○一萬田国務
大臣 これはまた非常にむずかしい。なかなか経済のことについて予測を立てることは困難でありますが、しかし今日
アメリカの経済を
考えます場合に、
アメリカの経済上の指標を見ますと、
アメリカの総生産の伸びもとまっておる、なかなかこれ以上に伸びそうな状況もない。それから
国民消費も、今後何かの措置をすれば国内消費がうんとふえるというような状況も、今のままではなかなか困難ではないかというような
情勢も出ております。それから在庫の調整もなかなか困難である。こういうふうな若干の指標を
考えても、むろん私は経済の動き自体としてはやはり相当な要素を持っておると思います。がしかし問題は、これは同時に若干国際経済の状況もありましょうが、問題はこれに対してどういう
政策をとるか。私は今日の経済の困難は一国だけで解決しようというような
考え方は不可能ではないか。やはり基盤を国際的な
関係に置いて、政治を国連というような
考え方において話し合いで解決するのと同じように、経済においてもやはり基盤を国際的基盤に置いて解決しなければいかぬ。私はこういうような視野に立つのですが、そういうふうな見地に立ちますのに、ヨーロッパは一応おきまして、
アメリカを
考えますと、
アメリカの国は何といっても非常に貿易の受取
勘定の国であり、また巨額の金を持っておることも御
承知の
通りであります。それから
アメリカの大統領が非常な権限を持っておる。それから国内的な資源も非常にあるということも争えないことであります。そうした場合に、
アメリカの経済を動かすのに一番力を持っておるこの大統領が、しかもその大統領のまわりには多くのブレーンを持っておることも御
承知の
通りであります。ですからその
アメリカの大統領が、
自分はこういう
政策をとって、こういう時期に
アメリカの経済を回復しようとしておるのだということを、責任を持って世界に公言をしております。そうしますと、この
アメリカ大統領のこの
考え方、
政策というものは、十分考慮に入れる値打がある。ないとすれば一体だれの言を
考えていいか、こういうように私は思うのです。従いまして問題は、そういう経済の自然的な動きに対しまして、
政策的にこれをどういうふうに回復し得るか。あるいはまた回復した場合に、その時期は一体どの辺にあるか、こういうことが私は問題になるだろうと思うのであります。これについては、私も実地にいろいろと研究しておるわけでもありませんし、また十分勉強するひまもないのですが、しかしいろいろと見ると、大体において
ソ連共産圏の学者はこれは否定している。これはやはり第一次大戦の後と同じように――あれは二十年後に世界の不況が来た。今度はそれが十三、四年目に来た。これはやはり世界的な不況を起すという
考え方です。これは
ソ連系統の学者です。しかし自由国家の国々の学者、プロフェッサー連中はそうは
考えていない。第一に
アメリカ大統領の
考え方について、一番近くこれをサポートしているハーバード大学の先生方は、若干の時期的ズレはあると思いますが、比較的に
アメリカ大統領の
意見と一致している。その他の大学の先生方もおおむね一致しておる。むろん世界経済というものは、やはり相当困難な事態にあるが、しかし
アメリカを中心として西ドイツあたりが
協力をして、強力な景気回復の
政策をとれば、これは徐々によくなるということについては一致しておるようです。だんだんと明るくなるという点においては一致しておる。ただ、それならどの辺から明るくなるであろうかという点について、
意見を異にしておる。一番早いのはアイゼンハワー大統領で、最初の当時は三、四月ごろからというような
意見も
新聞等に伝えられた。人によっては六、七月、あるいは秋、おそいのは来年の春で、来年の春というのが今のところ一番おそいというふうに
承知いたしております。そういうふうな状況にあると私は
考えます。それで私は昨年の九月に、IMF、世界銀行の総会に出席したときに、
アジア諸国が中心になって強く主張したのは、
アメリカや西ドイツが、今のように自国の経済ばかりが債権国になるようなそういう経済
政策をとっておる限り、自由諸国は経済的に参ってしまう。そんなことでは、一面において自由諸国がともに世界平和を確立するなどといっても、これはできやしませんよ。やはり経済的な裏づけがなければならぬBそれにはどうしても
アメリカや西ドイツが少し負け
勘定になって、自由諸国から物を買い入れるような
政策をとる。言いかえれば、
アメリカや西ドイツが若干のインフレを起す。あるいはインフレにしなくとも、海外に
資本投下をする。結局はインフレ経済にする。それをやらなければならぬということを強く主張した。それについてはみなその
通りだというふうに言った。これは後にワシントンの首脳者に会ったときにも、みな言うておりました。それが
アメリカにおいては実際に
政策において具現をしてきておる。まず金融
政策において景気
政策をとっておる。しかしそれだけではいかぬから、最近では公共
事業を拡大しよう、いや公共
事業よりも減税を大規模にした方がつい、こういう議論になって、いわゆる財政面からの景気、これらも一応どういう程度思い切ってやるか見なければならぬが、同様なことは西ドイツの首脳者も言うておる。
自分たちも金利を下げて国内景気を上げて、よそから物を買うようにしよう、なるべく輸入をふやそう、それでもなお国際収支が受け取りになれば、海外投資をやる。こういう海外投資が、実は西ドイツの東南
アジア等に対する物資の輸出になって現われておる。こういうふうに自由諸国の強い国が
協力をして、呼応して景気回復策をとるとすれば、それぞれ責任者の、あるいは学者グループの
考え方を受け入れて、そうしてそれに対応するように
日本の経済を持っていこう、しょせん
日本の経済は輸出ということにあるのですから、これはやはり正統的な
政策を持続していく以外にないと私は思っております。そうして世界の経済の動きに調子を合せていく。決して私は
日本の経済にしても世界の経済にしても、そんなに安易には
考えておりません。私は非常に楽なことを言うように宣伝して下さるのですけれども、私自身そんな楽な
考えは持っておりません。しかし
政策としては、そういうふうな
国際情勢を見て、
日本の経済はこういうふうに持っていこうという
政策は、やはりしっかりした信念で確立していきたいという態度です。しかし経済ですから、またそのときどきで、あるいはいろいろな
情勢の変化で、物事はずれていく。これは経済は生きものである以上、何も一人の人の意思によって世界の経済や一国の経済が動くわけではありませんから、これはある程度ズレが生ずる。しかし方向が間違わない限り、これは正しい、こういうふうに
考えております。こういうふうなことが、私が大体
考えておる内外経済に対する
考え方であります。