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1958-03-26 第28回国会 衆議院 法務委員会 第16号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年三月二十六日(水曜日)     午前十時四十五分開議  出席委員   委員長 町村 金五君    理事 高橋 禎一君 理事 林   博君    理事 福井 盛太君 理事 三田村武夫君    理事 横井 太郎君 理事 青野 武一君    理事 菊地養之輔君       犬養  健君    大橋 忠一君       小島 徹三君    世耕 弘一君       徳安 實藏君    長井  源君       横川 重次君    猪俣 浩三君       佐竹 晴記君    武藤運十郎君  出席国務大臣         法 務 大 臣 唐澤 俊樹君  出席政府委員         法務政務次官  横川 信夫君         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君  委員外出席者         検     事         (刑事局参事         官)      神谷 尚男君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 三月二十六日  委員三木武夫君辞任につき、その補欠として大  橋忠一君が議長の指名委員に選任された。     ————————————— 三月二十五日  中津川簡易裁判所新築に関する請願外一件(牧  野良三君紹介)(第二三六七号)の審査を本委  員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  刑法の一部を改正する法律案内閣提出第一三  一号)      ————◇—————
  2. 町村金五

    町村委員長 これより会議を開きます。  刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は特にあっせん収賄罪に関する問題について質疑を進めます。発言の通告がありますので、順次これを許します。福井盛太君。
  3. 福井盛太

    福井(盛)委員 刑法の一部を改正する法律案中、あっせん収賄関係規定は、提案理由説明にもありました通り、そこに用いられております文言はすべてすでに刑法で用いならされております概念によることとしておられるわけでありまして、解釈上の疑義が生じないように努められました立案当局の御苦心のほどは多とするのでありますけれども、本規定重要性にかんがみまして、私からも数個の点についてお尋ねをいたし、御所見を承わりまして、解釈上の疑義のないようにいたしておきたいと存ずるのであります。  まず第一に、現行刑法上、贈収賄は、公務員がその職務に関しましてわいろを収受または要求、約束した場合に成立するものであります。ところで、この法律案によりまして規定するところのあっせん収賄罪は、公務員職務に関する場合ではなくして、他の公務員職務に関する場合であるのであります。そこで、まず問題となります点は、これまで収賄罪処罰の基礎的な理由とされておりますところの理念との関係がどうなるかということにあるのであります。周知のように、収賄罪処罰するのは、清廉であるべきところの公務員がその職務に関しまして清廉義務に違背してわいろを収受するからであると解釈されてきたのであります。このことは、刑法規定する収賄罪を通観してみましても明らかな通り公務員職務に関することが収賄罪構成要件とされているのであって、すなわち、公務員職務わいろによって左右さるべきものではない、いわゆる職務不可買収性ということが、収賄罪として処罰すべきものとする刑法の基礎的な理由となってきているのであります。しかるに、この法律案規定するあっせん収賄罪は、請託を受けてあっせん行為をなす当該公務員職務に関するものではなくして、他の公務員職務上の行為に関する場合であることは明瞭であります。もとより、あっせん収賄罪は、公務員が他の公務員をして事を曲げて処分をさせるようにあっせんすることによってわいろを収受するのでありますから、このような行為処罰することができるように刑法収賄罪規定を強化することにつきましては、私も全く同感で、異存を差しはさむものではございませんが、しかしながら、これを収賄罪として処罰する理由をいかに理解すべきであるかという点であります。これまで収賄罪処罰理念となっている職務不可買収性ではまかなえないような考えがするのでありますが、この点についてはいかがなものであるかということをまずお尋ねしたい。すなわち、あっせん収賄罪をも含めて収賄罪処罰根本理念をいかに理解するか、私はこの点が問題だと考えておるのであります。あるいは、もしもこの点につきましての統一的な理念が得られなければ、私の考えによりますれば、あっせん収賄罪は、請託を受けてあっせん行為をなす公務員職務に関する場合ではなく、従って、これまでの意味においての収賄とは言えないけれども、他の公務員をしてその職務上不正の行為をなさしめる等のあっせんをしたことの報酬としてわいろを収受するのでありまするから、収賄罪をもって論ずることとしてこれを規定に明らかにすれば、収賄罪処罰理念に変更を加えないで済むとも私は考えられるのであります。これらの点につきましての所見を承わりたいのであります。百九十七条ノ四に掲げるべき今回の立案あっせん収賄罪規定の中に、私は、収賄罪をもって論じ、何年以下の懲役に処するということにするならば、これは収賄罪根本理念をもって解釈することができまするけれども、その点につきまして、私は、従来の収賄罪解釈するところの法律上の理念と、このあっせん収賄罪を置かれた、これを対象として考えてみまするときに、ここに法律上の理念関係がいかにあるかということをまずもって政府当局お尋ねしたいのであります。
  4. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 法案中、百九十七条ノ四に掲げましたあっせん収賄罪根本理念についてのお尋ねでありますが、これは、お言葉通り、従来の収賄罪をもっては律しられない犯罪でございます。お示しのように、この収賄罪に問われる者が、自分職務権限に関することでわいろを取ったのではなくて、他の公務員に不正の作為、不作為をさせたというそのあっせん報酬としてわいろを取った場合の処罰でございまして、これは、従来の贈収賄行為から見ますれば、その観念が少し広くなっておるわけでございます。これによって守られまするところの法益は、私が申し上げまするまでもなく、公務員たる身分を持っておる者か、国民に率先して公務の公正ということに力を尽すべき立場にある者が、たとい他人職務に関することとはいえ、他の公務員職務に関する不正の作為、不作為をさせた、そこに公務公正性が害される、そのあっせんをしたのが公務員である、こういうことにおきまして、まず、この規定によりまして、相手となる公務員公務の公正ということを守ろう、これが一つでございまするし、そして、この罪に該当する行為をする者は公務員でございまするから、この公務員かそういうような不正な行為を他の公務員にさせたということにおいて、自分自身公務員としての廉潔性というものを傷つけることになります。この規定によりまして、さようなことのないように、すなわち、公務公正性ということと、公務員廉潔性という、この二つ法益といたしまして、この二つ法益を守るためにこの処罰規定を置くわけでございますが、お言葉通り、従来のわいろ罪観念からは少し広くなりまして、一律に律することはできません。条文書き方といたしまして、かような異種類の犯罪を、従来の収賄罪をもって律すると書きまするのも、これも一つ書き方とも思うのでございますが、いずれに書きましても、行為の実体は、従来のわいろ罪観念を少し拡大しておるわけでございます。  さようなつもりでございまして、結局におきまして、この規定の目的とする法益は、やはり従来のわいろ罪に関する法益と同様に、公務公正性ということと、公務員廉潔性、この二つを守るというつもりで立案をいたしておるわけでございます。  なお足らざるところは政府委員からお答え申し上げたいと思います。
  5. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまの大臣のお答えに補足いたしまして申し上げたいと存じます。御指摘のように、従来のわいろ罪というものは、その公務員職務に関して不正な利益を得ることでございます。本法案あっせん収賄におきましては、御指摘通り公務員本人が、職務に関することでありまして職務権限を有する他の公務員働きかけることによって、その働きかけに対する報酬としてもらう行為でございます。従いまして、そのような行為が、従来唱えられております本来のわいろ観念からはみ出して参りますことは、まさにその通りでございます。しかし、そのはみ出した行為がなおわいろをもって論ずることが相当であるかどうかという点でございますが、これは、わいろ罪の本質と関連をいたすのでございますけれども、ただいま大臣から答弁いたしましたように、わいろ罪の保護しようとする法益は何であるかという点につきましては、二つのことが考えられるのでございます。一つは、公務員不可買収性というお言葉がございましたが、不可買収性、つまり廉潔という点でございます。もう一つは、公務の公正なる執行を担保するということでございます。従来のわいろ罪もこの二つ保護法益として考えているのでございます。  飜って、このあっせん収賄罪を見ますと、やはり公務員という身分に限定をいたしております点において、そういう身分を有する者が不正の利益報酬として得るということは、不可買収性、廉潔に反するのでございます。また、職務権限を有する他の公務員に対して働きかけをするということは、職務権限を有する他の公務員が現実に法を曲げた不正な行為をするしないにかかわらず、危険な行為をそこにするのでございまして、やはり公務の公正をそこなうおそれのある行為でございまして、これまた公正を担保するという趣旨に合致するのでございます。  そこで、わいろ罪一般に通ずる保護すべき法益というものは、あっせん収賄の場合も単純収賄の場合も同一であるのでございます。そこで、あっせん収賄もやはりこのわいろ罪範疇に入れて理解すべきものであるというふうに考えるのでございますが、この点につきましては、法制審議会における討論におきましても、わいろ罪範疇に入れますことについてさしたる異論はなく、学者実務家もこれを承認している次第でございます。従いまして、特にこのようなものをわいろ罪とするという文言を用いずして、わいろというふうに簡明直截に書いても支障はない、かように考えている次第であります。
  6. 福井盛太

    福井(盛)委員 ただいまの御答弁でわかりましたが、そうしますと、やはり、従来ありますわいろ罪根本理念を拡張いたしまして、この場合に解釈の基礎としてよろしいということに相なりますね。
  7. 竹内壽平

    竹内政府委員 その点につきましては、全く従来のわいろ罪と同じような解釈、態度で差しつかえないものと考えます。
  8. 福井盛太

    福井(盛)委員 私がただいまのような質問をいたしましたのは、この条文中、百九十七条ノ四の中に、収賄罪をもって論ずるという言葉がありますと、そういう点について何らの疑いがないのであります。あえてこれを修正してもらいたいというほどの意味ではございませんけれども、この条文は、結局、収賄罪をもって論じて、三年以下の懲役に処するという工合に、解釈上は解釈してよろしゅうございますね。
  9. 竹内壽平

    竹内政府委員 その通りでございます。
  10. 福井盛太

    福井(盛)委員 なお、この点についていま一つお聞きしたいのは、これは立法当局におきましては刑事特別法として立案するというようなお考えはなかったのでございましょうか。
  11. 竹内壽平

    竹内政府委員 部内に、特別法によって規定をしてはどうかという議論が全然ないわけではございませんでしたが、御案内のように、各特別法に、公務員とみなす、あるいはわいろ罪に関する限りは公務員とみなすといったような特別規定があるわけでございますが、このあっせん収賄というわいろ罪は特殊な業態に携わる者についてのみ起る犯罪ではなくして、公務員一般に広く適用を見るべき罪でございます。そのような罪につきましては、特別法をもってやるべきものではなくして、やはり一般法でありますところの刑法規定すべきものというのが圧倒的な多数意見でございまして、刑法の一部改正というふうに事を取り運んだ次第でございます。
  12. 福井盛太

