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1958-04-09 第28回国会 衆議院 外務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年四月九日(水曜日)     午前十時三十六分開議  出席委員    委員長 床次 徳二君    理事 菊池 義郎君 理事 櫻内 義雄君    理事 須磨彌吉郎君 理事 森下 國雄君    理事 松本 七郎君       植原悦二郎君    大橋 忠一君       高岡 大輔君    野田 武夫君       原 健三郎君    松田竹千代君       松本 俊一君    田中織之進君       田中 稔男君    穗積 七郎君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         郵 政 大 臣 田中 角榮君         国 務 大 臣 河野 一郎君  出席政府委員         内閣官房長官  愛知 揆一君         法制局長官   林  修三君         外務政務次官  松本 瀧藏君         外務事務官         (アジア局長) 板垣  修君         外務事務官         (アメリカ局         長)      森  治樹君         外務事務官         (欧亜局長)  金山 政英君         外務事務官         (経済局長)  牛場 信彦君         外務事務官         (条約局長)  高橋 通敏君         厚生事務官         (引揚援護局         長)      河野 鎮雄君         郵政事務官         (郵務局長)  板野  學君         郵政事務官         (貯金局長)  加藤 桂一君  委員外出席者         郵政事務官         (郵務局次長) 曽山 克己君         郵政事務官         (郵務局国際         業務課長)   中根 敬一君         郵政事務官         (貯金局国際         業務課長)   橋本洋太郎君         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 四月九日  委員池田正之輔君辞任につき、その補欠として  原健三郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員原健三郎君辞任につき、その補欠として池  田正之輔君議長指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  千九百五十七年十月三日にオタワで作成された  万国郵便条約及び関係諸約定の締結について承  認を求めるの件(条約第一〇号)  国際情勢等に関する件      ————◇—————
  2. 床次徳二

    床次委員長 これより会議を開きます。  国際情勢等に関する件について質疑を許します。穗積七郎君。
  3. 穗積七郎

    穗積委員 私、しばらく病気で欠席をいたしておりましたが、大臣が見えましたので時事問題について二、三所見をただしておきたいと思います。  まず第一にお尋ねしたいのは、日中民間貿易協定に対する政府の最終的な決定を一両日中にされるようですが、今度の大体の趣旨は、日中の貿易拡大を念願する政府としては民間協定趣旨を尊重して支持協力を与える、こういう言葉を使っておられるようです。それから協定覚書の中に「政府同意を得て」云々という言葉がございます。果してしかりとすれば、その覚書の中にある「同意」という言葉と、「支持協力」という言葉使い分けたその差は一体どういうことに置いておられるのか、それを明確にしておいていただきたい。
  4. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 日中貿易につきましては、ただいま穗積委員お話のように、政府としてもできるだけ貿易拡大のために支持協力を与えていくわけであります。民間団体がこれらの問題について覚書を交換され、かつまたその会談要録というようなものもございますので、そういうものを参照して、われわれとしては支持協力をするということにいたしたわけであります。
  5. 穗積七郎

    穗積委員 私の質問にお答えさい覚書の中では、おのおの「政府同意を得て」云々とあるのに、すなおにその言葉を受けて政府はこの協定同意をするという言葉を使わないで、支持協力という言葉をお使いになったのは、言葉は違うけれども同意語解釈していいのか、覚書の中にある同意とは違った意味で、違った法律上の解釈を生ずるという観点で、支持協力を与えるという言葉をお使いになるのか、どちらであるかということを聞いておるのですから、その点を明確にしておいていただきたい。違うのか、同じであるのか。
  6. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 われわれは民間協定精神を尊重しまして、それに対して政府としてはできるだけ便宜を供与し、支持協力をするということでありまして、その文句が同意と同じであるか同じでないかということを考えておりません。
  7. 穗積七郎

    穗積委員 条約局長にちょっとお尋ねいたしますが、事務当局では覚書にある同意という言葉政府のお使いになった支持協力という言葉同意語であるのか、解釈上違った解釈を生ずるとお考えになっておるのか、明確にしておいていただきたい。
  8. 板垣修

    板垣政府委員 政府といたしましては、民間団体において結ばれました日中貿易協定並びにそれと不可分一体をなしております覚書全体をしさいに見ますと、どうしても現在の中共との未承認関係にある実情から言いまして、全部同意するわけにはいかぬという条項も含んでおります。しかしながら中共貿易拡大という精神は尊重する必要がありますので、その精神に立ちまして同意とは言わないが、これに対して広範な支持協力を与えるという意味の回答を申し上げた次第でございます。
  9. 穗積七郎

    穗積委員 大臣外務省として今の御答弁でよろしゅうございますね。
  10. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 先ほどから私も申し上げておりますように、日中貿易精神を尊重して、それにできるだけ支持協力を与えるという考え方でおるわけであります。
  11. 穗積七郎

    穗積委員 大臣アジア局長の御答弁外務省の御答弁としてよろしゅうございますね。
  12. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 よろしゅうございます。
  13. 穗積七郎

    穗積委員 それではお尋ねいたします。協定並びに覚書は不可分なものですが、その協定の中で大部分は承認同意を与えるけれども、一部については同意を与えがたい条項がある、従ってばく然支持協力という言葉にしたという御趣旨のようです。しかりとすれば、同意を与えることができないという条項を具体的に列挙していただきたい。どういう点について同意を与えるか。協定通り実行に対して政府責任を持てないということを言われるなら、オミットすべき条項について具体的に示しておいていただきたい。これは後になりますと、わが方から北京に参ります代表部については、向うが非常な誠意と責任をもってやってくれるけれども、こちら側には台湾の大使館もあるわけでございますし、そのほか非常に複雑な政治的な動きをする反共分子もあるわけです。従って、日本の中に中国代表部を設置したときに、その安全保障の問題についていろいろな問題が起きる危険性があるわけです。そういう意味で、ばく然とこの際は、支持協力ということで通しておこうというずるいというか、卑怯な態度をとって、この際はあいまいにしておいて、あとになってから問題が起きるという例は、過去においてわれわれが幾たびか苦い経験をいたしておりますから、この際約束したことはお互い実行をして安心をして来てもらうように、信義、誠実の精神の上に立って貿易拡大をはかるということでなければならぬと思う。従ってどういう点について同意を与えることができないのか明確にしておいて、あとになっていろいろ複雑なトラブルが起きないようにしておくことが、この際必要だと思いますからお尋ねしておるわけです。
  14. 板垣修

    板垣政府委員 どの点が同意ができ同意ができないかという点につきましては、その書かれました条項解釈いかんにもよろうと思います。この交渉はもともと政府がやっておりませんので、いかなる意図またいかなる内容において条文を書いたかという点も、政府としては十分つまびらかにしていない点がございます。従いまして協定並びに付属覚書の全体につきまして、どれとどれという精細な検討はまだいたしておりませんが、今お尋ねでございますからさしあたり思い浮ぶ点だけを申し上げましても、貿易協定の中の第何条かに政府間の支払協定の問題が含まれており、長期契約の問題も含まれております。この長期契約などにつきましては、場合によっていい点もありますけれども日本外貨予算の制約上必ずしも政府としてはコミットするわけにはいかない条項もあるわけであります。ことに覚書条項につきましては、裁判権については、やや誤解を生じやすいような書き方になっており、国旗掲揚の問題もございます。これらにつきましては解釈の点がはっきりいたしますれば、あるいは政府といたしましても同意し得るものもあるかもしれません。しかしその点はまだはっきりいたしませんし、いろいろ問題となるべき条項を含んでおりますから、直ちに今それに対して同意を与えることはできないという考え方であります。
  15. 穗積七郎

    穗積委員 非常に大事な御発言でございます。日中貿易につきましてはわれわれの年来にわたる問題であって、今度の第四次協定につきましては、事前に、与党のわれわれの同僚である議連の常任理事を通じて政府と打ち合せをしております。そしてその承諾の上で大体の交渉が進められておる。そうしてできましたこの協定文並びに議事録等政府はしさいに検討されたと思う。ただ日中貿易拡大趣旨賛成だというようなばく然としたものではなく、事前にこういう点についてはどうだということを党内においても閣内においても検討されて、そうしてやられて最後にしぼられたのは国旗だけなんです。今のお話長期契約それから支払協定、これらの問題につきましてはもう今までの経験もあります。現に昨年来経済代表経済使節団あるいはまたわれわれが参りましたときも今度の鉄鋼使節団が参りまして、すでに長期契約の問題については具体的にやっておる。それが外貨割当関係でその通り政府全額責任を持てるか持てないかというような技術的な問題をわれわれ聞いているのじゃありません。そういうことで協定全体に対して同意を与えることができないというようなけちをつける態度——もしそういう事務的なことであるならば、向う信義誠実の協定精神に反するというそういうつまらぬことは言わないと思う。問題は、最後におっしゃいました覚書の中にある代表部の身分の安全の保障とそれから国旗の問題です。この二つについては、事前に明らかにしておくべき問題だと思う。支払協定長期契約の問題についての外貨割当その他の問題等政府責任はどういうふうに分担するかという貿易実務上のことについて私は聞いておりません。そういうことを向うも要求しておらぬと思う。これらの問題については、通商協定を正式に政府間で結びましても、そういう事務的な支障というものがあとになって生ずることはあり得るわけです。そういうことを取り上げているのじゃありません。ですから、そういうことまで引き上げてこれこれについてわれわれはまだ解釈を統一しておらぬから責任は持てないのだ、責任をのがれるための口実にそういうことをお使いになるということは、われわれはなはだ心外でございます。従って、今のお話の中で私の第一に不可解に思いますことは、これは貿易協定交渉速記録議事録もございますし、それから調印をされたわれわれの代表からも詳細に政府は報告を聞いて、条文も全部ごらんになって、その中で支持協力を与える態度をおとりになったのでしょう。ばく然と選挙のスローガンのように、中国貿易拡大には賛成だということで、支持協力という今度の文書をお出しになるのじゃなくて、協定内容を見、文書を見、それから交渉経過を聞いてしかる後にその協定文覚書について支持協力を与える、こういうことでなければならないのに、今ごろになってまだ解釈を聞いておらぬからというようなことでは答弁にならぬと思うのです。外務大臣は一体どういうふうにお考えになっておるのか、その点を明確にしておいていただきたいと思うのです。
  16. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ただいまお話し申し上げました実務上の問題は、当然将来の問題として、ただいま穗積委員お話のようにいろいろな問題として取り扱っていくと思います。日中貿易を促進し拡大することについては、政府は決してなおざりでないのでありまして、そういう意味においてできるだけスムーズな運営がいくことを希望しておるわけで、その線に沿って支持協力を与えるというのが、今日まで政府のとってきた態度であります。従って、その点を御了解いただきますれば、日中貿易民間協定ができますからそれをしいてじゃまするように政府がことごとくやっていこうという意味ではないのでありまして、日中貿易拡大のスムーズにいくこと自体が、日中貿易のために必要なんでありますから、そういう意味においてできるだけの支持協力をやっていく、こういうことでございます。
  17. 穗積七郎

    穗積委員 これは重要な問題でございます。あとになってトラブルを生ずるとかえってお互い信義に反することになりまして、つまずきを生じますからこの際お尋ねいたしますが、特に重要な点は、覚書の第一項の法律上の紛争を引き起した場合は双方が連絡して双方同意した方法で処理する、これについては御異議はございませんね。
  18. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 われわれといたしましてはむろん中共政府を承認しておりません、その事実の上に立って民間協定というものが成り立っておると思うのであります。従って、日本といたしましては国内法の許す範囲内におきまして、できるだけ代表部員の身の安全も考えていかなければなりませんし、そういう意味においてはできるだけスムーズにやっていけるように処置していきたい、こういうふうに考えております。
  19. 穗積七郎

    穗積委員 ただいまの答弁は、この第一項の趣旨賛成であると拝聴いたしましたが、それでよろしゅうございますね。
  20. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ただいま申し上げましたように、覚書第一項の話し合いをしていくということでありますが、話し合いというものがどういうことであるかははっきりいたしておりません。従って政府としては国内法の許す範囲内におきまして、できるだけのことをやるということを申し上げるわけであります。
  21. 穗積七郎

    穗積委員 国内法といいますと、生じた紛争については双方連絡して同意した方法で処理する、これを否定するものですかどうですか。これを否定するものではないのか、否定するものであるという御答弁なのか。その点を明確にしていただきたい。
  22. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 その民間協定の当事者が話し合いをいたしましても、それが法律的効力を持つべきではないのでありますから、従って国内法範囲内で処置していくということなのであります。おそらくその趣旨話し合いも、国内法範囲内でやっていくと私どもは了解いたしております。
  23. 穗積七郎

    穗積委員 もとよりこれは最後協定調印前後、この打ち合せ要旨に、お互いバンドン会議に出席しておる国である、従ってバンドン会議決定の十項目おのおの国内法と慣習はこれを無視しない、それでこれをディスターブしたり騒擾を起したり、そういうことをしないということは、お互い内政不干渉立場から当然なことで、ここに念のために申し合せをしたわけですね。そういう基本精神であって、従ってここに起きた問題については双方討議の上で納得のいく処理をする、こういう精神については異議はございませんはずですね。
  24. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 国内法範囲内においてスムーズにやっていくわけでありますから、従って私どもとしては、ただいまお話のように国内法をこえてお互いが何か話し合いをしてやろうというのではないのですから、その意味においてはスムーズにいくことだ、こう考えております。
  25. 穗積七郎

    穗積委員 次にお尋ねしたいのは、第四項の国旗の問題でございますが、国旗掲揚についてはこれはお互い中国日本へ来て、日本中国へ行っておのおの代表部国旗掲揚することを認め合う、こういうことでございますが、これについての外務省の最終的な態度外務省というよりは政府代表して明確にしておいていただきたい。日本政府としての態度はどういうお考えでございますか。
  26. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 先ほど申し上げましたように、中共を承認しておりませんので、国旗としての権利を認めるわけにはいかぬと思います。しかしながら国内法範囲内でもってそれを保護していくということは考えられることであります。
  27. 穗積七郎

    穗積委員 そうしますと、東京へ来た中国代表部が事実上毎日そこで国旗掲揚する、その事実は認める。そしてそれがもし損壊その他を受けた場合には、日本国内法である日本国刑法の第九十二条によって保護する、こういう御答弁解釈してよろしゅうございますね。
  28. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 国旗を掲げる権利というものを認めるわけには参りませんけれども、しかしながら国内法の許す限りにおきまして、器物破損罪その他によってこれは保護されるものと思います。
  29. 穗積七郎

