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1958-03-28 第28回国会 衆議院 法務委員会 第18号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年三月二十八日(金曜日)     午前十時四十分開議  出席委員       委員長 町村 金五君    理事 高橋 禎一君 理事 林   博君    理事 福井 盛太君 理事 三田村武夫君    理事 横井 太郎君 理事 青野 武一君    理事 菊地養之輔君       小島 徹三君    小林かなえ君       世耕 弘一君    徳安 實藏君       長井  源君    中村 梅吉君       横川 重次君    猪俣 浩三君       吉田 賢一君    志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 唐澤 俊樹君  出席政府委員         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君  委員外出席者         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 三月二十七日  委員犬養健辞任につき、その補欠として足立  篤郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員足立篤郎辞任につき、その補欠として犬  養健君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  刑法の一部を改正する法律案内閣提出第一三  一号)      ————◇—————
  2. 町村金五

    町村委員長 これより会議を開きます。  刑法の一部を改正する法律案議題といたします。  昨日に引き続きあっせん収賄罪に関する問題について審議を進めます。発言の通告がありますので、順次これを許します。林博君。
  3. 林博

    ○林(博)委員 私は、ごく簡単に大体二点についてお尋ねをいたしまして質疑を終りたいと思います。その一点は、簡単に申しますと、第三者供賄に関する問題、それにからんで政治資金規正法に関する問題でございまして、いま一点は、不正の行為ということに関する質疑であります。  まず私はこの最初の点についていろいろお尋ねしたいのでありますが、わいろ観念が時とともに非常に変遷をいたしまして、いわゆる官僚国家においては、官僚に対する贈賄ということが非常に大きな意味があると思うのであります。また、今日のように民主主義国家になりまして、国会が非常な権限を持っており、また政党が非常な権限を持っておるということになりますと、わいろ罪対象となるものも多少変遷して参りまして、国会議員清潔性というか、あるいは政党政治資金の清潔と申しますか、そういう点が非常に重要な問題になってくると考えるのであります。そこで私はいろいろお尋ねいたしたいのでありますが、今回のあっせん収賄改正規定を見ますると、これには第三者供賄規定がございません。これは、先日来述べられておりますように、社会党の改正案にも第三者供賄規定がないのであります。ところで、先日も小野博士にお伺いいたしましたところが、もし今回の改正案ざる法であるという批判があるとすれば、一体どういう点をさすのか、最も大きな点はどういう点かと申しましたところ、それに対する批判は、第三者供賄規定がないことだということを申し述べられておったのであります。私もこれに全く同感でございまして、ほかの請託だとか、あるいは不正の行為だとか、あるいは報酬だとかいう問題よりも、この第三者供賄が抜けておるということが一番批判対象になるのではないかというふうに考えておるのであります。ところが、今までいろいろ御質疑を承わりましたところ、第三者供賄に対する問題としては、その設例といたしまして、場合によっては自分後援会を作ってそこに寄付したらどうかというような御質問、あるいは自分の近親の者に金が渡されたらどうかというようなことが一応議題となっておるようでございます。ところが、私が一番疑問といたしまするところは、この第三者供賄でありますが、これは今回の改正案についてではなくして、刑法の百九十七条の二についてまずお伺いいたしたいと思うのでありますが、私が一番問題であると存じますのは、国会議員あるいは政党幹部請託を受けて何らかの仕事をやった、そのために、それではおれは金は要らぬ、要らぬけれども自分の所属する政党献金しろといって献金をさせた場合に、果して刑法の百九十七条の二に該当するものであるかどうか、この点について法務大臣にお伺いいたします。
  4. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいまの点は、詳しくは刑事局長から御説明いたしまするが、御設例のような場合は百九十七条の二に該当すると解釈いたしております。
  5. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいま大臣からお答え申し上げました通りでございます。
  6. 林博

    ○林(博)委員 政党幹部あるいは国会議員請託を受けて何か仕事をやってやって、これが政党献金した場合にはやはり第三者供賄規定の適用があるという御答弁でございます。私もこの法律解釈としてその通りであると存ずるのでありまするし、また現在の、今申しました政治形態からして、政党なり国会なりというものが非常な権限を持っておる、このときにおいてこれが第三者供賄になるということは、非常に大きな問題であり、政治全般に関する問題であると存ずるのであります。場合によっては政治の粛正がこういう点から始められなければならないというふうにも考えるのでございます。ところが、先日法務大臣お答えによりますると、第三者供賄は今まで非常な事例が少なかった、それで実際にはさほど必要でないと考えた、刑法の沿革とか、あるいは昭和十六年に第三者供賄が追加されたのであるけれども、その間、それまではこの規定がなかったし、それから十数年の間で第二者供賄起訴されたものはわずかに四件であったというお答えであって、きわめてその必要性が実際面においてないのだというお答えであったように私は記憶をいたしておるのであります。しからば、果して実際的に必要のないものであるかどうか、もし政党幹部あるいは国会議員請託を受けて仕事をして、それが政党献金された場合も、これが第三者供賄になるのだということになれば、これは数の問題ではなくて、政治の根本に関する非常に重要なる問題であると考えるのであります。  それでは、今まで四件起訴されたというのでありますが、現在まで百九十七条の二が適用されたのがこの四件だけであったのか、これは具体的な名前等は御遠慮願った方がいいと思うのでありますが、ただいま私が述べたような第三者供賄事例があったけれども、これが起訴にならなかったというような重要な問題もあったのじゃないか、そのような観点からいたしまして、わずかに四件であるというような起訴のみでなく、今まであった事例について、あまりお差しつかえのない範囲において刑事局長から御答弁願いたいと思うのであります。
  7. 竹内壽平

    竹内政府委員 起訴を受けたものは四件でございますが、検察庁が受理、処理をいたしました件数もきわめて少うございまして、昭和十六年に二人——人数で申し上げますが、昭和十六年に二人、二十四年に六人、二十五年に三人、二十六年に一人、二十七年に三人、三十年に七人。昭和十七、十八、二十二、二十三、二十八、二十九、三十一年には一件も処理をいたしておらないのが実情でございます。この処理をいたしました人員のうちから起訴を見ましたのが、先ほど申した通り四名でございますが、そのうち、最高裁まで事件が上り、最終の判決を見ておる事例が手元に二件ございますが、その概要を申し上げます。  一つは、昭和二十九年八月二十日、第二小法廷において判決を見ました事案でございまして、これは、ある自治体警察署長が、公安委員から数回にわたって、ある被疑者物価統制令違反食糧管理法違反事件等について有利な寛大な取り計らいをしてほしいという依頼を受け、その代償としまして隔離病者組合寄付金をさせるということのもとに、八万六千円余りを出させて、隔離病者組合にその一部を寄付させた、それが収賄であるということで、つまり公務員たる署長権限に関して請託を受けて隔離病者組合寄付をさせたという事例第三者供賄として判決を受けております。その判決要旨を申しますと、刑法百九十七条の二の罪が成立するためには、公務員がその職務とする事項につき依頼を受けてこれを承諾し、供与者第三者に供与した利益がその公務員職務行為に対する代償たる性質を有すれば足る、右第三者個人たると地方公共団体その他の法人たるとを問わない、これが判決要旨として掲げられております。  もう一件は、昭和三十一年七月三日、第三小法廷判決でございますが、これは国家地方警察署長に関する事件でございまして、やはりある捜査中の被疑者についての寛大な取扱いを懇請して、もし寛大な取扱いをしてくれるのならば警察署で使っておる自動車改造費用を負担するという申し出をしてわいろを収受した事件でありまして、これに対する判決要旨は、警察署長に対してその職務に関しその警察署において使用する自動車改造費用の負担を申し込んだときは、その警察署刑法第百九十七条の二にいう第三者に当るといって、署長警察署の二つの関係を、署は第三者であるという判決を下しております。  このようなきわめて少数の事例でございまして、先般来申し上げておりますように、第三者供賄事例というのは全体的に見てきわめて少いと考えておる次第でございます。
  8. 林博

    ○林(博)委員 ただいま起訴になった事件につきまして御報告を承わったのでありますが、不起訴あるいは起訴に至らなかった事件で耳目を聳動したようなものがございましたならば、個人名前は差し控えまして、御報告を願いたい。
  9. 竹内壽平

    竹内政府委員 不起訴にした事件あるいは世間で騒がれた事件第三者供賄に該当する事例はなかったかという御質問でございますが、私の方でいろいろ調査をいたしましたけれども、それに該当するような事例としてここで御披露申し上げるような事例に実は当らなかったのでございます。なお、捜査当局等についていろいろ調査いたしました結果によりますと、御承知のように、単純収賄の場合でもそうでございますが、わいろ性に関する問題といたしまして、わいろはある事項に対する代償として払われるものでありますけれども、この罪の特徴といたしまして、この罪はきわめて隠密の間になされるのでございますし、証拠関係物的証拠にはきわめて乏しい犯罪でございます。そして、隠密の間に取引するところにわいろというこの罪の悪い意味効果を発揮するのでございまして、そういう罪質でありますことから起ってくるのでありますけれどもわいろ報酬たる金が第三者の手に渡るときには概してわいろ性を失ってくるのでございまして、第三者に供賄させたというような事例は、結局わいろ罪として成り立たない場合が多いのでございます。これは捜査官憲の多年の経験に徴した経験談でございますけれども、そういうように伺っております。なるほど、統計の上には現われていないが、捜査の実態に触れた御意見としてうなずけるのでありまして、私どもとしてはなるほど第三者供賄というものは理論としては成り立つ理論でございますけれども、実際の運用取扱いにおきましては、第三者供賄を認められるような場合は、先ほど警察署のようなきわめて明白な場合以外にはちょっと成り立ちにくいのじゃないかと考えております。
  10. 林博

    ○林(博)委員 今のわいろ性の問題に関連するのでありますが、今まで、第三者供賄というと、何か自分後援会自分と密接な関係があったり、あるいは自分親戚関係の者に直接渡して、第三者に供与してそれで利益を受ける、こういう場合のみを想定しておるのであります。この間たまたま、わいろ性の問題に関して、持っていったところが、慈善団体寄付しろと言われて慈善団体寄付したという場合がある。その場合のわいろ性が問題になっておったのであります。こういう場合にはわいわ牲の問題はどういうことになりますか、起訴、不起訴の問題は別としてですね。
  11. 竹内壽平

    竹内政府委員 第三者慈善団体でありましょうとも、百九十七条の二の罪を構成する限りは第三者供賄罪になるわけでございますが、わいろ性関係におきまして、職務に関して利益がもたらされる、職務代償としての不当の利益であるという関係が認定されなければならないわけでございますか、先ほど申し上げましたように、そういう利益隠密の間に自分のふところに入ってきて初めて悪い効果を発揮するのである、慈善団体寄付するようなときには、職務に関してというところで、職務に関しない何らかの形をとるのではないかというふうに認定される傾向がどうも強いようでございます。
  12. 林博

    ○林(博)委員 私はなぜそういうことをお聞きしたいかというとわいろ性の問題と政治資金の問題が明確ではないからお尋ねしておるのであります。  そこで、私は、実際は政党幹部がある特定請託を受けて政党献金をさせた場合にこれが問題になりかけた場合があると思うのです。そういう場合に、事実上は起訴にならなかったのでありますが、そういう場合にも、ただいま申しましたような観点から言うと、百九十七条二を適用する実際の価値がなくなるのかどうか。私はそうは思わないのです。先ほどからわいろ観念が国の政治形態によって違ってくるのじゃないかということを申し上げたのでありますが、私は、わいろの最大のものは、かりに国会議員が不当なことをやって、あるいは請託を受けて政党献金したというような場合が一番国民に対する利害関係があるというふうに考え観点からして、これは私は非常に重大な問題になってくるのではないかと考えるのでありますが、ただ、今までの観点からいたしますと、先ほど刑事局長がおっしゃられたように、大っぴらにやるのはわいろ性がないのだというお答えがありましたが、それでは一体、そういう場合に政治資金規正法届出さえすればわいろ性がなくなってしまうのか、届出しない場合にはわいろ性があって、何か一党の相当な地位にある人が請託を受けて、仕事をしてやって、そうして党へ献金して、その届出さえすれば、これでもうわいろ性がなくなって、起訴価値がなくなってしまうのかどうか。そういうお考えであるのかどうか。
  13. 竹内壽平

    竹内政府委員 非常にデリケートな御質問で、お答えに窮するわけでございまするが、大っぴらにやったものはみな政治献金になるというふうには私理解しておりません。むしろその逆に、わいろ性がないから政治献金ということに見られるというふうなのが判決傾向だと思うのであります。政治献金につきましては政治資金規正法等で御承知のように一定規制のもとに置かれておりますが、そのこと自体は、その規制さえ守れば、政治資金として受け入れますことは法の許すところでありますし、また、悪いけれどもそうするというのじゃなくて、政治に伴う政治資金というものは、これは否定しがたい現実の事実でございます。私はそれをもって不都合なことだとは思っておりません。ただ、政治資金となります場合には、政治資金規正法による所定規制を受けてもらわなければならない。ただ、わいろだということで調べてみたが、わいろ性がないために政治資金に化けて出るというような結果になった事例が、これまたないとは申しませんが、そこのところは、非常に事実認定の問題でございまして、むずかしい問題だと思います。抽象的になかなか割り切ってお答えができない次第であります。
  14. 林博

    ○林(博)委員 私はこれは非常に重要な問題だと思うのです。後援会寄付するとかなんとかいう問題を離れて、非常に重要な問題であると思うのでありますが、御承知のように、政治資金規正法にはきわめて制限している範囲が狭いですね。外国から献金を受ける場合だとか、あるいは国と請負契約をする場合だとか、特別な利益を受ける契約をしているものだとか、きわめて範囲が限定されているわけなんです。その範囲でなければ政治資金規正法というものはひっかからないわけなんです。それで届出をするわけですね。届出をするのだけれども、私は、これはこの政治資金規正法の問題といわゆる第三者供賄の問題とは別個に判断しなければならないと思う。そのために、冒頭私が、第三者供賄規定について、政党幹部あるいは国会議員請託を受けて、それはおれにくれなくてもいいから政党献金しろという場合はどうかとお尋ねしたところが、第三者供賄になるというお話であった。私は、そういう際には当然届出したところでやはりわいろたる性質を失わない、こういうふうに考えるわけなんですが、その点についていま一度明確なお考えを承わりたい。
  15. 竹内壽平

