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1958-03-12 第28回国会 衆議院 外務委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年三月十二日(水曜日)     午後一時二十五分開議  出席委員    委員長 床次 徳二君    理事 菊池 義郎君 理事 櫻内 義雄君    理事 須磨彌吉郎君 理事 森下 國雄君    理事 山本 利壽君 理事 戸叶 里子君    理事 松本 七郎君       北澤 直吉君    高岡 大輔君       野田 武夫君    松本 俊一君       大西 正道君    田中 稔男君       森島 守人君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         外務政務次官  松本 瀧藏君         外務事務官         (条約局長)  高橋 通敏君  委員外出席者         外務参事官   白幡 友敬君         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 三月十三日  委員小坂善太郎君辞任につき、その補欠として  北澤直吉君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  日本国インドネシア共和国との間の平和条約  の締結について承認を求めるの件(条約第二  号)  日本国インドネシア共和国との間の賠償協定  の締結について承認を求めるの件(条約第三  号)  旧清算勘定その他の諸勘定残高に関する請求  権の処理に関する日本国政府インドネシア共  和国政府との間の議定書締結について承認を  求めるの件(条約第四号)      ————◇—————
  2. 床次徳二

    床次委員長 これより会議を開きます。  日本国インドネシア共和国との間の平和条約締結について承認を求めるの件、日本国インドネシア共和国との間の賠償協定締結について承認を求めるの件、旧清算勘定その他の諸勘定残高に関する請求権処理に関する日本国政府インドネシア共和国政府との間の議定書締結について承認を求めるの件、以上三件を一括して議題といたし、質疑を許します。質疑の通告がありますので、これを許します。  質疑を許します前に、外務大臣から発言を求められております。これを許します。藤山外務大臣
  3. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 この前の委員会戸叶委員から御質問がありましたインドネシア在外公館の問題につきまして、若干不正確なところがありましたので、あらためて申し上げておきたいと思います。在インドネシア日本国大使館は、桑港平和条約発効前の第十三回国会当時御審議を願いました在外公館名称位置法に載っておりますが、インドネシアが同平和条約承認はいたしましたが、批准しなかったため、この部分だけが施行されておりません。従ってインドネシアとの間に正式に国交が開け、日本大使館を置くことになった場合には、この法律の附則の規定によって執行日を定める政令を出すこととなるわけであります。右御了承願います。
  4. 床次徳二

  5. 松本七郎

    松本(七)委員 インドネシア賠償交渉について、私は総理大臣とそれから外務大臣に同席していただかないと工合が悪いのですが、総理大臣がお見えになるまで、外務大臣に少し質問したいと思います。  最初に、この前の同僚委員質問に対する御答弁の中で、もう少しはっきりしておきたい点がございますので、それを少しお聞きしたいと思います。  一つは、この前戸叶委員質問に対する御答弁の中で、スカルノ大統領が今後の日本人の入国について旧憲兵隊員入国は困る、こういうことを言われた。これはしかし国と国が平和条約を結んだ後に過去の身分によって入国は困るというような、そういう制限をつける根拠は一体どこにあるのですか。
  6. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 これは別に向う制限をつけると言ったわけではないのでありまして、明瞭にいたしますが、そういう人をなるべく希望しないということを言ったわけであります。われわれとしてもできるだけ日・イ国交回復のためにそういう向う側気持を尊重したいと思っております。
  7. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、平和条約ができて友好増進しようというためには、向う希望もなるべく達成できるように政府は努力しなければなりません。ところが旧憲兵隊員であった人がインドネシアに行きたいという希望が出てくるだろう、その場合に過去に憲兵隊員であったといろ理由をもってこれに旅券を出さないとか、インドネシアが好まないというその希望に応ずるために旅券制限をするとか、そういう処置をされるおつもりですか。
  8. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 特にそういうことはいたしませんし、ただいま申し上げたのは、向うがそういう気持でいるということであるわけであります。一般的に広く入れるという意味を申し上げるためにそう申したわけであります。
  9. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、先方はそういう希望を述べたけれども、具体的にその制限をする措置を特に講ずるわけではない、こう理解していいですか。
  10. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 さよう理解されてよろしゅうございます。
  11. 松本七郎

    松本(七)委員 それからこれもやはり戸叶委員質問に出たのですが、今日のインドネシアの政情不安に対してヨーロッパからのニュースはかなり誇大に伝えている。十分に注意を払うが大して拡大はしないだろうというのが、政府の一応の見通しのようでしたけれども、私どもの調べたところでは、オランダ動きだとかアメリカ動き等に相当憂慮すべきものがあるように思うのです。それを少し指摘しながら外務大臣の御意見を伺ってみたいのですが、たとえばオランダのテレグラフが一月八日付の紙上でこういう意味のことを言っているのですね。こうした革命に金を出しているのは中央スマトラ利権を持っているアメリカ石油資本だ。革命の時期、これは反政府革命という意味ですが、その時期はアメリカイギリス政府が新しい政府に対して物質的、精神的支持を与える決意をすることできめられるだろう、こういう報道をやっている。それからニューヨーク・ヘラルド・トリビューンの昨年の十二月の報道ではインドネシア中央政府が瓦解して一つまたは数個の群島に若干の新しい主権政府が生まれることに備えなければならぬという意味のことをワシントン当局に訴えておる。こういうふうなアメリカ新聞論調などを勘案して情勢を判断してみると、必ずしも楽観を許さない動きが私どもには感じられるのです。これについてワシントンからインドネシア政策に関して、アジア諸国アメリカ公館に与えた内密の指令もあると言われている。それは一九五七年の五月に台北で反米デモが起った最中に紛失したということで、インド週刊誌ブリッツ、一月十二日号に公表されたと言われているのですが、その中にも、自分たち中央政権にいるわれわれの味方つまり今のスカルノに反対する者の地位を一そう強化して、民族主義的な考え方にあまり染まっていない、またSEATOから課せられる任務を最もよく遂行できるような人たちをささえてやらなければならない、諸君はさらに自由世界任務を理解している野党指導者たちとの連係を強化することについて、以前出した指令を一段と精力的に遂行すべきである、こういうことがうたわれておると公表されておる。これはインド週刊誌で公表されておるわけであります。それからいわゆるロックフェラーグループ報告編集者からも、インドネシア軍事干渉をすみやかに準備すべきだという主張がなされておる。こういうことを考えますと、また最近の新しい報道を見ても、そうそう楽観していられないのじゃないかと思うのです。戸叶委員質問に対するお答えはきわめて楽観的なお返事でしたけれども、その後急速に変りつつある状態考えられて、依然としてその見通しが変らないかどうか、もう一度確認しておきたいと思います。
  12. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ただいまお話ブリッツ所載記事は事実無根である旨アメリカ政府から説明されているわけであります。外務省としてもこれらの情報等につきまして十分検討はいたしておるわけで、決して無条件で楽観をしているわけではないのであります。しかしながら、現在の実情から見ると、西欧側から出ますニュースがやや誇大であって、それをそのまま現実にとるのは少しく事実を誇大に見過ぎるのじゃないかと思います。しかしながら、御承知のようにこういう革命運動が出て参りますと、いろいろな動きがそれぞれ起ってくるということはあり得ることであろうかと思うのであります。従ってわれわれとしては、そういう動きがどういうふうに起ってくるか、たといそれが政府動きでなくとも民間等における動きについても十分関心を持って見て参らなければならぬのであります。そういう意味において、われわれはできるだけ注意をしつつこういう記事についてもあるいはいろいろな報道についても分析をして研究して参らなければならぬのは当然のことであります。外務省としてはそういう努力は十分いたしております。ただあまりに誇大に、すぐにも中央政府が転覆するがごとくとりますことは、必ずしも実情に適しているものではない、私はこういうふうに考えております。
  13. 松本七郎

    松本(七)委員 最近のアメリカなりイギリスオランダ動き十分検討はされておるということでありますが、私どもの心配するのは、この革命に対してアメリカが相当腰を入れてこれを支持する動きが今後強まってきた場合、この間戸叶委員からも質問に出たのですが、革命勢力に対して日本側が何らかの援助をするとかそういうことはないかという質問に対して、大臣は、それは絶対にないという答弁があったのです。けれども、だんだんにアメリカ論調などを見てみると、積極的にこういった革命勢力を支持しょうというような動きが強くなりつつあるように思うのです、一月七日のウォール・ストリート・ジャーナルなんか非常に激しいのです。この論調は、西欧側がまず最初にエジプトで、その次はシリアで、今はインドネシアでこうむっておる損害のことを考えなければならぬのは当然だ、そうして、インドネシア武力干渉をやらなければならないということまで示唆しておる。こういう論調が現われておるわけです。ですから、そういう空気を見ると、アメリカも積極的にこれを支援するということになった場合に、日本がまた何らかの形でこれに協力して援助しなければならぬような事態にならないとも限らない。そういうときに、あくまでもスカルノ政権を支持して、革命の、いわゆる反乱の鎮圧に協力する、反スカルノ勢力を支援するようなことは絶対にないということをもう一度明確にしていただきたい。
  14. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私どもは、先般申し上げたような立場インドネシアにおける政情の混乱につきましては、十分関心を持っていかなければならず、またインドネシア共和国が四分五裂になるような状態に導きますことは、日本として好ましいことではなし、絶対にそうあることを希望いたしません。従ってわれわれとしてはむろん中央政府を支持して、それが十分成果を上げるようにと考えているわけでありまして、内政に干渉するようなことについては、日本として避けなければならぬことはむろんであります。しかしこの前から申し上げております通り中央政府はやはりスカルノ氏、ハッタ氏等を中心にして問題が考えられ、進展していくのではないかと思うのであります。そういう意味において、スカルノ氏とハッタ氏との会談等も十分われわれは注意して見ておるわけでありますが、日本としては中央政府が崩壊するという——だれが政権をとるか、政治の局に当るかということは別としても、中央政府が崩壊するというような事態に立ち至らぬことを希望いたし、こういう現状においては、スカルノ氏、ハッタ氏がその収拾の責任を果すことを希望しているわけであります。
  15. 松本七郎

    松本(七)委員 それに関連してロックフェラーがこの前インドネシアを訪問している。あの動きをめぐって、アメリカ資本オランダイギリス資本と並んで、インドネシアでは石油工業界で相当重要な他位を占めてきているわけですが、今アメリカの一部でいわれておるオランダロケット基地にしたい、NATOの理事会の決定に基いてデンマーク、ノルウエーははっきり拒絶しておりますけれどもオランダを早く基地にしたいという政策をとっておるわけです。一方オランダの方はどうかといえば、ロケット基地を認める代償というか、かわりには、インドネシアにおけるオランダ地位というものを安定させたい、これを取引の具に供しておる動きさえ、私どもから見ると見えるのです。だから両方の側からいって、アメリカオランダロケット基地を早く確立したいし、オランダはそれを取引インドネシアにおける過去の地位を回復し、自分のあそこにおける利権を確保したい、その要求が、たまたま両国にとってインドネシア弱体化させるということが両方の利害の一致点になってきているわけです。そういう意味から見ても、どうもこの動きというものは必ずしも安心できない状態ではないかと思うのですが、そういったいわゆる石油資本中心にした動きから、この両国インドネシア弱体化させようというような意図大臣は感じられないか、お伺いしておきます。
  16. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 インドネシアをめぐりまして、西欧側あるいはアメリカ等にいろいろな動きがあり、またそれがお話のように石油資本をめぐっていろいろな取引が行われているということを、私どもは必ずしも真正面から信ずるわけには参りませんが、しかしながら、そういういろいろな動きが将来起り得る可能性はあり得る、こう考えておるわけであります。従いまして日本としては一日も早く、ただいま御指摘のようなインドネシア弱体化を防ぐ意味からいいましても、賠償を通じ、あるいは経済協力を通じて、インドネシア政府が強固な基盤に立っていく。今日の経済的な非常な困難な時期に強固な地盤の上に立ち得るように、賠償を通じあるいは今後の友好関係を通じ、やっていきたい、こう考えておるわけでありまして、そういう意味においてわれわれはインドネシア政府弱体化ということを決して喜びもせず、歓迎もせず、逆にわれわれは強固にインドネシア中央政府というものを育てていく、そうしてりっぱな国家が形成されることに努めて参りたい、こう考えております。
  17. 松本七郎

