約四百二十万円低額のものを入れておって、これだけ国に損害を与えているというような趣旨の案件になっております。今これは、あっせんの有無というようなその他の法律要件の問題は一応別にしておりますので、要するに不正行為相当行為と予算執行上の関係を明らかにせんとして伺うのであります。これは竹内局長も御承知と思いますが、この品物を検収の際に、検査担当官が現品と見本品とを対照するという程度で、現物を十分に検査しなかったということに原因するようであります。そうであるとするならば、一体どこが法令の義務違反したことになるのか、どこも違反しないことになるのか。もしこれが第三者があっせんをすることによってこういうような不良品を納入して数百万円の損害を国にかけたということになるならば、これはこの場合あっせん収賄罪の構成が生ずるかもしれません。いずれにいたしましても、このような場合に一体不正行為とか相当行為とかの関係はどういうふうに判断をすべきものでありましょうか。こういう予算執行上の大きな過誤であります。これはどういうふうに価値判断したらいいでしょうか。
  90. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまお示しの例は、私が前任の法務省経理一部長といたしまして国会で御審議を受けた事項でございますので、ただいまもはっきりと記憶いたしておるのでございますが、本件は検収が適当であったかどうかという点にかかるのでございまして、検収その当を得屈せんために結果においてそのような国損を与えたということについての会計検査院の御批難であったわけでございます。本件を少し様子を変えて観察をいたしてみますと、かりに、本件の納入者でありますおたふく綿の会社が法務省の予算担当官に不良な綿を納入することについて請託をして、その結果そのような検収を故意に手を抜いて、結果においてそのような損害を発生せしめたというような場合でございますと、これは刑法の背任罪にも該当する事案かと思うのでございまして、そのような取扱いが予算担当官として不正な行為になりますことはほぼ明白であろうと存ずるのでございます。しかしながら、本件はそういうような事案ではなかったのでございます。
  91. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 それはそういう事案でなかったことも私は存じしおりますので、これは単に一つの引例にすぎないのであります。そこで、案ずることは、予算の執行ということはやはり法令によって執行されておるのでありまして、予算の執行上、当、不当、さらに正、不正ということ、相当行為の有無、不正行為の有無ということは非常に重大な問題があると思うのです。幾多の想定されるべき不正行為相当行為というものが、たとえば国家の財政資金を金融機関から引き出す問題にいたしましても、あるいはまた、不正にある補助事業を強要してさすという場合におきましても、とにかく予算の執行に伴っておる場合が大半だろうと思います。そういたしますると、予算の執行上不当事件として検査院が指摘しました昨年の数千件の事案というものはどうなるのだろうかということは、一応考えませんと、これがあっせん収賄罪のほかの犯罪要件が具備しておるやいなやは別といたしまして、少くとも不正行為相当行為との関連においてこれは相当観察していくということが当然だろうと私は思うのであります。こんなにたくさんに集約して資料の出ておるものはないのであります。そこで、この法律案について検査院は御承知かどうかは存じませんけれども、一応伺わねばならぬので、あります。  この不当行為、不当事項の中には、たとえば経済的に効率的でなかったという面も含んでおるように思われますが、やはり法令に違反するという面におきましては大半がそうなるのではないであろうかというふうに考えるのですが、その点はいかがでございましょうか。
  92. 小峰保栄

    ○小峰会計検査院説明員 お答えいたします。会計検査院で毎年――多い年は二千件余り、三十一年度では三千百数十件というものを検査報告に載せまして批難しておることは先ほどからお話があった通りであります。まずこの中で不正行為というのが先ほどお話に出ましたが、検査院が不正行為として分類しておりますものは、その二千数百件の中のごく一部であります。これは、先ほど刑事局長からいろいろお話がありましたように、犯罪として起訴されたものだけでございます。すでに現行の刑法なりその他によりまして起訴されたものばかりでありまして、従ってあっせん収賄というような今問題になっておりますものとは全然関係のないものだけであります。主として公舎の横領でございます。それから、それ以外の、先ほど来話が出ておりますが、いわゆる不当事項の中には法令違反行為も入っております。それから、大部分が、吉田委員示しのように、高いものを買ったとか、悪い工事をしたとか、あるいは不当な補助事業に対して補助金が行っているとか、こういうようなものが数は多いのであります。これが、先ほど御意見のありましたように大部分が公務員あっせん的な行為が入っているかどうかというふうなこことは、ちょっと私どもとしては今までそういうことを実は全然認識しておりません。今までたくさん出ましたケースの中に、公務員が介在して、かりに今度のあっせん収賄罪という法律ができました場合には適用を受けるかというようなことになりますと、実は今までこれを全然見ておらぬというふうに申し上げるよりほかないかと思うのであります。今後どうなるかという点の見通しにつきましては、ちょっと今のところ何とも申し上げかねる次第でございます。
  93. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 あなたに伺おうとしたことは、不当事項とは何ぞやということでありまして、それとともに、今の不正行為相当行為との関連においてこれを明らかにしようとしたのであります。従って、あっせんが介入しているかどうかということは、これまた別個の問題であります。けれども、安いものを高く買ったということが直ちに法令に違反しないということも簡単に言えないと私は思うのです。何となれば、もしもっと厳重に検査したら安く買えたものを、厳重に、つまり適切に検査担当官が検査しなかったというような場合に、やはりそれは法令の義務違反をしておるのではないだろうか。そうして、そこを一つほどよく検査してくれという請託でももしあったとすれば、別にまたそういう請託が介入することになりますので、安いものを高く買ったということは直ちに法令違反にあらずということは、私は即断ができないと思います。ましてや、工事の場合、工事物品の納入等々におきまして、ずいぶんとたくさんな不当事項があるし、またこれは大ていが――大ていというよりもむしろ多くが法令に違反しておるのではないか、こう思われます。不当事項の価値をあなたから実は聞こうとした次第であります。  それで、刑事局長になおこの点に関連して聞いておきます。不正行為というのは、要するに、あなたは、判例並びに学説もあるので、大体基本的な観念がきまっておるというふうにおっしゃっておるけれども、犯罪事件というものは、これは幾らでも起ってくるのでありまして、今のこのあげました何千件というものでも、たとえば予算執行の適正化法から見れば、あるいはこれは法律違反になっておるものも相当あるかもしれません。ただし、それが刑事事件として取り上げられるか、犯罪事件として取り上げられるか、そうする必要がないかどうか、これはまた別の問題であります。そういうように考えて参りますと、二つや三つの判例があるからといって、不正行為の基準が明確になっておるということは、いかがかと私は思うのであります。凡百の、むしろ無数の無限に拡大していくところの予算の執行のあり方から見まして、複雑な側面から見まして、私は一つ一つが新例になってくるのではないかと思います。要するに、不祥事項とは何ぞや、不正行為とは何ぞやということがいよいよどうもわからなくなるような感じさえするのであります。  たとえば、こういう点についてはしからばどういうようにお考えになるだろうか。かりに外貨の割当を行わんとしておるときに、担当官は、これは適当でないという判断をした、けれども、上役の方で、それは割当をすべし、こういうようにかりにしたとします。そういうことによって、それがその他のあっせん収賄罪の要件を備えておるというような場合に、それは一体不正行為となるんだろうか。もっと端的に申しますと、違法の行為を上役によって指示された場合に下役は、それに従っていかねばならぬのかどうか、下役が行いますその職務行為は同じく違法になるのかどうか、職務違背の行為になるのがどうか、それはどうなります。
  94. 竹内壽平

    竹内政府委員 一般的に申しまして、違法なる命令に対して、下僚が、上命下服である行政機構のもとにおきましても、これを順奉しなければならない義務は、ただいまの国家公務員法その他公務員法の規定のもとにおいて考えられないのでございます。従いまして、違法な命令に対しては、服従しなければならないことはないはずでございます。なお、それで私のお答えになるかどうかわかりませんが、不正の行為が凡百の事件の中にいろいろな形で出てくるのであって、その凡百の事件を調べてみないと不正の概念ははっきりせぬのじゃないかという御疑念でありますが、これは、判例は少数ではございますけれども、明治四十四年以来昭和二十九年の判例まで多々あったと思いますが、その間に終始一貫いたしまして、この不正の行為とは、公務員職務上の義務違反する行為であるという、この基本線は動いておらないのでございます。  ついでに、先ほどのお言葉の中に、お答えを要する事項ではないかもしれませんが、お答えを申し上げますと、会計検査院のたくさんの不当事項の中には、厳密に検討いたしますと、法案にいわゆる不正行為に当る場合も少くないのではないかというように実は私考えておるのでございます。予算の関係について申しますならば、会計検査院では国損というところに非常に重きを置いてごらんになっておるようでございます。一例をとって申し上げますと、物品を購入いたします場合には、これは競争入札で購入するのが原則でございますし、特に必要やむを得ない場合に随意契約によって購入することができるわけでございますが、もし随意契約によってやって、その価格が妥当であるということになりますと、これは、会計検査院としては、一応の注意はするかもしれませんが、これを不当事項としてお掲げになることは、事例としてはあまりないのじゃなかろうかと実は思うのでございますが、このあっせん収賄罪における不正行為という方の観点からこれを見ますと、随意契約にする場合は、これは例外でございまして、特に法令の定めた場合以外には許されないのでございますが、それを何らかの意図のもとに担当官が競争入札でやるべきものを随意契約で購入したということになりますと、もしそれが他のあっせんに基くものであるならば、そのようなあっせんを受けてそういうふうにやったということになりますと、不正の行為をしたということに私ども解釈をするのであります。
  95. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 検査院の小峰次長に伺いますが、財政法その他の会計法規におきまして、不正行為という字句のある法令はどこにあるのですか。
  96. 小峰保栄

    ○小峰会計検査院説明員 お答えいたします。会計法規で不正行為という字句を使ったのは、ちょっと記憶しておりません。検査報告で不正行為といたしましたのは、犯罪とするのを、まだ刑の確定しないものがございます関係で、これは犯罪という用語を避けまして、不正行為という表現をだいぶ前からしているわけでございます。
  97. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 法務省民事局の方はだれもいないのでありますが、民事法規によりまして不正行為という字句を使ったところはございましょうか。もしお答え願えるならば一つしてもらいたい。
  98. 竹内壽平