    福井(盛)委員 ただいまの御解明によりまして、私もよく了承いたしました。  それでは第二点に入りますが、この法律案によりますと、あっせん収賄罪請託を受けた場合に限られているのであります、すなわち、請託を受けたことは一般収賄罪におきましては刑罰加重要件に相なっておりますけれどもあっせん収賄罪では犯罪構成要件として認められていることは明瞭であります。そして、「請託受ヶ」ということは、あっせんする公務員自分だけの考えで動くのではなくて、他人からある具体的な事項依頼を受け、そしてあっせんに動き出すということを意味するものと考えるのでありますけれども、その依頼明示の場合に限るかどうかということは、私実は当初より考えておったのであります。明示のほかに黙示の場合も含まれているということは説明書によりまして私ども了承したのでありますけれども、この点が何となく私不安に思うのでありますが、明示の場合も、黙示の場合もここに含ませておいたというのは、事実上なかなか問題に相なりはしないかということを心配するのでありまして、明示黙示とを区別せず同一に認められた理由について少々伺いたいと思います。
  13. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 お話の通りでございまして、この規定におきましては、請託ということが刑の加重要件ではなくて構成要件になっております。従いまして、この請託を受けたということの証拠が上らない限りは犯罪は成立いたしません。その場合におきまして、明示黙示の場合についてのお尋ねでございますが、いやしくも請託を受けたという事実がございますれば、それが明示であろうと黙示であろうと、これは犯罪構成要件を備えることになりまして、訴追されることになろうかと思います。しかし、今お言葉もありました通り黙示の場合に、請託を受けた事実があるということを証明することは、事実問題としてはなかなか困難かと思いますけれども、その立証さえできますれば、その請託黙示でありましても、これは犯罪構成要件として成立すると考えております。
  14. 福井盛太

    福井(盛)委員 それでは、その点はそれで了承いたしまして、第三の点に移ります。請託内容は、説前書によりますと、不正なものでなくしてよろしいというふうに説明されておるのでありますが、この不正なものであることを要するかどうかということは、相当考えさせられる点ではないかと思うのであります。この法律案によりますと、公務員請託を受けて他の公務員をしてその職務上不正の行為をなさしむるべくあっせんすること、または相当行為をなさざらしむるべくあっせんするというのでありますから、請託者においても、受託公務員あっせんによって他の公務員にその職務不正行為をさせたり、または相当行為をさせないことを意図すること、少くともそれらの点につきまして故意のあることを要するもののごとく考えられるのであります。請託内容との関連におきまして解釈上の疑いが起るのではないかというふうに考えられます。従いまして、この不正という点につきまして一つ説明を願いたいのであります。  さらに、本案逐条説明書によりますと、ただいま申しました通り本案の罪が成立するためには、そのあっせんが他の公務員職務上不正の行為をなさしめ、または相当行為をさせないことを内容とするものであることが要件とされておりますから、他の公務員にもともと正当な職務執行をさせることを内容とするあっせんは、本案によりましてその取締りから除外されておるのであります。ある公務員請託を受ける場合には少くとも不正な行為内容とするものでなければならぬように考えられるのでありますが、この点に対するあなたの御所見を伺いたい。  なお、あっせん方依頼するときに、請託を受けた公務員が他の公務員職務上正しき行為または相当行為あっせんすることを依頼し、その通りにその受託公務員あっせんしても、前述の通り取締りから除外されるのでありますが、ただ、稀有の場合には、公務員請託を受けた内容と、あっせん依頼された受託公務員との間に意思の疎通を欠く場合が起ってくると思うのであります。すなわち、そこに錯誤があり得ると思う。その場合、頼んだ者と頼まれた公務員との間に意思錯誤があるのであります。この場合にはまた別な方面から考えるといたしまして、少くとも、公務員請託を受ける場合に、その請托を受けた場合にはその内容不正行為を含んでおることが必要であるというふうに私には考えられますけれども、その点に対する御所見一つ詳しく御説明願いたいと存じます。
  15. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまの御疑念の点でございますが、そういう御疑念が世の中の一部にも存しますことは、本案が発表されましてから後の言論にも現われておるのでございまして、これは何としても解明をいたしておかなければならぬ点でございます。請託の意義につきましては、昨日も補足説明で申し上げましたように、ある特定事項について依頼を受けて承知することでございます。その特定事項の中に、後段の、不正な行為をなさしめ、または相当行為をさせないようにする、そういう内容までも依頼特定事項の中に含まれるかどうかという点でございますが、この特定事項は、必ずしも不正または不当の職務行為であることを要しないのでございます。このことは、ひとり私どもがそう考えるだけではなくして、法制審議会におきましても論議を経たのでございますが、学者実務家の権威ある方々の御意見も、この点につきましては、不正なる行為相当ならざる行為についての認識を必要としないということに一致いたしております。現に、商法第四百九十三条には、会社取締役収賄罪に関する規定でございますが、ここには、「不正ノ請託受ヶ」というふうに、請託の上に「不正」という字がついております。このように明記してあります場合には、請託内容が不正であるということは当然含まれるのでございますけれども本案のように、単に「請託受ヶ」云々、こういう記載の仕方をしております場合には、この請託の中にはそのような不正事項を含まないというふうに理解される次第であります。
  16. 福井盛太

    福井(盛)委員 そういたしますと、不正な行為請託を受けた場合はもちろんこれに含まれますが、不正な行為でない請託を受けた場合もこれに含むと解釈してよろしゅうございますか。
  17. 竹内壽平

    竹内政府委員 お尋ね通りでございます。
  18. 福井盛太

    福井(盛)委員 私がこの質問をいたしましたのは、正しい行為請託を受けて、それで受託公務員にこれのあっせん依頼した場合に、受託を受けたところの公務員が、どういう考えか、故意かもしくはあやまちか知らぬけれども、法文に規定してある通り不正な行為あっせんをしたという場合もあり得ると思うのでございます。そういうときには、意思錯誤か、両方一致してない場合がありますが、そういう場合にはどういうお考えでこれを御処理下さることになりますか、これをお答え願いたいと思います。
  19. 竹内壽平

    竹内政府委員 不正な行為をさせということと関連をいたしまして、私ども考えを申し上げてみたいと思いますが、わかりやすくするために、一つの事例を考えてみたいと思います。よく実例としてあることでございますが、あっせんをいたします公務員の甲が、ある土建会社から頼まれて、乙という官庁の建築をどうしても落札したい、こういうことで依頼を受けたといたします。乙は職務権を有する公務員ということにいたしまして、自分がどうしてもあの建築を引き受けたいのであるということの意思表示をして、そのあっせん方を頼まれたという場合には、この建築をしたいという希望はいまだもって不正なことでもないのでありまして、御承知のように、建物の競争入札の場合には、まず、指名競争でありますと、その指名を受けるということが前提として必要でございます。指名人の中に入れてもらいたいという頼み方でありますならば、これは何ら違法なことでもないのでありまして、そのような請託があったといたします。ところが、受けた公務員の甲は、どうしてもその建築を引き受けたいと依頼者が言っておるところを見ると、これはもう少し手を入れないと必ずしも落札するとは限らぬ、そこで、乙なる公務員に向って、ないしょ一つ予定価格を示してくれないか、こういうようなことを頼んだといたします。そうしますと、依頼者はただ自分が仲間に入って建築を引き受けたいという気持は表明したが、受けた公務員の甲は、それを実現するためには、依頼者意思をよくそんたくして、もっと深く、どうしてもということになりますと、あらかじめ予定価格を知っておく必要があるということで、予定価格ないしょで示してくれないかというような、つまりはみ出したあっせん行為をいたしたといたしますと、その場合には依頼者あっせんした公務員との間に考えの行き違いがあるわけであります。そういう場合に、依頼者は、その結果落札ができましても——その行為に対して報酬として何がしかの金をもらったとするのでございますが、その場合に、依頼者は不正な行為をしてもらうというような趣旨で頼んだのではなく、従って、その贈りました金もそういう趣旨ではありませんので、この場合には贈賄は成立しないことになると思うわけであります。ただ、しかしながら、予定価格ないしょで見せてもらったということになりますと、そのことをあとで話をして、君から頼まれたことについてはこういうことまでしてやったぞということで、そこで予定価格を教えてもらった、それに対しての報酬であるということで、もしわいろがその後になって贈られたといたしますと、この予定価格をあらかじめ示してもらうということは、これは不正な行為をさせる行為でございますので、贈賄収賄もこの場合には成立するということになろうかと思うのでございます。そういうふうに、依頼者あっせんをする人との間に意思食い違いが起る、いわゆる錯誤が生ずる場合があるのでございますが、その解釈錯誤論一般の法理によりまして解釈するほかないのでございまして、事実の錯誤刑罰法令錯誤——こういうふうな食い違い刑法一般理論に従いまして犯意を阻却するものではない、つまり犯罪は成立するということになりますが、事実の錯誤があります場合、あるいは特殊の場合、法令錯誤がひいて犯意を阻却する場合もありますことは、刑法一般理論によって解決すべきものである、こういうふうに考えておる次第であります。
  20. 福井盛太

    福井(盛)委員 ただいまの点に対しましては、私もさように考えておるのでありまして、その点はよく了承いたしました。  さらに進みまして、このあっせん収賄罪は、他の公務員をしてその職務上不正な行為をさせ、または相当行為をさせないようにあっせんすること、またはあっせんしたことを理由収賄した場合に限って犯罪が成立するのでありますが、作為の場合は不正な行為に限局した理由はどこにありましょうか。何ゆえ相当行為としなかったのか。規定の実質においても形式においても、相当行為とするのが適切と考えられ、また解釈上了解しやすく考えられるのでありますが、それにもかかわらず、不正の行為というように処罰の範囲が極度に限局されておる。この規定の仕方をされたことにつきましては、何らか当局におきましても相当理由があってのことと考えるのでありますが、その理由を承わりたいのであります。
  21. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいまのお尋ねでございますが、何ゆえ処罰対象を不正の作為・不作為をさせた場合に限定して、それよりもう少し広く相当の不作為作為まで処罰対象にしなかったかという点でございます。この点がこの法案におけるあっせん収賄罪規定に対する論議中心点かと考えておるのでございまして、過般の本会議においてもこの点に触れて申し述べたのでございますが、多少重複するかもしれませんけれども、この点をお答え申し上げたいと存じます。  ただいまお言葉にありましたような考えがまず一応起きるのでございます。しかしながら、あっせん収賄罪に関する問題は、相当古くからわが国の学者、専門家の間にも論議されて参ったのでございますが、必ずしも学者、専門家の意見が一致を見ないほど、立法技術上はむずかしい問題とされてきております。しかし、大体通観してみますると、多くの学者、専門家は、このあっせん収賄罪に関する立法を必要としておる人でも、これを新にた立法するに際しては、処罰対象をあまり広くするのは非常に危険である、この規定はややもすれば乱用の弊に陥り、ひいてはあるいは検察ファッショを誘発するおそれもある、であるからして、この規定を作るに際しては何らかの制限を設けて、そうして一切のあっせん収賄行為を網羅的に処罰対象とするのでなく、そのうちの悪質なものだけを制限して、まずこれを処罰するようにしていくのが適正妥当であるという考えが、多くの学者、専門家の間にあると考えるのでございます。かような考えか現われましたその一つが、御承知のような改正刑法仮案中のあっせん収賄罪に関する一条文でございます。この条文は、私が今さら申し上げるまでもなく、広くあっせん収賄行為処罰対象としておりますが、一つそれに制限を付し、しぼりをかけて、その行為のうちで、わいろを要求して取った場合だけを処罰するということになっております。非常に大きなしぼりがかかっておるのでございます。当時の速記録等を見ましても、その案を作った説明といたしまして、何しろ新しい試みではあるし、規定のしようによっては非常に危険な規定であるから、わいろを要求して取った場合だけをまず処罰対象とする案を作ったという説明でございました。これは過去二十年間にわたって学者、専門家が知恵をしぼって作った良心的な案でございまして、やはりそこにこれを広く規定するということについての心配が現われておるように思うのでございます。この案につきましても、私どもこのたびの立案に際して十分敬意を表して研究してみたのでございますが、また、今日の学者考え方で申しますと、要求したということによって社会悪の悪性の標準を区別するということがちょっとその理屈に合わないという点、それから、実務家のうちには、要求してということはなかなか挙証ができない、もし法律に要求してということを犯罪構成要件として書いてあれば、この罪を犯そうとする者はその点には十分の注意をして要求をしたという証拠を残さないようにする、請託を受けたことは幾ら証拠が残っても、金をよこせと要求した覚えはありませんということになる、なかなか挙証がむずかしいということで、この改正刑法仮案には出さなかったのでございます。しかし、これをあまり広く規定することにはなかなか危険があるという心配はやはり同様でありまして、そこで、何らかのしぼりをかけなければいけない、こういうことから、不正の作為・不作為をさせた場合だけを処罰対象とするという案を作ったのでございます。その際にも、お言葉にありますように、不相当作為・不作為をさせた場合を処罰対象としてはどうかということも一応考えたのでございますが、不相当ということになりますと、不正よりも範囲が広くなるばかりでなく、この字句の解釈について非常な疑義が起きはしないか、不正という文字でございますれば、御承知のように、今日いわゆる枉法収賄罪規定の中に不正の行為という字がございまして、これについてはしばしば判例が下っておりますから、一応その解釈が一定しておると言うことができますが、これを不相当、つまり自由裁量の適不適ということを対象として不相当作為・不作為をさせた場合となりますると、解釈上の疑義が生じ、また、ややもすれば適用を誤まって不測の損害を与えるようなことが起きやしないかという懸念が起きまして、そして、この不正の作為・不作為をさせた場合にだけというように限定したわけでございます。  私が申し上げるまでもなく、この規定は立法技術上非常にむずかしい問題でございます。さればこそ、各国の立法例は非常にまちまちでございまして、わが国の刑法の母法であるドイツにおきましても長年このあっせん収賄罪論議を戦わしましたが、学者意見が一致を見ず、今日まで成文化しておらないということから考えましても、実にこの規定条文書き方がむずかしい規定である、かように思うのでございます。そういうように、一方におきましては、これを立案いたしまして公務公正性公務員廉潔性ということを守るとともに、一方においては、この規定によって運用の誤まりを防ぐ、そして民主政治下における公務員の活動に不測の制肘を加えることのないように、検察ファッショを誘発することのないようにという、両面の注意を払って作った規定でございまして、私どもは、現在の段階におきましては最も適正妥当な内容の案だ、かように考えておる次第でございます。
  22. 福井盛太