    穗積委員 ちょっと今の御答弁が不明確でございましたが、私から申し上げますから、それでいいかどうか、お答えをいただきたいと思います。つまり国際法上の権利として国旗掲揚政府は承認するという意味ではない。ただし中国代表部国旗掲揚する事実について異議を申し立てたり、あるいは撤去を要求したり、引き下げることを要求したりはしない。そうしてもしその国旗に対して日本人あるいは第三国人によって損壊その他の害が加えられた場合には、日本国内法である刑法九十二条を適用してこれを保護する、こういう趣旨で間違いございませんね。
  30. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ただいま申し上げましたように国際慣例によります国旗としてこれを認めて、これの掲揚権利を認めていくわけには参りません、未承認国でありますから。従ってそういうものを上げました場合に国内法における器物破棄その他の法律が適用されることだと思います。
  31. 穗積七郎

    穗積委員 それではそういうふうにお伺いいたしました。  次にちょっと時間がありませんから前に進みまして、日ソ交渉についてお尋ねいたします。オホーツク海の禁漁問題については、外電の報ずるところによりますれば、一船団を限って認める。しかもこれは今年度限り、来年も継続して認めるという意味ではないのだ、こういう趣旨向うから明らかになったようですが、これが事実であるか、この交渉のあった事実がどうであるか、それからこれに対する日本政府の方針はどうであるか、差しつかえない程度で明らかにしていただきたいと思います。
  32. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 赤城・イシコフ会談は現在継続中であります。継続中において双方からいろいろな意見が出ておることも事実であります。従って一船団ではどうだというような話し合いも出ておることは事実でありますが、まだ交渉の過程でありますから、どういうふうにそれが推移されていくかということは、今申し上げかねます。
  33. 穗積七郎

    穗積委員 それでは何分交渉中のことでもありますから、ここで一々政府の最終的な腹をお尋ねするのは必ずしも適当でないと思う。ただしかし今まで交渉を通じて何も隠さなくても相手にも意思が通じ、明瞭になっておる点についてはお答えになって差しつかえないと思います。  次にお尋ねしたいのは、安全操業の問題については今後どういうふうにお取扱いになるのか、これは例の領海問題とも関連をいたしますし、同時に平和条約問題ともちょっと関連を生じ、デリケートな問題になっておる。その後のモスクワにおける交渉を見ますと、安全操業の問題については、必ずしもそれに触れないようになっておる。これは今後こちらから強く要求して、そうして協定締結の絶対条件というふうにお考えになっておられるのか、これはしばらくたな上げされるつもりであるのか、その点を国民の前に、国民は非常に心配いたしておりますから、明らかにしていただきたいと思います。
  34. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 安全操業の問題につきましては、むろん平和条約ができます前に暫定的にそういう条約を作って話し合いをいたしまして、両国友交関係を深めて、そうして将来その基礎に立って平和条約ができるという趣旨を、初めから日本ソ連話し合いをいたしておりますので、われわれといたしましても、この問題については、相手国に対してできるだけしんぼう強く、粘り強く話を継続して参りたい、こう思っております。ソ連側におきましても、御承知のように二月十八日のわが方の意見に対しまして、三月十八日でありましたか、約一カ月後に返事をよこしてきたわけであります。向う側内閣の更迭その他もありましたでしょうし、いろいろ問題もあります。従ってこちらも粘り強く話を進めていってみたい、こう考えております。
  35. 穗積七郎

    穗積委員 そうすると、まだ安全操業の問題については、これから交渉継続する、そういう腹であると解釈してよろしゅうございますね。
  36. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 今まだこれを捨てておりませんので、できるだけ長期間にわたってやっていきたいと思います。
  37. 穗積七郎

    穗積委員 そこでちょっと関連してお尋ねしたいのは、実は岸首相からブルガーニン首相に対し、これは当然フルシチョフにかわれば、首相の地位にお出しになったのだと思いますから、フルシチョフあてにかわると思うのですが、その中で両国友好促進態度を基本的な態度としてうたっておられる。もとより今度の交渉漁業交渉であって、向う側としても漁業交渉にからんで平和条約を結ばなければ漁業交渉には応じない、そういう条件付態度できておるわけではございません。全然別個の問題として、その点は大使館の諸君もわれわれに明確に説明をしておったわけです。それに間違いないと思う。しかし、おっしゃるように漁獲量の問題とかオホーツク海における禁漁の条件とか、こういう問題になりますと、お互い国民をかかえての交渉になりますから、国民の世論または対日感情等も無視することはできない。そういう点でお互い考えてみますと、岸首相言葉だけでなくて、ソビエトとの間においても、その主義主張は別として、政治的には友好関係を深めて、真に貿易漁業その他文化交流も増進したい、こういう精神であるなら、これは漁業交渉条件ではございません。ありませんけれども、同時並行的に少くもこちらから積極的に、たとえば文化協定あるいは航空協定、こういうような個別の政府間協定というものについてもう少し熱意を示すべきだ、その方が全体の対ソ交渉立場から見ますと、日本側でもより多くの利益を得るのではないか、こういうふうに思われるわけです。それは漁獲量とかその他の問題に関連するだけではなくて、文化協定を結ぶことによって科学技術交流それ自身、日本にとって有利なことでもあるわけですね。そういう意味で特に私は一、二に限りません、例として文化協定航空協定等をあげたわけですが、これらの協定その他の個別協定について、外務大臣は一体どういうふうな態度をおとりになるつもりであるのか。この際私はぜひ積極的にこちら側からも働きかけて熱意を示すべきだし、そしてそのことが国民利益になる、こう思うから、積極的にやることをお勧めしながら内閣のお考えを伺いたいのでございます。
  38. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 岸総理両国友好関係を増進していくということは熱意をもって考えておるわけでありまして、決してただ口先でそういうことを言っているわけでなし、その結果は最終的に領土問題の解決によって平和条約締結にいくという気持でおります。従って政府といたしましても、昨年の通商交渉の場合におきましても、こちらから広瀬公使モスクワ出しまして、あらかじめ予備会談をいたさせて、そして通商協定ができる、相談に乗っていけるという見通しをつけましたもので、九月から開いたわけでありまして、政府としても決して熱意を持ってないわけではございません。従って漁業交渉なりあるいは暫定の安全操業の問題なりを逐次できるだけすみやかに片づけていくなり、将来両国にわたりますいろいろな問題についても検討して参りたい、こう考えております。
  39. 穗積七郎

    穗積委員 具体的にどういうふうにお進めになるつもりか、もう少し具体的に説明して下さい。私はたとえば文化協定それから航空協定等を具体的な望ましいものとしてあげたわけです。しかも順序も一応そういう順序がよかろうと思う。そういう具体的な日ソ間の今の外交交渉の状況から見まして、それに対しもう少し熱意のある御答弁をいただきたい。あなたはせんだっても朝日新聞の福井さんとの対談会で、実は僕はもっと与野党ともひざを交えて、ラウンド・テーブルを囲んだようなつもりで、率直に外交問題については話し合いたいのだ、ところが国会の空気は必ずしもそうじゃないので困ったものだと言われて、大いに野人外相としての存在理由を示されようとした。さっきから伺っていると、私は非常に善意を持って、いろいろな問題を促進しようという立場で、あげ足を取ろうと思ってやっているのじゃないのですよ。もう少しあなたは胸襟を開いて、そうして外務官僚出身でないよさというものを出すためには、一つあなたの持ち味で誠意をもってもう少し積極的にお答えになって、国民並びに国際的にお訴えになったらどうですか。
  40. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私はただいま申し上げたような経過で、日ソ間の友好関係を増進していく、そうして将来領土問題を円満に片づけて、平和条約締結に進みたいということを考えておるわけであります。文化協定等につきましては、実は穗積さん御出席になっていない委員会等で、将来文化協定を結ぶ意向があるのだということを実はすでに申し上げておったのもですから……。
  41. 穗積七郎

    穗積委員 いやそれは私も聞きましたが、具体的にいつからどこでということを聞きたい。
  42. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 いつからどこでということは、今ソ連との関係交渉がいろいろありますから、私の立場としてこの席で申し上げるわけには参りませんけれども、しかしながらそういう問題を漸次取り上げていくということは、はっきり申し上げて差しつかえないと思います。
  43. 穗積七郎

    穗積委員 それでは時期を見てこちらから申し入れる用意があるわけですね。
  44. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 こういう問題については、向う側から申し入れるか、あるいはこちら側から申し入れるか、というようなことは、おのずからその時期によりまして違ってくると思います。従ってある場合には向う側から申し入れてくる場合もありましょうし、ある場合にはこちら側から申し入れる場合もありましょう。われわれとしては将来文化協定等に進んでいきたいということを申し上げておるわけであります。
  45. 穗積七郎

    穗積委員 ただいま向うから申し入れる場合は受けて立つ、それからそれがない場合でもこちら側から申し入れる用意がある、すでに用意があるのだ、構想があるのだ、こう解釈してよろしゅうございますか。
  46. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 この問題については、ただいま研究をいたしておりますので、将来の問題としてわれわれとしては考えておるわけであります。
  47. 穗積七郎

    穗積委員 これに関連して次にお尋ねいたしたいのは、アメリカが最近国会の決議に従って、北太平洋における日本漁業制限について申し入れがあったようですが、これに対しての事実と、それからこれに対する政府態度、これをこの際明らかにしておいていただきたい。
  48. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 日米加漁業の問題につきましては、アメリカ側から本年度東経百七十五度の線を十度ほど動かしてもらいたいということが、昨年の日米加漁業の中間会議においても意向があったわけであります。そういう意思をアメリカから伝達してきたことは事実でありますが、現在まだ農林当局とも相談をいたしておりまして、そうしてそれに対しての態度を最終的には決定はいたしておりません。
  49. 穗積七郎

    穗積委員 対米漁業制限の拒否の問題ですが、しかしこれはやはり公海における漁業自由の問題と非常に関連いたしておりますので、重要な点であると思うのだが、政府としてはあくまで公海自由の原則を建前にして、強い態度でわが方の利益を守っていく、こういう精神であるということは、まさかくずれることはありますまいね。
  50. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 政府としては公海自由の問題については、あらゆる機会に強い態度をもってその説を主張しておるわけでありまして、漁業問題が各地に起っておりますので、従って日本としてもそういう問題についても一貫した方針のもとに、強い態度で善処しておりますことは、申すまでもないことであります。
  51. 穗積七郎

    穗積委員 最後に一点、ちょっと日本政府としての国際平和促進に対する構想について、一つだけお尋ねしたいことがある。それは何かという、外務大臣が予算委員会であったかどこかで、国連における拒否権ですね、国連を通じて国連における拒否権をなくするように努力していきたい、こういう態度で進まれるようですが、この国連における拒否権は、目の前の現象として見ますと、非常に国際的な話し合いを阻害するもののように見えますけれども、実はこれは簡単な問題ではないのであって、つまり古い国家統一時代の国家主権絶対の時代から、国際的に、自発的に主権を制限して国際的な協力、平和を促進していこう、経済的な向上をはかっていこうという精神で出発しているわけですね。そこで今過渡期にあるわけです。いわばオタマジャクシがカエルになる途中に足も少し出たがしっぽも残っている、こういう一つの矛盾したようなところがある。そこで日本政府としては平和を促進するためであるなら、拒否権の問題を取り上げることは、われわれもあえて異議を差しはさむものではない。そうであるならその前提としてやはり一国一票というこの建前が問題だと私は思うのです。最近の国際外交というものを見ると、各国政府が平等に一票だけの発言権を持ってそれで物事をきめていくということよりは、むしろ全人民の願望と世論を背景にして国際外交は動きつつあるわけですから、これを機構化すためには国連における代表権といいますか発言権を人民代表——これはたとえば一九五〇年に発表したG・クラーク氏の国連憲章改正案等にもその精神が現われておるわけであって、具体的にどうするかという提案は後として、基本的な態度として一国代表権一票ということでなくて人民代表を認める。そして望ましきは、やはり普通選挙による国連代表を各国から人口に比例した定員で選ぶ。そういう方向へ進む。それがもし実現するならば、つまり構成がそれに比例的に合理的にできるなら、ここで初めて総会の過半数の決定、または常任理事会なら常任理事会の過半数、問題によっては三分の二の多数決、そういうことで拒否権を否定する国際連合、これはやがて世界連邦に発展すると思うのです。こういうことに対して、平和促進を国連を通じてやるというなら、ただ拒否権がじゃまになるというような、いわば自由主義諸国の立場だけを一方的に優利に主張するような、そういう立場でなくて、全世界、グローバルな立場に立って客観的に公平な意見、拒否権を否定していこうという意見については、私はそこまで考えを及ぼすべきだと思う。先般の予算委員会でございましたたか、与党の川崎君から岸総理に対して、世界連邦の構想はどうか、大いに考えるべき点である、そのときにまっ先に出されたのが国連警察軍、軍という言葉が大体おかしいのですけれども、国連警察、そういう構想によって軍備を縮小または撤廃の方向へいくということについても、何がしかの理解を岸首相が示されておる。しかしこの際国際警察、国連警察という問題を取り上げる前に、拒否権の問題とそのより基礎的な問題である代表権の問題、人口数による人民代表、望むらくは普選による代表、そういう構想をこの際国連を通じて国連の憲章改正の提案として、日本政府からむしろやるべきではないか。最近の日ソ交渉における公海の漁業制限の問題、アメリカからの要求、あるいは李承晩ラインの問題、その他ジュネーヴにおける海洋法国際会議等における動きを見ましても、ただ各国民が相変らずエゴイスティックに自分の漁業貿易上の利益を主張していくという態度では、今後の公海の問題についても、あるいはまた新たなる無主物といわれた北極の陸地並びに資源の管理の問題についても、一貫した趣旨として押せなくなるのではないか。そこで平和促進の問題とそれから国際的な経済開発の問題とこれらをにらみ合せながら、日本政府としては今申しましたような国連の改組、憲章の改正、その第一着手は拒否権の問題と代表権の問題、人口比例による代表権を機構として打ち立てていく、そういう努力をすべき段階にきたのではないか。そうすることによって、国連の総会並びに理事会が、人民の基礎の上に非常に権威を持つし、そしてまた公平でもあります。二百万くらいしかない国と六億の人口をかかえた国が、一票々々であるということは、ちょっとおかしいことであって、世論政治の段階にありますとそこまでぜひ考えるべきである、こういうふうに思うのですが、一つこの際百尺竿頭一歩を進めて、そういう構想を少しまとめてみるつもりはないかどうか、この際提案をしながら外務大臣並びに岸内閣のお考えを伺っておきたいと思うわけであります。
  52. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 国連を通じて世界の平和を確立させていくということが、日本としての態度であることは申すまでもないのであります。従いまして、国連がそれに最もふさわしいような形になりますことも、これまた考えて参らなければならぬわけであります。国連は創立以来すでに十年を経過しておりまして、その運用につきましてはむろん功罪両方の議論がございますが、しかしながらやはり国連というような機構を通じて世界平和を維持するということが、各国民の多くの願望でなければならぬと思うのであります。従って国連が十年たちまして、各国それぞれ国連憲章の改正という問題につきましては思いをいたしておるわけでありまして、その結果として国連に憲章に関する委員会もできて、将来そういう委員会が開かれて国連憲章の改正問題に手をつける時期があり得ると思うのであります。日本といたしましても、国連に関与いたしました以上、また国連を通じて世界の平和を確立していくという立場を持っております以上は、国連が真に世界の平和にこたえ得るような組織と機能を持つように考えて参らなければならぬのであります。従って、現在において拒否権というような問題は適当な問題ではないと思いますが、ただいま穗積委員の御指摘になりましたように拒否権は好ましいことではないので、これを廃止するということに際しては何らかやはり機構上、組織上他の問題もあわせて考えていかなければ、拒否権そのものだけを取りはずすことは困難であろうかということもわれわれ想像されるのであります。また過去の国連におけるいきさつから申しましても、あるいは各国の意向から申しても、そういう点があろうと思います。国際連合を民主的にいかに運営するかという問題は、世界平和の将来の大きな課題でありますので、われわれといたしましても、その点は今後とも十分研究をいたしまして、そうして日本立場を国連を通じて貫いて参らなければならぬのであります。ただいま穗積委員から御提案のありましたような考えも有力な考え方だと思うので、そういう点も十分に参考にしながら今後とも研究して参りたい、こう思っております。
  53. 穗積七郎

