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山際参考人 お答えを申し上げます。昨年春以来、にわかに
国際収支が悪化いたしました。これを
中心として、この
情勢を防遏いたしますために、いわゆる
金融引き締め操作を始めたわけでございますが、自来すでに十カ月余りを経過いたしております。この間
国民各位、
関係方面の非常な御苦心、御
努力によりまして、幸いにも
国際収支の問題は、御
承知のように、昨年の九月以来実質的に、また十月以来は形式的にも
黒字を現出いたしまして、今なおその
情勢を続けております。そのほかの
経済諸指標におきましても、たとえば
物価の
情勢、あるいは
銀行券の
流通の
状況等から見ましても、逐次
改善の跡が認められますことは、まことに仕合せであると思うのであります。そこで
お話しのように、だいぶ
国際収支は
改善されてきておるのであるから、もうここらでこの問題に対する
重要性というものは、多少かげんしてもよくはないかというような
お尋ねがあったわけでございますが、現在の
国際収支の
状況を具体的に申しますと、昨年来、形式的には九月以来一億三千二百万ドル、実質的には約二億ドルの
黒字を続けております。それは二月末の
数字でありますが、おそらく三月も、四千万ドル前後の
黒字で終るかと思います。しかし、この
国際収支の
状況がいかにしてもたらされたかということを
考えますと、これまた大体
世論は一致しておると思うのでありますが、
輸出の
増進によってもたらされたというよりは、
輸入の減少によってこの
黒字は生じておるというのが、大体の判断だと思うのでございます。
引き締め段階は、昨年中、
流通部門における
調整を終え、また
投資の抑制も大体においてその
効果を発揮し、今御
承知のように、
生産調整の
段階で非常な苦労が重ねられておるわけになっておるのであります。この
国際収支の見方と、それから今の
国内情勢の
推移とを
考えまして、私が感じておりますことは、二つあるのであります。
その第一点は、必ずしも現在の
国際収支の
黒字の発生しておる
状況が安定的である、
前途必ずこれでいけるという目安を立てるには少しく十分でないのではないかという点でございます。それは、主として今続けられております
生産の
水準と、その
材料となります
輸入原材料との
均衡の問題でありまして、なるほど最近は、
生産が縮小されつつありますから、
輸入された
原材料の食いつぶしは少くはなっておりますけれ
ども、依然としてある程度の食いつぶしが行われつつある。食いつぶしによって
物価その他の
関係が押えられておる、こういう
情勢が、まだまだ取り去られてはいないと思うのであります。従いまして、もう少しこの
生産の
調整が進みまして、そして
輸入原材料の在庫と
輸入の規模と、これらが見合いまして、安定的に
前途の
見通しが立つというためには、いま少しく
努力を続ける必要があるのではないかというのが第一点でございます。
第二点といたしましては、最近の大蔵省の
発表によりますと、現在の
日本の
外貨保有高は、約十億ドルということになっております。この十億ドルのうちには、御
承知のように、インドネシアの
賠償債権、そのほか俗にいう
焦げつき債権も入っての
数字でございます。従いまして、
現実に直ちに
外貨として動員し得べき
数字ということになりますと、相当これを引いて
考えねばならぬと思うのであります。的確な
数字を申し上げることをはばかりますけれ
ども、私は、
現実に直ちに動員し得る
資金というものは、おそらくその半ばをこえることそう
多額ではなかろうと思うのであります。反面におきまして、御
承知のように
日本の国の
経済は、非常に多くの部分を
海外から
輸入いたしませんと成り立たぬ
経済であります。領土は狭く、人口は多く、資源に乏しいのでありまして、わずかに
輸入された
原材料を加工いたしまして、それを
輸出して
生活を立てる、そういう宿命的な
地位にあるのであります。その
輸入せられる品目は、単に各種の
工業原材料にとどまらず、食糧さえも相当の
多額のものを
輸入せなければならぬということに相なっておるのであります。御