    竹内政府委員 その点につきましては、全く御意見通りでございまして、政治資金として受け入れたといたしましても、届出をしたといたしましても、その金が第三者供賄わいろであるということについては少しも変らない。つまり、第三者供賄罪が成立します限りは、その金は、一方において政治資金の受け入れの事実があれば政治資金規正法には触れませんが、やはりわいろである。もし所定届出をしないということになりますれば、刑法考え方から言いますれば、一所為数法になりますか、あるいは併合罪になりますか、またはわいろと違いますが別罪を構成すると思います。
  16. 林博

    ○林(博)委員 これはお差しつかえがあれば御答弁にならなくてもいいのですが、造船疑獄逮捕状、あれは一体何で出たのですか。
  17. 竹内壽平

    竹内政府委員 造船疑獄にたくさん事件がありますので……。
  18. 林博

    ○林(博)委員 指揮権発動のとき。
  19. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまちょっと資料がございませんので、お答えいたしかねます。
  20. 林博

    ○林(博)委員 それ以上いろいろお聞きはしませんけれども、いま一つその前にお伺いしたいのは、第三者供賄の立法当時、昭和十六年でありますが、その当時にやはり、今私がお尋ねしたような、国会議員あるいは政党幹部請託を受けて政党献金した場合を予想しておったのかどうか、その点一つ
  21. 竹内壽平

    竹内政府委員 それは当然予想しておったと思います。と申しますのは、その昭和十六年のときに、単純収賄一般収賄につきまして特に第三者供賄規定をそのとき設けたわけでございまして、その際にやはりあっせん収賄規定を同時に刑法の中に織り込んでおります。その場合には第三者供賄規定をはずしておるのでございまして、それは意識的にはずしたものと私は理解しております。
  22. 林博

    ○林(博)委員 私は先ほどから申し上げておるのでありますが、今政治形態が戦前とは変ってきたのです。それで、官僚に対するわいろということがまず第一に来るのでありますが、私どもは、そうではない、今最高権限を持ったのは国会である、そこで、国会廉潔性、また政党廉潔性、また国会議員廉潔性というものが非常に確保されなければならないときであると考えるのであります。私どももまた自分たちの身の廉潔性を非常に厳格に保持していかなければならないという考え方でございます。これは昔の官僚国家と違うのだという考えなんです。そこで、私は、今申し上げたような第三者供賄の場合に、私ども仕事をやって政党献金さした場合、これはやはり国民にとっては重要な問題であると思うのです。これは、小さな一公務員が金を受け取って不正な仕事をしたというよりも、国民全体の利益に関するならば、これは重大な影響をもたらす問題であると考えるのであります。こういう観点から考えますと、今回の刑法の一部改正案第三者供賄規定が抜けたということは、私は非常に遺憾であるというふうに考えておるのでありまするし、また、将来はこういう立場から考えまして、ぜひとも第三者供賄規定を、今回は別といたしまして、なさなければならないというふうに考えておるのでございますが、この点に関する質疑は一応この程度で打ち切りたいと存ずるのであります。  ただ私は政治資金規正法関係においてこれと似通った問題があると存じますので、法務大臣にごく簡単にお伺いいたしたいと思うのであります。たとえば、今の政治資金規正法では、今言ったように非常に厳格な要件であって、それ以外のものは届出さえすればいい、こういうことになっておるのでありまするし、また、第三者供賄によって処罰される場合には、そこに請託を受けてという、一定事項に関して請託を受けて政党献金された場合だけがこの処罰の対象になる、こういう考え方でございます。ところが、それでは、今特定請託を受けないで、労働組合あるいは特定の業者が、実際にはある法案を通してもらいたい、自分たち組合あるいは業界の利益をはかるためにという考えなのでありますが、請託をしないで莫大な献金をしたその結果、法案が通過したというようなことが間々あり得ると思うのです。こういうことはやはり、私が今考えましたような、国会最高権限を持っておるのだという立場に立ちますときに、今まで収賄を処罰した観点からいきますとかなり考え直さなければならない基本問題ではないか、このように考えるのであります。そこで、現状においては、とにかく第三者供賄請託さえなければ、いわゆる贈収賄の場合について見ますれば単純贈収賄、単に職務に関するようなことで、ただ特定団体利益のためにというようなことで献金された場合には、幾ら莫大な献金がされても届出をしさえすればいいというような形態になっておるのであります。そういう今言ったような私の考え方からいきますと、どうも政治資金規正法にもある程度の制約を設けなければ、国民全般のための公正なる政治というものが行われないのではないかという考えもいたすのでありますが、こういう点に関しまして法務大臣は将来政治資金規正法について何らかの検討をなされる考えを持っておられるかどうか、その点について承わりたい。
  23. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 政治資金規正法に関する問題でございますが、これは一応自治庁で預かっておる法律でございますから、私がお答えいたしますのもどうかと思いますが、このあっせん収賄罪に関連いたしまして、ただいまのようなお尋ねがよそでもございました。その際に、また他の機会におきましても、自治庁の長官から、政治資金規正法につきましてはいろいろの観点から今検討を加えておるというお答えがございましたから、それをお伝えいたします。ただいま御指摘の問題は非常に大きな問題でございまして、私どもといたしましても、第三者供賄罪に関する新しい規定を加えるかどうかという問題につきましては十分検討をいたしたいと思いますし、それと関連いたしまして、ただいま御説明のような場合が公務員としての公務の公正性というものを阻害するような結果になりますれば、自然これはやはり法律規制をいたさなければいけないような問題だと考えますので、これは非常に大きな問題でございますから、この刑法わいろ罪に関する規定とあわせまして、よく自治庁とも打ち合せて研究をしていきたいと考えております。
  24. 林博

    ○林(博)委員 時間がないようでございますから、その点は打ち切りまして、あと一つの問題についてごく簡単に承わりたいと思うのでありますが、不正の行為をなしたという枉法収賄起訴された事例は非常に少いというお話であった。ところが、私は実質的には枉法収賄事例は必ずしも少くないと思うのです。統計上は少くなっておる。これは枉法収賄であるべき場合が単純収賄起訴されておるのではないかと考えるのでありますが、果してそうであるかどうか。もしそうであるとすれば、どういう理由で一体そういうことになっておるのか、その点について刑事局長の御答弁を願います。
  25. 竹内壽平

    竹内政府委員 枉法収賄に当る場合を百九十七条の単純収賄起訴するというような運用が行われているのじゃないかということでございますが、これは、私は、さようではなくて、枉法収賄枉法収賄として処分をいたしておると考えます。
  26. 林博

    ○林(博)委員 刑事局長はそう御答弁なさったのですが、実際には枉法収賄単純収賄起訴されておる事例が相当あるのじゃないかというふうに私は考えます。私もそのような場合にしばしば出会っております。その点はどうでございましょう。率直な御答弁を願いたいと思います。
  27. 竹内壽平

    竹内政府委員 極端に気の毒な下級職員のような場合に、枉法に当る場合に事実を曲げて単純収賄というふうに見るというわけには、これは法律家としてできないわけでございますが、事実の見方を変えて、そうして単純収賄というふうな見方にして、あるいはそういうふうに処理した事例が、これは下級職員のきわめて気の毒な場合にはそういう取扱いをすることがないとは言えないというふうに考えております。
  28. 林博

    ○林(博)委員 結論を急ぎますけれども、私は、枉法収賄単純収賄起訴されておる場合があると思う。それで、それはなぜそういうことになったか。不正の行為という解釈の限界点が非常にむずかしいということも一つあるのではないかと考えるのでありまして、この不正の行為ということは、しばしば判例にもあって、職責違反の行為だということは言われておるのでありますが、必ずしも職責違反ということも明確な概念ではないと私は考えております。刑事局長は、先般来も、判例によって明確なんだということを言われておりますが、むしろこれは単純収賄起訴されておる場合が多いと思う。枉法収賄に関する判例は、私はなるほど一覧いたしましたが、そうあらゆる設例の場合を設けた判例はないと思うのでありまして、おそらく先日小野清一郎博士も仰せられましたが、不正の行為の解釈は最後には個々具体的な最高裁の判例によって決せられるより仕方がないのだということを仰せられたのであります。そこで私は考えるのでありますが、単に今までの、改正案以前の刑法であるならば、かりに枉法収賄で逮捕しておいて、不正の行為があったかどうかということを取り調べて、その結果、それが非常に不正の行為、職責違反の行為であるかどうかという限界でありまして、これは不正の行為でないという結論に至って単純収賄起訴されたという場合にも、これは逮捕されることが当然なんです。というのは、単純収賄にひっかかるからである。ところが、今回の場合は、不正の行為であるかどうかという限界にあって、これが場合によっては罪とならないものである、また罪となる場合も出てくると私は考えるのである。しかもその解釈の最終は最高裁判所の判例によって決せられるということでございますが、必ずしも私は判例の職責違反という行為が明確なものではないというふうに考えております。そこで、この法令の運用に当りましては、国会議員というのは、当然、何かあっせんをやって金をもらうなんということは、言語道断、これは私どもの絶対とるべき態度ではないと考えるのでありますが、しかし、法の適用の面は法の適用の面として、その限界点については相当検察当局も慎重なる態度をもって臨まれ、そして、今から、単なる職責違反というような抽象的な問題ではなくして、ある程度の具体的な設例考えていかなければならない。その線はやはりある程度これを公けにするわけにはいかぬでしょうが、職責違反とはこうなんだというもっと具体的な解明をしておかなければ、そのつどの、あるいは検察庁の認可によって、場合によっては検察ファッショのおそれがないとはしないと私は考えるのでございます。  それで、これは要望でございますが、そういう点に関しましてはよく検察庁当局において御検討を願って、いやしくもその逮捕した結果——今までは大体贈収賄事件で無罪が多過ぎる。これは限界が過ぎるということであるかもしれませんが、しかし、場合によっては検察庁の行き過ぎによって逮捕されて、無罪になっておる場合もあるように私は思うのであります。それでありますから、こういうような不正の行為という解釈につきましても、一つ単に職責違反というようなことではなくして、もっと具体的に慎重に考えられて、そうして法の運用に当られることを要望いたしまして、この点に関しまする法務大臣の御答弁を承わりまして、私の質問を終ります。
  29. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいまの御要望はまことにごもっともだと存ずるのでございます。くどくは申しませんけれども、このあっせん収賄罪に関する政府案に対しては世上いろいろの批評がございまするけれども、私といたしましては、この法律案がいよいよ法律となりました暁には、今われわれが想像しておる以上に非常な効力を持つ規定であると確信をいたしておるのでございまして、その反面、責任者の一人といたしまして、私は、それが一たび運用を誤まり、乱用されるようなことがございましたら、これは重大な政治的の結果を引き起すのではないか、選挙によってできておりまする公務員請託を受けることは、これは日常のことでございまするから、その間に、あるいは不正の行為であるとかどうとかいうような限界線の問題が一たび検察の手にかかりますれば、選挙を背景としておる公務員はそれがほとんど致命傷でございまするから、判決の結果、有罪、無罪というようなことはあとの祭でございまするから、そういう意味におきまして、この収賄罪に関する規定の本条を立案する際にも、非常に憶病と言われながら十分に警戒をしたのは、私のそういう心持からでございます。私は、この法案法律になりますれば、われわれが今考えている以上に威力を発揮する規定になる、その意味におきまして、その反面非常におそろしい結果が生まれるということを心配しておりまして、第三者供賄に関する規定を一応この案からはずしましたのも、いろいろ申し述べた理由にもよりまするが、根本は、この法律の反面におけるおそろしさということを痛感いたしておるからでございます。ただいまの不正に関する解釈の点も、御意見通りと思います。なるほど、いろいろこの法案について新しい文字が使われたことがございまして、それらの文字に比較いたしますれば、すでに法律にある文字であり、判例もありまするし、その程度においては明確でございますが、百般のケースをこれに当てはめる際には、これはもういろいろと疑問が生ずることと思います。その際に検察当局が検察常識を誤まりますると非常な損害を与えることになりまするから、この点は、御要望の通り、幸いにしてこれが法律となった暁におきましては、検察当局に十分戒慎を加えまして、あやまちなきを期したいと思っております。
  30. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 林君の質問に関連して一、二お伺いしておきたいと思います。  私は、この贈賄者側、特にその贈賄者が法人である場合、団体である場合のことについてお尋ねしたいと思います。それはやがてこの被害法益にも関連してくると思うのですが、まず、贈賄する人が——贈賄という言葉はちょっと範囲が狭過ぎるのですが、ある公務員請託をして、ある事柄をあっせんしてもらって、それに対して会社その他の法人が報酬名義で金を贈るというときに、今法案規定してあるあっせん収賄罪が成立はしないけれども、不正行為にかからぬからというので成立はしないかという場合に、贈った方の側の会社、その他の法人の、成規の手続を経てそれを供与するという場合に、そこに横領罪が成立するかどうか、そこのところをお尋ねします。
  31. 竹内壽平

    竹内政府委員 法人として何がしかの金額を供与します場合にはこの法人の行為をいたします自然人は、職務権限を持った会社についての、法人の行為とみなされる役職員でなければならぬはずでございます。そういう役職員が金を供与しました場合には、その金を供与したことが背任になります場合は、別にそれについての横領罪ということは考えられないのだ、また、会社その他の法人の下級職員であって、それらが金を単に経理部長、経理課長として保管しておるにすぎない者が、法人の意思とみなされない形において他にこれを供与するという場合は、まさしく横領になると思います。
  32. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 背任でも横領でもいいですが、とにかく正規の機関を通じて供与する、供与した相手方にはいわゆる今の法案によるあっせん収賄罪は成立しないけれども公務員廉潔性というものを非常に損するわけですね。ある法人がこの金を贈れば公務員廉潔性を非常に汚すものである。すなわち、あっせん収賄罪の、いわゆるそれによって保護される法益を侵害するものだということはわかっておるのです。そういう場合に、一体、背任でも横領でもどちらでもいいのですが、そういうふうに、犯罪が成立するというふうにお考えになるように聞いたのですが、背任罪にしても成立するというふうな見解をとられるのですか。
  33. 竹内壽平

