○朴
参考人 委員長並びに
委員の皆さんに心から敬意を表します。
ただいま尹
参考人から、
在日朝鮮人の歴史的
条件という問題と、また朝鮮民主主義人民共和国が厳存しているという問題とを含めまして、
在日朝鮮人の諸問題は、国際公法、国際判例並びに人道主義的な
立場に立って、無理のないように、だれでも納得できる方法でもって解決されなければならないことを申し上げました。重ねて申し上げますが、たとえば中日
戦争以前は、
在日朝鮮人の数は、当時の
日本の内務省の調べでも約五十万前後にすぎなかったのでありますが、これが
戦争が終る当時は二百四十万以上にふえているわけであります。つまりこのことは、
在日朝鮮人の大
部分がやはり過去の
戦争の犠牲者として強制徴用や徴兵その他で連れられてきた、こういうことが言えるのではないかと思うのであります。
こういうような
条件から申しまして、私は幾つかの問題を申し上げたいと思いますが、まず最初に
在日朝鮮人の国籍に関する問題について申し上げたいと思います。
すでに国
会議員の皆さんがよく
御存じでいらっしゃると思いますが、
世界人権宣言の第
三条においては、人はすべて生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する、こういうふうに
規定されております。これは基本的人権は不可侵であるということを厳格に示していると思います。それで
世界人権宣言の第十
三条の二項において、人はすべて自国を含むいずれの国をも立ち去る権利及び自国に帰る権利を有する、こういうふうにはっきりと
規定しております。そして第十五条の第一項においては、人はすべて国籍を持つ権利を有する、このように
規定し、第二項においては、何人も専断的にその国籍を奪われたり、その国籍を変更する権利を否認されたりすることはない、こういうふうにきめられているわけであります。だから、
在日朝鮮人がどの国籍を取得しようと、どの国籍を希望しようと、これは基本的な権利であり、いかなる人間もこのようなことに対しては妨げてはいけない、このように
規定しているものと思います。なお、この問題については、たとえば
日本国の
憲法におきましても、第二十二条の第二項において、「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。」こういうふうに
規定しておりますし、
日本の国籍法においても、たとえば
日本国民でも
日本の国籍を離脱する問題については、届出をすればよいし、なお
日本に帰任するというような問題についても、法務大臣の許可を要する、大体こういう趣旨になっていると思います。すなわち
日本政府は、
日本国民にさえ、
日本国民がどのような外国の国籍を取得する問題についてはそれをとめることはできないといったふうな趣旨だと思います。そうすると、ましてや
日本の
政府が、外国人である
在日朝鮮人に対して、
在日朝鮮人の国籍を、その籍はいいとか、あるいはその国籍は悪いとか、あるいはそのような国籍を取得するのはいけない、そういうふうなことは制限してはいけないというふうなことになるのではないか、このように思います。
ところが、こういうような問題についてきわめて明白であるにもかかわらず、今日まで、私たちの体験からしますと、こういうふうな問題が非常に不徹底であったり、あるいはときには
日本の
政府によって、われわれの意思に反して希望しない国籍を強要しようとするきらいというような問題も起っているわけであります。
例をあげれば、最近大きく問題になりました大村収容所の問題でありますけれ
ども、これは従前から朝鮮民主主義人民共和国に帰国を希望している人人に対しては、最近
日本の新聞その他で見ますと、個人の希望を尊重するというふうな外務大臣の談話も若干見えているようでありますけれ
ども、たとえば昨年の十二月三十一日以後、すなわち日韓相互釈放の調印が行われ、その以後、大村収容所においてはなお多くの人々が相次いで朝鮮民主主義人民共和国に帰国することを希望しているのでありますけれ
ども、いまだかつてこれらの人々に対してはその意思が受け入れられていないのであります。
なおこの間釈放されました刑余者に対しては、収容所当局が協力までして韓国の国籍を強要させようとすらした、そういうふうな事例もあるのであります。そればかりでなく、
