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参考人(
西口義人君)
鉄鋼労連の
西口でございます。
鉄鋼の今回の
争議につきまして、今回までの
状況並びにわれわれの
考え方を申し述べさせていただきます。
鉄鋼連盟の会長は
八幡製鉄の社長でございますので、よく今度の
争議については関心を持たれておると思いましたが、本日は
連盟の
水津さんが出ております。私はこれに対する反駁は申し上げません。私の方の考えを率直に申し上げることにいたしたいと思います。
まず私
たちはこの三月の
鉄鋼労連の大会におきまして、
賃金引き上げということを決定いたしました。これはどういう
理由によるかと申し上げますと、
鉄鋼労働者の
賃金水準が今日きわめて不満足なものである。
合日の
社会一般の
生活水準を向上するために、いわゆる
文化的発展のためにも、われわれはどうしても
賃上げをしなければならないという
立場に立ちましてこういうことをきめたのであります。この
内容につきましては
あとで具体的に申し述べたいと思いますが、以上の
考え方から今回の様式をきめまして、
鉄鋼大手五社のみで戦っているのではございません。私
どもは
鉄鋼産業全
労働者が
鉄鋼労連という組織の中で
戦いを開始しておるのが今回の
戦いの
様相でございます。まず九月二日までに全部
要求を提出いたしました。そうして私
たちは何とかして
団体交渉によって
解決をはかりたい、そういう観点から従来にない長い
期間を
交渉期間におきました。そうして十月の一日をもちましてそれまで十分
会社と
団体交渉を持ち、さらに十月一日をもって
最後回答として、もしこれでどうしても
会社が考えない、いわゆる誠意を持った
回答をしない限りは、われわれは
ストライキによってこれに対抗せざるを得ないというような
考え方から、こういう
方針を出したのでございます。その結果、御
承知のように、十月一日は一カ月間の−
交渉を開きましたけれ
ども、ただいま
水津さんが
経営者の
考え方を大体申し述べられたようでありますが、こういう
内容をもって
回答はゼロで一向前進をいたしておりません。こういう中に立ちましてわれわれはわれわれの唯一の力である
ストライキをもって
賃上げを
要求せざるを得ないという
立場から、十月八百に第一次の
ストライキに、入りました。昨日、一昨日いわゆる第六次の四十八時間
ストライキを作品までで終ったわけであります。
大体以上が大まかに言ってわれわれの
戦いました
様相と、さらに
会社の
回答でございますが、では振り返ってみまして私
たちの
賃金が他
産業に比較して、一体高いのかどうかということについて、まず申し上げてみたいと思うのであります。
まず、
賃金水準、今これはよく新聞その他で
鉄鋼の
賃金は非常に高いのだと言われておりますが、
労働省の毎月の
勤労統計の示すところを見ますと、本年の四月から八月の
平均鉄鋼業の
定期給与総額をとってみますと二万五千百四十八円となっております。これを考えてみますと、なるほど一応高いように見えておりますけれ
ども、実際は問題があるわけであります。すなわち、この
内容について十分分析する必要があるのではないかと考えているわけであります。もう少しこれを具体的に
賃金の
内容に入って参りますると、まず、第一に、これだけの
賃金をもらっているのは一体どういう形でもらっておるかということであります。まず第一に、非常に過勤務が多い、いわゆる残業、早出、これが多いということ、これが全部
賃金の中に含まれているということであります。
鉄鋼の
賃金は今言ったように、これが含まれてこういう表が出されておりますが、この
統計によりますと、
鉄鋼労働者の一カ月の残業時間は
平均して約三十時間から三十五時間となっております。いわゆる三十時間から三十五時間という大量な超過労働によってこの
賃金が出ているわけでありましてこれを大体月に直しますと約五千円くらいになるだろうと推定されるわけであります。いわゆる
定期で働く勤務時間以外に五千円くらいの金額は出ている。それを加えて今言ったように、
鉄鋼の
賃金は非常に高いのだと、よく新聞にも
発表されておるようですし、また、
経営者も言っている。われわれはこれを具体的に
内容を分析いたしますとそのように考えられるわけであります。
さらに御
承知のように、
鉄鋼労働者は重筋高熱作業でございまして、他の
産業と比較して全然問題にならないような非常な体力の消耗をするのであります。さらにこの中に加わるものに深夜労働がございます。
鉄鋼のいわゆる銑鉄を作るところ、製鋼、圧延、それぞれ主要部門がありますが、これはほとんど三交代または二交代で一昼夜二十四時間連続に作業をやっております。そうなりますと、当然深夜労働に従事いたします者は、これに対する当然の割増し