    松本(七)委員 そこで賠償交渉について少しお伺いしたいのですが、小林氏を移動大使として東南アジア諸国を歴訪させた。あの際に小林さんがインドネシアに入った場合に、賠償問題に触れることがいいか悪いかということは相当当時問題になったように言われておるのです。大多数の意見は、当時移動大使が一通り各国を歴訪する際に、インドネシアには賠償問題があるからといって、当時の情勢ではなるべくこれに触れない方がいいじゃないかという意見が相当強く主張されたと聞いておりますが、当時のいきさつはどうなんですか。
  18. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 移動大使は御承知のように特定地区の中の各国を訪問をいたしまして、その地域内を総合的にものを見、視察し、そうして結論を得ることを目的としておるわけであります。しかしながらそれぞれ個々の関係の国を訪問することでありますし、そのときどきの現地の現実の提起されておりますいろいろな問題については情報を収集し、あるいは向う政府意図を、説明を受けるということは、これまた当然な移動大使としての任務だと思います。直接に賠償関係交渉をいたすこと自体については、特段の使命はないわけであります。しかしながら当時インドネシアに参りますれば、当然賠償の問題は両国間の大きな問題でありますから、そういう問題について向う側意見を述べ、また必要な意見を言って帰って来ることも、移動大使任務には反していないわけであります。特に交渉のために差し出す、インドネシア交渉をやらせるという意図はございませんでした。しかしながらそういう意味において向うの話を聞いたという事実はございます。
  19. 松本七郎

    松本(七)委員 今の御答弁だと、問題がある以上は全然触れないわけにはいきませんが、消極的に出たら話を多少はするというふうにきわめて消極的な態度でやったように聞えましたけれども、しかし実際に小林さんが向うへ着いてからとられた行動などを見ますと、相当この賠償問題には積極的に参加されておるように思う。それで先ほどから聞いておるのは、政府としてはなるべく触れない建前でやったのか、それとも一応はそういうことを考えたけれども、結局検討の結果は、やはり問題がある以上は、積極的にこれに取り組んだ方がいいという態度移動大使インドネシアに回したのか、そこのところがちょっとはっきりしないのですが……。
  20. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 積極的に取り組んだ方がいいとまでの意図ではないわけであります。しかし、当時インドネシア日本間には一番大きな問題は賠償交渉の問題であります。従いましてこの問題について正常ルートをもって話し合いはしておりますけれども移動大使立場等高官等にも会うことができるわけでありますから、そういう機会には問題について向う側意向あるいは考え方最高首脳部考え等が率直に聞けるなら聞いてもらうことが便利だということをわれわれは考えたのであります。そういう意味において小林大使は行動されたと信じております。
  21. 松本七郎

    松本(七)委員 小林大使インド、セイロンを回って九月にインドネシアに着かれた。ところが当時外務省としてはここに御列席になっておる白幡参事官インドネシアに派遣するということになったわけですが、こうして小林移動大使白幡参事官それから高木公使の三者で協議をした結果、いわゆる小林試案というものがここにできておる。この試案内容はどういうものなんですか。
  22. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 当時ただいま申し上げたような経緯によりまして小林大使政府首脳部等とも話をされたわけです。従ってこの問題を公館長に伝え、また小林大使は御承知のように移動大使でありますからその後の任務があるわけで、従ってもし賠償等の問題についていろいろ向う側意向がわかるならば、やはり早期にこれを知ることが必要でありますので、白幡参事官を出したわけであります。その結果、白幡参事官及び高木公使は、小林氏に向うから伝えてきました意向を聞いて、そしてそれをまとめて白幡参事官が持って戻ってきたという経緯になっております。
  23. 松本七郎

    松本(七)委員 それで三者で協議して作った小林試案内容はどうですか。
  24. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 協議して作ったといいますよりも、向う側意向を伝えるというのが本質でありまして、特に小林試案というような非常に確然たるものがあったわけでもないのであります。ただそれに対して小林氏が一応の意見を述べられたことはありますけれども、世上伝えられるような、何か非常に確定的な小林試案というものがあったわけではないのであります。
  25. 松本七郎

    松本(七)委員 私どもの聞いておるところでは、それが試案として銘打って出されたか、あるいはただ意見として述べられたものか、そこは知りませんけれども、その意見なるものの内容は、かなり具体的に明確な案として出ているわけです。それは大臣も御存じだと思いますので、その内容を聞いているわけです。その小林さんの、試案でなければ試案でなくてもいい、意見でもいいのですが、当時持たれておった意見内容はどういうものですか。
  26. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 つまり小林試案という、たとえば小林さんがコンクリートに作ったような案でないことはただいま申し上げた通りであります。当時向う側ではやはり四億ドルの賠償というものを強く主張していた。それから経済協力その他については問題はありませんが、焦げつき債権の問題については、別個の問題として扱いながら何か適当に解決する方法はないだろうかという意味考えを述べられたのでありまして、それが小林試案というのでなく、むしろインドネシア側意向を完全に伝えられたということであります。
  27. 松本七郎

    松本(七)委員 それがインドネシア側意見であったかどうかということは別としまして、そのときの伝えられる試案なるものの内容ですね。私どもは当時のあれからある程度のものを聞いているのですから、それが間違っていれば間違っていると言っていただきたいし、それがその通りであるならその通りであるという御答弁を願いたいのですけれども、私どもの聞いたところによると、全体は二十年間、そしていわゆる賠償は純賠償二億ドル、これが十年間、あとの十年間で経済援助を二億ドル、合計四億ドルという形、それから一方のいわゆる焦げつき債務、これは最初の五年間には三%の金利だけを払う、それからその次の五年間には一年に八百四十万ドルずつ払って五年間に四千二百万ドルを払う、もちろんこれもまた三%の金利が含まれるわけであります。それから今度は最後の十年間に、一年に一千三百五十万ドルずつ払っていって十年間で一億三千五百万ドル、それにまたプラス三分の金利、こういうことで案が出された。これは小林さんの案かあるいはインドネシア側意向かどっちか知りませんけれども、当時は大体こういうことでいいのじゃないかというのが、三者の間で協議した一応の結論だったというふうに聞いておるのですが、いかがでございましょう。
  28. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 インドネシア側は当時四億という線を主張しておったわけであります。それから焦げつき債権の問題につきましては、向う側としては何らかの形でもって据置年限を置く、あるいは適当な形でこれを一括払いするというような考え方でおったわけであります。むろんわれわれとしては四億という金額について当時コミットしておりませんし、われわれとしては二億という金額を主張しておったわけであります。向うが四億と主張し、こちらが二億と主張しておったのでありまして、それはまだ相当大きな隔たりがあるわけであります。従って、そういう問題に対して、小林大使としては何らかの妥結の方法がないだろうかという意味からいいまして、あるいはこれを従来のような十年ということでなしに二十年というような形にして、そうして何らかの形で経済協力的なグラントというようなことを考えたらどうだろうという小林大使の御意見はございました。しかしながら、それに対してお話のように高木公使あるいは小林大使白幡参事官等が寄って確定的にそういう案を作って、これによってやろうというところまでの話はないのでありまして、われわれはそういう意見参考にして、そういう状況にあるということを頭に入れて、今後インドネシア側交渉するということであったわけであります。
  29. 松本七郎

    松本(七)委員 白幡参事官にお伺いしますが、私が今まで聞いておったいわゆる小林試案というものの内容は、小林さんと高木さんとあなたと三人で協議されたときに、大体結論として出たものか、それともインドネシア側意向として出てきたものか、どうですか。
  30. 白幡友敬

    白幡説明員 お答えします。当時の事情を申し上げますと、御承知のように昨年の七月にインドネシアの方のジュアンダさんから岸総理にあてて書簡が来たわけであります。その考え方というものは、今外務大臣からお話がございましたように、大体賠償として四億ほしい、それから経済協力として四億考えてくれということでございます。ところが日本側としては、大体賠償としては二億以上は出せない、こういうことでございます。そこでそこの食い違いをどうするかという問題があったわけであります。そこで、大体基本的な考え方としましてはインドネシア側の言い分は、この当時は賠償として四億もらいたい、それから焦げつき借款というものは何か別な方法でもって解決したいという考えでございました。それを、私どもが参りましたときに、小林移動大使が、もちろん大統領、それから向う総理大臣あるいは副総理と話されまして、大体の向う側考えを打診したわけであります。結局その結論としまして、われわれが小林大使の御意見としてまとめましたのが、賠償は二億しか出せない。そうなってくると、あとの二億は何か別の方法考えなければならない。このためにはどういうことを考えなければならないか。この前も申し上げたと思いますが、政府レベル借款方式というものについても当時議論になっておったこともありますし、それから今大臣からお話がございましたように、何か経済援助という方式でやってくれということであったわけであります。それが大体いわゆる小林試案といわれておりますものの骨子と申しますか、その当時向うが話されておったことでありまして、あとお話もございましたが、こまかなことはその当時具体的に話し合いになったわけではございません。
  31. 床次徳二

    床次委員長 松本君に申し上げますが、総理大臣が見えましたから、総理に対する御質疑をお願いしたいと思います。なお時間は一時間少しでなるべく早く帰られたいようですから、お含み下さい。
  32. 松本七郎

    松本(七)委員 今のこまかいことは、結局インドネシア側から出たのではないけれども、大体小林さんの考えとしてまとまったとわれわれは理解しているのですが、しかし今も白幡参事官が言われるように、第一に七月に出たジュアンダ書簡によって、大体総額四億ドルという線が出てきたのですね。それと同時に、焦げつき債務は支払うという意思表示がされておるわけでしょう。そのジュアンダ書簡の二つの点は間違いないと思いますが、この点一つ確認しておきたいと思います。
  33. 白幡友敬

    白幡説明員 特にはっきり支払うという表現ではございませんでしたけれども、これは一種の経済協力方式と申しますか、そういう形でもって片づけたいということは、向うとの当初の話し合いでもって私ども了解したことであります。そういうものは書面で出ておるわけではありませんが、経済協力という形でもってこれを返していこうという考え方であります。
  34. 松本七郎

    松本(七)委員 そこで総理大臣にお伺いしておきたいのは、当時小林さんが向うへ行かれてインドネシアの側をいろいろ打診されて、そうして今言うようにインドネシア側は総額とにかく四億ドル、そこで小林さんの大体の案としては、十年間で二億ドルだけがいわゆる純賠償あと二億ドルは経済援助という形で何とか形をつけよう、そのかわり、一方焦げつき債権の方は二十年間で金利もつけて完全に支払ってもらう、そういう案が当時出ておった。その背景といいますか根拠は、今言われるように、ジュアンダの書簡で四億ドルをとにかく要求してきており、一方では今白幡さんの言われるように、焦げつき債務は支払うとは言っていないけれども、何らかの形でこれを支払う意思のあることを意思表示してきたということが一つと、もう一つは、これはもちろん自民党の中にもいろいろ意見はあったでしょうし、大蔵省、外務省の中にもいろいろ意見はあったと思いますけれども、大体において当時の大多数の意見は、やはり焦げつき債権を棒引きにすれば、韓国あるいはアルゼンチンその他の焦げつき債権にどうしても悪い影響が及ぶということが第二点、それからもう一つ非常に大事な点は、経済的な効果から考えて、やはり外貨を一応受け取って、そうして賠償賠償で払った方がよほど効果があるのじゃないか。全然外貨を受け取らずに、ただ棒引きをして、そうして賠償を払うということと、一方債権債権としてはっきり支払ってもらって、外貨収入が入れば、ずっと経済的な効果が違うという、この三つの点から、大体当時言われておった小林試案というものを中心に、今後の交渉を進めようじゃないかというのが、当時の総理大臣の御意見でもあったように私ども承知しておりますが、この点はいかがですか。
  35. 岸信介

    ○岸国務大臣 インドネシア賠償につきましては、すでに御承知かと思いますが、ごくざっと申し上げますと、昨年ジュアンダ書簡によって四億の賠償と四億の経済協力——われわれは従来二億程度以上の賠償はできないということを申しておったわけであります。小林特使が向うへ行きまして、向うを打診して、どうしても四億ということは向う側としては譲れない線である、しかし日本側としても二億程度以上に賠償することができないから、そこで純賠償を二億にし、二億を経済協力にしたらどうだ、それから焦げつき債権の問題については、もちろん支払うという建前をとっておったわけであります。ただ問題は、焦げつき債権の支払いについての、ハッタ氏にこちらに来ているときの交渉から申しますと、よほど考えが違っておるわけであります。それは第一、インドネシアには今支払い能力はごらんの通りない、従って日本から経済協力なり賠償を得て、そうしてインドネシアの経済が確立した後これを払うことにしたい、だからこれは非常に先になるわけです。それからこれに対して利子をつけるということはとてもたえ得ないということ、それからまた賠償とこれとは全然関係がないから、かりにこの方の年次計画ができて、年次の支払いができなくとも、それは賠償賠償としてもらうということで、それを年次的に差し引くようなことにしてもらっては困る、こういうようなことが申し入れであった。これは私どもの見地から申しますと、焦げつき償権を全然無利子にするということは、他の焦げつき債権関係もあって、これは工合が悪い。それから支払う時期につきましても、そういうふうに非常に長く先になっては困る。それから賠債と直接に関連はさせないにしても、何らか、賠償の方はなにするが、債権の方は今はとらないにしても、先方できめた年次の支払いということをからませ、全然無関係にやっていくということは、やはり焦げつき債権の確保の上からいってもおもしろくない、それからまたそういうふうなやり方で行きますと、かりに成立したとしましても、この年次をどういうふうに始めるか、全然こっちの賠償が済んだら、あるいは経済協力が済んだら、二十年後から支払うというのが一番初めの向う側気持なんですが、そういうことでは焦げつき債権の本質からいってうまくないということで、支払うということは前提になっておりましたが、支払い条件、支払う内容について条件の話をしてみるというと、これは彼我の間に非常に考えが隔たっておるということが当時明らかになっておったわけであります。
  36. 松本七郎