    穗積委員 最後に念を押しておきますが、国連において日本代表が拒否権の問題だけを切り離して、がちゃがちゃ旗を振るというようなことは、慎んでいただきたいという要望をいたしておきます。  委員長、実は岸さんがお見えになるということであったので……。いろいろ質問いたしたいのですが、他の委員の方もおられますので、ただ一点だけ中国貿易代表部国旗の問題、これは重要なことですから総理に念を押しておきたいと思うのです。よく考えを伺っておきたい。その質問だけ留保いたしまして、この際外務大臣に対する質問は他の委員の方にかわっていただくようにいたしたいと思います。     —————————————
  54. 床次徳二

    床次委員長 この際千九百五十七年十月三日にオタワで作成された万国郵便条約及び関係諸約定の締結について承認を求めるの件を議題といたしまして、あわせて質疑を許します。松本君。
  55. 松本七郎

    松本(七)委員 一般情勢についての御質問をいたしますが、ちょうど郵政大臣の御出席の都合で、時間の関係もあると思いますので、最初に今委員長お話しになりました万国郵便条約関係のある質問を申し上げたいと思います。  中華人民共和国との間に郵便協定を結ぶということが伝わっておるのでございますが、具体的にはすでに交渉する段階にきておる。現状を一つ御説明願いたい。
  56. 田中角榮

    ○田中国大臣 昭和三十年の夏に郵便関係改善のため直接会談を開きたいという中共側の提案を受けまして、これに対して日本側より、三十一年の五月に、往復文書によって話をつけようということを返事を出してあります。これに対して三十一年の八月に、北京または東京で開きたいということを向うから言って参っております。その提案に対して、日本側より、万国郵便連合関係の諸条約の規定の範囲内で行うのであって、ジュネーヴで実務者の会談をやりたい、こういう提案をしてございます。三十二年の九月に、中共側よりまた東京を除いて北京でやりたい、こういう提案がございましたが、日本側は第三国でやりたいという提案をしておりますので、外務省当局とも折衝を続け、何らか適当な措置をしなければならない、こういう段階でございます。
  57. 松本七郎

    松本(七)委員 外務省の方はどうなんですか、外務大臣に伺っておきたいのですが、中国側ではしきりに北京または東京ということを、今郵政大臣の御説明のように再三言ってきておるわけです。日本側は中立国ジュネーヴでやりたい、しかし今日の段階で、中国側が北京または東京を固執する場合には、いずれかでやってもいいとお考えでしょうか。
  58. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 外務省といたしましては、ジュネーヴで開きますことが一番適当だと思っておりますので、重ねて中共側の理解を得て、ジュネーヴで開きたい、こう考えております。
  59. 松本七郎

    松本(七)委員 郵政大臣は、いつでしたか、三月の二十九日ごろ、多分これは記者会見だったと思うのですが、郵便協定中国と結ぶ段階にきておるので、東京でも北京でもいいというような談話を発表されておるのですが、この点のお考え方を伺いたいと思います。
  60. 田中角榮

    ○田中国大臣 そういう談話を発表したような記憶はありません。私もジュネーヴで開きたい、第三国で開きたいという希望を現在でも持っております。でありますが、中共が第三国ではだめだ、東京か北京以外ではやらない、こういうことであれば、相手のある話でありますから、向うの意向も十分しんしゃくをして、もう一ぺん考えなければならぬということを考えておる段階であります。
  61. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、外務大臣としては、こちらの要望を固執して、両国交渉地自体で意見が対立しておれば、いつまでたっても交渉できないということになる。その場合には、最後的には東京または北京でも、早く交渉にだけは入った方がいいとお考えですか。あるいは交渉地で意見が一致しなければ、一致するまで交渉は延ばすべきだとお考えでございましょうか、いずれでございましょうか。
  62. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私は東京もしくは北京でぜひやらなければならぬという理由がはっきりいたしませんし、またこの種の条例等をやりますのは、ジュネーヴでやりますことが適当だろうと思っております。従って中共側の十分な理解を得ればジュネーヴでやりましょうとも、あるいは北京、東京でやりましょうとも、問題がどうしても、ジュネーヴではいけないという理由も中国側には私はないのじゃないかと思いまして、そういう意味において、今しばらく理解を得るように努めて参りたい、こう考えております。
  63. 松本七郎

    松本(七)委員 向うが理解をするかもしれない、その努力をされるかどうかということではなくて、交渉はなるべく早く——今までのお話では、政府としても五月ごろにはある程度交渉を具体的に進めようという気持だったようです。そうすると、交渉地のことだけで、いつまでも延ばすということでなしに、一応日本側の気持としてジュネーヴということをいわれ、また向うが了解しない場合もあると思う。そういう場合には、交渉地ということにこだわらないで、とにかく交渉は実質的に早める方針をとられるかどうかということを、もう少しはっきり承わっておきたい。
  64. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 交渉地だけに日本側もこだわっておりませんが、また中共側も何も北京だけにこだわる必要も私どもはないと思っております。従って両者が十分話し合いをしていけば、第三国でも私はできるのじゃないかと思いますが、もしどうしてもできない場合には、郵便協定をどうしてできるだけ早く必要のためにやるかということをさらに考えて参るつもりでおります。
  65. 松本七郎

    松本(七)委員 郵政大臣にお伺いしたいのですが、中国との場合のお互いの寄港地ですね。日本側から向うのどこに寄港するか。向うの船は、こちらでは、どこが予定されているか、そういう点多少具体的におわかりでしたら……。
  66. 田中角榮

    ○田中国大臣 現在は御承知の通り香港経由でございますが、民間の船が上海とかその他のところへ行っておりますから、この船便を使おう、こういうことになるわけです。でありますから、協定をすれば当然門司とか神戸とか、向うは上海とか相当な数を両方とも指定しなければいかぬだろう、こういう考えであります。
  67. 松本七郎

    松本(七)委員 新聞の報道するところでは、日本から中国側に寄港する場合に、上海、大連、青島、秦皇島というところが報道されて、日本の場合には門司、神戸というふうに具体的に報道されております。大体そういうところに落ちつく見込みでしょうか。
  68. 田中角榮

    ○田中国大臣 協定がきまれば、おおむねそういうところだろうと思います。
  69. 松本七郎

    松本(七)委員 それからもう一つ大事な点は、この協定は国会にはかけないんだというような意見政府部内にあるということを聞いております。これは郵便協定ですから国会の承認を求めるということに当然なると思うのですが、その点誤解のないように——世間では何か政府部内にそういう意見が流れているというような誤解があるようですから、この際はっきりしておきたい。
  70. 田中角榮

    ○田中国大臣 現在まだ日本中共側との間でもって第三国でやるかどうかもきまっておりませんが、早急に何らかの結論を得なければならないということであります。業務協定ということになるのですが、これが国会の承認を必要とするかどうかは、現在慎重に検討中であります。
  71. 松本七郎

    松本(七)委員 検討中ということは、かける必要があるかないかが、はっきりしないから検討中なんです。これは協定ですから、当然かけなければならぬとわれわれは思うのです。検討中だというと、かけないでもいいという意見が一部にあるから検討中なんです。それが流れているのです。だから、もしそうだとすれば、その論拠はどういうところにあるのですか。
  72. 田中角榮

    ○田中国大臣 国会の承認案件ではないから、国会にかけないでよろしいという有力な意見がございますが、これは技術的な問題でありますから、専門家から答えてもらうようにいたしましょう。
  73. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 この協定に現実にどういう条項が盛られまして、どういうふうなことになるかということを見てみなければわかりませんけれども、大体われわれが考えておりますのは、行政権の範囲内で向うとなす業務取りきめでございます。たとえば、いろいろな寄港地とか郵便小包の流通の業務的な取りきめでございますから、これは国会の承認は必要ないのじゃないか、こういうふうに考えております。
  74. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、これはその内容によって国会の承認を求めるかどうかを今後きめる、こう理解してよろしいですか。
  75. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 もちろん第一点は内容によって最終的には決定しなければならぬかと思っております。ただ、大体われわれが通常考えております業務取りきめというようなことは、国会の承認の必要はないのじゃないか。もちろん、これは最後的にはいかなる内容が盛られるかということによって決定になるわけであります。
  76. 松本七郎

    松本(七)委員 それからこの郵便条約には、ソ連も加盟しているわけです。日ソ間の関係が緊密になればなるほど、文書等の往復はひんぱんになるわけですが、当然この三十四条によるところの継ぎ越し業務というようなものが多くなってくるだろう。そうなると航路それから航路協定、これは当然通商条約に引き続いてなされることになるのですが、航空協定もそういう意味からも非常に急を要する問題になってくるのじゃないか。今度でもすでに四月十二日から二十七日までの大阪の国際見本市では、ソ連は千二百坪のソ連会館といいますか、特設館を作って、そして参加する派遣団も相当大々的なもので編成してくるように伝わっておるのです。すでにその航空協定には、先ほども穗積さんからちょっとお話が出ましたけれども、だいぶ前のこの委員会でも、外務大臣はこの問題については十分考えようという御答弁があったのです。その当時はまだソ連から公式な話し合いがない、非公式には再三あったけれども、公式な話がないということが、この航空協定に具体的な折衝に乗り出さない一つの理由であったわけですが、今日すでに正式に日本大使館を通じて、欧亜局長あてにこの航空協定交渉の申し入れがあったのです。さっそくこの協定の具体的な折衝に入られる御意思があるかないか、もう一度外務大臣答弁を願います。
  77. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ソ連からの申し入れにつきましては、運輸省当局とただいま協議中でございます。
  78. 床次徳二

    床次委員長 企画庁長官が見えましたから……。
  79. 松本七郎

    松本(七)委員 それではなかなかおそろいで出られない外務大臣河野企画庁長官がおいでになりましたから、今日非常に重要な段階に差しかかっておる日ソの交渉について、私どもとして少し今までの経過でふに落ちない点がありますので、これらを伺いなが今後の方針を少しはっきりしておきたいと思います。  最初に伺いたいのは、河野イシコフ会談で交換公文がかわされたということが一時しきりにいわれたのですけれども、これはもうすでに河野さんは、そういう交換公文という文書はないんだと、こう言われております。おそらく私もそういうはっきりした公式の文書の交換というものはないだろうと思いますし、そういうものにあの重要な段階で河野さんが署名されるとは思われないのです。しかし一方から考えますと、あの河野さんが当時行かれた、あの情勢の中で、あのような大きな交渉に当られ、しかもあれだけの成果をおさめられたについては、当時自民党ばかりじゃなく、政府の方針としても、漁業以外の問題についてはあまり話さないというようなワクさえしばしばはめておった、ああいう事態ではなかなか河野さんも苦労されたろうと思います。ですから当然その話し合いの中には漁業だけに限らず、いろいろな問題について私は話し合いせられただろうと思うのです。それでなければあれだけの交渉事は私はできないと思う。それでその結果、何らか向うでは、もちろん記録もとっておったでございましょうし、何かしら公的な文書でないにしても、私的文書とでも申しますか、河野さんの発言されたものを向うが記録にとって、そしてこれを河野さんにお渡しした、この程度のことは、私は十分あり得ることだと思うのですが、そういった厳密にいえば、私的文書の手渡しというようなことも全然なかったかどうか、この点をまずお伺いしたい。
  80. 河野一郎

    河野国務大臣 ございません。
  81. 松本七郎

    松本(七)委員 それがないといたしますならば、次にお伺いしたいのは、今度漁業代表平塚さんが行かれて、そして帰って来られてのいろいろなお話を伺うと、どうも漁業問題だけにしぼった話し合いということではらちがあかないのではないかというのが平塚さんの御意見のようでございます。私どもの聞いた範囲ではそういうところにしぼってこられるのです。河野さんが当時交渉された経験から、もちろん政府の今とっておる基本方針からいって、平和条約についての具体的な話し合いをするという段階ではないという立場ですから、これに入ることはできないにしても、少くともそういった広範囲にわたる話し合いをあらゆる機会にするという態度で臨まなければ、全く漁業以外の話はしないのだというかたくな態度で臨んだのでは、交渉は進展しない、おそらく経験のある河野さんはそう判断されておるのじゃないかと思うのですが、この点の御意見はいかがですか。
  82. 河野一郎

    河野国務大臣 私は漁業交渉に関する限り、漁業交渉だけで先方も平和条約をこれにからめて云々ということはないと思います。ただ漁業の中でも、安全操業の問題になりますと話は別で、安全操業の問題になると、平和条約の問題を先方もからめて話し合いをしたいということを言うかもしれぬと思います。しかし今の鮭鱒のいわゆる漁業協定内容については、現段階においては漁業交渉だけで話は先方も満足をしてこの話し合いに応じておるものと、こういうふうに私は考えます。
  83. 松本七郎

    松本(七)委員 ソ連側もこの前正式の会談の席で、平和条約とからめはしないのだということは言っておる。しかし平和条約が結ばれなければ、いろいろなことに大きな関係があるということは、向うもはっきり言っておるわけです。特に安全操業については、河野さんが今言われたことは非常に大事な点だと思うのです。外務大臣はこの点で以前から、私が御質問したときに、暫定的なものだからということで、この平和条約とは関係ないように言われるけれども、実質的にいえば、今河野さんの言われるように、特にソ連側からすれば、この安全操業の問題は、平和条約関係させずに向う話し合いに応ずることは非常に困難だ、最初から私はこの点を聞いておったのですが、当時暫定協定向うがやろうと言ったのだから、平和条約あるいは領土の問題とは関係ないのだ、こう言っておられましたが、今日の段階になって考えてみれば、少くとも安全操業の問題は、やはり平和条約関係なしには交渉に入ることがむずかしいのだということは、以前より以上に外務大臣は感じられておると思うのですが、この点いかがですか。
  84. 河野一郎

