○辻
委員 私は別の感じを持つのであります。戦力の無形的なものは何かと申しますと、これは精神的な団結であります。その団結には上下の
関係と左右の
関係があります。上下の
関係は命令服従というきわめてきびしい、冷たいものであり、左右の
関係は戦友愛というきわめてなごやかなあたたかいものである。この二つのものがしつくりしないと、幾ら形だけの重隊を作っても精神的な団結はない。精神的な団締がないところに戦力がわくはずがないと
考えるのであります。現在の自衛隊の根本の過失はどこにあるのか。時代の風潮もありましょうが、命令服従の
関係という上下の綱がゆるんでおる。それに反して戦友愛という左右の愛情というものはあたたかみが冷却しておる。そこに根本があるのであります。ことにただいまの問答を通じて感ぜられるのは、下士官いわゆる陸曹クラスの隊員に対する指導が欠けていることである。これはこの前の
質問のときにもちょっと申し上げましたが、「兵隊サラリーマン」という本がある。これば非常に参考になる本であります。本屋の宣伝をするわけではありませんが、自衛隊の幹部ことに内局におられる方や
長官はぜひ一読なさって、率直に赤裸々に書かれた陸上自衛隊の生活記録の中から、大きな教訓を拾い上げていっていただきたい。
二、三の例を御参考に申し上げますと、下士官、昔で言う内務班長の指導力の欠除というものが私はこの事件の最大の原因じゃなかろうかと思う。こういうことがある。いわゆる新兵は前期におきまして集団訓練を受けて後期に各部隊に配属になる。その後期の教育の中で、「隊員として一人前に成る以前の、こうした保護期でこそ、人間的に荒削り状態だった前期基本調練に引続いて、隊員素養指導が強く打ち出されねばならない筈なのに、班長達は、ややもすれば自分の
任務多忙や無気力なために、優秀隊員を養成するという光栄ある班長に
指名されても、有名無実化する恐れが多分に窺われた。甚だしい班長ともなれば己れの好色に浮身をやっし、われわれの個人指導は、朝晩の清掃状況位に思っているような印象さえ受けた。親元を離れて日浅い多くの新兵を放任状態に晒すような、あ
まり感心もできない迷指導を行っているようでは、何のための班長なのかも解らなくなってしまう。兵営生活にすっかり馴れ切っしまった頃に起り勝ちな、多種多様な事故も、その時々の圧力や反省では到底消し得ない根強いものとなってしまうであろう、この肝瞥な時期に、そして間もなく旧隊員の仲間入りを認められるであろう、この後期仕上げ教育中に、強力な成長指導の必要性を思わずにはいられなかった。」ここに下士官としての隊員の家庭にまで立ち入ったあたたかい指導が欠けておるのが根本であると思う。
もうえ
一つ内務
関係で、あなたの方ではときどき内務の点検指導をなさるのですが、その問答が出ております。問答は、防衛意識の高揚とは何か、その次は、貴重品の保管はよいか、ロッカーの錠はかけてあるか、その次は、連隊長の銃率方針を言ってみよ、暗唱しろ、防衛
長官の名前はどうだ、これを聞く。次には貴重品袋は持っているか、貯金通帳はあるか、これを聞いておる。その次は、貯金は幾らくらいしたか、中隊内のことで何か不満はないか、こういう問答。これでは
一つも身の入った指導ができておりません。お前のうちはどうだ、おかあさんは丈夫か、こう聞くのがほんとうの愛情のある指導なんです。上官の名前とか統率方針とか、かぎはかかっておるかとかこういう問答しかやっておらない。歩哨に立っておるとき——一番大事な弾薬庫の歩哨ですよ、「弾薬庫立哨中大胆にも山と積まれた弾薬箱の蔭で莚を被って眠ってしまったことがある。交代時間が来て、交代係や、上番者が、彼を探し出すまでに一苦労したということであるが、幸い中隊だけの秘密として処理されたので、処罰も食わなかったが、運悪く巡察幹部にでも、見舞われたとしたら、部隊の心臓部たる弾薬庫歩哨であるから、免職さえ
考えられる大変な居眠り事件であった。」しかもその半面において家庭にまで立ち入ったあたたかい指導、相談相手というあたたかい面がなくなってしまった。訓練においては徹底的に命令服従の
関係を確立するきびしさを持つ反面において戦友愛、内務の指導におけるあたたかい友情を欠いておることが今日この問題を起した根本じゃないか。長いことは申しませんし、
答弁は求めませんが、これは決してむだな本じゃありません。
一つこれをお読みになって愛情に徹する御指導をやっていただかなければならぬ。根本の欠陥は下士官クラスの無能、無気力、またほんとうに訓練されておらないところにあると思います。その点を御参考までに申し上げたい。