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陳述者(中倉正城君) 私は消費者の
組織生活
協同組合と零細業者の
方々の立場から、本
法案が制定されますことにつきまして、反対をいたしたいと思うのでございます。
戦時中の強制統制に逆もどりをするようなおそれがあるといわれております本
法案は、無理に急いで制定せずに、慎重に
審議をしてもらいたい。朝日
新聞は社説において、十月十一日に報道しておりましたように、西ドイツの
政府におきましては、
政府草案ができましてから三カ年にわたって検討を加え、さらに議会に
提出されまして五カ年間も長い期間にわたりまして、慎重に
審議を行った。そしてこれを制定しておると報道しております。今日の現段階におきましては、
現行法でありますところの
中小企業等協同組合法に基きまして、自主的な
協同組合組織の育成強化をはかって参りますならば、
中小企業の安定は促進されるものと考えるのでございます。
中小企業の日本経済に占めますところの地位は、申し上げるまでもなく、その
組織化が必要であると考えるのでございます。それは常に大
企業や独占
企業家から圧迫を受けておるからでありまして、特に
金融引締めということになりますと、
中小企業がまっ先にその影響を受け、しわ寄せされるのが現状だからであります。それには根本的な
中小企業の
金融措置及び
中小企業に対する総合的政策が欠如していることでありまして、その徹底を欠いていることに起因をしていると思うのであります。ところがこの
法案の
提案理由によりますと、今日
中小企業は
過当競争のために、きわめて深刻な状態であるから、その程度が公共の福祉を害するほどになっておるので、
政府の権力でこれに介入して調整しようとするための立法であるともいわれております。
この
過当競争という
事態は、政治の貧困から生ずる現象でありまして、特に増大する人口の圧力、膨大な失業者が飛びつきやすい
中小企業にそのはけ口を設け、生活費をかせぐためにどしどし割り込んでくるからでありまして、このことは零細
企業の開店と閉業がめまぐるしいことによっても明らかでございます。これを解決するためには、根本的な社会政策、経済政策、完全雇用、社会保障
制度の確立等が必要であろうかと考えられるのであります。従いましてこの現状におきましては、強権的統制法が実施されましたならば、
中小企業、特に零細
企業の
方々は、これを統制されるために、希望を封じられまして、合法的に整理される運命にあり、社会不安を激化するおそれがあるかと考えられるのでございます。強制的に統制をせずに、
現行の
中小企業等協同組合法との
関係の諸法規の普及とその自主的
組織の確立を育成強化をはかって参りますならば、
中小企業の安定はそういうことで達成できるのではないか、かように考えるものでございます。
次に法第五十五条の強制加入
制度についてでございますが、
商工組合に加入していないいわゆる員外のアウトサイダーのものが、公正な競争を行っている善良な
中小企業者であったならば、一部の
業界ボスの人たちが不当利益の価格の維持をはかるために、業者間の協定実施上じゃまになるものを
組合に強制加入をさせて、そして消費者のことなどは考えないで、いろいろな形で価格維持カルテルを実行することになることは、火を見るよりも明らかであろうかと思われます。こういうことでは日本経済の発展も一般消費者の利益も失われてしまうことになろうかと思うのであります。独禁法の第一条に
規定してありますることは、抜すいを申しますと、事業支配の過度の集中を防止し、結合協定の方法による生産、販売価格、技術等の不当な
制限その他一切の
事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正かつ自由な競争を促進し雇用及び一般消費者の利益を
確保し、
国民経済を民主的で健全な発達を促進することを
目的とするとあるのでありますが、これらの
趣旨に反するおそれがあると思うのであります。
さらに第三には、法第五十六条、五十七条の
規制命令についてでございますが、
事業活動の規制を
組合員外のものに対して命ずること及び第五十八条の
設備新設の
制限命令というものが、強制
加入命令と同様に、昔の官僚支配やボス統制に陥るおそれがあるのではないか、戦時中の統制にかえることになるのではないか、そういうふうに心配をされておると同時に、特に法第十七条では事業の一切を統制することができるようになっておりますので、事業の統合と廃業の危険をもっておるといわなければなりません。特に零細