    竹内政府委員 民事局の方が来ておりませんので、ちょっとお答えを留保させていただきたいと思います。
  99. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 そうしますと、こういうふうに伺うことはできるでしょうか。今検査院の検査報告に不正事項というのは、これは法規に基いておらず、むしろ慣例的な御使用らしいのです。慣例ならばやむを得ないといたしまして、刑事法規、民事法規ないしは会計法規あるいは決算報告書あるいはその他要するに一連の政府関係の用いまする不正行為というものは、判例はともかくといたしまして、やはり内容は同一趣旨であるというふうになさるべきでないかというように考えるのです。これは少し議論が飛躍しておるのかわかりませんけれども、こういう点についてはどういうふうにお考えになるだろうか。もし他に用語例があるとするならば、やはり不正行為という概念を法規の上で明確に統一していく必要があるのではないだろうか。検査院の報告書についても、やはりその点はこのたびの立法せんとする不正行為と概念も一致さすということが、政府の文書でもあると存じますので、いいのではないだろうか、こうも思いますが、これは法務省と検査院の両方に伺っておきたいと思います。
  100. 竹内壽平

    竹内政府委員 いろいろな用語が分れておりますことは解釈運用上も適当でないのでございますが、この不正という用語は、刑法の概念としまして、これはひとり日本ばかりでなく、世界の刑法学界において――別に外国語は不正という字を使うわけではございませんが、この不正に該当する言葉を使っておるわけでございまして、この不正という考え方につきましては、学問的には概念的にほぼ確立したものでございます。ただ、一般国内法について、刑法には不正といい、その他のところでは適法とかあるいは不当とかいう用語があるわけでございます。私どもの理解しますところでは、行政法規の面におきましてはあまり不正という用語を使った実例に出会っておらないのでございます。行政法規におきましても、あるいは場所によっては使ってあるところもあるかもしれませんが、要するに、考え方としましては、行政法では違法ということを申します。これは成文法に違反した場合に違法ということになるわけでございます。そして、その違法は行政訴訟対象になるのでございまして、そういう意味におきまして、行政成文法におきましてはこの違法という概念が広く用いられておるのでございますが、刑法の概念では、急迫不正の侵害とかいうふうに、この不正という文字が使ってございます。もちろん刑法にも違法という概念がございますが、刑法にいわゆる違法と、行政法にいう違法とが、同じ違法という言葉を使いますと混同されがちでございます。また、私どもも、この不正の解釈について、違法という文字を使って、あるところで説明したこともあるのでございますが、これはなかなか一般に御理解をいただくことが困難で、違法の認識とか違法性の阻却とかいうような問題の場合の違法は、行政法のいわゆる違法とは違うのでございまして、その点、やはり、この説明におきましても、違法という言葉を避けまして、この国会におきましては判例の説明しております通りの説明に終始しておる次第でございます。
  101. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 いろんな判例がありますけれども、表は法律に従って、実は法律を抜けていくという説法行為というものも、これは実質的に職務違反しておる場合は不正行為とみなすのですかどうですか。これも概念的な問答のようになりますけれども、設例しても同じことだから、お尋ねします。
  102. 竹内壽平

    竹内政府委員 ちょっと御質問趣旨がわかりませんが……。
  103. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 要するに、脱法行為というやつがあるのですね。表は法令に従っておる、しかし事実は法令に違反しておる、こういうことがだんだんと知能犯的に、知識の活用をたくましゅうする人々の間に行われますので、こういう場合も、やはり職務違反する場合には不正行為となるのですかどうか、こういうのです。
  104. 竹内壽平

    竹内政府委員 抽象的にはお答えすることは適当でないと思いますが、しかしながら、今のように脱法行為が何らかの刑罰法令に触れる場合は、これは申すまでもなく違法でございます。刑罰法令にはっきり書いてございませんでも、脱法――表面は適法行為のように見えて実質的には違法になる行為であるという場合を脱法行為と普通言うわけでございますが、そういう形でそれが実質的に違法なことは、公務員行為としましては職務上の義務違反すると見られる場合が多いと思いますので、そういう場合には不正行為に入る場合があるんじゃないかと思います。
  105. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 要するに、不正とか、相当とか、違法とか、脱法とか、不当というような、そういうように各行為はいろいろと表現されておりまするが、この適用の場合には、これは事実認定の問題になるかと思いまするけれども、少し混雑しまして、不正行為なり、しからず、相当行為なり、しからずということは、なかなかむずかしいのでないかというふうに考えられます。たとえば、タクシー業の免許といったような場合に、この間も売春業者の転業問題について神近市子さんと私もいろいろとあっせんをして、三重県で免許を受け、大阪でも免許を受けたのでありまするが、優良な条件を提示して申請した者に免許をしない、不良な条件であっても、過去の慣例あるいはその他の経済圧力、いろいろなものから免許したというような例もありますが、こういうようなものも、あなたのおっしゃる自由裁量権がどっかにあるんだから、どんなにりっぱな、ほんとうにだれが見ても常識的には免許しなければならぬと思うている場合にも、自由裁量権で、これは免許すべきだ、これはノーだ、これはイエスだといって免許する、こういうことになりますが、これは一般的に不当な行政行為と見ております。しかし、あなたの言う不正ではないかと思う。しかし、実質的に何らかの請託を受けて、そうして他の官庁の職務に圧力をかけてこのような行為をやらしたというような場合、実質的にはこういうようなものこそ相当防止をしなければならぬのではないかと実は思うのであります。その他の要件が備わっておりましたら、私は当然こういうものは処罰の対象になろうかと思いまするが、しかし、自由裁量権があるんだからというので、客観的には実にけしからぬ、道徳的には不正だといっておりましても、それは職務に違背しないのである、こういうことになりましたら、一体、もしそうなるとするならば、そういう官庁の役職員というものは国民より偉い者になってしまう、こういうようなことにもなるわけでありまするが、そういうような場合は、なお従来のごとくに不当な事項として見のがされていくべきものなのか、あるいは、不正な行為として義務に違背しておる、従ってこの法案対象になるのかどうか、その点について、不正行為という観点に立って一つ御答弁を願いたい。
  106. 竹内壽平

    竹内政府委員 自由裁量行為であります場合に、一般的にその免許、許可がけしからぬというふうに第三者から批判されるような行為であります場合に、その免許、許可が直ちに不正行為になるかどうかということは、これは非常にむずかしい問題でございまして、不正行為の範囲を、公務員職務に違背する行為というふうに判例は判断しておりますが、そのような行為まで不正行為と見るかどうかということは、私、判例の態度として、疑問だと思います。
  107. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 ですから、やはり判例は十分にまだ成熟をしておらぬ、やはり凡百のこの種のわいろ罪ないしはあっせん収賄罪的な違反刑罰法規の対象にすることにはあまりにも数が少なかった、実はこういうことを痛憾せざるを得ないのであります。しかしながら、やはり現実の国民の被害というものは、これは大へんです。あなたのおっしゃるように、公正な職務行為職務行為の公正を保持するということは、とりもなおさず国民全体への奉仕の職務を全うするという、こういう崇高な立場に立って考えてみましたならば、ことに今のような場合、裁量権があるがゆえに、まるで王者のようにワンマン的なそういう処置をして、それが何ら罪に問われないということになりましたら、これは一体何を処罰するのかということになります。他の例をあげますならば、たとえば融資の問題でもそうであります。御承知の通り、選別融資、ひもつき融資――融資はひもがついているのでなければ貸さない、国家財政資金であっても貸さない、必要なところへは出さぬ、必要なところへは流さぬで、必要でないところに流していく、そういうところにも、不正とは何ぞやという概念を、もっとやはり国民主権的な考えを持ちまして――官僚が天皇の官僚であるとした時代のような錯覚に陥ると、不正行為とは何ぞやということもやはり本末が転倒してしまうと思うのです。そこはやはり、行政的に裁量権があるとしましても、社会常識から見ても明らかに不当でないかというような場合には、これはやはり職務違反するというふうに考える方が私は妥当であるというふうに思います。判例そのものはもちろん成長していかなければならぬと思いますが、かかる意味合いにおきまして、今までの判例の態度、判例の例示だけをもってしましては、不正行為の内容をここに十分に説明し尽すことはできぬと思います。従って、同時に、相当行為もしかり、違法行為あるいは脱法行為、不当行為、凡百のそういう行政的な行為がことごとくについて相当明確な態度をもってしなければ、今後問題の処理はできないのではないか、こう考えるのであります。  それから、次に伺いたい。これはわいろの問題でありますが、一体判例等によりましてもずいぶんとたくさんな例があげられているのでありますが、社交とわいろ性の関係を少し明瞭にしていただきたい。これは判例でも明瞭であるようで明瞭でないようであります。今日、盆・正月の祝儀ということにかこつけまして莫大なものが流されていくということが慣例になっておりますが、一体これでいいのだろうかどうだろうか。ここにやはりわいろの収受との関係を明確にせにやならぬ一つの問題点があるだろう。たとえば、あっせん収賄あっせんをやります。旧そうしてそれぞれとある不当な行為をさせ、もしくは相当行為をさせなかった、しかし、直ちにわいろをとらない、しかし、年末、盆・正月にはどっさりもらいます。盆・正月の祝儀にかこつけまして持っていくということになりましたら、盆・正月でみんな逃げてしまう。そういうことになりましたら、一体どこに適法性、違法性、妥当性の線を引くべきか。これはつまり社交との関係だと思いますけれども、特に盆・正月の関係においてどういう線でわいろの性格がきまるのですか。
  108. 竹内壽平

