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竹内政府委員 請託という構成要件をつけましたために、挙証上非常な困難を伴うのではないか、従ってこの
意味から
運用の幅が狭くなるという御
意見のように伺ったのでございますが、なるほど、ただいまお読み上げになりました
統計表を見ますると、二十三年から三十一年までの九ヵ年間の合計におきまして、
単純収賄が四千十一名に対して、受託
収賄が六百五十二名ということに数字はなっております。
この問題につきましていろいろな角度から
お答えを申し上げなければならぬと思いますが、まず、この「
請託ヲ受ケ」ということが
一つのしぼりになりますことは御指摘の
通りでございますが、しかし、私
どもとしましては、このしぼりが、ただいまお言葉にありましたように非常に強いしぼりであるかどうかという点につきましては、そのようには
考えておらないのでございます。
その理由を申し上げますと、まず
統計でございますけれ
ども、
第三者供賄とか、あるいは
枉法収賄とかいうものにつきましては、私はかなり事実のままの数字が出ておると思うのでございますが、
単純収賄か受託
収賄かということにつきましては、受託
収賄の今の
規定は加重要件になっておるのでございまして、当該
事件について量刑をいたします上において、受託
収賄としなくても
単純収賄でまかなえるという場合には、若干の証拠上の制限を受けますので、むしろ
単純収賄で
起訴して裁判を受けようという場合が多々ありますことは、暴力事犯について常習性でなくて単純の窃盗で
起訴してその
判決を受けるという場合が多々ありますのと同様でございます。これは
運用の実務に照らしましてさように申し上げるのでございまして、ここに表われておる四千と六百五十という数字は、必ずしも受託
収賄の実数を表わしておるものではないというふうに今
考えておるものでございます。
さらに、
請託ということが挙証上非常に困難だという学者の
意見だということでございますが、御案内の
通り、
わいろ罪の
わいろということは、
職務に関する
行為の対価としてもらう不法の
利益でございます。そこで、
代償としてもらうという対価
関係に立つということが立証上非常にむずかしいのでございまして、それがありませんために
職務に関した
行為ではないというふうに判断される場合があるのでございます。先生もよく御
承知のことでございますけれ
ども、現実の裁判におきまして問題になりますのは、
職務に関するかどうかということが非常に問題になるわけで、
職務に関するかどうかを検事が立証いたします場合に、
請託があってある
事項が
特定し、その
事項のために動き、あるいは処置がとられる、そのお礼として出されるんだという、この微妙なる
関係を立証しなければならないのでございまして、一般に、
収賄罪を論じます場合に、
起訴状の表面にこそ、
請託を受けという言葉を他人の
請託を受けというふうには書かない場合が多いのでございますけれ
ども、立証段階においては、ほとんどすべての
事件について
請託内容を立証いたしておるのでございます。ことに、この
あっせん収賄の場合におきましては、
単純収賄の場合と異なりまして、他人の
依頼を受けて動き出すという、つまりあっせん
請託という
関係を伴うのが通常の形でございます。ことに、自己に関することでありませんので、その頼まれたことがどういうふうな不正な
行為として働きかけていくかという点を
特定いたしますためにも、この
請託事項がはっきりしているということが、事柄の
運用解釈において明確になるというふうに
考えたのでございまして、この点は、法制審議会におきましても、裁判所側を代表する
委員の方々から、この「
請託ヲ受ケ」という言葉はぜひ要るんだ、こういたさなければ裁判はもう何が何だかわけがわからぬようになってしまうのだ、そうして
事項を
特定して、焦点をしぼって判断をしていくのが適切であるという
意見を強く述べられたのも、またいずれ
会議録をお手元に差し上げたいと思っておりますが、出ておるのでございます。そういうわけで、なるほどしぼられてはございますけれ
ども、ただいま御
批判のありましたような強いしぼりにはなっていないというふうに解釈いたしておるのでございます。