企業の
方々が、今までは戦時中でさえ転廃業をやったのが、この
法律ができることによって、廃業一本にしわ寄せされる。こういうことに心配をされておられるようであります。
また
調整規程の
内容を参酌して
制限を定めることができるとありますが、運用のいかんによりましては、この参酌してという言葉の意味におきまして、
調整規程と全く同じような政令が出される可能性があるのではないか、こういう点が心配されておるのでございます。
法第六十八条では、
政府が
組合役員の罷免権をもつことになっておりますが、これはあくまでも民主的な平和国家におきましては、
組合の自主性によってこのような解任
措置が行われることが至当であると考えられるのであります。とありますがゆえに、こういう場合には
審議会の少くとも答申を得て行うべきではないか、かように考えるものでございます。
具体的な事例を考えてみましても、現在ふろ銭が高くなっておる。こういうものが何らかの統制をはずしていくならば、きれいなふろ屋さんができ、安い料金でおふろに入ることができる。こういうようなことも具体的な
措置として期待できる。かように考えられるのであります。
政府が申しております三悪の追放はやはりこういった
法律の中で生まれるような危険性をはらむものをなくすることに始まるのではないか、かように考えるのでございます。
第四には法第五十六条の「
組合員たる
資格を有するもの」こういう中に生活
協同組合を除外することが明らかにされておりませんが、こういう点はやはり消費者の利益を考えてこそ始めて
国民経済の面からも、あらゆる角度から再生産の意味におきましても、協力ができる。こういうふうに考えられるわけでございます。
第五は、生産
工業部門と
商業サービス部門とは明らかに区別すべきではないかと考えるものでございます。一般的に
中小企業といわれておりますが、第二次産業の
工業部門と第三次産業の
商業サービス部門とは本質的に異るものでございます。それだから
中小企業安定法によりましても、調整は
工業部門にのみ適用されることになっております。複雑な
商業サービス部門におきましては、自主的なことに任されてきたのであります。
商業サービス部門に強制カルテルを認めた場合には、消費者の利益が直接侵害されるおそれがあるからでありまして、
中小企業等協同組合法の活用を十分考えるならば、
商業サービス部門における振興
措置はとれる。こういう観点からであったと考えるものでございます。
さらに第六番目は、法第九十二条の
報告の徴収についてであります。さらに第九十三条の立入検査の問題にありましても、ただ
主務大臣の判断のみで
報告を求めることができる。あるいは立入検査を行うことができると、こういうことになっておりますが、これは
行政庁の不当干渉や戦時中にいわれておりましたところの官僚統制あるいは
業界ボスのような人たちが再び現われてきて、そういう人たちが結託をすることによって、汚職の一因をはらむ、こういう危検性があるということが心配されておるのでございます。
さらに第七番目につきましては、第八節の
審議会に関する条項でございます。安定
審議会調停
審議会の両
審議会を設置することになっておりますが、これは
審議会の
運営が複雑になり機能が低下するおそれがないか、
中小企業問題を真剣に全般的な見地から検討するならば、そういうことでは
運営が阻害されるおそれがあるのではないか、そういう観点から
中小企業審議会こそ一本の姿で、
運営を
合理化すべきではないか、こういうふうに考えるものでございます。また
審議会の
委員には消費者の代表をやはり参加させることでなければ、本
法案は消費者の利益を考えないで独禁法の適用をすら除外して、一部のボスの支配に
運営をまかせることになるのではないかということを心配するものでございます。
次に第七十三条第二項第一号で
主務大臣は
調整規程の設定の際は、安定
審議会に諮問する必要はなく、ただ
修正にのみ諮問することになっておりますが、こういう大事な調整
規定を諮問せずして、
修正のみを諮問する、こういう理由がどこにあるか、常識あるものの理解できないところでございます。
次に、すでにカルテル的行為は、
生協活動の中におきましては、
商業者の
方々の中で行われておる、こういうことでございます。消費者の自主的
組織であります生活
協同組合に対しましては、最近特に
福岡、水俣、挙母、鳥取市初め、全国各地におきまして、陰に陽に圧迫の度が加わって来ております。その具体的な現われは、生活
協同組合のいろいろ必要な消費物資が荷止めをくらっておる。こういうことがこの
