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1958-02-28 第28回国会 衆議院 法務委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年二月二十八日(金曜日)     午前十時四十三分開議  出席委員    委員長 町村 金五君    理事 高橋 禎一君 理事 林   博君    理事 福井 盛太君 理事 三田村武夫君    理事 猪俣 浩三君 理事 菊地養之輔君       犬養  健君    小林かなえ君       徳安 實藏君    長井  源君       横川 重次君    青野 武一君       神近 市子君    佐竹 晴記君       吉田 賢一君  出席国務大臣         法 務 大 臣 唐澤 俊樹君  出席政府委員         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君         法務事務官         (矯正局長)  渡部 善信君  委員外出席者         判     事         (最高裁判所事         務総局刑事局         長)      江里口清雄君         判     事         (最高裁判所事         務総局家庭局         長)      菰淵 鋭夫君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  売春防止法の一部を改正する法律案内閣提出  第五〇号)  婦人補導院法案内閣提出第五一号)      ————◇—————
  2. 町村金五

    町村委員長 ただいまより会議を開きます。  この際お諮りいたします。すなわち、今国会の会期中、最高裁判所当局より発言の申し出がありました場合には、国会法第七十二条第二項の規定により、これを許可いたしたいと思いますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 町村金五

    町村委員長 御異議なければ、今後そのように取り計らいます。     —————————————
  4. 町村金五

    町村委員長 それでは、売春防止法の一部を改正する法律案及び婦人補導院法案一括議題といたし、質疑を行います。  質疑の通告がありますから、これを許します。吉田賢一君。
  5. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 最高裁菰渕家庭局長に伺いますが、防止法五条違反少年婦人補導処分にするやいなやについて、これは裁判所家庭裁判所でないことになっております。私どもは、この種の事件の扱いは、通常刑事事件と異なって、なお少年保護事件のごとくにいろいろと社会的な事情がてんめんしておりまするし、また、本人の性格、身体、経済事情等各般事情から見まして、これは家庭裁判所において裁判し、また補導処分もなすべきだ、こういうふうに考えておったのでありまするが、この法律案には、家庭裁判所に付さない、普通の刑事裁判所で取り扱うことになっております。この点については、だんだんと御議論が当委員会でもあり、あなた方の方におきましても意見の御交換もあったと思いますが、そもそもどういう理由でこれを家庭裁判所で扱うことにしなかったのであろうか、進んであなたの方では受けるべき態勢をとったらよかろうものであろう、こういうふうにも考えるのですが、この点につきましての御所見を伺いたい。
  6. 菰淵鋭夫

    菰淵最高裁判所説明員 お答え申し上げます。  売春に関する犯罪につきまして、家庭判所が取り扱ったらいいということは確かに一理があるところでありまして、現在におきましてもそういうふうに主張なさる方が多いことは承知しております。しかし、家庭裁判所と申しますのは、御承知通りに、まず家庭生活健全化をはかる、それを中心の思想として発足をしたものでございまして、それに伴いまして、ことに家庭間の紛争、また家庭間の紛争あるいは欠損から起ります非行少年の問題を解決するために家庭裁判所ができております。従いまして、家庭裁判所中心は、その名前が示します通りに、あくまでも家庭にあるのでございます。売春の問題は、実は家庭にも大いに関係しておりまするけれども、どちらかと申しますと、これは社会の問題でありまして、家庭の問題ではないように受け取られます。そうして、家庭裁判所家庭間の紛争を取り扱います関係上、婦人対象とします事件が多うございます。ことに離婚とかその他のことがございますので、婦人に関することはあるいは家庭裁判所の方がいいのじゃないかという御議論もございますけれども、これはむしろ家庭を構成する半分が婦人であるということから起る事件でございまして売春というのは、一応家庭から離れまして、社会一つの事象として、現象としてのものでございますので、どちらかと申しますと家庭の問題でないように思います。  なお、家庭裁判所売春事件を取り扱った方がいいのだということですが、売春防止というものは、必ずしも処罰のみで期することができないので、どうしてもそこに矯正、いわゆる教育、保安処分考えられて参ります。ただいま家庭裁判所におきましては、非行少年対象といたしまして保安処分を主として行なっております。そのために家庭裁判所調査官というものがございまして、非行少年中心といたしまして、非行少年の周囲を社会学的に、あるいは心理学的に、あるいは医学的に深く調査いたしまして、それに対して、それに基く意見を出して、そして裁判官がそれによって、この少年矯正可能であるか、あるいはもうすでに社会との大きな問題を起しておりますので、普通の刑事裁判所へ送った方がいいかということをきめるのでございますが、そういうような制度がございます関係上、売春にも大いにその点は適用されますのでその機能を使ったらいいじゃないかということが、家庭裁判所売春の問題に使ったらいいという一つ議論根拠になっているように承知しております。家庭裁判所といたしましても、その点は無理からぬことでございますので、売春の問題が具体化するにつれまして、家庭裁判所でこれを引き受けてやろうかということも大いに考究されたのでございますけれども、何分、冒頭に申し上げました通り家庭中心といたしましてやっております関係上、家庭裁判所売春を引き受けることによって本来の機能を阻害されることが非常に多いのじゃないか。たとえば、非行少年といいましても、家庭裁判所に参りますのは原則として十四才以上の者が参りますので、そういうふうな人が出入りすることによって挑発されることも多いのでございますし、また、家庭裁判所の半分の大きな役割を持っております家庭間の紛争の調停につきましても、そういう売春婦というものの存在は知っておるでしょうけれども、まのあたりに見たことのない方々が出入し、そこに売春婦方々、ことに多くは起訴されて参るような方ですと、普通の方から見れば、態度なりあるいは服装なりが相当変った方が来るので、非常に刺激を受けやすい。家庭裁判所は、ただいま全国各地に十四の独立庁がございまして、その他二、三の独立庁舎がございますが、ただいま大体普通裁判所と併設されておりますので、そういう刑事裁判所と併設されておるということ自体がすでにまずいのでございまして、できたら離したいというふうなことも考えておる次第でございます。いわんや、売春婦のような人が入ってきますと、本来の平和の、しかも静かなうちに話し合いをつづけるということが家庭裁判所の一番大きな目的でございますので、そういう面が阻害される。と同時に、家庭裁判所は、御承知通り、ただいま判事判事補を含めまして全国で三百何人しか専任裁判官がおられません。しかも専任裁判官は多くは事実上ほかの地方裁判所あるいは簡易裁判所事務を取り扱っておられますので、手不足の点もございます。そこで、家庭裁判所といたしましては、婦人を取り扱う面におきましてはあるいはやわらかいという感じをこういう売春をした人たちに与えるかもしれませんけれども、しかし、本来の大きな目的が阻害されるという点が、家庭裁判所売春事件を取り扱うことに反対した根拠でございます。  そこで、そういう意味におきまして、家庭裁判所がもし売春を引き受けるといたしますと、たとえば庁舎を別にするとか、あるいは入口を別にするとか、一般婦人の方が出入するところと障壁を設けるとかいうような手数と費用をかけることになりますと、現在の状態におきましては、家庭裁判所で引き受けるのはむずかしいというふうな結論になりましたので、そういう御議論のあることは重々承知いたしておったのでございますけれども、あえてそういうことでお引き受け申さなかった次第でございます。
  7. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 だんだん説明はされましたが、しかし、家庭裁判所が現在の運営実情にかんがみて売春婦人裁判するのに場所的に雰囲気として適当でない、こういうようなことに帰するらしいのでありますが、やはり、新しい立法でもあり、また国家全体の非常に重大な目的を追求する法制でもあり、こういうふうな見地から見ましたら、きょうの現実の家庭裁判所運営実情からこれに反対するということは、当局のお立場はさることだが、しかし、国家立法というような目的のためにはどうも根拠が微弱ではないか、こういうように思われます。もし障害があれば、それをとり、あるいは適当でない場所というならば適当な場所を作り、人間が足りなければふやすというふうに、要するに、設備とかあるいは制度とか、そういうものを改めればよいのであって、従って、家庭裁判所の機構なりその他等を充実していけば、いけることに何ら支障はないとも考えられるのであります。そうしないことによって与える幾多の弊害なり、あるいは法律上の欠陥、運用上の困難さなり、そういうことにかんがみますと、やはりこの際家庭裁判所がこれを引き受けて扱っていくべき筋だという方が筋が通り、また国家立法目的からしましても適当であり、また適当な条件家庭裁判所には多い、かように考えざるを得ないのであります。今あなたらが単に家庭裁判所担当者としてのお立場から議論せられるということでは、この問題に対処する意見の表示は適当でない、私はこういうふうに思われますので、これはそういうような御意見だけ承わっておきますが、あなたの御意見がかり実情に合うといたしましても、実情を改めさえすればいいのだから、改め得るような方法さえ講ずるならば、やはり家庭裁判所に付すべき事件のように思われます。こういう点については、今後の立法その他の問題になりましょうけれども、どういうふうにお考えになっておられましょうか。
  8. 菰淵鋭夫