    福井(盛)委員 大体わかったのでありますが、私が質問をしましたのは、この法案の文章の中に、不正な行為をさせ相当行為をさせないというように書かれておりまして、この両方の言葉というものは全く表裏食い違った文言の表現方法が用いられておるのであります。そこで、不正な行為をさせ、あるいはまた相当行為をさせないという相当行為というような文言につきましては、ただいまも法務大臣が申し述べられた通り解釈上むずかしい問題であろうと考えるのでありまして、それよりは、むしろ、不正な行為をさせ正当な行為をさせないようにというふうにするか、あるいは、不相当行為をさせまた相当行為をさせないようにとかいうようなふうにした方が意味が明瞭になるのではないかというように考えたので、この点について御質問を申し上げた次第でありますが、なお、この点について政府当局においてもお考えがありましたならば御説明を願いたいと存じます。
  23. 竹内壽平

    竹内政府委員 不正の行為をさせるということと、その次にあります相当行為をさせないという、この二つの相並んだ用語でございますが、これは、正当な行為と、もう一つの場合として相当行為をさせないという、相当ということと不正ということとがニュアンスのある用語として並んでおるような意味においての御疑念かと存ずるのでございますが、これは、私ども解釈としましては、不正の行為をさせというのは、職務権限を有する公務員に対してその公務員職務上の義務に違反するような行為をさせる、こういうのが不正な行為をさせという意味でありますし、それからまた、そのあとの方の「相当行為ヲ為サザラシム」というのは、ちょうどその裏になることでございまして、適正に職務を行うようなことをさせないという意味なんでございます。従いまして、ここは用語の上にニュアンスがあるように見えますけれども法律用語といたしましては、上の方は積極的な行為であり、後の方はその裏になる消極的な行為というふうに解するのでございます。これはひとり私どもが勝手にさように解するのではございませんので、過去において、明治四十四年以来この点に関する幾多の判例がございますが、この両者は、上は積極的な行為、あとは消極的な行為といたしまして、うらはらの関係にある作為、不作為であるというふうに判示いたしておるのでございます。この点についての解釈疑義は存しないものと考えておるのでございます。
  24. 福井盛太

    福井(盛)委員 それでは私は次に移ります。  報酬の点でありますが、報酬意味についての御解釈を願いたいと存ずるのであります。説明書によりますと、あっせんのための必要費用等を除いた報酬だけを意味し、収受した利益の全部をいうのではないようでありますが、必要費用と報酬等を区別しないで金品が授受されるような場合があり得ると存じます。かような場合には、その全額についてあっせん収賄罪が成立するのであるかどうか、あるいは、必要費用を計算して、その額を全額から控除した額がいわゆる報酬と認められることとなるのであるかどうか。これまでの裁判例から見ますと、あっせん行為に対する報酬と必要費用等が不可分的に提供された場合に、不可分的に提供された金品を収受した場合にはその金品は包括して、わいろ性を帯びるものと解釈されることとなっておるのであります。この点に対して疑いも存するわけでありますが、この点の解釈を明確にしておいていただきたいと存ずるのであります。
  25. 竹内壽平

    竹内政府委員 「報酬トシテ賄賂ヲ収受シ」と書きましたのは、もともと、わいろという概念の中には、不法の利益——判例によりましては不法の報酬という言葉を使ったものもあるようでございますが、職務に関して不法に収受した利益という意味でありまして、そこで、報酬としてわいろをやるので、わいろの中で、従来考えられております不法の利益のうちで報酬でないものを除くということになるわけであります。従いまして、ただいまお示しのような車馬賃、宿泊料というような実費は報酬の中には入らないのであります。ただ、実費と報酬とが混然と入っているような場合に、これは計算をして区別すべきであるかどうか、この点は計算をして区別すべきであると考えております。ただ、贈りました方の側が、区別しないで、実費もこの中に含んでこれを一括して報酬として差し上げるという趣旨のものでありますならば、お話のように全額が報酬となるという判例もあるのでございます。特に選挙法の供与罪につきまして、実費を含めて報酬として出したという場合には、その全額について贈賄罪が成立するという判例がありますことは御承知の通りでございます。その点につきましても選挙法の供与罪の判例などは解釈上の参考になろうと考えております。
  26. 福井盛太

    福井(盛)委員 ただいまの点は往々にして誤りを犯しやすい点であろうと思います。ほんとうの意味報酬であるか、あるいはアクチュアル・エクスペンスであるかということにつきましては、なかなか困難の点があろうと思います。当初よりこれは費用である、これは報酬であるというふうに区別して渡されたような場合には明瞭でありますが、この点が問題になるおそれが多分にあるのではないかと存じますので、この点を質問したゆえんであります。  それでは、次に私は第三者供賄罪について質問をいたしたいと存じます。  この点につきましては、改正立法、つまりあっせん収賄罪には、第三者供賄についての規定はないのでありますが、規定する必要があるのではないかという疑いがありますので、この点について御質問申し上げます。その理由は、現行刑法は百九十七条ノニにおきまして第三者供賄を罰する規定がしたためられておるのであります。あっせん収賄罪におきましてもこれに相当する規定を設けなければ、立法の趣旨から見て何となく不合理ではないかというような感じが起ります。また、少くともその立法の趣旨が減却されるのではないかということも考えられます。また、実際の面におきまして脱法行為が往々にして行われるようなことがありはしないかということをおそれるのであります。さような点につきまして、私は、第三者供賄罪の存否、意味についての御意見を承わりたいのであります。あっせん収賄罪の基本的構成要件が、あるいは請託を受けといい、あるいは職務上不正の行為をさせ云々、または相当行為をさせないようにということになっておりますから、かなりこの条文というものはしぼられて、極度に限局されております。さようであります以上、かりに第三者供賄の規定がここに設置されましても、これは乱用されるようなおそれは毛頭ないのではないかと思量されますが、この点に関します当局のお考えを承りたいのであります。
  27. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 このたびの政府案のうちに第三者供賄罪に関する規定がないのはどういうわけかというお尋ねでありまして、これは法務省が新聞紙等で世上に伝わりました際から非常に論議の的になった問題でございますが、一応この規定を加えなかった事情について申し上げて、御了解を得たいと思います。  なるほど、第三者供賄の規定理論的には必要だという議論が立つと思うのでございます。今お言葉にもありました通り、これによって脱法行為ができるではないかというお考えでございまして、その通りと存ずるのでございます。しかしながら、実際におきましては、私はさほど必要のない規定ではないかというふうに考えたわけであります。福井委員もとうに御存じのことと存じますけれども刑法の沿革を見ますと、わいろ罪に関する規定は一挙にできたわけではなく、従いまして、第百九十七条ノニとか三とかというふうに追加されて出てきているわけでございまして、収賄罪に関する規定は明治四十年の刑法法典が制定された当時からございましたが、そのときには第三者供賄に関する規定はございません。その後ときたま第三者にわいろを提供したということでのがれる事犯があるのではないかということで、この規定の必要があるということから、昭和十六年に至って初めて第三者供賄に関する規定が追加されたわけでございます。その間数十年は、収賄罪に関する規定だけで、第三者供賄に関する規定はなかったのでございます。しかし、理論的にはここに穴があるということで昭和十六年に作っては見ましたものの、その後この規定の適用を受けたケースがどのくらいあるかというと、今日まで十数年の間に起訴されたものがわずかに四件ということでございまして、実際問題といたしましてはそれほど効果のない規定ではないか、かように考えられたのでございます。  従来提示されておりまする諸法案を見ましても、先ほど申し上げました改正刑法仮案のあっせん収賄罪に関する規定につきましてもこの第三者供賄の規定を伴っておりません。それからまた、昭和十六年に政府が当時の国会に提案いたしましたあっせん収賄罪に関する規定、これは当時の貴族院で可決になりましたが、衆議院で非常に論議がありまして否決されました。この法案の中にも第三者供賄に関する規定を伴っておりません。それから、社会党から御提案になっておりまして現に当院で継続審議中になっておりまするあっせん収賄罪に関する法律案のうちにもこの規定は伴っておりません。これら諸案がこの規定を伴っておりません理由は、理論的にはなるほど必要だという理論は立つかもしれぬが、実際問題としてそういう必要は少いんだという考え方と、ことに、あっせん収賄罪に関する規定は、先ほど来だんだん申し上げました通り、日本の刑法における初めての試みで、しかもこれは刑法の上において非常に論議の多いむずかしい新しい立法であるから、とりあえずあっせん収賄罪に関する規定だけを、置いて、そうして運用の結果を見て、さらに今のような脱法行為が実際上ひんぴんと起きるような場合にはあらためて第三者供賄の規定を追加してもおそくはない、こういうような考え方から従来のいろいろな案にもないのではないかと想察されるのでございます。  私どもも、そういうような考えから、とりあえずこの規定は一緒に作る必要も今の段階においてはない、こういう考えではずしておるのでございますが、この問題につきましては、法制審議会におきましても、相当論議がございまして、希望決議等もついております。その法制審議会のいろいろの論議等は刑事局長からこの際御紹介をいたしまして、御了解を得たいと思いますが、要するに、この規定をこの段階におきまして一緒に規定立案いたしませんでした理由は以上るる申し上げた通りでございますから、どうぞ御了承を願いたいと思います。
  28. 竹内壽平

