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参考人(似
田博君) 私も
田尻さんと一緒に今度第四次協定交渉のための
委員として北京に行って参った者でありますが、ただいま
お話しありましたように、問題点となりまして壁にぶつかりました代表部の人数の問題は、ただいまの
お話しのような情勢でございます。この点につきましては、いろいろとお立場なり、お
考えなり、見る人によりまして御批判もあろうかと思います。また、その交渉の手ぎわのよかったか悪かったかということ等につきましても、いろいろ御
意見があろうかと思いますが、とにもかくにも、本日ただいまの
現状は、そういうことのために、非常に業界一般で期待しておりました第四次貿易協定というものが、半年間のブランクに続きまして、さらに正式の調印ができないまま帰ってくることを余儀なくされた。すなわち無協定の状態にあるというような
現状でございますので、この点を私
ども貿易業界の者といたしましても、あるいは
日本の特に曲りかどにあります
産業界の
景気の
現状から申しましても、何とかしなければこのままではどうにもならぬのじゃないかということが、一番懸念されるわけでございます。今
お話がありましたように共同覚書の最後に、正式の協定調印がされるまでにおいても、両国間の貿易は継続されることを念願するのだといったような文句を実は
日本側から申し出まして、入れてもらったわけでございますが、これは気休めに入れてもらったと言っては申し訳ないのですが、それほど強く、また協定そのものにかわって、それがあるから今までと同じようにいけるのだといったような性質のものと理解するわけには参りません。いろいろ私
どもも過去において経験しておりますように、日常の取引をやります場合に、二言目には協定がないからということを言われるのがつらいのです。非常にやりにくい。何とかそういう口を幾らかでも封じることができたらというような
考え方であったわけでございますが、その後の情勢は、遺憾ながらまことに不満足な憂慮すべき事情にございますので、協定交渉それ自体の御報告とは若干はずれるかもしれませんが、業界の声として、無協定がどういうふうに両国間の貿易に
影響しているかというふうなことを、御参考までに申し上げてみた方がよかろうかと存じます。
一部には協定がなくても商売はできる、現に西欧諸国も協定なしにどんどんやっているじゃないか、
日本だけが協定を作らないからできないというのはおかしい。もう
一つは、中国自身に
輸出する物資が不足しておる、農産物の不作、天災等によりまして非常に向うも実は困っておる。従って金がない、外貨がないから、向うから
輸入する商品がなければ、幾ら
日本が
輸出したくても向うも買ってくれないのだ、そんなに大きな金額になるはずはないから、あわてなくてもいいのだ。また、外交交渉であるから、そうあわてふためいてやっても損だというような意味のことを言われておる議論もあるようでありますが、これは見方の相違でございまして、それ自体をどうこうと批判するわけにいきませんかもしれませんが、実態から、私
どもの
考え方を申しますならば、全然この
考え方には賛成できないわけでございます。御
承知のように戦前の
日本と中国との、昔のシナとの貿易は、非常に大きな地位を占めておりまして、
日本全体の
輸出額の三五、六%、
輸入額の一六、七%といったような
相当大きな分野を占めておったのでございますが、最近の
現状におきましては、昨年
相当伸びたとは申しますものの、なおかつ、
日本全体のパーセンテージから申しますならば、三%見当でございましてまことに微々たるものでございます。しかしながら、翻って中国の実状をながめます場合に、歴史的にどうとか、地理的に近いとかいうことのほかに、あれだけの国作りをやっております現在、また、
日本がいわゆる自由主義陣営内におきまして、
日本だけでもございませんが、大体外国貿易というものが行き詰まってきておる際に、あれだけの市場というものが
日本商品のはけ場所として、あるいはまた、
日本の原材料のソースとして非常に大きな役割を持つということはこれはもう一目瞭然、いうまでもないことと思うのでございます。そういう着眼点からいたしまして、イギリス、西ドイツ、ベルギー、フランス、あるいはスエーデン、カナダというような自由主義圏の諸国におきましても、従来より観点を変えまして、
相当有力な使節団を送り、向うの市場開拓と今後の進出ということを盛んに積極的に実行しているようなわけでございます。
日本だけが、近いから、昔からの
関係があるからというとで、安閑としておっていいというものじゃなかろうかと存ずるわけでございます。
それから金額的にいっても、
日本ははるかに大きいのだ、昨年の