    菰淵最高裁判所説明員 ただいまの御質問によりますと、家庭裁判所が引き受けるべきではないかというふうのことを申されたのでありますが、家庭裁判所性格が、やはりどこか売春というものと全部には合致しないような気がいたすのでございます。婦人ということにおきまして、あるいは売春というものが家庭を破壊するという意味におきましては、家庭裁判所と共通するところがございますけれども、この売春事件をもし家庭裁判所で取り扱うということになりますと、ただいま少年事件におきまして二十歳以下の非行少年につきましてまず最初家庭裁判所が取り扱っておりますが、そのほかに、家庭裁判所が扱います成人児童福祉を害する罪がございます。これは成人についてやっております。しかし、これはごくわずかなものでございまして、児童福祉法あるいは未成年者飲酒禁止法未成年者喫煙禁止法労働基準法くらいのものでございます。家庭裁判所性格といたしましては少年保護家庭健全育成というこの二つが大きな眼目でございまして、その点から見ますと、今の成人事件を取り扱っているということも実は中途半端なものになっております。そこで、もし売春事件を取り扱わなくちゃならぬということになりますと、家庭裁判所性格につきましてもう一度再検討して、その辺からも考えなければ、家庭裁判所性格がすっきりしないというふうになりますと、少年法なりあるいはこれに関係いたします諸法の根本改正を促すようなことになりますものですから、そういうことになりましても、一つ家庭裁判所性格の再検討ということになりますと相当大きな問題になります。そういう面も含んでおるということを御承知おき願いたいと存じます。  それと同時に、ただいま御質問にございました通り、現状におきまして物的あるいは人的の設備におきまして非常に欠けるところがございましたので、ただでさえ家庭裁判所の円満な運営というものは末端におきましては必ずしも十分に参っておりません。そのために、われわれはいかにしてまず家庭裁判所の本来の機能末端においても十分に運営できるようにするかに始終苦労しております。その末期の運営が十分に参りませんうちにそういうものが入って参りますと、相当混乱が起るのじゃないかということが考られます。しかしながら、国家意思が、もし家庭裁判所売春をやれというふうにおっしゃいますならば、それは家庭裁判所といたしましてもそれに備える研究はしておりました。しかしながら、大体われわれのそういうような考えを申し述べました結果、そういうふうな方向でなく、一般刑事裁判所でやるというふうに考えをお変えになりましたので、その研究は中止しておりますけれども、もし国家意思がそういう方に向いますれば、それは相当の設備を要することでございますけれども、それはそれなりに考えていく次第でございます。
  9. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 私があなたに伺うゆえんのものは、やはり家庭裁判所性格なり運営の利弊なり、あるいはその種の問題を扱う裁判所はいずれが適当か、こういうことの判断は、あなたのお立場が一番深い経験と直接のいろいろな実情を多く御承知だから、適当だと思うので伺った次第であります。やはり、国家の名機関が、セクト的といいますか、自分の場所を守ることに急であって、全体のために一番よい状態を作り出すことへの協力が足りないと、この種の問題の解決はなかなかできません。すでに補導処分というような画期的なこういう制度を打ち出そうとするときでもあるし、全国から売春婦をなくしてしまうというような国家の大きな意気込みであるし、こういうような一種の革命的な文化立法というときに際会しておるのでありますから、やはりこの大きな見地から、この受け入れ態勢はいずれが適当か、こういうことを考えるべきだと思います。議論になるからこれ以上いたしませんけれども、そういうふうに見て参りましたら、すでに少年保護事件を扱っておられるし、単純な民事的な家庭内の紛争事件のみでない。今日の家庭裁判所機能はこの種の案件を扱うのに私は一番適当な条件の多い裁判所でないかと思いますので、このときはこの大きな目的に大いに協力する態勢をすべての機関がとるということが必要ではないであろうか、こういうふうに思うので、あえてあなたの御所見を伺っておった次第であります。しかし、国家意思家庭裁判所に付することが適当だということになればそうすることもよろしいという御意見であれば、私はやはりわれわれにおいてさらに今後検討していくべきだと思いますので、これ以上その点についての議論はお互いにかわさないことにいたします。  そこで、その次に伺いたい点は、防止改正法案の十七条の運用の問題であります。これにつきまして、私、前の委員会における質問において、これはすべからく調査官を付置すべきである、こういうふうに考えまして、その点について法務当局の御意見を伺った次第であります。そこで、どういうように施策を繰り返してみましても、どうもこのままでは適切な裁判、十七条の運用ができないようにも思われます。それで伺いたいのでございますが、裁判所といたしまして、裁判官五条違反成年女子補導処分に付するという言い渡しをするときには、相当な判断根拠がないと容易にできないのではないだろうか。そういうふうに考えますと、公判廷におきましてどれだけの判断資料裁判官に与えられるだろうか、こういうふうに思うと、これはまことに危惧の念が切なものがあるわけであります。つきまして、最高裁江里口刑事局長が見えておりますが、十七条の運用上ただいまの点につきまして一つ率直に御意見を伺わせていただきたい、こう思います。
  10. 江里口清雄

    江里口最高裁判所説明員 第五条違反の罪、これは御承知通り売春の相手方になるように勧誘する、あるいはそのために身辺に立ちふさがり、つきまとう、あるいは客待ちをする、誘引をするという犯罪でありますが、この売春防止法の罰則の規定が、売春婦をただその行為をつかまえて罰するということだけでございましたならば、これは非常に簡単な事犯でございますから処理は簡単と思うのでありますが、この五条違反の罪によって売春婦を拾い上げて更正させる、補導処分その保安処分によって更正させるということが法律の基本であると私は思うのでありますが、そういう運用考えますと、これは大へんな問題だと思います。と申しますのは、売春婦五条違反行為をするという外形的に現われたものは、ちょうど氷山の上に現われたようなものだけでございまして、その背後にひそむものを十分掘り下げて調査いたした上でなければ裁判はできないことになるのであります。そういたしますと、売春婦違反者素質や憾格、たとえば生活状態考えてみましても、売春婦には精神薄弱者性格異常者等が非常にたくさんございます。また、知能程度も非常に低いという者もございましょうし、健康状態調査いたす、あるいは環境境遇等家族関係や、従来の生活歴あるいは現在の生活状態、住所や居所や、あるいはその周辺の模様、あるいは雇い主がおるかどうか、陰のひもがあるかどうか、同居者や同僚はどんな者であるか、あるいは収入状態なり、あるいは生活能力がどの程度にあるか、売春婦に転落した原因や動機はどんなところにあるか、あるいは更生の意欲や更生能力等、それらのものを全部検討いたした上で、いかなる措置をとったらその売春婦更生させる上において最も適切であるかというところまで十分な資料を検討いたして裁判をするということに相なりますと、現在の地方裁判所の従来の刑事手続のままではいささか困難で、その資料を干分集めることができないのではなかろうか。犯罪事実、すなわち五条違反行為があったかどうかという点については、もう簡単な行為で、大体において現行犯でございましょう。これは法廷で調べましてもそうたくさんの証拠調べというものは必要でないと思いますが、そこで犯罪事実が認められました場合におきまして、ただいま申しましたような被告人素質経歴環境犯罪後の状況等、すべての情状調査するということになりますと、現在の公判中心主義当事者中心主義の建前の刑事訴訟法のもとにおきましては当事者訴訟活動というものが犯罪事実を中心として行われまして、情状についての調査あるいは資料というものが非常に不足するわけでございます。検察官から出される資料につきまして、これは十分な資料をお出しになるのでございましょうが、当事者の万でそれを証拠にとることに同意をしないということになりますと、それは証拠資料証拠能力がなく、裁判所はそれを証拠にすることが許されない。たとい証拠同意がありましても、それで十分な資料が不足いたした場合におきましては、やはり裁判所といたしましては、ただいま申し上げたような情状についての証拠資料を収集する必要があるわけでございますが、この点は、法廷証人調べをってやることまで必要ではないのではないか。それよりも、むしろ判決前調査機関といたしまして調査官等を置いて、心理学社会学等の専門的な知識を有する者を調査官にいたしまして、そして情状調査をさして、それを裁判官資料に供するということが最も適切な措置ではないかというふうに考えるのでございます。これらの資料は、公判証拠調べにおきましては十分に資料が出ませんので、調査官が一々出かけていって、近隣や関係者方面委員等について調査をして、その報告書を出す。その報告書に基きまして、その報告書法廷に提出いたしまして、被告人弁護人検察側の反証をあげる機会を十分に与えた上で、その資料判断資料にするということが最も適切であるわけでございます。英米におきましてもこの制度を広く認められております。わが国におきましても、家庭裁判所調査官がございまして、少年刑事事件につきましては、家庭裁判所調査官の作りまして調査報告書資料にいたしまして、これを当事者同意を得て法廷に提出して、それを証拠にして適切な量刑をいたしておるというわけでございます。このような調査官資料を利用して裁判することが最も適切であり、また裁判の促進という面においても非常に効果のあることでございますので、この五条違反を、ほんとうに売春婦をいかにして更生させるかという点を中心にして事件を処理するといたしましたら、この調査官地方裁判所に置いて、調査をさして、それを資料裁判をすることが最も適切であるというふうに考えるのでございます。
  11. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 そうしますと、最高裁判所の御所見としては、この場合地方裁判所において裁判をする、それはその通り適当であるとしても、調査官を置いて、そして今お述べになったような、犯罪事実以外にも各般状況証拠調査官に収集せしめる、なお、家庭裁判所において調査官が活動しておるように、地方裁を所に調査官を付置しなければ、裁判官として処分に付するやいなやの適切な判断をするのに事欠く、こういうようにお考えになりますか。
  12. 江里口清雄