在日朝鮮人は個々のいろいろな生活上その他の問題において、例をあげれば今まで朝鮮というふうな国籍になっていたものを、韓国というふうに直そうと思えば、それはきょうでも行けばすぐ直してくれる。しかしその反対に、従来韓国の国籍を持っていた人が朝鮮と直そうと思っても、これはなかなかいろいろな
理由をつけるなり因縁をつけて、直してくれない。こういうふうな事例は数限りなくあるのであります。
なおその他商売上の問題あるいはいろいろ多くの問題についても、
日本の司法当局、官憲その他においては、意識的に韓国国籍を強要しようという、こういうふうなことが現在行われておるわけであります。
このような問題に対しましては、われわれとしては非常に遺憾にたえないのみならず、これは
世界人権宣言の趣旨にも反しますし、また
主権を持つ民主主義の国家としての
日本の
政府の決して名誉なことにはならないのではないか、このように
考える次第であります。
在日朝鮮人の処遇上の問題として、まずこのような国籍に伴う問題については、本人の意思また
世界人権宣言その他の国際公法に基いて解決しなければならない、このように私たちは思うものであります。
第二番目に、
在日朝鮮人の生活上の問題について若干申し上げたいと思います。まず生活の問題を申し上げるにつきまして、私たちは
在日朝鮮人の生活という問題に対する
考え方を基本的に説明したいと思います。私たちの第三回全国大会におきましてはこのように決定されているのであります。それは、
日本政府に対するわれわれの基本的態度は要求のための要求ではなく、共和国の平和的対外政策にかたく依拠し、相互に
主権を尊重する基礎の上に立って、当面の問題を話し合いによって解決することにある、このように私たちは
日本政府に対する基本的な態度を示しております。そしてまずわれわれが第一義的に努力しなければならないのは、生活問題に対して
自分自身がもっとよく努力しなければならない、こういうふうにわれわれは
考えているわけであります。つまり第三回の大会におきましてはこのように書いているわけであります。失業、半失業状態にいる同胞たちは、不安定な収入を当てにするよりは、できるだけ堅実な職場を探し、二年、三年かかっても技術を身につけるようにしなければならない、こういうように書いてあります。そして、たとえば若干の資金がある同胞たちでも、不安定な、金もうけになればすぐ商売をしようというふうなことをやめて、収入は少くてもできるだけ長期性があるし、堅実性があるし、
日本国民とも十分友好関係を深めるような仕事をしなければならない、こういうふうな趣旨のことをきめているわけであります。そしてこのことはさらに昨年十一月に開かれた第十一回の中央
委員会におきましても、われわれの生活方針の態度として、まず何よりも
自分自身がよく努力しなければならない、こういうふうに決定されております。朝鮮総連のこのような公式で基本的な決定は、
日本の公安調査庁が十万円の報償費を出さなくても、すぐにでもこれはわかる明確な事柄になっているわけであります。
このような基礎の上に立って私たちは生活問題を解決しようとしておりますけれ
ども、御承知のように
在日朝鮮人の八割は失業状態に置かれているわけであります。たとえば
日本赤十字の統計によっても、
在日朝鮮人は無職が三十八万くらいいる、こういうように書いてありますし、その失業の率から見ても、
日本人の失業率の八倍に達するというように書いてあります。われわれは実際はこれよりももっと多いのではないか、このように
考えるわけであります。今日
日本の
国民の中においても、多くの失業者がいる中におきまして、どこにも
在日朝鮮人を使ってくれるようなところはありません。中には使ってくれるといっても、翌日に履歴書を書いていったら、本籍が朝鮮と書かれていれば、これはだめになる、あるいは正式採用ではなくて臨時工として
日本人に化けて入ったけれ
ども、あとで朝鮮人とわかったのですぐ首になった、こういうふうな
状況が数限りなく行われているわけであります。
そこで問題になるのは、やはりわれわれは
自分でもっと努力をしますけれ
ども、これは生きる問題であるし、生命の問題であるわけであります。だから
日本政府としましては、このような問題に対しまして、俗な
言葉で言えば、犬を追うにも逃げ道を置いて追わなければならないということでありますのに、このようにあしたの職がなく、食べることができない人が八割もいるのに、