法律ができることによって相当大きく影響してくるのではないかと心配されるのであります。
次に第九番は、
組合協約及び団体
交渉権の問題でありますが、その協約の締結によって生活
協同組合に対しまして荷止めをするようなカルテル行為を直接間接に協定する場合があるとすれば、その行為が第八十九条第一項第一号に
規定する不公正な取引方法であることを明示すべきではないか、こういう点が明示されておりませんので、先ほど申しましたようなカルテル行為が消費者に対して、消費者の利益を大きく阻害するような物価高が現われてくるのではないか。こういう点が考えられるのであります。
次に消費者の家庭生活に及ぼすところの影響でございますが、この消費者の自主的な共同購入あるいは自由選択、こういう自由選択によるところの購買というものができなくなってくる。そうして消費者が価格決定に参加することもできないし、一方的に悪い品物が高く売りつけられるようになるのではないか。こういう点を特に主婦の
方々を始め、消費者の人たちは心配をいたしておるのでございます。と申しますことは、最低の値段が決定されて、その線よりも安く売ったり、あるいはサービスしたりすると、処罰されることになっておるからでございます。資力もある、条件もよい店と零細な生業的業者の悪い条件の店と同じ価格でありましたならば、消費者はサービスのよいところから品物を買うでありましょうし、零細な店はたちまち
経営困難になってくる。この法が成立することによって、零細業者は消えてなくなるであろう、こういうふうに考えられるわけであります。これでは消費者の
組織もまた零細
企業の人たちもこの
法律の制定を望むということは困難でございまして、消費者の人たちはこういうカルテル行為による物価高騰によりまして、生活を脅やかされることになるのでございます。第五十五条から第五十八条までの強権によります統制は、消費者が自主的に生活を防止する道をふさがれてしまっておる。こういうふうに理解をいたしております。
環境衛生法も制定されましたけれ
ども、ふろ銭や理髪、パーマ、旅館代等は全国的に高くなってきております。今日行われておりますところの米、運賃、電気料金、
新聞、ラジオ等は
政府の値上げ政策によって上ってきておりますがゆえに、これ以上この
法律ができまして消費者の生活必需品が高騰するということになりますと、消費者の生活をいやが上にも脅かすことになり、社会不安というものが働く人々の中から生まれてくるのではないか、こういうふうに考えるものでございます。
以上の意味から本
法案の制定実施につきましては、もっと慎重に
審議をしていただきまして、真に
中小企業の方方が、大
企業の中に伍して、ほんとうに
中小企業の日本経済におきますところの地位が確立せられ、振興できますことを、もっと根本的な面からお考えを願いたい、かように考えるものであります。特に
中小企業施策におきましては、
金融あるいは機械の近代化、
経営指導、税の軽減、市場の開拓等を積極的に行っていただくと同時に、大
企業と
中小企業との賃金の格差をなくするような最低賃金制を確立し、
過当競争をこういう根本的なことから解決をしていくということが今日の急務の問題でないかと思うのであります。特に現下の大
企業のオートメーション、原子力時代に対抗するところの
中小企業の姿と申しますのは、まず今日の急務といたしますものは、
設備、技術、
経営の近代化をほかにおいて、
中小企業の振興はあり得ないと考えるのであります。でありまするがゆえに、特に
中小企業の自主的な協同
組織化による協同事業の促進というものが講じられてしかるべきではないかと思うのであります。
朝日
新聞の十月十一日の社説はこう書いてあります。「自民党
政府は本臨時
国会で本
法案を無理やり押し通そうとしておる。これは
中小企業の保守性を利用して、これを
組織化して、みずからの有力な選挙地盤に利用しようとしてはいないか。」こういうことが心配になるということを述べております。そういうことでないことを私は心から念願したいのでございます。そうして先ほ
ども述べましたように、
中小企業の振興を真に考えていただいて、そして慎重に年期をかけて、西ドイツのようにりっぱな
中小企業者が大
企業に伍して生活ができるように、
企業が発展いたしますように、消費者の利益を守られ、零細
企業者も明るい希望をもって
中小企業の振興が進められるように、
政府も要路の
方々、特に
参議院においてただいま御
審議になっておられますので、
参議院の
方々に特にこのような意味において善処方をお願い申し上げまして、公述を終りたいと思います。