    江里口最高裁判所説明員 最高裁としてはそういうように考えております。
  13. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 調査官を置くということであれば、どうすれば置けるということになるのでございましょうか。たとえば、法律にさらに改正を必要とするのか、単にこの売春防止法一部改正法律案修正でもするというのか、その具体的な方法はどうすることによって実現するとお考えになっておりますか。
  14. 江里口清雄

    江里口最高裁判所説明員 現在提案されておる売春防止法の一部を改正する法律案のままでございますと、地方裁判所調査官はございませんし、家庭裁判所調査官を利用するという方法もないのでございます。そこで、最高裁判所といたしましては、この売春防止法の一部を改正する法律案の中に、裁判所は第五条の違反にかかる事件の審理をする場合においては必要があるときには裁判所調査官情状についても調査をさせることができるものとすること、それから、この調査はなるべく被告人情状経歴素質性格環境経済状態等について医学、心理学社会学その他の専門的知識を活用してこれを行うように努めなければならないものとする、というような条文を挿入していただけば、十分にその調査をすることができる。なお、裁判所法に、地方裁判所調査官を置くという修正をしていただけば、十分調査官を利用してこの事件審判に当らせることができる、審判資料を収集させることができるというふうに考えております。
  15. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 今の御所見に対しまして、法務当局はどういうようにお考えになりましょうか。前段の調査官の設置を必要とするという基本的な考え方、それから、後段の具体的にこの法案条文を一部挿入して修正するという御意見、この二点につきまして、あなたのお考え方を詳細に承わりたいと思います。
  16. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 だんだんと御意見がございましたが、この問題は、すでに御承知のように内閣に設けられてありました売春対策審議会で取り上げられまして慎重に研究をいたしたのでございますが、通常裁判所調査官を置くということが現行わが国刑事訴訟根本構透一つの変革を来たすものであるという観点からいろいろと研究をいたしまして、とりあえずは現行のままでいったがよろしい、いずれこの問題については根本的に刑事訴訟制度全般にわたって研究しなければならないということで、答申案からもこの問題ははずされておるようでございまして、今御審議中の法律案はこの審議会答申通りに立案いたしておるわけでございます。この問題は根本的に非常にむずかしい問題のようでございまして、当初、法務省の考えといたしましては、第五条違反の罪を裁判するに当りましては、新しく補導処分制度が設けられましたので、普通の裁判とは性質を異にするということから、これは家庭裁判所で審理していただいた方が適当ではないかというような考えをもちまして、いろいろ裁判所側とも御相談をいたしたのでございますけれども、今だんだんと御意見の御開陳のありましたような理由、そのような御事情等がございまして、私どもの方もそれを了承いたしまして、家庭裁判所根本性格事情等に関して相当の変革があるならば、これはまた将来の研究でお願いするとしても、とりあえずは通常裁判所の方で扱っていくことにしようということになりました。  そこで、しからば、根本の問題といたしまして、この犯罪をさばくに当りましては、普通の犯罪と違いますから、本人の経歴とか性格、あるいは家庭事情、経済状態というようなものを十分に調べて、そして補導処分に付することがいいかどうかというさばきをしなければならないから、やはり調査官制度というものが要るんではないかという意見がここにまた出てきたのでございますが、その根本的の考えにつきましては、私どもも、この裁判は特別の裁判でございますから、よく本人に関する調べをしなければならぬ、かように考えておるのでございまして、そのためには、来年度の予算から申しますると、全国に十四カ所ばかりの更生保護の相談室を設けまして、ここに保護観察官を中心といたしましてそれぞれの専門家を駆使しまして、十分にその点は調べをし、それを検察当局といたしましては裁判に提示して裁判官裁判の参考資料にいたしたい、かように考えております。調査官制度がなくも、大体においてその目的を達し得るのではないか。さらに進んで、調査官法律の明交で置くということになりますと、先ほども申し上げましたように、現行刑事訴訟制度がとっております法廷中心主義と申しますか、この根本構造に対して変革を来たすということであるから、この問題は根本的に調査をしていかなければならない。この刑事訴訟法、刑法全般にわたりまして、あるいは保安処分に関する根本的の調査、また、この問題を家庭裁判所にまかせるがよろしいかどうか、そうすれば家庭裁判所の機構についても根本的に考えなければならぬ。また、今のような制度でいくとしまして、調査官制度を認めるかどうかということについて、刑事訴訟法全般にわたっての根本的の調査をして、その結論を得た上で決定していかなければなりません。とりあえずは、今申し上げましたように、全国十四カ所に付置いたしまするところの更生保護相談室というようなものの調査によって裁判を補っていけばよろしい、こういう考え方を持っておる次第でございます。
  17. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 更生保護相談室でどういう調査ができるかは別といたしまして、それはまた将来の問題で、更生保護相談室の資料公判廷に裁判官の前に出るということには、今の刑事訴訟法上必ずしも期待はできないのでございます。そうしますると、起訴状を受けて、これを中心法廷に現われた資料のみによって判断をしなければならぬ。裁判官はそれ一つにかかっておるわけではなしに、多数の事件を処理する裁判官は、情状、特に補導処分に付することが適当かどうかという情状につきまして、かなう資料が出るということを約束せられない場合に、一体どうして適切な判断をすることができるのであろうか。これは、私は、このまま実施に移せば裁判運営上実際問題として非常な障害が生ずるのではないかということをやはりおそれまするが、その売春対策審議会の経緯、それから、ぜひこの種の立法が必要である、そういう要請に基くという経緯はわかるのでありますけれども、やはり現実の裁判をやっていかなければなりませんので、刑事訴訟法に基きまして行う裁判公判廷において十分な補導処分の適否判断資料、準備材料が出ないということになりましたならば、裁判官としては惑わざるを得ないというふうに思うのであります。そこは、今の大臣の御答弁で、地方に相談室ができたからといって、相談室と法廷と結んで、これは回答にはなりません。もっとも、きのう何か高橋委員の御質問に対して検察庁からできるだけそういう資料も出したいというような答弁があったように記憶しておりますが、これとても被告人立場から見ると必ずしも出るということは期待できない。また、出さなければならぬ義務はないし、きょう政府側からそういう御答弁があったからといって、今後の裁判を拘束する何らの根拠もない。こういうことになりまするから、今の御答弁だけではその欠陥を補てんする明確な回答にはならぬと思いますが、刑事局長のお考えを承わりたい。
  18. 竹内壽平