承知のように最近の、たとえば昨年中の
主食の
輸入だけをとりましても二億六千数百万ドル、これが、幸いに連年の豊作でございますから、この程度で済んだと思うのでございますが、一番近い過去の、たとえば
昭和二十九年の例を見ますと、これが不幸にして凶作でございました。その際に、
主食の
輸入は、実に四億七千万ドルに達したのでございます。のみならず、
工業原材料等の
輸入もございまして、総額六十億ドルをこえる
日本の
貿易をまかないます
運転資金といたしましては、現在保有いたしております
外貨は、あまりにも少な過ぎるという気がいたします。のみならず、この
外貨が現状を維持しておりますのも、たとえば昨年の九月に一億二千五百万ドルを
国際通貨基金から借り入れておるのであります。そのほか、あるいは世界銀行、あるいは
輸出入銀行等からの
外貨の
信用供与等も相当あるのでございまして、これらに対する支払いも逐年参るわけでございますから、これに対する備えも考慮する必要がある。彼此勘案いたしますと、今の
外貨の
保有状況は、むろんこれは、一気に十分なだけを備え続けるということは非常に無理があろうかと思いますけれ
ども、それにいたしましても、なお今日の
状態では少な過ぎるという不安を持っておるのであります。従いまして、全体といたしましては、なお
国際収支の
黒字を実現するように、
輸出努力はむろんのこと、
生産調整等によって
生産水準と
輸入原材料との
均衡を確保する、こういう線について、さらに一そうの
努力をまだまだ傾けなければならぬ時期だと
考えておるわけでございます。
第二の
お尋ねは、
国際収支の問題はさておいて、もうそろそろ
国内均衡と申しまするか、
内需の
振興等に意を用いる
段階であるという説もあるけれ
ども、どういうふうに
考えるかという
お尋ねと了承いたしましたが、私は、この
日本の
経済的な
国柄から申しましても、先ほど申し上げましたように、
国際収支の安定的な
見通しが立たないうちに
内需を
振興して、
国内の
景気振興ということに役立たせるということは、はなはだ危険を包蔵すると思うのであります。このような国におきましては、
国際収支の
均衡が保持されまして初めてそこに
国内均衡も保持される、
自然国民生活の安定的な
発展も
期待できる、かような
状況にあると
考えておるわけでございます。
しからば、
生産調整等に伴う
景気の後退をいつごろになったら
上昇の方へ導くことができるかという
お尋ねでございまするが、むろん
景気の
観測ということは、実は非常にむずかしいことでございます。あまりにも変化しやすい
経済条件がたくさんございまするので、また単に
国内のみならず、
海外のそれらの
条件も非常に変りやすい
状況でありまするから、これに対する結論というものは、これはなかなかむずかしい。御
承知の
通り、民間におきましても、すでにいろいろな説ができておるわけでございます。ただ私が
考えておりまするところは、
海外の
情勢が
好転いたしませんと、なかなか
輸出の
増進ということは十分に
期待できない。
期待できませんと、ただいま申し上げましたような
国柄において、大きく
国内の
経済が伸びていくということも非常にむずかしいのではないか、かように思うのでございます。
米国の
経済の
立ち直りということが
国際経済情勢の
立ち直りの基本になりますることは、御
承知の
通りと存じますが、これさえもなかなか
諸説ふんぷん、できれば早くということは、
政府の非常に
努力しておられるところのようでありまするけれ
ども、結果はだんだん長引くという説の方が多くなりつつあるような
状況でございます。
そこで、今まで集められておりまする
材料等から判断いたしますると、私は、ただいま行われておりまする
生産調整ということは、まず今の
企業家の
努力、
熱意、
金融機関の
貸し出しの
態度というものが続けられるという前提に立ちまするならば、大体において来年度の第一・
四半期中にはそのめどを立て得るんではないかと
考えておるのであります。ただ御
承知のように、最近
金融緩和期待とか、あるいは
底入れ観とかいういろいろな
観測が行われておりまして、もしこれがために、この
生産調整の