    竹内政府委員 これは常に成立するという意味ではございませんで、成立する場合が考えられるという意味でございます。御承知のように、背任罪は、自己または第三者利益を与えるということと同時に、損害を生ぜしめるということが要件になっております。その会社、法人がそのことによって損害をこうむらないで、逆に非常に利益をもたらすということになりますれば、これは背任罪にもならぬ、こういうことになるわけでございますから、背任罪になる場合が考えられるということを申し上げたわけでございます。
  34. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 いま一つ、今度は、あっせん収賄罪が成立する場合、会社その他の法人からこの金を贈ればあっせん収賄罪が成立するのだ、すなわち贈賄になるというときに、会社の金をもって贈収賄罪が成立するというような場合に、その金を使うというようなことは背任罪とか横領罪とか、そういうことになるかならぬか、それをお尋ねします。
  35. 竹内壽平

    竹内政府委員 背任罪、横領罪の成立するやいなやは、先ほどお答えした通りでございまして、贈賄罪が成立する場合、不成立の場合に関係がないと思います。贈賄罪が成立する場合に常に必ずしも背任、横領が成立するとは言えないと思います。
  36. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 そこで、私は、その法人なり会社その他の公共団体、あるいはまた労働組合なんかの組合のようなものでもいいと思いますが、そういう団体が、国の秩序を乱すために、すなわち国が法律をもって保護しておるその法益を侵害するためにその団体の金を使用する場合に、横領罪あるいは背任罪が成立をしないという考え方が私は誤まっておるのじゃないかという疑問を持っておるのです。それは政治資金規正法などにおいても同じことが言えると思うのです。と申しますのは、ある団体、それが、政治関係をしあるいは一般の公けの秩序を乱すというためにそれらの金を使用する、しかもそれが、組合員なりあるいは会社で言えば株主全員の意思でなくして、ただその団体のいわゆる組織、役職員の正式な機関の手を通じてやるからそれは差しつかえないのだという考え方が、私は実に法益を守るのに不徹底な考え方じゃないかという疑問を持っておるものだからお尋ねをしたわけです。すなわち、二つに分けてお尋ねをしたのは、あっせん収賄罪が成立しないような場合には、これは団体としてもまずまず正しいという見方が常識的に強いと思う。ところが、その金を使えば犯罪が成立するのだというときに、会社の方ではその金を使っても差しつかえない、公共団体においてもこれは自分のためになるんだから差しつかえないのだというような考え方が、むしろ誤まっているんじゃないか。それは非常に重大な問題だと思うのです。このあっせん収賄罪の被害法益というものを一体どういうふうに見ておるかということによって、一つの説としては異なった考え方が生まれてくると思うものですから、そこのところをお尋ねしたわけです。これは後日またお尋ねをする機会があると思いますけれども、そこの見解をはっきりと承わっておきたいと思います。そうしませんと、いわゆる個人の場合はそうでもないのですけれども、たくさんの株主なりあるいは団体員なりの意思に反して、犯罪を成立させるというようなことに金を使うことも、ときには背任罪、横領罪になるかもしれぬが、ときにはならぬこともあるというような不徹底なことではおかしいと思うからお尋ねしたわけです。
  37. 竹内壽平

    竹内政府委員 高橋委員の御質疑のお気持はよくわかるのでございますが、刑法の各本条、各編を見ますると、御承知通り、公益、国家の権益に関する部分から、個人の財産に関する部分まで、各章に分けまして、それぞれ規定を設けておるのでございますが、背任罪とか横領罪とかいうのは、個人の法益、個人の財産を保護する法益というふうにして、第三十八章の横領の罪、窃盗の罪等すべてそういう形で学問上も理解されておるのでございます。何らかの不法なる目的をもって一方においては公務員の廉潔をそこなうような作用をする行為が不成立に終る場合に、そういう意図だけがうかがわれる場合に、それでは直ちに個人の犯罪が成立するかということになりますと、その場合には、別途他の法律に触れる場合は別といたしまして、刑法の概念といたしましては、お気持の点はよくわかりますけれども刑法の解釈上はやむを得ないんじゃないかと考えております。
  38. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 私は、どうもそこの点が、政治資金規正法なんかを研究する場合にいつも疑問があるのです。私はまだまだ研究の余地があるとは思っておりますけれども、たとえば、憲法でも、財産権ほこれを尊重しなければならぬ、そうしてその財産権の行使というのは公共の福祉に反しないようにというような制限を受けておるわけですね。そうして会社が持っておる金を使うんですよ。金を使えば、それは必ず犯罪になる、あっせん収賄罪になるというようなときに、その会社の金を重役なりその他その執行機関が使うことは横領罪にもならない、会社にとってはこれが利益だからそれはほっておけばいいのだというような不徹底なものであるのはおかしいと思う。そんな犯罪の成立するようなところへもっていって金を使うということは、会社が正しい金を使うのでないのだという見方の方が正しいんじゃないか、こう思うのです。そこを一つ研究してみていただきたいと思う。これは、政治資金規正法なんかで、政党献金をする、あるいは政治家に献金をするというようなときに、いわゆる執行機関だけが勝手にやる。勝手と言っては語弊があるのですけれども一つの形式を踏んでやるでしょう。しかし、株主の中には社会党支持者もあれば、自由民主党支持者もあるし、共産党支持者もあるのですよ。そういうふうなことは、私は政治的に見ると非常に疑問があると思うのです。組合なんかもそうなんです。だから、政治資金として組合や法人、団体等がやる場合には、一つ考え直さなければならぬ問題があるなと私は思っております。そういうふうに、いわゆる法人における個々の人たちの意思を尊重するという意味と、広く国家の秩序を保つという考えとを総合して、その金を使えば犯罪になるのだというのに、それは会社の立場から言えば横領罪にもならない、背任罪にもならない、そんな金を使ったって差しつかえないのだという考え方が世の中にあることがおかしいと思うのです。だから、少し研究しておいていただきたい。  それから、いま一つ、私要望いたしますのは、終戦後における贈収賄罪の、起訴して第一審もしくは第二審で無罪になった事件を調べて御提出願いたいと思います。
  39. 町村金五

    町村委員長 猪俣浩三君。
  40. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私は、昨日政府に対しまして、昭和電工事件判決を中心として質問するからという予告をいたしておきました。非常に長文の判決書を御研究になったことだと思うのです。私も昨晩は再度全部読みまして、詳細な質問を用意して参りました。今朝同僚議員諸君から忠告がありまして、これはあまりなまなましい事件でもあるし、個人名前が登場することはいかがなものであろうかというお話がありまして、私も考えてみますると、同僚議員の御心配、御配慮、もっともの点もあるのであります。すでに判決が無罪とは確定している事件であるから差しつかえないとは存じましたけれども、選挙を前にいたしまして、やはり同僚議員の名前がたびたび出るようなことは、これまた御心配になる点も御同情できるのでございます。そこで私は一切この質問をやめることにいたしました。政府に対してせっかく御研究願ったのでありますが、さような配慮から、この質問を打ち切ることにいたしました。そうしますと、私の質問は大半なくなってしまうのであります。大体ほかの点につきましては同僚各位からいろいろな質問がありましたので、そうたくさん繰り返す必要もないかと思うのであります。  第三者供賄につきまして自民党諸君が熱心に立法を進められるのには私ども敬意を表します。ただし、もしそれでありまするならば、政府の原案に対してもう少し批判がなければならぬと思う。私は、第三者供賄は解釈によって相当取り締ることができると思う。従って、別に第三者供賄罪あっせん収賄について規定しなくても、これは取り締ることができると思う。それと、いま一つは、法益の問題に関係がありまして、結局公務員個人廉潔性を強調するということになりますと、いずれ形だけにせよ第三者に金をやる。おれは要らぬが政党寄付してくれということになると、その廉潔性が大へん稀薄になるのじゃないかと私は思う。それがもし形だけが第三者であって、実は内々で取引をやっているのならば、これは共犯関係としてなりいろいろな意味で処罰できるはずであります。また、純然たる第三者であるならば、公務員個人の、あっせん者個人廉潔性というものはそうよごれておらないということになるのでありますから、そこで、昨日の質問のように、あっせん収賄罪職務の公正を期待することはもちろんであるが、第一義的には公務員個人廉潔性ということが法益の第一じゃないかというふうに私が質問したのもそれにかかわります。私たちはそういう立場をとるがゆえに、第三者供賄ということを刑法の中に規定する必要はない。しかし、これは非常に脱法的にやりましたら弊害がはなはだしいのでありますので、これはさっき林君が質問したように、政治資金規正法——林君は、政治資金規正法とは関係なしに、第三者供賄をここに規定するというような御意見でありましたが、必ずしもわれわれはそれに反対するものではありませんけれども、本質から言いますと、公務員個人廉潔性をまず法益の第一義として考えるとするならば、第三者供賄政治資金規正法で取り締まるべきものではなかろうか。  そこで、大臣にお聞きいたしますが、現在の政治資金規正法は、ただ選挙に際する金の授受だけを取り締まっておるのでありますが、それといま一つ国から特殊の利益を受ける者等の政治献金を禁止するような規定しかないのでありますが、この政治資金規正法の改正、これが私は最も大切じゃないかと思う。政治の腐敗——一般公務員と申しましても、公選によって出てくる政治家の腐敗ということが最も現在の病弊だと思いますので、これには政治資金規正法の改正が大事だと思うのでありますが、これは閣議にさような政治資金規正法の改正なんかが問題になっておりましょうか、まだそこまでの段階にはなっておらぬのでしょうか。今自治庁が研究しておるようなお答えでありましたが、何か閣議にそういうような問題が正式に出ておるでありましょうか、それを伺いたいと思います。
  41. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいまのお尋ねのような問題は、まだ閣議には出ておりません。
  42. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、自治庁でもう相当改正案は練っておるのでありましょうか。また、これから着手するというのでありましょうか。また、そういうことに対して法務省に連絡があったのでありましょうか。
  43. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 まだ私も自治庁でどの程度の検討を加え、どの程度の結論を得ておるかということも詳しく承わっておりません。また、私の承知いたしております範囲内では、法務省へ連絡をとって参ったということもまだないようでございますが、過般の予算委員会におきまして、いろいろの質問の際に、やはりこの政治資金規正法の問題が出まして、政治家、政党清潔性を保持するというような意味合いから、政治資金規正法の改正について政府は検討しなければならないじゃないかというお尋ねに対して、自治庁長官から、鋭意検討をしておるというお答えがあったのでございます。私どもの方の立場といたしましては、政治資金規正法そのものは主管というわけではございませんけれども、だんだん御議論のありましたこのあっせん収賄罪、それに関連した第三者供賄規定に関する問題等と関連いたしまして、十分連絡をとって研究いたしたい、かように考えておる次第でございます。
  44. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、まだ自治庁で研究しようというた程度でとどまっておって、これに対する腹案、そういうものに対しては、一切まだ御存じない、こういうふうに承わってよろしいですか。
  45. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 さようでございます。
  46. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それから、もう一つ、これは法務大臣お尋ねいたしますが、陪審制度の問題が昨日も問題になったようであります。裁判の賠審制度の是非につきましては、日本でも相当長い間争われ、戦前陪審法が制定せられたのでありますが、現在廃止されたままになっております。これは大いに検討する必要もあるかと思うのであります。ただ、現在の裁判官が人権じゅうりん的な不法な判決をするということよりも、いわゆる検察ファッショ、ことに、このあっせん収賄罪というようなものが成立いたしまして、正不正のごとき検事の認定にかかる、検察官の認定にかかる、こういう問題につきましては、非常にデリケートな社会通念、社会常識のよく発達しておらぬ若い検事なんかでは、非常にそこに無理なことも起るという心配もあるのであります。私は、法の規定は非常に厳格にしておいて、そして実際起訴するかしないかというような場合においては、そこに起訴陪審制度のようなものを置くなら、ことにこのあっせん収賄罪のような場合においては、ここに常識あるところの普通人を参加せしめて、そうして若い功名にあせっているような検事の起訴に対して常識を注入する、社会通念を注入するという意味において、起訴陪審というようなものが必要なのではないかと思うのでありますが、さようなことに対して法務省は構想を持ったことがありますか、ありませんか、お尋ねしたいと思います。
  47. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 昨日もこの陪審の問題についての御意見の開陳と御質問があったのでございまして、その際にもお答え申したわけでございますが、わが国におきましても、今お言葉の通り、陪審法によりましてこの陪審制度について一応の経験をいたしたのでございます。しかし、この制度が果して十分にその効用を発揮したかどうか、つまり、この制度がわが国の国民性にうまく合致するかどうか、あるいはその規定そのものが合致するようにできておったかどうかというようなことについて今いろいろと論議があるようでございまして、法務省におきましても、今日停止されておりますこの陪審制度を復活するかどうかということについては非常に慎重な態度で研究をいたしております。今お尋ねの検察側における陪審制度、私は詳しくはございませんが、昨日もお話に出ました例のグランド・ジュリーと申しますか、大陪審の制度等につきましても、あわせて今鋭意検討を続けておるところでございます。
  48. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 御存じのように、検事の不起訴処分につきましては、一極の陪審制度と見られるような検察審査会というものができておるのでありますが、これを二歩進めて、紀訴そのものにつきましてもかような制度を展開するということを法務省では研究なさっているのかどうか、まだそういうことを全然考えておらないか。私の申すのは裁判の陪審制度ではない。これは日本は一ぺんやったことがあるのでありますが、この第三者あっせん収賄罪というようなものをもっと厳重に、ざる法にならぬように規定するとともに、検察ファッショを防ぐ意味において、起訴それ自身の民主的運営ということが両々相待って、初めてここに政界の汚濁を根絶する。厳重なる法規と、さらばというて検察ファッショを防ぐ制度というものが両々相待たなければいけないのじゃなかろうか。そこで私は起訴陣審についてお聞きしておるのでありますが、さような構想をお考えになったことがあるのかないのか、全然まだそういうことは考えておらないのかどうか、それをお尋ねいたします。
  49. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 その点、先ほどお答えいたした通りでございまして、裁判における陪審制度とあわせまして、いわゆるグランド・ジュリーの制度でございますか、検察そのものにおける陪審制度をあわせて研究をいたしております。お言葉のように、今の検察審査の制度がその一端かと思いますが、それをさらに発展させて、今お言葉のような制度にまで展開することの可否ということにつきまして、裁判に関するジュリーの制度とともにあわせて研究をいたしておりまするが、さらに刑事局長からもう少し詳細にお答え申し上げたいと思います。
  50. 竹内壽平