実績が
輸出入合計して一億五千万ドル
程度でございますから、もちろん微々たるものではございますが、しかしながら、イギリス、西ドイツ等々に追いつかれるのは、金額が少いだけに、すぐ追いつかれ得る可能性がございます。しかもその取引商品の内容たるや、
日本から出ます物はいろいろ雑品その他これといってまとまったものがない。わずかに、申しますならば、化学肥料、硫安とか尿素とかいったようなもの、こういったものが金額的に約六割ないし七割占めておるのでございますが、こういったものは五、六十万円のものでございますから、いつベルギー、イタリア等々にとってかわられないとも限らない性質のものでございます。イギリス、西ドイツなどが今度通商団を派遣してやっております商談の内容は、ほとんど大部分が電気機関車とかその他
鋼材、
建設資材といったような機械類でございます。遺憾ながら
日本の機械
輸出は、だいぶ進歩はいたしましたけれ
ども、まだまだこれに追いつきません。こういったような非常に歩のいい、まとまった商品は西欧諸国に取られる。雑品みたいなくずみたようなものだけが
日本にあてがわれる。これが全部、
距離が近いために積り積って大きな金額になって、まだ西ドイツやイギリスよりも、こちらの方が上だからというようなことで安心しておるということはいけないのじゃないかというふうに
考えるわけでございます。
しからば、貿易協定がない
現状は、これはこちらの
考え方でございますが、向うは民間協定というふうなことを申しましても、実際やりますのは
政府関係者でございます。今度私
どもが参りまして協商いたしました相手方も、向うの対外貿易部の雷任民副百席以下、李新農第四
局長、あるいは孫とか趙とかいったような人も向うの
局長でございますが、
政府の役人でございます。こういった人が貿易協定に調印をいたします。当然これは
日本側では民間人が調印いたしますので、民間協定というような名前も使いますが、向うといたしましては、おそらくこれはお役人、
政府が調印したということになると思うのでございます。そんなわけで、
政府の大きな総合的な貿易協定というものがありまして、そのもとで、十四の各専業公司が
日本と取引をするということになりますと、基本的な条件は全部そこできめられております。その庇護のもとに取引をするわけでございますから、各公司といたしましても、万一の場合があっても安心して取引ができます。ところが、現在のように全然国家としての協定がございません場合には、各取引する公司自体の責任において取引をしなければなりませんし、ことに
日本と中国との政治
関係等々が、きわめて不安定な情勢にありまする現在、もしも契約自体の履行がうまくいかなくて、その結果非常に向うの
計画経済の進捗に支障を来たすといったようなことがありました場合、直接その責任というものを問われるようなわけでございますので、勢い各商品
ごとの公司の
日本に対する引き合いの態度といたしましては、できるだけそういったリスクがないようにして、すなわち条件その他できるだけ自分の方に都合のいいように要求してくることは、人情としても当然のことでございまして、毎日私
どもが電信その他でもって往復いたしております引き合いにつきましても、日を追ってそういったようなことを厳格に要求して参っておるというのが
実情でございます。引き合い電信その他資料を持ってくればよかったのでございますが、あまりこまかくなりますから申し上げませんが、たとえば
日本から契約いたしまして、向うに商品を出します場合、貿易協定がございますと、苦情が起ったり、品質その他について看貫したりといったような場合には、おおむね双方でもって合意した
方法ということが、協定の案文の中にも書かれているのでございます。ただいま現在におきましては、全部向う側の一方的な検査によって、向うの判定によって
日本側は文句を言えないというような条件を押しつけられているような
状況でございます。これは先般できました六万五千
トン余りの鉄板類につきましてもそうでございます。ただいま東京で向うの代表団を迎えて折衝をしております肥料の
輸出交渉なんかにおきましても、おそらくはそういったような条件が出されるのじ牛なかろうか、また塩も年間契約をやっておりますが、これなんかの契約条項は第四次協定ができたならば、それにのっとって相互協議の上改正しようというふうな書き方になっておりますが、第四次協定ができませんので、今後どういうふうなことになりますか、実際の塩の積み
取り等におきまして問題が起らなければいいがというふうに心配しているようなわけでございます。そういうわけで、
日本といたしましては、一日も早く正式の協定がある状態に持ち込みまして、それの
基礎の上に立ちまして西欧諸国の引き合いに負けないようにどんどん引き合いを
