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唐澤国務大臣 ただいまの
お尋ねでございますが、何
ゆえに
処罰の
対象を不正の
作為・不
作為をさせた場合に限定して、それよりもう少し広く
相当の不
作為・
作為まで
処罰の
対象にしなかったかという点でございます。この点がこの
法案における
あっせん収賄罪の
規定に対する
論議の
中心点かと
考えておるのでございまして、過般の本
会議においてもこの点に触れて申し述べたのでございますが、多少重複するかもしれませんけれ
ども、この点をお答え申し上げたいと存じます。
ただいまお
言葉にありましたような
考えがまず一応起きるのでございます。しかしながら、
あっせん収賄罪に関する問題は、
相当古くからわが国の
学者、専門家の間にも
論議されて参ったのでございますが、必ずしも
学者、専門家の
意見が一致を見ないほど、立法技術上はむずかしい問題とされてきております。しかし、大体通観してみますると、多くの
学者、専門家は、この
あっせん収賄罪に関する立法を必要としておる人でも、これを新にた立法するに際しては、
処罰の
対象をあまり広くするのは非常に危険である、この
規定はややもすれば乱用の弊に陥り、ひいてはあるいは検察ファッショを誘発するおそれもある、であるからして、この
規定を作るに際しては何らかの制限を設けて、そうして一切の
あっせん収賄行為を網羅的に
処罰の
対象とするのでなく、そのうちの悪質なものだけを制限して、まずこれを
処罰するようにしていくのが適正妥当であるという
考えが、多くの
学者、専門家の間にあると
考えるのでございます。かような
考えか現われましたその
一つが、御承知のような改正
刑法仮案中の
あっせん収賄罪に関する一
条文でございます。この
条文は、私が今さら申し上げるまでもなく、広く
あっせん収賄行為を
処罰の
対象としておりますが、
一つそれに制限を付し、しぼりをかけて、その
行為のうちで、
わいろを要求して取った場合だけを
処罰するということになっております。非常に大きなしぼりがかかっておるのでございます。当時の速記録等を見ましても、その案を作った
説明といたしまして、何しろ新しい試みではあるし、
規定のしようによっては非常に危険な
規定であるから、
わいろを要求して取った場合だけをまず
処罰の
対象とする案を作ったという
説明でございました。これは過去二十年間にわたって
学者、専門家が知恵をしぼって作った良心的な案でございまして、やはりそこにこれを広く
規定するということについての心配が現われておるように思うのでございます。この案につきましても、私
どもこのたびの
立案に際して十分敬意を表して研究してみたのでございますが、また、今日の
学者の
考え方で申しますと、要求したということによって社会悪の悪性の標準を区別するということがちょっとその理屈に合わないという点、それから、
実務家のうちには、要求してということはなかなか挙証ができない、もし
法律に要求してということを
犯罪の
構成要件として書いてあれば、この罪を犯そうとする者はその点には十分の注意をして要求をしたという証拠を残さないようにする、
請託を受けたことは幾ら証拠が残っても、金をよこせと要求した覚えはありませんということになる、なかなか挙証がむずかしいということで、この改正
刑法仮案には出さなかったのでございます。しかし、これをあまり広く
規定することにはなかなか危険があるという心配はやはり同様でありまして、そこで、何らかのしぼりをかけなければいけない、こういうことから、不正の
作為・不
作為をさせた場合だけを
処罰の
対象とするという案を作ったのでございます。その際にも、お
言葉にありますように、不
相当な
作為・不
作為をさせた場合を
処罰の
対象としてはどうかということも一応
考えたのでございますが、不
相当ということになりますと、不正よりも範囲が広くなるばかりでなく、この字句の
解釈について非常な
疑義が起きはしないか、不正という文字でございますれば、御承知のように、今日いわゆる枉法
収賄罪の
規定の中に不正の
行為という字がございまして、これについてはしばしば判例が下っておりますから、一応その
解釈が一定しておると言うことができますが、これを不
相当、つまり自由裁量の適不適ということを
対象として不
相当の
作為・不
作為をさせた場合となりますると、
解釈上の
疑義が生じ、また、ややもすれば適用を誤まって不測の損害を与えるようなことが起きやしないかという懸念が起きまして、そして、この不正の
作為・不
作為をさせた場合にだけというように限定したわけでございます。
私が申し上げるまでもなく、この
規定は立法技術上非常にむずかしい問題でございます。さればこそ、各国の立法例は非常にまちまちでございまして、わが国の
刑法の母法であるドイツにおきましても長年この
あっせん収賄罪の
論議を戦わしましたが、
学者の
意見が一致を見ず、今日まで成文化しておらないということから
考えましても、実にこの
規定は
条文の
書き方がむずかしい
規定である、かように思うのでございます。そういうように、一方におきましては、これを
立案いたしまして
公務の
公正性、
公務員の
廉潔性ということを守るとともに、一方においては、この
規定によって運用の誤まりを防ぐ、そして民主政治下における
公務員の活動に不測の制肘を加えることのないように、検察ファッショを誘発することのないようにという、両面の注意を払って作った
規定でございまして、私
どもは、現在の段階におきましては最も適正妥当な
内容の案だ、かように
考えておる次第でございます。