    竹内政府委員 検察官の検察権乱用の問題につきましては、御指摘のように検察審査会の制度がございまして、若干のリビューと申しますか、事後審査的な形において制肘を加える。そのことのまた反射的効果といたしまして、検察権の公正な運用に役立っておりますことは御承知通りでございますが、さてその大陪審の点につきましては、私ども事務当局の者としましても大きな関心を持っておることは事実でございます。ただ、諸外国の実情に必ずしも精通しておるわけではございませんが、これは英米におきましては古くからある制度でございますが、アメリカだけについて見ましても、大陪審が、どちらかと申しますと、傾向としてはむしろ大陪審を使うことがだんだん少くなるような方向に運用されておるように聞いておるのでございます。ことに、現在行われておりますニューヨーク州その他の大陪審の実情を見ますると、検察官がいわゆる行政捜査を行う一つの方法としてこの大陪審を活用しておるような面もあるようでございまして、そういう面等もいろいろ考え合せまして、わが国においてこれを導入し、あるいは採用するといったようなところまで持っていけるかどうか、部内にもいろいろ議論もあるところでございまして、慎重に検討いたしておるところでございます。
  51. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 ちょっとこまかい問題になりますが、政府の原案は、請託を受けるということが犯罪の成立要件に相なっておりますが、社会党の原案では、これはないのであります。そこで、請託というものの意味でありますが、この請託というのは、たとえば業者からあることを依頼された、それだけで請託になるのであるか、依頼されたことに対してあっせん者が承諾するということまでを含んだのが請託となるのであるか、立案者はどうお考えになっておるか。請託という意味は、請求されて、なおそれを受諾するという意味であるか、ただ頼まれっぱなしで、それに対して何ら返事もしない場合でも請託になるのであるか、その点、これは非常に形式的な法律議論でありますが、定義としてはっきりさしていただきたいと思います。
  52. 竹内壽平

    竹内政府委員 請託という用語といたしましては、ある特定事項について依頼を受けることでございまして、「請託ヲ受ケ」、こういうふうに「受ケ」という字をさらにつけ加えますると、ある特定事項について依頼をされ、かつこれを承諾するということになると考えられます。
  53. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 その請託の内容でありますが、これもちょっと御説明があったかと思いますけれども、抽象的な内容でいいものか、具体的でなければならぬか、そうして、その程度がどの程度のものか。たとえば、警察官に対して、どうぞ何ぶんともよろしくというような抽象的のことでいいか、何をどうしてくれろという具体的なものでなければならぬか、その抽象的と具体的という概念、むずかしいでしょうが、どの程度が具体的で、どの程度が抽象的になりましょうか。私はこういうことを具体的の事例についてお尋ねしたいと思ったのでありますが、ばく然たることになるかもしれませんが、第一、具体的でなければならぬかどうか、具体的とすればどの程度のことになるのであるか、その点をお尋ねいたしたいと思います。
  54. 竹内壽平

    竹内政府委員 抽象的に何分よろしくというようなものは請託に入らないと考えておりまして、ある事項について特定をする必要が、具体的になる必要があると考えるのでございますが、その具体的の程度につきましては、一例をあげて申しますれば、税金をまけてもらいたいんだということになりまして、それは法人税であるか個人の所得税であるかというような点の区別までもはっきりと言わなければならぬというふうには考えておりませんが、要するに、税金をまけてもらいたいんだという、税金というふうに具体化してこなければならない、かように考えております。
  55. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 たとえば、税務署へ行って、よろしくお頼みします、——税金の税の字も言わない。これは一体あなたの説明ではどういうことになりますか。
  56. 竹内壽平

    竹内政府委員 頼む人とあっせんをする人との間のことでございまして、頼まれた人が税務署員でございますれば、これは単純収賄になるのでございます。
  57. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そこでお尋ねすることは、この請託は、暗黙の意思表示で請託ができるのか、明示の意思表示がなければならぬのか、それとの関連があると思います。立案者はどうお考えになりますか。
  58. 竹内壽平

    竹内政府委員 これは、明示の請託である場合が普通でございますが、暗黙の意思表示による請託の場合をも含むと解釈いたしております。
  59. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そこで、長らく税務官吏をやっておった、あるいは大蔵省の国税局長をやっておったとか、そういう人のところへ行って、よろしく頼むというふうに頼んできた。これは、依頼者はその人が税務署ににらみがきくということがよくわかっておる。そうしてまた、その人は衆議院なり参議院の大蔵委員とか何とかやっている。そこで、とにかく頼みますというようなことを言ってきた。税金の税の字も出さぬけれども、頼まれる方も、税金のことだと思って、さっそく税務署へかけ合ってやったというような場合は、明示の税金の税の字も出さぬのですよ。これは明示の依頼になるのか、黙示の請託になるんですか、どっちになるんですか。
  60. 竹内壽平

    竹内政府委員 税金の税の字も出さなかった場合も直ちに黙示の請託になるかどうかということでございますが、今御設例のような場合の、大蔵委員をしている国会議員に対して、もとその方が税務に明るい方である、その人のところへ行って、税の字も言わないで、ただ頼みますというだけでは、いまだもって請託ありということは言えないと思います。しかし、税の字を出さなくても、話の中に自然と税金をまけてもらいたいんだということが推認されるような何らかの話があって、受けた方も、これは税務署へ行かなければならぬことだというような関係がそこで事実関係においてわかってくるような事情のもとにおいての話でありますならば、そのような場合には黙示の意思表示による請託だ、かように解し得ると思うのであります。
  61. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、黙示の請託まで認めるとなりますと、非常に立証の困難な問題が起ってくると思うのです。理屈としては、机上の議論としては成り立ちますけれども、そこに非常にむずかしい問題が起ってくる。大体請託というものを成立要件にしたことに対して私どもは非常に疑問があるのでありますが、この請託があったかなかったかということは非常に立証が困難なのじゃなかろうか。ことに、悪性にして計画的なる者の間においては、もう法律の裏をくぐることを初めから考えて、問題になったときはこう言おうというふうに口うらを合せておったなら、請託があったかなかったかというようなことは立証ができなくなります。現刑法におきましても加重罪としていわゆる受託収賄というものが規定されておるのでありますけれども、実際、最高裁判所の統計を見ますると、その数が実に少い。昭和二十三年には、単純収賄の人数が四百四十人あったのに、受託収賄は三十一人しかありません。みなその比率である。最近の昭和三十一年には、単純収賄が二百五十九人であるのに、受託収賄が五十六人しかない。とにかく、昭和二十三年から昭和三十一年までの九年間におきまして、単純収賄は四千十一人あったのに、受託収賄は六百五十二人しかない。こういう統計が出ている。これに対しまして、学者は、これは受託収賄が少いという意味ではないのであって、この立証が非常に困難なために、請託を受けたかどうかというようなことを抜かして、単純収賄として起訴しているのが多いためであるというふうに論評を下しておるのであります。私ども、これが実際だと思う。ですから、政府が、何年間に、たとえば第三者供賄にしても何件しかないという統計を出されますが、これは必ずしもそれだから数が少いとは言えないのです。単純収賄と受託収賄というものがある場合において、しかも加重罪でなくて犯罪の成立要件に請託を受けるという言葉を入れたといたしますならば、これは非常に立証が困難になって、まず起訴の起案ができない場合が多々あるのじゃなかろうか。ことに、最も憂うることは、法律をよく知っておって、そしてあらかじめそれをくぐる用意をしておった人間は、みな免れてしまうし、そうでない人間はひっかかる。請託なんかしないということにしようじゃないかというふうに申し合せをやっておって、頼まれたのじゃないけれどもやってやったんだ、いや頼んだ覚えはございませんと、口うらを合せたら、犯罪は成立しないのです。これは証拠を必要とするわけであります。請託関係の証拠を必要とする。その証拠がとても困難になると思います。この統計に表われておる。これに対してどういうふうにお考えになりますか。
  62. 竹内壽平

    竹内政府委員 請託という構成要件をつけましたために、挙証上非常な困難を伴うのではないか、従ってこの意味から運用の幅が狭くなるという御意見のように伺ったのでございますが、なるほど、ただいまお読み上げになりました統計表を見ますると、二十三年から三十一年までの九ヵ年間の合計におきまして、単純収賄が四千十一名に対して、受託収賄が六百五十二名ということに数字はなっております。  この問題につきましていろいろな角度からお答えを申し上げなければならぬと思いますが、まず、この「請託ヲ受ケ」ということが一つのしぼりになりますことは御指摘の通りでございますが、しかし、私どもとしましては、このしぼりが、ただいまお言葉にありましたように非常に強いしぼりであるかどうかという点につきましては、そのようには考えておらないのでございます。  その理由を申し上げますと、まず統計でございますけれども第三者供賄とか、あるいは枉法収賄とかいうものにつきましては、私はかなり事実のままの数字が出ておると思うのでございますが、単純収賄か受託収賄かということにつきましては、受託収賄の今の規定は加重要件になっておるのでございまして、当該事件について量刑をいたします上において、受託収賄としなくても単純収賄でまかなえるという場合には、若干の証拠上の制限を受けますので、むしろ単純収賄起訴して裁判を受けようという場合が多々ありますことは、暴力事犯について常習性でなくて単純の窃盗で起訴してその判決を受けるという場合が多々ありますのと同様でございます。これは運用の実務に照らしましてさように申し上げるのでございまして、ここに表われておる四千と六百五十という数字は、必ずしも受託収賄の実数を表わしておるものではないというふうに今考えておるものでございます。  さらに、請託ということが挙証上非常に困難だという学者の意見だということでございますが、御案内の通りわいろ罪わいろということは、職務に関する行為の対価としてもらう不法の利益でございます。そこで、代償としてもらうという対価関係に立つということが立証上非常にむずかしいのでございまして、それがありませんために職務に関した行為ではないというふうに判断される場合があるのでございます。先生もよく御承知のことでございますけれども、現実の裁判におきまして問題になりますのは、職務に関するかどうかということが非常に問題になるわけで、職務に関するかどうかを検事が立証いたします場合に、請託があってある事項特定し、その事項のために動き、あるいは処置がとられる、そのお礼として出されるんだという、この微妙なる関係を立証しなければならないのでございまして、一般に、収賄罪を論じます場合に、起訴状の表面にこそ、請託を受けという言葉を他人の請託を受けというふうには書かない場合が多いのでございますけれども、立証段階においては、ほとんどすべての事件について請託内容を立証いたしておるのでございます。ことに、このあっせん収賄の場合におきましては、単純収賄の場合と異なりまして、他人の依頼を受けて動き出すという、つまりあっせん請託という関係を伴うのが通常の形でございます。ことに、自己に関することでありませんので、その頼まれたことがどういうふうな不正な行為として働きかけていくかという点を特定いたしますためにも、この請託事項がはっきりしているということが、事柄の運用解釈において明確になるというふうに考えたのでございまして、この点は、法制審議会におきましても、裁判所側を代表する委員の方々から、この「請託ヲ受ケ」という言葉はぜひ要るんだ、こういたさなければ裁判はもう何が何だかわけがわからぬようになってしまうのだ、そうして事項特定して、焦点をしぼって判断をしていくのが適切であるという意見を強く述べられたのも、またいずれ会議録をお手元に差し上げたいと思っておりますが、出ておるのでございます。そういうわけで、なるほどしぼられてはございますけれども、ただいま御批判のありましたような強いしぼりにはなっていないというふうに解釈いたしておるのでございます。
  63. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 大体、社会通念といたしまして、人の請託を受けないで奔走する者はいないと思うのだ。そんな奇特な人間はいませんよ。だから、あっせんをするなら、他の請託があることは、これはもう必至なんです。ただそれを裁判上立証するかしないかの問題だけなんです。だから、いわゆるこの請託が加重罪になっておりますが、その数が非常に少いということは、一体何を意味するかということなんです。加重罪にしておきまして——請託を受けないでやる者はありません。そんなことは常識上考えられない。だれにも頼まれないものを、忙しい人間が奔走する道理はないのです。ですから、これはこんな単純収賄と受託収賄との数が違う道理がない。これはもう明白に、いわゆる立証の困難から来ているということは明らかであります。だから、非常なこれはしぼりになることは、もう事実だと思う。なぜならば、みんなやっておるのです。請託は、ただ、請託しませんというふうに、口うらを合せる者だけが免れるということになる。ですから、悪性の者が免れるということに、私は結果的になると思う。ですから、この統計を見ましても、請託というものは非常なしぼりになってしまう。これは実際やってみればわかってくると思います。私も弁護士ですが、もしひっかかった者があれば、まずこの請託の一点で無罪にする自信がある。これは立証できやしません。みんな請託なんかやっておるのです。ただそれが証拠として出るか出ないかだけの問題なんです。そういう意味において、また、学理的に言いましても、さっきあなたが申しましたように、いわゆるこのあっせん収賄公務員職務上の行為、この連関性というものが、あっせんによって密接になってくる。あっせんという成立要件を入れることによって密接になってくる。これは単純収賄罪の場合には多少議論は出るのでございますが、単純収賄罪の普通の場合には、職務行為のほかに職務行為と密接なる行為までもこれを処罰の対象としておりますがゆえに、そういう請託ということが相当重要性を帯びてくると思うのですが、この政府の原案のように、不正な行為をするとか、なすべき行為をしないとかというふうに限られておるとすれば、請託の有無にかかわらず、この公務員のあっせん行為と、それから職務の不公正ということの連関性というものは、はっきりしておるわけなんだ。だから、ことさらに請託という成立要件を法律上入れる必要がない。これは「ジュリスト」の三月十五日号に内藤君が詳しく学術的に論評しております。これは議論になりますので、私はその程度にとどまりますけれども、政府は、請託という成立要件を置いても、絶対立証は困難でないという確信がおありであるかどうか、それを最後にお聞きいたします。
  64. 竹内壽平