    ○竹内政府委員 大臣の御答弁に敷衍いたしましてお答え申し上げたいと思います。  最高裁判所側の御説明にありましたように、補導処分をいたします場合には、普通の犯罪の存否を確定するためのいわゆる刑事裁判手続における証拠資料、それだけで不十分でございますことは、将来に向っての習慣性その他を認定いたしますことなくしては補導処分の言い渡しはできないわけでございまするから、それで不十分でありますことは私どももよく承知いたしておるわけでございます。  そこで、犯罪者の売春婦補導処分に値するような状況資料をどうして裁判所に提出するかということが問題でございます。その資料の出し方として、最高裁判所側では、調査官資料をもってこれに当てたい、それなくしては十分いきにくいのではないかという御意見のようでございますし、政府側といたしましては、刑事裁判の手続におきましては、すべて直接審理主義でございますので、公判にこれをさらけ出して、そうして、その資料は、まず当事者である検察官が補導処分を相当だと考えます場合には、補導処分を受けるに必要な資料は検察官側が義務として出さなければならないのでございます。そこで、一般刑事裁判においては今まであまりそういう資料が出てないじゃないかということは御指摘の通りかと思いますが、この事件は、そうではなくして、線導処分を検事側として求めたいということになりますならば、補導処分をするのに裁判官が安心して補導処分ができるような資料を出さなければなりません。そういう資料はどうやってとるかと申しますと、その犯人の環境経歴、置かれております状況、あるいは医学的な疾病の状況、そういったようなものもすべてこれを科学的に収集いたしまして出さなければなりませんが、法務省には、御案内のように保護観察官というものがございますし、先ほど大臣がおっしゃいました婦人相談室というのは、将来拡充はいたす計画でございますが、すでにこの議場でも御披露したことがあるかと思いますけれども、六カ所において実績をもう作っております。そしてまた精神病の相談のようなこともやっております。そういう資料を検察官としてはとりまして、これを証拠化しなければ法廷に出せないわけであります。裁判所調査官の作った資料ならば無条件証拠になるのかどうか、そこのところが私には理解できないのでございますが、なまの状態のそういう資料がそのまま法廷資料になろうとは私は思いませんが、これを検察官の手によって証拠にするように、あるいは検察官の検察官調書を作るなり、いろいろな形にいたしましてこれを証拠化して、これを法廷に提出して、当事者議論にさらして、そうしてそれを裁判資料に供する、これが刑事手続のやり方でございますので、そういう手続に乗せますために、検察官は今後この問題の処理につきましては一般事件と違ってそれだけの多数の努力を払わなければならないわけでございます。そういう方法でやるならば十分できるのではないかという考えを持っておるのでございます。  もう一つ、つけ加えて申しますが、補導処分になりました場合に、いつ何どきでも仮退院をすこるとができるのであります。裁判の結果が一般の刑でございますと、三分の一の刑期を経過しませんと仮出獄というものはできないのでございますけれども、保安処分につきましては、何どきでも、一日でも置いてすぐ仮退院という道を開いておりますが、これらはすべて政府がの保護観察官の活躍その他によって、行政処分といたしましても非科学的な方法ではなくして科学的な方法でそれを全うしていきたいという信念に基いてこういう制度を作っておるのでございます。  従いまして、裁判所調査官も非常に有能な方々でございますけれども、政府機関としてございますところの保護観察官その他民間の諸機関との連絡、協調によりまして集めて参ります環境調査資料というようなものも十分活用してこの制度を全うしていきたいという考えのもとに立案されておるのでございます。
  19. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 法務省刑事局長は、やはり補導処分を決定する上においてこのままでは十分でない、これはお認めになっておるわけであります。そこで、裁判所側は、調査官が必要であり、また調査官が適当である、こういう考えである。あなたの方は、別に調査官は必要でない、省内に保護観察官もあるし、その他警察等の側における資料も出るから、そこでこれによって十分である、もしくは補うことができるいうふうにお考えになっておるようなんでありますが、しかし、やはり裁判をするのは裁判官であり、そしてその前のその種の材料というものはいろんな角度から収集をしなければなりませんし、また直接しなければなりませんので、実際問題としましては、これは法廷へ十分に出ないということがほんとうじゃないだろうか。なるほど、今後の施設として、もしくは今の保護観察官の活用、運用ということもお考えになっておるか知りませんけれどもずいぶんとたくさんにこの被告人が出るかもしれぬ。しかし、結局は約三百に足らない程度しか収容能力がない。そこで、補導処分を決定するかどうかということになると、かなり具体的選別ということも重要になってくる。こういうふうに考えて参りますると。裁判官に直接提供される裁判資料、ことに補導処分が適当かどうかという資料というものは、相当具体的に適切に十分に出されなければ、国民のこの点に関する権利の保護も私は全うできないのではないかと思うのであります。  そこで、根本的に、あなたの方、法務省におきましては、この法案提出の経緯にかんがみて、これではいかぬけれども、まあ不十分だけれども、やむを得ずこういう方法によって補っていこうというようなお考えなのか、それとも、調査官というものはなくても完全にその欠陥は補てんし得るのである。こういうふうにお考えになっておるのだろうか。私は、やはり、現状運営、もしくはこの調査の困難、もしくは相当手を尽して慎重にしなければならぬという観点から見まして、あなた方のお考えはどうも根本においてまだはっきりしていないのではないだろうか。ほんとうに調査官を必要でないというような、そんな自信はお持ちになっておらぬのではないであろうか。立法を急ぐ必要上ただいまのような方法でその欠陥を埋めることはやむを得ない、こういうふうなお考えでないのだろうか。ここはやはり率直に基本的な態度、見解というものは明確にしておいてもらわなければならぬと思うのであります。
  20. 竹内壽平

    ○竹内政府委員 調査官制度の問題は、同時にまた刑にかえて保安処分を行うかどうかという問題と関連を持つと思うのでございまして、これは、保安処分は、前回申し上げましたように、刑そのものではございませんで、一つの行政処分だというふうに思われるのでございます。行政処分でやります場合には、いわゆる公判廷における刑事訴訟法上の証拠についての各種の厳格な制限から一応解放される手続でございますので、いかようなる資料も提供し得るのでございます。そこで、私どもとしましては、できるだけたくさんの資料を提供して裁判に遺漏なきように処置いたしますことを考えるわけでございまして、調査官が頭からいけないのだというのではないのでございます。それで、もしもできますならば、家庭裁判所の手続に、少年の手続に準じた手続で保安処分を行うことができますならば、調査官調査によりまして十分裁判所の納得のいく方法裁判をしていただくという道が一番よろしいかと思うのでございます。ところが、先ほど来御意見もありましたように、私どもも賛成をいたしておるのでございますが、家庭裁判所でこの問題を処理いたしますことは適当でないということになりましたので、そういたしますると、現行刑事手続に乗せてこの保安処分を実施するほかないということになりました。もちろん、これには、将来の問題として、日本の刑事裁判手続を、保安処分を含めた二本建の構造に変えるという問題がございます。これはひとり売春婦に対する保安処分だけではなくして保安処分制度として考えなければならない問題でございますが、さしあたり、それは非常に大事な問題でございますので、これはこの際に解決するということは避けたいという気持になりましたので、さしあたりこの問題の解決としては、刑事手続に乗せて保安処分を行うという線を出したのでございます。  そこで、刑事手続にしたならば調査官は不要であるというふうに私どもは申しておるのではございませんで、けっこうな制度ではあろうかもしれませんが、刑事手続に乗せます以上は、やはり当時者主義、直接主義、公判中心主義というような、いろいろな訴訟法上の特徴を持っておりますが、そういう制度に乗せてやります以上は、やはり、この場合には、めんどうでありましても、苦労が多いことでありましょうとも、検察官側がこの立証の責任を負っていくのが刑事手続の建前であろうというふうに考えまして、私どもは、調査官制度はこの刑事手続に乗せるについてはやめよう、しかし、将来この問題が根本的に解決されるとき、つまり刑にかえて保安処分を行うというように根本的に解決されます時期においては、当然この問題は裁判所の御要望の通り考えなければならない問題だというふうに考えておるのでございます。
  21. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 今の点は、根本にはやはり調査官がある方が適当であるというような御意見らしいのでありますが、調査官を置くことによって、刑事訴訟法各般の手続ないしは構成上の影響のこともお考えになって、とりあえず今のような、実はその他の機関によって事件を十分補てんをしていきたい、どうもそういうお考え方らしいのであります。それほどに刑事訴訟制度の大きな改革といいまするか、そういうふうな影響をすべきものかどうか。そうしないで調査官を置き得る道はあるのではないか、こういうことも考えられますが、裁判所法の五十七条なども、すでに、別の趣旨でありますけれども、最高裁及び高裁に調査官を設置いたしております。これはその目的はやや違っておるようでありますが、「事件の審理及び裁判に関して必要な調査を掌る。」というのが五十七条の第二項の規定になっておるわけであります。こういう調査官とは趣きが全く違いますけれども、その任務を広げていけばいいのでありますから、こういう改正でも一つの手段であるではないか、こういうふうに思われまするが、これは裁判所側の御意見一つ聞いてみたいと思います。
  22. 江里口清雄

    江里口最高裁判所説明員 ただいま、この裁判所に、調査官を置いた場合に当事者主義やあるいは直接主義、法廷中心主義に違反するというふうな御意見がございましたが、私たちは、これと違反するとは考えておらないのでございます。と申しますのは、当事者主義、なるほど訴訟の資料当事者から出すというのが当事者主義でございましょうが、それは大いに出していただきたいのでございます。ただ、当事者が出して、それで不十分であると裁判所考えた場合に、不十分なままのもので裁判せいと言われても、これは裁判できない。そうなりますと、結局刑罰が形式的な刑罰で終ってしまって、この法律目的が達せられないことになることを憂えるのでございます。当事者主義でございましても、それで不足な場合におきまして、裁判所が職権で資料を収集する道は現在の刑事訴訟法に残されておるわけでございまして、当事者が出してはいかぬということではなくて、大いに出していただきたい。ただ、それに足らないという場合に、裁判所が職権で証拠調べ資料を収集する。その資料を収集する際に、この情状に関する調査でございますので、公判廷でやったのでは十分に出ないので、調査官をして資料を集めさせたい。そういう制度を持つのが相当であるというふうに考えるのであります。検察官側から出していただくことも、これは大いに歓迎し、出していただかなければならないわけでございますが、この資料被告人弁護人の方で証拠にすることに同意しないと言われた場合においては、これは証拠能力がなくて、何にも証拠がないということに相なるわけでございますので、かような場合におきましては、どうしても法廷で、裁判所側で資料を収集するという必要ができて参るわけでございます。  法廷中心主義に反するということでありますが、この資料法廷に出さないということであれば、これはまた法廷中心主義に反するということにもなりましょうし、裁判官だけが見て、そうして秘密に、当事者に見せないでやるということであれば、これは不当とも思うのでございますが、その資料当事者の方に提出して、十分に反対尋問の反証をあげる機会を与える、法廷証拠調べをするということにいたさなければならないというふうに考えておるわけでございます。それから、直接主義に反すると申しますが、検察官が書面で、あるいは保護観察官が集められた資料等も、署名を得て、当事者同意を得て出す。裁判官が職権で調査官をして収集させた資料も、署名を得て、これも当事者同意を得て出すということに相なるわけでございます。現在の手続と少しも相いれないものではないのであります。現に、少年事件におきましては、家庭裁判所調査官が収集いたしましたこの社会記録、いろいろな監督措置その他の資料を収集いたしまして、これが社会記録として報告されるわけでございますが、少年事件の審理、少年事件が起訴された後におきましては、この調査官の作成した資料が、当事者同意を得て裁判所に提出され、量刑の資料あるいは保護観察をいたすための資料に現に使われておるのでございます。この少年事件につきましては、こういう十分な資料に基いて裁判をいたしておるわけでございます。決して現在の訴訟手続に反するとか矛盾するとかということはない。現に行われておることを、これを、この売春事件五条違反というものは特殊な犯罪でございまして、十分な資料が望ましいというために、どうしてもこの調査官を置いてこの資料を利用することが必要であるというふうに考えるわけでございます。  なお、この情状に関する調査は、これは被告人あるいは関係人その他周囲の人々の私事にわたることもございます。従いまして、これらの人の人権を犯すということのないように保証されておらなければなりませんし、また、調査収集された資料というものが普遍公正なものでなければなりません。これには公正な裁判所調査官調査報告したものが最も信頼性があるということが言えるわけでございまして、これらの調査というものは、捜査官から独立した、あるいは捜査官系統と違った者の調査書が最も信憑性があるということが言われておるわけでございまして、検察官がお出しになる資料は大いに出していただきたい。ただ、それが足りない、あるいはそれの証拠能力がない場合、裁判所が職権をもって集めるということにいたしたいというわけでございます。
  23. 町村金五