    竹内政府委員 第三者供賄の規定は脱法行為を防ぐ規定でございます。脱法行為を防ぐ規定は、きわめて常識的に考えますと、抜け穴をふさぐという意味でございまして、いかにもそういう抜け穴があつてはいかぬという意味において理解されるのでございますが、過去におきましても、経済統制法令その他に、その手段、名義のいかんを問わずこれを免れる行為をしてはならないという意味の脱法を防ぐ規定が多々あるのでございますが、それらに、十分の犯罪構成要件として見ますとはなはだあいまいな点もあろうかと思いますが、実際には刑罰法令としては動きにくいのでございます。この百九十七条の二あるいは百九十七条の三の第二項等にありますこの第三者供賄の脱法、抜け穴をふさぐ規定は、大臣も今申されましたように、たった四件しか起訴を見ていないという実情でございまして、いかにこの穴ふさぎの規定が実際的でないかということを示しておるのでございます。常識的に考えまして、穴をふさごうという気持はだれにもわかるのでございまして、法制審議会におきましても、不正の行為でしぼるということについては理解ができるが、そういうふうにしぼったのであるから、穴をふさぐだけはふさいでおいた方がいいではないかという御議論が総会の冒頭から出まして、刑事法部会に議案がおろされました後も、部会を通じて絶えずそういう意見が出たのであります。さらに、最終の総会におきましても、一部の方から強くその点が主張されたのでございます。それに対しまして、政府側といたしましては、今申しましたような統計の実績を御説明をし、漸進主義で臨みたいという意見を実は述べたのでございます。一方、検察の方の意見といたしまして、これは単に脱法行為規定が動きにくいというだけではなくして、わいろ罪の本質とも申しますか、わいろ性の問題が非常に問題として議論されまして、一般に形の上におきましては、収賄行為があるといたしましても、それがわいろであるかどうかという点が絶えず検察、裁判において問題になるのでございまして、外形は認められるけれども犯意がないとかあるいはわいろ等の認識がないという点で、つまり結局はわいろ性という点が無罪原因になる場合が非常に多いのでございますが、このわいろ性を認定します場合に、第三者に提供されたような利益、こういうものは果してわいろだという主張を貫き通せるかどうかという点が実際の裁判の運用におきましては重大なことなので、その点が貫き得ないということが第三者供賄が動かない実際的な理由であるというような点も説明をされまして、政府案に第三者供賄の規定を追加すべきであるかどうかということの決をとりました結果は、少数で否決されましたが、それでは、希望条件として、今大臣が申しましたように、将来の検討に待つという意味で希望を述べるかどうかという点につきましては、多数意見をもって希望が付せられるという実情になっておるのでございます。
  29. 福井盛太

    福井(盛)委員 第三者供賄罪がこのたび設置されなかったという点につきましては了解されました。私は、この点については、先ほども大臣並びに竹内局長から申された通り、この涜職の問題につきましては事きわめてむずかしい問題でありまして、四十年以来しばしば変っていることは事実であります。でありますから、あるときには、かつては贈賄罪は罰しない、収賄罪だけが罰するというようなこともあり、これが車の両輪のようなもので、やる者があるから取る者があるというようなことで、この問題は両方両罰ということに相なったのでありまするが、さように、この問題についてはむずかしい問題で、しばしば変化されております。私がここに第三者供賄罪を置く必要があると言うことは、かくのごとくしばしば変化されておりまするので、これはいずれのときかあまり遠からざるうちに第三者供賄罪を加えるべきものであるという議論が起るだろうということを私は確信しております。従いまして、今回もこれは大きな問題となってきたとは存じますが、今のうちに考覈せられまして、この問題を、案文はどうしようと、そこに御研究になっておかれた方がいいのではないかということを私は実は考えましたので、この点について何ゆえに第三者供賄罪が置かれなかったかという点を御質問申し上げたのでありますが、ただいまの程度におきましてはそれで了解することにいたします。  そこで、私は最後に一点お聞きしておきたいのは、弁護士であるとか、あるいは経理士であるとか、その他あるいは会社、個人の顧問であるとかいうのでありますが、これらの人が他の公務員を兼ねておる場合において、請託を受けて他の公務員職務上不正な行為をさせ、または相当行為をさせないようにあっせんしたような場合におきましては、果して弁護士としてなしたものであるか、計理士としてなしたものであるか、あるいは単なる顧問としてなした行為であるかということは、非常にむずかしい問題に相なることと思うのであります。何となれば、弁護士といい、あるいは計理士といい、あるいは顧問といい、いずれも相当報酬を得るということがこれらの人の職務の一貫した内容でありますから、従って、それらの点につきましては、事実問題としましていろいろな問題が起るんではないかということが実は憂慮されるのであります。でありまするから、請託を受けてあっせんを頼んだという行為が、果してそれらの人の持っておる職務上のことであるか、あるいは公務員としてなした行為であるかということにつきましては、非常に問題が起りやすいと考えておるのであります。でありまするから、この点につきましてはさだめし当局におかれても御考慮下されたことと存じまするが、この点に関する立法についてのお考えがありましたら、一つ御答弁を願いたいと存じます。
  30. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまの御質問は非常に重要なことでございます。その理由は、特に本法案公務員の中でも特別職の公務員に広く適用されるわけでございまして、特別職の公務員につきましては、お尋ねのように、いろいろな別の業務を兼業しておると申しますか、いろいろな身分において活動をされる、その活動範囲が非常に幅が広いのでございまして、そのために、公務員であるということから他の身分の活動を制約を受けるということに相なりましては、これまた著しく正当なる活動を制限することになるのでございまして、この点におきまして、ただいまの御質問は非常に重要なことに触れた御質問であったかと思うのでございます。  例示されましたように、国会議員であるとともに弁護士であるというような場合、国会議員が弁護士として活動される場合があるわけでございますが、その場合に本条の適用関係はどうなるかという点でございます。私どもといたしましては、そのような国会議員が、そういう身分を持っておられる方が、弁護士の職務の遂行としてあっせんをして報酬を得ることを許さない趣旨ではない。その場合には刑法三十五条の正当業務行為として違法性を欠くのでありまして、罪にならないというふうに考えておるのでございます。
  31. 福井盛太

    福井(盛)委員 そうすると、こういうふうに解釈しておいてよろしゅうございますか。弁護士には、弁護士法その他の規定におきまして、弁護士のなすべき職務権限というものはおのずから定まっておりまするけれども、そのとるべき職務範囲というものはきわめて広範になっておるのであります。従いまして、これが弁護士の職務権限に属するかどうかという点が、具体的問題が起ったときにはきわめて難解な問題ともなるのではないかとも考えておりますが、おのおの弁護士なり計理士なりがその職務を忠実によく限局的に考えてやっておれば間違いがないかもしれないと思いますが、ただいま申しました通り、とるべき職務の範囲というものがきわめて広いために、往々にしてあるいは誤解を受けるようなことがありはしないかと思いますが、その職務権限の範囲内においてなした行為であるならば、代議士であってもこの適用範囲から除外されるものと解釈してよろしゅうございますか。
  32. 竹内壽平

    竹内政府委員 弁護士業務の内容をそのつど検討した結果はずれるという考えではございませんで、ある行為が弁護士業務としてなされたものであるかどうかという事実認定の問題はございますが、弁護士業務としてなされたものであるということになりますならば、その弁護士業務が適正であったかどうかということまでも判断をして当否を決するという筋合いのものではないというふうに考えるのでありまして、福井さんのおっしゃった通り、弁護士業務としてなされたものであります限り、本罪の適用外であるということをはっきり申し上げたいと思います。
  33. 福井盛太

    福井(盛)委員 私は、本日は概括的に、総論的にそういうふうに御質問を申し上げまして、私個人としては了解しております。しかし、これからの委員質問に応じまして、あるいはまたお尋ねするような点が起るかもしれませんが、本日はこれをもって私の質問を終ります。
  34. 町村金五