    竹内政府委員 吉田委員も御案内の通り、わいろという概念は、一般的には公務員職務に関して職務の代償として、対価として受け取るところの不法な利益のことをいうのでございます。あっせん収賄罪の場合におきましては、その点が若干離れまして、他の公務員に対してと不正なことをした、あっせんした、その報酬として受け取るものもあわせてわいろという概念に含めておるのでございますが、要するに、わいろというのは、公務員職務と関連のある不当な利益のことをいうのでございまして、ことに、本法案の場合には、報酬としてそのような利益を取る、こういうことでございます。従って、先ほども申しましたように、実費的なものが入らないことはもちろんでございますが、さらに、今の社交的儀礼によって贈答されるものも、これは報酬としてという説明があってもなくても、わいろという概念の中に一般的には含まれていないのでございます。しかしながら、今仰せのように、盆・暮れの社交的な儀礼に籍口して多額の金品が贈答される、こういうことはどうだという御質問でございますが、籍口してということになりますと、これはすでに社交的儀礼ではないわけではございます。それでは、どのくらいの金品、金額から社交でなくなり、わいろ性を帯びてくるかということの分れ目の基準でございますが、これを明確に法文で書くことはどうしてもできないのでございます。これは社会通念によって裁判例によって判断をしてもらうほかないわけでございます。
  109. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 社会通念は明らかに固まらず、裁判例また明確になっておらぬので、ここにやはり問題が生じるわけであります。問題が生じますので、大体どういうことを社会通念上不法性を帯びた利益とせられておるのか、何らかの基準がなければなるまいと思いますが、お考え方はどうですか。
  110. 竹内壽平

    竹内政府委員 盆・暮れの贈答でございましたならば、盆・暮れの贈答として受け取る人、贈る人の社会的地位、この辺をにらんで良識的に判断するほかないのでございますが、極端な例を申しますと盆・暮れの贈答品として非常に多額の金品を贈ったといたしますと、これは、口では何と申しましても、社会通念上、単なる社交的儀礼としての贈答品とは見られないというふうに判断されるのが常識であろうと考えます。
  111. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 国会議員にたとえてみますと、国会議員の盆・暮の贈答で千円は下法利益になるだろうか、一万円は該当するだろうか、三万円相当でなければ該当しないのかどうか、その辺については常識的にどうお考えですか。
  112. 竹内壽平

    竹内政府委員 非常にむずかしい御質問でございまして、お答えのしようがないのでございますが、一般的には、贈答品でございますので、現金を持って行くのは大へん失礼な持ち方だと思います。そういう点も一つの基準になろうかと思います。
  113. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 私は金額を申しましたが、金品でいいです。
  114. 竹内壽平

    竹内政府委員 千円に相当するものは、贈答品であるが一万円ならばいけないとかいうことは、私としてはお答えしにくいのでございます。これは社会通念によって良識により判断していただくほかはないと思います。
  115. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 そういうことについては最終的には判例がきめるにいたしましても、立法技術を担当する政府当局といたしましては、何らかの検討をして、それを示さなければならぬと思う。大臣はさきにこの法律案趣旨内容等を書いて国民に知らせたいとおっしゃっておられましたが、そういうことも書かずに、千円が不法やら十万円でなければ不法にならぬのやらわからぬようなことでは、国民は適従に迷います。判例幾つかを明示しましても、判例は、そのときの物価指数等の関係もあって、五百円を不法なりとする判例もあるわけでありますから、その辺がはっきりしない。やはりここらは法律を作る政府の用意といたしまして相当のものさしをお示しになる必要があると思う。そうしなかったならば、末端の警察官が、お前はあっせん収賄をしたのだろうというて捜査をするということにせられたら、人権じゅうりんになることもしばしばあるわけであります。半面不正は逃がさないようにするけれども、また無辜の良民を縛ることのないようにすることがわれわれの最も関心を大きくするところでありまするので、この法律乱用されるようなことになったら大へんであります。けれども、ものさしがはっきりしないので裁判所に行ってきめなさいということであるならば、とんでもないことであります。かえってそういうことが警察官の職務行為違反になるやらならないやらわからぬ。ある証拠品の押収を被疑者依頼せられて、しなかったということが職務上の相当行為をしなかったということで、ここに資料として例示せられておるのであります。そういうことになりますならば、やはり相当その辺のものさしが必要ではないかと思うのであります。要するに、そういう基準を持たぬというのではまことに心細い限りでありますが、この点はどういうものでございましょう。
  116. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 いかにもごもっとものお尋ねでございます。しかしながら、これは人間わざとしては実にむずかしいことでございまして、かりにここで、どの程度までは盆・暮れの儀礼と見る、それ以上のものは贈収賄と見ると私どもが申しましたからというて、果してそれが裁判に当ってその通りになるかどうかも予言することはできませんし、どうしても拘束力を持たせるとすると法律上でもってちゃんと書かなければならぬことになります。しかしながら、物価の変動もございまするし、社会情勢もいろいろ違います。でありますから、この問題は、今度のあっせん収賄罪については、今お尋ねでございますけれども、現行法の解釈におきましても、何日までが益・暮れの贈答になるか、それ以上が収賄になるか、すでに問題と言えば問題でございます。これはとうてい書き切れるものでございませんから、そこが検察官の良識に待たなければならぬところでございます。一番いい例といたしましては、私ども、これなるかなと思ったのでございますが、吉田委員と党を同じゅうする佐竹委員から実に適例を伺ったのであります。それは、佐竹委員の大学在学当時における中村進午博士の講義の一端を披露されまして、毛が何本あればはげというかという設例であります。私はこれは実に社会常識をうかがった適例であると考えておるのでございます。何本以下をはげとはいい、何本以上をはげといわないかということは、人間わざではとうてい規定できるものでないのでございますから、そこは検察官の良識に待たなければならぬ。従いまして、検察官は常々社会常識をよく養成していかなければならぬと考えておる次第でございます。ただいまの御注文、ごもっともでございますけれども、なかなかそれは明らかに申し上げることはむずかしいのじゃないか。それはこのあっせん収賄罪についてだけの問題でなくて、現行法についてもすでにそういう疑問があるわけでございます。
  117. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 利益というものは、法律上、財産的価値を生む有形無形を問わないということは、これまた判例の趣旨でありまするが、それならば、たとえばこういうものは利益になるのでしょうか。選挙法の改正について見るならば、小選挙法案が出ようとしたときに、ゲリマンダーと称しまして、飛び石のような選挙区、あるいはへビのような選挙区なんというていろいろと悪評を買ったのでありますが、この場合に、私は当時考えたことでございましたが、一体、選挙区というものは、甲乙の二人が立候補の意思があって、君、この区を半分こっちに譲ってくれぬか、十万円やるから一つ讓ってくれ、――そうするとその区には数百票がある。これは一般的にその政党を支持している票であり、あるいはその譲った人の支持者である。譲った人の支持者であるとすると、そこに何代も選挙を繰り返しておるので、おのずから客観的に価値を生じておる。選挙上の利益の内容を持っておる。そこで、そういうような選挙を通じて受ける利益を財産的に譲渡するということも可能である。そういうようなことも考えられるので、一体、この利益という概念には、そういう選挙区を変えるというような場合に、選挙区も入るのであろうかどうであろうか。これは、たとえば甲乙丙丁という議員があって、この甲乙丙丁という議員が、みずから議員として公正な職務行為ではないと知っておりながらも、自己が当選したいばかりに、あるゲリマンダーで小選挙区を作ろうとすることに立法的に努力する。これはけしからぬ職務違背だと実質的には考えられる。しかもそういうようなことが何らかの圧力でもあるといたしましたならば、なおさら違法性が加わっていく。それはともかくといたしまして、選挙区というようなものまでいわゆるこの利益に入るのであろうかどうであろうか。利益とは何ぞや、財産的価値の有無を問わない、人間の自由を満たすものであるならばそれでいいというならば、大いに選挙をやろうとする者が、選挙区を変えることについて莫大な金を投じて、そうして、自分利益になるように選挙凶を、変える立法努力を職務の実質に反して行うということになったら、これはもうけしからぬ不当な行為でないかと思うのだが、これはまことに異例な例示であってちょっと恐縮ですけれども、私は当時そういうことも考えたのであります。利益というものはどこまでこれを考えていくべきかということになりましたときに、そういうものも一つの例として考えられるのかどうかということについてのお考え方一つ聞いておきたい。
  118. 神谷尚男

    ○神谷説明員 ただいまのお尋ねは、私どもとしましても非常にお答えするに窮する問題でございますが、要するに、人間の欲望の対象となるものはすべてわいろたり得るというのが、従来の裁判例の示しておるところでございます。そこで、今お尋ねの件でございますが、要するに、それが社会通念上客観的な価値があると一般人が認めておるのであるとしますならば、その限度におきましてわいろに入る余地もあるのじゃなかろうか、かように考えております。
  119. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 政治的献金の問題ですが、たとえば、法案通過あるいは阻止を策しまして、そして個人もしくは団体が毎国会におきまして相当に殺到して来、あるいはまた陳情して来ることは御承知の通りであります。そういうようにいたしまして、ともかくも経済的な利益があるような法案がずいぶんありますが、この場合に、法案通過に努力する、ただし、その努力することは、法案の正しいこと、適当であることというよりも、政治献金を二つの目的にしておる、こういうようなことがありとするならば、それは一体どうなるであろうか。個人である場合は簡単でありますけれども、団体の行動ということになったらこれはどうなるでありましょうか。こういうようなことも実は考えさせられるのでありますが、法律案、予算案その他請願等々、およそ議員として国会職務上行うべき種々の行為を伴いますこのようなものに、地方、個人または一体として議員に運動して、その法律案を通し、もしくは阻止した予算案を阻止し、もしくは予算案を通したというような場合には、これは一体どうなるべきものであろうか。その辺についての一般的な御説明一つ聞いておきたいと思います。これはやはり、政治的信念に基いて行動するという団体もありますけれども、しかし、同時にまた、利益追求の目的で行動する団体、個人がずいぶんあります。たとえば、ある種の法律案が通ったならば自分の一団の商業、産業に大いに利益になる、ある種の法律案が通ったならば政府の融資ができるということが書いてある、また自分の営業しておるものがそれに該当するというものがずいぶんありまするが、このような場合のいわゆる政治的献金あるいは個人的報酬といいますか、そういうようなものとの関係はどういうように考えるのでありましょうか。
  120. 竹内壽平