    町村委員長 林君
  24. 林博

    ○林(博)委員 刑事局長にお尋ねいたしたいのであります。  今の訴訟は当事者中心主義公判中心主義である。この場合にだけ特に限って裁判所調査官を置くことが公正な裁判を得るゆえんであるということをおっしゃるのでありますが、私は、もし裁判所でそういうお考えであるならば、すべての訴訟事件についても同様であると思う。この場合にだけ特にそういう考え方を持たれることはないと思う。何ゆえに刑事局長はこの問題にだけ限って特に裁判所調査官を置かなければならないということを主張されるのか。私は、現状の刑事訴訟法の手続から申しましても、これは現在の検察官においてできることであると君えるのであります。検事はただ起訴さえすればいいんだ、売春関係事件は簡単なものだから、ただ起訴すればいいんだという考えで、補導処分ということを考慮に入れられないで、ただ起訴すればいいんだというお考えだけでやるならば、これはきわめて問題であろうと思う。しかしながら、私は、決して検察庁においてもそういうお考えは持っておられないと思う。補導処分ということも十分に考慮してあらゆる調査をなされ、その上で起訴、不起訴を決定される。特に普通の犯罪よりもそういう情状関係に特に考慮を払って調査をなされた上で私は御起訴になるものであろうと存ずるのであります。それにもかかわらず、何ゆえになお検察庁にこれをおまかせしないで裁判所調査官というものを設けなければならないのか。一体、その裁判所調査官というものは、どの程度の能力、または調査能力を持つたものを予定されて、こういうことをされておるのであるか。たとえば、今の少年の場合には、非常に専門的な調査官もおられましょうし、また鑑別所というような制度もあって、相当詳細な調査をなされるわけでありますが、売春婦に関しても同様にあの程度までの詳細なことをなされるようなものを裁判所に設けられるつもりでおられるのか、それとも、単に調査官があっちへ行きこっちへ行き調査をする程度だったら、検事なり検察事務官なりが調査をその点に重点を置いてされるならば、私は十分にできると思う。あるいは、裁判所の方で、検察官のやられることは何と申しまするか公正を欠くというようなお気持であられるわけでもないでありましょうが、あるいはそういう気持であられることがこういうことの根源になっておるのかもしれませんが、私といたしましては、現在の察庁で十分にその調査をなされるならば十分なことである。また、調査官制度というものは裁判所に置かなければ公正にならないんだというようなことがありまするならばすべての事件、すべての複雑な事件についても私は同様なことになると思うのでありまして、この点がどうも納得できないのであります。この点について刑事局長の御意見並びに法務省の御意見、双方伺いたいと思います。
  25. 江里口清雄

    江里口最高裁判所説明員 的確な量刑をいたすという場合におきまして、法廷で証人によって収集する証拠ばかりでなく、法廷の証人ではなかなか出てこないようないろんな資料まであった方が望ましいことは、これはすべての事件について言えると思います。ただ、この事件について私たちが特に必要だと申しますのは、保安処分がついておるからでございます。保安処分は、この補導処分のみならず、保護観察制度というものもあるわけでございます。執行猶予者について保護観察の制度が昭和二十八年以来行われておるわけでございますが、この言い渡しが非常に少い。何がゆえにこの執行猶予に対してさらに保護観察が少いかと申しますと、これはいろいろ私たちは調査をいたしておりまして、執行猶予も野放しにしたのではさらに罪を犯すから、そういうことのないように一つこれを補導援護するために保護観察という制度ができている、これが十分に活用されるというふうに思っておったのでございますが、過去三カ年間の実績を見ますと、非常に少い。わずか一〇%か一二%、執行猶予言い渡しのうちのその程度にしかすぎないのでございます。どういうわけで少いかと申しますと、結局、執行猶予にさらに保護観察をつけるのは不利益な処分である、従って、そのための資料がどうしても必要だ、その積極的な資料がない、調査官を置いて調査しなければその資料が現われないというのが裁判官会同等に現われた全裁判官の意向なのでございます。保護観察というものよりはるかに不利益な処分でありますところの補導処分六カ月——執行猶予者は普通であればそのまま社会生活をし、社会において理解しながら改俊をしていくというこの制度の執行猶予に対して、補導処分というのは六カ月間拘束する。非常な不利益なと申しますか、考え方によりましては不利益な処分でございまして、このためにはそれ相当の資料が集まらなければならない。過去における保護観察の実績等から見まして、普通の事件についても必要でございますが、特に補導処分を行うためには、この調査官調査がなければ、この法の万全な運用が期せられないというふうに考えるからでございます。
  26. 竹内壽平

    ○竹内政府委員 調査官のお作りになった調査資料ならば検事も弁護人もすべて同意するという前提の御議論のようでございますが、これは科学的調査を基礎とするものでございまして、検察官が作りました報告書では非常にへんぱな扱いだというふうなことが前提になっているような御議論のようでございまして、その点恐縮に存ずるのでございますが、私は、売春防止法の五条の罪につきましては、なるほど起訴猶予、罰金、罰金の執行猶予、実刑の執行猶予、それから執行猶予付保護観察、執行猶予付補導処分、さらに実刑と、非常にたくさんのニュアンスのある処分考えられるわけでございますが、そもそも、この売春防止法五条の罪につきましては、犯罪としてはきわめて軽いものでございます。これはむしろ補導処分への契機、手がかりというふうに私は理解したいのでございまして、売春婦に対する犯罪は、ニュアンスはたくさんありますが、大部分は起訴猶予ということで更生保護をはかる。真にやむを得ない、どうしてもという売春婦につきましては補導処分をする。そのまた中間に保護観察というのがありますが、多くはこの三つの種類の形態において処理されるのが一番適切ではないかと思うのでございます。そして、おそらくこの法の趣旨は検察官も十分理解をしておりますので、この三種の段階において処理をするといたしますれば、起訴猶予にいたします場合におきましても、更生保護の裏づけなくしてはみだりに起訴猶予にすることは許されないのでございまして、その点については、すでに先ほども申しましたように、検察庁におきましても、保護観察官、あるいは婦人相談員、あるいは保護司、そういう方々の協力を得て婦人相談室数カ所ですでに実例として実績をあげておりますし、さらにまた、そういうことによって保護の裏づけを持った起訴猶予にいたしているのでございますが、今度は、保護観察に付する場合並びに補導処分に付する場合につきましても、それらの人たちの協力を得て、そうして科学的な調査方法をして、その報告書を出す、あるいはそれを証人として、出すというような形で刑事手続に乗せるような運用に持っていかなくてはなるまいと思うのでございます。もちろん、先ほど御指摘のように、検察側の出した資料が相手方の同意を得られない場合には、これは証人によるほか仕方がないのでございますが、裁判所調査官によって作られました資料がかりに法廷に提出された場合に、この資料は、先ほども内容について御説明がありましたように、極端な例を申しますと、精神薄弱者だといったような資料が出てくる場合に、弁護人の方で精神薄弱者とは何だといったような異論もあろうかと思うのでございまして、もし異論があればこれまた採用されないということになりますれば、その点は、科学的な調査という点から見ますれば、調査官がお出しになる資料も検察官側から出します資料も、その科学性という点においてはへんぱとか不公平とかいうことは観念的にあり得ないのじゃないかというふうに思うのでございまして、この補導処分というのは一つ保安処分でございますので、これは積極的に検事側がその意思でもって運用して初めて多くの実績をあげ得るのじゃないかと思うのでございます。これは別に議論をするわけでございませんが、そういうふうに考えておりますので、今回の改正におきましては、とりあえずそういうことで検察官にめんどうをかけますけれども、そういうふうな方向で運用してみたいというふうに考える次第でございます。
  27. 林博