    町村委員長 佐竹晴記君。
  35. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 それでは私から総括的な質問をいたしたいと考えます。  まず、根本の問題は、被害法益は何かということが一番先決問題であり、むずかしい問題だと思います。今回の御説明によればこうあります。「最近に至り、再び斡旋贈収賄罪に関する規定刑法中に加えることにより、一そう公務員の綱紀粛正をはかるべきであるという世論が高まって参ったのでありますが、政府におきましても、同様の観点からその立法の必要を認めまして、鋭意その研究を遂げました結果、ここにようやくその成案を得た次第であります。」と大臣説明をされております。しかし、これはきわめて不明確でありまして、その実体をつかむことができません。公務員の廉潔を確保し、綱紀の粛正をはかるということは当然のことであり、これが主眼でありますが、しかし、それは、第一、公務員職務の公正を維持するために必要であるのか、第二に、地位を利用する公務員の綱紀を粛正しようとするにあるのか、このどちらにあるのかということが根本の問題でございます。どちらでございましょうか。大臣よりお答え願いたい。
  36. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 今のお尋ねの点は、双方であると考えております。
  37. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 昭和十六年の第七十六回帝国議会におきまして、政府が提案いたしました刑法改正案には、「公務員其地位ヲ利用シ他ノ公務員職務ニ属スル事項ニ付斡旋ヲ為シ又ハ為シタルコトニ関シ賄賂ヲ収受シ又ハ之ヲ要求若クハ約束シタルトキハ三年以下ノ懲役ニ処ス」という規定がありました。これは、先ほど大臣の仰せの通り、貴族院では通過いたしましたが、衆議院に回って参りますると、被害法益は何かということが問題になりました。すなわち、右改正法案委員会において、ある委員から、この条文の性格は何か、公務員職務の公正を維持するにあるのか、それとも地位を利用する公務員の網紀を粛正するにあるのかと、こう質問をいたしましたのに対して、政府委員は、ただいま大臣のお答えの通り、前者と後者とを含んでおるが、しかしその場合には明確に前者が主で後者は従であるとお答えになりました。そこで、委員は、あっせん行為がどうあろうと、一定の職務についている公務員がしっかりしておれば別にその公務関係はないではないかと質問いたしますると、政府委員は、あっせんする公務員の地位の利用が相手方たる公務員職務執行に影響を及ぼすからいけないと答弁をせられました。すると、ある委員は、地位を利用してあっせんしても悪い影響を与えるとは限らない、あっせん者がりっぱで、そのあっせんが善良で正しければ決して違法ではないではないか、これを罰するのは根拠がないではないかという趣旨の追及をいたしました。そこで、政府委員は、地位の利用者があっせんしたからといって他から利益を受けるということがよくない、地位を利用して利益をはかるのが違法であるとお答えになりました。これに対してある委員は、しからば本改正案は公務員職務の公正を維持するのが目的でなしに、地位を利用する公務員の粛正がねらいではないか、前の答弁と矛盾するではないかと追及されまして、ついにこのとき政府委員は明確なる答弁をすることができなかったのであります。ために同法案が否決されましたことは速記録によって明確であります。ただいま法務大臣は、私のここに述べております二つの問題、これは両者を含むとおっしゃっておりますが、やはり二つを含んでおるし、二つとも同様の価値と申しますか、同様の必要があって、その粛正をはかるために本法案を提出なさったというのでありましょうか。これをいま一つ掘り下げて承わります。
  38. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいまの被害法益の問題でございますが、先ほどもお答えいたしました通り公務公正性というものを保持したいということが一つであり、また、公務員といたしましては、国民に率先して廉潔を保たなければならない立場におる人間であるということから、その廉潔性を保持させよう、この廉潔性を守りたいということから立安されておるのでございまして、やはりこの規定によって守られる法益一つ公務員廉潔性ということでございます。なお、この点につきましては、さらに進んで詳しくは刑事局長よりお答えを申し上げます。
  39. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいま佐竹議員の御質問の中にありましたように、昭和十六年の第七十六帝国議会におきまして、問題の焦点が今御指摘のような点にも集中されましたことは、私どもも速記録を見まして承知をいたしておるのでございます。わいろ罪の保護すべき法益が、御指摘のように、公務員の廉潔を保持しようということと、公務の公正をはかるというこの二点にありますことは申すまでもないのでございますが、これを学問的に申しますならば、ローマ法におきましては、公務不可買収性と申しますか、廉潔を保持するということがわいろ罪の本質であるというふうに言われておるのでございますし、一方、ゲルマン法におきましては、公務員公務の公正を担保するというのがわいろ罪の本質であるというふうに言われておるのでございます。しかし、現実の立法として、そのいずれか一方だけに考えをきめて立法したという事例はないようでございまして、その両方をある程度採用して各国の立法例ができておるというふうに私どもは理解しておるのでございます。従いまして、わいろ罪につきましては、公務の公正ということと廉潔、その両方を保護すべき法益として考えておるというふうに思うのでございます。このあっせん収賄につきましては、先ほども申し上げましたように、本来のわいろ罪よりはやや幅が広くなっておるのでございますが、それにもかかわらず、なおわいろ罪として理解をしておるのでございます。従って、これを公務員という身分犯といたしました点において、これはあくまで公務員の廉潔を保持しようという、わいろ罪の保護しようとする点はそういう点にも現われておると思うのでございます。一方また、他の公務員に対して不正な行為をさせというようなあっせんをすることが態様になっておりますので、職務権限を有する公務員に対して、そういう形を通じて職務を不正に曲げるという危険なる働きかけがそこに行われるという点を態様として取り上げておりますので、そういう意味から申しますならば、まさに職務の公正を担保しようということもこの法案の上に盛られておるというふうに理解されるのでございまして、本法案は、ローマ法の流れをくむ廉潔性と、ゲルマン法の流れをくみますところの職務の公正を担保しようという、この二つ考えが盛られておるというふうに御理解を願いたいのでございます。そのいずれが重いか少いかというような御議論は、議論としては成り立つかと思いますが、この法案が現実に運用されますときに強調されますその具体的な社会情勢によって、いずれにもきまるのでございまして、私どもとしましては、その両方の趣旨が盛り込まれた法案であるというふうに理解しておるのでございます。
  40. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 御説の通り、ローマ法系統では公務員の廉潔を問題とし、ゲルマン法では職務の公正を維持するということが問題で、そうしてこの二つの流れが世界の立法例の二大潮流をなしておりますことは御説の通りであります。今度は政府におかれましてあいのこを生まれるようでありますが、私はあいのこを生むことによって大へん変なものができると思う。むしろ純血なものにした方が、たとえば大和民族なら大和民族の純血を保つことができるように、どちらかはっきりしたものをとれば、公務員廉潔性の純潔を保つことができると思う。大へんあいまいなあいのこになっておることが、立法の精神を逆に没却するではないかというのが私の質問趣旨であります。いわゆる公務員職務の公正を維持するにあるというのは、昔から影響力説と言われております。地位を利用する公務員の綱紀を粛正する観点から見るのを地位利用説と唱えております。どちらかをはっきりとって罰すれば目的は達せられます。今回の提案で地位の利用という文字を削られました。特にこの言葉を用いることをお避けになりました。かつ、不正の行為をなさしめまたは相当行為をなさざらしむべくあっせんをなし、その報酬を受けてという限定規定を設けました。こういう観点に立って規定いたしておりまする点から見れば、これは公務員の公正な職務維持の方面から特に規定されたものであります。その点を重く見ての規定であるとしか見ることができません。ところが、私ども社会党から別途に刑法仮案と同様の案を出しておりまして、今継続審議中であります。これは、公務員の地位を利用して、その結果悪い影響を与えようが、いい影響を与えようが、それに関係なしに、地位を利用して金にするということがいけないんだという観点に立って提案をいたしております。それが筋が通るではないか。それでなしには公務員のほんとうの廉潔を保つことができないではないかというのが私どもの主張であります。ところが、この七十六議会における論議を見てみると、いいあっせんをする場合もある、大へん善良なあっせんをする場合がある、そこで、間違った許可を与えようとしておったが、りっぱな許可を与えた場合に、これは向うの公務の公正をちっとも侵害しないのみならず、それを善導したのであるから、これに対して報酬をもらうことはかまわぬじゃないか、こういう議論が出て参ります。そこで、この「不正ノ行為ヲ為サシメ又ハ相当行為ヲ為サザラシム」という条件がどうしても出てこなければならぬようになったものと考えられます。しかし、私どもはそう考えていない。たとえば売春行為であります。男女が相通ずることそれ自体は違法ではない。通ずることによって金にすることがいけない。公務員が口を聞いてやることはよろしい、いかにいいことでも口を聞いてやったことによって金にすることがいけないというのです。私どもはそういう観点に立って別途私ども社会党から提案をいたしておるのでありますが、私どものこの主張がどこがいけないのでありましょうか。
  41. 竹内壽平