    河野国務大臣 ちょっと私に発言さして下さい。私の申し上げましたのは、総括的に申し上げましたので、現に私がソ連に参りました際にも、安全操業の話はあったわけであります。これは平和条約関係なしにあったわけであります。でございますから、今の段階において安全操業の話をするのに、平和条約関係なしには一切できないかというと、それはそうじゃないと私は思います。安全操業に対する考え方ソ連側日本側の間に多少食い違いがあるのじゃないか、これは私は最近は関係ありませんからわかりませんけれども、私の感じはそういう意味で申し上げたのでありまして、今外務当局のおっしゃっておられる話をここで伺いますと、安全操業についても十分話し合いで、平和条約と切り離して安全操業の話が全然できぬことはない、これはそういうケースも考えられるということは私はあると思います。ただそれは日ソ両国間において、安全操業に関する両国の意思の十分疎通するように話し合うことによって、一つの安全操業のケースができるということも考えられる、こう思うのでございます。ただ一がいに安全操業ということを総括的にかぶせて、それは一体平和条約関係なしにできるかできぬかという議論は、少し飛躍しておるというふうに私は思うのであります。でございますから、この場合は安全操業を、日本側でとっておりますように、平和条約は非常に困難だ、困難があるから、平和条約の段階に入らずに安全操業交渉は全然だめかというと、必ずしもそうでないということが、私の全く局外者としての意見でございます。
  85. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ただいま河野さんの言われた通りだと思うのでありまして、われわれとしましては、安全操業の問題を取り上げまして、ソ連側も、少くもわれわれの関知する経過の中では、平和条約の問題を別にして、平和条約ができるまでの暫定的な処置として、安全操業話し合いをしてみようという考え方があったのではないかということを、私どもは過去の交渉の経過から見まして、そう考えております。しかしながらこの二月以来、この問題は領土問題と関連があるのだ、平和条約ができれば、そういう問題のある部分が解消するんだというようなことを向うが言い出したことも、その通りであります。従って現在の段階において、平和条約の問題とこれをソ連側が完全に切り離しているかどうかということは、私は必ずしも切り離しているとまでは申し上げかねます。しかしながら日本としては最初に、平和条約を作るためにも、両国の友好親善関係を深めていく。そのためには、かりに平和条約が半年先であろうと、一年先であろうと、その間短期間であろうと、こういう問題を解決して、そうして北洋漁業者、零細漁業者の立場がよくなりますことが、日ソ間の平和条約に対する理解を深めていくゆえんだと思うのでありまして、そういう意味においてわれわれとしては、なお過去の経緯から見まして、切り離して努力してみる必要があると現在考えておるわけであります。
  86. 穗積七郎

    穗積委員 関連して。外務大臣河野経企長官にお尋ねしますが、私は河野さんのお考えが非常にすなおで妥当だと思うのです。つまり安全操業の問題を出せば、平和条約条件としないけれども、当然領海の問題で関係しますから、領海の問題を解決するためには、やはり平和条約内容にわたるわけですね。自然そうなると思う。そこで私は最近安全操業の問題をこちらから出したら、それなら領海の問題を解決すれば、これは簡単に解決しますよと言って、それが平和条約を要求したかのごとく印象を与えたわけです。事実関係向うは説明した。必ずしも平和条約締結しなければ漁業条約に応じないと言ったのではない。時期的にも平和条約が先で、漁業協定あとだと言ったわけでもございません。その実質的な関連があるということを指摘しただけです。われわれもそう考えている。ところが外務大臣は、その後モスクワにおける交渉では、オホーツク海の禁漁の問題にしぼられてきて、あと漁獲量の問題になってきて、安全操業の問題はその後交渉の議題に出てきていないけれどもどうするのだとお尋ねしたら、やるつもりだと言われておる。やるのも、今あなたのようなすなおな考えではなくて、領海問題に議論を入れるのは困るから、暫定措置として、その範囲交渉したい、こういう御趣旨のようでございます。それならそれでいいけれども、そうするとこの安全操業問題は解決しないとわれわれは判断をする。安全操業問題が解決しないでも、漁業協定を結んでしまうというのか。安全操業の問題も、やってみなければわからないけれども態度としてはぜひともいけるところまでいって解決をしたい。そうなれば、平和条約を先に結ぶわけではないけれども、とにかく領海問題その他についても十分胸襟を開いて、別の人を立てるなり、別の会議を開くなりして、話し合うことに何らやぶさかでない、こういう態度でいるのか。そこのところのバトン・タッチが不統一です。そういうことでは、  この漁業交渉は円満にいくまいと思う。どちらが一体政府の方針なのか。その点お二人でよくお打ち合せして御答弁願いたい。
  87. 河野一郎

    河野国務大臣 穗積さんのお考えにも、失礼ですが、多少誤解がありはせぬかと私は思います。と申しますのは、現在やっておりますのは、漁業協定を作ろうというのじゃないのであって、漁業協定に基きまして、今年度の漁獲の方法をどうするかということをやっておる。これは元来御承知の通り委員会が両国政府に勧告する内容を検討しておるのだということでございますから、漁業委員会の決定両国政府に勧告する、そこで漁撈の手段、方法はどうするか、限度をどうするかということの勧告案が漁業委員会でできる、それを外からまとめるように話し合いもしておる、こういうことでございまして、これは別に新しい問題がここに起っているのではなく、これはこれで全然別個の問題だ、こう私は解釈しております。それから今の安全操業の問題は、今の鮭鱒問題とは全然別でありまして、漁業協定に基くものではない。これも明瞭におわかりいただけると思うのであります。そこで平和条約安全操業の問題とは、どこでかかり合いができておるかと申しますと、私は今の領海の問題も確かに一つの問題だと思います。しかし領海の問題の決定がなければ安全操業決定はできないかというと、私はそう考えないのであります。というのは、外務当局の御意見はどういうことか私存じませんけれども、私が向うに行って話しましたときの感じでは、たとえて申しますれば、平和条約締結はなくても、一部の安全操業話し合いは、向うが親切に好意的に応ずる意思があったということは、私ははっきり言えると思うのです。でございますから、この点から参りますれば、領海の問題の決定がなくても、今の漁業協定に対しても、これは領海の点に触れないように避けて取りきめになっております。そういうふうに総括的に、その点に触れずに安全操業の問題もきめることが全然できないかというと、これはできない問題じゃないと思うのでございます。それで現実的な困難性はどこからきているかというと、私は安全操業の区域の問題について、両者の間に食い違いがある——私は当事者じゃありませんけれども、私の外から見た解釈は、そういうように私は解釈するわけであります。私が当時ソ連話し合いましたときの安全操業範囲と、今日の日本側から提案しました範囲の間に、多少食い違いがあるのじゃないか、ソ連側考えておる安全操業範囲と、日本に好意をもって協力しようと思っておった範囲と、日本から要求した範囲との間に違いがあるのではないか、違いがあるから、そういう広範囲安全操業日本側から希望するならば、平和条約の取りきめがないと、ソ連側は応じにくいということを考えているのではないかと思います。それも十分こちら側が了解を求めることに努力することによって、必ずしも不可能じゃないというような気持がいたしますので、せっかく外務当局が努力しておられることを、さらにその努力を進めることによって、ソ連側の了解を得ることができるのではないかと私は解釈しておるのです。こういうことは蛇足でございますけれども漁業関係交渉に関する限り、私はソ連側は非常に日本に対して友好的な立場をとっておるということが言えると思うのであります。すべては理論的であります。それをこちら側で、非常にソ連側の主張が無謀であるとか、ソ連側の主張が間違っているとか言うことは、日ソ両国が友好裏に交渉を進めておる際に、日本側でそういう声が出るということは好ましいことではない。ソ連側の言うておりますことは、ソ連側立場になれば、ああいうことを言われることはもっともだと思える節が多々あるわけであります。またこちら側の言うておりますことも、こちら側の立場からすると、当然要求しなければならぬことであって、そこにソ連側が、たとえば八万トンの線を譲らぬというようなことは、何といってもソ連が少し無理であって、陸上の漁獲量と見合ってということは、かたい約束があるのでありますから、これはある時期に向うはおりるだろうと私は思います。また同時にオホーツク海においてこちらは締め出す、締め出すという言葉で、ただ公海の独占欲がソ連側にあるごとくにこちらであまりに強く言いますことは、これはもう釈迦に説法でございますけれども、カニの場合においては少しもオホーツクで漁撈することをソ連側は拒否していない。さらにまた最近は、現に。年から出漁すると思いますが、タラのフィッシュ・ミールのごときもソ連は決して拒否するものではない、公海における漁業について少しも制約を加えようとしておるのではないのでありますから、これはただ鮭鱒に関する両国の漁撈の立場からお互いの間に意見の違いがあるという一点でございますから、これは両国立場を十分にそれぞれの代表が話し合うことによって、円満に結論がつくのじゃないかと思いますので、これを先方もいろいろな放送をするようでございますけれども、こちら側でもこれを当局が、代表向うで十分に友好裏に話し合っておる問題をあまり刺戟的に背後からいろいろ申すことは、かえって両国のために私はとらざるところじゃないかという気持がありますので、従来いろいろお尋ねがございますけれども、なるべくそのお尋ねに対して私はあいまいな御返事ばかり申し上げまして、いろいろ誤解を生んでおる向きもあるようでございますけれども、私が御返事したことは全部間違いなくはっきりいたしておりますけれども、何とかこの両国立場を十分友好的に結論の出るように運んでいただきたい、こう思っております。いろいろの立場からお尋ねがございますけれども、できることなら私はもう両三日中に結論が出るのじゃないかと思っておりますので、一つしばらく御猶予をいただくわけにはいかぬものだろうか、こう思っております。
  88. 松本七郎

    松本(七)委員 今の河野さんのお話で、今まで長い問いろいろ交渉されて漁業交渉に関する限りはソ連は非常に友好的だ、これは非常に重要な御発言だと思うのです。外務大臣も今度の交渉に入る前には、安全操業というものが当然これは交渉できる、相当希望を持っておられた。ところが今日ではそれが全然、これは平和条約と切り離しては不可能だとは結論には達しておらないにしても、以前予想されておったよりは、相当事態が困難であるということは、先ほどの御答弁からも明らかだと思うのです。そこで一体それはどうしてか、その原因はどこにあるのだということになりますと、もちろん今河野長官の言われたように、安全操業内容そのものについての意見の相違からであると思うのですけれども、私はそれだけじゃないのじゃないかという気がしますので、一体なぜそういう交渉が困難になったか、その根本原因はどこにあると外務大臣考えておられますか。
  89. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私はソ連が暫定操業に対して非常に非友好的になったということを申し上げたこともなし、またそう感じておりません。ただソ連としては、先ほど来穗積委員お話にありますように、この問題は平和条約を要求しているわけでもない。しかし関連してこういう問題があるのだということを指摘してきているわけであります。従って今日までの暫定操業の話し合いにつきましても、非友好的に話し合ってきているわけじゃないのでありますから、私は今後やはり日本としてもそういう気持の上に立って、まだ今ここですぐに捨てちまわなくとも、やはり交渉は続けていく方が適当なのじゃないか、まだ最終的に平和条約ができなければこの問題はもうだめなんだとまで断定を下す必要はないのじゃないか、従って今後ソ連に対しても友好的に交渉を続けていく、そうしてただいまお話のような、もしそれで話し合いの場に入りますれば、今の地域の問題その他についてはこれは話し合いのことでありますから、お互いにそれぞれ話し合って適当な範囲内できまるものならばきまり得るのじゃないか、こういうところを申しておるわけであります。
  90. 松本七郎

    松本(七)委員 外務大臣は友好的な先方の態度に対して、こっちも決して非友好的じゃないと言われるけれども、しかし実際に安全操業の問題を持ち出し向う交渉に応ずると言いながら、後になって領土の問題なり平和条約の問題云々交渉の時期にあらずと言った。これを食言、不信行為呼ばわりされたことがあるのです。それから今河野長官もオホーツク海においてもこれは決して禁漁区だとか締め出しじゃないのだ、現にカニはとれるし締め出しじゃない、こう言われる。そういう事態であるにかかわらず、世間は、また政府は、しばしばあたかもこれは締め出されようとしておるんだ、あるいは禁漁区を設定されようとしておるんだ、こういうふうに言明しておるわけです。そういうことがだんだん向うを刺激する原因になってくると思う。先ほどの河野長官の御説明は非常に重要で、むしろこれは閣議でそれを言ってもらいたいくらいで、むしろ政府がそういう向うを刺激するような声明や何かをしばしば出しておるのです。そこに問題があるのです。河野さんは、安全操業についてもその技術的な内容について、意見の違いがあるんだ。だから漁業委員会の交渉も結局はそうなんだ。だからじっくりお互いに友好的な雰囲気の間で話し合えば、これは譲るべきところは譲って、妥協もできるというお考えのようですが、この考えは非常に大事だと思う。しかしその背後には、両方の友好的な雰囲気をかもし出すような条件というものは、両国の中になければならぬと思う。それが欠けておるのではないか。というのは、これは河野長官にぜひ一つ当時の空気からお伺いしたいのですけれども、日ソ国交回復、あの共同宣言が妥結したとき日本側が領土の要求を強く出して、どうしても平和条約が結べない。従って平和条約が結べないからその次善策として共同宣言という形で国交回復したわけですね。この当時日本側が、それほど強く言うなら領土についてはなおそれじゃ交渉継続ということにする。しかし実際には平和条約を結んだと同じ友好的な関係両国の間にはこれから積み重ねていこう、こういうことだったと思うのです。それが今日ソ連政府に言わしめるならば、そういうつもりであったにかかわらず、岸内閣はそれに相当するだけのことをやっていないじゃないかということが、向うは、本来ならもっと友好関係にあれば譲ってもいいものまで譲らずに、理屈一点張りで押してくる根本の原因じゃないかと思うのですが、河野さんはどうお考えでしょうか。
  91. 河野一郎