    ○林(博)委員 私も実はそう思うのでありますが、先ほどの江里口刑事局長のお話を聞いておりますと、調査官調査したことは何でものみ込むのだ、ということでもありませんでしょうけれども、そういうことが何か前提になっておるように思うのでありますが、かりに調査官調査いたしましても、当事者がこれに同意をしなければ、これはまた検察官の資料と同じことであると私は思うのであります。それで、検察庁においても、この問題については、先ほど申し上げましたように、やはり補導処分というような特殊な問題を前提といたしまして相当詳細な調査をして参ると思うのであります。特に刑事局長が何ゆえにこれをどうしても検察庁にまかし切れないで裁判所調査官を置かなければならないのか、どういう点が主眼でそういうことをおっしゃっているのか、検察庁の能力に限りがあるというのか、あるいは裁判所における調査官と検察庁における捜査と性格の相違があるというのか、あるいは専門的な能力の差があるというのか、あるいはその他の何らかの理由があるのか、その点を具体的に承わりたいと思います。
  28. 江里口清雄

    江里口最高裁判所説明員 裁判所調査官が作った資料当事者同意が得られなければ証拠にならないかどうかという点については、これはいろいろと議論があるのでございます。公正な裁判所機関一つである調査官の作った資料、しかもそれは犯罪事実に関する証拠としてはとれないということで制限をかけまして、ただ情状関係についてだけ証拠にすることができるというふうに、証拠能力について制限をかけますと、情状だけについての場合には、当事者同意なくしても証拠にとれるという解釈が立つ余地もあるのであります。学者によりましては、情状関係についての資料であったら厳格な証拠でなくてもよろしい、公判廷にそれを提出して当事者に反証の機会を与えれば、それは証拠能力を持つ、情状については証拠にすることができるという解釈も立つ余地もございます。学者はそういう意見をたくさん述べておられますし、判例におきましても、あるいはそういう解釈に近いような判例も出ておるのでございます。しかし、この点は、調査官調査した資料が出ました場合に争いがあれば、結局は最高裁判所の判例によって決せられることだと思いますが、その解釈がはっきり確定いたさないうちは、やはり当事者同意を待って法廷に提出する、それで証拠調べをするということに相なると思うのでございます。検察官の提出される証拠を信用しないというわけでは決してないのでございますが、検察官はどうしても起訴官の立場でございますから、犯罪事実の存否の方の証拠犯罪事実を立証するという立場に立ったものの側の調査でございますので、そういう立場でない裁判所調査の方が一般的に申せばやはり信憑性があるということが言えるのではないか。従いまして、この情状調査については、調査官から独立した機関、あるいはその系統でないものの調査をさせる方が望ましいということは、調査官制度がとられております英米において一般に言われておる事柄でございます。検察官の出された資料裁判官が信用しないというわけでは決してございませんが、なお必要ありと思った場合には職権で調べる余地は残しておかるべきではなかろうかというふうに考えるのでございます。
  29. 町村金五

  30. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 結局、ただいまの問題は、言葉はいろいろとありましたけれども、政府側においては、調査官は必要ではない、最高裁側は、調査官が必要である、もしくはあることが望ましいということでありまして、要するに、十七条の運用におきましては、調査官を必要とするかいなやにつきましては両者の意見が対立しております。そこで、やはり裁判所裁判官はそれぞれと独立の立場裁判をするのでありますが、最高裁の意向につきましても今後の運用立場からお考えになっておる点もあるし、また、われわれ自身にいたしましても、この際、家庭裁判所少年事件等の例に徴してみまして、いろいろと類似の要素を持った五条違反婦人裁判でありますので、調査官が必要ではないかということをだんだんとお問いしておった次第であります。それならば、これは可能な範囲でやはり被告人立場を十分に保護するという必要もあろうかと思いますので、法務省側におきましても調査官を置くことを根本から反対するという強い御意向もなさそうでありますので、簡単にきょう提出されておる法案の一部修正によって調査官を置き得るということであるならば、法律そのものといたしましてはそれで完全になるのではないか。もっとも予算関係も伴って参りましょう。何となれば、調査官増員という結果を来たしますから。その他の基本的な刑事訴訟法制度、構造等々についての重大な影響はないとするならば、一部修正して調査官を設置することもいいのではないか。非常に強い反対の意見であるならば別ですけれども、この点につきまして重ねて一つ大臣から御所見をお聞きしたいと思います。
  31. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 この問題は、だんだんと申し上げました通り、当初この案件家庭裁判所にお願いした方がよくないかという考えから出発して、それ以来だんだんと裁判所側の御意見も承わりつつ研究して参った問題で、先ほども申し上げました通り売春対策審議会でも一応論議を尽したわけでございますが、一般裁判所裁判をさせるということになりまして、その観点に立って、だんだん申し上げましたような婦人相談室というようなもので検察庁側から十分なる資料を提供する、そうすれば実質におきましては調査官制度を認めなくても同じ趣旨が達せられるという観点に立ちましてこの法律を作って参ったのでございます。そういう意味で私どもの側におきましては、十分に今の制度目的を達し得ると考えて、修正の必要はないと考えておるわけでございます。
  32. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 関連して……。  最高裁判所の、調査官の御意見ももっともだと思うのでありますが、ただ、私が多少不可解に存じますことは、これは社会党が数年前売春等処罰法を出しました際には、売春婦を処罰するような規定でありました。今回は単純売春は処罰しないのでありますが、そのときから問題になっておった。こういう売春行為を処罰するという文化革命と称せられるような重大な法律審判は慎重にやらなければならぬから、これはもうすでに少年法その他において経験を積んでおる家庭裁判所裁判をやることが穏当じゃなかろうか、——普通の自然犯と違うのです。いろいろの社会環境やらその精神状態やらが影響いたしまして、かような売春行為をやる者が出てくるわけなんであるから、ただ単純な自然犯として普通の刑事訴訟法に従って処罰するということでなしに、これはやはり家庭裁荊所で、少年その他を取り扱うと同じような気持で、十分すべての環境を科学的に調査するために調査官を活用した方がいいし、あるいはいろいろその他家庭裁判所の長所を発揮して、やむを得ず処罰する者はするという態度をとった方がよかろうじゃないかということを、私は政府委員に、ことに当時の最高裁家庭局長、今その方は神戸の家庭裁判所の所長になっておるかと思うのだが、その人に数回同じ質問をしたのであります。ところが、当時の最高裁の人のその答弁は七里けっぱいの答弁でありました。今の家庭裁判所でも事件が飽和状態であるのに、売春婦なんという者が出入りしたのでは大へんであるから、それはごめんこうむりたい。私は再々言うたのに対して、そういう態度をとっておられた。ところが、それであるからあなた方にお聞きしたいのは、あなた方の考えることはもっともだと思いますけれども、今この補導院法なんかでもとにかくそう長い間審議できないのだ。結論をもうしばらくの間に出さなければならぬと思うのですが、そこへきて突如としてこういう提案をなさる。これは、先ほど議論がありましたように、弾劾制度をとっておりまする刑事訴訟法上は非常に画期的な提案であるわけです。それだけ、十二分なる、刑事訴訟法根本と調和するように想を練らなければならぬ。補導処分そのものが画期的なやり方でありますから、いろいろ疑惑が出てくるし議論はありましょうが、とにもかくにも、今の政府の提案は刑事訴訟法とマッチした提案はしてあるわけなんです。そこで、これをある程度変革するような提案が最高裁からの提案でありますが、それならば、なぜもう少し事前に十二分なる最高裁意思というものを当委員会にあるいは政府機関にお打ち合せしなかったのだろうか。今、あなた、ここへきてこういうふうに刑事訴訟法根本態度を変えるような案をいとも無ぞうさに——法文の一カ所をちょっと変えてやるということは無ぞうさ過ぎると思うのです。その精神はほんとうに私も賛成だから、場合によっては附帯決議をしてもいいと考えますけれども、これは少し唐突過ぎはせぬか、こう私は考えます。最高裁判所がさような態度になってこられた理由、及びこれについて政府機関と何らかの協議をなさったのであるか。同じ政府の機関が公開の席上で議論を戦わせようというのはいかぬという議論をする人もあるかもしれませんけれども、私はそれは当らぬと思う。三権分立の今日、政府機関といってもそれは行政機関についてのことであります。最高裁判所は、独自の予算をとり、独自の見解を持つことは当然であります。何らはばかることはない。何も政府の方針に盲従することはさらにない。しかし、ただ、あなた方の提案が唐突過ぎる。やはり同じ国家機関である以上は、国家機関内部で交渉があることが常識だと思う。そこで、私は、これは法務大臣と江里口刑事局長にお尋ねいたしますが、最高裁判所が、前に売春等処罰法の審議の際に、委員側から提案したにかわらず、まるで一顧の価値なきやの答弁をしておったものが、今突如として調査官を介入させるというような考えに変られた理由、及びそういうことの経過について法務省側と緊密なる連絡のもとに相談をなされたかどうか、この二点をお伺いいたします。これは両者からお伺いいたしますが、江里口さんから先に御答弁を願って、相談があったかないかについて法務大臣の御答弁を願いたい。
  33. 江里口清雄