    竹内政府委員 社会党から御提案になって継続審議になっております法案につきましては、これは昭和十六年の際に政府から提案いたしました法案と大体同趣旨でございまして、その立案趣旨は法務省側としましては法務省なりに十分理由あるものと理解をいたしておるのでございます。しかしながら、特に今回の政府提案の法案と社会党御提案の法案との著しい違いの一つは、この地位を利用しという表現を避けておる点、それにかわるに「不正ノ行為」でしぼった点、その他「請託」とか「報酬トシテ」とかいう言葉がありますが、これはさしたる問題ではなかろうかと思います。この二つの点について、なぜ「不正ノ行為」でしぼったかとい点につきましては、先ほどるる申し上げた通りでございます。地位の利用、その地位を利用しということにつきましては、これは昭和十六年の御審議の際におきましても非常に議論の存したところでございます。議論が存したから、その議論を避けようとしてこの言葉を避けたというふうにのみおとりを願っては困るのでございまして、本来この地位を利用しという概念は、どういうわけでつけるべきであるかという議論があるかと申しますと、先ほど申しましたように、あっせん収賄というのは本来のわいろ罪よりは幅の広いものである、幅の広いものをなおわいろ罪の中に含ましめるという根拠は、地位を利用し、そしてある公務員職務権限を有する他の公務員働きかけるという、この地位を利用してという状態をとらえて、これがやはりわいろ罪の中に入ってくるのだというふうに学者は理解しておるようでございまして、私どももそういう理解の仕方が確かにあるというのでございます。ところが、これは、昭和十六年の審議の際も御議論がありましたように、きわめて明確を欠くのでございます。明確を欠くと申しますか、刑法の概念としましては全く新しいものでございます。他の行政法令にはたくさんございますが、刑法の概念としては新しい概念であるということと、その地位を利用したかどうかということは、なかなか証拠上これを明らかすることが困難であります。上級の公務員が下級の公務員に対して働きかける場合は常に地位の利用になるかどうかという点も必ずしも明確でございませんし、国会議員がわれわれ各省事務官に申されることは常に地位の利用として見られるかどうかということにも疑念がありますし、同じ局長の間の話し合いでありましても、前任者は後任者に対して必ず地位の利用というような関係があるかどうかということも疑わしいのでございまして、中には友人や個人の関係を利用する場合もあるのでございます。そういうような点が明確でないというような御議論があったことは佐竹先生もよく御理解をしておられることと思います。そこで、今回の立案に当りましては、解釈、運用に疑義を存しないように明確にいたしたいというような考えから、既存の法律用語を使用するということに重きを置きましたことは先般来申し上げておる通りでございます。そういたしまして、地位の利用ということはそういう意味から避けたのでございますが、そのかわり、不正の行為をさせまたは相当行為をさせないという既存の法律用語を用いることによりまして、公務員が他の公務員に対して法を曲げるような行為をさせる、こういうようなことはまさに公務員としてあるまじき行為であります。そういう意味におきまして、やはりわいろの概念に入るということは学者の一致した意見であるということは、先ほども法制審議会の経過の際に申し上げた通りでございます。  それで、なるほど、社会党案におきましては、不正な行為でなく、正当な行為を推進する行為でありましても、もしそれに対して報酬をもらうならば違法ではないか、政府案はその点が抜けておるということでございます。まさしくその点は抜けておるのでございますが、売春法の例もおあげになりましたように、処罰をしないからといって、それは抜け道を教えておるとか、あるいはそれが正当な行為であるというふうには理解をいたさないのでございまして、その点は佐竹委員のおっしゃったところと全く同感でございます。あっせん行為をして金をもらうというようなことが正当な行為であろうはずはないと私ども考えておりますが、それは法で罰しないで、さらにその他の方法によって批判を受けるべきものであるというふうに、この段階においては考えた次第でございます。
  42. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 地位を利用するという言葉を用いると大へんあいまいだとおっしゃいますが、法律用語には、これは釈迦に説法でありまして局長もよく御存じの通り、ずいぶん難解な言葉もございます。判例を待たなければとうてい結論を得ない場合がある。わかり切った用語でも問題になる場合が多い。私どもが学校にいた時分に、中村進午先生が、私のようなはげ頭を押えて、はげ頭とは何ぞやという題を出した。はげ頭とは頭に毛のないのをいうと答へると、それでは一本あったらどうかと言うので、それはやはりはげ頭だと答へた。すると、何本からはげ頭で、何本から上がはげ頭でないのかということになり、それは何本から何本ということは言えない、わかり切ったことでもむずかしいものだということになった。ところが、ものには客観性がありまして、私には頭に毛がある、私ははげ頭じゃないと強弁をいたしましても、これは成り立ちません。物事にはそういう客観性というものがあるのです。必ず客観性というものがある。たとえば民法においても公序良俗などという言葉があります。むずかしい問題でありますけれども、むずかしいからといってもこれを避けておりません。公序良俗に反する行為は無数なんだから、言葉が少々あいまいだからといって逃げることはありません。先ほどおっしゃる通り、この公務員の廉潔ということを主眼にいたします以上は、公務員が口をきいてやって金をもらうことがいいことじゃないことは局長もお認めになるでしょう。そうしたら、これを罰したらいいじゃありませんか。そこに一番問題がある。その一番の問題を逃がそうとするので、この法案はざる法だと言われるようになって参ります。これは私は寡聞ではありますが、地位を利用してという言葉については、学者の間には、利用してとするのは穏当でない、地位を乱用してと書くのが穏当だろうと解釈をしている学者があります。これは背定できます。しかし、局長のように、全然これから逃げるなんということにいたしまして、そうして「不正ノ行為ヲ為サシメ又ハ相当行為を為サザラシム」というようなことで制約することは、これは立法上きわめて卑屈なやり方である。ほんとうに取り締ろうという目的から逃げておるものと言わざるを得ません。今日このあっせん収賄を罰しようとする根源はどこにあるか。これは岸総理が三悪追放を天下に声明いたしましたその一環として、ぜひあっせん収賄罪を作れと言い出したのがその根源でありますことは大臣もお認めでございましょう。さすれば、公務員廉潔性と綱紀粛正をはかるためには、公務員が口をきいてやって金をもらっていいということを反面において公認するような法律が、どうして岸総理の三悪追放の趣旨に沿うでありましょうか。お互い公務員は給料をもらっております。国家から生活の保障を受けております。この間討論会に出てみますと、ここにお見えの三田村委員も、代議士のごときは世話をするのが職務の範囲であって、どの範囲までが職務行為かわからないほどにお互いはあっせんをすることが職務の範囲と認められるのだ、だから非常に危険であるという趣旨のことをお述べになりました。だが、私どもは、それがもし——逆論ですが、もし世話をすることが代議士の本来の職務であるならば、なおさらのこと、その職務を行使したからといって金をもらうことはいけないのです。もらわないといいのです。従って、私どもは、歳費を上げてもらってもいいし、共済制度をしいてもらうのもよかろう。年金制度も、各国議員の制度のようにして、われわれの身分を確保して、ほかから金をもらわないでも生活ができるようにしてもらって、議員諸公は他から一金ももらわないでも職務の廉潔が保たれるようにするのがよい。そして綱紀の粛正をはかるべきだと私ども考えております。  これは法務大臣お尋ねしますが、三悪追放に関して岸総理が天下に宣言しました趣旨に基く立法といたしましては、全く底抜けの法案であると考えておりますが、大臣はさようにはお考えにならぬでしょうか。
  43. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいまお尋ねのありました点は、本法案中のあっせん収賄罪に関する条文についての根本的の字句の御批判と存ずるのであります。これにつきましては、世上いろいろな批判が行われておることもよく承知をいたしております。何ゆえに、立案に当りましたわれわれが、この処罰対象を不正の作為・不作為あっせんした場合にだけ限ったかということにつきましては、先ほど来だんだんと申し述べた通りでございまして、なるほど、仰せの通り、広くあっせんしてわいろを取った行為を一網打尽に網羅的に処罰対象といたしますれば、その観点からだけ申しますれば、あるいは公務公正性を保持し、または公務員廉潔性を保持するという効果を満たすという点においては有力であるというふうに考えられるのでありますけれども、これは、先ほど来だんだん申し上げました通り、一面においては非常な危険性を伴う規定でございまして、もし条文書き方に少しでも不明瞭な点がありまして、それを検察当局が誤まって運用するようなことがございますれば、民主主義政治下における公務員の適正な、正当な政治活動も非常な制肘を受ける、不測の災いに出あう、こういうような懸念があるのでございまして、これは私どもだけがさように考えておるわけではございません。だんだんと学者、専門家の御意見も承わってみたいのでございますが、学者、専門家も非常にその点を考慮しておるようでございます。でありますから、重ねて申し上げまして恐縮ではございますけれども、過去二十年間にわたってわが国の学者、専門家が心血を注いで作り上げて、昭和十五年に発表いたしました改正刑法仮案、この中にあっせん収賄罪に関する規定の一条文がございまして、それでも、ただ広くあっせん収賄行為全部を処罰することはせずして、そのうちでわいろを要求して取った者だけを処罰対象とした。その当時の説明を見ても、この規定があまりにも広い刑法論議の的となった条文ではあるし、初めての試みであるから、不測の副作用がかなりあるということを顧慮して、さような条文ができたということを承知をいたしております。そういうような意味から申しまして、この条文を作るに当りましては、一方においては公務の公正、公務員の廉潔ということを保持するために処罰するということを念願すると同時に、他方におきましては、条文書き方その他処罰対象のつかみ方によりまして、反作用の起きませんように、このために公務員の正当なる活動まで非常な制限を受けるというような副作用のできないようにという、両面の顧慮をいたしつつこの立案をいたしたわけでございまして、ことに、私ども考えといたしましては、一切の社会悪を法律をもって余さず漏らさず網羅的に処罰をする、法律をもって一切を解決するという、極端に申せば人を網するというような法律書き方はいかがなものであろうか、——先ほどお話にもありました通り、たとえば売春防止法における単純売春は抜けているじゃないかというような意見も世の中にあるようでございますけれども、ある形態の行為だけを処罰をする、このあっせん収賄罪におきましては、最も悪質と認められるものだけを処罰する、この処罰を免れるものが必ずしも正しい行為ではない、そのうちには処罰対象として取り入れてもよいような行為もあるけれども、網羅的に一切を一挙に処罰はしないのだ、それは社会の道徳観念、その他公務員の自粛に待つ、中心的の悪質のものだけを処罰をする、しかもこの規定は従来から非常に論議のあった問題であり、刑法上、立法技術としては最もめんどうな規定であり、またわが国としては最初の試みでありますから、現段階といたしましては、この程度の処訓の対象立案をいたしまして、そうして、さらに運用の結果を見まして、先ほども申し上げました第三者供賄に関する規定その他についてだんだんと実績に徴して改めて参る方がきわめて穏健である、かような考え方に基きまして立案したのでございまして、私どもといたしましては、この内容が最も穏健妥当である、かように考えておる次第でございます。
  44. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 こういうふうに規定しなければ大へん危険だとおっしゃいますが、しかし、金をもらいさえしなければ何も危険はございません。何の嫌疑も受けません。金をもらうから嫌疑を受けるのです。だから、こういう規定をいたしますと、少々くさくてもかまわぬ、免れるようなもらい方をすればいいということを半面から背定しておるのにひとしい。こういうような立法例は寡聞にして私はあまり聞きません。アメリカ連邦の刑法の二百十六条にいたしましても、フランス刑法の百七十八条にいたしましても、イタリア刑法の三百四十六条にいたしましても、チェコスロバキアの百八十三条、百八十四条にいたしましても、ユーゴースラビアの三百二十四条にいたしましても、はっきり明確にいたしております。そうして、今度出しておりますような「不正ノ行為ヲ為サシメ又ハ相当行為ヲ為サザラシム」などといったような変な条件なんかをくっつけておる国はほとんどありません。何で、こんな規定まで設けて、暗にそれ以外のものはやってもいいぞとほのめかすような規定を設けるのか、私には理解できないのであります。これでは網紀粛正はできません。  私は昨年の暮れに中国を視察に参りましたが、私は共産主義を日本に持ってくることには反対いたしますが、しかし、中国における清潔なる政治の行われておることについてはまことに感心しなければならぬ点がありました。あちらへ行って聞きましたところ、ある高官に贈りものを贈った、すると、高官が直接に受け取ることなしに、それは受付へお回し下さいと言った、受付がそれを受け取って、それを見て、これは儀礼的な品であるかどうかということを判断して、かまわぬという程度のものであれば渡す、しこうして、何人がどの高官に対してどれだけの品物を贈ったかということが明らかにされておるという。従って、日本によくあるごとく、夜陰に乗じてひそかに珍品一個が贈られるようなことがございません。それで汚職はきちっとやんでおる。しこうして、香港から広州へ参りますまでの汽車の中で、ある日本人が、旅行になれないために、女列車長に非常にお世話になった、その際日本人が列車長に日本の織物を見せたら、大へんいい品ですねといっておほめにあずかった、多分ほしいんだろう、またいろいろお世話になったということで、あとで列車長のところへ持って参りまして、これは日本のものです、差し上げましょうと言ったら、列車長は、私は国家から給料をはんでおります、いささかなりとお受けすることはできませんと言って断ったということを聞きました。  私は、こういったような心がまえでなければ、日本の綱紀粛正などということはできないと思う。官公吏その他公務員がその公務関連し、あるいは利用しあるいは乱用して金品を受け取るということがある程度許されて、これが法の裏解釈としては公認されるといったようなことになりますことは、日本の恥辱ではないかと思う。岸総理が網紀粛正を絶叫いたしておりますゆえんのものも、そういったものを何とかして明朗なものにしなければならぬというにあると私は思う。大臣のお考えは、親の心子知らずではないかと私は思う。もっと明確に御規定なさっていかがでございましょう。いま一度私は承わりたい。
  45. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 ただいまわが国における贈答の慣習についての御批判もございまして、まことに同感でございます。それからまた、中国視察中の有益なお話を承わりまして、大へん参考になった次第でございます。岸総理が三悪追放を強く主張されておる、その趣旨から見れば、もう少しこの法案を広く強く規定して、そしてその趣旨を貫徹するようにしたらばよいではないかという御意見で、これもごもっともに拝承をいたしました。ただ、先ほど来だんだんと申し上げました通り、岸総理といたしましては、でき得る限り法律の力によって綱紀粛正の実をあげる一助にしたいというように念願されておることと思いますが、この立案に当ります実務を担当いたします責任者としての私どもといたしましては、従来からの刑法改正の沿革、あるいは新しい試みとしてこのたびあっせん収賄罪に関する規定を置くにつきましては、いろいろ法律技術上の配慮をいたさなければならない立場でございます。種々研究をいたしました結果、この程度の内容が現段階としては最も適正妥当であるという結論に立って立案いたした次第でございます。だんだんと御批判がありますけれども、私は、先ほど申し上げました通り、一切の社会悪を法律をもって余さず漏らさず処罰をするという考え方は刑事政策上どうかと思いますことと、それから、この規定は各国においても非常に問題になっておる。なるほど広い規定の国もございますが、非常に限定をいたしておる規定の国もございます。また、わが国の刑法の母法でありますドイツ刑法、これもまだ論議の末成文化しておらない。こういうふうにまちまちでございます。それがこのたび日本において初めての試みとして制定されようとする立案でございますから、十分なる注意、戒慎を加えなければならぬという心づかいから、この内容を作ったのでございまして、この内容につきましてはいろいろと御批判をいただきましたけれども、これが幸いにして認定いただきまして成文法となりましたならば、綱紀粛正の点につきまして相当の効果をあげると私は考えております。私は法律については露骨に申してしろうとでございますけれども、この条文内容いかんということもございまするけれども、従来の収賄罪は、自分職務権限について金を取った場合にはいけない、こういうふうに観念しておったのが、今度は、自分職務権限ではない、人のために口をきいてやって、そうして金を取った場合にはあっせん収賄罪という規定ができたそうだということから、非常な画期的な法律として、自粛自戒の心持を起させる非常に効果のある規定である、私はさように一人判断をいたしております。しかし、内容についての御批判につきましては、つつしんで傾聴いたしておった次第でございます。
  46. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 ドイツにおける規定のないことをおあげになりました。そして、イギリスにもその規定のございませんことは、私どももこれを認めます。そして、資料として私どもにお手渡しをいただきました「斡旋収賄罪立法史」と題する、衆議院の法制局、三十三年二月十三日付の資料の中にも、ドイツ及びイギリスにおいてはこの法制のないことが書かれておる。ところが、その書いてあることによりますれば、ドイツではそういう必要がないのだ、官公吏、議員に関する官紀粛正が別途きれいにできていて、その必要のないことが書かれておる。しこうして、イギリスにおける綱紀粛正については、主として議員に対することが問題になっておりますが、議員は、いかなる場合におきましても、世話をしたからといって金をもらったというようなことが一たび新聞に報道されるときは、たちまち信用を失って、次に落選することが不文律になっている、従ってイギリスにおいては国会議員その他の議員がお世話をしたことによって金をもらう者が絶対にないので、その必要のないことが明らかにされている。従って、ドイツ、イギリスにおけるところの法制においてあっせん収賄規定を欠いておるという理由をもって、今回の御立案の正当性あるいは妥当性を論ぜられる根拠となさることは、私は認めることができません。  進んで私は、今回の法案がいわゆるざる法案である、底抜け法案であるという点について、一つ掘り下げてお尋ねをすることにいたしますが、法務大臣が予算委員会に御出席なさらなければならぬということでありますから、これに相当の時間を要しますので、それでは大臣は予算委員会の方へお越し願いまして、局長に一つお尋ね申し上げることにいたします。  まず、請託という点であります。請託ということを条件といたしましたために、進んで世話になったり、あるいは割り込んでいって世話をやいたりいたしまして報酬を受けても差しつかえがない。しかし、懇請されてやむを得ず、忙しいのに、とても手が及びませんけれどもと言って断わったけれども余儀なく頼まれた、そして相当時間の犠牲も払い、また労苦もいたしましたので、そこで請託者が心ばかりのお礼を持ってきたとする。ところが、これを受け取ってはならないというのは、全くこれは逆ではなかろうかと思いますが、いかがでございましょうか。
  47. 竹内壽平