    竹内政府委員 その場合に、法案通過を希望しない一部の国民があり得ることは想像にかたくないのでありますが、そういう方々から特定の議員にその法案を阻止するように働きかけ、その議員が何らかの行動に出たことによって報酬を受け取った、これは単純収賄の百九十七条の適用の場合でございます。その職務に関する報酬であるということであり、しかも自分が受け取らないで、名前は政治献金という形で、後援会あるいはその他政党に献金をしてもらうという形になりますと、もしその前提が職務に関する報酬である、ただ自分が受け取らないだけであって、他の機関に受け取らせたということでありますれば、これは百九十七条の二に相当する、いわゆる第三者供賄になるのでございますが、これらは、その職務に関しないということになりますと、これはわいろ性を失ってくるのでございまして、政治献金ということになりますならば政治資金規正法の規制に服する、もし選挙の際でございますならば選挙法の寄付禁止の規制に服する、こういう取扱いになろうかと思います。
  121. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 警察のもらい下げはずいぶんとございますが、警視庁その他各警察に顔をきかせてもらい下げをする。ところが、これは、たとえば勾留されておる被疑者を顔で釈放するというようなことがあった場合に――それは自由裁量の余地のある場合それによって行うということもありますけれども、しかも、原因はやはり顔によってやむを得ず釈放することにした、そして捜査に支障を来たしたという場合は、やはりなすべきことをなさなかった、相当行為をしなかったということにも該当するのではないか、こういうようにも思われますので、こういうようなもらい下げなんかが町のボスによりましてずいぶんと横行するということもあるわけでありますが、こういう点につきましてはどうお考えになっておりますか。
  122. 竹内壽平

    竹内政府委員 被疑者のもらい下げは、ある場合には不正の行為をさせるようなあっせん行為になる場合があると思いますし、また、必ずしもそう言えない場合もあるのでございます。もらい下げをする人が、その被疑者の身柄の確保その他めんどうを見るということでありますならば、捜査は御承知のように任意捜査を原則とするのでございますから、何も身柄を確保しておかなくてもいいような被疑者でありますならば、身柄のめんどうを見てくれるような人があれば、その人に引き渡して、あと任意捜査に移すということもあり得るのでございます。従いまして、事実関係を明らかにしませんと、不正の行為になるかどうかはにわかに判定しがたいと思います。
  123. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 このあっせん収賄罪につきまして、これも将来の立法的な観点からは一つの判断になるような考え方でありますけれども、やはり、かりにも国家の行政行為あるいはまた公務員行為、あるいはそれが国家の財政その他に大きな影響があるような行為、おしなべて言うならば、公務員の行いまする不正行為につきまして、その原因が他の介入によってなされたやいなやにかかわりませず、私は、これの法律的効果を、たとえば契約の場合、法律的効果を維持していくということについて何らか考えなければならぬのではないか、こう思うのであります。なるほど、追徴という制度もございまするし、あるいはまたその他損害賠償ということもありますけれども、しかし、覚悟をしてやるならば、これは損害を加えられ、あるいは法益は侵害せられましたけれども治癒する方法がないのではないか、こう思います。すなわち、不正な行為によりまして行われた契約等の法律上の効力を何か制限するということが必要ではないかと思いますが、これは大臣はどういうふうにお考えになりましょうか。アメリカの連邦のあっせん収賄に関する規定その他の刑法によりましては、かなりこれらにつきまして明確な態度をもって無効の制限をし得るような方法をとっておるのでございますが、やはりそういうことをして何らかの手を打つ必要があるのではないか、こういうふうに思われます。これについて大臣はどうお考えになりましょうか。
  124. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 この点は重大な問題でございまして、将来法務省関係といたしましても十分研究をいたして参りたいと考えております。
  125. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 私はこれで最後の質問とすることにいたします。この法律案を通貨いたしまして、また幾多の他の立法例やらないしは日本の試みられた立法の歴史の跡を考えて見まして、私はこの法律案がずいぶん苦心惨たんの結果出たものである、こういう実は判断に立っておるわけであります。従って、ずいぶんいろいろと議論をしながら御質問をしたのでありますが、その苦心の御答弁はわかるのでありますが、ただ、この際一般の警戒になるという効果をねらっておられるようでありますけれども、第一、公務員でない者の活躍の余地を与えましたようなことやら、その他の犯罪要件を満たさない幾多の例が逸脱してしまうというようなこと、これが、反面におきまして、せっかくの立法であるのに、どうしてこういう穴だらけのものをするのだろうという国民的不満が相当強いのであります。この点につきまして、これはだんだんお述べになっておりまするから重ねて何らの御発言は求めません。ただ、しかし、法の持っておる欠陥は欠陥であるとして、政府はやはりその態度を明白にしておいてもらいたい。漸次これを補てんしていくという考え方なら、それを明白にしておいていただきたい。漸次弊害が少くなり、立法技術も克服していくならいくということを明白にしておいてもらうことが、反面におきましてこの軍用の上においても相当私はプラスになるだろうと思うのであります。  もう一つの問題は、やはり法は万能ではないのでありますので、この立法の意図するところが、もう一切の汚職的な腐敗をなくするということ、ないしは公務の公正、厳正、清潔を保持するようなこと、こういうような意図がほんとうにありとしまするならば、やはりそういう面におきましてもあらゆる手を同時に打つというのでなければ、これは目的を達しないということを国民に何らか知らしておかなくてはなるまいと思います。  それから、もう一つは、この法律にはいろんな要件が備わっておるので、小範囲の人しか対象にならないような気がしますけれども、しかしながら、その要件を一々検討してみますと、かなり不確実な、不正確な、客観的にまだ十分に内容が整っていない字句、概念、要件が私はあると思いますので、こういう点につきましては、特に第一線の警察当局に対しまして、やはりこれらのあらゆる角度からする法の欠点とか、法の能力とか、そういうものを十分熟知せしむるということを根本的に考えておらなかったならば、これはやはり多くの人権じゅうりんの問題さえ起ると私は考えるのであります。そういうふうに思いますので、これはやはり法務大臣並びに警察庁長官も見えておるように思いますので、この立法のあかつきに最も重責を負っていかれる長官から、これらの欠点なりあるいは短所等につきましての考え方一つ十分に伺っておきたいと思うのであります。
  126. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 最後の御批評をいただきました次第でございますが、この法案にはいろいろの欠陥があるということをはっきりしておくようにということでございましたが、言葉とがめを申し上げるわけではございませんが、私どもは、この法案に欠陥あり、かようには考えておらないわけでございます。ただ、適用の対象が、たとえば社会党の案から言いましたならば狭いということは、私どももよく自覚いたしております。狭いけれども、その間欠陥ありという言葉づかいは返上いたしたいと思うのでございます。社会党の案と比較いたしまして、一番初めにお話のありました、公務員だけにしぼって、公務員以外の、たとえば官庁ブローカーのような一般の人が他の公務員に働きかけた場合が漏れておる、これは社会党案と全く同様でありますが、その次に、不正行為をさせたというような場合だけにしぼったという点は、なるほど社会党案と比較いたしまして狭い、こういうふうに考えます。しかし、私どもは、現段階におきましては、広く一切のあっせん収賄行為を犯罪の対象とするということは、法としては少し行き過ぎである、その反面において非常に危険を随伴する、こういう心がまえから、今日の段階において最も適正な範囲に犯罪の対象をしぼった、かように考えておるわけでございます。これは単にわれわればかりの考えではなくして、過去において、たびたび申しましたように、学者や専門家は、何らかの条件でしぼらないとこの法律は危い、こういう考えから改正刑法仮案のあっせん収賄罪に関する条文もやはりしぼってあるわけであります。この案と比較いたしまして、これは要求して取った場合だけが犯罪になるのでございますが、どっちが広いか、どっちが狭いか、これは私は議論があろうかと思うのでありますが、ある実務家に言わせますと、要求してということを書いてあれば、要求したという証拠をあげられないようにしさえすれば幾らでもこの犯罪を犯して免れることができるというような批評も成り立つのでございまして、この案と比べてどちらが広いか狭いかということは、これは議論があるかと思いますが、とにかく、ある程度までしぼったということだけは、私が常に言っておるところでございます。何ゆえに限定したかといえば、これは非常に議論のあるむずかしい条文であり、わが国の刑法としては初めての試みであり、そして現段階としてはこの程度の内容を処罰の対象とすることが最も適正妥当であると信じたからでございます。用語の点につきましてもだんだんと御注意もございしまして、ごもっともな御注意と存ずるのでございますが、この立案に当りましては、それぞれ刑法で習熟いたしております用語を使い、それぞれ判例等におきまして一応は解釈がきまっておる字句だけを用いまして、これらの点におきましても、従来いろいろ提議されておりまする案以上に明確を期したつもりでございます。しかしながら、これは文字でございますから、凡百の社会事象に対して一々、数学的に答えの出るように明瞭にはその解釈が出ないことは、それはもう吉田さんの御配慮になっておる通りでございます。でありますから、これが幸いにして法律となりました暁におきましては、この解釈につきましてはでき得る限り明瞭にする努力をいたすとともに、実際の運営に当る検察官、警察官に対しましても、運用のあやまちを来たさないように注意を与えなければならぬと考えておる次第でございます。
  127. 石井榮三

    ○石井(榮)政府委員 本法案の御審議の状況を伺っておりましても、まことに重要な、問題点のいろいろある法案である、かように存じておる次第でございます。本法案が成立の暁におきましては、私ども立法の趣旨を十分に体しまして、犯罪構成要件等に関しましては、第一線の警察官に十分指導、教養を加えまして、捜査の行き過ぎのない、適正なる捜査の行われますように、十分配慮をして参りたい、かように存じております。
  128. 町村金五

    町村委員長 志賀義雄君。
  129. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 刑法、特に刑事訴訟一部改正法案は、御承知の通り、岸内閣が三悪追放という看板を掲げられている手前出されたもので、世論の圧迫も大きくあったのであります。第一の貧乏追放、これは今の岸内閣の手にはとても負えない大それた問題でございますから、賢明な岸首相はそれを敬遠されて、ここに汚職と暴力の追放ということで、この法案を出されたと思うのであります。審議の過程を伺ってみますと、このあっせん収賄に関するものは、この程度はどうか、この程度はどうかということに触れていきまして、結局この程度まではあっせん収賄罪にはならないという、ざるにもならない法案になっておるのでありますが、今日まで特にあっせん収賄罪の方に時間がかけられて審議が進められております。  私は委員長にまずお伺いしたいのでありますが、あっせん収賄をやる人は、日本では、人口の比率から言って、重大なる犯罪でありますけれども、少いのですが、この暴力集合罪は、今日まで政府委員の御答弁によりますと、相当広くこれが影響するのであります。ところがうどうもこの方の審議に時間がないのでありますが、あした岸総理が十一時に来られて、大体それで打ち上げということになるのでございますか。少ししりまくりの傾向があるではございませんか。
  130. 町村金五