    河野国務大臣 私はおっしゃる通りじゃないかと思います。ただ具体的に申し上げますれば、国後、択捉の両島の帰属については、わが方は絶対これを譲ることはできないということは、先方も十分承知しておるはずであります。しこうして先方もまたこれを日本側の要求通りに譲ることは絶対にできないということは、私とフルシチョフ氏との間でしばしば会談をいたしまして、双方立場は十分明瞭になっておると私は確信いたします。従って、その雰囲気、その状態は、その後の両国の国内情勢において変りはないということは、ソ連側も十分承知しておるはずでございます。わが方におきましても、まだ今ソ連側がにわかに国後、択捉を日本側に譲ってくるとは、おそらく何人もなかなか考えにくいと思うのであります。そういう客観的な情勢に変化がないときに平和条約を持ち出しても、ソ連側もそれをにわかに日本側が受け入れると思わぬでございましょうし、わが方もまた今こちらからその話をしても、先方がこれを了承するとは考えられないわけであります。従いまして、今お話のようになるべく客観条件、世界情勢の変化を待つことも一つの問題ではございましょうけれども、また日ソ両国間における各種の友好関係を、総理がしばしばおっしゃいますように、積み重ねていくことも必要であると私は思います。そういう意味においてわが方におきましても、今お話のようにソ連側の要求に対して、決してこれを政府においても、もしくは外務当局が、非礼な、もしくは向うの正当な要求に対してこれを拒否するというようなことは私はなかったと思います。たとえば、通商協定の設定に当って、窓口一本化を私は主張しました。このごときは私は当然の主張だと思うのであります。しかるにソ連の方は非常にこれを横車を押すような放送をされるというようなことは、この問題だけをとってみても、両国の了解の点においてまだまだ積み重ねが足らないというふうに私は考えるのであります。従いまして、これは両国のそれぞれの代表者の間において、十分友好的の観念で積み重ねをして参る必要があるというふうに考えるのでありまして、決してわが方だけが一方的にソ連の正当な要求をことごとに横車を押して拒否しておるというようなことは絶対にあり得ぬ。最近の問題で申せば、くどいようですが今の貿易協定の窓口の問題であります。このごときも、イタリアの場合はどうだ、インドの場合はどうだということを考えますれば、わが方としてもこれを要求することは決して無謀じゃない、これによってむしろ両国貿易が正常に発展していくことができるとさえ私は思うのであります。これはわが方から十分理解と納得を得ることによって、ソ連側の理解と納得を得ることが今後だんだんできるようになっていくだろう、これは急におっしゃいましても、なかなか両国立場がむずかしいのでございますから、ことにわが国の立場ソ連側においても十分了承しておることでございますから、そう簡単にソ連の御要求、御希望通り、またわが方の希望通り向うもいくものではない。これは双方の間に努力が必要であるというふうに考えるのであって、松本さんその他非常に性急に日ソ間の問題を飛躍するように御要求になりますけれども、これはなかなかそういきにくいのじゃないか。努力する必要はありますけれども、むずかしいのじゃないか、こう考えておるわけでございます。
  92. 床次徳二

    床次委員長 総理大臣が見えましたから、総理大臣に対する質疑を願います。
  93. 松本七郎

    松本(七)委員 総理大臣が見えましたから総理にお尋ねしたい点は、一つは日ソ交渉、もう一つは核兵器実験の問題です。日ソ交渉は、今過去のいろいろな経過から、現在のところは外務大臣、企画庁長官にそれぞれお伺いしたのですが、聞くところによると、高砥さんがあとモスクワに行かれるときに、平塚さんの報告に基いての結論だと思うのですが、これを過去、重光外務大臣の当時にやったように、全く漁業問題以外は話してはいかぬ、こういうきつい態度で行ったのでは話にならない、従ってやはり相当いろいろな全般的な政治問題について向うの首脳部と話し合いたいというのが、またそれをしなければだめだというのが、高碕さんの意見だったと聞いているのです。ところが総理としては、やはりそこまでやるわけにいかぬというので、結局、それじゃ個人的な意見として漁業問題以外のいろいろな政治問題について高碕さんは話そう、こういうことで出かけて、一週間で高碕さんは帰ってくる。しかしそれじゃおそらく解決しないであろうから、さらに河野長官あたりを再度派遣しよう、こういう計画だったというふうに聞いておりますので、今日の事態からいえば、その計画が一切だめになって、事態は非常に困難になっておるというような見通しを一部で持っておる人がおるのですが、この間のいきさつと今後の見通しについての御意見をお伺いいたします。
  94. 岸信介

    ○岸国務大臣 日ソの漁業交渉の問題におきましては、いろいろの議論がありますけれども、私どもはあくまでもこれは漁業条約に基くところの年次的な両国委員話し合いで、本年度のサケ・マスの漁獲量を中心としてきめるという問題であることは、これはもう松本さん御承知の通りであります。この建前はやはり私はくずしてはならない、またその意味において代表を任命して、それを日本側の主張をできるだけソ連側に理解せしめ、納得せしめ、そして日本に有利な結論を得るように交渉することを任務として両代表出したわけであります。従って今お話通り政府代表としてその他の問題に入る権限は、この両代表とも持っておりません。しかし高碕君はあそこに従来から知り合いもありますし、またソ連の一般の意向なり考え方なりというものをいろいろ聞く意味において、これらの人々と会談もし、そういう意見の交換もあることは、これは私、高碕君がそういう今までの経験なり知り合いなりを持っておってやること自体を、何にもとめもしないし、またされることは適当であろう、また一般にそういうことによって、間接的にさっき申しますような趣旨漁業交渉を有利にする点があるならば、それもけっこうである、こういうつもりでおります。何か高碕君が一週間で帰る、それでいかなかった場合においては、河野企画庁長官を出すという意思であったのだというふうなお話でありますが、私どもそう考えておりません。初めからこの両代表によって、また出しておる委員の諸君の努力によって、わが方の主張をできるだけ向うに理解せしめ、適当なる妥結点に到達することを期待しておるのでありまして、その間において、御承知のようなソ連における政治的の一種の変革も行われましたし、いろいろな事件のために、約一週間くらいは事実上会談等がおくれておりました。しかし今日まで私は、非常に有望であり、必ず近くできる、妥結点に達するということを申し上げる状況じゃまだございませんけれども、行き詰まっておってどうにもならぬようになっておるのじゃないかというふうな情勢ではないということだけを申し上げておき、他の具体的なことは、なお交渉中でございますから、申し上げることを差し控えさせていただきます。
  95. 松本七郎

    松本(七)委員 私的には相当いろいろ知り合いもいるし、話をするようにという、まあ訓令じゃないけれども、総理からそういう言葉があったということなのですが、私はあの国交回復当時ならば、河野さんが行かれて、公的にはワクをはめられても、私的な立場でいろいろ話をされたことが、あのときは非常に大きな効果をおさめたと思う。しかし今日それを二度繰り返しても、そう効果はない。やはり公的な立場漁業問題以外の話をいろいろやる権限を持って行かなければ、今日ほんとうに日本が友好的な気持で交渉に乗り出しているということをソ連に感じさせることは不可能だと私は思いましたので、今の点を聞いたわけですが、これは意見の相違になってきますからこれ以上は申しません。そうすると、大体新聞は、高碕さん以下全部帰って赤城さん一人が残るというようなことをきょうは報道しておりましたが、そういうことがあるのですか。
  96. 岸信介

    ○岸国務大臣 私どもさようには承知いたしておりません。まだ何にもそういうふうな具体的なことはございませんし、最初に私どもが送りました代表及び委員でもって、この問題についての話し合いを進めていくものだと思っております。一部帰ってくるという報道は聞いておりません。
  97. 松本七郎

    松本(七)委員 他の委員の方が総理に質問がありますので急ぎますが、何か世間では、この漁業交渉も解散の時期とは非常に大きな関係があるように伝わっておるのですが、これが政府の思惑通り妥結ができなければ、やはり解散は先に延ばすというようなお気持があるのでしょうか。
  98. 岸信介

    ○岸国務大臣 解散のことにつきましては、あらゆるところに私参りまして御質問を受けておるのでありますが、現在のところ、いつ解散するとか世間ではいろいろなことを申しておりますけれども、そういうことを考えておらないということを御返事申し上げております。従って日ソ交渉——もちろん首相としては内治外交の全責任を持っておるわけでありますから、いろいろの点を考慮していかなければならぬことは言うを待ちませんけれども、特にこの問題と解散の時期というものと関連させて考えておるわけではございません。
  99. 床次徳二

    床次委員長 松本君、総理大臣は半までありますし、他に質疑の希望者がありますから、適当にお願いいたします。
  100. 松本七郎

    松本(七)委員 それから平和条約の問題で、この前半塚さんが交渉に行っておられる最中でしたが、いわゆる領土問題たな上げ方式、特に国後、択捉の問題の解決をたな上げして平和条約を結ぶ、それをソ連が承認するのじゃないかというような報道がなされた。それと同時に、ポーランドを通じた外電も同じような報道をしておったのですが、何かそういった動きを、政府は正式につかんでおられるのですか。
  101. 岸信介

    ○岸国務大臣 私どもそういう特別な、具体的なことにつきましては、何にも情報その他具体的なものはつかんでおりません。
  102. 松本七郎

    松本(七)委員 これは重光さんが向うに行かれたときも、一度、むしろ日本政府の方からこの問題を出したと私は聞いております。国後、択捉をどうしてもソ連が譲らないならば、一つこの問題はたな上げして、平和条約を結ぼうということを出されて、これをソ連が強硬に拒否した。従って重光さんは、しからばいよいよこれは歯舞、色丹で平和条約を結ぶほかなしという、あの平和条約締結論者に変ったというふうに、私どもは聞いておりましたので、この問題は非常にむずかしいと思った。しかるに、最近ちょいちょいそういう報道がなされますので、政府はこれを一体どういうふうに判断されておるかを聞きたかったのでありますが、正式なそれをつかんでおらないにしても、たな上げ方式でやるという御意見は、岸総理としてはお持ちなんでしょうか。
  103. 岸信介

    ○岸国務大臣 今の共同宣言が、実はたな上げ方式になっておるわけであります。この問題をきめずして、この領土問題という——両方の意見の違うのはそこでありますから、それが平和条約締結する支障になっておることの核心の点であることは、私が申し上げるまでもないことであります。しかし、それをたな上げ方式にして、そうして今の共同宣言を、名前だけ変えて平和条約という形にするかというと、私はそういう意思は持っておりません。やはり平和条約締結するということについては、両国の間の問題である、この領土問題というものを解決することによって、平和条約は結べるものであり、そうでない限りにおいては、共同宣言によって——現在の状態とちっとも変らないのですから、現在の状態でいくべきものである、かように考えております。
  104. 松本七郎

    松本(七)委員 もう一点だけ。ソ連の核兵器実験の一方的停止、これをどう判断するかという点で一つ伺いたいのです。それは、昨年朝日新聞の広岡編集局長がモスクワに行きまして、フルシチョフ第一書記に会っていろいろ話し合ったときに、広岡さんは、この核兵器の実験停止をソ連がまっ先に、一方的にやったらどうだ。そうすれば、これは非常に道義的に国際世論にアピールするだろう。そうして世論もこれを支持するし、一方、それにもかかわらずなお実験を続ける国は、国際世論からたたかれるだろう。これは非常にいいことだからどうだ、こう聞いておるわけです。これに対して、当時フルシチョフは、いや、両方でやるのならともかく、おれの方だけそういうことをやったのでは、ますます自分の方が不利になる。片方が実験をどんどん続けることがわかっていながら、自分だけやめることは、おくれをとることになるから、それはちょっと無理じゃないか、こう言っておる。ところが今日は、一方的に正式に停止を声明してしまったわけです。こうなると、広岡さんが当時言っておったように、ソ連は当時それを拒否しておったけれども、今日はよく反省してみて、これは道義的にもやはり自分がまっ先にやった方がいい、こう判断してこれをやったものか、あるいは道義的な問題じゃない。これは自分の方は非常に実力が進んできた。ロケットその他で、はるかにアメリカを引き離した。アメリカ国内でも、ロケット技術ではすでに五年間おくれたと、アメリカ自身も言っておるようですが、そういう段階になってきたから、実力によって、向うが少々続けてやっても、こっちはしばらく一方的に停止しても差しつかえないんだ、こういうことが今度の一方的な停止の根拠なのか。これをどう判断するかによって、日本の今後の自衛隊の問題にもかかってくる。国防問題にもかかってくる。あらゆる問題にかかってくる。核兵器を一切持ち込まないという立場をとっている今の政府にも、この問題をどう判断するかということが、大きな影響が及んでくると思いますので、この問題をどう判断されておるか、この際伺っておきたい。
  105. 岸信介

    ○岸国務大臣 ソ連がどういう意図でああいう声明をしたかということにつきましては、いろいろな揣摩憶測も行われておりますが、私は、ごく率直に申し上げますが、今その真意を正確に把握するということは困難である。松本委員お話のように、二つだけのいずれかであるというふうにきめてかかることも、私ども立場から申しますと、なお検討を要すると思います。しかし、いずれにしても、その真意がいかんにあろうとも、われわれが従来この停止を強く呼びかけておる問題でございますから、ソ連の一方的なこの停止の声明は、政府として非常に歓迎するものであるということを、私は声明をいたしておるわけでありますが、真意につきましては、いろいろな意見もございますので、十分検討してみなければならぬと思っております。
  106. 床次徳二

  107. 穗積七郎

    穗積委員 時間がありませんので、岸総理に、日中貿易について重要な点だけ二点、ちょっとお尋ねしておきます。  先ほど外務大臣に、今度結ばれました協定並びに覚書——これは不可分のものである。それに対して政府支持協力を与えられるようであるが、その支持協力内容についてお尋ねをいたしました。そこで、念を押しておきたいのは、覚書の中にあります——特に重要な点は第一項でございますが、法律上の紛争を引き起した場合は双方が連絡して双方同意した方法で処理すること、これは、日本の国内の法制機構に差しつかえない範囲において、こういう処理の仕方を認めるように協力する、こういう趣旨であるという外務大臣の御答弁でございましたが、この点について総理からお尋ねいたしておきたい。と申しますのは、これをあいまいにいたしておきまして、あと実行に移りましてから、いろいろな誤解を生じたり、トラブルを生じますと、かえって両国貿易発展、友好のために障害を来たしますから、従って、事前に明確にお伺いするわけです。これについては、今申しましたような外務大臣の御答弁で、総理大臣としては、内閣の方針であるということを確認さるべきだと思いますから、それでよろしゅうございますね。
  108. 岸信介

    ○岸国務大臣 外務大臣が御答弁申し上げました通り内閣としてもその方針でいくつもりであります。
  109. 穗積七郎

    穗積委員 もう一点。それは同じく覚書の第四項で、これが今まで問題になった点ですが、国旗掲揚の問題でございます。これには、権利を有する、とありますけれども民間協定であるから、国際法上の権利としてこれを認めるというわけにはいかない。何となれば、日本中国とはまだ国交未回復国である。しかしながら、事実上東京で中国代表部が設置されたときに、その代表部が、向うの意思で国旗掲揚をいたしました場合に、日本政府はその引き下げまたは撤去を要求するようなことはないという点、それからもう一点は、日本人または第三国人によって、この掲揚された中国国旗に対して、損壊またはその他の害が加えられた場合に、日本政府としては、それを未然に防ぐ、あるいは日本法律範囲内において——例をあげれば刑法第九十二条でございますが、国内法範囲内においてその安全の保障協力する、こういうふうな御趣旨の御答弁、これが支持協力内容であるということでございますが、これまた当然総理と外務大臣との間で食い違いがあろうはずはありませんが、そういうふうに理解してよろしゅうございますね。
  110. 岸信介

    ○岸国務大臣 それでいいのでありますが、ただちょっと明確でないと思いますのは、これを損壊したような場合において刑法九十二条の適用があるような御意見のようでありましたが、私ども刑法九十二条の適用はない、こう解釈いたしております。器物をそこなうといっても、あるいは住居に侵入した者があれば、住居に不法に侵入したとか、あるいは器物を毀棄したということにはなりますけれども、いわゆる国旗損壊についての九十二条の適用はない、こう解釈しております。
  111. 穗積七郎