賃金がつくわけであります。これももちろん、ただいま
発表された金額の中に含まれ、いわゆる定時間と申しましてもその中に深夜業があり、その深夜業に従事するそのこともこの
賃金の中に含まれているというのであります。今申し上げましたように、深夜業をやりますと、体力の消耗、神経の著しい消耗を伴うのでありまして正常な社会生活、いわゆる家庭生活を、これによって著しくそこなうものであります。定時間に対するところの、今言った五千円加わって大体二万円という金額は
鉄鋼全般において出されておりますが、このような過勤務、それから深夜業、こういうものを含めて出されておると同時に、二万円の中には、今申し上げましたように、深夜作業が含まれておる。そういう点を考えますと、決して
経営者が言っておりますように、
鉄鋼の
賃金は非常に高
賃金である、他
産業に比較して非常に高いということを申しておるようですが、これは全然われわれとしては問題にならない一方的な
発表であるというように考えざるを得ないのであります。で、まあ
鉄鋼の、今申し上げましたように、大体
製造業に対して一五六ですかくらいに当るということを言っておったようでありますが、私
たちが以上の点を考えまして、大体ではどれくらいに
鉄鋼の
産業の
賃金が当っておるかということを一応われわれとして検討いたしました。
まず、今申し上げましたように、労働時間の相違その他はございますが、御
承知のように、
鉄鋼業では、その
産業がほとんど大工業であります。普通の中小企業の比較ということもきわめて少いのでありまして、中小企業の比重は非常に少いのでありまして、
製造業全体では大体三百五十万人の中の四〇%に当る百三十八万人が大体規模五百人以上の大経営で働いておる、
鉄鋼業では。そういう中で大体考えますと、五百人以上の経営でほとんどが働いておるということで、それをまず第一に基準にとらなければならないのではないかと考えております。
さらに男女の働いております
内容を見てみますと、もちろん男女同一労働、同一
賃金でございますが、現在
鉄鋼のような重筋高熱作業というものは、なかなか女子には適しません。だからどうしてもほとんどが男子の従業員であります。約三分の一女子従業員が働いておると言われておりますが、
鉄鋼の場合はほとんどが男子の従業員、その男子の中でさらに五百人以上の経営に働いておるというような問題、そういう点を総合いたしまして、所定労働時間、今言ったように過勤務を含み、さらにそういうものを一切含んだのではなくて、一時間当りの労働
賃金は一体幾らになるかということをわれわれの方で検討いたしました。その点から見ますると、まず第一に金融、保険、第二は電力、石炭とずっと見まして、
鉄鋼の一時間当りの
賃金は十一番目に位いたしております。それは、
先ほどこれも御
発表があったと思いますが、
製造業一〇〇に対しまして
鉄鋼の
賃金は一〇八であります。金融、保険等は一応一五〇、一四五、一二九とそれぞれずっと出ておりますが、われわれが一時間当りを計算いたしますと、
製造業一〇〇に対して一〇八という数字が出ているのであります。これな
ども総体的に見た
賃金比較でなくて、われわれ具体的に私
たちの働いている大体の
内容を分析した結果でありまして、そういう点を考えますと、
経営者の言っているところの他
産業に比較しての
賃金が非常に高いというようなことを言っているのはわれわれは当らない、かように考えておるのであります。それからさらに、私
たちが今度の
賃金要求いたします
内容は、以上のような点から
労働者は非常に苦しい生活をしている。いわゆる重筋加熱作業をやり、しかも深夜作業をして働いておる
労働者は、非常に苦しい生活をしている。だから何とかしてこの苦しい生活を少しでもいわゆる再生産のために、明日の生産のためにわれわれはやはり
賃上げをしてほしいというのが
組合員全体の気持であります。そういう観点から特に今回の
要求に対しては世論
調査をいたしました。世論
調査約二万人、十人に一人のあれで全部集まったわけですが、これを全部をもとにいたしまして、ここで集まった世論
調査の
内容は大体三千円から五千円の
賃上げがほしい、これは
統計で全部表に表われて参っておりますが、こういう
意見が出て参りました。しかし、われわれはやはりいろいろな
情勢を考えまして、三千円ということで一応
組合員の
考え方を押えまして、そうしてこれで
要求しようというのが
鉄鋼労連できまった
方針でございます。そういう
方針に従いまして
会社に
要求をし、さらに今日まで
団体交渉を続けてきて、さらに
回答が出ないのでこのまま
ストライキを始めておるというのが
実情であります。
鉄鋼労連が何か統一的な
一つの規約の改正をやって、さらに今度の
闘争は何か幹部だけでやっておるのではないかというような