日本政府はほとんど何らの実際的な処置を立てていないというのが実情であります。こういう問題に対しては、われわれといたしましては、
自分たちの体験からすれば、ちょっと表現が酷になるかもわかりませんが、ほとんどまあ弾圧一辺倒といっても過言ではないのじゃないかというふうに
考えるときもあるわけであります。
この中で、たとえば
一つの例をあげますと、商売をやるための中小企業とかその他の問題につきましても、
在日朝鮮人の場合においては、金融とか融資とかその他の問題につきまして、ほとんど差別待遇がされ、融資を受けることができない、こういうふうな状態におるわけであります。また
日本の零細な人々を助けるために、
国民金融公庫というふうなものもあるわであります。われわれは
日本国民じゃないから、
日本国民と同等ということではありませんけれ
ども、このような
国民金融公庫に適用してもらうか、そうでなければ、
日本国民においてさえもこういうことがあるので、
在日朝鮮人に対する場合、歴史的
条件その他を考慮しても、何かの方法でこういうような処置が講ぜられなければならないのに、そういうことは全くないのであります。そういうことじゃなくして、たとえば信用保証の問題その他の問題についても、朝鮮人であるからといってこれは全然受けられないという問題もありますし、また片一方においては、鉱山、船舶その他については、従前から持っておりました既得権すら奪われるというふうな状態もこの中にはあるわけであります。
日本の皆さんの中におきましては、
在日朝鮮人が
日本にいながら
日本の生活保護を受けたりして、よけい
日本の米が損になるからというふうな非難あるいは誹謗を私たちは聞くのでありますけれ
ども、朝鮮総連の方針としましては、私たちはできるだけ
日本の生活保護なんか受けないで生活するようにというふうにわれわれ努力はもちろんしているわけであります。しかし失業し、あるいは病気で倒れ、あるいは未亡人等、どうにも生活の方法がない人が、堅実な職業が安定するまで、やむなく生活保護をもらうなり、その他の方法を講じらければならないのであります。むしろこういう時期におきましては、朝鮮総連が一生懸命に生活保護をもらわないように努力しているのだが、
日本政府としましては、できるだけそういう方向に援助といいますか理解を持たなければなりませんのに、あべこべに、ただ
在日朝鮮人の場合においては、
日本国民よりも生活保護をもらう率が多いということのみでもって、一方的に打ち切ったりというふうな
状況も現在たくさんあるわけであります。
例をあげますと、一九五五年十二月当時におきましては、
在日朝鮮人の生活保護を受ける人員は、十三万八千九百七十二名もおりました。金額にすれば、月に約二億四千万と伺ったのでありますけれ
ども、昨年一九五七年の六月においては、これが約八万一千名に減っておりますし、その金額も月にして一億四千万程度に減っているわけであります。このような数字上から見ましても、その
一部分は、
在日朝鮮人ができるだけ
自分の堅実な生活の方途を
考える、その過程の中において若干減るということもありますけれ
ども、われわれのこのような努力にも反して、そのほとんどは生活の方途のない人に対して一方的に打ち切るとか、そういう方法でもって現在行われておる、こういう問題があるわけであります。これらの問題に対しても、やはり
日本政府としましては、このような実情に即して、
在日朝鮮人ができるだけ
自分の生活を
自分で生活できる、そういう方向を見ながら、こういう問題に対して無理な打ち切り、その他のことがないようにしなければならないのではないかというふうに
考えるわけであります。
次に、
在日朝鮮人の教育の問題について申し上げたいと思いますが、現在、
在日朝鮮人の場合におきましては、民族、教育、そして全国に二万三千名以上の児童を持っているわけでありますが、これらの問題につきましても、今まで
日本政府におきましては、朝鮮人の初級学校あるいは中、高級学校に対しましては、学校法人、あるいは各種学校としての学校の認可、このようなものをいまだかつて十分行なっていないのであります。同時にまた朝鮮の中、高等学校を卒業した学生に対しましても、
日本の大学その他に進学する資格を認めていないわけであります。われわれは、実力のない生徒を何か特別な待遇でもって大学に入れてくれ、こういうことではなく、実際問題として、