    江里口最高裁判所説明員 売春婦事件の処理につきまして調査官が必要であるということは、裁判所におきましては、売春対策協議会、四年ほど前でありますが、それ以来主張いたしておったところでございます。あの当時、ただいまもそういう御議論を承わったのでございますが、その事件家庭裁判所でやったらどうか、家庭裁判所調査官にはかって、十分情状等の調査をやって審判することが望ましいという御意見があったのでございますが、裁判所といたしましては、家庭裁判所よりも成人売春婦については地方裁判所が取り扱うことが相当であるという結論で、しかし、地方裁判所が取り扱うにいたしましても、家庭裁判所が取り扱うと同じような、慎重な調査官調査を経た上で審判するようにいたしたいという意見をずっと述べて参ってきておるのでございます。内閣に設けられました売春対策審議会の席上におきましても、最高裁判所側においては、この保安処分の内容につきましても、刑のほかに、刑にかえて広く保安処分を設けるべきであるという点が第一点、第二点として、地方裁判所がやるについては、どうしても調査官地方裁判所に置いて、情状調査等、慎重な科学的な専門的な調査を経た上でやらなければならないということを主張して、また、最高裁判所刑事局は、その点につきましていろいろな案も提出いたしたのでございます。ところが、これが私たちは当事者主義の根本あるいは法廷中心主義の根本に反するというふうには考えられないのでございますが、そういうふうな御意見も出、あるいは、ことしの四月の実施を控えてとてもそんなことはやっておれないというような御意見も出て、売春対策審議会ではお取り上げにならなかったのでございます。その後、この法案作成中にも、昨年の暮れに、最高裁判所といたしましては、裁判官会議の議を経て、地方裁判所調査官を置いて調査させる必要がある、このような条文をぜひこの売春防止法の一部改正法律案に入れていただきたいということを正式に文書で法務省の方に申し入れをしたのでございますが、やはりお取り上げにならなかった。そのお取り上げにならない理由は私たちにはよく理解できないのでございます。どういうわけで地方裁判所調査官を置いて必要ある場合に情状調査をして十分なる資料を得た上で保安処分をすることがいけないのか、そうしないで、検察官側から出された証拠裁判できるんだというところがよくわからないのでございます。今までずっと最高裁判所側ではそういう意見を述べ、また要望もいたしたのでありますが、どうしてもお取り上げにならないで、このままのこういう案で出たのです。最高裁判所としては、これではこの法律の所期する保安処分補導処分の万全な運用ができないのではないか。これは、先ほど申し上げました保護観察制度がどうしても所期のような運用の実施ができないので、やはり調査官制度が必要ではないか、この法律が十分運用されるためにはどうしても心要だということで、こういう意見を重ねて重ねて、さらに重ねて申し述べておるわけでございまして、決して突如として最高裁判所が言い出したわけではないのでございます。  なお、先ほどちょっと予算の点が出ましたが、地方裁判所調査官については予算は取れておりません。最高裁判所としては、この地方裁判所調査官を設けるということにいたしますれば、家庭裁判所調査官を兼務といたしまして、地方裁判所においてこの事件の必要な調査に当らせるということを期しておりまして、予算は必要ではないというふうに考えております。
  34. 竹内壽平

    ○竹内政府委員 大臣に御質疑の点を事務の方からお答えさせていただきます。  ただいま江里口局長からお話のありましたように、この保安処分関係売春防止法の一部改正事務の手で立案されます当時から、最高裁判所とは緊密な連絡をとって参りました。その第一は、家庭裁判所でこの問題を行政処分として、つまり少年保護処分と同じような形において補導処分を取り扱ってもらえないかという趣旨から交渉が始まりまして、それは困るということから、結局、交渉の結果、一たん地方裁判所刑事手続に乗せて保安処分を立案するというようなことは、すべてこれ最高裁判所と交渉の結果によるものでございます。ところが、この調査官の問題につきましても、地方裁判所刑事手続でやるといたしましてもなお調査官の問題があるということで、その必要性につきましては、先ほど来御説明のありましたような理由を私どもも承わっておるのでございます。それに対しまして、私どもとしましては、その調査の必要性につきましては十分理解されるのでございますけれども、日本の刑事訴訟法は弾劾形態を持った刑事訴訟法構造になっておりまして、英米では、情状証拠につきましては調査官調査で十分間に合う、また判例もそういう趣旨の判例もあるということでございますけれども、日本の刑事訴訟法で私どもの理解しますところは、アメリカとは違いまして、罪の存否に関する論争が当事者で争われているだけではなくして、さらに、幾らの刑を盛るか、どういう情状にするかということまでも当事者は争っておるのでございます。刑事訴訟法の三百八十一条は、刑の量定が不当の場合はそれを理由として当事者が控訴できるわけでございます。そういう関係からいたしまして、ここには問題がある。何も最高裁判所意見が頭からいけないのだと私どもは申しておるのではございませんで、どうも訴訟構造上今の御意見は問題があるということから、全般的な構想について考えておるところであるからしばらく待ってほしいということで、実はお断わりを申し上げたのでございます。その議論は今度は売春対策審議会の席上においても論議をされました。これは大ぜいの前で公然と論議されたわけでございますが、その結果は、売春法の完全実施という本年四月一日も間近に迫っておることでありますし、そのために、根本問題の解決に手間取って保安処分規定ができないということはこれはまた困ることだというような御配慮もありまして、結局政府原案でいこうということで、売春対策審議会答申もただいまの原案の線で答申されておるのでございます。その後、答申がありましてその線に沿いまして鋭意立案に努力をいたしておりましたところ、最高裁判所から、ただいまお話しのように事務総長から事務次官あてに調査官の問題を重ねて御要望がございました。しかし、その点につきましては、今まで申し上げておることと同じ理由によりまして、おわかりにくいということでございましたが、私どもはそう信じておりまして、決してこれが理想的な案だとは思っていないのでありますけれども、当分の間これでやらせてもらいたいという趣旨の回答をいたしたのでございます。そういういきさつでございます。
  35. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、今言った、調査官を介入させるような案を最初に法務省に相談したのはいつなんです。
  36. 竹内壽平

    ○竹内政府委員 昨年九月十八日に売春対策審議会から本法案の骨子になる要綱の御答申がありましたが、その前に対策審議会でこの問題が議論されたわけでございます。その席上で最初に調査官の介入問題は提出されたということでございます。
  37. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 最高裁判所ははなはだ怠慢だと私ども思う。社会党の売春等処罰法が出たのは昭和二十九年から三十年にかけてであり、政府案の売春防止法が出たのは三十一年じゃありませんか。そうして相当長い間本委員会審議をしている。ことに、われわれからしばしば最高裁判所の奮起を促した質問があった。私は、最高裁判所家庭局なんというものこそ、この売春法に対して積極的に動くべきものであることを切に要望しておった。しかるに、当時の家庭局長及び調査官だか何だかしらぬが、職員の中には、売春禁止法に対して公然と反対の説をなす者があり、業者の顧問となって盛んに業者を扇動しておった者がある。当時これが委員会の問題になって、私どもは参考人として委員会へ来てもらいたいということを要請したにかかわらず、とうとう出なかったのです。私は名前を言うことは本人の名誉のためにはばかりますが、相当ジヤーナリズムにも活躍している人物です。そこで、本来この問題のほんとうのいろいろの資料を持ち参考意見を持っておらなければならぬ最高裁判所が、売春防止にははなはだ冷淡であった。そうして、調査官なんということをおくびにも言わず、こういう問題について最高裁家庭裁判所関係することはまことに困るという答弁ばかりを繰り返した。私は江里口刑事局長の提案に本質としては反対ではありません。しかし、諸君は実に怠慢過ぎるのですよ。売春防止法ができたときも黙っておった。こういう補導処分の案が出るや、突如そういうものを持ち出す。それでは、審議会が、もうこれは間に合わない、おそ過ぎるとお考えになるのは無理もないと思う。私どもも最高裁のお考えは相当慎重に考慮しなければならぬ問題だと思う。ただ刑事訴訟法の弾劾制度一点張りで割り切れないものが出てくると思うのです。それなら、なぜ早くそれを提案して、政府あるいは法務省と連絡をとって立案しなかったか。少くとも政府の売春防止法が成立すると同時に、最高裁判所の方から補導処分のごときは積極的に進言し、その立案の衝に当るべきものです。それを、四月一日から実施されるという今日になってきて、かような法律問題としても重大な問題を突如として出されたということに対しては、はなはだ私どもは遺憾に存じます。なぜさようにおくれたか、その理由を言って下さい。
  38. 江里口清雄