    竹内政府委員 この点につきましては、検察側を代表する法制審議会の委員の方々の御意見も十分聴取したのでございますが、検察運用上さしたる支障がないという御意見でございました。それで、私が先ほどお答え申し上げたことや、今の検察側の代表の意見などを総合すると、そんなに大してしぼりにならないならば、むしろそれじゃ削ったらどうか、つまり、あまりさわりがないという意味において削ってはどうかという御意見がむしろあったくらいでございまして、そういう意見を拝聴いたしますると、検察運用上その点のために特に困るということがないなら、解釈、運用が明確になる要件でございますので、私はこの原案の通りこのような条件を設けて置いた方がいいというふうに考えたのでございまして、この点、御心配の点はごもっともでございますが、まず運用においてさしたる支障はないという検察側の御意見などを私は信頼して参りたいと思っております。
  65. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 実は法制審議会の議事録を刑事局長にお願いいたしましたが、きのう法務省の調査課長に電話したところが、まだ四、五日たたないとできないということですから、一体どういう議論があったか、検事側が何も差しつかえないとどの程度言うたのであるか、私ども一つそれを検討せなければならぬと思いますから、なお刑事局長からも早く会議録を出すように御催促願いたいと思います。  それから、その次に、不正行為あるいは相当の行為をしないということでありますが、もっと具体的にちょっとお尋ねいたしますが、勧業銀行あるいは興銀、開発銀行、政府の監督に属するような特殊銀行、それに対しまして、ある会社のために融資のあっせんを依頼されて、——議員がですよ。そうして融資をしてもらった、それで手数料、報酬をもらった、そのほか勧銀なり興銀が適当な担保を取って融資をするということは、一体不正の行為であるかどうか、これはどうです。
  66. 竹内壽平

    竹内政府委員 融資のあっせんを頼んだ、その融資のあっせんの頼み方の問題もあるいは問題があるかしれませんが、ただいまのお尋ねのような点でございますと、不正な行為のあっせんをしたことにならぬと考えております。
  67. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうしますと、元銀行の相当の役にいた者が、議員になっておる、自分の古巣に行って、ある会社のために特に融資を頼む、そうして相当の融資が出て、それに対する相当のリべートを取った、これは現在非常に行われておることだと思いますが、それは一切これにはひっかからないということになる。しかし、一体、国会議員一定の歳費をもらってやっておるのに、そういう融資のあっせんをして、ひそかにそういう金を取るというようなことは、私は国会議員廉潔性としては許すことができないと思うが、今私が申しましたのは、特にある会社のために融資してくれということを頼んで融資したのであります。そうして一割なり二割なり融資額の手数料を取る。私はこれは百弊のもとだと考えるのでありまして、ことに今日千葉銀行事件、レインボー事件などが起って、あれは興銀や勧誘の関係じゃありませんが、あれにも相当の国会議員がみな活躍しているということが定評であります。私も千葉銀行事件の主任弁護人としてやっておるのでありますから、私はその内容についてはこの委員会では言わないつもりであります。自分の受け持っている事件についてこの委員会で問題にするということは差し控え、言わぬつもりでありますけれども、こういう国家の管理に属する銀行に働きかけ、そうして融資をさせる場合、一体どの程度が不正ということになるか。たとえば、一億円の融資に対して担保が五千万円しかなかったという場合には、それは不正であるか不正じゃないのか。実は一億円あると思っていたら五千万円くらいの時価にしかならなかった、担保にちょっと足りないと思うけれども、まああの人に頼まれたから融資をしてやるというふうに勧銀なり興銀が融資をした。それに対してあっせんした人が金を取る。そこで、一体、これが不正じゃない、——どの程度になれば不正になるのですか。あなた方の考え方は、担保が十分あればいいということになるのか。あるいはまた、たくさん融資の希望者があるにかかわらず、担保が十分であったとしても、優先的に甲なら甲の会社に融資するということが不正じゃないのか。銀行融資がどの程度になれば不正になり、どの程度は合法的なんですか。これをもっと具体的に一言っていただかぬと、相当やっていることです。銀行融資は銀行が自由裁量でやることであるから、どんなことをしても不正にならないという見解であるか、あるいは担保か何かが非常に価値が少いならそれは不正の融資ということになるのであるか。どの程度になれば、このあなた方の原案の不正行為ということになるのであるか。そういうわれわれが取り締らねばならぬと思われるような行為はみんな「不正行為」というところで逃げてしまう。どの程度が不正行為と言えますか。銀行融資の例をとって御説明願いたい。
  68. 竹内壽平

    竹内政府委員 非常にむずかしい御質問で、一言にしてお答えしにくいのでございますが、不正の行為をなしという判例の趣旨を体しまして考えますと、融資をいたします銀行の役職員、これは公務員とみなすという規定のある役職員でなければなりませんが、みなされた公務員である銀行の役職員が、その職務上の義務に違背して融資をするという関係が具体的に認められなければ、ここにいわゆる不正の行為をするということには当らないと思うのでございまして、それでは、その職務上の義務に違反するような融資とは何であるかということになりますると、この銀行業務ということの内容は私も詳しくはいたしませんが、とにかく、対人的な強い信用、それから物的な信用、そういうものを総合して、融資をするかどうかということをきめるのでありましょうし、そういうことにつきましては銀行内部にあるいはそういう公的な銀行でありますれば何らかの法を根拠とした銀行業務運用の内規のようなものが存在するに違いないと思うのでございまして、そういう内規に違背いたしまして、しかも社会通念上そのような業務運営が役職員の職務に違背するというふうに認められします場合には不正の行為をさせというあの不正の行為に当るのではないかというふうに考えるのでございますが、まことに抽象的な解説になりますけれども、一応さように考えておるのでございます。
  69. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 戦時中、一般の市中銀行の銀行員も公務員に準ずるという規定があったかと思うのですが、現在どうなっておりますか。勧銀や興銀、開発銀行などというのは、特別の法律で銀行員は公務員になっておりますが、一般の市中銀行も公務員に準ずるというふうな規定があったと思うのですが、戦後廃止されたかどうか、もし御研究できておりましたらお知らせ願いたい。
  70. 竹内壽平

    竹内政府委員 市中銀行につきましては公務員規定がないようでございまして、ここにー応調査したものがございますが、列挙して申し上げてみまし上う。  法令により公務員とみなされる規定のあるものでございますが、まず第一は「法令により公務に従事する職員とみなす」という規定のあります法律をあげてみますと、日本専売公社法、日本国有鉄道法、日本銀行法、弁護士法、さらに刑事訴訟法二百六十八条の三項の規定でございます。  それから、第二は、「罰則の適用については法令により公務に従事する職員とみなす」という規定のありますものでございますが、それを幾つかの類型に分けて申しますと、まず、公庫の形態を持っておりますものとしましては、北海道東北開発公庫法、中小企業金融公庫法、住宅金融公庫法、国民金融公庫法、農林漁業金融公庫法、公営企業金融公庫法でございます。次に、営団、公団の形態を備えておるものでございまして、帝都高速度交通営団法、日本道路公団法、森林開発公団法、農地開発機械公団法、愛知用水公団法、日本住宅公団法でございます。次に、第三の形として、公社の形態を備えておりますものは、日本電信電話公社法、原子燃料公社法、この二つでございます。それから、第四の形として、その他でございますが、日本原子力研究所法、日本輸出入銀行法、日本開発銀行法、外国為替及び外国貿易管理法第六十九条の規定、輸出検査法、日本育英会法、私立学校振興会法、社会福祉事業振興会法、日本学校給食会法、経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律の第一条の関係、港湾法、これだけでございます。
  71. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 お手数でもそれを一つプリントにして参考資料として委員会にお出し願いたいと思います。  なお、抽象的になりますけれども、結局行政官吏の自由裁量に属する処分というものは大体において不正行為にならぬのじゃないですか。
  72. 竹内壽平

    竹内政府委員 大体において不正行為にならないと考えます。
  73. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そういたしますと、不正行為あるいは相当の行為をしないということは限られた非常に特殊な場合である。私はこれは背任罪として追及できるようなほとんど特殊の場合に限られてしまうような気がする。そうすると、請託を受けて官庁に働きかけ、ある行政行為をさせてお礼をたんまりもらっても、ことごとくこれは自由裁量の範囲でやったんだということになれば、何らあっせん収賄罪にならぬということになりまして、大半のものは成立しないと私は思うのですが、あなた方の見込みはどうですか。
  74. 竹内壽平

    竹内政府委員 背任罪になるような場合だけになるのではないかという御疑念でございますが、先ほども申しましたように、背任罪には一定の構成要件がありまして、不正の行為の方はそれよりははるかに範囲の広いものでございまして、職務権限を有する公務員職務上の義務に違背する行為は不正行為と解せられるのでありますから、その不正な行為の中のさらに背任の構成要件を満たす場合だけが背任罪になるのでありまして、背任罪になるような場合だけが不正行為だというふうには私どもは解しておらないのでございます。
  75. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それは、背任罪の構成要件とあっせん収賄罪の構成要件は違いますから、当然のことでありますけれども、要するに、ここに不正行為とされているものの大部分は、ある何かの、たとえば国に損害をかけ、あるいは第三者利益を与えたというようなことさえあるならば全部背任罪になるような場合だけにほとんど限られるのじゃないかと私は思う。大半の場合においては、これは全部自由裁量に基く処分行為ということになってしまって、これは非常なしぼりじゃないかと私ども考えております。  そこで、今、「斡旋収賄罪の規定がないため処分しえなかった事例」としてこ法務省の刑事局から出されておるものがあるのですが、今のような御解釈だというと、この事案の中でひっかかるものは幾つもないと思うのです。たとえば、これはたくさんありますので、一々申し上げませんが、(七)、Q県秘書課長をめぐる事件、こういうものがある。Q県の知事の秘書課長に対して土木業者が金をやった。そうしてQ県が施行しておる総合開発事業のダム工事に入札をさせてもらいたいということで五十万円を二回もやっておる。しかし相当の資格のある業者が入札に参加する。そこで、入札をさせてくれといって、この秘書が知事に願って、そのためにこの人が入札に参加した。あるいは最低価格を教えたとなればそれは問題でありましょうが、ただ土建屋さんが入札に参加したというだけなら、これは不正行為でも何でもない。そうすると、この政府提案の法案が成立したとしても、この(七)のQ県の秘書課長を処罰することはできないのじゃないですか。これは事案が簡単であってあれですけれども、結局、県知事の秘書課長に対して百万円も金をやって、その競争入札の指名者の中に入れてもらいたいということがあって、そしてその秘書課長が知事にたのんで競争入札の指名に加えてもらった、それだけのことで、これは一体あっせん収賄罪になりますか。この(七)のQ県秘書課長をめぐる事件、皆さんはあっせん収賄罪規定がないために処分し得なかった事例として出しましたけれども、これは処罰できないじゃないですか。私の聞かんとすることは、これは政治家もよくやることなのですが、入札者というのはだれだれときまっている。その競争入札者の中、にだれだれを一つ入れてくれということをよく頼む。そのこと自身は一体不正行為でありますか、ありませんか。不正行為でないとすれば、それじゃ取り締まれない。これはどうなりますか。
  76. 竹内壽平

    竹内政府委員 お答えを申し上げます前に、この資料について御説明申し上げなければならぬと思うのでございます。これは、「斡旋収賄罪の規定がないため処分しえなかった事例」と、こう表題に書いてございますが、今度のあっせん収賄ならば起訴できるという事例として掲げたのではないのでございまして、当時、あっせん収賄という、形はいかなる形の法案といたしましても、そういうものがないために処理上困った事例として報告を求め、あるいは私どもが資料をあさった結果出したものの中から、現実に比較的なまでないものを選んだものの一つでございまして、まず(七)について申し上げますならば、私も全く同感でございまして、これは政府提案のあっせん収賄罪によっては処分できない案件だと考えております。
  77. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これはあげた事案はたくさんあるのですが、時間がありませんから省略いたしますが、もう一つお聞きすることは、あっせん行為の具体的実例ですが、これは昭和電工事件でもあったことです。公務員が名刺に紹介状を書いてやる。たとえば、国の支払い代金を促進するようにその係の人間に名刺を書いて渡す。それを持っていって面会を求めて、その職務を持っておる人に陳情して、早く支払いを受けた。その名刺を書いてやるという行為はあっせん行為になるのですか、ならぬのですか。
  78. 竹内壽平

    竹内政府委員 名刺を書いて渡すということは、通常は単なる紹介でございまして、それにプラスして何がしかの行為を伴いません限り、あっせんと見ることはできないというふうに解釈をいたしております。
  79. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そういたしますと、やはり「斡旋収賄罪の規定がないため処分しえなかった事例」としてここへあげられておる、元農林大臣がある製粉会社の社長の依願に応じて「だれだれ君を紹介申上候よろしく願上候」という文句を書いて、ある食糧事務所長あてに出した。それから、なお、復興金融公庫の融資部長に対して、やはり何とか融資方のあっせんを紹介をした。そうして謝礼をもらった。この復金事件と称して、いの一番に出ておりますこれは、このあっせん収賄罪ができたら対象になりますか。
  80. 竹内壽平