    町村委員長 大体明日で一応審議は終る、明後日ももちろん総括的にはやりまして、明後日で上げたい、こういうことです。明日、明後日二日間これにかけたい、大体こういう申し合せになっております。
  131. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 重大な問題がございますので、この問題についてはまだ公聴会その他のことも十分必要かと思うのでありますが、その点について伺いたいのでありますが、先ほど唐澤法務大臣は、佐竹委員質問のときに出たはげ問答を引用されたが、唐澤法務大臣の本法案説明によりますと、「近時各地に多数発生を見たいわゆる暴力団、愚連隊等による殺傷暴力事犯の実情にかんがみまして、これが取締り処理の適正を期するため、所要の改正を加えようとするものでありまして、これが申さば唐澤法務大臣の本法案提案の理由、先ほどのお言葉に対する、はげの定義であります。そして竹内刑事局長はこの点について次のように形容されております。「次に、第二百八条ノニは他人の生命等に害を加えることを目的とする、凶器の準備を伴う集合行為を処罰する趣旨の規定であります。最近、いわゆる暴力団等の勢力争い等に関連してなぐり込みなどのため相当数の人員が集合し、人心に著しく不安の念を抱かしめ、治安上憂慮すべき事態を惹起した事件が相次いで発生いたしておりますが、これを検挙、処罰すべき適切な規定がございませんため、その取締りに困難を来たしている実情にかんがみまして、新設したものであります。」、こう言われております。大体法務大臣の言われたことと同じ趣旨でありますが、昨日古屋委員質問に対して、労働組合その他の団体、これはやくさでもグレン隊でもございませんが、それのすわり込みにも適用するということになりますと、これは毛の生えているところをはげだという規定をすることになるのであります。その点の食い違いについて、竹内刑事局長の言われたことは、提案趣旨唐澤法務大臣の言われたことからだいぶはみ出しておりますが、その点はいかがでございますか。
  132. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 刑事局長説明いたしましたことも、私が申し上げておりますことも、全く同様と思うのでございます。この規定は、われわれ二人がそれぞれの立場で説明をいたしました通り、グレン隊その他暴力団が相対峙して殺傷事件を引き起したものというものを対象として立案いたしたのでございまして、労働組合の運動、それに準ずる大衆運動等におきましては、この規定は全く無縁の規定と考えております。労働組合運動等におきまして、他人の生命、身体、財産に対して共同して害を加える目的なんかあろうはずもございませんし、またこの場合に凶器なんかを準備するはずもございませんから、ただいま御指摘のような場合は二百八条の二とは全く縁がない、かように考えておるのでございます。
  133. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 竹内刑事局長からも伺いたい。
  134. 竹内壽平

    竹内政府委員 私もただいま大臣からお答えいたしました通りの趣旨のことを申し上げたつもりでございます。御質問の中に、こういう法律ができますと一人歩きをするのじゃないかというようなことから、それに関連して、労働運動あるいは大衆運動等においてこういうものがひっかかる場合がないか、ひっかけないか、それならば、労働組合のものは含まないという意味で職業的暴力団という趣旨の規定をまず主体として、犯罪の主体は職業的な暴力団とすることはできないかという御質問が古屋委員からございまして、そういうことは立法技術上できないのでありまして、もしもかりに今の二人以上の者が生命、身体に対して害を加えるような目的で、しかも凶器を準備してというようなことが大衆運動や労働組合運動の中にある――そんなことは私ども考えてもおりませんが、かりにそういうものがある場合には、主語がそうなっておりませんのですから、法律解釈としてそういうものに適用がある場合がないとは限らぬが、そんなことは大衆運動や労働組合運動にはない、暴動とかなんとかいうこととなれば別でございますが、そういう趣旨のことをお答えしたように、私も速記録を見ておりませんが、記憶しておるのでございまして、私の申し上げようとする趣旨は、職業的暴力団という犯罪主体を二百八条の二に明記することが立法技術上困難であるということを申し上げたのにほかならないのでございまして、趣旨としましては、今大臣も申されましたように、いわゆる暴力団に対して最近の状況にかんがみて手当を施したという趣旨でございます。なお、お手元にきょう配付をいたしましたが、法制審議会の審議の過程におきましても、私どもはかりそめにも大衆運動や労働組合運動を対象としたような意図は少しも持っていないことは、この審議会の全過程を通じておわかりいただけることと思いますが、全くそういうような労働組合あるいは大衆運動といったようなものにこういう法律が適用される場合があろうとは考えていないのでございます。その点御了承願います。
  135. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 現行法律では今の暴力団ややくざ団体が取り締れないのですか。特にこういう立法をやるのはどういうわけでございますか。
  136. 竹内壽平

    竹内政府委員 これは昨日もどなたかの御質問で申し上げた事項でございますが、現行法におきましては、御承知のように、百七条の不解散罪というこがございますが、別府の暴力団の事件などを見ましても、神戸から、あるいは京阪神から暴力団が逐次集まって応援に行っておりますし、また北九州その他から、いわゆる暴力団の一味の者が、これまた他の一方を応援するために、別府へ乗り込んでおります。ところが、そのような事情はすべて治安当局にはわかっておるのでございますけれども、いまだ手のつけようがない。現実に凶器を持っておりますれば、銃砲等所持禁止令に触れる場合もありますが、その刀が登録した刀でございますと、そういうものを持っていても差しつかえないという大審院の判例も出ておるような始末で、そういうふうに集まっていく場合を傍観して見ていなければならない。そうして、いよいよ別府に着きまして、二つのよりどころにそれぞれ勢ぞろいをして、刀は床の間に幾振りも並べてある、拳銃もあるといったような状態であるにかかわらず、これを市民の大きな不安を醸成しないうちに解散させるというわけにもいかぬというので、そういう、今や血の雨の降ろうとするその直前に至るまでも手をこまぬいて見ていなければならないというのは、現行法のはなはだしい不備でございます。そういう暴力が現に存在し、それが一再ならず発生しております状況にかんがみまして、そういうものを集合して対峙するといったような緊迫した状況に至らぬ前において、取締りしたいというのがこの法案のねらいでございます。
  137. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私は、この法案について、立案の過程に至るまでの世論、これを調べてみましたところ、国会図書館から借り出したのでありますが、これを見ますと、警察と暴力団体とがなれ合いで、そのために暴力団がますますばっこする、これが問題だということを言っているのです。まして、法務大臣でさえ、やくざの葬儀に花輪を出した人もありますね。これは唐澤国務大臣の前任者である中村梅吉さんがやられたのでありますが、昨年三月二十七日、博徒幸平一家の子分西村甲子蔵という人の本葬のときに、中村法務大臣が出されたことがある。こういうことでは、まるでその名誉を表彰するようなことになるのであります。警察はなれ合いをやる、法務省の主管者は博徒のけんかの結果殺された人に堂々と花輪を出す、こういうところで、今までの法律があっても取締りができなかったということになるのであります。そういう点については、ただ取り締る相手の方だけを言っておって、この法律を運用する人々の方では、法務大臣のような人がこういう花輪を出す、これについては何ら言及されていない。この点、法務大臣いかがでしょうか。
  138. 石井榮三

    ○石井(榮)政府委員 暴力団と警察がなれ合いになっておるというふうなお尋ねでございますが、私の承知いたしておるところでは、そういうことはないと信じております。かつての警察におきまして、一部いわゆる町の暴力団の親分といったような者と地元の署長等と親しくしておるといったようなうわさを昔において聞いたことはございますが、今日の警察はそういうことはありませんから、御安心を願いたいと思います。
  139. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 警察と暴力団とのことは、ときに新聞、雑誌等にそういう記事が掲載されまするから、社会の人たちは何か非常にくされ縁があるように誇大に誤解する傾向があると私は思うのでございます。さようなことがあってよろしいことではございませんから、今長官からお答えのありました通り、そういうことがわかり次第、それはしかるべく処置しておることは当然でございまして、たくさんの警察官のうさですから、たまに下心得の者があるいはなきを保しがたい場合もありましょうが、わかり次第それは処断いたしておることと私は確信いたしております。  それから、たまたま今お話が出ました中村前法相の場合でございますが、これは私も後任者といたしまして当時の速記等も読んでみたのでございますが、当時さっそく前法相からこの法務委員会で率直なお話があったようでございまして、そのとき志賀委員出席になっておったかどうか存じませんですけれども、前法相は御自身では全然知らないことであって、その当時の実情をお話しになりまして、皆さんが了承されておるように、私は速記録を拝見しておるわけでございます。暴力団と、これを取り締る立場におる者との関係は、何か一つあれば、いろいろと針小棒大に伝えられまするけれども、そんなものではございません。現行法をでき得る限り生かして。これを活用いたしておりまして、十分な取り締りを励行いたしております。ことに、先ほどもお話のありました通り、三悪追放の一つといたしまして暴力の追放ということがございます。こういうような政府考え方から、暴力追放につきましては、警察官、検察官力を合せまして万全の措置を講じておる次第でございます。
  140. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 針小棒大とおっしゃられるのですが、火のないところに煙は立たないと申しますし、まして、最近の事件では、どうも火の気のないところにきのこ雲みたいなものができる危険さえあるわけでございます。竹内刑事局長は、法律のひとり歩きについて、そういうことは全然考えておりませんとおっしゃるのですが、現に、暴力行為等取締法、これは右翼団体を取り締るのだということを当時の司法大臣は言っておられる。五十一帝国議会のことでありましたが、江木翼司的大臣は、「此法律法目的トシテ、労働運動デアルトカ、或ハ小作運動デアルトカ若クハ水平運動デアルトカ云フガ如キモノヲ取締ルト云フ目的ハ、毛頭持ツテ居ラヌノデアリマス」、こう言っておられます。ちょうど今竹内さんが言われたこととそっくりそのままなんです。ところが、その後今日までのこの法律を実施した結果を見ますと、大部分がやはりそういう方面へ適用されておるのです。ですから、立案者の方でそういう保証をされても、その通りでございますとは申しかねるのです。現にこの法文の中にもいろいろとその危険があります。人口の大ささから考えてもその危険があるのでございます。一体今日本に暴力団、やくざ、グレン隊というものはどれくらいございますか。
  141. 中川董治