    穗積委員 それは私の誤解であったかもしれないが、外務大臣の御答弁とは食い違いがあるわけです。外務大臣は、日本国内法によって保護さるべき保護は全部与えるという趣旨でございますから、当然九十二条も国内法ですからそうですねと申しましたら、九十二条とは言われませんでしたが、国内法の保護については事前または事後において当然される、こういうお話があったのです。九十二条をなぜ適用除外されるのか、その理由がわれわれには納得できないのです。向うに参りました日本代表部日本国旗掲揚いたしました場合に、中国人または第三国人によってこれに損壊その他の侮辱を与えられた場合、向う国内法の最大限——国際法上の権利としては認めないとしても、国内法上の保護を与える、そしてそういう害を事前または事後に処理する、こういうことは、両国の人民の友好上、この協定趣旨支持協力を与えるということであるならば、当然だと思うのです。国際法上の権利として云々、そうしてそこにできた代表部には外交官待遇のすべてを与えるという解釈は、向うも要求してないし、われわれも無理なことは十分承知いたしております。あくまで民間代表部です。しかし掲げられるものは、相手の人民を象徴するところの国旗でございますから、日本国旗であろうと、中華人民共和国の国旗であろうと、同様にお互い信義、誠実の原則に従って最大限の保護を与えるということは当然だと思うのです。私はそれを理解するにはなはだ苦しむわけです。今の御答弁は、外務大臣の御答弁通りでいいと思うのですがね。
  112. 岸信介

    ○岸国務大臣 一般に国内法の保護を与えるということの原則は、先ほどもお答え申し上げておるように、ただ覚書の一項だけではなしに全体におおいかぶさっておる。刑法九十二条の規定をお読みになりますとはっきりするように、この場合においては当該国の請求を待って罪を論ずるということになっております。私ども中共政府を一つの独立国として承認しないという立場をとっておりますので、そういう中共政府からの要求がかりにありましても、それを、この刑法でいっておる当該国の請求ということにわれわれは解釈をしない。従って九十二条のいわゆる国旗損壊の罪というものはわれわれとしても認めない。しかし国内法において、他人のところに不法に入っていく、そうして他人のものをこわしたときにおいてはそれが旗でなかろうとも、一つの机であっても、いすであっても、これに対していわゆる器物毀棄罪が適用されると同じような法律関係における器物投棄罪は成立するであろうけれども、いわゆる九十二条にいっている当該国の請求を待って論ずる国旗損壊罪には当らない、こういうことを申しておるわけであります。
  113. 穗積七郎

    穗積委員 時間がありませんから残念ですけれどもあと田中君の質問もありますから……。ただ、もう一点だけ申し上げたいのは、その問題についてはなはだ矛盾していると思うのです。これはアメリカまたは台湾に気がねをされて、法制局または外務省事務当局考え出された詭弁だと思うのです。たとえば国際法上は国交未回復国であっても、その国の国旗なり人民に保障を与える、これは友好関係精神である以上当然だと思うのです。そのことと相手国政府を承認するという問題とは別個の問題です。友好関係を持って貿易事務を行おうという意思表示をした以上は、それに含まれるところの代表部の生命、財産の安全保障だけではなくて、国旗に対しても当然最大限の保障を与えるべきである。向う相手国の承認云々ということですけれども、それではたとえば、これから郵便協定政府間で結ぼうとしておられるが、郵便協定ができた場合には、未承認政府であっても相手国政府の要求権利というものは出て参りますよ。それが事務的協定であろうとも、協定の中に出て参ります。そこで相手国政府の損害補償の要求に応じて、日本政府がその協定に従っていろいろな措置をとった場合でも、それと、相手国政府全部を承認した国交回復の問題とは、別個の問題として当然切り離して解釈ができるはずです。相手国政府との交渉ですから何ら差しつかえない。従って今の刑法でいう親告罪みたいになっておりますが、相手国政府から、国旗に対して損壊またはその他の侮辱が与えられた場合に、これを処置してもらいたいと言ってきて、それに応じてやることは、信義、誠実の原則をわれわれが実行することであっても、そのことによって、実際上の行政措置そのものによって、または裁判そのものによってこの九十二条の適用をしたから、すぐ相手国政府を承認した、中国日本とは国交回復をしたのだ、そんな飛躍的な解釈が生まれてくるはずはない。そういうわけですから、その点はどうぞもう一度じっくりと検討していただいて、内閣の方針ならば改めていただきたいということを強く要望いたします。
  114. 床次徳二

    床次委員長 田中君。時間の関係がありますから簡潔に願います。
  115. 田中稔男

    田中(稔)委員 先月の十二日に、中国人の劉連仁という人の問題につきまして岸総理に質問をいたしましたが、すでに御承知のように劉君は、終戦直前にその使役されておりました明治鉱業所の昭和炭鉱を脱出して、北海道の山の中に今日まで十三年間生活してきたのでありますが、この劉君につきましては、総理から、私に対する御答弁の中で非常に誠意ある御答弁をいただきましたので、私は非常に満足の意を表したのであります。その中で総理はこういうふうに言っておられます。「劉君の問題につきましては、今言ったような手順になっておりますが、これに対しまして十分に一つ慰労もいたし、これらの日本における御苦労に対しまして、私は十分に報いて、向うへ帰られるようにしたい、かように思っております。」こういう御答弁であった。これは誠意のある御答弁でありますが、ややあいまいな御答弁でありますので、この際もっと具体的に明らかにしたいという趣旨で御質問申し上げるのであります。
  116. 床次徳二

    床次委員長 簡潔に願います。あなたはいつも長くなるから……。
  117. 田中稔男

    田中(稔)委員 まず劉君の身分の問題でありますが、劉君は、御承知のように昭和十七年岸総理が当時商工大臣をしておった東条内閣の閣議決定に基いて、強制的に本人の意思に反して日本に連れてこられた華人労務者の一人であります。この劉君の身分でありますが、強制連行ということははっきりしておるのでありまして、本人の自由な意思に基いて入国したものでないという点は明らかであります。この点につきまして政府のお考えをお聞きしたと思います。
  118. 岸信介

    ○岸国務大臣 政府として当時の事情を明らかにするような資料がございませんし、それを確かめる方法が実は現在としてはないのであります。あの閣議決定趣旨は、そういう本人の意思に反してこれを強制連行するという趣旨でないことは、あの閣議のなんでも明らかでありますが、しかし事実問題として、強制して連れてきたのか、あるいは本人が承諾して来たのか、これを確かめるすべがございませんので、政府として責任を持ってどうだということを今の時代になって明らかにすることはとうていできないと思います。
  119. 田中稔男

    田中(稔)委員 外務省がかってGHQに提出いたしました書類でありますが、華人労務者就労事情調査報告書というのがあります。これを見ますと、その間の事情はもう明らかでありますが、総理はこういう報告書の存在を御承知でありますかどうか。——それはだれかかわってもよろしゅうございます。
  120. 岸信介

    ○岸国務大臣 私実ははっきりその事実を知りませんから、事務当局から答えさせます。
  121. 松本瀧藏

    松本政府委員 そういったものがあるということを承わったことはございますが、外務省にはそういう書類は今残っておりません。
  122. 田中稔男

    田中(稔)委員 これは外務省監理局で作成した書類なんでありまして、戦後作ったものでありますから、その後別に戦災があったわけじゃないのでありますから、まだあるということは常識でわかると思う。これは一つ出してもらいたいと思います。今おわかりにならぬなら、ぜひ調べて外務委員会に提出していただきたい。それについて一つ。
  123. 松本瀧藏

    松本政府委員 注意を受けましたので調べましたけれども、現在それはございません。ないことだけは確かであります。
  124. 田中稔男

    田中(稔)委員 そういういいかげんな答弁では実は困るのでありますが、そのことはまたあとからお聞きいたします。  そこで総理に重ねて御質問いたしますが、その報告書はないにしても、当時商工大臣をしておられましたが、あの閣議決定内容は、なるほど契約労務者というような擬装はしてありますけれども、実際に本人の意思に反して日本に連れてこられたことは、これはもう当然に推論できると思います。また劉君自身の証言によりましても明らかでありますが、これは平和な一農民として山東省の諸城県の郷里でちょうど畑の仕事におもむく途中、日本軍から拉致されて連れてこられたわけであります。そういう事情がありますから、他の労務者の場合はともかく、この劉君の場合は全く本人の意思に反しておるという事実なんです。このことは総理はお認めにならないでしょうか。
  125. 岸信介

    ○岸国務大臣 今申し上げましたように、本人がそう言われておるということでございますし、また事情そのものは非常にお気の毒だということはもちろん考えておりますけれども政府と、してそれを裏づけるような、先ほど申しますような資料が政府側にございませんので、私は決して劉君がそれを言われるのを信じないとかいうことを申すわけじゃございませんけれども政府として責任を持ってそれをどう思うかと言われると、事実がどうも明瞭でございませんということを申し上げるほかはないと思います。
  126. 床次徳二

    床次委員長 大臣の都合がありますから、一つ簡潔に願います。
  127. 田中稔男

    田中(稔)委員 総理の分だけを簡単にやりまして、あとは官房長官に……。
  128. 床次徳二

    床次委員長 大臣には途中で退席していただきますから、官房長官に……。
  129. 田中稔男

    田中(稔)委員 身分の点は、総理なかなか言葉巧みにかわされるのでありますが、それは仕方がないとして、総理は私のせんだっての質問に対して、慰労もいたし、御苦労に対しまして十分に報いてという、こういう言葉を言っておられますが、これは一体具体的にどういうことをお考えになっておられますか。
  130. 岸信介

    ○岸国務大臣 劉君がそういうふうな御苦労されたということでありますから、帰国されるまでの間十分に待遇もし、この間における長年の御苦労に対して、肉体的にも精神的にも、日本におられる間いい気持になられるように、諸般の取扱いやまた施設等もいたしたいということが一つと、私は、あくまでもこの問題に関しては人道的な立場から、劉君は何といっても日本でそれだけの苦労をされたんですから、その間のことを一切忘れて水に流すというまでにはいかぬでしょうけれども、少くともいい気持で一つ帰国してもらうというふうな、いろいろな措置があろうと思います。それにつきまして具体的なことについては、なお官房長官等ともお話しして、できるだけの措置をして、劉君がいい気持で帰られるように一つ配慮してくれということを申しておいたわけでありまして、具体的にどうするということにつきましては、私はそれをお答えをしたときに頭にあってどうするということを申し上げたわけではございませんけれども、全体の気持からいうとそういう気持でございます。それは今もなお変らないつもりでおります。
  131. 田中稔男

    田中(稔)委員 そこで実は劉君は何かあしたの白山丸で帰る予定に一応なっておる。政府は帰したい、こういう御意向のようでありますが、劉君はこの問題について釈然としない気持があって、場合によってはあした白山丸に乗船して帰らない、こういうふうな意向もあるやに聞いております。もしそうなりまして日本にいつまでもおるというようなことになった場合には、政府としてもなかなかお困りだろうと思いますから申し上げますが、今の物質的、精神的ないろいろな保障も、これはもっと具体的にやってもらいたいと思いますが、もう一つは、劉君を中国に帰すについてもこれは日本政府が送還にも責任を持たなければならぬと思います。それで日本政府の公務員が同行して向うに送り届けるなり、あるいは同行ということはできないならば、何かやはり政府の書類でもつけて帰すなりしなければ、ただ君は日本におって、今北海道から現われたが、一つ船があるから帰れというようなことでは、政府の誠意が現われないと私は思うのであります。さらにまた帰りますについての旅費の負担、こういうことも私は当然やるべきだと思いますが、そういうふうなことについて少し具体的なお考えを承わらなければ、あるい劉君だって何か不法入国者扱いみたいなことで追い帰されるというようなことなら、開き直るかもしれぬと思いますが、そういうことについて一つ総理の御答弁を承わりたい。
  132. 岸信介

    ○岸国務大臣 もちろん私どもこれを不法入国者として法の命ずるところによって扱うというようなつもりは初めからございませんで、十分にできるだけの措置を講ずべきことは当然であると思います。ただ私が報告を受けているところにおきましては、幸いに日本政府のこの気持も劉君においてある程度御理解がいって、また郷士の方からも、家族が待っておられるので、ある意味からいったら日本のこの国から早く家族のいるところへ帰りたいというふうな気持であるように聞いておりますので、そうすればできるだけの方法を講じて、政府として御苦労に対して慰めるようにということを、実は官房長官に申しておるわけでございます。官房長官の方におきましても、その具体的なことにつきましてはいろいろ考えておる、またある程度具体的にこれを実現しておる、こう思っておるのでありますが、具体的のことにつきましては、本人の気持というものが一番大事なことでありまして、喜んで帰られる、特に十三年間のこの思い出は忘れることはできませんでしょうが、その後における日本の国また国民の気持というものを十分に通ずることのできるような方法をこの上ともとっていきたい、こう思っております。
  133. 田中稔男

    田中(稔)委員 今の総理の御答弁でありますが、官房長官からの御報告は事実と相当食い違っておると思うのです。それは官房長官がどうも少し怠慢であったか、あるいは不誠実であったかということになるわけだが、それはそれとしてあとから官房長官に聞くこととして、総理にもう一度お尋ねしたのは劉君がそういうわけで本人の意思に反して連れてこられた、そして捕虜にあらざる捕虜というような妙な国際法上の身分で強制労働にまで服させられた、こういうことについて当時の政府責任は免れることはできない。しかもあなたは閣僚の一人であった。しかも日本政府というものは戦前から今日まで一貫した存在でありますから、当時のことといえども今日の日本政府が知らぬとは言えないわけですね。そういうわけでありますから、さっき申し上げましたことを繰り返しますが、劉君を送還するに当って、政府のだれか官吏がついていくか、あるいはまたそうでないなら、政府の何か書簡をつけて帰すようにしなければならぬと思いますが、その点についてどうお考えになるか、その一点をお伺いいたしたい。
  134. 岸信介

    ○岸国務大臣 ただいまのお話は何か役人をつけてやるか、あるいは政府から向うに何かの書面を持たしてやれというふうな御意見でございますが、今までのところ政府はさようなことを考えておりません。しかしどうしてもそれをしなければ劉君の気持が何しないというような事情であるかどうかも、なお十分に研究をしてみなければならぬことでありますが、私は決して冷たいつもりでそういうことを申しておるわけではございませんので、できるだけの措置は考えていかなければなりませんが、同時に政府立場とかあるいは役人というようなものをそういうふうにつけてやることも、なかなか簡単に——私人間の関係とも違いますので、検討をしないと、ここでそれはお引き受けしますということを申し上げることは、ちょっとむずかしかろうと思います。
  135. 床次徳二