    松本(七)委員 ですから、今総理大臣の言われたのは、ハッタ氏が中国を回って日本にやってきて、そうしてあのときにスジョノ・アジア太平洋局長がやってきたわけですね。そしていわば小林案に対する修正案のような形で、今御指摘のような案が出てきた。だから、それはハッタ氏が来る前には一応小林案と言われているあの案で行く方針だったわけでしょう。それがハッタ氏が来られて、今言うように支払い能力がないから債務の方はもっと先に支払うという案が出てきた、そしてほとんど小林案というものを根底からくつがえすようなインドネシア側意向が、初めてここで具体的に明らかになってきたわけですね。そこで次にお伺いしたいのは——経過は大体それでわかりました。いわゆるハッタ氏の持ってきた案の具体的なものももう少し聞きたいのですけれども、それは時間の関係で省きます。そこで今度は、総理大臣が十一月十八日に出発される当時、小林さんに一緒に行ってもらうことを要請されたと言われておりますが、当時は何か小林さんに一足先に向うへ行ってもらって、そして交渉だけ段取りを相当つけて、総理向うに着かれたらすぐ仮調印もできるように、すっかり準備をしておいてもらいたい、そういう御意向であったように私どもは聞いておるのですが、その点はどうですか。
  37. 岸信介

    ○岸国務大臣 私がインドネシアをたずねるに際し、できれば、よほど両方考え方も近づいてきていることでもあるから、何とかこの問題を解決したいという意図は私持っておりました。従ってこの問題に関して、とにかく一つ試案が出されており、小林試案というものに基いて、先ほど来応答のありましたような内容を持っておるものを中心として、その話をしよう、こういうような大体の方針をわれわれも持っておったわけでございます。そこで私のインドネシア滞在はきわめて短時日でありますので、できるだけ準備的に、小林特使が行って前にも話をしたいきさつもあるわけですから、先へ行っておってもらって、話をある程度まで煮詰まるものなら煮詰めてもらって、そして自分が行ったときにさらにこれが最終的決定ができるならば最終的決定をしたい、こういうつもりで小林氏にそういう意図を私も述べておったのであります。しかし小林氏のいろいろな都合上、予期したように小林特使が私の立つ相当前に向うへ行くということは、実際むずかしい。そうすれば、もしも一緒になれば一緒になって話をするようにしようじゃないか、こういうことで、できるだけ早く行って話のつくだけ詰めておいてもらいたい、こういうことで私は出発したわけであります。
  38. 松本七郎

    松本(七)委員 最初に、むしろ先に小林氏が向うに行ってすっかり準備してもらいたいという要請を総理からされたときは、小林君は拒絶した。断わられた事情はどういう事情か知りませんが、二度目に今度は総理から要請されたときの内容は、多少違っておるように私どもは聞いております。それはむしろ一緒に行って、そうしてある程度の話をして、総理が引き揚げられた後に残って今度はやってくれというふうに、内容が変っておったように聞いておるのですけれども最初に今言われる小林さんが今までいろいろ交渉しておった、また小林試案というものを中心交渉しようという建前から、小林さんに一つ行ってくれと言われたときに、あの当時政府部内あるいは自民党の中にも、総理が短かい期間でインドネシアに行かれるときに、あまり賠償問題には深く触れない方がいいじゃないかというような意見が相当強くあったように聞いておるのですが、この点はどうなんですか。
  39. 岸信介

    ○岸国務大臣 今申し上げました通り、私の過般の東南アジア訪問は、基礎は、言うまでもなく友好親善関係を深めていくということにあったわけでありますけれども、それについては賠償問題の解決しておらない国においては、賠償問題についてできるだけ話をして、解決の道がつくものなら解決の道を見出したいというのが私の考えでありました。インドネシアにつきましては、すでに説明されたと思いますが、長い経過をとって、最初は非常な開きがあったのでありますけれども、最近におきましてはよほど考えが近づき、今小林氏あるいはハッタ氏等の折衝から見て、結論に近づいておるという状況でありましたので、できれば私が行ったときに根本の方針がきまり、いろいろな具体的な問題についてはさらに必要があれば小林氏に残ってもらって話をしてもらうし、あるいは最初に行ってそういう点を詰めておいてもらって、最終的に決定のできるような段取りか、どちらかをとって、私が行きました機会にそれを推進したいというのが私の意図でありました。別段これに関して特に党その他からそういう問題に触れないようにというような考え方が私に対して述べられたわけではありません。
  40. 松本七郎

    松本(七)委員 そこで十一月二十六日にインドネシアに着かれて話し合いをされるときの方針ですが、当時はやはりいわゆる小林試案交渉中心にすることについては、大体インドネシア側とも了解がついておったように聞いておりますが、この点はどうですか。
  41. 岸信介

    ○岸国務大臣 インドネシア側との間に、具体的にこれでやろうという話がついておったわけではございませんけれども、大体小林君が行ったときに一つ試案を出しており、ハッタ氏が来たときにいろいろと意見を交換いたしまして、大体の見末といいますか、要するにジュアンダ提案の四億賠償、四億協力、しかし四億の純賠償というものは日本はできないのですから、日本としては純賠償は二億にとどめ、実質上の経済援助において、インドネシアの経済産業には四億程度の実際上の貢献をするというような方向と、まだ煮詰まっておらないけれども、これと関連して焦げつき債権処理の問題とか、こういうことを中心考えておったわけであります。
  42. 松本七郎

    松本(七)委員 その当時日本側としては、この小林試案中心にやるということは、はっきり方針としてはきめて、そうして外務大臣は訓令も出されているのじゃないですか。外務大臣、この点いかがですか。
  43. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 当時、ただいま総理大臣が言われましたように、小林さんが帰って来られて、ある程度の試案といいますか、考え方を述べられ、それを白幡参事官からも述べられた。こういう問題については、大蔵省とも協議をいたさなければなりませんし、われわれとしては十分慎重に検討して、ただいま総理も言われましたハッタ氏が来られまして、初めはハッタ氏はこういう問題について話をし得るのかどうかということを私ども疑問に思ったわけでありますが、会合してみますと、スジョノ・アジア太平洋局長を連れて来ておりまして、事務的な話し合いはできるという言明がありましたので、この機会にアジア局長とスジョノ氏と話し合いをさせたわけであります。今申し上げました通り、そういう意味から見まして、必ずしも小林試案あるいは小林さんの意見によりますものと、向う考え方とが全部一致しているわけでもありませんし、またそれらの扱い方等についてもいろいろ困難な問題もある。ただ当時、総理も言われました通りインドネシア側が四億というものを非常に固執しておった。しかし日本としては二億しか払えない、二億の経済援助という問題が出ているわけでありますから、それらの問題を中心にして一つ話し合いをもう少し詰めてみたらどうだということを、われわれは小林特使もこっちに帰られ、あるいはハッタ氏が来られた情勢もありますので、高木公使の方にそういう旨を含めたわけであります。特別にこういうコンクリートの案があって、それをぜひ達成するようにやれという訓令を出したわけではございません。
  44. 松本七郎

    松本(七)委員 大体小林さんの意見、いわゆる小林試案中心交渉したらよかろうという趣旨の訓令を出した、こう理解していいですね。
  45. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 形は、果して小林さんのようになるかならぬかは別として、とにかく向うは四億という線を固執しておりますので、日本としては純賠償は二億しか出せない、あとの二億というものをどういうふうに取り扱うかということは、小林試案通りでいいのか、あるいはその他の方法があるのか、あるいは向う側からすれば、もう少し四億をおりて三億にして、何とか妥協してくれないかと言うか、そこらの点はまだ必ずしも明確ではなかったわけでありまして、そういう意味において、ハッタ氏が来、あるいは小林さんの意見により、また日本の大蔵当局とも話し合った結果を、今のような意味において訓令をしたわけでございます。
  46. 松本七郎

    松本(七)委員 その次は、十一月二十七日にハルジィ外相代理第一副首相に会われて、そうしていよいよ具体的にどういうふうに交渉するかを協議された。そのときの内容は、大体今大臣が言われるような四億中心、つまり小林試案そのものではないけれども小林試案中心に協議を進めていこうということと、もう一つは、日本側小林移動大使が当る、それからインドネシア側はジュアンダが当る、こういうことで大体了解ができたように聞いておるのですが、その点は間違いございませんか。
  47. 岸信介

    ○岸国務大臣 向うへ参りまして、今お話のように案の内容そのものは両方で十分一つ検討しなければならぬが、向うとしては、わが方の小林特使に対する交渉の相手としてジュアンダ首相をぜひ出してもらいたいというのが私の方の強いなにでありますが、最初それについてはある程度の難色が向うにあったようであります。しかしわれわれは強くそのことを言って、そうして結論としては、今お話通り小林特使とジュアンダとがこれに当る、さらに細目については高木公使とハルジィ及びスジョノ・アジア太平洋局長とがこれに当る、こういう話になったわけであります。
  48. 松本七郎

    松本(七)委員 大体基本方針はジュアンダ・小林間で協議をする。さらにスカルノ・岸両者を加えて四者で会談して、今の二つのことを確認しようという段取りで進んでおられたように私どもは当時聞いたのです。ところがその四者会談に入る前にスカルノさんの方から、スカルノ・岸二者会談をやりたいという要請があって、ここで岸総理スカルノ大統領と会われたときに、大統領の方から、小林案というのはなるほどいい案ではあるけれども、しかしどうもインドネシア国民にはわかりにくい、もう少しわかりやすい案の方がいいからというので、焦げつき債権棒引案というものがここで出てきたように聞いておるのですが、この経過はいかがですか。
  49. 岸信介

    ○岸国務大臣 お話のように大体今後の交渉、私がインドネシアを去った後における交渉は、ジュアンダ・小林の間においてやるという話をいたしましたのに対して、大統領から特に私と二人で会談をしたいという申し入れがありました。そうして会ったわけであります。その際スカルノ大統領は、長い問題であるから、あなたが来られた際にぜひ解決したいと思う。そうしてすでに自分の方としては、ハッタ氏並びにジュアンダ総理との間にも昨日も今朝も会議をして話したのだが、今までの小林案に出ておるようなやり方でなしに、この焦げつき債権の支払いの問題は、条件についてわれわれの要望と君の方の考え方との間に非常に差がある。これを埋めることはなかなかむずかしいようだが、むしろ焦げつき債権一つ棒引きにして、将来の関係を簡単明瞭にしたらどうだという考えがそのときに述べられたわけであります。
  50. 松本七郎

    松本(七)委員 そのときそういう意見がいきなり大統領から出てきたときに、すぐ岸総理はこれに賛成されたわけでしょう。
  51. 岸信介

    ○岸国務大臣 それは事実が違っております。そういうような点に対しては、自分としては日本の閣議を——そういうことは一つ考え方である、考え方としては私は了解できるけれども、これを日本側が決定するについては、やはり日本にその内容というものをよく示して、日本側意向を確かめた上でないと、私一個ではきめられない、あなたの言われる考え方は私はよく理解できるけれども、これに対する確答は日本のそれぞれの機関に諮った上でなければできない、こういうことを申したわけであります。
  52. 松本七郎

    松本(七)委員 そこのところがわれわれの聞いておったのとだいぶ違うので、われわれの聞いたところではさっきからいうような交渉経過をたどって段取りしてきたにかかわらず、スカルノ大統領と岸さんとの会談でいきなり棒引案が出てきた。そこで直ちに首相が賛成の意を述べられた。そこで高木公使が当時通訳として同席しておったそうでありますが、その高木公使が、すぐ賛成の意を述べるのはまずいと言ってだいぶとめたにもかかわらず、総理は賛成されたということを聞いておるのですが、この点をはっきりしていただかなければならないと思いますが、いかがでしょうか。
  53. 岸信介

    ○岸国務大臣 それは全然事実に違っておるわけであります。今私が申しました通り、そういうスカルノ大統領考え方一つの案というものは、実は棒引案というものは、最初日本インドネシアとの交渉の段階において一時そういうことが出たことがあるのです。むしろインドネシア側のそのことに対する意見が賛成しないというために、そういう案が引っ込められたといういきさつもありまして、インドネシアがそういう考えにまた立ち返ったということであるならば、それは一つ考え方だ、しかしそれについてはあなたの方は閣議なりそういうことできめて、あなたの言われることが最後の決定であるということの意思はわかるけれども、私の方はやはり国内のそれぞれの機関に諮る必要があるから、私はあなたの言われることはよく了承するけれども、その確答はそれに諮った上でしますということを言ったのが事実でございます。
  54. 松本七郎