    竹内政府委員 ただいまお尋ねの、頼まれもしないのに割り込んでいってあっせん行為に出たという場合は、「請託受ヶ」ということになりませんことは、これが構成要件になっております関係上、明らかでございます。しかしながら、懇請を受けてやって報酬をもらった場合は罰せられるが、割り込んで、どけどけといって入っていった場合にかえって免れることはおかしいではないかという点でございますが、この請託は、今言うように、ある特定事項について依頼を受けて、それを引き受けるということでございますが、そのあとに、あっせん内容が不正の行為をするようなあっせんの仕方を取り上げております関係からして、懇請をされましても不正な行為にわたらないような場合——今佐竹委員のおっしゃるようなわずかばかりの報酬という意味はそういうような場合になるんじゃないかと思うのでございますが、この請託を特に入れましたのは、どんな涜職事犯におきましても、請託の明確でないような涜職事犯というのは、捜査、裁判の実務から申しましてほとんどあり得ないのでございまして、必ず請託ということがあり、そうしてある事項特定されてくるということになるのでございます。それからまた、そういう面から言いますと、この請託というしぼりは、確かにしぼりではございますけれども、捜査の実務においては当然なことなんでございます。ことに、単純収賄の場合でさえもそうでありますが、あっせん収賄の場合には、何をあっせんしたかということが明確になる意味におきましても、この請託ということは、やはり事柄の性質上通常考えられる要素であるというふうに理解しているのでございます。
  48. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 局長は高いところにおられて、俗なことがあまりよくおわかりにならぬかもわかりませんが、私どもは長い間弁護士をいたしておりまして、うるさい事件などにずいぶんぶっつかります。試みに競売関係についてごらんなさいませ。ずいぶん変なのがかかっております。世話してもらわぬでいいのに、世話をしたがります。そうして、執達吏に裏からこっそり金をつかませたり、不正なことをやらせて、ずいぶん小細工をいたします。不正なことを盛んにやる。ところが、こういったような事件師とか、その他町の顔役で悪党なんかが割り込んできて悪いことをやって、そうして結果を得た。ところが、もう本人は金を出そうとは思っておりませんけれども、これだけお前ももうかったじゃないか、金をくれといって要求してもらった。これは免れる。しかし、私に、佐竹さん、あなたはお忙しゅうございますけれども、どうぞお願いします。だめだ、私はとてもやる気にならぬとお断わりしたけれども、あまりかわいそうだからやってやった。ところが、あとで金一封を送ってきた。そのまま置いておいた。佐竹はあっせん収賄だといって、私は罰するが、事件師は罰せられない。こんなことが一体正しい法律であると認められましょうか、いかがでございましょう。
  49. 竹内壽平

    竹内政府委員 今回の立案におきましては、いわゆる公務員以外の事件師というような者は一応対象からはずしているのでございまして、これは、官紀粛正と申しますか、公務員廉潔性を担保しようという趣旨からいたしまして、その他の者をはずしたのでございますが、仰せの通り、事件師、その他特に退官した元役人というような者の中に相当悪どい事犯があるということを聞いておりますが、これは将来の研究に待つことにいたしたのでございます。ただ、やむを得ず引き受けたというような場合につきましても、相手の職務権限を有する公務員に対して、その職務に違背するような行為をさせるようなことでございませんければ、これまた本法案からは処罰対象の外に置かれることになるのでございます。その点、先ほども指摘のように、そういうのが漏れるということがざる法のゆえんであるというような御趣旨でございました。その点が漏れますことは私どもも承知しておるのでございますが、この点につきまして多少佐竹委員のお考え方と私ども考え方を異にしておるのでございまして、刑事立法政策といたしましては、すべての不当、違法と見られる、けしからぬと見られる行為を罰則にかけて、余さず漏らさずというお言葉がさっき出ましたが、そういう処置の仕方は私は適当でないと思うのでございます。その点は、佐竹委員も、戦後の刑において姦通罪が削除になったことを御記憶であろうと存じますが、この姦通罪が決して放任行為、許された行為、そこで抜け道ができたというふうに理解すべきものではなくして、このような行為刑罰をもって強制すべきものではないという、もう一つ高い、高次元の観点から、道徳あるいは倫理の問題として、個々の人の良心の問題として理解すべきものだという考え方に立ったものと私ども考えるのでございます。そのように、特にあっせん収賄のような場合におきましても、あっせんをしておいて金を取るということがけしからぬことは私も全く同感でございますが、そのけしからぬというのは、個々の公務員の倫理と道徳、そういうものによって処理されるのが現段階においては適当であるというふうに私は理解したのでございます。  特に、もう一言つけ加えさせていただきますと、外国の立法例についても先ほどお話がございましたが、今回の立案に当りまして、わずかなチャンネルを通してではございましたけれども、八カ国ばかりのあっせん収賄罪を持っております国のあっせん収賄罪の適用状況を若干調査をしてみたのでございますが、仰せの通り、イギリス、アメリカ等におきましてもあまりこの規定が適用されていないという実情でございます。これは、先ほど仰せにありましたように、やはり政治道徳の高い状態のもとにおいてこの適用が実際問題として行われていないということがうかがわれるのでございまして、こういう条文を作ります際に、この刑罰のみによって綱紀粛正をはかるというのではなくして、これは綱紀粛正をはかる一つの手段というふうに考えるのでございます。刑罰にあまり重い責任をかぶせることは、刑罰の本来の目的からもまたはずれると思うのでございまして、あわせて私の意見を申し上げた次第でございます。
  50. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 事件師をはずしたという御答弁でございましたが、たとえば、区会議員とか県会議員等にしてそういう事件師が相当にあるのです。もちろん公務員という資格を持たなければそれは問題にならぬでしょう。従いまして、公務員を前提としての話でありますから、これを抜いての質問ではございません。  さらに、道徳、倫理の面より云々されましたが、もしあなたのお説のようにいたしましたならば、日本の刑法は半分ほどなしにしたらいいのです。ところが、やはり必要なのです。ことに、あっせん収賄罪は、イギリスにもドイツにも必要でないのに、日本がここに新たに作らなければならないのは何か。それは倫理、道徳の面において非常に欠けているからなのです。岸総理が三悪追放をしなければならないと絶叫なさるほど日本の政界も財界も腐敗堕落の極致にあります。従って、これを療治するための法律でありますから、少々痛いことができることもやむを得ません。もし日本が倫理、道徳において非常に高いところで、こういう規定を置く必要がないほどであったならば、この規定を御提案なさらない方がよろしい。提案なさる必要があるゆえんのものは、非常に倫理、道徳の点において欠けるところがあることをあなたがお認めになって提案されているものと思います。従いまして、本件のごとき問題について、こんなに条件もむずかしくいたしまして免れしむる者を多くいたしますことは、私ども、綱紀の粛正、公務員廉潔性を確保いたしまする上において、はなはだ欠けるところがあると思うのであります。  次いで、不正のことをさせ、または相当のことをさせない事案だけを罰するというのでありますが、これははなはだ不合理の規定ではないかと思います。まず、不正なことをさせ、相当のことをさせないと申しますが、あっせん者が顔をきかせる必要のある場合の多くは、係の公務員の自由裁量で決定される場合であります。許可になるか認可になるか、あるいは甲を許可するかあるいは乙に認可するかなどというようなことは、これはどうにでも考えられるものであります。だから場合によっては、検事が、これは不正であろう、相当行為をさせなかったであろうといって、その権力にものを言わせて検挙しようとするならば、それは不正の行為をなさしめたという認定のもとに検挙はできましょう。ところが、しんの強い被疑者があって、不正でありません、不相当でありませんとがんばれば、それはどうにもならぬでありましょう。だから、こういう規定を設けると、かえって時に検察ファッショを起し、また時に善良者を痛めるということになる、老獪な公務員は免れて恥なしとなる結果が生まれるのではないかと思うのでありますが、いかがでございますか。
  51. 竹内壽平

    竹内政府委員 不正の行為をさせ、相当行為をさせないということは、すでに明治四十四年の大審院判例以来、最近におきましては昭和二十九年最高裁判所の大法廷の判決があったと思いますが、その間幾多の判例が示されているのでございまして、その概念は、先ほど来申しましたように、公務員職務上の義務に違反するような行為をさすということになっております。この点は、すでに解釈におきまして、判例がそのように示しておりますし、刑法の学説におきましてもこの点については異論のないところでありまして、その内容についてはまず明確になっておるものと私は理解をしておるのでございますが、佐竹委員のおっしゃるようにそうなっておるかもしれぬが、検事は検挙している、ずうずうしい者が免れて、恥なしという結果になりはせぬかという御心配でございますが、検察官は原告官でありますので、事を積極的に運ぶ役目を持っておるものでございますが、また同時に法律家でございます。このように明確になっております概念の法律の運用に当りまして、何人が見ても職務上の義務に違反するというような行為をあえてするということは、私どもとしては予測しがたいのでございます。さらにまた、もう一点関連して申し上げますと、社会党の原案、また昭和十六年の政府原案におけるように、どんな行為でもいかぬということになりますと、それこそ金の授受がありますれば検察官は一応嫌疑をかけるという、むしろそういう面においてこそ乱用の危険があるのではないかというふうに私どもは理解しておるのでございます。
  52. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 ただいま局長は判例を引用なさいました。そして、不正の行為をなし、相当行為をなさざらしむる場合においては、義務違反であることが判例によって明示されておるということであります。しからば、その行為身分を有せざる者が加担をいたしましても、背任共犯となりますことは当然のことであります。刑法六十五条が働きますので、「犯人ノ身分ニ因リ構成ス可キ犯罪行為ニ加功シタルトキハ其ノ身分ナキ者ト雖モ仍ホ共犯トス」としてございますので、身分を有しない請託者や、あるいはその当該職務関係のない他の公務員が、その職務を行使する公務員に対し不正の行為をなさしめ、または相当行為をなさざらしめたときは、その担当公務員の義務違反に加功したものになりますことは明らかであります。身分を有しない請託者も、その身分関係のない他の公務員におきましても、これは当然共同正犯になりますことは疑いがないと考えられます。旧来、私の調べてみましたところによりましても、かような案件が、身分を有しない者であるといえども共同正犯として罰せられた判例はたくさんにございます。しからば、かようの条件をくっつけますならば、これはすでに刑法において前から罰し得ベき案件であって、ことさらに今回の規定を必要としないと考えますが、何がゆえに今回特にかような規定を設けるに至りましたか。つまり、かような条件を付しました事由について承わりたいと思います。
  53. 竹内壽平

    竹内政府委員 お言葉を返して恐縮でございますが、その条件を付しましたという御趣旨は、どういう意味でございましょうか。答弁いたします前に……。
  54. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 不正の行為をなし、または相当行為をなさないときはということを犯罪構成条件といたしましたのはどういうわけか。そういう場合には、刑法の一般総則の規定で、当然共同正犯になるので、ことさらにこういう条文を置かぬでもいいのではないかという趣旨でございます。
  55. 神谷尚男