    ○中川政府委員 われわれがつかまえましたもので、大体六万人くらいでございます。
  142. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 ところが、労働組合だけでも三百六十万ございます。いろいろな団体が今日新しい憲法で自由を保障されてやっておるのであります。原水爆反対運動の署名者は三千万人をこえております。こういうときに当って、この法律が一人歩きをし出したら、どっちに行くかということは火を見るよりも明らかなんであります。石井警察庁長官も吉田委員質問に対して、この運用については十分慎重にすると、成立のときには言われておりますが、どうも信用ができません。これはこの法務委員会でも問題になりました菅生事件でございますが、たとえばあの戸高公徳という警官のありかを突きとめたのでありますが、これは共同通信社と正木弁護人、こういう人々でありました。これは、竹内刑事局長の御説明によりますと、「ここに「刑事被告事件」と申しますのは、すでに公訴を提起され裁判所に係属している事件だけではなくて、捜査中のものをも含む趣旨でございます。「知識ヲ有スト認メラルル者」とありますのは、客観的な諸般の状況から合理的に判断して、知識を有していると認められる者をいうのであります。「面会ヲ強請シ」とありますのは、相手方において面会の意思がないことを知りながら、しいて面会を求めることをいうのでありまして、「強談」とは、他人に対し、言語をもって、しいて自己の要求に応ずるべきことを迫る行為をさすのであります。」、この法案が不幸にも成立した場合には、ああいう場合はどうなるのでありますか。ことにこれは警察の方でかくまっておられるという形跡が濃厚なものであります。警察方面のことは通称児玉という人が当っておったはずで、この方は警備課長もよく御存じだろうと思うのであります。こういう場合にはどうなるでしょう。
  143. 竹内壽平

    竹内政府委員 菅生事件の関係につきましては、別途お答えを申し上げたいと思いますが、先ほど志賀委員からお言葉のありました、一人歩きをすることについて信用ができぬという点でございますが、私どもの微意の存するところを申し上げてお答えをしたいと思います。  それは、この暴力立法の立案形式でございますが、これにつきましては、学者の一部にも、暴力立法の必要性については異論のないところでございまして、私どもの意図しておるような暴力団、グレン隊等の暴力をチェックいたしますために必要な暴力立法、この点につきましては異論のないところでございますが、その立法形式におきまして、これを現行法の暴力行為等処罰に関する法律を拡大強化いたしまして、さらに刑事訴訟法の一部改正のような規定ばかりでなく、このような暴力団に対する刑事手続についても必要な規定をこれに盛り込むことによって特別法を作ってはどうかという御意見も実はあったのであります。また、学者の中には、法制審議会で、その審議録を見ていただきますとわかりますが、その法制審議会におきましても、暴力行為処罰法を拡充強化すべきではないかという御意見も実はあったのでございますが、これを避けまして刑法の中に規定をいたしました趣旨をおくみとり願いたいのであります。しかも、刑法の中に書きました場合に、いろいろな軍に分けて書いております。これは、御承知のことと思いますが、特別法に規定をいたしますと、構成要件に該当いたします場合には、私どもが労働組合には適用をする意思はないというふうに――先ほどお示しの五十一帝国議会において江木大臣がお答えをしておるのは、私も速語録でよく読んでおります。そういう立案者の意思に違った運用になりますことも、これまた一人歩きという意味でございましょうか、そういうことになるのでございますが、ことに特別法に規定をいたします場合には、とかくそういうふうになりたがるのでございます。そういう意味から、そういうものを避けます意味におきましても、刑法に書く方がよろしい、これは学者の意見の一致したところでございます。特にそういうような御意見もありましたけれども刑法の中に書くことによりまして、しかもその目的を明らかにいたしまして、ことに、二百八条の二につきましては、目的をはっきりと、二人以上の者が共同して他人の生命、身体、財産に対して害を与える目的、――このような目的は大衆運動や労働組合運動にあろうはずはないのでありまして、さらに、それだけではなくて、客観的な行為といたしまして、「兇器ヲ準備シ又ハ其準備アルコトヲ知テ」、こういうふうに、主観、客観の両面からいたしまして、このこと自体が、そのような暴力団のようなものでない労働組合運動の越軌行為といったようなものに直接ねらいが定められておろうはずがないということを私どもは、一人歩きをいたしまんように――私は一人歩きをするという説じゃないのであります。一人歩きをいたしませんように、刑法の条文の中にはっきりとその目的を明らかにして記載することによって、過去に起つたような事態が起らないようにということを実は念願をいたしておる、こういう微意があるのでございまして、こういう微意をおくみとり下さいまして、解釈、運用に誤まらないように私どもいたしたいと思っております。その点御了承願いたいと思います。
  144. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 第二の点はいかがですか。
  145. 竹内壽平

    竹内政府委員 菅生事件の、どういうところがどういうのに該当するかどうかという点でございますが、ちょっと御質問趣旨をくみとっておりませんので、その黒を重ねてお願いします。
  146. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私ども、法務委員会におきまして、戸高公徳という警察官がこれに関係しておる、その背後がある、こう申しておったのであります。最近の東大工学部の教授の鑑定によりますと、あれは外からほうり込んだものでもない、内部から爆発したんだという鑑定も出ております。これには若干九州大学の方から異論も出ております。これはごく一部の問題についてでありますが、きわめて重大な事件なのでありますが、遺憾ながら、私どもの見るところでは、警察の方で隠されておったとしか思えないのであります。と申しますのは、これまで申し上げませんでしたが、戸高公徳という菅生事件に関係しておった警察官が、警察大学の仮装運動会に出ておる写真が毎日新聞に出ておりました。石井長官の御答弁では、警視庁の方に運動場がないので、運動会を警視庁でやりたいというので、警察大学で運動場を貸したんだ、決して警察寮にはそういう人はいなかった、こう言っておるのであります。ところが、調べたところによりますと、この戸高という人は、警察寮で配給を受けておったのであります。そうしますと、ずいぶん石井警察庁長官の覆われたことと違うのであります。この一つをもって見ても、警察の方では――警察大学は警察庁の管轄でございます。長官が個人的に御存じなくとも、警察庁の方では御存じだったろうと思うのです。ところがそういう運動場を貸しただけだという。これもだんたん問い詰めていっての話であります。それが、新宿の春風荘というところで、共同通信社の記者諸君何名かと、あとからかけつけた正木臭弁護士、この人たちによって発見されたのであります。そういう行為を新聞社あるいは通信社、弁護人がやった。これはどういうことになりますか。菅生事件に関係がある事情を知った人間でございます。面会を強要したとかなんとかいうことになるのでございますか。初めは、この法廷では証人として喚問したんですよ。ところが、だんだんダイナマイト事件のことが明らかになってきて、共犯ということになった。ところが、それでも事件を糊塗し切れず、今後は、警察の方で内部からダイナマイトをしかけたらしいという鑑定書までが出る始末なんです。
  147. 山口喜雄

    ○山口(喜)政府委員 戸高君が警察大学校の運動会に出て、その日の写真があったことは、私存じております。これは警察庁に霞会という友誼的な団体がありまして、運動会をやるときには、警察大学の校庭を借りてやっておることがたびたびございます。従って、当時戸高君は、あとの調査によってわかりましたが、臨時雇として資料の整理の方の仕事に携わっておったのであります。戸高という名前で働き、その運動会にももちろん出ております。それから、配給を学校で受けておったと言われましたが、戸高君は昭和三十一年の四月の終りに、たしか警視庁を退職いたしておるのであります。大学校で――大学校でといいますか、中野区の囲町のところに登録をしておりましたのは、たしか三十一年の九月ごろの時期であったように私は今記憶しております。従って、これは警視庁を退職したあとの問題でございまして、この点については、戸高君にその関係はよく聞きただしてみればわかると思いますが、少くも警察大学の構内あるいは寮等に住んでおったという事実は、全くございません。これは私責任を持ってお答え申し上げます。
  148. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私は、住んでおるとは申しません。そこは答弁のトリックですよ。桜寮で配給を受けておって、実はそこに住んでいなかったんです。しかし、菅生事件の事実関係について今ここで争う必要はございません。  竹内刑事局長の御説明によりましても――こういう事件があるます。有名なメーデー事件ですね。この事件について、これは蒲田署の小幡充親という警官が、東京地方裁判所で証人として呼ばれたことがあります。そのときにこの巡査は蒲田警察署の公安係でありました。同僚一名とともに私服で神宮会場に行っております。その理由は、メーデーの二、三日前に、某共産党員宅で四名の者が集まり、五月一日には神宮外苑のメーデー会場で警官からピストルを奪い取ろうという相談をした、そういう情報を警察が入手したので、この二人が私服で会場に行った、ところが、当日メ―デー会場に行った警官はピストルを持っていなかったので、その危険はなくなった、それからは、デモ行進の前になり後になって、人民広場、つまり宮城前の広場に一緒に入り、その間デモ隊の行動をいろいろ見たのだという法廷証言でありました。そこで、法廷で、弁護人の方から、その情報について次のように質問したのです。相談したいという某共産党員宅というのはだれの家か、そのとき出席したという四人の名前は何というのか、その細胞名は何というのか、警察にその情報を提供したいというのはだれか、と聞きましたところ、小幡巡査は、これはいずれも警察官としての職務上の秘密であるから上司の許可がなければ証言することはできない、と拒否しております。そこで、弁護人被告の方から、裁判所に証言命令を要求いたしまして、証言命令は出せない、この証人にこの点の証言をさせてよいか否かを警視総監に問い合せる、こういう裁判所の発言であります。警視総監はこれに対て次のように回答しております。「こういうことを証言させると今後警察に対して一般国民の協力を得ることができなくなり、ひいては国の重大な利益を害することになるから証言させることはできない」、こういうことを言っておるのであります。裁判所はこれを採用しておる。法律の判断は裁判官が行うのであって、一行政官吏の判断に拘束されるということはないはずでありますが、浜口裁判長はこれを採用しておる。そうなってきますと、今度の法案で、つまり凶器を持って二人以上が人の生命、身体に危害を加える、あるいは脅迫するとかというような場合に、だれもピストルをここにぶら下げたりまたドスをアクセサリーみたいに持って歩く者は一人もございません。そうなってくると、何か投書がある、あるいはうわさを闘いたというような場合に、果して凶器を持っておるかどうか、こういうことになるでしょう。そうしますと、これの身体検査をやることになる。こういう口実でやることになる。さらに、今労働争議が非常に激しくなってきた。あるいは、今後は原水爆反対運動がますます盛んになる情勢になってきました。そういうようなとき、これは行き過ぎが起りそうだと警察の方で判断された場合、どういうことになりますか。凶器を持っておるかどうかはあらかじめ調べなければならないということになりますと、警察は何でもかんでもやれるということになります。どこの団体にもスパイを入れて調べてもいいということになる。われわれの見るところでは、この法律にはそういう伏線があるのであります。その点はいかがですか。
  149. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいま御指摘のような伏線などはございません。また、事実、別府事件でも小松島事件でもわかりますように、アクセサリーに胸にはぶら下げておりませんが、――原水爆禁止連動などをなさる人はそんなものをお持ちになっているはずはないのでございますけれども、ああいうやくざの連中はそういうものを威力を示す一つの方法として誇示しておるのかもしれませんが、旅館の手すりなどに並べまして、道行く人にもわかるように誇示しておるような扱いもしておるようでございますし、何もスパイを入れなくても、そこを通ればわかるようなそういう実情であったようでございます。その資料も差し上げてあるはずでございます。御一読をお願いいたしたいと思います。
  150. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 資料が回っているのですか竹内さん、このことをおっしゃるのですか。部外秘となっている法制審議会刑事法部会第十七回会議議事速記録、ざっと読みましたら、ちょっと出ておりますが、これは本日午後配付されたのですよ。かなり厚味があるでしょう。この委員会へ参考資料として出されたといっても、委員のだれもまだ読んでいないですよ。これを委員長のように急がれる。それじゃ何のためによこされたのかわからないじゃないですか。あまり急がれなくてもいいじゃないですか。
  151. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいま志賀委員のお示しになっているのは法制審議会のものでありますが、その前のもありまして、それは前に……。
  152. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 それはわかりました。
  153. 竹内壽平