    松本(七)委員 そこでこれの今後の影響ですが、この前からビルマのいわゆる再検討条項に基く要求はないだろうという答弁外務大臣からなされたのですが、私どもビルマの動きを察知するところでは、どうも必ずしもそう楽観できないのではないか、ビルマ大使の言っておること、その他を、おそらく非公式には外務大臣にもある程度のことは言っておるだろうと思いますが、私も今晩またビルマ大使に大使館で会うことになっておりますが、いろいろ話のついでに出てくることから察すると、これはやはり何か再検討条項に基いた要求が出そうな感じがしますが、最近の情勢でどう判断されますか。
  55. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ビルマ大使は、先般帰国されました。その帰国されます前に私をたずねてこられまして、インドネシア賠償経緯についてお話がありまして、私どももその経緯についてこれを説明すると同時に、ビルマとインドネシアと別段差別的な待遇もしておらぬし、またわれわれとしては適当な方法結論がついておるのだという説明をいたしたわけであります。それに対して特にビルマ大使から再検討条項を持ち出すというようなお話もございませんし、そういう日本インドネシアとの間の賠償協定内容等について政府に報告するということで来られて事情を聞かれたと思います。当時の印象からすれば、私はそれほどビルマ大使が再検討条項を持ち出すような強い考え方であったとは思いません。その後ビルマ大使が帰国されましてから、まだ国会等の関係でお目にかかる機会もありませんし、向うからの連絡もありませんのでお目にかかっておりませんが、その後のビルマにおきます在外公館からの公報等についてもわれわれ慎重に検討しておりますけれども、まだビルマ政府の中でそういう問題が真剣に取り上げられておるというほどには考えられない、こう思っております。もちろん一部若干新聞その他においてそういう議論がないとは言えませんが、ビルマ政府が果して真剣にこの問題を取り上げるというところまではないように思っております。
  56. 床次徳二

    床次委員長 時間がありませんから、残余の質疑は簡潔に願います。
  57. 松本七郎

    松本(七)委員 時間がありませんから、大体終りにしたいと思いますが、この機会に私総理大臣に伺っておきたいのは、ビルマの場合に合弁事業を起すというような計画があったにかかわらず、これは採算ということを考えると、民間の企業体が採算を無視してもほんとうに賠償の精神をもって経済協力をやろうということはなかなかむずかしい。これは計画はできてもいざやろうとなれば、やはり採算問題にぶつかる。ですからその点で積極的に民間企業を動かせるには何らか国家が保証するか、それとも何らかそういうことができるような法的措置でもとって——これは国家意思による強行をやらなければ、ただ民間の良識に待ってこれをやろうとしても、実効は上らないと思う。この前外務大臣戸叶委員質問に対して、今後の両国の親善には政府も一そう努力し、民間の努力を期待するようなお話があったのですけれども、何らか具体的な方策を政府がとらなければ、ただ野放しでは構想倒れになると思うのです。そういう点について政府として特にお考えがあるかどうか。
  58. 岸信介

    ○岸国務大臣 賠償協定に付属して経済協力——いわゆるコマーシャル・べースにおいて民間が協力をするという条項がビルマに対しても、あるいはフィリピンに対しても、今度はインドネシアにもついておるわけであります。お話通りコマーシャル・べースということは、原則はそれでいいわけですが、さて現実にそれが実現されるということになりますと、コストの問題だとかあるいは採算の問題だとか、その国における政情の不安定とか、何かといろいろな問題がからまってきて、実現する上においてはいろいろな困難があることは今御指摘の通りであります。  そこで、これに対して政府がどういう方策をとるかという問題になりますと、一つあるところに例を作りますと、他にもその例が及ぶというような関係もございますし、よほど具体的に十分に検討してみなければならぬかと思います。私の承知しておる限りにおきまして、ビルマにおける合弁事業の問題がある程度計画ができたけれども実行できないという問題に関しましては、国家が非常な強い力でどうするということをしなくとも、あるいは輸出入銀行等の金融の便宜等によって解決されるのではないかと考えられる節もあるのであります。いずれにしましても国がある程度の援助をすることは必要でありましょうけれども、要はやはり賠償、それから政府直接のローンであるとかいうものと違って、コマーシャル・べースの仕事に関しましては、民間の主体性を失わないようにすることがその国に対しても望ましいことであり、政府がこれを促進する方途につきましても、それをわきから補助的に援助するという範囲でものを考えて参りたい。しかしその範囲においては国々もしくは事業の性質によりまして、具体的に適切な方法をとっていく必要があろう、こういうふうに思っております。
  59. 松本七郎

    松本(七)委員 時間を節約する意味で少しまとめて項目別に質問しますから、まとめて御答弁願いたいと思います。一つは東南アジア開発基金の構想を生かすために、岸さんがアメリカに行かれたとき、できるだけアメリカの金を出させようと交渉された際に、ガリオア、イロアを棒引きにしてその引き当てになっておる、払うべき金を東南アジアの開発基金に入れるという交渉をされて、アメリカ側はこれを拒否したということを聞いておるのですが、これの真偽について、これが第一点。  それからこれはたしか吉田さんが外務大臣のときかあるいは岡崎さんのときかそこははっきりしませんが、当時ガリオアは債務なりと確認した書簡を出されておるわけです。いずれにしても吉田内閣当時ガリオアは債務なりと確認した書簡を出されておるわけでありますけれども、こういう書簡を出されておる事実も確認していただきたい。これは間違いないのです。それは今後永久に政府を拘束するものであるか、あるいは単なる書簡であるから、道義上のものであるかという点をここではっきりさせていただきたい。これが第二点。  それからもう一つ賠償では最後に残ったヴェトナム賠償、これは今までのいろいろな経過にかんがみて、この際一応一切白紙に還元される御意思はないかどうか、これだけお伺いしておきます。
  60. 岸信介

    ○岸国務大臣 東南アジア開発基金についてアメリカにおいて話す場合に、ガリオア、イロアの援助資金に対する日本からの支払いを引き当てにして、この方に基金を出すというような交渉をして、アメリカから拒絶されたという事実があるかということでありますが、そういう事実はございません。私が参りましたときにガリオア等の援助資金の問題に対する話は少しも出ておりませんし、私も触れておりません。また東南アジア開発基金と結び合せて話したというような事実は全然ございません。  第二の点は今外務省の何からそういう書簡が出ておる事実があるか、それが政府を拘束するかということにつきましては政府委員から答弁いたさせます。  ヴェトナム賠償をこの際やめる、いろいろな見地から白紙に還元する意思はないかというお尋ねでありますが、私どもは今までずっと交渉してきました経緯から見ましても、この交渉をやめる意思はございません。今直ちに進展するような状況にあるかと申しますと、これもなお両方の間の意見にまだ食い違いがございまして、早急にまとまるかどうかということについては見通しを持っておりませんけれども、これを一応白紙に返すという考えは持っておりません。
  61. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 先ほどのガリオア、イロアのお尋ねの件でありますが、私ただいま正確な資料を持っておりませんけれども、阿波丸の賠償請求権放棄の交換公文をやったことがありますが、その付属の了解事項といたしまして、そこにこういうものは債務であるということを確認いたしております。アメリカ側に直接書簡をやったということは私記憶いたしておりません。
  62. 床次徳二

    床次委員長 次は戸叶里子君。
  63. 戸叶里子

    戸叶委員 インドネシアの方からも日本公館長がこられまして、きょうからアジア太平洋公館長会議が開かれるということを新聞で見たわけでございますけれども、今回の公館長会議は昨年岸さんが外務大臣で開かれたときよりも国際情勢も大へん違っておりますし、またアジアの地位というものもずっと高まっておるのでありますし、情勢が非常に変ってきているときだと思います。そこで非常に重要な会議だと思うわけでございますけれども、今日日本が出しております外交の三原則、すなわち国連中心の外交、自由諸国との協調、アジア諸国との友好強化という三原則をそのまま同じウエートを持たせていこうとするならば、なかなかむずかしい面に直面してくるのじゃないか。ことにアジアの諸国はどれかにプライオリティを置きませんと、なかなかうまく調節がとれないのじゃないか、こういうことを考えるものでございますが、今度の公館長会議におきましての外交方針としてどういう態度をもって臨まれるかを、まず承わりたいと思います。
  64. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 御承知のように、ただいまお話のありました国連中心主義、アメリカとの友好関係、アジアに対する友好、信義を厚くしていく、これは岸内閣の外交の三原則でありまして、従いまして今回の東南アジア公館長会議においても、当然その外交三原則に沿いまして会議の運営をいたし、それぞれの意見を聞くことにいたしているわけでございます。
  65. 戸叶里子

    戸叶委員 その外交三原則は、まあ岸内閣の三原則として進めていかれる、こういうことは一応発表されたこととしてわかっておりますけれども、しかし実際問題といたしまして、アジアの諸国におきましては、SEATOへ加盟している国もあれば、またそうでない国もあるわけであります、そういたしますと、自由諸国との協調ということとアジア外交の強化というようなところから考えると、矛盾した面が出てくるのではないか、こういうふうに考えますけれども、これに対しての岸さんのお考えはいかがでありましょうか。
  66. 岸信介

    ○岸国務大臣 御承知のように、アジア諸国が長く植民地の地位に置かれて、これが解放されて独立を獲得した。そしてこれらの植民地統治国というものが西欧諸国であったという関係上、これとの間にいろいろな具体的の摩擦なり、あるいは考えの違っている問題を生じております。今、戸叶委員の御質問は、そういう場合にアジア中心主義というか、アジアの外交を強化するということになれば、アジア民族の念願であり企図しておるそれらの西欧諸国との対立において、一つの具体的問題を自分たち意図に即して解決しようというものに同情をし、同感し、協力するということにならなければならない。そうすると、西欧の諸国というものは自由主義諸国であって、これとの協調という立場からいうと、西欧諸国のなにに対して考えが違うということになって、これは両方が摩擦を起すのではないか、その場合にどっちに重きを置いて考えるのか、こういう問題であろうかと思います。現実にそういう問題が起っております。私はアジアの一国とし、またわれわれの過去歩んできた道からも考えまして、また将来の人類のほんとうの幸福、繁栄ということを考えると、これらの国がその独立を完成し、繁栄をもたらすということには、あくまでも協力しなければいかぬと思います。そのためには、西欧諸国の植民地的な残滓というものを払拭しようという努力なり運動なり、いろいろな企てというものに対しては、あくまでも同情を持っていくべきであると思います。ただわれわれの経験から見ましても、また実際問題から申しましても、それがあまりに急激に行われる方法なり手段なりというものは、目的はそういういいことであってわれわれは共鳴しますけれども、手段としてとるところの具体的の方法については十分に一つ考えないと、かえってこれらの民族のほんとうの独立の完成なり繁栄の基礎にならないというような場合も少くないと思います。そこにわれわれは堅実な方法によって公正な道をこれらの人々にとらせ、これに協力する、そしてその道は、西欧の自由主義の国にもこれを十分に了解せしめ、納得せしめ、協力せしめるように、われわれが努力するということが日本の努めであると思うのです。ただいたずらに、たとえば領土問題であるとか、あるいはインドネシアにおけるオランダ排撃というようなことが、今行われているような急激な、ああいう乱暴な方法で行われることが、インドネシアのほんとうの独立の完成や幸福のためにいいことであるかどうか、最も公正な、そして望ましい姿であるかどうかということを、われわれ公正なほんとうに同情した立場から考えてみると、決してああいうやり方でやることがインドネシアの独立完成の道からいって望ましい方法じゃない、もう少し穏健な着実な、しかも公正な方法でやるべきだということに関しましては、やはり国連という機関を通じてわれわれが公正な道を示して、そして両方の調和点を求めていくということがわれわれの務めであり、そういうことにおいてわれわれが努力していかなければならぬと思っておりますが、努力するならば、決して矛盾だとか、あるいはそこに妙な両方の相剋が起って、われわれのやっていることが非常に不徹底きわまるじゃないかというような批判は受けない、こう思っております。
  67. 戸叶里子

    戸叶委員 岸首相のお考えはわかりますけれども、大へんにそれは甘いと思うのです。そういうふうな形でいきますと、かえって西欧諸国に利用されるというような面が、非常に多くなるのじゃないかということを私は憂えるものでございます。そこで問題は、アジア諸国との友好強化ということをそれでは一体具体的にどうするか、ということが一番大事な問題じゃないかと思います。今インドネシアの例も引かれましたけれども、それでは原水爆の核実験の反対というようなことに対しましても、非公式に、インドから来られました公館長が新聞で発表しているところによりますと、やはりインドなどは、日本の核実験反対に対する態度が非常にあいまいであるというような不満を言っておられるようでございますし、このことは私どもも全くその通りだと思っているわけでございます。ところがやはり西欧自由諸国との協調ということをうたっている以上、はっきりとインドならインドの言う——というよりも、むしろ日本の方が積極的に核実験反対という線で、アジア諸国に呼びかけていくくらいの強さを持っていかなければならないのに、そこにやはり自由主義諸国との協調ということがある程度じゃまをするというふうなことで、今回来られたアジア諸国に行っておられます公館長ども、非常に困る面が多いのではないか、こういうふうに考えるわけでございますが、一体具体的にアジア諸国との友好強化ということを、どういうふうな線でお出しになるか、伺いたいと思います。
  68. 岸信介