    ○神谷説明員 ただいまの御質問の御趣旨は、刑法に背任罪の規定がすでに設けられており、このあっせんを頼まれた公務員あっせん行為は、この背任罪に加功する行為であるから、それの共同正犯に問うことができるのではないか、従いまして、かような不正な行為あっせんというようなことをことさらにあげる必要はないのではないかという御趣旨に拝聴したのでございますが、その点は法制審議会でも多少議論が出たところでございます。この点につきましては、刑法第二百四十七条の背任罪の構成要件は非常にこまかく規定されておりまして、目的罪であり、それから結果犯である。そういうようなところからいたしまして、不正行為が直ちに刑法にいうところの背任罪になるとは申せない点も多々あるように存じます。現に、刑法百九十七条の三の枉法収賄の事例におきましても、それがすべて同時に背任罪を構成するかと申しますと、実務におきましても必ずしもそうはなっていないのでございます。それからまた、このたびの法案構成要件としましては、不正な行為をさせるようにあっせんすることの報酬として金をもらえば、それだけでも成立するのでございまして、不正な行為を必ずさせなければならないということでもないのでございます。その二点からいたしまして、刑法の背任罪の規定があればすべてカバーできる、その共犯に問い得るからカバーできるのではないかということは、ちょっとそれだけではまかなえないということになるように承知いたしております。
  56. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 政府当局は口を開けば、ことごとく法律で罰しないでもよろしい、少々抜け目があってもよろしいとおっしゃる。背任罪にはただいま政府委員のおっしゃった通りの条件がありますが、そういう条件に当てはまる悪質の場合をとらえれば私は十分ではないかと思う。公務員が不正の行為をなし、または相当行為をなさないときは、このために他の第三者に利益を与え、または損害を与えるに至るのが、これが通例であります。特にこの条件に当てはまらぬ場合は、きわめて少いのであります。こういったような場合の大部分が背任罪になります。または横領詐欺になります。われわれが実際かつて経験いたしておりますところによりましても、職務義務に違反して悪いことをいたしました場合に、刑法にあげられておる他の財産罪を構成いたしますことか多くございます。こういったような場合には、先ほど言ったような身分関係のない者といえども刑法六十五条によって共同正犯と見なされますから、それで私は十分ではないかと思う。もし共同正犯になりません場合でも、少くとも教唆犯にはなりはしないでしょうか。当該官公吏に対しまして、不正の行為をなし、相当行為をなさざらしめ、もってあるいはその請託者利益を与え、あるいは第三者に損害を与えるといったような普通の悪質の場合におきましては、これは教唆と見ても罰し得る案件であって、この程度でまかなえばいいではないか。何でもかんでも片っ端から全部網羅しなければならぬとおっしゃるほどであるならば、これはもっともっと根本的に、本件がざる法であるという批判を免れる他の点においても徹底的に規定なさるべきであると思いますが、いかがでございましょうか。
  57. 竹内壽平

    竹内政府委員 不正行為等がそのまま刑法各本条の財産犯罪あるいは職権乱用罪といったような刑罰に一致するものでございませんことは、今神谷参事官から御説明した通りでございます。なお、教唆犯等が成立する余地はないか。そういう場合もないとは言えないのでございまして、現に、実例といたしましても、あっせん収賄になりますような場合に、あっせん収賄規定がございませんので、特に教唆なり幇助なり共謀というような関係が見られるもので、まれな場合には贈賄者側の共同正犯あるいは収賄者側の共犯幇助というような形で処理をした例もないではないのでございます。そういうふうに共犯の適用を受ける場合は単純収賄の共犯あるいは単純贈賄の共犯という形で処理されますことは法の適用上当然なことでございますが、現行のあらゆる法律を駆使いたしましても、このようなあっせん収賄の場合は刑法の盲点になっているというようなことから、今回の立案になった次第でございます。
  58. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 だいぶ時間も経過いたしましたので、あと一、二点お尋ねいたしまして、その余は次会に譲ることにいたします。  刑事局から「斡旋収賄罪規定がないため処分しえなかった事例」と題する書類をいただきました。その表題と内容を照らし合せてみますと、ここに掲げているような事案が無罪になっているが、これはあっせん収賄罪規定がなかったためであり、このような案件をそのまま許してはおかれない、そこでこれらの案件も罰することができるように今回あっせん収賄罪規定を成文化したのだというふうに受け取れますが、さようでございましょうか。
  59. 竹内壽平

    竹内政府委員 資料十一として提出いたしましたものが「斡旋収賄罪規定がないため処分しえなかった事例」となっておりますので、いかにもこの規定があればここに掲げてあるような事犯はすべて処分され得るのであるというふうに見えますが、必ずしもそうはならないのでございます。と申しますのは、捜査の段階におきましても、現在そういう実定法がございません以上は、深く捜査して追及することはなかなかできにくいのでございまして、現実にとことんまで調べてないと思うのでございます。果してそれらのあっせんが不正な行為に当るかどうかという点は明らかでないのでございますが、もし捜査を徹底したならばこの種の事件はそういうことになるのではなかろうかという趣旨で、それに近い例としてここへ出したものでございます。
  60. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 大へん資料が乏しいので何もかも寄せ集めたような感じがせざるを得ないのでありますが、この資料の(1)の復金事件についても、食糧事務所長あてに「H君を紹介申上候、よろしく願上候」という名刺を書いて渡しただけであります。それから、復興金融金庫融資部長Mに対し右Hを紹介し、かつ融資方をあっせんしたということが判決にうたわれておるだけであります。私はこの事案については別の関係よりよく承知しております。徹底的な調べを受けております。しかし、不正な問題は全然ないのであります。こういったような問題までも引き出してきて、こういう資料まで印刷をして、そうして今回のこの法案の成立を期しようなどということは、あまりにも根拠に乏しいことをみずから物語っているではないかという気持がせざるを得ません。実際、今回のようなあっせん収賄罪規定ができましたならば、おそらくこの案にひっかかるものはほとんどまれであって、少しずうずうしい連中でありましたならば、請託を受けて不正な行為をなさしめまたは相当行為をなさざらしめその対価として報酬を受けるという諸点で、みな逃げてしまうと思うのです。  最後に一点お尋ねをいたします。あっせんをしたところがお礼を持ってきた、そこで、政治結社に関係している政治家が、いやそれは政治献金ですと答えた、すると、届出がないじゃないかと追及された、それで、いや届出は抜かっておりますが、届出を抜かっておるだけで、政治資金規正法違反だけですと答えたとする。そう言えば、今度お出しになりました法案ではこれは罰することができないと思いますが、いかがでありましょう。
  61. 竹内壽平

    竹内政府委員 御設例の場合は、内容がただあっせんしたというだけでありまして、そのあっせん内容についてお触れになっておりませんので、はっきりとしたお答えはできませんが、不正な事項にわたらない限り罰せられないことは当然でございます。
  62. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 他の条件を満たした場合です。請託もあった、不正の行為をなさしめまたは相当行為をなさざらしむという、これもいいといたします。そしてこれに対してその報酬としてもらった。私の最後に聞こうというのはその報酬の点です。報酬として受け取ったろうと言ったときに、いやそれは政治献金ですと言ったら免れますかというのです。
  63. 竹内壽平

    竹内政府委員 政治献金であったか報酬であったかということは、事実認定の問題になりますが、口で政治献金だと答えたらばそれで免れるというふうには、にわかに断定しがたいと思うのでございます。
  64. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 日本ではこういう慣例があります。刑事局長御存じかわかりませんが、非常にもうかる会社等におきましては、税金が非常にかかる、そこで脱税のために政治献金をする。政治献金には税金がかからぬですから……。そこで、今度はその大部分をリベートとして返します。それが再び会社に返りましていろいろな会社の諸経費にもなりましょうし、また手当にもなりましょう。そういうときに、これは政治献金だと言ったら——口だけではいかぬとおっしゃる。それはその通りでありましょうが、そのときに政治献金として帳簿に何か書きましたならば、これははっきり政治献金になってしまうのです。他の条件を満たしておるといたしましても、それが報酬かと言ったときに、いやそれは政治献金でございますと言ったならば免れてしまう場合が私は多いのじゃないかと思うのであります。こういった条件をくっつけますと、これは、あちらでも抜け、こちらでも抜け、ざるで水をすくうたようなたとえよりも、底のないたるで水をすくうということになりはしないか。もっぱら世間でそういうことを言われるのはそういったことからくると考えます。そこで、政府にお尋ねをいたしておきたいのは、これに関連して、どうしても政治資金規正を取り締る規定を強化しなければ、政界の浄化粛正ははかられません。アメリカ連邦の腐敗慣行法においても、第十八章の六百八条にはかような規定があります。これは私が申し上げるまでもございませんが、何人も連邦政府の公選による公職の候補者に対し、または政府、委員会その他の団体に対し、一年間にまたは一つ指名もしくは選挙運動について合計五千ドルをこえる寄付をしてはならない、違反者は五千ドル以下の罰金もしくは五年以下の禁固に処するとあります。そこで、あっせん収賄罪報酬という規定を強く打ち出しますと、政治資金で逃げるおそれがありますから、どうしてもこれは政治資金規正法の方面にも改正を加える必要があるではないかと思いますが、その必要はございませんでしょうか。
  65. 竹内壽平

    竹内政府委員 報酬という概念でございますが、報酬として書いたがためにのがれるというのではないと思うのでございます。わいろという概念の中にすでにある行為に対する対価としての不法の利益というふうになっておりますことは、これはもう判例の示すところでございまして、やはり行為と金との関係が、対価の関係、ある行為に対する対価の関係になっていなければならないのでございまして、特に報酬といったのは実費を含まない旨を明らかにするというだけの意味でございますので、報酬として書いたがために今の政治献金その他の口実を入れる余地が生まれてきたのではないかという御疑念は、これは差しはさむ余地はないのではないかというふうに思うのでございます。  しからば、政治献金の今の規定は十分ではない、諸外国の立法例においても政治資金規正のいろいろな法律がある……。こまかい規定のある立法例もございますし、さらにまた資格の問題その他を取り上げた立法例もあるのでございまして、そういう点につきましては、あっせん収賄罪との関連におきましても研究を要する問題だと考えております。
  66. 佐竹晴記

    ○佐竹(晴)委員 仰せの通りあっせん行為の対価として受けなければ報酬でないことは、それはその通りでありましょう。それで、他の条件が満たされているとしまして、あっせん行為をしたとします。対価の気持だが、たとえば、一人一党の幹事長であるとかあるいは総裁であるとかいう、いろんな政治結社なんかあります。その幹事長なり総裁なりに政治献金いたします。それは政治献金であって、政治資金規正法に基いて届出をする。しかし、その金はその御本人がみな使ってしまう。実際は報酬なんです。けれども、政治献金といったようなことになりますと、罰することはできないでしょう。そういう抜け道が出て参ります。大きな政党でも、私があっせんした、私に対する報酬でなしに、私の所属する政党に献金した、しかし事実はこれは佐竹のあっせんによってこれこれのことをしたのだからといって会計へその旨を言う、会計が他日私の選挙運動についてその金を本部から私にくれたとする、これはどうにも処罰のしようがないでありましょう。だから、抜けようといたしますならば、会社を作ったり政党を作ったり、他の方面でこれを受け取れば、この規定なんか免れることは楽なことなんです。私は、他に何らかの趣向をお考えにならぬときには、悪らつな人はみんなのがれてしまう。善良なちんぴらだけがひっかかるのではないかと思います。  まだ私は掘り下げてお聞きしたいのですが、最初御協定いたしました時間を相当に過ぎましたから、本日はこの程度にいたします。あとは留保いたします。
  67. 町村金五

    町村委員長 本日はこれにて散会いたします。     午後一時二十六分散会