    竹内政府委員 しかしこれにも出ております。
  154. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 なぜ、こういう資料をこの改正案の審議のためにきょう午後になって渡されたのです。
  155. 竹内壽平

    竹内政府委員 これは法制審議会の速記録でございまして、本来取扱いとしましては部外には出さないのだそうでございますが、御審議の便宜、学者や実務家がどういうようにこの法案を審議したかということも御参考のために差し上げるのがいいと思いまして、実は大急ぎで作って、けさ印刷ができましたので、配付いたしましたものであります。しかし、私も説明の随所に法制審議会の模様は紹介しながら申し上げておるのであります。
  156. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 この参考資料を差し上げた方がいいと言ったって、まだだれも読んでいませんよ。それを委員長のように急がれるのは、何だか目的があるように思われるのですがね。政府側に何かはかに意図があるというふうに考えられても、火のあるところに煙は立つので、しようがないことだと思います。事実、この改正案を見ますと、どういうことが書いてあるかと申しますと、「他人ノ生命、身体又ハ財産ニ対シ共同シテ害ヲ加フル目的」云云となっております。しかし、また問題になってくるのは、暴行・脅迫の程度に達しない証人などに対する面会強請または強談威迫の行為、こういうことになっておるのであります。事件社会的に非常に反響を呼びますと、警察側の証人などに対していろいろとまた問題が起ってくる。現に裁判所に対してさえ投書が来ることがあります。松川事件その他でもある。こういう場合はどうなるのですか。
  157. 竹内壽平

    竹内政府委員 百五条の二は、先ほど申しましたように、罪証隠滅、犯人蔵匿を第七軍に規定してありまして、これは暴力の程度の強いものをここに掲げたのでございます。考え方としましては、犯人蔵匿、証拠隠滅を防いで公正なる裁判を保障していこうという考え方がここに出ておるわけでございます。そして、百五条の二は、「審判二必要ナル知識を有スト認メラルル者」というのは、そこに解説した通りでございます。そういう者に対して暴行・脅迫に至らない威迫行為を加える場合を取り締ろうとしておるのでございます。これは御説明の際にも申し上げたのでございますが、最近暴力団がいわゆる脅迫に至らない、また現実に具体的な暴力をふるわないのでございますが、おかげさまでというようなことで、これはおかげさまでということだけでは刑法のいわゆる脅迫にはならないわけでございますが、そのおかげさまでということのお礼参り、これが非常に証人、被害者等に圧力になりまして、そのために裁判あるいは取調べの際に出て来ることを拒否する、あるいは出て参りましても十分な供述をしてもらえない。今の裁判はそういう証人によって行うという建前になっておりますが、そういうことになりますと、裁判の迅速公正な手続を進めるわけにいかないということからしまして、暴行・脅迫に至らないものでも、おかげさまでといったように押しかけていって畏怖させるようなやからをここで取り締ろうというのがこの百五条の二の立法趣旨でございます。
  158. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 やくざのことを伺っにおるのではないのですよ。たとえばある会社で争議か起ったとします。社長と争議団とが争議のことについていろいろ交渉をするというときに、この改正案が成立した場合には、社長の方でこれを利用して、どうも生命、財産の危険がある、こういうふうなことが生じますね。そうしたときに、それが裁判になったとします。刑事事件になった、捜査中の事件になりますね。その際に、その席におった社長側の人たちがいろいろ証言するということが起ります。事実そういうことが起った場合に、あなたはそういうことはありませんと言われても、必ず利用されるおそれがあるのですよ。それはいかぬのです。今までそういう事例が多いのです。
  159. 竹内壽平

    竹内政府委員 そういう御懸念があるということでございますが、ここに「故ナク」という文字も使ってございます。今のお話のようなのは、ゆえなくじゃなくて、正当な争議行為として面会をされておるわけで、弁護士なども面会をして示談をするというようなことからして、大きな声をされるようなことも中にはあるかもしれませんが、それはいずれもゆえがあって会っておるのでございまして、今御設例のような場合はこれに該当しないのでございます。
  160. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 そういうように言われますけれども、実際にこちらが一つの軍とか艦隊とかいえば、これは大きいものでしょう。ドスやピストルとは違いますね。去る三月二十三日に日本共産党が人民艦隊を編成しておったということが警視庁公安一課から発表されました。これはどの新聞にも出ておりました。放送もされました。調べてみますと、公安一課では一々記者会見をしておるひまがないので文書で配って出したというのです。人民艦隊、一つの艦隊を持っておるということ、これは大へんなことであります。日本共産党はかって中核自衛隊という陸軍を持っておった、今度はそういうものを持っておるということを警察の方で言われ出した。そんなものは事実ありませんけれども、陸軍を持った、海軍を持った、これは選挙でもきてごらんなさい、今度は警視庁が、共産党は空軍を持っているということを言わないという保証はありませんよ。三軍そろえて共産党は持ってるという誹謗だってできます。人民艦隊――艦隊というからにはこれは艦砲その他の兵器を持っておるものをいうのでしょう。どうして警視庁がそういう名前を出されたか。実は、こういう法案を通すために、選挙前に共産党にけちをつけるために、こういうことをすらやられているのです。そういうふうに竹内刑事局長が純真な意図を持っておいでになろうとも、もうこの法案の成立しない前からそういうことがやられているのですよ。それで、公安一課長の御答弁では、私ども選挙妨害をやるとか共産党を誹謗するとか、主観的にそういうことは少しも考えておりません、こう言われましたけれども、客観的にはちゃんとそういうことになっているのですよ。それと、今度は、船に乗った人が密出国の疑いがあるというのでつかまったのです。その中に一人小川原という共産党員がいます。これは長野県の共産党の組織の一役員であります。弁護人が面会して調べたところによりますと、自分は共産党の一地方組織の役員――これは唐澤法務大臣と同郷の長野県の人であります。それ以外に何の関係もないというのです。それを一人ぽこりと検挙しておいて、さあ共産党に関係がある、こういうふうなことを言われるのです。推定によって何でもできる。暴行・脅迫に至らないもの、ああいうようなものもやれるということになると、警察なり検察庁なりが推定すれば何でもやれるということになります。事件が起ったときに、ことに暴力行為を取り締るために、これは武器を持っているとあなた方が判定を下されれば、何でもできるということになるのですよ。そういう点の保証はこの法文ではちっともないじゃないですか。
  161. 竹内壽平

    竹内政府委員 志賀委員のように、何でもとこうおっしゃれば、これは何でも言えるわけでございますが、この法案は、先ほど申しましたように、百五条の二は、犯人蔵匿及び証憑隠滅の章に書きまして、これは証憑隠滅、そういう趣旨の規定であることを、私が言うのじゃございません。この百五条のすわっております位置がそれを証明しておるのでございまして、そういう趣旨によって理解すべきものであるということが立法的に明らかにされるのでございますから、そのような御懸念は無用かと存じます。
  162. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私は二百八条の二に関しても申しておるのであります。両方ひっかけて申しております。志賀委員は何でもと言われればと言われますが、菅生事件ということ、メーデー事件の蒲田署の警官、これは私は具体的事実について例証をみなあげているのです。人民艦隊とか、これは警視庁の公安一課が名づけ親でございますが、ありもしないことまでも人民艦隊なんという名を警察が現につけておるでしょう。艦隊なんか持ってたら、これは内乱予備罪ですよ。そうでしょう。そういうことを広報活動が警視庁が現にやっている。私が頭の中で何かこの法案でやられるのじゃないかというおそれを抱いて言っているのじゃないのですよ。現に起っている事実、またこれまでの暴行行為取締りの実際の運用の面、こういう事実に基いて言っているのですよ。ですから、何でもというふうにごまかして言わないで、この法案法律として制定したら――今だってそういうことはやっているのです。先ほど警察庁長官は、決して現在の警察にはそういうものはございませんと言われましたが、現にそういうことをやっているんだから、事実に基いて私は発言しているのですから、あなたの方で想像しないで、その事実に基いて言っていることに、はっきりした御答弁を願いたいのです。
  163. 竹内壽平