    ○岸国務大臣 アジア諸国におきましては、そのとっております外交方針なり、あるいは現実政策なりにおきまして、いわゆる国情を異にしておることは、先ほど戸叶委員お話通りであります。従って、東南アジア諸国という言葉で私どもは呼んでおりますけれども、やはりその国々の特殊な事情というものはこれはあると思います。従いまして、共通の問題もございますけれども、やはりその国々の国情に適し、特殊事情というものを頭に置いて、その国の繁栄なり独立の完成の上において、われわれ自身ができるだけの協力、援助をする場合の具体的の何をきめていかなければならぬと思う。今おあげになりました原水爆の問題につきましては、これはしばしば私が本委員会やあるいは本会議その他におきましても申し述べております通りインドのネール首相とも話をして、根本において私どもの間には違いはないと思います。ただそれを実現するのにどうしたら一番早いかという問題に関しましては、これは私は意見が相違しておるという点があります。それから国内におきましても、いろいろお考えが違っている点もあるわけでありますけれども、その具体的な方法というものについては、やはり私どもが責任をもってこれを実現しようという立場にありまして、最もこれが妥当な——それはいろいろな面から批判は受けます。御批判は私はもちろんあると思います。御意見もあると思いますけれども、私どもはやはり国際情勢実情を頭に置いて、そしてその実現に向って努力しておるというのが今日の私の考えであります。従いまして、具体的なアジア諸国の協力なり何なりということは、今申しましたように、やはりその国々の実情が違っておりますので、それを十分に考えて、そしてそれらの国における具体的な協力なり友好増進について、最も適当な方法というものを見出していくよりほか方法がないと思います。
  69. 床次徳二

    床次委員長 戸叶君、時間がありませんから、簡潔にお願いいたします。
  70. 戸叶里子

    戸叶委員 時間の制約がありますので、それではもう一点だけ伺いたいのです。先ほど松本委員も少し触れられましたが、東南アジアの開発基金の構想を、アメリカへ行って直接まっ先に交渉されたのが岸首相だったと思います。それはアメリカの方で、大体そういう構想はいいかもしれないけれども何か具体的なプロジェクトを持ってこなければ賛成することができないということで、軽くいなされたということも、私はうすうす聞いているわけでございますけれども、今回日本で大体五十億の予算を組まれましたが、その後それを効果あらしめるためには、一体どういうふうな形でこの構想を進められていくのか。ことしのうちに何らかの具体的な成果を上げるようにするおつもりであるかどうか、これを承わりたいと思っいます。
  71. 岸信介

    ○岸国務大臣 アメリカの方において、こういう構想を実現するためには、具体的なプロジェクトがなければ、はっきりした自分たち態度はきめられないという意見があったことは事実でございます。もちろん私どもがこういう構想を具体化していく上におきましては、具体的なプロジェクトの問題も当然検討されなければならぬし、またアメリカだけのなにではなしに、私どもが対象として考えている東南アジア諸国がこのものを十分受け入れ、またこのものに協力するという理解が高まっていかなければならぬと思います。従いまして、私は二回の東南アジア旅行を通じ、またその後におきましても外交機関を通じて、これらの考え方の根本についていろいろと話をし、またこれを一そう具体的に進めるための具体的のプロジェクトについても私ども研究をいたしております。なおこれを一そう強力に推進していきますために、今度内閣に一つの審議会を作りまして、そういうプロジェクトもある程度検討してこの内容を盛り立てていきたい。本年じゅうにという、——これは私は東南アジアの現状を見まして、こういうことが実現するのは一日も早い方がいいと思います。そういう意味におきましては、できるだけ早く何らか具体的にスタートするように、この上とも努力したい、こう思っております。
  72. 床次徳二

    床次委員長 それではあと一問で終っていただきます。
  73. 戸叶里子

    戸叶委員 それではもう一つ伺いたいことはことしじゆうには——五十億がそのままになってしまうというようなことがないかどうか。それからアメリカからの援助をなお求めるかどうか。それからもう一つは、日本インドネシアの間に今度経済協力協定が結ばれるわけですが、ビルマとも経済協力協定があります。フィリピンもあるわけですけれども、こういうふうにインドネシアなりビルマなりフィリピン、そういう国にもなおこの経済開発基金を、この経済協力とは別の形でお使いになるような考えがあるかどうか。この三点を伺っておきたいと思います。
  74. 岸信介

    ○岸国務大臣 五十億の今度の基金を本年じゅうに使う見通しがあるかどうかという問題につきましては、先ほど申しましたように、今日具体的にこれを使うというところまでまだいっておりません。今後の研究の結果、急速に進展するならば、それに出資するとか、あるいはそういう機関ができることがはっきりするならば、それに引き継がれるようなものに出すということも考えられると思います。もう少しこの構想そのものを全体的に促進してみる必要があると思います。  それからアメリカとさらに話をする意思を持っておるかという点に関しましては、実はあれから引き続いてアメリカ側にも研究を頼んでおります。話は切れておるわけではございません。アメリカの方におきましても、その後におきましては、やはりこの構想に対して理解を深めた空気がだいぶあちこち、国会等におきましても深まってきておるように私ども情報を得ております。なおそういうことを進めていく必要があろうと思います。  それから最後に経済協力、これはそれぞれの国との間における協定によりまして、いわゆる経済協力のことが条約上の一つの義務といいますか、内容としてきめられておるわけであります。これはもちろんそれでやることは当然でありますけれども、この基金ができました場合におきましては、これは日本だけのなにでなしに、一つの国際的な基金でございますから、その国になおこの基金を使ってやることが適当であるというようなものに対しては、やはりこれから出していくことは適当であろう、こう思っております。
  75. 床次徳二

    床次委員長 では田中君。あともう一人大西君からありますから、時間を一つ……。
  76. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 岸総理大臣及び藤山外務大臣から、現在不安定を伝えられておるインドネシアの政情につきまして、政府としてはあくまでもスカルノ中心とする現在のインドネシア中央政権を支持する、賠償問題の解決もむしろこのスカルノ政権を強化するために役立つことを希望しておる、こういうふうな言明がたびたびあったようであります。私は、これは非常にいいことであって、そういう態度一つ今後も堅持してもらいたいと思います。またオランダあるいはアメリカ方面から、反乱軍に対しまして何かこれを支援するような動きがあるという情報もありますけれども、これはそう大して発展しないと思う。そういうことで、スカルノ政権が今後強化されていくことになると思いますが、ただこの際特に岸総理にお伺いいたしたいのは、よくスカルノ政権は容共政権であるというふうにいわれるのであります。容共ということは一体どういうことか私も実ははっきりしませんけれども、少くともスカルノ大統領は、共産党員でもなければ共産主義者でもないことははっきりしておると思う。彼はやはり一個の民族主義者だと思う。このことについて総理はどうお考えになるか。  それからまたスカルノ構想として伝えられるところのものは、御承知のように一種の挙国内閣——その場合インドネシアにおいては共産党といえども合法政党であり、しかもその勢力は非常に大きいわけです。そうするとその共産党の勢力を無視することはできない。現在ジュアンダ内閣に入閣はしておりませんけれども、しかしながらとにかく共産党の存在を無視はできない。だから共産党を含めて一切の合法政党の挙国的な支援のもとに一つ内閣を作ろうというのが、大体スカルノ構想だと思う。内閣だけではありません。内閣のもとに国民審議会というようなものを作っております。この点そういう挙国一致的な何か政治の中心一つそこに作りたいということにあると思いますが、このことをもって直ちに容共だとは言えないと思う。このスカルノ政権の性格、ことに容共政権といわれることについて、総理はどうお考えになりますか。
  77. 岸信介

    ○岸国務大臣 私はスカルノ氏と個人的にもしばしば話をいたしておりますし、また同大統領が今日までやってきたこと、またインドネシア内におけるところのスカルノ大統領の声望の基礎というものは、言うまでもなく、あなたのお話通り民族主義者である。そうしてインドネシア民族独立の一つの英雄であり、これに対する気持というものが根本をなしておると私は思う。そうして同大統領が私にしばしば言っておるのは自分は決して世間で言われているように共産主義者でもなければ共産主義が好きでもない、いわゆるプロ・コミュニストの考え方じゃないのだ、おれはあくまでも人道主義者であり、民族主義者なんだということをしばしば私にも言明をしております。私はそれを信じております。決してお話のように共産主義者であるとか、あるいは共産党に対して特別に何か好意を持つなにをしているとは思いません。  それからもう一つ、今インドネシア賠償をすることがスカルノ政権を強化することになるだろうというお話がありましたが、結果としてそうなることは、そういう見方もありましょうし、私それが決して悪いこととも思いませんが、われわれ注意しなければならぬことは、いろいろな意味において他国の内政に干渉するごとき、ある勢力を強化するために特に何かやるというふうな考え方は、私は持ちたくない。この問題もあくまでインドネシアを代表する正式政府との間に私どもは正当に交渉してこういうことを進めておる。その結果としてあるいはスカルノ大統領政権の強化になるか、あるいは反対の結果になるかは、おのずからこれは別の問題である、こういうふうに考えております。
  78. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 内政不干渉はけっこうであります。そこで先般ダレス国務長官がある機会に、スカルノ政権インドネシアの国民の総意を反映していないというようなことを申しました。これはインドネシアのスバンドリオ外相の強力な反駁をこうむった。その後何でもアメリカの国会におきましてダレス長官自身この言明を取り消したとかいうことでありますが、今の総理スカルノ政権に対する見方をもってするならば、スカルノは決して共産党員でもない、共産主義者でもない、彼は民族主義者であり、独立以来今日まで約十年、彼がほんとうにインドネシアの民族運動の先頭に立って戦った英雄であればこそ、彼は今日広範な国民的支持を受けておるということが言えると思うのです。そうすると、ダレス長官が、これは後に取り消した言明だそうですが、スカルノ政権インドネシア国民の総意を代表していない、ただ一部の小さい支持しかないということさえ言いましたそういう趣旨の言明は間違っておる、こういうふうに断定していいと思いますが、総理はどうお考えですか。
  79. 岸信介

    ○岸国務大臣 ダレス長官がどういう声明をしましたか、どういうふうになにしましたか、私その間の事情をつまびらかにいたしませんけれども、しかし私が先ほど申しましたように、スカルノ政権というものは国民的なスカルノ大統領に対する信頼といいますか、声望といいますか、そういうものを根拠としてでき上っている正統の内閣であり、今日の内乱の状況というものは、インドネシアの民族独立完成の途上において実に悲しむべき事態であって、一日も早くこれが正常化せられることを望んでおるというのが私の心境でございます。
  80. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 時間の関係もありますから、私ごく簡単に質問いたしますから、総理も非常に懇切丁寧はいいのですが、一つできるだけ簡潔に御答弁を願いたいのであります。  平和条約の第三条によりますと、「両締約国はバンドンにおいて開催されたアジア・アフリカ会議における決定の精神に従って両国間の経済関係をさらに緊密化する」、こういうふうなことが書いてあります。バンドン会議は御承知通り、アジア・アフリカ諸国の代表が集まりまして、日本からは高碕全権が行かれました。そうしてただ経済関係だけでなく、政治、経済、文化、あらゆる問題につきまして非常に自由に討議して、そうしてその討議の結果は最終コミュニケとしてこういう長文にまとめられておるわけであります。そのバンドン会議の決定をただ両国間の経済関係のみを律する何か決定であるかのごとくここに書いておることは、私はこれは非常に不十分だと思うのです。そこで総理にお伺いしたいのは、今後日本インドネシアとが国交をずっと続けていくに当りまして、経済関係だけでなく、政治や文化、その他の関係においてもやはりこのバンドン会議の精神でやっていくのだ、私はこれは高碕全権が承認されたことでありますから、当然そうあるべきだと思う。そういうふうに私どもは理解したいと思いますが、どうでありますか。
  81. 岸信介

    ○岸国務大臣 もちろんバンドン会議において論議せられ、その結論として採択せられた共同コミュニケ等に表われておることは、経済関係だけにとどまらずして、文化の面、その他の面に広く及んでおると思います。そうしてわれわれが将来インドネシアとの間に真の友好親善の関係を深めていく上におきましては、決して経済関係だけでなしに、他の問題ももちろん含めて両国の間の親善友好を進めていくようにしたいと思います。
  82. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 それではそれでけっこうだと思いますが、そうだとしますと、最終コミュニケの一番最後の世界平和と協力の促進についての宣言として、十個の原則がここにうたわれておるのであります。その第六の一といたしまして、いずれかの大国の特定の利益に役立たせるために集団防衛の取りきめを使わないこと、と書いてあります。こういうことになると、今マニラで理事会を開いておりますSEATO、東南アジア条約機構の中に、日本インドネシア両国とも参加することは、これはおもしろくないということだと思いますが、どうお考えになりますか。
  83. 岸信介