    床次委員長 時間が参りましたから両大臣に対する質疑はこれでもって……。田中君、申し合せですからそれは尊重して下さい
  136. 田中稔男

    田中(稔)委員 しかし最後の大事なところが切れたのではしようがない。劉連仁君の事件に対して中国紅十字会のスポークスマンの談話発表があって、これは対日放送で伝わっておるから内閣ももちろん調査されておるでしょう。これは内容は長いものですから申しませんが、この問題を非常に重要視しておる。そして少くとも身分を明らかにする説明がほしい、そのほか損害賠償、送還についてもちゃんと政府が措置すべきである、こういうことを要求しておりますから、今は中国を承認しないという政府立場ではありますけれども政府も国際情勢の変化によっては、また違った態度をおとりになるという含みはあると思いますので、この問題について政府は今申しましたような政府の官吏をつけてやるとか、書面をつけてやるとかいうようなことは、お考えになってもよくはないかと思います。そのことを御参考に申し上げておきます。  最後に一つ。私の質問に対する総理の答弁の中でも、中国人の遺骨の調査、発掘、送還等についても相当誠意ある御答弁がありました。これは有田八郎氏がたしか総理とこの問題で私的にいろいろ懇談をされた際にも、総理から非常に誠意ある御答弁があったということも私は伝え聞いておる。そういうことでありまして、劉君は幸いに生きておったけれども、同僚が多数死んで白骨になっておる。これが全国にまだ散在しておる。しかもその調査も十分できていない。いわんや発掘も完了していない。発掘した遺骨はまだ日本の寺院に骨つぼに入れてありますが、この送還もまだ済んでいない。ところが中国からは最近生きている日本人を帰してくるとともに、二千体の日本人の遺骨を送還しようということで、白山丸がそれを迎えに行くわけですね。今後はやはり中国に残してきた日本人の遺骨を収集するという事業も当然やらなければなりませんから、そういうふうなこととの交換という意味もあるわけでありますし、同時にまたさらに高い人道的な立場がありますから、中国人の遺骨の調査、発掘及びその丁重な送還というような事業は今民間でやっておりますが、どうか政府がもっとそれに熱意を持っていただいて、幾らかの財政的な援助をするとか、あるいはそういう事業について政府がいろいろ指令を発して協力するとか、そういうことをしていただきたいと思いますが、この際もう一度具体的な御答弁を願いたい。
  137. 岸信介

    ○岸国務大臣 私もそれは全然同感でありまして、遺骨の調査、発掘、送還につきましては、できるだけのことを政府としてやるつもりでおります。
  138. 田中稔男

    田中(稔)委員 ありがとうございました。
  139. 穗積七郎

    穗積委員 岸さんは条約を通すとまた来てくれないので、もう三十秒だけちょっと中国問題で一言させていただきたい。  さっきから中国問題について御答弁、ちょっと不満なんですけれども、場面を変えて総理にこの際お尋ねしたい。というのは、こういうことなんですよ。今中華人民共和国は国連で侵略国の規定を受けたままになっている。これはその後の情勢が変化いたしておりまして、事実にはなはだしく不適当な決定継続しておるわけです。特に先般中華人民共和国は、南鮮における国連軍の撤兵の有無にかかわらず、自発的に無条件で北鮮から全部撤兵する措置に出てきたわけです。こういう機会に、近隣国でありアジアの平和と安全のために関心を持つべき日本が、国連において率先してこの国連の中華人民共和国に対する侵略国決定というものにもうこれで終止符を打つ、こういうことに日本代表が努力すべきだと思うのです。一ぺんにはいかぬかもしれないけれども日本人がそういうイニシアをとってやることが、今後のアジアにおけるいろいろな問題を処理するのに平和と貿易のためにいいことだ、それがまた客観的に見て事実にも適合していることだ、そういうふうに私は思いますが、総理並びに外務大臣のお考えはいかがでございましょうか。
  140. 岸信介

    ○岸国務大臣 中国問題に関しては、日本は、歴史的に見ましても非常に関係が深いし、また地理的にも非常に関係が深い。またわれわれの経験からいきましても、この問題に関しては、少くとも日本が将来アジア問題と取り組んでいく場合におきましては、日本が——言葉は適当であるかどうか知りませんが、指導的な意見、建設的な意見を立てていくべきであると思います。この点については穗積君の御意見と全然同一でありますが、現在直ちに国連の次の総会においてそういう発言をなすかどうか、そういう提言をするかどうかということにつきましては、私もう少し研究をする要があると思います。現在の国際情勢から見まして、そういうことが適当であるかどうかということも十分考えてみなければならぬと思いますが、御趣旨の点につきましては、私は方向としては、いつまでもこういう状況にあることが望ましくないということについては同感でありますが、それの具体的な問題につきましては、なお検討をさせていただきます。
  141. 穗積七郎

    穗積委員 外務大臣いかがですか。
  142. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 総理と同様であります。
  143. 床次徳二

    床次委員長 条約に関し他に御質疑はございませんか。——質疑がなければ、これにて本件に関する質疑は終了いたしました。  本件については別に討論の通告もございませんので、直ちに採決いたします。千九百五十七年十月三日にオタワで作成された万国郵便条約及び関係諸約定の締結について承認を求めるの件を承認すべきものと議決するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  144. 床次徳二

    床次委員長 御異議なしと認めます。よって本件は承認することに決しました。  なお本件に関する委員会の報告書の作成につきましては委員長に御一任を願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  145. 床次徳二

    床次委員長 御異議がないようでありますから、さよう決定いたします。     —————————————
  146. 床次徳二

    床次委員長 国際情勢に関する質疑を続けていただきます。田中君。
  147. 田中稔男

    田中(稔)委員 愛知官房長官に質問をいたします。先ほど岸総理に対しまして、劉連仁君を中国に帰すに当っては、しかるべき日本の官吏が同行するなり、あるいはそれができなければ、何か政府の正式の書類を持たせて帰す、そういうことによって、この事件のてんまつについて責任ある説明をしなければならぬ、こういうことを私は要望として申し上げたのでありますが、実は昨日でありますか、内閣官房長官が劉連仁君本人に対しまして一通の書簡を伝えられたのであります。それはごく簡単でありますから、一つここで読み上げてみます。「拝啓、劉連仁さんには戦時日本に入国され、明治鉱業所に入れられて以来色々と苦労をされたことと存じます。殊に他の大多数の華人労働者の方は終戦後すぐ帰国のとりはからいをしたのですが、貴方は山の中にはいっておられて、そのことを知る由もなく、長い間苦労されたとのことでまことにお気の毒に存じます。御家族も一日も早く貴方の帰国をまっておられると存じますので、近々に中国に向け出航する白山丸にお乗りいただくよう手配しております。帰国されましたらゆっくり静養され、長く元気で暮らされるよう祈ります。敬具昭和三十三年四月八日、内閣官房長官愛知揆一、劉連仁殿」こういう書面であります。これは官房長官の肩書で書いておられますから公式なものであるとも解釈できるし、また内容を見ますときわめて砕けて、私信のようにも受け取られますが、まずこれについてお伺いしたいと思います。内容を読みますと、帰ることになっておった、みんなが帰ったときにはあなただけ山の中におったから連絡がつかなかったと、まるで小学校の生徒か何かが遠足に行って、一人だけおくれて心配した先生の手紙みたような、どうもきわめてのんびりした手紙ですが、事件の内容は御承知の通りに、あの北海道の寒い冬を十三回も生き抜いたという、超人的な事実でありまして、その間食うためにはいろんなことをやったと思いますが、これはほんとうに奇跡的なことであります。こういうようなことをこういうふうに軽くあしらって、これで済んだとする、こういう官房長官の考え方は重大な反省を要するのじゃないかと思うのでありますが、この手紙をお出しになったお心持ですね、これは一体どういう性格の書面であるか、一つ詳細に御答弁願いたいと思います。
  148. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 私の書簡につきましてのお尋ねでありますが、まずこの書簡について申し上げまする前に、本件の取扱いに当りました気持を申し上げる必要があると思います。これは先ほど総理が答弁をされた通り、また前にも総理から御答弁申し上げました通りで、その気持を体して私ども処理に当っているわけであります。しかし同時に本件については、政府といたしましても関係する向きも多いし、慎重の上にも慎重な取扱いをしなければなりませんから、累次関係省間の協議も十分にいたしまして、率直に申しましてなかなかこれはむずかしい問題でございます。私の態度といたしましては、ともかくも現実の事態として、ここに劉連仁という人が北海道で苦労されて、ここに出現をしてきた、そうしてこれは御本人の意向ということもいろいろ見方がございましょうが、現実に中華人民共和国の紅十字会からも、この人を早く送り帰してくれという、これは紅十字会としての公けの態度であると私は思いますが、そういう文書も参っておるわけであります。そこで私たちの誠意を披瀝する場合に、やはりそういうルートを通して、率直にお慰めすることが適当であるし、他に適当な方法がない。そこで私は政府の番頭役といたしまして、この劉連仁さんに対して、ここに書きましたような事情について、私としては率直にこの方をお慰めしたいという気持をここに書きつづったわけでございまして、文章が幼稚であるとかあるいはどうとかいうような御批評は別にいただきますけれども、私としては誠意を尽したつもりでございます。そうしてこの性格が何であるかということは、私は肩書きを入れておきましたから、私の内閣官房長官としての気持をここに率直に出したつもりであります。
  149. 田中稔男

    田中(稔)委員 官房長官がとにかくこういう書面を出されたことが悪いというのじゃないのですよ。これは私は官房長官としては精一ぱいの御努力だろうと思う。さらに私はもっと正式な文書出してもらいたいというくらいであって、これも出さないよりましなんです。しかしながらどうもこの内容を読みましても、文章が下手とか上手かという問題ではない。どうも非常に劉君の事件を何か軽く扱われておるというような印象を受ける、こういうことを申したわけです。そこで今から逐次一つ詳細な質問をいたしたいと思いますが、委員長、いいですか。
  150. 床次徳二

    床次委員長 一時でもって休憩します。
  151. 田中稔男

    田中(稔)委員 あとはどうするのですか。
  152. 床次徳二

    床次委員長 あとは、皆さんの御要望がありますれば、本会議終了後……。
  153. 田中稔男

    田中(稔)委員 私の要望がある。
  154. 床次徳二

    床次委員長 いや、場所がありませんから……。     〔「場所はいいと言っておる」と呼ぶ者あり〕
  155. 田中稔男

    田中(稔)委員 それではその間続けます。官房長官、この劉連仁君の身分の問題でありますが、総理ははっきり言われないが、外務省にその書類があるのですよ。それで官房長官にもう一度聞きます。これは終戦後作った書類ですが、戦災でなくなってはいないのですから、その今の外務省の監理局がGHQに提出した華人労務者就労事情調査報告書、これを官房長官の責任において、外務省の方にもよく話をして、一つ調べてもらいたい。よろしゅうございまか。
  156. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 先ほど総理も言われましたように、私は自分の責任において、外務省へ正式に、さような書類があるということであれば、それを提出するようにということを申しましたが、外務省としては、ございません、とこういう回答でございますから、さよう御了承を願いたいと思います。
  157. 田中稔男

    田中(稔)委員 その書類は今ないという御答弁ですが、あなたは一体劉連仁君の身分をどうお考えになりますか。これは単なる自由な契約労務者とお考えになりますか、それとも強制的に連行されて、あるいは拉致されて、本人の意思に反して強制労働に服せしめられたものとお考えになりますか。
  158. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 これまた先ほど総理が言われましたことを繰り返すだけでございますが、昭和十七年当時でございますか、閣議の決定において、華人労務者の移入を取りきめた当事の事情というものは、閣議の決定としては、これはあくまで契約労務者の移入であったわけであります。それからその後の実情がどうであったかというようなことについては、私は申し上げかねると思います。
  159. 床次徳二

    床次委員長 この際暫時休憩いたします。     午後一時一分休憩      ————◇—————     午後六時三十二分開議
  160. 床次徳二

    床次委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  国際情勢等に関する件について、質疑を許します。田中稔男君。
  161. 田中稔男

    田中(稔)委員 官房長官もお忙しいことでもありますし、また解散気がまえで同僚議員諸君もそれぞれお忙しいときに、こういう時刻に特に私の質疑のために委員会を再開していただきまして、はなはだ恐縮に存じます。しかし事柄がなかなか重大でありまして、将来日中の国交が回復するような場合を予想しましたときに、今日この問題を変に扱っておきますと、あとぐされする、この際やはりできるだけこれについて政府の善処をお願いしたい、こういう気持から質問いたすのであります。  そこで、この身分のことについては、総理も官房長官もはっきりした御答弁がないのであります。しかし、繰り返しますが、この劉連仁君がその意思に反して日本に連れてこられて強制労働に服したという事実は、これは明らかである。そこで官房長官が、先ほど私が読み上げましたようなこういった手紙を、官房長官の資格において特にお出しになるということは、これはよほどの事情があるからこういう措置をとられるのであって、ほんとうにこれが自由な契約労務者として日本に来たものであり、それが山にこもって今日までおったという、そういう単純なる事件でありますならば、いつまで日本にまごまごしておるか、みな帰ったのに君がいつまでも日本におるのが不当なことだから、早く帰りなさいということで済むわけでありますが、こういう相当誠意のこもった書面をお出しになるということが、すでにこの劉連仁君が単なる契約労務者じゃないのだ、これは当時の国家の意思が働いて、本人の意思に反して連れてこられたということが考えられるからこそ、長官もこういうふうな書面をお出しになったわけだと思うのです。そのことについて、一つ長官の御答弁を得たい。
  162. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 実は再開前の委員会で申し上げましたように、昭和十七年の当時の閣議の決定というようなものを想像いたしますときに、これは日本の労務不足を緩和するために、契約によって華人の入国をはかったということになっておるわけであります。ところで、実際問題として、どういう事情でどういうふうにして入国してこられたか、あるいはその後戦後におきましてどういうふうな行動をされておったかというようなことについては、実は率直に申しまして、あまり明確でないわけであります。しかし、ともかくも中国人の劉君という人が現実の事態として北海道の山の中から現われてこられた。この人に対して人道的な誠意を尽した取扱いをしてあげなければならない、この現われてきた一つの具体的な事実に対して措置をいたしたいと考えまして、これまた先ほど御説明いたしましたように、関係省に十分相談をし、実は閣議にも二度ほど、こういう事情にある人がこういうふうな環境において、現われてきた、その処分については誠意を尽した取扱いをしなければならないというような話も、これは閣議決定とか閣議了解ではございませんが、事実として報告もしたような次第であります。その結果これは所管の省というものもない、実は非常に異例な事態でもございます。それから国会の衆参両院で総理に対する御質疑があり、御答弁も申し上げておるような経過もございましたので、これまた異例な措置でございますが、官房長官としてこの劉さんという人に対してお慰めの言葉を差し上げた。それからなおこれはあとでもいろいろと御質疑もあろうかと思いますけれども、事実上の措置として政府としてはお見舞の意思表示をしたいと思いまして、さような措置もいたしたいと考えておったわけでございます。
  163. 田中稔男