    竹内政府委員 これは非常に問題で、むしろ消極に近いと私は考えておりますが、これをいの一番に掲げましたのは、「法曹時報」の三十二年六月号、九巻六号でございますが、これは最高裁の調査官が、この判決はいわゆるあっせん収賄のような場合と見たものであろうというふうに紹介をいたしておりますのと、さらにまた、「自由と正義」の八巻十二号に、この法律がやはりあっせん収賄の場合の一つ事例として紹介をしておりますので掲げたのでございますが、この中に、なるほど、私の答えましたことと——「H君を紹介申上候よろしく願上候」という名刺でございますので、この意味から申しますとあっせんにはならないのでございますが、認定した事実はそうでございますが、この関係事件は、最高裁判所判例集の第十一巻第三号に、これは三十二年三月分を登載したのでございますが、これに相当大部分の非常に長い判決が出ております。これだけの部分が全部その一つ判決でございますが、その中の事実のところに、この名刺を一枚交付したけれども、その前に頼みに行ったところが、自分としてはどうも配慮するわけにはいかぬが、上の方から話が来れば何とかなるというようなことを言われたので、その依願者が本件の被告人のところへ頼みに行く、その被告人が係の者に対して電話でいろいろ話をしておいた、そうして他方においてはこの名刺一枚を交付して、その名刺を持って行った、こういう裏の一つの推進した事実があることは、この判決の千二百四十七ページのところに書いてございます。こういう推進の仕方がこの裏にあります。なお、この千二百四十八ページのところには、あっせんをすることにつき難色を示していたが、副申書があればというようなこともあったようでありますが、こういったような事実関係を背景にいたしまして見ますると、紹介名刺一枚を交付したという行為があるいはあっせんというふうに認めてもいいのではないかというふうには考えますが、この事案全体が今回の政府案のにぴたりと当てはまるということにつきましては、私も全く同じ疑問を持っておる一人でございます。
  81. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、念を押しておきますが、たとえば国会議員が名刺に、本人を紹介する、本人の言うことをよく聞いて善処せられたいというような紹介状を書いてやっても、それだけではいわゆるあっせん収賄罪のあっせんにならぬという御見解であるか、文句によってはなるのですか。たとえば、だれだれを紹介する、この人の陳情をよく聞いてその願意を届けるようにしてくれいというて、上役の者が第一線に働いている課長、そういう者のところに名刺を持たしてやる。そうしてそれが聞き届けられて、正当行為か不法行為かは第二として、そして金をその偉い人がもらった。この名刺一枚というものが、きのうあなたがおっしゃったように相当の威力がある。だから、ある人は名刺一枚何千円で渡しておるんだということを言う人がある。僕らみたいな陣笠では三文の値打もありませんが、相当の人の名刺というものは、ことに現職にある大臣なんていうものの名刺は非常に偉力がある。ですから、名刺を一枚書いて幾ら取というようなうわさも聞いておるが、これはもう商売なんだ。お札を持っているようなものだ。そういうものはちっとも取り締れないということになると、あっせん収賄罪でござる、汚職追放でござるといって大上段に振りかぶっても、ひっかかるものはざこばかりじゃないか。どう一体押えるのですか。そういう名刺で、電話をかけたりなんかしなくても、政界の相当の実力がある人が、名刺をもって、この男の話をよく聞いてくれということになったら、それはきき目があるのです。それによって自由裁量に基きやったといたしましても、それが実現してお礼を持ってくる。今の政界の大御所なんかは、みなそれをやっておると思う。それで子分を養成して、何々派といっていばっておる。これが根源ですよ。それをあなた取り締れぬで、何のあっせん収賄の罰則ですか。  そうすると、なお念のために聞きますが、名刺へどんなことを書いてやっても、名刺を持たしてやっただけでは、あっせんにならぬのですか。
  82. 竹内壽平

    竹内政府委員 紹介の名刺ですが、その紹介の文言がいかような文言でございましょうとも、名刺を交付する行為は、これは、ある判決によりますと、陳情の糸口を示しただけでありまして、いまだもってあっせんというわけには参らないのでございます。その名刺がいかように威力を持ち、いかように価値がありましょうとも、いまだあっせんということになりません以上は、これは政府案ばかりではなく社会党の出しております案によりましても、あっせん収賄罪は成立しないということになっております。
  83. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 社会党の案は何ですよ、社会党は請託なんていうことは言っておらぬし、不正行為なんていうものもない。  そうすると、とにかく、政界の汚職、混濁を救おうとしてこの案を出した。そうして、その病弊はどこにあるか、各党における派閥闘争は何で起るか。みな親分というものがあって、親分はどうして親分になるのか。金をくれるのです。その金はどっから出るか。名刺から出てくるんだ。名刺をやっちゃ金を吸い上げておる。そういうことを処罰できないとなるならば、政界の粛正なんていうことはできないと思う。  いわんや、不正行為をしなければ、ならぬ。そうすると、このあなた、方の事案のもう一つ、(六)、前国会議員をめぐる事件、これは前国会議員で、元どっかの局長であった。そうして昭和二十五年以来、衆参両院どちらか知らぬけれども、どっちかの議員になっておる。しかもその院のある委員長の職にあった。その人間が国税局の部長に対して、ある会社の含み資産約十億円に対する法人税の課税並びにその脱税容疑の調査等について好意ある取扱いをしてくれということをあっせんした。これは不正をやったのかやらぬのか書いてないからわからぬのですが、その謝礼として三百三十万円もらったけれども、これはあっせん収賄罪がないから処罰できない、こうなっておる。しかし、この事案は、これは国税局の部長らが法人税の課税並びに脱税容疑の調査等について好意ある取扱いをした。どの程度やったかわりませんが、一体不正の行為となるならばどこまでが不正の行為になるのか。好意ある取扱いというのだからよくわからぬ。一体実際どういうことをしたのですか。三百三十万円も取っておる。  なお、ついでにお聞きしますが、私ども知っている人でも非常に税に詳しい国会の議員さんがある。税務事務所をお持ちになっておる。そうして各会社の税について青色申告をしたり何かやるとともに、税務署に働きかけて、まけさせてやるとは言わないが、とり過ぎているのを適正にしてやる。そうして適正になった。向うが一千万円と吹っかけてきたのを、とり過ぎるといって、それを五百万円にしてやった。この方が適正である、そうして五百万円の差額の何割かを報酬として取って、相当金もうけしている人を私は知っておりますが、しかし、一体一千万円の課税そのものが無理で五百万円が適正であるとするならば、五百万円にしてやったことは不正ではないわけです。そうすると、ごっそり報酬を取っている、これは別にこれにひっかからぬと思うのですが、そこで、この不正行為ということが非常に問題なのです。どういうことが一体不正行為なのか。それと、その働きかけられた公務員もひっかかりますから、あっせん者と、その働きかけられた公務員と口うらを合せて、いやこれは自由裁量の範囲で何も間違ったことはありません、一千万円というのはちっとかけ過ぎたので、五百万円という証拠をそろえてこられれば五百万円が適当であったのでございますということになれば、不正行為でも何でもない。そうすると、税金をまけさせて手数料を取ってやるということもこれにはひっかからぬと思うのですが、これはどういう御見解でありますか。
  84. 竹内壽平

    竹内政府委員 二つお尋ねがあったと思うのでございますが、最初の資料の事例の(六)の点でございますが、脱税容疑の調査等について好意ある取扱いを願いたい、こういうことでございまして、私どもの方では、脱税容疑の調査等について好意ある取扱いの内容を、これは立件もされてない事件のようでございますし、内容を存じないのでございますが、これはどうも相当な行為をさせないことに該当する事案ではなかろうか、もし政府案のようなあっせん収賄罪がありますならば、当然検察官はその点についてもっと詳細な取調べをしたであろうし、その結果によっては本罪に該当するという場合があるのではなかろうかと思うのでございますが、これだけでは何とも申し上げかねるのでございます。  それから、第二の、税金をまけてもろう点でございますが、適正にするという言葉は、どのように適正なというお言葉をお使いになりましても、税をまけるということが税務官吏としての義務に違背するような形において税をまけるということでありますならば、これは不正な行為、その場合にはやはり不正の行為の裏の相当な行為をなさざる、とるべきものをとらないというわけでありますから、相当の行為をなさざる場合に該当するのではないかと思うのであります。ただ税をまけるまけると世間で一口に申しますけれども、税率は法律できまっておる。それを課けます対象となる事実については、これは法律利益とみなさない部分もあるわけでありまして、その認定についてはいろいろ自由裁量の範囲がなおその中にはあるのではなかろうかと思います。税務行政のことは詳しく知りませんが、一がいに税をまけてもらったということでもって、直ちに不正呼ばわりはできないと思いますけれども、そういう事案につきましては相当この法律に該当するおそれのある事項だと考えるのでございます。
  85. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 検事なんか税法のような特殊な知識は乏しい。相手は税金の第一線に立っておる税務官吏である。それとあっせん者なんですから、この二人が口うらを合せれば、適法の行為とみなされてしまうのです。だから、不正の行為とか、相当の行為をしなかったとかいうことは、大半のものは免れてしまう。私どもにはその心配がある。これは、あなたの理屈として、適正でなければ不法だ、これは当然のことですが、不法という認定、不法という立証は実に困難だと思うのです。専門家同士が口うらを合せれば、そうでないということの立証は困難です。一千万円とるのが適当であるか、五百万円が適当であるかということは税務官吏でないとわかりません。ですから、一千万円を、その人の名刺によって、その尽力によって五百万円にした事実があったとしても、その五百万円にしたことが、いや、それが適正であったのだと言えば、なかなか立証は困難です。これは具体的な問題としてとても検事はやれないと思います。  それから、たとえば名勝の地区として北海道に阿寒公園というのがありますが、あそこに硫黄が出る。しかし、公園地区であったためにだれにも採掘を許さなかった、ところが、ある会社に採掘権を許した、それは相当の名士が働きかけて申請をやった、——公園地区でもそういう硫黄が出るならば採掘を許すということは、やはりこれは自由裁量だと思う。そうすれば、何人にも許さなかった公園地区であったが、ある政界の有力な人が動いたためにある特殊の会社だけが採掘を許された、そのために相当に働いた人は金をしこたま手に入れたというような事案があったといたしましても、これは具体的でないのでわかりませんが、公園であるために一般に採掘を許さないのに特殊の会社だけに許すということが自由裁量ということになれば、これもやはりあっせん収賄罪にひっかからないと思いますが、どうですか。
  86. 竹内壽平

    竹内政府委員 採掘を許すかどうかということの権限を持っておる官庁がどういう官庁でありますか、事実をつまびらかにいたしませんのでお答えしにくいのでございますが、これは一般的に申しましたら該当しないのではないかというふうに考えます。
  87. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私は一時から私の委員会を招集しておるものですから、私はこれでやめます。
  88. 三田村武夫

    ○三田村委員 ちょっと関連して……。  ただいま猪俣委員質疑に対する竹内刑事局長答弁の中で、一つ浮んできた問題があるのです。これは他の委員からの御質疑があったかと思いますが、先ほど猪俣委員設例された、かつて国税庁の某高官をしておった人で、その後国会議員になって、元議員という名称がついております。そういたしますと、この本法案公務員には該当しないのです。元高官であり元議員は公務員には該当しない。私は、前々から、あっせん収賄罪の問題を考えるたびごとに、いつも頭の中にこびりついておるものは、いわゆる官庁ブローカーの問題です。農林省をやめた元官吏あるいは通産省をやめた元官吏、大蔵省、国税庁をやめた元官吏、そういう人は現在すでに役人をやめておりますから公務員ではございません。そういう人があっせんし、当、不当の問題は別にいたしまして、その職務を行う当該公務員に対して相当強力な発言をしておることは事実だと思うのです。いわゆる官庁ブローカー。私はある友人から聞いたのですが、これは具体的に役所の名前をあげていいかどうかわかりませんが、某省の四階は魔の廊下だという言葉を使っております。行くと、かつてそこで働いておった下の方の役人から課長クラスといった連中が一ぱい役所に来ている。そうして、ドアをノックして局長を呼び出す、課長を呼び出す、実に目に余ることをやっているというのです。ここで公務員に関するあっせん収賄罪規定ができまして、政界・官界浄化のために、私は少くとも一歩前進するということを信じておるのであります。ところが、その反面に、いわゆる官庁ブローカーなるものの横行が、よりますますたくましゅうなるということがあるならば、私は非常に重要な問題だと思う。いわゆる官庁ブローカーのあっせん行為というものは、なかなか法律には書けません。書きにくい問題でありますが、放任していい問題でもないのであります。より端的に申しますと、いいことをやったか悪いことをやったか知らぬが、今度あっせん収賄罪という規定ができて、現職の役人や現職の議員に頼むのはあぶない、それよりもむしろ元役所におった人で顔のきく人に頼んで仕事をさせてもらうという方向にそれていくならば、おそらく私は立法の目的が非常に阻害されるという気がするのです。法務大臣もここにおられますが、たとえば警視庁あたりの問題でも、つかまって警視庁に留置されておる、議員に頼むよりも、警視庁の元捜査課長とか刑事部長とか、警視庁に長くおった人に頼む方が話がしやすいというふうな雰囲気も必ずしもなきにしもあらずなんです。そういう問題をどう処置するか。これは私は相当大きな問題であろうと思います。これは私は直ちに答弁を求めようとするのではありませんが、そういう点についての、何か、あっせん収賄罪の成立施行と同時に、公務員ならざる、いわゆる官庁ブローカー、お役所に顔のきくボス、そういう者に対する対策をお考えになっておりますか。この際御所見を伺っておきたいのでございます。
  89. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいま御指摘の官庁ブローカーのあっせん収賄行為につきましては、私も相当の弊害があるということを承わっております。このあっせん収賄に関する条文の立案に当りましても、しばしばその問題が論議研究の対象となったのでありますが、他の場合にも申し上げました通り、とりあえずあっせん収賄に関する規定はこれだけにとどめるということになりましたけれども、しかし、ある意味においては現職の公務員以上にインフルエンスを持っているような官庁ブローカーもある、それによる弊害というものも相当大きいということが認められまするので、何とかそれについていずれ研究をして立案しなければならない。ただ、先ほどお言葉にもありました通り、これは実に立法技術上むずかしい問題でございまして、広く、何人といえどもと、こういうことになると、またこれは弊害がありますし、われわれ、官庁ブローカーといえば、大体お互いに一つの概念を持つのでございますけれども、さてそれを法律用語として、しかも処罰の対象たる身分とするのでございますから、非常に立法技術上もむずかしいようでございます。しかし、その弊害は相当あるようでございますから、この立案に当りましても研究をいたしましたし、将来これが法律になりまして運用をいたしましたその運用の成績にかんがみまして、これは研究を続けていかなければならぬ問題であると考えております。
  90. 三田村武夫

    ○三田村委員 ただいま大臣の御答弁、私、了承いたしますが、これはどこかにあったような気がいたしますが、ちょうど占領中に追放された被追放者、それは追放前に所属しておった役所に出入りしてはいけない、こういう政令で禁止があった。これと同じような一つの制約がいるのではないか。たとえば、大蔵省に勤めておった役人、農林省に勤めておった役人、これはある一定の期間中、相当の影響力を持っておるであろうと思われる期間中は、その役所の役人の職務に干渉し、ちょっかいを出してはいけないのだというような、出入り禁止までは社交上どうかと思いますが、そういうようなことは私は必ずしも不可能でないと思うのです。他の国の立法例にもあるようでございますが、あわせて御研究願いたいということを申し上げまして私の発言を終ります。
  91. 町村金五