    ○岸国務大臣 バンドン会議は御承知通りいろいろな立場の違う国が入っており、そうして自由に論議されまして、意見も必ずしもすべての問題について最初から一致したという状態でもなかったと思うのです。しかしその結果として採択せられたいわゆるバンドン十原則というもの、私はアジア・アフリカ民族の共通の一つの理想をここに表現しておるものだと思います。従ってその趣旨について、私は日本としても十分尊重していくということにつきましては、これがアジア・アフリカの理想を表現しておるという意味においてそういうふうに思います。ただ具体的にSEATOに日本が加盟するか加盟しないかということになりますと、バンドン会議がどうであるかということ以外に、憲法上の問題もありましょうし、その国の国策の問題もありますから、ただバンドン会議だけをたてにどうするということはできませんけれども、今これらのものに盛られておるアジア・アフリカの民族の共通の理想というものに対して、われわれは尊重していかなければならぬ、こう思っております。
  84. 床次徳二

    床次委員長 田中君、時間ですからそれで終っていただきたい。
  85. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 今の御答弁でSEATOというものには日本は参加しない、こういう御意向であります。これはけっこうです。今までもたびたび外務大臣からも同様の御答弁がありました。  そこでこれと関連しますが、日本と韓国と台湾とさらにフィリピンその他を加えたNEATO、東北アジア条約機構、こういうふうな構想がときどき伝えられるのでありますが、こういう構想には政府は反対であるということも、総理の御意向として承わってよろしゅうございますかどうか。
  86. 岸信介

    ○岸国務大臣 その構想の具体的内容をつまびらかにいたしませんけれども、私は伝えられるような内容を持っておるものであるとすれば、これに参加するということは日本としては反対である、こう思います。
  87. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 それからバンドンのコミュニケの中に、本会議はすべての関係諸国が核兵器、熱核兵器の実験を停止するよう話し合いをまとめることを訴えた、こういうふうなことも書かれております。これは総理かねての信念である、つまり核実験禁止の申し合せをちゃんとしたわけです。ところが総理の熱意にもかかわらず、このことがまだ実現を見ていないのであります。この際インドネシアとの国交が回復されますならば、私はいい機会だと思います。やはり日本インドネシアあたりが提唱しまして、かねてこういうことに賛成のインドのネール首相、こういうものと語らって、A・Aグループの国家間でこの問題について何か相談する、これは成功するかどうかわかりませんが、とにかく相談して、そして国際世論を形成するために努力する。あれは一ぺんやってみたがだめだからとあきらめないで、いろいろな機会を利用しなければならぬと思いますが、この際そういう新しい試みをやる御意向はないか。
  88. 岸信介

    ○岸国務大臣 核兵器の製造禁止や使用の禁止、さらにその前提として実験の禁止という問題に関しましては、お話通り、今日までわれわれの熱願にもかかわらず、これが実現されておらないということは非常に遺憾であります。私はこれまでの何が成功しなかったからといって、それであきらめて仕方がないというべき問題ではないと思います。今後においてもあらゆる機会にあらゆるこれに対する有効な方法につきましては考えをめぐらして、一日も早くこの実現をしなければならぬと思います。今インドネシアとの平和条約締結の機会に、A・Aグループに働きかけてこれに対する具体的の何を進めたらどうだという田中委員のお考えも、私は一つの具体的のお考えとして大いに傾聴をいたしました。今直ちにやるという用意はまだ持っておりませんけれども、あらゆる機会に、今後も根強くこれを続けていきたいという私の何から申しますと、そういうことにつきましても一つ研究してみたいと思います。
  89. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 最後に、実はインドネシアの問題とは関係ないのでありますけれども総理のこの委員会に御出席する機会が非常に少いので、この際特に委員長にお願いして一問だけお許し願いたいと思います。  それは最近北海道の当別町だったと思いますが、ある中国人が発見されました。それはぼろぼろの着物を着ており、寒さにふるえながら発見されたのでありますが、名前は劉連仁と申すのであります。この中国人は戦時中中国から日本に連れてこられて、北海道の明治鉱業の昭和炭鉱において強制労働に服しておったものであります。ところが虐使と飢餓とに耐えかねて、終戦直前脱走して、山中で穴居生活を続けること十三年に及んだものであります。ところで中国人は約四万人戦時中に日本に連れてこられた。この劉連仁君は山東省の諸城県というところの自分の郷里で平和な農民として畑におもむく途中、日本軍に不法に拉致されて連れてこられた。それでこういう人々の中でも多数の人が虐使と栄養失調で倒れた。その遺骨の処置も今日まだ完全にはついていないのであります。しかもこのことは昭和十七年のいつでありましたか、東条内閣の閣議において華人労務者を日本に連れてくるという件について政府の方針が決定した。しかもその当時の東条内閣の商工大臣の要職に岸総理はおられたわけであります。だから岸総理としては責任がないとは言えないわけであります。岸総理は平素日本の過去の対華侵略については十分反省をしている、こういうことを言明されております。そうだとすれば、岸総理としてはこの劉連仁君の保護と慰藉と、さらにまたその本国への送還において、総理の具体的な誠意を示していただくことが、ほんとうに総理が過去の対華侵略について責任を感じているということを立証する一番いい機会だろうと私は思います。三月四日でありますか、ちょうど日中貿易協定の交渉のために参っておりましたわが党の勝間田清一君に対して、李徳全中国赤十社社長は、四百人の一般帰国者、八人の戦犯、さらにまた二千体の日本人の遺骨の送還を約束した。
  90. 床次徳二

    床次委員長 田中君に御注意申し上げます。あとがありますから、簡潔に願います。
  91. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 こういうふうな中国側の態度と対照いたしまして、従来中国人の問題につきましての遺骨の処理その他についての日本政府態度はきわめて冷淡であった。この劉連仁君の問題は対華侵略の犠牲者の生き証拠であります。この劉連仁君の処理の問題においては、日本政府日本国民の誠意を示していただく、同時に岸総理自身の太平洋戦争に対するざんげの証拠を示してもらいたい、私はこう思うのでありますが。この際御答弁願います。
  92. 岸信介

    ○岸国務大臣 戦争中に中国人の労務者を連れて参りまして、これらが今おあげになりましたようなあるいは食糧の不足や、過度の労務、また環境の適切でなかったために死なれた方も多数あり、行方不明になった方もあるだろうと思います。その一人として最近劉氏が発見されたということで、私もあなたからの御質問があったことによって実は具体的にそのことを知ったわけであります。そして同君についてはかねて勤務しておった明治鉱業所においても同氏を確認しており、今この鉱業所の寮でもってお世話をしている、そして近き便船かあるいは適当な引揚船等の都合を得て、そして本国に帰国するように取り計らって参るという手順がきめられておるということで、それまでは十分寮においてお世話をしてやるということでございます。一般にこの戦争中における中国の労務者が、そういう状況において死亡された人々の遺骨の収集の問題につきましても、実は十分に当時の状況を明確にしないために、すべてが明確にもなっておりません。残念ながらなっておりません。しかしその明らかになりましたものの遺骨の本国への送還につきまして、私も実は民主党の幹事長以来、その何に対しましても、陰ながらいろいろのお力添えもして参っておるのでありまして、できるだけ丁重にこれを中国側へ送り帰すことに努力をいたして参ったつもりでおります。またそれらのことに携わってこのことをやっておられる方々の涙ぐましい御努力に対しましても、私は一つ十分な気持をささげてできるだけのお力添えをしてきたつもりでおります。しかしなお今後いまだ発見されない、十分に明らかにされないものにつきましても、できるだけ調査を完了して、そうして本国に帰すように今後とも努力をしていきたいと思います。また劉君の問題につきましては、今言ったような手順になっておりますが、これに対しまして十分に一つ慰労もいたし、これらの日本における御苦労に対しまして、私は十分に報いて、向うへ帰られるようにしたい、かように思っております。
  93. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 今の答弁で一応満足いたします。岸総理は今日民主党の幹事長でなく、内閣の総理であります。今までいろいろ御尽力いただいたことは、それはけっこうでありますが、今度は一つ総理として万全の措置をいただきますようにお願いをいたします。
  94. 床次徳二

    床次委員長 大西君。時間がありませんので、どうぞそのおつもりでお願いします。
  95. 大西正道

    ○大西委員 賠償はできるだけ値切って安い方がいいのは、これはわかりきったことでありますけれども、きのうも藤山外務大臣にお聞きしたのですが、一体どの程度の規模のものであれば、日本の経済の再建に、支障なくして払い得るか、こういう大よその見通しというものがお立ちになっておると思うのであります。藤山外務大臣、大蔵大臣はそういうことについては委細承知しておるのだ、こういうことでありましたが、これは大きな問題でありますから、総理大臣から、すべての賠償をどの程度に考えておるか、こういう点を一つお聞きしてみたいと思います。
  96. 岸信介

    ○岸国務大臣 その問題は、なかなか具体的に申し上げることはきわめて私むずかしいと思います。というのは要するに日本の経済力なりあるいは日本の力というものがだんだん充実をしていきますならば、そうした支払い能力というものも増して参ります。戦後におきましても、戦争直後の日本のそういうことに対する負担能力と今日の支払い能力というものには相当な差がある。ただ、具体的に年に何万ドルまでは支払い能力があるのだというふうに言うことは、これはなかなかむずかしい、だれでもこれはむずかしいだろうと思います。しかしわれわれとしては、一方フィリピンやビルマ、インドネシア等の賠償の問題も、それからまた日本として将来払っていかなければならない外国からの債務というものも頭に置いて、一体対外支払い能力としてどれだけの力があるかということを算定しなければならぬと思います。今までの何から申しますというと、これらのものを全部総括して、なるべく少く——これが一億ドル以上に及ぶということになれば、非常に日本の経済としては困るだろうということは、一般的に、常識的には考えられておりますが、それなら一億ドルまでは十分あるのだと、こう腹をきめておるのかと言われると、そういうふうにきめておるわけじゃございませんけれども、それを越す場合において、非常に経済の負担として苦しくなるだろうということが、一般に常識的に考えられると思います。
  97. 大西正道

    ○大西委員 それから今ちょっと松本君から触れられましたが、ガリオア債務の問題ですが、あの書簡がはっきりしているということは、まだ総理はこれまで御存じなかったのでしょうが、まあ確認されましたけれども、私はこの問題につきまして、これも外務大臣に申し上げたのですけれども、この問題は早く処理しなければならぬ問題だと思うのです。そうしませんと、ことごとに、いろいろな交渉をやります際に、この問題がひっかかりに出て参りまして、やはり影響を受けておると私は思うのです。借りたものはやはり返さなければならぬと思います。私どもはこれは返す必要はないという初めからの考えを持っておりますけれども、前総理がそういうふうな承認をされておるのですから、これはやらなければならぬと思います。今日までこの問題が、もう数年たちますけれども、いまだにどの程度いつ払うかということが一向明らかにされておりませんが、これはどういう理由で延ばしておられるのでしょうか。延ばしておると、何か時効にかかって消滅になるというような、そういうことなのでしょうか、いかがでしょうか、簡単でよろしいですから、一つお答えを願いたい。
  98. 岸信介

    ○岸国務大臣 この問題は、先ほど申しましたように、日本の経済の復興といいますか、繁栄というか、そういうものを考えないと、私は支払い能力が、先ほど言っているように、ある限度があるということは言うを待たないと思いますから、そういう意味において、今までの、戦後における日本の経済復興の方から申しますと、非常に急いで将来の問題を解決するために、賠償問題等を解決することが望ましいという立場にありました関係上、そういうことが先にやられて、この問題が延びておるというのが実情であろうと私は思います。
  99. 大西正道

    ○大西委員 そうしますと、この賠償の問題を一応終ってからこの問題に取りかかる。こういう手順であるというように考えてよろしいのですか。
  100. 岸信介

    ○岸国務大臣 手順であるというふうに、賠償が解決したからすぐそれに取り組んで、すぐどうするということまでに実は私は考えておりません。今までのおくれてきておる原因が、そういう日本として急いでやることが望ましい、そうしてまたそれが相手国に対してのいろいろな意味からいっても、適当であるというようなものを先に片づけておるというのが私は順当である。これは債務であるということを認めたとしましても、その総額を幾らとするかというような点に関しまして、なかなかこれはまたむずかしい問題があると思います。従いまして具体的には今のところまだこれに取り組んで、これを解決しようという段階まで政府としては考えてないというのが現状でございます。
  101. 大西正道