    田中(稔)委員 政府がこの事件の取扱いに非常に苦慮されておるということはよくわかるのです。それは根本的に申しますと、日本中国との国交が正常化してないというこういう事情が一番大きな事情ですね。それからまた日本中国に対する多年にわたる侵略戦争、そういうことについての責任の問題をどう考えるかというようなことについても、これもなかなか苦しいお立場だろうと思う。ことに総理はその当時の開戦の責任者であるというこういうふうなこともあります。それで非常に複雑な政治的な背景を持っておる事件であります。それだけに私はこの際これをうやむやにすると、あとに禍根が残る、こう考えております。今長官は劉君の事件についてはまだどうもよくわからぬ、調べもまだ十分できていないこういうふうにおっしゃるのです。そうだと思いますが、そうなれば本人がおるのですから、それは一日も早く中国の方に送還するということは政府もお考えになっておるし、本人も希望しておるでしょうけれども、十三年も日本に残っておったことであれば、それは一月や二月帰りがおくれてもそう大したことはないと思います。しかも今日は山の穴居生活と違うのですから、ちゃんとした宿舎に生活して不自由のないものですから、本人も一月や二月帰るのがおくれることは大して意に介しない。政府の方でそういう意思があるならば、劉君と一つ会って、そういう点を十分調べていただいたらどうかと思うのです。私はさっきも言ったように、外務省にちゃんとした書類があると思いますけれども、それがないとおっしゃるなら、本人にまず十分問いただしていただく。そうしますと私は、本人自身がうそを言えばともかく、正直に答えるならば——私は正直に答えると信じておりますが、そうしたならば事件の真相は大体つかめるのじゃないか。一体そういう劉君自身を呼んで、愛知官房長官みずからではないとしても、しかるべき人が一つ十分調査なさるお考えはないかどうか、これを聞いておきたい。
  164. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 確かに田中君の仰せのように、そういうことも一つの方法であろうかと実は考えたこともありますけれども、世話をしていただいております人々等から私の承わっておりますところでは、御本人も非常に早く帰りたいということを考えておられるようであります。それから、先ほどお話のように国交がございませんために、諸事万端不行き届きの点が非常に多いのでありますけれども中国側の紅十字会からの正式の書類なども来ておりまして、早く帰してくれるように手配をしてもらいたい、こういう申し入れもあるようなわけでございますので、やはりこれは一つの人道問題であるということで、御本人の意思をできるだけ尊重しなければならないというふうに考えまして、ちょうどたまたま明日白山丸が出帆いたすものでありますから、この機会にとにかく一つお帰りを願う方が、この問題の処理としては一番妥当であるというふうな——これは私のみならず、関係の者一同慎重に相談いたしましたわけでございます。
  165. 田中稔男

    田中(稔)委員 本人がそういう政府の措置に満足してあす乗船すれば問題はないのでありますが、その乗船を拒否して自分の身分を明らかにする措置を日本政府に要求する、つまり具体的に申すならば、自分は自由意思に基く契約労務者として来たのじゃないのだ、日本のその当時の国家意思によって強制されて、ほんとうに不本意ながら平和な農村生活にある身がこちらに拉致されてきたのだ、そのあかしをはっきりさせてもらわないと、自分としては帰るに帰られぬというふうに主張することも、私はあり得ると思う。そうなった場合には、本人は登録証を持たない立場ですから、これは外国人として不法入国者といいますか、法に反して日本におる者として逮捕でもなさるお考えはあるのかどうか、これを一つ承わっておきたい。
  166. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 ただいま申しました通り、御本人の意思というものも——実は私は直接劉君と会っておりませんから何でございますが、確実と思われまする情報からいたしますと、やはりお帰りになりたい、そういったむずかしいことでとやかくじんぜん日をむなしゅうするよりは、ともかく帰りたいのだというような御意思のように承わっておりますので、それを尊重して参りたいと思うわけでございます。なお、万一劉さんという人が、今お話しになりましたようなお考えであるということであればまた別でございますが、私はそういう事態はないのではなかろうかと、私としてはそう考えておるわけでございます。
  167. 田中稔男

    田中(稔)委員 たれか故郷を思わざるという歌もあるようでありますから、もちろん劉君は一日も早く帰りたい、帰心矢のごときものがあるということは、これは長官の御想像の通りだと思います。しかしながら長官が、本人も政府の措置に満足して帰る気持ちだということをある方面から聞いた、ある方面の言葉で確信を得ておるとおっしゃるのは、一体どういう方面でしょうか。私が聞いたのと少し違うようでありますから、その点は長官確信ありますか。
  168. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 私は確信を持って申し上げておるわけでございます。  それから先ほどちょっと触れましたけれども中国紅十字会の方からも、御承知の通り、いわゆる日本の三団体の方に、彼が早く安全に中国へ帰れるように御援助を希望いたします、こういうふうに言ってこられておりますようなわけで、これらから考えましても、劉君御自身も帰りたい希望を持っておられる、これをなるべく丁重に、俗な言葉でありますが、きげんよく帰っていただくようにということで、私ども考えておる次第でございます。
  169. 田中稔男

    田中(稔)委員 紅十字会からの申し入れとか、意思表示というのは、それはよく知りませんが、何かの文書かと思いますが、昨日の中国紅十字会スポークスマンの談話として発表されたものによりますと、ただ帰してもらいたいということではなく、この事件について責任ある説明を行い、劉連仁氏がこうむったすべての損害を補償し、責任を持って中国に送還すべきである、とこういうのでありますから、単に中国に送還することだけが問題でなく、その前にいろいろなことが要求されておるわけであります。そういうわけでありますから、私は先ほどからいろいろ身分についての政府解釈等を聞いておるわけでありますが、どうも私の質問に対する満足な御答弁は得られないわけであります。  そこでこれ以上そういうことを追及いたしましても、結局同じだと思いますから、話を少し変えますが、先ほど長官の御答弁にちょっとあったようでありますが、長官は先ほどの書面を劉君にお渡しになると同時に、慰謝の意味で若干の金円を贈られたところが、本人はそれは受け取らなかった、こういうふうに聞いておりますが、その点についての御説明を願いたいと思います。
  170. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 昨日その劉という人が私の出しました手紙は快く受け取られた。それからこれは先ほど来申しておりますような立場政府は立っておりますから、補償とか、賠償とかというような扱いでございませんで、お気の毒であった、お見舞の微意を表したいということで実はお見舞としてお届けをしたものについては、これはちょうだいがなかなかできないというような御意向であったように聞いております。
  171. 田中稔男

    田中(稔)委員 その金額、それからそれを拒否された劉君の理由といいますか、それはどういうことでありますか。
  172. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 その金額につきましては、ただいま申しましたように、これは私どもとしてのほんとうの気持の表われでございますので、ただいま金額が幾らということを申し上げることは御容赦願いたい。  それから、実は三団体その他お世話になっておる方の御意向もあろうから、一応御遠慮をするというふうな御意向であったように承知いたしております。
  173. 田中稔男

    田中(稔)委員 先ほどからの御答弁の中に、劉君を不法入国者なんだとして扱う気持は毛頭ないと言われましたが、けっこうだと思いますが、何でも劉君が発見されましてから後でありますが、どこの役所か知りませんが、一度は不法入国者として取り調べる、あるいは取り扱うというような議もあったようでありますが、官房長官、そういうことについてはお聞きになりませんでしょうか。
  174. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 その点については、私はあとになりましてから聞いたのでありまして、率直に申しまして扱い方に遺憾な点があった思といます。というのは、おそらく、これは私の想像でございますが、こつ然として一人の中国人が現われた。この人が一体どういう人であるかというようなことについて調査をしなければならない、末端の警察あるいはその他の人たちがたとえば出頭を命じた、あるいは不法入国の疑いがあるとかいうようなことについてその扱い方に失礼なことがあり、あるいは御当人の感情を害したような事実があったとすれば、この点は遺憾であると考えまして、この点については率直におわびも申し上げる気持でおるわけであります。
  175. 田中稔男

    田中(稔)委員 岸総理は私の質問に答えて、劉君が帰る場合に政府のしかるべき官吏を同行させる、あるいはまたそれができない場合、政府の何か書面を持たして帰すというようなことも、それはまあやりたくはないけれども、あるいは万一の場合そういうこともしなければならないようなことが起るかもしれぬというような、言葉はその通りでなかったのでありますが、そういうふうに解釈される御答弁があったのであります。官房長官もお聞きだと思いますが、私はそれに答えて、それはむしろそうなすった方がよい、そうせざるを得ないような羽目に陥ってからやるよりも、そうなさった方がむしろきれいさっぱりする、あとくされしないと思う、こういうことを申し上げて要望にかえた次第でありますが、官房長官はそういうことについてどうお考えになりますか。これは私は非常に大事なことだと思いますが……。
  176. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 先ほど総理がお答え申し上げましたのは、それはそういうことが政府としてできればけっこうなことかもしれぬけれども、現実の状態においては政府から政府へというようなことができない、あるいは政府の役人をつけて帰すというようなことは考えられないということを申し上げたつもりでございます。  なおこれはお問いの範囲外になるかと思いますが、遺骨の送還等につきましても三団体の方々が御乗船なさるわけでございますから、私どもとしては特に政府とは関係の深い日赤の方にお願いをいたしまして、大事に向うまで送り届けるようにということは、昨日も私みずからも日赤の責任者に対してもお話をしておるわけであります。
  177. 田中稔男

    田中(稔)委員 私も政府から政府へというのは今の政府立場としてはお困りだろうと思います。そこで政府向う政府でなく、たとえば紅十字会というものにあてるということなら私はいいのじゃないかと思います。それからさらに百歩を譲って、政府が日赤に託して向うの紅十字会というようなことでもあればそれはないにまさるのではないかと思いますが、何らかの形で、日本政府の意思が間接にも伝わるような形で、この事件について、ただたまたま日本に残っておった自由契約の労務者が帰りおくれて今帰るのだというようなことでは、中国側は、政府として紅十字会としても満足しないと思うのです。ここに責任ある説明を求めておる、というのは、私は少くとも私が今申しました程度のことはやらないと納まらないのではないかと思うのです。その点については強い要望として申し上げておきますから、もう時間もないことでありますから、十分お考えを願いたいと思います。  それから遺骨の問題について、これは総理に重ねて質問しましたら、前回よりももっと積極的な熱意を込めた御答弁があって、これは非常に満足いたしました、完全に満足いたしました。つまり私は、日本人の遺骨を向うから帰してくれる好意、これに対して、中国人で戦時中日本でなくなった労務者、向うはこれを烈士と言っております。それくらい言って向うではこれを尊敬している。この人々の遺骨の調査なり、発掘なり、送還なり、こういう仕事は今まで民間の有志がやっておった。金もない、また政府なり地方団体協力もないというようなことで、非常に難渋しているわけでありますが、これについて政府はこの際は協力をしていただく、さらにまたその場合、特に財政面においても何らかの形で援助をしていただく。これこそあとくされがないように全部丁重に送り返すということをやっていただきたい。これこそ政治の問題を越えた人道的な措置だと思う。そうしますと、今後中国には日本人の遺骨がまだたくさんあるわけです。南方方面はずっと船まで出して収集しておられるのでありますが、いずれ中国の各地にある遺骨を日本に収集し持って返るという仕事は、どうしても中国側の協力がなければできないのですから、どうですか、遺骨の問題について、総理があればほど熱意を込められたことを、あなたは官房長官としていよいよそれを具体的な措置として実行される場合において、どういうようにお考えですか、一つ詳細な御答弁を願いたい。
  178. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 この遺骨の問題につきましては、私としては総理の徹底した考え方を順奉して、関係各省を督励して誠意ある措置をとりたいと思っております。その詳細な具体的な点につきましては、関係の、たとえば厚生省、場合によりましては外務省、大蔵省というようなところからも直接お聞き取りを願いたいと思いますが、たとえば明日出帆を予定しておる白山丸で送還をする遺骨については、これはつまらないこととあるいは言われるかもしれませんが、特に総理の発意で、従来は差し上げておらなかったのでありますが、内閣総理大臣として弔意を表するために花輪をお贈りするというような措置も実はいたしておるのであります。ちょうど最近の閣議のときにも、厚生大臣からも特に発言がございまして、遺骨の送還については、もうほんとうに誠意を尽したやり方を政府としてやるべきものであるという発言があり、さらにそれに対しまして総理大臣としても、自分は全く同感なので、この際閣議としても本件の取扱い並びに今後の取扱いについては十二分の措置をとるべきであるということで、そういう申し合せもいたしております。  それからこの機会にもう一つつけ加えて申し上げたいと思いますが、ちょうどただいまお話にございましたが、同時に日本側としても遺骨の問題だけではなく、未帰還者、生死不明の状態でおられる人も相当数ございますので、この未帰還者の調査究明についてやはり関係国の非常な御援助を願わなければなりません。一方留守家族に対する措置も十分とは言えなかったのでございますが、これについてもやはり前回閣議で、特に関係閣僚の審議会を作ることに申し合せをいたしました。これも早々に発足をすることにいたしておりますので、この点もあわせて申し上げておきます。
  179. 田中稔男

    田中(稔)委員 大体これで私の質問は終りましたが、中国人の遺骨を今度白山丸で送るに当って、内閣総理大臣として花輪を贈られた。それは私は非常にけっこうなことだと思う。決してつまらぬことじゃない。非常にいいことだと思う。大体そういうふうな気持でどんどんやっていただきたいと思うのです。実際今中国側は岸内閣については相当風当りが強いのです。しかしそういうことでは私ども日本として困ると思うのです。将来いずれ中国との国交を回復しなければならぬというぐらいは、政治家として岸さんもわかっておると思うのですが、それは現在の岸内閣立場としてなかなかやれないでしょう。しかしながらそういうことだからといって何にもしないというのじゃなく、やっぱり岸内閣としてもできるだけのことはおやりになる方がいいのである。これはむしろお勧め申し上げることでありますが、今の官房長官の総理の意を受けてのいろいろなお話も、私は非常にけっこうだと思います。そこで私特に御希望申し上げたいのは、地方あたりでいろいろ発堀の仕事なんかやりますについては、何といったって地方団体協力がなければいかぬ。その場合に外務省からもですが、やはり地方自治庁官から何か通達でも出していただいて、協力するように、こうおっしゃっていただけば、その仕事が非常にうまくいくと思います。そういうふうな具体的な措置については民間の有志の団体からも、またそれぞれ関係各省に出向いて御相談もすると思います。私も参りましていろいろお願いをすると思いますが、どうか今の御答弁をただ外務委員会における一片の答弁としないで、これをほんとうに実行に移していただきますようにお願いしまして、私の質問を終ります。
  180. 床次徳二

    床次委員長 次会は公報をもってお知らせすることにいたしまして、本日はこれにて散会いたします。     午後七時二分散会      ————◇—————