在日朝鮮人が
自分の民族教育をし、
日本の中、高等学校を出たと同程度の実力を持っているにもかかわらず、ただ朝鮮人学校は各種学校だとかあるいは正式な認可が下りていないのだ、そういうような形でもって、
日本の大学に入るというふうな道もはばまれているわけであります。こういうような問題に対しても、私たちとしましては、朝鮮人の学校の認可あるいは
日本の大学への進学その他の問題について、さっき申し上げましたいろいろな
条件に照らして、実情に即するような措置あるいは考慮が払われなければならないのではないか、このように
考えるわけであります。
そのほかに、たとえば
在日朝鮮人は基本的な人権の面から見ましても、外国人登録法その他の問題が、朝鮮人、外国人を適正に保護するというふうな目的とは全く相反して、いろいろな人権の弾圧、じゅうりん等が行われており、はなはだしきは床屋に登録証を持たずに行ってつかまったとか、あるいはふろ屋に登録証を持たずに行ってつかまったとか、こういうふうな極端な事例が出ております。また出かせぎに行けば、登録証の住所の変更をしなかったということですぐ検挙するとが、こういうふうなことも行われているわけであります。うちにいれば食うものがないし、出かせぎに行っても職場が一定しないので、あっちこっち働いて歩けば、それは登録法
違反だ、こういうふうな事態も起っているわけであります。
〔
委員長退席、櫻内
委員長代理着席〕
そのほかにいろいろ個々の問題がありますけれ
ども、こういうふうな問題を通じて、私たちが特に申し述べなければならないのは、例を学生なんかにとりましても、
日本で学資がないとか、あるいはその他で勉学のできない人が、
自分の祖国、朝鮮民主主義人民共和国に帰って勉強したい、こういうふうな希望を申し出ても、これに対しては、また
日本政府としましては、本人の帰国その他の問題について、何らの適正な措置がないわけであります。つまり
日本の大学にも十分入る保障もできなければ、本国に行って勉強することもできない、こういうふうな状態、また技術者が十分な腕前を持っているので――
日本にいてもパチンコ屋の裏回りしかできないから、祖国に帰ってもっと有意義な祖国の建設に参加したいと思っても、そのような技術者が帰るという問題に対しても、
日本の
政府は適切な措置を講じていない。こういうふうな問題もあるわけであります。
こういうふうな
在日朝鮮人の差し迫った問題と関連いたしまして、御承知のように朝鮮民主主義人民共和国の赤十字会では、このような問題を解決するためにその代表を
日本に派遣したいというふうなことを、もうすでに何回にもわたって提案いたしているわけであります。
日本の赤十字代表は、朝鮮民主主義人民共和国に来て、いろいろな問題について相談をいたしておりますが、赤十字会というものは、戦時中の交戦国の間におきましても、行ったり来たりできるものであります。
日本の赤十字会代表も朝鮮に来ました。まして朝鮮の赤十字会代表が
日本に来るということの問題に対して、なぜこれをこばんでいるのか。しかも、それらの人の問題は、今申し上げました在月朝鮮人の差し迫った諸問題について協議し、できるなら話し合いによって、朝鮮赤十字会がそれらの問題の解決を助け、また現実に即して解決するように努力したい、このように述べているにもかかわらず、これらの問題が今日まで実現されていないのであります。また
在日朝鮮人の祖国との往来の問題につきましても、御承知のようにもう
戦争が終って十三年にもなるわけであります。しかるにこれらの人々は、今日まで捕虜の状態に置いているといっても過言ではないわけであります。これらの人々の海外旅行あるいは祖国との往来の問題、このような問題についても今日までまだ少しも解決されていないわけであります。
私たちとしましては、先ほ
ども申し上げましたように、このような
在日朝鮮人の諸問題につきまして、
在日朝鮮人の歴史的な
条件というふうな問題と、また朝鮮民主主義人民共和国の現に存在している問題、また
在日朝鮮人の大
部分はこの共和国の
国民として正しく生活していきたいという、こういうふうな事実、こういうふうな
条件を
日本政府が十分考慮に入れまして、そうしてもっと合理的で、しかも現実に即するような解決をしなければならないのではないか、このように
考える次第でございます。