批判があちらこちらにあるようでございますが、これはもう私が申し上げるまでもなく、今申し上げましたように世論
調査からこれを知り、さらにこういう今度の
戦いのやり方をきめますということで、
中央で決定いたしましたことを
組合員一人一人に
一般投票でこういう
戦い方をきめたわけでございます。だから決して何か事新しい今度の
闘争方式のように考えられておる方があるかもしれませんが、決してそうではございませんし、従来と何ら変るところのない全
組合員一人々々が個人の意思による投票によってその棄約が今回の
戦いはぜひこれでやってほしいということで、
鉄鋼労連が一本になって今回の
賃上げの
要求をし、こういう
戦い方をやっておるというのが
鉄鋼の
実情でございます。さらに各社の利潤の問題その他についても、ここで一応具体的に数字をあげてございますが、二十五年から三十一年の六カ年の大体一人当りの方がはっきりわかると思いますが、一人当りが一カ月で七千五百二十円の従業員一人当りの利潤の金額が出て参っております。隠し利益を入れますと、一万一千百九十九円という数字が出ておりますが、一応これを抜きにいたしましても、これが三十一年になりますと、一人当り二万七千四百六十三円の利益が出ております。これは今の八幡をあげましたが、富士、
日本鋼管、住友、
大手ずっとこうあげましてもそれぞれ非常に膨大な利潤がずっとこう算術的にあがってきておるというのが、これが現在の
鉄鋼の
状態でございます。こういう中で非常に
不況だということがいわれておりますが、なるほど最近の
事情を見てみますと、今よく新聞に出ておりますように、多少の神武以来の景気だという点に比較すれば違った面が多少現われてきておるということもわれわれは一応うなずけるわけであります。ところが、
鉄鋼の
状態は、従来からいわれておりますように、半年先をはっきり
経済状態を指摘するものが今まで一体あったかどうかということであります。私
たちは従来の経験からさらに現在の
不況だといわれておる生産
状態から見てこれを考えますと、決して現在
経営者が言っているように、神武以来の
不況だというような言葉を使っておりますが、全然問題にならない、いわゆる生産
計画をごらんになればはっきりわかると思いますが、ほとんど変っておらないような生産
計画、今までの景気のいいときとほとんど変っておらないような生産
計画がそれぞれ大企業によって打ち出されておるということがまず一点言えるのではないかと思っております。それから
定期昇給があるということをこれも
会社がよく言っておりますが、では
定期昇給とは一体どんなものかということでありますが、
鉄鋼は昔から
定期昇給という制度がございます。
定期昇給がもしわれわれの中にないといたしますと、現在、今私が申し上げましたが、大体一カ月過勤務一切のけまして月に二万円の
賃金をもらっております。これがもし十年間
定期昇給がなかったといたしてわれわれの
賃金は一体幾らになるかということであります。これは御
承知のように、
定期昇給いうものは決して
賃上げではございません。
鉄鋼では五十五才になると年満になります。五十五才になるとやめなければなりません。そうすると、
日本の今の
賃金形態ではやはり初任給は非常に安い、そうして二十年、三十年と勤めているうちに少しずつ
賃金が上ってくる、そうしてこれの
平均が今申し上げた二万円ということであります。
最高の者と最低の者を含めて二万円であります。だから給料の高い人はやめていく、新しく給料の安い人が入ってくる。そこで初めて高い人がやめ、安い人が入ってくるので、いわゆるおのおの自分のある一定の
昇給率がきて、その
昇給したことによって二万円という
賃金ベースが保っているわけなんです。だからもし
定期昇給をこの
労働者の中からのけてしまうということになりますと、
鉄鋼の
平均賃金はどんどん下って、今から五年、十年たてば二万円が一万八千円になり、一万六千円になり、一万五千円になる。
最後には一万円以下になってしまうといっても過言ではないんではないかという
状態であります。だから
経営者が言っているところの
定期昇給があるから
賃上げには応じられませんということは、これは全然議論にならない問題ではないかと私
たちは考えているわけであります。まずそういう観点から私
たちのこの
要求に対して
経営者が言っていることは全然問題にならないというふうに考えております。しかし、私
たちは、もちろん労働
組合だけが、何もかにも
労働者だけがいい生活をしようとは思っておりません。真剣に国民
経済の正常な発展ということを希望し、これに注意を払っているのはこれまた当然であります。私
たちはそういう観点から見て、国民
経済の面から見ても、決してわれわれの
賃金の
要求が不当なものではないということを考えて合同の
要求をいたしているのであります。
最後に申し上げたいのは、ではなぜ