    江里口最高裁判所説明員 ただいま非常なおしかりを受けたわけでございますが、最高裁判所といたしましては、先ほど申しました通り、四年も前から、売春対策協議会のときから、地方裁判所でやるという場合におきましては調査官を置いて十分調査をさせてやるようにするということで、調査官の必要性ということは意見を述べておったのでございます。昨年売春防止法が四月一日から施行されまして、保安処分規定も設けられて、それと刑事処分規定が一緒に施行されるということに相なりましたので、昨年のたしか四月だったと思いますが、最高裁判所といたしましては、この保安処分についての案、それから調査官を置く案とを立案いたしまして、これを法務省の方にも差し上げ、売春対策審議会の方の御審議の御参考にしていただいたのでございまして、決して昨年の九月になって突如として言い出したわけではありません。その案を出して、最高裁判所としてはずっと、調査官の必要性、地方裁判所でやるなら地方裁判所調査官を置いて十分な調査をしてでなければこの保安処分というものは法の所期するようなふうには十分施行されないというふうに考えまして、ずっと主張しておったのでございます。昨年の八月のたしか末になりまして現在のような案を法務省から示されましたので、そのときに、これではいかぬ、やはり調査官を置く必要があるということを昨年の八月の末の幹事会に私が出てその意見を述べ、それから、先ほどの九月になって委員会があって、その席でも最高裁判所から意見を述べておったのであります。最高裁判所といたしましては、昨年の四月にすでに保安処分調査官等は素案をこしらえて法務省の立案当局の方には要望をいたしておるわけでございます。
  39. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 昨年じゃおそいというのです。昭和三十一年にすでに売春防止法ができて、その保護更生の章ができているじゃありませんか。その前に社会党の提案があって、その問題について最高裁判所に相当要求が来ておるのだ。その際に諸君は何らの提案がないのです。今言ったように、調査官を設置させるというようなことは、これっぽっちも言っていない。昨年になってから——今法務省の御答弁によれば九月になってから話が出た。それじゃ予算関係やら何やらで容易じゃありません。そういうことが一体わからぬでおったのかどうか知らぬが、私は、はなはだ怠慢じゃないかと思うのです。だから、せっかくの皆さんのいい構想が通らぬことが起る。大体、私は、今にして思えば、最高裁判所のこういう問題についての中心である家庭局というものは、売春防止に対しては実に冷淡きわまる態度をとっておった。今私は思い出したのですが、皆さんの提案がおくれたことはそこから来るのだ。売春防止法はできないものだと思っておったのか知らぬが、反対しておった局員がいるじゃありませんか。あなたも知っている家庭局の相当ジャーナリズムに活躍しておった人間が反対しておった。そういう人間に引きずり回されて、はなはだ冷淡であった。それが、かえって法務省から案を示されて突如として調査官の問題を出すなんということは、実にこれは怠慢のきわまりだと思うのだ。諸君の方から、法務省や検察庁のあまりそういうことのわからぬ人たちを導いて、こういう保安処分の趣旨を徹底させるべきです。諸君は専門家じゃありませんか。それを逆な態度をとっておる。そういうことでは私はいけないと思うのです。そうすると、あなた方は、審議会に諮ったとかなんとか言うけれども、公けの機関である国会には何も言わぬ。また、法務省、政府機関にも何も言わぬ。そうしておいて、法務省の提案を見てから突如として思いついたといったような形ではいかぬと思うのだ。もう少し慎重に考慮して、刑事訴訟法の弾劾制度といかにこれを調和するか、わが国の刑訴法の根本問題でありますから、それに対して多少特例を作るということはいろいろの法律関係上慎重に構成をしなければならない。当法務委員会としても、私は趣旨には賛成だけれども、責任を持って一体さようなことをやれるかどうか。時日がないと思うのです。はなはだ私は遺憾の意を表します。  これ以上お責めしても仕方がないのですが、ただ、念のために、これは法務大臣でも刑事局長でもよろしいのでございますが、昨年九月以前は最高裁判から何らのこういう調査官の問題については相談をかけられたことがないのは事実であるかどうか、もう一度御答弁を願いたい。
  40. 竹内壽平

    ○竹内政府委員 私は、当時八月以前はまだこの衝に当っておりませんでしたので、詳しいことはわかりませんから、関係者に聞いてお答えをいたしましたが、ただいまなお聞いてみますと、四月当時、江里口刑事局長が述べられましたように、そういうお話が最高裁判所側の御意見として私の方の立案事務当局にお示しになっておったということでございますので、先ほど九月十八日突然にお話があったという点は取り消しまして、そういうふうに訂正いたします。
  41. 三田村武夫

    ○三田村委員 議事進行について…。  先ほど来法務当局裁判所当局の御意見を伺っておるのでございますが、当委員会としては、私ははなはだ迷惑だと思う。御承知通り、政府提案として、裁判所関係、法務省関係法案は法務省から提案されることになっておるのであります。従いまして、今度の売春防止法施行に関する二法案につきましても、法務省の提案は、裁判所側とも十分意見調整の上、両者何らのそごもなく了解の上提案されたものとわれわれは了承しておった。ところが、ここで伺っておりますと、全く違った御意見を述べておられます。江里口刑事局長のお話を聞いておりますと、もしこのままで法案が通るならば、あたかも裁判所側すなわちこの事件を担当する通常裁判所地方裁判所は責任を負えないような御意見のようにうかがわれるのであります。そういたしますと、われわれは一体どうこの法案を扱ったらいいか、われわれは立法の府でありますから、両者の御意見を十分伺って委員会修正する道は考えます。考えますが、その前に私は考えていただきたいと思うのです。両者とも政府機関であります。そうして政府提案として出されたものについて、ここで猪俣委員の言われるように全く突如としてわれわれはこういう違った意見を伺う、はなはだ心外千万であります。この点政府当局はさらに十分再考、再調整をお願いしたいと思います。そうして、どうしてもその間の意見の調整ができない場合は、当委員会は独自の立場で事の処理に臨みます。私は、ことのついでと言っては語弊がありますが、この問題の経緯は猪俣委員の述べられた通りで、私も二十二国会社会党提案の売春等処罰法以来この問題に関係をしてきている一人でありますので申し上げておきますが、江里口刑事局長が言われましたように、なるほど非常にめんどうなケースであるに違いありません。けれども、今度の五条に規定する保安処分というものは、江里口さんが言われたようにこれは執行猶予よりも重いんじゃないのです。実刑を科せないためにこれを保安処分にする、本来ならば、六カ月以下の懲役ですから、六カ月以下の実刑を科するというのが建前なんです。けれども、事案の性質上実刑を科することを妥当としないから、法務省の竹内刑事局長が刑法の体系についてあるいは訴訟法の体系についてお述べになっておりましたように、この問題は、保安処分という一つの訴訟系列が別に立っておるならば別ですが、そうでない限り、実刑を科せないための保安処分でありますから、執行猶予の言い渡しをつけてそこに保安処分を言い渡しするということは、猶行猶予よりも重いんじゃないのです。ただ、裁判の形式として、猶行猶予をつけてからでなければ保安処分はやれないからこういう形をとっているだけで、私は少し建前が違うと思うのです。猪俣委員が、最高裁は不勉強だと言っておられるが、私もそういう感じがするのです。法案そのものの実体が何か十分おわかりになっていないような気がする。これは何も執行猶予よりも重いのじゃないのです。実刑を科すのにかえて保安処分にするのです。その言い渡しの手続形態として現在の裁判所の訴訟形態に乗せるために執行猶予をつけて保安処分の言い渡しをする、こういう形になっているのであります。あくまでも調査官制度を持たなければこの法律の施行は裁判所側としては、不十分だというよりも責任は持てないという御意見ならば、あらためて私ども当委員会考えますがその以前に、法務省最高裁判所とも十分御検討願いたいと思います。これ以上この委員会でこの問題を両当局議論しておっても事が進みません。非常に委員会としては迷惑でありますから、どうぞその点十分両当局においてお打ち合せの上、次回の委員会ではっきりした——どうしても裁判所側はこれでは困るとおっしゃるならばあらためて伺います。そうでなければ、十分その点の意見の調整をした上で当委員会に臨まれんことを希望いたします。
  42. 唐澤俊樹

    唐澤国務大臣 調査官制度を置く置かないということにつきましては、私ども法務省と裁判所側と考え方の違いがありましたために、いろいろと御心配をかけまして、まことに遺憾に存じております。私は別に裁判所側の意見に反対をするわけでもなく、またこの問題で争うということを考えているわけでもございません。ただ、この問題は、わが国の刑法並びに刑事訴訟法根本制度に関する問題でありましたので、たとえば補導処分のごときも、刑法全体の保安処分に関する根本的の調査がまだ結論を得ておりませんためにほんとうの保安処分と言えないような、刑にかえての保安処分でないような、暫定的な補導処分というような制度にもなりました。それからまた、当面の調査官制度につきましても、私どもの方といたしましても、やはり家庭裁判所裁判してもらうのがよろしい、こういうような根本的な考えは持っておりますけれども、しかし、裁判所側の御意見もございます。これを論議しておりましたのでは、目睫の間に全面実施を控えております今日、らちがあきませんから、その点は裁判所側の御意見に服して、そして一般裁判所裁判に服するということにいたしたのでございます。ところが、それに対して調査官制度の御意見がございますが、それは、先ほど来だんだん申し上げましたように、わが国刑事訴訟制度根本構造に関する問題でございますから、これもまた論議しておりましたのでは四月一日に間に合いません。ませんから、調査官制度を御主張になると同じような趣旨のことを他の方法で充足するような道を講じまして、そして原案を立てたわけであります。いずれにいたしましても、この点について意見の完全なる一致がないためにいろいろと御心配をかけたわけでございますが、ただいまお示しのありました通り、この問題につきましては、よく協議を重ねまして、妥当な結論に達したいと考えております。     —————————————
  43. 町村金五

    町村委員長 この際お諮りいたします。最高裁判所機構改革に関する小委員会において審査のため参考人より意見を聞きたいと存じますが、これに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  44. 町村金五

    町村委員長 御異議なければ、さよう決定いたします。  なお、人選等につきましては委員長に御一任願いたいと存じます。  本日はこれにて散会いたします。     午後零時四十七分散会