    町村委員長 菊地養之輔君。     〔委員長退席、高橋(禎)委員長代理着席〕
  92. 菊地養之輔

    ○菊地委員 だいぶ時間もおそくなりましたし、本会議も迫ったようでございますから、簡単にお聞きをいたします。  第一に、第三者供賄の問題をお伺いしたいのでございますが、これは、大臣も局長も、従来第三者供賄で処罰されたものが四人であるとか、数が非常に少いことを強調されておるようでございますが、その点はもっと深く掘り下げて考えていただきたいと思うのであります。なぜ一体第三者供賄者が少いかというのは、これは法律規定があるからで、刑法にちゃんと規定があるからこれは少いのです。いわゆる本人が受け取ろうと第三者に供賄しようと同じなんで、結局同じ罪になるならば、本人が受け取るのは当然過ぎることでございます。そこに第三者供賄罪というものが非常に少かった。ところが、今度のあっせん収賄罪のように第三者供賄を除外したらどうなるかと思うのです。その点に一つ深い思いを私はいたしていただきたいと思います。いろいろな請託であるとか不正行為であるとか、相当の行為をなさるとかいう事例はございますけれども、そのほかに、第三者に供賄しても犯罪にならないという大きな穴があるということは、これはだいぶ問題になるのではないかと私は思うのであります。ところが、そこに大臣も局長も少しも思いをいたしておらない。第三者供賄罪は従来においてはきわめて少いのだとおっしゃっておられる。しかしながら、それを抜かしておったらどうなるか。これは法律規定があったから四件で済んだのであります。法律になかったならば、ここに殺倒することは必至だと思うのでございます。一つの口から追い出してやって大きな逃げ口を作っておくようなものではないかと私は考えざるを得ないのであります。従って、いわゆる第三者供賄規定あっせん収賄罪から抜いておくと、すべての犯罪はここに殺致する、そこから逃げ出す、こういう結果になりはしないかと思う。一方でこれを禁じておいて、一方でこれを許しておくという結果になりはしないか。本件のごときはいわゆる知能犯であって、そういうところを十分に理解しておるやつが行う犯罪であることは言うまでもございません。あっせん収賄罪の要件ができておる、しかしながら逃げ道がある、これは報酬第三者にやればいいのだ、こうなると、すべての犯罪者が思いをこらしてそこへ行くことは必然だと思うのでございます。こういう点に対して十分なる御考慮を払っておられるかどうか。今までの御答弁を聞きますと、その点に思いをはせないで、少いのだ少いのだ、わずかに四件しかなかったのだという点に重点を置かれておるようでありますが、その点に思いをはせられてお考えになっておるのかということをお聞きしたいのでございます。
  93. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいまのお尋ね、まことにごもっともと存じます。今日の収賄罪におきましても、第三者供賄規定を伴っております。それが昭和十六年に加えられまして、それ以来十数年の間この条文によって起訴された者がたった四件だからこの規定は要らない、こういうことだけを申し上げておるのではないのでございまして、その前にさかのぼりまして、御承知のように、今日の刑法法典は明治四十年の制定にかかるのでございます。この刑法法典が施行されました当時から、もちろん収賄罪に関する規定はあったのでございまするが、第三者供賄規定がないまま昭和十六年まで経過いたしておるのでございます。その当時におきまして、収賄をすれば罪になるが、形を変えて第三者に取らせれば罪にならない、こういう形になっておったのでございまするから、第三者供賄が盛んに行われて、直ちに第三者供賄に関する規定ができそうなものと私どもも想像するのでございまするが、実際問題といたしましては、それ以来三十数年を第三者供賄に関する規定を伴わないまま収賄罪の規定が施行されて参ったのでございます。その果てに、ただいま御指摘のありましたように、自分さえ取らなければ、実質的に自分の身内の者に取らせても罪にならない、こういうことでそういう犯罪のケースが現われたのでございましょう。そこで、第三者供賄に関する規定が必要だという議論が出て、そうしてこの規定が加えられたわけでございまして、この規定があるからこの適用を受ける者が四件きりないのだ、この規定がなければそういうケースは幾らでもあるという御意見は、ほんとうにその通りと思うのでございます。ただ、昭和十六年制定以来四件きりないから実効がない、こう申すのではなくて、それ以前の三十数年の経験に照らしまして、収賄罪に関する規定第三者供賄に関する規定が伴わないまま、ともかく三十数年の間施行されておったのでございます。そのことを見まして、この新しいあっせん収賄罪に関しましても、まずこの規定だけを規定して、そうして運用の結果を見よう、こういうのが一つ考え方でございます。この第三者供賄に関する規定を付加いたさなかった理由は、ただそれだけではございません。さらにいろいろと根本的の考え方もございまするし、また、参照いたしましたいろいろの法案、今日まで提示されておる有力なる法案、改正刑法仮案とか、あるいは政府から昭和十六年に国会に提案されましたあっせん収賄罪に関する法案、また社会党から御提出になっておりまする法案とか、これら有力なる法案をそれぞれ参考にはいたしたのでございまするが、私どもといたしましては、根本的な理由におきましては、ともかくこの規定はわが国における初めての試みであるから、とりあえず直接あっせん収賄罪に関する規定だけを取り上げよう、こういう考え方でこの規定を置いたのでございます。しかし、だんだん申し上げました通り、この案が法制審議会にかかりました際には刑事局長からも申し上げました通り、このあっせん収賄に関する本条が狭いとか広いとかいう議論ではなくて、この条文が第三者供賄に関する規定を伴わないという点が論議の焦点になったようでございまして、その結果、やはり、今すぐに一緒に規定する必要はないけれども、将来は研究して必要があればこれを付加しなければならないという希望の決議もついたようなわけでございまして、御意見のような心配はいかにももっともでございます。法制審議会においてもそれが非常に論議されたのでございますが、私どもがさしあたりこの政府案に加えなかった理由は以上の通りでございまして、ただ四件であるから実効がない、そういうふうな考え方ではございません。それも一つの参考資料ではございますが、お説のように、法律があるからこそたった四件でとどまっておるのだ、なければどのくらいあるかわからぬという御意見は、まことにごもっともだと存じております。
  94. 菊地養之輔

    ○菊地委員 大臣の御説明でその点は了解したのでありますが、ただ私は、第三者供賄規定を置かないと、小者は罰せられて大物は逃げるという弊害が出てくるのではないかという考え方を持っておるのであります。これは法律的に見ましても社会的に見ましても大きな問題だと思うのであります。大きい者は逃げて小さい者はひっかかる。ドイツのことわざに、法律はクモの巣のごとしということわざがあります。法律はちょうどクモの巣のようなもので、大きいものはこれをぶち破る、小さいトンボや虫けらはひっかかって食われてしまう、こういう格言があるようでございますが、日本でも同じようなことわざがあります。大魚は網を破るということわざがございます。大きな魚は網を破ってしまうというのであります。こういうことがあっては大へんなことだと思うのであります。ところが、第三者供賄を処罰しないと、そういう行為が生ずる憂えがあるということを考えざるを得ないのでございます。小者はがつがつしているから自分のふところへみんな入れてしまうということになる。ところが、大物になると、自分のふところへ入れないで自分の子分に分け与えるということになって、これは政党の派閥関係にも及ぶことでございますけれども、そんなことになると、お歳暮だ、選挙資金だというので、自分みずからは取らないで、いわゆる自分の子分の方へ回すような動きが現われる、こうなると思います。従って、大物は第三者供賄がないために免れて、しかして小者は自分が取るから犯罪を犯すというようなことになると思うのであります。そういう観点からも、ぜひ第三者供賄に関する規定の御研究を賜わって、なるべく早く実現するように希望いたしておきます。  それから、だいぶ論ぜられました請託の問題でございますが、これも一、二点だけお聞きしたいと思うのであります。一体、本案の目的は、職務の公正と公務員の廉潔を目標とすることは言うまでもないのでございます。法律論として、ゲルマン法であるとかローマ法であるとかいうようなお話はございますけれども、そういうものは別問題といたしましても、この法律案がこの二つを目標とすることは大臣の仰せられた通りだと思うのでございます。ところが、職務上不正の行為をなさしめまたは相当の行為をなさざらしめることによって報酬を受けたならば、もうすでに職務の公正と公務員の廉潔が失われることになるのではないか。この上になぜ請託というようなことを加える必要がどこから出てくるのであるか。いわゆる犯罪要件として、不正の行為をなさしめ相当の行為をなさしめなかったことによって報酬を得たという二要件で十分ではないか。その上にいわゆる犯罪要素、犯罪要件として、その動機であるような、遠因であるようないわゆる請託というようなものを犯罪要件にする必要がどこから出てくるのか、その根本の理由を承わりたいと思うのでございます。
  95. 竹内壽平

    竹内政府委員 あっせん行為の場合には、事柄の性質上、第三者から依願の受けて、その依頼を趣旨を職務権限を有する公務員に伝達し、その間にいろいろと第三者のために有利な働きかけをする、こういうことになるわけでございまして、従って、頼まれもしないのに中に入って世話をやくと申しますか仲介をするというようなことは、通常の形においては起らないのではなかろうかということが第一点でございます。それから、第二に、特別職の公務員のような方、あるいは特に国会議員とか地方議会の議員とかいったような政治活動に従事しておられます方は、その活動の範囲が幅広いのでございまして、いろいろなことを頼まれたりすると同時に、いろいろなことをあちこちでしておるわけで、問題がどこにあるのかというようなことも、いやしくも処罰の対象にいたします限りにおいては明確にするということが、運用上、解釈上も必要なことであるという、この二つの考え方からいたしまして、この規定が乱用にわたらないようにという配慮からいたしまして、特に捜査上制約を受けるということでない以上は、これを置いた方が事柄が明確になっているのではないかという趣旨にほかならないのでございます。
  96. 菊地養之輔

    ○菊地委員 どうも私は納得できないのでありますが、先ほども申し上げましたように、岸さんが考えている三悪追放の汚職追放も、国民考えているいわゆる汚職の追放も、大体において同じものだと思うのでありますが、少くとも公務員をして不正な行為をなさしめあるいは相当の行為をなさしめないということによって金を取る、これこそがいわゆる公職の公正を害し公務員の廉潔を害するものだ、こういう点では私は一致すると思うのであります。ところが、この二つが犯罪要件であって、実際上の法律的な犯罪要素ではなくても、われわれの考えというのはそこなんで、それさえ防げばいい。それが請託によろうとよるまいと、われわれは問題にしなくてもよろしいのじゃないかという考え方でございます。一体、請託というのは一つの動機にすぎないのじゃないか。たとえば犯罪を犯す場合には動機がございます。窃盗罪の場合には人の財物を窃取すれば犯罪になります。人の財物を窃取した、その要件でたくさんだ。その動機は、貧乏であるとか、食えないとか、女のためとかという動機はありましょう。あるいは人から教唆されたというようなことはございましょう。しかし、これは犯罪要件じゃないのだ。ところがあっせん収賄に限って、普通の本質的な、法律的ではございませんが、いわゆる頼まれたという動機が要件なんだ。動機を犯罪要素にしなくちゃならぬ理由は、今の局長の御答弁だけでは私は満足できない。一体そのほかに何かあるのか。世間が騒いでいるように、いわゆるざる法案にするために、しぼるために請託というものを入れたのじゃないか、こういうようなことを書いている新聞もあるようでございます。私はそれを信じない。そんなことで神聖なる法律が羈絆される理由はないと考えております。しかし、今の御説明では納得できない。普通犯罪では、犯罪要素は厳格にして、動機と区別しているものである。ところが動機と区別しない。これは請託をした人を処罰する場合ならば請託は要件になりましょう。しかし、請託を受けていわゆる本件の犯罪を犯した公務員というものは、依頼を受けたということそれ自体がいわゆる犯罪の本質ではなくて、どこまでもこれは動機でなくてはならない。活動のきっかけでなくてはいけない。活動のきっかけになっただけだ。それが犯罪要素になって、それが証明されなければ犯罪にならないというようなことは、どうもいわゆる刑法学の筋からは納得できないのであります。どうかいま一つその点について御説明を願いたいと思うのであります。
  97. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 だんだんのお尋ねでございまして、まことにごもっともと存じます。公務員が他の公務員に不正の作為・不作為をさせて、そうしてその報酬として金を取れば、それだけでもうすでにあっせん収賄罪として処罰してよろしいじゃないか、その上に請託を受けてというような条件を付する必要はないのではないか、請託ということはその行為の動機にすぎないのであるからして、そういう文字を入れる必要はないのじゃないかという御疑念は、まことにその通りと思います。私どもこの案文を起草いたしましたときの心持を率直に申し上げますと、あっせん収賄罪は現行刑法にあります収賄罪と違いまして、ただよろしく頼むということではもう成立しない形態の犯罪でございます。何か特定事項があって、そうしてそれを頼む頼まぬは別といたしまして、それをあっせんしなければ、ただ新しい警察署長が赴任してきた、新しい税務署長が赴任してきたから、何とぞよろしくお願い申します、将来いずれ御厄介になることがありましょう、こういうような一般の収賄罪のような場合ではないのでございまして、何か一つここに具体のことがあって、それを他の公務員の力によってその希望を遂げようという場合に限るのでございますから、常識的に考えて、大がいこういうことをお願いするといって、その依頼、つまり請託がございます。その請託を受けてあっせんを始める、こういうのがティピカルの、典型的の要素で、ほとんど全部がそれと言ってもいいくらいで、他人が何か困っていそうだから、おれのところには頼んでこないが、自分が飛び込んでいって世話をしてやろう、そうして世話をした代をあとから請求して取る、そういうようなことは理論的には考えられますけれども一般収賄罪と違いますから、あっせん収賄罪の場合には事が具体になってきておりますから、まず請託があるというふうに常識的に判断をいたしたのでございます。そして、その請託という字を入れれば立証上非常にむずかしくて、そうしてすべての事犯がこの一点でもって免れてしまうというような心配がございますれば、これはまた考えなければなりませんが、検察の実務を預かっておる者などの意見を聞きましても、それは大して支障にはなるまいというような考えが多かったのでありまして、それでこういう規定になったのでございますが、それでは、仰せの通り請託をしなかった場合の事犯は処罰の対象から漏れるじゃないか、全くその通りでございます。     〔高橋(禎)委員長代理退席、委員長着席〕 それはまた、公務員として、相手方の公務員に不正なる行為をさせなくも、正しい行為をさせただけでも、そのあっせんをしたことによってわいろを取る、しかもその金額が相応の金額であれば、相手方の公務員にさせたことが正当な行為をさせたのでも、その世話料として多額の金を取るというようなことは、社会的に見てこれは排斥すべきことではないか、公務員としての廉潔を害する行為ではないか、こういう議論も立つのでございます。そういう場合におきましてもやはりこれは処罰してもいいようなケースがあると思うのでございますけれども、ともかくこの規定は初めての試みでございますから、典型的なあっせん収賄行為、そのうち最も悪質と思うもの、ティピカルであって最も悪質と思われるものだけを処罰の対象とする、こういう考え方から出発したわけでございます。  なぜそういうふうに制限をしたかといえば、毎度申し上げますように、私はこの規定法律になりますれば相当の威力を持つ法律と思います。その反面におきまして、もしこの運用を誤まれば、ほんとうに民主政治下における公務員の活動に対して非常な制限になる、ひいては検察ファッショにもなりかねないということを顧慮いたしまして、そうして、まず初めての規定としては、ティピカルなあっせん収賄行為で悪質なものを処罰の対象にする、こういうふうな根本の考え方から立案いたしましたために、請託を受けずしてあっせんをした場合などはこの規定対象から漏れるわけでございますが、根本の考えがそういうことでございます。しかも、この請託という文字で、挙証の関係から犯罪が検挙できないというような心配はまず大してなかろうというような実務家の意見をも参考にしまして、そうしてこういう条文を作った次第でございます。
  98. 菊地養之輔