    竹内政府委員 御設例の場合は、何か情報を提供したことを隠すとか、いろいろお話でございまして、二百八条の二についての御質問やら、百五条の二について……。(志賀委員「両方ですよ」と呼ぶ)両方だというお話ですが、もし二百八条の二について申しますならば、私は、これは志賀委員は非常に安心しておられるのじゃないかと思っていたくらいなのでございまして、いかなる労働組合運動にも、あるいは大衆運動につきましても、他人に害を加える目的で二人以上の者が集まり、しかもその人たちが凶器を携えて、治安のおさまっておりますこの日本の現国情において、そのようなことをすることがあるはずがないので、もうそのこと自体が明白に暴力団を対象としたものだということでおわかりいただける、この点は私あまり説明を要しないのではないかというふうに思っておりました。それから、百五条につきましては先ほど申しましたように、ちゃんと証憑隠滅の章に書くことによりまして、この立法趣旨を明らかにしておるのでございまして、今のような御懸念はないと思っていただいて差しつかえないというふうに考えるのでございます。
  164. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私の言うのは、メーデー事件のときの蒲田署の警官の例をもって申し上げました通りに、小幡巡査ですね、一片の情報ですよ、そういう情報が入ってきたというのでこういう行動をしておるのです。警察がすぐ動いておるのですよ。それで調べているのです。そうしてこの人は法廷にまで出てきているのです。じゃ一体そういう情報はどこから出たか、だれが言ったのか、集まったという人はだれか、そういう点を明確にしてくれと言って法廷で証言を求めたら、これは職務上のことでございまして申し上げられません、こう言うのです。現に、今度のこの国会でも、公安調査庁の活動について、報償費の使い道をはっきりしろ、こう言われたが、その発表がございません。愛知官房長官はここに来て言われましたけれども、何ら具体的な内容は言われないのです。心配する必要はないと言われるが、現にこういうことがあります。されに、破壊活動防止法、あれほどやかましい制限規定がある法律でありながら、きょうはここにはおられませんけれども、公安調査庁では何と言ったか。前中村法務大臣は、共産党を対象としておりません、こういうふうに言われましたけれども、公安調査庁の長官以下、共産党と在日朝鮮人総連合、この二つを対象団体にする、いつの間にか既定事実を作って共産党に対していろいろなスパイ活動をされ、現に代々木病院というのが千駄ヶ谷の前にありますけれども公安調査庁の役人がここの看護婦にラブレターを出しまてそれでおびき出しをやっている、こういう事実もあります。(「そんなことはないだろう」と呼ぶ者あり)ないと言われるけれども、ありますよ。公安調査庁もその人を呼んで、公安調査庁の役人であるという証明までもちゃんと取っているのです。そういうことが現にやられているのです。だから、この法案がもし法律として成立したならば、警察はこういう疑いを持てば、蒲田署の例と一緒にしまして、何でもできるということになるのです。あなたは、そういうことはございませんと言う。ないのですよ、ないわけだが、そういうふうなことがあると推定したら、これが法律として成立したら何でもやれる。そういうところに問題があるというのですよ。だから、私は、暴力団体、やくざ、こういうものをはっきりと規定してやられるならいいです。そういうことが現に抜け穴がたくさんできている法律です。そこを問題にしているのです。私のは一つ一つ事実に基いて言っているので、仮定の場合を設けて育っているのじゃございません。そういう事実があるところに、こういう法案が成立して実施されたらどういうことになるか、そのことを申しているのであります。あなたのおっしゃるところでは、この法案でそういう点がはっきりしないのです。その点をもう一度はっきりと御答弁を願いたい。
  165. 竹内壽平

    竹内政府委員 職業的暴力団ということを法文の上に書くこことは立法技術的にできないことでございますので、従って、私どもの意図しているこの暴力団取締りの目的を果しますために、どういうふうにしたならばはっきりするかということが、刑法に掲げたまず第一の理由でございますし、しかもその各条章に入れまして、その目的、趣旨を明らかにしたのでございます。ことに、百五条につきましては、今申しましたように、証憑隠滅の罪というこことでその立法趣旨が明確に性格づけられておりますので、御懸念のような軍用に堕することは万々あるまい、かように考えますし、三百八条の二につきましても、構成要件が、何回も申しますように、殺傷の目的をもって集合した場合で、しかも凶器を準備し、またはその準備あることを知って集まる、こういったような形態のものは暴力団以外には日本にはないと思うのでございます。そういう意味において、私は、この趣旨は、御懸念ではございますけれども、はっきりしておるというふうに考えておる次第でございます。
  166. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 そろそろ終りにします。あなたがそう言われても、木村篤太郎さんという元の法務総裁は、共産党員が持てばマッチ一本でも凶器になるのだと言った。そういう人もおります。だから、こうなってみると、何でもかんでもやれることになる。凶器というのはどういうものか、マッチ一本でも共産党が持てば凶器だということをあのときちゃんと言われた。それは新聞にも報道されております。  そこで、最後に私は、これは非常に懸念をすべきことと思っておるのでありまして、労働組合その他の団体でも、この法案の成立に対して非常に危惧を感じておるのであります。そこで、汚職、暴力関係の予算、集団不法行為取締りの経費というものがたくさんあります。たとえば東京の警視庁あるいは全国と両方書いてありますが、暴力関係を取り締る予算が今度のこの法案に応じてあるのでありますが、暴力関係を取り締る人員、汚職関係を取り締る人員、公安関係を取り締る人員の関係を伺いたい。と申し上げるのは、汚職関係の方は常設ではなくて、暴力関係とか公安関係が常設で人員が多くなっておりますけれども、どれくらいの人員を用意しておられるのでしょうか。
  167. 石井榮三

    ○石井(榮)政府委員 全国で数多い警察官が今御指摘のような仕事に何人従事しておるかということは、ただいま手元に資料を持っておりませんので、数字でお答えすることはできません。各都道府県それぞれの実情に即して必要な警察要員を配置しておるものと考えます。
  168. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私どものきょう申し上げたことは、古屋委員もその点を非常に心配しておられたのであります。警視庁及び警察庁全国にわたって暴力関係の人員はお調べになればわかるのです。そういう点も一つ委員長の方から本委員会の審議の参考のために一応資料を出して下さるように。おそらく、汚職関係というのは、世論がわあわあ言ってしょうがなくて、臨時にやるという人員に違いないのです。ところが、暴力関係、公安関係というものは、非常に膨大なものを常設しているに違いないのです。その数字を発表すれば、世間全般に対しても、この法案が何を目ざしているかということがはっきりします。どうか委員長の方からその数字を警察庁の方から出すようにお計らいをお願いいたします。
  169. 町村金五

    町村委員長 承知しました。
  170. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 私の質問は終ります。
  171. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいまの御注文よく調べまして申し上げます。  最後に一言志賀委員に希望を申し上げておきますけれども、この法案にいたしましても、それから一般の犯罪取締りにおきましても、何か政府が特別の意図をもってやっておるようなお疑いでありますけれども、さようなことは全然ございませんから、一つこの際疑いを晴らしていただきたいと思うのであります。  先ほど公安調査庁関係のことで共産党関係の御発言がありましたから、その点もちょっとあわせて訂正しておきますが、中村法務大臣の言明を裏切っていつかすりかえてしまったというようなお話がありましたが、そういうようなことはございません。これは、御承知のように、破壊活動防止法では、過去においてどういうことをしたかということをもって団体の性格をきめ、そうして容疑団体にするかどうかということをきめて参るのでございまして、中村前大臣の言うたことと違った扱いをしたというわけではございません。終始一貫いたしておりますので、この点も一つ御了承を願いたいと思います。  なお、この法案自体のことにつきまして、どういうことをやっておるかということはつまびらかにいたしておりませんけれども、特別の意図をもって臨んでおるようなお疑いだけは一つ晴らしていただきたい。この立案の間におきましても、私どもは暴力に関する取締りについて労働組合関係などは全く顧慮しなかったのでありますが、その起案の途中におきまして、労働組合運動などに適用されるようなおそれがあってはいけないという意見がちょっと出ましたから、そんなことがあってはいけない、こういうお話をしておりまして、きょうお配りしたものの中にもあると思いますが、法制審議会におきまして学者、専門家の知恵をしぼっていただきまして、一つ文字の上でさような危険のないように修正をいたして、その修正案を私ども快く採用いたしまして、当初の案を書きかえたくらいでありますから、どうぞ私どもの意のあるところは一つ御信用願いたいと思います。  すべて法律は、条文によらずして、何か足がかりがあれば検察官、警察官がそれを足がかりとしてどしどし乱用するというお疑いでこれを見ますれば、あっせん収賄罪のごときも、とにかく金さえ取れば公務員は全部ひっかかるということになって、これはおそろしい法律になるわけでありますが、これはやはり検察官、警察官の常識というものでやっていかなければならない。大ぜいのことでございますから、全然間違いがないとは言えませんが、それは十分に内部において戒めて参りたい。私ども指導者といたしましてさような意図というものは全然ございませんから、どうぞ一つ御信用を願いたいと思います。
  172. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 最後に一言。法務大臣はさように申されますが過失のことを調べるのに、公安調査庁というものは、ここはあなたの管轄の役所でありますが、どういうことをやっておるか。病院の看護婦にどういうラブレターを調査官が書くか、御参考までにあなたの方に出しますから、いいですか。それを見た上で、もう一度今の御発言と照らし合せて考えて下さい。私の方がよけいな心配をしておるのではないのです。あなたの管轄の公安調査庁がラブレタ―を出してスパイになれというようなことを言っておるのですから、そのラブレターを一つ御参考までに差し上げたいと思います。
  173. 町村金五

    町村委員長 本日はこれにて散会いたします。     午後五時三十分散会