努力が多少ともゆるむとか、あるいは
金融機関の
貸し出し態度が多少とも放漫になるとかいうことがございまするならば、遺憾ながらこの第一・
四半期で終るだろうと思う
調整も、あるいは一月あるいは二月延びんとも限らぬ
情勢になろうと思います。ここ両三カ月の
推移というものは、深甚なる注意をもって注視する必要があると
考えておるわけであります。
さらに
引き締め政策の
継続が
中小企業、
雇業、
勤労者等に及ぼす
影響についての
お尋ねでございますが、この点は、昨年
引き締め政策をとりまする最初から、実は私
どもの最も悩んだ点でございます。とかく
経済変動の大きいときに、その
しわが
中小企業に寄りやすい。ことに
金融引き締め政策をとれば、
中小企業金融の方にとかく梗塞が起りやすいという傾向、これは私は否定いたしません。従って、これに対して極力これを防遇する手段を
考えながら進まざるを得ないというところで、特段にこの
配意は深くいたして参ったのであります。
金融機関等ともしばしば会合いたしまして、
中小企業金融に対する
熱意というものを落さぬように、できるだけその要望に沿う。いやしくも中小なるがゆえに不当に
金融がつかぬというような事態を生ぜしめないように、極力
配意をいたして参ったのであります。
政府におかれましても、この点は、いわゆる
緊急総合対策のうちでも特に重視されまして、
財政資金その他の配分をできるだけ厚くするという
方向で、
専門中小金融機関の活動に
期待をされておりました。また各
金融機関もその
趣旨を体して、できるだけのことはやっているように思うのでございます。そのほか
勤労者の問題にいたしましても、この間において、
企業の
閉鎖等のために、あるいはその職を失うという人も出て参っておりますことは、これは実に残念なことでありますが、ただ大きな筋を通しませんと、
国民生活自身の基盤が保てないという大きな
見地から、実はやむを得ざる犠牲としてこれを見ているのでありますが、しかも今申し上げましたように、できるだけその
影響を緩和する、たとえば一時いわれましたような
黒字倒産とか、
連鎖反応による
倒産とかいうことで
離散失職のうき目を見るようなことは万ないように、できるだけの
配意を続けて参っているつもりでございます。元来が
国際収支の
逆調でありまして、いわば低い姿勢においてこの危機を乗り切らねばならぬという大きな筋でございます。それらの十分な
配意はもちろん必要でありますけれ
ども、大勢は、今申し上げましたような
推移で進めるほかないかと思うのであります。大体今後の
景気の
見通しについて、あるいは下期
好転説等もいろいろございます。まあ大事をとると申しますか、あるいは慎重に
考えると申しますか、そういう御主張もあろうかと思いますが、私は、
景気の
下降が終れば直ちにそれが
上昇に転ずるという性質の
経済現象ではなかろうと思うのであります。
下降カーブが終りますれば、しばらくはそのまま横ばいと申しますか、
底固めと申しますか、さような
状態が続き、しかる後それが漸次
上昇に移る、こういうことだろうと思うのであります。
なべ底型と俗に申しておりますが、そういったような
景気の動きの
カーブをとるのではないか、かように
考えているわけであります。しからば、いつごろその
上昇の
カーブを示すだろうかという点、これは、非常に
観測がむずかしいのでございます。
海外の
景気というものが非常に大きく
日本の
経済に作用するという点から見ますと、
米国が一生懸命今
経済の立て直しに
努力をいたしております。これは、相当
効果を上げてくるとは思いますけれ
ども、しかし、それにも時間がかかりましょうし、またかりに
アメリカの
経済が
立ち直りをいたしましても、その
影響を受けたヨーロッパ、あるいは
日本というようなものが、
貿易の
増進を
期待でき、
世界貿易が立ち直ってくるというためには、やはりそこに何がしかの時間的なズレを考慮する必要があるのではないかという観点から、少くともおそくも歳末には、私は
上昇の態勢に
経済を持っていきたいものだ、またそれは
期待できるのではないかというふうに
考えまして、過日もさような
趣旨の御答弁を申し上げた次第であります。