    ○菊地委員 大臣の気持はわかるのでございますが、しかし、私どもが心配しているのは、大臣の気持と反対に、この規定があるためにこれをくぐる方法においてあっせん収賄が行われる、こういうことを心配しておるのであります。そうたくさんはないだろうという実務家の話を大臣はそのまま受け取っておられるようでありますけれども、実際は、いわゆる請託さえなければ、不正の行為をなさしめまた相当の行為をなさしめないとしても、しかもそれによって莫大な金額を受けても犯罪にならないという事態がここに存しておる。そうすれば、いわゆる業者も公務員もその方法に向って計画され実行されていくことになると思うのであります。そこが現在の第三者供賄と同じで、やはり逃げ道をちゃんとこしらえてあるような感じを受ける。これは法務省がそういうものを作ったというのではございませんで、法案自体から見ましてそういう感じを受ける。こういうものはやはり防ぐ方法をどこかでしておかなければ、先ほど申し上げたようにそこへ殺到していく。先ほど猪俣君の、業者と公務員が相談して請託ないことにしようというようなことにきめれば、結局立証が困難ではないかという議論があったようでありますが、このこともございますけれども、そういう方法をとらなくても、やる方法が幾らでもあると思うのでございます。これは、会社なりその他の業者の実情から見て、そういう悪らつなことをする人たちは、みずから進んでいわゆるあっせん行為をやる、そうして不正の行為をなさしめまたは相当の行為をなさしめない行為をする、そうして金を請求するような事態が起るんじゃないか。こんなことになったら、いわゆる職務の公正あるいは公務員の廉潔というものはお話にならぬほどこれは世間の指弾を受ける。もしそれが国会議員でありましたならば、国会の権威にも関する、国民の信頼にも関する問題が私は起きてくると思うのであります。そういう点を心配しているのでございまして、その数が少いとか、そういうものはないという実務家のお話だということでなく、これはもっと深く研究をお進めになるといいんじゃないかという考え方を持っておるのでございます。  そこで、私は、一つの例を申し上げまして、刑事局長法律的な見解を承わりたいと思うのでありますが、間接の請託といいますか、甲が乙という公務員請託をした、しかし乙は、これはおれの適任じゃないというので、乙みずからの手によって丙に対して、こういうことを頼まれたが、君やってくれぬかというて、甲とは何らのかかわりなしに依頼したような場合には、本件が成立するかどうか、この点であります。
  99. 竹内壽平

    竹内政府委員 ちょっと後段のところが聞きとりにくうございましたが、甲が乙に請託したところが、乙が自分の手ではできないからといって、乙がさらに自分で丙にその請託の趣旨を取り次いで、丙が職務権限ある公務員請託したような場合に、さかのぼって甲が丙に対して請託があったということになるかどうかという御質問でございましょうか。
  100. 菊地養之輔

    ○菊地委員 この点が重大じゃないかと思うのです。甲は乙に対して請託した、ところが、乙は、請託を受けたけれども自分としては適任でないし、効果をあげないと考えて、自分の意思によって、乙の意思によって、丙に、君これをやってくれないかと頼んだ、従って、甲と丙の間には意思の連絡がないのであります。その場合に、いわゆるあっせん収賄罪というものが乙に生ずるか丙に生ずるかということをお答え願いたいと思います。あるいは生じないかということも……。
  101. 竹内壽平

    竹内政府委員 その場合に、報酬としてわいろを受けた者は、丙でございましょうか乙でございましょうか。
  102. 菊地養之輔

    ○菊地委員 わいろを受けた者は、乙であった場合と丙であった場合と、両方答えていただきたい。
  103. 竹内壽平

    竹内政府委員 まず、乙が何がしかの金を受け取った場合を考えてみますと、自分は不正の行為をあっせんする行為をしていないわけであります。それは丙に頼んで丙がやったわけでございますが、その乙と丙との関係が同位体と見られるような形で丙がそういう不正行為のあっせんをしたということに見られます場合には、その受けたのは、いわゆる第三者供賄ではなくて、やはり乙と丙とが共謀して受けたというふうに見られます場合には、乙についても積極になにせられると思います。それから、丙が報酬を受けたという場合には、共犯の教唆とかあるいは幇助とかいう関係が成り立つ場合は別といたしまして、乙は全然不正な行為について——あるいはまたその不正行為をしたかどうかということについて乙が認識しておったかどうかという問題も一つございますが、そういう点が認識しておったということになりますと、教唆犯として、あるいは幇助犯として成立する場合があるが、丙が金を受け取っておる場合には、乙については直接の犯罪行為者としての責任はないものと思うのでございます。
  104. 菊地養之輔

    ○菊地委員 例を引くと長くなりますからやめますが、ただ、請託を犯罪構成要件にしますと、結果において非常に不都合が生ずると思うのでございます。請託という——本件ではよろしいのでございま素けれども、普通一般の刑法理論からいけば、遠因にすぎないあるいは動機にすぎない行為によって、結果が二様になる。一方は有罪になって、刑余の身になって再び立ち得ざる状態に置かせられる。しかも取った金は没収される。ところが、いわゆる請託の綱をくぐってやった者は、公々然として、合法的な行為として莫大なる金を受けて、その金を自分のものとすることができる。しかもそれはいわゆる合法的な行為だ。政治的にあるいは道義的に責められる点があるとしても、それはあまり表面化しない。警察官も何も動かない。そうしていわゆる堂々として資金を得ることができる。しかも、もらった金は没収にはならない。結果において非常な差異を生ずる。その人個人の運命に関する重大な問題だ。政治家ならば、一方は政治的に致命的な大打撃を受けて再び立ち得さる状態になる。一方は受け取った金によって子分を養って相当な地位を獲得するかもしれません。こういう不合理が、いわゆる請託というような動機から、それだけによって起るという結果を招来すると思うのであります。結果から見るとそういうことになる。請託というものは非常な重大な要素で、一つは不正行為であるとか相当な行為をなさしめないという点に本件は重点を置いていると思うのでありますが、そういうことでなくて、単に請託を受けた受けないという理由だけで職務の公正を害し公務員の廉潔を犯した者が公々然として天下に横行ができる、一人は牢獄に逼塞しなければならないということになると思うのであります。そういう点から考えますと、どうしても請託というものを犯罪要素にしないで現刑法のように加重の条件とすることが正しいのではないか、こう私は考えておるのであります。この点いかがでしょうか。
  105. 竹内壽平

    竹内政府委員 菊地委員は、「請託ヲ受ケ」ということが非常に強いしぼりであるという御見解でございます。そのような見解といたしまして新聞紙等で論じられておりますのは、私どもがここで明らかにいたしておりますように特定事項依頼を受けてそれを承諾するということではなくして、その請託の中にはさらにその次に来る不正行為のあっせんという不正行為事項までも請託内容の中に含まれるのではないか、もしそうであるならば、これは非常に狭いしぼりになるぞという意味批判が新聞紙等に出ておるのでございますが、それが含まれないことは学者のほとんど一致した意見でございます。含まれるというふうに解釈する意見は、むしろ今日では誤解であるというふうに見られておるのでございまして、その点は含まれないというふうにはっきりいたしておるのでございます。そうだといたしますと、特定事項について依頼を受けて、そうしてそれを承諾するということは、検察実務から申しましても非常に支障を生ずるものでない、さしたる支障を生じないものであるということは、法制審議会の議論の際にもはっきり出ておるのでございます。その点、もし新聞紙等の結論だけについての御疑念をお持ちでございましたら、御払拭を願いたいと思うのであります。  なお、御議論を伺っておりますと、思い出されますのは、改正刑法仮案の二百一条のあっせん収賄規定でございますが、これは、要求して収受しとありまして、要求して収受した場合だけを処罰の対象にいたしております。要求しない場合には処罰されない、こういう場合でございますと、今御指摘のように、要求しなければ、黙って取りさえすれば犯罪にならない、要求したということになると犯罪になる、こういうことになりますと、その両者の差異というものは本質的にそんなに違うものであろうかという疑問が起るのでありますが、それと反しまして、「請託ヲ受ケ」ということは、事柄の筋道の上で当然出てくることなのでございます。なるほど、両当事者が請託を受けたことは言わぬことにしようじゃないかという話し合いをしたらどうだという先ほどの御質問もあったわけでございます。調べの順序が進んでいきますと、何のためにあっせんをしたかというような点等しさいにわたって調査をして参りますと、これは請託事項というものは自然に捜査の段階で浮んでくるのでございまして、その点は御懸念になるほど重大な問題ではなかろうというふうに考えておりますので、重ねて付言いたします。
  106. 菊地養之輔

    ○菊地委員 もう時間が迫っていますから、最後にただ一点だけ申し上げますが、何か私の質問が新聞紙からの知識を振り回しておるようにお考えのようですが、そんなことはございません。汚職追放というものは、岸さんの考えておること、国民考えておること、それは、請託があろうとなかろうと、不正の行為をやってそれによって金を取った公務員を処罰することが、職務の公正並びにその公務員の廉潔を重んずる見地から言ってもよいのじゃないか。その請託というような、一般の法律から見ると単なる遠因にすぎない、あるいは動機にすぎないものを要素にする必要はないのじゃないかということからくるのであります。新聞を見て、そうしてこれにならって言うのじゃございません。その点の誤解のないようお願いしたいと思います。  ただ、最後に言いたいのは、一般刑法のこの条文から見ると、刑があまり軽過ぎるのじゃないかという感じを持つのであります。単純収賄の場合には現刑法によりますと懲役三年以下になっております。本件も懲役三年以下ということになっておるのでありますが、これは単純収賄の場合なんだ。それから、現刑法によると、請託を受けた場合は五年以下という重い刑に付するということで加重しておるのであります。ところが、本件は請託を受けた犯罪なんだ。それなのに、単純収賄と同じように三年では、軽過ぎるのではないか。刑の公平を失するのではないか。この辺は、どういう点で、一体一方において加重の条件として請託を入れておきながら、あっせん収賄だけは同じ請託でありながら単純収賄と同じ刑にしておるのか。この点であります。
  107. 竹内壽平

    竹内政府委員 単純収賄の百九十七条の規定は、ドイツ刑法の流れをくんだ規定だと思いますが、これは職務の公正を担保しようという強い考え方が現われておるのでございまして、特に請託を受けなくても、どんなことでありましようとも、職務に関して金品を収受するということは非常に違法性が強いという考え方から、それ自体処罰することにいたしておるのでございますが、それをさらに請託を受けて、ある一定事項について事柄が金品とつながるということになりますと、職務をゆがませるという意味におきまして、この公正を担保する観点からしますと、悪性がさらに一段と強いというので、加重規定が設けられておるものと理解いたしております。さらにそれが不正の行為をなしまたは相当な行為をさせないというような行為になりますと、さらに一年以上の刑に処するように重い取扱いになっております。これに反しまして、あっせん収賄の方は、きのうからいろいろ保護法益について議論が出ておるのでありますが、公務の公正なる執行という観点からしますと、何と申しましても間接でございます。収賄者自身が公務を執行する人ではなくして、公務を執行する人は第三者でありますあっせんを受ける立場の人でありますので、何としてもその点から言いますと間接であるということが言えるのでございます。それから、わいろ罪といたしますと、少し従来の考え方からは幅が広くなっておる。「報酬トシテ賄賂ヲ」というふうに書きましたのもそういう趣旨でございますが、幅が広くなっておるということと、それから、今までこの種の行為は刑罰としては放任されておる行為であるというようなことから、いろいろ考えまして、単純収賄ならば枉法的な行為であるが、そういうようなあっせん収賄行為につきましては一般の単純収賄規定よりは刑において軽く取り扱うのが相当であろうということになりまして、枉法を構成要件といたしましたがために、懲役三年として百九十七条と全く同じような形をとったのでございますが、もしこれが単純収賄のよううな構成要件であるとしますれば、これは懲役三年よりはずっと軽いものにするのが相当であるというふうに考えたのでございます。枉法を規定して、かつ三年ということにいたした次第でございます。
  108. 菊地養之輔

    ○菊地委員 これで終ります。
  109. 林博

    ○林(博)委員 先ほど刑事局長の御答弁の中で、請託の中には不正な行為の内容を含まなくていいのだという御答弁がございましたが、金銭授受の際には不正な行為の認識を必要とするのかどうか、その点を一つ
  110. 竹内壽平

    竹内政府委員 林委員の御質問の点は、利益を収受いたします際に不正の行為をあっせんしたという認識が必要かどうかという点でございますが、これは認識がなければ犯意がないということになるわけでございます。
  111. 町村金五

    町村委員長 本日はこの程度にて散会いたします。     午後一時五十三分散会