経営者がゼロ
回答をしているのかといいますと、これは
先ほど客観的ということで言われたようですが、そういう
理由でいたしておりますが、私
たちが見るところでは決して金が出せないから
賃上げをやらないのではないということであります。なぜそういうことを私
たちが申し上げるかと申しますと、中には今申し上げましたように金がないはずはない、これだけもう利潤をあげている、しかも今までのあれを考えて他
産業に比較して決して高くはない。
理由はいろいろつけておりますけれ
ども、
賃金が出せないから出さないのではなくして
鉄鋼労連として、いわゆる労働
組合が一本になって
産業別
闘争として戦っている。しかも第二次
合理化計画をやらなければならぬ、第二次
合理化計画をやるためには、
労働者を自分の思うように使わなければならぬ。そのためには労働
組合を弱くして、力のないようにしてしまって、そうして自由自在に
組合を、いわゆる
組合員を使うことができ、従業員を自分の思うままに使うことができるというような政策にやっていきたい、こういう、意図がなければ、今度のこの
賃上げの
要求も何もこんなに
経営者がゼロ
回答を続ける必要はないんではないかというふうに考えます。いわゆるこの
政治闘争というのは、われわれ労働
組合はこの
要求にわれわれの満足する
回答が出れば直ちに
ストライキは中止いたしますし、従来に増しての生産に邁進いたします。しかし、そうではなくて、むしろ
経営者の方が十分
経営者同士が話し合って、何とかして労働
組合を弱体化しようという意図のもとにこういう
方針を出している。一例を、これは具体的な例でありまするが、申し上げますが、
日本特殊鋼管というのがこのすぐ近くにございます。ここで私
たちは
団体交渉をやりまして、本部からも役員を派遣いたしまして一緒に
団体交渉をいたしました。相手は総務部長とそれから
技術関係の重役が出て参りました。そこで二十三、四日の
ストライキを何とかして延期してほしい。これは今言ったように、
一般投票によって中火で
ストの一切の権限を持っております。そういう
相談を受けましたわれわれは、従来の例から見ましても
ストライキをやめよ、そうすると、金を出そうというのがいつも言われる常套手段であります。しかし、やめるとなかなか出さないというふうな、今まで何回ものにがい経験をなめておりますので、これはよほど用心しなければならぬ、また、口先だけでだまされるんじゃないかという気持ちがございましたけれ
ども、われわれは何も
ストライキが目的ではありません。われわれが
賃上げの点を
要求するのは、それぞれお互いが話し合いの中から結論を出し、そうしておさめるのがわれわれの大体気持でございますので、いろいろ問題はございましたが、
ストライキを中止いたしました。そうしてそのときに、二十五日には必ず
回答いたします、で、その
回答も、五十円や百円のそんなばかげたものではございません、大体
世間並みの考えられるものを出しますという、はっきりした約束をいたしましたので、私
どもの方は中止
指令を出しました。そうして
ストライキをやめさせたわけであります。ところが、二十五日の日になりまして、さらに
交渉を続けて参りましたところ、全然
回答は出して参りません。で、言うことはどうかと申しますと、今度は
鉄鋼労連の統一
闘争からはずしてもらったらどうだ、そうでないと、なかなか
回答が出せませんというのが
経営者の言い分であります。私
たちこういう今までの
交渉内容を見てみましても、いかに
経営者が不誠意であり、一体どういうことを考えてわれわれの労働
組合に対処しているかということを痛切に感ぜざるを得ないのであります。
こういう点を申し上げますと、今申し上げましたように、やはり
経営者の方が十分横の連絡をとりながら、一経営に対しては、十分出せる力がある。出せる力があるからこそ、出しますということを言っているわけです。ところが、そういう力がありながら、別な力から、出すことをちょっと待てと、言われたのか、それとも、話し合いかでこれは
一つやめようではないかといったのかもしれませんけれ
ども、社長が帰ったと同時に、そういうことで
回答は拒否してきた。で、
組合員は憤激いたしまして、現在引き続いてさらにその後
ストライキに入った、こういう
状況もすでにこの
鉄鋼労連の
戦いの中に現われております。
だから、こういう点を考えてみますと、むしろ金が出せるとか出せないとかという問題ではなくて何かそういうような面に大きな意図を持って今回のわれわれのこの
賃上げの
要求に対して対処してきているのではなかろうかというように私
たちは考えるわけであります。
以上いろいろと申し上げましたが、足りない点もたくさんあると思いますが、時間の
関係もございまして、一応以上の点、経過を御
報告いたしまして、御質問にお答えいたしたいと考えております。