    ○大西委員 いろいろな日米間の折衝の際にこれが条件の引き合いに出されますから、これは一つ早くめどを立てていただきたい、こういうことをお願いしておきます。  それから賠償を放棄してくれた国、たとえばラオスとかカンボジア、この間総理が回られましたこういう国に対しましては、やはりそれ相応の経済援助なりいろいろやられておるわけでありますが、新聞の伝えるところによりますと、あるいはラオスに対して、この間プーマ総理が来られたときに、十億円の経済援助をするとか云々といわれておりますが、これらの国々に対してどういうふうな援助の具体的な案を今きめられておりますか、これも一括してお願いいたします。
  102. 岸信介

    ○岸国務大臣 カンボジアに対しましては大体十五億円程度において、あそこの最も必要とする農業技術センターみたいなものを作りまして、これによってカンボジアの経済開発の何にしようという具体的の話があるところまで進んでおります。まだ協定ができるまでの運びになっておらぬのでありますが、進んでおる。それからラオスにつきましては、過般私が参りました当時、ラオスのなにとしては以前からもあったのでありますが、首都ヴィエンチェンにおける上水道の施設が全然ないために非常に困るから、日本の技術で上水道を作ってもらいたい、また橋を作ってもらいたいというようないろいろな希望がありました。これらのものを十分調査してみようというので、調査団を去年の暮れに出しまして、今その報告を取りまとめておるところであります。そうして私もあそこで体験したことでありますが、あそこの上水道というのは全然なっておらない。私は水が朝出ませんで、あとバケツにくんできた水は泥水でどうにもならぬというような状況から見ますと、あそこの市民に日本の技術で水道が作れるならば、非常にいいと思います。ただそれがどのくらいかかるか。従来フランスの技術でやると三十億かかるというようなこともいわれております。ところが日本の技術でやれば大体十億程度でできるのじゃないかというようなことがいわれて、まだ最後の具体的な結論は出ておりませんが、大体そういうことでできれば、われわれとしてはその上水道を作って、われわれの国民的気持向うへ示した方がいいのじゃないかという考えを持っているわけであります。
  103. 大西正道

    ○大西委員 私どももその水の出ないのをよく見て参りました。ぜひこういう親日的な空気のまだなくならぬうちに、早く手を打たなければならぬというのが現地の声ですから、調査団というのは手ぬるいと思うのですが、一つてきぱきとこのくらいのことならやっていただきたいということをお願いしておきます。  それから実はこの間外務大臣にもお伺いをしたのでありますが、今、日ソ、日中、日韓問題が非常にクローズ・アップされておりますが、私はいつも忘れてはならないのは沖縄の問題だと思うのであります。沖縄の施政権の返還はもう国会でも決議をした線で、これはもう国民の要望、喫緊のことだと思うのですが、その後政府は韓国問題、日中問題、日ソ問題に忙殺されて、一向沖縄、小笠原の復帰の問題、施政権の返還の問題に対して見るべき成果が上っていないようでありますが、この点は一つどのような努力がされつつあるかを総理大臣から聞かせていただきたい。抽象的な理屈はもうよろしいですから、その後どういう努力がされたかということを聞かしていただきたい。
  104. 岸信介

    ○岸国務大臣 沖縄の施政権の返還の問題、それから小笠原の帰島問題につきましては、私が昨年参りましたときにもこれを提案し、その後外務大臣も参っております。また日本において文部大臣がマッカーサー大使に会いましたときには、少くとも教育に関するものだけでもなにしてくれないかというような提案をいたし、なお外務省は常時日本の大使あるいはなにを通じていろいろな折衝をいたしておりますが、お話通り、見るべき成果がないというのが現状でございます。
  105. 大西正道

    ○大西委員 見るべき成果がないという、その隘路はどこにあるというふうにお考えですか。
  106. 岸信介

    ○岸国務大臣 ほんとうは私は、アメリカ日本の国民の一致したこの要望に対する理解がまだ十分でないということと、それから理由になっておりまする極東におけるいろいろな緊迫状態が緩和されておらないという見方について、アメリカ側としては強くそれをとっておって、私どもはその点に関しましても多少はアメリカとは考えが違うし、またかりに緊迫状態があったとしても、施政権を返す事柄について差しつかえないじゃないか。結局日本側の国民の要望なり、あるいは現地の事情なりについての透徹した認識を、まだ十分アメリカが持っておらないところに、一番欠陥があるように思います。
  107. 床次徳二

    床次委員長 大西君、約束の時間が過ぎておりますから……。
  108. 大西正道

    ○大西委員 極東における緊張が緩和されぬということが、米国の施政権を返還しない一つの理由になっておりますけれども、そうしますと、わかり切ったことですけれども、極東における緊張の緩和のために日本政府が努力するということが、沖縄、小笠原の返還をさせるために一番大事な私はなすべきことであろうと思うのでありますが、この点は同感でございましょうね。しかるに今日まで何ら具体的な努力がされてない。私から言わせれば、むしろ米ソの緊張を促進するような手が打たれつつあるように思う。私はこれはまことにいかぬと思うのです。せっかくあなたが緊張の緩和ということが沖縄、小笠原の返還に大事な条件になると言っておきながら、その努力をされないというのは、私は何としても納得ができないのであります。この点につきましては、時間がありませんからあとから藤山外務大臣にもう少し突っ込んでお聞きしたいのですが、法律的な一つの問題ですけれども、米国が今沖縄をああいうふうに占有しているということは、もちろん平和条約第三条に基いているということは、総理は十分御了解だと思います。ところがあの第三条は、一年ほど前にあなたと私どもの話したように、米国が信託統治にするための提来に対して日本が賛成する、それまでの過渡的な措置としてのああいう形だ、こういうことになっているのであります。そこで私がお伺いしたいのは、米国は果して将来あの土地を信託統治にするという意思を持っているのか。もちろん当初はそうであったでございましょうが、今もなおその点は持ち続けているのかどうかという点について、総理はどのようにお考えですか。
  109. 岸信介

    ○岸国務大臣 その点について念を押してアメリカのはっきりした考えを聞いておりませんけれども、私は常識的に考えてみて、これを将来信託統治にするという意思は、アメリカとしては持っておらないものである、こういうふうに観測をいたしております。
  110. 大西正道

    ○大西委員 そういうことになりますと、まことにこれは重大な問題になると思うのですが、そういうふうな見通し総理が持たれたということも大へんな問題でありますし、もし米国が将来信託統治にする意思なしとして、しかもこの過渡的な措置として数年間もこういう状況に置いておくということについては、何としても納得ができない問題である。総理はそういうお考えを持っておられるなれば、米国に対して信託統治にするということをはっきりあきらめるという確認を求めて、今のああいう形における支配を解消すべき一つの努力をされるべきではないか、こういうふうに思うのですが、この点はいかがですか。
  111. 岸信介

    ○岸国務大臣 それは大西君のかねての御意見でございますが、私はアメリカにこれを形式張ってやるとするならば——私が言うように三条の信託統治にする意思なしというような言明を取ろうとしたら、おそらくおれの方はそんなことは考えない、おれは三条の通り、いつやるかわからぬけれども、信託統治にするという意思を決して捨ててないと私は言うと思うんだ、法律的にあらたまって言うならば。ただ私は常識的に考えてみて、そういうことは、アメリカ日本との関係、その後の推移から見てないだろうということを推定をいたしておりますということを言うているのです。ただそれを表向きに突くならば——お前の言っていることは法律違反じゃないかと言うならば、おそらく条約通りのことを私は意思としては言うだろうと思います。それは交渉のなにとしては私自身はあまり得策じゃないのじゃないか、そう思っております。
  112. 大西正道

    ○大西委員 これは非常に重大な発言を総理から得たと思うのでありますけれども、きょうは時間がありませんから、あとこの続きをぜひやらしていただきたいのです。藤山外務大臣に話をいたしましても、なかなか答弁がうまいので、要領を得ませんので、総理大臣のお答えの方がなかなか誠意があり、具体的であるし私も非常に満足します。それで一つぜひこの問題の継続を次にやらしていただきたいと思うのです。私は岸総理が言われるように、国連第一主義、国連に加盟したのだから国連の舞台でとこう言われる。その通りでありまして、日本が国連に加盟したというこの現実をはっきり認識いたしますなれば、日本の国際場裏における発言権、その立場というものもかなり変って参っておると思うのです。御承知のように主権平等の原則だとかいろいろな日本に対する特別の権利というものが与えられたものだと思うのです。そういうふうな立場に立ちますと、やはり国連憲章の中のもろもろの条項というものを、われわれに十分利用できるところはして、そして私ども考えからいたしますれば、平和条約の第三条の沖縄を信託統治にするということ自体が、国連憲章の趣旨から見て誤まりである、七十七条のその信託統治の趣旨あるいはその地域という中には、私はどうしても沖縄は該当はしないと思うのです。これをこの間は高橋条約局長はまことに牽強付会な説をもって、アメリカのダレスさんそのままのようなことを言ってこの国会で答弁されましたが、これは後日その方面の学者を呼びまして、学者の意見を聞きまして、いかに政府考えておることが定説をはずれておるものかということを明らかにして、やはりこういう点からも国連憲章の趣旨にのっとって、沖縄の返還の問題について堂々とやるべきものは私は主張されるべきだと思うのです。岸総理には私はそれだけの勇気となにがあると思うのです。ですから、この問題はあとに留保しますから、きょうは一つ総理に御退場願って、あと若干時間が与えられておりますから藤山さんに伺いたいと思います。
  113. 戸叶里子

    戸叶委員 関連して総理に……。今沖縄の問題が出ましたので伺いますけれども、十六日に立法院の議員の選挙があるわけでございます。社会党の大会でその議員になる候補者の応援隊を送ることをきめたわけなんでございまして、すでに手続もしているのでございますけれどもアメリカ側の方から査証がおりるかどうかというところへきているわけです。そこで岸首相の方からもそれに対して何らかの出すようにというような積極的な御支持をしていただけるかどうかを一応伺いたいと思います。
  114. 岸信介

    ○岸国務大臣 実は私どもも同じような考えを持ってこの立法院の選挙のなにを考えましたのですが、そういうことに対するアメリカ側の意向を私の方は打診してみたのです。そうすると、この選挙というものは、アメリカが持っている施政権の施行においてやっている沖縄における純然たる施政権運用の内政問題だ、これに持っていって日本の各政党がその代表者を出してその選挙に応援し、その選挙をなにされるということは、アメリカとしては困るということを聞きまして、行きたい心はやまやまであったのですけれども遠慮をいたしたのでございまして、私は今の状況では実現できないだろう、こう思います。
  115. 戸叶里子

    戸叶委員 ですけど、施政権向うにあるにしても、沖縄は日本の国であり、そしてまた潜在主権というものがあるのですから、そういうことでお投げにならないで、きょうの委員会でそういう発言があったのですから、もう一度アメリカに強力に交渉していただきたいと思いますが、これはいかがでございますか。
  116. 岸信介

    ○岸国務大臣 沖縄の問題につきましては、先ほど大西委員からいろいろ国連の問題あるいは条約の解釈の問題について御意見がございました。私はこの問題は真剣に、日本としては一日も早く施政権の返還をさせるということが国民的要望でもあるし、あそこの土地の住民の寝ても忘れられない願望であることをよく知っております。従ってあらゆる面からその事柄について、われわれも決してただ解釈をどうするかというような問題でなしに、真剣に、有効な手段は今後ともとっていきたいと思います。従って大西君の御意見に関しましても十分耳を傾けて御説を伺っております。  今のお話でございますが、先ほど申しましたように、向う意向を確かめても、これはまず無理ですね、今のところ。沖縄の返還の問題についてはあれですけれども、あれを与えておいて、選挙におのおのが行って国内と同じような選挙運動を両党でやるということはこれはやはり困るでしょう。(戸叶委員「両党でなくていいですよ、こちらだけで」と呼ぶ)われわれの方が先に行きたかったのです、実は。
  117. 床次徳二

    床次委員長 それでは総理大臣に対する質疑はこれで終ります。  外務大臣に対する質疑を大西君に許します。
  118. 大西正道

    ○大西委員 どうもくさしたようなことを言いまして失礼いたしました。しかしこの間の条約局長の話はどうも納得がいきません。私がその方面に知識が少いからでしょうが……。もう一回お伺いいたします。信託統治をやり得る根拠としては、国連憲章の七十七条にある。しかも沖縄が信託統治に該当するとすればb項だ、こういうふうに言われたのでありますが、ダレスさんはそう言われましたけれども、私どもはこれには該当しないものだと考える。それに対して特に申し上げましたのは、「敵国から分離される地域」ということになっておりますね。この分離という言葉が、あなたのお話では、ただ物理的に引き離すのだというのでと、こういうことを言っておられる。私どもは、分離というの、領土の処分権までも含めてすべてが分離されるものだ、こういうふうに考えておるのです。ところが御承知のように沖縄には潜在主権もあるわけでありまして、分離という言葉からは、あなたの言われるようなそういう解釈はどうしても出てこないと思うのであります。出てくるとおっしゃるなれば、一体そういうふうな、原語は何と申しましたか、ディタッチというのですか、そういう用語を……。
  119. 床次徳二