取り、商売を進めていく、そういたしませんと、来年から始まりますところの第二次五カ年
計画に
日本の取引が
計画に織り込んでもらえないというふうな懸念もあるわけでございます。どうせ西欧諸国がやっても大したことではないのだからというふうな議論もありますけれ
ども、商売でありますから、向うが契約ができてしまってから
日本も追っかけてさあといっていきましても、これは全部後手でございます。後手を打ちますと、あとから入り込むということは、なかなか困難でございます。ここで一日のおくれは、あとで五年も、十年もおくれをとる。たとえて申しますならば、戦争中にあるいは戦前に、
日本の三菱、東芝、日立といったようなメーカーが、もちろん当時の情勢下ではございますけれ
ども、
相当たくさんの機械類を満州、中国に出して設備されております。新中国になりましても、そういったのを極力修理いたしまして、現在まで使っておりますが、もうほとんど耐用年数が切れまして、リプレースしなければならないというふうな時代になっております。あるいは部品等につきましても、非常に向うはほしがっておるわけでございますが、
日本からなかなか出せなかった。いわゆるココムあるいはチンコムの
関係で出せなかった。そういうわけで、仕方なしに西ヨーロッパ物、その他から手当をして、新しい機械を据え付ける場合でも、そういったものを注文した。そうなると、その後ずっと向うの機械を追加注文ということになりまして、せっかく
日本が優位を占めておった機械類なんかのいわゆる地盤というものを結局向うに侵されてしまいますと、回復はなかなか困難であるというふうに
考えられますので、業界といたしましては、一日も早く、できれば年内にでも交渉を再開し、正式の調印もできました状態において貿易をしたい。
日本自体として
考えてみましても、三十一億五千万ドルの
輸出目標を立てて、どこに仕向け地を
考えるか、結局市場
転換をやることによって中国というものを、これは
日本が向うの商品を
輸入しますならば、求償貿易でございますから、それだけのものは確実に向うに買ってもらえる。二億や三億のものは、
やり方によっては新しい市場として求め得るのじゃなかろうか。もちろん、向うといたしましても、事実農産物等は不作と申しますか、大して
輸出力もございませんし、大きな
輸入を期待することはできないかもしれません。また外貨におきましても、決して向うが裕福に金を持っておるというわけにもいかんと思うのでございますが、中国と香港との貿易等、最近の趨勢を見ましても、
相当大幅な
輸出超過になっております。きょう私の方の香港支店から入りました情報によりましても、一九五七年の一月から十月の香港と中国との
輸出超過は、八億二千百六十万香港ドルでございますから、
アメリカドルにいたしまして一億四千万ドルぐらいというものは、香港を通じて外貨を吸い上げておる。
日本の昨年の
輸出入合計の貿易額は一億五千万ドルでございますから、ほとんど
日本がやった
程度のものは、香港を経由して外貨を取得しておる。あるいはまた、
東南アジア等に、御
承知のように出血
輸出といわれておりますけれ
ども、外貨を獲得するために、
相当輸出をやっております。華僑送全等もあるはずでございます。こういつた外貨の獲得手段もあるわけでございますので、あながち中国側が外貨がないから、
日本から買えないだろう、あるいは資本主義諸国から買えないだろうと見ることも軽率であるかもしれません。必要なものは向うは買います。現に砂糖などは、今引合いも来ておりますが、先般イギリスからも購入いたしました。必要なものは、そういった外貨を使ってでも買うのじゃなかろうかというふうに
考えられます。楽観ばかりもできませんし、悲観ばかりもできないわけでございますが、そういうふうなわけで
現実の問題は、どうしてもこのままでは業界といたしましては非常に困る。現にことしの四月、五月、六月いわゆる協定の期限が切れたあとは、約二九%ないし三〇%くらいの減少を来たしておりますようなわけで、
現状が続きます場合に、とうてい昨年
程度の取引額というふうなものは、辛うじて期待できるかどうか、へたをすると、このまま下降
傾向をたどってまことにみじめな貿易額になっていく
のじゃなかろうかというふうなことも心配されますので、ぜひこの機会に、業界の
実情というものを御賢察いただきまして、何とか、非常にむずかしい問題かもしれませんし、なかなか簡単に片づきにくいというふうな御事情もあろうかと存じますけれ
ども、先生方の御尽力をいただきまして正常な両国の貿易
関係ができますように、この機会をかりましてあわせてお願いしたいというふうなわけでございます。
御質問はあとに受けますことにいたしまして、一応私これで話を終ります。