    床次委員長 大西君に注意を申し上げますが、議題からはずれておるように思いますが、インドネシア問題についての質疑をして下さい。
  120. 大西正道

    ○大西委員 それでは二つ、三つで、あとは本筋に戻しますから。その問題についてもう一回お答えを願います。
  121. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 ただいまの問題でございますが、今後とももっとよく研究していきたいと思っております。ただ私ども部内でいろいろ研究いたしましたし、それからその他学者のほとんどの代表的と申しますか、いろいろな学者の意見を徴しました結果、現在のところ大体この前申し上げましたような結論に一応到達しておるのでございます。けれどもこれはもちろん解釈やその他研究を要する問題でございますから、今後ともこの点研究させていただきたいと思っております。
  122. 大西正道

    ○大西委員 それでは不満足なので、学者の意見を聞かれたというのですけれども、学者のどなたがあなたの言われるような見解を持っておられますか、一つ伺いたい。私は不敏にしてそういう見解に接したことはないのですが。
  123. 床次徳二

    床次委員長 大西君に申し上げますが、近く参考人も招致してやりますから、その話題は一つなにして本論に入っていただきたいと思います。
  124. 大西正道

    ○大西委員 それでは私の質問はきょうは一応打ち切ります。失礼いたしました。
  125. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 元憲兵であった日本人はインドネシアに来てもらいたくないということについて松本委員からお尋ねしましたら、何も条約でどうということじゃないということで、私もそれは当然だと思います。ややこれに似たような問題でありますが、元憲兵であったような人で戦犯として起訴されることをおそれてインドネシアの山の中に入ったり、あるいは一種の保身の術としてインドネシアの独立運動に参加した人もありますね。しかしこれはその後除隊されて、平和な民としてインドネシアに在住を続けておるわけです。こういう人が相当いることは事実であり、自由民主党の吉江議員がこの間外務大臣インドネシアに行かれました際に滞在していろいろ調査されて、人名までわかっているようであります。こういう在インドネシア邦人の今後の地位といいますか、取扱いはどんなふうになるのでしょうか、お尋ねいたします。
  126. 白幡友敬

    白幡説明員 ただいま御指摘のように戦後向うに残りましたいわゆる離隊者は、当初はずいぶんおりましたが、現在生存しておりますのが二百五十名から三百名の間くらいだったと思います。この連中は大体今まで無国籍状態であったわけでありますが、最近、昨年の秋ぐらいになりまして、向うの軍の連中が、この離隊者が独立戦争中軍に大いに奉仕した功績をめでまして、現在は一種の仮国籍証のようなものを持っております。従いまして顕著な効果が上っておりますのは、昨年やはりインドネシアの法律が出まして、外国人は一人当り滞在税と申しますか、居住税として家長が千五百ルピア、家族は七百ルピアくらいずつ払わなければならないという規則ができたのでありますが、この日本人たちインドネシア人の待遇を受けておりますために免除になっております。従って現在におきましては準インドネシア人の身分を取得いたしまして一応平穏にやっておるわけであります。ただ中に二、三インドネシアの法律に違反する者も出て参りまして、こういう者が先方の法に照らされてしかるべく処分を受けるということは当然起ってくるわけであります。それから一ころ、今から二年くらい前には、こういう日本人は一種の不法入国者であるから、日本に帰したいということがずいぶんございました、しかしわれわれはなるほど本質的にはそうであるけれども、事実上はインドネシアのために貢献したところもあるし、現実に平和に生活しておるのだから、そういうことはなるたけやめてくれということで、若干は帰ってきた人間もおりますが、大体残っておるという状況であります。おそらく今後平和条約が成立した場合には、あるいは何らかの形で外交的に取り上げるような事態が出てくるかもしれませんが、そういう場合には、先方に残っております人たち希望するならば、現在持っております準国籍を正式のものにするとか、そうでない場合も、こういう人たちは細君は現地人であり子供も持っておりますから、生活の安定を脅かすことのないような方法で話していきたいと考えております。
  127. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 この間ソ連から一億ドルの援助が与えられることになって、インドネシアの国会ではこれを受けることに決定したようであります。そのことについて何か詳細な情報でもありましたらお伺いしたいと思います。たとえば借款金額だとか、一体どういう用途に充てるのか、利率その他は国際的なあれで行われているだろうと思いますが、そういうことについて承わりたいと思います。
  128. 白幡友敬

    白幡説明員 ただいまのところはまだ詳細な内容はわかっておりません。わかっております点は、利率が二分五厘でありますことと、原則といたしまして二年据置の十二年払い、通計十五年でございますことで、ただしこれは協定が発効したときからではございませんで、その借款一億のうち、たとえばあるプロジェクトに対して一千万なら一千万という借款を行いますと、それの効力が発生するときからの計算であります。
  129. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 これは何か特定のプロジェクトというようなものに対して与えられる借款ですか。それともインドネシア側で自由に使用できるようなものですか。
  130. 白幡友敬

    白幡説明員 その点詳細は実はわかっておりませんが、大体今まで聞いております限りは、特定のプロジェクトはないとわれわれ了解いたしております。御承知のようにあそこに対する大きな借款では、アメリカ一億ドル、ソ連一億ドルというものがおもなものであります。アメリカの一億ドルの場合もいろいろな部門に使われておりますし、大体同じ考え方インドネシアの方でやるのじゃないか、特にソビエトの具体的にプロジェクトがあってこれに対してやるということは今のところ聞いておりません。
  131. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 どうも、出先には総領事館もあることですから、たとえばソ連借款の案件がインドネシアの国会に出るならばそれは秘密でも何でもない、それについていろいろ詳細な附属文書もあろうと思う。だから、それはただ一般的に自由にインドネシア政府で使えるものなのか、それとも、たとえばアメリカのいろいろな援助だって衛生とか土木事業とか具体的にいろいろな計画が列挙されてそれによってやっているようでありますから、これについてもプロジェクトがあるのじゃないかと思うのですが、そういうことの情報さえとれないならば、インドネシアにおる日本の総領事以下はよほど無能だということになるのですが、どうでしょうか、ほんとうにわかっておりませんか。
  132. 白幡友敬

    白幡説明員 その問題について若干報告書も来ておるわけでありますので、よくその点調べましてからまたお答えいたします。
  133. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 留学生の問題がきのう出たときに大西委員からいろいろお話がありまして、インドネシアの留学生を日本に連れてきて教育する、あるいは訓練するのも一つ方法だが、言葉、風俗、習慣その他いろいろ問題がある、むしろこちらから向うに出かけていって学校を経営したらどうかというお話があった。それと関連するわけでは別にないが、今日の新聞を読むとダレス国務長官はSEATO関係としてタイに職業訓練施設、それから東南アジア工業学校の設立計画を明らかにしたと書いてある。ダレスの故知にならうわけじゃないけれども、たとえば医者の養成というようなことですね。日本には優秀な医学の教授がたくさんおります。戦時中だって板垣さんその他があそこに行って、ジャカルタ医科大学の経営を引き受けておったことがある。しかもインドネシアでは近代的な医学を修めた医者が少い。だから、たとえば日本人で除隊されて残っている人で、私も一昨年行ったとき会いましたが、軍隊の看護兵みたいなことをしておった者が、堂々たる医者としてカンパンで営業してけっこう暮しを立てている。こういう状態ですから、日本から向うに出かけていって、技術援助一つとして医学の学校を経営するようなことはどうか。それが政治、法律というようなことになると、いかにも日本がまたやってくるのじゃないかというような誤解を受けるかもわかりませんが、医学というような技術教育的なものにはそういう心配もさらさらないことですから、これは私の思いつきのようですが、ダレスの知恵をかりてお尋ねします。
  134. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 昨日も大西委員からお話が出ましたように、現地へ参りまして、教育の施設を賠償等で作ることについては、向う側希望がありますれば、私は賠償で学校を建てる、あるいは病院を建てるというようなことはできますし、また日本としてもやるべきことだと思います。ことに今お話の医者の養成というようなことは東南アジア一帯に医者が非常に不足しておりますし、衛生状態も改善して参らなければならぬ。何かそういう点で日本が貢献し得るならば、非常に大きなサービスになるだろうと思う。そういう点につきまして、今後の賠償の折衝以外にも、われわれとしてインドネシア側といろいろ話しますときに、できるだけ日本の医学を含めた技術的な教育というものがなし得る、それによって貢献し得るということを申して、向う側もそういう考えになるように努力したいと思っております。
  135. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 これはこの前私お尋ねしましたが、民間で下中弥三郎氏あたりが計画されている何かインドネシア留学生の教育計画があるようですが、外務大臣はそのことは御承知だと思います。何かそのことについては、外務省としてすでに了解があり、そしていよいよ賠償実施になったら援助するというようなお約束でもあるのでしょうか、その点を一つ……。
  136. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私がまだ外務省の仕事をしません前に、下中弥三郎氏がそういうことを考えられまして御奨進がありましたので、私も参加してその計画も伺ったわけであります。何か古い学校の、位置の関係か何かからして不要になって新設ができる古い校舎——紀州でありますか、そこでもって一つ仕事をやりたいという話を承わったのでありますけれども、そう後私の立場も違いましたし、特に下中さんから特別なお話は、それについて承わっておりません。しかしそういうようなことが進行いたしますれば、われわれといたしましては、外務省としても物質的にはなかなかむずかしいと思いますが、できるだけの便宜をはかるようにはいたしたい、こう思っております。
  137. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 インドネシアの留学生の教育計画は、下中弥三郎氏だけでなく私は各方面にあると思うのです。それで下中氏は私も個人的には知らない仲じゃない、まありっぱな方であります。しかしながら実は民間で何かそういうふうな企画をする人の中にはこの問題に限らず、同種の問題でどうもいかがわしい人が相当あるのです。ことにまたインドネシアに元おったとか、戦争中行ったとかいう人がたくさんおる。それがインドネシア側から見て必ずしも好ましくないという人が相当あるのです。こういうことを言うと少し語弊がありますが、アジア協会とか日本インドネシア協会だとかいうところに今おられる人の中には、つまり大東亜共栄圏時代の日本の頭がまだ残っておる。一面、たとえば役人の古手であるとか、財界でも使いものにならぬので隠居仕事でおるという人が、正直に言っておるのです。そういう人々が変にこれにタッチしますと、インドネシア側から私はきらわれると思うのです。賠償実施計画の一つとしてそういう留学生の教育をやろうというならば、むしろ日本政府が直接責任を持つ、つまり文部省が直接責任を持つ——当然これは外務省もタッチするわけですが、文部省、外務省の共管事項としてでも責任をもってやるというようなやり方の方が好ましいのじゃないか、こうも思いますが、その点についての外務大臣の御意向一つ聞かせていただきたい。
  138. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ただいま田中委員の御指摘のありました通り、これは必ずしも戦争中というだけじゃなしに、過去長い間外国なり東南アジアなりに関係しておられました方の中には、今日の時代において真剣にこういう教育上の問題等について自分が努力するというよりも、あるいはそれを立場にして仕事を見つけるという状態のあることは私も存じておるわけであります。従いましてこういうような問題を取り上げますときには、やはり教育のことでありますから、その主唱される方々がりっぱな方であって、東南アジアから来た青年諸君を指導し得るような、または信頼を得るような方々が、たとい直接教育に当られなくても運営に当られることをわれわれは希望するわけであります。ただそれだからといって、政府がすぐにこの問題を取り上げることには問題があろうかと思いますので、政府と民間と協力しながらそういうよき指導者の団体はできるだけ助成していく、そうでないものについてはできるだけ消極的な態度をとるということによって、真に円満な運営のできるようにすることが適当だと思うのであります。文部省も最近は相当留学生の問題等について関心を持っております。来年度あたりからは、留学生に対して大学における日本語の学習等にも特別の便宜をはかるような意向を持っておられたり、あるいは東京、千葉等の大字に対しても留学生学級というようなものを新設される考え方も持っておられるので、われわれも十分文部当局と話し合いながら、われわれの見ているところも申し上げたいと思っております。
  139. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 これで私の質問を終りますが、あさっての外務委員会には、外務大臣のほかに、今の問題もありますから、文部大臣、さらに大蔵大臣、通産大臣の御出席を委員長に要望しておきます。     —————————————
  140. 床次徳二

    床次委員長 この際お諮りいたします。国連の信託統治に関する問題、在日朝鮮人に関する問題について、参考人を招致してその意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  141. 床次徳二

    床次委員長 御異議がございませんので、さよう決定いたしました。  なお参考人招致の日時及び人選につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  142. 床次徳二

    床次委員長 御異議がないようでありますから、さよう決定いたしました。次会は公報をもって御通知申し上げます。本日はこれにて散会いたします。     午後四時九分散会